- 1 -主文 被告は,原告に対し,345万3481円及びこれに対する平成19年6月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告のその余の請求を棄却する。 訴訟費用は,これを5分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 この判決の第1項は,本判決の正本が被告に送達された日から14日を経過したときは,仮に執行することができる。ただし,被告が300万円の担保を供するときは,その仮執行を免れることができる。 事実及び理由 第1請求被告は,原告に対し,425万6412円及びこれに対する平成19年6月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要 本件は,食品輸入業者である原告が,中国から生鮮しょうがを輸入しようとして名古屋検疫所長に輸入届出書を提出したところ,同しょうがに食品衛生法(以下「法」という。)に基づき人の健康を損なうおそれのない量として定められた基準値を超える農薬が残留していたため,本来,原告に対して食品衛生法違反通知書を交付すべきであったところ,名古屋検疫所長が,誤ってこれを交付せずに食品等輸入届出済証(以下「本件届出済証」という。)を交付したため,同しょうがを輸入販売した原告が後にこれを回収することになって損害を被ったと主張して,被告に対し,国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき,損害金425万6412円及びこれに対する本件届出済証交- 2 -付の後である平成19年6月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 法令等の定め(1) 関税法67条は,貨物を輸入しようとする者は,当該貨物の品名並びに数量及び価格その他必要な事項を税関長に申告し,貨物につき必要な検査を経て,その許可を受け めた事案である。 法令等の定め(1) 関税法67条は,貨物を輸入しようとする者は,当該貨物の品名並びに数量及び価格その他必要な事項を税関長に申告し,貨物につき必要な検査を経て,その許可を受けなければならない旨規定し,同法70条2項は,他の法令の規定により輸入に関して検査又は条件の具備を必要とする貨物については,同法67条の検査その他輸入申告に係る税関の審査の際,当該法令の規定による検査の完了又は条件の具備を税関に証明し,その確認を受けなければならない旨規定し,同条3項は,前項の確認を受けられない貨物については,輸入を許可しない旨規定している。 (2) 法3条1項は,食品,添加物,器具及び容器包装(以下「食品等」という。)を輸入・販売するなどして取り扱う者(以下「食品等事業者」という。)は,その取り扱う食品等(以下「販売食品等」という。)について,自らの責任においてそれらの安全性を確保するため,販売食品等の安全性の確保に係る知識及び技術の習得,販売食品等の原材料の安全性の確保,販売食品等の自主検査の実施その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない旨規定し,同条3項は,食品等事業者は,販売食品等に起因する食品衛生上の危害の発生を防止するため,食品衛生上の危害の原因となつた販売食品等の廃棄その他の必要な措置を適確かつ迅速に講ずるよう努めなければならない旨規定している。 (3) 法11条3項本文は,農薬等が,人の健康を損なうおそれのない量として厚生労働大臣が定める量を超えて残留する食品は,これを販売の用に供するために製造し,輸入し,加工し,使用し,調理し,保存し,又は販売してはならない旨規定し,「食品衛生法第11条第3項の規定により人の健康を損なうおそれのない量として厚生労働大臣が定める量」(平成17年厚生労働- 3 -省告示 ,使用し,調理し,保存し,又は販売してはならない旨規定し,「食品衛生法第11条第3項の規定により人の健康を損なうおそれのない量として厚生労働大臣が定める量」(平成17年厚生労働- 3 -省告示第497号,乙4)は,法11条3項の規定により人の健康を損なうおそれのない量として厚生労働大臣が定める量は,0.01ppmとする旨規定する。 (4) 法26条3項は,厚生労働大臣は,食品衛生上の危害の発生を防止するため必要があると認めるときは,生産地の事情その他の事情からみて同条1項各号(同項4号は,法11条3項に規定する食品を掲げている。)に掲げる食品等又は法10条(添加物等の販売等の禁止)に規定する食品に該当するおそれがあると認められる食品等を輸入する者に対し,当該食品等について,厚生労働大臣又は登録検査機関(法33条1項の規定により厚生労働大臣の登録を受けた法人をいう。法4条9項。)の行う検査を受けるべきことを命ずることができる旨規定し,法26条4項は,同条1項から3項までの命令(以下,これらの命令を「検査命令」といい,検査命令に係る検査を「命令検査」という。)を受けた者は,当該検査を受け,その結果についての通知を受けた後でなければ,当該食品等を販売し,販売の用に供するために陳列し,又は営業上使用してはならない旨規定し,同条5項は,同条4項の通知であって登録検査機関がするものは,当該検査を受けるべきことを命じた都道府県知事又は厚生労働大臣を経由してするものとする旨規定する。 (5) 法27条は,販売の用に供し,又は営業上使用する食品等を輸入しようとする者(以下「輸入者」という。)は,厚生労働省令で定めるところにより,その都度厚生労働大臣に届け出なければならない旨規定し(以下,この届出を「輸入届出」という。),食品衛生法施行規則(以下「規 とする者(以下「輸入者」という。)は,厚生労働省令で定めるところにより,その都度厚生労働大臣に届け出なければならない旨規定し(以下,この届出を「輸入届出」という。),食品衛生法施行規則(以下「規則」という。)32条1項本文は,輸入者は,輸入届出書に所定の事項を記載して,貨物の通関する場所に応じて該当する検疫所の長に提出しなければならない旨規定する。 (6) 検疫所において実施する法に基づく輸入食品監視指導業務については,その適正かつ統一的な運用を確保することを目的として,「輸入食品等監視指- 4 -導業務基準」(平成16年11月19日付け食安発第1119002号医薬食品局食品安全部長通知,最終改正平成19年7月10日付け食安発第0710001号,乙3。以下「業務基準」という。)が策定されている。輸入届出に係る輸入食品については,法26条3項に基づく検査が終了し,当該食品が法の規定に反しないと判断された場合には,業務基準に基づき検疫所において食品等輸入届出済証を交付することになり,当該証をもって,関税法70条2項に規定する税関への証明を行うこととされている。 一方,検査において当該食品に法違反が明らかになった場合は,業務基準に基づき,食品衛生法違反通知書が交付され,保税中の食品等にあっては,税関長あてに食品衛生法違反物件通知書が通知される。この場合,輸入者は,同項に規定する「検査の完了又は条件の具備」を税関に証明し,その確認を受けることができなくなり,その結果,同条3項の規定により輸入の許可を受けられなくなる。 前提事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,掲記各証拠(書証番号は枝番号を含む。以下同じ。)又は弁論の全趣旨から容易に認めることができる。なお,争いがない事実には認定根拠を付記しない。また,以下での月日は,特記しな 当事者間に争いがないか,掲記各証拠(書証番号は枝番号を含む。以下同じ。)又は弁論の全趣旨から容易に認めることができる。なお,争いがない事実には認定根拠を付記しない。また,以下での月日は,特記しない限り,いずれも平成19年のものである。 (1) 当事者等(弁論の全趣旨)ア原告は,蔬菜類の輸入販売等を業とする株式会社である。 イ株式会社A(以下「A」という。)は,原告が行う蔬菜等の輸入につき,原告の依頼を受けて検疫及び通関等の手続を代理して行っている通関事業者である。 (2) 本件届出済証の交付に至る経緯等ア原告は,6月5日に中国から本邦に到着した中国産生鮮しょうが1232箱(合計2万4640㎏,以下「本件しょうが」という。)につき,同- 5 -月7日,名古屋検疫所長に対し,Aを通じて輸入届出(以下「本件輸入届出」という。)をした。(甲26)イ厚生労働大臣は,同日,原告に対し,本件しょうがにつき,基準値(0. 01ppm)を超える残留農薬BHCが検出されるおそれがあることを理由として,法26条3項の規定に基づき,検査項目を「BHC」とする検査命令(以下「本件検査命令」という。)を発令した。(甲1)ウ原告は,同日,Aを通じて登録検査機関である財団法人B協会(以下「B協会」という。)に対して本件しょうがの検査を依頼したところ,同協会は,同月20日,本件しょうがに係る製品検査結果通知書(甲7。以下「本件通知書」という。)を作成の上,名古屋検疫所に送付した。なお,本件通知書の製品検査結果の欄には,製品検査項目として「BHC」と,製品検査結果として「0.04ppm」と,定量限界として「0.01ppm」とそれぞれ記載されている。(甲7,弁論の全趣旨)エ名古屋検疫所長は,同日,原告に対し,本件しょうがにつき,Aを通じて食品等輸入届出済 として「0.04ppm」と,定量限界として「0.01ppm」とそれぞれ記載されている。(甲7,弁論の全趣旨)エ名古屋検疫所長は,同日,原告に対し,本件しょうがにつき,Aを通じて食品等輸入届出済証(本件届出済証)を交付した。(甲8)オ原告は,6月14日,Aを代理人として本件しょうがにつき輸入申告をしていたところ,同月20日,Aを通じて本件届出済証を提出し,名古屋税関長から権限の委任(関税法107条,関税法施行令92条1項2号イ参照。)を受けた名古屋税関西部出張所長から関税法67条による貨物の輸入許可を受け,輸入許可通知書(甲2)を受領した。そして,原告は,株式会社C青果(以下「C青果」という。)に対し本件しょうがを売却し,本件しょうがの一部はAの名古屋多目的物流センターから出荷された。 (甲14,15,原告代表者本人)(3) 食品衛生法違反通知書の交付等ア原告は,受領した本件通知書に記載された本件しょうがに係るBHCの量が基準値を超えていたため,7月9日,名古屋検疫所に対し,Aを通じ- 6 -てその旨申し出た。 名古屋検疫所長は,同月10日,原告に対し,本件しょうがは法11条に違反しているため,所在地を管轄する都道府県等の指示に従う措置をされたい旨記載した食品衛生法違反通知書を交付した。(甲3,弁論の全趣旨)イまた,厚生労働省は,同日,原告を管轄する自治体を通じて本件しょうがが販売されないよう原告及び流通先の監視指導を要請し,原告は,法54条に基づき,大阪市から本件しょうがの回収を命じられた。(甲19,弁論の全趣旨) 争点 (1) 本件届出済証の交付が国賠法上違法か(争点①)(2) 本件届出済証の交付についての過失の有無(争点②)(3) 損害の有無及びその額(争点③)(4) 過失相殺の可否及び割合(争点④) 争 (1) 本件届出済証の交付が国賠法上違法か(争点①)(2) 本件届出済証の交付についての過失の有無(争点②)(3) 損害の有無及びその額(争点③)(4) 過失相殺の可否及び割合(争点④) 争点についての当事者の主張(1) 争点①(本件届出済証の交付が国賠法上違法か)について【原告の主張】ア名古屋検疫所は,輸入食品の安全,衛生に関し,法に基づく検査,調査をその業務とし,検査又は調査の結果が一定の基準を充足していない不合格食品については輸入を許可しない権限と義務を有している。したがって,名古屋検疫所においては,本件しょうがの輸入に際し,法の規定に従い厳正かつ適切に検査,調査し,法に定める安全基準を充足しているか否かを確認し,その上で安全基準に合致しているものについては合格の,安全基準に合致していないものについては不合格の通知をし,原告をして安全基準に合致していない不良・不適法なしょうがの輸入を排除させ,もって安全なしょうがを輸入することに資すべき義務があった。 - 7 -しかるに,名古屋検疫所は,本件しょうがの検査結果が法に定めるBHCの残留基準0.01ppmを超える0.04ppmであったから,原告に不合格の通知をすべきであるにもかかわらず,担当者において残留農薬の基準を0.1ppmと誤認し,本件しょうがを合格品と即断し,原告に対し本件しょうがにつき「合格証」ないし「お墨付き」としての性質を有する食品等輸入届出済証(本件届出済証)を交付し,これにより原告をして本来不合格品となるべき本件しょうがを輸入せしめたものであって,本件届出済証の交付は国賠法上違法である。 イ(ア) 被告は,検疫所長が登録検査機関の行った検査結果が正確なものか審査することは予定していないし,食品等輸入届出済証が交付されたとしても,個別の輸入者に対し,当該 の交付は国賠法上違法である。 イ(ア) 被告は,検疫所長が登録検査機関の行った検査結果が正確なものか審査することは予定していないし,食品等輸入届出済証が交付されたとしても,個別の輸入者に対し,当該輸入食品が基準値内の食品であることを法的に保証するものでもないなどと主張する。 しかし,本件しょうがについていえば,検疫所は,本件しょうがに係る検査結果を見て,本件しょうがの残留農薬が基準値以内であるか否かを判断する権限と義務があったのであり,この判断行為を指して審査ということができる。そして,命令検査は,検疫所の権限と義務の下に行われるものであるから,実際の検査担当機関が登録検査機関であっても,名古屋検疫所が,その判断につき最終的な法的責任を負うのであって,被告の上記主張は理由がない。検疫所長は,輸入食品の最終消費者に対してよりも,まずは行政行為の直接の対象である輸入者に対して法的責任を負っているし,また負わねばならないのである。 (イ) また,法3条1項は,食品等事業者が,その輸入する食品について,自らの責任においてそれらの安全性を確保するため必要な措置を講ずるよう努めなければならない旨規定しているところ,被告は,原告が上記のような義務を負っていることを前提として,原告の本訴請求はそうした食品輸入業者としての責任を放擲するものであるなどと主張する。 - 8 -しかし,原告は,その取引先に対して全面的に法的責任を負担し,現にその責任を遂行している上,法3条は,あくまで努力規定にすぎず,食品等事業者に対して命令し,義務を課す規定ではない。 (ウ) さらに,被告は,本件において原告が主張する利益は法的保護に値する利益ではなく,いわゆる反射的利益にすぎないと主張する。 しかし,検疫所によって輸入食品の適正な検査が行われることは国民の法的保護に値す らに,被告は,本件において原告が主張する利益は法的保護に値する利益ではなく,いわゆる反射的利益にすぎないと主張する。 しかし,検疫所によって輸入食品の適正な検査が行われることは国民の法的保護に値する利益であって,単なる反射的利益という性質のものではない。また,原告は,被告の規制権限の不行使によって財産的損害を被っているところ,この財産権は,法律上保護されるべき利益である。 【被告の主張】ア国賠法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであって,公権力の行使に当たる公務員の行為が同項の適用上違法と評価されるためには,当該公務員が,損害賠償を求めている個別の国民との関係で個別具体的な職務上の法的義務を負担し,かつ,当該行為が上記義務に違反してされた場合でなければならず,その法的義務の発生根拠となるべき保護利益は,その法規によって保護が予定されているものでなければならない。したがって,公務員の規制権限を定めた行政法規が,直接個別の国民の権利・利益の保護を目的としていない場合には,当該規制権限の行使が行政法規の定める要件に沿わないものであっても,直ちに個別の国民との関係で国賠法上違法との評価を受けるわけではない。国賠法1条1項の違法が認められるためには,当該公務員に与えられた規制権限を定めた法規の趣旨,目的を十分に検討し,規制権限の目的が個別の国民の利益を保護する趣旨であることが確定された上で,当該規制権限行使の時点において,当該法規によって課せられた当該個別の国民に対する職務- 9 -上の法的義務に違背して当該行為が行われたことを要するのである。 イそして,法は,食品の安全性の確 ,当該規制権限行使の時点において,当該法規によって課せられた当該個別の国民に対する職務- 9 -上の法的義務に違背して当該行為が行われたことを要するのである。 イそして,法は,食品の安全性の確保のために公衆衛生の見地から必要な規制その他の措置を講ずることにより,飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し,もって国民の健康の保護を図ることを目的としているところ(1条),27条において,厚生労働大臣に対し,輸入届出に係る食品等が法に違反するかどうかを認定判断する権限を付与していると解されるのであり,その目的が飲食に起因する衛生上の危害の発生の防止であることは明らかである。他方,法は,食品等事業者に対しては,その輸入する販売食品等について,自らの責任において,それらの安全性を確保するため,必要な措置を講ずるよう努めなければならないなどとし(3条1項,3項),食品の安全性については,食品等事業者が第1次責任を負うことを明らかにしており(食品安全基本法8条1項も参照),厚生労働大臣は,前記のとおり輸入届出に係る食品が法11条1項の規格基準に適合したものかどうかを判断する権限を有するとしても,それは食品等事業者の安全性確保義務の履行が不十分であることを慮って一般国民のためにこれを補完すべく付与された第2次的なものであると解される。また,法上,国と食品等事業者との関係において,輸入行為について食品等事業者の財産的利益を保護する趣旨の規定は見当たらない。 以上のとおり,安全性を満たす食品等を輸入する第1次責任は,当該輸入を行おうとする食品等事業者にあり,法が27条において厚生労働大臣に対して輸入届出に係る食品等が法に違反するかどうかを認定判断する権限を付与している趣旨目的は,食品等事業者の安全性確保に係る責任の履行を2次的に補完し,飲食に起因す 法が27条において厚生労働大臣に対して輸入届出に係る食品等が法に違反するかどうかを認定判断する権限を付与している趣旨目的は,食品等事業者の安全性確保に係る責任の履行を2次的に補完し,飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し,もって国民の健康の保護を図ることにあるのであり,個別の輸入業者との関係で,当該業者が食品等を輸入する場合において,当該輸入食品等が安全基準値を満たしていることを保証するものではないし,安全基準値を満たし- 10 -ていない食品等が輸入されることによって当該業者に生ずる損害を回避するといった利益を保護する趣旨を含むものではなく,このことは,法3条1項の規定内容に照らしても明らかである。このように,安全性を満たす食品等を輸入する責任は,まずもって輸入によって利益を上げようとする食品等事業者にあるから,その責任を果たさなかった結果,安全性を満たさない食品等を輸入したことによって発生した経済的な損失は,当該食品等事業者の負担に帰するのは当然である。 以上によれば,食品等輸入届出済証の交付は,飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し,もって,国民の健康の保護を図るという目的の限度で検査して,その結果を通知するものにすぎず,原告に対し,当該輸入食品等が法の定める安全基準値内の食品であることを保証するものではないし,安全基準値を満たしていない食品等が輸入されることによって原告に生ずる損害を回避するといった利益を保護するためのものではないのであるから,原告には法27条において保護が予定されている利益の侵害はないというべきであり,厚生労働大臣から委任を受けた名古屋検疫所長又は同検疫所職員が,原告との関係において,輸入等に伴う損失を回避するため安全基準値を満たしていない食品等の輸入を排除すべく,食品等輸入届出済証を交付しない法 労働大臣から委任を受けた名古屋検疫所長又は同検疫所職員が,原告との関係において,輸入等に伴う損失を回避するため安全基準値を満たしていない食品等の輸入を排除すべく,食品等輸入届出済証を交付しない法的義務ないしは食品衛生法違反通知書を交付すべき法的義務を負っているとは解されず,したがって,その義務違背ということもあり得ないのである。よって,名古屋検疫所職員が本件届出済証を原告に交付した行為には,何ら国賠法上の違法は認められない。 (2) 争点②(本件届出済証の交付についての過失の有無)について【原告の主張】本件においては,本件しょうがに係る登録検査機関による残留農薬検査結果が0.04ppmであり,基準値である0.01ppmを超えていたにもかかわらず,名古屋検疫所の担当官が0.1ppmが基準値であると誤認し,- 11 -上記検査結果がこの誤認した基準値0.1ppmを超えていなかったために,基準値内であると誤判して合格証に相当する本件届出済証を交付してしまったのであり,上記担当官には重大な過失がある。 【被告の主張】国賠法1条1項における過失とは,違法に他人に損害を生ぜしめるという結果について予見可能性があり,回避可能性があるにもかかわらず,結果回避のための作為義務を尽くさないことをいうと解される。 ところで,争点①に関して述べたとおり,原告は,残留農薬基準値等,輸入食品が満たすべき安全性の基準を満たさない食品を輸入し,販売してはならない義務を負っており,この責任,義務は,当該輸入食品が安全性の基準を満たさないことが検疫において発見されず,法違反通知がされないまま食品等輸入届出済証が交付され,通関したとしても,消滅しあるいは免責されるものではない。また,法26条4項は,検査命令を受けた者は,その結果の通知を受けた後でなければ当該食品等を 通知がされないまま食品等輸入届出済証が交付され,通関したとしても,消滅しあるいは免責されるものではない。また,法26条4項は,検査命令を受けた者は,その結果の通知を受けた後でなければ当該食品等を販売等してはならない旨規定しているところ,この「通知」は単に製品検査結果通知書を物理的に受領すれば足りるものではなく,その内容を了知することを当然に含む概念であると解される。したがって,食品等事業者は,検査命令を受けた食品を販売する前に,当該食品について,安全性の基準を満たしているかどうかを確認するために,製品検査結果通知書の数値と基準値とを対照して調べなければならず,このことは当然法律上予定されているというべきであり,このような製品検査結果通知書の数値と基準値とを対照して当該食品が安全性の基準を満たしているかどうかの確認をせずに,これを出荷することは,法の全く予定しないところである。 そうであるところ,原告は,自らに課せられた法3条及び26条4項所定の義務を果たすため,本件通知書の数値と基準値とを対照するなどしてその安全性を確認することなく本件しょうがをC青果に売却し出荷するという,- 12 -法の予定しない異常な行動をとったものであり,原告の主張する損害はこのような異常な行動に基づいて発生したものであって,名古屋検疫所職員は,このような原告の異常な行動について予見しておらず,また,予見可能性もなかったから,そもそも結果回避義務違反としての国賠法1条1項にいう「過失」は存しない。 (3) 争点③(損害の有無及びその額)について【原告の主張】ア原告は,本件届出済証の交付により,次のとおり合計425万6412円の損害を被った。 (ア) 転売先への返金229万1520円原告は,本件届出済証が交付されたため,本件しょうがをC青果に対して 原告は,本件届出済証の交付により,次のとおり合計425万6412円の損害を被った。 (ア) 転売先への返金229万1520円原告は,本件届出済証が交付されたため,本件しょうがをC青果に対して代金229万1520円で売却したが,後に本件しょうがの残留農薬が基準値を超えていることが判明したため,7月19日,本件しょうがに係る上記代金をC青果に返還しており,同額の損害を被った。 (イ) 各小売店から中央市場までの回収費用99万8942円(ウ) 中央市場からAの物流センターまでの回収費用2万5200円(エ) Aの物流センターでの入出庫費用3万6750円(オ) 廃棄処分費用90万4000円イ被告の主張について被告は,上記ア(ア)の損害に関し,原告が中国の輸出業者に対して損害賠償等の責任を追及することが可能であるとして,原告には損害が生じていない旨主張する。 しかし,中国から輸入しようとする食品が,検疫所で不合格となり通関できない場合には,中国の輸出業者の経費負担で中国へ返送(積戻し)することが可能であり,このような場合には,原告において何ら費用負担する必要がなく損害は発生しないが,本件しょうがのように,日本の検疫所- 13 -でいったん合格品として認められ,通関手続を終えて内貨となってしまった場合には,後に日本での検疫が誤りであると判明しても,中国の輸出業者に対して代金返還等の責任追及をすることは,商慣習上も,また信義則上もできない。 また,被告は,上記ア(ア)の損害に関して,原告の損害賠償請求額は過大である旨主張するが,上記返金額に得べかりし利益が含まれていたとしても,相当因果関係の範囲内である。 【被告の主張】ア争点②について述べたとおり,原告は,本件通知書の数値と基準値とを対照するなどして本件しょうがが安全性の基準 に得べかりし利益が含まれていたとしても,相当因果関係の範囲内である。 【被告の主張】ア争点②について述べたとおり,原告は,本件通知書の数値と基準値とを対照するなどして本件しょうがが安全性の基準を満たしているかどうかを確認することなく,本件しょうがをC青果に出荷するなど,法の予定しない異常な行動をとっている。原告が主張する損害は,このような特別の事情によって生じたものであるところ,名古屋検疫所職員がその特別事情を予見し,又は予見可能であったことの立証は全くないから,本件届出済証の交付と損害との相当因果関係は認められない。 イまた,原告が損害として主張するC青果に対する返金については,原告は,本件しょうがの売主に対して,債務不履行,瑕疵担保責任又は不法行為等に基づき売買代金の返還又は損害賠償を求めることができるから,いまだ財産的損害が発生しているとはいえない。この点,原告は,いったん通関した貨物についてはもはや輸出業者に対して責任を追及することができないと主張するが,そのような商慣習は存在しないというべきであり,原告の主張は理由がない。 さらに,原告が主張する上記返金額には,仕入値相当分のみならず利益相当分も含まれているが,C青果が原告との間の売買契約に基づき原告に対して有する債権はいわゆる制限種類債権であるところ,本件しょうがは本邦内では売買契約の当時からおよそ販売不可能で,原始的に履行が不能- 14 -なものであり,その反対給付である売買代金債権について原告が給付を受けることもまた原始的に不能なものであって,その売買による利益を原告が取得することは不可能であったのだから,その履行利益を損害として認める余地はない。 のみならず,原告の輸出業者に対する本件しょうがの売買代金の支払の事実については,そもそもこれを裏付ける的確な証拠 が取得することは不可能であったのだから,その履行利益を損害として認める余地はない。 のみならず,原告の輸出業者に対する本件しょうがの売買代金の支払の事実については,そもそもこれを裏付ける的確な証拠はなく,仮に,甲第28号証により原告が本件しょうがの売主に5万米ドル支払った事実が認められたとしても,原告が本件しょうがの輸入の前後にも同一売主から本件しょうがと同量のしょうがを輸入しており,甲第28号証に記載された金員が本件しょうがの代金であるとは限らない。 ウさらに,原告が損害として主張する中央市場からAの物流センターまでの回収費用,Aの物流センターでの入出庫費用及び廃棄処理費用についていえば,前2者については請求書のみが証拠として提出されており,その支払は立証されていないし,後者についても,その支払の立証があるとはいえない。 (4) 争点④(過失相殺の可否及び割合)について【被告の主張】ア仮に,被告の原告に対する国賠法に基づく損害賠償義務が肯定されるとしても,争点①につき述べたとおり,食品等輸入届出済証は,個別の輸入業者に対し,当該輸入食品が基準値内の食品であることを法的に保証するものでも,その輸入や販売を承認するものでもないのであり,名古屋検疫所職員が誤って本件届出済証を原告に交付したことによって,輸入業者である原告の法上の責務(3条1項等)が消滅するものでも軽減するものでもないから,その損害のすべてを被告に転嫁することは損害の公平な分担を基調とする損害賠償法の理念に反するものであって,本件では大幅な過失相殺が認められるべきである。 - 15 -イそして,原告の過失の程度を判断するに当たっては,以下の事情を考慮すべきである。 まず,食品等事業者は,販売食品等について,自らの責任においてそれらの安全性を確保するため,販売食品 - 15 -イそして,原告の過失の程度を判断するに当たっては,以下の事情を考慮すべきである。 まず,食品等事業者は,販売食品等について,自らの責任においてそれらの安全性を確保するため,販売食品等の安全性の確保に係る知識の習得に努める義務があり,およそ食品の安全な流通に関わる者であれば法の定めた基準値を超える残留農薬を有する食品を輸入や販売してはならないことは周知の事柄であり,原告においてもこのことを当然に認識しており,少なくとも認識していなければならない事柄である。そして,本件の具体的事情の下において,食品の輸入や流通に従事する者であれば,しょうがのBHCの基準値が0.01ppmであり,これを超える残留農薬を有するものを販売できないことは周知の事柄であり,原告も十分な認識を有していた。したがって,原告は,6月21日ころ,本件しょうがに0.04ppmのBHCが残留している旨記載された本件通知書を受領したのであるから,この記載を確認さえすれば,直ちに本件しょうがを販売してはならないことを認識し得たにもかかわらず,原告はその内容を了知する前に漫然と本件しょうがをC青果に販売したものであり,原告の過失の程度は極めて重大である。なお,原告が実際に本件通知書を受領したのが6月21日より後であったとしても,同日にはAがこれを受領しているのであり,Aは原告の代理人的立場にあったのであるからその認識は原告の認識と同視することができ,原告は6月21日にはその内容を認識していたとみるべきであり,また,原告がAから本件通知書を受領することに支障もなかったから,この点が原告の過失を軽減する理由とはならない。 さらに,原告には,本件しょうがの輸入の前にも2件の重大な違反事例があり,このような事例が存する以上,原告は本件しょうがの輸入に際し現地で現物の確認 ,この点が原告の過失を軽減する理由とはならない。 さらに,原告には,本件しょうがの輸入の前にも2件の重大な違反事例があり,このような事例が存する以上,原告は本件しょうがの輸入に際し現地で現物の確認を行うなど慎重な注意を払うべきであったといえるが,原告はこれら過去の違反事例においてまともな調査や対応をすることなく,- 16 -本件しょうがの輸入においてもそのような注意を払わず,本件通知書の内容を確認することもしないまま,極めて安易に本件しょうがをC青果に販売したものであり,これらの事情も原告の過失の有無・程度の判断において十分考慮されるべきである。 加えて,原告が本件しょうがの代金の支払を裏付ける証拠として提出する甲第28号証では,その取扱日が本件しょうがにつき原告が食品衛生法違反通知書の交付を受けた日の2週間後である「2007年7月24日」となっているが,原告はこの間に売主との交渉を行い代金債権がないことを相互に確認するなど,通常の取引者であれば当然あってしかるべき対応をとっていないのであり,このような事情も過失相殺を行うにつき,十分考慮されるべきである。 【原告の主張】争う。本件しょうがは生鮮食品であることから本件届出済証の交付を受けて直ちに通関手続を経て販売することは当然のことであり,原告には何らの過失もない。 第3当裁判所の判断 認定事実前記前提事実に加えて,掲記各証拠(書証番号は枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によると,次の事実を認めることができる。 (1) 業務基準の定め(乙3)業務基準は,食品監視指導業務について,次のとおり規定している。 ア業務の対象及び内容業務の対象は,輸入される食品等及び法62条1項に基づき厚生労働大臣の指定するおもちゃとし,業務の内容としては,輸入食品等に関し,①輸入届出の受理及びその審 り規定している。 ア業務の対象及び内容業務の対象は,輸入される食品等及び法62条1項に基づき厚生労働大臣の指定するおもちゃとし,業務の内容としては,輸入食品等に関し,①輸入届出の受理及びその審査並びに②法26条2項及び3項の規定に基づく検査命令並びに同条5項の規定に基づく登録検査機関による検査の結果- 17 -の通知等の業務を行うこととする。 イ検査の要否に関する審査輸入届出書に添付された証明書等を審査するほか,命令検査については,命令検査の対象となるものの品名,生産又は輸出国,検査項目等に関して,あらかじめ通知された内容に基づき検査の命令を行うこととし,検査を行うか否かの判断を原則として輸入届出受理後速やかに行い,検査を要するものと判断したものにあっては,輸入者に対し速やかにその旨を連絡する。 ウ審査結果に基づく手続命令検査の必要があると判断された食品等については,書面による輸入届出の場合は輸入者に検査命令書を交付し,輸入食品監視支援システム(以下「FAINS」という。)により受け付けた輸入届出の場合は,FAINSにより検査命令の内容を輸入者に連絡する。 エ合否の判断及びその通知検疫所の食品監視担当課(以下「監視担当課」という。)は,行政検査の結果又は登録検査機関による命令検査等の結果の内容のほか,検体の採取状況,ロット構成等を再確認した上でその合否を判断することとし,登録検査機関において実施した命令検査の検査結果通知書は,担当検疫所を経由して輸入者に交付する。 命令検査又はモニタリング検査以外の行政検査の結果,合格と判断された食品等については,書面による輸入届出の場合は,食品等輸入届出済証に「合格」の印を押印して輸入者に交付することとし,FAINSにより受け付けた輸入届出の場合は,FAINSの審査を終了することにより た食品等については,書面による輸入届出の場合は,食品等輸入届出済証に「合格」の印を押印して輸入者に交付することとし,FAINSにより受け付けた輸入届出の場合は,FAINSの審査を終了することにより,輸入者の入出力装置から食品等輸入届出済証が出力される。そして,登録検査機関において検査を行った食品等に係る輸入者への食品等輸入届出済証の交付又はFAINSからの出力が可能である旨の連絡については,登録検査機関からの検査結果通知書が検疫所に提出される前であっても,登- 18 -録検査機関からのFAINSへの結果の入力等により検査結果が法に適合する旨が確認された場合にあっては,これを行って差し支えない。 オ違反食品等に対する措置法に違反すると判断された食品等については,「食品衛生法違反通知書」により,積戻し若しくは廃棄,食用外への転用又は保税中の加工選別等の必要な措置を行うよう輸入者を指導する。また,通関後の食品等が既に国内に流通している場合には,輸入者の所在地を管轄する都道府県等の指示に従うよう指導する。 (2) 本件しょうがの輸入に至るまでの経緯等ア原告は,平成10年ころから,中国を始めとする外国から蔬菜類等の生鮮食品を輸入するようになり,このころから,通関事業者であるAに輸入の際の検疫や通関等の手続の代行業務を委託している。なお,原告とAとの間では,上記通関手続等の代行業務に関し,契約書等は作成されていない。(証人D,原告代表者本人)イ原告は,中国から蔬菜類を輸入するに当たり,中国の輸出業者(E食品有限公司)との間で口頭で契約を締結しており,契約書等は作成されていない。なお,原告と中国の輸出業者との間では,中国からの輸入食品につき,検疫所において食品衛生法違反通知書が交付されるなどして通関できない場合には,中国の輸出業者の費 ており,契約書等は作成されていない。なお,原告と中国の輸出業者との間では,中国からの輸入食品につき,検疫所において食品衛生法違反通知書が交付されるなどして通関できない場合には,中国の輸出業者の費用の負担の下,中国の輸出業者に対して積戻しをすることができる旨合意されていた。実際,過去には,原告が中国の輸出業者から輸入しようとした里芋に土が付着していたため輸入することができなかった(植物防疫法7条1項3号参照)事例において,上記輸出業者の費用負担の下,上記里芋が積み戻された事例もあった。 もっとも,本件しょうがを除いては,原告が輸入しようとした食品について,検疫所が製品検査結果通知書を見誤ったために,本来輸入することができない食品を輸入してしまった事例はない。(甲23,証人D,原告- 19 -代表者本人,弁論の全趣旨)(3) 本件しょうがの輸入に係る経緯等ア原告は,5月末ころ,C青果から,生鮮しょうがの買い付け依頼を受け,上記(2)イと同様に,中国の輸出業者と国際電話で交渉の上,同輸出業者から本件しょうがを買い付けた。本件しょうがは,6月5日,名古屋港で陸揚げされ,同月6日,Aの名古屋多目的物流センターに搬入された。(乙10,原告代表者本人,弁論の全趣旨)イ原告は,6月7日,名古屋検疫所長に対し,Aを通じて本件輸入届出をしたところ,厚生労働大臣は,同日,原告に対し,本件しょうがにつき,基準値(0.01ppm)を超えるBHCが検出されるおそれがあることを理由として,法26条3項の規定に基づき,検査項目を「BHC」とする本件検査命令をした。なお,中国産のしょうがについては,平成18年11月29日以降,すべての輸入届出につき,BHCに関する検査命令の対象とされている。(前提事実,甲19)ウAは,6月7日,B協会に対して本件しょう 。なお,中国産のしょうがについては,平成18年11月29日以降,すべての輸入届出につき,BHCに関する検査命令の対象とされている。(前提事実,甲19)ウAは,6月7日,B協会に対して本件しょうがの検査を依頼し,同協会において本件しょうがのサンプリング検査を行ったところ,本件しょうがからは,基準値を超える0.04ppmのBHCが検出された。同協会は,6月20日,本件しょうがにつき,本件しょうがから0.04ppmのBHCが検出された旨の記載がある製品検査結果通知書(本件通知書)を作成し,同日,名古屋検疫所に対し,ファクシミリにより本件通知書を送付するとともに,本件通知書の原本を郵便にて発送した。(前提事実,弁論の全趣旨)エ名古屋検疫所は,6月20日,ファクシミリにより本件通知書の送付を受け,同検疫所の2人の監視担当者が本件通知書の記載内容を確認したが,その際,上記担当者のうち1人は,残留農薬の基準値を1桁高く0.1ppmであると記憶違いしており,他の1人は,本件通知書に記載された検- 20 -査結果を1桁低く0.004ppmであると誤認したことから,本件通知書に記載された検査結果は法に適合するものと判断した。そのため,名古屋検疫所長は,同日,Aに対し,FAINSを利用して,電気通信回線を通じてAの使用に係る出力装置から直接出力する方法により,本件届出済証を交付した。(前提事実,甲19,証人D)オ本件届出済証の交付を受けたAは,同日,原告に本件届出済証の交付を受けた旨連絡するとともに,本件届出済証を提出し,名古屋税関西部出張所長は,同日,原告に対し,電気通信回線を通じてAの使用に係る出力装置から直接出力する方法により,本件しょうがに係る輸入許可通知書を交付した。(前提事実,甲2,証人D,原告代表者本人)カ本件しょうがに係 同日,原告に対し,電気通信回線を通じてAの使用に係る出力装置から直接出力する方法により,本件しょうがに係る輸入許可通知書を交付した。(前提事実,甲2,証人D,原告代表者本人)カ本件しょうがに係る輸入許可通知書の交付を受けたAは,本件しょうがが生鮮貨物であったことから,原告において直ちに貨物の引取りや配送等の手配をすることができるよう,同日直ちに,原告に対し,同輸入許可通知書をファクシミリにより送信するとともに,電話でも本件しょうがにつき輸入許可がされた旨連絡した。 なお,Aにおいては,原告に限らず,生鮮食品等の輸入者については同様の対応をとっており,このような生鮮食品等については,輸入許可がされた当日に出荷される場合もある。(証人D,原告代表者本人)キAから本件しょうがの輸入許可がされた旨の連絡を受けた原告は,同日,直ちにC青果に架電してその旨連絡して本件しょうがに係る売買契約を締結し,翌21日付けで,C青果に対し,本件しょうがに係る納品書を交付するとともに,本件しょうがの代金として,240万6096円(本体価格229万1520円,消費税及び地方消費税11万4576円)の支払を請求した。 なお,C青果は,本件しょうがをさらに別のしょうが業者(F)に卸しており,本件しょうがのうち252箱は,6月25日及び同月26日に,- 21 -上記しょうが業者によりAの名古屋多目的物流センターから搬出されている。(甲5,14,15,原告代表者本人)ク本件通知書の原本は,6月21日,名古屋検疫所に到達した。名古屋検疫所においては,Aを始めとする通関事業者ごとにレターケースが設置されており,命令検査に係る製品検査結果通知書を始めとする書類等は,上記レターケースに差し置く方法により輸入者に交付されることとされていたところ,本件通知書も,6月2 事業者ごとにレターケースが設置されており,命令検査に係る製品検査結果通知書を始めとする書類等は,上記レターケースに差し置く方法により輸入者に交付されることとされていたところ,本件通知書も,6月21日に,Aのレターケース内に差し置く方法により交付された。なお,Aにおいては,1週間当たり1,2度程度,名古屋検疫所に設置されたAのレターケース内の書類等を回収に来ていたが,Aが現実に本件通知書を受領した時期は明らかではない。(証人D,弁論の全趣旨)ケC青果は,6月29日,原告に対し,本件しょうがの代金として,240万6096円を支払った。(甲15,29)コ本件通知書の原本を受領したAは,本件届出済証の交付を受けてから1,2週間程度経過したころ,原告に対し,本件通知書の原本を他の書類等とともに郵便にて送付した。 なお,Aにおいては,食品等輸入届出済証が合格証としての意義を有するとの認識であったため,食品等輸入届出済証が交付されている場合に製品検査結果通知書に記載された検査結果を確認することはせず,本件においても,本件通知書の検査結果を確認することはなかった。(甲29,証人D,原告代表者本人)サ原告は,C青果から,本件しょうがの卸売先に安心してもらうため,事後的にせよ本件しょうがに係る製品検査結果通知書を送付するよう依頼されていたため,本件通知書を受領した後,C青果に対し,ファクシミリにてこれを送付したところ,C青果から,本件通知書の製品検査結果欄に記載されたBHCの値が基準値を超えているのではないかとの指摘を受けた。 - 22 -そこで,原告は,Aとも相談した上,7月9日,Aを通じて名古屋検疫所に対し,本件通知書に記載されたBHCの値が基準値を超えている旨申し出た。(前提事実,証人D,原告代表者本人)シ名古屋検疫所長は,同月1 原告は,Aとも相談した上,7月9日,Aを通じて名古屋検疫所に対し,本件通知書に記載されたBHCの値が基準値を超えている旨申し出た。(前提事実,証人D,原告代表者本人)シ名古屋検疫所長は,同月10日,原告に対し,本件しょうがは法11条に違反しているため,所在地を管轄する都道府県等の指示に従う措置をされたい旨記載された食品衛生法違反通知書を交付するとともに,同日,原告に対して本件しょうがの回収を依頼し,また,原告を管轄する自治体に対して本件しょうがが販売されないよう原告及び流通先の監視指導を要請した。(前提事実,甲19)ス原告は,大阪市から,本件しょうがの回収を命じられ,本件しょうがのうち既に名古屋市内のスーパー等の小売店に流通していたものについては,C青果を通じていったん中央市場に集荷し,これをAを通じてA物流センターに搬入した上,本件しょうが全量を廃棄処分した。(証人D,原告代表者本人,弁論の全趣旨)セ原告は,7月17日,C青果に対し,本件しょうがの代金240万6096円を返金した。(甲9,16,29) 争点①(本件届出済証の交付が国賠法上違法か)について(1) 本件届出済証の交付の違法性についてア法は,飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し,もって国民の健康の保護を図ることを目的としているところ(法1条),この目的を達成するために,厚生労働大臣に対し,食品等に関し,基準及び規格の設定,販売等の禁止,検査命令及び廃棄命令の発令等についての権限を付与しているのであり(法6条から10条まで,11条,13条,17条から19条まで,26条,28条,54条等),以上のような法の規定内容を通覧すれば,法は,厚生労働大臣に対して食品等の安全を確保する責任と権限を付与していることは明らかである。そうであるとすれば,食品等を輸入し で,26条,28条,54条等),以上のような法の規定内容を通覧すれば,法は,厚生労働大臣に対して食品等の安全を確保する責任と権限を付与していることは明らかである。そうであるとすれば,食品等を輸入し- 23 -ようとする者はその都度厚生労働大臣に対して届け出なければならない旨規定する法27条も,単に,輸入者に対して食品等の輸入に係る届出義務を規定するに止まらず,上記輸入届出を受けた厚生労働大臣に対し,同条が規定する輸入届出に係る食品等が,法に違反するかどうかを認定判断する権限を付与するものであるというべきであり,同条は,厚生労働大臣が,輸入届出をした者に対し,その認定判断の結果を告知し,これに応答すべきことをも規定していると解するのが相当である。 そして,規則32条1項は,法27条が規定する輸入届出は,所定の事項を記載した輸入届出書を所定の検疫所長に提出してしなければならないと定め,前記認定のとおり,同輸入届出書の扱いを含め,検疫所において実施する法に基づく輸入食品監視指導業務については,業務基準が定められている。業務基準においては,輸入届出を受理した検疫所において,これに添付された証明書等を審査するほか,検査の要否を審査し,検査を要する食品等については,検査命令を発令しあるいは行政検査を実施し,その上で,検疫所の監視担当課は,行政検査の結果又は登録検査機関による命令検査等の結果の内容のほか,検体の採取状況等を再確認した上で,合否を判断することとされている。命令検査等の結果,合格と判断された食品等については,輸入届出に係る輸入者に対して食品等輸入届出済証を交付する(輸入者の入出力装置から出力する方法による交付も含む。)ものとされ,他方,法に違反すると判断された食品等については,食品衛生法違反通知書を輸入届出に係る輸入者に対して交付 等輸入届出済証を交付する(輸入者の入出力装置から出力する方法による交付も含む。)ものとされ,他方,法に違反すると判断された食品等については,食品衛生法違反通知書を輸入届出に係る輸入者に対して交付し,積戻し若しくは廃棄又は食品以外への転用等の措置を行うよう指導するものとされている。以上のとおり,業務基準によれば,法27条の輸入届出を受理した検疫所長は,当該輸入届出に係る食品等につき合否を判定するものとされ,これが法に適合すると判断した場合には,食品等輸入届出済証を交付し,他方,法に違反する場合には,食品衛生法違反通知書を交付するものとされてい- 24 -るのであり,このような業務基準の規定内容にかんがみると,検疫所長による上記食品等輸入届出済証の交付は,厚生労働大臣の委任を受けて検疫所長が行う当該食品等が法に違反しない旨の応答であり,食品衛生法違反通知書の交付は,法に違反する旨の応答であって,これらは,前記法27条が定める輸入届出をした者に対する応答が具体化されたものであると解される(以上につき,最判平成16年4月26日・民集58巻4号989頁参照)。 以上によれば,法27条に基づく輸入届出を受けた検疫所長は,同条に基づき,輸入者に対し,輸入届出に係る食品等が法に違反しない場合には食品等輸入届出済証を交付し,法に違反する場合には食品衛生法違反通知書を交付すべきであって,法に適合しない食品等につき食品等輸入届出済証を交付すれば,それは,単に業務基準に反する取扱いというのみならず,法自体にも違反し違法になるというべきである。 イこれを本件についてみるに,前記認定事実によると,本件しょうがには法11条3項本文に基づき厚生労働大臣が人の健康を損なうおそれのない量として定める量(0.01ppm)を超える0.04ppmのBHCが残留してお ついてみるに,前記認定事実によると,本件しょうがには法11条3項本文に基づき厚生労働大臣が人の健康を損なうおそれのない量として定める量(0.01ppm)を超える0.04ppmのBHCが残留しており,本件しょうがは法11条3項本文に違反するものであった以上,検疫所長においては,原告に対して食品衛生法違反通知書を交付すべきであったところ,これを交付することなく本件届出済証を交付したというのであるから,本件届出済証の交付は,法に違反し違法であるといわざるを得ない。 (2) 国賠法上の違法性について公務員による公権力の行使に当たる行為は,これが法令の定める要件を欠くなどして違法であるとしても直ちに国賠法1条1項にいう違法があることになるわけではなく,同項にいう違法があるというためには,当該公務員が,当該行為によって損害を被ったと主張する個別の国民に対して負う職務上の- 25 -法的義務に違反したと認められることが必要である(最判昭和60年11月21日・民集39巻7号1512頁,最判平成20年4月15日・民集62巻5号1005頁参照)。 したがって,前記(1)のとおり名古屋検疫所長の原告に対する本件届出済証の交付が法に違反するものであるとしても,これが国賠法1条1項の適用上も違法であるというためには,さらに,名古屋検疫所長が原告に対して負う職務上の法的義務に違反したことを要することになる。そこで,以下では,この観点から検討することとする。 ア検疫所長の輸入者に対する食品等輸入届出済証又は食品衛生法違反通知書の交付は,いずれも,その名宛人である当該輸入届出に係る輸入者の権利義務ないし法的地位に直接の影響を及ぼすものであり,行政事件訴訟法3条2項にいう「処分」に該当するものと解される。 すなわち,関税法70条2項は,他の法令の規定により輸出又 輸入届出に係る輸入者の権利義務ないし法的地位に直接の影響を及ぼすものであり,行政事件訴訟法3条2項にいう「処分」に該当するものと解される。 すなわち,関税法70条2項は,他の法令の規定により輸出又は輸入に関して検査又は条件の具備を必要とする貨物については,輸入申告に係る税関の審査の際,当該法令の規定による検査の完了又は条件の具備を税関に証明し,その確認を受けなければならない旨規定しているところ,ここにいう「当該法令の規定による検査の完了又は条件の具備」とは,食品等の輸入についていえば,法27条の規定による輸入届出を行い,法の規定に違反しないとの厚生労働大臣の認定判断を受けて,輸入届出の手続を完了したことを指すと解される。そして,以上の厚生労働大臣の認定判断が,食品等輸入届出済証の交付によってされることは前記のとおりであるから,食品等を輸入しようとする者は,税関に対し,食品等輸入届出済証を提出して上記手続を完了したことを証明することにより,前記「当該法令の規定による検査の完了又は条件の具備」を証明することになるのである。したがって,検疫所長による食品等輸入届出済証の交付は,これにより,その交付を受けた輸入者において関税法70条2項にいう「検査の完了又は- 26 -条件の具備」を税関に証明してその確認を受けることができ,したがって,他の要件を満たす限り,当該輸入届出に係る食品等につき輸入許可を受けて輸入することができるようになるという法的効果を有するものである。 他方,検疫所長による食品衛生法違反通知書の交付は,当該通知を受けた輸入者において,関税法70条2項の「検査の完了又は条件の具備」を税関に証明し,その確認を受けることができなくなる結果,同条3項により,当該輸入届出に係る食品等について輸入許可を受けることができず,当該食品を輸 ,関税法70条2項の「検査の完了又は条件の具備」を税関に証明し,その確認を受けることができなくなる結果,同条3項により,当該輸入届出に係る食品等について輸入許可を受けることができず,当該食品を輸入することができなくなるという法的効果を有するものである。 これらは,いずれもその相手方である輸入届出に係る輸入者の権利義務ないし法的地位に直接影響を及ぼすものであって,前記「処分」に該当すると解される(以上につき,前掲最判平成16年4月26日参照)。 したがって,食品等の輸入者は,食品等輸入届出済証又は食品衛生法違反通知書の交付につき,処分の相手方として直接法律上の利害関係を有する者であるということができる。 そして,上記のとおり,食品等輸入届出済証が交付されれば,当該食品等の輸入許可を受けて,当該食品が輸入・販売されることは,食品等輸入届出済証の交付を担当する検疫所長及びその補助職員にとっても当然予想できることである。 イさらに,前記のとおり,食品等の輸入については,厚生労働大臣又はその委任を受けた検疫所長(以下「厚生労働大臣等」という。)において,輸入届出に係る食品等が法に適合するか否かを認定判断し,食品等輸入届出済証又は食品衛生法違反通知書のいずれかを交付することによって,上記認定判断の結果を告知し,輸入届出に応答することとされている。そして,業務基準では,命令検査が行われた場合には,監視担当課において命令検査の検査結果の内容等によって合否を判断することとされ,検査結果が法に適合する旨が確認された場合には食品等輸入届出済証を交付し,検- 27 -査結果が法に適合しない場合には食品衛生法違反通知書を交付することとされている。このように,輸入届出に伴い命令検査が行われる場合には,検疫所の監視担当課において検査結果を確認した上で,その結果 -査結果が法に適合しない場合には食品衛生法違反通知書を交付することとされている。このように,輸入届出に伴い命令検査が行われる場合には,検疫所の監視担当課において検査結果を確認した上で,その結果に従い食品等輸入届出済証又は食品衛生法違反通知書の交付を行うものである以上,厚生労働大臣等から食品等輸入届出済証が交付された場合には,その交付を受けた輸入者において,命令検査の結果も法の定めた基準に適合するものであると考えることも当然であるということができる。したがって,輸入届出をした輸入者が,検査命令を受けた食品等につき食品等輸入届出済証の交付を受けた場合には,当該食品の検査結果が法の基準に適合するものであると信頼し,その後当該食品の輸入・販売等を行うことが当然予想できるのであり,これらの事情は,食品等輸入届出済証の交付を担当する検疫所長及びその補助職員においても当然認識し得るものである。食品等の輸入者が,税関長から輸入許可を受けるためには,「当該法令の規定による検査の完了又は条件の具備」(関税法70条2項)を証明するものとして食品等輸入届出済証の提出が必要とされ,登録検査機関による製品検査結果通知書の提出が必要とされていないことや,業務基準において,登録検査機関からの検査結果通知書が検疫所に提出される前であっても,登録検査機関からのFAINSへの結果の入力等により検査結果が法に適合する旨が確認された場合にあっては,食品等輸入届出済証の交付を行って差し支えないとされており,実際の検疫実務においても,FAINSにより輸入届出を受け付けた食品等に係る食品等輸入届出済証については,検疫所において登録検査機関からファクシミリにより送付された製品検査結果通知書の内容を確認した上,FAINSを利用し電気通信回線を通じて輸入者(通関事業者)に直ちに る食品等輸入届出済証については,検疫所において登録検査機関からファクシミリにより送付された製品検査結果通知書の内容を確認した上,FAINSを利用し電気通信回線を通じて輸入者(通関事業者)に直ちに交付されるのに対し,製品検査結果通知書の原本については,登録検査機関から郵便で検疫所に送付された後,検疫所に各通関事業者ごとに備え付けられたレターケースに差し置き,後日輸- 28 -入者(通関事業者)が回収に来るという方法により交付されるため,食品等が通関した後に輸入者(通関事業者)が製品検査結果通知書を受領することがあることも,上記を裏付けるものである。 ウなお,法26条4項は,同条1項から3項までの検査命令を受けた者は,当該検査を受け,その結果についての通知を受けた後でなければ,当該食品等を販売等してはならない旨規定している。 しかしながら,前記(1)のとおり,厚生労働大臣等は,食品等の安全を確保する責任と権限を有しており,輸入届出に係る食品等についても,これが法に適合するかどうかを認定判断した上,食品等輸入届出済証又は食品衛生法違反通知書の交付により当該認定判断の結果を輸入者に告知するものとされているところ,上記説示したとおり,輸入届出に伴い命令検査が行われた場合には,検疫所の監視担当課においてその検査結果を確認し,その結果に従い食品等輸入届出済証又は食品衛生違法違反通知書を輸入者に交付するものとされているのであるから,輸入届出に伴い検査命令が発令された食品等に係る食品等輸入届出済証又は食品衛生法違反通知書の交付は,実質的に,上記検査命令に係る検査結果が法に適合するか否かの判断の告知を含むものであるということができる。そうであるとすれば,検査命令を受けた輸入者が,当該食品等につき食品等輸入届出済証の交付を受けた場合においては,上記 係る検査結果が法に適合するか否かの判断の告知を含むものであるということができる。そうであるとすれば,検査命令を受けた輸入者が,当該食品等につき食品等輸入届出済証の交付を受けた場合においては,上記検査命令に係る製品検査結果通知書の交付を受けその記載内容を確認する前に当該食品等を販売したとしても,法26条4項の趣旨に反するものではないというべきである。 エ以上説示した食品等の輸入に係る法の仕組みや税関及び検疫実務並びに食品等輸入届出済証交付による法的効果やその意味内容等によれば,輸入届出に係る食品等は,命令検査の上食品等輸入届出済証が交付されれば,製品検査結果通知書の交付を待たずにそのまま輸入許可を受けて輸入され,さらに販売されることが予定されており,また,食品等の輸入者が,命令- 29 -検査を行った上で食品等輸入届出済証の交付を受けた場合には,当該食品等が,法の基準に適合するものであると信頼することには合理性があるというべきである。そして,食品等輸入届出済証の交付を受け,当該食品等を輸入・販売した後に,当該食品が法の定める基準を満たさず食品等輸入届出済証の交付に瑕疵があったとして,当該食品の回収命令等を受けることになれば,食品等輸入届出済証の交付を信頼して輸入・販売等をした輸入者が不測の損害を被ることになるのであり,これらの事情は,食品等輸入届出済証の交付処分を行う検疫所長及びその補助職員においても当然予見できる事柄であるということができる。 そして,公権力の行使に当たる公務員は,職務を行うについて,処分の相手方その他国民に対し,違法に損害を与えてはならないところ,上記のとおり,違法に食品等輸入届出済証が交付されれば,これを信頼した輸入者が不測の損害を被ることになり,これは検疫所長及びその補助職員も当然予見できる事柄であるとい 損害を与えてはならないところ,上記のとおり,違法に食品等輸入届出済証が交付されれば,これを信頼した輸入者が不測の損害を被ることになり,これは検疫所長及びその補助職員も当然予見できる事柄であるというのであるから,検疫所長は,輸入届出をした輸入者との関係において,違法な食品等輸入届出済証を交付して当該輸入者に不測の損害を生じさせないよう注意を尽くすべき職務上の法的義務を負うと解するのが相当であって,検疫所長又はその補助職員において,法に適合しない食品等につき,通常尽くすべき注意を尽くすことなく漫然と食品等輸入届出済証を交付した場合には,国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けるというべきである。 オしたがって,本件輸入届出を受けた名古屋検疫所長は,本件輸入届出をした原告との関係で,法に違反する食品等について食品等輸入届出済証を交付することのないよう注意すべき職務上の法的義務を負うというべきである。そうであるところ,前記認定事実によると,本件においては,本件しょうがに法11条3項本文に基づき厚生労働大臣が人の健康を損なうおそれのない量として定める量(0.01ppm)を超える量(0.04p- 30 -pm)のBHCが残留している旨記載された本件通知書が名古屋検疫所に交付されていたというのであるから,名古屋検疫所長において,本件しょうがが法11条3項本文に違反するものであり,これにつき食品等輸入届出済証を交付することが違法であることを容易に知り得たというべきところ,名古屋検疫所において本件通知書の記載内容を確認した2人の監視担当者のうち1人は,残留農薬の基準値を1桁高く記憶違いしており,他の1人は,本件通知書に記載された検査結果を1桁低く誤認し,これらにより本件通知書に記載された検査結果は法に適合するものと判断してしまい,食品衛生法違反 留農薬の基準値を1桁高く記憶違いしており,他の1人は,本件通知書に記載された検査結果を1桁低く誤認し,これらにより本件通知書に記載された検査結果は法に適合するものと判断してしまい,食品衛生法違反通知書を交付することなく本件届出済証を交付してしまったというのであって,名古屋検疫所長ないしその補助職員において通常尽くすべき職務上の注意義務を尽くすことなく漫然と本件届出済証を交付したことは明らかである。したがって,名古屋検疫所長の原告に対する本件届出済証の交付は,単に法の要件を満たさない違法なものであるというのみならず,国賠法1条1項の適用上も違法の評価を免れないというべきである。 (3) 被告の主張についてア被告は,国賠法1条1項の違法が認められるためには,公務員に与えられた規制権限を定めた法規の趣旨,目的を十分に検討し,規制権限の目的が個別の国民の利益を保護する趣旨であることが確定された上で,当該規制権限の行使が,当該法規によって課せられた当該個別の国民に対する職務上の法的義務に違背して行われたことを要することを前提として,厚生労働大臣が輸入届出に係る食品が法に適合したものかを判断する権限を有するとしても,それは食品等事業者の安全性確保に係る責任を補完し,飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し,もって国民の健康の保護を図ることを目的とするものであるから,本件において,原告に法27条において保護が予定された利益の侵害はなく,厚生労働大臣から委任を受けた- 31 -名古屋検疫所長又は同検疫所職員が,個別の輸入者である原告との関係において,食品等輸入届出済証を交付しない法的義務ないしは食品衛生法違反通知書を交付すべき法的義務を負うものではない旨主張する。 イ確かに,法は,食品の安全性の確保のために公衆衛生の見地から必要な規制その ,食品等輸入届出済証を交付しない法的義務ないしは食品衛生法違反通知書を交付すべき法的義務を負うものではない旨主張する。 イ確かに,法は,食品の安全性の確保のために公衆衛生の見地から必要な規制その他の措置を講ずることにより,飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し,もって国民の健康の保護を図ることをその最終的な目的としている(法1条)。 しかしながら,国賠法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が職務を行うについて故意又は過失によって違法に国民に損害を加えたときに国又は地方公共団体が賠償責任を負う旨規定するものであり,同項にいう違法性の有無は,公権力の行使に当たる公務員の行為によって国民が被ったとする損害を填補する責任をだれに負わせるのが公平かという見地から,総合的に判断されるべきものである。したがって,以上のような国賠法1条1項における違法性要件の性質に照らせば,根拠法規の定める要件を欠くなどして法令に適合しない公務員の行為により国民の利益が侵害された場合には,当該公務員の行為の根拠法規自体は当該利益の保護を直接の目的としていない場合であっても,当該利益の内容及び性質並びにその侵害の態様や程度によってはなお上記公務員が当該国民との関係で上記利益に配慮すべき職務上の注意義務を負い,国賠法1条1項の適用上違法となる余地があるというべきである(最判平成3年4月26日・民集45巻4号653頁参照)。 ウそして,法は,国民による食品等の飲食に至るまでの間に,食品等の採取,製造,輸入,加工,調理,貯蔵,運搬,陳列及び販売等の過程を経ることを前提として,これらの過程に応じて,上記法の目的を達成するために各種の具体的な規制を定めているのであるから,これらの規制によって上記各過程に関わる関係者がその利害に影響を受けることを当然に予 ことを前提として,これらの過程に応じて,上記法の目的を達成するために各種の具体的な規制を定めているのであるから,これらの規制によって上記各過程に関わる関係者がその利害に影響を受けることを当然に予定し- 32 -ており,前記法の目的とこれら各過程に関わる者の利害との間の調整をも予定しているというべきところ,前記のとおり,上記各過程のうち,販売の用に供し又は営業上使用する食品等の輸入については,輸入届出をした輸入者を名宛人とする行政処分としての食品等輸入届出済証又は食品衛生法違反通知書の交付を予定しているのである。そして,このうち,食品衛生法違反通知書の交付については,これが輸入届出をした輸入者の当該食品等の輸入に係る権利・利益を直接制約するものであることから,輸入届出に係る食品等が法に適合するにもかかわらず食品衛生法違反通知書を交付された輸入者は,抗告訴訟によりその効力を争うことができることはもとより(前掲最判平成16年4月26日参照),これにより損害を被った場合には,法の目的がそのような輸入者の食品等の輸入に係る利益を保護する趣旨を含むものかどうかにかかわりなく,国賠法1条1項に基づき損害の賠償を求める余地があると解される。他方,本件のような食品等輸入届出済証の交付は,輸入者が輸入届出により求めたとおりの行政処分であるものの,前記説示したとおり,食品等の輸入に係る法の仕組み等に照らせば,食品等輸入届出済証の交付の適法性について輸入者が信頼することは当然であって,他方,違法に食品等輸入届出済証が交付されれば輸入者に不測の損害が生じる関係にあるというのであるから,検疫所長が当該輸入者との関係で職務上の注意義務を負い,これに反して法に違反する食品等につき食品等輸入届出済証が交付され,輸入者の上記利益が侵害された場合には,当該行政処 にあるというのであるから,検疫所長が当該輸入者との関係で職務上の注意義務を負い,これに反して法に違反する食品等につき食品等輸入届出済証が交付され,輸入者の上記利益が侵害された場合には,当該行政処分を定める根拠法規の目的にかかわらず,国賠法1条1項の適用上違法と解する余地があることは,食品衛生法違反通知書の交付の場合と同様というべきである。 エ以上のとおりであるから,被告の前記主張を採用することはできない。 争点②(本件届出済証の交付についての過失の有無)について前記認定事実によると,名古屋検疫所は,本件しょうがには法11条3項本- 33 -文に基づき厚生労働大臣が人の健康を損なうおそれのない量として定める量を超える量である0.04ppmのBHCが残留している旨記載された本件通知書の交付を受けていたにもかかわらず,同検疫所において本件通知書の記載内容を確認した2人の監視担当者のうち1人が残留農薬の基準値を1桁高く0. 1ppmであると記憶違いしており,他の1人が本件通知書に記載された検査結果を1桁低く0.004ppmであると誤認したため,本件通知書に記載された検査結果は法に適合するものと判断し,食品衛生法違反通知書を交付することなく本件届出済証を交付したというのであるから,名古屋検疫所長を補助する上記各公務員に,本件届出済証の交付につき過失があることは明らかである。 これに対し,被告は,原告が,自らに課せられた法3条及び26条4項所定の義務を果たすため,製品検査結果通知書の数値と基準値とを対照するなどしてその安全性を確認せずに本件しょうがをC青果に売却し出荷するという法の予定しない異常な行動をとったものであり,原告の主張する損害はこのような異常な行動に基づいて発生したものであって,名古屋検疫所職員は,このような原告の異常な行動に をC青果に売却し出荷するという法の予定しない異常な行動をとったものであり,原告の主張する損害はこのような異常な行動に基づいて発生したものであって,名古屋検疫所職員は,このような原告の異常な行動について予見しておらず,また,予見可能性もなかったから,過失は認められない旨主張するが,前記2において説示したところに照らして採用することができない。 争点③(損害の有無及び額)について(1) 本件しょうがの取得費用180万6857円ア前記認定事実によると,原告は,6月20日,本件しょうがをC青果に売却し,同月29日に本件しょうがの代金として240万6096円の支払を受けたが,7月17日,C青果に対して上記代金を返金しているところ,原告は,上記C青果への返金額(ただし,消費税及び地方消費税相当額を除く。)をもって,本件届出済証の交付と相当因果関係のある損害であると主張している。 - 34 -ところで,原告主張の上記返金額には,本件しょうがの取得費用に相当する部分とC青果に対する転売利益相当額とが含まれていると考えられるところ,前記のとおり,仮に本件届出済証が交付されなければ,税関において本件しょうがに係る輸入許可を受けることができず,原告が本件しょうがをC青果に売却することもできなかったのであるから,原告が上記転売利益を取得することもなかったことは明らかであり,C青果に対する返金額のうち,転売利益に相当する部分については,本件届出済証の交付との因果関係を欠くというほかない。他方,前記認定事実によると,本件において,本件届出済証が交付されることなく食品衛生法違反通知書が交付されていれば,本件しょうがにつき,原告において何ら費用を負担することなく(もっとも,上記の場合にAに対する手数料等及び輸入届出の時点で既に支出済であると考えられる となく食品衛生法違反通知書が交付されていれば,本件しょうがにつき,原告において何ら費用を負担することなく(もっとも,上記の場合にAに対する手数料等及び輸入届出の時点で既に支出済であると考えられる運賃についてまで,輸出業者に請求できるかはなお明らかではない。),輸出業者の費用負担の下,積戻しをすることができたというのであるから,上記返金額のうち,本件しょうがの取得費用については,Aに対する手数料等及び運賃相当額を除き,本件届出済証の交付との相当因果関係を認めることができる。 イそこで,本件しょうがの取得費用を検討するに,証拠(甲2,18,28,29)及び弁論の全趣旨によると,原告は,本件しょうがに係る売買契約を締結する際,輸出業者との間で,本件しょうがの代金を1箱当たり11.4米ドル,合計1万4044.8米ドルとする旨合意したこと,本件しょうがの通関手続においては,上記代金額を1米ドル=121.65円の換算相場で円に換算した金額に,本件しょうがの運賃6万5400円を加えた金額(177万3949円)を課税標準として,本件しょうがに係る消費税額(地方消費税を含む。)が8万8600円と算定され,原告は,Aを通じて同金額を納付したこと(消費税法4条2項,5条2項,28条3項,29条,地方税法第2章第3節参照),原告は,7月24日,- 35 -輸出業者に対し,本件しょうがの代金を含む5万米ドルを電信送金の方法により支払ったこと,その際の米ドルと円との換算相場は,1米ドル=122.38円であったこと,原告と輸出業者との間において,上記5万米ドルは,本件しょうがの代金1万4044米ドル,里芋の代金1万0719米ドル,にんじんの代金7250米ドル及び白葱の代金1万8000米ドルの合計額から端数の13米ドル値引きしたものとされていたこと,以上の 本件しょうがの代金1万4044米ドル,里芋の代金1万0719米ドル,にんじんの代金7250米ドル及び白葱の代金1万8000米ドルの合計額から端数の13米ドル値引きしたものとされていたこと,以上のとおり認められる。 以上認定したところを総合すると,原告が輸出業者と本件しょうがに係る売買契約を締結した当初,その代金は1箱当たりの単価を基準として1万4044.8米ドルと定められたものの,実際の支払段階では,上記代金のうち1米ドル未満の部分を切り捨てた上で他の商品の代金と合算し,さらに,同合算額の端数を値引きする旨合意されたものと認められる。そうすると,原告が,本件しょうがにつき運賃を除いて実際に支払った金額は,当初の代金額1万4044.8米ドルから1ドル未満の部分を切り捨てた額から,上記割引額のうち本件しょうがの代金割合相当額を控除し,これを7月24日当時の換算相場で円に換算した額に,本件しょうがに係る消費税等の額を加算した額となり,具体的には次のとおりである。 (1万4044-1万4044÷5万0013×13)×122.38+8万8600≒180万6857(円)したがって,原告のC青果に対する返金額のうち,本件届出済証の交付と相当因果関係にある損害額は180万6857円である。 ウ被告は,原告は,本件しょうがの輸入の前後にも,本件と同一の輸出業者から本件と同量のしょうがを輸入しているから(乙10),甲第28号証によっても,原告による本件しょうがの代金の支払の事実は認められない旨主張する。しかしながら,後記エのとおり,原告が本件しょうがの代金支払債務を免れる理由はなく,代金の支払を拒絶することは,少なくと- 36 -も事実上困難であると認められるから,原告は本件しょうがの代金を輸出業者に支払ったと認めるのが相当であり,被告の上記主張を 払債務を免れる理由はなく,代金の支払を拒絶することは,少なくと- 36 -も事実上困難であると認められるから,原告は本件しょうがの代金を輸出業者に支払ったと認めるのが相当であり,被告の上記主張を採用することはできない。 エ(ア) また,被告は,原告と輸出業者との間に,通関した貨物については輸出業者に対する責任追及をすることができないなどという合意又は商慣習が存するとは認められないから,原告は輸出業者に対して債務不履行,瑕疵担保責任ないし不法行為等に基づき売買代金の返還又は損害賠償を求めることができ,原告にはいまだ財産的損害が発生していない旨主張する。 確かに,前記認定事実によると,原告は,中国所在の輸出業者との間で口頭で契約を締結しており,当該食品等が通関できない場合については,輸出業者の費用負担で積戻しをすることができる旨の合意があったことは認められるものの,それ以上に具体的な契約条項が定められていた様子はうかがわれず,本件しょうがを除いては,原告が輸入しようとした食品について,検疫所が製品検査結果通知書を見誤ったために本来輸入することができない食品を輸入してしまったという事例もないというのであるから,原告と輸出業者との間に,貨物が通関した後の責任分担に関する明示の合意があったと認めることはできない。 (イ) しかしながら,輸出業者の原告に対する本件しょうがの売却行為と,名古屋検疫所長の本件届出済証の交付とが,原告に対する共同不法行為を構成するのであれば,原告は,被告と輸出業者のいずれに対しても,これら各不法行為と相当因果関係のある損害全額の賠償を求めることが可能なのであって(国賠法4条,民法719条),この場合には,原告が他の不法行為者である輸出業者に対して責任追及することが可能であることをもって,原告に損害が発生していない 全額の賠償を求めることが可能なのであって(国賠法4条,民法719条),この場合には,原告が他の不法行為者である輸出業者に対して責任追及することが可能であることをもって,原告に損害が発生していないということはできない。 (ウ) また,原告が中国の輸出業者から食品等を輸入する場合,当該食品等- 37 -が通関した時点で,原告は,輸出業者に対してその旨連絡し,他方,輸出業者においても,通関したとの連絡を受けるまでの間,原告に対して検査結果等を問い合わせてくるというのであり(原告代表者本人27頁),これによれば,原告及び輸出業者の双方が,当該食品が通関した事実に着目していた様子がうかがわれる。また,前記認定事実によれば,中国産の生鮮しょうがについては,平成18年11月29日以降,全量がBHCに係る検査命令の対象とされていたというのであるから,中国産の生鮮しょうがについては,その全量が通関に先立ち命令検査を受け,検疫所長により当該しょうがが法に適合するものか否か判断され,法に適合すると判断された場合に限り食品等輸入届出済証が交付され,輸入許可を受けて通関することができるものとされていたということができ,当該しょうがが通関した場合には,輸出業者においても,少なくともBHCに関してはもはや責任を追及されることはないと期待することも理解できるところである(商法526条参照)。これらによれば,原告において,本件しょうがが通関した以上,輸出業者に対してもはや責任を追及することができないと考え,また,輸出業者においても,もはや責任追及を受けることがないと考えることも不合理ではなく,原告代表者が供述しているとおり,その限りで両者の意思が合致していたとみる余地がある。 さらに,仮に,原告が瑕疵担保責任又は債務不履行を理由として本件しょうがに係る売買契約 ることも不合理ではなく,原告代表者が供述しているとおり,その限りで両者の意思が合致していたとみる余地がある。 さらに,仮に,原告が瑕疵担保責任又は債務不履行を理由として本件しょうがに係る売買契約を解除して,その代金の返還を求める余地があるとしても,このような代金の返還と売買目的物の返還とは,通常,同時履行の関係にあるところ(民法546条,533条参照),本件においては,本件しょうがは日本に輸入され既に全量廃棄処分されており,現物返還が不可能となっているから,原告が,輸出業者に対し,少なくとも代金全額の返還を求めることが事実上困難であろうことは,容易に- 38 -推測することができる。また,不法行為又は債務不履行等を理由とする輸出業者に対する損害賠償請求については,仮に原告がこれを行使する余地があるとしても,前記認定事実によると,本件しょうがを除いては,原告が輸入しようとした食品について,検疫所が製品検査結果通知書を見誤ったために本来輸入することができない食品が輸入された事例はないというのであり,通関事業者であるAにおいて21年にわたり生鮮物の通関業務に携わってきた証人Dにおいても,そのような事例を経験したことはないというのであるから(証人D15頁),本件において,本件届出済証の交付を受けたことにより原告に生じた損害は,輸出業者の不法行為ないし債務不履行との関係で相当因果関係を欠くとみる余地もあり,原告が,輸出業者に対して,上記損害の賠償を請求することには,相当の困難が伴うことも当然予想されるところである。 以上によれば,本件しょうがが通関した以上,もはや輸出業者に対して責任を追及することができないとの原告の主張には相応の根拠があるということができ,少なくとも,原告がこのような責任追及をすることは事実上困難であるというべきであっ 関した以上,もはや輸出業者に対して責任を追及することができないとの原告の主張には相応の根拠があるということができ,少なくとも,原告がこのような責任追及をすることは事実上困難であるというべきであって,原告において,輸出業者に対して代金返還請求権ないし損害賠償請求権を有し,これを実際に行使することができるとは認められない。したがって,損害額の算定に当たって,原告の輸出業者に対する代金返還請求権ないし損害賠償請求権を控除することはできず,この点についての被告の主張は採用することができない。 (2) 本件しょうがの回収費用106万0892円前記認定事実によると,原告は,大阪市から本件しょうがの回収を命じられたため,本件しょうがのうち既に小売店に流通していた252箱について,C青果を通じていったん中央市場に集荷し,これをAを通じてA物流センターに搬入した上,本件しょうがの全量を廃棄処分しているところ,証拠(甲- 39 -10,11から12まで,証人D,原告代表者本人)及び弁論の全趣旨によると,原告は,7月13日,C青果から,上記小売店から中央市場までの本件しょうがの回収費用として99万8942円の支払を請求され,8月7日,C青果に対し,銀行振込の方法によりこれを支払ったこと,原告は,7月27日から8月31日にかけて,Aから,本件しょうがの中央市場からA物流センターまでの運搬料及びA物流センターの出入庫料として,それぞれ,2万5200円及び3万6750円支払を請求され,原告は,10月29日までにこれらの請求に応じてAに対して上記各金額を銀行振込の方法により支払ったこと,以上のとおり認められ,原告の上記各支払と本件届出済証の交付との間にはいずれも相当因果関係があるものと認められる。したがって,原告は,本件届出済証の交付により,本件しょうが 方法により支払ったこと,以上のとおり認められ,原告の上記各支払と本件届出済証の交付との間にはいずれも相当因果関係があるものと認められる。したがって,原告は,本件届出済証の交付により,本件しょうがの回収費用等として,106万0892円の損害を被ったものと認められる。 (3) 本件しょうがの廃棄費用90万4000円前記認定事実によると,原告は,A物流センターに存置され,あるいは小売店から同センターに回収された本件しょうがの全量を廃棄処分しているところ,証拠(甲13,証人D,原告代表者本人)及び弁論の全趣旨によると,原告は,8月31日,Aから,本件しょうがの廃棄処理料として,90万4000円の支払を請求され,原告は,10月29日に同請求に応じて前同額を銀行振込の方法により支払ったことが認められる。したがって,原告は,本件届出済証の交付により,本件しょうがの廃棄処理料として,90万4000円の損害を被ったものと認められる。 (4) 以上によれば,本件届出済証の交付と相当因果関係のある損害は,前記(1)から(3)までの合計額である377万1749円である。なお,被告は,原告の主張する損害は,原告の法の予定しない行動により生じたものであり,このような特別な事情についての予見可能性はなかったから,いずれも本件届出済証の交付との相当因果関係を欠く旨主張するが,これを採用すること- 40 -ができないことは,既に認定説示したところに照らして明らかである。 争点④(過失相殺の可否及び割合)について(1)ア被告は,食品等輸入届出済証が交付されたとしても,個別の輸入業者の食品等の安全性の確保に係る責務(法3条)が消滅するものではなく,食品等事業者は,販売食品等について,自らの責任においてそれらの安全性を確保するため,販売食品等の安全性の確保に係る 個別の輸入業者の食品等の安全性の確保に係る責務(法3条)が消滅するものではなく,食品等事業者は,販売食品等について,自らの責任においてそれらの安全性を確保するため,販売食品等の安全性の確保に係る知識の習得に努める義務があるところ,原告は,本件しょうがに基準値を超える0.04ppmのBHCが残留している旨記載された本件通知書を受領したのであるから,この記載を確認さえすれば,直ちに本件しょうがを販売することができない旨認識し得たにもかかわらず,原告はその内容を了知する前に漫然と本件しょうがをC青果に販売したものであり,原告には重大な過失がある旨主張する。 イそこで検討するに,前記説示したとおり,食品等の輸入に係る法の仕組み等にかんがみると,輸入届出に係る食品等は,食品等輸入届出済証が交付されれば,同交付に先立ち検査命令が発令されている場合であっても,当該命令検査に係る製品検査結果通知書の記載内容の確認を待たずにそのまま輸入許可を受けて輸入され,さらに販売されることが予定されているというのである。そして,本件しょうがは生鮮食品であるところ,前記認定事実によると,Aにおいては,生鮮物を輸入する輸入者に対しては,当該食品等につき輸入許可された時点で直ちにその旨連絡しており,そのような生鮮物については,輸入許可された当日に販売され出荷される場合もあるというのであるから,このような生鮮食品等については,実際上も,一般に検査命令に係る製品検査結果通知書の交付及びその確認を待つことなく販売されていることも認められるのであり,このような生鮮食品等に係る輸入慣行をも併せ考えれば,原告が,7月20日に本件届出済証の交付を受けるや,本件通知書の交付を待たずに直ちに本件しょうがに係る輸- 41 -入許可を受けてこれを輸入し,即日,C青果にこれを販売した 入慣行をも併せ考えれば,原告が,7月20日に本件届出済証の交付を受けるや,本件通知書の交付を待たずに直ちに本件しょうがに係る輸- 41 -入許可を受けてこれを輸入し,即日,C青果にこれを販売したことが,法の趣旨に反するということはできず,これを原告の過失として考慮することは許されないというべきである。 ウもっとも,前記のとおり,法3条1項は,食品等事業者は,販売食品等について,自らの責任においてそれらの安全性を確保するため,販売食品等の原材料の安全性の確保,販売食品等の自主検査の実施その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない旨規定し,食品等事業者の食品等の安全性確保に係る責務を明らかにしており,このような法の規定内容に照らせば,食品等事業者は,常に食品等の安全性について意を払うことを要請されているものと解される。そして,これを食品等の輸入についていえば,前記説示したとおり,輸入者は,食品等を輸入ないし販売するに当たり,検査命令に係る製品検査結果通知書の交付を待つ必要はないものの,実際にその交付を受けた場合には,輸入ないし販売の前後を問わず,その記載内容に注意を払うことが求められているというべきである。 そうであるところ,前記認定事実によると,名古屋検疫所は,6月21日,同検疫所内に備え付けられたAのレターケースに差し置く方法により,本件しょうがに法11条3項本文に基づき厚生労働大臣が人の健康を損なうおそれのない量として定める量を超える量である0.04ppmのBHCが残留している旨記載された本件通知書をAを通じて原告に交付したが,原告が特にその内容を確認することのないまま,本件しょうがの一部が,6月25日及び同月26日にAの名古屋多目的物流センターから出荷されたというのである。そうすると,原告が,本件通知書の交付を受けて直 原告が特にその内容を確認することのないまま,本件しょうがの一部が,6月25日及び同月26日にAの名古屋多目的物流センターから出荷されたというのである。そうすると,原告が,本件通知書の交付を受けて直ちにその内容を確認していれば,検疫所に問い合わせるなどして,本件しょうがの出荷を未然に阻止することができ,少なくとも,前記4(2)(本件しょうがの回収費用)の損害の発生を回避することは可能であったということができるのであって,上記のような原告の行動は,被告が賠償すべき損- 42 -害を算定するに当たっても,先に述べた法の要請に照らせば,民法722条2項に通底する損害の公平な分担という理念からして当然考慮されるべきものである。 そして,前記のような法の要請に加えて,前記認定のとおり,原告は,C青果から,本件しょうがの卸売先に安心してもらうため,事後的にせよ本件しょうがに係る製品検査結果通知書を送付するよう依頼されていたというのであり,原告においても十分本件通知書の意義及び重要性を認識し得たこと,それにもかかわらず,原告は,Aに対して本件通知書のレターボックスからの早期の回収等を依頼せず,本件通知書がAから郵送で送付されるまでの間,これに意を払うことなく漫然と本件しょうがが出荷されるに任せていたこと,原告がAに対して上記のような依頼をして本件通知書の内容を確認し,本件しょうがが法11条3項に違反するものであることを検疫所ないしC青果等に連絡することは容易であると考えられることなどを考慮すれば,本件において,原告が本件通知書の交付を受けたにもかかわらず,その記載内容を確認しなかったことにより拡大した損害(前記4(2)の損害)については,その3割を原告において負担し,被告はその余につき賠償責任を負うと解するのが相当である。 エ以上説示したとこ ず,その記載内容を確認しなかったことにより拡大した損害(前記4(2)の損害)については,その3割を原告において負担し,被告はその余につき賠償責任を負うと解するのが相当である。 エ以上説示したところによれば,本件において,原告が,本件通知書の交付を待たずに本件しょうがに係る輸入許可を受けてこれを輸入しC青果に販売した点が法の趣旨に反するということはできず,これを原告の過失として考慮することは許されないものの,原告が,本件通知書の交付を受けた後もその記載内容を確認しなかったことにより拡大した損害(前記4(2)の損害)については,その3割を原告において負担すべきであり,被告はその余の賠償責任を負うというべきである。 (2) また,被告は,原告が,本件しょうがの輸入の前にも2件の重大な違反事例がありながら,これらの違反事例においてまともな調査や対応をすること- 43 -なく,本件しょうがの輸入においても,現地で現物の確認を行うなど慎重な注意を払うべきであるところ,そのような注意を払うことなく,極めて安易に本件しょうがをC青果に販売しており,これらの事情も原告の過失の有無・程度の判断において十分考慮されるべきであると主張する。 しかしながら,過去に違反事例があるからといって,本件しょうがの輸入に際しても,損害の発生又は拡大に寄与する過失があったと推認することはできず,現地で確認しなかったことを過失ということもできないから,この点についての被告の主張は採用することができない。 (3) さらに,被告は,原告が本件しょうがの代金を輸出業者に支払ったのは,本件しょうがにつき原告が食品衛生法違反通知書の交付を受けた日の2週間後である7月24日であり,原告はこの間に売主との交渉を行い代金債権がないことを相互に確認するなど,通常の取引者であれば当然あってし 件しょうがにつき原告が食品衛生法違反通知書の交付を受けた日の2週間後である7月24日であり,原告はこの間に売主との交渉を行い代金債権がないことを相互に確認するなど,通常の取引者であれば当然あってしかるべき対応をとっていないのであり,このような事情も過失相殺を行うにつき十分考慮されるべきである旨主張する。 しかしながら,原告が,輸出業者に対する代金支払債務を免れる理由がないことは,前記4(1)エにおいて説示したとおりであるから,被告の上記主張を採用することはできない。 (4) 以上によれば,被告が原告に対して賠償すべき損害は,前記4(1)及び(3)の損害全額(合計271万0857円)と前記4(2)の損害の7割(74万2624円)との合計345万3481円となる。 結論 以上の次第であるから,原告の本訴請求は,被告に対して損害金345万3481円及びこれに対する本件届出済証交付の後である6月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 よって,訴訟費用の負担につき民事訴訟法64条本文,61条を,仮執行宣- 44 -言につき同法259条1項をそれぞれ適用し,なお,同条3項を適用して職権により仮執行免脱宣言を付することとして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第2民事部山田明裁判長裁判官徳地淳裁判官釜村健太裁判官
▼ クリックして全文を表示