主文 1 被告は,原告に対し,5万円及びこれに対する平成26年1月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用はこれを30分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。ただし,被告が4万5000円の担保を供するときは,上記仮執行を免れることができる。 事実 及び理由第1 請求被告は,原告に対し,150万円及びこれに対する平成26年1月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,甲拘置所に未決拘禁者として収容されていた原告が,その収容中に,甲拘置所職員らによって,【Ⅰ】甲拘置所視察委員会(以下「本件委員会」という。)が原告に対して発信し一旦は原告が受信していた信書を取り上げられた上,半年以上にわたりこれを返還されず(以下「本件【1】行為」という。),【Ⅱ】信書の取り上げに抗議したところ,医師の診察を経ないで,かつ不当に長時間にわたり保護室に収容され(以下「本件【2】行為」という。),【Ⅲ】収容の際,転倒させられて背中及び腰を殴打するなどされた上,催涙スプレーを噴射されるといった暴行を加えられた(以下「本件【3】行為」という。)と主張し,甲拘置所職員の本件【1】【2】【3】行為は国家賠償法(以下「国賠法」という。)上違法であって,これらによって精神的苦痛を被ったとして,被告に対し,国賠法1条1項に基づき,慰謝料150万円及びこれに対する違法行為の後の日(訴状送達日の翌日)である平成26年1月17日から支払済 みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 なお,原告は,当初,本件【3】行為を国 違法行為の後の日(訴状送達日の翌日)である平成26年1月17日から支払済 みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 なお,原告は,当初,本件【3】行為を国賠法上の違法行為として本訴を提起したところ,その審理中に,本件【2】行為,続いて本件【1】行為を国賠法上の違法行為とする損害賠償請求を追加した(以下,それぞれ「本件請求【1】」「本件請求【2】」「本件請求【3】」という。)。 1 関係法令の定め(1) 信書の内容による差止め等に係る法の定め等刑事施設の長は,未決拘禁者に対し,法により禁止される場合を除き,他の者との間で信書を発受することを許すものとする。ただし,刑事訴訟法の定めるところにより信書の発受が許されない場合は,この限りでない。(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「法」という。)134条)刑事施設の長は,その指名する職員に,未決拘禁者が国又は地方公共団体の機関から受ける信書について,これらの信書に該当することを確認するために必要な限度において検査を行わせるものとし(法135条1項,2項2号),検査の結果,未決拘禁者が国又は地方公共団体の機関から受ける信書について,この信書に該当することを確認する過程において,その全部又は一部が,発受によって,刑罰法令に触れることとなり,又は刑罰法令に触れる結果を生ずるおそれがあるとき等に該当することが判明した場合は,その発受を差し止め,又はその該当箇所を削除し,若しくは抹消することができる(法136条,129条)。 (2) 保護室への収容に係る法の定め等刑務官は,被収容者が,刑務官の制止に従わず,大声又は騒音を発するとき,他人に危害を加えるおそれがあるとき等の場合において,刑事施設の規律及び秩序を維持するため特に必要 室への収容に係る法の定め等刑務官は,被収容者が,刑務官の制止に従わず,大声又は騒音を発するとき,他人に危害を加えるおそれがあるとき等の場合において,刑事施設の規律及び秩序を維持するため特に必要があるときは,刑事施設の長の命令により,その者を保護室に収容することができる(法79条1項2号イ,ロ)。 この場合において,刑事施設の長の命令を待ついとまがないときは,刑務官は,その命令を待たないで,その被収容者を保護室に収容することができる。 この場合には,速やかに,その旨を刑事施設の長に報告しなければならない(同条2項)。 保護室への収容の期間は,72時間以内とする。ただし,特に継続の必要がある場合には,刑事施設の長は,48時間ごとにこれを更新することができる(同条3項)。刑事施設の長は,前記の期間中であっても,保護室への収容の必要がなくなったときは,直ちにその収容を中止させなければならない(同条4項)。 刑事施設の長は,被収容者を保護室に収容した場合には,速やかに,その被収容者の健康状態について,刑事施設の職員である医師の意見を聴かなければならない(同条5項)。刑事施設の長は,医師の意見を聴取する場合には,その医師が被収容者等の健康状態を直ちに把握できる場合を除き,看護師又は准看護師にその状況を把握させ,その医師へ報告させるものとする。 同報告がなされたときは,その報告を受けた医師において診察の要否を判断するものとする。刑事施設の医師は,診察,看護師又は准看護師の報告その他の方法により被収容者等の健康状態を把握し,意見を述べるものとする(法務大臣「刑務官の職務執行に関する訓令」[矯成訓第3258号・平成18年5月23日]36条,34条)。(乙2)(3) 制止等の措置に係る法の定め等刑務官は,被収容者が自身を傷つけ若し する(法務大臣「刑務官の職務執行に関する訓令」[矯成訓第3258号・平成18年5月23日]36条,34条)。(乙2)(3) 制止等の措置に係る法の定め等刑務官は,被収容者が自身を傷つけ若しくは他人に危害を加え,逃走し,刑事施設の職員の職務の執行を妨げ,その他刑事施設の規律及び秩序を著しく害する行為をし,又はこれらの行為をしようとする場合には,合理的に必要と判断される限度で,その行為を制止し,その被収容者を拘束し,その他その行為を抑止するため必要な措置を執ることができる(法77条1項)。 この措置に必要な警備用具は,催涙スプレー等とする(同条3項,刑事施設 及び被収容者の処遇に関する規則36条6号)。 催涙スプレーの使用方法については,スプレーは対象者の顔面に向けること,スプレーの噴射は短くすること,噴射は約4メートルの範囲で使用すること,スプレーに含まれている液体は,肌,目,鼻及び喉に刺激を与えるものであり,その使用により後遺障害を生じさせるおそれはないが,使用後,速やかに,顔や目,皮膚などから流水で液を洗い流させること,スプレーを使用したことによる肌,目,鼻,喉等の刺激を含む症状は約45分続くことがあるので,被使用者の動静については,十分な観察を行い,必要に応じ,医師による診察を行うこととされており(「刑務官の職務執行に関する訓令」[矯成訓第3258号]24条,法務省矯正局長「刑務官の職務執行に関する訓令の運用について」[矯成第3259号・平成18年5月23日]10条3項,法務省矯正局長「催涙スプレーの管理及び使用方法について」[矯成第3263号・平成18年5月23日]),甲拘置所においては,上記に加え,スプレーを使用するときは,スプレーを使用することを相手に予告すること,ただし,事態が急迫し,予告するいとまのな いて」[矯成第3263号・平成18年5月23日]),甲拘置所においては,上記に加え,スプレーを使用するときは,スプレーを使用することを相手に予告すること,ただし,事態が急迫し,予告するいとまのないとき又は予告することにより相手の違法行為等を誘発するおそれがあると認めるときは,この限りでないなどと定めている(甲拘置所長「催涙スプレーの管理及び使用方法について」[指示第16号・平成20年3月31日])(乙1,2,28,30)。 2 前提事実(証拠の掲記がない事実は争いのない事実である。)(1) 当事者及び事実経過ア原告は,昭和40年生まれの男性である。 イ原告は,平成21年6月7日,【A】被疑事実で逮捕勾留され,被告が設置・管理運営する甲拘置所に収容された。原告は,同所において,文房具等の自弁物品を購入するなどし,それら自弁物品等の使用を許された。 ウ原告は,【A】被疑事実で甲拘置所に収容中の平成22年3月10日, 【B】被疑事実により逮捕勾留され,乙県警察丙警察署留置施設に勾留されたが,【B】被疑事実については不起訴処分となり,同年4月1日,甲拘置所に移送された。 甲拘置所長は,同日に原告が甲拘置所へ移送された後,原告が上記イのとおり甲拘置所において購入するなどして使用していた自弁物品等の持ち込み使用を許さなかった(乙3)。 エそのため,原告の国選弁護人は,平成22年4月5日付けで,本件委員会に対し,上記自弁物品等の使用を許すことを求める「改善申入書」と題する書面を提出した(乙3)。 これを受けて,本件委員会は,同年12月7日付けで,原告に対し,上記「改善申入書」を受けて甲拘置所長に対して述べた意見及びこれに対する甲拘置所長からの回答に関する内容が記載された信書(以下「本件信書」という。)を発した( は,同年12月7日付けで,原告に対し,上記「改善申入書」を受けて甲拘置所長に対して述べた意見及びこれに対する甲拘置所長からの回答に関する内容が記載された信書(以下「本件信書」という。)を発した(乙6)。 オ甲拘置所長は,平成22年12月8日,原告に対し,本件信書の受信を許し,本件信書を交付した。 しかし,甲拘置所長は,本件信書の記載内容が国家公務員法100条1項前段の「秘密」に該当するため,本件委員会が原告に対し本件信書を発信する行為は国家公務員が職務上知ることのできた秘密を漏らす行為(国家公務員法109条12号,100条1項前段)に該当する可能性があることから,本件信書が,発受によって,刑罰法令に触れることとなり,法136条が準用する法129条1項2号に該当する信書ではないかと考え,同条に基づく信書の受信差止処分等の措置をすべきかなどについて検討する必要があると判断し(乙7),原告に本件信書を提出させ,本件信書を回収した(以下「本件信書回収」という。ただし,回収日時及びその際の具体的なやり取りについては,後記4(1)のとおり,当事者間に争いがある。)。 カ原告は,平成23年2月21日,収容中の居室(以下「原告居室」という。)内から,廊下を巡回中の丁処遇部長(矯正長,以下「丁処遇部長」という。)らに対し,本件信書の返還を求めて大声を発した。駆けつけた戊統括矯正処遇官(副看守長,以下「戊統括」という。)は,原告に対し,静かにするよう指示をしたが,原告がこれに従わず,なお大声を発し続けたため,原告を原告居室から出して保護室へ収容することとし,刑務官(看守)らをして保護室へ連行させた。戊統括は,原告を保護室へ連行する途中,原告に対し,催涙スプレーを噴射した(ただし,この間の原告に対する暴行の有無及び催涙スプレーの噴 へ収容することとし,刑務官(看守)らをして保護室へ連行させた。戊統括は,原告を保護室へ連行する途中,原告に対し,催涙スプレーを噴射した(ただし,この間の原告に対する暴行の有無及び催涙スプレーの噴射に至る経緯等については,後記4(3)のとおり,当事者間に争いがある。)。 戊統括は,同日午前11時34分,原告を保護室に収容した(以下「本件保護室収容」という。)。 (乙9)甲拘置所長は,同月22日午前10時36分,本件保護室収容を中止した(乙13,21)。 キ甲拘置所長は,平成23年7月15日,原告に対し,本件信書を交付した(以下,甲拘置所長が,平成22年12月9日から平成23年7月15日までの間,原告に対し,本件信書を交付しなかった行為を「本件信書不交付」という。)(乙6,42,弁論の全趣旨)。 ク原告は,この間の平成22年9月10日,【A】被疑事実につき,懲役3年6月に処する旨の判決の言渡しを受けていたところ,平成23年7月14日に同判決が確定したことに伴い,同年8月1日,甲刑務所へ移送された。原告は,平成25年11月18日,刑の執行終了により釈放された。 (2) 本件訴訟の経過及び消滅時効の援用等ア原告は,平成26年1月8日,本件【3】行為(暴行及び催涙スプレー使用)を国賠法上の違法行為として,被告に対して損害賠償を請求する訴 訟(本件請求【3】)を提起した。 原告は,平成26年8月20日,本件【2】行為(本件保護室収容)を国賠法上の違法行為とする損害賠償請求(本件請求【2】)を追加する旨の書面を裁判所に提出した。 原告は,裁判所(前構成)の釈明を受けて,平成26年11月27日,本件【1】行為(本件信書回収及び本件信書不交付)を国賠法上の違法とする損害賠償請求(本件請求【1】)を追加する旨の書 提出した。 原告は,裁判所(前構成)の釈明を受けて,平成26年11月27日,本件【1】行為(本件信書回収及び本件信書不交付)を国賠法上の違法とする損害賠償請求(本件請求【1】)を追加する旨の書面を提出した。 (当裁判所に顕著な事実)イ被告は,第5回口頭弁論期日(平成28年8月8日)において,原告に対し,本件【1】行為(本件信書回収及び本件信書不交付)及び本件【2】行為(本件保護室収容)の各行為を原因とする損害賠償請求権につき,消滅時効を援用するとの意思表示をした(当裁判所に顕著な事実)。 ウ本件訴訟は,第4回口頭弁論期日(平成28年5月25日)に弁論終結していたが,被告は,平成28年6月9日,前記イの消滅時効の主張・援用の必要があるとして,弁論再開の申立てを行った。弁論再開を経て,第5回口頭弁論期日において,被告が,消滅時効の主張及び前記イの時効援用を行ったところ,原告は,時機に後れた攻撃防御方法として却下を求めた。(弁論の全趣旨) 3 争点(1) 甲拘置所長による本件【1】行為(本件信書回収及び本件信書不交付)が国賠法上違法か【争点1】(2) 甲拘置所職員らによる本件【2】行為(本件保護室収容)が国賠法上違法か【争点2】(3) 甲拘置所職員らによる本件【3】行為(本件保護室収容の際の原告に対する暴行)の有無及び国賠法上の違法性【争点3】(4) 本件【1】【2】【3】行為によって原告に生じた損害額【争点4】 (5) 本件【1】行為(本件信書回収及び本件信書不交付)を国賠法上違法とする損害賠償請求権及び本件【2】行為(本件保護室収容)を国賠法上違法とする損害賠償請求権の消滅時効の起算点【争点5】(6) 被告による消滅時効の援用権行使は信義則違反か【争点6】 4 争点に対する当事者の主張(1 【2】行為(本件保護室収容)を国賠法上違法とする損害賠償請求権の消滅時効の起算点【争点5】(6) 被告による消滅時効の援用権行使は信義則違反か【争点6】 4 争点に対する当事者の主張(1) 争点1(本件信書回収及び本件信書不交付行為の違法性)について(原告の主張)ア本件信書には,本件委員会から原告に面会に行く旨が記載されていた。 甲拘置所職員は,平成22年12月8日(本件信書が交付された日)当日,本件信書を原告から取り上げた。 イ甲拘置所職員が,本件信書を取り上げて(本件信書回収),半年以上返還しない(本件信書不交付)行為は,何ら正当な理由がなく行われたものであるから,違法であることは明らかである。 被告が主張する本件委員会の守秘義務違反は,一旦本件信書の交付を認め,最終的に返還した甲拘置所の判断からして,認められないことは明らかであって,被告の主張は破綻している。 (被告の主張)ア原告は,本件信書交付の翌日である平成22年12月9日,甲拘置所職員の求めに応じて,本件信書を任意に提出したものである。 イ本件信書回収及び本件信書不交付は,次のとおり適法である。 (ア) 本件信書回収a 本件信書には,甲拘置所長の本件委員会に対する回答である回答書(以下「本件回答書」という。)の記載を修正等することなく原文のまま添付されていたから,その記述の内容は,非常勤の国家公務員に該当する本件委員会の委員長が職務上知り得た事実に該当する。そして,本件回答書には,被収容者が甲拘置所から他の刑事収容施設に移 送され,外部に出ることなく再度入所する場合に所持している物品の同所における取扱い又はこれに関する未決定の取扱いという非公知の事実が記載されており,これらの事項を原告に提示すれば,原告に対する今後の適正な処 部に出ることなく再度入所する場合に所持している物品の同所における取扱い又はこれに関する未決定の取扱いという非公知の事実が記載されており,これらの事項を原告に提示すれば,原告に対する今後の適正な処遇の実施に支障が生じ,刑事施設の警備にも影響を及ぼすおそれがあるから,実質的にも,これらの事柄を秘密として保護するに値すると認められる。 そうすると,本件委員会の委員長が本件信書を原告に送付する行為は,客観的にみて,国家公務員法100条1項前段の構成要件に該当する可能性が高いと認められ,本件信書は,「発受によって,刑罰法令に触れること」(法129条1項2号)となるおそれがある記述を含むものと認められた。 b このように,本件回答書の内容を原文のまま伝達する行為について,関係法令の趣旨に照らして,真に必要性及び相当性が認められるか否かについては疑義があり,当該行為の違法性は阻却されない可能性があったことから,甲拘置所長は,本件信書について差止め等の措置をすべきか否か検討を行う必要があると判断し,この点に関する結論が出るまでの間,原告に対し交付した本件信書を一旦回収し,原告への交付を保留することとしたものであって,かかる措置は,関係法令の趣旨に整合する合理的な対応であったというべきである。 (イ) 本件信書不交付a 本件信書を送付する行為が国家公務員法100条1項前段に該当するか否か,その違法性が阻却される場合であるか否かは,刑事施設視察委員会の制度趣旨という一般的な法制度の理解のみならず,本件信書に関連する諸事情を総合的に勘案して判断されるべき事柄である。 そこで,甲拘置所長は,本件委員会の委員長が本件信書を原告に送付する行為が国家公務員法100条1項前段に該当する行為であると 断定し,直ちに法129条に基づき本件信書 べき事柄である。 そこで,甲拘置所長は,本件委員会の委員長が本件信書を原告に送付する行為が国家公務員法100条1項前段に該当する行為であると 断定し,直ちに法129条に基づき本件信書の発受の差止めをするのではなく,まずは,定期的に開催されている本件委員会の場において,本件委員会に対し,本件信書を送付する行為の問題点を指摘した上で,本件信書を自ら撤回するよう要請することとした。 かかる判断には,合理性が認められるというべきである。 b そして,甲拘置所長は,継続的に,本件委員会に対し,本件信書を撤回するよう要請して再考を促したこともあって,最終的に原告に対し,本件信書を再度交付するまで相当の期間を要したものであるから,そのことにはやむを得ない事情があったと認められる。 (ウ) したがって,原告から本件信書を提出させて引き上げ(本件信書回収),その交付を留保した(本件信書不交付)ことは適法であり,職務上の法的義務に違反するものではないから,国家賠償法1条1項の適用上,違法とはいえない。 (2) 争点2(本件保護室収容の違法性)について(原告の主張)本件保護室収容は,そもそも,その要件を充足していたのか疑問があるばかりか,次の点で明らかに違法である。 ア医師の診察法79条5項によれば,収容者を保護室に収容した際には医師の意見を聴かなければならないとされている。保護室収容という,被収容者の生命身体に大きな影響を与える行為については,医師が直接診断すべきであり,仮に,そうでないとしても,少なくとも,看護師,准看護師等が診察すべきであり,診療録の精査等の書面審査あるいは職員からの伝聞のみによって被収容者の健康状態を判断することは許されないというべきである。 しかし,原告は,保護室収容の前後を通じて,医師はも が診察すべきであり,診療録の精査等の書面審査あるいは職員からの伝聞のみによって被収容者の健康状態を判断することは許されないというべきである。 しかし,原告は,保護室収容の前後を通じて,医師はもとより,看護師,准看護師から診察を受けたことは一切ない。 イ収容時間仮に,保護室への収容自体が適法であったとしても,原告は,保護室収容後直ちに静穏状態に戻っているから,23時間も収容する必要はなかった。 (被告の主張)本件保護室収容は,次のとおり,適法である。 ア要件の充足法は,刑務官は,被収容者が刑務官の制止に従わず,大声又は騒音を発するとき,他人に危害を加えるおそれがあるときには,刑事施設の長の命令により,その者を保護室に収容することができる(79条1項2号イロ)としている。 原告は,原告居室の窓をたたいて騒音を発し,大声を発し続けた上,矯正処遇官(看守部長)Aが非常ベルを押して通報した後も,戊統括の口頭による制止に従わず,大声を発し続けたのであるから,このような振舞いは,「刑務官の制止に従わず,大声又は騒音を発するとき」に該当する。 また,原告は,多数の被収容者が収容され日常生活を送っている原告居室において,統括矯正処遇官の口頭の制止に従わず大声を発し続け興奮状態にあったから,「刑事施設の規律及び秩序を維持するため」「特に」保護室に収容する「必要があるとき」に該当する。原告のこのような状況に照らせば,甲拘置所長の指示を待ついとまがなかったことは明らかであるから,統括矯正処遇官が,その指示を待たずに原告を保護室に収容することを決定し,その執行に着手したことは,法の規定に則った措置といえる。 したがって,本件保護室収容は適法であり,職務上の法的義務に違反するものではないから,国家賠償法1条1項の適用上 に収容することを決定し,その執行に着手したことは,法の規定に則った措置といえる。 したがって,本件保護室収容は適法であり,職務上の法的義務に違反するものではないから,国家賠償法1条1項の適用上,違法とはいえない。 イ医師の意見聴取法は,保護室への収容期間は原則として72時間以内とし,特に継続の 必要がある場合には48時間ごとに更新するが,収容の必要がなくなったときはその収容を中止するとした(79条3項,4項)上,被収容者を保護室に収容し又は期間の更新をした場合にはその健康状態について医師の意見を聴かなければならない(79条5項)としている。 医師の意見を聴く場合,規定上,医師の診察を行うことは必要とされていないから,医師は,適宜の方法によって,被収容者の健康状態を把握し,意見を述べればよいことになる。 甲拘置所長は,当時の甲拘置所医務部長であった己(以下「己医師」という。)に対し,原告の健康状態について意見聴取したところ,己医師は,原告の診療録等を精査し,医務回診時の申出状況等も確認した准看護師からの報告を受け,原告がB型肝炎に罹患し投薬治療を行っているものの,それ以外の既往もなく,特段,健康状態に留意すべき事項もないこと,保護室への収容により健康状態を著しく害するおそれがある場合に該当しないこと,処遇部門の職員から外傷等を負っていない旨の報告を受けていることから,原告を診察する必要はないと判断するとともに,保護室への収容は差し支えない旨の意見を述べた。 このように,己医師は,本件保護室収容に関し,法所定の手続を実行している。したがって,甲拘置所長が己医師の診察を経ずに述べた意見を聴いた上で本件保護室収容決定をした行為は,職務上の法的義務に違反するものではないから,国家賠償法1条1項の適用上,違法とはい 実行している。したがって,甲拘置所長が己医師の診察を経ずに述べた意見を聴いた上で本件保護室収容決定をした行為は,職務上の法的義務に違反するものではないから,国家賠償法1条1項の適用上,違法とはいえない。 ウ収容の中止法は,保護室への収容期間は原則として72時間以内とし,特に継続の必要がある場合には48時間ごとに更新するが,収容の必要がなくなったときはその収容を中止するとしている(79条3項4項)が,拘束衣使用の場合とは異なり,収容期間の上限はなく,収容の要件が備わっている限り継続して収容することができる。ところで,被収容者の精神状態は不安 定であるから,濃密な視察が必要となり,また,被収容者の動静を把握することによって収容を継続する必要性の有無を判断することが求められている。そして,被収容者を保護室へ収容した後,被収容者の動静が一時的に落ち着いたように見えることがあったとしても,これをもって直ちに保護室収容の必要性がなくなったとはいえず,「保護室への収容の必要性がなくなったとき」に該当するためには,相応の時間,当該被収容者の動静を観察した結果,法79条1項各号への該当性が薄らいだと認められることを要するというべきである。 原告は,平成23年2月21日午前11時34分,保護室に連行され,収容されたとき,極めて興奮した状態にあった。原告は,5時間経過後も職員の問い掛けに対し,語気荒く放言したり,それから1時間経過しても,保護室扉をたたきながら大声を発声していた。その後,投薬を受けて,横臥と安座とを繰り返し,同日午後9時50分頃就寝した。原告は,翌日(同月22日),朝食を摂取した後,保護室内で指を鳴らしながら徘徊を繰り返したり,シャドーボクシングをしていた。甲拘置所長は,同日午前10時36分,原告が,大声,騒音を発 分頃就寝した。原告は,翌日(同月22日),朝食を摂取した後,保護室内で指を鳴らしながら徘徊を繰り返したり,シャドーボクシングをしていた。甲拘置所長は,同日午前10時36分,原告が,大声,騒音を発することなく,職員の問い掛けに対して落ち着いた口調で返答するなど,他人に危害を加えるおそれが薄らいだものと判断し,保護室への収容を中止した。 以上のとおり,原告を保護室に約23時間収容したことは適法であり,職務上の法的義務に違反するものではない。 (3) 争点3(本件保護室収容の際の暴行の有無及び違法性)について(原告の主張)ア甲拘置所職員らは,保護室への連行の際,原告居室の前において,原告を転倒させ,うつぶせの状態にし,背中及び腰部分を5回以上蹴った後,原告の衣類をつかんで立ち上がらせ,強制的に保護室に連行した。 そして,甲拘置所職員らは,保護室の直ぐ前において,原告の両目に向 けて,催涙スプレーを約10cmの至近距離から噴射した。 イ甲拘置所職員らの上記暴行は,何らの必要性もなく行われたものであるから,違法であることは明らかである。 ウ被告は,【ア】原告が原告居室から出された際に,刑務官の腹部に頭突きをした,【イ】催涙スプレーは,原告が刑務官の左膝を蹴ったことによって,使用することとなったと主張するが,原告による上記各暴行の事実はなく,被告の主張は,被告提出の証拠(乙11,16)とも矛盾している。 そうすると,制止・制圧行為及び催涙スプレーの使用を適法とする被告の主張は,その前提事実を欠くこととなる。 (被告の主張)ア刑務官らが,原告をうつ伏せに制したが,その際,原告の背中及び腰部分を蹴るといった暴行を加えた事実は存在しない。 また,催涙スプレーは,原告の顔に向けて噴射したもので,ことさら,目 主張)ア刑務官らが,原告をうつ伏せに制したが,その際,原告の背中及び腰部分を蹴るといった暴行を加えた事実は存在しない。 また,催涙スプレーは,原告の顔に向けて噴射したもので,ことさら,目に向けて噴射していない。 イ甲拘置所職員の措置は,次のとおり,制止措置として適法であった。 (ア) うつ伏せに制した措置a 法は,刑務官は,被収容者が自身を傷つけ若しくは他人に危害を加え,逃走し,刑事施設の職員の職務の執行を妨げ,その他刑事施設の規律及び秩序を著しく害する行為をしたり,しようとしたりする場合には,合理的に必要と判断される限度で,その行為を制止し,この収容者を拘束したり,その行為を制止するため必要な措置を執ることができる(77条1項)としている。 b 原告は,矯正処遇官(看守部長)Aが原告居室の扉を開けた際,出室するのと同時に大声を発しながら看守らに詰め寄り,刑務官(看守)らが原告の左右の腕を抱えたのに対し,身体を左右に激しく振って暴 れ,一人の刑務官の腹部に頭突きをしたのであるから,他人に危害を加え,刑事施設職員の執行を妨げ,規律及び秩序を害する行為に該当するから,その行為を制止する必要があった。そして,原告が暴れたり危害を加えることを防止し,保護室に連行し収容する目的で,原告をその場でうつ伏せにし,手錠をすることは合理的に必要と判断される措置であるといえる。 したがって,原告を制止させるためにうつ伏せに制し,手錠をすることは適法であり,職務上の法的義務に違反するものではないから,国家賠償法1条1項の適用上,違法とはいえない。 (イ) 催涙スプレーの使用a 法は,刑務官は,被収容者が他人に危害を加え,その他刑事施設の規律及び秩序を著しく害する行為をしようとする場合には,合理的に必要とされる限度で, 法とはいえない。 (イ) 催涙スプレーの使用a 法は,刑務官は,被収容者が他人に危害を加え,その他刑事施設の規律及び秩序を著しく害する行為をしようとする場合には,合理的に必要とされる限度で,その行為を制止し,その他その行為を抑止するため必要な措置を執ることができる(77条1項),その措置に必要な警備用具について法務省令で定める(77条3項)とする。刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則は,必要な警備用具として,催涙スプレー(36条6号)を挙げている。催涙スプレーは,人の生理的機能に支障を及ぼすものであるが,それはごく一時的に視力の活動に若干の障害を与える程度のものであって,後遺障害を残すものではない。 b 原告は,刑務官(看守)らに制止され,手錠をされて保護室に連行される際にも,刑務官をにらみ付けながら,語気荒く暴言を吐いたり,刑務官の左膝を蹴ったりしている。これは,他人に危害を加え,刑事施設職員の執行を妨げ,刑事施設の規律及び秩序を著しく害する行為といえる上,複数の刑務官に囲まれ,手錠を使用されてもなお,暴言を吐いたり左膝を蹴ったりしているので,原告の他人に危害を加える 行為を阻止する目的を達するためには全身の力を弱める必要があったといえるから,催涙スプレーを目的達成のために合理的に必要と判断される措置といえる。 したがって,原告に対し,催涙スプレーを使用したことは適法であり,職務上の法的義務に違反するものではないから,国家賠償法1条1項の適用上,違法とはいえない。 (4) 争点4(原告に生じた損害の額)について(原告の主張)ア原告は,本件【1】行為~本件【3】行為により多大な精神的肉体的苦痛を被った。この苦痛を慰謝するに足りる金額は合計150万円を下らない。 イ被告は,本件【1】行為について (原告の主張)ア原告は,本件【1】行為~本件【3】行為により多大な精神的肉体的苦痛を被った。この苦痛を慰謝するに足りる金額は合計150万円を下らない。 イ被告は,本件【1】行為について,原告は一旦は本件信書の交付を受け,これを読むことができたのであるから,原告に損害はないと主張するが,原告は本件信書の一字一句を記憶していたわけでもないし,その内容を改めて確認したいと思っても,それができない状態が長く続き,強い怒りと不安感に苛まれたのであって,その精神的損害は明らかである。 (被告の主張)ア争う。 イ本件【1】行為については,金銭をもって慰謝すべき損害を生じない。 すなわち,信書とは,特定人から特定人に当てられた意思や事実などを伝達するための文書図画であるところ,原告は,本件信書の交付を一旦受けているのであるから,その時点で原告と差出人である本件委員会の委員長との間で意思伝達は完了している。そして,原告は,その内容を読んだものと認められるから,原告には,読了した本件信書を取り上げられたからといって,金銭をもって慰謝すべき損害は生じていないというべきである。 (5) 争点5(消滅時効の起算点)について(被告の主張)ア本件【1】行為(本件信書回収及び本件信書不交付)を国賠法上違法とする損害賠償請求権について(ア) 原告は,平成23年2月21日には本件信書の返還を求めているところ,甲拘置所長が原告に対し本件信書を返還した同年7月15日の時点で,甲拘置所長のした本件信書回収及び本件信書不交付の各行為によって損害が生じたことを現実に認識した。 さらに,原告は,本件信書について,弁護士からのアドバイスも受けた後に,丁処遇部長に対して大声を上げて,本件信書の返還されないことの不当を訴えて,本件保護 って損害が生じたことを現実に認識した。 さらに,原告は,本件信書について,弁護士からのアドバイスも受けた後に,丁処遇部長に対して大声を上げて,本件信書の返還されないことの不当を訴えて,本件保護室収容後も訴え続けていたのであるから(乙16,17,原告本人),平成23年2月21日には,本件信書回収及び本件信書不交付が違法性の認識も有していたと認められる。 したがって,原告は,同日に,本件信書回収及び本件信書不交付行為について,「損害及び加害者を知った」ものである。 (イ) そして,本件【1】行為による損害賠償請求を行う旨の原告書面が裁判所に提出されたのは平成26年11月27日であるから,既に3年を経過している。 イ本件【2】行為(本件保護室収容)を国賠法上違法とする損害賠償請求権について(ア) 原告は,本件保護室収容が行われた平成23年2月21日には,保護室収容に当たり医師の診察を受けていないことを認識したのであるから,甲拘置所長のした本件保護室収容行為によって損害が発生したことを現実に認識した。 したがって,原告は,平成23年2月21日に,本件保護室収容行為について,「損害及び加害者を知った」ものである。 (イ) そして,本件【2】行為による損害賠償請求を行う旨の原告書面が裁判所に提出されたのは平成26年8月20日であるから,既に3年を経過している。 (原告の主張)ア時機に後れた攻撃防御方法に当たり,却下されるべきであること被告は,原告が本件【1】【2】行為による損害賠償を追加的に請求した後も,裁判所作成の主張整理に異議を述べることもなく,更に1年以上経過した弁論終結までに,時効について何らの主張をしてこなかった。 したがって,消滅時効の主張・援用は時機に後れた攻撃防御方法として却下され 所作成の主張整理に異議を述べることもなく,更に1年以上経過した弁論終結までに,時効について何らの主張をしてこなかった。 したがって,消滅時効の主張・援用は時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。 イ消滅時効期間は経過していないこと(ア) 本件【1】行為(本件信書回収及び本件信書不交付)について原告が,本件訴訟の当初,本件信書を取り上げ,半年以上にわたり交付しなかった行為を違法行為として主張しなかったのは,本件信書が取り上げられ,半年以上にわたり交付されなかった経緯及び理由が全く分からなかったためである。 その後,平成26年4月25日付けで,被告第1準備書面が提出され,同準備書面において本件信書が取り上げられるなどした経過が詳細に主張され,その理由も明らかとなった。原告は,同準備書面の内容を知った平成26年4月25日の時点において,本件信書を取り上げ,半年以上にわたり交付しなかった行為には理由がなく,違法な行為であることを知ったのである。 したがって,原告が本件信書を取り上げ,半年以上にわたり交付しなかった行為に係る「損害及び加害者を知った」日は上記平成26年4月25日であり,追加的請求(同年11月27日)までに3年を経過していない。 (イ) 本件【2】行為(本件保護室収容)について原告が,本件訴訟の当初,医師の診察を経ずに本件保護室収容を違法行為として主張しなかったのは,その当否はともかく,収容手続の違法性について不明であったからである。 その後,平成26年4月25日付けで,被告第1準備書面が提出され,同準備書面において保護室収容の経過が詳細に主張され,甲拘置所における原告の診療録(乙14)も提出されて,同診療録には「保護室収容差し支えなし」との記載があり,己医師の押印もあ 準備書面が提出され,同準備書面において保護室収容の経過が詳細に主張され,甲拘置所における原告の診療録(乙14)も提出されて,同診療録には「保護室収容差し支えなし」との記載があり,己医師の押印もあったことが判明した。 ところが,原告は,保護室収容前に医師の診察を受けたことがなかった。 原告は,同準備書面の内容を知った平成26年4月25日の時点において,保護室への収容が,医師の診察を経ていないにも関わらず,これを経たとしてされた違法な行為であると知ったのである。 したがって,原告が医師の診察を経ずに保護室へ収容した行為に係る「損害及び加害者を知った」日は,上記平成26年4月25日であり,本件【2】行為の追加的請求(同年8月20日)までに3年を経過していない。 (6) 争点6(時効援用権行使の信義則違反等)(原告の主張)前記(5)〔原告の主張〕記載の訴訟経過によれば,被告は,時効援用権を放棄したとみるのが相当であり,少なくとも,時効援用権の行使は訴訟上の信義則に違反する。 (被告の主張)被告が消滅時効援用権の不行使を前提とした訴訟活動を行った事実は存在しないことから,被告による消滅時効の援用が信義則に反するとはいえない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 (1) 前記第2の2(前提事実)と後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実関係が認められる。 ア本件信書の発出,交付,回収から再交付に係る経過(ア) 本件委員会は,原告の国選弁護人が平成22年4月5日付けで行った改善申入れに関し,甲拘置所長に対し,同年10月25日付けで,甲拘置所に収容されていた者が,再逮捕され,留置施設などで引き続き勾留され,外部に出所することなく,甲拘置所に移送されて甲拘置所に再入所した者について,再入所にあたり,持ち込もう 0月25日付けで,甲拘置所に収容されていた者が,再逮捕され,留置施設などで引き続き勾留され,外部に出所することなく,甲拘置所に移送されて甲拘置所に再入所した者について,再入所にあたり,持ち込もうとした物品が甲拘置所在所中に購入した物であることが確認されれば,その持込みを認めるべきであると考える旨を記載した意見書(以下「本件意見書」という。)を提出した。 甲拘置所長は,本件意見書に対し,同年11月19日付けで,甲拘置所から留置施設に移送となり,その後甲拘置所に移送となった場合であっても,甲拘置所において購入したものであると断定し得る物品については,今後,その使用を認める余地を検討したいと考えている旨を記載した本件回答書を提出した。 本件委員会は,原告に対し,「貴殿からの申出に対する施設からの回答について(通知)」と題する書面(本件信書)を発した。本件信書には,本件意見書及び本件回答書の内容をそれぞれ原文のまま転記された別紙が添付されていた。 (乙4~6)(イ) 本件信書は,平成22年12月8日,甲拘置所に到達した。庚統括矯正処遇官(看守長,以下「庚統括」という。)は,本件信書の検査を行い,本件信書には,本件回答書の内容がそのまま転記されていることを確認した上で,専決処理として,原告に対し,本件信書の受信を許し,同日,これを交付した。原告は,本件信書を複数回にわたって読み, その内容を認識した。(甲1,乙7,38,40,41,原告本人)(ウ) ところで,本件委員会は,平成22年12月7日付けで,当時甲拘置所に収容されていた死刑確定者に対しても同様に,同人からの改善申入れについての本件委員会の意見書及びこれに対する甲拘置所長の回答書(以下「別件回答書」という。)の記載内容をいずれも原文のまま転記した別紙が添付 ていた死刑確定者に対しても同様に,同人からの改善申入れについての本件委員会の意見書及びこれに対する甲拘置所長の回答書(以下「別件回答書」という。)の記載内容をいずれも原文のまま転記した別紙が添付された通知書(以下「別件信書」という。)を発信した。 辛次席矯正処遇官(以下「辛次席」という。)は,別件信書について検査(法140条)を行った際,本件委員会委員長が,同死刑確定者に対し,別件回答書の内容が原文のまま転記された別件信書を送付することは,本件委員会委員長が職務上知ることのできた秘密を漏らす行為(国家公務員法100条1項前段,109条12号)に該当し,したがって,別件信書の受信を法141条,129条1項2号に基づき差し止めるべきではないかと考えた。そこで,辛次席は,同月9日,別件回答書の記載内容が国家公務員法100条1項前段の「秘密」に該当するか否かを照会し,その回答があるまでは,同死刑確定者に対し,別件信書の受信を許すか否かの判断を留保することとした。 (エ) そうしたところ,辛次席は,本件信書についても,別件信書と同様,本件回答書の内容が原文のまま記載されていた旨の報告を受けた。 そこで,辛次席は,庚統括に対し,本件信書を原告から回収するよう指示した。 庚統括の指示を受けた矯正処遇官(副看守長)が,平成22年12月9日,原告に対し,本件信書の交付については取扱いを検討する必要が生じたことから,これを提出するよう申し向けたところ,原告は,本件信書が程なく返却されるものと考えて,本件信書を提出した。 庚統括は,同日,甲拘置所長に対し,別件信書及び本件信書の交付を 留保した経緯に係る報告書を提出し,同報告書において,辛次席が上記のとおり行った照会に対する回答を待って,改めて別件信書及び本件信書の取扱いを検討する 対し,別件信書及び本件信書の交付を 留保した経緯に係る報告書を提出し,同報告書において,辛次席が上記のとおり行った照会に対する回答を待って,改めて別件信書及び本件信書の取扱いを検討することとしたい旨を報告した。 (乙7,18,38,47,証人辛)(オ) 甲拘置所長は,平成23年1月14日付けで,甲矯正管区長に対し,別件信書及び本件信書の取扱いについて,本件委員会に対して別件信書及び本件信書の撤回を求め,本件委員会が撤回要求に応じない場合には,文書により抗議した上,いずれも信書として交付することとし,各信書の交付に当たっては,別件信書については,別件回答書の記載内容の一部を法141条,120条1項3号に基づき抹消し,本件回答書については,特に抹消等することなく,原文のまま交付することとしたい旨の内議を諮り,同月20日,甲矯正管区長から承認を得た。(乙31,32,38,47,証人辛)(カ) 甲拘置所長は,平成23年1月21日,平成22年度第6回本件委員会において,本件委員会に対し,本件信書の撤回を求めた。しかし,本件委員会は,本件信書において取り上げた問題は施設全体の運営に関する事項であり,その結果を被収容者個人に通知することは問題がないとして,撤回に応じず,甲拘置所長に対し,速やかに本件信書は原告に,別件信書は上記死刑確定者に,それぞれ交付することを求めた。(乙33)(キ) 原告は,平成23年2月21日,丁処遇部長を含む甲拘置所職員らに対し,本件信書を返すこと等を求めて大声を発した。駆けつけた戊統括は,原告に対し,静かにするよう指示をしたが,原告がこれに従わなかったので,原告を保護室へ収容することとした。甲拘置所長は,同日午前11時34分から同月22日午前10時36分までの間,原告を本件保護室へ収容した(なお にするよう指示をしたが,原告がこれに従わなかったので,原告を保護室へ収容することとした。甲拘置所長は,同日午前11時34分から同月22日午前10時36分までの間,原告を本件保護室へ収容した(なお,本件保護室収容の経緯は,後記イに詳述 する。)。 (ク) 甲拘置所長は,平成23年3月29日,平成22年度第7回本件委員会において,本件委員会に対し,本件信書の撤回を求めたが,本件委員会は,撤回に応じない旨の回答を維持した。 さらに,甲拘置所長は,同年7月5日に開催された平成23年度本件委員会においても,改めて本件信書の撤回を求めたが,本件委員会は,本件信書をそのまま交付するよう要請するのみで撤回には応じなかった。 (乙35~38,41,47,証人辛)(ケ) 平成23年7月14日,原告を懲役3年6月に処する旨の判決が確定した。 甲拘置所長は,同月15日,本件信書を原告に再交付した。 原告は,同年8月1日,甲拘置所から甲刑務所に移送された。 イ保護室収容の経緯(ア) 原告は,平成22年12月9日に本件信書回収以降,甲拘置所職員に対し,複数回にわたり,本件信書の返還を求めたが,その交付を受けることができず,不満を募らせていた。 原告は,国選弁護人との接見の際にも,本件信書について相談したところ,弁護士からも『君の言うとおりだから,言いたいことは黙っておらず,やいのやいの言いなさい』との助言を得て,所長や処遇部長の名前,特徴も教えてもらった。(乙17)(イ) 原告は,平成23年2月21日午前11時28分頃,原告居室(第6舎3階333号)の前を丁処遇部長が通りかかったのを認め,同人に対し,大声で,「おい,こら,待たんかい。」と怒鳴って,本件信書が交付されないことについて抗議を始めた。 そこで,同処遇部長に同 6舎3階333号)の前を丁処遇部長が通りかかったのを認め,同人に対し,大声で,「おい,こら,待たんかい。」と怒鳴って,本件信書が交付されないことについて抗議を始めた。 そこで,同処遇部長に同行していた矯正処遇官(看守部長)Aは,原告に対し,静かにするよう指示したが,原告は,この指示に従わず,居 室の窓の前に立ち,「やかましいんじゃー。上の人間呼べ言うとるやろー。」などと大声を発し続けた。そのため,同矯正処遇官は,同日午前11時30分頃,非常ベルを押して通報した。この通報を受け,戊統括ほか十数名の刑務官が,原告の居室前に臨場し,計15名程度の刑務官らがその場に居合わせることとなった。 戊統括は,「視察委員会からの手紙返せ。」「何で視察委員会からの手紙返してくれへんねん。」などと大声を発し続けていた原告に対し,静かにするよう指示した。しかし,原告は,この指示に従うことなく,なおも大声を発し続け,興奮状態にあった。そこで,同統括は,刑務官らに対し,原告の保護室収容を指揮した。 (甲1,乙9~13,16の1~3,17,証人戊,原告本人)(ウ) 矯正処遇官Aが原告居室の扉を開けたところ,原告は,居室を出るのと同時に「手紙返せ言うとんねん。」と大声を発しながら,扉の前にいた刑務官(看守)らに詰め寄ってきた。そこで,刑務官らは,原告の左右の腕をそれぞれ抱えて原告を連行しようとしたが,原告が「何触っとんねん。こら。」などと発言しながら,身体を左右に激しく振って抵抗し,これにより原告の頭部が上記刑務官の身体に触れたりしたため,刑務官3名が,原告をその場にうつ伏せにして制止した。戊統括は,原告の状況を見て,手錠を使用する必要があると認め,原告の両手を後ろにして手錠をするよう指示した。指示を受けた刑務官らは,原告の上半身の動きを 名が,原告をその場にうつ伏せにして制止した。戊統括は,原告の状況を見て,手錠を使用する必要があると認め,原告の両手を後ろにして手錠をするよう指示した。指示を受けた刑務官らは,原告の上半身の動きを制止し,矯正処遇官(看守部長)Bが原告の両手を後ろにした状態で手錠を使用した後,原告を立ち上がらせ,刑務官らが原告の左右の腕をそれぞれ抱えて原告を連行した。臨場した上記15名程度の刑務官らは,上記刑務官らが原告を連行するのに随行していた。原告は,連行されている間,複数回にわたり,右腕を把持している刑務官の方を見ながら,「痛い。」と発言し,その外にも,保護室へ連行することや, 本件信書が返還されないことに対し抗議する趣旨の発言をしていた。 刑務官らが原告を保護室(第7舎1階)の付近まで連行した頃,原告は,原告の右手を把持していた刑務官をにらみつけながら,「お前,こら,きっちりいわすぞ。おーこら。」と発言し,直後,右足で,同刑務官の左足付近を蹴り上げた。このような原告の状況を受けて,戊統括は,同日午前11時34分頃,原告の顔面に催涙スプレー(内容液が素早く揮発して呼吸器に作用し被使用者を激しく咳き込ませ,さらにカプサイシンの作用により目等の粘膜や皮膚に激しい痛み刺激を与えて,被使用者の全身の力を弱める警備用具であり,その使用により後遺障害を生じさせるおそれはないが,その効果は30~50分程度持続する。)を1回約1秒間噴射した。原告は,催涙スプレーを噴射された後は,咳き込み,抗議の声も小さくなるなど,全身の力及び抵抗の勢いが弱まった様子であった。また,周囲の刑務官らも,催涙スプレーから噴射された煙を吸い込んだため,一様に咳き込んだ。 戊統括は,そのような中で,同日午前11時34分,原告を保護室へ収容し,同日午前11時36分,保護 った。また,周囲の刑務官らも,催涙スプレーから噴射された煙を吸い込んだため,一様に咳き込んだ。 戊統括は,そのような中で,同日午前11時34分,原告を保護室へ収容し,同日午前11時36分,保護室内で原告をうつ伏せにして手錠の使用を中止し,制止を続けたまま,原告が立ちあがった後に刑務官らへ向かってくるのを防止するため,はいていたズボンをずり下げさせた上で,制止を解き,刑務官らを保護室から退室させた。 戊統括は,原告を保護室に収容した直後,原告に対し,保護室内の洗面所で洗顔するよう指示し,原告は,洗面所で洗顔した。 (甲1,乙9~13,16の1~3,17,48,証人戊,原告本人)(エ) 甲拘置所長は,平成23年2月21日,己医師に対し,原告の健康状態について意見を聴いた。己医師は,甲拘置所医務部所属の准看護師に対し,原告の既往歴等についての報告を求めた。准看護師は,己医師に対し,診療録を参照しながら,原告はB型肝炎にり患していたが, それ以外の既往歴については診療録に記載がないことから,特段,原告の健康状態に留意すべき事項もなく,保護室収容により原告の健康状態を著しく害するおそれがある場合には該当しない旨を報告した。己医師は,准看護師の報告を受けて,原告を保護室へ収容することは差し支えない旨の意見を述べ,診療録及び第11号視察表(乙9)にその旨のゴム印を押した上,押印した。(乙9,14,19,45)(オ) 原告は,平成23年2月21日午後4時34分頃,甲拘置所職員から「大丈夫か。」と問いかけられたのに対し,「痛いわ。」と語気荒く放言した。また,原告は,同日午後5時28分,保護室扉を叩きながら,「おやっさーん。ちょっとー。」と大声を発し,同日午後5時31分,「おやっさーん。」と大声を発しながら保護室扉を叩いた。また 気荒く放言した。また,原告は,同日午後5時28分,保護室扉を叩きながら,「おやっさーん。ちょっとー。」と大声を発し,同日午後5時31分,「おやっさーん。」と大声を発しながら保護室扉を叩いた。また,原告は,同月22日午前9時6分頃には,保護室中央付近でシャドーボクシングをした。甲拘置所長は,原告が,同日の朝食後から,大声及び騒音を発することなく,刑務官の問い掛けに対しても落ち着いた口調で返答するなど,精神状態が平静に復し,他人に危害を加えるおそれが薄らいだと判断し,同日午前10時36分,原告の保護室収容を中止した。 (乙13,20~22)(2) 事実認定の補足説明ア本件信書回収時の説明について原告は,本件信書回収の理由について,甲拘置所職員からは何らの説明を受けていないと主張し,その旨の供述を行う。 しかしながら,提出すべき理由について何らの説明もないのに本件信書を提出したというのは不自然である一方,甲拘置所職員(矯正処遇官)が,本件信書の提出を求めるにあたり,あえて原告に虚偽の理由を述べたとまで積極的に認めるに足りる証拠はない。 もっとも,当該甲報告書(乙18)によっても,同人が本 件信書回収の理由を詳細にわたり説明したとは認めることができず,そのため,原告としては,本件信書が程なく返還されるものと誤認したものと推認される。 イ保護室への連行の際の甲拘置所職員による暴行の有無について原告は,原告居室前で取り押さえられた際,甲拘置所職員らから,うつ伏せにされて背中や腰部を5回以上殴打あるいは蹴りつけられるという暴行を受けた旨主張し,これに沿う供述をする。 しかしながら,原告が当時の居室から保護室へ収容されるまでの一連の経過を撮影した映像(乙16の1~3。以下「本件カメラ映像」という。)をは るという暴行を受けた旨主張し,これに沿う供述をする。 しかしながら,原告が当時の居室から保護室へ収容されるまでの一連の経過を撮影した映像(乙16の1~3。以下「本件カメラ映像」という。)をはじめとする本件全証拠を精査しても,臨場した刑務官らが,原告を保護室へ連行するために取り押さえるに当たり,制止のため合理的に必要な範囲を超えて,原告の背中又は腰部を殴打し,あるいは蹴りつけるといった暴行を加えたとは認められない。原告が,うつ伏せにされて制止される中で,刑務官らから押さえつけられるなどしたのを,殴打され,あるいは蹴りつけられたように感じた可能性は否定できないが,同人の供述内容は,客観的な本件カメラ映像の記録と矛盾しており,信用できず,他に原告の主張を認めるに足りる証拠もない。 ウ保護室へ連行中の原告の甲拘置所職員に対する暴行の有無について(ア) 被告は,原告が,原告居室から出されて両腕を把持された際,右腕を把持していた刑務官(看守)に対し,頭突きをするという暴行を加えた旨主張し,証人戊はこれに沿う供述をする。他方,原告は,被告主張の暴行を加えた事実を否認し,原告本人は同旨を供述する。 本件カメラ映像及び原告の右腕を把持した刑務官の報告書(乙11)によれば,確かに,原告は,保護室へ連行するために居室から出され,両腕を把持された際に左右に身をよじるなどし,そのため,上記看守の身体に,原告の頭部等が触れていることが見受けられる。 しかしながら,本件カメラ映像によっても,原告は,身体を取り押さえられるのに抵抗し,これを振りほどくために身をよじるなどしていることが窺われ,上記刑務官に対し,殊更に頭突きをする意図のもとで身体を動かしていたものとは見受けられない。上記刑務官自身,報告書(乙11)において,原告の上記動静 ほどくために身をよじるなどしていることが窺われ,上記刑務官に対し,殊更に頭突きをする意図のもとで身体を動かしていたものとは見受けられない。上記刑務官自身,報告書(乙11)において,原告の上記動静について,「特に,暴行の意図を持って接触したというよりは,つかまれるのを免れるために激しくもがき暴れたように見受けられた。」と報告している。 以上によれば,原告は,上記刑務官らから制圧されたのに抵抗して身をよじるなどし,これにより原告の頭部が上記刑務官の身体に触れたことが認められるものの,意図的に頭突きをしたとまで認めるに足りる証拠はない。 (イ) 次に,被告は,原告が,保護室へ連行される際,同人の右腕を把持していた刑務官に対し,右足で蹴り上げる暴行を加えた旨主張し,他方,原告は被告主張の暴行の事実を否認し,原告本人は同旨を供述する。 本件カメラ映像によれば,原告は,平成23年2月21日午前11時34分頃,右腕を把持している刑務官の方を見ながら,右足を同人の左足付近に向けて振り上げているものと認められる。このような原告の動静は,通常の歩行に伴う動きとは明らかに異なるものであり,原告が上記看守に視線を向けながら右足を振り上げていることからしても,原告は,上記刑務官に対し,蹴りつける意図で右足を振り上げたものと認めるのが自然である。原告自身,後日,保護室収容に係る調査の際,上記看守を右足で蹴ったことを認める供述をしている(乙17。なお,原告は,同供述調書の上記供述部分が偽造ないし捏造されたものである旨供述するが,これを認めるに足りる証拠はない。)。 以上によれば,原告は,保護室へ連行される際,右腕を把持していた刑務官に対し,右足で同人の左足付近を蹴り上げる暴行を加えたものと 認められる。 2 本件請求【1】(本件信書回収 )。 以上によれば,原告は,保護室へ連行される際,右腕を把持していた刑務官に対し,右足で同人の左足付近を蹴り上げる暴行を加えたものと 認められる。 2 本件請求【1】(本件信書回収及び本件信書不交付を国賠法上違法とする損害賠償請求)について(1) 本件信書回収及び本件信書不交付の違法性(争点1)についてア法134条は,未決拘禁者に対し,同法及び刑事訴訟法の定めるところにより発受が禁止される場合を除き,原則として信書の発受を許すものと規定する。その趣旨は,信書の発受が表現の自由に関わる営みであることに鑑み,刑事施設の運営上支障を来すことその他の事由により特に法律上これを禁止すべき場合を除いては,未決拘禁者に対し,信書の発受の自由を保障する点にあるものと解される。 そして,前記1の認定事実によれば,辛次席は,本件委員会委員長が本件回答書の記載内容が原文のまま転記された本件信書を原告に交付する行為が,国家公務員法100条1項前段の「秘密」を漏示する行為に該当する可能性があるため,当該行為によって「刑罰法令に触れる結果を生ずるおそれがあるとき」に該当する可能性があることから,原告に一旦受信を許して交付した本件信書の提出を求め,任意の提出を受けて回収したものであり,さらには,本件信書の記載によれば,未だ検討中の甲拘置所の管理運営方針を公にし,又は特定の被収容者のみに明らかにすることは,甲拘置所の規律及び秩序を維持する上で望ましくないと考え,法129条1項1号ないし3号のいずれかに該当する可能性を検討すべきであると考えたことが認められる。 しかしながら,甲拘置所長は,一旦,原告に本件信書の受信を許しているのであるから,同処分を事後的に覆す法的根拠はなく,本件信書回収は,後の行政処分を予定するなどの事情もなく行われ が認められる。 しかしながら,甲拘置所長は,一旦,原告に本件信書の受信を許しているのであるから,同処分を事後的に覆す法的根拠はなく,本件信書回収は,後の行政処分を予定するなどの事情もなく行われたものであって,法的根拠に欠けるものであったといわざるを得ない。 イそうすると,本件信書回収及び保管は原告の同意のもと許容されていた にすぎないというべきであるところ,原告は,遅くとも,本件保護室収容がされた平成23年2月21日には,本件信書が返還されない状況に異議を述べ,その返還を求めていたのだから,その同意は失われており,その時点においてはもはや,本件信書を再度交付しない法的根拠はなく,本件信書不交付のうち,原告が本件信書の返還を求めた日以後も本件信書の交付を留保し続けた行為は,甲拘置所長の職務上の義務に違背するものであり,国家賠償法1条1項の適用上,違法な行為であるといわなければならない。 (2) 消滅時効の起算点(争点5)についてアまず,原告は,被告の消滅時効の主張・援用は時機に後れた攻撃防御方法に当たることから,却下すべきであると主張する。 なるほど,原告が本件請求【1】を追加的に行った後も,被告は,弁論終結までの約1年半にわたり消滅時効の抗弁を主張せず,これを主張しなかった理由も明らかにはしないが,その抗弁事実は時効消滅であって,争点は,後記のとおり,民法724条(国賠法4条)の「損害及び加害者を知った時」の解釈・当てはめにとどまり,そのための審理には,弁論再開を要したものの,当初の判決言渡し予定期日からの遅延は約2か月であって,控訴審における審理をも勘案すれば,訴訟の完結を遅延させるものとは認められない。 イそこで,消滅時効の起算点について判断するに, 民法724条にいう「損害及び加害者を知った時」 2か月であって,控訴審における審理をも勘案すれば,訴訟の完結を遅延させるものとは認められない。 イそこで,消滅時効の起算点について判断するに, 民法724条にいう「損害及び加害者を知った時」とは,被害者において,加害者に対する損害賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に損害及び加害者を知った時を意味する(最高裁昭和45年(オ)第628号同48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁参照)。 この点,原告は,本訴係属後の平成26年4月18日に被告から本件信書回収及び本件信書不交付の経緯に関する事実を記載した準備書面を提出 されるまで,前記(1)ア判示の本件信書回収及び本件信書不交付の理由,前記1に認定の甲拘置所における検討状況,本件委員会との間でやり取り及びその内容等を知ることはできなかったと主張し,そのこと自体は原告の主張するとおりであったものと推察される。 しかしながら,前記1の認定事実によれば,原告は,本件信書回収の際,すぐ返してくれると考えて素直に本件信書を提出したのに,その後本件信書が返還されなかったため,担当者に対して何度も抗議したばかりか,弁護士にも相談の上,「君の言うとおりだから,言いたいことは黙っておらず,やいのやいの言いなさい」との助言とともに,甲拘置所長や処遇部長の名前や特徴を教えられて,その巡回の機会を待って,平成23年2月21日には処遇部長に対し,「手紙を返せ」と訴えていたこと,これを契機に本件保護室収容に至ったが,その間も本件信書を返還するよう何度も抗議していたこと,結果的には同年7月15日に本件信書が原告に返還されたことが認められ,これらの事実によれば,原告は,甲拘置所長による本件信書不交付には法的な根拠がなく,原告において,訴訟を提起すること ていたこと,結果的には同年7月15日に本件信書が原告に返還されたことが認められ,これらの事実によれば,原告は,甲拘置所長による本件信書不交付には法的な根拠がなく,原告において,訴訟を提起することが事実上可能な程度に,本件信書不交付の違法性を認識していたものと認められる。 ウしたがって,本件信書不交付を国賠法上の違法とする被告に対する損害賠償請求権の消滅時効は,遅くとも,平成23年7月15日から進行するというべきであり,原告が本件訴訟において本件請求【1】を追加請求したときには,同損害賠償請求権について3年の消滅時効期間が経過していたものと認められる。 (3) 時効援用の信義則違反等(争点6)について原告は,本件訴訟の経過に照らせば,被告の時効援用権は放棄されたものであるか,少なくともその行使は信義則に反すると主張するが,原告指摘の事実は,それによって,被告の時効援用権が放棄されたとか,その行使が信 義則に反すると評価するに足りるものとは認められない。 (4) 以上によれば,本件【1】行為による損害賠償請求権は,時効によって消滅したものと認められることから,その余の点を判断するまでもなく,本件請求【1】は理由がない。 3 本件請求【2】(本件保護室収容を国賠法上違法とする損害賠償請求)について(1) 本件保護室収容の違法性(争点2)についてア保護室収容の要件の充足前記1の認定事実のとおり,原告は,平成23年2月21日午前11時30分頃,原告居室内から,怒号を発して,丁処遇部長を呼び止め,その後も大声を発し続けていたことから,戊統括を含む15人ほどの刑務官が駆け付け,さらに戊統括の制止を受けたにも関わらず,「視察委員会からの手紙返してくれ。」などと大声を発し続けていたというのであるから,法79条1項2号 いたことから,戊統括を含む15人ほどの刑務官が駆け付け,さらに戊統括の制止を受けたにも関わらず,「視察委員会からの手紙返してくれ。」などと大声を発し続けていたというのであるから,法79条1項2号イの「刑務官の制止に従わず,大声又は騒音を発」し,「施設の規律及び秩序を維持するため特に必要があるとき」に該当し,かつ,甲拘置所長の命令を待ついとまはなかったものと認められる。したがって,戊統括が,同日11時30分頃,原告を保護室へ収容する旨決定した行為は,法79条1項2号,2項に照らし,適法なものであったと認められる。 イ医師の診察を経ていない点について(ア) 刑事施設の長は,被収容者を保護室に収容した場合には,速やかに,その被収容者の健康状態について,刑事施設の職員である医師の意見を聴かなければならないが(法79条5項),法は医師が意見を述べるに当たっての診察の要否について規定するところはなく,「刑務官の職務執行に関する訓令」(矯成訓第3258号)が,「医師が,意見を述べるに当たっては,自らが被収容者等の健康状態を直ちに把握できる 場合を除き,看護師又は准看護師にその状況を報告させ,その報告を受けて,診察の要否を判断するもの」としていることは,法79条5項の趣旨に照らし,相当であって,医師が意見を述べるに当たって,必ず,被収容者を診察することが必要であるとまで解することはできない。 (イ) そして,前記1の認定事実のとおり,己医師は,准看護師に対して原告の既往歴等についての報告を求め,准看護師から,原告はB型肝炎にり患していたが,それ以外の既往歴については診療録に記載がないことから,特段,原告の健康状態に留意すべき事項もなく,保護室収容により原告の健康状態を著しく害するおそれがある場合には該当しない旨の報告を受けて, が,それ以外の既往歴については診療録に記載がないことから,特段,原告の健康状態に留意すべき事項もなく,保護室収容により原告の健康状態を著しく害するおそれがある場合には該当しない旨の報告を受けて,甲拘置所長に対し,原告を保護室へ収容することは差し支えない旨の意見を述べたというのであるから,適切な方法により原告の健康状態を把握した上で上記意見を述べているものというべきであって,その手続に違法な点があるとは認められない。 ウ収容時間について(ア) 前記1の認定事実によれば,原告は,保護室へ収容される直前,看守を右足で蹴り上げる暴行を加えるなど,強い興奮状態にあり,かつ,保護室収容から約6時間が経過した平成23年2月21日午後5時28分頃にも,保護室扉を叩きながら大声を挙げるなどしていたが,その後,就寝し,翌日(同月22日)の朝食後からは,大声や騒音を発することなく,職員の問いかけに対し落ち着いた口調で返答するなどしたことから,甲拘置所長は,同日午前10時36分,保護室への収容の必要がなくなったものと判断し,保護室収容を中止したことが認められる。 (イ) 刑事施設の長は,保護室への収容の必要がなくなったときは,直ちにその収容を中止させなければならないところ(法79条4項),前記(ア)のような原告の状況によれば,相応の経過観察期間を経て,収容の必要性の有無を判断することはやむを得ないものであって,甲拘置 所長が,平成23年2月22日午前10時36分まで,保護室収容を中止しなかったことが違法とはいえない。 (2) そうすると,本件請求【2】は,その余の点を判断するまでもなく,理由がない。 4 本件請求【3】(本件保護室収容の際の暴行を国賠法上違法とする損害賠償請求)について(1) 本件保護室収容の際の暴行の有無及び違法 求【2】は,その余の点を判断するまでもなく,理由がない。 4 本件請求【3】(本件保護室収容の際の暴行を国賠法上違法とする損害賠償請求)について(1) 本件保護室収容の際の暴行の有無及び違法性(争点3)についてア取り押さえる際の暴行について前記1(2)に説示のとおり,甲拘置所職員らが,原告を保護室へ収容するため原告を取り押さえた際,興奮して暴れる原告を制止するという目的に照らし合理的に必要な範囲を超えて,原告の背中及び腰部等を殴打し,あるいは蹴りつけるといった暴行を加えた事実は認められない。 したがって,甲拘置所職員らが,原告を取り押さえるまでの一連の経過において,違法な暴行を加えたものとは認められない。 イ催涙スプレーの使用について(ア) 前記1の認定事実によれば,戊統括が原告に対して催涙スプレーを使用した際の状況は,次のとおりと判断される。 原告居室から保護室までの連行はほぼ終了し(保護室目前),原告は手錠をかけられ,2人の刑務官によって両腕をそれぞれ把持されて,十分に制圧された状態にあった。さらに,連行には上記刑務官らの外にも,10名を超える甲拘置所職員らが随行していたのであるから,保護室の大きさなども踏まえれば,原告が強い興奮状態にあったとはいえ,特段の警備用具を使用することなく保護室へ収容することは十分に可能であった。原告は,看守に対し,右足で蹴り上げる暴行を加えているが,そのような暴行に至る直前,原告が繰り返し同看守に痛みを訴えていること等に鑑みれば,原告は同看守の把持していた右腕の痛みもあって咄嗟 に当該所為に出たものとみられ,この一事をもって原告が看守らに対して継続的に危害を加えるおそれが高いものであったということはできない。少なくとも,原告が刑務官らに危害を加えるおそれが差し迫っ に当該所為に出たものとみられ,この一事をもって原告が看守らに対して継続的に危害を加えるおそれが高いものであったということはできない。少なくとも,原告が刑務官らに危害を加えるおそれが差し迫っていたなど,予告せずに催涙スプレーを使用せざるを得ない程に事態が急迫していたとまでは認められない。 (イ) 前記(ア)の状況に照らせば,戊統括が,原告に対し,甲拘置所長指示(指示第16号)に基づく予告を行うことなく,催涙スプレーを使用した行為は,法77条1項にいう「合理的に必要と判断される限度」を超えたものであって,刑務官としての職務上の義務に違反しており,国賠法上違法というべきである。 (2) 催涙スプレーの使用によって原告に生じた損害額(争点4)について前記のとおり,戊統括が原告を保護室へ連行するに当たり催涙スプレーを使用した行為は,その職務上の義務に反する違法な行為であるところ,原告がこの行為によって受けた精神的苦痛を慰謝するために必要な慰謝料としては,5万円と評価するのが相当である。 (3) そうすると,原告の本件請求【3】は,催涙スプレーの使用による慰謝料5万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。 5 結論以上によれば,原告の請求は,国賠法上違法と評価される催涙スプレーの使用による慰謝料5万円及びこれに対する違法行為の日の後である平成26年1月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法64条,61条を,仮執行宣言につき同法259条1項(ただし,執行開始時期を一定期間経過後とすることは相当ではない。)を,仮執行免脱宣言につき同条3項を適用して,主文のとおり の負担につき民事訴訟法64条,61条を,仮執行宣言につき同法259条1項(ただし,執行開始時期を一定期間経過後とすることは相当ではない。)を,仮執行免脱宣言につき同条3項を適用して,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第17民事部裁判長裁判官比嘉一美 裁判官佐伯良子 裁判官坂口和史
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