主文 原判決を破棄する。 被告人三名をそれぞれ懲役八年に処する。 被告人らに対し、原審における未決勾留日数中各八〇〇日をそれぞれの刑に算入する。 押収してある現金六九六万五二七六円(当庁平成六年押第三〇五号の6ないし12)、アメリカドル二七ドル(同号の14)、タイ王国バーツ一五〇バーツ(同号の15)、皮製赤色手提鞄一個(同号の21)、皮製こげ茶色ウエストバッグ一個(同号の22)、ネックレス一〇本(同号の23ないし28、30ないし32、39)、アンクレット一本(同号の33)、ブレスレット一八本(同号の34ないし38、40ないし43,45ないし48,50ないし54)、指輪二九個(同号の57ないし61、63、65ないし68、72、74、76ないし79、83ないし85、88、90ないし93)、ピアス七対(同号の64、75、80ないし82、87、94)、ペンダントの飾り部分二個(同号の69、71)、金塊一個(同号の70)及び金の切り屑二個(同号の86)を、被害者Aの相続人に還付する。 理由 一本件各控訴の趣意は、弁護人加城千波、同弘中惇一郎、同安田まり子、同荒木昭彦、同川口和子及び同中山ひとみ共同作成名義の控訴趣意書及び控訴趣意補充書に、これに対する答弁は、検察官藤河征夫作成名義の答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。 第一控訴趣意中、訴訟手続の法令違反の主張について一控訴趣意第二の一について 1 所論は、要するに、次のようなものである。すなわち、原判決は、被告人三名が、AことAを殺害して金品を強取することを共謀し、平成三年七月二九日、Aの頸部を刃物で突き刺すなどして同女を殺害した上、同女所有の現金や貴金属類を奪取したとの事実を認定判示し 原判決は、被告人三名が、AことAを殺害して金品を強取することを共謀し、平成三年七月二九日、Aの頸部を刃物で突き刺すなどして同女を殺害した上、同女所有の現金や貴金属類を奪取したとの事実を認定判示しているが、その認定根拠とするところは、被告人三名の捜査官らに対する各自白調書である。しかし、被告人三名はいずれも、捜査段階においても、自分たちに金品を強取する意思もなく、その旨の共謀を遂げたこともなかった旨述べていたのである。しかるに、内容の誤った各自白調書が作成されたのは、被告人らがタイ人で日本語に通じていないことから、捜査官らがタイ人である通訳人を介して被告人らの取調べを行ったことにある。すなわち、本件捜査に係わり合いを持った通訳人ら(以下「本件通訳人ら」という。)は、通訳能力を欠如していたものであり、そのため、捜査官らの質問や被告人らの供述などにつき、その意味を理解せず、あるいは誤って考え、自分らの勝手な解釈で文章を作って、これを相手方に伝えるということをし、捜査官等においても通訳人らの能力を知らず、十分な吟味をしないまま、通訳人らの誤訳に基づき各自白調書を作成したものである。なお、本件の場合、通訳人らにおいては、タイ語と日本語のそれぞれにつき、これらの言葉を話す能力を十分に備えていなければならないのは当然のこととして、さらに、基本的能力ないし基本的姿勢として、内容の趣旨を的確に把握する能力、通訳にどの程度の正確性が要求される場面かを客観的に判断する能力、できる限り正確に通訳する姿勢、分からない言葉があれば、調べるなり、質問するなり、通訳の質を高めようと努力する姿勢、自分の通訳能力がどの程度かを客観的に判断できる能力などを備えていなければならないところ、本件通訳人らには、基本的能力ないし基本的姿勢が十分でなく、しかも、「1」会話の流れ、 高めようと努力する姿勢、自分の通訳能力がどの程度かを客観的に判断できる能力などを備えていなければならないところ、本件通訳人らには、基本的能力ないし基本的姿勢が十分でなく、しかも、「1」会話の流れ、質問の流れ、事実の流れ等全体の流れや、その時点で問題となっている主題を把握する能力が低い、「2」論理的な構成力が低い、「3」客観的な判断力が低い、「4」タイ語における単語能力、文章力が低いなどという問題点があり、とりわけ、通訳人B、同C、同D及び同Eにおいては、総合的にも通訳能力が欠如し、通訳人として適格性がなかったものである。したがって、通訳が適正に行われなかった結果作成された被告人らの各自白調書は、その信用性を全て否定すべきものであるから、これらを証拠として採用し、被告人らが金品強取の故意を有していたことやその旨の共謀を遂げたことの認定資料とした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反があるというのである。 2 そこで、原審記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果を合わせて検討すると、本件当時、被告人三名はいずれも、タイ語が母国語であって、被告人Fが、日本語の単語を若干知り、いわゆる片言で多少話をすることができた外は、ほとんど日本語に通じていなかったこと、そのため、捜査官らは、被告人らの取調べに当たっては、タイ語に通じた通訳人を介することを要したこと、本件通訳人らはいずれも、タイ語を母国語とする者であったこと、通訳人B、同C、同D及び同Eが、被告人らの取調べに際し通訳に当たった回数は、それぞれかなり多数回にわたっていること(なお、被告人Fの検察官に対する各供述調書(原審検察官請求証拠番号乙第一八号ないし第二一号。以下、甲乙の番号は、原審検察官請求証拠番号を示す。)及び司法警察員に対する平成三年九月二九日 っていること(なお、被告人Fの検察官に対する各供述調書(原審検察官請求証拠番号乙第一八号ないし第二一号。以下、甲乙の番号は、原審検察官請求証拠番号を示す。)及び司法警察員に対する平成三年九月二九日付け、同月三〇日付け(二通)、同年一〇月一七日付け、同月一八日付け(二通)各供述調書(乙第一号ないし第三号、第一一号ないし第一三号)は、通訳人Dの、被告人Gの検察官に対する同月九日付け及び同月一五日付け各供述調書(乙第三二号、第三四号)及び司法警察員に対する同年九月三〇日付け(二通)、同年一〇月八日付け、同月一〇日付け、同月一三日付け、同月二〇日付け、同月二一日付け、同月一一日付け各供述調書(乙第二二号、第二三号、第二五号ないし第二七号、第三〇号、第三一号、第五六号)並びに被告人Hの検察官に対する同月一九日付け供述調書(乙第五四号)は、通訳人Cの、被告人Hの検察官に対する同月九日付け、同月一四日付け、同月一五日付け各供述調書(乙第五一号ないし第五三号)及び司法警察員に対する同年九月三〇日付け(二通)、同年一〇月七日付け、同月八日付け、同月一〇日付け(二通)、同月一一日付け、同月一二日付け、同月一七日付け、同月一八日付け各供述調書(乙第三七号ないし第四四号、第四六号、第四七号)は、通訳人Bの、被告人Fの司法警察員に対する同月一〇日付け(二通)、同月一三日付け、同月二〇日付け(三通)各供述調書(乙第七号、第八号、第一〇号、第一四号ないし第一六号)は、通訳人Eの通訳を介して、作成されたものである。)などは、所論指摘のとおりである。 <要旨>3 まず一般的に、刑事手続における通訳人の適格性について考えると、本件のように、被告人(捜査当時は</要旨>被疑者)らがタイ語しか話せないような場合、タイ語を母国語とする通訳人にあっては、日本語に通じていること に、刑事手続における通訳人の適格性について考えると、本件のように、被告人(捜査当時は</要旨>被疑者)らがタイ語しか話せないような場合、タイ語を母国語とする通訳人にあっては、日本語に通じていることが基本的前提である。もっとも、その程度については、捜査段階においては、捜査官らの取調べも、これに対する被疑者等の供述も、犯罪に関するとはいえ、社会生活の中で生じた具体的な事実関係を内容とするものであり、特別の場合を除いて、日常生活における通常一般の会話とさほど程度を異にするものではないことを考えると、本件通訳人らに求められる日本語の習熟度や表現力も、もちろん一語一語正確にかつ文法的にも誤りなく通訳できる能力を持っていることが最も望ましいことではあるが、日常の社会生活において、互いに日本語で話を交わすに当たり、相手の話していることを理解し、かつ、自己の意思や思考を相手方に伝達できる程度に達していれば足りるというべきである。そして、捜査段階である限り、漢字やかなの読み書きができることまで必要ではなく、法律知識についても、法律的な議論の交わされる法廷における通訳人の場合と異なり、通常一般の常識程度の知識があれば足りると考えられる。また、日本語に関する能力のほか、通訳に当たって必要な能力等につき、所論が、基本的能力ないし基本的姿勢として指摘するところは、いわば完壁なものを求めるに等しく、現在多数の刑事事件で通訳の行われている実情に照らし、結局のところ、誠実に通訳に当たることが求められているというだけで足りる。もちろん、刑事手続においては、通訳人に対しても公正な態度が求められるのはいうまでもなく、捜査官に対して迎合的であったり、被疑者、あるいはその他の関係者等に対し予断や偏見を抱いたりすることが許されないのは当然である。 4 (一) 右のような観点か な態度が求められるのはいうまでもなく、捜査官に対して迎合的であったり、被疑者、あるいはその他の関係者等に対し予断や偏見を抱いたりすることが許されないのは当然である。 4 (一) 右のような観点から、本件通訳人らの通訳人としての適格性ないし通訳能力についてみるに、B、C、D及びEの、それぞれ原審公判廷において証人として尋問を受けた際の各供述と、被告人らの原審公判廷における各供述、被告人らの検察官及び司法警察員に対する各供述調書の記載内容などを総合すると、右Dにおいて、日本語の表現力などにおいてやや程度が低いとみられるとはいえ、右四名とも、日常の社会生活において、日本人を相手としても日本語によって会話する能力のあることは明らかである。そして、関係各証拠によれば、本件通訳人らは、捜査官の被告人らに対する取調べに際し、自分らにおいて分からない言葉が出てくると辞書を引いたり、ときには捜査官とやり取りして捜査官の言うことを理解した上で通訳するなどしていることが認められるのである。なお、捜査官らにおいても、供述調書は、供述を要約的に録取したものであって、これに記載されている内容はかなり複雑な意味を含むものであることから、調書の読み聞けに当たっては、通訳しやすいように、その内容を分かりやすい言葉に言い換えてやったりしていたことが窺える。この点、原審公判廷において、右Bらを証人として尋問した際、弁護人らは、供述調書に記載された日本語の文章を証人らに読み聞かせて直ちにタイ語に訳すよう求めるという尋問を行っている(当審における証人尋問の際も同じ方法で尋問を行っている。)が、その訳を求めた文章自体、右のようにかなり複雑な意味を含み、日本語としても難解な内容のものであったのであるから、その尋問に対する答えにかなり誤訳の部分があつても、日常生活において日本語を いる。)が、その訳を求めた文章自体、右のようにかなり複雑な意味を含み、日本語としても難解な内容のものであったのであるから、その尋問に対する答えにかなり誤訳の部分があつても、日常生活において日本語を用いる能力がないということを示すものではない。 (二) また、被告人三名の検察官及び司法警察員に対する各供述調書の録取内容を、個別的にみても、被告人らが供述した内容がほぼその趣旨どおりに通訳されているものとみることができる。この点、被告人らの経歴などに関し、被告人らの原審公判廷における各供述と対比して、誤訳とみられる点も多少はみられるものの、全体的にみて、誤った通訳が行われたために、辻棲の合わない供述内容となっている、あるいは前後矛盾する内容となっていると考えられるような部分はない。 そして、被告人らが人身売買によって、Aのもとで多額の借金に苦しむに至った経緯、同女に対し殺意を抱くに至った事情、被告人三名がAを殺害した具体的状況や、殺害後に同女の身につけていたウエストバッグや貴金属類を奪い取った状況などについては、被告人三名の司法警察員及び検察官に対する各供述調書に録取されている供述内容が、被告人らの原審公判廷における各供述、被告人ら作成の手紙や上申書などと概ね一致しているということは、右各供述調書が被告人らの供述を正確に録取したものであること、ひいては通訳に誤りはなかったことを示すものである。のみならず、犯行に至る経緯や犯行の状況などに関し、被告人らの述べるところには、自己の行為を正当化するような主張も含んでいるが、これらの点について被告人らの供述をことさらに歪めて通訳したような様子は一切なく、こうした通訳の様子に照らしても、本件通訳人らは、一方に偏した態度を取っていなかったこと、すなわち公正な態度で通訳に当たっていたことが認められるのであ をことさらに歪めて通訳したような様子は一切なく、こうした通訳の様子に照らしても、本件通訳人らは、一方に偏した態度を取っていなかったこと、すなわち公正な態度で通訳に当たっていたことが認められるのである。また、例えば、Aを殺害するために被告人Fがけん銃(のちにモデルガンと分かったもの)を用意した経緯に関し、同被告人の検察官に対する平成三年一〇月一九日付け供述調書(乙第二一号)中には、同被告人が、被告人Hから「I」というホステス仲間がけん銃を持っているということを聞いて、同女からけん銃を入手したという趣旨の供述が録取され、一方、被告人Hの検察官に対する同日付け供述調書(乙第五四号)中では、自分としては、被告人Fがピストルを持って来たのを見て、同被告人がIがけん銃を持っているということを言っていたので、Iから借りて来たのかと思ったという趣旨の供述が録取されている。このように、被告人ら相互間において供述が食い違う場合であっても、食い違ったまま各被告人の供述内容が調書に記載されているということは、捜査官においても供述を一方的に押しつけたりせず、本件通訳人らも被告人らの述べるところを忠実に通訳していることを窺わせるのである。さらにまた、被告人三名の各供述調書中には、被告人らが、捜査官らの作成した供述調書に署名指印するにあたり、調書の記載内容を読み聞けしてもらった際、訂正の申立てをした旨の記載のあるものもある。このことは、前記のように、殺害の状況等については右各供述調書中の供述内容と被告人らの原審公判廷における各供述等とが大筋において一致していることと相まって、捜査官の供述調書の読み聞けに際しても、本件通訳人が、誤訳していないことを表しているということができる。 (三) 以上のとおり、被告人らの検察官及び司法警察員に対する各供述調書の供述内容に照 て、捜査官の供述調書の読み聞けに際しても、本件通訳人が、誤訳していないことを表しているということができる。 (三) 以上のとおり、被告人らの検察官及び司法警察員に対する各供述調書の供述内容に照らし、被告人三名がAを殺害するに至った経緯や、殺害の具体的状況、殺害後の金品奪取の状況などについて、本件通訳人らの通訳に誤りはなかったものと認められるところ、殺害に際して被告人らが抱いた意図や、被告人らの間の相談内容などに関して、これだけ別個にその通訳を誤ったと窺わせるような状況は存在しない。この点、被告人らは、いずれも、取調べを受けた当初においては、自分自身がAを殺害する気持ちになったことや、被告人らの間でAを殺そうと話し合ったことがあることを述べているのみで、Aを殺してバッグなどを奪おうなどと相談した旨述べるようになったのは、取調べを受けるようになってしばらくしてからのことと窺われる。すなわち、例えば、被告人Fの司法警察員に対する平成三年九月二九日付け供述調書(乙第一号)中では、Aを殺害する直前の状況について、「毎日毎日ボスからグズグズ言われるから三人でシメちゃおうかと話したのです」と述べた旨記載されているだけである。なお、その際の取調べに立ち会った通訳人は、前記Dである。その後、捜査官らにおいては、実際に被告人らがAの身につけていた貴金属類や七〇〇万円にものぼる現金を奪って来ていたことから、当初から金品を強取する意思があったのかどうか、被告人らの間に共謀があったのかどうかなどについて、被告人らをかなり厳しく追及したことは窺われる。しかし、被告人らが、いったんAに対し強盗殺人の犯意を抱いたことやその旨の共謀をしたことを認める供述を始めた後は、被告人三名の各供述調書に録取されている供述内容は、通訳人が異なっても、大筋において一致しており、こ らが、いったんAに対し強盗殺人の犯意を抱いたことやその旨の共謀をしたことを認める供述を始めた後は、被告人三名の各供述調書に録取されている供述内容は、通訳人が異なっても、大筋において一致しており、このこともまた、本件通訳人らの通訳がそれぞれ、誤ったものでないことを窺わせるものである。なお、強盗殺人の共謀に関する供述内容はいずれも、被告人三名がAを殺害するという行為に出る前に、Aを殺害したらパスポートや金銭等を奪って逃げることにしようという相談をしたという極めて具体的で明瞭な事柄であって、同女に対する殺害の意思と金銭等の奪取の意図との先後関係によってその意思や意図の意味内容が異なるという微妙なものではなく、日常の簡単な会話ができる普通の能力を有する者ならば、誰でも容易に言い表すことができるものである。すなわち、言語の時制とか文法等を理解しているかどうかという日本語の習熟度や表現力の相違によって異なってくるというわけのものではないのである。また、強盗殺人罪の構成要件がどのようなものであるかを知っている必要のないこともいうまでもない。 なお、被告人らは、原審公判廷における各供述や被告人ら作成の手紙等において、自分たちがA殺害前に金品を強奪する旨の共謀をしていたなどという供述を捜査官らに対して行ったことは全くない旨述べているが、金品強奪の共謀等に関する供述が被告人らの各供述調書中に出てくるのは、特定の一項目においてだけではなく、犯行に至る経緯、犯行の状況、犯行後の状況などについて述べている中でも各所に出てくるのであって、全ての箇所において、本件通訳人らが誤訳をしたものとは到底考えられない。その意味で、被告人らの原審公判廷における各供述や被告人ら作成の手紙等については、この点に関し、信用することができない。 5 以上要するに、関係各証拠を総合す が誤訳をしたものとは到底考えられない。その意味で、被告人らの原審公判廷における各供述や被告人ら作成の手紙等については、この点に関し、信用することができない。 5 以上要するに、関係各証拠を総合すれば、本件通訳人らは、前記B、C、D及びEを含め、いずれも、前記3でみたような趣旨で通訳人の適格性を備えており、所論のように通訳能力を欠如していたものでないことは十分に肯認できるのである。そして、被告人三名の検察官及び司法警察員に対する各供述調書は、被告人らがそれぞれAに対し強盗殺人の犯意を抱いたことや相互間でその旨の共謀をしたことを認めている部分を含め、本件通訳人らの通訳能力などとの関係で、その信用性を失うものでないことは明らかである。 したがって、右各供述調書を証拠として採用し、被告人らが金品強取の故意を有していたことやその旨の共謀を遂げたことの認定資料とした原判決には、所論指摘のような判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反はない。論旨は、理由がない。 二控訴趣意第二の二について 1 所論は、要するに、次のようなものである。すなわち、原審では、原審第二二回公判期日に、「1」被告人G及び同Hの関係において、被告人Fの検察官に対する各供述調書(乙第一八号ないし第二一号)の各不同意部分を、「2」被告人F及び同Hの関係において、被告人Gの検察官に対する各供述調書(乙第三二号ないし第三五号)の各不同意部分を、「3」被告人F及び同Gの関係において、被告人Hの検察官に対する各供述調書(乙第五一号ないし第五四号(控訴趣意書では「第五二号」と記載されているが、「第五四号」の誤記と認める。))の各不同意部分をいずれも証拠として採用して取り調べ、原判決において、これらを被告人三名の有罪認定の根拠としている。そして、検察官は、被告人三名の検察官 されているが、「第五四号」の誤記と認める。))の各不同意部分をいずれも証拠として採用して取り調べ、原判決において、これらを被告人三名の有罪認定の根拠としている。そして、検察官は、被告人三名の検察官に対する右各供述調書中の各不同意部分について、原審第一六回公判期日に、これらを刑訴法三二一条一項二号後段(自己矛盾の供述)に該当する書面として取調請求(平成五年七月七日付け各証拠調請求書)をし、その後、右のうち被告人Fの各供述調書及び被告人Hの各供述調書の各不同意部分につき、取調請求の主位的根拠として同号前段(供述不能)に該当するとしているのである。しかし、原審は、被告人らの検察官に対する右各供述調書中の各不同意部分を証拠として採用した根拠を明らかにしていないが、これらは同号前段の書面にも当たらず同号後段の書面にも当たらないのであるから、これらを証拠として採用したことは違法である。 この点につき、検察官は、原審第一八回公判期日に実施された被告人質問に際し、被告人F及び同Hに対し、それぞれ、まず検察官が質問をしようとしたところ、同被告人らが「ますはじめに弁護人らからの質問に答えてから、検察官の質問に答えたい」という趣旨のことを述べたことから、供述不に当たるとして、被告人Fの各供述調書及び被告人Hの各供述調書の各不同意部分につき、刑訴法三二一条一項二号前段に該当すると主張したのである。しかし、同被告人らは、原審第一八回公判期日から第二二回公判期日にかけて、弁護人らからの質問のみならず、検察官からの質問にも供述を拒否することなく答えているのであるから、右前段にいう供述不能の要件は存在していないのである。また、検察官が、被告人三名の右各供述調書中の各不同意部分につき、同号後段に該当するとして取調請求をした原審第一六回公判期日には、被告人らが、それま 段にいう供述不能の要件は存在していないのである。また、検察官が、被告人三名の右各供述調書中の各不同意部分につき、同号後段に該当するとして取調請求をした原審第一六回公判期日には、被告人らが、それまでの原審公判廷における各供述中で、右各供述調書中に録取された供述と相反する自己矛盾の供述をしていなかったのであるから、右後段にいう自己矛盾供述は未だ存在していなかったのである。しかもその後、検察官は、右各供述調書中の各不同意部分につき、原審第一八回公判期日ないし第二二回公判期日における被告人らの供述と相反する部分の特定を行っておらず、原審裁判所も、これらを証拠として採用するにあたり、相反部分がいずれであるか何ら摘示を行っていない。さらに、捜査段階における通訳が適正に行われたかどうか重大な疑義があり、原審における法廷通訳人の通訳能力が捜査段階における通訳人らのそれに比べて優れていることは明らかであるから、右各供述調書につき公判廷の供述より信用できる特別の情況のあることは、検察官によって立証されておらず、むしろこの特信情況はなかったと認められるのである。 したがって、被告人三名の検察官に対する右各供述調書中の各不同意部分はいずれも、同号前段及び同号後段に定める要件を具備せず、証拠能力を欠くものであるから、これらを証拠として取り調べ、被告人らが強盗殺人の共謀をしたとの事実を認定する資料とした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反があるというのである。 2 そこで、原審記録を調査して検討するに、原審で、被告人三名の検察官に対する右各供述調書中の各不同意部分が証拠として採用されて取り調べられるに至るまでの経過は、次のようなものである。すなわち、被告人三名の検察官に対する右各供述調書についてはいずれも、原審第一回公判期日に、検察 供述調書中の各不同意部分が証拠として採用されて取り調べられるに至るまでの経過は、次のようなものである。すなわち、被告人三名の検察官に対する右各供述調書についてはいずれも、原審第一回公判期日に、検察官から、被告人三名の関係で証拠調べの請求があり、原審第二回公判期日に、弁護人から全被告人の関係でこれらを証拠とすることに同意しないとの意見が述べられたが、原審第九回公判期日に、弁護人から右意見を一部変更するとの申し出があり、右各供述調書それぞれの各一部について証拠とすることに同意するとの意見が述べられ、弁護人が同意するとの意見を述べた部分については、同期日に、刑訴法三二六条に基づき被告人三名の関係で証拠調べの決定があり、その取調べが行われた。右各供述調書中弁護人が原審第九回公判期日に不同意とした各部分については、供述者である被告人以外の被告人二名の関係で、検察官から、原審第一五回公判期日に、刑訴法三二一条一項二号後段に該当する書面として取調べを求めるという請求(同年五月一九日付け各証拠調請求書)があり、原審第一六回公判期日に、いったん右五月一九日付け証拠調請求を撤回するとした上で、同じくこれらが同号後段に該当するとして取調べの請求(平成五年七月七日付け各証拠調請求書)があり、さらに、原審第一九回公判期日に、右のうち被告人Fの各供述調書及び被告人Hの各供述調書の各不同意部分につき、同被告人らが供述を拒否しているので、同号前段により取り調べられたいという申し出があったのである。そして、原審では、このような経過を経て、被告人三名の右各供述調書中の各不同意部分について、原審第二二回公判期日に証拠調べの決定をし、その取調べを行うに至ったものである(なお、その際、証拠決定においては証拠能力に関して明示的な判断は示していない。)。なお、供述者である各被告 分について、原審第二二回公判期日に証拠調べの決定をし、その取調べを行うに至ったものである(なお、その際、証拠決定においては証拠能力に関して明示的な判断は示していない。)。なお、供述者である各被告人の関係においても、自己の供述を録取した右各供述調書中の各不同意部分について、原審第一七回公判期日に、検察官から、刑訴法三二二条一項により取り調べられたいという申し出があり、原審第二二回公判期日に、同様に証拠調べの決定があって、その取調べが行われている。 3 (一) ところで、当事者から取調べの請求のあった証拠てあっても、証拠の採否を決定するに当たり、証拠能力についての裁判所の判断は、これに関する当事者の主張に拘束されるものではない。すなわち、本件についてみると、右のような経過に照らし、被告人三名の検察官に対する右各供述調書については、原審第一回公判期日に検察官から証拠調べの請求があり、原審第九回公判期日に、弁護人が証拠とすることに同意した各部分については被告人三名いずれの関係においても証拠調べが行われたが、その後、各不同意部分については、検察官から証拠調べの請求の撤回は行われていなかったのであるから、原審第二二回公判期日に至るまで、裁判所の証拠決定は留保された状態にあったものである。その間、右各不同意部分について、前記2でみたとおり、検察官から、供述者以外の被告人らの関係においては刑訴法三二一条一項二号後段あるいは同号前段に定める書面に該当するとの主張があり(なお、検察官は、被告人質問などによりいわゆる特信性の立証を行うことにも努めている。もっとも、検察官は、右のような主張立証を行うに当たり、新たな証拠調べの請求や証拠調べの請求の撤回のような形を取っているが、当初の請求を撤回していない以上、新たな請求などとみることはできず、証拠能力に関する 、検察官は、右のような主張立証を行うに当たり、新たな証拠調べの請求や証拠調べの請求の撤回のような形を取っているが、当初の請求を撤回していない以上、新たな請求などとみることはできず、証拠能力に関する主張ないし立証と解すべきである。)、これに対して、弁護人から、同号前段にも同号後段にも当たらないとする反対の主張がなされ、関連して検察官の主張を反駁する種々の意見が述べられている。しかし、このように、検察官及び弁護人からそれぞれの主張ないし立証活動が行われても、裁判所がこれに拘束されないことは前示のとおりであり、原審第二二回公判期日に、右各不同意部分について証拠調べの決定を行ったのも、その時点までの当事者の立証の結果や審理経過などに照らし、これらに証拠能力があると判断したことによるものである。 (二) (1)そして、原審で、被告人三名の検察官に対する右各供述調書中の各不同意部分について、これらを証拠として取り調べたのは、前記のとおり証拠決定において明示の判断は示していないものの、被告人三名がいずれも、原審第二二回公判期日に至るまで、原審公判廷において、犯罪事実等に関し具体的な供述を行っていることに照らし、供述者以外の被告人らの関係においては、これらが同号後段に該当する書面であると認めたことによるものであることは明らかである。 (2) そこでまず、右各供述調書中の各不同意部分と被告人らの原審公判廷における各供述との相反部分についてみると、検察官が、平成五年七月七日付け各証拠調請求書で相反部分として指摘した点に関しては、被告人三名はいずれも、原審第一八回公判期日以降の公判廷における供述中で、右各供述調書中の各不同意部分に録取されている検察官の面前における供述と相異なる供述をしていることが認められる。すなわち、被告人三名の右供述調書中の各不同意部 回公判期日以降の公判廷における供述中で、右各供述調書中の各不同意部分に録取されている検察官の面前における供述と相異なる供述をしていることが認められる。すなわち、被告人三名の右供述調書中の各不同意部分に録取されている供述は、そのほとんどが、自分たちにおいては、Aを殺して逃げようと考えるとともに、逃げるときにはパスポートも要るしお金も要るので、パスポートのほか、現金や貴金属類なども奪って逃げようという気持ちであった、そして、三人の間で、Aを殺した後は現金、金のブレスレット、パスポートなどの入っているバッグを奪って逃げようという相談をしていたという趣旨の供述である。これに対し、被告人三名の原審公判廷における各供述はいずれも、自分たちは、Aを殺して逃げようという気持ちになったことはあるが、現金や貴金属類を奪って逃げようということを事前に考えたことはない、そのような相談をしたこともない、Aを殺そうという相談をしたのも、実際に殺す直前であるという趣旨の供述である。したがって、被告人三名の右各供述調書中の各不同意部分について、被告人三名の原審公判廷における各供述が、同号後段にいう「相反するか実質的に異なった供述」に当たるということができるのは明らかである。 (3) さらに、特別の信用情況について検討すると、被告人三名の右各供述調書に録取されている供述はいずれも、全体として、被告人らがAを殺害するに至った経緯や、殺害の具体的状況、殺害後の金品奪取の状況、犯行現場から千葉県市原市内のホテルまで至った状況などについて、詳細かつ具体的に述べているものであって、全体として、自然の流れに沿い、前後の脈絡も明確であり、十分に信用できるものである。そして、Aの殺害に際して被告人らの抱いていた気持ちにつき、パスポートのほか現金や貴金属類なども奪って逃げようとも考え 体として、自然の流れに沿い、前後の脈絡も明確であり、十分に信用できるものである。そして、Aの殺害に際して被告人らの抱いていた気持ちにつき、パスポートのほか現金や貴金属類なども奪って逃げようとも考えていた旨述べたり、被告人三名の間でそういう趣旨の相談を行ったなど、金品強取の共謀があった旨述べたりしている部分も、犯行に至る経緯や犯行状況などに関する供述と一体をなすものであり、全体的な流れの中で、他の部分と異質的なことを述べたものではない。その意味で、犯行に至る経緯や犯行状況、犯行後の状況などに関し、被告人三名の右各供述調書に録取された供述が信用できるものとすれば、被告人らの抱いた意図や被告人らの間の共謀などに関する部分についてだけ、右各供述調書に録取された供述内容に信用性がないということは許されないといわなければならない。また、関係各証拠によると、被告人らは、右ホテルで警察官らに所在を発見されたのちは、警察官らに反抗的な態度をとるようなことなど全くなく、その後捜査段階において、警察官や検察官らの取調べに任意に応じ、素直な態度で供述していたことが窺われるのであって、警察官等が、被告人に対し、暴行や脅迫を加えて自白を強制したりしていないことは十分に認められる。なお、所論は、捜査官らの取調べが、通訳人を介して行われていることから、本件通訳人らには通訳能力が欠如しているので、右各供述調書の信用性はないというであるが、所論が採用できないことは、前記一において詳細に検討したとおりである。 これに対し、被告人三名の原審公判廷における各供述についてみると、犯行に至る経緯や犯行状況、犯行後の状況などに関しては、被告人らの内心の意図などを除けば、被告人三名の右各供述調書と概ね一致し、その意味で信用性も同様に考えられる。しかし、Aを殺害した際の自分たちの気持 至る経緯や犯行状況、犯行後の状況などに関しては、被告人らの内心の意図などを除けば、被告人三名の右各供述調書と概ね一致し、その意味で信用性も同様に考えられる。しかし、Aを殺害した際の自分たちの気持ちなどについて述べる部分は、その際強盗殺人の故意がなかったことやその旨の共謀がなかったことを強調する供述であって、全体的な流れとはそぐわぬものがある。そして、被告人三名とも、原審公判廷における各供述中で、パスポートや身分証明書などは持って逃げよう、そのためにパスポートの入っているバッグを持って逃げるなどということはAを殺害する前から考えていたという趣旨のことを述べており、極めて強調して述べているのは、現金や貴金属類など金目の物を奪う意思がなかったということである。また、被告人らは、原審公判廷における各供述中で、他の被告人の供述と自分の供述とを整合しようと努めたり、Aを殺したことについても、自己の行為の正当性を強調していることも顕著である。なお、被告人らのうち二名は、所論でも触れているように、原審第一八回公判廷において、検察官が被告人質問を行おうとした際、まず弁護人から質問をして欲しいなどと言って、検察官の質問に対し答えることを拒否するという供述態度をとったこともある。 以上から結局、被告人三名の右各供述調書中の各不同意部分と被告人三名の原審公判廷における各供述につき、右にみたような供述内容や供述態度その他供述に際しての諸状況を対比して検討すると、被告人三名の原審公判廷における各供述よりも右各供述調書中の各不同意部分に録取された被告人三名の各供述を信用すべき特別の情況があると認めることができる。 4 以上要するに、被告人三名の検察官に対する右各供述調書中の各不同意部分は、供述者である被告人以外の被告人二名の関係では、刑訴法三二一条一項二号後 すべき特別の情況があると認めることができる。 4 以上要するに、被告人三名の検察官に対する右各供述調書中の各不同意部分は、供述者である被告人以外の被告人二名の関係では、刑訴法三二一条一項二号後段に該当する書面として証拠能力を有するものと認められるので、原審で、原審第二二回公判期日に、これらを証拠として採用し取り調べた(供述した本人である各被告人との関係においては、同法三二二条一項書面として採用し取り調べている。)ことに何ら違法はない。したがって、原判示の強盗殺人の事実を認定するに当たり、右各供述調書中の各不同意部分を認定資料として用いた原判決には、所論のような判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反はない。論旨は、理由がない。 三控訴趣意第二の三について 1 所論は、要するに、次のようなものである。すなわち、警察官らは、被告人三名の入室していたJホテルの客室内に、被告人らの同意も得ないで、いきなり侵入し、被告人三名を、任意同行と称して、遠く離れた茨城県下館市所在の下館警察署まで連行した上、被告人らからその所持していた貴金属類などを提出させたのであるから、右のような証拠物の収集は、警察官職務執行法の要件を欠き、任意捜査の限界を越えているから、これら証拠物に証拠能力があるとした原判決は、警察官職務執行法二条、憲法三一条、三三条、三五条の解釈適用を誤ったものであり、これら証拠物を有罪の認定の資料とした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反があるというのである。 2 そこで、原審記録及び証拠物を調査して検討すると、本件各証拠物について、その証拠能力を否定すべき事情など一切存在せず、原判決が「争点に対する判断」の項の一4で説示するところも、概ね正当として維持することができる。 3 (一) 関係各証拠に ると、本件各証拠物について、その証拠能力を否定すべき事情など一切存在せず、原判決が「争点に対する判断」の項の一4で説示するところも、概ね正当として維持することができる。 3 (一) 関係各証拠によると、まず前提として、Jホテルにおける被告人らの状況としては、被告人三名が、本件犯行の当日である平成三年九月二九日午前一一時半過ぎころ、千葉県市原市ab番地のc所在のJホテルにタクシーで訪れ、同ホテルの宿泊客として、その後は同ホテルd階e号室に在室していたこと、同室内において、被告人三名が、シャワーを浴びるなどして備付けの浴衣に着替えたりするとともに、バスタオルにくるんで持って来た、血の付いたネックレスやブレスレットなどを洗面台に入れて洗ったりし、さらに、同じくAのもとから持って来たウエストバッグを開き、中に七〇〇万円余りの現金が入っているのを発見して、そのうちから各被告人に二二〇万円ずつ分けたりしていたことなどが明らかである。 (二) そして、同室に警察官らがやって来た後の状況については、次のような事実が認められる。すなわち、(1) 同日午後一時ころ、千葉県市原警察署所属のKら警察官六人がJホテルに赴いたこと、その際、Kらの得ていた情報は、茨城県下館警察署管内で殺人事件が発生し、容疑者らしいタイの女性三名がJホテルにチェックインした模様というものであったこと、そして、同ホテルの支配人から、タイ女性らしい不審者三名がチェックインしているという話を聞き、支配人と一緒にその者らの泊まるd階e号室に向かったこと(2) 同室には施錠してあったことから、支配人が、出入口のドアを三回くらいノックし、これに応答がなかったため、持って来ていたマスターキーを使ってドアを開き、自分から同室内に立ち入ったこと、続いて、Kら警察官三人が同室内に入り、他の三 、支配人が、出入口のドアを三回くらいノックし、これに応答がなかったため、持って来ていたマスターキーを使ってドアを開き、自分から同室内に立ち入ったこと、続いて、Kら警察官三人が同室内に入り、他の三人の警察官が、同室前の廊下に待機していたこと(3) その際、被告人三名は、同室の窓際に接するように二つのベシドを繋いだ形で置き、その上に座っていたが、入室して来た制服姿の警察官らに対し、入室を拒絶する態度を取ったり、大声で怒鳴ったりするようなことはなかったこと(4) Kらは、被告人三名に対し、日本語で、警察官である旨告げた上、事情を尋ねようとしたが、被告人らには日本語が通じない様子であったため、英語でパスポートを見せるよう求め、これに応じて被告人らの差し出したそれぞれのパスポートを受け取ったこと(5) 午後一時二五分ころ、茨城県下館警察署から出向いて来たLなど茨城県警察所属の警察官らが、右e号室に到着し、Kら市原警察署所属の警察官から簡単な状況説明を受けたり、被告人らのパスポートの引き継ぎを受けたりしたこと、その際に、Lらの得ていた情報は、下館市fのgアパートでタイ人の女性が刃物で殺されたが、同居していたタイ人の女性四人位が姿を消していること、タイ人らしい女性三人がタクシーでhの「M」という店に向かい、次いで、つくば市内のホテルNに立ち寄り、そのホテルに三〇分位いた後、Oタクシーからタクシーを呼んで出て行ったこと、そのタクシーは、右三人を乗せて千葉県市原市に向かい、同市内のJホテルで右三人を降ろしたこと、その女性のうちの一人は、赤色のジャーシを着ていること、殺された女性の持ち物であった赤色の鞄やウェストバッグのほか、ネックレス等の貴金属類が現場から失われていることなどというものであったこと(6) Lらは、同室において、被告人三名の中 着ていること、殺された女性の持ち物であった赤色の鞄やウェストバッグのほか、ネックレス等の貴金属類が現場から失われていることなどというものであったこと(6) Lらは、同室において、被告人三名の中に赤色のジャージを着た者は居なかったものの、そのうちの一名の着るパジャマのズボンのすそに血痕らしいものが付着しているのを発見したこと(7) また、Lらは、赤色の鞄や大きなバッグの置かれているのを見つけ、被告人らに対し、英語や身振りなどを交えながら、鞄やバッグを開けて中を見せるよう求めたこと、被告人らは、赤色の鞄については、鍵が掛かって開かないという身振りをしたものの、右バッグは自分たちの手でファスナーを開いたこと、Lらが、右バッグの中の様子を窺ったところ、一番上に赤色のジャージの入っているのが見え、右ジャージには血痕様のものが十数点付着しているのが認められ、さらに、右ジャージの下に貴金属類が黄色のタオルに包まれて入っていたのが見えたこと(8) Lらは、電話で上司の指示を求め、上司から、被告人らから事情を聞くには、通訳人を介することを要するので、被告人らを下館警察署まで任意に同行して来るよう指示されるとともに、その途中、被告人らを連れて市原警察署に立ち寄り、被告人らを乗せたと思われるタクシーの運転手に被告人らの面通しをさせるようにという指示を受けたこと(9) そこで、Lらは、被告人らに対し、片言の英語や手振り身振りを交えながら、下館警察署まで一緒に行こうという趣旨のことを言って同行を求めたこと、被告人らにおいては、そのうちの一人が「どこ」などと行き先を聞き返した後、他の被告人二人と言葉を交わしたりしたものの、拒否するような態度を示さなかったことから、Lらとしては、被告人三名が同行することを承諾したものと判断したこと(10) Lなど 行き先を聞き返した後、他の被告人二人と言葉を交わしたりしたものの、拒否するような態度を示さなかったことから、Lらとしては、被告人三名が同行することを承諾したものと判断したこと(10) Lなど茨城県警察所属の警察官らは、市原警察署所属の警察官らとともに、同日午後二時ころ、鞄やバッグなどを持った被告人三名を伴い同ホテルを出て、被告人らを捜査車両(普通乗用自動車)二台に乗せて市原警察署に向かったこと、その際、被告人らはいずれも、警察官らの指示に素直に従い、同行を拒んだり抵抗したりすることは全くなかったこと、なお、被告人らが、右e号室で、前記(一)認定のように自分たちでバッグなどの中を調べた際、同室のごみ箱などの中に捨てていた被告人ら以外の者ら名義のパスポート三通などは、LなどがJホテルの支配人から任意提出を受けて、領置手続をとったこと(11) Lなど茨城県警察所属の警察官らは、被告人三名を同行して、いったん市原警察署に立ち寄ったが、上司から前記タクシーの運転手による被告人らの面通しは茨城県つくば中央警察署で行うようにという連絡があったため、直ちに自動車で、被告人三名をつくば中央警察署まで同行したこと(12) 同警察署で、被告人ら三名の面通しを行ったタクシーの運転手は、被告人らはNホテルからJホテルまで自分の運転するタクシーに乗せた女性たちであることに間違いない旨述べたこと(13) Lなどは、同日午後五時五分ころ、被告人三名を同行して下館警察署に到着したこと、捜査担当の警察官らは、直ちに、同警察署内で、すでに待機していた通訳人らを介して、被告人三名から事情聴取を始めたこと(14) 警察官らは、被告人三名に対し、通訳人を介してその趣旨を説明した上、所持品の任意提出を求め、これに応じる態度を取った被告人らから、赤色の鞄やバッグに 、被告人三名から事情聴取を始めたこと(14) 警察官らは、被告人三名に対し、通訳人を介してその趣旨を説明した上、所持品の任意提出を求め、これに応じる態度を取った被告人らから、赤色の鞄やバッグに入っていた貴金属類、現金など所持品の任意提出を受けるとともに、被告人らにそれぞれ任意提出書を作成させて、領置手続をとったこと(15) そして、被告人Hは、同日午後一〇時二九分に、被告人Gは、同日午後一〇時三〇分に、被告人Fは、同日午後一〇時三四分にそれぞれ強盗殺人の嫌疑で緊急逮捕されたことなどの事実が認定できる。 4 右3認定の各事実に照らし、警察官らが、Jホテルにおいて、被告人らのチェックインしたd階e号室に立ち入って、被告人らから事情を尋ねようとしたり、パスポートを見せるよう求め、被告人らの差し出したそれぞれのパスポートを受け取ったりしたことは、警察官職務執行法二条に規定する職務質問としてなされたものであることは明らかである。また、その後にやって来たLらが、被告人らに対し、同室内に置かれていた赤色の鞄やバッグなどを開けて中を見せるよう求め、さらに、被告人らがファスナーを開いたバッグの中の様子を調べ、血痕様のものが十数点付着している赤色のジャージや、その下に貴金属類が黄色のタオルに包まれて入っているのを見たりしたことも、職務質問に付随して行った所持品検査であることが明らかである。そして、その間に、警察官らが被告人らに強制にわたるような実力を行使したということは全く認められず、職務質問や所持品検査としてその方法も相当なものであったと認められる。すなわち、当初、市原警察署所属の警察官らの行ったe号室への入室行為についてみても、右3認定の各事実から明らかなように、殺人という重大事件に関連する者らの所在の確認等の緊急性や必要性の極めて強い状況の わち、当初、市原警察署所属の警察官らの行ったe号室への入室行為についてみても、右3認定の各事実から明らかなように、殺人という重大事件に関連する者らの所在の確認等の緊急性や必要性の極めて強い状況の下で行われたものである。入室に際し、まず、ホテルの支配人が、出入口のドアを三回くらいノックし、これに応答がなかったため、持って来ていたマスターキーを使ってドアを開いているが、ホテルの支配人としても、警察官らから説明を受け、ホテルの運営管理という面からも、客室に入った客から話を聞く必要があると考え、鍵を使ってドアを開けるに至ったものと認められ、ホテルの客室というものの性格上、外から鍵を使ったことが直ちに強制力の行使に当たるものではなく、本件のような状況のもとでは、こうした形での入室もやむを得ないものであったと考えられる。また、被告人三名に各パスポートを差し出させてその記載内容を調べたり、バッグを開かせてその中に入っているものを見たりしたことについてみても、警察官らとしては、被告人らの身元を調べるとともに、被告人らが自らを傷つけたり、他人に危害を及ぼしたりする凶器等の危険物を所持するなどしていないかどうかを確認するのは、職務上当然のことである。しかもその際、被告人三名はいずれも、右3(二)認定のように、警察官らの求めに対して拒否したり抵抗したりすることもなく、素直に応じており、その他警察官らの行うことについて反対の意思を表明したりしたこともなかつたことが明らかである。 さらに、右3の(二)(9)ないし(13)認定のように、警察官らが、被告人三名に対し下館警察署まで同行して来るよう求め、これに応じる態度をみせた被告人らを自動車に乗せ、市原警察署を経由してつくば中央警察署に至り、同警察署でタクシーの運転手による面通しを行った後、下館警察署まで同行して 警察署まで同行して来るよう求め、これに応じる態度をみせた被告人らを自動車に乗せ、市原警察署を経由してつくば中央警察署に至り、同警察署でタクシーの運転手による面通しを行った後、下館警察署まで同行して来たのは、下館市fのgアパートでタイ人の女性が刃物で殺された事件の捜査活動として行ったものであり、警察官らとして、客観的な状況に照らして被告人らが右殺人事件と直接の係わり合いを持っている疑いが濃く、したがって、いわゆる重要参考人として被告人らから事情を聞いたりする必要があると判断して行ったものと認められる。 また、このように被告人らに同行を求めるに当たり、警察官らが実力を行使したような状況などは一切なく、被告人らが任意にこれに応じていたものと認められる。 そして、右3認定のような当時の客観的状況等に照らし、被告人らを乗せたと思われるタクシーの運転手に早急に被告人らの面通しをさせる必要があったことも明らかであり、また、被告人三名からの事情聴取には、通訳人を介する必要性もあり、通訳人の確保という、やむを得ない合理的な事情があることも十分に肯定できるのであるから、被告人三名を自動車に乗せ、千葉県市原市所在のホテルから、市原警察署やつくば中央警察署を経由して、かなりの距離のある茨城県下館市所在の下館警察署まで同行して来たことも、任意捜査として許容される限度を越えたものではない。さらにまた、警察官らが、被告人らから下館警察署で事情を聴取していた際、被告人らに所持品の任意提出を求め、被告人三名から所持していた鞄やバッグなどとともに現金、貴金属類を差し出させたことについても、右3の(二)(14)認定のとおり、被告人らは、通訳人を介して任意提出の趣旨の説明を受けた上、これに応じる態度を取っていたことが認められ、その際、被告人らの意思に反して強制的に所持品を提出 いても、右3の(二)(14)認定のとおり、被告人らは、通訳人を介して任意提出の趣旨の説明を受けた上、これに応じる態度を取っていたことが認められ、その際、被告人らの意思に反して強制的に所持品を提出させたりした形跡は一切窺えない。すなわち、被告人らからその所持していた現金、貴金属類などを領置した手続に何ら違法な点はない。 5 以上要するに、警察官らが、Jホテルにおいて、被告人らの入っていた客室に鍵を開けて立ち入り、被告人らに職務質問をしたり、パスポートの提示を求めたりし、次いで、被告人らを自動車で下館警察署まで同行し、さらに被告人らにその所持する現金や貴金属類などの任意提出を求め、被告人らの提出した所持品につき領置手続をとった一連の行為は、警察官職務執行法の要件を備え、また、任意捜査として許容される範囲を逸脱したものでないことが明らかであるから、被告人らの提出した右現金や貴金属類などを証拠物として取り調べ、これらを有罪認定の根拠とした原判決には、警察官職務執行法二条、憲法三一条、三三条、三五条の解釈適用に誤りはないのである。したがって、原判決には、所論指摘のような判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反はなく、論旨は、理由がない。 第二控訴趣意中、事実誤認及び法令適用の誤りの主張について一控訴趣意第三の一ないし三について 1 所論は、要するに、原判決は、被告人三名が、Aを殺害するに当たり、それぞれに強盗殺人の故意があり、事前に金品を強取する共謀を遂げた上、Aを殺害して現金や貴金属類を強取したとの事実を認定判示し、一方、その動機については明確な判断を示していないが、被告人三名にはいずれも強盗殺人の故意がなく(控訴趣意第三の二)、事前に被告人ら相互間で金品強奪の共謀を遂げたこともなく(前回の一)、Aを殺害した動機は、ただ監 ついては明確な判断を示していないが、被告人三名にはいずれも強盗殺人の故意がなく(控訴趣意第三の二)、事前に被告人ら相互間で金品強奪の共謀を遂げたこともなく(前回の一)、Aを殺害した動機は、ただ監禁状態から逃げるためであった(前回の三)のであるから、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実認定の誤りがあるというのである。 2 そこで、原審記録及び証拠物を調査して検討すると、原判決挙示の関係各証拠を総合すれば、原判決が認定判示する罪となるべき事実(「犯罪事実」と表示)は、被告人三名にそれぞれ強盗殺人の故意があり、事前にその旨の共謀を遂げた点を含め、概ね正当としてこれを維持することができ、原判決が「争点に対する判断」の項の一5以下で説示しているところも、大筋においてこれを正当として是認することができ、原審で取り調べたその余の証拠及び当審における事実取調べの結果を合わせて検討しても、原判決には、所論のような判決に影響を及ぼすことが明らかな事実認定の誤りはない。以下に、若干補足して説明する。 3 (一) まず、前提として、被告人ら相互間の関係、被告人らとAとの関係、被告人らの生活状況その他、本件犯行に至るまでの経緯についてみると、関係各証拠を総合すれば、次のような事実が認められる。すなわち、(1) 被告人Fは、平成三年(一九九一年)三月一六日、日本国に入国したものである。同被告人は、タイに住む知り合いの者から、日本でレストランのウエイトレスとして働けば給料がよいので同被告人の両親によい仕送りができるなどという誘いを受け、世話役として紹介された者から航空便の運賃のほかパスポートを取得するのに要した費用や衣類代などの立て替えを受けたことから、右世話役の者に連れられて、同日、飛行機で成田空港に到着したが、その際、自分自身の所持金として れた者から航空便の運賃のほかパスポートを取得するのに要した費用や衣類代などの立て替えを受けたことから、右世話役の者に連れられて、同日、飛行機で成田空港に到着したが、その際、自分自身の所持金としては日本円にして一〇〇〇円にも満たないものであった。ところが、同被告人は、成田空港に到着直後、右世話役の者から、同被告人名義のパスポートと入国審査の際の見せ金として渡されていた現金などを取り上げられ、右世話役の者や途中から加わったタイ人や日本人らに、同様の趣旨で連れとなっていたタイ人女性三名とともに、同空港近くのホテルやアパート三か所を連れまわされて、三か所目のアパートで、A(当時二八歳)に引き合わされ、同被告人においてはAと一緒に行くよう指示されるとともに、同被告人名義のパスポートなどをAの方に引き渡されるに至った。 (2) 同被告人は、その直後、Aから、お前はAに対して三五〇万円の借金があるので、売春の仕事をして返せという趣旨のことを言われ、同被告人の持つ身分証明書などの入っていたハンドバッグを取り上げられた。そして、同被告人は、同日、Aに、千葉県佐原市内のアパートに連れて行かれ、同夜から近くのスナックに働き出され、その後は、右アパートに住む二、三〇人のタイ人女性とともに、店に来る客を相手に売春を行わされていた。その後、同被告人は、Aに連れられ、茨城県つくば市h所在のスナック「M」や同県稲敷郡i村所在のスナックに移り、Aと同じアパートに住まわされて、同様の売春の仕事を行うことを強制され、さらに、同年五月下旬、同県下館市大字fj番地のk所在のgアパートl号室に移り、その後は同アパートに住み、同県真壁郡m町所在のスナック「P」でホステスとして働くとともに、店の客らを相手に売春を行うことを強いられていた。 (3) 被告人G及び同Hはいずれも、同 トl号室に移り、その後は同アパートに住み、同県真壁郡m町所在のスナック「P」でホステスとして働くとともに、店の客らを相手に売春を行うことを強いられていた。 (3) 被告人G及び同Hはいずれも、同年八月一一日、一緒に日本国に入国したものである。同被告人らも、被告人Fと同様に、それぞれ知り合いの者から、日本の工場で働けば高齢の母親によい仕送りができる(被告人G)、あるいは日本のレストランでホステスとして働けば給料もよく、前借りもできるので両親や子供に十分送金ができる(被告人H)などという誘いを受け、航空便の運賃のほかパスポートを取得するのに要した費用などの立て替えを受けたことから、世話役の者らに連れられて、同日、たまたま同行する形で飛行機で成田空港に到着した。そして、被告人G及び同Hは、右世話役の者らに連れられて、成田空港近くのホテルに一泊後、東京のホテルで一泊し、さらに右世話役の者らの知り合いの者の住むアパートへ連れて行かれ、その間に同被告人ら名義の各パスポートを取り上げられ、同月一五日、右世話役の知り合いの者に連れて行かれた千葉県内のアパートにAがやって来て、同被告人らのパスポートの引き渡しを受けたAから一緒に来るように指示された。 (4) 被告人G及び同Hは、同日夜、Aに連れられてgアパートl号室に到着し、翌一六日、同女に伴われて買い物に出かけたが、買い物から帰って来た際、同女から、自分はあんたたちを買ったのだから、あんたたちは三五〇万円の借金を返さなければならない、買って来た物の代金も借金になる、部屋代も月五万円が借金に加わるという趣旨のことを告げられた。そして、同被告人らは、同日夕方、車に乗せられて、スナック「P」に出勤させられ、さらに、Aから、客と一緒にホテルに行って売春をしろということを言われて、実際にそれぞれ紹介された 旨のことを告げられた。そして、同被告人らは、同日夕方、車に乗せられて、スナック「P」に出勤させられ、さらに、Aから、客と一緒にホテルに行って売春をしろということを言われて、実際にそれぞれ紹介された客と一緒にホテルに赴かされるに至り、同日夜以降は、被告人Fと同じく、gアパートl号室に住み、毎晩スナック「P」に出かけてホステスとして働くとともに、店の客らを相手に売春を行うことを強いられていた。なお、被告人らと同様にgアパートl号室に住み、スナック「P」で売春の客を取らされるタイ人女性は、被告人らのほかにも二〇人前後いた。 (5) 被告人三名は、こうして、Aから売春を行うことを強いられ、さらに同女には、被告人らの前記借金の返済に充てるということで、客の支払う売春の対価を全て取り上げられ(ただし、Aは、そのうちから客一人につき五〇〇〇円をスナック「P」の経営者に支払うということをしていた)、被告人ら自身としては、「P」から給料等の支払いを受けたことがなく、売春の相手がくれるいわゆるチップだけが唯一の収入になっていたが、Aに見つかると借金の返済に充てると称してこれまでも取り上げられるおそれがあったため、同女に知られないようにこっそりと隠していた。さらに、被告人三名は、Aから、部屋代や食事代、買った衣類の代金なども借金の上乗せになると告げられていたほか、土曜日曜に売春の客がいないときは五〇〇〇円が、三日間客がつかないときは一日分が罰金として借金に加算され、さらに、日本に来てから七か月以内に借金を返済し終わらなければ、罰金一〇万円を加算するなどと言われていた。 (6) さらに、被告人三名は、売春の相手から屈辱的な行為を求められた際にこれを断ったりしたことが、Aの耳に入ったときは、同女から口汚く罵られたり、殴る、蹴る、髪の毛を引っ張るなどの乱暴を いた。 (6) さらに、被告人三名は、売春の相手から屈辱的な行為を求められた際にこれを断ったりしたことが、Aの耳に入ったときは、同女から口汚く罵られたり、殴る、蹴る、髪の毛を引っ張るなどの乱暴をされたりし、また、日頃から、同女に、お前たちは勝手に外出するな、国元に電話をかけたりするななどと厳しく言われ、さらには、もしお前たちが逃げ出したりすれば、必ず捜し出して殺すし、お前たちの親もタイにいる者に殺させるという趣旨のことを激しい口調で言われたりした。 (7) 被告人F及び同Hは、同年九月一七日ころの夜、Aが留守の折りをみて、無断でgアパートから外出し、近くのスーパーマーケットで菓子を買って来たが、これを仲間の告げ口で知ったAから、同月一九日又は同月二〇日ころ、「勝手な行動するな、国際電話を掛けるな」「外出禁止」などと怒鳴られ、その際、被告人Fが、「電話位いいでしょ」と言い返したりしたことから、Aに、「借金のことを考えろ、お前ら気をつけろ」などと怒鳴られたり、被告人らを激しく貶めるような言葉で罵られたりした。 (8) さらに、被告人F及び同Hは、同月二〇日前後ころ、それまで二段ベッドの置かれていた部屋で寝起きしていたことから、両名がベッドの上で言葉を交わしていたところ、Aに部屋に入って来られ、「お前たちどうして二人でいるの、何しているの、すぐ降りなさい」「お前らあんまり問題を起こすんじゃないよ」などと叱責された上、被告人HはAと同じ部屋で寝起きするよう命じられた。 (二) 被告人三名がAを殺害した際の具体的状況や、その直後にAの身につけていた貴金属類や、パスポートの在中したウエストバッグなどを奪い取ったりした状況等については、被告人三名の各供述はそれぞれ、捜査段階から公判段階を通じ、大筋において供述の変遷はなく、また、被告人らの各供 た貴金属類や、パスポートの在中したウエストバッグなどを奪い取ったりした状況等については、被告人三名の各供述はそれぞれ、捜査段階から公判段階を通じ、大筋において供述の変遷はなく、また、被告人らの各供述相互間でも、細部はともかく、基本的にはほとんど食い違いはない。また、本件犯行前に、Aを殺すことなどに関し、被告人らの間で一定範囲の話を交わしていたことについては、被告人三名とも、公判段階における各供述中でも認めている。すなわち、被告人三名の捜査段階及び公判段階における各供述を総合し、その余の関係各証拠と合わせ考えれば、次のような事実を認定することができる。 (1) まず、被告人らが、Aを殺すことなどに関し、話を交わした状況としては、少なくとも、次のような事実が認められる。すなわち、「1」被告人Fは、前記(一)の(8)認定のように、右九月二〇日前後ころ、ベットの置かれていた部屋で被告人Hと話し合っているのをAに叱られ、同被告人にAの寝る部屋に移るよう命じられた直後ころ、同被告人に対し、Aを殺してここから逃げ出そうという趣旨のことを話し、同被告人においてもこれに賛同する態度を示したこと、「2」その後、被告人Hが、被告人Gに対し、「FがAを殺して逃げようということを言っているが、一緒に来るか」という趣旨の話をし、同被告人においても「一緒に行く」という趣旨の返事をしていたこと、「3」同月二八日夜、スナック「P」において、被告人Fが、被告人Hに対し、カラオケの申込み用紙に「今晩はどうか」という趣旨のことを書いたメモ書きを渡したが、同被告人は、「まだです」などと書いたメモを被告人Fに渡していることなどは十分に肯認できる(なお、金品強取の相談の有無、共謀の成立時期などについては、後に詳しく検討する。)。 (2) また、本件犯行の準備に関し、「1」被告人 と書いたメモを被告人Fに渡していることなどは十分に肯認できる(なお、金品強取の相談の有無、共謀の成立時期などについては、後に詳しく検討する。)。 (2) また、本件犯行の準備に関し、「1」被告人Fは、gアパートの別棟に住み、スナック「P」で働かされているタイ人女性の一人がけん銃を持っているという話を聞いたことから、同月二七日ころ、同女にその持つけん銃(後にモデルガンと判明)を見せて貰い、これを借り受けることについて同女の承諾を得たこと、「2」また、同被告人は、そのしばらく前ころ、ベッドの置かれていた部屋で果物ナイフ(当庁平成六年押第三〇五号の1)を発見したことから、被告人Hに、これを隠しておくように依頼して渡していたことなども認められる。 (3) 本件犯行の直前の状況、犯行の具体的状況などについは、次のような事実が明らかである。すなわち、「1」 被告人三名は、同月二八日夜、いつものとおり、スナック「P」に出勤したが、被告人Fは、売春の客が付かなかったので、翌二九日午前一時ころ、A及び仲間のタイ人女性一人と一緒にgアパートl号室に帰り、Aが台所で食事を作ったのに引き続いて、同被告人も食べ物を作って食事を済ませたこと、同被告人は、その直後ころ、前記けん銃を持つ女性の部屋を訪れ、同女の使うベッドの下からけん銃を取り出して来て、ベッドの置かれた部屋の自分のベッドの下にこれを隠し置いたこと「2」 それぞれ売春の客とホテルに赴いていた被告人H及び被告人Gも、同日午前三時ころ、gアパートl号室に帰って来て、台所やこれに引き続く居間で、被告人Fらの作っておいた食事を食べた後、和室六畳間において、一番奥に布団を敷いて寝ているAの隣の布団に被告人Gが、入口側の布団に被告人Hがそれぞれ横たわり、眠ってしまったこと、被告人Fにおいても、自分のベッド 作っておいた食事を食べた後、和室六畳間において、一番奥に布団を敷いて寝ているAの隣の布団に被告人Gが、入口側の布団に被告人Hがそれぞれ横たわり、眠ってしまったこと、被告人Fにおいても、自分のベッドに入ったり、居間でテレビを見たりしていたが、そのうち眠り込んでしまったこと「3」 被告人Fは、同日午前六時ころ、目を覚ましたが、仲間のタイ人女性一人が自分と同じ部屋のベッドで寝ているだけの様子であつたことから、和室六畳間にこっそりと入り、被告人Hの体に手で触って、同被告人を起こしたこと、同被告人らは、被告人Hが起き上がり、居間にやって来た後、被告人Fが「Hやるか」と尋ね、被告人Hが「本気か、本当にやるのか」などと尋ね返し、さらに、被告人Fが「本気だ」、被告人Hが「じゃあやろう」などという問答を行つて、お互いの意思を確認したこと、なお、その間に、仲間のタイ人女性一人が外から帰って来たが、まもなく外へ出ていったこと「4」 被告人F及び同Hは、被告人Fが、前記けん銃を自分のベッドの下から取り出して来て、被告人Hに渡し、「これでやろう」などと言ったりしたが、けん銃を用いると大きな音がして、近所の家に聞こえてしまうおそれがあるなどという話になり、けん銃の使用は取り止めることにしたこと、次いで、被告人Fが、和室六畳間に入って、Aに気付かれないように被告人Gを指でつつくなどして、同被告人を起こした上、「今日本当にやるよ、恐くないか」などと声をかけたこと、これに対し、同被告人も、目を覚まし、「恐くない」などと言って起き上がり、いったん和室六畳間を出て、トイレや風呂場に行ったこと、その間に、被告人Hにおいては、風呂場の中で右けん銃を調べてみたところ、銃口に棒が渡してあることなどが見え、本物でないと知ったこと「5」 被告人三名は、次々と和室六畳間に入っ 風呂場に行ったこと、その間に、被告人Hにおいては、風呂場の中で右けん銃を調べてみたところ、銃口に棒が渡してあることなどが見え、本物でないと知ったこと「5」 被告人三名は、次々と和室六畳間に入って、被告人Hの布団の上に座り、同被告人の持ち帰っていたけん銃や、被告人Fが台所から持って来た包丁などを横に置き、さらに同被告人が被告人Hに「ナイフはどこ、出して」などと言って、同被告人の隠し置いていた本件果物ナイフを取り出させ、これからAを殺害することなどについて小声で話し合い、その間に、被告人Fが居間の冷蔵庫の上にあった日本酒の四合瓶を持って来たり、被告人Hも、いったん家の外に出て小型の鍬を持って来たりし、これから本件犯行を決行することにしたこと、その際、まず最初に果物ナイフでAののどの辺りを突き刺すことにしたが、誰がこれを行うかについて、被告人三名ともしり込みし、結局、半ば押し付けられる形で被告人Gが行うことになったこと「6」 こうして、被告人三名は、同日午前七時ころ、和室六畳間において、奥の布団の上でよく寝込んでいるAの脇に近寄り、Aが寝返りを打って仰向けになったとみるや、被告人Fが「よし、今だ」などと声をかけ、被告人Gがこれに応じる形で、右手に握った本件果物ナイフを振り上げて、Aののどの辺りを一回深く突き刺したこと、同被告人は、そのまま本件果物ナイフの柄から手を離してしまったものの、被告人Fに向かって、「早く早く」などと声をかけ、その際、Aが「誰」と言いながら起き上がろうとする気配を示したことから、被告人HがAの両足を両手で押さえ込み、被告人Fが、左手に持った前記酒瓶を振り上げてAの頭部を三回位強く殴りつけ、そのため右酒瓶が割れて飛び散るに至り、さらに引き続き、被告人Hが小型鍬の刃の背の部分でAの頭部を殴打したこと「7」 被告 告人Fが、左手に持った前記酒瓶を振り上げてAの頭部を三回位強く殴りつけ、そのため右酒瓶が割れて飛び散るに至り、さらに引き続き、被告人Hが小型鍬の刃の背の部分でAの頭部を殴打したこと「7」 被告人三名は、Aがのど付近や口などから血を流し、ぐったりした状態で横たわり身動きしなくなった後、まず、被告人Fが、Aの首、手首などに装着していたネックレスやブレスレットなどを剥ぎ取り始め、他の被告人らにも手伝うよう声をかけたこと、被告人HもAの手の指や手首から指輪やブレスレットなどを剥ぎ取り、足首からもアンクレットを外し取ったこと、また、被告人Gも、Aが腰に巻き付けていた皮製のこげ茶色ウエストバッグを同女の体から外し取ったこと、その後、被告人三名は、それぞれ血で汚れた手を洗いに風呂場などに行ったり、自分の洋服だんすから衣類などを取り出して大きなバッグに詰めたりし、被告人Gにおいては血の付いた上着をTシャツに着替え、さらに和室六畳間において、右のようにAの身から取り外したネックレス等の貴金属類をバスタオルにくるんだものや、Aの枕元においてあった同女の持ち物である皮製赤色手提鞄を、被告人Fの持って来た大きなバッグの中に入れ、また、右ウェストバッグを被告人Gの持って来た大きなバッグの中に入れたこと「8」 被告人三名は、Aの顔の上に布団を被せたり、包丁や小型鍬を風呂場に持って行つたりして、その場の状況を一応取り繕った後、全員がそれぞれショルダーバッグを持ち、被告人F及び同Gが右の大きなバッグ各一個を持って、gアパートl号室の裏口から外に出て、裏口にはドアに付いていた鍵を使って施錠し、その鍵はその近くに投げ捨て、逃走を始めたことなどの事実が認定できる(4) 被告人らの逃走後の状況についても、次のような事実は明らかである。 すなわち、「1」 被告人 ていた鍵を使って施錠し、その鍵はその近くに投げ捨て、逃走を始めたことなどの事実が認定できる(4) 被告人らの逃走後の状況についても、次のような事実は明らかである。 すなわち、「1」 被告人三名は、近くのスーパーマーケット前の公衆電話を使い、タクシー会社に電話をがけてタクシーを呼び、まもなくやって来たタクシーに乗って、被告人Fが片言の日本語で指示しながら、前記(一)の(2)掲記の茨城県つくば市h所在のスナック「M」に向かわせ、同スナック前には到着したものの、戸が絞まり誰もいない様子であったため、その近くのホテル「N」までタクシーを走らせて、同ホテルにチェックインしたこと「2」 被告人三名は、同ホテルの客室において、前記皮製赤色手提鞄を開けようとし、数字合わせの鍵が付いていたことから、同鞄のポケットの内側の布を持ち合わせの爪磨きで切り裂き、中にカッターナイフがあったのを幸い、横の皮をこれで切り開いて中に入っていた物を取り出し、各被告人名義のパスポートや身分証明書、戸籍謄本などが見つかったので、各被告人がそれぞれに自分のものを取って、ショルダーバッグなどの中に入れ、また、被告人F及び同Hにおいては着たままでいた血の付いたパジャマなどを脱ぎ、バッグに詰めてきていたシャツやズボンに着替えたこと、その後、被告人らは、フロントに頼んで、タクシーを呼んでもらい、タクシーに乗って再びスナック「M」に向かい、被告人Fが同スナックに行き、マスターを呼び出し、前に同被告人がこの店で働いていたときに客から書いてもらった電話番号のメモを手掛かりに客の所在場所を調べようとしたものの、マスターが不在であったため、これを諦め、タクシーの運転手に右メモを見せて、その市外局番の使われている場所に行って欲しいと頼んだこと「3」 被告人三名は、タクシーの運転手も 調べようとしたものの、マスターが不在であったため、これを諦め、タクシーの運転手に右メモを見せて、その市外局番の使われている場所に行って欲しいと頼んだこと「3」 被告人三名は、タクシーの運転手も目的地がよく分からなかったため、途中から「ホテルに行って下さい」などと言い、結局、右九月二九日午後一時前後ころ、千葉県市原市ab番地のc所在のJホテルにタクシーを着けられたため、同ホテルに宿泊を申し込み、同ホテルd階e号室に案内されたこと、被告人三名は、同室内において、シャワーを浴びるなどして備付けの浴衣に着替えたりするとともに、バスタオルにくるんで持って来た、血の付いたネックレスやブレスレットなどを洗面台に入れて洗ったりし、さらに、前記ウエストバッグを開き、中に七〇〇万円余りの現金が入っているのを発見するや、札束を分けて各被告人に二二〇万円ずつ分配し、残った四〇万円余りは被告人Hが預かり、食事代や交通費などの共通に必要な費用に使うことにしたこと、その後、同日午後一時半過ぎころ、同室に警察官らにやって来られたことなどの事実が認定できる。 4 ところで、被告人三名は、Aの殺害を決意するに至った動機や、本件犯行に際しての実際の気持ち、被告人らの間の具体的な相談内容などに関し、次のような供述をしている。もっとも、いずれも、捜査段階における供述と公判段階における供述との間で一定の食い違いがあることは、これまでにもみたとおりである。 (一) (1) まず、被告人Fは、検察官に対する各供述調書(原審検察官請求証拠番号乙第一八号ないし第二一号)において、自分たちは、Aから「お前たちが逃げたらタイにいるお前たちの両親を殺す」などと脅されていた、Aは、本当に殺すのか、逃げられないために脅しで言っているのか分からなかったが、本当に殺されたら大変だと思って逃げら 、Aから「お前たちが逃げたらタイにいるお前たちの両親を殺す」などと脅されていた、Aは、本当に殺すのか、逃げられないために脅しで言っているのか分からなかったが、本当に殺されたら大変だと思って逃げられなかった、自分は、このようなAを、日増しに憎いと思うようになり、そのことをHに話したらHも、Aが憎いと言っていた、GもAを憎んでいた、自分がAを殺そうと考えたのは事件を起こす一週間か一〇日ほど前の九月一九日か二〇日ころだったと思う、その二、三日前の夜、Aが留守だったので、Hと近くに買い物に出掛けたところ、二、三日してから自分とHがAから勝手に外出したり国際電話をかけたりするなどと怒鳴られたので、自分が、「電話位いいでしよう」などと言い返したところ、Aから、「借金のことを考えろ、お前ら気をつけろ」などという意味のことをひどく汚い言葉で言われた、そのとき、Aにバッグに入れておいた戸籍書や身分証明書、結婚証明書を取られてしまった、そんなことから、ますますAに対する憎しみが増し、こうなったらAを殺してパスポートやブレスレットなどの貴金属、現金などを奪ってタイへ帰ろうと考えた、その晩、自分らの部屋のベッドのところでHと話をしていた際、Hに「Aが憎い、Aを殺してパスポートや現金、貴金属などを奪って逃げよう」と言ったところ、Hも同じようにAを殺そうと思っていたらしく、二人の意見が一致した、次の日の朝か、二、三日後だったか、Hと二段ベッドの上にいたところ、Aから「お前らどうして二人でいるの、何しているの、直ぐ降りなさい、お前らあんまり問題を起こすんじゃないよ、Hは私の部屋で寝なさい」などと文句を言われた、そのときも、自分とHは、「ボスのAを殺そう、やられる前にやろう、ボスを殺してバッグを奪おう」などと相談した、その後も、アパートでHと一緒に風呂に入った際と 私の部屋で寝なさい」などと文句を言われた、そのときも、自分とHは、「ボスのAを殺そう、やられる前にやろう、ボスを殺してバッグを奪おう」などと相談した、その後も、アパートでHと一緒に風呂に入った際とか、店の「P」で「今晩殺そうか」などとカラオケの申込み用紙にメモしたものをやり取りして相談した、Hと相談しているうちに「逃げるときはアパートの裏の台所から逃げよう、逃げるのに一番大切な物はパスポートだ、逃げるには金が必要だ、お金はウェストポーチに入れているのでボスを殺してウェストポーチを奪おう、ネックレスやブレスレットはお金に替えることもできる」などという話になった、自分は、Aを殺そうと思ってから、どのような方法がよいかいろいろ考え、けん銃とかナイフを使ってAが寝ているときに殺そうと思った、九月二九日午前三時ころ、HやGがアパートに戻って来たので、食事をした後Hと二人だけになった際、自分は、Hに「誰も帰って来なかったら、今日やりましよう」とAを殺して金などを奪って逃げようと言うと、Hもうなずいた、前にHからGにボスのAを殺して現金やパスポートなどを奪って逃げようと話してGも承知していると聞いていたので、三人でAを殺すことにした、それからしばらく寝た後、午前六時ころ、目が覚めたので、部屋などを見回したところ、Qという女性が自分と同じ部屋のベッドで寝ているだけだったので、今日これからAを殺そうと考え、Hを起こしてHに「Hやるか」というと、Hは、「本当にやるのか」と言うので、「本気だ」と言った、すると、Hも「じゃあやろう」と言った、そして、Hにけん銃を渡して、「これでやろう」などと話しているうち、これで殺したら大きな音がして近所の人に聞こえてしまうから、まずいということになって、けん銃を使用することは止めにした、Hからこのけん銃はおもちゃじゃない て、「これでやろう」などと話しているうち、これで殺したら大きな音がして近所の人に聞こえてしまうから、まずいということになって、けん銃を使用することは止めにした、Hからこのけん銃はおもちゃじゃないかとも言われた、それから、Gを起こし、Gに「今日本当にやるよ、恐くないか」などと言って、Aを殺してお金などを奪って逃げるけど恐くないかと聞いたところ、Gも「恐くない」と言った、それから、自分は、食器かごの中から包丁を持ち出し、Hの布団の上で三人で「今からボスを殺そう」などと話した、そのうち、自分は、包丁よりもナイフの方がよいと思って、Hにナイフを出すように言って果物ナイフを持って来させ、「今からやろう、ナイフで喉を刺す」などと話し、三人で「今からボスのAを殺して現金やパスポートなどが入った赤いバッグやウェストポーチを持って逃げよう」ということになったなどという趣旨の供述をしている。 (2) 被告人Fは、原審公判廷における供述や同被告人作成の手紙等においては、次のような供述をしている。すなわち、同被告人は、Aから怒られ、罵られ、自分のできないことを強要されて、何も言うことができず、抵抗もできなかったので、本当にAが憎いと思った、九月二〇日ころには全くひどいことをされて、Aを殺してやりたいと思うほど、激しい憎しみを抱くようになった、Hには、逃げたい、どうしたら逃げられる、パスポートもほかのものも取り上げられたから、殺したい、殺して逃げたいなどと話した、九月二九日の朝、アパートに誰も帰っていなかったので、自分としては、逃げられるなら、このときに逃げようと思ったが、逃げても逃げきれないと思った、逃げて行っても、Aが自分を捜し出して殺すと言っていたし、私の両親を射殺すると言っていたからである、逃げて行っても、逃げきれないと思ったので、自分が殺されない ったが、逃げても逃げきれないと思った、逃げて行っても、Aが自分を捜し出して殺すと言っていたし、私の両親を射殺すると言っていたからである、逃げて行っても、逃げきれないと思ったので、自分が殺されないためにAを殺そうと決心した、Aに暴行を加える前に、Aの貴金属とか、高価なものを取ろうと思ったことはない、ただ、逃げるとき、自分のパスポートとか、必要大切な書類を持って逃げて行こうと思っていたなどと述べている。 (二) (1) また、被告人Gは、検察官に対する各供述調書(乙第三二号ないし第三五号)において、Aは、店に来る客を相手に売春をするように言った、自分は、逃げようと思ったが、道も分からず、お金もなかったため、Aの言うままになるほかないと思って売春をするようになった、Aから「逃げたらどこにでも行って見つける、もっとひどいところに送って働かせる、本国の家族を殺す」などと言われ、恐ろしかった、Aは、自分たちが逃げないようにこのように言っていると思ったが、Aが自分の親のいるところも知っていたし、逃げても追ってきて殺されると思っていた、売春をしてもAは、全くお金をくれなかった、Aは、言うことをきかないと暴力を振るうので、とても恐がった、客がつかないと、何で客を取らないと言って文句を言ったり、殴ったりした、自分は、Aのために、こういう思いまでしてお金のもらえない売春をしなければならなくなったと考え、Aを憎らしいと思っていた、Aは、FやHにも文句を言ったり、物を投げたりしていた、九月の一九日か二〇日ころ、HがAと喧嘩して、自分の部屋に来て興奮を押さえるようにタバコを吸っていたので、どうしたのか聞いたところ、Hは、「近いうちにAを殺す、お金や貴金属を取っちゃうから手伝ってくれ」などと言ってきた、自分自身も、Aに恨みがあつたので、Hと一緒にAを殺してお金 バコを吸っていたので、どうしたのか聞いたところ、Hは、「近いうちにAを殺す、お金や貴金属を取っちゃうから手伝ってくれ」などと言ってきた、自分自身も、Aに恨みがあつたので、Hと一緒にAを殺してお金等を奪ってやろうと思い、Hに「やりましよう」と返事をした、Hは、「今まで働いたお金を取り返してやる、逃げるにもお金が必要だ」などと言っていた、自分がパスポートも大事だと言うと、Hは、パスポートは赤い鞄に入っていると言っていた、Hは、その後、Fの部屋に行って、Fに「Gにも話した」と言っていたので、FとHは二人で相談していたのだなと思った、そして、九月二七日ころにも、Hから近いうちにAを殺すという話を聞いた、九月二九日朝七時前ころ、Fに起こされ、「今日本当にやるよ」と言われた、そのときHもFと一緒にいた、自分は、本当にAを殺してお金やネックレスを奪うんだなと思ったが、実際に人を殺すとなると、恐ろしくなった、三人が布団の上に座っていたとき、Fが「本当にやるよ」と自分とHに言った、自分は、HとAを殺してお金等を奪い取る話をしており、Fも一緒にやると分かっていたので、今から三人でAを殺してお金等を奪うのだなと思ってうなずいたなどという趣旨の供述をしている。 (2) 被告人Gは、原審公判廷における供述や同被告人作成の手紙等においては、次のような供述をしている。すなわち、同被告人は、Aにむりやり売春をさせられた上、殴られたり口汚く罵られたりして、ひどい人、思いやりのない人と思い、逃げ出したかった、性病にまで罹らされて恨みに思った、しかし、Aから、私が逃げたら私を捜して殺す、私のタイにいる親も殺すと言われたので、逃げられなかった、自分は、Aを殺そうと思ったのは、Hの布団の上に瓶と包丁とけん銃があるのを見たときである、Fは、Aを刺してタイに帰れると言った、そ 捜して殺す、私のタイにいる親も殺すと言われたので、逃げられなかった、自分は、Aを殺そうと思ったのは、Hの布団の上に瓶と包丁とけん銃があるのを見たときである、Fは、Aを刺してタイに帰れると言った、それまで殺すということを考えたことはない、事件の二週間位前に、Hから、もし何かあったら一緒に行こうかと聞かれたので、自分は、「はい、行く、どこでも一緒に行く」と答えた、その際、自分が「パスポートは」と聞いている、殺して更にお金を取ろうという話はなかったなどという供述をしている。なお、同被告人は、原審第二二回公判廷における供述中では、自分は、Aを殺すつもりはなかったと述べ、「ナイフで刺しておりますね」という質問に「はい」と答えたのち、「それで死ぬとは思わなかったのですか」という質問に対し、「そのとき知らなかった」と答え、殺意のあったことを全く否認している。 (三) (1) さらに、被告人Hは、検察官に対する各供述調書(乙第五一号ないし第五四号)において、自分は、平成三年七月中旬ころ、自分が、「P」で他のホステスに「お客さんと話ができなくて困った、日本語が分からなくて困った」と言ったところ、Aから、「これくらいのことでどうするの、あなた嫌になって逃げるつもり、逃げるなら逃げてもいいよ、捜して殺すし、あなたのお父さん、お母さんも殺す」などと脅かされた、また、アパートに戻ってからも、Aは、「一人で出ては駄目、タイに電話するのも駄目、私は力を持っている、あなたの親を殺すことはすぐできるわ」などと言っていたので、ボスの言うことを聞いていた、FがAを殺すという話をしたのは九月一九日ころだったと思う、自分とFが、九月一七日の昼ころ、食べ物を買いに出掛けたことがAに分かってしまい、一九日ころの夜、二人がベッドのところで話をしていると、Aが部屋に入ってきて、「私 したのは九月一九日ころだったと思う、自分とFが、九月一七日の昼ころ、食べ物を買いに出掛けたことがAに分かってしまい、一九日ころの夜、二人がベッドのところで話をしていると、Aが部屋に入ってきて、「私のいない間に勝手にどこへ行ってきたの、また、勝手に電話したんでしようね、鞄の中見せてちょうだい」と言って二人の鞄を持って行ってしまった、また、Aは、自分に対し、「お前あんまり問題を起こすんじゃないよ、お前は、私の方の部屋で寝なさい」などと言って怒った、自分とFは、その日、ベッドの上で「逃げるには、Aを殺さなければならない、タイに帰るには、パスポートや現金が必要なので、パスポートなどが入っているウエストポーチを奪おう」などと話し合った、その日、自分は、Gに、その話をすると、Gは、ボスを殺して現金やパスポーチ等を奪うことに賛成し、「そのときは、Aの持っているパスポートやお金の入っているウエストポーチを持って行こうね、Fちゃんも一緒にやろう」というようなことを言った、そのことをFに話したところ、Fは、Gがボスに告げ口をするのではないかと心配したが、Gも同じ気持ちだと言うと安心したようだった、そのようなことがあってから、Fと二人で毎日のようにAを殴るような恰好をしたり、ナイフで刺して殺すような恰好をして暮らすようになった、九月二八日午後八時か九時ころ、「P」にいたとき、Fが自分にカラオケの申込み用紙を見せたが、それには、タイ語で「今晩いかが」と書いてあった、Fが、Aを殺してパスポートや現金等を奪おうと言っていることが分かったので、自分は、Fに「まだまだ」と言った、自分は、九月二九日午前三時ころ、Gと一緒にアパートに戻って四時ころ寝たが、午前六時ころ、Fに起こされ「今やろうか」などと言ってきたので、今からAを殺してパスポートや現金等を奪うんだなと思っ った、自分は、九月二九日午前三時ころ、Gと一緒にアパートに戻って四時ころ寝たが、午前六時ころ、Fに起こされ「今やろうか」などと言ってきたので、今からAを殺してパスポートや現金等を奪うんだなと思った、そこで、Fに「本当にやるのか」と聞くと、Fは、「まだ恐いのか」などと言いながらテーブルのある部屋の方に行った、GもFに起こされたと思った、そして、三人がそろったので、自分は、FとGに「本当にやるのか」と聞くと、FもGもうなずき、三人でAを殺すことになった、Fが、自分とGに小さな声で「Aを殺して赤い鞄とウエストポーチ、金をとって逃げよう」と言ったので、自分とGはうなずいた、赤い鞄やウェストポーチには、現金、パスポート、貴金属類が入っていることは分かっていたので、これらを奪って逃走資金に使うつもりだったなどという趣旨の供述をしている。 (2) 被告人Hは、原審公判廷における供述や同被告人作成の手紙等においては、次のような供述をしている。すなわち、同被告人は、Aに売春を強制された上、殴る蹴るなどの激しい暴力を振るわれ、汚い言葉で罵られた、自分は、怒って、もう本当に殴りたい、殺したい、どうしたら痛めつけることができるかと思っていた、Fも同じで、怒っているということをお互いに話し合ったりした、しかし、実際殺害しようと思ったのは、その当日である、Gが起きた後、三人が、もうここは我慢できない、逃げよう、でもAが生きているかぎり逃げられない、逃げても後を追いかけられる、両親も自分もAに殺される、逃げるならAが死んでから逃げようなどと話し合った、赤いバッグに入っていたパスポートについては、取り返して逃げようとA殺害前から思っていた、Aから現金を取ろうとか、貴金属を取ろうと思ったことはないなどという趣旨の供述をしている。 5 (一) 以上検討したところによ いたパスポートについては、取り返して逃げようとA殺害前から思っていた、Aから現金を取ろうとか、貴金属を取ろうと思ったことはないなどという趣旨の供述をしている。 5 (一) 以上検討したところによると、前記3(二)の(3)認定の本件犯行の直前の状況、犯行の具体的状況などに照らし、被告人三名が、和室六畳間の被告人Hの布団の上に座り、けん銃や包丁、被告人Hの取り出した本件果物ナイフなどを横に置き、これからAを殺害することなどについて小声で話し合い、被告人Fが日本酒の四合瓶を持って来たり、被告人Hが、小型の鍬を持って来たりした際、被告人三名の間で、Aを殺害することの共謀を遂げたことは明白である。もっとも、右の共謀成立に至るまでに被告人らがそれぞれいつどのような具体的な殺意を抱いていたかどうかをみると、被告人三名の間で若干の違いのあることが認められる。すなわち、被告人Hに対し、Aを殺害して逃げ出そうと話しかけたのは、被告人Fであること、本件当日、殺害行為に出ることを他の被告人らに呼びかけ、また、前記3(二)の(2)認定のように、本件犯行前に凶器として用いることのできるけん銃をホステス仲間のタイ人女性から借りられるよう手配したり、被告人Hに、本件果物ナイフを隠しておくように依頼して渡したりしているのも、被告人Fであることなどをみると、かなり早くから殺意を固め、他の被告人らに働きかけて本件犯行を実現させたのは、同被告人であることが認められる。一方、被告人Gにおいては、本件殺害行為においては、本件果物ナイフでAののど辺りを刺して致命傷を与えるという最も重要な行為を担当しているが、前記認定のように、被告人三名が本件直前に被告人Hの布団の上で話し合った際、同被告人や被告人Fから半ば押しつけられ、引き受けざるを得なかったものと窺われ、この点から殺意が強固 な行為を担当しているが、前記認定のように、被告人三名が本件直前に被告人Hの布団の上で話し合った際、同被告人や被告人Fから半ば押しつけられ、引き受けざるを得なかったものと窺われ、この点から殺意が強固であったとみることはできない。むしろ、本件に関し、被告人Gが当日より前に話を聞いていたのは、被告人Hからだけであり、当日まで同被告人とも詳しい話などしたことがなかったこと、その意味で、被告人Gとしては、Aを殺して逃げようという趣旨の被告人Hの話も、余り具体的なものではないと考えていたこと、いいかえると、被告人Gが具体的な殺意を抱いたのは、被告人三名が本件直前に被告人Hの布団の上で話し合った際のことであると認められる。これに対し、被告人Hにおいては、前記3(二)の(1)「1」認定のように、被告人Fとの間で、無断外出したことやベッドの置かれていた部屋で被告人らが話をしていことに関して、Aから激しく罵られたりしたことで、いずれも激しく憎しみなどを募らせて、Aを殺してここから逃げ出そうという趣旨のことを話し合った以後は、さほど長い時間ではないにせよ同被告人とAを殺害することに関し言葉を交わしていることが認められ、その間に被告人Hの抱いた殺意も次第に具体的かつ強いものになっていたものと窺われる。 (二) 次にAを殺害するに際し、金品を強取する意思があったのかどうか、その旨の共謀は成立していたのかどうか考えるに、被告人三名が、前記3(二)の(3)「7」認定のように、Aを殺害した直後に、同女の腰に巻いていた前記ウェストバッグを外し取ったり、同女の装着していた貴金属類を次々と剥ぎ取っていった状況をみると、被告人らにおいてはAを殺害する前からこのような行為に出ることを考えていたのではないかと、強く疑われるのである。この点、関係各証拠によると、タイ社会におい 属類を次々と剥ぎ取っていった状況をみると、被告人らにおいてはAを殺害する前からこのような行為に出ることを考えていたのではないかと、強く疑われるのである。この点、関係各証拠によると、タイ社会においては死者の持ち物につき日本社会とは多少異なる倫理意識があることは窺われるものの、被告人らが、Aにおいては未だ血が流れ、肌も温かく、果してすでに絶命したかどうかはっきりしない状態にあるのに、その体からその身につけていた貴金属類を次々と奪い取っていったということは、当初からそのような行為に出る意思があったことを強く窺わせるものといわなければならない。 とりわけ、被告人Fの場合、本件殺害行為が終了後、何ら躊躇なくAの装着するネツクレスなどを外し取り始めているのであって、右にみたように同被告人の殺意が極めて強固であったことと合わせ考えると、Aの身につけている貴金属類などについては、同被告人にこれを強取する意思のあったことが強く窺われるのである。 加えて、被告人三名の捜査段階における各供述においては、前記4でみたとおり、多少内容的にずれはあるものの、被告人らには、Aを殺害するにあたり、その際現金や貴金属類を奪い取ろうという気持ちがあり、こうして金品を強取することについて相談していたという趣旨の供述がある。もっとも、前記3認定のような本件における全体的な事実関係と前記4掲記の被告人三名の捜査段階及び公判段階の各供述を総合して考えると、本件が、金銭的な利得のみを目的とした犯行でないことは明らかである。被告人らが、Aを殺害しようとした動機は、主として、Aのもとで束縛されて売春などを強制されているという状態から逃れたいということにあったことはたしかである。すなわち、前記4(三)の(2)掲記の被告人Hの供述中、三人が、もうここは我慢できない、逃げよう、でもAが生き れて売春などを強制されているという状態から逃れたいということにあったことはたしかである。すなわち、前記4(三)の(2)掲記の被告人Hの供述中、三人が、もうここは我慢できない、逃げよう、でもAが生きているかぎり逃げられない、逃げても後を追いかけられる、両親も自分もAに殺される、逃げるならAが死んでから逃げようなどと話し合った旨述べる部分は、被告人らの当時の心情を示すものと考えられる。しかし一方、被告人らの原審公判廷における各供述においても、Aが憎かった、怒りを感じたなどと被告人らの感情を述べていることからも窺えるように、被告人らが殺意を抱くにあたり、Aによって自分たちが悲惨な境遇に落とされたということで、同女に対する感情的な憎しみ、憤り、嫌悪感などがあったことは十分に認められる。さらに、被告人らが、Aの殺害に際し、自分たちのパスポートを奪い返そうという考えを抱いていたことも、被告人ら自身、原審公判廷における各供述においても認めているところである。したがって、右認定のような、被告人らがAに対し殺意を抱くに至った経緯ないし動機を含め、前記3認定のような本件の全体的な客観的状況とりわけ本件殺害の具体的状況や貴金属類、ウエストバッグ等の奪取状況と、右4掲記の被告人三名の各供述を合わせ考えると、被告人三名にはいずれも、Aを殺害するに際し、従たる目的とはいえ、殺害することを手段として、Aから被告人ら名義のパスポートを含め、これを入れていると窺える前記ウエストポーチと皮製赤色手提鞄、さらにはAの身につけている貴金属類を強取する意思のあったこと、また、右のような意味での強盗の共謀が、犯行に出る直前に、和室六畳間の被告人Hの布団の上で被告人三名が話し合った際に、Aを殺害することの共謀と一体となって成立したことは、十分に肯認できるのである。 6 以上要す な意味での強盗の共謀が、犯行に出る直前に、和室六畳間の被告人Hの布団の上で被告人三名が話し合った際に、Aを殺害することの共謀と一体となって成立したことは、十分に肯認できるのである。 6 以上要するに、原判決挙示の関係各証拠を総合すれば、原判決の認定判示する罪となるべき事実は、合理的な疑いを超えて認定できるから、原判決には、所論指摘のような判決に影響を及ぼすことか明らかな事実認定の誤りはない。論旨は、理由がない。 二控訴趣意第三の四について 1 所論は、要するに、次のようなものである。すなわち、被告人三名の本件犯行は、Aが被告人らに加えた継続的かつ執拗な脅迫、暴行や、売春の強制等による監禁という急迫不正の侵害に対する防衛のため、やむを得ずなされた正当防衛行為であるから、違法性を阻却するのに、正当防衛の観念を入れる余地はないとして正当防衛を認めなかった原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実認定の誤りがあるというのである。 2 そこで、原審記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果を合わせて検討すると、本件犯行に至る経緯や本件犯行の具体的状況等は、前記一の3において詳細に認定したとおりである。そして、前記一の3認定のような客観的な事実に照らし、被告人三名が、本件犯行当時、Aの管理下にあって、gアパートl号室に住まわされ、スナック「P」に出掛けてホステスとして働くとともに、同店の客を相手に売春を行うことを強いられていたことは肯認できる。そして、Aの行っている、被告人らをして、自己の管理する場所に住まわせ、売春を行うことを強制するという行為が、それを全体的にみても、被告人らに対する不正な侵害行為であることは明らかである。しかし、Aの用いていた手段は、本件犯行のころには、直接的な暴力や、物理的方法による身体拘束などとい 制するという行為が、それを全体的にみても、被告人らに対する不正な侵害行為であることは明らかである。しかし、Aの用いていた手段は、本件犯行のころには、直接的な暴力や、物理的方法による身体拘束などというものではなく、外国人である被告人ら名義のパスポートを自分が管理する、売春の報酬などを被告人らに引き渡さないなどということのほか、被告人らに対し、もし逃げ出せば必ず捜し出して逃げた者本人を殺すとともに、タイにいるその者の親も殺すという趣旨のことを言って、心理的な強制を図るという手段であったことが認められる。もっとも、gアパートl号室から外出することが、施錠や監視により不可能な状態にあったものではなく、被告人らが無断で外出した場合に、Aから罵られたりしたことはあったものの、鎖に繋がれたりするような暴力的手段を講じられたりしたこともないことなどに照らし、被告人らが監禁されているということはできない。また、本件に至るまでには、売春を行うことを拒否しようとした者に対し、Aが暴行を加えたりしたこともあったことが認められるが、本件は、そのような暴行を加えられたことに対する防衛行為としての性格を持つものではなく、また、過去に行われた暴行などに対しても、防衛行為の成り立ち得ないことはいうまでもない。 このように、Aによって被告人らに対し加えられた不正の侵害が、心理的ないし精神的圧迫を加えて被告人らの行動の自由を全体的な形で束縛するというものであることに照らし、これに対する防衛行為として、強盗の目的を併せ持ちながらAを殺害するということが許されるかどうか考えてみるに、急迫性という要件においても十分でなく、他にもその侵害行為を排除するための方法が多数ある上、生じた結果の重大性と防衛の利益との対比において、Aの生命を奪うということは、やむを得ない行為に当たらない 急迫性という要件においても十分でなく、他にもその侵害行為を排除するための方法が多数ある上、生じた結果の重大性と防衛の利益との対比において、Aの生命を奪うということは、やむを得ない行為に当たらないといい得るたけでなく、すでに防衛のためでない行為に当たるというほかないのである。 3 以上要するに、関係各証拠によれば、原判示の強盗殺人の所為は、正当防衛行為に当たらないことが明らかであるから、本件において正当防衛は成立しないと判断した原判決には、所論のような判決に影響を及ぼすことが明らかな事実認定の誤りはない。論旨は、理由がない。 三控訴趣意第三の五の1について 1 所論は、要するに、次のようなものである。すなわち、被告人三名の本件犯行は、被告人らが長期間にわたるAの迫害と虐待から逃れるためには同女を殺害するほかないと考えた末の情動行為であって、被告人らは、当時、一時的に意識障害を来たし、正常な思考力や判断力を働かせることができず、規範による動機付けが阻害された状態に陥って責任能力を喪失した状態にあったのに、被告人三名にそれぞれ完全な責任能力があると認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実認定の誤りがある(なお、極めて杜撰な認定をした原判決には、理由不備の疑いもある。)というのである。 2 そこで、原審記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果を合わせて検討すると、本件犯行に至る経緯や本件犯行の具体的状況等は、前記一の3において詳細に認定したとおりである。そして、とりわけ前記一の3(一)認定のような客観的な事実経過に照らし、被告人三名が、Aから、それぞれ三五〇万円という予期もしない多額の借金の返済を要求され、被告人Fにおいては約六か月にわたり、被告人G及び被告人Hにおいては、約四〇日余りにわたって、借金返済のた らし、被告人三名が、Aから、それぞれ三五〇万円という予期もしない多額の借金の返済を要求され、被告人Fにおいては約六か月にわたり、被告人G及び被告人Hにおいては、約四〇日余りにわたって、借金返済のためと称して売春を強制され、時には暴力的手段も講じられ、あるいは脅迫的言動によって行動の自由を束縛されていた事実は認定できる。しかし、前記一の3(二)認定のような本件犯行の準備行為、被告人らの間における相談の状況、本件犯行の具体的状況、逃走時の状況などをみると、被告人らがAを殺害するに至ったのは、多少感情的な側面もあったとはいえ、被告人らなりの利害得失を考え、冷静な判断を行った結果であり、被告人らが、本件犯行当時、所論指摘のような状況のもとで、一時的に意識障害を来たし、正常な思考力や判断力を働かせることができなかったなどと認められないことは明らかである。なお、被告人ら自身、被告人ら作成の手紙等において、自分たちの行為は、Aによって陥れられた悲惨な境遇から逃げ出すための、社会的にも正当な行為であることを強く主張しており、本件を情動行為などということは、被告人らの本件当時の気持ちをも理解しないこととなる。 3 以上要するに、前記一の3認定のような本件の具体的事実関係に照らし、被告人らの行為が情動行為であるとして、責任能力を欠くという主張は、まずその前提において失当である。すなわち、関係各証拠によれば、原判決には、所論のような事実認定の誤りはなく、また、原判決が「争点に対する判断」の項の三で、責任能力に関し説示しているところも結論的に正当であつて、理由不備の違法もなく、論旨は、理由がない。 四控訴趣意第三の五の2について 1 所論は、要するに、次のようなものである。すなわち、被告人三名の置かれた状況に照らすと、被告人三名に対し、本件犯行以外の他 違法もなく、論旨は、理由がない。 四控訴趣意第三の五の2について 1 所論は、要するに、次のようなものである。すなわち、被告人三名の置かれた状況に照らすと、被告人三名に対し、本件犯行以外の他の行為に出ることを期待することは不可能であったのに、被告人らに対し刑法上の期待可能性の理論を適用する余地もないとして、被告人三名に本件犯行以外の行為に出る期待可能性がないと認定しなかった原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実認定の誤りがあるというのである。 2 そこで、原審記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果を合わせて検討すると、本件犯行に至る経緯や本件犯行の具体的状況等は、前記一の3において詳細に認定したとおりである。そして、前記一の3認定のような客観的な事実に照らし、被告人三名が本件犯行に至った経緯として、被告人らは、いずれも、日本で働けば金になるという誘いに乗って日本に来た者であるが、日本に到着すると、直ぐパスポートを取り上げられ、事情も分からぬまま、Aから三五〇万円という多額の借金を返済するよう要求され、スナックでホステスとして無報酬で働かされながら、借金返済のために過酷な条件で売春を行うことを強制されるに至っていたものである。そして、被告人らは、Aのもとで無理やり働かされるようになった後は、売春の相手方となった男たちからも自分の人格を無視され、屈辱的な行為を強制された上、売春の対価として得た金もすべてAに取り上げられるに至っている。日常の生活においても、Aとともに同じ家屋に住まわされ、勝手な外出や電話を禁止され、かつまた、部屋代や買い与えられた衣類などの代金も借金に上乗せされ、三日間売春の相手方が見つからなければ罰金を科されることとなっていたのである。加えて、Aは、被告人らに対し、もし逃げ出すようなことが かつまた、部屋代や買い与えられた衣類などの代金も借金に上乗せされ、三日間売春の相手方が見つからなければ罰金を科されることとなっていたのである。加えて、Aは、被告人らに対し、もし逃げ出すようなことがあれば、必ずお前たちを捜し出して殺すし、タイに住むお前たちの両親も殺すなどと言って、被告人らの逃げ出すのを押さえつけようと図り、一方、被告人らにおいても、タイ語しか話すことができず、日本にやって来てから日の浅かったこともあり、日本の社会の仕組みなどについてもほとんど知らず、その意味でも、公的にも私的にも他に助けを求めようとするには、実際上著しく困難な状況にあったことはたしかである。 しかしながら、本件犯行後の逃走状況に照らし、被告人らは、Aを殺害しないでも、gアパートl号室から逃げ出すこと自体は十分に可能であったのであり、実際に逃げ出せば、本件逃走に際し使ったような方法で、タイ大使館に保護を求めることもできたものと考えられ、途中、警察官らと接触する機会が生じるに至れば、被告人らの心配していたような結果ではなく、被告人らの利益となる結果が生じたものと考えられる。むしろ、Aの背後に人身売買組織などがあるのであれば、Aを殺したときは、その組織の者などから付け狙われるおそれもあり、その意味でも、被告人らがもう少し周辺の状況などに気を付けていれば、別途の方法を選んだ可能性は十分にあると考えられる。 3 以上の次第で、前記一の3認定のような事実関係に照らせば、被告人らがAのもとで置かれていた悲惨な境遇から逃げ出すに当たり、Aを殺害するという方法以外に採りうる方法は十分にあったと認められるのであるから、被告人らに刑法上の期待可能性の理論を適用する余地はないと認定判示した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認はない。論旨は、理由がない。 方法は十分にあったと認められるのであるから、被告人らに刑法上の期待可能性の理論を適用する余地はないと認定判示した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認はない。論旨は、理由がない。 五控訴趣意第三の六について 1 所論は、要するに、次のようなものである。すなわち、被告人三名がAから奪った本件パスポートや身分証明書は財産罪の客体である財物とはいえず、本件パスポート、身分証明書は、Aが被告人らの承諾に基づかずに、勝手に逃走防止の手段として被告人らから取り上げたものであるから、本件パスポート、身分証明書に対するAの占有は刑法上保護されるべき占有には該当しない。また、Aから本件パスポート、身分証明書を奪った被告人三名の行為は自救行為ないし正当防衛行為として評価すべきものであるから、本件パスポートや身分証明書については強盗罪は成立しないのに、これらを奪った被告人三名の行為をAに対する殺害行為と合わせて強盗殺人罪を認定判示した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈適用の誤りがあるというのである。 2 そこで、原審記録及び証拠物を調査して検討すると、関係各証拠によれば、被告人三名名義の各パスポート(前記押号の18ないし20)は、被告人らがそれぞれタイ王国の所轄官憲から正規に交付を受けたものであって、法的には、他人に譲渡したりすることはできず、管理することができるのは、被告人らそれぞれのみであることも明らかである。また、Aが前記ウェストバッグに入れるなどして事実上の管理を行っていたのは、前記一3(一)の(1)及び(3)認定のとおり、被告人らを日本に連れて来た世話役ないしその仲間らが被告人らから取り上げ、その後、まもなくAに渡されたことによるものと認められる。被告人Fの本件身分証明書についても、同様のことが認定できる。 おり、被告人らを日本に連れて来た世話役ないしその仲間らが被告人らから取り上げ、その後、まもなくAに渡されたことによるものと認められる。被告人Fの本件身分証明書についても、同様のことが認定できる。 3 ところで、財産罪である強盗罪の客体たる財物とは、必ずしも経済的取引の対象になるような経済的な交換価値を有するものに限らず、およそ権利の目的となる物であれば足りると解すべきものであるから、その性質上、一般的に考えて、他に貸与したり譲渡することが禁止されているパスポートや身分証明書なども強盗罪の客体たる財物となると解される。また、強盗罪における保護法益については、財物を事実上所持する者が法律上正当に所持する権限を有するかどうかにかかわらず、現実にこれを所持している以上、物の所持という事実状態を保護し、不正の手段、例えば暴行脅迫という実力行使によってこれを侵害することは許されないと一般に解されている。 そして、本件についてみると、たしかに、Aが被告人三名名義の各パスポートや身分証明書を事実上所持していたのは、被告人らの意思に反するものと考えられ、被告人らから返還の要求があったときは返還する義務を負うものと考えられる。しかし、その入手過程は、前記認定のように被告人らから取り上げたものとはいえ、暴力その他強制的手段によったとはみられず、一応被告人らから委託を受けて預かったという形をとっているのであるから、Aの所持していた右各パスポート等を被告人らが実力で奪取する行為は許されないというべきである。すなわち、本件においては、右各パスポートについても、強盗殺人罪が成立することは明らかである。 4 以上の次第で、本件パスポートや身分証明書に関しても、その財物性を肯定して、被告人三名の所為が強盗殺人罪に該当するとした原判決には、判決に影響を及ぼすことが 人罪が成立することは明らかである。 4 以上の次第で、本件パスポートや身分証明書に関しても、その財物性を肯定して、被告人三名の所為が強盗殺人罪に該当するとした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りはない。論旨は、理由がない。 六控訴趣意第三の七について 1 所論は、要するに、次のようなものである。すなわち、被告人三名が本件犯行に及んだのは、Aの拘束から逃れるためであって、金品目当てではなかった。仮に付随的にしろ被告人三名にAを殺害して金品を強取する意思があったとしても、本件と類似の他の事件では金品奪取の点を不問にして殺人罪としている取扱いがあることや、本件の実質に着目すれば本件について強盗殺人罪を適用すべきものではなかったのである。したがって、被告人らの所為に刑法(平成七年法律第九一号による改正前の刑法をいう。以下同じ。)二四〇条を適用した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあり、ひいては刑訴法一条の理念に反し、憲法一四条に違反するというのである。 2 そこで、原審記録及び証拠物を調査して検討すると、関係各証拠によれば、前記一の3及び5でみたとおり、被告人三名が、本件において、Aの所有又は管理するパスポート六通、アメリカドル、タイ王国バーツ等在中の皮製赤色手提鞄一個(時価約一万円相当)、現金七〇〇万円余りの在中していたウエストバッグ一個(時価約一〇〇〇円相当)及び同バッグに在中ないし被害者が身につけていた指輪、ネックレス等の貴金属七八点(時価約三六二万八〇〇〇円相当)を奪取したのは、Aを殺害すること自体の目的としては従たる目的にあたるとはいえ、Aを殺害することを手段として金品を強取する意思に基づき、その旨の共謀を遂げた上行ったものと認められるのであるから、被告人らの所為が強盗殺人罪に該 ること自体の目的としては従たる目的にあたるとはいえ、Aを殺害することを手段として金品を強取する意思に基づき、その旨の共謀を遂げた上行ったものと認められるのであるから、被告人らの所為が強盗殺人罪に該当することはいうまでもない。 なお、所論は、本件と類似の他の事件では金品奪取の点を不問にして殺人罪としている取扱いがあることや、本件の実質に着目すれば、形式的に強盗殺人罪の構成要件に該当するとしても強盗殺人罪の成立を認めるべきでないというのである。しかし、裁判所は、認定した犯罪事実が刑罰法規に定める一定の構成要件に該当すると認めるときは、右事実につき当該規定を適用しなければならず、周辺の事情などにより、裁量的に当該規定を適用しないなどということが許されないのはいうまでもない。すなわち、裁量的措置が取れるという所論は、独自の見解であり、また、刑訴法一条の理念に反し、憲法一四条に違反するとする点も、その前提において誤りであり、採用の余地がない。 3 以上要するに、原判示の被告人三名の所為に刑法二四〇条後段を適用した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りはない。論旨は、理由がない。 第三控訴趣意中、量刑不当の主張について一 1 所論は、要するに、被告人三名をそれぞれ懲役一〇年に処した原判決の量刑は、いずれも重過ぎて不当であるというのである。 2 そこで、原審記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果を合わせて検討すると、本件は、被告人三名が、AことAを殺害するとともに同女から被告人らのパスポート等の在中するバッグなどを奪い取ろうと共謀の上、平成三年九月二九日午前七時ころ、茨城県下館市所在のgアパート内において、就寝中のAに対し、その頸部を果物ナイフで突き刺したり、酒瓶や小型鍬で同女の頭部を殴打するなどし、そ を奪い取ろうと共謀の上、平成三年九月二九日午前七時ころ、茨城県下館市所在のgアパート内において、就寝中のAに対し、その頸部を果物ナイフで突き刺したり、酒瓶や小型鍬で同女の頭部を殴打するなどし、そのころその場において同女を右内頸動脈切断による出血や呼吸不全により死亡させて殺害した上、同女の管理又は所有するパスポート六通、アメリカドル、タイ王国バーツ等在中の手提鞄一個(時価約一万円相当)、現金七〇〇万円余りの在中していたウェストバッグ一個(時価約一〇〇〇円相当)及び同バッダに在中ないし被害者が身につけていた指輪、ネックレス等の貴金属類七八点(時価合計約三六二万八〇〇〇円相当)を強取したという事案である。 3 本件犯行に至る経緯、犯行の具体的状況、犯行後の逃走状況等は、前記第二において詳細にみたとおりであるが、まずもって、本件犯行は、人一人の生命を無残に奪い去ったものであり、被告人らにおいても、いかなる理由があったにせよ、自分たちの手で人の命を絶ったということについては、いかに責められてもやむを得ないというべきである。また、犯行の態様も、極めて残虐なものである。すなわち、被告人三名は、就寝中の無抵抗の被害者に対し、被告人Gが刃の長さが約九・八センチメートルの果物ナイフで被害者の頸部を一回深く突き刺し、さらに、被告人Hが、起き上がろうとしたり足をばたつかせるなどしている被害者の両足を押さえつけるなどし、その間に被告人Fが酒瓶で被害者の頭部を三回位強打し、そのため酒瓶が割れるに至り、続いて、被告人Hが小型鍬の刃体の平らな部分で被害者の頭部を一回殴打し、まもなく被害者を死亡させるに至ったものである。加えて、被告人らは、頸部に右果物ナイフを突き立てられたまま、かなり血を流した状態で仰向けに横たわる被害者から、その肌に手を触れるとまだ暖かさが伝わり 、まもなく被害者を死亡させるに至ったものである。加えて、被告人らは、頸部に右果物ナイフを突き立てられたまま、かなり血を流した状態で仰向けに横たわる被害者から、その肌に手を触れるとまだ暖かさが伝わり、未だ死に至ったかどうか分からない状態であるにもかかわらず、その首、手首、足首などに装着していたネックレスやブレスレット、アンクレットなどを剥ぎ取ったり、その腰に巻き付けていたウエストバッグを外し取ったりしているのであり、その際の状況は、まことに凄惨極まりないものというほかない。強取した金品も、パスポートや身分証明書などは予期したものであるが、結果的に七〇〇万円余りという多額の現金のほか、貴金属類等も相当多数に及び、結局、財産的被害額も総計で一〇〇〇万円を超えるという多額に及んでいる。 4 また、各被告人のそれぞれの関与の度合いをみると、まず、被告人Fは、被告人Hに本件犯行を持ち掛けて、その口火を切ったばかりでなく、凶器を積極的に準備するなどしている。また、実際の犯行に際しても、被告人Gに果物ナイフで被害者の頸部を突き刺すように指示して犯行を促すなどし、自らも、前記のとおり、被害者の頭部を酒瓶で三回位強打するなどした上、自分の手を血で汚しながら、被害者の装着していた指輪やネックレス等を剥ぎ取るとともに、逃走の支度をしていた被告人Gにウェストバッグを被害者の腰から外すよう指示したりしている。さらに、被告人Fは、逃走に際しても、自ら電話をかけてタクシーを呼んだり、行き先を決めるなど積極的に行動するなど、本件犯行の前後を通じて、かなり主導的な役割を果たしている。また、被告人Gは、被告人Hの誘いに乗って本件犯行に加担するに至ったものであるが、被告人Fの指示や催促があったとはいえ、自らの手で果物ナイフを被害者の頸部に深く突き刺し、その結果、被害者に致 ている。また、被告人Gは、被告人Hの誘いに乗って本件犯行に加担するに至ったものであるが、被告人Fの指示や催促があったとはいえ、自らの手で果物ナイフを被害者の頸部に深く突き刺し、その結果、被害者に致命傷を負わせるに至っているのである。しかも、被告人Gは、被害者の頸部を果物ナイフで突き刺した後、被害者が苦悶しながら起き上がろうとする様子をみせるや、被告人Fに対し「早く、早く」などと言って、被害者に対してさらなる攻撃を加えるよう促したりもしている。また、前記のように、被告人Fに指示されたとはいえ、被害者が腰に巻き付けていたウェストバッグを外したりしたのも、被告人Gである。そして、被告人Hは、Aを殺害することにつき、当初から被告人Fと話し合っており、被告人Gに対しても、仲間に入るように誘いかけて、本件犯行に加担させているのである。実際の犯行においても、被告人Hは、被害者が頸部を刺されて両足をばたつかせたりするや、その両足を押さえ付けたり、自ら持ち出してきた小型鍬で被害者の頭部を殴打するなどしている。また、被害者の装着していた指輪やブレスレットを剥ぎ取るに当たっても、自らの手でこれを行うなど、積極的に行動している。右のように、被告人Fが本件犯行全体にわたってかなり主導的な役割を果たしたとはいえ、被告人G及び同Hも、それぞれ本件犯行において重要な役割を演じていることが認められるのである。さらに、被告人三名は、結果的に入手した現金七〇〇万円余りについて、前記市原市所在のホテル内で、それぞれ平等に二二〇万円ずつの分配を受けている。したがって、右のような犯行への関与の状況やその得た利得などに照らし、被告人三名の負うべき責任にとりたてて差異はないというべきである。 以上のような諸点に照らし、本件の犯情は極めて悪く、被告人三名の刑事責任はいずれも重大であ の関与の状況やその得た利得などに照らし、被告人三名の負うべき責任にとりたてて差異はないというべきである。 以上のような諸点に照らし、本件の犯情は極めて悪く、被告人三名の刑事責任はいずれも重大である。 5 しかし一方、被告人らの所為は、強盗殺人罪に該当するとはいえ、被告人らが主として奪い取ろうと考えていたのは、被害者から取り上げられていた自分たちのパスポートであり、付随して若干の現金や貴金属類も手に入ることは考えていたものの、金銭的な欲望などに基づき、当初からいわゆる金目の物を強取しようとして本件犯行に及んだものではない。また、被告人らが、被害者の殺害を企てるに至ったのは、主として、自分たちの置かれているあたかも奴隷のような悲惨な境遇から逃れ出るには、被害者を殺すほかないと考えたことにあり、前記第二の三においてみたように、そのように考えたこともある程度無理からぬものがある。したがって、これらの事情も、量刑に当たって十分に考慮することを要する。 6 さらに、右にも触れたとおり、被告人三名が本件犯行に至った背景には、被告人らの置かれていた悲惨な境遇があり、そのような境遇の中で被告人らが味わされた苦悩の深刻さは絶大なものであったことは否定できない。すなわち、被告人らは、いずれも、日本で働けば金になるという誘いに乗って日本に来た者であるが、日本に到着すると、直ちにパスポートを取り上げられ、事情も分からぬまま、被害者から三五〇万円という多額の借金を返済するよう要求され、スナックでホステスとして無報酬で働かされながら、借金返済のために過酷な条件で売春を行うことを強制されるに至っていたものである。そして、被告人らが、このような境遇に落ち込むに至ったことにつき、背後にかなり大がかりな人身売買組織や売春組織があるものと窺われる。また、被害者のもとで無 うことを強制されるに至っていたものである。そして、被告人らが、このような境遇に落ち込むに至ったことにつき、背後にかなり大がかりな人身売買組織や売春組織があるものと窺われる。また、被害者のもとで無理やり働かされるようになった後は、売春の相手方となった男たちからも自分の人格を無視され、屈辱的な行為を強制された上、売春の対価として得た金もすべて被害者に取り上げられるに至っている。日常の生活においても、被害者とともに同じ家屋に住まわされ、勝手な外出や電話を禁止され、かつまた、部屋代や買い与えられた衣類などの代金も借金に上乗せされ、三日間売春の相手方が見つからなければ罰金を科されることにもなっていたのである。加えて、被害者は、被告人らに対し、もし逃げ出すようなことがあれば、必ずお前たちを捜し出して殺すし、タイに住むお前たちの両親も殺すなどと言って、被告人らの逃げ出すのを押さえつけようと図り、一方、被告人らにおいても、タイ語しか話すことができず、日本にやって来てから日の浅かったこともあり、日本の社会の仕組みなどについてもほとんど知らず、その意味でも、法的にも私的にも他に助けを求めようとするには、実際上著しく困難な状況にあったことはたしかである。したがって、被告人らがこうした悲惨な境遇にいて、法的な救援も直ちには期待できないような状況にあったことは、被告人らに対する量刑に当たって、十分に考慮を要する点である。 7 そうすると、以上にみた諸事情に加え、さらにまた、被告人らが、被害者に対し、自分たちを悲惨な境遇に陥れたことにつき、なお強い憤りの気持ちを抱いているものの、このような形で被害者の生命を奪ってしまったことについては、現在では反省後悔していること、被告人三名には、日本においても母国においても、全く前科前歴がないこと、被告人Fや被告人Gには、 いるものの、このような形で被害者の生命を奪ってしまったことについては、現在では反省後悔していること、被告人三名には、日本においても母国においても、全く前科前歴がないこと、被告人Fや被告人Gには、タイに年老いた両親あるいは母親がいて、右各被告人の安否を気遣いながらその帰りを待っていること、また、被告人Hにおいても、自分の生んだ子供がタイで母親である同被告人の帰りを待っていることその他、所論指摘の被告人らに有利な事情を合わせ考えると、強盗殺人罪の法定刑のうち無期懲役刑を選択して酌量軽減の上、被告人三名をそれぞれ懲役一〇年に処した原判決の量刑は、なお重過ぎ、このまま維持することは相当でないと認められる。論旨は、理由がある。 二よって、各刑訴法三九七条一項、三八一条を適用して原判決を破棄し、各同法四〇〇条ただし書により更に各被告事件について次のとおり判決する。 原判決が認定した罪となるべき事実(「犯罪事実」と表示)に、原判決が掲げる法令を適用し、各被告人に対し、それぞれ所定刑中無期懲役刑の選択をし、平成七年法律第九一号による改正前の各刑法六六条、七一条、六八条二号を適用して酌量減軽をした各刑期の範囲内で、前記のような情状により、被告人三名をそれぞれ懲役八年に処し、各同法二一条を適用して被告人らに対し、原審における未決勾留日数中各八〇〇日をそれぞれその刑に算入し、主文第四項掲記の各押収物件は、判示の罪の賍物で被害者の相続人に還付すべき理由が明らかであるから、刑訴法三四七条一項により、これらを被害者Aの相続人に還付し、原審及び当審における訴訟費用は全部、各同法一八一条一項ただし書を適用して、被告人らにこれを負担させないこととし、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官松本時夫裁判官円井義弘裁判官岡田雄一) 全部、各同法一八一条一項ただし書を適用して、被告人らにこれを負担させないこととし、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官松本時夫裁判官円井義弘裁判官岡田雄一)
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