主文 1 原判決中,控訴人A1に関する部分を次のとおり変更する。 ⑴ 被控訴人は,控訴人A1に対し,55万円及びこれに対する平成28年7月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ⑵ 控訴人A1のその余の請求を棄却する。 2 控訴人A1の当審における追加請求を棄却する。 3 控訴人A2の控訴を棄却する。 4 訴訟費用は,控訴人A1と被控訴人との間では,第1,2審を通じて,これを100分し,その97を控訴人A1の負担とし,その 余を被控訴人の負担とし,控訴人A2と被控訴人との間では,控訴費用を控訴人A2の負担とする。 5 この判決は,第1項⑴に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人A1に対し,1900万9139円及びこれに対する平成28年7月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被控訴人は,控訴人A2に対し,440万円及びこれに対する平成28年7月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要(以下,略称等については特に断らない限り原判決の例による。) 1 本件訴訟の経緯等控訴人A1は,被控訴人の開設する医院(被控訴人医院)において,妊娠していた5胎の胎児の一部を減胎する手術(手術Ⅰ及び手術Ⅱ。以下,併せて「本件手術」という。)を受けたが,その後,Cマタニティクリニック(CMC)に おいて人工妊娠中絶手術を受け(本件人工流産),上記胎児らを1児も出産する - 2 - に至らなかった。 本件は,①控訴人A1及びその夫である控訴人A2において,控訴人A1が人工流産をしなければならなくなったのは,上記減胎手術を執刀したD医師(以 1児も出産する - 2 - に至らなかった。 本件は,①控訴人A1及びその夫である控訴人A2において,控訴人A1が人工流産をしなければならなくなったのは,上記減胎手術を執刀したD医師(以下「本件医師」といい,引用に係る原判決に「被告医師」とあるのは,いずれも「本件医師」と読み替える。)が注意義務に反し手術Ⅱの際に太い穿刺針を使 い多数回の穿刺を行い,感染症対策を怠り,又は減胎対象外の胎児を穿刺するなどしたことによるものであり,これにより精神的苦痛を受けたなどと主張し,また,②控訴人A1において,本件医師から減胎手術の失敗を隠匿するために脅迫されるなどし,これにより精神的苦痛を受けたと主張して,被控訴人に対し,①については,民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下 同じ。)715条1項による使用者責任又は診療契約上の債務不履行に基づき,②については,主位的に民法715条1項による使用者責任に基づき,予備的に診療契約上の債務不履行に基づき,損害賠償金として,控訴人A1につき合計2330万9139円の一部である1900万9139円,控訴人A2につき440万円及びこれらに対する訴状送達の日の後である平成28年7月6日 から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 控訴人らが上記①の請求について本件訴えを提起し,原審が控訴人らの請求をいずれも棄却したところ,控訴人らが控訴した。控訴人A1は,当審において,上記①の請求に係る損害項目を追加したほか,上記②の請求を追加したが, 請求額の拡張はせず,上記のとおりの一部請求とした。 なお,控訴人A1は原審においても上記②に係る請求をしていた旨主張するが,本件記録によれば,控訴人A1が上記①に係る請求と別個の請求として上 請求額の拡張はせず,上記のとおりの一部請求とした。 なお,控訴人A1は原審においても上記②に係る請求をしていた旨主張するが,本件記録によれば,控訴人A1が上記①に係る請求と別個の請求として上記②の請求をしていなかったことは明らかであり,当審において,控訴理由書をもって,同請求を追加したものと認められる(同請求の追加については,民 訴法297条が準用する同法143条の要件を満たすものと認める。)。 - 3 - 2 前提事実前提事実(当事者間に争いがないか,証拠等により容易に認定することができる事実)は,次のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」中,「第2事案の概要」の2のとおりであるから,これを引用する。 ⑴ 原判決2頁19行目の「(以下「被告医師」という。)」を「(本件医師)」に 改める。 ⑵ 原判決2頁23行目から24行目にかけての「被告医師に対する不法行為に基づく損害賠償請求訴訟も提起していた」を「本件訴訟において本件医師に対する不法行為に基づく損害賠償請求の訴えを併合提起していた」に改める。 ⑶ 原判決3頁19行目の「子宮管」を「子宮頸管」に改める。 3 争点本件における争点は,以下のとおりである(なお,争点⑴,⑽及び⑾は当審における新たな争点である。)。 ⑴ 手術Ⅰにおいて減胎すべき胎児の心拍停止の確認を懈怠した過失 ⑵ 手術Ⅱにおいて太い穿刺針を用いて過剰な回数の穿刺をした過失⑶ 手術Ⅱの術中及び術後において感染症対策を懈怠した過失⑷ 手術ⅡにおいてⅡ児の頭部を穿刺した過失⑸ 手術Ⅰの手法選択及び手術Ⅱの実施時期の選択に関する過失⑹ 手術Ⅱの前の転医義務違反 ⑺ 救胎する胎児数及び胎児の選択に関する説明義務違反⑻ 本件医師の過失と損害との間の た過失⑸ 手術Ⅰの手法選択及び手術Ⅱの実施時期の選択に関する過失⑹ 手術Ⅱの前の転医義務違反 ⑺ 救胎する胎児数及び胎児の選択に関する説明義務違反⑻ 本件医師の過失と損害との間の因果関係⑼ 控訴人A1が胎児らを出産できなかったこと等による損害額⑽ 本件医師による脅迫行為等の有無⑾ 本件医師の脅迫行為等に係る損害額 4 争点に関する当事者の主張 - 4 - 争点に関する当事者の主張は,次のとおり補正し,後記5で「当審における当事者の補充主張」を付加し,後記6で「当審における新たな争点に関する当事者の主張」を付加するほかは,原判決「事実及び理由」中,「第2 事案の概要」の4のとおりであるから,これを引用する。 ⑴ 原判決5頁20行目の「被告医師は,約30回もの穿刺を行った」を「本 件医師は,16ゲージもの太い針を用いて約30回もの多数回にわたって穿刺を行った」に改める。 ⑵ 原判決8頁21行目の「乙B11p25」を「乙B11p250」に改める。 ⑶ 原判決12頁25行目の「8月4日には原告A1には」を「控訴人A1は,8月4日,」に改め,同じ行の「確認され,」の次に「E医師により,」を加え る。 ⑷ 原判決13頁1行目の「絨毛膜羊膜炎も発症していた」を「本件人工流産後の病理診断の結果によれば,絨毛膜羊膜炎も発症していたと認められる」に改める。 ⑸ 原判決17頁24行目の「治療費」の次に「(控訴人A1の損害)」を加え る。 ⑹ 原判決19頁24行目の「本件訴訟では」から同頁26行目の末尾までを「イ,ウを合わせ,控訴人A1につき1600万円,控訴人A2につき400万円を下らない。」に改める。 ⑺ 原判決20頁2行目の「160万円」を「190万円」に改める。 ⑻ 原判 末尾までを「イ,ウを合わせ,控訴人A1につき1600万円,控訴人A2につき400万円を下らない。」に改める。 ⑺ 原判決20頁2行目の「160万円」を「190万円」に改める。 ⑻ 原判決20頁3行目から同頁5行目までを削る。 5 当審における当事者の補充主張⑴ 手術Ⅱにおいて太い穿刺針を用いた過失について(控訴人らの主張)ア減胎手術に関する医療水準等について (ア) 日本においては,減胎手術について,母体保護法の定める術式に合致 - 5 - しない手術であるとの指摘や,減胎される胎児の選び方について倫理面の問題があるとの指摘がされ,産婦人科医の多くが所属する日本産婦人科医会は会員に対し減胎手術を禁止してきたため,減胎手術を実施している医師がこれを公に発表することは極めて困難な状況となっていた。 このような経緯により,不妊治療や周産期医療に関連する学会等で減胎 手術の手技向上を目的とした議論がされることはなく,減胎手術の手術手技は,ごくわずかな論文や書籍に登載されているにすぎなかった。 他方で,日本国外においては,減胎手術が一般的な医療として行われ,その手術手技が多数の医学的文献に搭載され,その有効性や安全性が発表されていた。 このような減胎手術をめぐる事情の特殊性を踏まえると,減胎手術に係る医療水準については,これを実施する医師の専門性に基づき判断すべきであり,当該医師が減胎手術を専門領域とする場合,当該医師における医療水準は,世界で発表・出版された医学的文献及び書籍の記載内容から判断されるべきである。 (イ) 本件医師が不妊治療を専門として行ってきたことや減胎手術を20例以上行った経験を有する旨供述していることのほか,本件医師が減胎手術の実施を公表する他院(CMC)で減 るべきである。 (イ) 本件医師が不妊治療を専門として行ってきたことや減胎手術を20例以上行った経験を有する旨供述していることのほか,本件医師が減胎手術の実施を公表する他院(CMC)で減胎手術を受けようとしていた控訴人A1に対し自身に相当の経験があり安全に減胎手術を実施することができる旨述べて転医を思いとどまらせたことなどからすれば,主観 的にも客観的にも本件医師の専門領域に減胎手術が含まれることは明らかというべきである。 (ウ) 以上によれば,減胎手術を専門領域とする本件医師に求められる医療水準は,本件手術の当時に,世界で発表・出版された医学的文献及び書籍の記載内容から判断されるべきである。 イ手術Ⅱにおいて16ゲージの穿刺針を用いた過失 - 6 - 世界で発表・出版された医学的文献や書籍によれば,減胎手術に用いられる穿刺針は,最近の報告では22ゲージが主流であり,少なくとも20ゲージより太い穿刺針を用いることは稀であるといえる。 減胎手術に16ゲージもの太い穿刺針を用いると,誤って救命すべき胎児やその羊膜嚢を穿刺する危険性が高く,羊膜嚢を穿刺した場合には流産 の確率が高くなる。また,穿刺の刺激を原因とした子宮収縮による流産の危険性も高くなる。さらに,母体に対する侵襲の程度も高くなり,術後の疼痛も著しくなる(控訴人A1は現に術後4日目にすら腹痛を訴えている。)。 他方で,減胎手術を16ゲージもの太さの穿刺針を用いる利点はない。 被控訴人は,16ゲージの方がエコーで針先を追いやすいというメリットがある旨主張するが,22ゲージ程度の穿刺針でも正確に描出することは可能であるから,あえて16ゲージもの太さの穿刺針を用いる必要性はない。 以上によれば,減胎手術には少なくとも20ゲージの穿 ットがある旨主張するが,22ゲージ程度の穿刺針でも正確に描出することは可能であるから,あえて16ゲージもの太さの穿刺針を用いる必要性はない。 以上によれば,減胎手術には少なくとも20ゲージの穿刺針を用いる必 要があり,16ゲージもの太い穿刺針を用いる医学的根拠はなく,これを用いることは医師の裁量を逸脱する行為というべきである。 (被控訴人の主張)ア減胎手術に関する医療水準等について(ア) 診療科目にかかわらず,手術手技について解説した成書はそれほど豊 富に出版されているわけではなく,また,それらの手技・手法が一致しているということもない。そもそも手術の手技・手法というのは,必ずしも文献によって普及するといった性格のものではなく,特に減胎手術の手技・手法については,他に先駆けた実験的な医療行為を長年にわたって数多く繰り返して独自に手法を編み出したE医師を除いて,ほとん どの医師は,先輩や同僚らから教育・指導を受けて学んでいる。 - 7 - 医療水準についての控訴人らの主張は,独自の見解にすぎない。 (イ) 上記のようにしてE医師が編み出した手技・手法が唯一絶対の医療水準で,既に普及しているといったことはなく,減胎手術については,いまだ一般的に確立した医学的知見が存在せず,確立した医学的知見が普及するといった状況にはない。 (ウ) 被控訴人医院は,一般的な地域の産婦人科医院であり,本件医師は不妊治療を専門として行っていたわけではない。控訴人らが主張するように,本件医師の専門領域に減胎手術が含まれるとはいえない。 イ 16ゲージの穿刺針を用いた理由があること減胎手術の際にいかなる太さの穿刺針を用いるべきかについては,医学 的知見が確立されていたなどということはない。 本件医師は, とはいえない。 イ 16ゲージの穿刺針を用いた理由があること減胎手術の際にいかなる太さの穿刺針を用いるべきかについては,医学 的知見が確立されていたなどということはない。 本件医師は,エコーで針先を追いやすいというメリットがあるため16ゲージの穿刺針を用いていた。これにより誤って救命すべき胎児を穿刺しないようにしていたのであり,本件医師がこれまで勤務した医療機関の他の医師も16ゲージを使っていた。したがって,本件医師が16ゲージの 穿刺針を用いたことに何らの問題もない。 ⑵ 本件医師の過失と損害との間の因果関係について(控訴人らの主張)ア医学的機序について控訴人A1は,手術Ⅱの際に受けた子宮損傷により絨毛膜下血腫が継続 的に形成され,1か月を超えて形成され続けた絨毛膜下血腫により絨毛膜羊膜炎を発症し,絨毛膜羊膜炎により早期前期破水に至り,胎児の発育が望めなくなったことから人工流産せざるを得なくなったものである。 イ因果関係について22ゲージの穿刺針を用いた羊水穿刺において合併症の確率は0.3~ 0.5%とされているが,16ゲージもの太い穿刺針を用いて多数回にわ - 8 - たり穿刺を行うことにより,それだけ合併症が起こる可能性が上がったということができる。すなわち,手術Ⅱにおいて16ゲージの穿刺針を用いて多数回穿刺したことにより子宮損傷による出血が生じ,大きな絨毛膜下血腫が形成され,持続する不正性器出血が起こったと評価することができる。 また,本件医師が感染症対策を懈怠していなければ絨毛膜下血腫の感染にとどまり,絨毛膜羊膜炎にまで至らなかった蓋然性が高いといえる。 妊娠12週以降において絨毛膜下血腫のない妊婦の自然流産率は1%程度であり,かつ,減胎手術の術後の胎児出生の れば絨毛膜下血腫の感染にとどまり,絨毛膜羊膜炎にまで至らなかった蓋然性が高いといえる。 妊娠12週以降において絨毛膜下血腫のない妊婦の自然流産率は1%程度であり,かつ,減胎手術の術後の胎児出生の確率が95%程度であることなどからすれば,本件医師の過失行為がなければ,控訴人A1は子を 出産することができたはずであったということができる。 したがって,本件医師の各過失と控訴人らの受けた損害との間には因果関係が認められる。 (被控訴人の主張)ア本件において,大きな絨毛膜下血腫が発生したという事実も,出血量が 多かったという事実もない。また,本件人工流産に至るまでの間,控訴人A1に不正性器出血が持続していたという事実もない。 絨毛膜羊膜炎は,ありふれた病態である細菌性膣炎が原因となって上行性に感染が広がるものであり,特段の原因がなくても発症し得る。控訴人A1は,自然発生の絨毛膜羊膜炎に伴う羊水減少により本件人工流産に至 ったものである。 イ控訴人らは,減胎手術の術後の胎児出生の確率が95%程度であるなどと主張するが,本件においては,Ⅱ児に先天性の脳瘤があり,控訴人A1には自然流産の経験もあった上,7月22日以降に絨毛膜羊膜炎に罹患していたのであるから,控訴人らの上記主張は前提を欠く。 ⑶ 控訴人A1が胎児らを出産できなかったこと等による損害額について - 9 - (控訴人らの主張)ア 2胎児の生命維持の相当程度の可能性に対する侵害に係る損害(本件医師の過失と本件人工流産との間の因果関係が認められない場合の予備的主張)仮に,本件医師の過失と本件人工流産との間に因果関係が認められない としても,本件医師が当時の医療水準にかなった減胎手術を行っていたならば,控訴人A1が本件人工流産を余 い場合の予備的主張)仮に,本件医師の過失と本件人工流産との間に因果関係が認められない としても,本件医師が当時の医療水準にかなった減胎手術を行っていたならば,控訴人A1が本件人工流産を余儀なくされることはなく,2児を無事出産することができていた相当程度の可能性は認められる。 このような生児が無事産まれてくる相当程度の可能性は,法によって保護される利益であって,本件医師の過失により控訴人らないし胎児らの法 益が侵害されたというべきである。 上記法益侵害により控訴人らに支払われるべき慰謝料の額は控訴人A1につき240万円,控訴人A2につき60万円を下らない。 イ控訴人A1の腹部損傷及び子宮内感染等による精神的損害本件医師は16ゲージもの太い穿刺針を用いて約30回もの多数回に わたって控訴人A1の腹部を穿刺し,これにより控訴人A1は腹壁及び子宮に著しい傷害を負った。さらに,本件医師が感染症対策を怠ったことにより,控訴人A1は,子宮内感染の治療のためにCMCに34日間も入院しなくてはならなくなった。 これらにより控訴人A1が受けた精神的苦痛は甚大であり,その精神的 苦痛に対する慰謝料は300万円を下らない。 (被控訴人の主張)そもそも自然流産の発生頻度は一般に10~15%程度といわれている。 母体の加齢とともに発生頻度は高くなるし,双胎では単胎に比べて周産期死亡率が4~6倍に増加するなど多胎になるほど流産のリスクは高くなる。特 に胎児に奇形があれば死亡率は格段に上がる。減胎手術を行って5胎とも失 - 10 - う可能性は決して低くない。妊娠8~19週の段階で生児が無事産まれてくる相当程度の可能性があったなどということはできない。 6 当審における新たな争点に関する当事者の主張⑴ 手術Ⅰ 0 - う可能性は決して低くない。妊娠8~19週の段階で生児が無事産まれてくる相当程度の可能性があったなどということはできない。 6 当審における新たな争点に関する当事者の主張⑴ 手術Ⅰにおいて減胎すべき胎児の心拍停止の確認を懈怠した過失等について (控訴人らの主張)ア本件手術当時,KCLを用いた減胎手術が最も普及していたところ,KCLを用いた減胎手術では,胎児穿刺後において,穿刺針を胎児に穿刺したまま胎児心拍の停止を2分間観察すべきことが医学的文献や書籍に記載されている。他方で,KCLを用いない減胎手術においては胎児心拍停 止の観察時間が30分程度を要することが医学的文献から明らかである。 そうすると,あえて一般的でないKCLを用いない方法で減胎手術を行うのであれば,KCLを用いるときよりもより注意深く,かつ,より長く,胎児心拍の停止を観察すべきという医学的知見が普及していたということができる。このような医学的知見等からして,本件医師には,手術Ⅰの 胎児穿刺後に,穿刺針を胎児に穿刺したまま,胎児心拍の停止を必要な時間注意深く観察すべき義務があった。 イしかし,本件医師は,経膣生食法を用いた手術Ⅰにおいて,胎児穿刺後,穿刺針を胎児に穿刺したまま胎児心拍の停止を必要な時間注意深く観察せず,2胎の減胎に失敗したのであり,上記注意義務に違反した過失があ る。 ウなお,上記過失がなければ手術Ⅱが行われることはなかったのであり,手術Ⅱによって絨毛膜下血腫が生じたり,その結果として本件人工流産に至ったりすることもなかったのであるから,上記過失と控訴人らが受けた損害との間には因果関係がある。 (被控訴人の主張) - 11 - 控訴人らが指摘する医学的文献の記載のみから,KCLを用い こともなかったのであるから,上記過失と控訴人らが受けた損害との間には因果関係がある。 (被控訴人の主張) - 11 - 控訴人らが指摘する医学的文献の記載のみから,KCLを用いない減胎手術においては胎児心拍停止の観察時間が30分程度を要することが医学的知見として普及していたとはいえない。 また,本件医師は,手術Ⅰにおいて,胎児穿刺後,穿刺針を胎児に穿刺したまま胎児心拍の停止を必要な時間注意深く観察したのであり,過失はない。 そもそも複数の胎児の心拍を正確に区別して見分けることは容易なことではなく,控訴人らの主張は,結果責任を問うものにすぎない。 ⑵ 本件医師による脅迫行為等の有無について(控訴人A1の主張)本件医師は,手術Ⅱが終わった後,当日午後9時過ぎに,控訴人A1の病 室(個室)において,強い口調で「この減胎という手術は公には行っていない」「あなたがこの手術を外に話してしまうと,公にしているところがないのでたくさんの人が押しかけたりすると,今普通に入院している,出産する患者さんたちに迷惑が掛かる」「これを外にいうことをしないでほしい」と述べ,「僕はこういう命を消したりすることもあるという意味でいろいろ背負っ ているものをあなたに見せたい」と語気を荒げ,背中一面の観音菩薩模様の入れ墨を見せた。このように,本件医師は,減胎手術について内密にするように控訴人A1に申し入れ,自らの背中に入れた入れ墨を見せて控訴人A1を畏怖させたのであり,このように,男性が女性に対し二人だけの個室で目の前で入れ墨を見せる行為は,社会通念上,脅迫行為ないし強要行為という べきである。 したがって,被控訴人は,本件医師の上記行為につき,使用者責任又は安全配慮義務違反による債務不履行責任を負う。 (被控訴 せる行為は,社会通念上,脅迫行為ないし強要行為という べきである。 したがって,被控訴人は,本件医師の上記行為につき,使用者責任又は安全配慮義務違反による債務不履行責任を負う。 (被控訴人の主張)本件医師は控訴人A1に二の腕にあるファッションタトゥーを見せただ けであり,控訴人A1を畏怖させたことはない。 - 12 - 減胎手術は成功していたのであるから,本件医師には,平成27年6月22日の時点で控訴人A1を脅迫する動機がない。 仮に控訴人A1が主張するような発言があったとしても,それは,被控訴人クリニックで減胎手術を行っているという情報が広まること等を懸念したからであって,脅迫ないし強要には当たらない。 ⑶ 本件医師の脅迫行為等に係る損害額について(控訴人A1の主張)本件医師による上記のような脅迫行為ないし強要行為により控訴人A1が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は100万円を下らない。 (被控訴人の主張) 争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前提事実に加え,証拠(以下,書証番号は特記しない限り各枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により認められる事実は,次のとおり補正するほかは,原判決 「事実及び理由」中,「第3 当裁判所の判断」の1のとおりであるから,これを引用する。 ⑴ 原判決20頁17行目の「24,」の次に「26,33~44,55,56」を加える。 ⑵ 原判決21頁10行目の「5胎の妊娠継続」から同頁11行目の「説明し」 までを「5胎の妊娠継続は母体にも胎児にも悪影響が大きいため,胎児が自然に減らなかった場合には,減胎手術をするのが望ましい旨説明し」に改める。 ⑶ 原判決21頁18行目の「減胎手術の手技としては」から同頁19行目の末尾までを削る。 悪影響が大きいため,胎児が自然に減らなかった場合には,減胎手術をするのが望ましい旨説明し」に改める。 ⑶ 原判決21頁18行目の「減胎手術の手技としては」から同頁19行目の末尾までを削る。 ⑷ 原判決21頁25行目の「少ない。」の次を改行し,次のとおり加える。 - 13 - 「 他方,欧米諸国など広く減胎手術が受け入れられている国もあり,2001年(平成13年)の調査によると,減胎手術が実施されていないのは39か国中4か国のみであり,ガイドラインがある国が13か国あるとされている。また,減胎手術に関する方法論や医学的安全論文も多数報告されている状況にある。 減胎手術の手技としては,かつては,胎児を鉗子により排出する方法や吸引して排出する方法が用いられていたが,本件手術当時は,日本国内においても,諸外国においても,経膣的又は経腹的に,薬物等を胎児に注入する方法が用いられていた。」⑸ 原判決21頁25行目の「18,」の次に「33~44」を加える。 ⑹ 原判決22頁2行目の「習得した」の次に「ものであり,後記のとおり,本件手術において16ゲージの穿刺針を使用したのも,過去に勤務していた医療機関において習得したところによるものである。」を加え,同じ行の「p20」の次に,「,9p2」を加える。 ⑺ 原判決22頁22行目の「乙A1p85,乙A4p22」を「乙A1p83,85,Dp11」 に改める。 ⑻ 原判決22頁23行目の「WBC」の次に「(以下,WBC値の単位は,×10×2/㎕である。)」を加える。 ⑼ 原判決23頁4行目の「乙A4p5」の次に「,乙B26,Dp11」を加える。 ⑽ 原判決23頁5行目の「ケ」の次に「(ア)」を加え,同頁6行目の「被告医 師は,」を「本件医師は,穿刺用プ ⑼ 原判決23頁4行目の「乙A4p5」の次に「,乙B26,Dp11」を加える。 ⑽ 原判決23頁5行目の「ケ」の次に「(ア)」を加え,同頁6行目の「被告医 師は,」を「本件医師は,穿刺用プローブを用いて,」に改め,同頁12行目の末尾を改行して,次のとおり加える。 「(イ) 本件医師は,手術Ⅱの後,午後9時過ぎに控訴人A1の病室(個室)に一人で訪れ,手術は成功した旨述べた後,減胎手術は公にしていないので,口外されると,患者が押しかけるなどして支障が出るので,口外しないで ほしい旨述べ,「僕はこういう命を消したりすることもあるという意味でい - 14 - ろいろ背負っているものをあなたに見せたい」と言って,左肩をはだけて,控訴人A1に対し入れ墨を見せた(Dp36,37 控訴人A1p9,10)。」⑾ 原判決23頁7行目の「20~30回程度」を「30回程度」に改める。 ⑿ 原判決23頁11行目の「乙A4p22,」を削る。 ⒀ 原判決23頁21行目の「乙A1p75~77」を「乙A1p76,77」に改める。 ⒁ 原判決23頁22行目の「6月27日,」の次に「体調が回復したとして」を加え,同じ行の「乙A1p53,99」を「乙A3p3,Dp12」に改める。 ⒂ 原判決23頁24行目から24頁7行目までを次のとおり改める。 「サ控訴人A1は,6月30日(10週2日),不正性器出血があるとして被控訴人医院を受診した。本件医師は,超音波検査を実施した結果,2胎は 順調に成育していると判断し,その旨控訴人A1に伝えるとともに,茶褐色の不正性器出血については,本件手術により生じた血の塊が流出したものと考えて,止血剤トラサミン及びアドナを投与した。(甲A3p3,乙A1p54,55,乙A4p6,9p6,Dp12)その後 茶褐色の不正性器出血については,本件手術により生じた血の塊が流出したものと考えて,止血剤トラサミン及びアドナを投与した。(甲A3p3,乙A1p54,55,乙A4p6,9p6,Dp12)その後,控訴人A1は,7月2日(10週4日),7月9日(11週4日) 及び7月17日(12週5日)に被控訴人医院を受診し,超音波検査を受けたところ,本件医師は,胎児の心拍が確認されたことや,胎児の身体の大きさ等から,2胎とも順調に成育していると判断し,その旨控訴人A1に伝えた。なお,上記各診察日の診療録には不正性器出血についての記載はない。(甲A3p3,乙A1p59~64,67,68,乙A4p6)。」 ⒃ 原判決24頁8行目の冒頭に「シ」を加える。 ⒄ 原判決24頁9行目の「子宮管」を「子宮頸管」に改める。 ⒅ 原判決24頁19行目の末尾に「(乙A2p24,乙B27)」を加える。 ⒆ 原判決25頁3行目の「p4」の次に「,18」を加える。 ⒇ 原判決25頁12行目の「1胎」の次に「(Ⅱ児)」を加える。 (21) 原判決25頁14行目の「見られた」の次に「ことなどから,E医師は子 - 15 - 宮内感染症及び膣炎と診断した」を加える。 (22) 原判決25頁15行目の「入院した」を「入院し,抗生剤の投与等による経過観察をすることとされた」に改める。 (23) 原判決26頁24行目の末尾に「この病理診断の結果によれば,控訴人A1は上行性の絨毛膜羊膜炎を発症していたものと診断される(甲B55,56, 弁論の全趣旨)。」を加える。 2 本件人工流産に至ったことによる損害及び2胎児の生命維持の相当程度の可能性に対する侵害に係る損害の賠償を求める請求について⑴ 上記1で補正の上引用した原判決認定事実によれば,① 控訴人A 。 2 本件人工流産に至ったことによる損害及び2胎児の生命維持の相当程度の可能性に対する侵害に係る損害の賠償を求める請求について⑴ 上記1で補正の上引用した原判決認定事実によれば,① 控訴人A1は,6月19日に手術Ⅰを受けた後に感染予防のために抗生剤を投与され,6月 22日に手術Ⅱを受けた後には37度台前半の発熱があり,CRP値が,同月23日に4.3,同月26日に3.8と炎症反応が見られ,本件医師から抗生剤を投与されるなどしていたが,同月27日には平熱に下がり,同日,体調が回復したとして被控訴人医院を退院したこと,② 控訴人A1は,手術Ⅱを受けた翌日の6月23日に絨毛膜下血腫が認められ,その後,被控訴 人医院入院中は不正性器出血が続き,上記退院後の6月30日にも,不正性器出血があるとして被控訴人医院を受診して本件医師から止血剤を投与されたが,その後は7月29日にFMCにて少量の不正性器出血が確認されるまで目立った出血はなかったこと,③ 本件医師は,本件手術後,7月17日の診察時まで超音波検査等により2胎とも順調に成育していると判断し ていたが,7月22日のFMCでの初期胎児ドックの結果,Ⅰ児については,軽度~中度の三尖弁逆流がみられ,ダウン症のリスクが65分の1であるが,染色体異常の可能性は低いと思われる旨の診断がされ,Ⅱ児については,正中からやや右の頭蓋骨が一部欠損し,そこから脳が外方に脱出していると認められたこと,④ 控訴人A1は,7月2日に被控訴人医院を受診した際の WBC値は108であったが,その後,7月22日にFMCを受診した際の - 16 - CRP値が1.73,WBC値が74であり,同月29日にはCRP値が1. 99,WBC値が99であり,CRP値が高かったことや少量の不正性器出血が 22日にFMCを受診した際の - 16 - CRP値が1.73,WBC値が74であり,同月29日にはCRP値が1. 99,WBC値が99であり,CRP値が高かったことや少量の不正性器出血があったことなどから,FMCでは控訴人A1の希望したⅠ児の絨毛検査は見送られ,CMCを受診することとしたこと,⑤ 控訴人A1は,Ⅱ児の減胎を希望して,8月4日にCMCを受診したところ,同日のCRP値は2. 5であり,出血も見られたことなどから,E医師により子宮内感染症及び膣炎と診断され,CMCに入院して抗生剤の投与等による経過観察をすることとされたが,その後,8月12日には羊水量が少ないことが確認され,同月14日には羊水の漏出もみられ,同月24日には羊水は増加していたものの,同月31日に,Ⅰ児については羊水が少しあり,Ⅱ児については羊水が減少 していることが認められ,このまま経過観察をしてもⅠ児の羊水の漏出は続き,増えることは望めず,Ⅱ児は子宮内胎児発育遅延になるかもしれないと判断され,結局,9月2日に2胎とも出産を諦めることとなり,同月4日に本件人工流産に至ったこと,⑥ 本件人工流産した2胎の胎盤及び付属物についての病理診断により,絨毛膜板に軽度~中等度の好中球湿潤を認めると され,これによれば,控訴人A1は上行性の絨毛膜羊膜炎を発症していたものと診断されることが認められる。 ⑵ 証拠(甲B22,23,57~60,乙A9,B29)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人A1が9月4日に本件人工流産に至った直接の原因は,その頃に発症していた絨毛膜羊膜炎により前期破水(羊水漏出)となり,胎児 の発育が望めなくなったことによるものと認められる。 控訴人らは,羊水減少の原因として,多数回の経腹による子宮穿刺から生じた羊膜損傷に起因す 毛膜羊膜炎により前期破水(羊水漏出)となり,胎児 の発育が望めなくなったことによるものと認められる。 控訴人らは,羊水減少の原因として,多数回の経腹による子宮穿刺から生じた羊膜損傷に起因する羊水漏出を主張するが,控訴人A1の羊水が少ないことが認められたのは,CMC入院中の8月12日が最初であり,羊水の漏出が認められたのは8月14日が最初であって,いずれも手術Ⅱから50日 以上が経過していることなどからすると,手術Ⅱの際の羊膜損傷が羊水漏出 - 17 - の直接の原因となったとは考え難い。したがって,控訴人らの上記主張は,採用することができない。 控訴人らは,羊水減少の原因として,本件手術直後からの炎症反応が継続して膣炎及び子宮内感染症に至った旨主張する。 控訴人A1が被控訴人医院で受けた検査に係る検査報告書(乙A1p51)に よれば,CRP値の基準値は0.3以下とされ,WBC値の基準値は,35~91とされているが,WBC値については,非妊娠時は45~110,妊娠時は60~160とする資料も存在する(乙B29の1。なお,1㎕=1㎣)。また,E医師の証言(p39)及び弁論の全趣旨によれば,CRP値は細菌感染による炎症の場合だけでなく,手術等によっても上昇するし,かなり の感染を起こした場合には10~20にまで至るものであり,3前後の値は,炎症は起こしているがひどくならないでいるレベルであるというのである。 そうであるところ,上記認定事実によれば,控訴人A1は手術Ⅰを受けた6月19日から同月28日まで,感染予防のためも含め,抗生剤の投与を受け,同月23日のCRP値は4.3であったのが,同月26日には3.8に減少 していた。また,手術Ⅱの後の発熱は37度台前半であったが,6月27日には平熱に下がり,体調 も含め,抗生剤の投与を受け,同月23日のCRP値は4.3であったのが,同月26日には3.8に減少 していた。また,手術Ⅱの後の発熱は37度台前半であったが,6月27日には平熱に下がり,体調も回復したとして被控訴人医院を退院しており,7月2日のWBC値は基準値内とも評価し得る108であり,同日以降7月17日までの被控訴人医院への通院時においても感染症を疑うべき特段の症状は認められていなかった。しかし,その後,控訴人A1は,7月22日に なってFMCを受診した際にCRP値が1.73と高いことが判明し,7月29日にFMCを受診した際もCRP値が1.99であり,8月4日にCMCに入院して以降もCRP値は1.9ないし3.2と高めに推移し,炎症反応が治まらないまま本件人工流産に至ったというのである。 他方で,証拠(乙B37,38)及び弁論の全趣旨によれば,上行性の絨 毛膜羊膜炎はありふれた病態である細菌性膣炎が原因となっても発症し得 - 18 - るというのであり,一般的に,一定の発生リスクがあるということができる。 以上のような医学的知見と控訴人A1の症状の経過や本件医師の診断内容等に鑑みれば,本件手術後に控訴人A1に見られた炎症反応は,減胎手術に伴い生じる通常の範囲内のものであり,7月初旬頃には,いったん治まっていたところ,7月中旬以降に膣炎が原因となって絨毛膜羊膜炎の発症に至 ったと考えたとしても何ら不自然・不合理ではないのであって,そのような可能性も十分にあり得るものということができる。 したがって,控訴人らの上記主張は,採用することができない。 また,控訴人らは,手術Ⅱの際に受けた子宮損傷により絨毛膜下血腫が継続的に形成され,1か月を超えて形成され続けた絨毛膜下血腫により絨毛膜 羊膜炎を発症した 記主張は,採用することができない。 また,控訴人らは,手術Ⅱの際に受けた子宮損傷により絨毛膜下血腫が継続的に形成され,1か月を超えて形成され続けた絨毛膜下血腫により絨毛膜 羊膜炎を発症した旨主張する。 しかしながら,証拠(甲B23,74~76,乙B29の1)及び弁論の全趣旨によれば,一定程度の不正性器出血は減胎手術に不可避的に伴う組織の損傷やその際に生じる血腫から通常発生し得るものであると認められるところ,上記認定事実によれば,控訴人A1は,手術Ⅱを受けた翌日の6月 23日に絨毛膜下血腫が認められ,その後,被控訴人医院に入院中は不正性器出血が続き,上記退院後の6月30日にも不正性器出血があるとして被控訴人医院を受診して本件医師から止血剤を投与されたものの,その後は被控訴人医院を受診した際に止血剤の投与を受けたほかは診療録に不正性器出血をうかがわせる記録はなく,7月29日にFMCにて少量の不正性器出血 が確認されるまで目立った出血はなかったと認められるのであり,このような推移に鑑みると,控訴人らの主張するように,本件手術により生じた血腫がFMCやCMCを受診するまで持続的に形成され続けていたと認めるのは困難である。確かに,後記3で認定・説示するとおり,本件医師は手術Ⅱにおいて16ゲージという通常用いられるよりも太い穿刺針を用いて,30 回程度控訴人A1の腹部を穿刺したのであるから,通常の減胎手術の場合に - 19 - 想定される量よりも多くの出血があった可能性は否定できないとしても,そのことから直ちに,控訴人A1の絨毛膜下に特に大きな血腫が形成され,又は血腫が長期間持続して形成されたと推認するのも困難である。 したがって,控訴人らの上記主張は,採用することができない。 以上認定・説示したところからす A1の絨毛膜下に特に大きな血腫が形成され,又は血腫が長期間持続して形成されたと推認するのも困難である。 したがって,控訴人らの上記主張は,採用することができない。 以上認定・説示したところからすれば,控訴人A1の羊水漏出の原因と認 められる絨毛膜羊膜炎の発症について,本件手術及びその後の被控訴人医院における処置(感染症対策)との間の相当因果関係を肯定するのは困難というべきである。 なお,羊水の減少は,前期破水のほか,胎児発育不全,胎児異常,胎児腎尿路異常等様々な要因により生じ得るとされているところ(乙B22p106, 乙B39p144,弁論の全趣旨),上記のとおり,手術Ⅱの結果残った2胎のうちⅠ児については軽度~中等度の三尖弁逆流が見られ,Ⅱ児については頭蓋骨が一部欠損し脳が外方に脱出していたことからすると,これらの胎児の要因が控訴人A1の羊水の減少に関係している可能性も否定することができない(乙A4)。この点について,控訴人らは,Ⅱ児に認められる脳脱出は手 術Ⅱにおける穿刺によるものである旨主張し,E医師は,Ⅱ児の前額部と右の前頭部の2か所に脳瘤が見られた上,Ⅱ児の右耳介上方に頭蓋陥没を伴う瘢痕が広範囲にわたって見られたことなどから,Ⅱ児の脳脱出も手術Ⅱの際の穿刺によると考えられる旨証言するが,娩出されたⅡ児の写真(甲B3)によっても,E医師が証言するような瘢痕が存在すること及びそれが手術Ⅱ の際の穿刺によるものであるかは判然としないし,CMCのカルテにおいて,Ⅱ児につき穿刺を原因とする瘢痕が存在するなどの記載はなく,Ⅱ児の写真には「脳瘤」と表示されていること(甲B3,乙A3p69),E医師は,本件人工流産後に本件医師らをCMCに呼んで話をした際に,胎児が穿刺されていたなどとの指摘をしていないこと(乙A5 く,Ⅱ児の写真には「脳瘤」と表示されていること(甲B3,乙A3p69),E医師は,本件人工流産後に本件医師らをCMCに呼んで話をした際に,胎児が穿刺されていたなどとの指摘をしていないこと(乙A5~8)などからすると,Ⅱ児に 穿刺による瘢痕があった旨のE医師の証言を直ちに採用することはできず, - 20 - 他にⅡ児に認められる脳脱出が手術Ⅱにおける穿刺によるものであることを認めるに足りる証拠はない。 そうすると,控訴人A1が本件人工流産に至った医学的機序についての控訴人らの主張はいずれも採用することができず,他に,本件人工流産と本件手術及びその後の被控訴人医院における処置(感染症対策)との間の相当因 果関係の存在を認めるに足りる証拠はないものといわざるを得ない。 ⑶ 以上に認定・説示したところからすれば,仮に,控訴人らが主張する本件手術等における本件医師の過失(手術Ⅰにおいて減胎すべき胎児の心拍停止の確認を懈怠した過失,手術Ⅱにおいて太い穿刺針を用いて過剰な回数の穿刺をした過失,手術Ⅱの術中及び術後において感染症対策を懈怠した過失, 手術ⅡにおいてⅡ児の頭部を穿刺した過失,手術Ⅰの手法選択及び手術Ⅱの実施時期の選択に関する過失,手術Ⅱの前の転医義務違反)が認められるとしても,これらの過失と控訴人A1が本件人工流産に至ったことにより生じた損害との間の相当因果関係を認めることができないことはもとより,控訴人らが主張するような,控訴人A1が本件人工流産に至らずに2児を無事出 産することができていた相当程度の可能性があったと認めることもできない。 したがって,控訴人らの控訴人A1が本件人工流産に至ったことによる損害及び2胎児の生命維持の相当程度の可能性に対する侵害に係る損害の賠償を求める請求は,その余の点 あったと認めることもできない。 したがって,控訴人らの控訴人A1が本件人工流産に至ったことによる損害及び2胎児の生命維持の相当程度の可能性に対する侵害に係る損害の賠償を求める請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。 3 控訴人A1の腹部損傷及び子宮内感染等による損害の賠償を求める請求について⑴ 被控訴人の使用者責任又は診療契約上の債務不履行責任の有無について控訴人A1は,本件医師が16ゲージもの太い穿刺針を用いて約30回もの多数回にわたり控訴人A1の腹部を穿刺し,これにより控訴人A1は腹壁 及び子宮に著しい傷害を負い,さらに,本件医師が感染症対策を怠ったこと - 21 - により,控訴人A1は,子宮内感染の治療のためにCMCに34日間も入院を余儀なくされ,控訴人A1は,これらによって甚大な精神的苦痛を被った旨主張する。 控訴人A1の上記主張のうち,控訴人A1は,本件医師が感染症対策を怠ったことにより,子宮内感染の治療のためにCMCに入院を余儀なくされた 旨の主張については,上記2⑵において認定・説示したとおり,控訴人A1の絨毛膜羊膜炎の発症について,本件手術及びその後の被控訴人医院における処置(感染症対策)との間の相当因果関係を肯定するのは困難というべきであるから,その余の点について判断するまでもなく,採用することができない。 そこで,以下,本件医師が手術Ⅱにおいて16ゲージの穿刺針を用いて約30回にわたり控訴人A1の腹部を穿刺した行為につき,被控訴人が控訴人A1に対し使用者責任又は診療契約上の債務不履行責任を負うか否かについて検討する(被控訴人は,穿刺回数は30回にも及んでいない旨主張し,本件医師は20回程度であった旨供述するが,手術Ⅱの後に撮影された控訴 人 任又は診療契約上の債務不履行責任を負うか否かについて検討する(被控訴人は,穿刺回数は30回にも及んでいない旨主張し,本件医師は20回程度であった旨供述するが,手術Ⅱの後に撮影された控訴 人A1の腹部の写真(甲A6)からして,穿刺回数が30回程度に及んでいたことは明らかである。)。 被控訴人は,控訴人A1との間で,妊娠した胎児の管理及び減胎手術等に関する診療契約(以下「本件診療契約」という。)を締結したのであるから,被控訴人の履行補助者である本件医師は,本件診療契約に基づき,人の生命 及び健康を管理する業務に従事する者として,危険防止のために経験上必要とされる最善の注意を尽くして控訴人A1の診療に当たる義務を負担したものというべきである。認定事実⑴オのとおり,減胎手術は,母体保護法の定める術式に合致しない手術であるとの指摘や,減胎される胎児の選び方について倫理面の問題も指摘されているとしても,減胎手術等を内容とする本 件診療契約を締結した被控訴人及びその履行補助者として人の生命及び健 - 22 - 康を管理する業務に従事する本件医師は,減胎手術等に当たり,控訴人A1の母体に対する危険防止のために経験上必要とされる最善の注意を尽くす義務を負うことに変わりはないものというべきである。 穿刺針の太さを表すゲージ数は小さいほど穿刺針の太さが太く,その外径は,23ゲージで0.64㎜,22ゲージで0.72㎜,21ゲージで0. 81㎜,20ゲージで0.89㎜,18ゲージで1.25㎜,16ゲージで1.64㎜であり,その断面積は,23ゲージで0.321㎟,22ゲージで0.406㎟,21ゲージで0.515㎟,20ゲージで0.621㎟,18ゲージで1.226㎟,16ゲージで2.137㎟である(甲B49)。 そして,手術Ⅱの場 ,23ゲージで0.321㎟,22ゲージで0.406㎟,21ゲージで0.515㎟,20ゲージで0.621㎟,18ゲージで1.226㎟,16ゲージで2.137㎟である(甲B49)。 そして,手術Ⅱの場合のように,経腹的に子宮内に穿刺針を穿刺する場合, ゲージ数の小さい太い針を使用するほど,また,穿刺回数が増えるほど,母体の腹壁及び子宮に対する侵襲の程度が大きくなることは明らかというべきである。 ところで,認定事実⑴オのとおり,日本国内では,減胎手術に関する症例報告やその手技等について述べた教科書,文献は少ないものの,欧米諸国な ど広く減胎手術が受け入れられている国もあり,ガイドラインがある国が13か国あるとされ,減胎手術に関する方法論や医学的安全論文も多数報告されている状況にある。そして,証拠(甲B5,7,10,33~41)及び弁論の全趣旨によれば,日本では,平成15年に発行された,日本不妊学会編集の「新しい生殖医療技術のガイドライン第2版」(甲B33)において, E医師の発表した文献に基づき,減胎手術は妊娠10週頃に23ゲージの穿刺針を用いて経腹的に行われている旨の紹介がされ,平成19年に発行された医学雑誌「臨床婦人科産科」(甲B10)においては,減胎手術は,通常は胎児の構造的評価が可能となる妊娠12~14週に行われ,21ゲージないし23ゲージの穿刺針を使用する旨の記載がされ,米国では,上記日本不妊 学会編集のガイドラインでも引用されている米国のEvansの報告(甲B - 23 - 34)において22ゲージの穿刺針を使用した旨の紹介がされているほか,22ゲージの穿刺針を使用する旨を記載した教科書等が発行されており,1980年代後半ないし1990年代前半の例として20ゲージが使用されたことを紹介する文献 刺針を使用した旨の紹介がされているほか,22ゲージの穿刺針を使用する旨を記載した教科書等が発行されており,1980年代後半ないし1990年代前半の例として20ゲージが使用されたことを紹介する文献もあることが認められるが,本件において,20ゲージよりも細い穿刺針を使用することを示す医学文献や医師の意見書等は提 出されておらず,平成9年11月27日に開催された厚生科学審議会先端医療技術評価部会において日本母性保護産婦人科医会から17ゲージから22ゲージという穿刺針を使用して経腹的に行う旨の紹介がされたことが認められる(甲B7)程度である。 これに対し,認定事実⑴オのとおり,本件医師が手術Ⅱにおいて16ゲー ジの穿刺針を用いたのは,以前に勤務していた他の医療機関において先輩医師等から指導を受けるなどして習得した知見によるものである。そして,被控訴人は,16ゲージの穿刺針を使うことについてはエコー(超音波)で針先を追いやすいというメリットがある旨主張し,本件医師の陳述書(乙A9)にもこれに沿う記載がある。また,本件医師の陳述書(乙A4,9)には, 3次元の子宮内を2次元のエコーで捉えながら場所と形状を慎重に見極める必要がある上,手術Ⅰで減胎を試みた胎児とそうでない胎児との見極めが非常に難しかったため,多数回の穿刺になった旨の記載があり,同旨の供述をする。 しかしながら,上記認定によれば,経腹的な減胎手術においては,本件手 術当時,21ゲージないし23ゲージの穿刺針が使われるのが主流であったことが認められ,少なくとも16ゲージの穿刺針を用いる例を紹介する文献等は見当たらない。通常,減胎手術は,少なくとも3胎以上の多胎妊娠を双胎又は単胎に減ずるものであって,欧米では妊娠10~12週に胎児の心臓内にKCL(塩化カリウム ジの穿刺針を用いる例を紹介する文献等は見当たらない。通常,減胎手術は,少なくとも3胎以上の多胎妊娠を双胎又は単胎に減ずるものであって,欧米では妊娠10~12週に胎児の心臓内にKCL(塩化カリウム)を注入する方法が普及しており,それ以上に遅 い時期に減胎手術を行うと流産が誘発される可能性が高くなるとされ(甲B - 24 - 44),上記「新しい生殖医療技術のガイドライン第2版」(甲B33)においても,E医師の発表した文献に基づき,減胎手術は妊娠10週頃に経腹的に超音波穿刺用プローブガイド下に23ゲージの穿刺針を用いて経腹的に行われているとされ,「臨床婦人科産科」(甲B10)においても,通常は胎児の構造的評価が可能となる妊娠12~14週に行われ,経腹超音波ガイド 下に胎児縦断面を抽出し,穿刺針(21ゲージあるいは23ゲージ)を刺入する(甲B10)などとされている。これらによれば,妊娠10~14週頃に経腹的にKCLを注入する方法により減胎手術を行う場合において21ゲージないし23ゲージの穿刺針を用いることが技術的に困難であるとは一般に考えられていないということができる。しかるに,上記のとおり,本 件医師は,16ゲージもの太い穿刺針(16ゲージの穿刺針の断面積は21ゲージの穿刺針の断面積の6倍以上である。)を用いた上,控訴人A1の腹部を約30回にわたり穿刺しているのであり,16ゲージの穿刺針を用いる利点について,エコー(超音波)で針先を追いやすいということしか述べておらず(そもそも,本件医師は,以前に勤務していて先輩医師等から指導を受 けた他の医療機関において16ゲージの穿刺針を用いていたから手術Ⅱにおいても16ゲージの穿刺針を用いたというのであり,穿刺針の選択も含めた減胎手術に係る文献すら読んでいないという ら指導を受 けた他の医療機関において16ゲージの穿刺針を用いていたから手術Ⅱにおいても16ゲージの穿刺針を用いたというのであり,穿刺針の選択も含めた減胎手術に係る文献すら読んでいないというのである(Dp20,33)。),他に16ゲージの穿刺針を用いるべき医学的な根拠を主張等していない。上記認定のとおり,手術Ⅱが妊娠9週目に行われたものであり,しかも,先行し て手術Ⅰが行われた結果,5胎のうち4胎が残り,手術Ⅱにおいては減胎を試みた胎児とそうでない胎児との見極めが必要となったことから,本件医師の供述等するとおり,その見極めが非常に難しかったということができるとしても,上記のとおり,経腹的に子宮内に穿刺針を穿刺する場合,ゲージ数の小さい太い針を使用するほど,また,穿刺回数が増えるほど,母体の腹壁 及び子宮に対する侵襲の程度が大きくなるものであることに鑑みると,上記 - 25 - のような技術的困難性のゆえにやむを得ず穿刺回数が多数に及ぶことが想定されるのであれば,母体に対する侵襲を可能な限り抑制する観点から,穿刺針の選択には細心の注意を払うべきであったというべきであり,少なくとも,21ゲージないし23ゲージの穿刺針が使われるのが主流であるとされる経腹的な減胎手術において21ゲージの穿刺針の断面積の6倍以上もあ る16ゲージの穿刺針を選択する合理性はおよそ見いだせない。のみならず,穿刺回数が約30回に及んだことについても,証拠(甲B22,23,証人E,D)及び弁論の全趣旨によれば,減胎手術においては,1胎につき,1~3回程度,多くても,4,5回程度穿刺すれば,減胎の目的を達成することができるのが通常であるとされているようであり,減胎手術の内容,性格 等に鑑みると,それ以上の主張・立証を欠く本件において ~3回程度,多くても,4,5回程度穿刺すれば,減胎の目的を達成することができるのが通常であるとされているようであり,減胎手術の内容,性格 等に鑑みると,それ以上の主張・立証を欠く本件において,本件医師の上記供述内容等を直ちに採用して必要やむを得ないものであったと認めるのも困難というべきである。 被控訴人は,減胎手術の際にいかなる太さの穿刺針を用いるべきかについて医学的知見が確立されていたことはない旨主張するが,経腹的に子宮内に 穿刺針を穿刺する場合,ゲージ数の小さい太い針を使用するほど,また,穿刺回数が増えるほど,母体の腹壁及び子宮に対する侵襲の程度が大きくなるものであるから,本件医師の供述するとおり,技術的困難性のゆえにやむを得ず穿刺回数が多数に及ぶことが想定されたのであれば,母体に対する侵襲を可能な限り抑制する観点から,穿刺針の選択には細心の注意を払うべきで あったのであり,被控訴人の主張するとおり我が国において減胎手術の際にいかなる太さの穿刺針を用いるべきかについての医学的知見が確立しているとはいい難い状況にあったとしても,少なくとも,本件において16ゲージの穿刺針を選択する合理性は見いだし難いというほかない。 以上検討したところによれば,本件医師は,手術Ⅱに当たり,技術的困難 性のゆえにやむを得ず穿刺回数が多数に及ぶことが想定されたにもかかわ - 26 - らず,母体に対する侵襲への配慮を欠き,穿刺針の選択に注意を払わず,16ゲージの穿刺針を用いた上,約30回にわたり控訴人A1の腹部を穿刺した点において,控訴人A1の母体に対する危険防止のために経験上必要とされる最善の注意を尽くす義務に違反したものとして,本件医師の上記行為は,控訴人A1に対する不法行為を構成し,被控訴人は,控訴人A1に対し, いて,控訴人A1の母体に対する危険防止のために経験上必要とされる最善の注意を尽くす義務に違反したものとして,本件医師の上記行為は,控訴人A1に対する不法行為を構成し,被控訴人は,控訴人A1に対し,民 法715条1項による使用者責任を負うとともに,診療契約上の債務不履行責任を負うものというべきである(なお,控訴人A1は,本件医師は,手術Ⅰの胎児穿刺後に穿刺針を胎児に穿刺したまま胎児心拍の停止を必要な時間注意深く観察すべき義務があったにもかかわらず,これを怠り,2胎の減胎に失敗したため,控訴人A1は,難易度の高い手術Ⅱを余儀なくされた旨 主張するが,手術Ⅰのように経腟的に穿刺針によって胎児の胸郭部に生理食塩水を注入する経腟法も減数手術の術式として紹介されている(甲B33)ところ,本件医師は,手術Ⅰにおいて子宮底部の3胎を減胎の対象として穿刺針を穿刺し,いずれも針が刺さった旨及び手術Ⅱにおいて手術Ⅰで穿刺した胎児とそれ以外の胎児とをエコーで識別し得た旨供述しており,本件医師 が控訴人A1の主張するような注意義務を負っていたことを認めるに足りる的確な証拠はなく,他に手術Ⅰに当たり本件医師が履行補助者として本件診療契約上の注意義務に違反したことを認めるに足りる証拠もない。)。 ⑵ 損害額について上記⑴において認定・説示したとおり,本件医師は,手術Ⅱに当たり,技 術的困難性のゆえにやむを得ず穿刺回数が多数に及ぶことが想定されたにもかかわらず,母体に対する侵襲への配慮を欠き,穿刺針の選択に注意を払わず,16ゲージの穿刺針を用いた上,約30回にわたり控訴人A1の腹部を穿刺した点において,控訴人A1の母体に対する危険防止のために経験上必要とされる最善の注意を尽くす義務に違反したものである。しかも,上記 認定事実によれ 上,約30回にわたり控訴人A1の腹部を穿刺した点において,控訴人A1の母体に対する危険防止のために経験上必要とされる最善の注意を尽くす義務に違反したものである。しかも,上記 認定事実によれば,本件医師は,以前に勤務していて先輩医師等から指導を - 27 - 受けた他の医療機関において16ゲージの穿刺針を用いていたから,手術Ⅱにおいても16ゲージの穿刺針を用いたというのであって,本件医師の上記注意義務違反の態様,程度は軽微とはいい難い。 他方で,証拠(甲A2,3,6,7,証人E,控訴人A1)及び弁論の全趣旨によれば,本件手術Ⅱにおける穿刺によって,控訴人A1の腹部には広 範囲にわたり内出血(皮下出血)が生じ,手術から約2年9か月が経過した平成30年3月頃の時点でも一部の穿刺痕が残っていたことが認められるのであって,控訴人A1が本件医師から16ゲージという太い穿刺針を用いて約30回にわたり腹部を穿刺されたことにより受けた肉体的・精神的苦痛の程度は小さくない。 以上の事情に加えて,本件医師がCMCを訪れて控訴人らに謝罪したことがあったなど,本件において認められる一切の事情を考慮すれば,上記苦痛を慰謝するための慰謝料額としては,50万円が相当と認められる。 そして,本件事案の内容,審理経過及び上記損害額等に鑑みると,本件における弁護士費用としては,5万円の限度で認めるのが相当である。 なお,控訴人A1は,通院治療費及び入院治療費等をもって,本件医師の上記不法行為と因果関係のある損害であると主張するが,これらの費用のうち,被控訴人に対し支払われた医療費は,本件診療契約に基づき支払われたものであり,本件医師に上記のような義務違反があったからといって直ちに控訴人A1の損害となるものではない。また,本件全証拠に のうち,被控訴人に対し支払われた医療費は,本件診療契約に基づき支払われたものであり,本件医師に上記のような義務違反があったからといって直ちに控訴人A1の損害となるものではない。また,本件全証拠によっても,控訴 人A1が手術Ⅱにより受けた内出血等について特段の治療を受けた事実は認められず,上記2で説示したところによれば,本件医師の上記不法行為により控訴人A1が絨毛膜羊膜炎を発症したとも,本件人工流産に至ったとも認められないから,FMCやCMCに対する医療費等も上記不法行為による損害とは認められない。したがって,控訴人A1の上記主張は採用すること ができない。 - 28 - 4 救胎する胎児数及び胎児の選択に関する説明義務違反について当裁判所は,原判決と同様に,本件医師に説明義務違反があったとは認められないと判断する。その理由は,原判決「事実及び理由」中,「第3 当裁判所の判断」の7のとおりであるから,これを引用する。 5 本件医師による脅迫行為等の有無について 上記認定事実によれば,本件医師は,手術Ⅱの後,午後9時過ぎに控訴人A1の病室(個室)に一人で訪れ,手術は成功した旨述べた後,減胎手術は公にしていないので,口外されると,患者が押しかけるなどして支障が出るので,口外しないでほしい旨述べ,「僕はこういう命を消したりすることもあるという意味でいろいろ背負っているものをあなたに見せたい」と言って,左肩をは だけて,控訴人A1に対し入れ墨を見せたことが認められるものの,その際,控訴人A1に対して何らかの害悪を告知するようなことはしていない(なお,控訴人A1は本件医師が声を荒げた旨主張するが,控訴人A1は,原審本人尋問において,その旨供述していない。)。上記のような入れ墨を患者に対し示す行為は,医師 を告知するようなことはしていない(なお,控訴人A1は本件医師が声を荒げた旨主張するが,控訴人A1は,原審本人尋問において,その旨供述していない。)。上記のような入れ墨を患者に対し示す行為は,医師として甚だ品位を欠いた不適切な行為であるというほかないもの の,このような行為をもって,直ちに,違法な脅迫行為ないし強要行為であるとして不法行為に該当するというのは困難であり,また,本件医師の上記のような行為につき被控訴人に診療契約における安全配慮義務違反があったと認めることもできない。 したがって,本件医師による脅迫行為等についての控訴人A1の請求は,そ の余の点について判断するまでもなく,理由がない。 6 結論以上によれば,控訴人A1の原審における請求は,55万円及びこれに対する訴状送達の日の後である平成28年7月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから, その限度で認容し,その余は理由がないから棄却すべきであり,これと異な - 29 - る原判決中控訴人A1に関する部分は一部失当であって,控訴人A1の控訴は一部理由があるから,原判決中控訴人A1に関する部分を上記のとおり変更し,また,控訴人A1が当審において追加した請求は理由がないから,これを棄却し,控訴人A2の請求は理由がなく,これと同旨の原判決中控訴人A2に関する部分は相当であるから,控訴人A2の控訴を棄却する こととする。 よって,主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第7民事部 裁判長裁判官西川知一郎 裁判官栩木有紀 裁判官森田亮 西川知一郎 裁判官栩木有紀 裁判官森田亮
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