平成30年9月27日判決言渡平成30年(行コ)第54号費用徴収決定処分取消請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成28年(行ウ)第222号) 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 α 市福祉事務所長が控訴人に対し平成25年8月29日付けでした費用徴収決定処分を取り消す。 第2 事案の概要(略称は,特記しない限り,原判決の例による。) 1 本件は,平成25年法律第104号による改正前の生活保護法(法)による保護を受けていた控訴人が,保護の申請時の資産について不実の申告をして保護費を不正に受給していたとして,α 市長から権限の委任を受けたα 市福祉事務所長から,法78条に基づき,支弁済保護費2381万8783円を徴収する旨の決定(本件徴収決定)を受けたため,保有していないと真実に反する申告をしたとされる資産は控訴人に帰属する財産ではないなどと主張して,被控訴人を相手に,本件徴収決定の取消しを求めた事案である。 原判決が控訴人の請求を棄却したため,これを不服とする控訴人が控訴した。 2 法の定め,前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張の要旨は,原判決2頁18行目の「である(」の次に「法19条4項,」を加え,後記3で当審における控訴人の主張を加えるほか,原判決「事実及び理由」の第2の1から4までに記載のとおりであるから,これを引用する。 3 当審における控訴人の主張(1) 本件各資産は,控訴人ではなくAに帰属する。 ア口座の開設及び管理日の出証券口座,岡安証券口座,β支店口座及びγ支店口座(以下,併せて「本件各口座」という。)は,いずれも金融機関等による ではなくAに帰属する。 ア口座の開設及び管理日の出証券口座,岡安証券口座,β支店口座及びγ支店口座(以下,併せて「本件各口座」という。)は,いずれも金融機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律(平成14年法律第32号。以下「本人確認法」という。)の施行後に開設された口座である。 このため,Aのための口座開設でも,控訴人が控訴人名義で行わざるを得なかった。 控訴人が本件各口座の届出印や通帳を保管していたとしても,Aが日中仕事をしていたため,いちいち届出印等を授受するのは煩瑣であったからである。 日の出証券口座及び岡安証券口座における取引について,控訴人は,証券会社の担当者の提案に従っていただけで,主体的な判断で行っていたわけではない。 本件各口座の開設及び管理状況から,本件各資産がAのものとの原審証人Aや原審控訴人本人の供述の信用性は否定できない。 イ Aの控訴人に対する委託控訴人とAは親子であり,取引の委託や意向確認を口頭でのやり取りで行うのが自然である。 控訴人が福祉事務所の調査の当初にAからの委託を述べなかったのは,Aの資産が取り上げられてしまうのではないかとパニックになって場当たり的な発言をしてしまったにすぎない。 控訴人は,証券会社の担当者の指導に従って岡安証券口座の金融商品を現金化したもので,隠蔽工作ではない。 控訴人の福祉事務所に対する説明に変遷があっても,変遷する理由があり,父Bのギャンブルに費消されないためにAの資産を控訴人名義にしていたという核心部分は,おおむね一貫している。 Aの控訴人に対する委託があったとの,原審証人A及び原審控訴人本人の供 Bのギャンブルに費消されないためにAの資産を控訴人名義にしていたという核心部分は,おおむね一貫している。 Aの控訴人に対する委託があったとの,原審証人A及び原審控訴人本人の供述の信用性は否定できない。 ウ証券口座の経済的利益の帰属平成21年2月2日の32万0356円がBの自動車修理業の部品代に充てられたことについて,親族間のやり取りであることや平成21年の出来事とすれば,証拠書類が残っていないこともやむを得ない。Aが,真に必要な部品代であれば,その拠出を拒む理由はなかった。 Aが,原審証人尋問において,分配金を3回程度しか受け取っていないと供述したのは,記憶違いによるものである。 平成25年6月24日に岡安証券から交付を受けた現金258万4740円は,Aの手を経てすぐに同行していたBに渡ったのであり,以前に,Bに渡したとしていた福祉事務所に対する説明と控訴人及びAの原審の尋問におけるAに交付したとの供述が変遷しているとはいえない。 証券口座の経済的利益は,控訴人に帰属したものではない。 エ原資本件各資産の原資については,古い話であり客観的証拠がなくてもやむを得ない。Aが本件各資産の原資となった現金をBに見つからないように自宅に保管していたという話に不自然な点はない。 Aには勤労収入があり,本件各資産の原資を手元に残すことができた。 控訴人には,本件各資産を形成できる収入はなかった。 本件各資産の原資は,Aの資産であった。 (2) 不申告のあった時点以降受領した生活保護費全額の徴収を義務付けられるとすれば,過大な負担を受給者に負わせることになる。法78条に該当する場合でも,徴収額について実施機関の裁量が認められている (2) 不申告のあった時点以降受領した生活保護費全額の徴収を義務付けられるとすれば,過大な負担を受給者に負わせることになる。法78条に該当する場合でも,徴収額について実施機関の裁量が認められているというべきである。 活用し得る資産がなくなれば生活保護費が支給される。返還額は,支給額 全額ではなく,存在したと認定する資産の範囲を限度とすべきである。 支給額全額の徴収を決定した本件徴収決定は,裁量権の範囲を逸脱し又は濫用したもので違法である。 (3) 行政手続法14条1項本文の理由提示の趣旨は,防御の便宜及び行政庁の恣意抑制にあるから,行政庁と被処分者との間で争点となっている事項があった場合,争点に即した理由提示が求められる。 本件徴収決定には,本件各資産を控訴人の資産と認定した具体的理由が全く記載されておらず,同項に違反している。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は,次の2において当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第3の1から5までに記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決を次のとおり訂正する。 (1) 12頁25行目の「知らなかった」を「知らない」に改める。 (2) 15頁18行目の「6月月」を「6月」に改める。 (3) 15頁21行目の「岡安証券」から24行目の「と,」までを削る。 (4) 15頁24行目の「知らなかった」を「知らない」に改める。 (5) 15頁26行目の「4日,」の次に「岡安証券から被控訴人に対し控訴人に係る顧客勘定元帳が提出され,控訴人が同年6月24日に岡安証券から258万4740円を受領していることが判明すると,」を加える。 (6 行目の「4日,」の次に「岡安証券から被控訴人に対し控訴人に係る顧客勘定元帳が提出され,控訴人が同年6月24日に岡安証券から258万4740円を受領していることが判明すると,」を加える。 (6) 22頁17行目の「法78条」から23頁11行目の「仮に,」までを削る。 (7) 23頁12行目の「前記のような」を「不正な手段により保護を受け,又は他人をして受けさせた者に対して行われる損害徴収としての性格を有する」に改める。 (8) 23頁13行目の「当該裁量」を「被徴収者の資力等の事情」に改める。 (9) 23頁13行目の「認められる」を「考慮される」に改める。 (10)23頁16行目の「認められること」の次に「,③控訴人が一定の金融資産を保有しながら生活保護費を受給し続けていたこと」を加える。 2 当審における控訴人の主張に対する判断(1) 本件各資産の帰属についてア控訴人は,本件各資産はAに帰属していたとして,まず,本人確認法のため口座開設を控訴人が行わざるを得なかったなどと主張する。 しかし,原審控訴人本人は,日の出証券口座は平成9年に開設したと供述し,β支店口座もその頃には開設されたという関係に立つであろうから,これらの口座の開設については,少なくとも本人確認法は関係がない。 また,本人確認法の施行後についても,Aが銀行や証券会社にA名義の口座を開設すること自体には何の困難も見当たらない。 証券会社の取引に,いちいち印鑑や通帳(証券取引では「通帳」を観念できないのであるが)が必要なわけではないから,これらの授受が煩瑣で控訴人が預かり放しであったというのも不自然である。 証券取引において,控訴人が証券会社の担当者の提案に従っていただけかどう ないのであるが)が必要なわけではないから,これらの授受が煩瑣で控訴人が預かり放しであったというのも不自然である。 証券取引において,控訴人が証券会社の担当者の提案に従っていただけかどうかは,控訴人と証券会社との間の問題であって,控訴人とAのどちらが証券口座の真の帰属者かの問題とは別の次元の事柄である。 そもそも,本件では,本件各口座の管理について,積極的にAがこれを管理していることを示す事実は何も出てこない。 本件各口座の開設及び管理状況(原判決「事実及び理由」第3の2(1)ア)からは,本件各資産がAのものとの原審証人Aや原審控訴人本人の供述は信用することができないといわざるを得ない。 イ控訴人は,親子であれば控訴人がAから取引の意向確認等を口頭でやり取りするのは自然であるなどと主張する。 確かに,控訴人とAの間で取引を委託したり意向を確認したりすることを書面で行うなどということは不自然であろう。 しかし,原審控訴人本人は,1日に複数回ある株式の売買(乙6)までAの意向を確認しながら行ったように供述するのであって(9頁,17・18頁。なお,尋問の後半では,原審控訴人本人の供述も変わっている。),それでは原判決も指摘するとおり,余りに不自然である。原審証人Aの供述は,個々の取引確認についてはしたのかしていないのか混乱している。 また,証券口座が発見された際,控訴人の最初の答えは,乙15によれば,「そのような資産を持っていないため,とても驚いた」,Aが控訴人に対して控訴人や控訴人の子どもの名義を貸してほしいという話があったかもしれないが「覚えていない」というものである。証券口座がAの資産の運用であったとしても,実際に証券会社の担当者とやり取りをしていたの て控訴人や控訴人の子どもの名義を貸してほしいという話があったかもしれないが「覚えていない」というものである。証券口座がAの資産の運用であったとしても,実際に証券会社の担当者とやり取りをしていたのは控訴人であったのであるから,控訴人の上記のような答えは,控訴人が主張するところともかけ離れている。これを,パニックのためとはいうことはできない。そして,父Bに使われてしまわないためAの資産を控訴人の名義にしたというのに,それがBのものであるかのように言うのは,どう見ても,控訴人のものであることを隠したいがためとしか考えられない。変遷を問題にする以前に控訴人の福祉事務所に対する説明は,それ自体,「真実」を隠しているものでしかない。 なお,証券会社の担当者が,証券口座がAのものであることを聞いていたとか,金銭引出しを指導したというのであれば,少なくとも担当者の陳述書程度は提出されてしかるべきとも思われるが,そのようなものは提出されていない。 Aの控訴人に対する委託をいう原審証人Aや原審控訴人本人の供述も信用することができない。 ウ控訴人は,金融資産からの経済的利益が控訴人に帰属したものではなく,Aに帰属している旨主張する。 しかし,平成21年2月の出金がBの自動車修理業のためというのは, いかにも唐突であり,必要な費用とはいえ1回拠出した後,更に拠出を迫られなかったというのも不可解である。 分配金を3回しか受け取っていないという原審証人Aの供述が,どういう理由で何と混同して記憶違いを来したのかは何も説明されていない。 岡安証券から出金した250万円余についてみれば,控訴人以外の者が岡安証券に赴いたこと自体客観的には証明されていない(受け取るには,控訴人は行かなければいけな かは何も説明されていない。 岡安証券から出金した250万円余についてみれば,控訴人以外の者が岡安証券に赴いたこと自体客観的には証明されていない(受け取るには,控訴人は行かなければいけないが,それで十分なのである。)。そして,それを誰が最終的に手にしたかは,必ずしも金融資産の帰属者と一致するものでもない。その時点で預けたという見方もできるからである。 いずれにせよ,金融資産からの経済的利益がAに帰属したと認めるには足りない。 エ控訴人は,本件各資産の原資となった現金はかなり古くからAがBに見つからないように隠して保管していた旨主張する。 しかし,Aが昭和46年頃から昭和56年頃までにAの父や兄の死亡に伴って取得した600万円を自宅に小分けにして隠しておき,平成3年からはその一部だけを郵便局の定額貯金とし,平成13年頃以降は利息と合わせて合計800万円となった現金を再び全額自宅に隠していたという話は,その話自体にわかに信じられるものではない。すなわち,預金があればすぐそれを引き出してしまうBを前に,昭和56年頃から平成3年まで600万円を隠し通せたということ,平成3年に一部だけ定額貯金にしたこと,平成13年以降,それを再度自宅に隠したこと,平成15年になるや,全てを証券会社の口座に入金したこと,経済的苦境にあっても上記金員だけは残していたことというのは,どれについても不自然な要素がある。Aに勤労収入があったからといって本件各資産の原資を保管し続けることができたと認められるものでもない。 本件各資産の原資をAが有していたと証明されてはいない。 オ以上のとおり,当審で控訴人が主張するところをみても,本件各資産がAに帰属するとは認められない。 (2) 控訴人は,徴収 各資産の原資をAが有していたと証明されてはいない。 オ以上のとおり,当審で控訴人が主張するところをみても,本件各資産がAに帰属するとは認められない。 (2) 控訴人は,徴収決定は返還額を存在したと認定する資産の範囲を限度とすべきであり,支給額全額の徴収を決定した本件徴収決定は裁量権の範囲を逸脱し又は濫用したものである旨主張する。 しかし,控訴人の不申告が意図的なものであり,かなり高額な金融資産を保有しながら生活保護費を受給していたことからすれば,支給額全額の徴収を決定したからといって,本件徴収決定に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用が認められないことは,原判決「事実及び理由」の第3の3(訂正後のもの)記載のとおりである。 (3) 控訴人は,本件徴収決定には本件各資産を控訴人の資産と認定した具体的理由が記載されていないから行政手続法14条1項本文に違反する旨主張する。 しかし,本件徴収決定の根拠となる規定,「徴収理由」,「不正期間」等の記載があれば,理由の提示に欠けるところがないことは,原判決「事実及び理由」の第3の4記載のとおりである。本件各資産を控訴人の資産と認定した理由までは,処分の名宛人の不服申立ての便宜を考慮しても必要とは解されない。処分の名宛人は,反対事実の立証までは要求されてはいないからである。 第4 結論以上によれば,控訴人の請求は理由がなく,これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第3民事部 裁判長裁判官江口とし子 裁判官山田明 裁判官角田ゆみ 部 裁判長裁判官江口とし子 裁判官山田明 裁判官角田ゆみ
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