主文 1 本件各控訴をいずれも棄却する。 2 1審原告の控訴に係る控訴費用は1審原告の負担とし、1審被告の控訴に係る控訴費用は1審被告の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 1審原告⑴ 原判決を次のとおり変更する。 ⑵ 1審被告は、1審原告に対し、1000万円及びこれに対する平成26年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 1審被告⑴ 原判決中、1審被告敗訴部分を取り消す。 ⑵ 前項の部分につき、1審原告の請求を棄却する。 第2 事案の概要 1 事案の要旨(以下、略称の使用は、特に断りのない限り、原判決の例による。) 本件は、東日本入管センターに収容されていたカメルーン国籍の男性が平成26年3月30日に死亡したことに関し、男性の母である1審原告が、東日本入管センターの職員らは同月29日に男性の容態が急変した時点で男性を救急搬送するべき義務があったにもかかわらずこれを怠ったことは国家賠償法1条1項の適用上違法なものであると主張して、1審被告に対し、同項に基づき、損害金 の一部である1000万円及びこれに対する同月30日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 原審は、1審原告の請求について、165万円及びこれに対する同日から支払済みまで上記割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余を棄却 したところ、1審原告及び1審被告が、それぞれ敗訴部分を不服として控訴をし た。 2 前提事実等前提事実、争点及び争点に対する当事者の主張は、次項のとおり原判決を補正し、4項のとおり当審における当事者の補充主張を付加するほか、原判決の「 を不服として控訴をし た。 2 前提事実等前提事実、争点及び争点に対する当事者の主張は、次項のとおり原判決を補正し、4項のとおり当審における当事者の補充主張を付加するほか、原判決の「事実及び理由」第2の1ないし3に記載のとおりであるから、これを引用する。 3 原判決の補正⑴ 原判決2頁14行目の「母」の後に「であり、Aの唯一の相続人」を加える。 ⑵ 原判決3頁4行目の「特別審査官」を「特別審理官」と改める。 ⑶ 原判決3頁15行目末尾に、改行して次のとおり加える。 「 なお、Aは、英語で読み書きをし、会話をすることはできたが、日本語で 会話をすることはできなかった。(証人B)」⑷ 原判決3頁17行目の「甲9」を「甲10」と改める。 ⑸ 原判決4頁19行目の「された。」の後に「なお、同日Aに実施された心電図検査において、心房細動など心疾患の所見はみられなかった。診療室の医師は、Aのように生活習慣病を持つ患者については、月1回程度、定期的に自ら診察 することとしていたため、次回のAの診察日を同年3月27日と指定した。」を加え、同頁20行目の「同年3月」を「同月」と改め、同頁21行目の「医師は、」の後に「同月3日、」を加える。 ⑹ 原判決4頁25行目の「医師は、」の後に「同月10日、」を加える。 ⑺ 原判決5頁2行目の「また」から同頁4行目末尾までを次のとおり改める。 「また、Aは、同月16日、足の痛みで約12日間眠れない夜を過ごしており、めまいも一緒に起きている旨を記載した申出書を提出して、庁内診療を申し出た。同申出を受けた東日本入管センターの職員らは、数日前からAが体調不良の様子であり、同室者等の他の被収容者がAの早期受診を懇願していたこと、同室者はAがHIVにり患しているこ て、庁内診療を申し出た。同申出を受けた東日本入管センターの職員らは、数日前からAが体調不良の様子であり、同室者等の他の被収容者がAの早期受診を懇願していたこと、同室者はAがHIVにり患していることを気にしており、不穏な様子がみられ たことなどから、同センターの診療担当職員に対し、早期の診療を実施するよ う依頼した。診療担当職員は、上記エのとおり診療室の医師によるAの診療が同月27日に実施される予定であったことから、上記申出に対する診療を同月27日に行うこととした。Aは、同月19日、血糖値がグルコース199㎎/dl と測定された。」⑻ 原判決5頁5行目の「Aは、」の後に「平成26年3月24日、」を加える。 ⑼ 原判決5頁9行目の「甲25」の後に「、甲28、甲42、乙12、乙17、乙20、乙28、乙31、乙35、乙36、証人B」を加える。 ⑽ 原判決5頁12行目の「との旨」を「旨を」と改め、同行の「訴え、」の後に「午前11時28分、」を加え、同頁13行目の「測定されて、」を「測定された。東日本入管センターの職員らは、他の被収容者十数名が、Aの早期治療を 求め、集団で帰室を拒否するなどしたため、騒じょうへの発展を防止するとともに体調不良を訴えるAの容態観察を行うため、Aを休養室に移すこととした。 Aは、」と改める。 ⑾ 原判決5頁15行目の「診察室の医師の診察を受け」を「車椅子を使用して診療室に搬送され、診療室の医師の診察を受け、ふらつき・脱力が何度かある こと、脚に力が入らず、脚の痛みもあること、食欲が低下していることを訴え」と改め、同頁17行目の「ついて、」の後に「意識清明ではあるが、」を加え、同頁18行目から19行目にかけての「メデットの」を「メデットについては、患者の摂食不良を予測して、後の低血 いることを訴え」と改め、同頁17行目の「ついて、」の後に「意識清明ではあるが、」を加え、同頁18行目から19行目にかけての「メデットの」を「メデットについては、患者の摂食不良を予測して、後の低血糖を回避するため、」と改める。 ⑿ 原判決5頁24行目の「休養室において」を「前日に休養室に移されて以降」 と改める。 ⒀ 原判決6頁3行目の「また、」を削除し、同頁9行目の「なお、」の後に「上記検査結果は、カリウム値が高いものではあったが、検査項目も限られており、特に治療を必要とするほどの変化がみられるものではなかった。また、」を加える。 ⒁ 原判決6頁13行目の「副看守責任者」の後に「(以下、両名を併せて「看守 責任者ら」という。)」を加える。 ⒂ 原判決6頁16行目末尾に次のとおり加える。 「看守責任者らは、午前8時53分頃、Aに対し、トラゼンタ、ラベプラゾール(胃薬)、ソラナックス、ZIDOLAM、カンファタニン及びレバミピドを服用させた。」 ⒃ 原判決6頁18行目末尾に次のとおり加える。 「看守責任者は、午後2時07分頃、Aに対し、ソラナックス、カンファタニン及びレバミピドを服用させた。」⒄ 原判決6頁19行目冒頭から同頁21行目末尾までを次のとおり改める。 「Aは、午後6時07分頃、「要件あり」(判決注・「用件あり」の誤記と考 えられる。)と記載されたボードを掲げて、職員に対応を求めた。 監視カメラで休養室内を監視していた警備会社の警備員(以下、単に「警備員」という。)は、Aが上記ボードを掲げていることに気付き、副看守責任者に対し、その旨を連絡した。 副看守責任者は、午後6時08分頃、Aが収容されていた休養室(以下、 単に「休養室」ということがある。)に入り、Aに夕食をと を掲げていることに気付き、副看守責任者に対し、その旨を連絡した。 副看守責任者は、午後6時08分頃、Aが収容されていた休養室(以下、 単に「休養室」ということがある。)に入り、Aに夕食をとらせる準備をするなどした後、午後6時13分頃、退室した。 Aは、午後6時54分頃、「要件あり」と記載されたボードを掲げて、職員に対応を求めた。 上記事実に気付いた警備員から連絡を受けた副看守責任者は、午後6時 55分頃、休養室に入り、午後6時58分頃、Aに対し、トラゼンタ、ラベプラゾール、ソラナックス、ZIDOLAM、カンファタニン及びレバミピドを服薬させた。 副看守責任者は、午後7時04分頃、Aを車椅子からベッドの上に移動させて寝かせようとした。その際、Aは、「あー」などと悲鳴のような大声 を上げた。 副看守責任者は、午後7時05分頃、看守責任者に対して応援を要請し、午後7時06分頃、その頃休養室に入った看守責任者と二人で、Aの体を持ち上げてベッド上に移動させ、午後7時08分頃、看守責任者とともに休養室を出た。」⒅ 原判決6頁22行目の「」を「」と改める。 ⒆ 原判決6頁23行目冒頭から同頁25行目末尾までを次のとおり改める。 「Aは、午後7時14分頃、ベッドから床に落ち、午後7時15分頃、床の上を転がり、頭部をベッドの下に入れた。看守責任者らは、監視カメラで休養室内を監視していた警備員から、Aの状況が上記のとおりであり、監視のみでは動静を十分に把握できない旨の報告を受けたため、午後7時 16分頃、二人で休養室に入った。Aは、看守責任者らが入室した際、「アイムダイイング(I'mdying)」と複数回声を発した。看守責任者らは、午後7時18分頃、Aの体を持ち上げてベッド上に移動さ 16分頃、二人で休養室に入った。Aは、看守責任者らが入室した際、「アイムダイイング(I'mdying)」と複数回声を発した。看守責任者らは、午後7時18分頃、Aの体を持ち上げてベッド上に移動させた。 看守責任者らは、午後7時33分頃、Aをベッドから車椅子に移動させ、Aの頭部にアイスノンを装着するなどした。Aは、午後7時35分頃、「ア イムダイイング」、「マイハートエイク(Myheartache)」などと声を発した。 看守責任者らは、午後7時39分頃、Aに水を飲ませ、午後7時40分頃、退室した。」⒇ 原判決7頁2行目、5行目及び12行目の各「入国警備官」をいずれも「副 看守責任者」と改め、同頁13行目の「である他の入国警備官」を削除し、同頁14行目の「入国警備官」を「看守責任者ら」と改める。 原判決8頁1行目冒頭から同頁9行目末尾までを次のとおり改める。 「Aの死体について、平成26年4月3日、嘱託を受けた鑑定人による司法解剖がされた。鑑定人は、Aの死因について、形態変化に乏しい心臓疾患(不整 脈、冠状動脈攣れん縮による虚血性心疾患等)で病死した可能性が高いと鑑定し、 その根拠として、諸臓器の肉眼的・組織学的検索では明らかに死因となるような病変は確認できなかったこと、HbAlc等の数値や食事を摂取していたこと等から糖尿病と死亡との因果関係は乏しいと考えられること、監視カメラの映像から痙攣発作の発症を疑わせる異常は認められないこと、急な経過で死亡に至っていること、肺が高度水腫状を呈しており急性循環不全の状態にあった と示唆されること、具体的病名を特定するに足る根拠は得られなかったことなどを挙げた。」 原判決8頁10行目の「乙6」の後に「、乙21」を加える。 原判決9頁 循環不全の状態にあった と示唆されること、具体的病名を特定するに足る根拠は得られなかったことなどを挙げた。」 原判決8頁10行目の「乙6」の後に「、乙21」を加える。 原判決9頁1行目の「発作」を「発生」と改める。 原判決9頁18行目の「伝達障害」を「伝導障害」と改める。 原判決10頁10行目の「毛細血管」を「毛細管壁」と改める。 原判決10頁14行目末尾に、改行して次のとおり加える。 「⑼ 東日本入管センターにおける診療体制(甲2、乙7)平成26年3月当時、東日本入管センターに常勤医師は不在であり、非常勤の医師複数名が交代で、平日の午後1時から午後5時まで診療を行っ ていた。なお、非常勤の医師との契約において、当該医師の業務として、契約時間外に同センターから被収容者の病状について報告、相談を受けること等は含まれていなかった。 看護師は2名で、1名が午前8時30分から午後5時15分まで勤務し、1名が週に1回又は2回、1回につき3時間勤務していた。 診療は、被収容者から申出があった場合に行うことを原則としつつ、看守勤務者が被収容者のり病又は負傷を知った場合、診療時に医師から引き続き受診を指示された場合、健康診断の結果、医師から診療が指示された場合等に行われていた。診療は、まず庁内診療を行い、庁内診療において専門的な検査や診療が必要と認められるなどした場合は、適当な外部医療 機関において診療を行っていた。急病等が発生し緊急を要する場合は、消 防署等の救急隊の出動を要請して救急搬送を行った上、外部医療機関での診療を行っていた。 なお、本件では、東日本入管センターの職員らが平成26年3月29日の時点でAを救急搬送するべき義 防署等の救急隊の出動を要請して救急搬送を行った上、外部医療機関での診療を行っていた。 なお、本件では、東日本入管センターの職員らが平成26年3月29日の時点でAを救急搬送するべき義務があったか否かが争点の一つであるところ、同日は土曜日であった。(公知の事実) ⑽ 東日本入管センターにおける休養室の監視体制(乙14)平成26年3月当時、東日本入管センターの休養室に収容された者の動静の監視は、同センター内の処遇事務室において、警備員1名ないし2名が、常時テレビモニターを見て監視するとともに、看守責任者1名及び副看守責任者2名ないし4名が、随時動しょうを行っていた。警備員は、被 収容者が監視カメラに向かって「要件あり」と記載されたボードを提示するなどして呼出しの意思を示した場合や、被収容者に特異な行動が認められた場合、上記処遇事務室内で勤務する看守責任者又は副看守責任者に速やかに口頭で報告し、看守責任者又は副看守責任者において対応していた。 テレビモニターによる休養室の監視は、通常、音声を消してテレビ画像 のみで行っていたが、事案や必要性に応じ、音声を聞けるようにして行うこともあった。Aが収容されていた休養室を監視していた時は、音声を聞けるようにすることなくテレビ画像のみで監視していた。」 原判決12頁5行目の「(判決注・「私は死にそうだ」の意味。)」及び同頁7行目から8行目にかけての「(判決注・「私は胸が痛い」の意味。)」をいずれも 削除する。 原判決12頁22行目の「A」から同頁24行目の「考えられる」までを次のとおり改める。 「Aが同日午後7時04分に絶叫したのは、副看守責任者に体を抱えられ、車椅子から立たされようとした際に、車椅子の足置きとベッドの縁との間 」から同頁24行目の「考えられる」までを次のとおり改める。 「Aが同日午後7時04分に絶叫したのは、副看守責任者に体を抱えられ、車椅子から立たされようとした際に、車椅子の足置きとベッドの縁との間に脚を 挟まれたからである」 原判決12頁25行目の「呼ぶ」から同頁26行目の「していて」までを「呼ぶためであって、その後に休養室に入った看守責任者らには応対しており」と、13頁1行目の「職員ら」を「看守責任者ら」と、それぞれ改める。 原判決13頁26行目の「Aは」の後に「、同月24日から抗HIV薬の服用を再開したが、」を加える。 原判決14頁22行目の「同」を削除し、同頁23行目から24行目にかけての「7時06分」を「7時04分」と改める。 原判決14頁26行目の「平成29年」を「平成26年」と改め、15頁4行目の「高いと」及び同頁18行目の「したがって、」をいずれも削除する。 原判決16頁1行目の「平成29年」を「平成26年」と、同頁3行目の「6 時05分」を「6時06分」と、それぞれ改める。 原判決16頁13行目の「上記」の後の「同」を削除する。 原判決18頁18行目の「否認」の後に「、不知」を加える。 4 当審における当事者の補充主張⑴ 1審原告の主張 ア救急搬送義務違反とAの死亡との間の相当因果関係原判決は、東日本入管センターの職員らは、Aについて、遅くとも平成26年3月29日午後7時35分頃の時点で、救急搬送を要請し、医療機関に救急搬送するべき注意義務があったのに、これを怠ったものであると認定した上で、たとえ同日午後8時35分頃までに搬送先の病院で治療を開始でき ていたとしても、Aを救命することができたか 療機関に救急搬送するべき注意義務があったのに、これを怠ったものであると認定した上で、たとえ同日午後8時35分頃までに搬送先の病院で治療を開始でき ていたとしても、Aを救命することができたかは相当に不確実であったとして、上記注意義務違反とAの死亡との間に相当因果関係は認められないと判断したが、誤りである。 同日午後8時35分頃までに搬送先の病院で治療を開始していれば、Aの救命可能性があったことは、C医師及びD医師が、いずれも、原審において その旨を証言している。 また、Aは、同日午後7時04分には、ベッドに寝かされようとした際に絶叫し、ベッドに寝られずに、床にはいつくばってうめきながら転がっていた。同日午後7時21分には、休養室内でAに対応していた副看守責任者が「メディカル」という単語を発しており、同人はAに医療的な措置が必要であると認識したと思われる。かかる事実関係に鑑みれば、同日午後7時04 分頃の時点、又は、遅くとも同日午後7時21分頃の時点で、東日本入管センターの職員らは、Aについて、救急搬送を要請し、医療機関に救急搬送するべき注意義務があったといえる。そして、上記の時点で救急搬送していれば、その1時間後には治療を開始することができたのであるから、Aの救命可能性は、同日午後7時35分頃に救急搬送された場合よりも更に高まった ものといえる。 イ A及び1審原告の損害 原判決は、Aが死亡した当時に生存していた相当程度の可能性が侵害されたことによる慰謝料として、150万円が相当であると判断し、逸失利益は認めなかったが、誤りである。 本件における東日本入管センターの職員らの注意義務違反は、極めて重大、悪質である。また、仮に上記注意義務違反とAの死亡 当であると判断し、逸失利益は認めなかったが、誤りである。 本件における東日本入管センターの職員らの注意義務違反は、極めて重大、悪質である。また、仮に上記注意義務違反とAの死亡との間に相当因果関係が認められないとしても、上記相当程度の可能性は、高度の蓋然性に近い程度のものであった。これらの事情に鑑みると、上記慰謝料額は低きに失する。なお、慰謝料について、カメルーンの経済状況等を考慮する ことは、不当な差別であり、違法である。精神的苦痛はあらゆる人間において共通であり、日本国籍を有する者と外国籍の者との間に差異があってはならない。 さらに、上記相当程度の可能性の侵害の本質が生命侵害に準じた賠償責任であることからすると、逸失利益についても認めるのが相当である。 原判決は、1審原告が1審被告に対して民法711条の定める固有の慰 謝料請求権を有するものとは認められないと判断したが、誤りである。 Aが平成26年3月29日午後7時46分までに救急搬送を開始されていれば死亡の結果を回避できたものと認められず、その死亡した時点でなお生存していた相当程度の可能性が認められるにとどまる場合でも、1審原告は、上記死亡の結果を回避できた場合に比肩すべき精神上の苦痛を 受けたと認められる。 したがって、民法711条が類推適用され、1審原告は、固有の慰謝料請求権を有する。 ⑵ 1審被告の主張ア救急搬送義務の不存在 原判決は、東日本入管センターの職員らは、Aについて、遅くとも平成26年3月29日午後7時35分頃の時点で、救急搬送を要請し、医療機関に救急搬送するべき注意義務があったと認定したが、誤りである。 東日本入管センターの職員らは、同年2月27日に とも平成26年3月29日午後7時35分頃の時点で、救急搬送を要請し、医療機関に救急搬送するべき注意義務があったと認定したが、誤りである。 東日本入管センターの職員らは、同年2月27日にAが胸痛を訴えた際、診療室の医師の診察を受けさせ、同医師は、胸痛への対処として頓服薬を処 方するとともに、容態観察を指示した。同職員らは、その後にAが胸痛を訴えた際には、上記指示に従い、上記頓服薬を服用させるとともに、その効果を確認しつつ容態観察することで対応してきており、同日から同年3月29日に至るまでの間のいずれの時点においても、Aが重篤な状態に陥ることはなかった。 なお、同日午後7時04分以降の時点で、Aが「アイムダイイング」、「マイハート」などと声を上げることはあったものの、Aは同日午後6時58分頃に上記頓服薬を服用したばかりであり、当該薬の服用からその薬効が生じるまで数十分から数時間程度を要することからすると、それまでの一定時間容態観察を続けること自体は、従前の経緯に照らし不合理なことではない。 実際にも、その後のAの容態は、看守責任者らの助力を得て、水を飲み、上 体を起こして車椅子に移動し、車椅子に座り、看守責任者らが車椅子を押して移動した際にも車椅子から床に倒れるなどの異常が生じることはなかったなど、客観的に徐々に落ち着きつつあると認識し得る状況にあり、東日本入管センターの職員らにおいて、もはや従前診療室の医師に受けた指示に従い容態観察を継続することが許されず、新たに同医師の指示を仰ぐ必要があ るものの、そのいとまがないため救急搬送を要請するほかないと判断せざるを得ない程度に、明らかに重篤な状態に変化したものではなかった。 以上によれば、同日午後7時35分頃までの時点で、東日本入管センター のの、そのいとまがないため救急搬送を要請するほかないと判断せざるを得ない程度に、明らかに重篤な状態に変化したものではなかった。 以上によれば、同日午後7時35分頃までの時点で、東日本入管センターの職員らが、Aについて、救急搬送を要請し、医療機関に救急搬送するべき注意義務があったとは認められない。 イ救急搬送された場合のAの生存可能性原判決は、Aについて、遅くとも平成26年3月29日午後7時35分頃に救急搬送の要請が開始されて病院に搬送されていれば、その死亡した時点においてなお生存していた相当程度の可能性はあったものと認定したが、誤りである。 仮に、同日午後7時35分頃に救急搬送の要請が開始されて病院に搬送された場合、同日午後8時35分頃までには乳酸アシドーシスであることが判明し、その対処療法として、血液のpH 値の低下に対して効果があるメイロンを投与したり、血圧の低下に対して効果があるカテコラミン(強心剤)を投与したりするなどの措置が行われることになると考えられるが、これらの 措置は対症療法にすぎず、根本治療ではない。 そのため、Aの救命可能性は、乳酸アシドーシスの原因を特定して根本治療を行った場合や、体外循環装置を使用した場合も含む救命可能性である四、五割よりも相当低いものであったといえ、このような救命可能性をもって、上記相当程度の可能性があったものとは認められない。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、1審原告の請求は、165万円及びこれに対する平成26年3月30日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないと判断する。その理由は、次項のとおり原判決を補正し、3項において、当審における当事者の補充主 月30日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないと判断する。その理由は、次項のとおり原判決を補正し、3項において、当審における当事者の補充主張に対する判断を示すほか、原判決の「事実及び理由」第3の1ないし7に記載のとおりであるから、こ れを引用する。 2 原判決の補正⑴ 原判決18頁23行目から24行目にかけての「甲25」の後に「、甲28」を、同行の「乙27」の後に「、乙28、乙31、乙35、乙36、証人B」を、それぞれ加える。 ⑵ 原判決18頁26行目の「東日本入管センターの職員」及び19頁8行目の「入国警備官」をいずれも「副看守責任者」と、同頁8行目の「薬」を「トラゼンタ、ラベプラゾール、ソラナックス、ZIDOLAM、カンファタニン及びレバミピド」と、同行の「服用した」を「服用し、処方薬管理記録書(乙17)に署名した」と、それぞれ改め、同行末尾に「副看守責任者は、午後6時 59分頃に一旦退室し、午後7時02分頃に再入室した。」を加える。 ⑶ 原判決19頁9行目の「Aは、」の後に「自力で車椅子からベッドの上に移動することができない様子であったため、」を加え、同行の「職員ら」を「副看守責任者」と、同頁10行目の「した際」を「したところ」と、それぞれ改め、同頁15行目末尾に、改行して次のとおり加える。 「副看守責任者は、午後7時05分頃、看守責任者に対して応援を要請し、午後7時06分頃、その頃休養室に入った看守責任者と二人で、Aの体を持ち上げてベッド上に移動させた。Aは、ベッド上で弱々しい声を上げ、苦しそうな様子であったが、大声を上げたり、ベッドから落ちたりするようなことはなかった。看守責任者らは、午後7時08分頃、休養室を出た。」 上に移動させた。Aは、ベッド上で弱々しい声を上げ、苦しそうな様子であったが、大声を上げたり、ベッドから落ちたりするようなことはなかった。看守責任者らは、午後7時08分頃、休養室を出た。」 ⑷ 原判決19頁16行目冒頭から同頁22行目末尾までを次のとおり改める。 「⑶ Aは、午後7時11分頃から、ベッドの上でうめき声を上げ、転がるなどし、「アイムダイイング」と複数回声を発した。さらに、午後7時14分、ベッドから床に落ちて、「アイムダイイング」と複数回声を発した。 ⑷ 看守責任者らは、警備員から連絡を受けて、午後7時16分頃に休養室に入り、午後7時18分頃にAの体を持ち上げてベッド上に移動させ、午 後7時33分頃にAをベッドから車椅子に移動させ、Aの頭部にアイスノンを装着し、午後7時39分頃にAに水を飲ませるなどした後、午後7時40分頃に二人で退室した。 Aは、看守責任者らが入室した直後に、看守責任者らに対し、「アイムダイイング」と複数回声を発し、床から起き上がることができず、看守責任 者らによりベッド上に戻され、その後車椅子に移動させられるなどする間及び車椅子に移動した後も、ベッドの上を転がったり、「アイムダイイング」、「マイハート」、「メディスン」と声を発したり、悲鳴のような大声を上げたり、うめき声を上げたりし、車椅子上では上半身を前後左右に揺らすなど、ぐったりした状態が続き、午後7時35分頃にも、看守責任者ら に対し、「アイムダイイング」、「マイハートエイク」と声を発した。 看守責任者らは、英語を得意とするものではなかったため、Aの発言全てを正確に聞き取ることはできなかったが、「アイムダイイング」、「マイハート」という発言は認識することができ、また、看守責任者らの入室後のAの様子をみて、A 意とするものではなかったため、Aの発言全てを正確に聞き取ることはできなかったが、「アイムダイイング」、「マイハート」という発言は認識することができ、また、看守責任者らの入室後のAの様子をみて、Aの体調が良くないことを認識した。 看守責任者らは、Aが胸を痛がって弱音を吐いているのだろうと思ったが、胸痛用に処方された頓服薬を午後6時58分頃にAに飲ませたばかりであり、薬の効き目が現れるのに時間を要すると考えたため、Aに対し、「ノーメディスン(nomedicine)」と述べるなどし、まだ薬を飲ませることができない旨説明した。その後、看守責任者らは、しばらくAの様子を うかがったが、医療機関への救急搬送を要請する必要があるほど重篤な状 態であるとは思わなかったため、午後7時40分頃、休養室を出た。」⑸ 原判決20頁10行目末尾に、改行して次のとおり加える。 「東日本入管センターの職員らの救急搬送義務に関し、1審原告は、Aの状態に照らせば、平成26年3月29日午後6時06分から遅くとも同日午後7時46分までの間に救急車の出動を要請してAを救急搬送するべき注意義務が あった旨主張し、1審被告は、上記職員らは診療室の医師の指示に従いAの状況に応じた適切な対処をしていたものであり、救急搬送義務違反はなかった旨主張する。そこで、これらの主張の当否について検討する。」⑹ 原判決20頁22行目冒頭から23頁17行目末尾までを次のとおり改める。 「⑵ 前記前提事実及び認定事実に係る事実関係によれば、Aは、平成26年3月29日午後6時07分頃及び午後6時54分頃、「要件あり」と記載されたボードを掲げて、職員に対応を求めていることが認められる。 これに対し、監視カメラで休養室内を監視していた警備員から上記事実 3月29日午後6時07分頃及び午後6時54分頃、「要件あり」と記載されたボードを掲げて、職員に対応を求めていることが認められる。 これに対し、監視カメラで休養室内を監視していた警備員から上記事実の連絡を受けた副看守責任者は、同日午後6時08分頃及び午後6時55 分頃にそれぞれ休養室に入り、Aに夕食をとらせる準備をしたり、診療室の医師から処方されるなどしていた薬を服用させたりした後、同日午後6時13分頃及び午後6時59分頃、それぞれ休養室を出たものであるが、その間、Aは、準備された夕食を相当程度食べ、自分で車椅子を操作して休養室内を移動し、処方された薬を服用してその旨処方薬管理記録書に署 名するなどしていることが認められる一方、同日午後7時04分頃以降のAにみられた、大声を上げる、床をはってうめき声を上げる、床の上を転がる、「アイムダイイング」との発言を繰り返す、自分で車椅子を操作することができずぐったりしている等の言動はみられなかった。 また、Aは、休養室に入った副看守責任者に対して胸痛を訴えたことが うかがえ、自力歩行ができずに車椅子を使用していたことが認められるも のの、胸痛自体は、同年2月27日から訴えられ、同日及び同年3月27日に診療室の医師の診察を受けて薬を処方されるなどしており、車椅子の使用も、遅くとも同月27日からされていたものであった。 以上によれば、同日午後6時06分から副看守責任者が一旦休養室を出た同日午後6時59分頃までの間、東日本入管センターの職員らが、休養 室でのAの容態観察を続けたことは、上記の事実経過に鑑み、不合理なものであったとはいえず、この時点において、上記職員らにAの救急搬送を要請するべき注意義務があったとは認め難い。 ⑶ 他方、前記前提事実及び認定事実に係る事 たことは、上記の事実経過に鑑み、不合理なものであったとはいえず、この時点において、上記職員らにAの救急搬送を要請するべき注意義務があったとは認め難い。 ⑶ 他方、前記前提事実及び認定事実に係る事実関係によれば、副看守責任者が休養室に再入室した平成26年3月29日午後7時02分頃以降、A は、同日午後7時04分頃、悲鳴のような大声を上げ、車いすから落ちて床をはい、うめき声を上げて床の上で転がるなどし(原審におけるC医師及びD医師の各証言によれば、低拍出量症候群の症状が出現したものと認められる。)、同日午後7時08分頃に看守責任者らが休養室を出た後も、ベッドの上でうめき声を上げて転がったり、ベッドから床に落ちて「アイ ムダイイング」と複数回声を発したりするなどし(なお、当時、監視カメラによる休養室の監視は、音声を聞けるようにすることなくテレビ画像のみで行われていたため、警備員及び警備員から連絡を受けた看守責任者らは、Aが「アイムダイイング」と声を発していることは認識していなかったが、Aがベッドの上を転がったり、床に落ちたりする様子は確認するこ とができたものと認められる。)、同日午後7時16分頃に看守責任者らが再入室して以降も、悲鳴のような大声を上げたり、うめき声を上げたり、車椅子上で上半身を前後左右に揺らしたりするなど、ぐったりして苦しそうな様子をみせるとともに、「アイムダイイング」、「マイハート」、「マイハートエイク」と声を発して、胸痛の存在や、このままでは死んでしまうと 感じるほど体調が悪い旨を断続的に言葉で訴え、このような状態が一定時 間継続していたことが認められる。 Aは、これ以前にも、東日本入管センターの職員らや診療室の医師に対し、胸痛や体調不良を訴えたことがあり、同月27日昼に休養室に 、このような状態が一定時 間継続していたことが認められる。 Aは、これ以前にも、東日本入管センターの職員らや診療室の医師に対し、胸痛や体調不良を訴えたことがあり、同月27日昼に休養室に移されて以降は、24時間態勢でその動静を監視されていたが、上記のような言動により自身の体調不良が尋常なものではない旨を表したことは、同日午 後7時02分頃以前にはみられなかった。(甲4、甲13~甲15、弁論の全趣旨)。 以上のようなAの言動に加えて、Aは従前から胸痛を訴えて医師から頓服薬等を処方されており、東日本入管センターの職員らは医師からAの容態観察を指示されていたこと、上記医師から上記職員らに対し、Aが上記 のような状態になる可能性があることや、その場合の対処方法について具体的な指示がされたことはなかったが(甲4、甲13~甲15、乙28、証人B)、医師が予測していない状況であっても、患者の容態が急変する事態は生じ得るものであることを併せ考慮すると、東日本入管センターの職員らは、遅くとも、上記のようなAの状態が一定時間継続していること を認識した同日午後7時35分頃の時点において、社会通念に照らし、Aの生命・身体に危険が生じているおそれが相応に高いものと認識することができたものといえる。 そして、上記職員らは、移動の自由を制限され、収容所外の医師による診療等を自由に受けることができない立場にある被収容者に対し、その生 命・身体の安全や健康を保持する責務を負っていたところ(前記⑴)、Aの上記状態や、Aが当該状態となったのは土曜日の夜であり、同センターに医師及び看護師は不在であって、非常勤の医師との契約上、同医師に連絡しAの病状について報告、相談することもできなかったこと、休養室でAの対応に当たった看守責任者らは は土曜日の夜であり、同センターに医師及び看護師は不在であって、非常勤の医師との契約上、同医師に連絡しAの病状について報告、相談することもできなかったこと、休養室でAの対応に当たった看守責任者らは、Aから胸痛があることや体調不良であ る旨を聞いたが、英語を得意とするものではなかったため、Aの発言全て を正確に聞き取ることはできず、痛みや体調不良の具体的内容を聴取するのは困難であったこと、入国管理局における当時の事務連絡において、「被収容者の体調が急変した場合、…看守責任者は、自ら当該被収容者の状態を確認し、急速を要すると認めるとき又はその判断に迷うときは、平日、夜間又は休日にかかわらず、ちゅうちょすることなく直ちに救急車の出動 を要請すること」と規定されていたこと(甲67)等に鑑みると、同月27日のAの診察の際に、医師から上記職員らに対して容態観察の指示があったことや、Aが上記の状態に至ったのは、同月29日午後6時58分頃にAに頓服薬を服薬させてから間もない時間帯であったこと、頓服薬は徐々に効いてくるものであること、上記職員らは医療従事者のような医学 的知見を有するものではないことなど1審被告の指摘する事情を考慮しても、遅くとも同日午後7時35分頃の時点において、上記職員らには、Aについて、救急搬送を要請して、このような状況に適切に対処し得る医療機関において検査、治療等の措置を受けさせるべき注意義務があったものと認めるのが相当である。 ⑷ なお、1審原告は、Aがベッドに寝かされようとした際に大声を上げるなどした平成26年3月29日午後7時04分頃、又は、遅くとも、休養室内でAに対応していた副看守責任者が、「メディカル」と発言するなどしてAに医療的な措置が必要であることを認識したと思われる同 げるなどした平成26年3月29日午後7時04分頃、又は、遅くとも、休養室内でAに対応していた副看守責任者が、「メディカル」と発言するなどしてAに医療的な措置が必要であることを認識したと思われる同日午後7時21分頃には、東日本入管センターの職員らにおいて、Aの救急搬送 を要請すべき義務が発生していた旨主張する。 しかしながら、Aの状態等に鑑み、同日午後6時59分頃までの間においては、上記職員らにAの救急搬送を要請するべき注意義務があったと認め難いことは、上記⑵のとおりであるところ、Aが悲鳴のような大声を上げ、車いすから落ちて床をはい、うめき声を上げて床の上で転がるなどし たのは、それからさほど間のない同日午後7時04分頃のことであり、同 日午後7時06分頃に看守責任者らにベッド上に移動させられた後は、同日午後7時08分頃に看守責任者らが退室するまでの間、大声を上げたり、ベッドから落ちたりすることはなく、「アイムダイイング」などと尋常でない表現で自身の体調の悪さを訴えることもなかったことに鑑みると、1審原告の指摘する事実を考慮しても、同日午後7時04分頃において、上 記職員らにAの救急搬送を要請するべき注意義務があったとまでは認め難い。 また、同日午後7時16分頃から同日午後7時40分頃までの間、休養室においてAの対応に当たった看守責任者らが、Aの様子をみて、Aの体調が良くないことを認識したものの、医療機関への救急搬送を要請するほ ど重篤な状態であるとは思わなかったことについては、前記認定事実⑷のとおりである。同日午後7時21分頃に、副看守責任者がAに医療的な措置が必要であることを認識したものとは認め難く、仮に副看守責任者が「メディカル」という単語を発したとしても、その趣旨は明らかでなく、当該事実 る。同日午後7時21分頃に、副看守責任者がAに医療的な措置が必要であることを認識したものとは認め難く、仮に副看守責任者が「メディカル」という単語を発したとしても、その趣旨は明らかでなく、当該事実は以上の認定を左右するものではない。したがって、1審原告の 上記主張は、その前提を欠くものであって、採用することはできない。 ⑸ 一方、1審被告は、東日本入管センターの職員らは診療室の医師の指示に従いAの状況に応じた適切な対処をしていたものであり、胸痛用に処方された頓服薬をAが平成26年3月29日午後6時58頃に服薬した後、上記職員らが一定時間Aの容態観察を続けたことは、従前の経緯に照らし 不合理なものではなく、実際にも、その後のAの容態は徐々に落ち着きつつあると認識し得る状況にあったものであり、救急搬送を要請するほかないと判断せざるを得ない程度に、明らかに重篤な状態に変化したものではなかった旨主張する。 しかしながら、前記前提事実及び認定事実に係る同日午後7時02分頃 以後のAの言動に鑑みると、上記⑶において説示したところから明らかな ように、同時刻頃以後のAの容態が1審被告の主張するような状況にあったとは評価し難いし、上記職員らにおいて、Aの容態観察を続けたことが不合理なものでなかったともいい難い。 したがって、1審被告の上記主張を採用することはできない。」⑺ 原判決23頁18行目の「(3)」を「⑹」と改める。 ⑻ 原判決24頁1行目冒頭から同頁4行目末尾までを次のとおり改める。 「⑴ Aの死因については、その死体の司法解剖の結果、形態変化に乏しい心臓疾患(不整脈、冠状動脈攣縮による虚血性心疾患等)で病死した可能性が高いと鑑定されたが、具体的病名を特定するに足る根拠は得られなかった(前提事実⑺)。 その死体の司法解剖の結果、形態変化に乏しい心臓疾患(不整脈、冠状動脈攣縮による虚血性心疾患等)で病死した可能性が高いと鑑定されたが、具体的病名を特定するに足る根拠は得られなかった(前提事実⑺)。」 ⑼ 原判決24頁10行目の「常態」を「状態」と改める。 ⑽ 原判決24頁17行目の「がある」を「もある」と改め、同行の「乙22」の後に「、乙34」を加え、同頁26行目の「があり、」を「がある。」と改め、同行の「この点」の前に次のとおり加える。 「D医師の上記見解は、日本循環器学会の作成した「冠攣縮性狭心症の診断と 治療に関するガイドライン」中の「異型狭心症は冠攣縮性狭心症の一つと考えられ、…おもな発生機序は、冠攣縮による冠動脈の完全または亜完全閉塞から生じる貫壁性虚血によるものと考えられる」、「冠攣縮は種々の程度の冠動脈硬化部位に発生する。たとえ冠動脈造影検査で狭窄病変がないようにみえても、血管内超音波法…では冠攣縮部位に一致して明らかな動脈硬化巣が認められ る」との記載(乙22)や、Aの死体の司法解剖の際の肉眼的・組織学的検索において、心臓に関し、心筋及び弁に明らかな病変を認めず、硬化性病変、内腔狭窄部及び損傷もなかった事実(乙13)と整合するものであり、その信用性は相応に高いものといえる。」⑾ 原判決25頁4行目の「乙20」の後に「、乙22、乙34」を加え、同行 の「A」から同頁5行目の「ものの」までを「Aの死因は不明であるといわざ るを得ないが、確証はないものの」と改め、同頁7行目の「記載部分」の後に「や、Aが処方されていたメデットにより乳酸アシドーシスを引き起こす可能性があるとの記載部分」を、それぞれ加える。 ⑿ 原判決25頁22行目の「Aか」を「Aが」と、同頁23行目の「午後7時35分 「や、Aが処方されていたメデットにより乳酸アシドーシスを引き起こす可能性があるとの記載部分」を、それぞれ加える。 ⑿ 原判決25頁22行目の「Aか」を「Aが」と、同頁23行目の「午後7時35分頃までに」を「午後6時06分から同日午後7時46分までの間に」と、 それぞれ改め、同頁25行目の「この点について」から26頁7行目末尾までを削除する。 ⒀ 原判決28頁22行目の「開始」を「要請」と改める。 ⒁ 原判決29頁5行目冒頭から30頁14行目末尾までを次のとおり改める。 「⑴ 前記前提事実及び認定事実に係る事実関係によれば、平成26年3月2 9日午後7時04分以降、Aの容態が急速に悪化したのは、乳酸アシドーシスが進行したからであると認められるが、Aの死因は不明であって、乳酸アシドーシスに至った原因も明らかでないといわざるを得ない。そのため、同日午後7時35分頃に救急搬送を要請した場合において、Aにどの程度の救命可能性があったかを具体的に認定することは容易ではない。 他方、乳酸アシドーシスの致死率は、約50%と高いものの、り患した者のほとんどが死に至るほどの高い致死率とまではいえない。また、証拠(甲43、甲45、甲71、乙20、乙22、乙34、原審証人C、原審証人D)及び弁論の全趣旨によれば、同日午後7時35分頃の時点で救急搬送を要請した場合、搬送先の医療機関において、バイタルサイン、血圧、 心拍数、酸素の状態等をみて、これを改善するための処置が行われるほか、早ければ同日午後8時25分頃ないし午後8時35分頃、Aが乳酸アシドーシスであることが判明し、その対症療法としてメイロン投与等の措置が行われたものと考えられるところ、当該措置が原審においてD医師の証言するように対症療法にとどまるものであると 5分頃、Aが乳酸アシドーシスであることが判明し、その対症療法としてメイロン投与等の措置が行われたものと考えられるところ、当該措置が原審においてD医師の証言するように対症療法にとどまるものであるとしても、相応の延命効果は認 められるものであり、このような対症療法をしている間に、乳酸アシドー シスの原因究明のための検査及びその治療をすることができた可能性や、医療機関の下で上記のような治療が開始されることにより不可逆的な病状の悪化を止めることができた可能性が存在したものといえる。 以上の事実関係によれば、本件において、Aの死因は不明であることから、医療機関に搬送されたとしても対症療法しかとることができなかった こと、その他1審被告の指摘する事情を考慮しても、東日本入管センターの職員らが同日午後7時35分頃に救急搬送を要請した場合、Aは、その死亡の時点において、なお生存していた相当程度の可能性があったものと認められる。」⒂ 原判決30頁15行目の「⑶」を「⑵」と、同頁16行目の「対処療法」を 「対症療法」と、同頁17行目の「により」を「が認められるところ、これにより」と、同行の「救命できた」を「救命することができた高度の蓋然性がある」と、それぞれ改める。 ⒃ 原判決31頁4行目の「前記4」の後に「及び5」を加え、同頁5行目の「認められない」を「認められず、Aが死亡した時点で生存していた相当程度の可 能性が侵害されたにとどまるものである」と改める。 ⒄ 原判決31頁9行目冒頭から同頁19行目末尾までを次のとおり改める。 「前記2のとおり、Aは、平成26年3月29日午後7時04分頃以降、低拍出量症候群の症状が出現し、大声やうめき声を上げる、ベッドから床に落ちる、「アイムダイイング」などと声を発し、このまま める。 「前記2のとおり、Aは、平成26年3月29日午後7時04分頃以降、低拍出量症候群の症状が出現し、大声やうめき声を上げる、ベッドから床に落ちる、「アイムダイイング」などと声を発し、このまままでは死んでしまうと感じる ほど体調が悪い旨訴えるなどし、そのような状態が一定時間継続し、東日本入管センターの職員らもこれを認識していたことから、同職員らにおいて、遅くとも同日午後7時35分頃までに、Aの救急搬送を要請すべき注意義務があった。しかるに、上記職員らは、これを怠り、約12時間後の同月30日午前7時04分まで救急搬送を要請しなかったことにより、Aは、その時点で既に心 肺停止の状態であり、同日午前8時07分、搬送先の病院の医師により死亡が 確認されたものであって、上記職員らが被収容者の生命・身体の安全や健康を保持する責務を負っていることに照らすと、上記注意義務違反の程度は、軽いものとはいえない。」⒅ 原判決31頁20行目の「よれば、」の後に「仮に東日本入管センターの職員らが同月29日午後7時35分頃までに救急搬送を要請したとしても、」を加 え、同頁25行目の「職員」から同頁26行目の「しなかった」までを「職員らの上記」と改める。 ⒆ 原判決32頁2行目末尾に、改行して次のとおり加える。 「1審原告は、Aの唯一の相続人であり、上記慰謝料請求権を相続したものと認められる。」 ⒇ 原判決32頁4行目冒頭から同頁5行目の「しかし、」までを削除し、同頁7行目の「認められず、」の後に「Aが死亡した時点で生存していた相当程度の可能性が侵害されたにとどまるものであるから、」を加え、同頁10行目の「認められない」を「認められず、同条の類推適用により上記請求権を有するものとも認められない」と改める。 相当程度の可能性が侵害されたにとどまるものであるから、」を加え、同頁10行目の「認められない」を「認められず、同条の類推適用により上記請求権を有するものとも認められない」と改める。 原判決32頁15行目末尾に、改行して次のとおり加える。 「8 小括以上によれば、1審原告は、1審被告に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償として、前記7⑵及び⑷の合計額である165万円並びにこれに対するAの死亡日である平成26年3月30日から支払済みまで平 成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求権を有するものと認められる。」 3 当審における当事者の補充主張に対する判断⑴ 1審原告の主張についてア救急搬送義務の発生時期 1審原告は、平成26年3月29日午後7時04分頃の時点、又は、遅く とも同日午後7時21分頃の時点で、東日本入管センターの職員らにおいて、Aについて、救急搬送を要請し、医療機関に救急搬送するべき注意義務があった旨主張する。 しかしながら、上記主張を採用し難いことについては、当審が補正の上引用する原判決(第3の2⑷)の説示のとおりである。 イ Aの救命可能性1審原告は、平成26年3月29日午後8時35分頃までに搬送先の病院で治療を開始していれば、Aを救命することが可能であったものであり、C医師及びD医師も原審においてこれを認める証言をする旨主張する。 しかしながら、C医師及びD医師の原審における証言中には、Aについて 同日午後8時35分頃までに医療機関での治療が開始されていれば、救命可能性があったとする部分があるものの、これは、遅くともこのときまでに治療を開始していなければ救 ける証言中には、Aについて 同日午後8時35分頃までに医療機関での治療が開始されていれば、救命可能性があったとする部分があるものの、これは、遅くともこのときまでに治療を開始していなければ救命が困難であったことをいう趣旨のものであり、救命の高度の蓋然性があったことをいうものとは解されない。このことは、C医師の意見書(甲43)に、同日午後8時35分の状況で医療施設にいて も救命できたかどうかは不明である旨の記載があることや、D医師の意見報告書(乙22)に、Aについては、死因が分かっていないから、対症療法を行うしかなく、ショック状態でもあったため、早い時間に救急搬送されたとしても、救命の可能性は極めて低い旨の記載があることからも明らかである。 したがって、1審原告の上記主張を採用することはできない。 ウ Aの損害1審原告は、Aが死亡した当時に生存していた相当程度の可能性が侵害された場合でも、生命侵害に準じたものとして逸失利益を認めるのが相当である旨、また、原判決の認定したAの慰謝料額は低きに失し、カメルーンの経済状況等を考慮することは不当な差別であり許されない旨主張する。 しかしながら、東日本入管センターの職員らの注意義務違反とAの死亡と の間に相当因果関係が認められない以上、Aがその死亡による逸失利益相当額の損害を被ったものとは認められないことは、当審が補正の上引用する原判決(第3の7⑴)の説示のとおりであり、生存していた相当程度の可能性という法益の侵害により逸失利益が生じたものとは認め難い。 また、Aが死亡した当時に生存していた相当程度の可能性が侵害されたこ とによる慰謝料として150万円が相当であることは、当審が補正の上引用する原判決(第3の7⑵)の説示のとおりであ 認め難い。 また、Aが死亡した当時に生存していた相当程度の可能性が侵害されたこ とによる慰謝料として150万円が相当であることは、当審が補正の上引用する原判決(第3の7⑵)の説示のとおりである。不法行為による損害について被害者に支払われるべき慰謝料の額は、事実審の口頭弁論終結時までに生じた諸般の事情をしんしゃくして裁判所が裁量によって算定するものであり、諸般の事情には、当該慰謝料の実質的価値という事情も含まれるもの であるから、被害者が外国人である場合に、当該外国の経済事情や、被害者の本邦での生活歴という事情をしんしゃくして慰謝料の額を算定することが許されないものではなく、また、そのことが、不当な差別に当たるものでもない。 したがって、1審原告の上記主張を採用することはできない。 エ 1審原告の損害1審原告は、Aが死亡した時点でなお生存していた相当程度の可能性が認められるにとどまる場合でも、死亡の結果を回避できた場合に比肩すべき精神上の苦痛を受けたとして、1審原告が固有の慰謝料請求権を有する旨主張する。 しかしながら、上記主張を採用し難いことについては、当審が補正の上引用する原判決(第3の7⑶)の説示のとおりである。 ⑵ 1審被告の主張についてア救急搬送義務の存否1審被告は、平成26年3月29日午後7時35分頃までの時点で、東日 本入管センターの職員らにおいて、Aについて、救急搬送を要請し、医療機 関に救急搬送するべき注意義務があったとは認められない旨主張する。 しかしながら、上記主張を採用し難いことについては、当審が補正の上引用する原判決(第3の2⑸)の説示のとおりである。 イ Aの相当程度の生存可能性1審被告は、 旨主張する。 しかしながら、上記主張を採用し難いことについては、当審が補正の上引用する原判決(第3の2⑸)の説示のとおりである。 イ Aの相当程度の生存可能性1審被告は、Aが死亡した時点においてなお生存していた相当程度の可能 性があったものとは認められない旨主張する。 しかしながら、上記主張を採用し難いことについては、当審が補正の上引用する原判決(第3の5)の説示のとおりである。 4 その他、原審及び当審における当事者双方の主張に鑑み、証拠の内容を検討しても、当審における以上の認定判断(原判決引用部分を含む。)を左右しない。 第4 結論よって、前記第3の1の判断と同旨の原判決は相当であり、本件各控訴は理由がないから、これをいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第24民事部 裁判長裁判官増田稔 裁判官小海隆則 裁判官山門優
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