昭和35(う)542 器物損壊合被告事件

裁判年月日・裁判所
昭和35年9月27日 東京高等裁判所
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【DRY-RUN】主    文      原判決を破棄する。      被告人は無罪。          理    由  本件控訴の趣意は弁護人森武市、同小国修平連名提出の控訴趣意書記載のとおり であるからここにこれを

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判決文本文5,172 文字)

主文 原判決を破棄する。 被告人は無罪。 理由 本件控訴の趣意は弁護人森武市、同小国修平連名提出の控訴趣意書記載のとおりであるからここにこれを引用する。これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。 右弁護人の控訴の趣意第一点について。 論旨は、原判決は、その理由にくいちがいがあるから、破棄を免れない、というのである。よつて、原判決を査閲すると、原判決は、罪となるべき事実として、被告人は昭和三十四年二月十九日午後零時三十分頃船橋市a町b丁目c番地A方宅地境界において同人所有に係る高さ六尺位、長さ四尺位の板塀(時価三百円位)を手で剥ぎ取る等してこれを損壊したものである、との事実を認定し、これを認めた証拠として、被告人の原審公判廷における供述、Aの告訴状、司法警察員巡査部長Bの実況見分調書(写真十枚、略図二枚とも)、証人C(第一、二回)、同D、同A、同E同F、同G、同Hの原審公判廷における各供述、原審における検証調書及び被告人の司法警察員並びに検察官に対する各供述調書を掲げていることは所論のとおりである。しこうして右原判決の判示するところによれば、原判決は、被告人が損壊した本件板塀の設置場所(原審における検証調書添付の見取図に表示された(ホ)(ヘ)(ト)(チ)(リ)を結ぶ地点)は船橋市a町b丁目c番地の境界であつて、同地番の土地所有者はAである、と認定したものであることも所論のとおりである。所論はこの点につき、右c番地の土地所有者がAであることについては、原判決挙示の証人Aの証言中にその旨の供述があるけれども、右板塀設置場所が右c番宅地の境界であることについては、原判決挙示の証拠によるも全くこれを認め難い、と主張するにつき按ずるに、原判決の掲げたAの告訴状によれば被告訴人たる被告人 供述があるけれども、右板塀設置場所が右c番宅地の境界であることについては、原判決挙示の証拠によるも全くこれを認め難い、と主張するにつき按ずるに、原判決の掲げたAの告訴状によれば被告訴人たる被告人外一名が原判示の日の午後一時頃私(A)方宅地内に設けた板塀を不法に破壊した旨の記載があるほかには原判決挙示の証拠を検討しても、前記板塀設置場所が右A方地内であることを認むべき資料はなく、かえつて、原判決挙示の原審証人G、同E、同C、同F、同Hの原審公判廷における各供述及び原審における検証の結果を綜合すれば、被告人所有の船橋市a町b丁目d番の一宅地とA所有の同所c番宅地との境界附近地域は空地になつており、両地の境界を示すべき標示は何一つなく、いわゆる子供の遊び場に使用されるままに放置されていたところ、昭和三十三年十二月十日頃右Aより右両地の境界を定めようとの申出があり、同月十四日被告人側では被告人の代理人として母G、伯父Eの両名、A側では、本人、Aの父I、A方建築請負人Hその他家族二、三名の者が現場に集合し、右両地の境界を定めるべく協議したのであるが、A側では、Aの祖父が船橋市吏員に作成せしめたと称する図面に基いて境界を定めるべきことを主張し、被告人側では同市備付の公図によるべきことを主張し、両者の主張が一致しなかつたため、Eの提案により第三者の意見を聞くこととなり、かねて知合のCの立会を求めて協議を遂げた結果、翌十五日再び現場に集合し、公図に基いて両地の境界を定めることに被告人側及びA側両者の意見の一致をみ、翌十五日午後再び前記の者らが現場に参集し、なお右両地に隣接する地主Fもこれに参加して、公図に基いてA及び前記Hにおいて実地につき測定し、被告人側がこれを確認し、右両地の境界として原審における検証調書添付の見取図表示の(ル)(オ)(ワ)(カ お右両地に隣接する地主Fもこれに参加して、公図に基いてA及び前記Hにおいて実地につき測定し、被告人側がこれを確認し、右両地の境界として原審における検証調書添付の見取図表示の(ル)(オ)(ワ)(カ)(ニ)を結ぶ地点を確定し、その両端の(ル)及び(ニ)に該当する地点にコンクリート製の境界標を布設したこと、Aの主張するいわゆる元の境界は右(ル)及び(ニ)を結ぶ境界よりこれと並行して約一尺程被告人所有の宅地(前記二千三百六番の一の宅地)内に入つた地点であり、その地点に昭和三十四年一月十日頃前記HがAの依頼により板塀を設置しようとして被告人に差し止められたことがあり、その後、同年二月十九日Aが他の大工を使用して設置した本件板塀の位置は右(ル)及び(ニ)を結ぶ境界に並行してこれより約五尺五寸(約一、六八米)被告人所有の前記宅地内に侵入した地点であることが認められるのであるから、本件板塀設置場所である前記検証調書添付の見取図表示の(ホ)(ヘ)(ト)(チ)(リ)を結ぶ地点は正しく被告人所有宅地内であつて、A所有の宅地内ではないことが明らかであるといわなければならない。したがつて、前記告訴状の記載は右認定を左右すべき資料とはなし難いところであり、結局原判決の認定は、所論の点につき、その挙示する証拠との間にくいちがいがあるものといわなければならない。もつとも、原判決は原審証人Aの証言を援用して前記(ル)及び(ニ)を結ぶ境界は暫定的のものであるとし、右両地の境界は未確定のものであると認定判示しているけれども、右証人Aの供述は前記各証拠に照したやすく措信し難いところであるのみならず、前記認定のごとく、Aの主張する同人の祖父の作成せしめた図面に基く両地の境界は右(ル)及び(ニ)を結ぶ境界線よりこれと並行して約一尺程被告人所有地内に入つた地点であつたのに、本 ろであるのみならず、前記認定のごとく、Aの主張する同人の祖父の作成せしめた図面に基く両地の境界は右(ル)及び(ニ)を結ぶ境界線よりこれと並行して約一尺程被告人所有地内に入つた地点であつたのに、本件板塀設置に当つては右境界より更に被告人所有宅地内に侵入し、右(ル)及び(ニ)を結ぶ境界線よりこれと並行して約五尺五寸の個所に板塀を設置したものであるから、右板塀設置場所が被告人所有の宅地内であつて、Aの宅地内でないことは疑をいれないところである。結局論旨は理由がある。 同第二点及び第三点について。 論旨は、前記検証調書添付の見取図(ル)乃至(ニ)の境界線は被告人方宅地とA方宅地との境界線として終局的に確定したものであつて、Aが右境界線より被告人方宅地内へ約五尺五寸の間隔を置き右境界線に並行する全長約五間の板塀を設置する工事に着手し、そのうち四間の部分まで完成したことは被告人の宅地所有権を不正に侵害したものであり、これに対し右板塀設置行為を阻止しようとしてなした本件被告人の所為は正当防衛行為にあたるのにかかわらず、これを否定した原判決は事実を誤認するとともに法令の適用を誤つたものである、というのである。よつて按ずるに、原審における検証調書添付の見取図に表示された(ル)(オ)(ワ)(カ)(ニ)を結ぶ地点が本件系争地である被告人所有の船橋市a町b丁目d番のeの宅地とA所有の同所c番宅地との境界として被告人側及びA側並びに隣地所有者Fらが立会い、船橋市役所備付の公図に基きA及び前記Hにおいて実地につき測定の上被告人側がこれを確認して右土地所有者間に確定されたものであることは前記認定のとおりであるのみならずAの主張していた同人の祖父が船橋市吏員をして作成させたと称する図面によるも右両地の境界は約一尺程の差異があるのに過ぎないのに、本件においてAの設 たものであることは前記認定のとおりであるのみならずAの主張していた同人の祖父が船橋市吏員をして作成させたと称する図面によるも右両地の境界は約一尺程の差異があるのに過ぎないのに、本件においてAの設置しようと企てた板塀は、所論のごとく、前記見取図(ル)乃至(ニ)を結ぶ境界線より被告人方宅地内に約五尺五寸侵入した個所に、右境界線と並行して全長約五間に及ぶものであり、被告人が現場に駈けつけた際にはすでに四間位完成していたというのであるから、右Aの所為は、すなわち、被告人の宅地所有権を不正に侵害した行為といわなければならない。なお、原判決挙示の証拠並びに当審における事実取調の結果によれば、Aは前記のごとくその所有の宅地と被告人所有の宅地との境界を定めるにあたり、自ら主となつて公図に基いて実地につき測定の上境界線を確定し、自家所有のコンクリート製の境石を提供してこれを布設し、もつて両地の境界を明らかにし、異議なくその場を解散したのにかかわらず、その直後父Iに難詰されるや右は暫定的のものである旨弁解し、次いで昭和三十四年一月十日頃前記Hに命じて祖父が船橋市吏員に作成させたと称する図面に基き前記境界線より約一尺程被告人方宅地内に侵入した個所に板塀を設置しようとしたが、被告人らの制止に会い、中止し更に同年二月上旬頃他の大工に命じて被告人所有の宅地内に板塀を設置しようとしたが、この時も被告人らの制止により中止するに至つたのであるが、その後同月十九日もとより自己に権利なきことを知悉しながら、突如大工D及び鳶職J某を使用して前記のごとく前記境界線に並行して被告人方宅地内に約五尺五寸侵入した個所に全長約五間の板塀を設置しようとし、被告人が急を聞いて現場に駈けつけた際にはすでに約四間の板塀がほぼ完成していたというのであるから、右Aの所為はまさに急追不正の侵害と 宅地内に約五尺五寸侵入した個所に全長約五間の板塀を設置しようとし、被告人が急を聞いて現場に駈けつけた際にはすでに約四間の板塀がほぼ完成していたというのであるから、右Aの所為はまさに急追不正の侵害というのほかはない。この点に関し、原判決は、右Aの所為は被告人の宅地所有権を侵害したものとは認め難いのみならず、仮りに同人が被告人所有の前記宅地内に侵入して板塀を設置したとしても、同人において任意にこれを除去しない限り法律上の手続によりこれが救済を求めるべきであつて、被告人自ら剥ぎ取るなどして損壊することは法律秩序維持り上から法の許さないところであり、また被告人の右行為が正当防衛の要件である已むを得ない行為に該当するものとは認めることはできな<要旨>い、となすけれども、右Aの所為が急迫不正の侵害であることは前認定のとおりであつて、直ちにこれ</要旨>を制止せず放置しておくならば、前後数時間にして全長約五間に及ぶ板塀は完成し、これが既成事実となつて被告人は土地所有権を侵害され、たやすく回復し難い損害を被るのみならず、不動産侵奪罪などの刑罰規定の制定なき当時にあつては警察官憲の助力を求める術もなく、しかも常に必ず仮処分その他の民事訴訟による法律上の手続によらねばならぬとせば、不法に権利侵害に甘んぜよというに等しく一方において悪事を看過しこれを奨励するもののごとくであり、条理にも反するものというべく、しかも被告人が右Aの急迫不正の侵害を制止し、これを免れんとしてなした行為は僅かに板塀として打ちつけた古戸板一枚及び七寸巾厚さ二分三厘位の薄板一枚(原判決認定の高さ六尺位、長さ四尺位の板塀に該当するもの)を手で剥ぎ取つたに過ぎず、その被害はまことに軽微(原判決の認定によればその被害額は三百円位)であるから、右は急迫不正の侵害に対し自己の権利を防衛するため さ六尺位、長さ四尺位の板塀に該当するもの)を手で剥ぎ取つたに過ぎず、その被害はまことに軽微(原判決の認定によればその被害額は三百円位)であるから、右は急迫不正の侵害に対し自己の権利を防衛するためやむことを得ざるに出た行為、すなわち正当防衛行為に該当するものと認めるを相当とする。されば、原判決は所論のごとく、事実を誤認し、かつ法令の適用を誤つたものというべく、この誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかなところであるから、結局論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。 よつて、刑事訴訟法第三百九十七条に則り原判決を破棄し、同法第四百条但書に則り当裁判所において直ちに判決すべきものとする。本件公訴事実は、被告人は昭和三十四年二月十九日午後零時三十分頃船橋市a町b丁目c番地A方宅地境界において同人所有にかかる高さ六尺位、長さ四尺位の板塀を手で剥ぎ取る等してこれを損壊したものである、というのであるが、前記説示の理由により刑法第三十六条第一項に該当するものと認められるから、刑事訴訟法第三百三十六条に則り被告人に対し無罪の言渡をなすべきものとする。 よつて、主文のとおり判決する。 (裁判長判事坂井改造判事山本長次判事荒川省三)

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