主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告A1,同A2,同A3,同A4に対し,各金829万800円,原告A5,同A6,同A7に対し各金249万6933円及びこれに対する平成5年11月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,被告の設立する足利赤十字病院(以下「被告病院」という。)で入院治療を受けていた際に死亡したC(昭和10年7月18日生。以下「C」という。)の相続人である原告らが,Cの死亡は被告病院の担当医師の過失によって招来されたものである,被告病院の担当医師はCの死因を解明すべき義務等を怠ったと主張して,被告に対し,債務不履行による損害賠償請求権に基づいて,Cの死亡による逸失利益,慰謝料等を請求している事案である。 1 前提となる事実(1) 被告は,栃木県足利市s丁目t番地(以下,栃木県内の地名については,「栃木県」の記載を省略する。)に被告病院を設置している。 (2) Cは,平成5年11月8日,被告病院にて入院治療中に死亡した。Cは,D(昭和21年10月16日死亡。以下「D」という。)とE(昭和48年1月20日死亡。以下「E」という。)の子(五女)であるところ,原告A1(次男。Cの兄。以下「A1」という。),同A2(長女。Cの姉。以下「A2」という。),同A3(三女。Cの姉。),同A4(四女。Cの姉。)は,いずれもDとEの子らであり,同A5,同A6,同A7は,いずれもDとEの子(次女。Cの姉。)であるF(大正15年11月20日生,平成2年9月9日死亡。)の子らであり,その身分関係は別紙相続関係図記載のとおりであって,原告らはいずれもCの相続人である。 (3) Cは,平成5年9月5日, であるF(大正15年11月20日生,平成2年9月9日死亡。)の子らであり,その身分関係は別紙相続関係図記載のとおりであって,原告らはいずれもCの相続人である。 (3) Cは,平成5年9月5日,足利市の行っている健康診断で腹部のレントゲン検査を受けた結果,精密検査の必要性を指摘され,同月13日,被告病院の内科の診察を受けた。 (4) 被告病院の内科医師は,同年10月15日,外来受診時,Cに対し,胃部に前ガン症状が認められ,初期症状であるが手術をした方がよい旨告げ,Cに対し,手術を勧めた。Cは,同月18日,被告病院外科を受診したところ,その際,被告病院の外科の担当医から,潰瘍瘢痕を伴うⅡc型早期ガン(印環細胞ガン)のため手術が必要と勧められた。 (5) Cは,平成5年10月21日,被告病院の外科へ入院したところ,同日までに,被告との間で,適切な診療行為を受ける旨の診療契約を締結した。 (6) Cは,被告病院外科入院後,胃ファイバーによる内視鏡検査及び細胞の組織検査を受けた。 (7) Cは,被告病院にて,被告に勤務する被告病院外科のG医師(以下「G医師」という。)の執刀により,平成5年11月5日午後12時12分から約4時間7分にわたる手術(以下「本件手術」という。)を受けたところ,手術により,胃の幽門部側の約2分の1を切除され,胆嚢にもその底部に小指大の腫瘤が認められたため,合わせて胆嚢も摘出され,手術後は同日午後5時15分,集中治療室に移された。 (8) G医師は,本件手術後,当初予定された手術の他,胆嚢にも病変があったので,胆嚢も切除し,手術は無事成功した旨説明した。 (9) 平成5年11月6日午前10時におけるCの血圧は,最大血圧132㎜Hg/最小血圧74㎜Hg(以下単位の記載は省略し,血圧については「最大血圧値 胆嚢も切除し,手術は無事成功した旨説明した。 (9) 平成5年11月6日午前10時におけるCの血圧は,最大血圧132㎜Hg/最小血圧74㎜Hg(以下単位の記載は省略し,血圧については「最大血圧値/最小血圧値」で表示する。)であり,Cは,同日昼から夜にかけて,特に腹痛や苦痛,嘔気は示さず,同日午後2時時点で,体温は38.4度,血圧は130/70であり,その時までにガスは通じていなかった。 (10) 同月7日午前6時30分ころには,胃チューブの方には特に出血は認められず,Cの血圧は110/70であったが,同日午後1時の血圧は90/60と低下し,同日午後6時には,嘔吐があったことを告げ,このときの血圧は92/52,同日午後9時の血圧は86/50を示し,Cの血圧は低下していった。 (11) 同日午後10時15分以降,G医師の指示により,Cに対する痛み止めの注入が中止され,心電図モニターがCに装着された。 (12) 同月8日午前零時,Cの血圧は92/58であった。 (13) Cは,平成5年11月8日午前7時50分,被告の指示に従ってベッドから降りて排尿したときそのまま立てなくなった。ナースコールを受け,看護婦が駆けつけ,同女をベッドの上へ横臥させ,着物の前を開いた。その際,Cは,顔面及び口唇蒼白であり,気持ち悪いと訴え,呼吸はやや努力様であり,ベッドへ移された後,「昨日より気持ち悪かった。」と訴え,まもなく,問いかけにも答えられなくなり,眼球が一点凝視の状態となり,意識が薄れ,呼吸停止となった。その後,医師,看護婦が駆けつけ,酸素吸入等の緊急措置がとられたが,Cの意識は戻らず,遺族は,同日午後2時10分過ぎ,Cの死亡を告げられた。 (14) Cは,死因解明のための死体解剖がなされることなく,荼毘に付された。 2 主たる争点 急措置がとられたが,Cの意識は戻らず,遺族は,同日午後2時10分過ぎ,Cの死亡を告げられた。 (14) Cは,死因解明のための死体解剖がなされることなく,荼毘に付された。 2 主たる争点(1) Cの死因。 (原告らの主張)鑑定人H医師(以下「鑑定人H」という。)及び鑑定人I医師(以下「鑑定人I」という。)の各鑑定結果並びに両名の各証言等に照らせば,Cは,肺動脈塞栓症(以下「肺塞栓」という。)によって死亡したものと認めるのが相当である。 鑑定人Hによれば,肺塞栓は,術後の急性死亡の原因としてまず考慮すべき疾患であり,その機序は,術前後の安静によって形成された下肢の静脈中の血栓が,体動などの何等かのきっかけによって剥がれて遊離し,静脈血の流れに乗って,大腿静脈ついで下大静脈から右心系を通過して,肺動脈内に達して詰まる現象を指しており,その結果,肺内の血液循環が阻害され,呼吸不全の状態に陥るものであるところ,Cは,肥満傾向のある中年の女性であり,下肢部分に静脈瘤もあり,肺塞栓の危険因子を十分に保持しており,半日位の経過での突然の死亡に至る経過も,肺塞栓の症状に合致しており,Cの死因としては,肺塞栓の可能性が最も高いものとされる。また,鑑定人Iによれば,比較的肥満傾向にある中年女性が術後1日目から2日目に動き始めたときに,急死した場合には,肺塞栓が最も疑われ,臨床経過からいっても,Cの死因については,肺塞栓が最も疑われるとされている。胃摘出手術施行後の合併症および死因としては,肺梗塞,すなわち,肺塞栓の他に,一般的に,胃吻合部の縫合不全や手術創からの感染などによる重篤な感染症(敗血症),腸閉塞,術後の多量出血,無気肺,虚血性心不全ないし心筋梗塞,胸部大動脈瘤破裂による心嚢血腫ないし胸腔内出血,脳卒中,すなわち脳出血ない 縫合不全や手術創からの感染などによる重篤な感染症(敗血症),腸閉塞,術後の多量出血,無気肺,虚血性心不全ないし心筋梗塞,胸部大動脈瘤破裂による心嚢血腫ないし胸腔内出血,脳卒中,すなわち脳出血ないし脳梗塞,あるいは脳くも膜下出血,嘔吐による気道閉塞(窒息)などが挙げられるが,鑑定人Hによれば,臨床経過に照らし,肺塞栓以外の術後の細菌感染による敗血症性のショック,腸閉塞,術後の多量出血,無気肺,虚血性心不全ないし心筋梗塞,胸部大動脈瘤の破裂,脳卒中すなわち脳出血ないし脳梗塞,あるいは脳クモ膜下出血の可能性は否定されるものであり,鑑定人Iによれば,Cの死因として,肺塞栓の他に,出血,心筋梗塞,頭蓋内の血管障害が考えられるが,肺塞栓以外の死因については,いずれもこれらに反する臨床経過などから,いずれの可能性も否定されるものである。 (被告の認否・反論)Cの死因は不明である。そして,原告らは,被告の契約上の義務違反に起因するCの死亡による損害賠償を請求しているから,当該義務はその違反が死亡と因果関係を持つものでなければならないところ,死因が不明であれば,原告が主張立証責任を負う(最高裁判所昭和54年(オ)第903号,同56年2月16日第2小法廷判決,民集第35巻第1号56頁参照),その死亡を回避すべき被告の義務の内容を特定しえず,ひいては義務違反に該当する事実を主張立証し得ないことになって,義務違反の有無を問題とすることができなくなるから,その余について議論するまでもなく,原告らの請求に理由がないことが明らかである。 また,本件に現れた証拠に照らして,Cの死因を敢えて特定するとすれば,肺塞栓による死亡であって,それ以外の死因を想定あるいは特定することは困難である。すなわち,鑑定人Iは,Cの死因については,不明であるが,推測した場合には肺 して,Cの死因を敢えて特定するとすれば,肺塞栓による死亡であって,それ以外の死因を想定あるいは特定することは困難である。すなわち,鑑定人Iは,Cの死因については,不明であるが,推測した場合には肺塞栓の可能性が1番高いとする一方,出血,心筋梗塞等もその可能性として挙げる。しかし,鑑定人Iによれば,心筋梗塞の可能性については,心筋梗塞でも循環不全を説明しうるものの,その場合には広範囲な梗塞が起きていなければならないところ,そのような広範囲な梗塞の場合に現れる所見が本件では認められていないことから,積極的に心筋梗塞の可能性を挙げることができないとされている。また,鑑定人Iによれば,出血の可能性についても,本件のような急変を説明するためには,かなり大きな血管からの出血を前提としないと半日位の経過での死亡を説明するのは困難であるとされ,平成5年11月8日のヘモグロビン(血色素)の値として,10.7グラム/デシリットル(以後単位の記載は省略する。)から9.7への低下を指摘している。しかしながら,このヘモグロビンの数値自体は,何ら致死的な数値ではないし,同日の急変直後の血液検査データによれば,Cのヘモグロビンの値は,11.6であったもので,この値自体は,被告病院の臨床参考域(女性の場合11.0から15.0である。)の範囲内にあるから,急変の原因をヘモグロビンの低下あるいは「かなりの大きな血管からの出血」とすることはできない。 なお,その後のヘモグロビン値から「薄くなっているようにみえる」のは,被告病院において,Cに対する蘇生処置の一環として中心静脈を確保し,そこから急速輸液を行っているからであり,なんら重篤な出血を示唆するものではない。したがって,敢えてCの死因と特定するとしても,肺塞栓以外の死因を特定することはできない。 (2) Cの死亡に ,そこから急速輸液を行っているからであり,なんら重篤な出血を示唆するものではない。したがって,敢えてCの死因と特定するとしても,肺塞栓以外の死因を特定することはできない。 (2) Cの死亡についての被告の責任の有無。 (原告らの主張)① 診療上の医師の高度な注意義務医療行為はときに人の生死を左右するほどに重大な意味をもつものであるから,これに携わる医師は,専門家としての高度の医学知識に基づき,自己の取りうる最善を尽くして患者の生命身体の安全を守るべき義務を担っており,その義務に反してとるべきでない措置をし,とりうべき必要な措置をとらないことによって,手だてを尽くせばまもり得たはずの患者の生命身体の健全性を害する結果を招来したときは,当該医師が法律上の過失責任を負担すべきことは当然である。すなわち,「いやしくも人の生命及び健康を管理すべき業務(医業)に従事する者は,その業務の性質に照らし,危険防止のため実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるのは己むを得ないところと言わざるを得ない(最高裁判昭和36年2月16日判決)」のであって,医師の医療上の注意義務は,高度・万全・最善を尽し,万が一にも誤ってはならないものである。そして,被告病院は,全国的規模を誇り国民の診療に当たっている被告直轄の総合病院であり,栃木県第2の人口を持つ地域の中核都市である足利市にあって,最大の規模と施設を備えている。周辺地域に他に大学付属の病院などがないことも合わせて,地元のみならず近隣の市町村の住民から大きな期待を寄せられている医療施設である。したがって,被告の病院としてはより高度な医療知識及び医療技術と,これに伴う非常に高度な注意義務を負わされていると言わざるをえない。そして,手術は常にそれを受ける人間や様々な要素により1回毎に異なり,術 って,被告の病院としてはより高度な医療知識及び医療技術と,これに伴う非常に高度な注意義務を負わされていると言わざるをえない。そして,手術は常にそれを受ける人間や様々な要素により1回毎に異なり,術後の容態も違う。医療に携わる人間は高度に専門的な知識と熟練した技能を持つと共に,常に真摯に細心の注意を払って患者の容態の変化を見逃さない努力をすべきである。勿論,医療には限界があり,細心の努力を払っていても対応できない容態の急変もあることは否めない。しかし,重要なのは知識や経験におごることなく,常に真摯に細心の注意を払おうという姿勢である。Cは,早期ガン(胃粘膜内に限られたもの)と診断され,担当医のG医師の説明は,「ガン細胞は胃のフン門部分に存在するが,早期に発見され,この時点で手術すれば百パーセント大丈夫である。 他への転移はない。胃は約2分の1切除する。」というものであり,付随的に(被告主張によると,胆嚢の底部に小指大の腫瘤を認め,),胆嚢の摘出を行ったものであって(もっとも,これに対して,Cや家族は同意していない。),結果的に胆嚢も合わせて摘出したとしても,Cが入院の前提として罹患していた疾患はあくまでも早期の胃ガンである。そして,Cが他に特に患っていた病気もなく,健康体であったことからしても,現在の高度に発達したわが国の医療水準,ガン治療の水準からすれば,上記G医師の言葉どおり,百パーセントに近い割合で完治できるはずであり,それは医療関係者のみならず一般的な常識になっている。にもかかわらず,Cは死亡するに至ったものであって,上記医学の現状に照らして,本件の診療行為における医師の注意義務の懈怠があったことは明らかである。 ② 肺塞栓の予見可能性Ⅰ 下肢表在静脈瘤の存在下肢の深部静脈血栓症の存在は肺塞栓の危険因子として最も高いもので らして,本件の診療行為における医師の注意義務の懈怠があったことは明らかである。 ② 肺塞栓の予見可能性Ⅰ 下肢表在静脈瘤の存在下肢の深部静脈血栓症の存在は肺塞栓の危険因子として最も高いものである。ところで,Cには,下肢に顕著な表在静脈瘤があり,下肢のふくらはぎが脹れてパンパンになるほどであったところ,下肢の静脈瘤は,下肢の深部静脈のうっ滞と共に起こるものであり,下肢に表在静脈瘤がある場合には,大腿深部の方に血栓がある場合が多く,ひどい深部静脈血栓の場合には,表在静脈瘤が起きる可能性があることからすると,下肢の表在静脈瘤の存在は,深部静脈血栓の存在の蓋然性を高めるものである。したがって,仮に,表在静脈瘤が直接,肺塞栓の誘因とはならないとしても,少なくとも,肺塞栓に対する注意を喚起すべきものであった。 Ⅱ 平成5年11月6日の動脈血ガス分析によって判明した低酸素血症平成5年11月6日午前11時25分のCの動脈血ガス分析結果は,PO2(酸素分圧)値が59.0㎜Hg(以下単位の記載を省略する。),PCO2(炭酸ガス分圧)値が44.0㎜Hg(以下単位の記載を省略する。)であり,低酸素血症を示している。すなわち,血中酸素濃度の臨床参考域は,PO2値80ないし100であるが,あくまでもこれは参考域,めやすのものであって,個人差は当然あり,Cについて言うならば,手術前の平成5年10月22日のデータによると,PO2値は72.3であるから,Cは普段から若干血中酸素濃度は低めではあったようであるが,これを斟酌しても,通常の酸素濃度の範囲に,±10というのがせいぜい許容できる範囲であるから,術後1日目(平成5年11月6日土曜日)の血中酸素濃度が,PO2値59.0というのは低すぎる数値であった。この低酸素血症が,血栓が少しずつ飛ぶことにより,肺動脈の せいぜい許容できる範囲であるから,術後1日目(平成5年11月6日土曜日)の血中酸素濃度が,PO2値59.0というのは低すぎる数値であった。この低酸素血症が,血栓が少しずつ飛ぶことにより,肺動脈の末梢部分を閉塞していることによって生じている可能性も十分に考えられることであるから,この低酸素血症に注意を払い,動脈血ガス分析を繰り返すことによって,平成5年11月8日の肺塞栓を発症する原因となる大きな血栓を飛ばすことを回避することは,可能であった。その意味で,動脈血ガス分析によって判明した低酸素血症に注意を払っていれば,肺塞栓の予見も可能であった。Cの死亡と類似するこの種の突然死については,この事件の10年以上前から日本医事新報などで,数多く事例も紹介されており,1980年代,1990年代にかけての医学文献によっても,血液検査で異常低値は概ねPO2が70以下であるとされ,血栓溶解療法で,急性肺血栓塞栓症についても,数多くの改善例が示されている。 Ⅲ Cの身体的特性等肺塞栓は,やや小太りの体型でしかも女性に圧倒的に多い合併症であり,その機序は,下肢の深部に生じた血栓が静脈血に混ざって肺に移り,その結果,肺の梗塞を起こすものであるが,Cには,前記のとおり,下肢部分に静脈瘤があり,Cについて,事前に全身的な特性を十分に認識していれば,合併症として肺塞栓を生じるかもしれない可能性は予見できた筈である。 Ⅳ 手術後のCの容態Cは,平成5年11月7日,体調が思わしくなく,吐き気があったのに,この日,担当の看護婦から,「(手術後3日目からは)自分でポータブルトイレで(排尿)するように」と申し渡され,同日午前6時30分にポータブルトイレで排尿した際には立ちくらみを感じ,同日午前9時30分,排尿の際にはベッドからの上り下りが大変辛く,吐き気もあり, ブルトイレで(排尿)するように」と申し渡され,同日午前6時30分にポータブルトイレで排尿した際には立ちくらみを感じ,同日午前9時30分,排尿の際にはベッドからの上り下りが大変辛く,吐き気もあり,同日午後1時の排尿の際は,辛うじて看護婦に手を貸しもらえたが,この時もCは,目眩,気持ちが悪くなったことを訴え,同日午後6時の排尿の際には,Cの症状を見かねた付添いの原告A2が意を決して「お願いです。トイレするのを手伝って下さい。」と懇願したにもかかわらず,看護婦に他の患者もしていることであるとしてにべもなく断られており,その結果,Cは排尿後,吐き気に襲われ,嘔吐し,正中のガーゼへの出血がみられていた。 Ⅴ かかる諸事情に照らせば,肺塞栓の発症の予見は可能であった。 ③ Cの死亡についての結果回避可能性(肺塞栓の発症予防とCの救命可能性)被告が,手術直後から手術の合併症としての肺塞栓の危険性を重視して,以下のような予防措置を講じていれば,肺塞栓の発症は予防でき,Cの死亡は回避できたものである。すなわち,術後の早期にヘパリンを1日量として3000単位から5000単位持続注入することで,あらたな血栓の形成を予防することは当時からも行われており,当時臨床現場で一般的に行われている予防方法であった。また,可能であれば,術前にできるだけ安静を避けることも考えられる。下肢を一定時間毎に縛って,血流のうっ帯を防ぎ,血栓形成を予防する方法もあり,近年は全身麻酔後には一般的方法となりつつある。また,深部静脈血栓症が診断された場合は下大静脈にパラシュート状の骨組を留置して血栓が肺へ飛ぶことをあらかじめ防止する方法もある。Cの死因が肺塞栓であった場合,プロティンCなどの血清蛋白異常によるものが考えられるが,その場合には,へパリン治療での予防効果はある程度期待 置して血栓が肺へ飛ぶことをあらかじめ防止する方法もある。Cの死因が肺塞栓であった場合,プロティンCなどの血清蛋白異常によるものが考えられるが,その場合には,へパリン治療での予防効果はある程度期待できた。また,低酸素血症に関しては,一般的な酸素投与でなく,酸素吸入をし,その他様々な方法により酸素を肺に送り,低酸素状態を解消するとともに,動脈血ガス分析の検査は術後であれば1日に何回でもする必要すらあり,ましてや平成5年11月6日のデータが低酸素状態を示し,必ずしも通常の状態にないのであるから,動脈血ガス分析データを2回,3回と重ねて,酸素濃度の推移に注意をよせ,少なくとも同日(平成5年11月6日土曜日)の午後に1度,翌日(平成5年11月7日日曜日)に1度,ないし,経過によっては2度,3度と動脈血ガス分析検査をすることは必要不可欠であった。動脈血ガス分析の検査を日に何度も行うことは臨床的に決してめずらしいことではなく,経過の良くない時は普通に行われることである。また,Cは,気管支炎も保険病名としてあったのであり,手術前の動脈血ガス分析検査でもPO2値が72で,その原因として,気管支炎などの換気障害が認められている患者であったのであるから,術後において,動脈血酸素飽和度を表示するパルスオキシメーターによるモニターを装着することが可能であったし,必要でもあった。肺塞栓または心筋梗塞のいずれかであったとするなら,動脈血ガス分析を頻繁に行うことで,比較的早期に発見されて処置でき,危険性が減少した可能性が高い。そして,被告がCの低酸素状態に対して,相応な処置を施し,血液中の酸素濃度を正常値に高めていれば,平成5年11月8日のCの容態の急変を防げた可能性は高い。また,胸痛の有無についての問診,頚動脈の怒脹の有無,下肢の静脈瘤の程度,心電図での右心 処置を施し,血液中の酸素濃度を正常値に高めていれば,平成5年11月8日のCの容態の急変を防げた可能性は高い。また,胸痛の有無についての問診,頚動脈の怒脹の有無,下肢の静脈瘤の程度,心電図での右心負荷の存否,胸部X線写真での血管陰影の消失の有無などについて確認した上で,血栓溶解剤の投与を行うなど,低酸素状態の原因の把握と治療に当たるべきだったものである。Cの場合,急激な肺塞栓が発症して臨床症状を呈して死亡に至った可能性があり,急激な肺塞栓が発症した臨床症状からのへパリン治療のみでは救命効果は期待できない可能性もあったが,被告が,低酸素血症などにきちんと対応して,早期に肺塞栓の発症を疑って,早期にウロキナーゼなどの血栓溶解剤を用いた場合は,救命しえた可能性が極めて高いものである。 ④ 被告の予見義務・結果回避義務違反被告に勤務するG医師は,以下のとおり,手術後のCの低酸素血症を放置したことにより,肺塞栓の発症についての予見義務に明らかに違反したものである。 手術の翌日である平成5年11月6日午前11時25分に行われた採血の血液検査では,CのPO2値が参考域を大きくはずれた59.0を示しており,低酸素血症といえる値であり,異常な容態を呈していた。にもかかわらず,G医師は,ただ漫然と術後の患者に通常施す酸素投与を施すのみで,その予後,回復も確認しないまま,すなわち,血液検査もせず,同日が土曜日であったこと,そして翌日同月7日が日曜日であったことから,患者であるCの異変を無視し,あるいは注意すればすぐにわかる異変に気づかなかった。 血中酸素濃度の臨床参考域は,PO2値80ないし100であるが,あくまでもこれは参考域,めやすのものであって,個人差は当然あり,術後の血中酸素濃度については,外科医はその患者の術前の(酸素投与などする以前の 度の臨床参考域は,PO2値80ないし100であるが,あくまでもこれは参考域,めやすのものであって,個人差は当然あり,術後の血中酸素濃度については,外科医はその患者の術前の(酸素投与などする以前の平常値の)酸素濃度のレベルを維持できるように,手術直後から神経を使うものであり,Cについていうならば,手術前の平成5年10月22日のデータによると,PO2値72.3であるから,Cは普段から若干血中酸素濃度は低めではあったようであるが,これを斟酌しても,通常の酸素濃度の範囲に,±10というのがせいぜい許容できる範囲であるから,術後1日目(平成5年11月6日土曜日)の血中酸素濃度が,PO2値59.0というのは低すぎる数値データであった。この点,被告は,Cの平成5年11月6日の動脈血ガス分析のPO2の値に対し,被告病院において酸素を投与して経過を観たことに,なんら不適切なところはなく,改めて動脈血ガス分析検査を行う必要はないというが,仮に,平成5年11月6日の動脈血ガス分析のPO2値について,Cの全体症状に鑑みて,酸素投与のみにて経過を観察することを是としても,酸素投与の結果,PO2の値が好転するかどうかにつき,再度,動脈血ガス分析を行わない限り,その後のCの症状はわからないものである。そして,低酸素血症を放置した場合,低酸素によって血管が攣縮するということは知られており,肺塞栓を発症する可能性があることからすると,低酸素血症に対して,酸素投与をするのみならず,概ね40分後くらいに動脈血ガス分析検査を行う必要があったし,心電図によって右心負荷の存否も知り得たはずで,胸部レントゲン写真などで,肺塞栓は予知も発見もし得たものである。にもかかわらず,G医師は,これらをなさなかったものであり,このように低酸素状態の原因究明及び迅速な対応を怠ったことなど 得たはずで,胸部レントゲン写真などで,肺塞栓は予知も発見もし得たものである。にもかかわらず,G医師は,これらをなさなかったものであり,このように低酸素状態の原因究明及び迅速な対応を怠ったことなどにより,Cは,前記のとおり,肺塞栓に陥り,これが致命傷となったものである。すなわち,本件においては,患者が開腹という大きな侵襲を受けており,患者であるCが亡くなる前日である平成5年11月7日(日曜日)の昼間に「息苦しい。気持ち悪い。」,「吐気がする。(吐いた)」という症状を呈しており,Cの低酸素血症の原因が不明であれば,低酸素状態の原因究明のために,動脈血ガス分析を行うべきであったし,死因が不明であれば剖検すべきであり,本来,外科医で開腹術をしたり,術後の合併症などを少しでも学習しているものであれば,すぐに肺塞栓を疑うべきであるのに,G医師は,手術後の合併症としての肺塞栓や最悪の結果の死について思いも至らず,平成5年11月6日(土曜日)の低酸素血症PO2値59の値に対しては,臨床的に,術後には創痛などで換気不十分となることは珍しくなく,この程度の低酸素状態は,術後第1日目のものとしては,よく見られるものとの判断の元に,酸素投与で足るものと判断し,それ以上の処置はしておらず,患者Cの訴えに対しても,手術直後である平成5年11月6日(土曜日),同月7日(日曜日)には,手術後のCの体調について,自ら回診すらしておらず,他の医師による回診もなされていなかった。結果として,Cの訴えは無視されたまま,Cの容態は,平成5年11月8日午前7時50分ころから,急速に悪化し,Cは,ベッド脇のポータブルトイレで排尿後,ベッドへ移され,「昨日より気持ち悪かった」と訴え,間もなく問い掛けに答えられなくなり,意識が薄れ,呼吸停止となり,緊急処置を受けたが,意識も戻らず 悪化し,Cは,ベッド脇のポータブルトイレで排尿後,ベッドへ移され,「昨日より気持ち悪かった」と訴え,間もなく問い掛けに答えられなくなり,意識が薄れ,呼吸停止となり,緊急処置を受けたが,意識も戻らず,同日午後2時10分に死亡した。平成5年11月7日には,Cはポータブルトイレで排尿中,倒れ,「目眩,気持ちのわるさ」を訴え,ドレーンも相変わらず,腹部と右側の両方から血性の浸出があり,特に,血圧は同日午後1時に90/60まで落ち,同日の午後10時になって,血圧は86/50に至ったが,この間になされたことといえば,同日午後10時を過ぎてから,G医師が,看護婦からこの経過を知らされ,G医師より心電図モニターの装着とエピドラ中止(中枢性鎮痛剤レペタン投与の中止)の指示が出されたにすぎない。また,Cは,平成5年11月7日,体調が思わしくなく,吐き気があったのに,この日,担当の看護婦から,「(手術後3日目からは)自分でポータブルトイレで(排尿)するように」と申し渡され,同日午前6時30分にポータブルトイレで排尿した際には立ちくらみを感じ,同日午前9時30分,排尿の際にはベッドからの上り下りが大変辛く,吐き気もあり,同日午後1時の排尿の際は,辛うじて看護婦が手を貸しもらえたが,この時もCは,目眩,気持ちが悪くなったことを訴え,同日午後6時の排尿の際には,Cの症状を見かねて付添いの原告A2が意を決して「お願いです。トイレするのを手伝って下さい。」と懇願したにもかかわらず,看護婦に他の患者もしていることであるとしてにべもなく断られており,その結果,Cは排尿後,吐き気に襲われ,嘔吐し,正中のガーゼへの出血がみられていた。にもかかわらず,被告病院の看護婦は,Cの容態を的確に把握せず,容態に配慮することなく,マニュアル的対応に終始した。G医師が,手術前において 気に襲われ,嘔吐し,正中のガーゼへの出血がみられていた。にもかかわらず,被告病院の看護婦は,Cの容態を的確に把握せず,容態に配慮することなく,マニュアル的対応に終始した。G医師が,手術前においても,事態の急変後においても,手術後の合併症としての肺塞栓に対する予見を欠いていたことは,G医師がカルテ等に,Cの死亡前日の平成5年11月7日(日曜日)欄に「排尿しようとして倒れた?」と記載し,平成5年11月8日のCの事態急変後で朝8時に呼び出しを受けた後に,突然の急変と思われるとして,緊急CT検査として頭部の断層写真を撮るも,「出血は無い」「広範な脳梗塞か」などとして,「経過からして,脳梗塞と思われる」と記載し,「ECG(心電図)は変化しているが,CPR(心蘇生術)後でもあり,原因なのか,結果なのか,分からない」,「とりあえず全力をつくすが,状況は厳しい」と記載し,「死亡ムンテラ」として,「2PODまでは,notrouble」と記載し,全くCの事態の変化がわからないと言っていたのに,死亡後家族に対するムンテラ前に,Cの死因として,「① 脳梗塞,② 脳出血,③ 心筋梗塞,④ 肺梗塞,⑤ 多出血の順と考えられる。」と記載していることなどからも明らかである。すなわち,G医師が,死因の第1として記載している脳梗塞が,このような急激な症状であれば,頭部CTスキャンで先ず明らかになるし,広範な脳梗塞であれば,言語障害,機能障害,神経症状が前兆としてあらわれるのであって,G医師が肺塞栓についての予見を欠いていたことが明らかである。 以上のとおり,Cの死因は,手術直後からの低酸素状態に被告病院のG医師を中心とする看護婦等治療スタッフが気付かず,何らの措置を施さずにおいたことによるものであって,低酸素状態の原因としては,肺塞栓の発症又はその前兆が最も疑わ 術直後からの低酸素状態に被告病院のG医師を中心とする看護婦等治療スタッフが気付かず,何らの措置を施さずにおいたことによるものであって,低酸素状態の原因としては,肺塞栓の発症又はその前兆が最も疑われ,肺塞栓に起因する低酸素状態に対する対策として酸素吸入を行い,動脈血ガス分析を行い,他に前記のような措置をすべきであったのにこれを怠ったことにより,Cは死亡したものである。 ⑤ 被告の責任以上のような被告病院の対応は,被告病院に求められる高度な注意義務とはかけはなれたもので,注意義務違反があり,被告はその結果に対して債務不履行責任を負う。 (被告の認否・反論)① 肺塞栓についてⅠ 肺塞栓発症の機序本件で肺塞栓が起こったとすれば,それは深部静脈血栓症の存在が最も問題となる。深部静脈血栓症は,既往症としてそれがある場合と術後の安静臥床によって深部の静脈に血栓ができる場合とがあるが,本件では後者が最も考えられる。なお,原告らは,Cに表在静脈瘤があったと主張し(ただし,被告病院のG医師はその存在を否定している。),ここから血栓が飛んで肺塞栓を引き起こした旨主張するが,下肢の表在静脈瘤内の血栓がちぎれて肺に飛んで直接肺塞栓を惹起することはないと考えられている。前記のような安静臥床にともなう深部静脈血栓の形成とそれが飛んで肺塞栓を引き起こすことは,近時いわゆる「エコノミークラス症候群」と呼ばれる,飛行機内で長時間(といっても12時間程度でも起こっている。)一定の姿勢で座っていることにより深部静脈血栓が形成され,それによって肺塞栓が引き起こされることが指摘されているのと同様の機序で起こるものである。 Ⅱ 事前の対応ⅰ 肺塞栓の予見可能性について本件で肺塞栓の発症を具体的に予見することはできない。なぜなら,既往症として深部静脈血栓症の存在を 指摘されているのと同様の機序で起こるものである。 Ⅱ 事前の対応ⅰ 肺塞栓の予見可能性について本件で肺塞栓の発症を具体的に予見することはできない。なぜなら,既往症として深部静脈血栓症の存在を疑わしめる所見がないうえ,肺塞栓の危険因子といわれるものも特に認められないからである。鑑定人Iによれば,ガンは肺塞栓の危険因子の一つであるが,本件のように極めて早期の胃ガンの場合に肺塞栓が術後に発症することの危険性が特に高くなるかは明確な判断材料はないとされる。 ⅱ 予防処置について本件で肺塞栓が予見不可能である以上,それをあらかじめ予防すべき義務は生じない。また,本件のような極めて早期の胃ガンの場合,そのためにことさら予防処置を講ずることも一般にはない。Cは,本件事故当時の医療水準に照らせばもちろん,現在でも,肺塞栓についてハイリスクの患者ではない。したがって,本件当時Cのような患者に対し,肺塞栓の予防処置を行わねばならない理由はない。すなわち,本件事故当時の医療水準に照らせば,Cが肺塞栓のハイリスク患者であったと認めることができない以上,Cのような患者に対しては,日本で最高レベルの病院であっても,平成5年の時点では予防的なことは行わなかったのである。 Ⅲ 事後の対応ⅰ 肺塞栓の発症時期本件でCの死因が仮に肺塞栓であったとした場合,術後の肺塞栓では動き始めに血栓が飛ぶのが通常であるから,その発症時期は,鑑定人Iが最も可能性が高いとする,Cの容態の急変が生じた,ポータブルトイレに立って顔面蒼白となったという時期である平成5年11月8日の午前7時50分ころと考えねばならない。なお,鑑定人Iによれば,平成5年11月8日午前6時ころ,Cに「指先のしびれ」があったとすれば,それは後方視的に見て(要するに後から考えて)過換気による症状とも 前7時50分ころと考えねばならない。なお,鑑定人Iによれば,平成5年11月8日午前6時ころ,Cに「指先のしびれ」があったとすれば,それは後方視的に見て(要するに後から考えて)過換気による症状とも考えられ,肺塞栓であれば過換気になるから,同日午前6時ころの可能性もある旨述べられているが,同日午前6時ころにCが指先のしびれを訴えていた事実は認めがたいし,過換気の症状は「指先のしびれ」などよりも,より大きなわかりやすい症状として,頻呼吸や呼吸動作が大きくなることが認められるはずであるところ(頻呼吸や呼吸動作が大きくなるから「過換気」となるのである。),そのような事実は認められないから,本件での肺塞栓の発症をこの時期と特定するには合理的根拠がない。 ⅱ 肺塞栓発症後の対応について本件でCの死因が仮に肺塞栓であり,その発症が平成5年11月8日午前7時50分ころであったとしても,その時点で急変の原因を肺塞栓と診断することは困難である。このことは,鑑定人Iが,本件の死因を肺塞栓の可能性が最も高いとしながらも,そのように特定せず,このため肺塞栓と診断すべき時期を特定していないことからも明らかである。仮に「指先のしびれ」を根拠に肺塞栓の発症時期を午前6時ころと認定するとしても,そのような判断は後方視的なものであって,臨床経過においてそのように診断することが困難であることは,鑑定人Iが認めるところである。鑑定人Iによれば,肺塞栓と診断できた場合を前提に,ヘパリンやウロキナーゼ投与という治療方法を挙げているが,ヘパリンは血液凝固阻止剤,ウロキナーゼは血栓溶解剤であって,いずれも出血している患者,出血する可能性のある患者に対しては禁忌あるいは慎重投与とされており,鑑定人Iは,本件で急変の原因として出血の可能性を否定していないから,本件でこれら薬剤を 解剤であって,いずれも出血している患者,出血する可能性のある患者に対しては禁忌あるいは慎重投与とされており,鑑定人Iは,本件で急変の原因として出血の可能性を否定していないから,本件でこれら薬剤を当然に用いるべきであるとする趣旨ではない。したがって,本件でこれら薬剤が用いられていないことをもって被告病院の対応が不適切であったなどと帰結することは到底できない。なお,本件において被告病院でなされたCに対する蘇生処置は一般的なものであり,この蘇生処置が不適切であったなどと到底いえないし,不適切であったとする根拠も本件記録上存在しない。 ⅲ 救命可能性について鑑定人Iによれば,本件が肺塞栓であるなら,急激な臨床経過からするとかなり大きな梗塞であり致命率が高いものであり,肺塞栓が発症して臨床症状を現してからのヘパリン治療のみでは救命効果は期待できず,早期にウロキナーゼなどの血栓溶解剤を用いた場合は救命しえた可能性はあるが,極めて厳しい状態であったものである。したがって,仮に早期に肺塞栓と診断し(本件でそのように診断すべきであったといえないことは前記のとおり),上記の薬剤投与を早期に行ったとしても,救命の可能性はなかったと認めるのが相当である。 Ⅳ 以上のとおりであるから,仮に本件でCの死因が肺塞栓であったとしても,被告病院の対応になんら不適切なところはないし,同女を救命できたなどともいえない。したがって,原告らの請求は失当である。 ② 平成5年11月6日の動脈血ガス分析結果に対する対応について原告らは,動脈血ガス分析のPO2(動脈血酸素分圧)の値だけを問題としているが,それだけでなく,他の結果やCの症状,所見をも総合して,同人の低酸素状態の程度を判断しなければならないところ,Cの平成5年11月6日の動脈血ガス分析結果は,pH値7.406 だけを問題としているが,それだけでなく,他の結果やCの症状,所見をも総合して,同人の低酸素状態の程度を判断しなければならないところ,Cの平成5年11月6日の動脈血ガス分析結果は,pH値7.406,PCO2値44.0,O2SAT(動脈血酸素飽和度)値94パーセントで正常範囲内にあり,術前の同年10月22日の結果とかわりがない。また,Cには,動脈血ガス分析検査当時も,検査後も,ともに呼吸困難はなく,チアノーゼも認められず,症状,所見に変化は認められていない。そして,Cには,軽度ではあるが閉塞性換気障害が認められていた。臨床的に,術後には創痛などで換気不十分となることは珍しくなく,平成5年11月6日の動脈血ガス分析の結果明らかになった低酸素状態は,術後第1日目のものとしては,よくみられるものであり,これに対しては,酸素投与を続行し,経過を観たことで対応したことに何ら不適切なところはなく,改めて動脈血ガス分析検査を行う必要はない。鑑定人Iによれば,低酸素状態に対して十分に対応をしていたかは疑問があるとされているが,他方で,同日の動脈血ガス分析結果は,手術翌日の数字としては異常ではなく,しかも本件ではこの結果を受けてその後持続的に酸素投与2L/分が行われているのであるから,呼吸管理として問題のないことは明らかであるとされており,鑑定人Iが指摘する内容は,酸素投与後の動脈血ガス分析を行っていないということに尽きる。すなわち,鑑定人Iによれば,平成5年11月6日の動脈ガス分析のための動脈血採血時には酸素が投与されておらず,そのような状態での酸素分圧,酸素飽和度が前記のとおりであったが,その後,毎分2リットルの酸素が投与されていたのであれば,呼吸状態が変わらなければ,これぐらいの酸素を流せば,どれくらい回復するかということは,大体予測がつくもの 素飽和度が前記のとおりであったが,その後,毎分2リットルの酸素が投与されていたのであれば,呼吸状態が変わらなければ,これぐらいの酸素を流せば,どれくらい回復するかということは,大体予測がつくものであって,酸素不足で致命的なことは起こりえないとされ,酸素投与はなされていたものである。鑑定人Iによれば,仮に,酸素を投与しても,低酸素状態がさらに進行していったということであれば,肺塞栓であればかなり大きいものが飛んだと,劇的なことが起きてしまったことも考えられるとされるが,鑑定人Iの仮説に過ぎず,本件においては,低酸素状態の進行があったとすれば,Cに息苦しさが継続的に認められてしかるべきところ,平成5年11月7日午後6時に「R苦(呼吸苦)なし」との記載があるほか,平成5年11月8日午前6時の記載でも「息苦しさなし」との記載があり,低酸素状態の進行があったというに足りる臨床症状が認められておらず,本件で低酸素が進行していると考える根拠はなく,本件でこの推論に依拠することができないことは明らかである。 ③ Cの術後の容態Cは,原告らが血圧が目立って低下し始めたとする平成5年11月7日午後1時以降も,特段の異常を示しておらず,看護婦からの問いかけに対しても十分な応答ができており,自らポータブルトイレでの排尿もでき,中枢性鎮痛剤の硬膜外投与を中止してからは血圧も順調に回復している。 (3) Cの手術に関する説明義務違反,Cの死亡に関する被告の死因解明義務の存否及びその懈怠の有無。 (原告らの主張)① 術前の説明義務違反平成5年11月4日の術前面談において,被告病院のG医師は,C及び原告A1,同A2に対し,「この時点で手術すれば100パーセント大丈夫である。他への転移はない。胃は約2分の1切除する。」と説明しているが,開腹と 4日の術前面談において,被告病院のG医師は,C及び原告A1,同A2に対し,「この時点で手術すれば100パーセント大丈夫である。他への転移はない。胃は約2分の1切除する。」と説明しているが,開腹という手術前の面談での説明が極めて不十分であり,Cの胃ガンがⅡc型であること,もし,手術を施さなかった場合の患者に予期される事態および治療方法,手術を施した場合の予想される合併症,開腹の際に他への転移が見られた場合の処置等について,なんらの説明や相談もなかった。 実際に,手術の際にCは胃部と共に胆嚢の摘出もされているところ,これについて正に手術を受けているCは無理としても,立ち会った親族の承諾すらも得ずに行っているものである。医師と患者というのは,対等の力関係に立てないことは誰もが認めるところであり,医師が「100パーセント大丈夫」という言葉を使えば,素人である患者は「先生にお任せ」するしかないというのが通常である。医師の言葉を全面的に信頼して自分の生命を託すのであるから,医師は責任の重みを自覚すべきであり,説明を十分にするべきである。近年,インフォームドコンセントということが重要視されているのはこの所以である。Cの死という最悪の結末となった本件において,従前から原告らが指摘している「解剖」のことも含めて,被告病院がCの治療にあたって十分な説明義務を果たしたとはいえない。 ② 死因解明義務違反G医師は,C死亡直後の遺族に対する説明の中で,「死亡の原因疾患としては,脳梗塞が最も考えられ,次に心筋梗塞,肺梗塞の順に考えられるが,確たる証拠はありません。原因を追求するなら,解剖をお勧めしますが,(中略)御了解いただけるなら,このまま御帰宅いただこうかと思います。」と述べている。鑑定人Hによれば,上記のG医師の説明に関し,手術後3日目の急死というこ 因を追求するなら,解剖をお勧めしますが,(中略)御了解いただけるなら,このまま御帰宅いただこうかと思います。」と述べている。鑑定人Hによれば,上記のG医師の説明に関し,手術後3日目の急死ということからすると,死因究明の上からも,手術と死亡との関連性を否定する意味からしても,解剖,(中略)院内での病理解剖ないしは警察に届け出た上のでの司法解剖(中略)を,家族を説得して勧めるべきであり,Cの場合手術後急に亡くなったもので,異常死体であることには間違いなく,警察に届け出て,行政解剖あるいは司法解剖をすべきだったのに,異常死体の届出義務をG医師が怠ったところに一番の発端があると指弾されている。G医師は,本件Cのガン手術については,ほぼ100パーセントの確率で完治できるものと原告ら家族に説明していたし,本件ガン摘出手術については,ほぼ完璧に成功したものとG医師自身考えていたものであって,そのような状況の中での手術後3日目の急死であるのだから,主治医として手を尽くした医師ならば,「何故か」その原因を知りたいと考えるのが医師としての通常の心理であろう。また,死亡後に司法解剖を施せば,その原因はほぼ解明できたことは間違いない。G医師には,思いもかけない結果に気が動転している原告ら遺族に対し,予想できない事態の発生を説明し,死因究明のために必要不可欠な解剖の重要性について説明する義務が存したものである。にもかかわらず,G医師は前記のように説明しているのみで,説明義務を尽くしているとは到底いえず,むしろ,自身は解剖を望まないという趣旨のことを述べているのである。医師として,本件の如き,原因不明の突然の死に際しては,原因究明をするというのが本来の医師の姿であるべきところ,被告病院の医師の言動は解剖に消極的であり,原因究明を怠ったものである。この点,G る。医師として,本件の如き,原因不明の突然の死に際しては,原因究明をするというのが本来の医師の姿であるべきところ,被告病院の医師の言動は解剖に消極的であり,原因究明を怠ったものである。この点,G医師は,「私最後にちょっと余りにも御遺体が心肺蘇生のときに損傷がかなりあるんで,これ以上身体に傷をつけることは非常に気の毒な思いに駆られていましたんで,」(解剖を特に勧めなかった)と述べているが,死因がある程度特定できる本件事例については,現在の解剖技術をもってすれば,身体に傷をつけると言っても大したことはなく,また,解剖後は綺麗に整体されるので,殊更に遺族の心情を傷つけるものではなく,本件における解剖の必要性に比べ,G医師の理由付けはあまりに軽く,到底,原告らが納得しえるものではない。死体解剖保存法(昭和24年法律第204号)によれば,2人以上の医師が診療中であった患者が死亡した場合において,主治の医師を含む2人以上の診察中の医師がその死因を明らかにするため特にその解剖の必要を認め,かつ,解剖について遺族の承諾を得るいとまのないような場合には遺族の承諾がなくても解剖することができるものとされている(7条)。さらに,死体の解剖は,特に設けた解剖室においてしなければならないものとされ(同法9条),一定規模以上の病院には解剖室が備えられている。このように,死因が判明しない場合の解剖について法律に規定が設けられているのは,人の死亡という重大かつ厳粛な事態が生じた場合には,できる限り死因を明らかにすることが公衆衛生の向上及び医学の進歩の上で必要であり(同法1条),かつ,解剖が死因解明の最も直接的かつ有用な手段であることが社会的に承認されているためである(東京地方裁判所平成9年2月25日判決)。このような実定法の定めと,病院の機能及び役割並びに死 法1条),かつ,解剖が死因解明の最も直接的かつ有用な手段であることが社会的に承認されているためである(東京地方裁判所平成9年2月25日判決)。このような実定法の定めと,病院の機能及び役割並びに死者を悼む遺族の感情を考慮すると,本件のように病院に入院中の患者が死亡した場合において,死因が不明であり,又は,病院側が特定した死因と抵触する症状や検査結果があるなど当該死因を疑うべき相当な事情がある場合,病院としては,遺族に対し,病理解剖の提案又はその他の死因解明に必要な措置についての提案をして,それらの措置の実施を求めるかどうかを検討する機会を与える信義則上の義務を負っているものというべきである(前記東京地方裁判所判決参照)。原告らは,被告病院の死因解明義務違反の行為により,Cの死亡後遅滞なくその死因を知る機会を失ったものであり,死因の解明を求めて本件訴訟を提起さざるを得なかったものである。被告の病院が死因解明義務を尽くさなかったことにより原告らに生じた精神的苦痛に対し,原告らは慰謝料請求をするものである。 (被告の認否・反論)① 説明義務違反がないことについてⅠ 本件でCは早期胃ガン(印環細胞ガン)であったのであり,早期手術が必要なことは明らかである。原告らは,手術をしなかった場合の予期される事態について説明をすべきなどと主張しているが,胃ガンが発見されたにもかかわらず放置すれば,ガンが進行して死亡するにいたることは説明されるまでもなく明らかなことであるとともに,根治療法が手術による切除以外にないことも明らかである。そして,Cが,早期胃ガンで発見されたにもかかわらず,手術を受けなかったなどと想定することは合理的ではない。また,本件でとくにそのように認めるに足りる根拠もない。本件では,合併症を含め十分な術前の説明がなされているが,仮にそ 見されたにもかかわらず,手術を受けなかったなどと想定することは合理的ではない。また,本件でとくにそのように認めるに足りる根拠もない。本件では,合併症を含め十分な術前の説明がなされているが,仮にそれが不十分であると仮定したとしても,肺塞栓の危険性は極めて低く,これに対し印環細胞ガンを放置すれば確実に死亡するのであるから,Cがことさら胃ガン手術を拒絶したなどと認めるに足りる根拠はない。したがって,原告らの説明義務違反についての主張は失当である。 Ⅱ 原告らは,本件で胆嚢が合併切除されたことをもって説明義務違反をいうようであるが,このような主張は失当である。胃ガン手術は,胃を切除することが目的なのではない。ガンに対してこれを切除することに目的がある。患者の手術に対する同意も,その主眼はガンの切除についてのものである。したがって,胃のみならず,周辺臓器にガンを疑わしめる病変が認められれば合併切除することは通常の患者の意思に合致し,術前の同意に包括的に含まれるものである。そして,病変に対しどの範囲で切除するかは,医師の合理的な裁量に委ねられた事項である。本件では,術中胆嚢底部に硬結を認めたため,胆嚢摘出術をも併せて行ったものであり,術前の同意の範囲内でありかつ医師の合理的裁量の範囲内のことである。原告らの主張によれば,胃ガン切除についての同意を得たのであれば,術中いかに転移あるいは浸潤を疑わせる所見があっても,合併切除してはならず,そのまま閉腹すべきということになる(患者はその時点では麻酔中であるから患者の意思を確認することはできない。 また,患者の自己決定権は一身専属的であるから,親族によって代替できるわけではない。)。このような主張がいかに荒唐無稽であるかは明らかである。 ② 死因解明義務についてG医師は,原告らに対し,死因について の自己決定権は一身専属的であるから,親族によって代替できるわけではない。)。このような主張がいかに荒唐無稽であるかは明らかである。 ② 死因解明義務についてG医師は,原告らに対し,死因について不明な点があれば解剖によって明らかにする方法がある旨説明しており,その上で,原告A1は解剖不要と回答したものである。G医師は,原告らに死因解明のための解剖を提案している以上,それを行うかどうかは原告らの判断である。原告らの引用する東京地方裁判所判決の事案は,医師が解剖について提案しなかった事案であり,本件とは前提事実が異なる。そして,原告らが死因解明のための解剖について提案を受けながらあえて解剖に踏み切らなかったのは,原告らの判断の結果であり,その点についてG医師を論難することは自己決定と矛盾する態度である。なお,原告らの引用する東京地方裁判所判決は,控訴審(東京高等裁判所)において覆され,請求棄却とされている。 (4) Cの死亡による損害。 (原告らの主張)① 逸失利益Cは居住地において,喫茶店を経営し,その収入は同年代の同じ高卒の人に比べて少なくない収入を得ていたもので,平成5年度の賃金センサス企業規模計,旧中,新高卒,55ないし59歳の平均賃金をもとに,同女の平均余命年数の2分の1について労働可能であり,生活費控除率を4割として計算すると1745万4000円となる。 ② 慰謝料 2000万円なお,原告らは,被告の病院の担当医G医師の死因解明義務違反に基づいて慰藉料請求をしているところ,原告1名につき金200万円宛,合計1400万円の慰藉料を請求するものである。これは,全体の請求との関係では,一部請求の関係に立つものである。 ③ 弁護士費用 400万円(被告の認否・反論)否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断1 万円の慰藉料を請求するものである。これは,全体の請求との関係では,一部請求の関係に立つものである。 ③ 弁護士費用 400万円(被告の認否・反論)否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 証拠(甲1の1ないし8,同2,同3の1及び2,同4,同5の1ないし3,同6の1ないし4,同7の1ないし5,同8ないし同10,同11の1及び2,同12の1ないし3,同13の1及び2,同13ないし同17,同18の1ないし5,同19及び同20,同21の1ないし9,同22及び同23,同24の1及び2,同25ないし同28,乙1ないし同7,鑑定人医師H及び同医師Iの各鑑定結果,証人G,同H,同J,同K,同Iの各証言,原告A1,同A2各本人尋問の結果。なお,甲8ないし同10,同15ないし同17,同22,乙3,鑑定人医師H及び同医師Iの各鑑定結果,証人G,同H,同J,同K,同Iの各証言,原告A1,同A2各本人尋問の結果のうち,以下の認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば,本件の経過は,以下のとおりと認められる。 (1)① Cは,昭和49年6月,原告A1の住所地において,「O」の屋号で原告A1とともに,喫茶店を開業していたところ,所得税青色申告決算書によれば,Cの年間所得金額は,平成2年分(平成2年1月1日から同年12月31日まで)が113万4352円,平成3年分(同年1月1日から同年12月31日まで)が132万6414円,平成4年分(同年1月1日から同年12月31日まで)が146万4441円,平成5年分(同年1月1日から同年10月31日まで)が104万8266円であった。 ② Cは,平成元年4月ころから,高血圧があり,L診療所より処方された降圧剤を内服しており,平成3年5月11日,腹痛を訴えて被告病院を受診し,超音波断層検査,CTスキャン検査等を受 66円であった。 ② Cは,平成元年4月ころから,高血圧があり,L診療所より処方された降圧剤を内服しており,平成3年5月11日,腹痛を訴えて被告病院を受診し,超音波断層検査,CTスキャン検査等を受け,脂肪肝と診断されところ,その際,Cは,喘息がある旨被告病院に申告していた。Cの右足のふくらはぎの皮膚の表面には,血管の一部が瘤状に膨れてできたような静脈瘤様の模様が肉眼で確認でき,Cは,知人らに仕事が終わるとその当たりが痛いことがあると漏らすことがあったが,これについて特段医師の診察を受けたことはなく,また,肺塞栓を引き起こす可能性のある下肢の深部静脈血栓症が存在することを示す症状はなかった。他に既往症として,18才から38才くらいまでの間に,アレルギー性鼻炎等により鼻の治療を受けたり,平成5年5月から同年7月ころまで,五十肩で治療を受けことがあったが,特に健康状態に問題はなかった。 (2)① Cは,平成5年9月5日,足利市の行っている健康診断で上部消化器造影検査を受けた結果,胃の幽門及び前底部中央部に疑隆起性病変と判断される異常陰影が認められ,精密検査の必要性を指摘され,同月13日,被告病院の内科外来の診察を受けた。 ② Cは,同月20日,被告病院内科にて胃内視鏡検査を施行されたところ,同検査において,潰瘍瘢痕と疑隆起が認められ,検体を病理組織検査したところ,印環細胞ガンと判明し,肉眼的分類はⅡc型で,早期胃ガンと診断された。 ③ 被告病院内科担当医であるM医師は,同年10月15日,Cに「前ガン症状」と説明したうえで,外科での手術を勧めた。 ④ Cは,同月18日,被告病院外科外来を初診したところ,その際,Cは,被告病院に提出された検査前調査用紙に喘息がある旨記載した。Cの担当医は,G医師であり,同医師は,Cに対し,Cの病気が潰瘍瘢痕をと Cは,同月18日,被告病院外科外来を初診したところ,その際,Cは,被告病院に提出された検査前調査用紙に喘息がある旨記載した。Cの担当医は,G医師であり,同医師は,Cに対し,Cの病気が潰瘍瘢痕をともなうⅡc型早期ガン(印環細胞ガン)であることを明らかにしたうえで,肉眼的形態,病理型などから手術が必要である旨説明し,Cは,これを了解し,手術目的で入院の予約をした。なお,Cは,同日,心電図検査を施行されたところ,検査所見によれば,慢性P波の疑いが認められ,慢性閉塞性肺疾患(代表的なものとして,慢性気管支炎と肺気腫が挙げられる。)は否定できないものと判断された。慢性肺気腫は,気管支喘息と診断された患者によくみられるものである。また,同日,胸部及び腹部のXP検査がなされた。 (3)① Cは,平成5年10月21日午後1時45分,胃ガン手術を目的として,被告病院外科に徒歩にて入院し,G医師が,主治医となったところ,入院時のCの身長は162センチメートル,体重は59キログラムであったが,医学的にみて,肥満とはいえない。なお,保険病名としては,胃ガンの他,1週間前から風邪の症状があるとして,感冒が記載され,気管支炎も記載された。 ② Cは,同月22日,採血のうえ,血液について各種検査を施行されたところ,検査結果に照らし,手術の障害となる異常は認められず,腎機能(糸球体機能)も検査されたところ,結果はGFR(糸球体濾過値)106と良好であった。なお,動脈血ガス分析の結果は,PO2値が72.3で臨床参考域(80ないし100)を若干下回っていたものの,pH値は7.383,PCO2値は45.9(臨床参考域は34から46である。),O2SAT(酸素飽和度)値は96パーセント(以下単位の記載を省略する。なお,臨床参考域は95から98である。)で,特に異常というも 83,PCO2値は45.9(臨床参考域は34から46である。),O2SAT(酸素飽和度)値は96パーセント(以下単位の記載を省略する。なお,臨床参考域は95から98である。)で,特に異常というものではなかった。同日のCのヘモグロビン値は14.1(なお,臨床参考域は女性の場合11.0から15.0である。),白血球数は5700μリットル(以後単位の記載は省略する。なお,臨床参考域は3600から9300である。),赤血球数は453万/μリットル(以後単位の記載は省略する。なお,臨床参考域は女性の場合360から490である。),血小板数は33.5万/μリットル(以後単位の記載は省略する。なお,臨床参考域は14.5から38.0である。),血清総タンパク値は7.4グラム/デシリットル(以後単位の記載は省略する。臨床参考域は6.5から8.1である。)であった。 ③ 同月24日のCの体重は57.5キログラムであった。同日の回診時G医師は,咳がおさまらないと訴えるCに対し,気管支炎の症状であり,薬を飲むよう説明した。 ④ Cは,同月25日,呼吸機能検査を受けたところ,%VCが92.64%,FEV1.0%が69.07%であり,流量-気量曲線から,軽度の閉塞性肺換気障害が認められたが,手術に支障をもたらすものではないものと判断され,胸部単純X線写真撮影を受けたが,特に異常は認められず,病変部についての胃X線造影検査を受けたが,これによっては病変部は明らかとならなかった。 ⑤ Cは,同月30日,胃内視鏡検査を受けたが,内科外来で施行されたとき(平成5年9月20日)と比較しても,大きな変化は認められず,G医師は,Cに再度胃ガンである旨説明した。翌同月31日のCの体重は56キログラムであった。 ⑥ Cは,平成5年11月2日,尿検査を受けたが,大きな異常は認めら と比較しても,大きな変化は認められず,G医師は,Cに再度胃ガンである旨説明した。翌同月31日のCの体重は56キログラムであった。 ⑥ Cは,平成5年11月2日,尿検査を受けたが,大きな異常は認められなかった。 ⑦ G医師は,同月4日,C及び付添の原告A1,原告A2と術前の面接をしたところ,その際,Cらに対し,Cの疾患に対する手術の必要性,内容,危険性等に関し,平成5年10月18日にCにしたと同様の説明を行なうとともに,さらに,Cが罹患している早期胃ガンに対し,現時点で手術をした場合の術後の相対5年生存率は統計的に100パーセントであって,良好な予後を期待できる,術式は,幽門側胃切除であり,その後の障害としては小胃症状が最も大きな生活障害因子となる,術前の検査では,手術の障害となる異常はなく,一般的な条件のもとに手術が行なわれる,手術の内容から考えて輸血は用意するが,施行しない予定である旨説明した。そして,C及び原告A1は,「わたくしは,上記の手術が必要なことについて医師から説明を受けましたので,それを受けることについて同意いたします。(中略)なお,このたびの手術に関連して,緊急の場合又は医学上の立場から,処置の変更をする必要がある場合には,その処置を受けることについても同意いたします。」との記載のある手術承諾書に署名押印してこれを被告病院に差し入れ,本件手術に対する同意をした。予定された手術は,胃幽門側胃切除手術であり,G医師は,問診等からCについては,既往歴として特記すべきものはないものと認識し,前記心電図検査の結果及び呼吸機能検査の結果から判明した肺の異常については軽度のもので,手術上特に問題となるものではない(さらにいえば,治療の必要もない)ものと判断し,前記の諸検査等の結果から,Cの手術に関し,手術リスクはないものと判断し 果から判明した肺の異常については軽度のもので,手術上特に問題となるものではない(さらにいえば,治療の必要もない)ものと判断し,前記の諸検査等の結果から,Cの手術に関し,手術リスクはないものと判断していた。なお,血液検査がなされたところ,同日のCのヘモグロビン(血色素)値は13.1,白血球数は5900,赤血球数は423,血小板数は29. 0,血清総タンパク値は7.0であり,同日,胸部XP検査がなされた。 (4) Cは,G医師の執刀,被告病院外科に勤務するN医師の助手により,平成5年11月5日,本件手術を受けたところ,Cは,同日午前11時30分に手術室に入室し,本件手術は,同日午後12時12分開始された。本件手術においては,上中腹部正中切開にて開腹され,開腹所見によれば,腹水並びに明らかな癒着を認めず,胃には腫瘤を触知しなかったが,胆嚢底部に小指頭大の硬結を認め,肝,脾,結腸,小腸には異常を認めず,明らかなリンパ節腫脹を認めなかったもので,開腹所見から,当初予定されていた幽門側胃切除術に併せて胆嚢摘出術が施行され,Cは,胃の幽門側2分の1(幽門より1.5センチメートル,噴門より5センチメートルの部分)及び胆嚢を切除された後,BI法により再建し,結節による吻合を確認のうえ,右横隔膜下にドレーンを留置して,腹壁を閉層し,午後4時19分,本件手術は終了し,手術時間は4時間7分であった。本件手術の際の術中の出血量は252グラム,病室帰室までの尿量は1100ミリリットル,術中の輸液量は3550ミリリットルであり,手術室退室時の血圧は120/80,脈拍数は72回/分(以下単位の記載を省略する。),体温は35.8度であり,術中全く問題なく経過したものである。切除胃肉眼所見によれば,腫瘍の大きさは縦2.2センチメートル,横1.9センチメートルであり,その 回/分(以下単位の記載を省略する。),体温は35.8度であり,術中全く問題なく経過したものである。切除胃肉眼所見によれば,腫瘍の大きさは縦2.2センチメートル,横1.9センチメートルであり,その位置は切除断端までの距離が噴門側8.5センチメートル,幽門側1.5センチメートルの位置であり,胆嚢にポリープが存在していたものである。手術中に行われた動脈血ガス分析の結果は,同日午後12時24分に行われた際のそれが,pH値7.38,PCO2値41.3,PO2値146であり,午後4時49分に行われた際のそれが,pH値7.287,PCO2値55.4,PO2値301.6,O2SAT値104.3であった。なお,手術中Cには心電図モニターが装着されていたが,モニター画面で確認していただけで,記録紙としては残さなかった。 (5)①Cは,同日午後5時15分,半覚醒の状態で帰室したところ,呼名に対して開眼するが,すぐにうとうとしてしまう状態であり,そのときの血圧は120/80,脈拍数は70,呼吸数は20回/分(以下単位の記載を省略する。),体温は33.5度であり,肺雑音,呼吸苦,浸出はなかった。 ② 同日午後5時40分のCの血圧は110/70,脈拍数は72,呼吸数は16,体温は34度であった。 ③ 同日午後6時のCの血圧は140/80,脈拍数は60,呼吸数は18,体温は34.1度であり,肺雑音,浸出及び創痛はなかった。 ④ 同日午後8時15分のCの血圧は124/74,脈拍数は62,呼吸数は18,体温は36.6度であり,その際,G医師が診察し,包交したところ,特にCの容態に異常は認められなかった。 ⑤ 同日午後10時のCの血圧は134/88,脈拍数は66,呼吸数は18,体温は37.7度であり,浸出はなかったが,体温が高めであったので,クーリングを施行した。 に異常は認められなかった。 ⑤ 同日午後10時のCの血圧は134/88,脈拍数は66,呼吸数は18,体温は37.7度であり,浸出はなかったが,体温が高めであったので,クーリングを施行した。 ⑥ 手術後毎分4リットルの酸素を朝まで投与する旨の指示がなされ,4リットルの酸素投与が7時間なされた。また,同日は,心電図モニターが7時間装着されていたが,その結果は,記録紙に残さなかった。 (6)① 平成5年11月6日午前0時20分のCの血圧は116/88,脈拍数は72,呼吸数は18,体温36.2度であり,正中創ガーゼにコイン大に血液が滲み出している痕があったが,創痛はなかった。 ② 同日午前3時のCの血圧120/80,脈拍数は72,呼吸数は16,体温は37.1度であり,肺雑音,呼吸苦,創痛及び嘔気はなかった。 ③ 同日午前6時30分のCの血圧は130/84,脈拍数は68,呼吸数は16,体温は37.9度であり,正中創ガーゼにコイン大に血液が滲み出している痕があったが,正中創ガーゼの血液の滲みの増量はなく,腹満はなかったが,体温が高めとなったので,再度クーリングを施行した。 ④ 同日午前8時のCの血圧は124/80,脈拍数は72,体温は37.5度であった。 ⑤ 同日午前10時のCの血圧は132/74であった。 ⑥ 同日午前11時25分に採血された血液による動脈血ガス分析の結果はPH7.406,PO2値59.0,PCO2値44.0,O2SAT値94.0(臨床参考域95ないし98)であり,PO2値が臨床参考域(80ないし100)を下回っていたが,G医師は,Cには,動脈血ガス分析検査当時も,検査後も,ともに呼吸困難がなく,チアノーゼも認められず,症状,所見に変化がなかったこと,O2SATの値は正常値であったこと,Cには,術前の検査で,軽度ではあ は,Cには,動脈血ガス分析検査当時も,検査後も,ともに呼吸困難がなく,チアノーゼも認められず,症状,所見に変化がなかったこと,O2SATの値は正常値であったこと,Cには,術前の検査で,軽度ではあるが慢性肺気腫によるものと推測される閉塞性換気障害が認められていたこと,臨床的に,術後には創痛や臥床の継続などで換気不十分となることは珍しくなく,平成5年11月6日の動脈血ガス分析の結果明らかになった低酸素状態は,室内気のもとでの術後第1日目のものとしては,よくみられるものであったことから,特に異常なものとは考えなかったが,これに対しては,酸素投与を続行し,経過を観ることとした。すなわち,同日10時間酸素投与がなされた後,酸素投与が中止されていたが,同日午後5時20分から毎分2リットルの酸素投与を行うよう指示がなされ,同日毎分2リットルの酸素が6時間投与された。 ⑦ 同日午後2時のCの血圧は130/70,体温は38.4度であり,創痛,排ガスはなかった。 ⑧ 同日午後6時のCの血圧は124/72,体温は35.5度であり,呼吸苦,嘔気,排ガスなく,創痛は自制内であったが,正中下部に血性の浸出があり,包交した。 ⑨ 同日午後9時には,浸出はなかった。 ⑩ 同日のCのヘモグロビン(血色素)値は12.1,白血球数は8600,赤血球数は390,血小板数は21.7,血清総タンパク値は5.3であった。 ⑪ 同日午前11時22分,胸部XP検査が行われた。同日は,10時間心電図モニターが装着された後,中止となったが,心電図の結果は記録紙に残さなかった。。 (7)① 平成5年11月7日午前0時,同日午前3時にはCは入眠しており,同日午前6時30分のCの血圧は110/70,体温は36.3度であり,腹満,腹痛及び排ガスはなかった。 ② 同日午前9時30分のCの血圧は1 5年11月7日午前0時,同日午前3時にはCは入眠しており,同日午前6時30分のCの血圧は110/70,体温は36.3度であり,腹満,腹痛及び排ガスはなかった。 ② 同日午前9時30分のCの血圧は120/62であった。この時点で,導尿を終了し,Cは,ポータブルトイレで排尿をするよう指示され,ポータブルトイレに排尿していた。 ③ 同日午後1時のCの血圧は90/60,体温は37.2度であり,腹満,排ガスはなかったが,正中創のガーゼに血液の滲みがあった。その際,Cは,少し前にポータブルトイレのため,ベッドを降りたとき,めまいがして気持ち悪かった,今だんだんと落ち着いてきたと申告したが,創痛は自制内であった。排尿時には,看護婦が介助をした。 ④ 同日午後3時のCの血圧は92/60であった。 ⑤ 同日午後6時のCの血圧は92/54であり,脈拍は104,体温は35.9度であり,めまい,呼吸苦,創痛及び排ガスはなかった。その際,Cは,当日貧血になったとき,黄色っぽいものを少し吐いたと申告したが,その時点で嘔吐はなかった。また,正中創のガーゼ下層に血液の滲みがあった。原告A2は,看護婦に対し,Cの排尿時に手伝って貰いたい旨要望したが,看護婦から,他の患者と同じように手術後3日目からはポータブルトイレで排尿するよう言われた。 ⑥ 同日午後9時のCの血圧は86/50であった。Cは,原告A2に手伝って貰って,ポータブルトイレで排尿しており,Cにめまいはなく,嘔吐もなかった。 ⑦ 前記のとおり,血圧が低下傾向にあったため,看護婦がG医師に指示を仰いだところ,G医師の指示により,同日午後10時15分,Cは心電図モニターを装着した(なお,この際も心電図はモニターで確認していたが,記録紙には残さなかった。)。Cの脈拍は100台で,洞調律であり,心電図検査によれ の指示により,同日午後10時15分,Cは心電図モニターを装着した(なお,この際も心電図はモニターで確認していたが,記録紙には残さなかった。)。Cの脈拍は100台で,洞調律であり,心電図検査によれば,落ち着いている様子なので,様子を見ることとした。前記の血圧の低下は,術後に鎮痛目的で5日間の予定で硬膜外チューブから投与していた中枢性鎮痛剤レペタンの影響と考えられたことから,G医師は,その中止を指示し,硬膜外チューブをクランプした。 ⑧ なお,同日は,酸素投与が24時間なされた。 (8)① 平成5年11月8日午前0時Cは入眠しており,Cの血圧は92/58であった。 ② 同日午前3時Cは入眠しており,Cの血圧は100/66,脈拍は94であった。同日午前4時に一旦目を覚まし,付添の原告A2と一言二言言葉を交わし,再び入眠した。 ③ 同日午前6時のCの血圧は104/70であり,創痛は軽度で,嘔気,呼吸苦,排ガスはいずれもなかった。ドレーン部に淡黄色のもの少量の浸出があった。前日から装着された心電図モニター上は,同日午前7時50分まで異常は認められなかった。また,同日も前日に引き続き酸素投与がなされていた。 (9) 同日午前7時50分ころ,Cは,ポータブルトイレ使用後に立てなくなったため,原告A2が,同日午前7時50分,ナース・コールをし,担当看護婦が駆け付けると,Cはポータブルトイレに座っており,Cの顔面及び口唇は蒼白で,チアノーゼが出現し,問いかけには返答はあったが,やや意識が朦朧とし,呼吸はやや努力様で,Cは,看護婦に対し,「気持ち悪い。息苦しい。トイレは済んだんだけど。」と訴えた。看護婦と付添の原告A2とが,Cをベッドへ移して,臥床させたところ,Cは,「気持ち悪い。昨日より。」と申告し,血圧は100であり,その後,急激にCの意識は低下 。トイレは済んだんだけど。」と訴えた。看護婦と付添の原告A2とが,Cをベッドへ移して,臥床させたところ,Cは,「気持ち悪い。昨日より。」と申告し,血圧は100であり,その後,急激にCの意識は低下し,眼球は一点を凝視し,呼吸も停止し,心停止状態に陥った。被告病院においては,ただちに,医師,看護婦らが,蘇生処置の一環として中心静脈を確保し,そこから急速輸液を行うなど,Cに対し,人工換気,体外心マッサージの他諸々の心肺蘇生を行なったが,蘇生することなく,体の痙攣が生じたりした他,血圧の測定も不可能となり,瞳孔散大が生じ,対光反射がなくなり,心拍もなくなるなどした後,同日午後2時10分Cの死亡が確認された。なお,G医師が到着したのは同日午前8時10分過ぎころである。Cの容態急変後,胸部XP検査が行われたほか,容態の急変から,頭蓋内の病変が生じたことが疑われたため,緊急で頭部のCT検査が行われたが,出血病巣は認められず,脳内出血の可能性は否定された。心肺蘇生後である措置開始後である同日午前11時にドレーンから出血があったが,それまでは出血はなく,心電図モニターは急変前までは異常はなかったが,呼吸停止後には徐脈を呈していた。Cの容態が急変した後に行われた同日午前8時25分時点での動脈血ガス分析の結果によれば,pH値は6.981,PO2値は10.4,PCO2値は92.8,O2SAT値は7.3であり,同日午前9時時点での動脈血ガス分析の結果によれば,pH値は7.090,PO2値は372.7,PCO2値は92.6,O2SAT値は98.6であり,同日午前11時20分時点での動脈血ガス分析の結果によれば,pH値は7.282,PO2値は353.1,PCO2値は52.2,O2SAT値は99.2であり,Cのヘモグロビン値は,急変直後である同日午前8時25分時 20分時点での動脈血ガス分析の結果によれば,pH値は7.282,PO2値は353.1,PCO2値は52.2,O2SAT値は99.2であり,Cのヘモグロビン値は,急変直後である同日午前8時25分時点での1度目の測定値が11.6,2度目の測定値が10.7,3度目が9.7であった。 (10) Cの輸液(点滴)及び胃チューブ,腹部ドレーンなどからの排液量の詳細は別紙「輸液・排液一覧表」記載のとおりである。なお,被告病院においては,輸液については通常当日午前8時から翌日午前8時までの量をいうが,平成5年11月5日は,本件手術終了して帰室した午後5時15分からの計測であり,排液については,通常前日の午後3時から当日の午後3時までの量をいうが,平成5年11月5日は,本件手術が終了して帰室した午後5時15分からの計測である。胃チューブからの排液及び尿は,いずれもビニールパックに貯められるため,量の読取誤差が不可避である。平成5年11月7日午前9時30分以降は,Cは,ポータブルトイレに排尿していた。 (11) G医師は,Cの死亡確認後,原告A2に対し,Cの死因及び死因解明のための解剖の有用性に関し,手術前リスクはなく,手術時も順調であり,手術後2日目までは問題なく推移し,手術後2日目に立ちくらみがあったが,明らかな異常とは判断できず,急変時までは特に異常は認められなかった,急変時の状況からみて,原因疾患としては,脳梗塞が最も考えられ,次に心筋梗塞,肺梗塞の順に考えられるが,確たる証拠はなく,原因を追及するするなら,解剖を勧めるが,それでも100パーセント死因が解明できるとは断言できない,被告病院側としても,患者から教えて貰いたいこともあり,Cの死因について診断を得たいと考えるのならば,解剖する方がよいが,遺族の希望が大事なので,遺族の判断に従 ト死因が解明できるとは断言できない,被告病院側としても,患者から教えて貰いたいこともあり,Cの死因について診断を得たいと考えるのならば,解剖する方がよいが,遺族の希望が大事なので,遺族の判断に従うので,説明に納得できないのであれば,解剖する方がよく,説明を了解してもらえるのであれば,帰宅いただこうと思う旨説明した。 原告A2は,Cの解剖の要否について,原告A1と電話で相談した結果,解剖をする必要はないものと判断し,G医師にその旨回答し,Cの遺体を引き取って被告病院を後にした。G医師は,同日,死亡診断書には,Cの死亡の原因として,直接死因として脳梗塞を,脳梗塞の原因は不詳である旨記載し,カルテの外科病歴総括として,入院中合併症として,脳梗塞又は肺塞栓を記載した。 (12) 原告A1及び同A2は,本件訴訟提起に先立ち,平成6年6月30日,当裁判所に,被告を相手方として,Cの診療録,レントゲン写真,各種検査表,看護記録その他診療上作成された資料の形状,内容の検証を求める証拠保全の申立及び検証物の提示を求める提示命令の申立(当裁判所平成6年(モ)第107号証拠保全申立事件)をし,当裁判所は,平成6年7月11日,被告病院において,Cの診療録,レントゲン写真,各種検査結果票,看護記録その他診療に関し作成された一切の文書又は写真等の記録を検証する旨の証拠保全決定及び相手方は検証物を提示せよとの提示命令を行い,同月21日,被告病院において,前記決定にかかる検証物についての検証が行われたところ,その際,Cの診療においてなされた心電図検査の結果の記録として被告が所持していたのは,Cの外来受診時において行われた際の心電図の記録のみであり,これのみが検証の対象となった。 (13) Cが罹患していた早期胃ガンは,本件手術時点においては,手術をした場合 告が所持していたのは,Cの外来受診時において行われた際の心電図の記録のみであり,これのみが検証の対象となった。 (13) Cが罹患していた早期胃ガンは,本件手術時点においては,手術をした場合の術後の相対5年生存率は統計的に100パーセントであって,良好な予後を期待できるものであったが,放置をすれば,確実に死に至る病であり,Cについては,前記本件手術の医学的適応があった。なお,早期胃ガンの中でも,長径5ミリメートル以下の微少胃ガンのうち病変の範囲が広がりの浅い(概ねガンの深さが粘膜内にとどまっているもの),リンパ節転移のないものについては,内視鏡的粘膜切除術によっても高い治癒率が得られるようになってきているとする医学的知見がある(なお,早期胃ガンにしめる微少胃ガンの発生頻度は,内視鏡の進歩に伴い高まる傾向にあるが,知見が前提とする資料を前提にして,2.4パーセント程度にとどまるものである。)が,前記認定のとおり,Cは,早期胃ガンに罹患していたものであったが,微少胃ガンではなかった。 (14)① 一般に胃ガン摘出術施行後の合併症及び死因としては,肺塞栓,気管支喘息発作,多量出血,術後感染症(敗血症),腸閉塞,虚血性心不全ないし心筋梗塞,頭蓋内血管障害,胸部大動脈瘤破裂による心嚢血腫ないし胸腔内出血,無気肺,嘔吐による気道閉塞などがあげられ,そのうち,肺塞栓が先ずもって考慮されるべき疾病であるが,前記認定の臨床経過等に照らし,Cの死因として,肺塞栓以外の死因の可能性は否定される。 ② 肺塞栓は,静脈系に発生した血栓が遊離し,肺血管床で捕捉され,それが肺のフィルター機能の生理的範疇を逸脱し,種々の症状を呈するに至ったものをいい,本件で問題となるのは,急激な発症・経過を辿る急性肺血栓塞栓症である。血栓の起源はそのほとんどが下肢, 捕捉され,それが肺のフィルター機能の生理的範疇を逸脱し,種々の症状を呈するに至ったものをいい,本件で問題となるのは,急激な発症・経過を辿る急性肺血栓塞栓症である。血栓の起源はそのほとんどが下肢,骨盤腔の深部静脈であり,特に,下肢の深部静脈血栓症の存在は,血栓が肺に至って肺塞栓を起こす危険性が高く,肺塞栓の危険因子として最も可能性が高いものであるが,皮膚に近い静脈にできる血栓あるいは静脈瘤が肺塞栓を引き起こす可能性は極めて低い。静脈血栓の誘発因子としては,(数日以上の)長期臥床,うっ血性心不全,長時間の飛行機搭乗,肥満,妊娠などによる血流停滞,静脈炎,外傷,手術,各種カテーテル検査による静脈壁異常,プロテインC減少症,プロテインS減少症,AT-3減少症,ループアンチコアグラント陽性,外傷,手術,悪性疾患,経口避妊薬,エストロゲン製剤,脱水,多血症,ネフローゼ症候群などによる血液凝固能亢進が挙げられる。急性の肺塞栓は,長期臥床を伴う入院中の患者に発症することが多く,手術,血管カテーテル検査などの観血的処置後の症例の割合が高く,たとえば,手術後初めての歩行練習,とりわけ排尿・排便動作など体を動かすときに起きる場合があり,肥満,高齢者,ガン患者,腹腔鏡手術患者について,危険性があるとされる。術後に肺塞栓を起こす危険因子としては,前記の深部静脈血栓症以外に,ガン,肥満,長期間(数日以上)動かない状態,ホルモン療法,ループアンチコアグラントの存在,遺伝性凝固異常疾患などがあるが,Cについて,これらの危険因子に当てはまるものは認められない。 なお,Cは,ガンに罹患していたが,本件のように極めて早期の胃ガンの場合に肺塞栓が術後に発症することの危険性が特に高くなることを示す判断材料はなく,また,そのためにことさらに予防処置を講ずることは一般にはな ,ガンに罹患していたが,本件のように極めて早期の胃ガンの場合に肺塞栓が術後に発症することの危険性が特に高くなることを示す判断材料はなく,また,そのためにことさらに予防処置を講ずることは一般にはない。手術後の患者が肺塞栓を発症する機序は,概ね,術前後の安静によって形成された下肢の静脈中の血栓が,体動などの何等かのきっかけによって剥がれて遊離し,静脈血の流れに乗って,大腿静脈ついで下大静脈から右心系を通過して最初の細くなる血管である肺動脈に達して詰まるというものであり,肺で酸素の供給を受ける肺動脈が詰まることによって肺内の血液循環が疎外され,急激に低酸素となり,呼吸不全の状態に陥り,動脈中の酸素分圧が低くなるのみならず,それを補うために過換気となり,動脈中の炭酸ガス分圧が低下して,呼吸アルカローシスとなるのが特徴であり,急激に右心系に負担がかかり心電図で特徴的な右心負荷所見が現れるのが特徴である。急性の肺塞栓の問題点として,この疾患が肺梗塞,急性肺性心,説明不能の呼吸困難というような非特異的臨床像を呈することから,診断が容易ではなく,これに由来して死亡率が高くなる危険性が指摘されている。また,肺塞栓の原因疾患となる深部静脈血栓症についても,腫脹を起こしたそれを別にして,臨床的にサイレントな深部静脈血栓症の診断は必ずしも容易ではなく,サイレントなものほど急性肺塞栓を起こす頻度が高いとする医学的知見もある。なお,表在静脈瘤の存在と深部静脈血栓症の存在との間には医学的に有意な関連性はない。急性の致死性肺塞栓(肺塞栓の発症即死亡する症例及び発症とともに循環虚脱・意識不明となりそのまま数日間生存するが回復の兆しを認めず死亡する症例)は,発症から診断までの時間が十分与えられず,そのため多くは診断名不明のまま剖検で初めて発見されることが多く,その に循環虚脱・意識不明となりそのまま数日間生存するが回復の兆しを認めず死亡する症例)は,発症から診断までの時間が十分与えられず,そのため多くは診断名不明のまま剖検で初めて発見されることが多く,その発症率は,我が国においては,確たる統計的資料がなく,医学的知見によれば,欧米より低い頻度の発症率とされてきたが,最近では,増加傾向がある,あるいは,欧米に近い割合で発症する可能性が高いとされるようになってきている。肺塞栓の診断の方法は,臨床症状,所見,血液生化学・凝血学的検査,動脈血ガス分析,胸部X線,心電図,肺シンチグラム,心エコー,下肢静脈エコー,造影CT,MRA,肺動脈造影などを利用することが挙げられるが,急性肺塞栓については,狭心症,心筋梗塞,うっ血性心不全,肺炎,気管支喘息,胸膜炎,神経症との鑑別が重要であり,肺塞栓の発症を疑わなければ,極めて診断が難しい疾患とされる。 ③ 肺塞栓に有効な治療法としては,酸素吸入,昇圧薬,鎮静薬等によって,対症的に低酸素血症,ショック,胸痛などを治療するとともに,抗凝固療法(例:ヘパリン5000単位を静注で与え,その後1日量1万ないし2万単位を3日間ないし7日間持続点滴で与え,その後,ワーファリンに切り替える。),血栓溶解療法(例:ウロキナーゼを1日量体重1キログラムあたり1万単位を5日間ないし7日間持続点滴静注する。他に,t-PA静注法,カテーテル吸引法などがある。)を行うことが挙げられ,急性肺塞栓であっても,早期診断・血栓溶解療法等による早期治療がなされた場合には,数多くの改善例が示されているが,ウロキナーゼは肺塞栓について保険適用が認められていないから,第1義的には,ヘパリンの投与を優先するものとされる。ただ,ヘパリンは血液凝固阻止剤,ウロキナーゼは血栓溶解剤であって,いずれも出血し ,ウロキナーゼは肺塞栓について保険適用が認められていないから,第1義的には,ヘパリンの投与を優先するものとされる。ただ,ヘパリンは血液凝固阻止剤,ウロキナーゼは血栓溶解剤であって,いずれも出血している患者,手術後の患者など出血する可能性のある患者に対しては,禁忌あるいは慎重投与とされている。また,深部静脈血栓症が診断された場合には,下大静脈フィルターを留置して,血栓が肺へ飛ぶことを予め防止する方法もある。心肺停止あるいはそれに近い重症の肺塞栓については,抗凝固療法,血栓溶解療法のみでは,救命効果を期待できない場合が多く,出血などの血栓溶解療法の副作用の問題がありこれが禁忌なものについては,直ちに救命措置を施す必要があるとともに,肺動脈血栓摘除術の医学的適応が認められる場合もあるが,心肺停止があった場合には,無かった場合に比べ,致死率は高率となり,診断即手術を行う以外方法はないとする医学的知見もある。したがって,特に致死性急性肺塞栓の発症の防止においては,血栓の発生の予防が重要である。 手術後の肺塞栓の予防法としては,手術後比較的早い時期に排尿などでベッドで降りるように指導する,手術後なるべく早く歩行練習をするなど早期リハビリをする,手術中や手術後に足のマッサージ機を使用する,入院中の頻回の体位変換,受動的及び他動的な下肢の運動,弾力包帯ストッキングの着用により,下腿の静脈血流をよくして血栓を押さえる,危険性が高いグループについて下肢を一定時間毎に縛って血流のうっ滞を防ぐ,手術前に安静を避ける,極端な肥満など危険の高い患者については予め薬剤で血栓を防ぐ,すなわち,低用量ヘパリン療法(5000単位のヘパリンを8時間毎あるいは12時間毎に皮下注射する。),低用量ワーファリン療法(1日1ないし2ミリグラムのワーファリンを内服で与える。)な で血栓を防ぐ,すなわち,低用量ヘパリン療法(5000単位のヘパリンを8時間毎あるいは12時間毎に皮下注射する。),低用量ワーファリン療法(1日1ないし2ミリグラムのワーファリンを内服で与える。)などの方法を行うことが挙げられ,特に,深部静脈血栓症の予防が重要である。平成12年9月30日に公刊された医学文献(甲24)に記載された医学的知見において,1996年に公刊された欧米の文献を引用して,急性肺塞栓・致死性急性肺塞栓の発症頻度が高いことが知られる欧米では,静脈血栓塞栓症のリスク分類と推奨される予防法に関するマニュアルが示され,これによれば,40歳を超える患者の一般手術は,致死的肺塞栓が0.2ないし0.5パーセントで発症する危険性のある中等度リスクの血栓症イベントに分類され,予防法として,低用量ヘパリン(1日2回5000U)又はエアー式間欠的圧迫法が挙げられていることが紹介され,我が国においても,日本人の血液凝固性に配慮した予防マニュアルの構築が必要と考えられると指摘され,臨床現場で,患者に対する早期離床の目的の十分な説明,ベッド上での下肢の運動の奨励,自発運動ができるまでの看護婦による腓腹部の定期的なマッサージの励行,凝固異常症に対する1日2回の3000ないし4000単位程度のヘパリンの皮下注射の実施が行われている実例が紹介されている。これらの予防法は近年では一般的となりつつあるが,平成5年当時においては,術後の肺梗塞の発症の危険性が高いと思われる症例について,術後の早期にヘパリンを1日量として3000単位から5000単位持続注入することで新たな血栓の形成を予防することが行われていたものの,危険性が必ずしも高くない症例については,余り行われていなかった。 ④ 平成11年ころから,マスコミなどにおいて,手術後の突然死として,肺塞 で新たな血栓の形成を予防することが行われていたものの,危険性が必ずしも高くない症例については,余り行われていなかった。 ④ 平成11年ころから,マスコミなどにおいて,手術後の突然死として,肺塞栓が原因となった可能性がある事例が紹介されるようになり,血栓の予防薬(ウロキナーゼ)について保険の適用が認められていないことなどにより,医療側に予防意識が低い傾向にあるが,認識を改める必要がある旨指摘されるようになってきている。 (15) PO2の値は,一般的に年齢とともに低下するものといわれ,(100-0.4×年齢)がその通常値を示すとする医学的知見もあり,これによれば,Cの年齢の患者のPO2の通常値は100-0.4×58=76.8となり,PO2=102-0.33×年齢±+3.3が正常値の平均値となるという医学的知見もあり,これによれば,Cの年齢の患者PO2値は102-0.33×58±+3.3=86. 16~79.56となる。低酸素血症の原因疾患としては,別紙「低PO2を起こす疾患」と題する書面記載のごとき疾患が挙げられるが,手術後に認められる低酸素血症を術後低酸素血症といい,その原因には,麻酔によるもの,手術に関したものがあり,手術後の疼痛もその原因の一つであり,術後の疼痛には早期に十分に対応し,低酸素血症が生じたのであれば,酸素吸入を行い,動脈血ガス分析を行い,適正な酸素分圧が保たれるまで動脈血ガス分析値を参考にして吸入酸素濃度調節すべきものとされる。平成5年11月6日に施行された動脈血ガス分析の結果明らかになったPO2値の59.0という値は,低めではあるが,手術翌日の値としては,異常ではないものの,本件の場合も酸素投与を行い吸気酸素濃度を上げることで動脈中酸素分圧を一定以上に保ち,手術後のPO2値としては,少なくとも60以上を保つ は,低めではあるが,手術翌日の値としては,異常ではないものの,本件の場合も酸素投与を行い吸気酸素濃度を上げることで動脈中酸素分圧を一定以上に保ち,手術後のPO2値としては,少なくとも60以上を保つ必要があり,適正な酸素分圧が保たれるまで動脈血ガス分析を参考にして吸入酸素濃度を調節する必要があるが,その後毎分2リットルの酸素が投与されていたのであれば,致命的なことは起こりえないものである。 2 争点(1)(Cの死因)について(1) 前記第3の1(14)①認定のとおり,Cの死因として,肺塞栓以外の死因の可能性は否定されること,肺塞栓は,術後の急性死亡の原因として先ず考慮すべき疾患であること,前記第3の1(14)②認定のとおり,急性の肺塞栓は,術後の安静後に排尿動作などで初めて体を動かすときに発症する割合が高いことが知られており,Cが手術後3日目である平成5年11月8日の午前7時50分に排尿動作を行った後に容態が急変した臨床経過は,これに整合することからすると,Cの死因は,急性の肺塞栓によるものと認めるのが相当である。そして,術後の肺塞栓においては,動き始めに血栓が飛ぶのが通常であることからすると,その発症時期は,ポータブルトイレで排尿をすませた際にチアノーゼが生じ,Cの容態が急変した平成5年11月8日午前7時50分と認めるのが相当であって,それ以前に,肺塞栓が発症したことを認めるに足りる確たる証拠はない。 (2) なお,鑑定人Iの鑑定結果は,Cの死因が急性肺塞栓であるとすれば,その急激な経過からいってかなりの広い範囲か太い血管が詰まったと考えられるため,動脈中の酸素分圧のみならず炭酸ガス分圧が低下する,右心系に負担がかかり心電図で特徴的な右心負荷所見が現れるなどの肺塞栓に特徴的な所見が必ず現れるといってよいが,それを指示する所見は認め れるため,動脈中の酸素分圧のみならず炭酸ガス分圧が低下する,右心系に負担がかかり心電図で特徴的な右心負荷所見が現れるなどの肺塞栓に特徴的な所見が必ず現れるといってよいが,それを指示する所見は認められないこと,肺塞栓を起こす危険因子がいずれも認められないことから,肺塞栓を死因として特定することはできないとするが,前記認定のとおり,肺塞栓以外の他の死因の可能性が否定されていること,急性の肺塞栓は,術後の安静後に排尿動作などで初めて体を動かすときに発症する割合が高いことが知られており,Cが手術後3日目である平成5年11月8日の午前7時50分に排尿動作を行った後に容態が急変した臨床経過は,これに整合すること,急性の肺塞栓の鑑別診断は,必ずしも容易ではなく,急性の致死性肺塞栓は,臨床経過によっては,診断名不明のまま,剖検によって初めて発見されることが多いことなどからすると,Cの死因を不明とするのは相当ではなく,訴訟上の事実認定としては,前記のとおり,Cの死因は急性の肺塞栓によるものと特定するのが相当である。 3 争点(2)(Cの死亡についての被告の責任の有無)について(1)① 前記第3の1において認定したCの年齢,体格,罹患していた疾病,臨床経過等に照らせば,Cについて,前記第3の1(14)②記載の術後に肺塞栓,ないし,深部静脈血栓症を引き起こす危険因子があったものとは認められないから,具体的に肺塞栓の発症の予見可能性があったものとは言い難く,前記第3の1(14)③認定のとおり,かかる危険因子が認められない患者について,前記第3の1(14)③認定の術後の肺塞栓の発症の予防法を行うことは,平成5年当時において一般的に行われていた医療措置とは言い難かったものであり,被告において,Cについて,急性肺塞栓の発症を疑い,前記第3の1(14)③認定 の術後の肺塞栓の発症の予防法を行うことは,平成5年当時において一般的に行われていた医療措置とは言い難かったものであり,被告において,Cについて,急性肺塞栓の発症を疑い,前記第3の1(14)③認定の術後の肺塞栓の発症の予防法を行うべき債務ないし義務が課されていたものと認めることはできない。 ② Cが本件手術を受けた平成5年当時においても,術後の肺梗塞の発症の危険性が高いと思われる症例では,術後の早期にヘパリンを1日量として3000単位から5000単位持続注入することで新たな血栓の形成を予防することは行われており,仮にこれが行われておれば,血栓の発生が予防され,Cについて,急性肺塞栓の発症を防止できた可能性は否定できない。 そして,平成5年当時においても,術後の肺塞栓による突然死の問題は医学的知見として知られていたこと,本件手術で治療の対象となったCの疾患については良好な予後が期待できたことも踏まえれば,予想もしなかった容態の急変によりCを失った原告らが,地域の基幹病院である被告病院におけるCの救命の可能性を指摘する問題意識は理解できないではない。 前記第3の1(14)④認定のとおり,近時マスコミなどにおいて,手術後の突然死の原因疾患としての肺塞栓の問題が取り上げられているのも,同様の問題意識を背景とするものといえ,かかる問題意識を背景に,医療現場においても,手術後の肺塞栓の発症の予防に関する医療措置が手厚くなりつつあることが認められる。しかしながら,術後の肺塞栓,ないし,深部静脈血栓症の危険因子が認められない患者について,術後の肺塞栓の発症の予防法を行うことは,平成5年当時において一般的に行われていた医療措置とは言い難かったものである。 ③ 原告らの主張には,被告が,手術後3日目から,Cに対し,ポータブルトイレでの排尿を指示したことを論 防法を行うことは,平成5年当時において一般的に行われていた医療措置とは言い難かったものである。 ③ 原告らの主張には,被告が,手術後3日目から,Cに対し,ポータブルトイレでの排尿を指示したことを論難する部分もあるが,前記第3の1(14)③認定のとおり,術後早期に体を動かすことは,肺塞栓の原因となる血栓の発生を予防するという医学的側面があるものである。 ④ 原告らは,平成5年11月7日には,Cは,めまい,吐き気を訴えていたほか,顕著な血圧低下がみられていたのに,適切な対応をとらなかった旨主張するが,同日Cに認められためまい,ふらつき感,吐き気,血圧低下はレペタンの副作用と認められるところ,前記認定のとおり,同日午後10時15分,G医師が,看護婦からの報告を受け,臨床経過を確認した上で,レペタンの投与の中止の措置をとっており,適切な対応をとっていなかったとする指摘は当たらないものである。 (2) 前記第3の1(9)認定の急変後の心肺停止を伴う臨床経過に照らせば,Cが発症した急性肺塞栓は,かなり重症で大きな梗塞であったことはあきらかであり,抗凝固療法,血栓溶解療法のみでは,救命効果を期待できないこと,手術後3日目ということもあり,出血などの副作用の懸念からこれらの治療法が適切でない可能性も否定できないこと,本件の臨床経過からは,肺梗塞との確定診断が極めて困難であったこと(このことは,本件でCの死因が主たる争点となり,2度にわたり医師による鑑定がなされているにもかかわらず,死因を断定する鑑定結果がないことからも明らかである。),心肺停止を伴う急性肺塞栓については致死率が高いとされていることからすると,Cが発症した急性肺塞栓は極めて致死率の高いものであり,救命可能性は無かったものと認めるのが相当である。 (3) 原告らは,平成5年11月6日に行 栓については致死率が高いとされていることからすると,Cが発症した急性肺塞栓は極めて致死率の高いものであり,救命可能性は無かったものと認めるのが相当である。 (3) 原告らは,平成5年11月6日に行われた動脈血ガス分析の結果明らかとなったPO2値の低値に示される低酸素血症について,動脈血ガス分析を繰り返す,パルスオキシメーターを装着する等の方法によって,低酸素血症の原因究明,迅速な対応を怠ったことにより,Cは肺塞栓に陥った旨主張するところ,Cには,動脈血ガス分析検査当時も,検査後も,ともに呼吸困難がなく,チアノーゼも認められず,症状,所見に変化がなかったこと,O2SATの値は正常値であったこと,Cには,術前の検査で,軽度ではあるが慢性肺気腫によるものと推測される閉塞性換気障害が認められていたこと,臨床的に,術後には創痛や臥床の継続などで換気不十分となることは珍しくなく,平成5年11月6日の動脈血ガス分析の結果明らかになった低酸素状態は,室内気のもとでの術後第1日目のものとしては,よくみられるものであることからすると,低酸素状態の原因は,閉塞性換気障害及び術後の換気不十分によるものと認めるのが相当であり,そのように判断したG医師が原因究明を怠ったものとは言い難いし,前記第3の1(6)⑥,(7)⑧,(8)③認定のとおり,その後,Cに対し,継続的に酸素投与がなされていたことからすると,仮にその後の動脈血ガス分析の実施によって,酸素分圧の改善が確認されなかったとしても,前記第3の1(15)認定のとおり,致命的なことは起こりえないものである。そして,平成5年11月6日時点の動脈血ガス分析の結果から,その時点で血栓が生じていた,あるいは,肺塞栓が生じていたものと判断する医学的根拠はない。 4 争点(3)(説明義務違反ないし死因解明義務違反の有無) 年11月6日時点の動脈血ガス分析の結果から,その時点で血栓が生じていた,あるいは,肺塞栓が生じていたものと判断する医学的根拠はない。 4 争点(3)(説明義務違反ないし死因解明義務違反の有無)について(1) 説明義務違反についてCが罹患していた疾患の内容,これに対してなされた本件手術の内容,本件手術に先立ってCに対してなされた本件手術に関する説明の内容,Cがなした本件手術に関する同意の内容,本件手術後に本件手術の結果についてなされた説明の内容は,前記第2の1(8),前記第3(2)②及び④,同(3)⑤及び⑦,同(4)記載のとおりであって,Cは,罹患している疾病の内容,本件手術に関する十分な説明の下に,本件手術について同意をなしたものと認めるのが相当であり,本件手術の主眼がガンの切除にあることからすると,手術前の諸検査によって判明せず,手術後の開腹所見によって初めて明らかとなった胆嚢底部の硬結について,胆嚢摘出術を併せて施行したことは,Cの合理的意思に合致し,本件手術に関する同意の範囲内に属するものであるとともに,医師の合理的な裁量の範囲内の行為と認めるのが相当である。確かに,本件手術前に,前記第3の1(14)①認定の疾病が胃ガン摘出術施行後の合併症及び死因として挙げられることが説明されたことを認めるに足りる証拠はないが,Cの罹患していた疾病の内容・程度からすれば,その説明がなされたからといって,Cが本件手術に同意をしなかったものと認めるのは困難である。 (2) 死因解明義務違反についてCが死因解明のための解剖がなされることなく荼毘に付された経過は,前記第3の1(11)認定のとおりであり,G医師からの死因を解明する方法として解剖をする方法があるとの示唆に対し,原告らが,Cの解剖の要否について,原告A2及び原告A1が相談し 毘に付された経過は,前記第3の1(11)認定のとおりであり,G医師からの死因を解明する方法として解剖をする方法があるとの示唆に対し,原告らが,Cの解剖の要否について,原告A2及び原告A1が相談した上で,解剖を希望しない旨回答した結果,Cの解剖がなされなかったことは明らかであって,このように原告ら自身の判断の結果について,被告を論難するのは当を得ないものである。 5 なお,原告らは,心電図データについて,文書提出命令の申立(平成9年(モ)第74号)を行っているが,前記認定のとおり,被告病院においては,平成5年10月18日以外に行われた心電図検査の結果は,記録紙には残さなかったものと認められ,文書提出命令にかかる書証が存在しないことは明らかであるから,これを却下することとする。 6 よって,その余について判断するまでもなく,原告らの請求には理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 宇都宮地方裁判所足利支部裁判官藤井聖悟
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