令和2(ワ)2426 不当利得返還請求事件

裁判年月日・裁判所
令和3年12月8日 東京地方裁判所
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判決文本文24,599 文字)

1 令和3年12月8日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 令和2年(ワ)第2426号 不当利得返還請求事件 口頭弁論終結日 令和3年12月3日 判 決 原 告 A 5 同訴訟代理人弁護士 横 山 康 博 岩 﨑 泰 一 平 村 樹 志 雄 横 山 丈 太 郎 被 告 本田技研工業株式会社 10 同訴訟代理人弁護士 前 田 哲 男 中 川 達 也 福 田 祐 実 主 文 1 原告の請求を棄却する。 15 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は,原告に対し,200万円及びこれに対する令和2年2月29日から 支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 20 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は,別紙1原告著作物目録記載の書籍(以下「原告書籍」という。)の著 作者である原告が,被告によって平成11年3月25日に発行された「語り継 ぎたいこと チャレンジの50年」と題する被告の社史(以下「被告社史」と 25 いう。)は原告書籍を無断で翻案したものであり,被告は翻案を許諾することの 2 対価相当額200万円の支払を免れたとして,被告に対し,不当利得返還請求 権に基づき,200万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和2年 2月29日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定 の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲の証拠(以下,書証番号は 5 特記しない限り枝番号を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1) 当事者 支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲の証拠(以下,書証番号は 5 特記しない限り枝番号を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1) 当事者 ア 原告は,翻訳家,フリーライターである(甲2)。 イ 被告は,自動車等の製造,販売等を目的とする株式会社である(甲1, 弁論の全趣旨)。 10 (2) 被告による二輪レースへの参加状況 被告は,昭和34年(1959年)から二輪世界GPに参加し,8年目の 昭和41年(1966年)に5クラス完全制覇を遂げ,それを機に当該レー スから撤退した。 被告は,昭和54年(1979年)から二輪世界選手権500ccクラス 15 に再挑戦し,この過程で楕円ピストン(ないし長円形ピストン)エンジンの 開発に成功し,昭和57年(1982年)には再び世界GPで優勝した(甲 1,2。以下,この一連の再挑戦の過程を「二輪世界選手権への再挑戦」と いうことがある。)。 (3) 原告と被告との関係等 20 原告は,少なくとも昭和62年11月から平成20年12月までの間,二 輪レース活動を行う被告の関連会社である株式会社ホンダ・レーシングと契 約を結び,コーディネーター,外国人レーサーの通訳として活動した。また, 原告は,少なくとも平成17年4月から平成20年12月までの間,被告の 広報部とも契約を結び,コーディネーターとして活動した。 25 (4) 原告書籍 3 原告は,被告の二輪世界選手権への再挑戦について,被告の関係者等に取 材した実話に基づいて原告書籍を執筆し,原告書籍は昭和63年10月31 日頃に出版された。原告書籍は言語の著作物に該当し,原告はその著作者と して著作権を有している(甲2,弁論の全趣旨)。 原告書籍には,別紙2記述対比表の「原告書籍」の「ページ」欄 昭和63年10月31 日頃に出版された。原告書籍は言語の著作物に該当し,原告はその著作者と して著作権を有している(甲2,弁論の全趣旨)。 原告書籍には,別紙2記述対比表の「原告書籍」の「ページ」欄記載の頁 5 に,同「記述内容」欄記載の記述がある(甲2。以下,同別紙における「原 告書籍」の「記述内容」欄の各記述を,それぞれ同別紙の「番号」欄の番号 及び「原告書籍」の「ページ」欄の枝番号に従って「原告書籍の番号1の記 述」,「原告書籍の番号3-1の記述」等という。)。 (5) 被告社史の編纂事業 10 被告は,平成10年9月に創業50年を迎えるに当たり,社史の発行を企 画した。 この社史発行については,被告の広報部が編集を担当することとなり,1 7名の社員に社外からの3名を加えた20名のスタッフからなる社史編纂委 員会が組織されて,平成9年初め頃から活動を開始し,平成11年3月25 15 日に被告社史(総頁数352頁)が発行された。 被告社史においては,前記(2)の昭和54年(1979年)からの被告の二 輪レースへの参加が,「レースへのあくなき情熱」と題する章の「二輪世界G P参戦 再び世界の頂点を目指して」と題する項(被告社史の266頁から 273頁まで。以下,この部分を「本件社史部分」という。)で扱われており, 20 本件社史部分には,別紙2記述対比表の「被告社史(本件社史部分)」の「ペ ージ」欄記載の頁に,同「記述内容」欄記載の記述がある(甲1,乙12。 以下,同別紙における「被告社史(本件社史部分)」の「記述内容」欄の各記 述を,それぞれ同別紙の「番号」欄の番号に従って「本件社史部分の番号1 の記述」等という。また,同別紙中の原告書籍の記述とこれに対応する本件 25 社史部分の記述とを併せて,同別紙の「番号」欄の番号に従って「番号1の 4 」欄の番号に従って「本件社史部分の番号1 の記述」等という。また,同別紙中の原告書籍の記述とこれに対応する本件 25 社史部分の記述とを併せて,同別紙の「番号」欄の番号に従って「番号1の 4 各記述」等という。)。 3 争点 (1) 本件社史部分の翻案該当性(争点1) (2) 被告の不当利得の有無及び利得額(争点2) 4 争点に関する当事者の主張 5 (1) 争点1(本件社史部分の翻案該当性)について (原告の主張) ア 本件社史部分が原告書籍を翻案したものに該当すること (ア) 本件社史部分は,原告書籍に依拠し,その表現上の同一性を維持しつ つ,原告書籍の具体的表現を修正,増減,変更したものであり,原告書 10 籍を翻案したものである。 (イ) 原告書籍と本件社史部分との間における具体的な表現の同一性及び依 拠性についての主張は,別紙2記述対比表の「原告の主張」欄記載のと おりである。 (ウ) 別紙3構成の類似性(原告の主張)記載のとおり,本件社史部分は記 15 述内容の全体的な流れと取り上げたテーマにおいても原告書籍と類似性 が強い。このような全体の構成の類似性は,本件社史部分が原告書籍に 依拠して作成されたことを示す間接事実である。 イ 被告の主張への反論 (ア) 表現の同一性について 20 a 被告は,原告書籍と本件社史部分は,記述された事実のみが同一で あると主張するが,事実のみの同一性などということは実際にはあり 得ず,両者は,事実をどのように表現しているかについても同一性が ある。 b 被告は,原告書籍及び被告社史がいずれも事実を伝える文章であっ 25 て,文章表現自体における工夫の余地は少ないと主張する。 5 しかしながら,原告書籍及び被告社史は,いずれも,単に事実を羅 列したものではなく,被告が二輪レー れも事実を伝える文章であっ 25 て,文章表現自体における工夫の余地は少ないと主張する。 5 しかしながら,原告書籍及び被告社史は,いずれも,単に事実を羅 列したものではなく,被告が二輪レースに再挑戦したこと,新しいエ ンジンを開発したこと,世界GPで優勝したことなどの大きな事実の ほかに,余人の知らない様々な苦労話や隠れたエピソードなどの細か な事実,ほとんど知られていなかった事実も含んでいるから,そのよ 5 うな事実を表現するに当たっては,表現自体における工夫の余地が少 ないとはいい難い。 また,本件社史部分は,原告書籍の表現を並べ替えたり,言い換え たりしただけのものであって,原告書籍の表現上の本質的な特徴を直 接に想起させるものとなっている。 10 c 被告は,別紙2記述対比表には,原告書籍の複数の箇所に分散する 記述を一つにまとめた上で,被告社史の特定の箇所と比較している部 分(番号3の各記述等)があり,比較の方法として不適当であると主 張する。 しかしながら,原著作物の複数個所をつまみあげて類似表現として 15 使用するという翻案の手法もあり得るから,原告の上記の比較方法が 不適当とはいえない。 (イ) 原告書籍への依拠について a 原告書籍は実話に基づく執筆であるが,前記(ア)bのとおり,大きな 事実もあれば,細かな事実,ほとんど知られていなかった事実も含ま 20 れているのであり,実話であるからといって,その全体が一般的に知 られている訳ではない。 原告や原告の取材対象者以外にも原告書籍に記された事実を知って いる者が存在する可能性はあるが,上記のとおり,原告書籍には大小 様々な事実が描かれており,実話に基づいて執筆されたものゆえ内容 25 が知られているとの被告の指摘は,可能性を指摘するにすぎない。 6 そして,被告 はあるが,上記のとおり,原告書籍には大小 様々な事実が描かれており,実話に基づいて執筆されたものゆえ内容 25 が知られているとの被告の指摘は,可能性を指摘するにすぎない。 6 そして,被告社史に原告書籍と共通の事実が含まれていることは, 依拠性を裏付けるための重要な要素となり,共通の事実が原告書籍以 外にはほとんど語られてこなかったエピソードや秘密事項であるとき は,その事実についての表現も原告書籍に依拠したものである蓋然性 が大きくなる。 5 b 被告は,社史編纂委員会の担当者は本件社史部分を作成するに当た って独自に取材をしたと主張するが,被告が提出する取材時の録音デ ータや関係者の陳述書を見ても,原告が翻案権侵害を主張する内容に ついて,上記担当者が自らの取材によって情報を得たという事実はう かがわれないから,上記担当者は,独自の取材を行うことなく,原告 10 書籍に完全に依拠して,本件社史部分を作成したものといえる。 (被告の主張) ア 本件社史部分が原告書籍を翻案したものに該当しないこと 原告書籍と本件社史部分との間において,具体的な表現の同一性及び依 拠性がいずれも認められないことは,別紙2記述対比表の「被告の主張」 15 欄記載のとおりである。 イ 表現の同一性について (ア) 原告は,別紙2記述対比表の各所において,翻案権侵害といい得る程 度に原告の著作物との同一性がある旨の主張をするが,その大半は,記 述されている事実が同一であることを根拠とするものである。 20 しかしながら,既存の著作物に依拠して創作された著作物であっても, 思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でな い部分又は表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を 有するにすぎない場合には既存の著作物の翻案には当たらないから,事 , 思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でな い部分又は表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を 有するにすぎない場合には既存の著作物の翻案には当たらないから,事 実の同一性をもって翻案に該当する旨の原告の主張は失当である。 25 (イ) 仮に,局所的に見た場合には一部について創作性のある表現が同一と 7 いえる箇所があるとしても,原告書籍及び被告社史のいずれも事実を伝 える文章であって,文章表現自体における工夫の余地は少ない上,共に 被告の二輪世界選手権への再挑戦及びそのための二輪車の開発の歴史を 紹介するものであって,記述対象とする事実が同一であることから,具 体的表現の選択の幅が限定され,ある程度表現が似通う現象が生じるの 5 はむしろ自然である。また,そのような事情の下で,原告書籍は316 頁の書籍であり(字数に換算すると20万字程度である),被告社史のう ち本件社史部分は8頁(字数に換算すると1万5000字程度である) であるところ,そのうちで創作性のある表現が同一である箇所は,仮に 存在するとしてもごくわずかな部分でしかない。これらによれば,被告 10 社史に接した者が原告書籍の表現上の本質的特徴を直接感得することは できないというべきである。 (ウ) 原告は,別紙2記述対比表の一部(番号3の各記述等)において,原 告書籍の複数の箇所に分散する記述を一つにまとめた上で,本件社史部 分の特定の箇所と同一性を有すると主張する。 15 しかしながら,原告が指摘する原告書籍中の上記複数の箇所の記述の 間には異なる内容及び表現が挟まっているにもかかわらず,これらを捨 象してあたかも1箇所の記述であるかのようにして,本件社史部分の特 定の箇所と対比することは,比較対象の設定を誤っているというほかな く,対比の方法とし 及び表現が挟まっているにもかかわらず,これらを捨 象してあたかも1箇所の記述であるかのようにして,本件社史部分の特 定の箇所と対比することは,比較対象の設定を誤っているというほかな く,対比の方法として不適当である。 20 ウ 原告書籍への依拠について (ア) 原告書籍と共通する事実が本件社史部分に掲載されている箇所に関し, 原告は,あたかも社史編纂委員会の担当者が原告書籍によって初めて当 該事実を知ったかのように主張する。 しかしながら,原告書籍は,被告に係る実話(被告の二輪レース参戦 25 及びそのための二輪車開発の歴史)に基づいて執筆されたものであり, 8 当然ながら,その内容は,原告や原告の取材に応じた被告関係者だけが 知るものでもない。また,被告の二輪世界選手権への再挑戦を扱った書 籍は,原告書籍に限られない。被告の二輪世界選手権への再挑戦に係る 事実は,被告の歴史における重要な挑戦の一事例に関するものであって, 被告の社内で伝承されている。 5 (イ) さらに,被告の社史編纂委員会は,被告社史を制作するに当たっては, 改めて関係者に取材をしており,これは,当時の取材の録音データが一 部残っていることなどからも明らかである。 (ウ) そもそも,複製及び翻案において,依拠の対象となるのは,アイデア や事実ではなく,創作的な表現でなければならない。仮に,被告社史の 10 編纂事業に関わった担当者が原告書籍を通じて知った事実があったとし ても,当該事実自体は依拠の対象ではないから,依拠を裏付けることに はならない。 (2) 争点2(被告の不当利得の有無及び利得額)について (原告の主張) 15 被告は,対価を支払うことなく原告書籍を原告に無断で翻案して本件社史 部分を作成したことにより,本来,原告に支払うべき翻案の許諾の対価の支 払を免れ 有無及び利得額)について (原告の主張) 15 被告は,対価を支払うことなく原告書籍を原告に無断で翻案して本件社史 部分を作成したことにより,本来,原告に支払うべき翻案の許諾の対価の支 払を免れ,他方で,原告は,被告から支払われるべき翻案の許諾の対価を得 ることができなかった。 被告から原告に対して支払われるべき翻案の許諾の対価は200万円を下 20 らないので,被告は原告に対して同額の不当利得返還義務を負う。 (被告の主張) 被告が,被告社史の作成に関して,原告に翻案の許諾の対価の支払を行っ ていないことは認めるが,その余の主張は争う。 第3 当裁判所の判断 25 1 争点1(本件社史部分の翻案該当性)について 9 (1) 言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,か つ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正, 増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより, これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得すること のできる別の著作物を創作する行為をいう。そして,著作権法は,思想又は 5 感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号参照),既 存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア, 事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部 分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案には 当たらないと解するのが相当である(最高裁平成11年(受)第922号同 10 13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁)。 そうすると,本件社史部分が原告書籍を翻案したものに当たるというため には,原告書籍と本件社史部分とが,創作的表現において同一性を有するこ とが必要であるものと解 法廷判決・民集55巻4号837頁)。 そうすると,本件社史部分が原告書籍を翻案したものに当たるというため には,原告書籍と本件社史部分とが,創作的表現において同一性を有するこ とが必要であるものと解される。 したがって,原告書籍と本件社史部分との間で,事実など表現それ自体で 15 ない部分でのみ同一性が認められる場合には,本件社史部分は原告書籍を翻 案したものに当たらない。 また,原告書籍と本件社史部分との間に,表現において同一性が認められ る場合であっても,同一性を有する表現がありふれたものである場合には, その表現に創作性が認められず,本件社史部分は原告書籍を翻案したものに 20 当たらないと解すべきである。すなわち,著作者等の権利の保護を図り,も って文化の発展に寄与するという著作権法の目的(同法1条)に照らせば, 著作物に作成者の何らかの個性が現れており,その権利を保護する必要性が あるといえる場合には,上記の創作性が肯定され得るが,一方で,表現があ りふれたものである場合には,そのような表現に独占権を認めると,後進の 25 創作者の自由かつ多様な表現の妨げとなり,かえって上記の著作権法の目的 10 に反する結果となりかねないため,当該表現に創作性を肯定して保護を与え ることは許容されないというべきであり,そのため,原告書籍と本件社史部 分との間で同一性を有する表現がありふれたものである場合には,その表現 に創作性を認めることができない。 (2) まず,別紙2記述対比表の原告書籍及び本件社史部分の各記述について, 5 それぞれの間での創作性を有する表現の同一性が認められるか否かについて 検討する。 ア 番号1の各記述について (ア) 原告書籍の番号1の記述は,原告書籍における当該記述の前後の文脈 を踏まえると,被告従業員であったBが被告の二 表現の同一性が認められるか否かについて 検討する。 ア 番号1の各記述について (ア) 原告書籍の番号1の記述は,原告書籍における当該記述の前後の文脈 を踏まえると,被告従業員であったBが被告の二輪世界選手権への再挑 10 戦の担当者になるとの内示を受ける前日に出身地を尋ねられた際のやり とりを記述したものであり,本件社史部分の番号1の記述は,本件社史 部分における当該記述の前後の文脈を踏まえると,Bが上記内示の際に 出身地を尋ねられたことを記述したものであると認められる。 これらの記述は,Bが上記内示を受ける際に出身地を尋ねられたこと 15 を内容とする点で共通しているが,このようなやりとりがあったことは 事実にすぎないというべきであり,表現それ自体でない部分で同一性が 認められるに留まる。また,出身地を尋ねるやりとりがあったことにつ いて,原告書籍の番号1の記述では,「おいB,おまえ家は東京だよな」 と記述されているのに対し,本件社史部分の番号1の記述では,「世間話 20 の中で出身地を聞かれました。『東京です』と答えたのを覚えていますよ」 と記述されており,それらの具体的な記述における描写の手法が異なる ものとなっており,表現それ自体において同一性を有するとは認められ ない。 (イ) 原告は,原告書籍と本件社史部分に同じ事実が記述されていることに 25 ついて,社史編纂委員会の担当者は原告書籍に記述された事実を原告書 11 籍に依拠して知ったものであるから,翻案該当性が認められるべき旨を 主張する。 しかしながら,前記(1)のとおり,本件社史部分に記述された事実が原 告書籍に依拠したものであったとしても,原告書籍と本件社史部分の各 記述が事実といった表現それ自体でない部分において同一性を有するに 5 留まる場合には,原告書籍の翻案には当たらな 記述された事実が原 告書籍に依拠したものであったとしても,原告書籍と本件社史部分の各 記述が事実といった表現それ自体でない部分において同一性を有するに 5 留まる場合には,原告書籍の翻案には当たらないと解するのが相当であ るから,原告の上記主張は採用することができない。 (ウ) したがって,番号1の各記述について,創作的表現において同一性を 有するものと認めることはできない。 イ 番号2の各記述について 10 原告書籍の番号2の記述は,原告書籍における当該記述の前後の文脈を 踏まえると,Bが被告の二輪世界選手権への再挑戦の担当部門(レース・ ブロック。以下「本件部門」という。)のマネージャーになるに当たり,C から示された企画書に記載されていた本件部門の編成の条件を記述したも のであり,本件社史部分の番号2の記述は,本件社史部分における当該記 15 述の前後の文脈を踏まえると,Bが本件部門のマネジメントを任されるに 当たり,朝霞研究所(HGA)のD所長から示された企画書に記載されて いた内容を記述したものであると認められる。 番号2の各記述は,本件部門の編成の条件等として,「三年以内に世界チ ャンピオンになること」,費用を年間約30億円とすること,要員は100 20 名程度とすることが企画書に記載されていたことを内容とする点で共通す るが,このような条件等が設定されていたことは事実にすぎないというべ きであり,表現それ自体でない部分で同一性が認められるに留まる。また, 番号2の各記述は,上記の編成の条件等の示し方などの点で,具体的な記 述において異なるものとなっており,表現それ自体において同一性を有す 25 るとは認められない。 12 したがって,番号2の各記述について,創作的表現において同一性を有 するものと認めることはできない。 ウ 番号3の ており,表現それ自体において同一性を有す 25 るとは認められない。 12 したがって,番号2の各記述について,創作的表現において同一性を有 するものと認めることはできない。 ウ 番号3の各記述について (ア) 原告書籍の番号3-1の記述と本件社史部分の番号3の記述との同一 性について 5 原告書籍の番号3-1の記述と本件社史部分の番号3の記述とを比較 しても,具体的な記述における表現において同一性を有する部分は認め られない。 (イ) 原告書籍の番号3-2の記述と本件社史部分の番号3の記述との同一 性について 10 原告書籍の番号3-2の記述は,原告書籍における当該記述の前後の 文脈を踏まえると,本件部門の編成として,過去の二輪世界選手権への 参加の際の担当者ではなく,若手を起用することについて,Cの「この 新しい部隊は最初はものすごく苦労するだろう」との考えを記述したも のと認められる。他方で,本件社史部分の番号3の記述中の「しかし, 15 一九六〇年代に世界GPを経験した人には,この仕事をお願い出来ない わけですから初挑戦と変わらない。かなり苦労することは予想していま した」との部分は,本件社史部分における当該部分の前後の文脈を踏ま えると,本件部門の編成に当たってのBの考えを記述したものと認めら れる。 20 これらの記述は,本件部門の編成に当たって,経験者ではなく若手を 起用するとの方針が取られたことから,編成に携わる者が二輪世界選手 権への再挑戦について,かなり苦労することを予想していたことを内容 とする点で共通する。しかしながら,そのような編成の方針が取られて いたことは事実にすぎないというべきであり,その点の共通性を原告書 25 籍の番号3-2の記述と本件社史部分3の記述の対比において考慮する 13 としても,表現それ自 ような編成の方針が取られて いたことは事実にすぎないというべきであり,その点の共通性を原告書 25 籍の番号3-2の記述と本件社史部分3の記述の対比において考慮する 13 としても,表現それ自体でない部分で同一性が認められるに留まる。ま た,編成に携わる者が苦労を予想していたという部分についても,上記 のとおり,原告書籍の番号3-2の記述ではCの考えとして記述されて いるのに対して,本件社史部分の番号3の記述ではBの考えとして記述 されている上,両記述は具体的な言い回しや説明的な記述の有無などの 5 点においても異なるものとなっており,表現それ自体において同一性を 有するとは認められない。 (ウ) 原告書籍の番号3-3の記述と本件社史部分の番号3の記述との同一 性について 原告書籍の番号3-3の記述は,Bが「新しいレース・ブロックの名 10 前をNR(New Racing)にしようと考え」て,Cがそれを承 諾したことを記述したものであり,本件社史部分の番号3の記述中にも, Bの発言として,「プロジェクト名は,私がNew Racing(NR) でどうですかと提案して決まりました。」との記述がある。 これらの記述は,本件部門の名称について,Bが「New Raci 15 ng」を指す「NR」とすることを提案し,これが了承されたことを内 容とする点で共通するが,当該内容は事実にすぎないというべきであり, 表現それ自体でない部分で同一性が認められるに留まる。また,原告書 籍の番号3-3の記述と本件社史部分の番号3の記述とでは,プロジェ クト名をBが提案したやりとりの描写における用語や言い回しなど,具 20 体的な記述において異なるものとなっており,表現それ自体において同 一性を有するとは認められない。 (エ) 小活 前記(ア)ないし(ウ)の対比の結果に照らせ 写における用語や言い回しなど,具 20 体的な記述において異なるものとなっており,表現それ自体において同 一性を有するとは認められない。 (エ) 小活 前記(ア)ないし(ウ)の対比の結果に照らせば,原告書籍の番号3-1な いし3-3の記述と本件社史部分の番号3の記述とが,創作的表現にお 25 いて同一性を有するものと認めることはできず,これは,原告書籍の番 14 号3の記述全体と本件社史部分の番号3の記述とを対比した場合でも同 様である。 エ 番号4の各記述について 番号4の各記述は,本件部門の担当者であったE(甲1,2)が,まず 世界GPに関するデータを調査したこと,昭和52年(1977年)当時 5 における世界GPにおける4ストロークエンジンと2ストロークエンジン の情勢を調査した結果,4ストロークエンジンの可能性を認めたことを内 容とする点で共通する。 しかしながら,上記の内容はいずれも事実にすぎないというべきであり, 表現それ自体でない部分で同一性が認められるに留まる。また,Eの調査 10 及び分析に関して,原告書籍の番号4の記述では比較的詳細な説明がされ ているのに対し,本件社史部分の番号4の記述では簡潔にまとめられてお り,具体的な記述の手法は異なったものとなっており,表現それ自体にお いて同一性を有するとは認められない。 したがって,番号4の各記述について,創作的表現において同一性を有 15 するものと認めることはできない。 オ 番号5の各記述について (ア) 原告書籍の番号5-1の記述と本件社史部分の番号5の記述との同一 性について 原告書籍の番号5-1の記述においては,「UFOピストン」と呼ばれ 20 る「楕円型ピストン」が設計されたこと,その形状等として,当該ピス トンが「二本のコンロッドによって支持され」,その中に「 て 原告書籍の番号5-1の記述においては,「UFOピストン」と呼ばれ 20 る「楕円型ピストン」が設計されたこと,その形状等として,当該ピス トンが「二本のコンロッドによって支持され」,その中に「八つの吸排気 バルブが綺麗に収まった」ものであることが記述され,本件社史部分の 番号5の記述中にも,「長円形ピストン」が設計され,その形状等として, 当該ピストンが「二本のコンロッドによって支えられ,八つのバルブが 25 整然と並ぶ」ものであったとの記述がある。 15 これらの記述は,楕円型ないし長円形のピストンが設計されたことや, ピストンの形状等として,それが2本のコンロッドによって支持される ものであり,八つの吸排気バルブを備えるものであることを内容とする 点で共通するが,当該内容はいずれも事実にすぎないというべきであり, 表現それ自体でない部分で同一性が認められるに留まる。また,原告書 5 籍の番号5-1の記述と本件社史部分の番号5の記述とでは,上記のピ ストンの形状に関する具体的な記述における言い回しが異なったものと なっており,表現それ自体において同一性を有するとは認められない。 (イ) 原告書籍の番号5-2の記述と本件社史部分の番号5の記述との同一 性について 10 原告書籍の番号5-2の記述においては,前記(ア)の「楕円型ピストン」 である「UFOピストン」を用いた「エンジンの予測性能」として「二 万三〇〇〇回転まで回り,一三〇馬力の出力が出ると計算上出ていた。」 ことが記述され,本件社史部分の番号5の記述中にも「長円形ピストン」 を用いたエンジンについて,「そのエンジンの予測性能を割り出したとこ 15 ろ,二万三千回転まで回り,百三十馬力を発揮するポテンシャルを秘め ていることが分かった。」との記述がある。 これらの記述は,楕円型ないし長 について,「そのエンジンの予測性能を割り出したとこ 15 ろ,二万三千回転まで回り,百三十馬力を発揮するポテンシャルを秘め ていることが分かった。」との記述がある。 これらの記述は,楕円型ないし長円形のピストンを用いたエンジンの 予測性能が,2万3000回転まで回り,130馬力の出力が出るもの であったことを内容とする点で共通するが,当該内容は事実にすぎない 20 というべきであり,表現それ自体でない部分で同一性が認められるに留 まる。また,原告書籍の番号5-2の記述と本件社史部分の番号5の記 述とでは,エンジンの予測性能に関する具体的な記述における言い回し が異なったものとなっており,表現それ自体において同一性を有すると は認められない。 25 (ウ) 小活 16 前記(ア)及び(イ)の対比の結果に照らせば,原告書籍の番号5-1及び 5-2の記述と本件社史部分の番号5の記述とが,創作的表現において 同一性を有するものと認めることはできず,これは,原告書籍の番号5 の記述全体と本件社史部分の番号5の記述とを対比した場合でも同様で ある。 5 カ 番号6の各記述について (ア) 原告書籍の番号6-1の記述と本件社史部分の番号6の記述との同一 性について 原告書籍の番号6-1の記述においては,「K00と呼ばれる最初の楕 円ピストン+シリンダー・エンジンが製作された」ことが記述され,本 10 件社史部分の番号6の記述中にも「K00と呼んだ二バルブヘッド・一 二五cc単気筒の試作エンジンが完成」との記述がある。 これらの記述は,「K00」と呼ばれる,楕円型ないし長円形のピスト ンを用いた最初の試作エンジンが製作されたことを内容とする点で共通 するが,当該内容は事実にすぎないというべきであり,表現それ自体で 15 ない部分で同一性が認められるに留まる。 ないし長円形のピスト ンを用いた最初の試作エンジンが製作されたことを内容とする点で共通 するが,当該内容は事実にすぎないというべきであり,表現それ自体で 15 ない部分で同一性が認められるに留まる。また,原告書籍の番号6-1 の記述では,Cの開発意欲とK00の製作経緯とが結び付けられた描写 となっているのに対し,本件社史部分の番号6の記述では,その製作の 経過が比較的客観的に描写されているなど,両記述では,K00の試作 に関する具体的な記述の手法が異なったものとなっており,表現それ自 20 体において同一性を有するとは認められない。 (イ) 原告書籍の番号6-2の記述と本件社史部分の番号6の記述との同一 性について 原告書籍の番号6-2の記述においては,「四気筒エンジンの一気筒だ けを取り出した形の単気筒K0エンジンが完成したのは七八年(昭和五 25 十三年)の十月のことだった。」と記述され,本件社史部分の番号6の記 17 述中にも「同年十月に八バルブヘッド・水冷単気筒エンジン・K0を完 成させる。」との記述がある。 これらの記述は,昭和53年(1978年)10月に単気筒エンジン 「K0」が完成したことを内容とする点で共通するが,当該内容は事実 にすぎないというべきであり,表現それ自体でない部分で同一性が認め 5 られるに留まる。また,原告書籍の番号6-2の記述と本件社史部分の 番号6の記述とでは,「K0」の完成に関する具体的な記述における表現 も異なったものとなっており,表現それ自体において同一性を有すると は認められない。 (ウ) 原告書籍の番号6-3の記述と本件社史部分の番号6の記述との同一 10 性について 原告書籍の番号6-3の記述と本件社史部分の番号6の記述とを比較 しても,具体的な記述における表現において同一性を有する部分は認め られ の記述と本件社史部分の番号6の記述との同一 10 性について 原告書籍の番号6-3の記述と本件社史部分の番号6の記述とを比較 しても,具体的な記述における表現において同一性を有する部分は認め られない。 (エ) 小活 15 前記(ア)ないし(ウ)の対比の結果に照らせば,原告書籍の番号6-1な いし6-3の記述と本件社史部分の番号6の記述とが,創作的表現にお いて同一性を有するものと認めることはできず,これは,原告書籍の番 号6の記述全体と本件社史部分の番号6の記述とを対比した場合でも同 様である。 20 キ 番号7の各記述について 番号7の各記述は,本件部門に,Fを中心とした「材料専門部門」ない し「材料グループ」が発足したこと,そのグループが破損した部品につい て破損の原因を分析する役割を担っていたことを内容とする点で共通する。 しかしながら,上記の内容はいずれも事実にすぎないというべきであり, 25 表現それ自体でない部分で同一性が認められるに留まる。また,番号7の 18 各記述においては,「材料専門部門」ないし「材料グループ」の作業内容等 の記述について,具体的な記述における描写が異なっており,表現それ自 体において同一性を有するとは認められない。 したがって,番号7の各記述について,創作的表現において同一性を有 するものと認めることはできない。 5 ク 番号8の各記述について 原告書籍の番号8の記述は,原告書籍における当該記述の前後の文脈を 踏まえると,本件部門で開発しようとしていた二輪車のフレームが厚さが 約1mmしかないアルミ板によるものであったことを「エンジンを下ろし た後のフレームはペラペラの皮になるのである。」と記述したものと認めら 10 れ,本件社史部分の番号8の記述は,本件社史部分における当該記述の前 後の文脈を踏ま るものであったことを「エンジンを下ろし た後のフレームはペラペラの皮になるのである。」と記述したものと認めら 10 れ,本件社史部分の番号8の記述は,本件社史部分における当該記述の前 後の文脈を踏まえると,本件部門で開発しようとしていた二輪車のフレー ムについて,エンジンをセットしない場合の状態として「板厚はわずか1 mmしかないためペラペラであったが」と記述したものと認められる。 これらの記述は,本件部門で開発しようとしていた二輪車のフレームの 15 厚さが約1mmと薄かったこと,そのためエンジンをセットしない状態で のフレームの剛性が低かったことを内容とする点で共通するが,当該内容 はいずれも事実にすぎないというべきであり,表現それ自体でない部分で 同一性が認められるに留まる。 また,これらの事実を記述するために,原告書籍においては「ペラペラ 20 の皮になる」,本件社史部分においては「ペラペラであったが」との表現が 用いられており,いずれも「ペラペラ」という表現を用いている点で共通 するが,薄くて剛性が低いものを示す際に「ペラペラ」と表現することは, 通常用いられるありふれた表現であるといえるから,創作的表現であると は認められない。 25 したがって,番号8の各記述について,創作的表現において同一性を有 19 するものと認めることはできない。 ケ 番号9の各記述について 原告書籍の番号9の記述は,原告書籍における当該記述の前後の文脈を 踏まえると,Gにおいて,本件部門で開発しようとしていた二輪車のホイ ールに16インチのものと18インチのもののいずれを採用すべきかを検 5 討し,当時主流であった18インチではなく16インチを提案する際に発 言した内容を記述したものと認められ,本件社史部分の番号8の記述は, 本件社史部分における当該記述の前後 ずれを採用すべきかを検 5 討し,当時主流であった18インチではなく16インチを提案する際に発 言した内容を記述したものと認められ,本件社史部分の番号8の記述は, 本件社史部分における当該記述の前後の文脈を踏まえると,上記のホイー ルサイズについて,当時主流であった18インチではなく16インチを提 案した理由をGが説明した内容を記述したものと認められる。 10 これらの記述は,本件部門で開発しようとしていた二輪車のホイールの サイズについて,Gが18インチと16インチの優劣を比較検討したこと, コーナリングでは18インチの方が有利であると考えられていたこと,最 終的にはGが当時主流であった18インチではなく16インチを提案した ことを内容とする点で共通するが,当該内容はいずれも事実にすぎないと 15 いうべきであり,表現それ自体でない部分で同一性が認められるに留まる。 また,番号9の各記述は,18インチと16インチを比較検討して最終的 な判断に至った経緯に関し,原告書籍の番号9の記述の方が本件社史部分 の番号9の記述よりもGの心の動きを生き生きと描写しているなど,具体 的な記述において異なったものとなっており,表現それ自体において同一 20 性を有するとは認められない。 したがって,番号9の各記述について,創作的表現において同一性を有 するものと認めることはできない。 コ 番号10の各記述について 番号10の各記述は,レースをするためには,「マシンを作る」(原告書 25 籍)あるいは「サーキットを走る」(本件社史部分)以外に,移動手段や宿 20 泊地の手配などの様々な庶務的な仕事があることを内容とする点で共通す る。 しかしながら,上記の内容は事実にすぎないというべきであり,表現そ れ自体でない部分で同一性が認められるに留まる。また,番号10の各記 配などの様々な庶務的な仕事があることを内容とする点で共通す る。 しかしながら,上記の内容は事実にすぎないというべきであり,表現そ れ自体でない部分で同一性が認められるに留まる。また,番号10の各記 述は,庶務的な仕事の必要性に関し,原告書籍の番号10の記述の方が本 5 件社史部分の番号10の記述よりも多くの例を挙げて説明しているなど, 具体的な記述において異なったものとなっており,表現それ自体において 同一性を有するとは認められない。 したがって,番号10の各記述について,創作的表現において同一性を 有するものと認めることはできない。 10 サ 番号11の各記述について 原告書籍の番号11の記述は,原告書籍における当該記述の前後の文脈 を踏まえると,被告の二輪世界選手権への再挑戦について,レースが始ま る前の時期において,ヨーロッパにおいて大きな期待が寄せられていたこ とを記述したものと認められ,本件社史部分の番号11の記述は,本件社 15 史部分における当該記述の前後の文脈を踏まえると,シルバーストーンサ ーキットにおける復帰初戦の際に,被告の二輪車に大きな期待が寄せられ ていたことを記述したものと認められる。 これらの記述は,被告の二輪世界選手権への再挑戦について,復帰初戦 が始まる前には大きな期待が寄せられていたことを内容とする点で共通す 20 るが,当該内容は事実にすぎないというべきであり,表現それ自体でない 部分で同一性が認められるに留まる。また,番号11の各記述は,被告に 寄せられていた期待に関し,期待の内容や程度の描写,復帰初戦当日につ いての記載であるかどうかなどの具体的な記述において異なったものとな っており,表現それ自体において同一性を有するとは認められない。 25 したがって,番号11の各記述について,創作的表現において同一性を 記載であるかどうかなどの具体的な記述において異なったものとな っており,表現それ自体において同一性を有するとは認められない。 25 したがって,番号11の各記述について,創作的表現において同一性を 21 有するものと認めることはできない。 シ 番号12の各記述について 原告書籍の番号12の記述は,原告書籍における当該記述の前後の文脈 を踏まえると,フランスGPにおいて,決勝出場台数が足りないために予 選落ちした被告の二輪車が決勝に参加できそうになったという状況で,決 5 勝に参加すべきかどうかが議論になり,参加すべきであるとのEら日本人 技術者の考えを記述したものと認められ(なお,原告書籍には,当該記述 の後ろに,実際には決勝には参加できなかったことが記述されている。), 本件社史部分の番号12の記述は,本件社史部分における当該記述の前後 の文脈を踏まえると,フランスGPで予選落ちとなり,決勝を走ることが 10 できなかったことを受けて,そのまま日本に帰れないとの被告の担当者の 考えを記述したものと認められる。 これらの記述は,フランスGPでの予選落ちの結果について,実際のレ ースに参加して各種のデータを得ることが重要であると本件部門の担当者 が考えていたことを内容とする点で共通するが,当該内容は事実にすぎな 15 いというべきであり,表現それ自体でない部分で同一性が認められるに留 まる。また,上記のとおり,これらの本件部門の担当者の考えは,原告書 籍においてはフランスGPの決勝に参加すべきかどうかの議論の内容とし て記述され,本件社史部分においては,フランスGPの決勝に参加できな かったことを受けての担当者の考えとして記述されているから,その意味 20 するところが異なり,その結果,番号12の各記述での具体的な記述にお ける言い回しも異なっているか ンスGPの決勝に参加できな かったことを受けての担当者の考えとして記述されているから,その意味 20 するところが異なり,その結果,番号12の各記述での具体的な記述にお ける言い回しも異なっているから,表現それ自体において同一性を有する とは認められない。 したがって,番号12の各記述について,創作的表現において同一性を 有するものと認めることはできない。 25 ス 番号13の各記述について 22 原告書籍の番号13の記述は,原告書籍における当該記述の前後の文脈 を踏まえると,昭和55年(1980年)当時,本件部門における二輪車 の開発において,エンジンとフレームのうちエンジン開発の方に重点を置 こうとしていたことを記述したものと認められ,本件社史部分の番号13 の記述は,本件社史部分における当該記述の前後の文脈を踏まえると,同 5 年当時,本件部門が,二輪車開発における複数の課題のうち,エンジンの 熟成を図ることを最優先課題としたことを記述したものと認められる。 これらの記述は,1980年当時の本件部門における開発方針として, エンジン開発を最も優先していたことを内容とする点で共通するが,当該 内容は事実にすぎないというべきであり,表現それ自体でない部分で同一 10 性が認められるに留まる。また,番号13の各記述は,開発の課題に関す る説明などの具体的な記述において異なるものとなっており,表現それ自 体において同一性を有するとは認められない。 したがって,番号13の各記述について,創作的表現において同一性を 有するものと認めることはできない。 15 セ 番号14の各記述について 原告書籍の番号14の記述は,「NS500」のエンジンを設計したのが Hであることと,Hの経歴,Hが本件部門に加わることになった経緯,本 件部門でのそれまでのHの担当職 セ 番号14の各記述について 原告書籍の番号14の記述は,「NS500」のエンジンを設計したのが Hであることと,Hの経歴,Hが本件部門に加わることになった経緯,本 件部門でのそれまでのHの担当職務について記述したものと認められ,本 件社史部分の番号14の記述は,本件社史部分における当該記述の前後の 20 文脈を踏まえると,「NS500」のエンジン開発の中心となったHについ て,その経歴や本件部門での担当職務について記述したものと認められる。 これらの記述は,Hが,1960年代に二輪車のエンジン開発に携わっ た経験があること,NS500のエンジン開発を担当する前に本件部門に おいてモトクロスレースの担当をしていたことを内容とする点で共通する 25 が,当該内容はいずれも事実にすぎないというべきであり,表現それ自体 23 でない部分で同一性が認められるに留まる。また,番号14の各記述は, 原告書籍の番号14の記述の方が本件社史部分の番号14の記述よりもH の経歴等に関する描写が詳細であるなど,具体的な記述において異なるも のとなっており,表現それ自体において同一性を有するとは認められない。 したがって,番号14の各記述について,創作的表現において同一性を 5 有するものと認めることはできない。 ソ 番号15の各記述について 原告書籍の番号15の記述は,原告書籍における当該記述の前後の文脈 を踏まえると,Hが350cc並みの大きさのコンパクトな2ストロー ク・ロードレーサーを開発するとの発想を得たきっかけについて記述した 10 ものと認められ,本件社史部分の番号15の記述は,本件社史部分におけ る当該記述の前後の文脈を踏まえると,Hが,NS500の開発をするに 当たり,「軽量・コンパクト」なマシンを設計するとのコンセプトを持って いたこと及びその発想を の番号15の記述は,本件社史部分におけ る当該記述の前後の文脈を踏まえると,Hが,NS500の開発をするに 当たり,「軽量・コンパクト」なマシンを設計するとのコンセプトを持って いたこと及びその発想を得たきっかけについて記述したものと認められる。 これらの記述は,Hが昭和56年(1981年)の「ダッチTT」とい 15 うレースを見に行ったこと,Hが当該レースのラップタイムから350c cと500ccマシンのラップタイムには大きな差がなく,350ccク ラスのベストタイムなら,500ccクラスのスターティング・グリッド で2列目に並べることを知ったことを内容とする点で共通するが,当該内 容はいずれも事実にすぎないというべきであり,表現それ自体でない部分 20 で同一性が認められるに留まる。また,番号15の各記述は,Hが350 ccと500ccのマシンに大きな差がないことに気づいた経緯の具体的 な記述において異なるものとなっており,表現それ自体において同一性を 有するとは認められない。 したがって,番号15の各記述について,創作的表現において同一性を 25 有するものと認めることはできない。 24 タ 番号16の各記述について 番号16の各記述は,それぞれの前後の文脈からすれば,いずれもHの 考えとして記述されているものと認められるところ,Hが「空気抵抗」(原 告書籍)あるいは「前影投影面積」(本件社史部分)を減らすために500 ccクラスのマシンを350ccクラスのマシン並みにコンパクトにしよ 5 うと考えたことを内容とする点で共通する。 しかしながら,上記の内容は事実にすぎないというべきであり,表現そ れ自体でない部分において同一性が認められるに留まる。また,番号16 の各記述は,Hの思考過程の描写などの具体的な記述において異なるもの となっており, 記の内容は事実にすぎないというべきであり,表現そ れ自体でない部分において同一性が認められるに留まる。また,番号16 の各記述は,Hの思考過程の描写などの具体的な記述において異なるもの となっており,表現それ自体において同一性を有するとは認められない。 10 したがって,番号16の各記述について,創作的表現において同一性を 有するものと認めることはできない。 チ 番号17の各記述について 番号17の各記述は,それぞれの前後の文脈からすれば,いずれもNS 500の開発に当たってリードバルブが採用されたことについて記述され 15 ているものと認められるところ,NS500の吸気バルブにリードバルブ が採用されたこと,リードバルブのメリットとして,パワーロスがなく, 押しがけスタートの際のエンジンのかかりがよいこと,レースにおいてト ップでスタートを切れば3秒程度差を付けられること,レースにおいてス タート時に3秒差が付くことは非常に重要であることを内容とする点で共 20 通する。 しかしながら,上記の内容はいずれも事実にすぎないというべきであり, 表現それ自体でない部分で共通するに留まる。また,原告書籍の番号17 の記述の方が本件社史部分の番号17の記述よりもスタート時の3秒差の 重要性に関する描写が詳しいなど,番号17の各記述は,上記の内容につ 25 いての具体的な記述において異なるものとなっており,表現それ自体にお 25 いて同一性を有するとは認められない。 したがって,番号17の各記述について,創作的表現において同一性を 有するものと認めることはできない。 ツ 番号18の各記述について 本件社史部分の番号18の記述は,本件社史部分における当該記述の直 5 前の記述から,Iについて記述したものであると認められ,そうすると, 番号18の各記述は,I 。 ツ 番号18の各記述について 本件社史部分の番号18の記述は,本件社史部分における当該記述の直 5 前の記述から,Iについて記述したものであると認められ,そうすると, 番号18の各記述は,Iがチームの監督に就任するに当たって,ライダー, メカニック,日本人スタッフ等からなるチームの態勢を一から見直したこ とを内容とする点で共通する。 しかしながら,上記の内容は事実にすぎないというべきであり,表現そ 10 れ自体でない部分で同一性が認められるに留まる。また,原告書籍の番号 18の記述では,Iがどのような点でチームの態勢を見直したのかという 視点から記述されているのに対し,本件社史部分の番号18の記述では, Iがなぜチームの態勢の見直しを行ったのかという視点から記述されてい るなど,番号18の各記述は,上記の内容についての具体的な記述におい 15 て異なるものとなっており,表現それ自体において同一性を有するとは認 められない。 したがって,番号18の各記述について,創作的表現において同一性を 有するものと認めることはできない。 テ 番号19の各記述について 20 原告書籍の番号19の記述は,勝った際の原因分析が重要であるとのH の考えを記述したものと認められ,本件社史部分の番号19の記述は,本 件社史部分における前後の文脈を踏まえると,勝ち方や負け方の原因分析 を重視するとのIないしは「チームメンバー」の考えを記述したものと認 められる。 25 これらの記述は,レースの勝敗の原因分析が重要であると本件部門の担 26 当者が考えていたことを内容とする点で共通するが,当該内容は事実にす ぎないというべきであり,表現それ自体でない部分で共通するに留まる。 また,上記のとおり,これらの本件部門の担当者の考えについては,原告 書籍の番号19の記述ではHの 点で共通するが,当該内容は事実にす ぎないというべきであり,表現それ自体でない部分で共通するに留まる。 また,上記のとおり,これらの本件部門の担当者の考えについては,原告 書籍の番号19の記述ではHの考えとして記述され,本件社史部分の番号 19の記述では,Iないしは「チームメンバー」の考えとして記述されて 5 いる点で異なっており,その結果,番号19の各記述での具体的な記述も 異なるものとなっているから,表現それ自体において同一性を有するとは 認められない。 したがって,番号19の各記述について,創作的表現において同一性を 有するものと認めることはできない。 10 ト 番号20の各記述について (ア) 原告書籍の番号20-1の記述と本件社史部分の番号20の記述との 同一性について 原告書籍の番号20-1の記述においては「前年,Iの海外滞在日数 は二一二日にも及んでいた」と記述され,本件社史部分の番号20の記 15 述中にも「一九八二年のシーズンにおいて,Iの海外遠征は二百十日間 にも及んだ。」と記述がある。 これらの記述は,昭和57年(1982年)のシーズンにおけるIの 海外滞在日数が210日程度に及んだことを内容とする点で共通するが, 当該内容は事実にすぎないというべきであり,表現それ自体でない部分 20 で同一性が認められるに留まる。そして,この点のほかに,原告書籍の 番号20-1の記述と本件社史部分の番号20の記述との間に共通する 部分は認められない。 (イ) 原告書籍の番号20-2の記述と本件社史部分の番号20の記述との 同一性について 25 原告書籍の番号20-2の記述と本件社史部分の番号20の記述のう 27 ちの「この間,彼は,絶対的なパワーは劣るがコーナリング性能に勝る NS五〇〇にとって,有利となるコース,逆に苦戦を強いられるコ 告書籍の番号20-2の記述と本件社史部分の番号20の記述のう 27 ちの「この間,彼は,絶対的なパワーは劣るがコーナリング性能に勝る NS五〇〇にとって,有利となるコース,逆に苦戦を強いられるコース に分けた。」との記述とを対比すると,IがNS500にとって有利とな るコースと不利となるコースを分類していたこと,NS500の特性と して絶対的なパワーには劣るがコーナリング性能の点で優れていたこと 5 を内容とする点で共通するが,当該内容はいずれも事実にすぎないとい うべきであり,表現それ自体でない部分で同一性が認められるに留まる。 また,原告書籍の番号20-2の記述の方が本件社史部分の番号20の 記述よりもIの行ったコースの分類に関する描写が詳細であるなど,上 記の内容についての具体的な記述は異なるものとなっており,表現それ 10 自体において同一性を有するとは認められない。 (ウ) 小活 前記(ア)及び(イ)の対比の結果に照らせば,原告書籍の番号20-1及 び20-2の記述と本件社史部分の番号20の記述が創作的表現におい て同一性を有するものと認めることはできず,これは,原告書籍の番号 15 20の記述全体と本件社史部分の番号20の記述とを対比した場合でも 同様である。 (3) 前記(2)のとおり,番号1ないし20の各記述において,本件社史部分が 原告書籍と創作的表現において同一性を有するとは認められないから,依拠 性について検討するまでもなく,被告社史中の本件社史部分は原告書籍の翻 20 案に該当するものではない。 2 結論 よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の被告に対する原告 書籍の翻案を許諾することの対価相当額の不当利得返還請求は理由がないから, これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 25 東京地方裁判所民事第 て判断するまでもなく,原告の被告に対する原告 書籍の翻案を許諾することの対価相当額の不当利得返還請求は理由がないから, これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 25 東京地方裁判所民事第29部 28 裁判長裁判官 國 分 隆 文 5 裁判官 小 川 暁 10 裁判官 矢 野 紀 夫 15 29 別紙一覧 別紙1 原告著作物目録 別紙2 記述対比表 別紙3 構成の類似性(原告の主張) 添付省略 5 30 別紙1 原告著作物目録 書名 「いつか勝てる ホンダが二輪の世界チャンピオンに復帰した日」 著者 A(原告のペンネーム) 発行所 株式会社徳間書店 初刷日 1988年10月31日 5 概要 四六版 316頁

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