平成26(ネ)2150 解雇無効確認等請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成28年8月31日 東京高等裁判所
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判決文本文38,710 文字)

- 1 -平成28年8月31日判決言渡し平成26年(ネ)第2150号解雇無効確認等請求控訴事件(1審・東京地方裁判所平成16年(ワ)第24332号,差戻し前の控訴審・当庁平成20年(ネ)第2954号,上告審・最高裁判所平成23年(受)第1259号) 主文 1 1審原告の控訴に基づき,1審判決中損害賠償請求に関する部分を次のとおり変更する(当審における新たな請求に対する判断を含む)。 (1) (損害賠償・休業損害を除いた慰謝料等)1審被告は,1審原告に対し,603万4000円及びこれに対する平成16年12月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) (損害賠償・休業損害)1審被告は,1審原告に対し,5186万0526円及びうち3528万5995円に対する平成28年6月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) (同上)1審被告は,1審原告に対し,平成28年6月25日から本判決確定の日まで,毎月25日限り月額47万3831円及びこれらに対する各月26日から支払済みまでいずれも年5分の割合による金員を支払え。 (4) (見舞金)1審被告は,1審原告に対し,160万円及びこれに対する平成22年7月22日から支払済みまで年5分の割合による金員- 2 -を支払え。 (5) 1審原告のその余の請求をいずれも棄却する。 2 1審被告の控訴を棄却する。 3 訴訟費用は,1審,差戻し前の控訴審,上告審(ただし,上告審判決で訴訟費用の負担を命ぜられた部分を除く。)及び差戻し後の控訴審を通じてこれを5分し,その3を1審原告の負担とし,その余を1審被告の負担とする。 4 この判決は,1項(1)ないし(4)に限り,仮に執行することができる。 5 1審判決主文2 差戻し後の控訴審を通じてこれを5分し,その3を1審原告の負担とし,その余を1審被告の負担とする。 4 この判決は,1項(1)ないし(4)に限り,仮に執行することができる。 5 1審判決主文2項(賃金請求)及び3項の一部(賃金511万7382円及びこれに対する附帯請求)は,訴えの取下げにより失効した。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 1審原告(1) 1審判決中,損害賠償請求に関する部分を次のとおり変更する(当審における新たな請求を含む)。 (2) (損害賠償・休業損害を除いた慰謝料等)1審被告は,1審原告に対し,1712万4991円及びこれに対する平成16年12月10日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え(1審原告は,当審において附帯請求の割合を年6分に拡張した。)。 (3) (損害賠償・解雇までの休業損害)1審被告は,1審原告に対し,1705万7949円及びこれに対する平成16年12月10日から支払済みまで年6分の割合に- 3 -よる金員を支払え(1審原告は,当審において請求を拡張した。)。 (4) (損害賠償・解雇後の休業損害)1審被告は,1審原告に対し,平成16年10月から本件判決確定の日まで毎月25日限り月額47万3831円の割合による金員及びこれらに対する各月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え(当審における追加的請求)。 (5) (見舞金)1審被告は,1審原告に対し,560万円及びこれに対する平成16年12月10日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え(当審における追加的請求)。 (6) なお,1審原告は,当審において,1審で求めていた賃金を含む賃金請求の訴えを取り下げた。 2 1審被告(1) 1審判決中,損害賠償請求に関する1審 払え(当審における追加的請求)。 (6) なお,1審原告は,当審において,1審で求めていた賃金を含む賃金請求の訴えを取り下げた。 2 1審被告(1) 1審判決中,損害賠償請求に関する1審被告敗訴部分を取り消す。 (2) 上記取消しに係る1審原告の請求を棄却する。 (3) 1審原告の当審における新たな請求をいずれも棄却する。 第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は,1審被告の従業員であった1審原告が,鬱病に罹患して休職し,休職期間満了後に1審被告から解雇されたことにつき,上記鬱病(以下「本件鬱病」という。)は1審被告における過重な業務に起因するものであるから,上記解雇は労働基準法19条1項本文等に違反する無効なものであると主張して,1審被告に対し,安全配慮義務違反等による債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求として- 4 -の休業損害や慰謝料等の支払及び1審被告の会社規程に基づく見舞金等の支払を求める事案である。 2 前提事実(いずれも争いがない)(1) 1審原告は,昭和41年生まれの女性である。 1審被告は,電気機械器具製造等を業とする株式会社である。 (2)ア 1審原告は,平成2年3月に大学の理工学部を卒業して,同年4月に1審被告に雇用されて入社した。 1審原告は,平成10年1月,1審被告の液晶ディスプレイ等を製造する埼玉県深谷市所在の工場(以下「本件工場」という。)に異動となった。 イ 1審原告は,平成13年5月下旬,体調不良を理由に7日間欠勤し,同年9月には,1か月の休養を要する旨を記載した医師の診断書を提出して,1か月近くにわたって有給休暇を取得した。 1審原告は,同年10月9日以降,抑鬱状態で約1か月の休養を要するなどと記載された医師の診断書をほぼ毎月提出して欠勤 した医師の診断書を提出して,1か月近くにわたって有給休暇を取得した。 1審原告は,同年10月9日以降,抑鬱状態で約1か月の休養を要するなどと記載された医師の診断書をほぼ毎月提出して欠勤を続けた。 1審被告は,1審原告の欠勤期間が1審被告の就業規則所定の期間を超えた平成15年1月10日,1審原告に対して休職を発令し(同就業規則では,従業員が業務外の傷病により所定の欠勤期間を超えて欠勤した場合には休職を命ずるものとされ,休業期間が満了したときは従業員は解雇されるものとされている。),次いで,1審原告に対し,平成16年8月6日,休職期間の満了を理由とする解雇予告通知をした上,同年9月9日付けで解雇の意思表示をした(以下「本件解雇」という。)。 - 5 -(3)ア 1審原告の平成12年当時の賃金額は,時間外労働賃金及び賞与を含めて年収568万5983円(月収47万3831円)であったところ,1審原告は,平成13年9月分以降,1審被告から賃金の支払を受けていない。なお,1審原告と1審被告の雇用契約では,賃金の支払期日について,各月分を翌月25日に支払うものとされていた。 イ 1審原告は,平成16年9月8日,熊谷労働基準監督署長に対し,本件鬱病につき労働者災害補償保険法(以下「労災保険法という。)に基づく休業補償給付等の支給を求める請求をしたところ,平成18年1月23日,同署長からこれらを支給しない旨の処分(以下「本件処分」という。)を受けたため,平成19年7月19日,本件処分の取消しを求める訴えを東京地方裁判所に提起した。同裁判所は,平成21年5月18日,本件鬱病には業務起因性が認められるとして,本件処分(受給権が時効により消滅した平成14年9月7日以前の休業補償給付を不支給とした部分を除く。)を取り消す旨の判決 同裁判所は,平成21年5月18日,本件鬱病には業務起因性が認められるとして,本件処分(受給権が時効により消滅した平成14年9月7日以前の休業補償給付を不支給とした部分を除く。)を取り消す旨の判決を言い渡し,同判決は控訴されずに確定した。 上記判決確定後に1審原告が受領した休業補償給付(特別支給金を除く。)は,別紙1の労災保険給付一覧表記載のとおりである。 ウ 1審原告は,平成13年9月以降,自らを被保険者とする健康保険組合(以下「本件健康保険組合」という。)から,健康保険法99条1項に基づく傷病手当金等(以下,これを「本件傷病手当金等」という。)の支給を受けていた。 1審原告は,上記イの判決の確定後,平成14年9月8日以- 6 -後の休業補償給付等の支給を受けたことなどから,本件傷病手当金等につき,その一部を本件健康保険組合に返還したが,平成14年9月7日以前の休業に対応する367万8848円(以下,これを「1審原告保有分」という。)を現在も保有している。 (4) 1審被告の「見舞金,弔慰金贈与規程」(甲235。以下「本件見舞金規程」という。)は,社員の業務上の傷病に対する見舞金等について定めており(1条),社員が業務上の負傷又は疾病により休業を要する場合など所定の要件を満たす場合には,1審被告は社員に対して所定の金額の見舞金を贈与するものされている(3条,4条)。 3 本件訴訟の経緯(1) 1審ア 1審における1審原告の請求は,次のとおりである。 (ア) 1審原告が雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認請求(イ) 雇用契約に基づく平成13年9月分から本件解雇前の平成16年8月分までの3年分の賃金511万7382円(1審原告の平成12年の年収額568万5983円(時間 にあることの確認請求(イ) 雇用契約に基づく平成13年9月分から本件解雇前の平成16年8月分までの3年分の賃金511万7382円(1審原告の平成12年の年収額568万5983円(時間外労働賃金及び賞与を含む)を基に算出した3年分の年収額から,本件健康保険組合より支給された本件傷病手当金等を差し引いた額)及びこれに対する訴状送達の日である平成16年12月10日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金請求(ウ) 雇用契約に基づく本件解雇後の平成16年10月(同年9月分)から判決確定の日までの賃金(毎月25日限り月額47- 7 -万3831円(平成12年の前記年収額568万5983円の12分の1相当額)の割合)請求(エ) 安全配慮義務違反等による債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償金2224万2373円(内訳は,①治療費17万3500円,②診断書作成料5万6200円,③交通費20万4300円,④平成13年9月分から本件解雇前の平成16年8月分までの3年分の休業損害511万7382円(上記(イ)の賃金相当額),⑤慰謝料1500万円,⑥弁護士費用169万0991円)及びこれに対する平成16年12月10日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金請求(上記④の休業損害の損害賠償請求は,上記(イ)の賃金請求と選択的併合の関係にある。)イ 1審判決は,上記各請求について,次の(ア)ないし(エ)のとおり判断した。 (ア) 本件解雇は労働基準法19条1項本文及びこれと同趣旨の1審被告の就業規則27条に違反するから無効であるとして,上記ア(ア)の地位確認請求を認容した(1審判決主文1項)。 (イ) 上記ア(イ)の本件解雇前の賃金請求を全て認容した(同主文3項 1審被告の就業規則27条に違反するから無効であるとして,上記ア(ア)の地位確認請求を認容した(1審判決主文1項)。 (イ) 上記ア(イ)の本件解雇前の賃金請求を全て認容した(同主文3項の一部)。 (ウ) 上記ア(ウ)の本件解雇後の賃金請求を全て認容した(同主文2項)。 (エ) 上記ア(エ)の損害賠償請求について,債務不履行による損害賠償金323万4000円(内訳は,上記ア(エ)①の治療費17万3500円,同②の診断書作成料5万6200円,- 8 -同③の交通費20万4300円,同⑤の慰謝料200万円,同⑥の弁護士費用相当額80万円)及びこれに対する平成16年12月10日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容した(同主文3項の一部)。 上記ア(エ)④の休業損害については,上記(イ)のとおり,この損害賠償請求と選択的併合の関係にある賃金請求が認容されている。 (2) 差戻し前の控訴審ア 1審判決に対して,1審原告及び1審被告は,それぞれの敗訴部分を不服として控訴を提起した。また,1審原告は,差戻し前の控訴審において,請求の追加ないし拡張をした。 その結果,差戻し前の控訴審における1審原告の請求は,次のとおりとなった。 (ア) 1審原告が雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認請求(1審での請求と同じ)(イ) 雇用契約に基づく平成13年9月分から本件解雇前の平成16年8月分までの3年分の賃金1705万7949円(平成12年の年収額568万5983円×3年分)及びこれに対する平成16年12月10日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金請求1審では,平成12年の年収額を基に算出した3年分の年収額から本件傷 68万5983円×3年分)及びこれに対する平成16年12月10日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金請求1審では,平成12年の年収額を基に算出した3年分の年収額から本件傷病手当金等を控除した賃金511万円7382円を請求していたが(上記(1)ア(イ)),上記控除をする必要はないと主張して,請求を拡張した。 (ウ) 雇用契約に基づく本件解雇後の平成16年10月(同年9- 9 -月分)から毎月25日限り月額47万3831円の割合による賃金及びこれに対する各月26日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金請求1審では,判決確定の日までの賃金を請求していたが(上記(1)ア(ウ)),この終期をはずして請求を拡張するとともに,遅延損害金請求を追加した。 (エ) 安全配慮義務違反等による債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償金1712万4991円(内訳は,上記(1)ア(エ)①の治療費17万3500円,同②の診断書作成料5万6200円,同③の交通費20万4300円,同⑤の慰謝料1500万円,同⑥の弁護士費用相当額169万0991円)及びこれに対する平成16年12月10日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金請求上記(1)ア(エ)④の本件解雇前の休業損害511万7382円については,後記(オ)aのとおりである。 (オ) 安全配慮義務違反等による債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償(休業損害)請求a 平成13年9月分から本件解雇前の平成16年8月分までの3年分の賃金(上記(イ))相当額1705万7949円及びこれに対する平成16年12月10日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金請求1審では,本件解雇の前までの休業損害として,51 分の賃金(上記(イ))相当額1705万7949円及びこれに対する平成16年12月10日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金請求1審では,本件解雇の前までの休業損害として,511万7382円を請求していたが(上記(1)ア(エ)④),休業損害の算定に当たり,本件傷病手当金等を控除する必要はないと主張して,請求を拡張した。 - 10 -本請求は,上記(イ)の賃金請求と選択的併合の関係にある。 b 本件解雇後の平成16年10月(同年9月分)から毎月25日限り月額47万3831円の割合による賃金相当額及びこれらに対する各月26日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金請求本請求は,差戻し前の控訴審で新たに追加されたものであり,上記(ウ)の賃金請求と選択的併合の関係にある。 (カ) 本件見舞金規程に基づく見舞金560万円及びこれに対する平成16年12月10日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金請求本請求は,差戻し前の控訴審で新たに追加されたものである。 (キ) 1審被告の会社規程に基づく賞与相当額支払請求a 913万3000円(平成14年6月から平成21年12月までの賞与相当額から,平成14年6月から平成16年12月までの期間に支給された病気見舞金を控除した額)及びこれに対する平成21年12月26日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金請求b 平成22年6月から毎年6月25日及び12月25日限り64万8125円(1回当たりの賞与相当額)及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金請求上記各請求は,差戻し前の控訴審で新たに追加されたものである。 (ク) 1審被告の会社規程(災害補償規定)に基づく れに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金請求上記各請求は,差戻し前の控訴審で新たに追加されたものである。 (ク) 1審被告の会社規程(災害補償規定)に基づく休業補償支- 11 -払請求a 平成13年9月分から本件解雇前の平成16年8月分までの3年分の休業補償金1705万7949円及びこれに対する平成16年12月10日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金請求本請求は,差戻し前の控訴審で新たに追加されたものであり,上記(オ)aの損害賠償請求と予備的併合の関係にある。 b 本件解雇後の平成16年10月(同年9月分)から毎月25日限り休業補償金月額47万3831円及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金請求本請求は,差戻し前の控訴審で新たに追加されたものであり,上記(オ)bの損害賠償請求と予備的併合の関係にある。 イ差戻し前の控訴審判決は,上記各請求について,次の(ア)ないし(ク)のとおり判断した。 (ア) 上記ア(ア)の地位確認請求は理由があるとして,同請求に係る1審被告の控訴を棄却した。 (イ) 上記ア(イ)の本件解雇前の賃金請求は,賃金970万8600円及びこれに対する平成16年12月10日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきものであるとして,上記賃金及び遅延損害金のうち,1審判決で認容された賃金511万7382円及びこれに対する遅延損害金請求(上記(1)ア及びイの各(イ))に係る1審被告の控訴を棄却するとともに,差戻し前の控訴審における1審原告の新たな請求に基づき,残りの賃金459万1218円- 12 -及びこれに対する遅延損害金請求を認容し ア及びイの各(イ))に係る1審被告の控訴を棄却するとともに,差戻し前の控訴審における1審原告の新たな請求に基づき,残りの賃金459万1218円- 12 -及びこれに対する遅延損害金請求を認容した(差戻し前の控訴審判決主文6項の一部)。 また,1審原告の平成12年の年収額568万5983円から時間外労働賃金90万9783円及び賞与154万円を控除した323万6200円を基礎として算出した3年分の賃金は970万8600円となり,他方で,賃金支払請求において,本件傷病手当金等を控除すべきものではないとして,請求を認容すべき賃金を970万8600円とした。 (ウ) 上記ア(ウ)の本件解雇後の賃金請求は,平成16年10月(同年9月分)から判決確定の日まで毎月25日限り月額26万9683円の割合による賃金及びこれらに対する各月26日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきであるとして,1審被告の控訴に基づき,1審判決が認容した上記期間中の月額賃金47万3831円(上記(1)ア及びイの各(ウ))を月額26万9683円に減額し(差戻し前の控訴審判決主文1項),差戻し前の控訴審における1審原告の新たな請求に基づき,毎月の賃金に対する遅延損害金請求を認容する(同主文5項)とともに,判決確定の日の翌日以降の賃金及び遅延損害金請求に係る訴えは,不適法であるとして却下した(同主文4項)。 その上で,上記(イ)と同様に,平成12年の年収額568万5983円から時間外労働賃金及び賞与を控除した323万6200円を基礎として月額賃金を算出すると26万9683円になることなどから,請求を認容すべき月額賃金を26万9683円とした。 - 13 -(エ) 上記ア(エ)の損害賠償(休業損害 6200円を基礎として月額賃金を算出すると26万9683円になることなどから,請求を認容すべき月額賃金を26万9683円とした。 - 13 -(エ) 上記ア(エ)の損害賠償(休業損害を除いた慰謝料等)請求は,債務不履行による損害賠償金484万7200円(内訳は,上記ア(エ)①の治療費13万8800円,同②の診断書作成料4万4960円,同③の交通費16万3440円,同⑤の慰謝料320万円,同⑥の弁護士費用相当額130万円)及びこれに対する平成16年12月10日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきであるとして,1審原告の控訴に基づき,1審判決が認容した損害賠償金323万4000円及びこれに対する遅延損害金請求(上記(1)イ(エ))のほか,損害賠償金161万3200円及びこれに対する遅延損害金請求を認容した(差戻し前の控訴審判決主文2項)。なお,遅延損害金請求の一部については,不法行為による損害賠償請求権に係るものとして認容した。 1審原告は平成13年4月に本件鬱病を発症したものであるが,1審原告が本件鬱病を発病し,同年8月頃までにその症状が増悪していったことについて,1審被告には,1審原告の業務量を適切に調整して心身の健康を損なうことや更なる悪化をたどることがないような配慮をしなかったという不法行為責任があるとともに,雇用契約上の安全配慮義務に違反する債務不履行がある(他方で,1審被告の同月下旬以降の対応については安全配慮義務違反があるとはいえない。)と判断した。 また,弁護士費用を除く1審原告の被った損害額は443万4000円(内訳は,上記ア(エ)①の治療費17万3500円,同②の診断書作成料5万6200円,同③の交通費20万4300円,同⑤の慰謝料400万円) 護士費用を除く1審原告の被った損害額は443万4000円(内訳は,上記ア(エ)①の治療費17万3500円,同②の診断書作成料5万6200円,同③の交通費20万4300円,同⑤の慰謝料400万円)であるとした上で,次のa- 14 -及びbのとおり判断して,過失相殺に関する民法418条又は722条2項の規定の適用ないし類推適用により損害額の2割を減額して,弁護士費用相当額を除く損害額を354万7200円(内訳は,上記ア(エ)①の治療費13万8800円,同②の診断書作成料4万4960円,同③の交通費16万3440円,同⑤の慰謝料320万円)とし,これに上記ア(エ)⑤の弁護士費用相当額として130万円を加えた484万7200円をもって請求を認容すべき損害賠償金とした。 a 1審原告が,本件鬱病を発症する前から神経科の医院へ通院していたことやその診断に係る病名(神経症),神経症に適応のある薬剤の処方等の情報を上司や産業医等に申告しなかったことは,1審被告において1審原告の鬱病の発症を回避したり発症後の増悪を防止する措置を執る機会を失わせる一因となったものであるから,1審原告の損害賠償請求については過失相殺をするのが相当である。 b 1審原告が,入社後慢性的に生理痛を抱え,平成12年6月ないし7月頃及び同年12月には慢性頭痛及び神経症と診断されて抑鬱や睡眠障害に適応のある薬剤の処方を受けており,業務を離れて治療を続けながら9年を超えてなお寛解に至らないことを併せ考慮すれば,1審原告には個体側のぜい弱性が存在したと推認され,1審原告の損害賠償請求についてはいわゆる素因減額をするのが相当である。 (オ) 上記ア(オ)の安全配慮義務違反等による債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償(休業損害)請求について,平 ,1審原告の損害賠償請求についてはいわゆる素因減額をするのが相当である。 (オ) 上記ア(オ)の安全配慮義務違反等による債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償(休業損害)請求について,平成13年9月分から本件解雇前の平成16年8月分として1705- 15 -万7949円の休業損害が,本件解雇後の平成16年10月(同年9月分)から判決確定の日まで月額47万3831円の休業損害がそれぞれ発生しているが,上記(エ)と同様に,過失相殺に関する民法418条又は722条2項の規定の適用ないし類推適用により損害額の2割を減額すると,本件解雇前の休業損害は1364万6359円,本件解雇後のそれは月額37万9064円となり,さらに,労災保険法に基づく休業補償給付(いまだ支給決定を受けていない休業補償給付を含む)及び本件傷病手当金等のうち現在も1審原告が保有している367万8848円(1審原告保有分)と損益相殺をすると,本件解雇前の休業損害は289万7739円,本件解雇後のそれは月額8万3689円となり,これらの金額は,1審原告による賃金請求に係る賃金(上記(イ)及び(ウ))を下回るとして,請求を棄却した。なお,判決確定の日の翌日以降の休業損害請求も,理由がないとして棄却した。 (カ) 上記ア(カ)の本件見舞金規程に基づく見舞金支払請求は,見舞金240万円及びこれに対する平成16年12月10日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容した(差戻し前の控訴審判決主文6項の一部)。 本件見舞金規程によれば,1審原告は1審被告に対して見舞金560万円の支払を求めることができるが,本件見舞金規程による見舞金は慰謝料的な性格を持つものであることなどからすると,慰謝料と損益相殺の処理をするのが相当 よれば,1審原告は1審被告に対して見舞金560万円の支払を求めることができるが,本件見舞金規程による見舞金は慰謝料的な性格を持つものであることなどからすると,慰謝料と損益相殺の処理をするのが相当であるから,上記(エ)の慰謝料320万円と本件見舞金規程による見舞金560万円は,320万円の範囲内で重複塡補となり,1審- 16 -原告は,その差額である240万円の限度で見舞金の支払を請求することができるとした。 (キ) 上記ア(キ)の1審被告の会社規程に基づく賞与相当額支払請求について,賞与相当額を支給することを定める1審被告の会社規程は存在しないとして,請求を棄却した。 (ク) 上記ア(ク)の1審被告の会社規程に基づく休業補償支払請求について,1審原告は1審被告の会社規程に基づいて休業補償金を請求し得るが,その金額は,1審原告による賃金請求に係る賃金及び安全配慮義務違反による債務不履行又は不法行為に基づく休業損害に係る損害金額のいずれをも下回るものであるから,より高い賃金請求を認容すべきこととなるとして,請求を棄却した。 (3) 上告審ア差戻し前の控訴審判決に対し,1審原告のみが上告受理の申立てをしたところ,上告審は,平成26年1月15日,本件を上告審として受理するとともに,上告受理申立て理由の第1ないし第10のうち,次の2点(上告受理申立て理由第4ないし第8)を除く部分を排除する旨の決定をした。 (ア) 差戻し前の控訴審判決は,損害賠償請求において,過失相殺・素因減額として賠償額の2割を減じたが(上記(2)イ(エ)及び(オ)),これは最高裁判の判例及び経験則に違反するとともに,事実認定に重大な誤りがある(上告受理申立て理由第4ないし第7)。 (イ) 差戻し前の控訴審判 じたが(上記(2)イ(エ)及び(オ)),これは最高裁判の判例及び経験則に違反するとともに,事実認定に重大な誤りがある(上告受理申立て理由第4ないし第7)。 (イ) 差戻し前の控訴審判決は,損害賠償(休業損害)請求において,未支給分の労災保険給付と損益相殺を行った点で(上- 17 -記(2)イ(オ)),最高裁判所の判例に違反しており,また,本件傷病手当金等のうち1審原告保有分と損益相殺を行った点で(同上),損益相殺法理に関する解釈適用を誤った違法がある(上告受理申立て理由第8)。 イ(ア) 上告審は,差戻し前の控訴審判決中,損害賠償請求及び見舞金支払請求に関する1審原告敗訴部分を破棄し,同部分につき,本件を当庁に差し戻すとともに,1審原告のその余の上告を棄却する旨の判決を言い渡した。 (イ)a したがって,上告審判決により当庁に差し戻された請求は,次のとおりとなる。 ⅰ 上記(2)ア(エ)の損害賠償(休業損害を除いた慰謝料等)請求中の1審原告敗訴部分及び同(オ)の損害賠償(休業損害)請求ⅱ 上記(2)ア(カ)の見舞金支払請求中の1審原告敗訴部分ⅲ 上記ⅰの損害賠償(休業損害)請求と選択的併合の関係にある上記(2)ア(イ)及び(ウ)の賃金請求ⅳ 上記ⅰの損害賠償(休業損害)請求と予備的併合の関係にある上記(2)ア(ク)の1審被告の会社規程に基づく休業補償請求b 他方で,上告審判決の言渡しにより確定した請求は,次のとおりである。 ⅰ 上記(2)ア(エ)の損害賠償(休業損害を除いた慰謝料等)請求中の1審原告勝訴部分ⅱ 上記(2)ア(カ)の見舞金支払請求中の1審原告勝訴部分- 18 -ⅲ 上記(2)ア(ア)の地位確認請求( (休業損害を除いた慰謝料等)請求中の1審原告勝訴部分ⅱ 上記(2)ア(カ)の見舞金支払請求中の1審原告勝訴部分- 18 -ⅲ 上記(2)ア(ア)の地位確認請求(1審判決主文1項,本件判決主文5項)ⅳ 上記(2)ア(キ)の1審被告の規程に基づく賞与相当額支払請求ウ上告審は,上告受理申立て理由として採り上げた上記アの各上告受理申立て理由等について,次の(ア)ないし(ウ)のとおり判断した。 (ア) 差戻し前の控訴審判決が,損害賠償請求の判断において,損害賠償の額を定めるに当たり,過失相殺及び素因減額をした点(上記(2)イ(エ)及び(オ))について本件鬱病の発症以前の数か月において,1審原告の業務の負担は相当過重なものであったといえること,上記の業務の過程において,1審原告が1審被告に申告しなかった自らの精神的健康(いわゆるメンタルヘルス)に関する情報は,神経科の医院への通院,その診断に係る病名,神経症に適応のある薬剤の処方等を内容とするもので,労働者にとって,自己のプライバシーに属する情報であり,人事考課等に影響し得る事柄として通常は職場において知られることなく就労を継続しようとすることが想定される性質の情報であったといえること,使用者は,必ずしも労働者からの申告がなくても,その健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っているところ,上記のように労働者にとって過重な業務が続く中でその体調の悪化が看取される場合には,上記のような情報については労働者本人からの積極的な申告が期待し難いことを前提とした上で,必要に応じて- 19 -その業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要があるものというべきこと,上記の過重な業務が続 労働者本人からの積極的な申告が期待し難いことを前提とした上で,必要に応じて- 19 -その業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要があるものというべきこと,上記の過重な業務が続く中で,1審原告は,体調が不良であることを1審被告に伝えて相当の日数の欠勤を繰り返し,業務の軽減の申出をするなどしていたものであるから,1審被告としては,そのような状態が過重な業務によって生じていることを認識し得る状況にあり,その状態の悪化を防ぐために1審原告の業務の軽減をするなどの措置を執ることは可能であったこと,これらの諸事情に鑑みると,1審被告が1審原告に対し上記の措置を執らずに本件鬱病が発症し増悪したことについて,1審原告が1審被告に対して上記の情報を申告しなかったことを重視するのは相当でなく,これを1審原告の責めに帰すべきものということはできないことなどからすれば,1審被告が安全配慮義務違反等に基づく損害賠償として1審原告に対し賠償すべき額を定めるに当たっては,1審原告が上記の情報を1審被告に申告しなかったことをもって,民法418条又は722条2項の規定による過失相殺をすることはできない。 また,本件鬱病は上記のように過重な業務によって発症し増悪したものであるところ,1審原告は,それ以前は入社以来長年にわたり特段の支障なく勤務を継続していたものであり,また,上記の業務を離れた後もその業務起因性や損害賠償責任等が争われて複数の争訟等が長期にわたり続いたため,その対応に心理的な負担を負い,争訟等の帰すうへの不安等を抱えていたことが窺われることなどに鑑みれば,1- 20 -審原告について,同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるぜい弱性などの特性等を有していたことを窺わせるに足りる事情があ 窺われることなどに鑑みれば,1- 20 -審原告について,同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるぜい弱性などの特性等を有していたことを窺わせるに足りる事情があるということはできない。 以上によれば,1審被告の安全配慮義務違反等を理由とする1審原告に対する損害賠償の額を定めるに当たり過失相殺に関する民法418条又は722条2項の規定の適用ないし類推適用によりその額を減額した差戻し前の控訴審判決の判断には,法令の解釈適用を誤った違法がある。 (イ) 差戻し前の控訴審判決が,損害賠償(休業損害)請求の判断において,損害賠償の額を定めるに当たり,本件傷病手当金等のうち1審原告保有分及び未支給分の労災保険給付と損益相殺をした点(上記(2)イ(オ))について安全配慮義務違反等に基づく損害賠償請求に係る損害賠償金は,1審被告における過重な業務によって発症し増悪した本件鬱病に起因する休業損害につき業務上の疾病による損害の賠償として支払われるべきものであるところ,本件傷病手当金等は,業務外の事由による疾病等に関する保険給付として支給されるものであるから(健康保険法1条,55条1項),上記の1審原告保有分は,不当利得として本件健康保険組合に返還されるべきものであって,これを上記損害賠償の額から控除することはできない。 また,差戻し前の控訴審判決は,上記損害賠償の額からいまだ支給決定を受けていない休業補償給付の額を控除しているが,いまだ現実の支給がされていない以上,これを控除- 21 -することはできない。 これらによれば,上記請求について,上記損害賠償の額を定めるに当たり,上記の各金員の額を控除した差戻し前の控訴審判決の判断には,法令の解釈適用を誤った違法がある。 (ウ) することはできない。 これらによれば,上記請求について,上記損害賠償の額を定めるに当たり,上記の各金員の額を控除した差戻し前の控訴審判決の判断には,法令の解釈適用を誤った違法がある。 (ウ) 見舞金支払請求に関する1審原告敗訴部分の破棄差戻しの理由について上記(ア)及び(イ)によれば,差戻し前の控訴審判決の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるから,同判決中損害賠償請求に関する1審原告敗訴部分は破棄を免れず,損害賠償の額等について更に審理を尽くさせるため,同部分につき本件を原審に差し戻すのが相当であるが,差戻し後の控訴審においては,本件見舞金規程に基づく見舞金の額から控除される慰謝料の額等が審理の対象となりその額も変動し得るので,上記の法令の違反は見舞金支払請求に関しても判決に影響を及ぼすことが明らかであるから,差戻し前の控訴審判決中見舞金支払請求に関する1審原告敗訴部分についても,これを破棄し,同部分につき本件を原審に差し戻すのが相当である。 (4) 差戻し後の控訴審1審原告は,差戻し後の控訴審において,差し戻された請求のうち,賃金請求(上記(3)イ(イ)aⅲ。1審判決主文2項及び3項の一部,本件判決主文5項)及び1審被告の会社規程に基づく休業補償請求(同ⅳ)に係る各訴えを取り下げた。 その結果,1審原告の請求は,①安全配慮義務違反等による債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償(休業損害を除いた慰謝- 22 -料等)請求(前記「控訴の趣旨」1(2)),②安全配慮義務違反等による債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償(休業損害)請求(同(3)及び(4)),③見舞金支払請求(同(5))となった。なお,差戻し後の控訴審において,1審原告は,これらの請求の附帯請求の利率について, 不履行又は不法行為に基づく損害賠償(休業損害)請求(同(3)及び(4)),③見舞金支払請求(同(5))となった。なお,差戻し後の控訴審において,1審原告は,これらの請求の附帯請求の利率について,いずれも年5分としていたもの(上記(2)ア(エ)ないし(カ))を年6分に請求を拡張し,他方で,損害賠償(解雇後の休業損害)請求について,毎月の支払請求の終期を設けていなかったものを(同(オ)b)本判決確定の日までに減縮した。 また,1審被告は,上告審判決を受けて,損害賠償請求に関し,過失相殺及び素因減額の主張並びに本件傷病手当等のうち1審原告保有分及び未支給分の労災保険給付による損益相殺の主張を撤回した。 4 1審被告の損害賠償責任等(1) 損害賠償請求(前記「控訴の趣旨」1(2)ないし(4))についてア 1審被告の損害賠償責任上記2(2)の事実及び後記「認定事実」によれば,1審原告は平成13年4月頃に本件鬱病を発症したものであり,1審原告が本件鬱病を発病し,同年8月頃までにその症状が増悪していったことについて,1審被告には,1審原告の業務量を適切に調整して心身の健康を損なうことや更なる悪化をたどることがないような配慮をしなかったという不法行為責任があるとともに,雇用契約上の安全配慮義務に違反する債務不履行責任があるものと認められる(1審被告が安全配慮義務違反等を理由に不法行為又は債務不履行による損害賠償責任を負うことについては,1審被告も争っていない。)。 - 23 -イ 1審原告の損害(ア) 損害賠償(休業損害を除いた慰謝料等)請求(前記「控訴の趣旨」1(2))についてⅰ 後掲各証拠等によれば,1審原告は,1審被告の上記不法行為又は債務不履行により,次の損害を被ったことが認められる 業損害を除いた慰謝料等)請求(前記「控訴の趣旨」1(2))についてⅰ 後掲各証拠等によれば,1審原告は,1審被告の上記不法行為又は債務不履行により,次の損害を被ったことが認められる。 ① 治療費17万3500円(甲7の1ないし63・1審原告の主張と同じ。)② 診断書作成料5万6200円(甲8の1ないし11・1審原告の主張と同じ。)③ 交通費20万4300円(甲85ないし89の各1,101,159,弁論の全趣旨・1審原告の主張と同じ。)④ 以上の合計43万4000円ⅱ 上記のほか,1審原告は,損害として,慰謝料1500万円と弁護士費用相当額169万0991円を主張しているが(上記3(2)ア(エ)),これらの損害については争いがある。 (イ) 損害賠償(休業損害)請求(前記「控訴の趣旨」1(3),(4))についてⅰ 休業損害を算出する基礎となる平成12年の年収額を求めるに当たっては,賞与及び時間外労働賃金をも含めたものとすべきであり,これらを含めた平成12年の年収額は568万円5983である(争いがない)。 そうすると,平成13年9月分から本件解雇前の平成16年8月分までの3年分の賃金相当額は1705万794- 24 -9円となり,また,本件解雇後の同年10月(同年9月分)から1審被告が毎月支払うべき賃金相当額は月額47万3831円(賃金の支払期日に照らせば,各月分の休業損害が翌月25日に発生すると解するのが相当である。1審原告は,これを前提に,翌26日からの遅延損害金を請求している。)となる(いずれの金額も,1審原告の主張と同じ。)。 ⅱ 休業損害と労災保険法に基づく休業補償給付(未支給分を除く。)とが損益相殺されるべきことについては争いが 延損害金を請求している。)となる(いずれの金額も,1審原告の主張と同じ。)。 ⅱ 休業損害と労災保険法に基づく休業補償給付(未支給分を除く。)とが損益相殺されるべきことについては争いがないが,その方法については争いがある。 (2) 見舞金支払請求(前記「控訴の趣旨」1(5))について本件鬱病は,本件見舞金規程4条の定める業務上の疾病に当たり,1審原告はそのために休業を要する状態になったのであるから,本件見舞金規程によれば,1審原告は1審被告に対して見舞金として560万円の支払を求めることができる(この点は,1審被告も争っていない。)。しかし,この金額がそのまま認容されるべきであるか否かについては争いがある。 5 争点(1) 1審原告は年6分の割合による遅延損害金を請求することができるか否か(全請求関係)(2) 慰謝料額(損害賠償(休業損害を除いた慰謝料等)請求関係)(3) 労災保険法に基づく休業補償給付を休業損害に係る遅延損害金債務に充当することができるか否か(損害賠償(休業損害)請求関係)(4) 消滅時効が成立したために1審原告が受給できなかった労災保- 25 -険の休業補償給付相当額による損益相殺の可否(損害賠償(休業損害)請求関係)(5) 見舞金の額(見舞金支払請求関係)(6) 見舞金支払請求権の消滅時効の成否(見舞金支払請求関係) 6 争点に対する当事者双方の主張(1) 1審原告は年6分の割合による遅延損害金を請求することができるか否かについて(全請求関係)(1審原告)ア安全配慮義務違反による損害賠償請求権に係る債務は,商行為たる契約の債務不履行による損害賠償債務であって,商事債務として商法514条の適用がある(最高裁判所昭和47年5月2 1審原告)ア安全配慮義務違反による損害賠償請求権に係る債務は,商行為たる契約の債務不履行による損害賠償債務であって,商事債務として商法514条の適用がある(最高裁判所昭和47年5月25日第1小法廷判決・裁判集民事106号153頁参照)。 ことに,上記損害賠償請求権に係る債務のうち賃金相当損害金(休業損害)の部分は,賃金債務の変形物ないし代替物であるから,遅延損害金の利率が年6分である賃金債務と実質的に同一性を有するものとして,遅延損害金の割合は年6分とされるべきである。 イ見舞金支払請求権は,1審被告の会社規程(本件見舞金規程4条)に基づくものであるから,商事債務として商法514条の適用がある。 ウ 1審被告は,1審原告が遅延損害金の利率を年6分と主張して請求を拡張することは時機に後れた攻撃防御方法に当たる旨主張するが,1審原告の各請求に商法514条の適用があるか否かは,裁判所の専権に属する法律判断であり,その判断に当たって何らの証拠調べ等を要するものでもないから,上記請求- 26 -の拡張や主張は訴訟の完結を遅延させることにはならない。 (1審被告)ア差戻し前の控訴審判決は,損害賠償(休業損害を除いた慰謝料等)請求権及び見舞金支払請求権の遅延損害金の利率をいずれも年5分として認容したが(上記3(2)イ(エ)及び(カ)),1審原告は,上告受理申立理由書において,この点を何ら争っていなかったから,上告審の審理対象とされず,既に確定しているのであって,上記各請求権の遅延損害金の利率を年6分であると主張して請求を拡張することは,明らかな紛争の蒸し返しであって許されない。 また,遅延損害金の利率を年6分とする1審原告の主張及び請求の拡張は,時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべ あると主張して請求を拡張することは,明らかな紛争の蒸し返しであって許されない。 また,遅延損害金の利率を年6分とする1審原告の主張及び請求の拡張は,時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。 イ(ア) 使用者の安全配慮義務違反による損害賠償債務は,商事債務には該当せず,商法514条の適用はない。 また,特定の法律関係の付随義務として一方が相手方に対して負う信義則上の義務である安全配慮義務の不履行による損害賠償請求権は,付随義務履行請求権の変形物ないし代替物であるとはいえないから,安全配慮義務違反による損害賠償債務と安全配慮義務は同一性を有するものではなく(最高裁判所平成6年2月22日第3小法廷判決・労働判例646号12頁参照),この観点から見ても,上記損害賠償債務に商法514条の適用はない。 (イ) 見舞金請求権は,1審被告の会社規程(本件見舞金規程)に基づいて発生するものであって,このような債務は商法51- 27 -4条の「商行為によって生じた債務」には該当しない。 (2) 慰謝料額について(損害賠償(休業損害を除いた慰謝料等)請求関係)(1審原告)ア本件鬱病は,平成13年4月に発症し,差戻し前の控訴審の口頭弁論終結時点までの9年7か月の間はもとより,平成28年4月の時点で発症から15年が経過した現在においてもいまだに寛解しておらず,1審原告は引き続き通院中である。また,本件鬱病は,1審原告の直属の上司である配属課の課長(以下,単に「課長」という。)のパワーハラスメントにより増悪したという事情があり,加えて,1審被告の安全配慮義務違反の悪質さ,違法な本件解雇に至る経緯,1審被告の訴訟態度等に照らすと,差戻し前の控訴審判決が過失相殺等による減額前の慰謝料として認定した400万円 いう事情があり,加えて,1審被告の安全配慮義務違反の悪質さ,違法な本件解雇に至る経緯,1審被告の訴訟態度等に照らすと,差戻し前の控訴審判決が過失相殺等による減額前の慰謝料として認定した400万円(上記3(2)イ(エ))は極めて低廉であって,相当慰謝料額は1500万円を下回るものではない。 イ上告受理決定に際して重要でないとして上告審の審理の対象とされなかった事項は,当然に確定したものとなるものではない。現に,上告審判決も,その判決理由中で,差戻し後の控訴審においては,慰謝料の額等が審理の対象となり,その額も変動し得ると明確に述べている。 (1審被告)1審原告は,上告受理申立理由書で,差戻し前の控訴審判決が過失相殺等による減額前の慰謝料額を400万円と認定したのは事実誤認だと主張したが,上告を受理すべき理由とは認め- 28 -られず,排除された(上記3(3)ア)。したがって,上記減額前の慰謝料額を400万円と認定した差戻し前の控訴審判決の判断は,上告審により是認され,既に確定している。したがって,差戻し後の控訴審で慰謝料額を増額することは許されない。 (3) 労災保険法に基づく休業補償給付を休業損害に係る遅延損害金債務に充当することができるか否かについて(損害賠償(休業損害)請求関係)(1審原告)ア労災保険法に基づく休業補償給付は,消極損害である休業損害及びその遅延損害金に充当されるが,本件では,休業損害の元本に対してではなく,遅延損害金に対して先に充当すべきである。 この点について,最高裁判所平成27年3月4日大法廷判決・民集69巻2号178頁は,「被害者が不法行為によって死亡した場合において,その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け,又は支給を受け て,最高裁判所平成27年3月4日大法廷判決・民集69巻2号178頁は,「被害者が不法行為によって死亡した場合において,その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け,又は支給を受けることが確定したときは,制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り,その填補の対象となる損害は不法行為の時に填補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが公平の見地からみて相当であるというべきである。」と判示している。しかるに,1審被告は,本件を労災と考えていた1審原告に対し敵対的姿勢を示して,1審原告の労災申請そのものを妨害し,また,1審原告が平成16年9月8日に労災申請を行った後も,労災給付を支給しない旨の処分(本件処分)がされたため,1審原告は行政訴訟の提起を- 29 -余儀なくされ,平成21年5月18日に勝訴判決を得て,ようやく同年6月11日に労働基準監督署長により労災と認定された。このように,発症から9年,労災申請から5年もの年月を要したのは,1審被告及び労働行政の側に原因があったのであり,労災給付が上記判決のいう「制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞」した特段の事情があることは明らかである。 したがって,労災保険法に基づく休業補償給付は,まず休業損害の遅延損害金に充当すべきであり,その後に元本に充当すべきである。 イ本件では,別紙1の労災保険給付一覧表記載のとおり,平成13年9月4日から平成16年7月30日までの休業補償給付672万0012円について,平成21年6月11日に支給決定がされ,次いで,平成16年7月31日から平成21年7月7日までの休業補償給付合計1750万8933円について,同月23日に支給決定がされ,その後は,1審原告が数か月に 成21年6月11日に支給決定がされ,次いで,平成16年7月31日から平成21年7月7日までの休業補償給付合計1750万8933円について,同月23日に支給決定がされ,その後は,1審原告が数か月に一度労災申請を行い,ほどなくして当該期間に対応する支給決定がされている。 したがって,少なくとも,平成13年9月4日から平成21年7月7日までの休業補償給付は,制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞していたというべきであるから,これらの休業補償給付は遅延損害金から先に充当すべきである。 (1審被告)前掲最高裁判所平成27年3月4日大法廷判決は,「損害の元本- 30 -に対する遅延損害金に係る債権は,飽くまでも債務者の履行遅滞を理由とする損害賠償債権であるから,遅延損害金を債務者に支払わせることとしている目的は,遺族補償年金の目的とは明らかに異なるものであって,遺族補償年金による填補の対象となる損害が,遅延損害金と同性質であるということも,相互補完性があるということもできない。」として上で,「したがって,被害者が不法行為によって死亡した場合において,その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け,又は支給を受けることが確定したときは,損害賠償額を算定するに当たり,上記の遺族補償年金につき,その填補の対象となる被扶養利益の喪失による損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する逸失利益等の消極損害の元本との間で,損益相殺的な調整を行うべきものと解するのが相当である。」と判示したものである。 したがって,本件においても,労災保険法に基づく休業補償給付は,休業損害の元本に先に充当されるべきである。 上記判決のうち1審原告の引用する部分は,不法行為によって死亡した被害者の損害賠償 したがって,本件においても,労災保険法に基づく休業補償給付は,休業損害の元本に先に充当されるべきである。 上記判決のうち1審原告の引用する部分は,不法行為によって死亡した被害者の損害賠償請求権を取得した相続人が労災保険法に基づく遺族補償年金の支給を受けるなどしたとして損益相殺的な調整をするに当たって,損害が塡補されたと評価すべき時期をどう解すべきかという別の争点に対する判示であって,損害の元本と遅延損害金のどちらに先に充当すべきかという争点に対する判断ではない。 なお,1審被告が1審原告の労災申請を妨害したことはない。 (4) 消滅時効が成立したために1審原告が受給できなかった労災保険の休業補償給付相当額による損益相殺の可否について(損害賠償- 31 -(休業損害)請求関係)(1審被告)上記2(3)イのとおり,1審原告は,平成14年9月7日以前の休業補償給付について,受給権が時効により消滅したため,これを受給することができなかった。これは,1審原告による労災申請手続の遅れによるものであるが,仮に1審原告の申請手続が遅れることなく,休業補償給付金が支給されていれば,1審被告は損益相殺による損害額の減少という利益を受けられたはずである。このように,労災申請手続の遅れという1審原告側の不手際により1審被告が不利益を被るのは,公平の理念からみて不合理であるから,時効により消滅した休業補償給付金354万4515円が支給されたものとして,損益相殺を行うべきである。 なお,1審被告が1審原告の労災申請手続を妨害したことはない。 (1審原告)受給権が時効により消滅した期間について,現実に1審原告に休業補償給付が支給されていない以上,損益相殺を行うことはあり得ない。 また,1 労災申請手続を妨害したことはない。 (1審原告)受給権が時効により消滅した期間について,現実に1審原告に休業補償給付が支給されていない以上,損益相殺を行うことはあり得ない。 また,1審被告は,安全配慮義務等に違反して1審原告の精神障害を発症させていながら,1審被告自身が労災保険申請手続をとることなく,1審原告の労災申請手続を妨害してきた。したがって,休業補償給付の受給権が時効消滅したのは,1審被告の側に問題があるのであって,1審原告の不手際などではない。 (5) 見舞金の額について(見舞金支払請求関係)(1審原告)- 32 -ア本件見舞金規程に基づく見舞金と慰謝料とを損益相殺することは許されない。 イ 1審被告は,上記損益相殺後の見舞金160万円が認容されるべきであると主張する。 しかし,1審被告は差戻し前の控訴審判決に対して上告や上告受理の申立てを行っておらず,上告審判決は,見舞金支払請求について,1審原告の敗訴部分を破棄するとしたのであるから(上記3(3)イ(ア)),見舞金の額が,差戻し前の控訴審判決が認容した240万円(上記3(2)イ(カ))よりも低額になることはあり得ない。 むしろ,上告審判決で,過失相殺及び素因減額をすることが否定された以上,慰謝料額は,差戻し前の控訴審判決が認定した過失相殺等を行う前の額である400万円(上記3(2)イ(エ))以上となることは確定しているが,差戻し後の控訴審では,破棄差戻しとなった1審原告の敗訴部分である見舞金320万円の請求部分が審理の対象となるのであるから,見舞金を240万円よりも増額する方向で審理がされなければならない。そして,本件では,慰謝料に加えて,見舞金560万円が全額認められるべきである。 分が審理の対象となるのであるから,見舞金を240万円よりも増額する方向で審理がされなければならない。そして,本件では,慰謝料に加えて,見舞金560万円が全額認められるべきである。 (1審被告)上記(2)の1審被告の主張のとおり,過失相殺等を行う前の慰謝料を400万円と認定した差戻し前の控訴審判決の判断は,上告審判決により是認され,既に確定しているから,見舞金560万円と損益相殺すべき慰謝料額は400万円となるので,認容すべき見舞金はその差額の160万円となる。 - 33 -上告審判決は,見舞金と慰謝料とが損益相殺の関係にあるとした差戻し前の控訴審判決を是認しているのであるから(上記3(3)ウ(ウ)),仮に見舞金の額を240万円から減額することが許されないとすれば,見舞金の額は240万円で確定するのであり(上告審判決を前提とする限り,見舞金の額が240万円より増額される余地はない。),見舞金支払請求に関する差戻し前の控訴審判決を破棄する必要はないはずであるが,上告審判決は,見舞金の額が変動し得るとして見舞金請求に関する部分を破棄したのであって,これは,見舞金の額について差戻し前の控訴審判決が認容した240万円を減額することを前提とするものである。 また,当審で見舞金の額を減額したとしても,その分慰謝料額は増額される関係にあるので,1審原告の精神的苦痛を慰謝するための金員の額は,1審原告にとって不利益に変更されるものではない。 (6) 見舞金支払請求権の消滅時効の成否について(見舞金支払請求関係)(1審被告)仮に,上記(1)の争点において,見舞金支払請求権に係る債務が商法514条の「商行為によって生じた債務」に該当すると判断された場合には,上記支払請求権は商法522条の「商行為によって生じ 被告)仮に,上記(1)の争点において,見舞金支払請求権に係る債務が商法514条の「商行為によって生じた債務」に該当すると判断された場合には,上記支払請求権は商法522条の「商行為によって生じた債権」に該当することになる(予備的主張)。 1審原告は平成13年4月頃に本件鬱病を発症したものであるところ,1審原告が見舞金の支払請求をしたのは,発症から5年が経過した後の,差戻し前の控訴審における平成22年7月12日付けの「請求の趣旨の拡張及び原因の追加申立書」によってであるか- 34 -ら,消滅時効が完成している。 1審被告は,平成28年4月15日の差戻し後の控訴審における第1回弁論準備手続期日において,1審原告に対し,上記消滅時効を援用するとの意思表示をした。 (1審原告)1審原告が「権利を行使することができる時」(民法166条1項)とは,1審原告の傷病が業務上のものであるとの公権的判断がされたときと解すべきであるから,1審原告について労災認定がされた平成21年6月11日から消滅時効が進行する。したがって,消滅時効は完成していない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実証拠(甲1,9,10の1ないし4,11,12,13の1ないし10,14,15,16及び17の各1及び2,18ないし20,21の1ないし7,22,23,24ないし27の各1及び2,28ないし46,47の1ないし5,48ないし62,63の1ないし9,64ないし70,71の1ないし7,76,77,78の1ないし3,79,80の1ないし5,81の1ないし9,82の1ないし21,83の1ないし30,84の1ないし5,85ないし97の各1及び2,98ないし110,111の1及び2,112,113の1及び2,114,115の1及び2,116,117ないし119 ないし21,83の1ないし30,84の1ないし5,85ないし97の各1及び2,98ないし110,111の1及び2,112,113の1及び2,114,115の1及び2,116,117ないし119の各1及び2,120ないし125,126の1ないし75,127の1ないし3,130ないし135,136の1ないし8,137ないし160,172ないし174,179,181ないし188,194,乙1,4,5,6の1ないし6,7,12- 35 -ないし19,21ないし23,29,32,34,42,1審証人A,同B,1審における1審原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (1) 1審原告は,平成2年4月に1審被告に雇用されて入社した。 1審原告は,社内において,与えられた仕事に関して真面目に取り組む努力家であるとされていた。 1審原告は,平成10年1月に1審被告の液晶ディスプレイ等を製造する工場(本件工場)に異動となり,液晶生産事業部(以下「本件配属部」という。)の一つの技術部門を担当する課に配属となり,平成12年から平成14年にかけての直属の上司は,上記の配属課の課長であった。 (2) 1審被告は,本件工場において,遅くとも平成12年11月頃から,当時世界最大のサイズのガラス基板を用いる液晶ディスプレイの製造ラインを構築するプロジェクト(以下「本件プロジェクト」という。)を立ち上げ,「垂直立上げ」という標語を掲げ,人材を集中させて平成13年4月までの短期間で成功することを目指していた。本件プロジェクトにおける1審原告を含む技術担当者の主な業務は,設備メーカーと共同で製品の良品率や生産性を向上させるために製造装置の運転条件を調整する作業であった。 1審原告は,本件プロジェクトの一つの工程において初めてプロジェクト 術担当者の主な業務は,設備メーカーと共同で製品の良品率や生産性を向上させるために製造装置の運転条件を調整する作業であった。 1審原告は,本件プロジェクトの一つの工程において初めてプロジェクトのリーダーになった。1審原告は,本件プロジェクトへの従事中,休日に出勤することも多く,帰宅が午後11時を過ぎることも増えた。 1審原告は,入社後5年目くらいから不眠の症状が現れ,平成- 36 -9年及び平成11年の定期健康診断(以下,各種の健康診断はいずれも1審被告におけるものをいう。)で生理痛を訴えていたが,平成12年5月の健康診断で不眠を訴え,同年6月,本件工場の診療所で不眠症と診断されてこれに適応のある○を処方され,同月の定期健康診断で易疲労,首の痛み,生理痛等を訴え,経過観察とされた。また,1審原告は,同年7月,自宅近くの内科の医院で慢性頭痛と診断され,筋収縮性頭痛,抑鬱及び睡眠障害に適応のある○錠,神経症における抑鬱に適応のある○錠等を処方され,同年8月にも不眠を訴えて上記医院を受診した。さらに,1審原告は,1審被告が開設する社外の電話相談窓口に相談したのを契機に,同年12月,神経科の医院(以下「本件医院」という。)を受診し,頭痛,不眠,車酔いの感覚等を訴え,神経症と診断されて○錠を処方された。 (3) 本件プロジェクトは,平成13年1月(以下,月又は月日のみを記載するときは全て平成13年である。),様々な工程においてトラブルが発生して遅れが生じたため,1審原告が担当する作業も遅れた。 1審原告は,2月,繰り返し開催された対策会議に参加し,その会議において,本件配属部の部長に次ぐ地位にある参事から,自らが担当する工程の作業につき設定した期間について遅いと言われてこれを短縮するよう指示された。1審原告は,前倒しは無理で 議に参加し,その会議において,本件配属部の部長に次ぐ地位にある参事から,自らが担当する工程の作業につき設定した期間について遅いと言われてこれを短縮するよう指示された。1審原告は,前倒しは無理である旨答えたが,会議の出席者らが上記参事に異議を述べたり1審原告に助言をしたりすることはなかった。 本件プロジェクトは,3月1日の時点で,当初の計画よりも4週間遅れており,1審原告の担当する工程においても,同月中旬- 37 -に装置のトラブルが発生し,1審原告はその対応に追われた。1審原告は,同月6日に試作品の良品率を改善するための製造条件の調整を行うよう指示を受けたが,2日後の会議でその検討状況の報告をしなかったところ,本件配属部の総合調整担当の主務からデータと詳細なスケジュールを提出するよう厳しく督促され,翌日午前1時過ぎまでかかってデータの収集等を行って上記のスケジュールを記載した書面を提出した。 1審原告は,本件プロジェクトの立上げ後,4月までの間に,平成12年12月に75時間06分,1月に64時間59分,2月に64時間32分,3月に84時間21分,4月に60時間33分の時間外労働(法定の労働時間を超える時間における労働をいう。以下同じ。)をそれぞれ行っていた。 (4) 1審原告は,3月15日及び4月24日,1審被告において労働時間が一定の時間を超えた従業員につき実施される時間外超過者健康診断を受診し,自覚症状として頭痛,めまい,不眠が時々あるなどと回答したが,1審被告の産業医(以下,単に「産業医」という。)は,いずれも特段の就労制限を要しないと判断した。 1審原告は,4月11日,本件医院を受診し,不眠等を訴え,不安感や抑鬱気分も認められ,○錠を処方されたが,鬱病に罹患しているとの確定的な診断はされていなかった。1審原告は 限を要しないと判断した。 1審原告は,4月11日,本件医院を受診し,不眠等を訴え,不安感や抑鬱気分も認められ,○錠を処方されたが,鬱病に罹患しているとの確定的な診断はされていなかった。1審原告は,3月ないし4月頃,ふらふらと疲れているという自覚を持っていたが,そのことを職場の同僚等に言ったことはなかった。 (5) 1審原告の担当する工程においては,3月末日までに製造ラインを稼働させる計画が変更されて業務量も減少していたことなどから,5月,技術担当者が1名減員されたが,この減員の理由は- 38 -1審原告には説明されなかった。課長は,同月中旬から,1審原告に対し,従前の本件プロジェクトの業務に加え,異種の液晶ディスプレイ(以下「異種製品」という。)の開発業務及び液晶ディスプレイにおける特定の技術上の支障に関する問題(以下「技術支障問題」という。)の対策業務を担当するよう指示した。 1審原告は,5月以降,引き続き本件プロジェクトに携わるとともに,異種製品の開発に関する会議にも出席したが,その開発の詳細な内容を知らされておらず,また,製品の出荷に向けて開発過程につき社内の承認を得るためのプロセス開発承認会議(以下「承認会議」という。)を担当した経験がなかったことから,異種製品の開発に関する知識の習得とともに,準備に通常2,3か月を要する承認会議のための資料の作成等に相当の時間を割くことになった。1審原告は,5月頃から,同僚の技術担当者から見ても,体調が悪い様子で,仕事を円滑に行えるようには見えなかった。 1審原告は,課長から技術支障問題に関する会議にも出席するよう命ぜられ,5月15日に行われたその会議に出席したが,その後,異種製品の開発業務だけでも相当の業務量があるとして,技術支障問題の対策業務の担当を断った。その後,1審原 題に関する会議にも出席するよう命ぜられ,5月15日に行われたその会議に出席したが,その後,異種製品の開発業務だけでも相当の業務量があるとして,技術支障問題の対策業務の担当を断った。その後,1審原告は,同月22日,承認会議に向けた打合せに出席し,翌23日,有給休暇を取得したが,激しい頭痛に見舞われ,その週の残りの日を欠勤した。1審原告は,翌週の28日,課長に電話をかけ,頭痛等の体調不良のためその週の全日を休むと伝えて欠勤し,予定されていた承認会議に出席できなかった。1審原告は,6月4日,出勤したところ,担当を断った技術支障問題の対策業務について- 39 -自分が担当者とされていることを知り,再度その業務の担当を断った。 (6) 1審原告は,6月から,頭痛,不眠,疲労感等の症状が重くなったため,定時に退社したり,本件医院に定期的に月数回の通院を始めて抑鬱等に適応のある○錠等の処方を受けるようになった。 1審原告は,6月7日,時間外超過者健康診断を受診し,自覚症状として頭痛,めまいがいつもあり,不眠等が時々ある旨回答した。その際,産業医は,1審原告から,体調を崩して1週間休んでいたが課長からもう大丈夫だろうと言われて仕事を増やされた旨を聞いたが,「まあ,1週間休んだということで。」と述べ,それ以上の対応をしなかった。1審原告は,同月12日,定期健康診断を受診し,問診に係る自覚症状について,いつも頭が痛く重い,心配事があってよく眠れない,いつもより気が重くて憂鬱になるなど13項目の欄に印を付けて申告した。 1審原告は,6月下旬頃,体調不良のため,課長に対し,異種製品の開発業務の担当を断ろうとしたが,課長の了解を得ることができなかった。 1審原告は,7月初旬,異種製品の開発に関する関係部署への説明や会議資料の作成等に追われ, 不良のため,課長に対し,異種製品の開発業務の担当を断ろうとしたが,課長の了解を得ることができなかった。 1審原告は,7月初旬,異種製品の開発に関する関係部署への説明や会議資料の作成等に追われ,同月5日の承認会議及び同月6日の当該製品に係る関係部署の承認を得るための会議に出席し,当該製品について承認を得た。1審原告は,これらの会議等の後に体調を崩し,同月9日に欠勤した後,課長に対し,異種製品の開発業務に関する1審原告の担当業務の範囲を限定するよう求め,課長もこれを了承したが,後任者が決まらなかったため,- 40 -上記の担当業務の範囲は限定されない状態が続いた。 1審原告は,7月中旬頃,頭痛のために眠ることができず,頭痛薬を連日服用するようになった。1審原告は,同月17日,時間外超過者健康診断を受診し,自覚症状として頭痛,めまい,不眠がいつもある等と回答した。 1審原告は,7月28日から8月6日まで有給休暇等を利用して休養をとり,翌7日に出勤したが,会社にいることが嫌でたまらなく,なぜこんなに苦しいのに働くのかという思いになり,この頃,課長や同僚の技術担当者からは,元気がなく席に座って放心したような状態であるなど普段とは違う様子であると認識され,大丈夫かと声をかけられたことがあった。 (7) 1審原告は,8月10日に課長に勧められて1審被告のメンタルヘルス相談を受診し,同月11日から同月15日まで夏季休暇を利用して療養した後,同月24日に本件医院からしばらく休んで療養するようにと助言されたのを受けて,9月3日に1か月の休養を要する旨を記載した本件医院の診断書を提出して休暇の手続を執り,同月末まで休暇を取得して勤務に就かなかった。 1審原告は,10月1日から1週間にわたり出勤したが,頭痛が生じたため再び療養することとし, る旨を記載した本件医院の診断書を提出して休暇の手続を執り,同月末まで休暇を取得して勤務に就かなかった。 1審原告は,10月1日から1週間にわたり出勤したが,頭痛が生じたため再び療養することとし,同月9日以降,抑鬱状態で約1か月の休養を要するなどと記載した本件医院の診断書をほぼ毎月提出して欠勤を続け,定期的な上司との面談等を経て,職場復帰の予定で平成14年5月13日に半日出勤したが,翌日から再び上記と同様に欠勤を続けた。 1審被告は,1審原告の欠勤期間が就業規則の定める期間を超えた平成15年1月10日,1審原告に対し,休職を発令し,定- 41 -期的な上司との面談等を続けたが,その後も1審原告が職場復帰をしなかったため,平成16年8月6日,1審原告に対し,休職期間の満了を理由とする解雇予告通知をした上,同年9月9日付けで解雇の意思表示をした。 (8) 労災保険法に基づく休業補償給付等の支給に係る請求の審査手続において作成された平成17年12月5日付けの埼玉労働局地方労災医員協議会精神障害専門部会の意見書において,本件鬱病の発症時期は平成13年4月頃とされている。 2 争点に対する判断(1) 1審原告は年6分の割合による遅延損害金を請求することができるか否か(全請求関係)ア 1審被告は,差戻し前の控訴審判決は,損害賠償(休業損害を除いた慰謝料等)請求権及び見舞金支払請求権の遅延損害金の利率をいずれも年5分として認容していたのに,1審原告は上告受理申立理由書でこの点を争っていなかったのであるから,上記利率を年6分と主張して請求を拡張することは紛争の蒸し返しであって許されないなどと主張する。 そこで,まず,上記各請求のうち,上告審判決の言渡しによって確定した部分(1審原告の勝訴部分)に係る遅延損害金請 して請求を拡張することは紛争の蒸し返しであって許されないなどと主張する。 そこで,まず,上記各請求のうち,上告審判決の言渡しによって確定した部分(1審原告の勝訴部分)に係る遅延損害金請求についてみると,1審原告は,年5分の割合による請求が一部請求であると明示していたわけではないから,上記遅延損害金請求の全体について既判力が生じており,差戻し後の控訴審において,これが年6分であると主張することは許されないことになる。 他方で,上記各請求のうち破棄差戻しの対象となった部分(休- 42 -業損害に係る損害賠償請求を含む)についてみると,差戻し後の控訴審の審理は,差戻し前の控訴審の口頭弁論の続行として行われるのであるから,差戻し後の控訴審において,1審原告が上記部分の遅延損害金を年6分であると主張して請求を拡張することが紛争の蒸し返しになるものとはいえない。また,上記請求の拡張は,附帯請求についての訴えの追加的変更に当たるところ,請求の基礎に変更はないと解されるし,これにより著しく訴訟手続を遅滞させることとなるものということもできないから,上記請求の拡張は適法であり,許されるものということができる(1審被告の主張するような時機に後れた攻撃防御の問題ではない。)。 イ(ア) そこで,安全配慮義務違反による損害賠償請求権の遅延損害金の利率について検討すると,上記義務違反に基づく損害賠償債務は,それ自体として,商法514条にいう「商行為によって生じた債務」に該当するということはできないし,また,契約上の基本的な債務の不履行に基づく損害賠償債務は,本来の債務と同一性を有するものであるが,安全配慮義務は,特定の法律関係の付随義務として一方が相手方に対して負う信義則上の義務であって,この付随義務の不履行による損害賠償請 基づく損害賠償債務は,本来の債務と同一性を有するものであるが,安全配慮義務は,特定の法律関係の付随義務として一方が相手方に対して負う信義則上の義務であって,この付随義務の不履行による損害賠償請求権は,付随義務を履行しなかった結果により積極的に生じた損害についての賠償請求権であり,付随義務履行請求権の変形物ないし代替物であるとはいえないから,安全配慮義務違反に基づく損害賠償債務は,安全配慮義務と同一性を有するものではないと解するのが相当である(前掲最高裁判所平成6年2月22日第3小法廷判決参照)。そう- 43 -すると,1審原告と1審被告の雇用契約が商行為に当たるとしても,同契約の付随義務である安全配慮義務違反による損害賠償請求権に係る債務が商法514条の「商行為によって生じた債務」に該当するとみることはできない。 したがって,安全配慮義務違反による損害賠償請求権の遅延損害金の利率について,商法514条の適用はないことになる。 (イ) 次に,見舞金支払請求権の遅延損害金の利率について検討すると,証拠(甲235)によれば,上記見舞金を規定している本件見舞金規程は,社員の業務上の傷病に対する見舞金,社員の住居の被災に対する災害見舞金及び社員又はその家族の死亡に対する弔慰金について定めることを目的として制定されたものであり(1条),また,見舞金は,同規定の定める要件を満たした場合に社員に対して贈与するものされていること(3条(1),4条1項)が認められる。このような本件見舞金規程の目的や見舞金の性質等に照らすと,同規程に基づく見舞金支払債務が商法514条の「商行為によって生じた債務」に該当すると解することはできないから,見舞金支払請求権の遅延損害金の利率について,同条の適用はないことになる。 ウ以上のとおりであるから, 支払債務が商法514条の「商行為によって生じた債務」に該当すると解することはできないから,見舞金支払請求権の遅延損害金の利率について,同条の適用はないことになる。 ウ以上のとおりであるから,結局,1審原告は,安全配慮義務違反による損害賠償請求及び見舞金支払請求において年6分の割合による遅延損害金を請求することはできず,したがって,この点に関する1審原告の主張は,採用することができない。 (2) 慰謝料額(損害賠償(休業損害を除いた慰謝料等)請求関係)- 44 -ア 1審被告は,差戻し前の控訴審判決による慰謝料額の認定につき,1審原告が上告受理申立書で事実誤認を主張したのに対し,最高裁判所によって上告を受理すべき理由から排除されたから,差戻し前の控訴審判決の上記判断は既に確定している旨主張する。 しかしながら,上告受理申立てにおいて,重要でないと認める上告受理申立ての理由を排除することができるとされているのは(民事訴訟法318条3項),これにより,審理の対象を明らかにし,当事者の訴訟活動の焦点を絞るためであって,上告受理申立理由の排除はそれ以上の何らかの効力を有するものではないと解され,慰謝料額の認定に関する上告受理申立ての理由が排除されたとしても,そのことによって差戻し前の控訴審判決の判断が確定するわけではないから,上告審判決によって,損害賠償請求に係る1審原告敗訴部分が破棄されて差し戻された以上は,差戻し後の控訴審において,慰謝料額を増額することが許されなくなるものではないと解するのが相当である。 以上のとおりであるから,1審被告の上記主張は採用することができない。 イそこで,慰謝料額について検討すると,上記1で認定した事実によれば,1審原告が平成13年4月頃に本件鬱病を発症する以前の数か月間はも あるから,1審被告の上記主張は採用することができない。 イそこで,慰謝料額について検討すると,上記1で認定した事実によれば,1審原告が平成13年4月頃に本件鬱病を発症する以前の数か月間はもとより,発症後においても,1審原告の業務の負担は相当過重なものであり,この間,1審原告は,体調不良を理由に,課長に対し業務の軽減を申し出たが,聞き入れてもらえず,1審被告の産業医の対応にも問題があったと考えられ,本件鬱病は現在でも寛解していないというのである(弁論の全趣旨)。 - 45 -他方,1審原告には休業損害として賃金相当額の損害賠償金が支払われることになるし,1審被告の同年8月下旬以降の対応には安全配慮義務違反があるとはいえず,1審被告は,1審原告の職場復帰のために相応の努力をしたこと(弁論の全趣旨)が認められること,その他本件に現れた諸般の事情を総合すると,本件における慰謝料額は400万円と認めるのが相当である。 なお,1審原告は,課長のパワーハラスメントによって本件鬱病が悪化した旨主張するところ,慰謝料額を検討するに当たって課長の対応が問題とされるべきであることは上記のとおりであるが,これをもってパワーハラスメントに当たるとまで認めるに足る証拠はない。 以上のとおりであるから,慰謝料額は1500万円を下回らないとする1審原告の主張は採用することができない。 (3) 労災保険法に基づく休業補償給付を休業損害に係る遅延損害金債務に充当することができるか否か(損害賠償(休業損害)請求関係)ア労災保険法に基づく休業補償給付は,労働者が業務上の事由等による負傷又は疾病により労働することができないために受けることができない賃金を塡補するために支給されるものであるから(1条,14条),塡補の対象となる損害と同性質で 給付は,労働者が業務上の事由等による負傷又は疾病により労働することができないために受けることができない賃金を塡補するために支給されるものであるから(1条,14条),塡補の対象となる損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する関係にある休業損害の元本との間で損益相殺的な調整を行うべきであるが,休業損害に対する遅延損害金に係る債権は,飽くまでも債務者の履行遅滞を理由とする損害賠償債権であって,遅延損害金を債務者に支払わせることとしている目的は,休業補償給付の目的とは明らかに異なるものである- 46 -から,休業補償給付による填補の対象となる損害が,遅延損害金と同性質であるということも,相互補完性があるということもできない。したがって,遅延損害金との間で損益相殺的な調整を行うことは相当ではないというべきである(最高裁判所平成22年9月13日第1小法廷判決・民集64巻6号1626頁,前掲最高裁判所平成27年3月4日大法廷判参照)。 また,休業補償給付は,塡補の対象となる損害が現実化する都度ないし現実化するのに対応して定期的に支給されることが予定されていることなどを考慮すると,制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り,その填補の対象となる損害はそれが発生した時,すなわち,本件でいえば,各月分の休業損害について,これが発生する翌月25日(本来の賃金の支払期日。前記「1審被告の損害賠償責任等」(1)イ(イ)ⅰ)に填補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが公平の見地からみて相当であるというべきである(上記各判決参照)。 なお,1審原告は,上記の特段の事情がある場合には,休業補償給付を休業損害の遅延損害金に先に充当すべきである旨主張する。しかしながら,上記の特段の事情が いうべきである(上記各判決参照)。 なお,1審原告は,上記の特段の事情がある場合には,休業補償給付を休業損害の遅延損害金に先に充当すべきである旨主張する。しかしながら,上記の特段の事情があるからといって,休業補償給付による填補の対象となる損害が,遅延損害金と同性質のものとなったり,相互補完性が生じるわけではないから,休業補償給付を休業損害の遅延損害金に充当するのは相当ではなく,単に,休業損害が発生する本来の賃金の支払期日に遡って同損害(元本)が塡補されたものとして損益相殺的な調整をすることができなくなるにすぎないと解するのが相当である。したがって,- 47 -1審原告の上記主張を採用することはできない。 イ別紙1の労災保険給付一覧表(当事者間に争いがない)によれば,支給期間が平成13年9月4日(実際には平成14年9月8日分から(前記「前提事実」(3)イ))から平成16年7月30日までの休業補償給付672万0012円は,支給期間の末日から5年近く経過した平成21年6月11日に支給決定がされており,また,支給期間が平成16年7月31日から平成20年7月31日までの休業補償給付合計1419万7482円は,支給期間から約5年ないし約1年が経過した平成21年7月23日に支給決定がされているところ,厚生労働省の関係通達では,本件のような精神疾病についての休業補償給付の標準処理期間(行政手続法6条)が8か月とされていることなどを踏まえると,上記の支給期間に係る休業補償給付は,制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞したというべきであるから,これらの支給期間の休業補償給付に対応する休業損害が発生する本来の賃金の支払期日に遡って同損害が塡補されたものとして損益相殺的な調整をすることはできないものというべきである。他方 うべきであるから,これらの支給期間の休業補償給付に対応する休業損害が発生する本来の賃金の支払期日に遡って同損害が塡補されたものとして損益相殺的な調整をすることはできないものというべきである。他方で,支給期間が平成20年8月1日以降の休業補償給付については,別紙1の労災保険給付一覧表記載の支給状況に照らすと,制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情があるとはいえないから,これらの支給期間の休業補償給付に対応する休業損害が発生する本来の賃金の支払期日に遡って同損害(元本)が塡補されたものとして損益相殺的な調整をするのが相当である(別紙1の証拠欄記載の各証拠によれば,1日当たりの休業補償金の額は9711円であることが認め- 48 -られるが,例えば,平成20年8月分の休業補償給付30万1041円(=9711円×31日)は,平成21年7月23日に支給決定がされたが,平成20年8月分の賃金の支払期日である同年9月25日に支給されたものとして計算することになる。)。 そうすると,別紙2の計算書記載のとおり,口頭弁論終結日である平成28年6月20日の時点おける休業損害の額は3528万5995円となり,また,同日までの確定遅延損害金は1657万4531円となる。 (4) 消滅時効が成立したために1審原告が受給できなかった労災保険の休業補償給付相当額による損益相殺の可否(損害賠償(休業損害)請求関係)1審原告の労災申請手続が後れたために休業補償給付の受給権が時効によって消滅したとしても,1審原告に労災申請をすべき義務があるわけでもないから,1審原告が現実に休業補償給付の支給を受けていない以上は,時効により消滅した休業補償給付金が支給されたものとして損益相殺を行うことはできないというべきである。 をすべき義務があるわけでもないから,1審原告が現実に休業補償給付の支給を受けていない以上は,時効により消滅した休業補償給付金が支給されたものとして損益相殺を行うことはできないというべきである。 したがって,1審被告の主張は採用することができない。 (5) 見舞金の額(見舞金支払請求関係)ア 1審原告は,見舞金と慰謝料とを損益相殺することは許されない旨主張する。 しかし,上告審判決は,損害賠償請求に関する1審原告敗訴部分を破棄して差し戻せば,差戻し後の控訴審において,本件見舞金規程に基づく見舞金の額から控除される慰謝料の額等が審理の対象となり,その額も変動し得るので,損害賠償請求に- 49 -関する差戻し前の控訴審判決の法令の違反は見舞金支払請求に関しても判決に影響を及ぼすことが明らかであるとして,見舞金支払請求についても破棄して差し戻すこととしたものと解されるのであって(前記「本件訴訟の経緯」(3)ウ(ウ)),上記判断は,見舞金と慰謝料とが損益相殺されるべき関係にあることを前提とするものとみるのが相当であるところ,かかる法律上の判断は当裁判所を拘束するもの(民事訴訟法325条3項後段)と解するのが相当である。したがって,1審原告の上記主張を採用することはできない。 イそして,上記(2)で検討したとおり,本件における相当慰謝料額は400万円であるから,見舞金の額は,1審原告が本件見舞金規程上請求し得る見舞金560万円(前記「1審被告の損害賠償責任等」(2))から慰謝料400万円を損益相殺により控除した160万円となる。 この点について,1審原告は,見舞金の額を160万円とすることは,見舞金請求のうち1審原告の敗訴部分のみを破棄した上告審判決に反する旨主張する。しかしながら,上告審判決は,慰 となる。 この点について,1審原告は,見舞金の額を160万円とすることは,見舞金請求のうち1審原告の敗訴部分のみを破棄した上告審判決に反する旨主張する。しかしながら,上告審判決は,慰謝料について,過失相殺等を理由に減額することは許されないとした上で(前記「本件訴訟の経緯」(3)ウ(ア)),上記アのとおり,見舞金と慰謝料とが損益相殺されるべき関係にあることを前提に,見舞金支払請求についても破棄差戻しをしているものと解されるから,上告審判決は,差戻し後の控訴審において,見舞金の額が減額されることを想定しているものということができる。したがって,認容すべき見舞金の額を160万円とすることは,上告審判決に反することにはならないとい- 50 -うべきである。よって,1審原告の上記主張は採用することができない。 ウ以上のとおりであるから,見舞金の額は160万円となる。 (6) 見舞金支払請求権の消滅時効の成否(見舞金支払請求関係)上記(1)イ(イ)で検討したとおり,見舞金支払請求権に係る債務が商法514条の「商行為によって生じた債務」に該当するとはいえないから,本争点についての判断は不要である。 (7) 認容すべき損害賠償額及び見舞金の額ア損害賠償額について(ア) 損害賠償(休業損害を除いた慰謝料等)請求(前記「控訴の趣旨」1(2))について上記損害のうち,治療費,診断書作成料及び交通費を合計した額は,前記「1審被告の損害賠償責任等」(1)イ(ア)ⅰのとおり,43万4000円である。これに上記(2)の慰謝料400万円を加えると443万4000円となる。そして,この金額のほか,後記(イ)のとおりの休業損害も認められるべきものであること,本件事案の内容や本件訴訟の経緯等に照らすと,1 上記(2)の慰謝料400万円を加えると443万4000円となる。そして,この金額のほか,後記(イ)のとおりの休業損害も認められるべきものであること,本件事案の内容や本件訴訟の経緯等に照らすと,1審被告の債務不履行と相当因果関係のある損害としての弁護士費用相当額は160万円と認めるのが相当である。 そうすると,休業損害を除いた慰謝料等の合計は603万4000円となる。 したがって,債務不履行による損害賠償(休業損害を除いた慰謝料等)請求について,損害賠償金603万4000円及びこれに対する遅延損害金請求を認容すべきことになる。 なお,1審原告は,次の(イ)の休業損害の一部を含め,訴状- 51 -送達の日である平成16年12月10日あるいはそれ以前の日からの遅延損害金を請求しているが,債務不履行である安全配慮義務違反による損害賠償債務は,期限の定めのない債務であるところ,同日に送達された訴状及び平成16年12月6日付け訴状訂正申立書では,これらの損害の一部についてのみ支払を求めており,その余の損害については,その後に提出した訴えの変更申立てに係る文書で支払を催告していたものである。そうすると,債務不履行による損害賠償請求権に係る遅延損害金としては認容することのできない部分もあることになるが,本件では不法行為も成立するので(前記「1審被告の損害賠償責任等」(1)ア),この部分については,不法行為による損害賠償請求権に係る遅延損害金請求として認容することとする。 (イ) 損害賠償(休業損害)請求(前記「控訴の趣旨」1(3),(4))について上記(3)のとおり,口頭弁論終結日である平成28年6月20日の時点での休業損害は3528万5995円であり,これに対して確定遅延損害金1657万4531円が発生しているから, 4))について上記(3)のとおり,口頭弁論終結日である平成28年6月20日の時点での休業損害は3528万5995円であり,これに対して確定遅延損害金1657万4531円が発生しているから,これらの合計額は5186万0526円となる。したがって,債務不履行による損害賠償(休業損害)請求として,まず,この合計額5186万0526円及び損害賠償金3528万5995円に対する同月21日から支払済みまでの遅延損害金請求を認容すべきことになる。 また,このほか,同月25日(同年5月分)から本判決確定の日まで,毎月25日限り損害賠償金47万3831円及びこ- 52 -れらに対する各月26日から支払済みまでの遅延損害金請求を認容すべきことになる。 イ見舞金の額(前記「控訴の趣旨」1(5))について見舞金については,上記(5)のとおり,160万円とこれに対する遅延損害金請求を認容すべきことになる。なお,1審原告は,訴状送達の日である平成16年12月10日からの遅延損害金を請求しているが,見舞金支払債務は,期限の定めのない債務と解されるところ(本件見舞金規程(甲235)には,見舞金の支払期日に関する規定はない。),1審原告が1審被告に対して見舞金を請求したのは,差戻し前の控訴審において提出した平成22年7月12日付けの「請求の趣旨の拡張及び原因の追加申立書」によってであるから,遅延損害金の起算日は,同申立書が1審被告に送達された日の翌日であることが記録上明らかな同月22日となる。 ウ上記のいずれの請求についても,遅延損害金の利率は,上記(1)のとおり,年5分となる。 3 結論以上に認定,説示したところによれば,①損害賠償(休業損害を除いた慰謝料等)請求は,損害賠償金603万4000円及びこれに対する平成16年 率は,上記(1)のとおり,年5分となる。 3 結論以上に認定,説示したところによれば,①損害賠償(休業損害を除いた慰謝料等)請求は,損害賠償金603万4000円及びこれに対する平成16年12月10日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で(主文1項(1)),②損害賠償(休業損害)請求は,平成28年6月20日までの損害賠償金(休業損害)と確定遅延損害金を合わせた5186万0526円及びうち損害賠償金3528万5995円に対する同月21日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める部分(同(2))並びに同- 53 -月25日から本判決確定の日まで,毎月25日限り月額47万3831円の損害賠償金及びこれらに対する各月26日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める部分について(同(3)),③見舞金支払請求は,見舞金160万円及びこれに対する平成22年7月22日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で(同(4)),いずれも理由があるからこれらを認容し,他方で,上記各請求に係るその余の部分はいずれも理由がないからこれらを棄却することとする。なお,上記①及び②(損害賠償)の認容額のうち,損害賠償金2224万2373円及びこれに対する平成16年12月10日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を認容する部分は,1審原告の控訴に基づいて1審判決を変更するものであり(前記「本件訴訟の経緯」(1)ア及びイの各(エ)),上記①及び②のその余の認容部分(損害賠償)並びに上記③(見舞金)は,1審原告の当審における新たな請求に基づくものである(同(2)ア(オ),(カ))。 これに対し,1審被告の控訴は理由がないから,これを棄却することとする。 よって,主文の 主文 に上記③(見舞金)は,1審原告の当審における新たな請求に基づくものである(同(2)ア(オ),(カ))。これに対し,1審被告の控訴は理由がないから,これを棄却することとする。よって,主文のとおり判決する。 理由 東京高等裁判所第9民事部 裁判長裁判官奥田正昭 裁判官石井浩 裁判官三村義幸

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