- 1 - 主文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。 理由 上告代理人高橋淳、同壇俊光、同宮川利彰の上告受理申立て理由(ただし、排除された部分を除く。)について 1 本件は、被上告人が、上告人に対し、上告人の行為が被上告人の有する特許権を侵害すると主張し、上告人の行為の差止め及び損害賠償等を求める事案であり、我が国の領域外から領域内にインターネットを通じてファイルを送信することなどにより、我が国の領域外に所在するサーバと領域内に所在する端末とを含むシステムを構築する上告人の行為が特許法2条3項1号にいう「生産」に当たり、我が国の特許権を侵害するかが問題となっている。 2 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。 ⑴ 被上告人は、発明の名称を「コメント配信システム」とする特許(特許第6526304号)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有しており、当該特許の特許請求の範囲における請求項1及び2に記載された各発明(以下「本件各発明」という。)は、システムの発明である。 本件各発明は、動画及び動画に対してユーザが書き込んだコメントを表示する端末装置と当該端末装置に当該動画や当該コメントに係る情報を送信するサーバとをネットワークを介して接続したシステムに関するものであって、動画上に表示されるコメント同士が重ならないように調整するなどの処理を行うものであり、コメントを利用したコミュニケーションにおける娯楽性の向上という効果を奏する。 ⑵ 上告人は、米国ネバダ州法に基づいて設立された法人であり、インターネッ令和5年(受)第2028号特許権侵害差止等請求事件令和7年3月3日第二小法廷判決 る娯楽性の向上という効果を奏する。 ⑵ 上告人は、米国ネバダ州法に基づいて設立された法人であり、インターネッ令和5年(受)第2028号特許権侵害差止等請求事件令和7年3月3日第二小法廷判決- 2 -トを利用した動画配信サイトの運営等を業としている。 上告人は、我が国に在住するユーザに向けて、インターネットを通じ、複数の動画共有サービス(以下「本件各サービス」という。)を提供している(なお、一部のサービスに係る事業は、令和2年9月、第三者に譲渡されたが、論旨に関係する事情ではない。)。本件各サービスは、動画の再生に併せてユーザによって書き込まれたコメントが表示されるものである。 ⑶ 上告人は、本件各サービスを提供するため、米国内で、ウェブサーバ、コメント配信用サーバ及び動画配信用サーバを設置管理しているところ(ただし、一部のサービスに係る動画配信用サーバは、第三者が設置管理するものであり、我が国に所在する場合と所在しない場合があり得る。)、そのうちのウェブサーバから、インターネットを通じ、ユーザが使用する我が国所在の端末に対し、HTMLファイル及びプログラムを格納したファイル(JavaScriptファイルなど)を配信している(以下、この配信を「本件配信」という。)。 本件配信は、ユーザが、我が国所在の端末を使用し、本件各サービスに係る動画を視聴するための各ウェブページ(以下「本件各ページ」という。)にアクセスすると、前記プログラムを格納したファイル等を米国所在の前記ウェブサーバから送信し、当該端末にダウンロードさせるものである。 本件配信がされると、前記端末は、前記ファイルの記述に基づき自動的に(ただし、動画再生ボタンの押下を要する場合がある。)、インターネットを介して接続された前記動画配信用サーバ及びコメント配信用サー 本件配信がされると、前記端末は、前記ファイルの記述に基づき自動的に(ただし、動画再生ボタンの押下を要する場合がある。)、インターネットを介して接続された前記動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバにそれぞれ動画及びコメントに係るデータファイルを要求し、これらのファイルを受信してコメント同士が重ならないように調整した上、動画にコメントを重ねて前記端末上で表示するなどの処理を行うことになり、前記端末と前記動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバとを含む本件各発明の技術的範囲に属するシステム(以下「本件システム」という。)が構築される。 3 所論は、上告人は我が国の領域外で本件配信をする行為をしているにすぎ- 3 -ず、また、本件システムの一部は我が国の領域外にあることからすると、本件配信が、本件システムを構築するものであるとしても、特許権についての属地主義の原則に照らし、我が国の特許権の効力が及ぶ行為に当たらないというべきであるのに、本件配信により本件システムを構築する行為が特許法2条3項1号にいう「生産」に当たるとした原審の判断には法令の解釈適用の誤り及び判例違反があるというものである。 4⑴ 我が国の特許権の効力は、我が国の領域内においてのみ認められるが(最高裁平成12年(受)第580号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁参照)、電気通信回線を通じた国境を越える情報の流通等が極めて容易となった現代において、サーバと端末とを含むシステムについて、当該システムを構築するための行為の一部が電気通信回線を通じて我が国の領域外からされ、また、当該システムの構成の一部であるサーバが我が国の領域外に所在する場合に、我が国の領域外の行為や構成を含むからといって、常に我が国の特許権の効力が及ばず、当該システムを構築するため 外からされ、また、当該システムの構成の一部であるサーバが我が国の領域外に所在する場合に、我が国の領域外の行為や構成を含むからといって、常に我が国の特許権の効力が及ばず、当該システムを構築するための行為が特許法2条3項1号にいう「生産」に当たらないとすれば、特許権者に業として特許発明の実施をする権利を専有させるなどし、発明の保護、奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に沿わない。そうすると、そのような場合であっても、システムを構築するための行為やそれによって構築されるシステムを全体としてみて、当該行為が実質的に我が国の領域内における「生産」に当たると評価されるときは、これに我が国の特許権の効力が及ぶと解することを妨げる理由はないというべきである。 ⑵ 本件配信は、プログラムを格納したファイル等を我が国の領域外のウェブサーバから送信し、我が国の領域内の端末で受信させるものであって、外形的には、本件システムを構築するための行為の一部が我が国の領域外にあるといえるものであり、また、本件配信の結果として構築される本件システムの一部であるコメント配信用サーバは我が国の領域外に所在するものである。しかし、本件システムを構築するための行為及び本件システムを全体としてみると、本件配信による本件シス- 4 -テムの構築は、我が国所在の端末を使用するユーザが本件各サービスの提供を受けるため本件各ページにアクセスすると当然に行われるものであり、その結果、本件システムにおいて、コメント同士が重ならないように調整するなどの処理がされることとなり、当該処理の結果が、本件システムを構成する我が国所在の端末上に表示されるものである。これらのことからすると、本件配信による本件システムの構築は、我が国で本件各サービスを提供する際の情報処理の過程としてされ、 の結果が、本件システムを構成する我が国所在の端末上に表示されるものである。これらのことからすると、本件配信による本件システムの構築は、我が国で本件各サービスを提供する際の情報処理の過程としてされ、我が国所在の端末を含む本件システムを構成した上で、我が国所在の端末で本件各発明の効果を当然に奏させるようにするものであり、当該効果が奏されることとの関係において、前記サーバの所在地が我が国の領域外にあることに特段の意味はないといえる。そして、被上告人が本件特許権を有することとの関係で、上記の態様によるものである本件配信やその結果として構築される本件システムが、被上告人に経済的な影響を及ぼさないというべき事情もうかがわれない。そうすると、上告人は、本件配信及びその結果としての本件システムの構築によって、実質的に我が国の領域内において、本件システムを生産していると評価するのが相当である。 以上によれば、本件配信による本件システムの構築は、特許法2条3項1号にいう「生産」に当たるというべきである。 5 以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、所論引用の前掲平成14年9月26日第一小法廷判決は、本件に適切でない。論旨は採用することができない。 なお、その余の上告受理申立て理由は、上告受理の決定において排除された。 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官草野耕一裁判官三浦守裁判官岡村和美裁判官尾島明)
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