令和1(ワ)16146 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和4年5月19日 東京地方裁判所
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判決文本文23,778 文字)

- 1 -令和4年5月19日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和元年第16146号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和4年2月3日判決 主文 1 被告は、別紙損害金一覧表の「原告」欄記載の原告らに対し、それぞれ対応する同表の「認容額」欄のうち「合計額」欄記載の各金員及びこれらに対する令和元年9月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、原告らと被告との間にそれぞれ生じたもののうち、別紙損害金 一覧表の「原告」欄記載の原告らに対応する「負担割合」欄記載の割合を乗じた部分をそれぞれ同原告らの負担とし、その余の部分を被告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は、別紙請求一覧表の「原告」欄記載の原告らに対し、それぞれ対応する同表の「請求額」欄記載の各金員及びこれらに対する令和元年9月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、順天堂大学(以下「本件大学」という。)の医学部の入学試験を受 験した女性である原告らが、本件大学を運営する学校法人である被告に対し、被告が上記入学試験において、女性という受験者の属性(性別)をもって一律に男性の受験者より厳しい合格基準を設定する合否判定基準(以下「本件判定基準」という。)を用いていたことは、性別による差別を禁止した憲法14条1項等の趣旨に反する不合理な差別的取扱いであり、そのような本件判定基準 の存在を秘して出願の募集をかけ (以下「本件判定基準」という。)を用いていたことは、性別による差別を禁止した憲法14条1項等の趣旨に反する不合理な差別的取扱いであり、そのような本件判定基準 の存在を秘して出願の募集をかけ、募集に応じた原告らに対して上記入学試験- 2 -を受験させたことが不法行為に該当すると主張して、不法行為に基づき、それぞれ受験に要した入学検定料等の費用、慰謝料及び弁護士費用相当額の損害賠償金として、別紙請求一覧表の「原告」欄記載の原告らに対し、それぞれ対応する同表の「請求額」欄記載の各金員及びこれに対する不法行為の後の日(訴状送達日の翌日)である令和元年9月20日から支払済みまで民法(平成29 年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実。なお、以下においては、証拠について枝番を全て挙げる場合には、枝番の記載を省略する。) ⑴ 当事者ア原告らは、それぞれ平成23年度から平成30年度のいずれかの年度又は複数年度にわたって本件大学医学部の入学試験に出願をし、受験をした女性である。 イ被告は、本件大学を運営する学校法人である。 ⑵ 原告らの受験年度及び受験内容原告らは、それぞれ別紙請求一覧表の「受験年度」欄記載の各年度において、本件大学医学部の入学試験である同表の「試験種別」欄記載の各種別試験を受験した(ただし、原告3の平成29年度の一般入学試験A方式及びセンター利用入学試験並びに平成30年度のセンター利用入学試験、原告10 の平成23年度の一般入学試験、センター・一般独自併用入学試験、センター利用入学試験及び地域枠選抜入学試験並びに平成24 ンター利用入学試験並びに平成30年度のセンター利用入学試験、原告10 の平成23年度の一般入学試験、センター・一般独自併用入学試験、センター利用入学試験及び地域枠選抜入学試験並びに平成24年度の地域枠選抜入学試験の受験の有無については、争いがある。)。 ⑶ 原告らが受験した入学試験(各種別試験)の概要ア平成23年度から平成28年度までに実施された一般入学試験及び平成 - 3 -29年度、平成30年度に実施された一般入学試験A方式 募集人員は、平成23年度が53名、平成24年度が54名、平成25年度及び平成26年度が57名、平成27年度が60名、平成28年度が63名、平成29年度が67名、平成30年度が60名であった。 平成29年度及び平成30年度は、一般入学試験につきA方式及びB方 式の2種類が設けられ、このうちA方式が、平成23年度から平成28年度まで実施された一般入学試験に相当する試験である。原告らのうち、一般入学試験B方式を受験した者はいない。 入学検定料はいずれの年度も6万円である。 一次試験及び二次試験によって合否判定が行われる。一次試験は、理 科(200点)、数学(100点)、外国語(200点)の合計500点の学力試験の成績及び評価書を総合的に判断し、合格者が決定される。 二次試験は、小論文試験、面接試験及び一次試験選考結果を総合的に判断し、一次試験合格者の中から合格者が決定される。(乙17、弁論の全趣旨) イ平成24年度及び平成26年度から平成28年度までに実施されたセンター・一般独自併用入学試験 募集人員はいずれの年度も35名である。 入学検定料はいずれの年度も6万円である。 一次試験及び二次試験によって合否判定が行われる。一次 までに実施されたセンター・一般独自併用入学試験 募集人員はいずれの年度も35名である。 入学検定料はいずれの年度も6万円である。 一次試験及び二次試験によって合否判定が行われる。一次試験は、調 査書、大学入試センター試験及び一般独自試験(学力試験)の評価を総合的に判断し、合格者が決定される。二次試験は、小論文試験、英作文試験、面接試験及び一次試験選考結果を総合的に判断し、一次試験合格者の中から合格者が決定される。(乙17、弁論の全趣旨)ウ平成24年度、平成27年度及び平成28年度に実施されたセンター利 - 4 -用入学試験 募集人員はいずれの年度も20名である。(甲1の4)入学検定料はいずれの年度も4万円である。 一次試験及び二次試験によって合否判定が行われる。一次試験は、調査書及び大学入試センター試験の評価を総合的に判断し、合格者が決定 される。二次試験は、小論文試験、英作文試験、面接試験及び一次試験選考結果を総合的に判断し、一次試験合格者の中から合格者が決定される。(乙17、弁論の全趣旨)エ平成27年度に実施された東京都地域枠選抜入学試験 募集人員は10名である。 入学検定料は6万円である。 一次試験及び二次試験によって合否判定が行われる。一次試験は、調査書及び一般独自試験(学力試験)の評価を総合的に判断し、合格者が決定される。二次試験は、小論文試験、大学入試センター試験、面接試験①・面接試験②及び一次試験選考結果を総合的に判断し、一次試験合 格者の中から合格者が決定される。 ⑷ 本件判定基準の発覚及びその概要等ア文部科学省は、平成30年8月、「医学部医学科の入学者選抜における公正確保等に係る緊急調査」を実施し、同年9月4日、そ 者の中から合格者が決定される。 ⑷ 本件判定基準の発覚及びその概要等ア文部科学省は、平成30年8月、「医学部医学科の入学者選抜における公正確保等に係る緊急調査」を実施し、同年9月4日、その結果速報を発表した。同発表によると、被告の実施した本件大学医学部の入学試験にお ける直近6年間の男女別の合格率(合格者数/受験者数)が、男性9.16%に対し、女性が5.50%とされ、男性受験者の合格率が女性受験者の合格率を大きく上回っていた状況が確認されており、その結果を踏まえ、文部科学省は、本件大学に対し、事実関係の調査や関係各方面に対する適切な対応をとるべきことについて要請した。(甲2、3) イ上記要請を受けて設置された学校法人順天堂第三者委員会(以下「本件- 5 -第三者委員会」という。)が調査を実施し、その結果判明した本件判定基準の概要は、次のようなものであった。 平成29年度及び平成30年度の入学試験について一般入学試験A方式の一次試験において、一定の順位以下の受験者(平成29年度につき101位以下、平成30年度につき201位以 下)の受験者に関し、男性受験者と女性受験者との間で、また、浪人年数に応じて、異なる合格判定基準が用いられた。 また、一般入学試験A方式及びB方式、センター・一般独自併用入学試験及びセンター利用入学試験の二次試験において、女性受験者の合格点が男性受験者のそれよりも0.5点高い合格判定基準が用いられた。 平成28年度以前の入学試験について平成28年度以前においても、一般入学試験、センター・一般独自併用入学試験及びセンター利用入学試験において、受験者の性別や浪人年数によって異なる合格判定基準がもうけられている状況は、お 平成28年度以前においても、一般入学試験、センター・一般独自併用入学試験及びセンター利用入学試験において、受験者の性別や浪人年数によって異なる合格判定基準がもうけられている状況は、おおむね上記の平成29年度及び平成30年度と同様であり、本件大学医学部に おいては、遅くとも平成20年以降、上記のような属性によって異なる合格判定基準による入学試験が実施されていた。 ウ本件判定基準の存在については、事前に受験者に対して公表されていなかった。 エ原告らは、いずれも受験した年度の入学試験の一次試験又は二次試験 において、本件大学から不合格の判定を受けた。原告らが受験をした各種別試験の一次試験又は二次試験において、本件判定基準が用いられていなかった場合の合否結果は、別紙損害金一覧表の「合否結果」欄記載のとおりである。(乙1ないし13、弁論の全趣旨)⑸ 原告らが受験をした際に負担した費用 原告らが別紙請求一覧表記載の「試験種別」欄記載の各試験(受験の有無- 6 -に争いのある原告3の平成29年度の一般入学試験A方式及びセンター利用入学試験並びに平成30年度のセンター利用入学試験、原告10の平成23年度の一般入学試験、センター・一般独自併用入学試験、センター利用入学試験及び地域枠選抜入学試験並びに平成24年度の地域枠選抜入学試験を除く。)を受験するに当たって、それぞれ対応する同一覧表記載の「入学 検定料」、「交通費」及び「宿泊費」欄記載の費用を支出した。 2 争点及び争点に関する当事者の主張⑴ 原告3及び原告10についての受験内容(争点1)(原告3及び原告10の主張)別紙請求一覧表「受験年度」及び「試験種別」欄に記載のとおり、原告3 は、平成29年度の一般入学試験A方式及びセ 及び原告10についての受験内容(争点1)(原告3及び原告10の主張)別紙請求一覧表「受験年度」及び「試験種別」欄に記載のとおり、原告3 は、平成29年度の一般入学試験A方式及びセンター利用入学試験並びに平成30年度の一般入学試験A方式及びセンター利用入学試験を受験しており、原告10は、平成23年度の一般入学試験、センター・一般独自併用入学試験、センター利用入学試験及び地域枠選抜入学試験並びに平成24年度の一般入学試験、センター・一般独自併用入学試験、センター利用入学試験 及び地域枠選抜入学試験を受験した。 (被告の主張)原告3が平成30年度の一般入学試験A方式を受験したこと、原告10が平成24年度の一般入学試験、センター・一般独自併用入学試験及びセンター利用入学試験を受験したことは認めるが、その余については否認する。原 告3及び原告10が、主張するその余の受験をした事実は確認することができない。 ⑵ 被告の原告らに対する不法行為責任の有無(争点2)(原告らの主張)ア本件判定基準は、女性受験者の合格基準を男性受験者よりも厳しく設定 することで、女性受験者の合格可能性を男性受験者に比して制限する効果- 7 -をもたらすものであり、性別という受験者個人の意思や努力によってコントロールすることが不可能であって、かつ、医師や医学者となるべき人格・識見を見極めるために無関係な属性を理由として、女性受験者を不利益に取り扱うものである。 本件大学は私立大学であるものの、教育機関として高度に公の性質を有 する存在であるから、被告は、本件大学医学部の入学試験の実施に際し、憲法等の趣旨を尊重した公正かつ妥当な方法によりこれを行うべき責務を負っている。それにもかかわらず、本件判定基準を用い 質を有 する存在であるから、被告は、本件大学医学部の入学試験の実施に際し、憲法等の趣旨を尊重した公正かつ妥当な方法によりこれを行うべき責務を負っている。それにもかかわらず、本件判定基準を用いた入学試験を実施することは、憲法13条、14条1項、26条1項に加えて、女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約第2条e及びf、第10条a及 びb、教育基本法4条1項、学校教育法3条及び大学設置基準2条の2等の法令の趣旨に反する行為であり、合理性も社会的許容性も到底見いだし得ない。 イ被告は、原告らが受験した入学試験の受験者を募集する時点で、既に、上記アのような不合理な差別的取扱いをする内容の本件判定基準を用いて 合否判定を行うことを予定していたにもかかわらず、これを意図的に秘して受験者の募集を行った。そのため、原告らを含む女性受験者は、本件大学医学部の入学試験の合否判定において、女性であることを理由に不合理な差別的取扱いを受けることはないと誤信して入学試験を受験するに至っている。 ウ被告が、本件判定基準を用いた合否判定を行うことを秘して出願の募集をかけ、募集に応じた原告らに対して本件大学医学部の入学試験を受験させたことは、原告らの個人の尊厳を否定し、性別による差別的取扱いを受けない権利及び大学選択に係る自己決定権ないし意思決定の自由を侵害する違法な行為として、原告らとの関係で不法行為に該当するというべきで ある。 - 8 -エ女子寮の収容人数に限界があるということは、医師としての資質や学力の有無とは直接関係のない事情であり、医学部の入学試験の合否判定において性別を理由とする不利益取扱いをする合理的な根拠とはならない。本件大学医学部の学生募集要項にも、女子寮の収容能力や女性の定員に関する記載 直接関係のない事情であり、医学部の入学試験の合否判定において性別を理由とする不利益取扱いをする合理的な根拠とはならない。本件大学医学部の学生募集要項にも、女子寮の収容能力や女性の定員に関する記載はなく、本件判定基準に基づく合否判定は秘密裏に行われていたこ とから、原告らにとって予測不可能な事情であることに変わりはない。 そもそも、本件第三者委員会の調査によれば、本件大学医学部の入学試験の合格者選考会議や教授会において、女子寮の収容人数を具体的な考慮要素として検討された事実は確認されていないというのであるから,本件判定基準に基づく合否判定が、女子寮の収容人数の限界を根拠にしたもの であったとはいえない。 (被告の主張)ア大学は、学問の自由の核心をなす大学の自治の制度的保障を受けるものであるところ、その構成員である学生を試験により選抜することは、大学の自治の本質に関わる問題である。そして、私立大学は、国立大学と異な り、自ら財政基盤を確保しなければならず、私人の寄付財産等によって設立・運営されるものであるから、結社の自由(憲法21条)に基づき、その建学の精神や独自の教育方針による自主性が重んじられるべき民間団体である。また、大学が決定した合格者の中から実際にどれだけの人数が入学するかは個人の諸事情次第であり、合格者数の決定及びその前提とな る合否判定の在り方は、それらの不確定要素を見込んで、各大学が諸般の事情を考慮して行うものであるから、高度の裁量権が認められるべき事柄である。 さらには、大学設置基準2条の2にいう「公正かつ妥当な方法」の基準は法令等で一義的に定められているわけではなく、その具体的内容は明確 でない。 - 9 -イ本件大学においては、集団の中での個の確立と、他を思い遣り、 2にいう「公正かつ妥当な方法」の基準は法令等で一義的に定められているわけではなく、その具体的内容は明確 でない。 - 9 -イ本件大学においては、集団の中での個の確立と、他を思い遣り、慈しむ心を育てるという独自の教育方針により、医学部及びスポーツ健康科学部の1年生が学寮において全寮生活を送ることとされており、これを実現できるように男子寮及び女子寮の室数内に応じた合格者数の調整の必要がある。そして、従前から本件大学の女子寮の入室率は、おおむね満室に近 い状況で推移してきており、被告は、このような状況下で上記の全寮生活を実現するために、医学部の入学試験において性別を理由とする判定基準をもうける必要があると判断した。このように、被告が本件判定基準をもうけた目的は、女性受験者に対する差別的な意図によるものではなく、上記の教育方針を実現することにある。上記アのとおり、合格者数の決定及 びその前提となる合否判定の在り方について被告に高度の裁量権があることを考慮すれば、本件判定基準を用いた入学試験の実施は、その裁量権の範囲内のものとして合理性を有する。 そして、被告は、学生募集要項やアドミッション・ポリシーにおいて何ら虚偽の事実を述べたことはなく、上記のとおり、本件判定基準が合理性 を有するものである以上、学生募集要項等においてこれを明示する必要性もなかったから、出願の募集に当たり原告らに誤信を生じさせたこともない。 ウ仮に、本件判定基準が不合理な差別的取扱いであると評価されるとしても、原告らについては、それぞれ本件判定基準がもうけられていなか った場合でも最終合格をしていた蓋然性がないこと、下記⑶被告の主張アのとおり、本件判定基準の存在を認識していたとしても本件大学医学部を受験する選択をした女性受 件判定基準がもうけられていなか った場合でも最終合格をしていた蓋然性がないこと、下記⑶被告の主張アのとおり、本件判定基準の存在を認識していたとしても本件大学医学部を受験する選択をした女性受験者も数多くいたはずであることから、本件判定基準を用いた合否判定について、原告らが主張する自己決定権等の権利侵害はないというべきである。 エよって、被告には、原告ら主張の不法行為は成立しない。 - 10 -⑶ 原告らの損害の有無及び額(争点3)(原告らの主張)ア入学検定料、交通費及び宿泊費原告らは、本件判定基準を用いた合否判定が行われることを認識していたら、あえて、自らを差別的に取扱い、合格可能性が低くなる本件大学医 学部の入学試験を受験するという選択をするはずもなく、その入学検定料及び交通費といった受験に要する費用を支払うこともなかった。したがって、被告の行為と原告らが被った被告の受験に要する費用分の損害との間には相当因果関係が認められる。 なお、原告5については、受験当時未成年であり、遠方から試験会場に 臨むため、母親(保護者)が同行することは安全上も当然のことであるから、原告5の保護者の交通費及び宿泊費も被告の行為と相当因果関係の認められる損害である。 イ慰謝料被告による不法行為の結果、原告らは、女性を差別する内容の本件判定 基準によって合否判定がされるという入学試験を受験させられており、本件大学医学部の入学試験が公正かつ妥当な方法によって行われているという信頼を裏切られただけでなく、女性であることのみを理由として劣った存在として扱われ、人格的尊厳を傷つけられ、多大な屈辱を感じていることから、被った精神的苦痛は相当大きいものである。したがって、かか る精神的苦痛を慰謝するた であることのみを理由として劣った存在として扱われ、人格的尊厳を傷つけられ、多大な屈辱を感じていることから、被った精神的苦痛は相当大きいものである。したがって、かか る精神的苦痛を慰謝するための金額は、原告ら1名につき、1年度の受験当たり200万円を下らない。 また、原告5については平成24年度一般入学試験、原告6については平成29年度一般入学試験A方式において、いずれも本件判定基準が用いられていなければ一次試験に合格していた。原告5及び原告6は、上記各 試験の二次試験を受験する機会を奪われ、精神的苦痛を被ったから、かか- 11 -る精神的苦痛を慰謝するための金額として、それぞれ350万円を加算すべきである。 ウ弁護士費用被告の行為と相当因果関係の認められる弁護士費用の額は、原告ら1名当たり、各損害額の1割を下らない。 (被告の主張)ア入学検定料、交通費及び宿泊費について本件大学医学部は質の高い教育カリキュラムを有し、卒業生の医師国家試験の合格率も非常に高い一方で、学費に関しても比較的安く設定されていること、本件判定基準が存在していても女性受験者が合格する可 能性は十分あることなどから、本件判定基準の存在を認識していたとしても、本件大学医学部の入学試験の受験を選択した女性受験者は相当数いたはずである。そのため、被告の行為と原告らが主張する入学検定料等の損害との間に因果関係は認められない。 原告5は、本件大学医学部の入学試験を受験するに際し、母親も同行 したことから、母親の交通費及び宿泊費についても被告の行為と相当因果関係の認められる損害であると主張するが、未成年の受験者であっても保護者が同行することが通常であるとはいえないから、原告5の母親の交通費及び宿泊費は被告の行為と相当因 についても被告の行為と相当因果関係の認められる損害であると主張するが、未成年の受験者であっても保護者が同行することが通常であるとはいえないから、原告5の母親の交通費及び宿泊費は被告の行為と相当因果関係の認められる損害とはいえない。 被告は、原告6が支払った平成29年度の一般入学試験A方式の入学検定料6万円を返還しており、原告6の同入学検定料に係る損害は既に填補されている。 イ慰謝料について被告は、原告らに対して積極的に虚偽の情報を伝えた事実はないことな ど本件の事情に鑑みて、仮に被告に不法行為が成立するとしても、原告ら- 12 -が主張するような多額の慰謝料は認められるべきではない。 ウ弁護士費用について争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 前記前提事実に加え、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ⑴ 本件大学の教育方針及びアドミッション・ポリシーア本件大学は、医学部のほか、スポーツ健康科学部、医療看護学部、保健看護学部及び国際教養学部を設置する私立大学であり、本件大学の大学案 内には、学是として「仁」(他を思いやり、慈しむ心)、理念として「不断前進」(現状に満足せず、常に高い目標を目指して努力を続ける姿勢)、学風として「三無主義」(出身校・国籍・性別の差別のないこと)が掲げられている。(乙16)イ被告は、学校教育法施行規則165条の2第1項に基づく「入学者の受 入れに関する方針」(アドミッション・ポリシー)の作成及び公表を行っており、その内容が本件大学医学部の学生募集要項に掲載されている。被告が作成及び公表した平成28年度から平成30年度までのアドミッション・ポリシーには、おおむね以下の内容が記載されて 及び公表を行っており、その内容が本件大学医学部の学生募集要項に掲載されている。被告が作成及び公表した平成28年度から平成30年度までのアドミッション・ポリシーには、おおむね以下の内容が記載されている。(甲4、13、乙17) 求める学生像本件大学医学部は、医学・医療の知識・技能のみならず豊かな感性と教養を持ち、国際社会に役立つ未来を拓く人間性溢れる医師・医学者を養成するため、①1人の人間として、人間と自然を愛し、相手の立場に立つ思いやりと高い倫理観を有する人、②幅広い人間性、柔軟性と協調 性を備えた高いコミュニケーション能力を有する人、③自ら問題を発見- 13 -し、知的好奇心を持って、自主的に課題に取り組むことができる人、④国際的な視点から医学・医療の進歩に貢献しようとする熱意有る人、⑤入学後も、自己啓発・自己学習・自己の健康増進を継続する意欲を有する人を求める。 入学者選抜の基本方針 本件大学医学部は、医師・医学者になろうと努力する学生に対し、6年間で卒業し、ストレートで医師国家試験に合格させるよう教育しますが、単に医師国家試験合格だけを目指すのではなく、国家試験をものともしない、知性と教養と感性溢れる医師・医学者を養成するため、入学者選抜方法として、学力試験のみならず、受験生の感性や医師・医学者 となるべき人物・識見・教養を見極めるために、小論文試験・面接試験を課し、また、小中高に至る活動を知る資料の提出により、総合的な判定に基づき、入学者を選抜する。 ⑵ 本件実施要項文部科学省高等教育局長は、平成29年6月1日、「平成30年度大学入学 者選抜実施要項について(通知)」(以下「本件実施要項」という。)を局長通知として発出した。本件実施要項は、各大学において入学者選抜を 等教育局長は、平成29年6月1日、「平成30年度大学入学 者選抜実施要項について(通知)」(以下「本件実施要項」という。)を局長通知として発出した。本件実施要項は、各大学において入学者選抜を適切に実施することを要請するものであり、各大学における入学者受入れの方針(アドミッション・ポリシー)の策定、入試方法、学生募集要項の作成、入学手続等の在り方について定めている。本件実施要項の「第1 基本方針」には、 「各大学は、入学者の選抜を行うに当たり、公正かつ妥当な方法によって、入学志願者の能力・意欲・適正等を多面的・総合的に判定する。その際、各大学は、年齢、性別、国籍、家庭環境等に関して多様な背景を持った学生の受入れに配慮する。」と記載されている。(甲9)⑶ 文部科学省による調査及び第三者委員会の設置 ア文部科学省は、平成30年8月、医学部医学科を設置する全国公私立大- 14 -学を対象として、「医学部医学科の入学者選抜における公正確保等に係る緊急調査」を実施し、同年9月4日に発表した調査結果を踏まえて、被告に対し、本件大学医学部の入学試験において、受験者の性別等を理由とした格差が存在していることを指摘するとともに、詳細な事実関係の確認、同省への報告、事実関係の自主的公表、入試の改善、不利益を被った受験 者の救済等を要請した。(前提事実⑷ア、甲2、3)イ被告は、平成30年10月18日、文部科学省の上記要請を受けて、本件第三者委員会を設置し、本件第三者委員会は、同日以降、当時平成31年度の入学試験の時期が迫っていたことを踏まえて、まずは直近2年間(平成29年度及び平成30年度)に限定して本件大学医学部の入学試験につ き、本件大学から提供を受けた資料・データの分析、ヒアリングの実施及び情報提 迫っていたことを踏まえて、まずは直近2年間(平成29年度及び平成30年度)に限定して本件大学医学部の入学試験につ き、本件大学から提供を受けた資料・データの分析、ヒアリングの実施及び情報提供窓口の開設といった方法により調査を実施した。(前提事実⑷イ、甲4)⑷ 本件判定基準の内容本件第三者委員会の調査により判明した本件判定基準の詳細は、平成29 年度及び平成30年度につき以下のとおりであり、平成28年度以前につき、その概要は前提事実⑷イのとおりである。 ア女性受験者に厳しい合格判定基準がもうけられた試験種別平成29年度及び平成30年度に実施された本件大学医学部の入学試験は、①一般入学試験A方式、②一般入学試験B方式、③センター・一般 独自併用入学試験、④センター利用入学試験、⑤地域枠選抜入学試験、⑥国際臨床医・研究医枠入学試験(以下)「国際試験」という。)A方式、⑦国際試験B方式、⑧国際試験C方式、⑨国際試験D方式の9個の方式が用いられており、このうち、①ないし④の入学試験において、以下イないしエのような女性等に不利益な合否判定基準(本件判定基準)が設定されて いた。(甲4、5、13、弁論の全趣旨)- 15 -イ一般入学試験A方式一次試験学力試験の試験結果の順位を分類し、一定順位以下の受験者については性別、浪人年数及び評価書記載の評価(Ⓐ及びAないしEの6段階評価。以下、評価書記載の評価を「評価Ⓐ」のようにいう。)を基準とし て合格者が決定される。なお、浪人年数は、受験者が高等学校を卒業した後の経過年数とするが、他大学に通学した経歴を有する受験者については、当該通学年数が浪人年数から差し引かれ、個別事情を総合的に判断する(以下同じ。)。具体的には以下のとおりである 高等学校を卒業した後の経過年数とするが、他大学に通学した経歴を有する受験者については、当該通学年数が浪人年数から差し引かれ、個別事情を総合的に判断する(以下同じ。)。具体的には以下のとおりである。 1から100位まで特別な理由がない限り合格 101から200位まで平成29年度は4浪以下不合格、平成3年度は特別な理由がない限り合格201から300位まで 3浪で評価C以下の男性及び2浪で評価C以下の女性は不合格301から400位まで 2浪で評価C以下の男性及び1浪で評価 C以下の女性は不合格401から500位まで 2浪で評価B以下の男性及び1浪で評価B以下の女性は不合格501から600位まで 1浪で評価C以下の男性及び1浪で評価A以下の女性は不合格 601位以下評価Ⓐ及び評価Aなどの受験者から合格者を検討する二次試験一次試験合格者を一次試験の試験結果の順位ごとに分類し、小論文試験及び面接試験の結果の合計点(最高5.4点)を基準として合格者が 決定された。具体的には以下のとおりである。 - 16 -a 合格者及び補欠1A合格者は以下の判定基準に従って検討された。また、二次試験合格者数(平成29年度は134名程度、平成30年度は120名程度であり、いずれも定員の2倍である。)を超えて以下の合格基準を満たす者は補欠1Aとされた。 1から100位まで 2.5点以上の男性及び3点以上の女性101から200位まで 3点以上の男性及び3.5点以上の女性201から350位まで 3.5点以上の男性及び4点以上の女性351から600位まで 4点以上の男性及び4.5点以上の女性b 補欠1B 補欠1Bは以下の判定基準に従って検討さ 1から350位まで 3.5点以上の男性及び4点以上の女性351から600位まで 4点以上の男性及び4.5点以上の女性b 補欠1B 補欠1Bは以下の判定基準に従って検討された。 1から100位まで 2.5点以上の女性101から200位まで 2.5点以上の男性及び3点以上の女性201から350位まで 3点以上の男性及び3.5点以上の女性351から600位まで 3.5点以上の男性及び4点以上の女性 c 補欠2補欠2は以下の判定基準に従って検討された。 101から200位まで 2.5点以上の女性201から350位まで 2.5点以上の男性及び3点以上の女性351から600位まで 3点以上の男性及び3.5点以上の女性 ウセンター・一般独自併用入学試験一次試験においては、女性等に不利な合否判定基準は設定されていなかった。二次試験においては、一次試験合格者を一次試験の試験結果の順位ごとに分類し、小論文試験、英作文試験及び面接試験の結果の合計点(最高5.65点)を基準として合格者が決定された。具体的には以下のとお りである。 - 17 -合格者及び補欠1A合格者は以下の判定基準に従って検討された。また、二次試験合格者数(平成29年度は56名程度、平成30年度は48名程度であり、いずれも定員の2倍である。)を超えて以下の合格基準を満たす者は補欠1Aとされた。 1から25位まで 2.5点以上の男性及び3点以上の女性26から75位まで 3点以上の男性及び3.5点以上の女性76から125位まで 3.5点以上の男性及び4点以上の女性126から175位まで 4点以上の男性及び4. 26から75位まで 3点以上の男性及び3.5点以上の女性76から125位まで 3.5点以上の男性及び4点以上の女性126から175位まで 4点以上の男性及び4.5点以上の女性 補欠1B 補欠1Bは以下の判定基準に従って検討された。 1から25位まで 2.5点以上の女性26から75位まで 2.5点以上の男性及び3点以上の女性76から125位まで 3点以上の男性及び3.5点以上の女性126から175位まで 3.5点以上の男性及び4点以上の女性 補欠2補欠2は以下の判定基準に従って検討された。 26から75位まで 2.5点以上の女性76から125位まで 2.5点以上の男性及び3点以上の女性126から175位まで 3点以上の男性及び3.5点以上の女性 エセンター利用入学試験一次試験においては、女性等に不利な合否判定基準は設定されていなかった。二次試験においては、一次試験合格者を一次試験の試験結果の順位ごとに分類し、小論文試験、英作文試験及び面接試験の結果の合計点(最高5.65点)を基準として合格者が決定された。具体的には以下のとお りである。 - 18 -合格者及び補欠1A合格者は以下の判定基準に従って検討された。また、二次試験合格者数(平成29年度は30名程度、平成30年度は24名程度であり、いずれも定員の2倍である。)を超えて以下の合格基準を満たす者は補欠1Aとされた。 1から20位まで 2.5点以上の男性及び3点以上の女性21から60位まで 3点以上の男性及び3.5点以上の女性 超えて以下の合格基準を満たす者は補欠1Aとされた。 1から20位まで 2.5点以上の男性及び3点以上の女性21から60位まで 3点以上の男性及び3.5点以上の女性61から80位まで 3.5点以上の男性及び4点以上の女性 補欠1B補欠1Bは以下の判定基準に従って検討された。 1から20位まで 2.5点以上の女性21から60位まで 2.5点以上の男性及び3点以上の女性61から80位まで 3点以上の男性及び3.5点以上の女性 補欠2補欠2は以下の判定基準に従って検討された。 21から60位まで 2.5点以上の女性61から80位まで 2.5点以上の男性及び3点以上の女性⑸ 本件第一次報告書による意見及び提言本件第三者委員会は、平成30年12月3日、本件大学医学部の平成29年度及び平成30年度の入学試験について、上記⑷記載の内容のほか、以下 の内容を含む「緊急第一次報告書」(甲4。以下「本件第一次報告書」という。)を提出した。 ア意見性別を理由とする合否判定について、調査の過程では、①女子寮の収容人数が少ないという問題があり、医学部の女子合格者数を女子寮に収 容可能な一定人数に制限する必要があった、②女性の方が精神的な成熟- 19 -が早く、大学入学前の時点では男性より相対的にコミュニケーション能力が高い傾向があることから、男女間の面接試験結果における成績分布差の補正を行う必要があった、という説明がみられた。 しかし、上記①については、寮生活を前提とする医学部における教育活動が有意義なものであろうことは理解できるものの、本件第三者 結果における成績分布差の補正を行う必要があった、という説明がみられた。 しかし、上記①については、寮生活を前提とする医学部における教育活動が有意義なものであろうことは理解できるものの、本件第三者委員 会において、過去30年間における女子寮の収容人数の変遷及び女子学生の合格者数の変遷等を検証したところ、スポーツ健康科学部の女子学生の入寮開始や定員増に伴う女子学生の人数の増加に伴い、フロアの拡張や女子寮の建設などが行われ、女子寮の収容人数が大きく増加した時期が複数回確認される一方で、女子寮の収容人数に連動したと理解し得 る医学部女子学生の合格者数の増員は確認できなかった。また、本件試験の合格者先行会議又は教授会において、女子寮の収容人数が具体的な考慮要素として説明され、格別に審議された様子も認められず、学生募集要項等の記載等により医学部女子学生の定員が女子寮の収容人数と関連して変動し得ることを判別し得る状況にもない。以上からすれば、 女子寮の収容人数の制限が医学部女子学生に対する不利益な取扱いの理由である旨の説明によって本件判定基準に基づく女性への不利益な取扱いの合理的理由があるとは解し得ない。 上記②については、一般A方式の二次試験として実施された面接試験における女性受験者の平均点と男性受験者の平均点は0.11点か ら0.27点(6年間の平均で0.2点)程度の差にすぎない。そして、面接試験においてはその性質上、受験者個人の資質や特性に伴う差異こそが性差よりも重視されるべきであることも考慮すると、性別を理由とした合格基準の相違の合理性が理由付けられているとはいえない。 したがって、いずれの説明も合理的とはいえず、被告が女性を不利- 20 -益に取り扱う本件判定基準をもうけたことは、本件大学の裁量の 基準の相違の合理性が理由付けられているとはいえない。 したがって、いずれの説明も合理的とはいえず、被告が女性を不利- 20 -益に取り扱う本件判定基準をもうけたことは、本件大学の裁量の範囲を逸脱した不適切な取扱いに当たる。 なお、性別を理由とする不利益取扱いが行われてきた根拠について各教職員それぞれの推測や個人の認識として説明されることはあったが、各根拠の有無や合理性が議論・協議されたり、又はその結果が共 有されたりして、本件大学として統一した見解が確立されていたとは認められない。 浪人年数を理由とする合否判定について、受験者が当該浪人年数に至った事由や大学入学後の伸びしろを含めた能力には個人差が存在すると想定されるところ、それらに関する個別審査の機会を与えずに、 浪人年数に基づく一定の基準のもとに不利益な取扱いがされることに適切な根拠を認めることはできない。本件大学の裁量の範囲を逸脱した裁量の範囲を逸脱した不適切な取扱いに当たる。 イ提言本件大学において、直ちに本件判定基準の運用を廃止し、平成31年 度の入学試験において、公正かつ妥当な方法による入試を確実に実施・遂行すべきである。 本件大学において、本件第一次報告書の内容を吟味検証の上、平成31年度の入学試験における本件大学の対応方針を可及的速やかに公表し、同年度の入学試験の受験者に不安や支障が生じないよう可能な限り の方策を講ずるべきである。 ⑹ 本件第一次報告書に対する本件大学の対応ア本件大学は、本件第一次報告書の提出を受けて、平成29年度及び平成30年度の入学試験について、本件判定基準による不利益な取扱いがなければ一次試験に合格していた者に対しては入学検定料の返還を行 い、本件判定基準がなければ二次試験 受けて、平成29年度及び平成30年度の入学試験について、本件判定基準による不利益な取扱いがなければ一次試験に合格していた者に対しては入学検定料の返還を行 い、本件判定基準がなければ二次試験に合格していた者に対しては追加- 21 -合格を行い、個別に入学の意思を確認するという事後的措置をとる方針を決定した。上記事後的措置の対象者として特定された受験者は、平成29年度の一次試験が50名、二次試験が24名、平成30年度の一次試験が65名、二次試験が24名であり、本件大学は、平成30年12月10日、上記事後的措置の内容等を本件大学のホームページ上に掲載 して公表し、その後、希望者に対して事後的措置の手続がとられた。(甲7、13)イ本件大学は、平成31年度の医学部入学試験において、本件判定基準を廃止した上で試験を実施した。その結果、平成31年度の医学部入学試験の男女別合格率(各種別試験平均値)は、男性受験者が約7.7%である 一方で、女性受験者が約8.3%であった。(甲13)⑺ 本件第三者委員会の最終調査報告書本件第三者委員会は、令和元年10月31日、以下の内容を含む最終調査報告書を提出した。(甲13)ア平成28年度以前の本件大学医学部の入学試験の実施方法、評価方法及 び合否判定方法についても、平成29年度及び平成30年度とおおむね同様の状況であり、本件判定基準は、少なくとも10年程度前から本件大学内で批判なく踏襲されてきたと推認される。 イ緊急第一次報告書に対する本件大学の対応及び本件大学医学部の平成31年度における入学試験の実施状況は、公正かつ妥当なものとして評価 することができるものである。 2 争点1(原告3及び原告10の受験内容)について原告3は平成29年度の一般 成31年度における入学試験の実施状況は、公正かつ妥当なものとして評価 することができるものである。 2 争点1(原告3及び原告10の受験内容)について原告3は平成29年度の一般入学試験A方式及びセンター利用入学試験並びに平成30年度のセンター利用入学試験を、原告10は平成23年度の一般入学試験、センター・一般独自併用入学試験、センター利用入学試験及び地域枠 選抜入学試験並びに平成24年度の地域枠選抜入学試験をそれぞれ受験したと- 22 -主張するが、同各主張に係る受験がされた事実を認めるに足りる証拠はなく、原告3及び10の上記各主張は認められない。 3 争点2(被告の原告らに対する不法行為責任の有無)について原告らは、被告が、女性受験者を差別的に取り扱う本件判定基準の存在を秘して受験者の募集を行い、募集に応じた原告らに対して本件大学医学部の入学 試験を受験させたことが不法行為に該当すると主張しており、これに対して被告は、本件判定基準には合理性があり、これを公表しなかったことも含めて私立大学としての入学者選抜における裁量の範囲内の事柄であるなどと反論していることから、原告らの上記主張の当否について、以下検討する。 ⑴ 本件大学は、私立大学であるところ、学校教育法2条1項は、学校は、国、 地方公共団体及び私立学校法3条に規定する学校法人のみがこれを設置することができることを定め、学校教育法1条は、同法における学校には大学が含まれることを定めているから、学校法人が設置する私立大学も法律に定める学校である。そして、教育基本法6条1項は、「法律に定める学校は、公の性質を有するものであって」と定めており、私立学校(大学)であっても、 公の性質を有するものと考えるのが相当である。 そうすると、私立大 して、教育基本法6条1項は、「法律に定める学校は、公の性質を有するものであって」と定めており、私立学校(大学)であっても、 公の性質を有するものと考えるのが相当である。 そうすると、私立大学の入学試験の合否判定の基準等については、当該大学にその設置目的等に応じた広範な裁量が認められるべきではあるものの、上記のとおり、私立大学であっても、公の性質を有する教育機関として、入学者の選抜に関しても、憲法及びこれを受けた公法上の諸規定の趣旨を尊重 する義務を負っているというべきである。 ⑵ 本件判定基準は、女性受験者を性別という属性のみによって一律に不利益に取り扱うものであるところ、憲法14条1項は、性別による不合理な差別的取扱いを禁止し、また、学校教育法の規定に基づいて定められた大学設置基準2条の2は、公正かつ妥当な方法により入学者を選抜すべき旨を定 めている。ここにいう「公正かつ妥当な方法」が不合理な差別的取扱いを許- 23 -容しないものであることはいうまでもなく、本件実施要項において、公正かつ妥当な方法による入学者の選抜に際し、年齢、性別を含めた属性等に関して多様な背景を持った学生の受入れに配慮することが求められているのも、同様の趣旨を含むものと解される。 そこで、本件判定基準に合理的な根拠があるかについてみると、被告が主 張する女子寮の収容人数の限界という点に関しては、本件第一次報告書において、過去30年間のうちに女子寮の収容人数が大きく増加した時期が複数回確認される一方で、これに連動したと理解し得る医学部女子学生の合格者数の増員は確認できなかったこと、合格者選考会議又は教授会議において、女子寮の収容人数が具体的な考慮要素として説明され、格別に審議 された様子も認められないことなどの具体的指摘が 学生の合格者数の増員は確認できなかったこと、合格者選考会議又は教授会議において、女子寮の収容人数が具体的な考慮要素として説明され、格別に審議 された様子も認められないことなどの具体的指摘があり(認定事実⑸ア)、被告からそれらの指摘に反する的確な主張立証はない。加えて、被告は、女子寮の収容人数を認識し得る立場にある以上、それに応じた定員を定める方法をとることも可能であったのに、そのような方法をとる検討がされた形跡もないことが不自然であり、以上の諸事情を考慮すると、本件判定基準 がもうけられた理由が女子寮の収容人数の限界という点にあったとは認められない。 そして、他に本件大学医学部において本件判定基準がもうけられたことの合理的な根拠は見当たらず、性別という属性のみによって一律に不利益な取扱いをすることは、本来医学部の入学試験の目的であるはずの医師と しての資質や学力の評価とは直接関わりのない事柄によって合否の判定が左右されることになるから、本件判定基準は、不合理な差別的取扱いであるというべきである。 ⑶ 以上を前提に、被告が、本件大学医学部の入学試験について受験者の募集を行った行為が、原告らとの関係で不法行為法上違法なものとなるかについ て検討する。 - 24 -ア本件大学医学部の入学試験による選抜は、被告が学生募集要項を定めて出願の募集をかけ、募集に応じた者が出願書類の提出とともに検定料等を納付し、被告がそれらの者の受験資格の有無等を審査の上、受験票を送付することによって、出願者において入学試験を受験し、被告において学生募集要項等で定めた評価方法、評価基準に従って合否判定をし て、合格者に対しては在学契約の申込み資格を付与するという法律(契約)関係であると解される。 原告ら 験し、被告において学生募集要項等で定めた評価方法、評価基準に従って合否判定をし て、合格者に対しては在学契約の申込み資格を付与するという法律(契約)関係であると解される。 原告らは、被告の上記募集に応じて本件大学医学部の入学試験を受験したものであるところ、原告らにとって、上記入学試験に応募する行為は、いかなる大学で医師ないし医学者になるための教育を受けるかとい う、その後の人生や職業に影響を与え得る極めて重要な意思決定に係る行為であり、応募の有無の選択は、本件大学が学生募集要項等において公表している教育方針や教育環境のほか、入学試験の実施方法・内容等を吟味の上で、自由な意思決定により行われるべきものである。 そうすると、被告には、上記の法律関係に入る前提として、入学試験 に応募するに当たり原告らが誤った情報の下に意思決定を下すことがないように必要な情報を提供すべき信義則上の義務があったというべきである。 イしかし、被告は、本件大学の学生募集要項やアドミッション・ポリシー等において本件判定基準の存在を公表しておらず(前提事実⑷ウ)、かえ って、大学案内では学風として「三無主義」(出身校・国籍・性別の差別のないこと)を掲げるなど(認定事実⑴)、性差のない教育方針をとる姿勢を示している。上記⑴のとおり、被告は、入学試験の実施に際して憲法に定められた平等原則を遵守し、公正かつ妥当な方法によって入学者の選抜を行うべき立場にあることにも鑑みれば、上記のような状況下で、受験者で ある原告らにとって、本件大学医学部の入学試験において性別により合否- 25 -判定の基準に差異がもうけられているなどといった措置はとられていないと信頼するのが通常であり、上記⑵のとおり不合理な差別的取扱いというべき本件判定 学部の入学試験において性別により合否- 25 -判定の基準に差異がもうけられているなどといった措置はとられていないと信頼するのが通常であり、上記⑵のとおり不合理な差別的取扱いというべき本件判定基準の存在については予測可能性がなかったというほかない。そして、被告においても、原告らが上記のような状況におかれていることについて認識し、あるいは容易に認識し得たというべきである。 ウ以上を総合すると、被告が、本件判定基準の存在を秘して出願の募集をかけ、これに応じた原告らに対して本件大学医学部の入学試験を受験させた行為は、上記アの信義則上の義務に反し、原告らにおいて本件大学医学部を受験するか否か、あるいは他の大学を受験するか否かについての意思決定の自由を侵害したものとして、不法行為に該当すると認めるのが相当 である。 4 争点3(原告らの損害の有無及び額)について⑴ 入学検定料、交通費及び宿泊費についてア原告らは、それぞれ別紙請求一覧表記載の「試験種別」欄記載の各試験(原告3の平成29年度の一般入学試験A方式及びセンター利用入学試 験並びに平成30年度のセンター利用入学試験、原告10の平成23年度の一般入学試験、センター・一般独自併用入学試験、センター利用入学試験及び地域枠選抜入学試験並びに平成24年度の地域枠選抜入学試験を除く。)を受験するに当たって、それぞれ対応する同一覧表記載の「入学検定料」、「交通費」及び「宿泊費」欄記載の費用を支出したと認められる (前提事実⑸)。 原告らにおいて、本件大学医学部の入学試験を受験した場合に、合否判定に関して差別的取扱いを受けることを事前に認識していたならば、そのような入学試験を受験することについては心情的に大きな抵抗があったであろうし、競争率の激しい入学受験 学試験を受験した場合に、合否判定に関して差別的取扱いを受けることを事前に認識していたならば、そのような入学試験を受験することについては心情的に大きな抵抗があったであろうし、競争率の激しい入学受験において男性受験者と比較して合格 可能性が低くなることを受け入れてまで積極的に本件大学医学部の入学- 26 -試験を受験したとは考えにくい。さらに、私立大学医学部の入学試験の日程は1月下旬から2月に集中しており,原告らが受験した各年度における本件大学医学部と他の私立大学数校の入学試験の日程が重複等しているため,原告らにとって本件大学医学部と他の私立大学医学部のいずれを受験するかが二者択一になる場面が生ずるという実情もあった(甲26、2 8、29、43、弁論の全趣旨)。そうすると、原告らが本件判定基準の存在を認識していたならば、あえて本件大学医学部の入学試験を受験しないという選択をしたものと推認するのが相当であり、原告らが受験をするために要したと評価される入学検定料、交通費及び宿泊費については、被告の行為と相当因果関係を有する損害であるということができる。 イ上記のうち入学検定料について、原告1が受験した平成27年度の東京都地域枠選抜試験の入学検定料は、当該試験において本件判定基準を用いた合否判定が実施されていないことから(前提事実⑷イ、認定事実⑷ア)、被告の行為と相当因果関係を有する損害と認めることはできない。 また、原告6が支払った平成29年度の一般入学試験A方式の入学検定 料は既に返還されており(乙21)、原告6の同入学検定料に係る損害は既に填補されている。 その余の上記アの原告らの支出に係る入学検定料については、被告の不法行為によって原告らが被った損害と認められる。 ウ上記のう 告6の同入学検定料に係る損害は既に填補されている。 その余の上記アの原告らの支出に係る入学検定料については、被告の不法行為によって原告らが被った損害と認められる。 ウ上記のうち交通費については、原告らが試験会場に赴くため交通機関を 利用した金額につき当事者間に争いがなく、被告の不法行為によって原告らが被った損害と認められる(ただし、原告5及び原告5の保護者の上京のための交通費については下記エで判断する。)。 エまた、上記のうち宿泊費について、原告2は平成30年度の一般入学試験A方式の一次試験、原告4は平成26年度の一般入学試験の一次試験、 原告7は平成25年度の一般入学試験の一次試験の受験日の前日の宿泊- 27 -費を計上するところ、証拠(甲6、17、36ないし42、乙17)及び弁論の全趣旨によれば、上記各試験の会場(最寄り駅は海浜幕張駅)の集合時刻が午前9時25分であり、受験当時東京近郊にあった上記各原告らの居住地からの移動時間の長さ等を考慮して、受験日の前日、試験会場近くに宿泊したことにつき必要性・相当性があったというべきであるから、 上記各原告らが支出した宿泊費は、上記各試験を受験するための費用として、被告の行為と相当因果関係を有する損害と認められる。 原告5が計上する平成23年度の一般入学試験、平成24年度の一般入学試験及び同年度のセンター・一般独自併用入学試験のための交通費及び宿泊費について、証拠(甲43ないし46)及び弁論の全趣旨によ れば、原告5が受験当時兵庫県●●●●に居住しており、かつ、上記各試験を受験するために上京した際、他大学の入学試験を受験した事実もうかがわれないことからすると、原告5が支出した上記各費用は、上記各試験を受験するための費用として、被告の行 住しており、かつ、上記各試験を受験するために上京した際、他大学の入学試験を受験した事実もうかがわれないことからすると、原告5が支出した上記各費用は、上記各試験を受験するための費用として、被告の行為と相当因果関係を有する損害と認めるのが相当である。 もっとも、原告5が計上する上記各年度の母親の交通費及び宿泊費については、保護者の同行がなければ本件大学医学部の受験が困難であったとまでは認められないから、上記各費用について、被告の行為と相当因果関係を有する損害であるとはいえない。 オ以上によると、被告は、原告らに対し、別紙損害金一覧表の「原告」 欄記載の原告らに対応する同表の「入学検定料」、「交通費」及び「宿泊費」の各欄記載の金額について、損害賠償義務を負う。 ⑵ 慰謝料について原告らは、被告の不法行為によって、本件大学医学部を受験するか否か、あるいは他の大学を受験するか否かについて、自由な意思により選択する機 会を奪われ、これにより女性受験者を不利に取り扱う内容の本件判定基準を- 28 -用いた入学試験を受験させられ、上記3⑵のとおり不合理な差別的取扱いを受けたのであるから、大きな精神的苦痛を被ったであろうことは想像に難くない。もっとも、本件第一次報告書の提出を受けて既に本件判定基準は廃止され、本件大学医学部の入学試験について、公正かつ妥当な方法による入学者選抜が実施されるよう是正措置がとられていることは(認定事実⑹ア及び イ)、本件訴訟を提起した原告らにとっても一定程度その精神的苦痛を緩和する意味合いを持つと解されることなど、本件に現れた一切の事情を総合勘案すると、損害賠償として原告ら1名につき1年度の受験当たり30万円の支払を命ずるのが相当である。 なお、原告5及び原告6について、それぞれ を持つと解されることなど、本件に現れた一切の事情を総合勘案すると、損害賠償として原告ら1名につき1年度の受験当たり30万円の支払を命ずるのが相当である。 なお、原告5及び原告6について、それぞれ平成24年度一般入学試験及 び平成29年度一般入学試験A方式において二次試験を受験する機会を奪われたことの精神的苦痛が主張されており、そのような機会喪失に係る苦痛が生じたこと自体は理解することができるものの、本件判定基準がなかった場合に最終合格に至っていた蓋然性までは立証されない以上、これを上記の意思決定の自由の侵害に係る慰謝料とは別に評価すべきものということは できない。 ⑶ 弁護士費用について被告の行為と相当因果関係の認められる弁護士費用の額は,原告らそれぞれにつき,別紙損害金一覧表記載のとおり各原告について認められる慰謝料,入学検定料,交通費及び宿泊費の合計額の1割が相当である。 5 まとめ以上によれば,被告は,別紙損害金一覧表の「原告」欄記載の原告らに対し、それぞれ対応する同表の「認容額」欄のうち「合計額」欄記載の金額及びこれに対する不法行為の後の日(訴状送達日の翌日)である令和元年9月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負 う。 - 29 -第4 結論よって,原告らの請求は主文掲記の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第37部 裁判長裁判官加本牧子 裁判官岩田真吾 裁判官矢 裁判長 裁判官 加本牧子 裁判官 岩田真吾 裁判官 矢崎達彦 別紙当事者目録は記載省略

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