主文 一原判決を取り消す。 二控訴人の所有する原判決別紙物件目録記載の土地に対する平成九年度の固定資産課税台帳登録価格につき、被控訴人が平成九年一一月二〇日付けでした控訴人の審査の申出を棄却する旨の決定は、これを取り消す。 三訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第一控訴の趣旨主文第一及び第二項同旨第二事案の概要事案の概要は、次のとおり補正するほかは、原判決の「第二事案の概要」欄の二頁七行目から五頁九行目までの記載を引用する。 一原判決二頁一〇行目の「行ったが、」から三頁一行目の「ないままで」までを「行ったところ、被控訴人が」と改める。 二原判決三頁七行目の「原告は、」の次に「不動産鑑定士であるところ、」を、四頁三行目の「申出をした」の次に「(以下「本件審査申出」という。)」を、それぞれ加える。 三争点被控訴人は、控訴人に対し、固定資産課税台帳登録価格に対する不服事由を特定して主張するために必要と認められる合理的な範囲で、登録価格評価の手順、方法、根拠等を知らせるべきであるところ、被控訴人が本件審査手続においてこれを履践したかどうかが本件の争点である。 なお、登録価格の相当性も争点たり得るところ、控訴人は、「本訴においては審査手続の違法性のみを主張し、登録価格の相当性についての主張・立証はしない。 仮に、審査手続の違法性がないと判断される場合でも同様である」と主張するので、右のとおりの争点設定となる。ちなみに、被控訴人の登録価格の相当性に関する主張は、別紙準備書面写しに記載のとおりである。 1 控訴人の主張控訴人は、本件土地の登録価格が高額であることを立証するため、①本件土地を市長が評価する際に標準とした代表標準地(本件標準宅地)の位置の特定、②詳細表(乙五の4) とおりである。 1 控訴人の主張控訴人は、本件土地の登録価格が高額であることを立証するため、①本件土地を市長が評価する際に標準とした代表標準地(本件標準宅地)の位置の特定、②詳細表(乙五の4)に記載する「主要」と「その他」の区分、③本件土地の価格形成要因の確認を求めていた。その最中に、被控訴人は、一方的に審理を打ち切り、本件決定をした。右三点が明らかにならなければ、控訴人は、価格評価が的確に行われたか、その結果として登録価格が適正かどうか検討することができない。よって、このような審査手続は、審理を全くしていないのと同様であり、公正を欠き、しかも手続上の瑕疵が重大であるから、取り消されるべきである。 2 被控訴人の主張控訴人は、登録価格については特段の主張をせず、他の事項についてのみいたずらに釈明を求めていたのであり、控訴人は地方税法が予定することとは別の意図をもつて本件審査申出をしているものと考えられ、控訴人の右申出は制度の濫用である。よって、本件審査手続には何らの瑕疵も存しない。 なお、本件標準宅地の位置については、控訴人が固定資産課税台帳を縦覧した際に、筑紫野市市民部税務課職員が関係図面を示して、「221280と付記された黒点付近」であることを説明しているから、位置の特定としては十分である。 第三争点に対する判断一固定資産評価審査委員会による審査手続の意義及び性格等並びに審査申出人に対する固定資産評価の手順、方法及び根拠等の告知の意義については、原判決七頁一行目冒頭の「一」を「1」と、九頁二行目の「二」を「2」と、それぞれ改めるほかは、原判決七頁一行目から一〇頁二行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。 二本件審査手続の経過等前記争いのない事実等及び証拠(乙一五、二三、証人A、同B、後記の書証)によれば ほかは、原判決七頁一行目から一〇頁二行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。 二本件審査手続の経過等前記争いのない事実等及び証拠(乙一五、二三、証人A、同B、後記の書証)によれば、次の事実が認められ、右認定に反する証拠部分は後記の理由により採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠は存しない。 1 控訴人は、平成九年度の固定資産課税台帳の縦覧期間内の同年四月一五日(以下、特に断りのない限り、月日は平成九年である。)、筑紫野市市民部税務課資産税担当窓口において、右台帳を縦覧した。 その際、控訴人は、本件標準宅地の鑑定評価書を請求して閲覧し(所在地番及び所有者に関する部分は伏せられていた。控訴人は、標準宅地調書は閲覧していない。)、各種補正率を書き写したが、地価公示価格から本件標準宅地の価格を規準する際、街路条件に差がつけられていないことから、同月三〇日、審査申出の趣旨欄を空欄にして本件審査申出をしたが、口頭審理の申出はしなかった(乙一)。 なお、控訴人は、本件審査申出の理由欄において、本件標準宅地価格を求めるための、①取引事例からの比準の内訳、②地価公示価格からの規準の内訳、③本件土地の個性率の内訳、④本件土地の平成八年一月一日から同年七月一日までの価格変動率の内訳の開示を求めた(乙一)。 2 被控訴人は、控訴人に対しあらかじめ説明を求めることなく、五月七日付けで、本件審査申出を、「固定資産課税台帳に登録された事項に対する申出ではない」として、却下する決定をした(乙二、一七の1)。 そこで、控訴人は、同月二一日、福岡地方裁判所に対し、右却下決定取消しの訴えを提起した(同庁平成九年(行ワ)第一二号事件・甲一)。 被控訴人は、その後の六月一八日、本件審査申出は登録価格に対する不服であると解して、右却下決定を撤回して書面 所に対し、右却下決定取消しの訴えを提起した(同庁平成九年(行ワ)第一二号事件・甲一)。 被控訴人は、その後の六月一八日、本件審査申出は登録価格に対する不服であると解して、右却下決定を撤回して書面審理に入ることとし(甲二、乙一七の2)、同日、本件土地を現地調査したが、控訴人はこれに参加していない(乙一八)。なお、控訴人は、同月三〇日、右訴えを取り下げた。 3 市長は、同月二三日、被控訴人の指示に従って、答弁書(乙三の1)を提出した。 これによると、本件土地と街路状況等が類似する地域を併用住宅地域として設定し、その代表標準宅地(本件標準宅地)として筑紫野市α四七〇番付近(標準宅地番号一二八)を選定した。公示標準地筑紫野七‐一との地域格差及び付近の取引実例価格から比準した価格一一万七〇〇〇円(一㎡当たり)を決定し、本件土地は右代表標準地内に存在するため、右価格を標準地の価格として認定した。そして、右価格を基本に、路線価付設のため、本件標準宅地が面する前面道路を主要路線と認定し、本件土地が主要路線に面していることから、前記価格一一万七〇〇〇円(一㎡当たり)に時点修正を施した一一万六〇〇〇円の七割の八万一二〇〇円を路線価として付設した。その上で、本件土地の評点数を付設して、本件土地の価格を七万六三六八円(一㎡当たり)と決定した。 右答弁書には、地積図写し(乙三の2。本件土地も記載されている。)及び路線図(乙三の3)が添付されているが、路線図には地番の表示がないことから、本件土地も本件標準宅地も図面上特定できない。 市長は、この他に本件標準宅地の鑑定評価書も被控訴人に提出したが、市長側から、控訴人は縦覧時に右鑑定評価書を閲覧しているとの説明を聞き、被控訴人は、控訴人に、これを除いて関係書類を送付した(乙一七の3)。 4 控訴人は、七月四日、弁 評価書も被控訴人に提出したが、市長側から、控訴人は縦覧時に右鑑定評価書を閲覧しているとの説明を聞き、被控訴人は、控訴人に、これを除いて関係書類を送付した(乙一七の3)。 4 控訴人は、七月四日、弁ばく書・反論書を提出した(乙四の1及び2)。控訴人は、この中で、市長は第三の一1の③及び④には答えているが、同①及び②について釈明していないのでこの点、並びに、加えて、⑤本件標準宅地にかかる標準宅地調書及び⑥土地価格比準表の開示を求めた。 そこで、被控訴人は、同月九日に開催された委員会で、右釈明を求められた点について、市長に答弁を求めることとして、弁ばく書・反論書を市長に送付した。 5 市長は、同月二五日、再答弁書を提出した(乙五の1ないし5)。市長は、前項①、②及び⑥(⑥は「詳細表」(乙五の4)として提出された。)について開示したが、⑤の標準宅地調書については、被控訴人に提出された調書では全部分が開示されていたが、控訴人には、所在地番、住居表示及び所有者名が伏せられたものが開示された。 6 控訴人は、八月二〇日、反論書(2)を提出した(乙六)。控訴人は、次のとおり主張し、求めた。 市長は、縦覧の際は、本件標準宅地は本件土地の真向かいと言っていたが、答弁書ではα四七〇番付近と言い、開示された標準宅地調書では所在地番が伏せられている。これでは公示標準地筑紫野七‐一から本件標準宅地への価格の規準が正しいのかどうか検討できないので、本件標準宅地の位置の特定を求める。また、再答弁書に添付された詳細表の「主要」が本件標準宅地で、「その他」が本件土地なのか、仮にそうだとすると、「その他」の欄の価格形成要因は本件土地と異なるので、その再確認等を求める。 被控訴人は、同月二七日、委員会を開催し、控訴人が釈明を求めている事項について、市長から答弁書を提出さ にそうだとすると、「その他」の欄の価格形成要因は本件土地と異なるので、その再確認等を求める。 被控訴人は、同月二七日、委員会を開催し、控訴人が釈明を求めている事項について、市長から答弁書を提出させることとし、反論書(2)を市長に送付した(乙七、一七の4)。 7 九月一六日、市長は、答弁書(3)を提出した(乙八の1ないし5)。市長の主張は次のとおりである。 (一) 本件標準宅地の位置の特定については、前記自治省通達により、個人のプライバシー保護のため、これ以上の特定はできない。 (二) 本件土地を含む状況類似地区の表示は別添地番図(乙八の3)のとおりである。 (三) 詳細表の「主要」と「その他」は、本件土地は本件標準宅地の前面道路である主要街路に面しているため、「主要」・「その他」はどちらも同じ価格となっているものであり、本件土地は「主要」に面している。 (四) 詳細表に「主要」・「その他」と記載されていることについては、主要街路からその他街路へ価格の比準をする際に使用するもので、当該路線番号「1910410」は「主要」も「その他」も同じ番号となっているため同一のもので、主要路線としての価格設定となっている。 8 控訴人は、答弁書(3)の送付を受けた後の一〇月九日、反論書(3)を提出した(乙九)。 控訴人は、①市長は本件標準宅地を特定していないので、その特定を求める、②詳細表の「その他」欄は本件土地のことか、そうだとすると、街路条件及び環境条件について合計八点の誤りがあると思われるので、その個別的要因の再確認を求める、との釈明を求めた。 9 被控訴人は、同月一五日、三〇日、一一月五日及び一三日、それぞれ委員会を開催して、審議した(乙一七の5ないし8)。 その結果、控訴人の反論書(3)による釈明要求に対しては、これまでの市長の主張で足りる 訴人は、同月一五日、三〇日、一一月五日及び一三日、それぞれ委員会を開催して、審議した(乙一七の5ないし8)。 その結果、控訴人の反論書(3)による釈明要求に対しては、これまでの市長の主張で足りると判断して、これ以上は市長に求めないこととした。そして、控訴人の主張については、具体的な不服理由を述べていないと評価した上で、争点はこれまでに提出された書面から、①固定資産の評価を決定するに当たって採用された標準宅地の鑑定評価価格の正否、②固定資産評価額を決定するに当たって採用された路線価格の正否、③標準宅地と本件土地の格差について、であると設定し、決定手続に入ることとした。 しかし、被控訴人は、市長にこれ以上釈明を求めないこととしたこと、右の争点設定をすること及び決定手続に入ることについて、控訴人に何らの通知・連絡もしていない。 被控訴人は、同月二〇日、市長の行った評価は固定資産評価基準に即して行われているとして本件審査申出を棄却する旨の本件決定をした(乙一〇)。 10 ところで、市長が本件標準宅地であると述べる「筑紫野市α四七〇番付近の土地」は、実際には、四七〇番の枝番数筆のほか元番が四七〇番以外の土地をも含む数筆の土地である。一筆の土地でないことは、標準宅地調書(乙五の3)に記載の画地条件(間口四五m、奥行一七m)を地番図(乙八の3、縮尺1/1000)において照合すると、そのような間口・奥行のある土地が存在していないことからも判明する。なお、控訴人は、縦覧の際に地番図(乙八の3)のような各筆が記載された図面は示されていない。 11 被控訴人委員は三名であるが、不動産鑑定士の資格を有する者等専門家は入っておらず、委員長は元筑紫野市職員で税務課経験もある者、ほか二名も不動産の価格判定は専門外である。 本件審査手続においては、一〇月一五日の は三名であるが、不動産鑑定士の資格を有する者等専門家は入っておらず、委員長は元筑紫野市職員で税務課経験もある者、ほか二名も不動産の価格判定は専門外である。 本件審査手続においては、一〇月一五日の第九回委員会まで、ほぼ毎回のように税務課長を始めとする同課職員の出頭が求められ、被控訴人は、これらの者に市長側の主張を説明させているのに、控訴人からは何らかの事情を聴取することさえ行っていない。 ところで、被控訴人は、控訴人が固定資産課税台帳を縦覧した四月一五日時点で、筑紫野市担当職員が本件標準宅地の概ねの位置を、乙三の3(路線図)の中心付近に二つ表示された黒点のうち「221280」側の黒点付近として示したと原審以来主張し、これに副う証拠(乙一五、証人A)も存するところ、前記認定の経過、就中、乙三の3には地番の記載がなく、特定の地番の土地を指し示すことは困難を伴うことや、控訴人が本件標準宅地の位置について釈明を求めた最初が七月四日付けの弁ばく書・反論書であることに鑑みると、同市職員がそのとおり示したかどうかについては疑問の余地なしとしない。よって、右証拠部分はにわかに採用できない。 三本件審査手続の違法性について 1 本件標準宅地の位置の特定について(一) 固定資産の評価及び価格の決定方法とその根拠並びに本件土地の評価手順は、概ね別紙準備書面の一及び二項に記載のとおりであり、市街地宅地評価法においては、本件標準宅地の価格は、本件土地の価格を決定する上で決定的な意義を有するものである。 (二) それ故、控訴人は、本件標準宅地の位置の特定を求め続けていた。しかるに、市長が被控訴人には本件標準宅地調書及び鑑定評価書のすべてを開示したのに、被控訴人は、控訴人に対し、本件標準宅地の位置を開示しないまま本件決定をしている。 (三) そして、被控訴人が た。しかるに、市長が被控訴人には本件標準宅地調書及び鑑定評価書のすべてを開示したのに、被控訴人は、控訴人に対し、本件標準宅地の位置を開示しないまま本件決定をしている。 (三) そして、被控訴人が開示した「筑紫野市α四七〇番付近の土地」というのも、実は一筆の土地ではなく、元番が四七〇番以外の土地をも含む数筆の土地である。このような数筆の土地の価格を一体として鑑定評価する場合には、一体評価することの妥当性やその際の諸条件を吟味する必要があることは自明であり、被控訴人が、本件標準宅地の位置の特定はもちろん、このような基本的な情報を何ら開示しなかったことは、控訴人の防御を著しく困難なものとさせることが容易に看取できる。 (四) 控訴人は、本件審査申出につき、口頭審理を求めなかったとはいえ、書面審理においても口頭審理においても、被控訴人において審査申出人が不服事由を特定して主張するために必要と認められる合理的な範囲内で評価の手順、方法、根拠等を知らせる措置を講ずることが要請されることに変わりはない。 本件審査手続において、被控訴人は、本件標準宅地の位置を開示しなかったばかりか、控訴人に対し何らの予告の措置を取ることなく、本件決定をしているのであるから、本件決定は、本件標準宅地の位置を開示するよう求め、被控訴人の対応を待っていた控訴人にとっては、予想外の措置であったと言わざるを得ない。 (五) 以上の諸点を考慮すると、本件審査手続は、控訴人の不服事由を主張するために必要不可欠な本件標準宅地の位置及びその筆数が開示されていない点並びに被控訴人の新たな対応を待っていた控訴人に対し(控訴人のこの対応に責められるべき点は認め難い。)何らの予告もせずに予想外の本件決定をした点において、違法というべきであり、その違法性の程度も重大なものといわざるを得ない。 待っていた控訴人に対し(控訴人のこの対応に責められるべき点は認め難い。)何らの予告もせずに予想外の本件決定をした点において、違法というべきであり、その違法性の程度も重大なものといわざるを得ない。 なお、付言するに、被控訴人の委員の構成は前記認定のとおりであって、その人選及び能力の点において、地方税法が固定資産評価審査委員会による審査制度を設けた趣旨に必ずしも合致していない面があると評さざるを得ない。 2 詳細表の「主要」及び「その他」について第三の二7(三)及び(四)の事実によれば、市長の答弁がいささか不明瞭であるものの、本件土地が本件標準宅地の前面道路である主要街路に面しているため、詳細表の「主要」及び「その他」がいずれも主要路線としての記載となっていると理解できるのであって、控訴人の反論書(3)の②の求釈明(第三の二8)は言葉尻をとらえたもので不相当な求釈明と認めるのが相当である。 四結論以上の次第で、本件審査手続には見過ごすことのできない重大な違法が存するというべきであるから、本件決定は取消しを免れない。よって、控訴人の本件訴えは理由があり、これと結論の異なる原判決は不当である。本件控訴は理由がある。 福岡高等裁判所第一民事部裁判長裁判官川本隆裁判官兒嶋雅昭裁判官下野恭裕
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