平成14(行ウ)7 介護保険料賦課額変更請求

裁判年月日・裁判所
平成14年12月17日 神戸地方裁判所
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判決文本文14,275 文字)

判決平成14年12月17日神戸地方裁判所平成14年(行ウ)第7号,同23号各介護保険料賦課額変更請求事件 主文 1 原告の被告兵庫県介護保険審査会に対する裁決取消請求を棄却する。 2 原告のその余の訴えをいずれも却下する。 3 訴訟費用は,原告の負担とする。 事実及び理由 第1 原告の請求 1 被告兵庫県介護保険審査会に対する請求(1) 本件裁決取消請求被告兵庫県介護保険審査会(以下「被告審査会」という。)が,原告に対して平成13年12月11日付けで行った,介護保険料賦課処分にかかる審査請求を棄却した裁決(以下「本件裁決」という。)を取り消す。 (2) 本件変更裁決請求被告審査会は,原告に対し,神戸市東灘区長が平成13年6月14日付けで原告に対して行った,平成12年度分及び同13年度分の各介護保険料賦課処分(以下「本件原処分」という。)について,原告の介護保険料率を第5段階から第3段階に変更する裁決をせよ。 2 被告神戸市長に対する請求(1) 本件原処分取消請求神戸市東灘区長が平成13年6月14日付けで原告に対して行った本件原処分を取り消す。 (2) 本件原処分変更請求被告神戸市長は,原告に対し,神戸市東灘区長が平成13年6月14日付けで原告に対して行った本件原処分について,原告の介護保険料率を第5段階から第3段階に変更せよ。 第2 事案の概要 1 事案の骨子(1) 神戸市東灘区長が平成13年6月14日付けで原告に対して行った本件原処分に不服のある原告が,被告審査会に対し,本件原処分についての審査請求を行ったところ,被告審査会が平成13年12月11 (1) 神戸市東灘区長が平成13年6月14日付けで原告に対して行った本件原処分に不服のある原告が,被告審査会に対し,本件原処分についての審査請求を行ったところ,被告審査会が平成13年12月11日付けで原告に対し,上記審査請求を棄却する旨の本件裁決を行った。 (2) 本件は,原告が,被告審査会に対し,本件裁決は違法であると主張して,本件裁決の取消しと本件原処分を変更する旨の裁決を求め,また,被告神戸市長に対し,神戸市東灘区長の行った本件原処分が違憲・違法であると主張して,本件原処分の取消しとその変更を求める事案である。 2 前提となる事実(末尾に証拠等の記載のない事実は,当事者間に争いのない事実か,明らかに争わない事実である。)(1) 当事者ア原告は,神戸市東灘区に居住する昭和○年○月○日生まれの男性であり,平成13年の誕生日の前日である同年○月○日に,介護保険法9条1号に基づき介護保険の被保険者(第1号被保険者)となった者である。 イ被告審査会は,介護保険法184条に基づき設置された第三者機関であり,行政不服審査法5条1項2号及び同2項後段並びに介護保険法183条1項に基づいて,兵庫県内の市町村が行った介護保険給付に関する処分又は保険料等の徴収金に関する処分について,これに不服を有する者の審査請求を受けて,当該処分の違法性又は不当性を審査・裁決する権限を有する機関である。 (2) 神戸市における介護保険料率等神戸市における,第1号被保険者の平成12年度及び同13年度の介護保険料率は,介護保険法129条2項,介護保険法施行令38条1項,同6項,介護保険法施行規則143条並びに神戸市介護保険条例8条及び同附則3条1項に基づき,当該保険料の賦課期日(当該年度の初日 介護保険料率は,介護保険法129条2項,介護保険法施行令38条1項,同6項,介護保険法施行規則143条並びに神戸市介護保険条例8条及び同附則3条1項に基づき,当該保険料の賦課期日(当該年度の初日。介護保険法130条)における第1号被保険者の区分に応じて,別紙介護保険料率表(概要)記載のとおり5段階に区分されていた。 また,平成12年度の保険料賦課期日(同年4月1日)後に第1号被保険者の資格を取得した場合には,その者の保険料額は,神戸市介護保険条例附則6条1項1号,2項に基づき,資格取得日における別紙介護保険料率表に掲げる被保険者の区分に応じて,該当する保険料率の額を12で除して得た額に2を乗じて得た額を月割額として,資格取得日の属する月から月割り計算で算定されることとなっていた。 そして,以上から算定される保険料の確定金額に10円未満の端数があるときは,その端数金額を切り捨てて最終的な保険料額が定められる(神戸市介護保険条例附則11条1項)(なお,以下では,介護保険制度に関する上記の関係諸法令を総称して「介護保険諸法令」という。)。 (3) 原告の経済状況等ア合計所得金額原告の,地方税法292条1項13号に規定する合計所得金額(以下「合計所得金額」という。)は,平成12年度及び同13年度につき,それぞれ483万8741円,451万1424円であった。 イその他の事情原告は,従来からその妻及び3人の子を扶養しており,長女は平成12年4月より私立大学(4年制)に進学し,長男,次男は平成13年4月よりそれぞれ私立高校,私立中学校(中高一貫)に進学している(甲6,7,19ないし21及び弁論の全趣旨)。 ところで,原告の長女は 大学(4年制)に進学し,長男,次男は平成13年4月よりそれぞれ私立高校,私立中学校(中高一貫)に進学している(甲6,7,19ないし21及び弁論の全趣旨)。 ところで,原告の長女は,高校在学中に日本育英会から57万6000円を奨学金として借用したが,原告はその連帯保証人となっている(甲8)。また,同女は大学進学後の現在も日本育英会から毎月5万円の奨学金の貸与を受け,原告の長男も現在同様に毎月3万円の貸与を受けている(甲6,7)。 原告の家庭の平成12年1月から同年12月までの傷病治療に要した年間医療費は,健康保険組合等の負担部分を除いて,16万8097円であった(甲13)。 (4) 本件原処分神戸市東灘区長は,原告が平成13年3月12日に第1号被保険者の資格を取得したことを受け,同年6月14日付けで,原告の平成12年度の介護保険料額を2350円(介護保険料率は第5段階に該当するとして算定)とすることを決定し,原告に対し,その通知を行った。 また,同区長は,上記同日付けで,原告の平成13年度の介護保険料額を4万2330円(介護保険料率は第5段階に該当するとして算定)とすることを決定し,原告に対し,同様に通知した。 原告は,平成13年6月25日,本件原処分があったことを知った(甲16)。 (5) 被告審査会に対する審査請求と本件裁決ア審査請求原告は,平成13年8月2日,被告審査会に対し,介護保険法183条1項に基づき,本件原処分の取消しを求める審査請求を行った。 その審査請求の理由の要旨は,「原告は,3人の就学者と配偶者の計4人を扶養して高額な家計出費に苦しみ,生活困窮の状態にあるにもかかわらず,神戸 分の取消しを求める審査請求を行った。 その審査請求の理由の要旨は,「原告は,3人の就学者と配偶者の計4人を扶養して高額な家計出費に苦しみ,生活困窮の状態にあるにもかかわらず,神戸市東灘区長が,原告の家計における必要経費を控除しないまま,合計所得金額のみを基準として,原告の介護保険料率を第5段階として介護保険料額を決定した本件原処分には異議がある。」というものであった(甲16,17)。 イ本件裁決被告審査会は,平成13年12月11日,原告の審査請求に対し,これを棄却する旨の本件裁決を行った。その理由の要旨は,「本件原処分は,介護保険諸法令の規定に従って行われており,適法かつ正当な処分であると認められる。」というものであった(甲2の1・2)。 (6) 本件訴訟の提起等原告は,平成14年3月5日,被告審査会を相手方として本件訴訟を提起したが,その弁論終結後の同年6月27日になって,被告神戸市長も本件訴訟の被告とする訴えの追加的併合を申し立てたことから,当裁判所は弁論を再開して審理を続行した。 3 争点(1) 被告審査会に対する請求についてア本件裁決取消請求について(ア) 本件裁決取消請求は,原処分主義に反しない適法な訴えか(争点1)(イ) 本件裁決に,いわゆる裁決固有の瑕疵が存在するか(争点2)イ本件変更裁決請求について(ア) 被告審査会に変更裁決を求める本件変更裁決請求は,適法な訴えか(争点3)(イ) 仮に,本件変更裁決請求が適法な訴えであるとした場合,原告は別紙介護保険料率表記載の第3段階に該当するか(争点4)(2) 被告神戸市に対する請求についてア (イ) 仮に,本件変更裁決請求が適法な訴えであるとした場合,原告は別紙介護保険料率表記載の第3段階に該当するか(争点4)(2) 被告神戸市に対する請求についてア本件原処分取消請求について(ア) 本件原処分取消請求について,被告神戸市長は被告適格を有するか(争点5)(イ) 被告神戸市長が被告適格を有するとした場合,本件原処分は憲法25条及び高齢社会対策基本法4条に反する違憲,違法な処分か(争点6)イ本件原処分変更請求について(ア) 本件原処分変更請求は,いわゆる義務付け訴訟とは異なる適法な訴えか(争点7)(イ) 本件原処分変更請求が適法な訴えであるとした場合,原告は別紙介護保険料率表記載の第3段階に該当するか(争点8) 4 争点に対する当事者の主張(1) 被告審査会に対する請求ア争点1(本件裁決取消請求の訴えの適法性)(被告審査会の主張)(ア) 介護保険料の賦課処分については,いわゆる原処分主義が採用されているから,介護保険料賦課処分の審査請求に対する裁決取消しの訴えにおいて原告が主張できるのは,裁決の違法事由のうち裁決固有の瑕疵に限られる。 (イ) しかるに,原告は,本件裁決取消請求に関し,介護保険制度上の問題点や,被告審査会がその点について審査をしなかったことが違法であると主張するのみで,裁決固有の瑕疵について何ら主張していない。 (ウ) よって,本件裁決取消請求の訴えは不適法な訴えであって,却下されるべきである。 (原告の主張)(ア) 被告審査会は,本件裁決において,介護保険制度の内容やその運営については審査する権限を有しないとして,原告が審査 適法な訴えであって,却下されるべきである。 (原告の主張)(ア) 被告審査会は,本件裁決において,介護保険制度の内容やその運営については審査する権限を有しないとして,原告が審査を求めた介護保険料率の算定基準の不当性について審理を尽くしていない。 (イ) これは,裁決固有の瑕疵に該当する。 (ウ) よって,原告は本件裁決に固有の瑕疵を理由に本件原処分の取消しを求めているのであって,本件裁決取消請求の訴えは適法な訴えである。 イ争点2(裁決固有の瑕疵の有無)(原告の主張)(ア) そもそも,介護保険料額の算定基準を定めるに当たっては,単に合計所得金額だけを基準とするのではなく,家族構成,扶養のための必要経費など保険料負担者の特殊な経済事情を考慮した上で,一定の控除額を設定すべきである。 したがって,原告の介護保険料率及びそれに基づく具体的な介護保険料額を決定する際にも,原告家庭の生活収支状況の実態が十分に考慮されなければならなかった。 (イ) しかるに,本件原処分においては,そのような考慮が全くされないままに介護保険料が決定されている。 それゆえ,原告から,本件原処分においては,上記実態が考慮されていないとして,本件原処分の審査請求を受けた被告審査会は,同審査請求手続において,本件原処分の上記問題点について十分な審理を尽くすべきであった。 (ウ) しかるに,被告審査会は,本件原処分の審査請求手続において,介護保険制度の内容やその運営については審査する権限を有しないとして,原告が審査を求めた介護保険料率の算定基準の不当性について審理を尽くしておらず,本件裁決には審理不尽の違法(手続的瑕疵)がある。 また,仮に,被告審査会に上記問題点に 限を有しないとして,原告が審査を求めた介護保険料率の算定基準の不当性について審理を尽くしておらず,本件裁決には審理不尽の違法(手続的瑕疵)がある。 また,仮に,被告審査会に上記問題点について審査する権能と義務がないというのであれば,原告が審査請求書を提出した時点でその旨を説明し,裁判所への提訴を指導又は教示すべきであったし,原告からのそのような異議申立制度を確立していない行政上の瑕疵責任もある。 (被告審査会の主張)(ア) 一般に,行政不服申立制度における審査庁は,国権の最高機関である国会が制定した法律,法律が委任した政令及び各地方公共団体が制定した条例について,その違憲性,違法性を審査する権限を有していない。その権限は専ら司法権に属するものだからである。 (イ) したがって,介護保険諸法令において,原告が主張するような特別な事情あるいは生活困窮者に対する救済措置事由を斟酌すべきとの定めがあれば格別,介護保険諸法令においてそのような定めがない以上,被告審査会には,原告主張の各事由を斟酌すべき権能と義務はない。 ウ争点3(本件変更裁決請求の適法性)について(被告審査会の主張)(ア) 義務付け訴訟の要件不備a 本件変更裁決請求は,いわゆる義務付け訴訟に該当する。 b 義務付け訴訟が適法に認められるためには,① 行政庁のなすべき行政処分が一義的に定まっており,行政庁の第一義的判断権を尊重する必要がないほど明白であること,② 原告に回復し難い損害が生ずる緊急の必要性があること,③ この損害を避けるためには他に法的手段がないこと,以上の3要件を充たす必要がある。 c ところが,本件変更裁決請求は,上記①ないし③のいずれの要件も充 が生ずる緊急の必要性があること,③ この損害を避けるためには他に法的手段がないこと,以上の3要件を充たす必要がある。 c ところが,本件変更裁決請求は,上記①ないし③のいずれの要件も充たしておらず,不適法な訴えであるから,却下されるべきである。 (イ) 行政不服審査法40条5項の「上級行政庁」ではないa 被告審査会は,市町村の要介護認定にかかる処分又は保険料にかかる処分等に不服がある者が申し立てた請求につき審査するため,都道府県に設置された第三者機関であり,本件原処分を行った神戸市東灘区長との関係で,行政不服審査法40条5項の「上級行政庁」には該当しない。 b よって,被告審査会は,市町村の行った介護保険料賦課処分が介護保険諸法令に照らして違法又は不当であると認めて当該処分の全部又は一部を取り消すことはできても,同項にいう「変更の裁決」を行う権限を有しているわけではない。 c すなわち,被告審査会が原告の介護保険料率を第5段階から第3段階に変更する旨の裁決を行うことは法律上許されないことであって,そのような法律上許されない裁決を義務付けられるものではない。 (原告の主張)(ア) 義務付け訴訟ではないa 本件変更裁決請求は,そもそも義務付け訴訟の範疇に含まれない。 b すなわち,義務付け訴訟とは,法令に基づく申請の拒否処分に対して,その取消し訴訟に併せて請求するものであり,それは,①例外的に拒否処分の取消し判決において,②違法とされる拒否理由以外の理由によって再び同一の拒否処分をする余地がなく,処分をすべき行政庁の義務が一義的に明白であり,かつ③事前の司法審査によらなければ,権利救済が得られず,回復し難い損害を及ぼす 法とされる拒否理由以外の理由によって再び同一の拒否処分をする余地がなく,処分をすべき行政庁の義務が一義的に明白であり,かつ③事前の司法審査によらなければ,権利救済が得られず,回復し難い損害を及ぼすというような緊急の必要がある場合に限って適法となるというものである。 c ところが,本件変更裁決請求は,申請拒否処分に対するものではなく,その他の要件も充たしていないから,義務付け訴訟の範疇に含まれず,不適法な訴えとなる余地はない。 (イ) 「上級行政庁」ではないと主張することは許されない被告審査会は,同審査会は行政不服審査法40条5項の「上級行政庁」に該当しないので,変更の裁決を行えないというが,そうであれば,これまで原告の審査請求書を受理したり書類審査を行ってきたことには法的根拠がないことになるはずであって,いまさらそのようなことをいうのは,法律論で市民を屈服させようというもので許されない。 エ争点4(原告の介護保険料率の段階)(原告の主張)(ア) 原告は,本件原処分の当時,既に65歳の高齢者であるにもかかわらず,3人の就学期の子を扶養しなければならず,生活費だけでなく,その授業料などの教育費,妻も含めた家族5人の医療費など多額の支出が必要な状態であった。原告は,これらの支出を賄うために現在も働いているが,その雇用契約も1年契約で身分が不安定な上,過去6年間昇級もない状況である。 しかも,長女の18歳到達による厚生年金支給額の減額措置などもあって,原告の収入総額も減少する状況にある。 このように原告家庭の家計は苦しく,原告の毎月の給料だけではすべてを賄いきれないため,長女らは日本育英会から奨学金を受けており,このように原告は借金までして将来の納税 少する状況にある。 このように原告家庭の家計は苦しく,原告の毎月の給料だけではすべてを賄いきれないため,長女らは日本育英会から奨学金を受けており,このように原告は借金までして将来の納税や公的負担を担える社会人を育てているのである。 原告が高齢にもかかわらず働いているのは,このような削減不可能な教育費の支出があるからである。 (イ) よって,上記のような原告の特別事情を考慮し,現実の介護保険料負担能力を踏まえれば,原告の介護保険料率としては,別紙介護保険料率表の第3段階が適切な段階というべきである。 (被告審査会の主張)原告の平成12年度及び同13年度の合計所得金額に基づいて,介護保険諸法令を正しく適用すれば,原告の介護保険料率の段階は第5段階となるのであって,原告の主張は採用できない。 (2) 被告神戸市長に対する請求ア争点5(本件原処分取消請求の訴えにおける被告神戸市長の被告適格の有無)(被告神戸市長の主張)(ア) 行政事件訴訟における取消訴訟は,処分をした行政庁を被告として提起しなければならないところ,本件原処分の処分庁は,地方自治法153条,区長委任規則4条の2第3号に基づき被告神戸市長から権限の委任を受けた神戸市東灘区長である。 (イ) そうすると,本件原処分取消請求の訴えにおいて,被告適格を有するのは神戸市東灘区長であり,被告神戸市長は被告適格を有しない。それゆえ,原告の被告神戸市長に対する訴えは不適法であるから,却下されるべきである。 (原告の主張)そもそも本件原処分が問題となるのは,神戸市介護保険条例が定める介護保険料の算定基準において,扶養親族等の多い家族構成に対する現実の家庭生活状況に対する配慮が欠け (原告の主張)そもそも本件原処分が問題となるのは,神戸市介護保険条例が定める介護保険料の算定基準において,扶養親族等の多い家族構成に対する現実の家庭生活状況に対する配慮が欠けていることに基因し,本件原処分も同条例に従って行われていることからすると,神戸市介護保険条例の制定責任者の立場にありながら,このような不合理,不当な内容の条例を改正すべく議会に議案を提出等しない被告神戸市長は,本件原処分取消請求における被告適格を十分に有している。 イ争点6(本件原処分の違憲性,違法性)(原告の主張)(ア) 憲法25条は国民の生存権を定め,また,これに関連する法令として高齢社会対策基本法が定められ,同法4条は,高齢者対策に関し,地方公共団体が国と協力しつつ当該地域の社会的,経済的状況に応じた施策を策定,実施すべきことをその責務として定めている。 (イ) ところで,神戸市介護保険条例及び同附則は,介護保険料賦課額の算定根拠として地方税法に定める合計所得金額のみを掲げ,原告のように高齢でありながら4人の扶養家族を抱えて真に生活に困窮している者について,家庭生活維持に必要な諸経費等の控除を認めていない。これは,上記憲法25条及び高齢社会対策基本法4条に反するものである。 (ウ) しかるに,神戸市東灘区長は,かかる違憲,違法な神戸市介護保険条例及び同附則を杓子定規に適用して,原告家庭の家計の状況など特別な事情を何ら考慮せず,平成12年度及び同13年度の合計所得金額のみに基づいて原告の介護保険料率を決定したのである。 (エ) よって,本件原処分は,違憲,違法であって,取り消されるべきである。 (被告神戸市長の主張)(ア) 憲法25条は,福祉国家の理念に基づく国家の責務 定したのである。 (エ) よって,本件原処分は,違憲,違法であって,取り消されるべきである。 (被告神戸市長の主張)(ア) 憲法25条は,福祉国家の理念に基づく国家の責務を宣言したものであるが,その具体化は立法府の広い裁量に委ねられており,法令等が著しく合理性を欠き明らかに立法府の裁量を逸脱し,又はその濫用といえる場合を除いては,同条違反の問題は生じない。 また,高齢社会対策基本法4条は,高齢者対策に関する地方公共団体の責務を抽象的に定めたものであるが,その具体化は各地方公共団体の広い裁量に委ねられており,条例等が著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用があると認められる場合以外には,本条に反することにはならないというべきである。 (イ) ところが,原告の上記指摘する点だけでは,神戸市介護保険条例及び同附則が著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用があるとはいえない。 (ウ) よって,原告が違憲・違法と主張する神戸市介護保険条例及び同附則の規定は,憲法25条及び高齢社会対策基本法4条に反するものとはいえない。 ウ争点7(本件原処分変更請求の訴えの適法性)(被告神戸市長の主張)(ア) 本件原処分変更請求は,行政庁に行政処分を命じるいわゆる義務付け訴訟に該当する。 (イ) 行政事件訴訟法に規定のないこの訴えは,三権分立制度との関係上, ① 行政庁が当該処分をすべきことについて法律上覊束されており,行政庁に自由裁量の余地が全く残されていないために,第1次的判断権を行政庁に留保することが必ずしも重要でないことが明らかに認められ,② 事前審査を認めないことによる損害が大きく,事前の救済の緊急の必要性が顕著であり,③ 他に適切な救済方法がないという各 的判断権を行政庁に留保することが必ずしも重要でないことが明らかに認められ,② 事前審査を認めないことによる損害が大きく,事前の救済の緊急の必要性が顕著であり,③ 他に適切な救済方法がないという各要件を充たし,行政庁に一定の作為を命じても行政機関の第1次的判断権を害さない場合においてのみ認められるというべきである。 (ウ) しかるに,本件において,原告は,これらの要件について,それを充たしているとの主張もしておらず,本件訴えは不適法であるから,却下されるべきである。 (原告の主張)(ア) いわゆる義務付け訴訟も適法な訴えである。 (イ) すなわち,義務付け訴訟によらなければ権利救済が困難な場合にはこのような訴訟類型を認める必要性がある上,義務付け訴訟も訴訟である以上は,行政庁が第1次判断権を行使したことを前提として裁判所がそれを事後的に審査するのであるから,三権分立には反しない。 そして,少数者の憲法上の権利を擁護するためには,裁判所が事後審査として違憲審査権を行使し,本件原処分の不当性について審理することが必要である。 (ウ) よって,本件原処分変更請求の訴えは,適法な訴えである。 エ争点8(原告の介護保険料率の段階)(原告の主張)争点4における原告の主張に同じ(被告神戸市長の主張)(ア) 介護保険諸法令は,第1号被保険者の課税及び所得の状況並びに被保険者の属する世帯員の課税状況に応じ,原則として5段階の保険料率を設定し,所得の多いものには高く,所得の少ない者には低くなるように保険料率を定めているところ,被告神戸市長は,介護保険法施行令の定める基準に従い,神戸市介護保険条例によって保険料率を定めている。 定し,所得の多いものには高く,所得の少ない者には低くなるように保険料率を定めているところ,被告神戸市長は,介護保険法施行令の定める基準に従い,神戸市介護保険条例によって保険料率を定めている。 (イ) 神戸市東灘区長は,介護保険諸法令の定めるところに従い,原告の平成12年度及び同13年度の合計所得金額を基に,原告の介護保険料率は第5段階に該当すると判断し,本件原処分の通知を行ったものである。 (ウ) 以上のとおり,原告の保険料率は介護保険諸法令に基づき適法に決定されているのであって,原告が第3段階に該当するとの原告主張には何ら根拠がない。 第3 当裁判所の判断 1 被告審査会に対する請求について(1) 本件裁決取消請求の訴えの適法性(争点1)についてア行政事件訴訟法10条2項は,「処分取消しの訴えと当該処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には,裁決取消しの訴えにおいては,処分の違法を理由として取消しを求めることができない。」として,いわゆる原処分主義を定めている。 ところで,介護保険法は,介護保険料の賦課処分について審査請求が行われた場合に原処分の取消しを求めることを制限していない。したがって,この場合も原処分主義が妥当するため,介護保険料賦課処分の審査請求に対する裁決の取消しを求める場合は,裁決固有の違法以外の理由に基づいてその取消しを求めることができない。 イなお,行政事件訴訟法10条2項の規定は,裁決取消しの訴えにおける違法事由の主張の制限を規定するのみであって,裁決取消しの訴えにおいて,裁決固有の違法を主張することを訴えの適法要件と定めたものではない。 すなわち,裁決取消しの訴えにおいて,原処分の違法事由ばかりを主張し,裁決固有 るのみであって,裁決取消しの訴えにおいて,裁決固有の違法を主張することを訴えの適法要件と定めたものではない。 すなわち,裁決取消しの訴えにおいて,原処分の違法事由ばかりを主張し,裁決固有の違法を主張しない場合でも,裁決取消しの訴え自体は適法に提起できるものであり,ただ,原処分の違法のみを主張する裁決取消しの訴えは,原処分の違法の主張が行政事件訴訟法10条2項により主張自体が失当であるとして,請求棄却の判決をすることになるのであり,訴え却下の判決をするのではない。 この点について,被告審査会が,原処分主義に反しないことを訴えの適法要件と解していることは誤りである。 ウところで,原告は,本件裁決の取消しを求める理由として,被告審査会が,本件裁決において,原告が審査を求めた介護保険料率の算定基準の不当性について審査を回避して,この点について審理を尽くしていないのが違法であると主張する。 原告の上記主張は,本件裁決の審理不尽をいうものであり,原告は,本件裁決の手続違背(すなわち裁決固有の違法)を理由に,本件原処分の取消しを求めているものと解される。 したがって,原告の上記主張自体は,行政事件訴訟法10条2項が規定する原処分主義に反するものではなく,本件裁決に審理不尽の違法があれば,本件裁決取消請求は理由があるとして,請求認容の判決をすることになるし,本件裁決に審理不尽の違法がなければ,本件裁決取消請求は理由がないとして,請求棄却の判決をすることになる。 (2) 裁決固有の瑕疵の有無(争点2)についてア原告は,現実の家計状況等を考慮せずに介護保険料率を算定することになる介護保険料率算定基準の不当性について,被告審査会に対し審査を求めたのに,被告審査会は,この点について何ら審査をし ア原告は,現実の家計状況等を考慮せずに介護保険料率を算定することになる介護保険料率算定基準の不当性について,被告審査会に対し審査を求めたのに,被告審査会は,この点について何ら審査をしないで本件裁決をしており,本件裁決には審理不尽の違法があると主張する。 しかし,介護保険諸法令は,介護保険料率決定の局面において,原告主張にかかる上記事情を考慮することを予定していないうえ,介護保険諸法令によって定められた介護保険料率の算定基準は,大量処理の必要性から,別紙介護保険料率表(概要)のとおりの客観的な基準の下で,主として所得金額を基礎としたものであって,それ自体合理性がないとはいえない。 イまた,原告は,被告審査会が,本件裁決に当たって,本件原処分の違法性や不当性について十分審査していない旨主張する。 しかし,本件裁決書(甲2)によれば,被告審査会は,本件裁決において,本件原処分が介護保険諸法令に定められた基準に従ったものかどうかを検討したうえで,本件原処分が妥当なものであったと判断していることが認められるのであって,このことからすると,被告審査会は,本件原処分の違法性について,十分な審査をしていることが認められる。 また,本件原処分の不当性についても,介護保険料率の算定基準が,別紙介護保険料率表(概要)のとおり客観的な基準であるため,処分庁の裁量の働く余地が小さく,したがって,被告審査会は十分な審査をしていることが推認される。 ウ以上の次第で,本件裁決に審理不尽の違法があるものとは認められず,裁決固有の瑕疵があるものとはいえないので,原告の本件裁決取消請求は理由がない。 (3) 本件変更裁決請求の適法性(争点3)ア本件変更裁決請求は,被告審査会に対し,原告の介護保険料率 決固有の瑕疵があるものとはいえないので,原告の本件裁決取消請求は理由がない。 (3) 本件変更裁決請求の適法性(争点3)ア本件変更裁決請求は,被告審査会に対し,原告の介護保険料率を第5段階から第3段階に変更することを命じる給付判決を求めるものであるから,いわゆる義務付け訴訟の一類型にあたるといわねばならない。 イそして,義務付け訴訟が適法に認められるためには,① 行政庁が当該処分をすべきことについて法律上覊束されており,行政庁に自由裁量の余地が全く残されていないために,第1次的判断権を行政庁に留保することが必ずしも重要でないことが明らかに認められ(明白性の要件),② 事前審査を認めないことによる損害が大きく,事前の救済の緊急の必要性が顕著であり(緊急性の要件),③他に適切な救済方法がない(補充性の要件)という各要件を充たし,行政庁に一定の作為を命じても行政機関の第1次的判断権を害さない場合においてのみ認められるというべきである。 ウところが,本件全証拠によるも,本件変更裁決請求は,上記①ないし③のいずれの要件も充たしているものとは認められないため,本件変更裁決請求の訴えは不適法な訴えである。したがって,本件変更裁決請求の訴えは,争点4について判断するまでもなく,不適法な訴えとして却下を免れない。 2 被告神戸市長に対する請求(1) 本件原処分取消請求の被告適格(争点5)ア行政事件訴訟11条1項は,「処分の取消しの訴えは,処分をした行政庁を被告として提起しなければならない。」と規定し,取消訴訟の被告適格を「処分をした行政庁」と定めている。 そして,本件原処分の処分庁が,地方自治法153条,区長委任規則4条の2第3号に基づき被告神戸市長から権限の委任を受けた神戸市東灘区長である の被告適格を「処分をした行政庁」と定めている。 そして,本件原処分の処分庁が,地方自治法153条,区長委任規則4条の2第3号に基づき被告神戸市長から権限の委任を受けた神戸市東灘区長であることは明らかである。 イそうすると,被告神戸市長を被告とする本件原処分取消請求の訴えは,被告適格を欠く者を被告として提起された不適法な訴えである。したがって,本件原処分取消請求の訴えも,争点6について判断するまでもなく,不適法な訴えとして却下を免れない。 (2) 本件原処分変更請求の適法性(争点7)ア本件原処分変更請求は,被告神戸市長に対し,原告の介護保険料率を第5段階から第3段階に変更することを命じる給付判決を求めるものであるから,いわゆる義務付け訴訟の一類型にあたるといわねばならない。 イところで,義務付け訴訟が認められるためには,上記1(3)イ(17,18頁)で説示した3要件を備えなければならないところ,原告が求める本件原処分変更請求の訴えは,本件全証拠によるも,上記3要件を充足しているものとは認められないため,本件原処分変更請求の訴えは不適法な訴えである。 ウしたがって,本件原処分変更請求の訴えも,争点8について判断するまでもなく,不適法な訴えとして却下を免れない。 第4 結論以上のとおりであって,原告の本件裁決取消請求は理由がないからこれを棄却し,原告のその余の訴えは不適法であるから,いずれも却下することとして,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官紙浦健二 とおり判決する。 神戸地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官紙浦健二 裁判官中村哲 裁判官竹村昭彦(別紙)介護保険料率表(概要) │段階 │区分 │保険料率 ││第1段階│・生活保護を受けている場合 │4705円 ││ │・第1号被保険者が老齢福祉年金を受給しており,│ ││ │かつ家族全員に市民税が課されていない場合 │1万4113円││第2段階│家族全員に市民税が課されていない場合 │7057円 ││ │ │2万1169円││第3段階│第1号被保険者には市民税が課されていないが,│9409円 ││ │家族の中に市民税が課されている者がいる場合 │2 │2万1169円││第3段階│第1号被保険者には市民税が課されていないが,│9409円 ││ │家族の中に市民税が課されている者がいる場合 │2万8225円││第4段階│第1号被保険者に市民税が課されており,前年の│1万1762円││ │合計所得金額が250万円未満である場合 │3万5282円││第5段階│第1号被保険者に市民税が課されており,前年の│1万4114円││ │合計所得金額が250万円以上である場合 │4万2338円│*保険料率欄は上段が平成12年度,下段が平成13年度の保険料率を表す。

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