- 1 -平成25年(行ヒ)第533号鳴門市競艇従事員共済会への補助金違法支出損害賠償等請求事件平成28年7月15日第二小法廷判決 主文 1 原判決を破棄する。 2 第1審判決中,予算の調製を違法な財務会計上の行為としてAに対し損害賠償請求をすることを求める請求に関する部分を取り消し,同請求に係る訴えを却下する。 3 その余の部分につき,本件を高松高等裁判所に差し戻す。 4 第2項の部分に関する訴訟の総費用は上告人らの負担とする。 理由 第1 本件の事実関係の概要等 1 本件は,鳴門競艇従事員共済会(以下「共済会」という。)から鳴門競艇臨時従事員(以下「臨時従事員」という。)に支給される離職せん別金に充てるため,鳴門市(以下「市」という。)が平成22年7月に共済会に対して補助金を交付したことが,給与条例主義を定める地方公営企業法38条4項に反する違法,無効な財務会計上の行為であるなどとして,市の住民である上告人らが,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,被上告人市長を相手に,当時の市長の職にあった者に対する損害賠償請求をすることを求めるとともに,被上告人市公営企業管理- 2 -者企業局長を相手に,当時の市の企業局長及び企業局次長の各職にあった者らに対する損害賠償請求,当時の市企業局競艇企画管理課長の職にあった者に対する賠償命令並びに共済会に対する不当利得返還請求をすることを,それぞれ求める住民訴訟である。 2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。 (1) 市は,鳴門市公営企業の設置等に関する条例(平成16年鳴門市条例第38号)により,モーターボート競走法に基づくモーターボート競走の開催及びこれに附帯する業務を 概要は,次のとおりである。 (1) 市は,鳴門市公営企業の設置等に関する条例(平成16年鳴門市条例第38号)により,モーターボート競走法に基づくモーターボート競走の開催及びこれに附帯する業務を行うため,競艇事業を設置し,同事業に地方公営企業法の規定の全部を適用している。 市は,上記の条例により,競艇事業を含む公営企業の各事業を通じて管理者1人を置き,その職名を企業局長としている。企業局長は,鳴門市企業局補助金等交付規程(平成17年鳴門市企業管理規程第9号)に基づく補助金等の交付決定をする権限を有しており,競艇企画管理課長は,上記補助金等の支出命令について専決権限を有している。 平成22年当時,Aは市長,Bは企業局長,Cは競艇事業担当の企業局次長,Dは競艇企画管理課長の各職にあり,Cは共済会の会長を兼務していた。 (2) 臨時従事員の採用は,鳴門競艇臨時従事員就業規程(平成17年鳴門市企業管理規程第27号)に基づき,企業局長が,選考に合格して登録名簿に登録された採用候補者に対し,個々の就業日を指定した採用通知書により通知する日々雇用の形式により行われている。臨時従事員の身分については,地方公務員法22条5項の臨時的任用による同法3条2項の一般職の地方公務員であると理解され,これを前提とする運用がされている。 - 3 -(3) 市は,地方公営企業法38条4項の規定に基づき,企業職員の給与の種類及び基準を定めることを目的として,鳴門市企業職員の給与の種類及び基準に関する条例(昭和41年鳴門市条例第59号。以下「給与条例」という。)を制定している。給与条例は,企業職員で常時勤務を要するもの等を「職員」として,勤務期間6月以上で退職した場合等に退職手当を支給する旨を定め(2条1項,3項,15条),非常勤職員については,「職員」 制定している。給与条例は,企業職員で常時勤務を要するもの等を「職員」として,勤務期間6月以上で退職した場合等に退職手当を支給する旨を定め(2条1項,3項,15条),非常勤職員については,「職員」の給与との権衡を考慮し,予算の範囲内で給与を支給する旨を定めている(18条)。 鳴門競艇臨時従事員就業規程(平成25年鳴門市企業管理規程第3号による改正前のもの)は,臨時従事員の賃金は日給とし,基本給及び手当を支給する旨を定め,その種類,金額等は,鳴門競艇臨時従事員賃金規程(平成17年鳴門市企業管理規程第28号。平成25年鳴門市企業管理規程第1号による改正前のもの。以下「賃金規程」という。)において定められていたところ,賃金規程上,臨時従事員の賃金の種類として,基本給,職務給,記録手当,時間外手当,調整手当,通勤手当及び特別手当が定められ,退職手当は定められていなかった。 (4) 共済会は,臨時従事員の相互共済により福利厚生及び互助融和を図ることを目的として,臨時従事員で法定月間開催日数以上雇用される者(会員)と市企業局の職員(特別会員)とで組織される団体である。共済会は,鳴門競艇従事員共済会規約に基づく事業の一つとして,懲戒による離職の場合を除き,離職又は死亡により登録名簿から抹消された会員又はその遺族に対し,離職時の基本賃金(日額賃金)に在籍年数及びこれを基準とする支給率を乗じるなどして算出した離職せん別金を支給していた。なお,所得税の課税実務上,離職せん別金は,所得税法30条1項所定の退職手当等に該当するものとして取り扱われている(昭和50年1月8- 4 -日付け国税局長宛て国税庁長官通知「公営競走事業等の施行者に雇用される臨時従事員の賃金等に対する所得税の取扱いについて」)。 (5) 鳴門市企業局補助金等交付規程(平成25年 年1月8- 4 -日付け国税局長宛て国税庁長官通知「公営競走事業等の施行者に雇用される臨時従事員の賃金等に対する所得税の取扱いについて」)。 (5) 鳴門市企業局補助金等交付規程(平成25年鳴門市企業管理規程第4号による改正前のもの)及び鳴門市競艇従事員共済会離職せん別金補助金交付要綱は,鳴門市競艇従事員共済会離職せん別金補助金(以下「離職せん別金補助金」という。)の申請,決定等に関し必要な事項を定めていたところ,上記の要綱において,離職せん別金補助金は,共済会が臨時従事員の離職に伴い支給する離職せん別金に要する経費を補助の対象とし,その額は,離職せん別金に係る計算式と連動した計算式により算出された金額の範囲内とされていた。 (6) 共済会の会長であるCは,平成22年6月30日,企業局長であるBに対し,離職せん別金補助金1億0457万3722円(以下「本件補助金」という。)の交付を申請し,Bは,同年7月7日,その交付を決定した。Cは,同日,本件補助金の交付を請求し,同月30日,専決権者であるDの支出命令により,共済会に対して本件補助金が交付された。なお,Cは,競艇事業担当の企業局次長として,本件補助金の交付決定の決裁に関与した。 共済会は,同年6月30日付けで登録名簿から抹消された臨時従事員32名に対し,本件補助金の全額を用いて,合計1億0818万2222円の離職せん別金を支給した。このうち,共済会自身の負担額は360万8500円であり,上記の離職せん別金の原資に占める本件補助金の割合は約97%であった。臨時従事員に支給された離職せん別金の最高額は,登録名簿への登録期間が41年の者に対する428万7505円であり,最低額は登録期間が12年の者に対する116万1870円であった。 - 5 - 3 原審は,前記事実関係等の せん別金の最高額は,登録名簿への登録期間が41年の者に対する428万7505円であり,最低額は登録期間が12年の者に対する116万1870円であった。 - 5 - 3 原審は,前記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断して,上告人らの請求をいずれも棄却すべきものとした。 離職せん別金が退職金としての性格を有し,本件補助金の交付が実質的に臨時従事員に対する退職金支給としての性格を有していることは否定できないが,臨時従事員の就労の実態が常勤職員に準じる継続的なものであり,退職手当を受領するだけの実質が存在すること等からすれば,本件補助金の交付が給与法定主義の趣旨に反し,これを潜脱するものとはいえず,本件補助金の交付に地方自治法232条の2の定める公益上の必要性があるとの判断が裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものであるとは認められないから,本件補助金の交付が違法であるということはできない。 第2 職権による検討上告人らは,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,被上告人市長を相手に,当時の市長の職にあったAに対し損害賠償請求をすることを求めているところ,そのうち,市長による予算の調製を違法な財務会計上の行為として損害賠償請求をすることを求める請求については,住民訴訟の対象とされる事項が同法242条1項に定める公金の支出,財産の取得,管理若しくは処分,契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担,公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実に限られており(同法242条の2第1項),市長による予算の調製がこれらの行為又は事実に当たらないことは明らかであるから,本件訴えのうち上記請求に係る部分は不適法というべきである。 したがって,原判決のうち上記請求を棄却すべきものとした部分には,判決に影響を及ぼ らの行為又は事実に当たらないことは明らかであるから,本件訴えのうち上記請求に係る部分は不適法というべきである。 したがって,原判決のうち上記請求を棄却すべきものとした部分には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるから,当該部分につき,原判決を破棄- 6 -し,第1審判決を取り消して,上記請求に係る訴えを却下することとする。 第3 上告代理人阿部泰隆の上告受理申立て理由について 1 原審の前記第1の3の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 前記事実関係等によれば,離職せん別金は,離職又は死亡による登録名簿からの抹消を支給原因とし,その支給額は離職時の基本賃金に在籍年数及びこれを基準とする支給率を乗じるなどして算出され,実際の支給額も相当高額に及んでおり,課税実務上も退職手当等に該当するものとして取り扱われていたものである。そして,離職せん別金は,共済会がその規約に基づく事業の一つとして臨時従事員に支給していたものであるが,市が共済会に対し離職せん別金に要する経費を補助の対象として交付していた離職せん別金補助金の額は,離職せん別金に係る計算式と連動した計算式により算出された金額の範囲内とされ,本件における離職せん別金の原資に占める本件補助金の割合は約97%に及んでいたのである。これらの事実に照らせば,本件補助金は,実質的には,市が共済会を経由して臨時従事員に対し退職手当を支給するために共済会に対して交付したものというべきである。 地方自治法204条の2は,普通地方公共団体は法律又はこれに基づく条例に基づかずにはいかなる給与その他の給付も職員に支給することができない旨を定め,地方公営企業法38条4項は,企業職員の給与の種類及び基準を条例で定めるべきものとしているところ,本件補助金の交付当時 に基づかずにはいかなる給与その他の給付も職員に支給することができない旨を定め,地方公営企業法38条4項は,企業職員の給与の種類及び基準を条例で定めるべきものとしているところ,本件補助金の交付当時,臨時従事員に対して離職せん別金又は退職手当を支給する旨を定めた条例の規定はなく,賃金規程においても臨時従事員の賃金の種類に退職手当は含まれていなかった。また,臨時従事員は,採用通知書により指定された個々の就業日ごとに日々雇用されてその身分を有する者にす- 7 -ぎず,給与条例の定める退職手当の支給要件(前記第1の2(3))を満たすものであったということもできない。 そうすると,臨時従事員に対する離職せん別金に充てるためにされた本件補助金の交付は,地方自治法204条の2及び地方公営企業法38条4項の定める給与条例主義を潜脱するものといわざるを得ず,このことは,臨時従事員の就労実態等のいかんにより左右されるものではない。 以上によれば,地方自治法232条の2の定める公益上の必要性があるとしてされた本件補助金の交付は,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものであって,同条に違反する違法なものというべきである。 2 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は以上と同旨をいうものとして理由があり,原判決のうち上記判断に係る部分は破棄を免れない。そして,A,B,C及びDの各損害賠償責任の有無並びに共済会の不当利得返還債務の有無につき更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官鬼丸かおる裁判官千葉勝美裁判官小貫芳信裁判官山本庸幸) よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官鬼丸かおる裁判官千葉勝美裁判官小貫芳信裁判官山本庸幸)
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