- 1 -平成26年10月9日判決言渡平成25年(行ケ)第10346号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成26年9月9日判決 原告京セラクリスタルデバイス株式会社 訴訟代理人弁護士片山英二同本多広和訴訟代理人弁理士加藤志麻子同岩田耕一 被告有限会社ピエデック技術研究所 訴訟代理人弁理士須磨光夫 主文 1 特許庁が無効2012-800211号事件について平成25年11月18日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求主文同旨第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯(当事者間に争いがない。)- 2 -被告は,平成15年1月14日(優先日平成14年1月11日),発明の名称を「水晶発振器と水晶発振器の製造方法」とする特許出願(特願2003-040391号)をし,平成20年2月8日,設定の登録(特許第4074935号。請求項の数は3である。)を受けた(以下,この特許を「本件特許」という。)。 原告は,平成24年12月26日,本件特許の請求項1ないし3に係る発明について,特許無効審判を請求した(無効2012-800211号)。 被告は, 受けた(以下,この特許を「本件特許」という。)。 原告は,平成24年12月26日,本件特許の請求項1ないし3に係る発明について,特許無効審判を請求した(無効2012-800211号)。 被告は,平成25年3月25日,訂正請求をした(以下「本件訂正」という。)。特許庁は,同年11月18日,「請求のとおり訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月28日,その謄本を原告に送達した。 原告は,同年12月26日,上記審決の取消しを求めて本件訴えを提起した。 2 特許請求の範囲の記載 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1の発明を「本件特許発明」といい,その明細書を「本件特許明細書」という。)。 「水晶振動子と増幅器とコンデンサーと抵抗素子とを具えて構成される水晶発振回路を具えた水晶発振器の製造方法で,前記水晶振動子は,少なくとも第1音叉腕と第2音叉腕と音叉基部とを具えて構成される音叉形屈曲水晶振動子で,第1音叉腕と第2音叉腕は上面と下面と側面とを有し,第1音叉腕の上下面の少なくとも一面に溝を形成する工程と,第2音叉腕の上下面の少なくとも一面に溝を形成する工程と,溝と第1音叉腕と第2音叉腕の側面に電極が配置され,溝の側面に配置された電極とその電極に対抗する音叉腕の側面の電極とが互いに異極である2- 3 -電極端子を構成し,かつ,第1音叉腕と第2音叉腕が逆相で振動するように溝と電極を形成する工程と,音叉形屈曲水晶振動子の発振周波数を調整する工程と,音叉形屈曲水晶振動子を表面実装型,又は円筒型のユニットに収納する工程と,を少なくとも有し,第1音叉腕と第2音叉腕が逆相で振動するように,前記2電極端子の内,1電極端子は第1音叉腕の上下面の少なくとも一面に 晶振動子を表面実装型,又は円筒型のユニットに収納する工程と,を少なくとも有し,第1音叉腕と第2音叉腕が逆相で振動するように,前記2電極端子の内,1電極端子は第1音叉腕の上下面の少なくとも一面に形成された溝に配置された電極と第2音叉腕の両側面に配置された電極から構成され,且つ,上下面の少なくとも一面に形成された溝に配置された前記電極と両側面に配置された前記電極とが接続され,他の1電極端子は第1音叉腕の両側面に配置された電極と第2音叉腕の上下面の少なくとも一面に形成された溝に配置された電極から構成され,且つ,両側面に配置された前記電極と上下面の少なくとも一面に形成された溝に配置された前記電極とが接続されていて,前記水晶発振器は前記音叉形屈曲水晶振動子の基本波モード振動の容量比r1が2次高調波モード振動の容量比r2より小さく,かつ,基本波モード振動のフイガーオブメリットM1が高調波モード振動のフイガーオブメリットMnより大きい音叉形屈曲水晶振動子を具えて構成されていて,前記音叉形屈曲水晶振動子が水晶ウエハ内に形成され,前記音叉形屈曲水晶振動子の基本波モード振動の基準周波数が32.768kHzで,前記音叉形屈曲水晶振動子の発振周波数が前記基準周波数に対して,-9000PPM~+5000PPMの範囲内にあるように水晶ウエハ内で周波数が調整されることを特徴とする水晶発振器の製造方法。」本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,本件訂正後の請求項1の発明を「本件訂正発明」という。下線部は,本件訂正によって追加された部分を示す。)。 「水晶振動子と増幅器とコンデンサーと抵抗素子とを具えて構成される水- 4 -晶発振回路を具えた水晶発振器の製造方法で,前記水晶振動子は,少なくとも第1音叉腕と た部分を示す。)。 「水晶振動子と増幅器とコンデンサーと抵抗素子とを具えて構成される水- 4 -晶発振回路を具えた水晶発振器の製造方法で,前記水晶振動子は,少なくとも第1音叉腕と第2音叉腕と音叉基部とを具えて構成される音叉形屈曲水晶振動子で,第1音叉腕と第2音叉腕は上面と下面と側面とを有し,第1音叉腕の上下面の少なくとも一面に,中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝を形成する工程と,第2音叉腕の上下面の少なくとも一面に,中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝を形成する工程と,溝と第1音叉腕と第2音叉腕の側面に電極が配置され,溝の側面に配置された電極とその電極に対抗する音叉腕の側面の電極とが互いに異極である2電極端子を構成し,かつ,第1音叉腕と第2音叉腕が逆相で振動するように溝と電極を形成する工程と,音叉形屈曲水晶振動子の発振周波数を調整する工程と,音叉形屈曲水晶振動子を表面実装型,又は円筒型のユニットに収納する工程と,を少なくとも有し,・・・(中略)・・・構成されていて,前記音叉形屈曲水晶振動子が水晶ウエハ内に形成され,前記音叉形屈曲水晶振動子の基本波モード振動の基準周波数が32.768kHzで,前記音叉形屈曲水晶振動子の発振周波数が前記基準周波数に対して,-9000PPM~+5000PPMの範囲内にあるように水晶ウエハ内で周波数が調整されることを特徴とする水晶発振器の製造方法。」 3 審決の理由の要旨審決の理由は,別紙審決書記載のとおりであり,要するに,①本件訂正は,特 PMの範囲内にあるように水晶ウエハ内で周波数が調整されることを特徴とする水晶発振器の製造方法。」 3 審決の理由の要旨審決の理由は,別紙審決書記載のとおりであり,要するに,①本件訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められ,本件特許明細書に- 5 -記載された事項の範囲内でするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもないから,特許法134条の2第1項ただし書,及び同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するものである,②本件訂正発明は,その出願基準日前に公用された物件である製造番号NSHCC041469のシャープ株式会社製ムーバSH251i(以下「公用物件」という。)が具備する水晶発振器から一義的に導き出せる工程を具備する製造方法(以下「公用製造方法」という。)に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものではない,というものである。 本件訂正は,次の訂正事項1ないし3のとおりである。 ア訂正事項1本件特許発明の「第1音叉腕の上下面の少なくとも一面に溝を形成する工程」を,「第1音叉腕の上下面の少なくとも一面に,中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝を形成する工程」と訂正するもの。 イ訂正事項2本件特許発明の「第2音叉腕の上下面の少なくとも一面に溝を形成する工程」を,「第2音叉腕の上下面の少なくとも一面に,中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝を形成する工程」と訂正するもの。 ウ訂正事項3本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除するもの。 審決が認定した公 mより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝を形成する工程」と訂正するもの。 ウ訂正事項3本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除するもの。 審決が認定した公用製造方法,本件訂正発明と公用製造方法との一致点及び相違点は,以下のとおりである。 - 6 -ア公用製造方法「水晶振動子と増幅器とコンデンサーと抵抗素子とを具えて構成される水晶発振回路を具えた水晶発振器の製造方法で,前記水晶振動子は,少なくとも第1音叉腕と第2音叉腕と音叉基部とを具えて構成される音叉形屈曲水晶振動子で,第1音叉腕と第2音叉腕は上面と下面と側面とを有し,第1音叉腕の上下面の少なくとも一面に溝を形成する工程と,第2音叉腕の上下面の少なくとも一面に溝を形成する工程と,溝と第1音叉腕と第2音叉腕の側面に電極が配置され,溝の側面に配置された電極とその電極に対抗する音叉腕の側面の電極とが互いに異極である2電極端子を構成し,かつ,第1音叉腕と第2音叉腕が逆相で振動するように溝と電極を形成する工程と,音叉形屈曲水晶振動子の発振周波数を調整する工程と,音叉形屈曲水晶振動子を表面実装型のユニットに収納する工程と,を少なくとも有し,第1音叉腕と第2音叉腕が逆相で振動するように,前記2電極端子の内,1電極端子は第1音叉腕の上下面の少なくとも一面に形成された溝に配置された電極と第2音叉腕の両側面に配置された電極から構成され,且つ,上下面の少なくとも一面に形成された溝に配置された前記電極と両側面に配置された前記電極とが接続され,他の1電極端子は第1音叉腕の両側面に配置された電極と第2音叉腕の上下面の少なくとも一面に形成された溝に配置された電極から構成され,且つ,両側面に配置された前記電極と上下 れた前記電極とが接続され,他の1電極端子は第1音叉腕の両側面に配置された電極と第2音叉腕の上下面の少なくとも一面に形成された溝に配置された電極から構成され,且つ,両側面に配置された前記電極と上下面の少なくとも一面に形成された溝に配置された前記電極とが接続されていて,前記水晶発振器は前記音叉形屈曲水晶振動子の基本波モード振動の容量比r1が2次高調波モード振動の容量比r2より小さく,かつ,基本波モー- 7 -ド振動のフイガーオブメリットM1が高調波モード振動のフイガーオブメリットMnより大きい音叉形屈曲水晶振動子を具えて構成されていて,前記音叉形屈曲水晶振動子が水晶ウエハ内に形成され,音叉形屈曲水晶振動子の基本波モード振動の基準周波数が32.768kHzで,ユニットを形成するケース内に収納される前,及び,ケース内に収納した後でケースと蓋とが接合される前に,前記音叉形屈曲水晶振動子の発振周波数が前記基準周波数に対して,周波数が調整されることを特徴とする水晶発振器の製造方法。」イ一致点「水晶振動子と増幅器とコンデンサーと抵抗素子とを具えて構成される水晶発振回路を具えた水晶発振器の製造方法で,前記水晶振動子は,少なくとも第1音叉腕と第2音叉腕と音叉基部とを具えて構成される音叉形屈曲水晶振動子で,第1音叉腕と第2音叉腕は上面と下面と側面とを有し,第1音叉腕の上下面の少なくとも一面に,中立線を残してその両側に溝を形成する工程と,第2音叉腕の上下面の少なくとも一面に,中立線を残してその両側に溝を形成する工程と,溝と第1音叉腕と第2音叉腕の側面に電極が配置され,溝の側面に配置された電極とその電極に対抗する音叉腕の側面の電極とが互いに異極である2電極端子を構成し,かつ,第1音叉腕と第2音叉腕が逆相で振動するように溝 叉腕と第2音叉腕の側面に電極が配置され,溝の側面に配置された電極とその電極に対抗する音叉腕の側面の電極とが互いに異極である2電極端子を構成し,かつ,第1音叉腕と第2音叉腕が逆相で振動するように溝と電極を形成する工程と,音叉形屈曲水晶振動子の発振周波数を調整する工程と,音叉形屈曲水晶振動子を表面実装型,又は円筒型のユニットに収納する工程と,を少なくとも有し,第1音叉腕と第2音叉腕が逆相で振動するように,前記2電極端子の内,1電極端子は第1音叉腕の上下面の少なくとも一面に形成された溝に- 8 -配置された電極と第2音叉腕の両側面に配置された電極から構成され,且つ,上下面の少なくとも一面に形成された溝に配置された前記電極と両側面に配置された前記電極とが接続され,他の1電極端子は第1音叉腕の両側面に配置された電極と第2音叉腕の上下面の少なくとも一面に形成された溝に配置された電極から構成され,且つ,両側面に配置された前記電極と上下面の少なくとも一面に形成された溝に配置された前記電極とが接続されていて,前記水晶発振器は前記音叉形屈曲水晶振動子の基本波モード振動の容量比r1が2次高調波モード振動の容量比r2より小さく,かつ,基本波モード振動のフイガーオブメリットM1が高調波モード振動のフイガーオブメリットMnより大きい音叉形屈曲水晶振動子を具えて構成されていて,前記音叉形屈曲水晶振動子が水晶ウエハ内に形成され,音叉形屈曲水晶振動子の基本波モード振動の基準周波数が32.768kHzで,前記音叉形屈曲水晶振動子の発振周波数が前記基準周波数に対して,周波数が調整されることを特徴とする水晶発振器の製造方法。」ウ相違点 相違点1本件訂正発明は,第1音叉腕に溝を形成する工程が,「第1音叉腕の上下面の少なくとも一面に, に対して,周波数が調整されることを特徴とする水晶発振器の製造方法。」ウ相違点 相違点1本件訂正発明は,第1音叉腕に溝を形成する工程が,「第1音叉腕の上下面の少なくとも一面に,中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝を形成する工程」であるのに対して,公用製造方法は,「第1音叉腕の上下面の少なくとも一面に溝を形成する工程」である点。 相違点2本件訂正発明は,第2音叉腕に溝を形成する工程が,「第2音叉腕の上下面の少なくとも一面に,中立線を残してその両側に,前記中立線を- 9 -含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝を形成する工程」であるのに対して,公用製造方法は,「第2音叉腕の上下面の少なくとも一面に溝を形成する工程」である点。 相違点3本件訂正発明は,周波数の調整が,「前記音叉形屈曲水晶振動子の発振周波数が前記基準周波数に対して,-9000PPM~+5000PPMの範囲内にあるように水晶ウエハ内で」調整される周波数の調整であるのに対して,公用製造方法は,許容範囲の数値範囲が特定されておらず,また,ケース内に収容する前の周波数の調整が水晶ウエハ内か否か不明である点。 第3 原告主張の取消事由審決には,本件訂正の適法性に係る判断の誤り(取消事由1)並びに相違点1及び2の容易想到性に係る判断の誤り(取消事由2)があり,これらの誤りは審決の結論に影響を及ぼすものであるから,審決は違法であり,取り消されるべきである。 1 取消事由1(本件訂正の適法性に係る判断の誤り) 審決は,要旨次のとおり述べて,訂正事項1及び2の追加は新規事項の追 及ぼすものであるから,審決は違法であり,取り消されるべきである。 1 取消事由1(本件訂正の適法性に係る判断の誤り) 審決は,要旨次のとおり述べて,訂正事項1及び2の追加は新規事項の追加に当たらないと判断しているが,このような判断手法自体誤りである。 すなわち,審決は,本件特許明細書の【0041】に記載された,中立線を残して,その両側に溝を形成し,音叉腕の中立線を含めた部分幅W7は0.05mmより小さく,又,各々の溝の幅は0.04mmより小さくなるように構成する態様,及び【0043】に記載された,水晶発振器に用いられる音叉形状の屈曲水晶振動子の基本波モード振動での容量比r1を2次高調波モード振動の容量比r2より小さくなるように構成する態様は,それぞれが独立した態様であって,両方の構成を有する態様については直接的には- 10 -記載されていないが,【0041】に記載された態様には,「M1をMnより大きくする事ができる」という作用効果があり,【0043】に記載された態様には,「同じ負荷容量CLの変化に対して,基本波モードで振動する屈曲水晶振動子の周波数変化が2次高調波モードで振動する屈曲水晶振動子の周波数変化より大きくなる。即ち,基本波モード振動の方が2次高調波モード振動より周波数の可変範囲を広くとることができる」という作用効果があり,両方の作用効果を期待するならば,両方の構成を有するような態様とすることは当業者であれば自然であり,当業者が本件特許明細書をみれば,それぞれの構成を有する態様のみならず,両方の構成を有する態様についても,実質的に記載されていると解釈するというべきであると述べている。 しかし,新規事項の追加に当たらない適法な訂正とは,「当初明細書に記載された事項」及び「当初明細書等の記載から自明な事項」の範 ても,実質的に記載されていると解釈するというべきであると述べている。 しかし,新規事項の追加に当たらない適法な訂正とは,「当初明細書に記載された事項」及び「当初明細書等の記載から自明な事項」の範囲の訂正であるところ,「当初明細書等の記載から自明な事項」とは,これに接した当業者であれば,出願時の技術常識に照らして,その意味であることが明らかであって,その事項がそこに記載されているのと同然であると理解する事項であることが必要である。しかるに,審決が引用した【0041】の記載と,【0043】の記載は,審決も認めるとおり「独立した態様」であるから,これを組み合わせるという,進歩性判断と同様の思考を必要とするのであれば,このような組み合わせによって得られる態様は,「これに接した当業者であれば,出願時の技術常識に照らして,その意味であることが明らかであって,その事項がそこに記載されているのと同然」というものでないことは明らかである。 訂正事項1及び2の追加は,新規事項の追加に当たる。 すなわち,本件特許発明は,「前記水晶発振器は前記音叉形屈曲水晶振動子の基本波モード振動の容量比r1が2次高調波モード振動の容量比r2より小さく,かつ,基本波モード振動のフイガーオブメリットM1が高調波モー- 11 -ド振動のフイガーオブメリットMnより大きい音叉形屈曲水晶振動子を具えて構成されていて,」という要件を含むものであるから,訂正事項1及び2の追加は,本件特許発明を,「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝が形成されており,かつ,r1<r2,M1>Mnである」という要件を含むものに訂正することになる。そうすると,訂正事項1及び2の追加が新規事項の追加に当たらな 幅が0.04mmより小さくなるように溝が形成されており,かつ,r1<r2,M1>Mnである」という要件を含むものに訂正することになる。そうすると,訂正事項1及び2の追加が新規事項の追加に当たらないといえるには,本件特許明細書において,「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝が形成されており,かつ,r1<r2,M1>Mnである」という要件を満たす発明が記載されていることが必要である。しかるに,本件特許明細書には,「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるような溝」を設けた場合における,基本波モード振動の容量比r1と2次高調波モード振動の容量比r2の関係については一切記載されていない。したがって,訂正事項1及び2の追加は,新規事項の追加に当たる。 2 取消事由2(相違点1及び2の容易想到性に係る判断の誤り)審決は,相違点1及び2は容易想到ではないと判断し,その理由として,要旨,国際公開第2000/44092号の国際公開公報(甲32。以下「甲32公報」という。)には,振動細棒(本件訂正発明の「第1音叉腕」,「第2音叉腕」に相当する。)の上下に2つずつ溝を設けることは記載されているが,公用製造方法において,音叉腕に設ける溝を2本の溝とした場合に,r1とr2の大小関係及びM1とMnの大小関係がどのようになるかは不明であり,公用製造方法において,相違点1及び2における本件訂正発明の構成を採用することの積極的な動機付けがないというべきであると述べている。 しかし,そもそも審決は,本件訂正の適法性に係る判断においては,「音- 12 -叉腕の上下面の少なくとも一面に,中立線を残 採用することの積極的な動機付けがないというべきであると述べている。 しかし,そもそも審決は,本件訂正の適法性に係る判断においては,「音- 12 -叉腕の上下面の少なくとも一面に,中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝を形成」した場合において,基本波モード振動の容量比r1と2次高調波モード振動の容量比r2がr1<r2という関係を満たすか否かについて本件特許明細書に一切の記載がされておらず,また,フイガーオブメリットMに関しても,単に「このような構成により,M1をMnより大きくする事ができる」との一行記載があるにすぎないにもかかわらず,このような構成を採用することは「当業者であれば自然」と判断しているのであって,このような判断を前提とすれば,r1とr2の大小関係やM1とMnの大小関係がどのようになるか不明というだけでは,相違点1及び2の容易想到性を否定する理由にはならないはずである。 また,以下のとおり,公用製造方法において,音叉腕に設ける溝を2本とした場合に,M1>Mn及びr1<r2となることは予測し得ることである。 ア M1>Mn及びr1<r2であることの技術的意義の観点から①本件特許明細書の図面に具体的に記載されている音叉型水晶振動子は,その「音叉形状と溝と電極の寸法」において,従来技術における音叉型水晶振動子とほとんど変わりはなく,また,何より,本件特許明細書には,M1>Mn及びr1<r2の関係を満たさない具体的な音叉型水晶振動子について全く記載されていないこと,②本件特許明細書においては,M1>Mnと「高調波モード振動を抑制して,基本波モード振動の周波数が安定して得られ,高い周波数安定性(すぐれた時間精度)が実現される」という 全く記載されていないこと,②本件特許明細書においては,M1>Mnと「高調波モード振動を抑制して,基本波モード振動の周波数が安定して得られ,高い周波数安定性(すぐれた時間精度)が実現される」という作用効果の因果関係,及び,r1<r2と「同じ負荷容量CLの変化に対して,基本波モードで振動する屈曲水晶振動子の周波数変化が2次高調波モードで振動する屈曲水晶振動子の周波数変化より大きくなる」という作用効果の因果関係については,何ら具体的な裏付けがないこと,③M1>Mnの関係については,従来技術における音叉型水晶振動子が有してい- 13 -た属性を述べたものでしかないこと(甲45)からすれば,M1>Mn及びr1<r2とすることは,音叉型水晶振動子に常識的な形状の溝を形成し,かつ,逆相振動する電極を形成するというごく普通の設計をすれば自ずと満足するとしか考えられないから,公用製造方法において,音叉腕に設ける溝を2本とした場合に,M1>Mn及びr1<r2となることは予測し得ることである。 イ甲32公報の記載内容及び当業者の技術常識から M1>Mnの関係について甲32公報によれば,音叉腕における溝の形成によって,直線的かつ平行な電界が生成することが,等価直列抵抗(CI値あるいはR)を小さくするという作用効果に寄与していることが明らかであるから,等価直列抵抗(CI値あるいはR)を小さくするという作用効果については,溝を2本形成した場合でも,溝を1本形成した場合と同等の効果が得られると理解できる。 そして,MとRの間には,「M1/Mn =Rn/R1×ωn/ω1」の関係が成り立つことが知られており(ωは,機械共振周波数。),かつ,ωn/ω1の値は,常に1以上である(甲7,甲55)。また,甲32公報から得られる技術的知見から Mn =Rn/R1×ωn/ω1」の関係が成り立つことが知られており(ωは,機械共振周波数。),かつ,ωn/ω1の値は,常に1以上である(甲7,甲55)。また,甲32公報から得られる技術的知見からすると,2本溝にした場合におけるRn/R1の値は,同じ外形を有する音叉型水晶振動子に1本溝を形成した場合の値とほぼ同じになる。そうすると,2本溝を形成した場合におけるM1/Mn は以下のように表すことができる。 M1/Mn(2本溝)=Rn/R1(2本溝)×ωn/ω1≒Rn/R1(1本溝)×1以上の数そして,甲9の表1に示されるように,公用物件においては,溝を1本形成した場合におけるRn/R1(1本溝)の値は,1以上である。そうすると,公用物件において,溝を2本とした場合においても,M1/- 14 -Mnの値が1よりも大きくなること,すなわち,M1>Mnの関係が担保されることは,当業者であれば予測し得ることである。 r1<r2の関係について本件特許明細書には,r1<r2を達成するための具体的な設計について全く記載がされていない。したがって,r1<r2の関係についても,通常の設計をすれば,自ずと満足する程度の関係であるとしか解されない。そうすると,r1<r2の関係を満たす公用製造方法において,溝を2本とした場合においても,r1<r2の関係が担保されることは,当業者が予測し得ることである。 部分幅及び溝幅の要件の容易想到性本件特許明細書には,「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝を形成する」との数値限定の技術的意義については,一切記載されていない。 また,本件特許明細書に 前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝を形成する」との数値限定の技術的意義については,一切記載されていない。 また,本件特許明細書には,「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝を形成する」との要件を満たすことと,r1<r2の関係を満足させることとの関係については,一行記載を含めて全く記載がない。 のみならず,上記部分幅及び溝幅の数値限定がオープンエンドであることからすると,上記溝寸法の規定には,溝の形状,寸法も含めて非常に広範な態様が含まれているから,上記部分幅及び溝幅の寸法要件と,r1<r2の関係を満足させることとの因果関係についてはますます不明である。したがって,上記部分幅及び溝幅の寸法の要件は,r1<r2の関係を満足させることとの関係で技術的意義を有するとは解されない。 さらに,甲32公報の記載からすると,「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.0- 15 -4mmより小さくなるように溝を形成する」との要件を満たすことと,M1>Mnの関係を満足させることとの因果関係にも疑義がある。すなわち,本件訂正発明においては,基準周波数を1次の発振周波数である32.768kHzとすることを前提としているところ,ωn/ω1は,公用製造方法と同様に常に1以上となり,結局のところ,M1>Mnの関係に関与しているのは,R1とRnということになる。そして,甲32公報で説明されているとおり,溝付きの音叉型水晶振動子において,Rの値を決定付けるのは,電界の存在,すなわち,溝が形成されているということそのものである。このような甲32公報の知見と本件 て,甲32公報で説明されているとおり,溝付きの音叉型水晶振動子において,Rの値を決定付けるのは,電界の存在,すなわち,溝が形成されているということそのものである。このような甲32公報の知見と本件訂正発明の前提からすれば,M1>Mnの関係は,平行かつ直線的な電界が付与できるような溝を音叉に付与した結果達成されているといえるから,部分幅の寸法や,溝幅の寸法自体が,M1>Mnの関係を満たすか否かを決定付けているかのように説明する本件特許明細書の記載内容については,疑念を持たざるを得ない。 以上によれば,本件訂正発明における「中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなる」という要件は,特段の技術的意義を有しないものであり,当業者が適宜採用しうる程度のものにすぎないというべきである。 第4 被告の主張 1 取消事由1(本件訂正の適法性に係る判断の誤り)について審決は,本件特許明細書の記載と当業者の技術常識に基づいて,本件訂正の適法性を判断したものであり,その判断に誤りはない。 「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるような溝」を設けた場合において,基本波モード振動の容量比r1と2次高調波モード振動の容量比r2の関係が,r1<r2となることは,以下のとおり,本件特許明細書に記載されているに等しい。 - 16 -すなわち,本件特許明細書の【0041】には,「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝」を設ける場合にも,M1をMnより大きくすることができることが記載されている。 一方,【0026】には,「フイガーオブメリットMiは mより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝」を設ける場合にも,M1をMnより大きくすることができることが記載されている。 一方,【0026】には,「フイガーオブメリットMiは屈曲水晶振動子の品質係数Qi値と容量比riの比(Qi/ri)によって定義される。即ち,Mi=Qi/r1で与えられる。」ことが記載されており,これは,基本波モード振動のフイガーオブメリット,品質係数,容量比を,それぞれM1,Q1,r1とし,2次高調波モード振動のフイガーオブメリット,品質係数,容量比を,それぞれM2,Q2,r2とすると,M1=Q1/r1,M2=Q2/r2の関係にあることを意味している。 そして,音叉形水晶振動子においては,一般的に,基本波モード振動の品質係数Q1が2次高調波モード振動の品質係数Q2よりも小さいことは,当業者によく知られていることである(甲46)。 そうすると,M1=Q1/r1,M2=Q2/r2の関係にあり,かつ,音叉形水晶振動子においては一般的にQ1<Q2の関係にあるのであるから,M1>M2の場合には,必然的にr1<r2となる。 したがって,「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるような溝」を設けた場合において,基本波モード振動の容量比r1と2次高調波モード振動の容量比r2の関係が,r1<r2となることは,本件特許明細書に記載されているに等しいといえる。 2 取消事由2(相違点1及び2の容易想到性に係る判断の誤り)について 原告は,相違点1及び2の容易想到性に係る審決の判断は,本件訂正に係る審決の判断と矛盾するかのように主張する。 しかし,訂正要件充足性の判断の基準は特許明細書であるのに対し,容易- 17 - ,相違点1及び2の容易想到性に係る審決の判断は,本件訂正に係る審決の判断と矛盾するかのように主張する。 しかし,訂正要件充足性の判断の基準は特許明細書であるのに対し,容易- 17 -想到性の判断の基準は公知発明であり,両者は異なる判断なのであるから,本件特許明細書の記載からみて自明な技術的事項であっても,公知発明からは容易に想到することができない技術的事項が存在するのは当然であり,審決の判断に矛盾はない。 原告は,公用製造方法において,音叉腕に設ける溝を2本とした場合に,M1>Mn及びr1<r2となることは予測し得ることであると主張する(前。 しかし,M1とMnの大小関係については,音叉型屈曲水晶振動子において,基本波モード振動の等価直列抵抗R1と高調波モード振動の等価直列抵抗Rnとは,常にR1<Rnの関係にあるとはいえないから,公用物件においてR1<Rnの関係となっているからといって,公用物件における1本の溝を2本に変更した場合にもR1<Rnの関係が維持されるとはいえず,そうすると,公用物件において,溝を2本形成した場合においてもM1>Mnの関係が成り立つとは,必ずしもいえない。また,r1とr2の大小関係についても,原告の主張は,合理的な根拠を欠くものである。したがって,原告の上記主張は誤りである。 原告は,本件訂正発明における部分幅及び溝幅の要件は容易想到であると主張する。 しかし,「中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなる」という要件には,M1をMnより大きくすることができるという技術的意義があり,M1>Mnの場合にはr1<r2の関係が充足される。したがって,原告の上記主張は誤りである。 第5 当裁判所の判断当裁判所は,原告主張の取消事由 くすることができるという技術的意義があり,M1>Mnの場合にはr1<r2の関係が充足される。したがって,原告の上記主張は誤りである。 第5 当裁判所の判断当裁判所は,原告主張の取消事由1は理由があり,取消事由2について判断するまでもなく,審決は違法であり,取消しを免れないものと判断する。その理由は以下のとおりである。 - 18 - 1 取消事由1(本件訂正の適法性に係る判断の誤り)について原告は,本件訂正の適法性に係る審決の判断は,その判断手法自体誤りであり,訂正事項1及び2の追加は,新規事項の追加に当たると主張する(前記第3の1)ので,以下,検討する。 本件訂正の内容について訂正事項1及び2は,本件特許発明における第1音叉腕及び第2音叉腕に溝を形成する工程について,それぞれ,「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝を形成する」との構成を付加するものであるところ,本件特許発明は,「前記水晶発振器は前記音叉型屈曲水晶振動子の基本波モード振動の容量比r1が2次高調波モード振動の容量比r2より小さく,かつ,基本波モードのフイガーオブメリットM1が高調波モード振動のフイガーオブメリットMnより大きい音叉型屈曲水晶振動子を備えて構成されていて」との構成を有するものであるから,訂正事項1及び2は,本件特許発明の構成に,「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝が形成された場合において,基本波モード振動の容量比r1が2次高調波モード振動の容量比r2より小さく,かつ,基本波モードのフイガーオブメリットM1が高調波モード振動のフイガーオブメリットMnよ うに溝が形成された場合において,基本波モード振動の容量比r1が2次高調波モード振動の容量比r2より小さく,かつ,基本波モードのフイガーオブメリットM1が高調波モード振動のフイガーオブメリットMnより大きい」という事項(以下「本件追加事項」という。)を追加することになる。 本件訂正の適否の判断方法について特許法134条の2第1項ただし書は,特許無効審判の被請求人による訂正請求は,① 特許請求の範囲の減縮,② 誤記又は誤訳の訂正,③ 明瞭でない記載の釈明,④ 他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること,を目的とするものに限ると規定している。そして,同法134条の2第9項において準用する同法126- 19 -条5項は,「第1項の明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載した事項の範囲内においてしなければならない。」と規定している。ここでいう「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項」とは,当業者によって,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面」の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,訂正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。 そこで,以下,本件追加事項の追加が,本件特許の出願に係る「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面」(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものといえるか否か,すなわち,本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において, 又は図面」(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものといえるか否か,すなわち,本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるか否かを検討する。 本件特許明細書の記載について本件特許明細書(甲47)の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。 ア 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は屈曲モードで振動する音叉腕と音叉基部を具えて構成される音叉形状の水晶振動子と増幅器とコンデンサーと抵抗素子とを具えて構成される水晶発振器とその製造方法に関する。・・・」イ 「【0003】【発明が解決しようとする課題】音叉型屈曲水晶振動子では,電界成分Exが大きいほど等価直列抵抗R1が小さくなり,品質係数Q値が大きくなる。しかしながら,従来から使用- 20 -されている音叉型屈曲水晶振動子は,図10で示したように,各音叉腕の上下面と側面の4面に電極を配置している。そのために電界が直線的に働かず,かかる音叉型屈曲水晶振動子を小型化させると,電界成分Exが小さくなってしまい,等価直列抵抗R1が大きくなり,品質係数Q値が小さくなるなどの課題が残されていた。・・・それ故,基本波モードで振動する超小型で,等価直列抵抗R1の小さい,品質係数Q値が高くなるような新形状で,電気機械変換効率の良い溝の構成と電極構成を有する音叉形状の屈曲水晶振動子を具え,出力信号が基本波モード振動の周波数で,高い周波数安定性(高い時間精度)を有し,消費電流の少ない水晶発振器が所望されていた。」ウ 「【0004】【課題を解決するための手段】本発明は,以下の方法で従来の課題を有利に解決した屈曲モード 数安定性(高い時間精度)を有し,消費電流の少ない水晶発振器が所望されていた。」ウ 「【0004】【課題を解決するための手段】本発明は,以下の方法で従来の課題を有利に解決した屈曲モードで振動する音叉形状の水晶振動子を具えた水晶発振器とその製造方法を提供することを目的とするものである。 【0005】即ち,本発明の水晶発振器の製造方法の第1の態様は,水晶振動子と増幅器とコンデンサーと抵抗素子とを具えて構成される水晶発振回路を具えた水晶発振器の製造方法で,・・・前記水晶発振器は前記音叉形屈曲水晶振動子の基本波モード振動の容量比r1が2次高調波モード振動の容量比r2より小さく,かつ,基本波モード振動のフイガーオブメリットM1が高調波モード振動のフイガーオブメリットMnより大きい音叉形屈曲水晶振動子を具えて構成されていて,・・・周波数が調整される水晶発振器の製造方法である。」エ 「【0009】【本発明の実施の形態】- 21 -以下,本発明の実施例を図面に基づき具体的に述べる。 図1は本発明の水晶発振器を構成する水晶発振回路図の一実施例である。 ・・・」「【0015】図3は本発明の第1実施例の水晶発振器に用いられる屈曲モードで振動する音叉形状の屈曲水晶振動子10の外観図とその座標系を示すものである。・・・本実施例の音叉形状の屈曲水晶振動子10は音叉腕20,音叉腕26と音叉基部40とから成り,音叉腕20と音叉腕26は音叉基部40に接続されている。また,音叉腕20と音叉腕26はそれぞれ上面と下面と側面とを有する。更に,音叉腕20の上面には中立線を挟んで,即ち,中立線を含むように溝21が設けられ,又,音叉腕26の上面にも音叉腕20と同様に溝27が設けられるとともに,さらに,音叉基部40に溝32と溝36とが 更に,音叉腕20の上面には中立線を挟んで,即ち,中立線を含むように溝21が設けられ,又,音叉腕26の上面にも音叉腕20と同様に溝27が設けられるとともに,さらに,音叉基部40に溝32と溝36とが設けられている。・・・又,音叉腕20,26の下面にも上面と同様に溝が設けられている。 【0016】図4は,図3の音叉形状の屈曲水晶振動子10の音叉基部40のD-D′断面図を示す。図4では図3の水晶振動子の音叉基部40の断面形状並びに電極配置について詳述する。音叉腕20と連結する音叉基部40には溝21,22が設けられている。同様に,音叉腕26と連結する音叉基部40には溝27,28が設けられている。更に,溝21と溝27との間には更に溝32と溝36とが設けられている。又,溝22と溝28との間にも溝33と溝37とが設けられている。そして,溝21と溝22には電極23,24が,溝32,33,36,37には電極34,35,38,39が,溝27と溝28には電極29,30が配置され,音叉基部40の両側面には電極25,31が配置されている。詳細には,溝の側面に電極が配置され,前記電極に対抗して極性の異なる電極が配置されている。」- 22 -「【0018】更に,電極25,29,30,34,35は一方の同極に,電極23,24,31,37,38,39は他方の同極になるように配置されていて,2電極端子構造E-E′を構成する。即ち,z軸方向に対抗する溝電極は同極に,且つ,x軸方向に対抗する電極は異極になるように構成されている。今,2電極端子E-E′に直流電圧を印加(E端子に正極,E′端子に負極)すると電界Exは図4に示した矢印のように働く。電界Exは水晶振動子の側面と溝内の側面とに配置された電極により電極に垂直に,即ち,直線的に引き出されるので,電界Ex (E端子に正極,E′端子に負極)すると電界Exは図4に示した矢印のように働く。電界Exは水晶振動子の側面と溝内の側面とに配置された電極により電極に垂直に,即ち,直線的に引き出されるので,電界Exが大きくなり,その結果,発生する歪の量も大きくなる。従って,音叉形状の屈曲水晶振動子を小型化させた場合でも,等価直列抵抗R1の小さい,品質係数Q値の高い屈曲モードで振動する音叉形状の水晶振動子が得られる。 【0019】図5は図3の音叉形状の屈曲水晶振動子10の上面図を示すものである。 図5では溝21,27の配置及び寸法について特に詳述する。音叉腕20の中立線41を挟むようにして溝21が設けられている。他方の音叉腕26も中立線42を挟むようにして溝27が設けられている。更に,本実施例の音叉形状の屈曲水晶振動子10では,音叉基部40の,溝21と溝27との間に挟まれた部分にも溝32と溝36とが設けられている。それら溝21,27及び溝32,36を設けたことで,音叉形状の屈曲水晶振動子10には,先に述べたように,電界Exが図4に示した矢印のように働き,電界Exは水晶振動子の側面と溝内の側面とに配置された電極により電極に垂直に,即ち,直線的に引き出され,特に音叉基部の電界Exが大きくなり,その結果,発生する歪の量も大きくなる。このように,本実施例の音叉形状の屈曲水晶振動子10の形状と電極構成とは,音叉型屈曲水晶振動子を小型化した場合でも電気的諸特性に優れた,即ち,等価直列抵- 23 -抗R1の小さい,品質係数Q値の高い水晶振動子が実現できる。 【0020】更に,部分幅W1,W3と溝幅W2とすると,音叉腕20,26の腕幅WはW=W1+W2+W3で与えられ,通常はW1とW3の一部又は全部がW1≧W3または,W1<W3となるように構成される。又, 0】更に,部分幅W1,W3と溝幅W2とすると,音叉腕20,26の腕幅WはW=W1+W2+W3で与えられ,通常はW1とW3の一部又は全部がW1≧W3または,W1<W3となるように構成される。又,溝幅W2はW2≧W1,W3を満足する条件で構成される。更に具体的に述べると,本実施例では,溝幅W2と音叉腕幅Wとの比(W2/W)が0.35より大きく,1より小さくなるように,好ましくは,0.35~0.95で,溝の厚みt1と音叉腕の厚みt又は音叉腕と音叉基部の厚みtとの比(t1/t)が0.79より小さくなるように,好ましくは,0.01~0.79となるように溝が音叉腕に形成されている。このように形成することにより,音叉腕の中立線41と42を基点とする慣性モーメントが大きくなる。即ち,電気機械変換効率が良くなるので,等価直列抵抗R1の小さい,Q値の高い,しかも,容量比の小さい音叉形状の屈曲水晶振動子を得る事ができる。」「【0026】更に詳述するならば,音叉形状の屈曲水晶振動子の誘導性と電気機械変換効率と品質とを表すフイガーオブメリットMiは屈曲水晶振動子の品質係数Qi値と容量比riの比(Qi/ri)によって定義される。即ち,Mi=Qi/riで与えられる。但し,iは音叉形状の屈曲水晶振動子の振動次数を表し,i=1のとき基本波モード振動,i=2のとき2次高調波モード振動,i=3のとき3次高調波モード振動である。また,音叉形状の屈曲水晶振動子の並列容量に依存しない機械的直列共振周波数f8と並列容量に依存する直列共振周波数frの周波数差ΔfはフイガーオブメリットMiに反比例し,その値Miが大きい程Δfは小さくなる。従って,Miが大きい程,音叉形状の屈曲水晶振動子の共振周波数は並列容量の影響を受けな- 24 -いので,屈曲水晶振動子の周波数安 メリットMiに反比例し,その値Miが大きい程Δfは小さくなる。従って,Miが大きい程,音叉形状の屈曲水晶振動子の共振周波数は並列容量の影響を受けな- 24 -いので,屈曲水晶振動子の周波数安定性は良くなる。即ち,時間精度の高い音叉形状の屈曲水晶振動子が得られる。 【0027】さらに詳細には,前記音叉形状と溝と電極とその寸法の構成により,基本波モード振動のフイガーオブメリットM1が高調波モード振動のフイガーオブメリットMnより大きくなる。即ち,M1>Mnとなる。但し,nは高調波モード振動の振動次数を表し,n=2,3のとき,2次,3次高調波モード振動のフイガーオブメリットである。一例として,基本波モード振動の周波数が32.768kHzで,W2/W=0.5,t1/t=0.34,l1/l=0.48のとき,製造によるバラツキが生ずるが,音叉形状の屈曲水晶振動子のM1,2はそれぞれM1>65,M2<30となる。 即ち,高い誘導性と電気機械変換効率の良い(容量比r1と等価直列抵抗R1の小さい),品質係数の大きい基本波モードで振動する屈曲水晶振動子を得ることができる。その結果,基本波モード振動の周波数安定性が2次高調波モード振動の周波数安定性より良くなると共に,2次高調波モード振動を抑圧することができる。従って,本実施例の屈曲水晶振動子から構成される水晶発振器は基本波モード振動の周波数が出力信号として得られ,かつ,高い周波数安定性(優れた時間精度)を有する。・・・」「【0040】以上,図示例に基づき説明したが,この発明は上述の例に限定されるものではなく,上記第1実施例から第4実施例の水晶発振器に用いられる音叉形状の屈曲水晶振動子では,音叉腕又は音叉腕と音叉基部に溝を設けているが,例えば,音叉腕に貫通穴(t1=0)を設けてもよい。即ち のではなく,上記第1実施例から第4実施例の水晶発振器に用いられる音叉形状の屈曲水晶振動子では,音叉腕又は音叉腕と音叉基部に溝を設けているが,例えば,音叉腕に貫通穴(t1=0)を設けてもよい。即ち,貫通穴は溝の特別の場合で,本発明の溝は前記貫通穴をも包含するものである。又,上記実施例では,音叉腕は2本で構成されているが,本発明は3本以上の音叉腕を包含するものである。この場合,少なくとも2本の音叉- 25 -腕が逆相で振動するように電極が構成されていれば良い。 【0041】更に,本実施例では,溝が中立線を挟む(含む)ように音叉腕に設けられているが,本発明はこれに限定されるものでなく,中立線を残して,その両側に溝を形成しても良い。この場合,音叉腕の中立線を含めた部分幅W7は0.05mmより小さくなるように構成される。又,各々の溝の幅は0.04mmより小さくなるように構成され,溝の厚みt1と音叉腕の厚みtの比は0.79以下に成るように構成される。このような構成により,M1をMnより大きくする事ができる。」「【0043】更に,第1実施例~第4実施例の水晶発振器に用いられる音叉形状の屈曲水晶振動子の基本波モード振動での容量比r1は2次高調波モード振動の容量比r2より小さくなるように構成されている。このような構成により,同じ負荷容量CLの変化に対して,基本波モードで振動する屈曲水晶振動子の周波数変化が2次高調波モードで振動する屈曲水晶振動子の周波数変化より大きくなる。・・・」 本件訂正の適否について本件特許明細書には,【0041】に,中立線を残して,その両側に溝を形成し,音叉腕の中立線を含めた部分幅W7は0.05mmより小さく,また,各々の溝の幅は0.04mmより小さくなるように構成する態様,及び,このような構成に 41】に,中立線を残して,その両側に溝を形成し,音叉腕の中立線を含めた部分幅W7は0.05mmより小さく,また,各々の溝の幅は0.04mmより小さくなるように構成する態様,及び,このような構成により,M1をMnより大きくすることができることが記載されている。また,【0043】には,溝が中立線を挟む(含む)ように音叉腕に設けられている第1実施例~第4実施例の水晶発振器に用いられる音叉形状の屈曲水晶振動子の基本波モード振動での容量比r1が2次高調波モード振動の容量比r2より小さくなるように構成されていること,及び,このような構成により,同じ負荷容量CLの変化に- 26 -対して,基本波モードで振動する屈曲水晶振動子の周波数変化が2次高調波モードで振動する屈曲水晶振動子の周波数変化より大きくなることが記載されている。 しかし,上記【0041】と【0043】の各記載に係る構成の態様は,それぞれ独立したものであるから,そこに記載されているのは,各々独立した技術的事項であって,これらの記載を併せて,本件追加事項,すなわち,「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝が形成された場合において,基本波モード振動の容量比r1が2次高調波モード振動の容量比r2より小さく,かつ,基本波モードのフイガーオブメリットM1が高調波モード振動のフイガーオブメリットMnより大きい」という事項が記載されているということはできない。また,その他,本件特許明細書等の全てにおいても,本件追加事項について記載はないし,本件追加事項が自明の技術的事項であるということもできない。 そうすると,本件追加事項の追加は,本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係 事項について記載はないし,本件追加事項が自明の技術的事項であるということもできない。 そうすると,本件追加事項の追加は,本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものというべきである。 したがって,訂正事項1及び2の追加は,新規事項の追加に当たり,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということはできない。 被告の主張についてア被告は,審決は,本件特許明細書の記載と当業者の技術常識に基づいて,本件訂正の適法性を判断したものであり,その判断に誤りはないと主張する。 審決は,【0041】と【0043】に記載する構成の態様が,それぞれ独立したものであり,両方の構成を有する態様については直接的には記- 27 -載されていないとしながら,両方の作用効果を期待するならば,両方の構成を有するような態様とすることは当業者であれば自然であり,当業者が本件特許明細書をみれば,それぞれの構成を有する態様のみならず,両方の構成を有する態様についても,実質的に記載されていると解釈すると判断している(審決書19ないし20頁)。 審決の上記判断は,要は,【0041】と【0043】の記載に接すれば,【0041】に記載されている構成と,【0043】に記載されている構成の,両方の構成を有する態様については明示的な記載がなくても,当業者であれば,両方の構成を有する態様に想到するから,両方の構成を有する態様である本件追加事項は本件特許明細書に記載されているに等しいというものである。 しかし,仮に,本件特許明細書の記載内容を手掛かりとして,当業者が本件追加事項に想到することが可能であるとしても,そのことと,本件特許明細書等の全ての に記載されているに等しいというものである。 しかし,仮に,本件特許明細書の記載内容を手掛かりとして,当業者が本件追加事項に想到することが可能であるとしても,そのことと,本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,本件追加事項が新たな技術的事項を導入しないものであるかどうかとは,別の問題である。そして,中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝が形成された場合において,基本波モード振動の容量比r1が2次高調波モード振動の容量比r2より小さく,かつ,基本波モードのフイガーオブメリットM1が高調波モード振動のフイガーオブメリットMnより大きい」という事項については,本件特許明細書等に記載があるとは認められず,また,審決の上記説明振りに照らしてみても,本件追加事項が自明な事項とはいえず,本件特許明細書等の記載の範囲を超えるものであることは明らかというべきである。 イ被告は,「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が- 28 -0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるような溝」を設けた場合において,基本波モード振動の容量比r1と2次高調波モード振動の容量比r2の関係が,r1<r2となることは,本件特許明細書に記載されているに等しいと主張し,その根拠として,甲第46号証を挙げ,音叉型屈曲水晶振動子においては,一般的に,基本波モード振動の品質係数Q1が2次高調波モード振動の品質係数Q2よりも小さいことは,当業者によく知られていると主張する。 しかし,甲第46号証(本件訂正発明の発明者作成の陳述書)は,本件特許明細書に記載された一例について,Q1<Q2の関係が得られるこ 数Q2よりも小さいことは,当業者によく知られていると主張する。 しかし,甲第46号証(本件訂正発明の発明者作成の陳述書)は,本件特許明細書に記載された一例について,Q1<Q2の関係が得られることを示しているものの,同号証の記述によって,音叉型屈曲水晶振動子において,一般的に,Q1<Q2の関係にあることまでを認めるには足りない。また,同号証の他に,音叉型屈曲水晶振動子において,一般的に,Q1<Q2の関係にあることが当業者によく知られているとの事実を認めるに足りる証拠はない。 したがって,「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるような溝」を設けた場合において,基本波モード振動の容量比r1と2次高調波モード振動の容量比r2の関係が,r1<r2となることは,本件特許明細書に記載されているに等しいとの被告の上記主張は,その前提を欠き,採用することができない。 2 まとめ以上のとおり,訂正事項1及び2の追加は,特許法134条の2第1項ただし書及び同条9項が準用する同法126条5項に違反し,不適法であるから,原告主張の取消事由1は理由があり,取消事由2について判断するまでもなく,審決は違法であり,取消しを免れない。 第6 結論- 29 -よって,原告の請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官石井忠雄 裁判官西理香 裁判官田中正哉 裁判官 西理香 裁判官 田中正哉
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