平成27(ワ)1235 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成29年2月8日 神戸地方裁判所
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判決文本文28,800 文字)

平成29年2月8日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成27年(ワ)第1235号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成28年10月26日判決主文 1 被告は,原告に対し,793万7222円及びこれに対する平成25年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを25分し,その4を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求被告は,原告に対し,947万2069円及びこれに対する平成25年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨原告と被告は,共に全盲の視覚障害者である。原告(事故当時62歳・女性)は,盲導犬を連れ,駅のホームを歩行していた際,ホームに敷設された点字ブロック上において,白杖(はくじょう)を使用して原告の対向方向から進行してきた被告(事故当時20歳代・男性)と衝突して転倒した(以下「本件事故」という。)。 本件は,原告が,被告に対し,本件事故は,被告が白杖を適切に使用せず,上記点字ブロック上を小走りに駆け出した過失により発生したと主張し,不法行為(民法709条)による損害賠償請求権に基づき,治療費,休業損害,慰謝料等の損害賠償金合計947万2069円及びこれに対する本件事故の日である 平成25年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(争いのない事実並びに付記する証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定し得る事実)(1) 当事者等ア原告は,昭和26年a 月b 日生まれの女性であり,全盲の視覚障害 案である。 2 前提事実(争いのない事実並びに付記する証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定し得る事実)(1) 当事者等ア原告は,昭和26年a 月b 日生まれの女性であり,全盲の視覚障害者である。 イ被告は,本件事故当時20歳代の男性であり,全盲の視覚障害者である。 (2) 本件事故原告は,平成25年8月1日午前9時04分頃(以下,本件事故当時の出来事については,単に時刻のみを記載する。),神戸市営地下鉄c 駅地下2階東行ホーム(以下「本件ホーム」という。)において,盲導犬を連れて歩行していた際,白杖を使用して原告の対向方向から進行してきた被告と,床面に敷設された点字ブロック上において衝突し,原告が転倒した。 3 当事者の主張(1) 請求原因ア本件事故の発生(ア) 事故態様被告は,本件ホームに到着した電車の先頭車両第1ドアの乗降口から下車した後,白杖を使用して点字ブロックの位置を確認すると,白杖を宙に浮かせて,点字ブロック上を小走りに駆けだし,点字ブロック上を,盲導犬をつれて進行してきた原告と正面衝突した。 (イ) 被告が走っていたことについてa 一般的な歩行速度との比較被告は,通勤途上であり,神戸市営地下鉄c 駅からJRd 駅への乗換え時間は5分であると供述する。株式会社駅探が提供する乗換案内 ソフトによれば,営業で歩きなれているビジネスマンである30代の男性を想定し,歩く速さを「せかせか」に設定した場合に,同駅間の乗換え時間は5分となる(歩く速さの設定を「普通」にした場合の0.8倍の数値が採用されている。)。 b 移動距離から算定される被告の進行速度(a) 本件ホームの構造ホームには,東端から約27.5メートルにわたり落下防止柵(落下防止柵の支柱と支柱の間隔は 倍の数値が採用されている。)。 b 移動距離から算定される被告の進行速度(a) 本件ホームの構造ホームには,東端から約27.5メートルにわたり落下防止柵(落下防止柵の支柱と支柱の間隔は135センチメートルである。)が設置されるとともに,ホーム上線路側には長さ約30センチメートル,幅約41センチメートルの点字ブロックが設置されている。各乗車位置には2枚の点字ブロックが併設され,乗車位置を示している。 被告が乗車していた電車の先頭車両第1ドアの乗降口から東側落下防止柵の西端までは,点字ブロックが19枚と3分の1程度敷設されている。よって,先頭車両第1ドアの乗降口から東側落下防止柵の西端までは,約5.8メートル(30センチメートル×(19枚+1/3枚))である。 (b) 被告の移動距離本件ホームに設置されていた防犯カメラ(以下「本件防犯カメラ」という。)の映像によれば,被告の足元が,被告が原告に衝突する手前の地点で映像の死角に入ることが確認できる(甲2の6)。同映像をみれば,被告は,映像の死角に入るまで,東側落下防止柵の西端から同防止柵の支柱5本目まで進行したことが分かる。よって,被告は,映像の死角に入るまでに,5.4メートル(135センチメートル×4)以上進行した。 そうすると,被告は,下車後,先頭車両第1ドアの乗降口から, 上記地点までに少なくとも約11.2メートル進行したことになる(5.8メートル+5.4メートル)。 (c) 速度本件防犯カメラの映像によれば,被告は,先頭車両第1ドアの乗降口から下車後,そのまま前方(本件ホームの壁面側)に進み,午前9時4分42秒の時点において,点字ブロックを超えた地点にいて,午前9時4分47秒の時点において,被告の足元が映像の死角に入る地点(東側落下防止 車後,そのまま前方(本件ホームの壁面側)に進み,午前9時4分42秒の時点において,点字ブロックを超えた地点にいて,午前9時4分47秒の時点において,被告の足元が映像の死角に入る地点(東側落下防止柵の西端から5本目の支柱)にいる。被告は,この5秒間に東向きに約11.2メートル(先頭車両第1ドアの乗降口~東側落下防止柵西端の5.8メートルと同西端~5本目の支柱の5.4メートル)を進行したことになるが,この間に,点字ブロックの方へと戻り,白杖で点字ブロックを探し当てるなどしてから駆け出しているから,被告が実際に上記距離を移動するのに要した時間は4秒~5秒であった。よって,被告は,時速8.64キロメートル~時速10.08キロメートルで進行したこととなり,これは,成人の平均的歩行速度である時速4キロメートルの2倍~2.5倍に当たる。 イ責任原因(ア) 視覚障害者も,視覚障害者でない者と同様に,歩行する際は,人との衝突を避けるため,前方を確認しながら,適切な速度で進行する義務を負う。 本件事故は,全盲の視覚障害者である被告が,他の視覚障害者が点字ブロックを頼りにホームを歩行する可能性があることを予見できたにもかかわらず,これを予見せず,白杖の適切な使用により前方の安全確認をすべきであったのに,白杖を持ち上げて宙に浮かせ,前方の安全確認を欠いたまま,点字ブロック上を小走りで移動したために生じた。 (イ) 白杖の使用方法について歩行補助具としての白杖には,①安全性の確保,すなわち,前方を確認することで物体や階段等の落ち込みを判断し,身体を保護する機能,②情報の入手,すなわち路面の変化,目じるし等の情報を入手する機能,③視覚障害者としてのシンボルとして,社会に注意を喚起する機能を有している。そ 物体や階段等の落ち込みを判断し,身体を保護する機能,②情報の入手,すなわち路面の変化,目じるし等の情報を入手する機能,③視覚障害者としてのシンボルとして,社会に注意を喚起する機能を有している。そして,視覚障害者は,通行者が多く混雑している場所においては,①スライド法(白杖の一般的な操作技術の一つである。)を使用する,②歩行速度を通常より遅くする,③白杖は通常よりゆっくり振るようにすることの3点に留意して歩行するように指導される。 被告は,本件事故当時,白杖を右手に持ち,肘を曲げて自己の体の前方に構えるように持ち,宙に浮かせるような状態であった。被告は,白杖を自分より前に出していたから,全盲の視覚障害者との接触を避けることができる旨供述する。しかし,そのような場合に大きな衝突を避けるためには,白杖が人や物に当たったときにすぐに停止できるか,衝突を回避できるような速度でゆっくり歩いていなければならない。実際には,被告は原告の体が白杖又は白杖を携えた手に当たったかどうかを感じる間もなく,原告と正面衝突している。その原因は,被告が走っていたことにある。 ウ損害及び因果関係(ア) 原告は,衝突の衝撃であお向けに転倒し,第11胸椎圧迫骨折等の傷害を負い,腰背部に圧痛及び運動機能制限の後遺障害が残った(後遺障害等級第11級7号)。 (イ) 治療経過a 平成25年8月1日 A整形外科クリニック通院(実通院日数1日)b 同月5日 Bクリニック通院(実通院日数1日)c 同月5日~同月8日 C病院入院(4日間) d 同月8日~同年11月25日 D病院入院(109日間)e 同月26日~平成26年8月8日 D病院通院(実通院日数18日)f 同月8日症状固定(D病院)(ウ) 原告は,以下のとおり,本件事故により ~同年11月25日 D病院入院(109日間)e 同月26日~平成26年8月8日 D病院通院(実通院日数18日)f 同月8日症状固定(D病院)(ウ) 原告は,以下のとおり,本件事故により,947万2069円の損害を被っている。 a 治療費 11万4800円(内訳)入通院費 10万8150円薬代 6650円b 付添看護費 5万4000円治療方針説明の日のほか,散髪等を目的とした外出,外泊等のため,計9日間原告の長女が入院中の原告に付き添った。原告の病状から,転倒等を防止するため,原告の外出時に付添は不可欠であった。 (計算式)6000円×9日=5万4000円c 入院雑費 16万9500円(計算式)1500円×113日=16万9500円d 通院交通費 5730円e 診断書及び後遺障害診断書の取得費用 1万0800円f 休業損害 55万4835円(a) 医療法人E原告は,時給1280円で,週4日,1日3時間のマッサージ施術を請け負っていた。本件事故前3か月間の給与の日額平均は5351円である。原告は,本件事故により,平成25年12月末日まで合計85日間休職した。 (計算式)5351円×85日=45万4835円(b) 社会福祉法人F 原告は,同法人施設Gにおいて,日当5000円で,月2回マッサージ施術を行っていた。本件事故当日は,出勤したものの施術を行うことができず,また,事故後,平成26年1月2日まで合計10日間休職した。 (計算式)5000円×10日=5万円(c) H会原告は,H会において,日当5000円で月2回マッサージ施術を行っていた。本件事故当日は,出勤したものの施術を行うことができ 。 (計算式)5000円×10日=5万円(c) H会原告は,H会において,日当5000円で月2回マッサージ施術を行っていた。本件事故当日は,出勤したものの施術を行うことができず,また,事故後,平成26年1月2日まで合計10日間休職した。 (計算式)5000円×10日=5万円(d) 上記(a)~(c)の合計 55万4835円g 入通院慰謝料 200万円h 逸失利益 92万1513円原告の後遺障害は,脊柱に変形を残すものとして,後遺障害等級第11級7号に相当する。マッサージ施術師という職業上,施術時には腰に負荷がかかり,労働能力が制限されている。労働能力喪失率は20%を下らない。 本件事故の前年である平成24年の年収59万6680円を基礎収入,就労可能年数を10年(症状固定時63歳)として計算する。 (計算式)59万6680円×20%×7.722=92万1513円i 後遺障害慰謝料 480万円原告は,腰の痛みのため,マッサージ師の仕事や日常生活に支障を来している。 また,次のとおり,本件においては慰謝料の増額事由がある。すな わち,被告は,本件事故後,原告に声をかけることもなく現場を立ち去った。警察の捜査によって被告の所在が明らかになり,被告は,入院中の原告を見舞い,自分がすべて悪かったと謝罪し,原告に生じた損害については,対人賠償保険で対応する旨約束した。そのため,原告は,被告に対する告訴を取り下げたが,その後,被告は自らの過失を認めたことはない,原告にも過失があるなどと主張し,不合理な自己弁護を行っている。原告は,被告に裏切られ,精神的苦痛を被っている。 被告の行為によって傷害と精神的苦痛を被った原告の慰謝料を金銭に換算すれば, 原告にも過失があるなどと主張し,不合理な自己弁護を行っている。原告は,被告に裏切られ,精神的苦痛を被っている。 被告の行為によって傷害と精神的苦痛を被った原告の慰謝料を金銭に換算すれば,480万円を下回らない。 j 小計 863万1178円k 損益相殺 5730円原告は,平成26年1月27日,被告の家族が保険契約を締結する共栄火災海上保険株式会社より,上記交通費5730円の支払を受けた。 l 填補後の損害額 862万5448円m 弁護士費用 84万6621円n 合計 947万2069円(エ) 下記(2)ウの被告の主張についてa 傷病の内容について原告は,本件事故以前には,骨粗しょう症の診断はおろか,骨密度について医師から何らの指摘を受けたこともない。原告に年齢相応の老化現象が認められたとしても,それが疾患に当たらない以上,訴因減額の対象とはならない。 なお,圧迫骨折により神経に負担がかからなければ,神経学的所見が認められないこともあることは,被告提出の書証(乙1)の記載からも明らかである。 b 逸失利益について平成27年の原告の年収は約50万円であるが,平成24年の年収59万6680円と比較すれば,16パーセント以上の減収がある。 また,原告の実際の労務は,炊事洗濯料理等の家事全般に及ぶが,事故の前後を通じて収入に上記以上の大幅な変化がないのは,職場の理解及び原告において労働能力低下により収入が減少しないよう特別の努力をしていることによる。その継続は困難であり,これまで原告に上記以上の現実の収入減がなかったとしても,上記(ウ)h程度の逸失利益は発生するというべきである。 エよって,原告は,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき, あり,これまで原告に上記以上の現実の収入減がなかったとしても,上記(ウ)h程度の逸失利益は発生するというべきである。 エよって,原告は,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,947万2069円及びこれに対する本件事故の日である平成25年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (2) 請求原因に対する認否及び主張ア請求原因ア(本件事故の発生)(ア) 事故態様についてア(ア)について,被告が,白杖を把持し,ホーム上の点字ブロックの位置を確認した上で,点字ブロック上を改札へ向かって速足で歩行していたこと,改札方面から電車に向かって歩行してきた原告と衝突し原告が転倒したことは認め,その余は否認又は不知。 本件は,被告が点字ブロック上を直進歩行していた際,原告が点字ブロック外から斜めに点字ブロック上に進入してきたことにより接触した事故である。 (イ) 被告が走っていたことについてa ア(イ)は否認し争う。 b 原告は,移動距離から被告の進行速度を算定するに当たり,先頭車 両第1ドアの乗降口から東側落下防止柵西端までの距離を約5.8メートルとしているが,同乗降口の東端は,写真撮影報告書(甲38の4)において⑳と記載された点字ブロック(20枚目)の一枚東側のブロック(19枚目)に相当する位置にあるから,上記の距離は,同ブロックから落下防止柵西端に当たる2枚目の点字ブロックまでの18枚分に相当する約5.4メートル(30センチメートル×18枚)として算定すべきである。 c 本件防犯カメラの撮影範囲は限定されており,また,遠近感を踏まえた距離を計測し難いことから,被告の足元が映像の死角に入った午前9時4分47秒の時点で,被告が落下防止柵の支柱5本目まで進行 。 c 本件防犯カメラの撮影範囲は限定されており,また,遠近感を踏まえた距離を計測し難いことから,被告の足元が映像の死角に入った午前9時4分47秒の時点で,被告が落下防止柵の支柱5本目まで進行したことは明らかではない。本件防犯カメラの映像によれば,転落防止柵の支柱4本目の位置までは床との着地地点が写っているから,同地点に被告の靴がたどり着いた時点である午前9時4分46秒の最後の一コマ(乙17の8)までの歩行距離を計測して,速度を算定すべきである。そうすると,被告の落下防止柵の西端からの移動距離は,4.05メートル(135センチメートル×3)となる。 d そして,本件防犯カメラの映像によれば,被告は,下車後,午前9時4分41秒から42秒にかけて,改札口方面に向かって斜めに歩行している(乙17の1~17の6)。そのため,被告の速度を算定するに当たっては,午前9時4分41秒コンマ0を測定始期とすべきである。 そうすると,被告が,本件ホーム先頭の乗降口から落下防止柵の西端を過ぎ,転落防止柵の支柱4本目までの距離を歩行するのに要した時間は満6秒となる。 以上を前提とすると,被告の移動距離は9.45メートルとなり(5. 4メートル+4.05メートル),被告の歩行速度は時速約5.67キロメートルとなる。仮に,午前9時4分41秒台の時間帯において, 被告が斜めに歩行した分を考慮(0.5秒分を控除する)したとしても,被告の歩行速度は6.184キロメートルとなる。 成人の通常の歩行速度は時速4.8キロメートルと考えるのが合理的であり(乙16の1,16の2),被告の歩行速度はこれを若干上回るものの,大差はなく,同速度をもって被告に過失があるということはできない。 イ請求原因イ(責任原因)(ア) イ(ア)(イ)はいずれも争う。 ( ,16の2),被告の歩行速度はこれを若干上回るものの,大差はなく,同速度をもって被告に過失があるということはできない。 イ請求原因イ(責任原因)(ア) イ(ア)(イ)はいずれも争う。 (イ) 原告と被告の過失以外の事故原因a 本件は,そもそも,双方が全盲の歩行者で,点字ブロック上において接触したという類まれな事故であり,双方ともに大きな帰責性は問い難い。 b 原告は,本件事故時,盲導犬が止まったと同時にぶつかった,あるいは,盲導犬が止まる前にぶつかったと供述しており,盲導犬は,点字ブロックを対向方向から歩いてくる被告に反応せず,接触前に止まっていなかったと考えられる。盲導犬の特性によって,接触前に止まらなかったことも考えられ,そうであるとすると,本件事故について被告の過失を問うことができない。 c なお,後述のとおり,本件事故は原告の過失によって生じたと考えられる。 (ウ) 白杖の使用方法についてa 混雑時の白杖の使用方法は,文献(甲30)上も,「白杖の振り幅は狭くせず,通常の状態にしておく」あるいは,「既知で安全が確保される場所に限定して,他の通行者への配慮のため,白杖の振り幅を狭くし,白杖を短めに持つ(社会に対する配慮)」かのどちらに重きを置くかは,その対象者の能力と環境に応じて適切に指導 するとされ,特に電車利用時のホームにおいては,白杖の基本動作を踏まえつつも,「実際に非常に混雑している場所では,他の通行者を転倒させたり,また,対象者の白杖が損傷したりすることを防ぐ必要が生じるため,周囲への配慮が必要で,その対応は難しい。 対象者の考え方も考慮して,その場に応じて柔軟に対応することが必要となる。」とされる。 b 被告は,本件ホームが既知の場所で,落ちる危険性がなく,床に白杖を突いて転落を 要で,その対応は難しい。 対象者の考え方も考慮して,その場に応じて柔軟に対応することが必要となる。」とされる。 b 被告は,本件ホームが既知の場所で,落ちる危険性がなく,床に白杖を突いて転落を防止し自身の安全を確保する必要が乏しかったところ,下車してきた人で混雑していたため,他者に白杖が当たらないよう配慮し,体の前で白杖を構えていた。被告が白杖を振らなかったことについて過失があるということはできない。 c なお,本件では,原告が白杖を使用しておらず,原告の先を歩いているはずの盲導犬も被告と接触しておらず,原告が被告の左斜め前から点字ブロック上に歩行してきたことから,被告が右手に持って自身の前に出していた白杖が原告に当たりにくい進入角度であった。そうすると,被告の歩行速度にかかわらず,両者の衝突は避け難く,本件事故の原因は,被告の歩行速度よりも,原告の歩行経路や盲導犬の特性,使用方法等にある。 ウ請求原因ウ(損害及び因果関係)(ア) いずれも否認又は不知。損害は争う。 (イ) 傷病の内容について胸椎を骨折すれば,一般的に,その瞬間にもん絶するような痛みが生じ,歩行もままならない。原告は,本件事故当日,勤務先に出勤しており,同日通院した,A整形外科においては,胸椎圧迫骨折の診断はされておらず,歩行可能で神経学的所見もなく,脊椎は殴打痛がないことが確認され,その後通院したB病院においても,下肢の神経症 状がないことが確認されている。本件事故当時,原告の腰の痛みは強いものではなかった。 本件事故態様からすると,発生し得る傷害は捻挫や打撲程度にとどまる。胸椎圧迫骨折の原因で最も多いのが高齢者の骨粗しょう症であり,骨粗しょう症が進行すると尻もち程度で骨折することがあること,胸椎圧迫骨折の場合,骨折した椎体の破片 得る傷害は捻挫や打撲程度にとどまる。胸椎圧迫骨折の原因で最も多いのが高齢者の骨粗しょう症であり,骨粗しょう症が進行すると尻もち程度で骨折することがあること,胸椎圧迫骨折の場合,骨折した椎体の破片が脊柱管内に入り込み神経を圧迫すると下肢のしびれや痛み,麻ひ等の症状が現れるが,原告には,これらの症状はみられなかったことからすると,原告は骨粗しょう症が原因で胸椎圧迫骨折が生じたと考えられる。 (ウ) 付添看護料について原告が入院した病院においては完全看護の体制がとられているはずであり,近親者による付添看護の必要性はない。 (エ) 医療法人Eにおける休業損害について平成25年6月の収入は,現実の稼働による収入ではなく,稼働日数を0日とする有給休暇取得による収入であり,これを収入に加算して算定することはできない。また,休業損害証明書には,1日の実働分の所定労働時間が3時間で,時給1280円であることが明記され,実際に現実の稼働があった平成25年5月分と同年7月分の本給については,それぞれ日額3840円(時給1280円×3時間=日額3840円)とおおむね相違ないこと,同証明書に記載された付加給の内容が明らかでないことなどから,給与の日額は3840円と考えるのが相当である。 また,原告は,週4日の勤務が決まっていたと主張するが,現実の勤務日数は,平成25年5月が13日,同年6月は0日,同年7月は11日と対応していない。原告の現実の稼働日数は,1か月あたり8日程度(事故前3か月間の稼働日数24日÷3=8日)であり,本件 事故と相当因果関係がある休業日数は5か月間のうち40日を超えない。 したがって,医療法人Eでの休業損害は,15万3600円(日額3840円×40日)を上回らない。 (オ) 逸失利益について と相当因果関係がある休業日数は5か月間のうち40日を超えない。 したがって,医療法人Eでの休業損害は,15万3600円(日額3840円×40日)を上回らない。 (オ) 逸失利益について原告は平成27年の年収が50万円程度であることを認めており,本件事故の前年の平成25年の年収59万6680円と大差がなく,後遺障害による実損は生じていないと考えられる。 また,労働能力喪失率については,個別具体的な案件,事情に応じて算定することが求められる。専門医の医学的知見として,脊柱変形障害8級の後遺障害であっても,臨床的に訴えられる自覚症状は,円背・猫背(=醜状)か,後弯による腰背部痛(局所痛)であり,重量挙げ類似の作業でない限り,労働能力が半減することはないとされる。 本件において,原告には特段の神経学的所見はなく,平成26年からは職場復帰しており,症状固定後に減収が生じていないから,脊柱変形の後遺障害によっても,現実には原告の労働能力は減少していないと考えられる。また,原告がマッサージの仕事がしにくくなった原因については,本件事故の3か月前に受けた大腸がんの手術時の開腹による影響も考えられる。 そうすると原告に逸失利益は認められず,仮に一定程度認められたとしても,労働能力喪失率は14パーセントを超えない。 (カ) 後遺障害慰謝料の増額事由について被告は,歩行中に人とぶつかった際は必ず謝ることを習慣としており,原告とぶつかった際にも声を掛けたはずである。原告は,本件事故により気が動転していたことに加え,歩行者の足音や雑音がある中,被告は目が見えないため原告が倒れたことも分からず,立った状態で 声を掛けており,それが原告に伝わっていなかったとしても不自然ではない。また,被告が病院において原告に謝罪したのは,結果的 被告は目が見えないため原告が倒れたことも分からず,立った状態で 声を掛けており,それが原告に伝わっていなかったとしても不自然ではない。また,被告が病院において原告に謝罪したのは,結果的にけがをしたのが原告だからであり,過失を全面的に認めたわけではないし,告訴の話を聞いていたわけでもなく,裁判上の攻撃防御方法として過失割合を争うことは慰謝料増額事由に該当しない。 (3) 抗弁ア過失相殺原告には次のとおり過失が認められ,本件事故について仮に被告に一定の過失があったとしても,被告の過失が50パーセントを上回ることはない。 (ア) 原告は,電車から降りてきて改札へ向かう人でホームが混雑していたことを認識していたにもかかわらず,漫然と乗降口に向かって歩行しており,人の波に逆らっているにもかかわらず,安易に他者が避けてくれると考え,他の視覚障害者の存在や行動を想定せず歩行していた。このような状況下において,原告には,対向する多くの歩行者とぶつからないように,通常よりも注意して歩行する義務があったのに,原告は,点字ブロック上を歩行すればぶつかる危険性はないと考え,点字ブロックを探し漫然と斜め歩行しており,過失がある。 (イ) 仮に,原告が,原告自身の前方に盲導犬を歩かせ,点字ブロックに沿って直進歩行しておれば,被告は原告にぶつかる前に,原告の前を歩く盲導犬に白杖か被告自身がぶつかったはずである。原告が点字ブロックの外から点字ブロック上へと斜めに進入してきたことが,本件事故の発生原因となっている。 原告としては,点字ブロック上の対向方向から他の視覚障害者が歩行してくる可能性を考え,点字ブロック外から点字ブロックへと進入する際には,一時停止するなどし,盲導犬の向きを点字ブロック上の 進行方向へと 字ブロック上の対向方向から他の視覚障害者が歩行してくる可能性を考え,点字ブロック外から点字ブロックへと進入する際には,一時停止するなどし,盲導犬の向きを点字ブロック上の 進行方向へと軌道修正し,盲導犬を先行させた上で歩行を継続すべきであったといえる。原告は,他者が避けてくれると安易に考え漫然と進行を継続していただけであり,過失がある。 イ損益相殺被告は,原告に対し,加入する保険会社を通じ,原告が上記(1)ウ(ウ)kにおいて主張するもののほか,5万9400円を支払った。 (4) 抗弁に対する認否及び主張ア抗弁アはいずれも否認し争う。 本件ホームには下車する人だけでなく,乗車するため西向きに歩く人も多数いたのであり,下車する人に優先性があるかのような被告の主張は根拠を欠く。 左手に盲導犬のハーネスを持ち,ゆっくり歩行していた原告の歩行態様に,視覚障害者の歩行態様としての落ち度はない。 イ抗弁イは認める。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前提事実のほか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。 (1) 本件ホームの構造ア本件事故現場である神戸市営地下鉄c 駅地下2階東行ホーム(本件ホーム)の状況は,別紙のとおりである。東西に伸びるホームの南側が線路であり,その対面は壁面である。本件ホームから地下1階コンコース(改札階)へと向かうための階段及びエスカレーターがホームの東西に設置されており,東側に設置されたエスカレーター手前の天井部分に,本件防犯カメラが設置されている。(甲34~甲37〔枝番があるものは枝番を含む。〕) イ本件ホームには,線路側の端に沿って長さ約30センチ,幅約41センチメートルの点字ブロックが設置されており,列車のドアに (甲34~甲37〔枝番があるものは枝番を含む。〕) イ本件ホームには,線路側の端に沿って長さ約30センチ,幅約41センチメートルの点字ブロックが設置されており,列車のドアに対応する各乗車位置には2枚の点字ブロックが併設されている(以下「併設点字ブロック」という。)。(甲36~甲38〔いずれも枝番を含む。〕)また,本件ホームの東端から約27.5メートルにわたり,落下防止柵が設置されている。落下防止柵の支柱と支柱の間隔は135センチメートルである。(甲35,甲39の1~39の9)(2) 本件事故当時の当事者の体格本件事故当時,原告は,身長約157センチメートルであり,被告は,身長約160センチメートル,体重約45キロであった。(原告本人,被告本人)(3) 本件事故の発生状況ア被告は,本件事故当時,通勤のため,本件ホームで下車した直後であり,改札のある地下1階を経由し,JRd 駅へ向かおうとしていた。本件ホームは,通勤ラッシュのため,混雑していた。(乙15,被告本人,弁論の全趣旨)イ午前9時04分頃,被告が乗車した電車が本件ホームへと到着し,被告は先頭車両の第1ドアの乗降口から本件ホームへと下車した。被告は,下車後,線路の対面にある壁に向かって点字ブロックを通過して進行した後,体の向きを階段の方へと変え,弧を描くように歩きながら右手に持った白杖で点字ブロックの位置を確認した。 当該位置は,先頭車両の第1ドアの乗降口に合わせて設置された併設点字ブロックの東端とおおむね符合している。 被告は,その直後,速度を上げ,東側のエスカレーターに向かって,点字ブロック上を進行した。その際,被告は,白杖を右手で握るように持ち,持ち手を右胸の少し前に差し出し,白杖の先端は,地面から浮かし,自身の は,その直後,速度を上げ,東側のエスカレーターに向かって,点字ブロック上を進行した。その際,被告は,白杖を右手で握るように持ち,持ち手を右胸の少し前に差し出し,白杖の先端は,地面から浮かし,自身の左足の先に向けていた。(以上につき甲1の1,甲2の1~2の5) ウ原告は,勤務先へと通勤するため本件ホームから乗車することを予定し,盲導犬を連れ,盲導犬のハーネスを左手に持って,本件ホームを東側から西側に向かって点字ブロックを探しながら歩行していた。(甲31,原告本人)エ本件ホームは,被告が乗車していた電車から下車し,改札へと向かう人で混雑していたが,原告と同様に,電車へ乗車するため東から西に進行する人もみられた。(甲1の1)オ原告は,本件ホーム上を斜めに横断するような態様で進行し,点字ブロックを探し当て,点字ブロック上を歩行し始めた。その直後,原告と,原告の対向方向から点字ブロック上を進行してきた被告とが衝突した(本件事故)。(甲1の1,甲2の6~2の15,甲31,原告本人)カ本件事故の際,原告の半歩先を歩いていた盲導犬は,被告と衝突する前には停止しなかった。原告は,顔面全体が被告の体に衝突し,衝突の衝撃で仰向けに転倒した。(甲31,原告本人)キ被告は,原告と衝突した後,衝突した原告が立っていた方に顔を向けながら,点字ブロックから壁側へそれるような形でエスカレーターへと向かって進行した。(甲1の1,甲2の15~2の18)(4) 視覚障害者の歩行方法(甲29~甲32,乙15,原告本人,被告本人)ア目が見えない者(目が見えない者に準ずる者を含む。)は,道路を通行するときは,政令で定めるつえ(白色又は黄色のつえ)を携え,又は政令で定める盲導犬(所定の訓練を受け, 告本人)ア目が見えない者(目が見えない者に準ずる者を含む。)は,道路を通行するときは,政令で定めるつえ(白色又は黄色のつえ)を携え,又は政令で定める盲導犬(所定の訓練を受け,白色又は黄色の用具を付けた盲導犬)を連れていなければならない(道路交通法14条1項)。白杖,盲導犬,点字ブロック(視覚障害者誘導用ブロック)は,いずれも視覚障害者の歩行補助具である。 イ白杖を使用した歩行方法(ア) 一般的な操作技術 視覚障害者が白杖を携帯する目的としては,①安全性の確保(前方を確認することで,物体や段差等の落ち込みを判断し,身体を保護する),②情報の入手(路面の変化,目じるし等の情報を入手する),③視覚障害者としてのシンボル(社会の注意を喚起する)が挙げられる。一般的な白杖の操作技術には,白杖を体の中央で構え,歩行のリズムに合わせて,1~2歩前方を左右の両肩よりやや広めに地面に軽く触れるように操作して歩行するタッチテクニック,基本はタッチテクニックと同様であるが,白杖を地面から離さずに操作するスライド法等がある。 (イ) 混雑地等における歩行方法混雑地における歩行については,他の通行者が白杖を避けるなど,必要な対応ができるよう次の点に留意して歩行すべきであるとされている。 ① スライド法を使用する。 ② 歩行速度は通常より遅くする。 ③ 白杖は通常よりゆっくり振るようにする。 ただし,既知の所で安全が確保され,可能であれば他の通行者への対応のため白杖を短めに持ったり,白杖の振り幅をやや狭くしてもよいとされ,安全性の確保のため,白杖の振り幅は狭くせず,通常の状態にしておく(自分の安全性は確保しながら歩行速度は遅くし,白杖もゆっくり振って歩行するという配慮は行う),あるいは,既知で安全が確保され され,安全性の確保のため,白杖の振り幅は狭くせず,通常の状態にしておく(自分の安全性は確保しながら歩行速度は遅くし,白杖もゆっくり振って歩行するという配慮は行う),あるいは,既知で安全が確保される場所に限定して,他の通行者への配慮のため,白杖の振り幅を狭くし,白杖を短めに持つ(社会に対する配慮)かのどちらに重きを置くかは,その対象者の能力と環境に応じて適切に指導するとされる。 また,電車を利用する際の歩行方法として,ホームにおいては,スライド法で,通常より振り幅を広くし,歩行速度は遅くして歩行するとされる。ただし,実際に非常に混雑している場所では,他の通行者を転倒させたり,また,対象者の白杖が損傷したりすることを防ぐ必 要が生じるため,周囲への配慮が必要で,その対応は難しく,対象者の考え方も考慮して,その場に応じて柔軟に対応することが必要であるとされている。 ウ盲導犬を使用した歩行方法盲導犬は,曲がり角,段差等を知らせ,直進歩行を誘導するといった,歩行能力のうちの一部の環境認知,身体行動を補助する。盲導犬は,ゆっくりと歩き,障害物と使用者である視覚障害者の間を進み,視覚障害者と障害物との衝突を避ける。視覚障害者が障害物の方へと進行し,段差や障害物にぶつかる危険性がある場合には,盲導犬は停止し,視覚障害者の動きを制止することで使用者の歩行を補助する。 2 補足説明(上記1の認定事実(3)イについて)原告は,被告はブロック上を小走りに駆け出したと主張し,その根拠となる被告の速度について,前記第2の3(1)ア(イ)bのとおり主張する。他方,被告は,本件ブロック上を速足で歩行していたにすぎず,走ってはいないと主張し,被告の歩行速度については,前記第2の3(2)ア(イ)b~dのとおり主張する。 そこで,以下,両 のとおり主張する。他方,被告は,本件ブロック上を速足で歩行していたにすぎず,走ってはいないと主張し,被告の歩行速度については,前記第2の3(2)ア(イ)b~dのとおり主張する。 そこで,以下,両主張の採否を検討する。 (1) この点,証拠(甲1の1,甲2の1~2の6,乙17の1~17の9)によれば,上記1の認定事実(3)イ及び同オの被告の歩行態様を次のとおり分析することができる。 ア本件防犯カメラの映像上,被告は,午前9時4分40秒の時点で,先頭車両の第1ドアの乗降口から本件ホームへと下車し,午前9時4分41秒にかけて,本件ホーム側の壁に向かって,点字ブロック上を通過して進行し,午前9時4分42秒の最初の1コマで左足が先頭車両第1ドアの乗降口を表示する併設点字ブロックの東端付近に着地している。そして,同秒~午前9時4分43秒にかけて,体の向きを東向きへと変え,白杖で点字ブロックを探しながら,弧を描くように点字ブロック上へと戻り,午前 9時4分44秒から,点字ブロック上を東に向かって,速度を上げて直進する様子が見てとれる。 イその後,被告は点字ブロック上を直進し,本件防犯カメラ映像の午前9時4分46秒の最後の一コマの時点で,落下防止柵の4本目の支柱が設置されている部分まで進行したことが確認できる。 ウ他方,落下防止柵の支柱5本目の位置での着地地点は映像の範囲外になるため,被告の足元が映像の死角に入った午前9時4分47秒の時点で,被告が,落下防止柵の支柱5本目の位置での着地地点まで進行したことは明確には認められない。 (2) 以上を前提として,被告の進行速度について検討する。 ア上記のとおり,被告は,下車後,午前9時4分41秒にかけて,線路の対面にある壁に向かって前進しており,午前9時 認められない。 (2) 以上を前提として,被告の進行速度について検討する。 ア上記のとおり,被告は,下車後,午前9時4分41秒にかけて,線路の対面にある壁に向かって前進しており,午前9時4分42秒から,階段の方へと体の向きを変え,弧を描くように点字ブロック上へと戻り,午前9時4分44秒から,点字ブロック上を進行している。被告は,午前9時4分42秒から午前9時4分46秒の最後の一コマまでの満5秒間に,少なくとも,先頭車両第1ドアの乗降口を表示する併設点字ブロックの東端から落下防止柵の4本目の支柱までに相当する距離を進行したとみることができ,この間の移動距離を被告の進行速度算定の基礎とすれば,体の向きを変える時間を含んでいることからすると,おおむね正確で,若干,控えめな進行速度を算定することができると考える。 イ先頭車両第1ドアの乗降口を表示する併設点字ブロックの東端から落下防止柵の西端までの距離は,証拠(甲36の1~36の3,甲38の1~38の4)によれば,点字ブロック(長さ約30センチメートル)19枚と3分の1枚分(写真撮影報告書〔甲38の4〕において①と記載されたブロックの1枚西側のブロックから⑳と記載されたブロックまでの合計19枚と①のブロックの西側3分の1に相当する部分)に相当 し,約5.8メートルと認められる。 ウまた,落下防止柵の西端から4本目の支柱までの距離は,支柱間の間隔が135センチメートルであるから(前記1の認定事実(1)イ),4. 05メートルである。 エそうすると,被告は,5秒間に9.85メートル(先頭車両第1ドアの乗降口~落下防止柵の西端の5.8メートル+落下防止柵西端~支柱4本目の4.05メートル)進行したこととなり,時速は約7.092キロメートルとなる。 ,5秒間に9.85メートル(先頭車両第1ドアの乗降口~落下防止柵の西端の5.8メートル+落下防止柵西端~支柱4本目の4.05メートル)進行したこととなり,時速は約7.092キロメートルとなる。 (3) 成人の平均的歩行速度を4キロメートル(交通事故の分析等において使用される速度であることが当裁判所に顕著である。)と考えると,被告の進行速度はその約1.77倍に当たり,成人の平均的歩行速度を4.8キロメートル(不動産の表示に関する公正競争規約施行規則により不動産関係の広告で使用されるもの。乙16の1,16の2)と考えても,約1.47倍となる。そうすると,被告は,通常の歩行速度よりも高速度で進行していたというべきである。 これをもって,小走りというべきかは,「走る」「歩く」の定義にもよるが,被告の過失を論じる上で,差違は生じないから,上記のとおり,認定,評価するにとどめる(なお,両足が同時に地面から離れる瞬間がある移動方法を「走る」とすれば,証拠上,被告の両足が同時に地面から離れる瞬間があったかは明確ではない。)。 3 請求原因ア(事故態様)について前記1の認定事実(3)及び2の補足説明によれば,本件事故は,原告が,盲導犬を連れ,盲導犬のハーネスを左手に持って,本件ホーム上を斜めに横断するような態様で進行し,点字ブロック上を歩行し始めた直後に,原告と,原告の対向方向から点字ブロック上を成人の平均的歩行速度の1.47~1.77倍の速度で進行してきた被告とが衝突したものと認められる。 4 請求原因イ(責任原因)について(1) 原告は,本件事故は,被告の過失により生じた,すなわち,被告が,他の視覚障害者が点字ブロック上を歩行する可能性を予見せず,白杖を持ち上げて宙に浮かせ,前方の安全確認を欠いたまま,点字ブロッ (1) 原告は,本件事故は,被告の過失により生じた,すなわち,被告が,他の視覚障害者が点字ブロック上を歩行する可能性を予見せず,白杖を持ち上げて宙に浮かせ,前方の安全確認を欠いたまま,点字ブロック上を小走りで移動したために生じたと主張する。 アこの点,視覚障害者も,視覚障害者でない者と同様に,対向してくる通行者との衝突を避けるため,進路前方の安全を確認しながら,状況に応じた適切な速度で進行する義務を負うと解すべきである。 イ視覚障害者が前方の安全を確認する手段として白杖がある。 前記1の認定事実(3)イによれば,本件事故当時,被告は,点字ブロック上を進行しており,白杖を右手で握るように持ち,持ち手を右胸の少し前辺りに差し出し,白杖の先端は,地面から浮かし,自身の左足の先に向けていたことが指摘できる。この点について,被告は,白杖が自身の体の前にあることから,前方の障害物や人に白杖が先に当たり,衝突を避けることができると供述する。 このような白杖の使用方法は,一般的に指導される,混雑時あるいは電車を利用する際のホームにおける白杖の原則的な操作技術(前記1の認定事実(4)イ(イ))とは異なっている。 もっとも,そのような場所においても,既知で安全が確保される場合は,例外的に他の通行者への配慮のため,白杖の振り幅を狭くし,白杖を短めに持ってもよいとされている。ただし,この場合において確保されるべき安全とは,視覚障害者自身のものだけではなく,周囲の通行者を含めたものでなければならないというべきである。 これらの点を踏まえると,白杖の使用方法については,使用者の能力や環境,その場の状況に応じてある程度裁量の余地があると解すべきであり,一般的に指導される原則的な使用方法に従っていないことが直ち に被告の過失を基礎づ 使用方法については,使用者の能力や環境,その場の状況に応じてある程度裁量の余地があると解すべきであり,一般的に指導される原則的な使用方法に従っていないことが直ち に被告の過失を基礎づけるとはいえないものの,周囲の通行者(ここでは進路前方の通行者)を含めた安全を確認できる進行方法を採っていたかを検討しなければならないと解される。 ウ本件事故当時,本件ホームは,通勤ラッシュの最中にあったから,他の通行者への配慮が必要であり,被告が上記のような方法で白杖を使用したことを一概に非難することはできない。そこで,本件事故当時の被告の白杖の使用方法を前提として,被告が,人との衝突を避けるため,前方の安全を確認し,状況に応じた適切な速度で進行する義務を怠ったといえるかについて検討する。 周囲の通行者を含めた安全を確保するには,障害者でない者のみの通行しか想定されないような事情が認められない限り,対向方向から全盲の視覚障害者が進行してきた場合をも想定しなければならない。対向してくる視覚障害者が白杖を使用して歩行している場合には,被告が体の前方に差し出すように持った白杖又は体の一部と対向者の白杖又は体の一部が接触することにより,お互いの存在を認識し,停止するなどして衝突を回避し得ると推認される。また,対向者が盲導犬を連れて歩行している場合には,同様に,被告の白杖又は体の一部と対向者の盲導犬又は体の一部が接触することにより,お互いの存在を認識し,衝突を回避し得ると推認される。 もっとも,いずれの場合も,お互いの体が接触する寸前あるいは実際に接触するまで,対向者の存在を認識し,衝突の危険性を察知することができない事態があり得るから,衝突を回避するためには,対向者の存在を認識した時点で直ちに停止することができる速度で進行しなければなら 接触するまで,対向者の存在を認識し,衝突の危険性を察知することができない事態があり得るから,衝突を回避するためには,対向者の存在を認識した時点で直ちに停止することができる速度で進行しなければならないというべきである。そして,成人の通常程度の歩行速度であれば,この条件を満たすと考えられる。 これを本件についてみるに,前記1の認定事実(3)及び2の補足説明によれば,本件事故当時,被告は,白杖を右手で握るように持ち,持ち手を右 胸の少し前辺りに差し出し,白杖の先端は,地面から浮かし,自身の左足の先に向けた状態で,点字ブロック上を成人の平均的歩行速度の1.47~1.77倍に当たる速度で直進進行しており,対向してきた原告と衝突したこと,原告の盲導犬は原告が左手でハーネスを持った状態で,原告の半歩先を歩いており,被告と衝突する前に停止せず,原告は顔面全体が被告の体に衝突し仰向けに転倒したことが指摘できる。 その際,被告の白杖は,被告がこれを構えた位置関係からみて,原告の盲導犬に接触することなく,本件事故発生に至ったと推認できる。このことは,被告の白杖の使用方法を是認する以上,やむを得ないことというほかない。 しかしながら,原告は,盲導犬を連れ,成人の通常程度の歩行速度で進行していたと考えられるから,被告が対向者の存在を認識した時点で直ちに停止することができる速度(成人の通常程度の歩行速度)で進行していれば,接触はやむを得ないとしても,本件事故に至ることは避け得たと考えられ,被告の進行は,高速度にすぎ,本件事故を引き起こすことにつながったというべきである。 エこれに対し,被告は,原告は被告の左斜め前から点字ブロック上に進入しており,被告が右手に持って自身の前に出していた白杖が原告に当たりにくい進入角度であったことから ったというべきである。 エこれに対し,被告は,原告は被告の左斜め前から点字ブロック上に進入しており,被告が右手に持って自身の前に出していた白杖が原告に当たりにくい進入角度であったことから,被告の歩行速度にかかわらず,両者の衝突は避け難いと主張する。 この点,前記1の認定事実(3)オのとおり,本件事故時,原告は,本件ホーム上を斜めに横断するような態様で点字ブロック上まで進行し,点字ブロック上を歩行し始めた直後,被告と衝突していることが指摘できる。 このような衝突の態様からすると,被告が体の前に差し出していた白杖が原告の盲導犬には当たりにくい角度であった可能性は否定できない。 しかしながら,本件防犯カメラの映像(甲1の1)によれば,原告と被告 は,衝突時には,ほぼ正面衝突に近い形でぶつかっている。そうすると,被告が対向者の存在を認識した時点で直ちに停止することができる速度(成人の通常程度の歩行速度)で歩行していれば,被告の白杖が原告の体に接触することで,両者が立ち止まるか,仮にぶつかったとしても,転倒するような衝突は免れていたと推認することができる。被告の主張は採用できない。 オまた,被告は,原告の盲導犬は,その特性によって,点字ブロックを対向方向から歩いてくる被告に反応せず,接触前に止まっていなかったと考えられ,本件事故について被告の過失を問うことができないと主張する。 この点,上記ウのとおり,原告の半歩先を歩いていた盲導犬は,被告の白杖とは接触せず,被告と衝突する前に停止しなかったと認められる。 盲導犬は,視覚障害者がハーネスをいずれかの手に持って盲導犬を歩かせる以上,視覚障害者自らの身体の真正面に対する安全確認の手段としては限界があると言わざるを得ないものの,道路交通法でも認められた視覚障害 は,視覚障害者がハーネスをいずれかの手に持って盲導犬を歩かせる以上,視覚障害者自らの身体の真正面に対する安全確認の手段としては限界があると言わざるを得ないものの,道路交通法でも認められた視覚障害者の歩行補助具であり,被告としては,盲導犬を連れた視覚障害者が点字ブロック上を成人の通常程度の歩行速度で対向して進行してくることは想定すべき所与の条件として自らの進行を図るべきであったということができる。具体的には,被告は,対向してくる原告の身体と接触する等してその存在を認識すれば直ちに停止できる速度で進行すべきであり(実際,証拠(甲31,原告本人)によれば,原告は,平成23年から盲導犬を使用し始め,これまで,点字ブロック上で前から来る人とぶつかったことはあっても,接触する程度で,転倒するような衝突が起きたことはなかったことが認められる。),これを怠った過失を,原告が採っていた歩行補助具(盲導犬)に限界があることをもって否定することはできず,被告の主張は採用できない。 (2) 以上によれば,本件事故は,被告の過失,すなわち,被告が,他の視覚障害者が点字ブロック上を歩行する可能性を予見せず,前方の安全確認措置に万全を欠く状態で,点字ブロック上を成人の平均的歩行速度の1.47~1.77倍に当たる高速度で進行したために生じたと認めるのが相当である。 5 請求原因ウ(損害及び因果関係)について(1) 傷病内容及び治療経過等ア認定事実前記前提事実,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (ア) 原告は,本件事故の衝撃により,後ろに転倒し,でん部をホームの床面で打ち,通行人の女性と駅員の介助を受けた。(甲1の1,甲2の9~2の13,甲31,原告本人)(イ) 原告は,本件事故当日(平成25 告は,本件事故の衝撃により,後ろに転倒し,でん部をホームの床面で打ち,通行人の女性と駅員の介助を受けた。(甲1の1,甲2の9~2の13,甲31,原告本人)(イ) 原告は,本件事故当日(平成25年8月1日),腰に強い痛みを感じていたものの勤務先へと出勤し,同日夕方頃,A整形外科を受診した(実通院日数1日)。A整形外科において,原告は,でん部打撲,腰椎捻挫及び頭部打撲と診断された。主治医は,歩行可能,前額部に腫脹,皮下出血が認められるが,神経学的所見はなく,脊椎は叩打痛なしと判断した。 レントゲン撮影では,明らかな骨折・圧潰は認められなかった。(甲3,甲31,原告本人)(ウ) 原告は,その後も腰の痛みが引かなかったことから,同月5日,Bクリニックを受診した(実通院日数1日)。原告は,Bクリニックにおいて,MRI検査等の結果,第11胸椎圧迫骨折,尾骨部打撲傷等と診断され,入院加療を受けることとなった。原告は,同年5月に大腸がんの手術を受けた際に入院していたD病院を入院先として希望したが,同院が満床であったため,同年8月5日~同月8日,一旦,C病院に入院し(4日間),同日~同年11月25日,D病院に入院した(109日間)。 (甲4~甲7,甲11,甲31)(エ) 原告は,D病院を退院後,同月26日~平成26年8月8日,D病院へ通院し(実通院日数18日),通院最終日,症状固定となり,第11胸椎圧迫骨折と診断され,腰背部の圧痛及び運動機能の制限が認められ,同状態が継続するとの後遺障害診断を受けた。(甲7,甲9,甲12,甲14)(オ) 原告について,第11胸椎圧迫骨折と診断したBクリニック及びその後の入通院治療を行ったC病院,D病院のいずれの病院においても,原告について,骨粗しょう症を疑わせる症状があるなどの指摘はされてい オ) 原告について,第11胸椎圧迫骨折と診断したBクリニック及びその後の入通院治療を行ったC病院,D病院のいずれの病院においても,原告について,骨粗しょう症を疑わせる症状があるなどの指摘はされていないし,これらの病院において,骨粗しょう症の治療はされていない。 (甲4,甲6,甲8〔枝番を含む。〕,甲10~甲12,弁論の全趣旨)イ傷病内容及び後遺障害(ア) 上記ア(ア)~(オ)の経緯に照らせば,原告は,本件事故により第11胸椎圧迫骨折の傷害を負い,症状固定後,腰背部の圧痛及び運動機能の制限の後遺障害が残ったと認めるのが相当である。そうすると,原告の後遺障害の程度は,「脊柱に変形を残すもの」(後遺障害等級第11級7号)に相当する。 (イ) この点,被告は,前記第2の3(2)ウ(イ)の事情を指摘して,原告に胸椎圧迫骨折が生じたのは,原告が骨粗しょう症であったことが原因となっていると主張し,これに沿う証拠(乙5)がある。 しかしながら,上記ア(オ)のとおり,本件事故後,原告が治療を受けたいずれの医療機関においても,原告に骨粗しょう症を疑わせる症状があるとの指摘はされていないし,骨粗しょう症としての治療はされていない。被告が提出する証拠(乙5)は,被告の親族が保険契約を締結する保険会社が作成した報告書であり,その内容は,同社の顧問医が,D病院で撮影された原告の腰椎X-P,MRI映像から,原告の骨粗しょう 症の有無について述べた意見に関するものである。同報告書によれば,顧問医が,原告について骨粗しょう症が疑われる旨の意見を述べていることがうかがわれるものの,他方で,正確な判断は骨密度の測定を行わなければ分からない旨の記載があり,同報告書の記載によって,原告が骨粗しょう症にり患していたと認めることはできない。 また,被告は ことがうかがわれるものの,他方で,正確な判断は骨密度の測定を行わなければ分からない旨の記載があり,同報告書の記載によって,原告が骨粗しょう症にり患していたと認めることはできない。 また,被告は,本件事故当日,原告が歩行して勤務先に出勤していることや,その後の治療経過において,原告に,下肢のしびれや痛み,麻ひ等の症状がみられないことを指摘する。しかしながら,それらの症状は,胸椎圧迫骨折に必然的に生じるものではないし(乙1),原告が事故後も歩行できたことや,その他に原告にみられた症状が,本件事故の衝撃により胸椎圧迫骨折が生じたことと矛盾すると認めるに足りる証拠はない。 結局,原告が,骨粗しょう症にり患していたことを具体的にうかがわせるような事情はなく,上記(ア)の認定を左右する証拠はない。被告の主張は採用できない。 (2) 本件事故による原告の損害は,次のとおりである。 ア治療費 11万4800円本件事故により,原告は上記(1)ア(イ)~(エ)のとおり入通院加療を受けた。 これに要した費用として,入通院費用(入院期間113日間及び通院日数20日)10万8150円,薬代6650円を本件事故と相当因果関係のある損害と認める(甲15の1~15の16,甲16の1~16の16)。 イ付添看護料 5万4000円証拠(甲11)によれば,D病院における入院中,治療方針の説明,散髪や外泊等を目的とした外出及び退院のため,合計9日間にわたり,原告の長女が入院中の原告に付き添ったことが認められる。入院が100日を超える長期間に及んでいたこと,原告の病状や原告が全盲の視覚障害者であ ったことを考慮すると,原告の外出等の際には近親者の付添が必要であったと認める。 付添費用は1日あたり6000円として計算する。 (計 と,原告の病状や原告が全盲の視覚障害者であ ったことを考慮すると,原告の外出等の際には近親者の付添が必要であったと認める。 付添費用は1日あたり6000円として計算する。 (計算式)6000円×9日=5万4000円ウ入院雑費 16万9500円入院期間(合計113日間)の入院雑費として,16万9500円を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。 (計算式)1500円×113日=16万9500円エ通院交通費 5730円原告の病状等に照らし,平成25年8月5日(C病院への入院日)及び同月8日(D病院への入院日)について,タクシー利用による交通費合計5730円を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。(乙3)オ診断書及び後遺障害診断書の取得費用 1万0800円診断書及び後遺障害診断書の取得費用(5400円×2)について,本件と相当因果関係のある損害と認める。(甲17,弁論の全趣旨)カ休業損害 30万2464円原告に生じた休業損害について,次のとおり,本件事故と相当因果関係のある損害と認める。 (ア) 医療法人Ea 証拠(甲26~27,甲31,原告本人)によれば,原告は,時給1280円で,1日3時間のマッサージ施術を請け負っていたところ,本件事故により,平成25年12月末日まで合計85日間休職したことが認められる。 b 休業損害算定の基礎収入及び相当な休業日数について(a) 証拠(甲26,原告本人)によれば,本件事故直前3か月間の原告の稼働状況は次のとおりであったと認められる。 ① 平成25年5月(稼働日数13日)支給額(本給及び付加給)合計5万4340円② 同年6月(稼働日数0日)支給額(付加給のみ)2万6880円大腸が あったと認められる。 ① 平成25年5月(稼働日数13日)支給額(本給及び付加給)合計5万4340円② 同年6月(稼働日数0日)支給額(付加給のみ)2万6880円大腸がんの治療のために入院し,その間有給休暇を使用した。 ③ 同年7月(稼働日数11日)支給額(本給及び付加給)合計4万6910円(b) 上記期間のうち,同年6月分の給与は,現実の稼働による収入ではなく,これを基礎収入の算定に含めることは相当でない。同年5月及び7月の支給額の平均額である4218円を基礎収入と認めるのが相当である。 なお,被告は付加給の内容が明らかでないと主張するが,本給と付加給のいずれも,原告の労働に対する対価として支払われているから,基礎収入に加算して休業損害を算定するのが相当である。 休業日数について,原告は,週4日の勤務が決まっていたと主張する。しかしながら,上記期間においては,大腸がんの治療のため欠勤した同年6月を除いても,原告の実際の各月の稼働日数は,週4日の勤務と仮定した場合を下回る。また,それ以前の原告の稼働状況は明らかでない。そうすると,原告の稼働状況としては,同年5月及び7月の稼働日数(合計24日)の平均である月12日程度であったと評価すべきである(同年6月については,上記のとおり有給休暇を取得する特別の事情があったから,期間から除外する。)。よって,同年8月1日~同年12月末日までの相当な休業期間は,原告が欠勤した85日間のうち,48日間(12日×4か月)であったと認める のが相当である。 c 以上より,20万2464円を医療法人Eにおける休業損害として認める。 (計算式)4218円×48日=20万2464円(イ) 社会福祉法人F証拠(甲21~22,甲31,原告本人)によれ c 以上より,20万2464円を医療法人Eにおける休業損害として認める。 (計算式)4218円×48日=20万2464円(イ) 社会福祉法人F証拠(甲21~22,甲31,原告本人)によれば,原告は,同法人施設Gにおいて,日当5000円で,月2回マッサージ施術を行っていたところ,本件事故当日は施術を行うことができず,本件事故後,平成26年1月2日まで合計10日間休職したことが認められるから,5万円を休業損害として認める。 (計算式)5000円×10日=5万円(ウ) H会証拠(甲23~25,甲31,原告本人)によれば,原告は,H会において,日当5000円で月2回マッサージ施術を行っていたところ,本件事故当日は施術を行うことができず,本件事故後,平成26年1月2日まで合計10日間休職したことが認められるから,5万円を休業損害として認める。 (計算式)5000円×10日=5万円(エ) 上記(ア)~(ウ)の損害を合計すると30万2464円となる。 キ入通院慰謝料 200万円原告の受傷内容及び治療経過(入院期間合計113日及び実通院日数合計20日)からすると,同人の慰謝料は200万円と認めるのが相当である。 ク逸失利益 64万5058円(ア) 上記(1)イのとおり,原告の後遺障害の程度は,「脊柱に変形を残すもの」(後遺障害等級第11級7号)に相当し,証拠(甲14,甲31,原 告本人)によれば,原告には,第11胸椎圧迫骨折により,長時間の施術を行うことができないなどマッサージ施術師としての労働に一定程度の支障を生じていることが認められる。もっとも,当該支障は,脊柱変形自体ではなく,専ら,脊柱変形に伴う疼痛によって生じているものと認められ,原告の症状の実質は,頑固な神経症状にも近似したも 一定程度の支障を生じていることが認められる。もっとも,当該支障は,脊柱変形自体ではなく,専ら,脊柱変形に伴う疼痛によって生じているものと認められ,原告の症状の実質は,頑固な神経症状にも近似したものと評価することができる。そうすると,原告の労働能力喪失率は14パーセント,労働能力喪失期間は10年(症状固定時63歳)と認めるのが相当である。 本件事故の前年である平成24年の年収59万6680円(甲18)を基礎収入とし,労働能力喪失率は14パーセント,労働能力喪失期間は10年として計算する。 (計算式)59万6680円×14%×7.722=64万5058円(イ) 被告の主張について被告は,原告に後遺障害による実損は生じていない,現実には原告の労働能力は減少していないなどと主張する。 この点,事故前年である原告の平成24年の年収は59万6680円であり(甲18),平成27年の原告の年収は50万円程度であった(原告本人)ことからすると,収入に大幅な減少は生じていないものの,上記(ア)の労働能力喪失率を上回る減少が生じている(両年度を比べると16.2パーセントの減少)。上記(ア)程度の労働能力の喪失を否定する根拠は見当たらない。 また,被告は,原告が本件事故の3か月前に受けた大腸がんの手術による影響によって,労働に支障が生じているとも主張するが,原告は,大腸がんの手術を受けた後,本件事故の前月である平成25年7月には職場復帰し,労働に従事していた事実が認められる(甲21~甲26,原告本人)。本件事故後,脊柱変形による疼痛により,上記 (ア)程度の労働能力の喪失が生じているものと評価するのが相当である。 よって,被告の主張はいずれも採用できない。 ケ後遺障害慰謝料 400万円(ア) 上記のとおり より,上記 (ア)程度の労働能力の喪失が生じているものと評価するのが相当である。 よって,被告の主張はいずれも採用できない。 ケ後遺障害慰謝料 400万円(ア) 上記のとおり,第11胸椎圧迫骨折の後遺障害は,マッサージ師としての職務,日常生活に少なくない影響を及ぼしていることは否定できない。本件に現れた諸般の事情も考慮し,後遺障害慰謝料は400万円をもって相当と認める。 (イ) 原告の主張について原告は,原告は,前記第2の3(1)ウ(ウ)iの本件事故後の被告の対応に係る事情を指摘して,本件においては慰謝料の増額事由があると主張する。 まず,原告は,本件事故直後の経緯について,被告が原告に声をかけることもなく現場を立ち去ったと主張するが,被告は歩行中に人とぶつかった際は必ず謝ることを習慣としているとして否認している。前記1の認定事実(3)のとおり,被告は,原告と衝突した後,衝突した原告が立っていた方に顔を向けながら立ち去っており,この時の被告は,本件防犯カメラの映像上,何者かとの衝突を気にしているようにもうかがえる(甲1の1)。また,原告自身,転倒した衝撃により気が動転していたと推認され,被告がかけた声に気が付かなかったことも考えられる。 これらの点を考慮すると,謝罪の言葉を述べたものの,特に反応がないと思って立ち去ったと思う旨の被告の供述を否定することはできない。 また,被告が全盲の視覚障害者であることや,本件事故当時,通勤ラッシュのため,本件ホームが騒がしい状態にあったと考えられることからすると,被告は衝突した原告の様子を認識することができなかったとしても無理があるとはいえず,被告が立ち去ったことを非難することはで きない。 次に,被告が謝罪に訪れた際の経緯については,原告が指摘する事情を 告の様子を認識することができなかったとしても無理があるとはいえず,被告が立ち去ったことを非難することはで きない。 次に,被告が謝罪に訪れた際の経緯については,原告が指摘する事情を考慮しても,被告が自己の責任を確定的に認めたと評価することはできないし,裁判において自己の責任を争うことが不当であるとも評価できない。 以上のとおり,原告が主張する事由は,いずれも慰謝料増額事由とはならないというべきである。 コ小計 730万2352円サ損益相殺 6万5130円原告は,被告の家族が保険契約を締結する共栄火災海上保険株式会社より,合計6万5130円の支払を受けたことが認められる(争いなし)。 シ填補後の損害額 723万7222円ス弁護士費用 70万円本件事案の内容,上記ア~ケの費用その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は70万円と認めるのが相当である。 セ合計 793万7222円 6 抗弁ア(過失相殺)について(1) 被告は,本件事故は,原告の過失,すなわち,①原告が,電車から降り改札へ向かう人の波に逆らっているにもかかわらず,安易に他者が避けてくれると考え,他の視覚障害者の存在や行動を想定せず,点字ブロックを探し漫然と斜め歩行したこと,②原告が,点字ブロックの外から点字ブロック上へと斜めに進入してきたことが本件事故の発生原因となっており,原告は,点字ブロック上へと進入する際には,一時停止するなどし,盲導犬の向きを点字ブロック上の進行方向へと軌道修正し,盲導犬を先行させた上で歩行を継続すべきであったのにこれを怠ったことによって生じたと 主張する。 この点,①の主張については,上記1の認定事実(3)エ及び同オのとお 軌道修正し,盲導犬を先行させた上で歩行を継続すべきであったのにこれを怠ったことによって生じたと 主張する。 この点,①の主張については,上記1の認定事実(3)エ及び同オのとおり,本件ホームは,被告が乗車していた電車から下車し,改札へと向かう人で混雑していたこと,原告は,本件ホーム上を斜めに横断するような態様で点字ブロック上へと歩いて進行したことは指摘できる。しかしながら,ホーム上は電車から下車する人と乗車する人の双方が行き交うことが当然に予想される場所であり,どちらかが優先する関係にあると評価することはできない。 そして,原告の歩行速度からすれば,原告は,仮に原告の対向方向から進行してくる視覚障害者がいたとしても,その視覚障害者の進行速度が成人の通常程度の歩行速度であれば,盲導犬が相手方の存在を認識して停止するか,原告自身が対向者と接触して停止することで大きな衝突を回避することができたと推認されるから,原告が,本件ホーム上を斜めに横断したことが原告の過失を基礎づけると評価することはできない。 また,②の主張については,上記4で検討したとおり,原告が点字ブロックの外から点字ブロック上へと斜めに進入してきたことが,本件事故の発生原因となったとは認められないから,被告の主張は前提を欠く。 よって,被告の過失相殺についての主張はいずれも採用できない。 (2) さらに,本件に現れた一切の事情を考慮しても,本件事故による損害額の算定において,考慮すべき原告の過失があるとは認められない。 第4 結論以上によれば,原告の請求は,793万7222円及びこれに対する平成25年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余の部分は棄却すべきである。よって,主文の ば,原告の請求は,793万7222円及びこれに対する平成25年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余の部分は棄却すべきである。よって,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第5民事部 裁判長裁判官冨田一彦 裁判官伊丹恭 裁判官安井亜季

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