令和5年12月15日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和3年(ワ)第424号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和5年9月22日 主文 1 被告らは、原告Aに対し、連帯して24万7008円及びこれに対する令和5 年7月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは、原告Bに対し、連帯して72万2182円及びこれに対する令和5年7月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告らは、原告Cに対し、連帯して10万3025円及びこれに対する令和5年7月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は、これを50分し、その49を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。 6 この判決は、第1項から第3項までに限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは、原告Aに対し、連帯して2073万7777円及びこれに対する令和5年7月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは、原告Bに対し、連帯して4003万0951円及びこれに対する令和5年7月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告らは、原告Cに対し、連帯して49万0451円及びこれに対する令和5年7月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 本件は、原告らが、原告A及び原告Bの子である亡Dが別紙物件目録記載の建物(以下「本件マンション」という。)の敷地の一部である東北東向きの斜面地部 分(以下「本件斜面地」という。)の一部の土砂の崩落に巻き込まれ死亡した事故 (以下「本件 物件目録記載の建物(以下「本件マンション」という。)の敷地の一部である東北東向きの斜面地部 分(以下「本件斜面地」という。)の一部の土砂の崩落に巻き込まれ死亡した事故 (以下「本件事故」という。)について、以下のとおり請求するものである。 ⑴ 被告Eに対する請求本件斜面地の直下を通行する通行人に注意喚起をするなどして本件事故の発生を防止する義務があったにも関わらずこれを怠ったので、民法709条、710条及び711条に基づき、被告会社と連帯して原告らそれぞれについて、 上記第1記載のとおりの損害金元本及びこれに対する本件事故の発生日後の令和5年7月27日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前の民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 ⑵ 被告会社に対する請求 被告Eの使用者責任を負うとともに、本件事故の発生を防止する義務があったにも関わらずこれを怠ったので、民法715条又は709条、710条、711条に基づき、被告Eと連帯して原告らそれぞれについて、上記⑴と同額の損害金元本及び遅延損害金の支払を求める。 2 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨によ り容易に認められる事実)(証拠の番号は、特に断らない限り枝番号を含む。以下同じ。)⑴ 当事者等(甲1)ア原告Aは、平成18年10月25日、原告Bと婚姻し、同日、養子縁組により亡Dの養親となった者である。 イ原告Bは、亡Dの実母である。 ウ Fは、亡Dの実父である。 エ亡Dは、原告BとFの子である。亡Dの相続人は、原告A、原告B及びFであり、その相続分は各3分の1である。Fは、令和3年10月15日、原告Bに対し、亡Dの る。 ウ Fは、亡Dの実父である。 エ亡Dは、原告BとFの子である。亡Dの相続人は、原告A、原告B及びFであり、その相続分は各3分の1である。Fは、令和3年10月15日、原告Bに対し、亡Dの相続に係る相続分を全て譲渡した。(甲69から74ま で) オ原告Cは、原告Aと原告Bとの間の子であり、亡Dの妹である。 カ分離前相被告G管理組合(以下「本件組合」という。)は、同じく分離前相被告である本件マンションの区分所有者ら(以下、「本件区分所有者ら」といい、本件組合及び本件区分所有者らを併せて「本件組合ら」という。)で構成された本件マンションの管理組合である(甲40)。 キ被告会社は、本件組合と管理委託契約を締結し(以下、この契約を「本件管理委託契約」という。)、本件マンションの管理をしていた株式会社である。 被告会社は、その事業のために被告Eを使用していた。 ク被告Eは、被告会社の従業員であり、本件事故当時、本件マンションの管理業務主任者であった者である。 ケ Hは、被告会社の従業員であり、本件事故当時、本件マンションの管理員として、被告Eの下で稼働していた者である。 ⑵ 本件事故発生前の本件斜面地の状態についてア本件斜面地は、その直下を走る市道(a線。以下「本件市道」という。)から本件マンション1階地面部分まで約15.9mの高さがあり、本件市道か ら約8.2mの高さまでは石積み擁壁で覆われていた。同擁壁の上には、本件マンション建築時より落石防護柵が設置されていた。落石防護柵から上部は、天端まで笹などの植生に覆われていた。(甲43、47、乙1)イ本件斜面地は、土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(以下「土砂災害防止 ていた。落石防護柵から上部は、天端まで笹などの植生に覆われていた。(甲43、47、乙1)イ本件斜面地は、土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(以下「土砂災害防止法」という。)7条1項に基づいて指定された 土砂災害警戒区域内に存在していた(乙9から12まで)。 神奈川県土木事務所(以下「県土木事務所」という。)は、令和元年11月11日及び令和2年1月20日、土砂災害防止法に基づき、土砂災害特別警戒区域に指定するかどうかを判断するために本件斜面地の現地調査を行った(丙1、16)。 ウ平成15年に本件マンションが建築されてから本件事故発生までの間、本 件斜面地における崩落の発生は確認されていない。 ⑶ 本件事故発生前日の出来事(丙11、12、16、証人H、被告E)ア Hは、令和2年2月4日午前10時頃、本件斜面地の上部の平面部(以下「本件平面部」という。)に業務の一環で立ち入った。その際、ゴルフコースのよく管理されたフェアウェイの上を歩くようなふわふわとした感覚、足下 の地面がゆるいような違和感を覚えた。Hは、足下を確認し、本件平面部に亀裂(以下「本件亀裂」という。)を発見した。本件亀裂は、3、4か所あり、長さは約2m又は4m、幅は約1cm又は2cmであった。 イ Hは、携帯電話で本件亀裂の写真を撮り、被告Eにメールで報告した。 ウ Hから連絡を受けた被告Eは、同日午前10時30分頃、県土木事務所に 連絡し、前記⑵の調査に関して再調査の予定があるかどうかを尋ねた。県土木事務所は、具体的な内容は調査を委託した株式会社間瀬コンサルタント(以下「本件委託業者」という。)が把握しているので本件委託業者から連絡させる旨伝えた。 エ被告Eは どうかを尋ねた。県土木事務所は、具体的な内容は調査を委託した株式会社間瀬コンサルタント(以下「本件委託業者」という。)が把握しているので本件委託業者から連絡させる旨伝えた。 エ被告Eは、同日午後4時頃、本件委託業者から、調査は終了しているため、 再調査の予定はないとの連絡を受けた。被告Eは、調査の結果を尋ねたが、個別に回答はできないとの返答を受け通話を終了した。 被告Eは、県土木事務所及び本件委託業者のいずれに対しても本件亀裂の存在を伝えなかった。 ⑷ 本件事故の発生(甲42、47、乙6) 令和2年2月5日午前7時58分頃、本件斜面地のうち、落石防護柵より上部が幅約9m、高さ約10m、厚さ約1.5mにわたって崩落した。亡Dは、本件市道を通行していたところ、崩落した土砂に巻き込まれて死亡した。 ⑸ 本件斜面地の崩落原因等に関する調査(甲47、乙6)本件斜面地の崩落原因等を調査した国土技術政策総合研究所土砂災害研究 部土砂災害研究室の室長及び研究官は、要旨以下のとおり所見を述べた。 東北東向きの日当たりの悪い本件斜面地において、放射冷却及び強い季節風が相まって風化が促進されて崩落が発生した。本件斜面地は、本件マンションの日影に当たり植生が貧弱になっている。本件斜面地の土層深(厚さ)が周辺の標準よりやや小さく、植生が貧弱であったため、風化防止作用が不十分であったことから崩落が発生したと考えられる。崩落は水による流動・崩壊ではな く、乾湿、低温等による風化を主因としたものであり、直前の微小地震は誘因ではない。風化を早めた原因としては、直前1か月の降雨、放射冷却を含む地表面での低温、凍結、強風の複合的な作用と考えられるが、局地的な風化促進作用があった可能性は否定 のであり、直前の微小地震は誘因ではない。風化を早めた原因としては、直前1か月の降雨、放射冷却を含む地表面での低温、凍結、強風の複合的な作用と考えられるが、局地的な風化促進作用があった可能性は否定できない。崩落した斜面と同様の風化促進が想定される箇所について点検等の対応をとることが必要である。 ⑹ 原告らの本件組合らからの和解金の受領令和5年6月28日、原告らと本件組合らとの間で訴訟上の和解が成立した。 同年7月26日、同和解に基づき、本件組合らから、原告Aが3385万2521円、原告Bが6534万6862円、原告Cが80万0617円を受領した。 3 争点及びこれに対する当事者の主張⑴ 被告Eの不法行為責任の有無(争点1)(原告らの主張)ア被告Eは、本件斜面地を管理する本件組合との間で本件管理委託契約を締結して管理業務を行っていた被告会社の従業員であり、かつ、本件マンショ ンの管理業務主任者であった。また、被告Eは、本件亀裂の報告を受けた際、崩落の発生を予見できた。 したがって、被告Eは、条理上、本件斜面地の直下にある本件市道を通行する第三者の生命、身体等に損害を生じさせないように、本件市道を管理する逗子市に連絡したり、自らコーンを設置するなどして本件市道の通行人に 注意を喚起したり、通行させないような措置を取り、本件事故の発生を防止 する義務を負っていた。 イそうであるにも関わらず、被告Eは、本件事故の発生回避策を何ら講じていない。 したがって、被告Eは不法行為責任を免れない。 (被告Eの主張) 以下のとおり、否認ないし争う。 ア本件管理委託契約は、本件斜面地の管理を内容としていないから、被告会社は、本件斜面地について管理 被告Eは不法行為責任を免れない。 (被告Eの主張) 以下のとおり、否認ないし争う。 ア本件管理委託契約は、本件斜面地の管理を内容としていないから、被告会社は、本件斜面地について管理業務を受託していない。また、被告Eは、被告会社の従業員に過ぎず、第三者との関係で何らの義務も負わない。また、Hからの本件亀裂の報告によっても、本件事故の発生は予見できない。 イしたがって、被告Eは不法行為責任を負わない。 ⑵ 被告会社の使用者責任又は不法行為責任の有無(争点2)(原告らの主張)ア被告Eの不法行為は被告会社の業務執行の際に行われたものであるので被告会社は使用者責任を免れない。 イ仮に、被告Eが不法行為責任を負わないとしても、被告会社は、条理上、第三者との関係でも、本件管理組合とともに、本件斜面地を適正に管理すべき義務を負っていたところ、いずれも本件斜面地について何らの管理もしていなかった。以上に加えて、Hが本件亀裂を発見していたのであるから、本件事故の発生について予見することができた。 したがって、条理上、適切な対応をとる義務を負っていた。 ウそうであるにも関わらず、被告会社は、被告Eを含む被告会社の従業員をして適切な対応をとらなかったので、上記義務を怠った。 したがって、被告会社についても不法行為責任は免れない。 (被告会社の主張) 以下のとおり、否認ないし争う。 ア被告Eが不法行為責任を負うことはない。 イ被告会社は、本件組合との関係で、本件斜面地について管理業務を受託していない。また、被告会社が管理責任を負うのは本件組合との関係のみであり、その他の第三者に対して責任を負わない。本件亀裂の存在から本 被告会社は、本件組合との関係で、本件斜面地について管理業務を受託していない。また、被告会社が管理責任を負うのは本件組合との関係のみであり、その他の第三者に対して責任を負わない。本件亀裂の存在から本件事故の発生を予見することはできない。 ⑶ 原告らの損害額(争点3)(原告らの主張)本件事故により、亡Dが死亡するという損害が生じたところ、当該損害に係る損害の項目及び損害額は、以下のとおりである。 ア治療費 亡Dの治療費として2050円を要した。 イ死体検案書料亡Dの死体検案書料として2万円を要した。 ウ火葬料亡Dの火葬料として6万円を要した。 エ納骨関連費用亡Dの納骨関連費用として6万4000円を要した。 オ葬儀法要関連費用亡Dの葬儀法要関連費用として430万4543円を要した。 カ死亡慰謝料 亡Dの心情を考慮すれば、死亡慰謝料として2800万円を認めるのが相当である。 キ逸失利益基礎収入として668万9300円(賃金センサス大卒計・男女計・全年齢平均賃金)、生活費控除率として3割をそれぞれ採用するのが相当である。 中間利息控除(ライプニッツ係数)は、亡Dが死亡時18歳であったこと からすると、18.2559(就労可能年数50年)を採用すべきである。 以上を前提にして計算すると、8548万3434円(=668万9300円×(1-0.3)×18.2559)となる。 ク小計以上の小計は1億1793万4027円となる。 ケ相続原告Aは、亡Dの養父として、亡Dが有す 0円×(1-0.3)×18.2559)となる。 ク小計以上の小計は1億1793万4027円となる。 ケ相続原告Aは、亡Dの養父として、亡Dが有する損害賠償請求権の3分の1に相当する損害金元本3931万1342円を相続し、原告Bは、自己の相続分とFから譲渡を受けた同人の相続分を併せ、亡Dが有する損害賠償請求権の3分の2に相当する損害金元本7862万2684円を相続した。 コ原告らの固有の慰謝料原告らと亡Dとの関係を考慮すると、原告A及び原告Bにつき各300万円、原告Cにつき100万円とするのが相当である。 サ弁護士費用原告Aにつき上記ケ、コの合計4231万1342円の約1割に相当する 420万円、原告Bにつき上記ケ、コの合計8162万2684円の約1割に相当する816万円、原告Cにつき上記コの1割の10万円とするのが相当である。 シ和解金の受領令和5年7月26日、原告Aは3385万2521円、原告Bは6534 万6862円、原告Cは80万0617円をそれぞれ本件組合らから受領した。これらの和解金は、元本より先に本件事故日から和解金受領日までの既発生遅延損害金に充当される。上記遅延損害金は、原告Aについては807万8956円、原告Bについては1559万5129円、原告Cについては19万1068円である。 ス損害金残元本 各原告の損害金元本及び遅延損害金から、和解金を控除すると、遅延損害金の全額及び元本の一部が消滅する。 損害金の残元本は、原告Aについては2073万7777円、原告Bについては4003万0951円、原告Cについては49万0451円となる。 (被 と、遅延損害金の全額及び元本の一部が消滅する。 損害金の残元本は、原告Aについては2073万7777円、原告Bについては4003万0951円、原告Cについては49万0451円となる。 (被告らの主張) ア上記ア及びイについては、特に争わない。 イ上記ウからオまでについては、葬儀関連費用として、通常相当額として150万円が認められており、原告らの主張は過大である。 ウ上記カについては、通常、遺族固有の慰謝料も含め2000万円から2500万円が認められており、原告らの主張は過大である。 エ上記キについては、基礎収入は、令和2年の賃金センサス大卒男性平均賃金637万9300円と大卒女性平均賃金451万0800円の平均である544万5050円とし、生活費控除率は男女の中間値である40%、ライプニッツ係数は、就労可能年数45年(就労始期である22歳から67歳まで)に対応する14.6227(=18.1687-3.5460)とす べきであり、4777万2800円(=544万5050円×(1-0.4)×14.6227)とするのが相当である。 オ上記コについては、上記ウの慰謝料に含まれ、最大でも2500万円とすべきであり、原告らの主張は過大である。 カ上記サについては、上記アからエまでの合計の1割の742万9485円 が相当である。 キ以上を前提に、和解金を充当すると損害金は消滅しており、残額は認められない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実(後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば以下の各事実が認められる。) ⑴ 本件斜面地の崩落原因(甲46、乙6) 本件斜面地の崩落原因は、本件斜面地が東北東向きであったことから放射冷却や強い 論の全趣旨によれば以下の各事実が認められる。) ⑴ 本件斜面地の崩落原因(甲46、乙6) 本件斜面地の崩落原因は、本件斜面地が東北東向きであったことから放射冷却や強い季節風により風化が促進されたこと、本件マンションの日影になっていたことから日当たりが悪く、植生が貧弱になっており、風化防止作用が不十分であったことから風化が進行したことにある。風化以外の何らかの誘因によるものではない。 ⑵ 本件管理委託契約締結の経緯被告会社は、本件マンション建設中の平成15年当時、本件マンションの区分所有建物の売主である株式会社グローベルス(以下「グローベルス」という。)から、建設後の本件マンションの管理会社に指定されていた。 本件マンションの区分所有建物を購入する買主は、被告会社以外の管理会社 を選択することも、被告会社の提示する本件管理委託契約の内容を変更する実質的機会もなかった。(乙2、14)⑶ 被告会社による本件報告書の入手等(甲46)ア被告会社は、グローベルスから、将来成立する本件組合に交付するものとして、平成15年6月付け「G東地質調査(擁壁)報告書」(以下「本件報告 書」という。)を受領していた。 イ本件報告書には、要旨以下の内容が記載されていた。 本件斜面地について、崩壊地が確認され、風化が進行しクラッキーな状態であり岩片状となり落石する危険性がある(15頁)。 本件斜面地には、崩壊地が数か所存在しているため、落石防護工(スト ーンガードなど)による対策を施すことが望ましい。また、本件斜面地の樹木の全面除去を行うならば、落石防護網工(ロックネットなど)や斜面保護工(モルタル吹き付け工)による対策を施すことが望ましい(2 ーンガードなど)による対策を施すことが望ましい。また、本件斜面地の樹木の全面除去を行うならば、落石防護網工(ロックネットなど)や斜面保護工(モルタル吹き付け工)による対策を施すことが望ましい(27頁)。 本件マンションの計画を考慮した斜面安定解析結果によれば、必要安全率は満足しており安定性は確保されている(27頁)。 ウ被告会社は、本件報告書の内容を確認しないまま、本件報告書を後に成立 した本件組合に交付した。 ⑷ 本件管理委託契約の内容(甲41、58から60まで、丙10、証人I)本件管理委託契約に係る契約書(以下「本件管理委託契約書」という。)には、管理対象部分として敷地が記載され、敷地には本件斜面地も含まれていたが、管理業務として本件斜面地の点検、検査等は明記されていなかった(3条)。 しかし、被告会社は、本件マンションについて毀損、瑕疵等の事実を知った場合(本件亀裂の認識はこれに当たるものと解される。)には速やかにその状況を本件組合に通知すべき義務を負っていたほか(13条1項)、被告会社は、3条の規定に関わらず、次の各号(1号として、地震、台風、突風、集中豪雨、落雷、雪、噴火、ひょう、あられ等が、2号として、火災、漏水、破裂、爆発、 物の飛来もしくは落下又は衝突、犯罪等がそれぞれ例示されている。)に掲げる災害又は事故等の事由により、本件組合のために、緊急に行う必要がある業務で、本件組合の承認を受ける時間的な余裕がないものについては、本件組合の承認を受けないで実施することができるものとされていた(8条)。 ⑸ 本件事故発生までの本件斜面地の管理状況(甲22、41、乙28、丙10、 11、12、証人I、証人J、証人H、被告E)ア被告会社は、本件斜面地に きるものとされていた(8条)。 ⑸ 本件事故発生までの本件斜面地の管理状況(甲22、41、乙28、丙10、 11、12、証人I、証人J、証人H、被告E)ア被告会社は、本件斜面地に関する管理業務は受託しておらず、本件組合が自ら行うべきものとの理解の下、本件斜面地の点検は行っておらず、管理に関する助言等も行っていなかった。 被告会社は、本件組合が、本件斜面地の管理をしていないことを知ってい た。 イ本件マンションを新規購入した区分所有者らは、本件斜面地が安全なものであり何らの点検、管理も不要なものであると認識するとともに、点検、管理が必要であれば、被告会社から、本件管理委託契約に基づき適切な助言があるものと考えていた。 ウ被告会社は、平成24年11月及び平成30年2月に、本件組合からの委 託を受けて、本件斜面地の雑木の伐採や草刈りを行った。 ⑹ 本件亀裂発見後のH及び被告Eの認識等(丙11、12、証人H、被告E)ア Hは、本件亀裂を発見し、大雨でも降ったら大変なことになるのではないかと考えるとともに、被告Eに対応を相談して指示を仰ぐべきと判断して被告Eに写真をメールで送信し、被告Eと電話で相談した。 イ被告Eは、Hに対し、令和2年2月15日の本件組合の理事会の際に被告Eが現地で確認することで間に合うかどうか尋ねた。これに対し、Hは、そこまで待ってよいか判断しかねる旨の回答をするとともに、前提事実のとおり、直近において県土木事務所による調査が行われていたことから、専門家に判断してもらう必要があると判断して、県土木事務所に連絡して再調査が あるか確認してほしいと伝えた。 ウ被告Eは、県土木事務所に再調査の予定を確認したい旨の電 ていたことから、専門家に判断してもらう必要があると判断して、県土木事務所に連絡して再調査が あるか確認してほしいと伝えた。 ウ被告Eは、県土木事務所に再調査の予定を確認したい旨の電話をするとともに、本件委託業者から再調査の予定がないこと、結果を個別に答えられないことの回答を得た。 被告Eは、県土木事務所や本件委託業者のいずれに対しても本件亀裂の存 在を伝えたり、対応を相談したりすることはなく、当日は、調査及び対応の必要はないと判断して、その他の対応をとらなかった。 ⑺ 亀裂に関する知見の存在がけ崩れ(崩落)の前兆現象として、ひび割れ(亀裂)の存在があることは一般的な知見である(甲67)。 ⑻ 本件市道を管理する逗子市の対応逗子市は、道路への危険因子があるとの通報があれば、速やかに職員を現場に派遣し、現場の詳しい調査が完了するまで想定される危険な範囲の通行を規制するともに、警察署やバス会社等の公共交通機関に連絡をしている。逗子市が上記対応に当たるために要する時間は、通常数時間以内であり、休日や深夜 等公務時間外であれば8時間、公務時間内であれば5時間を超えることはない (逗子市に対する調査嘱託の結果)。 ⑼ 本件組合らの本件事故についての責任本件組合らは、本件亀裂が土地の工作物の瑕疵に当たることから、本件事故について、民法717条1項の責任を免れない。 2 争点1(被告Eの不法行為責任の有無)について ⑴ア上記1及び前提事実を前提にすれば、以下の各事実を認定することができるので、被告Eについて、通行人である亡Dとの関係で、条理上、その生命、身体に生じる損害を防止する義務を負っていたということができる。 被告会社は、本件管 すれば、以下の各事実を認定することができるので、被告Eについて、通行人である亡Dとの関係で、条理上、その生命、身体に生じる損害を防止する義務を負っていたということができる。 被告会社は、本件管理委託契約上、本件マンションの亀裂、瑕疵等の速やかな通知義務又は本件組合のため緊急性の高い業務を行う権限と義務 を有していると認められる。 したがって、被告会社は、本件斜面地の崩落の危険性を発見したときには、本件組合に生じる損害を防止する義務を負っている。 被告Eは、被告会社の担当者として、上記義務を履行できた可能性の最も高い者である。 本件斜面地の直下を本件市道が走っていることや、本件斜面地が土砂災害警戒地域に指定されていたことを踏まえると、被告Eが、上記義務を履行しない場合、本件斜面地の崩落によって、亡Dを含む通行人に対してその生命、身体の安全を損なうこととなる重大な結果が発生する。 被告Eが、本件市道を管理する逗子市に連絡して、通行禁止の措置を求 めたり、自ら又はHをしてコーンを置いて通行人に注意を呼びかけたりする措置をとるなど事故発生を回避する措置をとることは可能であった。 亀裂に関する一般的な知見の存在及びそれに沿うHの認識を踏まえると、合理的な判断ができる通常人であれば、本件亀裂の存在、専門家に対する相談及び調査の不存在によって、亀裂発見から約22時間後の崩落の 危険性が否定できないことを認識することができる。被告Eにおいても、 本件亀裂の存在、専門家に対する相談及び調査の不存在を認識している以上、何らの根拠もなく何らの対応もしないことが不合理であることは容易に理解可能であるので、予見可能性がなかったとはいえない。 イ被告Eは、上記義務を負っていながら、結果回避措置をとっていないの 以上、何らの根拠もなく何らの対応もしないことが不合理であることは容易に理解可能であるので、予見可能性がなかったとはいえない。 イ被告Eは、上記義務を負っていながら、結果回避措置をとっていないので条理上の義務を怠ったものとして、過失責任を免れない。 ⑵ これに反する被告らの主張は以下のとおり採用できない。 ア被告らは、本件斜面地に関して、本件管理委託契約上、いかなる管理業務も受託していない旨の主張をする。 しかし、少なくとも上記1で認定した本件亀裂の通知義務又は緊急時における本件組合の損害発生回避義務は本件管理委託契約上認められているも のと解されるので、上記主張は採用できない。 イ被告らは、予見可能性の認識の対象として、本件斜面地の崩落事故が落石防止柵で防止できない程度の大規模であること、発見から約22時間後の短時間で発生すること、通行人の生命を奪う程度の重大な損害が生じることが必要である旨の主張をする。 しかし、不法行為として過失責任を問うために必要な予見可能性の認識の対象としては、他人に権利侵害が発生する具体的おそれの認識で足りるというべきであり、それ以上の具体的な認識までは不要であると解される。 本件の場合、一般的に亀裂が崩落の前兆と理解されていること、落石防止柵の存在を認識しているHが、令和2年2月15日まで猶予があるか判断し かねると回答していることを踏まえると、本件斜面地が崩落する具体的おそれは認識可能であると認められる。 また、本件斜面地の高さが約15.9mメートルであることを踏まえると、本件斜面地の崩落によって他人の生命侵害が発生するおそれも認識可能と認められるので、過失責任を問うについて必要な予見可能性の認識は満たさ れているということができる。 被告 と、本件斜面地の崩落によって他人の生命侵害が発生するおそれも認識可能と認められるので、過失責任を問うについて必要な予見可能性の認識は満たさ れているということができる。 被告らの主張は、緊急性の認識可能性がなかったことをいうものであるが、過失責任を問うに必要なおそれの危険性の程度は、緊急であるまでの必要性はなく、行為時において結果発生防止策を命じるに足りる程度の具体性で足りるというべきであり、本件に即していえば、近い将来崩落するおそれの認識可能性で足りるというべきである。 ウ被告らは、本件斜面地の崩落の具体的おそれの認識可能性はなかった旨の主張をする。主張に沿う証拠(丙4、6、11、12、証人H、被告E)がある。 しかし、上記証拠のうち、H及び被告Eの供述を内容とするもの(丙11、12、証人H、被告E)は、利害関係人である被告会社の従業員が具体的お それを認識していなかったことをいうにとどまり、認識可能性がなかったことを合理的に説明したものではない。上記証拠のうち、技術士等の資格を有する専門家の意見書(丙4、6)の内容は、本件亀裂のみによっては、崩落の時期が予見できないことをいうものであって、専門家に対する相談や調査の必要性を否定したものではなく、むしろ、専門家に対する相談や本件斜面 地の調査をしていれば、直ちに崩落するおそれの認識可能性があったことをいうものと理解できるので、被告Eの予見可能性を否定するに足りるものではない。 以上のとおりであり、上記証拠によっても、本件斜面地の崩落の具体的おそれの認識可能性は否定されない。 また、本件亀裂が崩壊の前兆であり、本件亀裂についての専門家への相談及び本件斜面地の調査がなされていない以上、通常人であれば、直ちに崩落する危険性がある それの認識可能性は否定されない。 また、本件亀裂が崩壊の前兆であり、本件亀裂についての専門家への相談及び本件斜面地の調査がなされていない以上、通常人であれば、直ちに崩落する危険性があることも認識可能というべきである。 3 争点2(被告会社の使用者責任又は不法行為責任の有無)について⑴ 上記2のとおり、被告Eの不法行為責任が認められ、かつ、同人の不法行為 は被告会社の業務執行の際に行われたものと認められるので被告会社は使用 者責任を免れない。 ⑵ 被告Eが不法行為責任を負うか否かにかかわらず、前提事実及び上記1の認定事実を前提にすれば、被告会社は、本件斜面地の直下を通行する通行人との関係においても、本件報告書の内容を確認して被告会社の従業員に対し本件斜面地の危険性を説明し、本件斜面地に亀裂を発見した場合には、速やかに結果 回避措置をとるように予め指揮命令すべき条理上の義務があったと解される。 しかし、被告会社は上記義務を怠ったのであるから、被告会社自身の不法行為責任も免れない。 ⑶ これに対し、被告会社は、本件報告書の内容を確認すべき義務はなかった旨の主張をする。 しかし、グローベルスが本件報告書を被告会社に交付した目的は、その内容を踏まえて適切な本件斜面地の管理を求める趣旨と解され、被告会社において、その趣旨を受領時に理解できなかったとは考え難い。本件管理委託契約が締結された経緯を踏まえると、被告会社において本件報告書の内容を確認すべき義務があったというべきである。 4 争点3(原告らの損害額)について⑴ 亡Dの損害についてア治療費について証拠(甲49)によれば、亡Dの治療費として2050円の費用を要したことが認められ、同費 4 争点3(原告らの損害額)について⑴ 亡Dの損害についてア治療費について証拠(甲49)によれば、亡Dの治療費として2050円の費用を要したことが認められ、同費用は本件事故による損害と認められる。 イ死体検案書料について証拠(甲49)によれば、亡Dの死体検案書料として2万円の費用を要したことが認められ、同費用は本件事故による損害と認められる。 ウ火葬料、納骨関連費用及び葬儀法要関連費用について葬儀関連費用は、葬儀の規模、内容等により変わりうるものであり、どの ような規模、内容の葬儀にするかは、最終的には葬儀を執り行う者の判断に より決せられるものであるから、実際に生じた費用すべてを負担させることに相当性は認められない。 火葬料、納骨関連費用及び葬儀法要関連費用を併せて150万円の限度で本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。 エ逸失利益について 基礎収入と生活費控除率について亡Dは、本件事故当時、神奈川県の高校3年生であり、昭和女子大学人間社会学部現代教養学科に進学することが予定されていたこと(甲50)、将来教師になることを希望していたことに鑑みれば、賃金センサス令和2年の大卒男子平均賃金と大卒女子平均賃金の平均である544万505 0円を基礎収入とし、生活費控除率を40%として逸失利益を算定するのが相当である。 中間利息控除について就労可能年数45年として(ただし、死亡時18歳であった亡Dが22歳に達してから、67歳までの期間であって、これに対応するライプニッ ツ係数は14.6227(=18.1687(18歳から67歳までのライプニッ として(ただし、死亡時18歳であった亡Dが22歳に達してから、67歳までの期間であって、これに対応するライプニッ ツ係数は14.6227(=18.1687(18歳から67歳までのライプニッツ係数)-3.5460(18歳から22歳までのライプニッツ係数))である。)を採用するのが相当である。 計算式以上を前提にして計算すると、4777万2800円(=544万50 50円×0.6×14.6227)(小数点以下四捨五入)となり、同額が、本件事故による損害と認められる。 オ死亡慰謝料について証拠(甲76、原告A)によれば、将来のあった若年の亡Dが、何らの落ち度もなく突然生命を奪われたことによる精神的苦痛は極めて大きいこと が認められる。その他、被告らの過失の程度や本件記録上の全事情を考慮す れば、亡Dの慰謝料として2500万円とするのが相当である。 カ小計上記アからオまでの小計は7429万4850円である。 ⑵ 原告Aの損害額ア相続分 原告Aの相続分は3分の1のため、2476万4950円(=7429万4850円×1/3)となる。 イ固有の慰謝料証拠(甲76、原告A)によれば、亡Dを突然失った養父である原告Aの精神的苦痛は極めて大きいことが認められる。その他、被告らの過失の程度 や本件記録上の全事情を考慮すれば、原告A固有の慰謝料として165万円を認めるのが相当である。 ウ弁護士費用弁護士費用は、上記ア、イの合計2641万4950円の1割に相当する264万1495円をもって相当額と認める。 エ小計 2905万6445円オ和解金受領 費用弁護士費用は、上記ア、イの合計2641万4950円の1割に相当する264万1495円をもって相当額と認める。 エ小計 2905万6445円オ和解金受領日までの確定遅延損害金本件事故発生から3年172日が経過していることから、確定遅延損害金は504万3084円(=2905万6445円×0.05×(3+172/365))となる。 カ和解金の充当原告Aは、和解金として3385万2521円を受領した。この和解金は、まず、本件事故日から和解金受領日までの遅延損害金に充当されるため、充当後の損害金元本は、24万7008円(=2905万6445円-(3385万2521円-504万3084円))となる。 ⑶ 原告Bの損害額 ア相続分原告Bの相続分は3分の2のため、4952万9900円(=7429万4850円×2/3)となる。 イ固有の慰謝料証拠(甲76、原告A)によれば、亡Dを突然失った実母である原告Bの 精神的苦痛は極めて大きいことが認められる。その他、被告らの過失の程度や本件記録上の全事情を考慮すれば、原告B固有の慰謝料として165万円を認めるのが相当である。 ウ弁護士費用弁護士費用は、上記ア、イの合計5117万9900円の1割に相当する 511万7990円をもって相当額と認める。 エ小計 5629万7890円オ和解金受領日までの確定遅延損害金本件事故発生から3年172日が経過していることから、確定遅延損害金は977万1154円(=5629万7890円×0.05×(3+172 /365))となる。 カ和解金の充 本件事故発生から3年172日が経過していることから、確定遅延損害金は977万1154円(=5629万7890円×0.05×(3+172 /365))となる。 カ和解金の充当原告Bは、和解金として6534万6862円を受領した。この和解金は、まず、本件事故日から和解金受領日までの遅延損害金に充当されるため、充当後の損害金元本は、72万2182円(=5629万7890円-(65 34万6862円-977万1154円))となる。 ⑷ 原告Cの損害額ア固有の慰謝料証拠(甲76、原告A)によれば、実妹である原告Cは、亡Dから特に面倒を見てもらっていたことなどから、同人を突然失ったことにより極めて大 きな精神的苦痛を受けたことが認められる。その他、被告らの過失の程度や 本件記録上の全事情を考慮すれば、原告C固有の慰謝料として70万円を認めるのが相当である。 イ弁護士費用弁護士費用は、上記アの1割に相当する7万円をもって相当額と認める。 ウ小計 77万円 エ和解金受領日までの確定遅延損害金本件事故発生から3年172日が経過していることから、確定遅延損害金は13万3642円(=77万円×0.05×(3+172/365))となる。 オ和解金の充当 原告Cは、和解金として80万0617円を受領した。この和解金は、まず、本件事故日から和解金受領日までの遅延損害金に充当されるため、充当後の損害金元本は、10万3025円(=77万円-(80万0617円-13万3642円))となる。 5 結論 よって、原告らの請求は、それぞれ上記4記載の元本及びこれに対する令和5年7 害金元本は、10万3025円(=77万円-(80万0617円-13万3642円))となる。 5 結論 よって、原告らの請求は、それぞれ上記4記載の元本及びこれに対する令和5年7月27日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないのでこれをいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。 横浜地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官 小西洋 裁判官 谷藤一弥 裁判官 門野亜美 別紙物件目録(一棟の建物の表示)所在逗子市bc丁目d番地e建物の名称 G 構造鉄筋コンクリート造陸屋根地下1階付5階建床面積 1階 557.27㎡2階 656.80㎡3階 656.80㎡4階 656.80㎡ 5階 656.80㎡地下1階 105.32㎡(敷地権の目的である土地の表示)土地の符号 1所在及び地番逗子市bc丁目d番e 地目宅地地積 2670.36㎡土地の符号 2所在及び地番逗子市bc丁目f番g地目山林 地積 76㎡以上 ㎡土地の符号 2所在及び地番逗子市bc丁目f番g地目山林 地積 76㎡以上
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