令和6年(ネ)第1525号遺言無効確認請求控訴事件令和7年9月19日大阪高等裁判所第7民事部判決 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用のうち、控訴人補助参加人の参加によって生じた費用は控訴人補助参加人の負担とし、その余の費用(被控訴人補助参加人の参加によって生じた費用を含む。)は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨(略称は原判決の例に従う。) 1 原判決を取り消す。 2 亡A名義の原判決別紙2の平成25年2月8日付け書面(本件遺言書)による自筆証書遺言(本件遺言)が無効であることを確認する。 第2 事案の概要 1 事案の要旨(1) 控訴人、一審原告I1、同I2、同I3及び控訴人補助参加人は、いずれもAの法定相続人(兄弟姉妹又はその子)であり、被控訴人は、本件遺言の遺言執行者である。 本件は、控訴人、一審原告I1、同I2及び同I3が、被控訴人に対し、本件遺言の無効確認を求める事案であり、控訴人補助参加人が上記控訴人らのために補助参加をし、本件遺言によりAから遺贈を受ける被控訴人補助参加人が被控訴人のために補助参加をした。 (2) 原審は、上記控訴人らの請求をいずれも棄却したところ、控訴人のみが原判決を不服として控訴した。 2 前提事実、争点及びこれに関する当事者の主張次のとおり原判決を補正するほかは、原判決「事実及び理由」第2の2及び3に記載のとおりであるから、これを引用する。 (1) 原判決中、「原告ら」とあるのを「控訴人」に、「原告ら補助参加人」とあるのを「控訴人補助参加人」に各改める(以下、原判決を引用する場合において同じ)。 (2) 原判決2頁10行目の「原告Jを除く原告ら(Iの子ら)3名」を「一 「控訴人」に、「原告ら補助参加人」とあるのを「控訴人補助参加人」に各改める(以下、原判決を引用する場合において同じ)。 (2) 原判決2頁10行目の「原告Jを除く原告ら(Iの子ら)3名」を「一審原告I1、同I2及び同I3」に改める。 (3) 原判決3頁7行目の「R」の次に「(以下、「●●□□」(注:Rの戸籍氏名)又は単に「□□」(注:Rの名)ということがある。)」を加える。 (4) 原判決3頁19、20行目の「署名がされ、その末尾に実印が押され、6行目に上記署名」までを「氏名が記載され、その末尾に実印が押され、6行目に上記氏名」に改める。 (5) 原判決4頁12、13行目の「本件遺言の全文、日付及び氏名を自署し」を「本件遺言書の全文、日付及び氏名を自書し」に改め、同頁18行目から20行目までを次のとおり改める。 「 A名義の上記署名は、その特徴がAの筆跡と一致しているし、筆跡鑑定の結果(丙150~153)からも、上記署名がAによりされたことが裏付けられているのであって、A以外の者による透写等によりされた可能性はない。」(6) 原判決5頁10行目の「自署し、自署の末尾に」を「自書し、氏名の末尾に」に、同頁13ないし15行目の「Aの自署であり、透写等によってA以外の者によってされた可能性はなく」を「Aの自書であり、A以外の者による透写等によりされた可能性はなく」に 各改める。 (7) 原判決8頁6行目の「自署した」を「自書した」に、同頁7、8行目の「自署せず、自署の末尾に」を「自書せず、氏名の末尾に」に、同頁12、13行目の「透写等によってA以外の者によって作成された」を「A以外の者が透写等して作成した」に各改める。 (8) 原判決10頁22、23行目の「自署していない」を「自書していない」に、同頁25行 13行目の「透写等によってA以外の者によって作成された」を「A以外の者が透写等して作成した」に各改める。 (8) 原判決10頁22、23行目の「自署していない」を「自書していない」に、同頁25行目の「Aの自署」を「Aの筆跡」に各改める。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、原審と同様、控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり原判決を補正し、後記2のとおり控訴人の当審における補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第3に記載のとおりであるから、これを引用する。 (1) 原判決12頁10行目の「自署し」を「自書し」に、同頁13行目の「自署し、自署の末尾に」を「自書し、氏名の末尾に」に各改める。 (2) 原判決13頁4行目の「貸金の返還を迫る書面(丙7の1)」を「貸金の返還を迫る書面(丙7の1。以下「本件督促状」ともいう。)」に改める。 (3) 原判決13頁9行目及び同頁14、15行目の各「自署による」をいずれも「自書による」に、同頁10行目の「自署もまた」を「筆跡もまた」に各改める。 (4) 原判決14頁15行目の「透写等によってA以外の者によって作成された」を「A以外の者が透写等して作成した」に改める。 (5) 原判決15頁12、13行目の「透写等によってA以外の者によ って作成された」を「A以外の者が透写等して作成した」に改める。 (6) 原判決16頁16行目の「本件遺言の体裁」を「本件遺言書の体裁」に改める。 (7) 原判決22頁13行目の「自署し、自署の末尾に」を「自書し、氏名の末尾に」に改める。 (8) 原判決25頁21行目の「自署し、自署の末尾に」を「自書し、氏名の末尾に」に、同頁22行目の「自署押印」を「自書押印」に各改める。 の末尾に」を「自書し、氏名の末尾に」に改める。 (8) 原判決25頁21行目の「自署し、自署の末尾に」を「自書し、氏名の末尾に」に、同頁22行目の「自署押印」を「自書押印」に各改める。 2 控訴人の当審における補充主張に対する判断(1) 本件遺言書と対照資料との間での個々の文字の書き方の比較をしないまま本件遺言書の文字の筆跡がAのものであると原判決が認めたことの不当性についてア控訴人は、原判決が、本件遺言書と対照資料との間での個々の文字の書き方の比較をしないまま本件遺言書の文字の筆跡がAのものであると認めたことは不当である旨主張し、控訴理由書及び控訴人第1準備書面でその理由を縷々挙げている。 イ控訴人は、原審以来、Aが本件遺言書の全文、日付及び氏名を自書し、押印したことを争い、何者かによる偽造の可能性を主張しているところ、遺言書の偽造(自筆証書遺言の自書性)の有無の判断に当たっては、①筆跡の同一性(筆跡の類似性)、②遺言者の自書能力の存否及び程度、③遺言書それ自体の体裁等、④遺言内容それ自体の複雑性、遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等、⑤遺言書の保管状況、発見状況等の諸事情を総合考慮して判断すべきものと解される。原審も、上記観点に立って、(1)本件遺言書の筆跡と押 印、(2)本件遺言書の体裁等、(3)本件遺言の内容、(4)Aと法定相続人、関係者との関係、(5)本件遺言書の保管状況、発見状況等について検討していることは、原判決の理由説示から明らかである。 そして、上記1で補正の上引用した原判決「事実及び理由」第3の2(1)ア(イ)で説示したとおり、原判決は、本件遺言書に記載された文字の筆跡について、対照資料(同(イ)第一段落及び第二 。 そして、上記1で補正の上引用した原判決「事実及び理由」第3の2(1)ア(イ)で説示したとおり、原判決は、本件遺言書に記載された文字の筆跡について、対照資料(同(イ)第一段落及び第二段落記載の各書面)にあるAの筆跡の特徴が本件遺言書の筆跡と近似していることを指摘し、本件遺言書に記載された文字がAの自書によると推認し得る事情であると判断しているのであって、原判決に控訴人が主張するような不当な点があるとは認められない。 ウしたがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 (2) 本件遺言書の署名部分が本件督促状の署名部分を用いた透写(トレース)により偽造された可能性を合理的に排除しないまま本件遺言書の文字はAが自書したものと認めた原判決の不当性についてア控訴人は、原判決が、本件遺言書の署名部分は本件督促状(丙7の1)の署名部分を用いた透写(トレース)により偽造された可能性を合理的に排除しないまま本件遺言書の文字はAが自書したものと認めたことは不当である旨主張し、控訴理由書及び控訴人第1準備書面でその理由を縷々挙げている。 イ控訴人は、原審以来、本件遺言書の全文、日付及び署名の筆跡は、A自身が生前作成したとされる書面における筆跡と一致しておらず、本件遺言書は、A以外の者が透写等して作成した可能性が極めて高いとし、筆跡鑑定(甲14、39、43、57)やB従業員のほかAに生前接していた複数の関係者の見解からも裏付けられる旨主張していた(上記第2の2で補正の上引用した原判決 「事実及び理由」第2の3(2)イ(ア))ところであり、控訴人の上記アの主張は原審における主張の繰り返しである。そして、控訴人の上記主張を採用し得ないことは、上記1で補正の上引用した原判決「事実及び理由」第3の 」第2の3(2)イ(ア))ところであり、控訴人の上記アの主張は原審における主張の繰り返しである。そして、控訴人の上記主張を採用し得ないことは、上記1で補正の上引用した原判決「事実及び理由」第3の2(1)ア(カ)で説示したとおりである。 ウ控訴人は、本件遺言書の署名を構成する文字が本件督促状の署名を構成する文字に酷似する事実(文字の酷似)は、本件遺言書の署名が本件督促状の署名を用いた透写により偽造されたことを推認させ、本件遺言書の自書性の推認を妨げるなどと主張する。 しかしながら、本件遺言書の署名を構成する文字が本件督促状の署名を構成する文字に酷似する事実は、本件遺言書の署名部分の自書性の判断に当たっての考慮事情ではあるものの、上記事実があるとしても、そのことをもって本件督促状の署名を用いた偽造であることが推認されるものとはいえない。また、A以外の者が透写等によって本件遺言書を作成した可能性が高いとはいえないことは、上記1で補正の上引用した原判決「事実及び理由」第3の2(1)ア(カ)で説示したとおりである。 控訴人は、被控訴人補助参加人が提出した筆跡鑑定書等(丙150~153)の信用性を争うが、筆跡鑑定書等の結論や指摘で検討した筆跡の特性や検討等の過程において、特段不合理な点は見当たらないことは、上記1で補正の上引用した原判決「事実及び理由」第3の2(1)ア(エ)で説示したとおりであり、控訴人の主張に鑑み、関係証拠を改めて精査しても、上記判断は左右されない。 エ以上のとおりであるから、控訴人の上記主張は採用することが できない。 (3) 本件遺言書の押印はAがしたものと認めた原判決の不当性についてア控訴人は、原判決が本件遺言書の押印はAによるものと推認し得る根拠として、① することが できない。 (3) 本件遺言書の押印はAがしたものと認めた原判決の不当性についてア控訴人は、原判決が本件遺言書の押印はAによるものと推認し得る根拠として、①本件遺言書に本件印鑑登録証明書(丙1の3)が添付されていたこと、②平成25年2月7日の本件印鑑登録証明書の発行はAの指示に基づくものであること、③本件遺言書の押印は同月8日にされたことを挙げていることについて、上記推認は、㋐本件遺言書に本件印鑑登録証明書が添付されていたと認められるのは平成30年6月以降であることを看過している点、㋑本件遺言書の押印が平成25年2月8日にされたことを所与の前提としている点、㋒本件印鑑登録証明書の発行がAの指示に基づくものと認めた点で不当である旨主張し、控訴理由書及び控訴人第1準備書面でその理由を縷々挙げている。 イしかしながら、一般に、処分証書において、当該書面を自筆した者の印章がその作成者の名下に押印されている場合には、特段の事情のない限り、当該書面を自筆した者本人が押印したと考えるのが自然であるところ、本件遺言書の筆跡、本件遺言書の体裁等及び本件遺言書の内容からすると、Aが本件遺言書に押印したか否かの点を除いても、Aが本件遺言書の全文、日付及び氏名を自書したものと認められるのであるから、本件遺言書の氏名の末尾にある印影は、特段の事情のない限り、Aの押印によるものと考えるのが自然である。そして、本件遺言書のA名下の印影は、本件印鑑登録証明書の印影と同一であると認められる上、本件印鑑登録証明書自体は、Aの指示に基づいて発行されたものである ことからすると、本件遺言書の全文、日付及び氏名を自書したAが、実印を氏名の末尾に押印し、本件印鑑登録証明書を添付していたとしても何ら不自然、不合理で の指示に基づいて発行されたものである ことからすると、本件遺言書の全文、日付及び氏名を自書したAが、実印を氏名の末尾に押印し、本件印鑑登録証明書を添付していたとしても何ら不自然、不合理ではない。 ウ控訴人は、平成30年6月12日に本件遺言書と本件印鑑登録証明書等がC取締役からT弁護士に預けられたこと、及び同弁護士の申立てにより本件遺言書の検認がされたことから推論されるのは、同月にC取締役が同弁護士に交付したとき以降、本件遺言書に本件印鑑登録証明書が添付されていたという事実にすぎないなどと主張する。 しかしながら、C取締役が同月時点で本件遺言書と本件印鑑登録証明書を保有していたということは、C取締役が同月よりも前から本件遺言書と本件印鑑登録証明書を保有して保管していたことを示す事情といえる。そして、C取締役は、平成25年2月10日頃、自宅において、Aから郵送された本件遺言書及び本件印鑑登録証明書を受け取り、翌日頃のAからの電話で、A自ら本件遺言書を作成したと述べたことを聞いた旨の証言をしている(証人C取締役〔原審〕・7~9、47頁)ところ、本件遺言書には、「C殿」との宛名が記載されていることを併せ考えると、Aは、本件遺言書の作成(自書及び押印)後の間もない時期に、本件遺言書及び本件印鑑登録証明書をC取締役に託したと考えるのが自然であり、C取締役の上記証言に不自然、不合理な点は認められない。 エ以上によれば、本件遺言書のAの末尾の印影は、Aが自ら実印を押印して顕出されたものであり、Aは、本件遺言書の作成(自書及び押印)後、自らの指示に基づいて発行された本件印鑑登録 証明書とともに本件遺言書をC取締役に託したものというべきであるから、これに反する控訴人の主張は採用することができない。 成(自書及び押印)後、自らの指示に基づいて発行された本件印鑑登録 証明書とともに本件遺言書をC取締役に託したものというべきであるから、これに反する控訴人の主張は採用することができない。 (4) 本件遺言書はRが弁護士から受けた説明内容に基づいて何者かが偽造した可能性があることについてア控訴人は、本件遺言書は、Rが弁護士から受けた説明内容に基づいて偽造された可能性がある旨主張し、控訴理由補充書及び控訴人第2準備書面でその理由を縷々挙げている。 イしかしながら、控訴人が提出する関係証拠をふまえ検討しても、控訴人の上記主張に沿う事実関係ないし事情を認めるには足りず、控訴人の上記主張は、憶測に基づくものというほかないから、採用の限りでない。 (5) 控訴人は、その他控訴理由書、控訴理由補充書、控訴人第1準備書面及び第2準備書面で縷々主張して原判決の事実認定及び法律判断を論難するが、関係証拠を改めて精査しても上記認定判断を左右するに足りない。 第4 結論よって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法61条、66条を適用して、主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第7民事部 裁判長裁判官田中健治 裁判官島岡大雄 裁判官柴田憲史
▼ クリックして全文を表示