平成28(ワ)35157 特許権侵害差止等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和2年3月24日 東京地方裁判所
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判決文本文50,413 文字)

- 1 -令和2年3月24日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成28年(ワ)第35157号特許権侵害差止等請求事件口頭弁論終結日令和元年10月8日判決 原告日亜化学工業株式会社 同訴訟代理人弁護士牧野知彦 加治梓子 被告HTCNIPPON株式会社(以下「被告HTC」という。) 被告兼松コミュニケーションズ株式会社 (以下「被告兼松」という。) 上記両名訴訟代理人弁護士黒田健二 吉村誠主文 1 被告HTCは,原告に対し,金●(省略)●円及びうち金●(省略)●円に対する平成28年10月26日から,うち金●(省略)●円に対する平成30年9月28日から,各支払済みまでそれぞれ年5分の割合による金員を支払え。 2 被告兼松は,原告に対し,金●(省略)●円及びこれに対する平成28年10月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。 - 2 - 4 訴訟費用は,原告に生じた費用の20分の13と被告HTCに生じた費用の合計の20分の19を原告の,20分の1を同被告の負担とし,原告に生じた費用の20分の7と被告兼松に生じた費用の合計の100分の97を原告の,100分の3を同被告の各負担とする。 5 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求 1 被告HTCは,原告に対し,626万8000円及びうち350万円に対する平成 5 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求 1 被告HTCは,原告に対し,626万8000円及びうち350万円に対する平成28年10月26日から,うち276万8000円に対する平成30年9月28日から,各支払済みまでそれぞれ年5分の割合による金員を支払え。 2 被告兼松は,原告に対し,350万円及びこれに対する平成28年10月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,発明の名称を「発光装置と表示装置」とする特許(特許第5177317号及び同第5610056号)に係る特許権者である原告が,被告らの 輸入販売等に係るスマートフォンに搭載されているLEDは,上記特許に係る特許請求の範囲の記載文言を充足し,その特許発明の技術的範囲に属すると主張して,不法行為による損害賠償請求権に基づき,被告HTCに対しては,626万8000円(特許法102条2項により算定した損害額426万8000円,弁護士費用相当額200万円)及びうち350万円に対する平成28年 10月26日(同被告に対する訴状送達日の翌日)から,うち276万8000円に対する平成30年9月28日(同被告に対する同月25日付け訴えの変更申立書送達日の翌日)から,各支払済みまでそれぞれ民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,被告兼松に対しては,350万円(特許法102条2項により算定した損害額250万円,弁護士費用相当額100万 円)及びこれに対する平成28年10月26日(同被告に対する訴状送達日の - 3 -翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 なお,原告は,特許第5177 対する平成28年10月26日(同被告に対する訴状送達日の - 3 -翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 なお,原告は,特許第5177317号に基づく請求と,同第5610056号に基づく請求をするところ,いずれの請求についても,損害額として,上記の額を主張するものであるから,両請求の関係は,選択的併合の関係にある ものと解される。 1 前提事実(末尾掲記の証拠等により認定したほかは,当事者間で争いがないか当裁判所に顕著である。)当事者ア原告は,半導体並びにその関連材料,部品及び応用製品の製造,販売及 び研究開発などを業とする株式会社である。 イ被告HTCは,携帯情報端末機器等の電子応用機械器具の販売,輸出入及び仲介業務等を業とする株式会社である。 ウ被告兼松は,移動体通信機器及びこれに関連する機器の販売等を業とする株式会社である。 本件特許権1,2ア原告は,次の特許権(以下「本件特許権1」という。)を有する(甲2,41,乙1の1,9,弁論の全趣旨)。 発明の名称発光装置と表示装置特許番号特許第5177317号 登録日平成25年1月18日出願番号特願2012-189084号(以下,「本件出願1」といい,その願書に添付された明細書を「本件明細書1」という。)出願日平成24年8月29日 分割の表示特願2008-269号(以下「本件原出願1」とい - 4 -う。)の分割原出願日平成9年7月29日原出願番号特願平10-508693号国際出願番号 PCT/JP97/02610国際公開番号 WO98/05078 国際公開日平成10年2月5日 日平成9年7月29日原出願番号特願平10-508693号国際出願番号 PCT/JP97/02610国際公開番号 WO98/05078 国際公開日平成10年2月5日最先優先日平成8年7月29日(特願平8-198585号)訂正審決日平成29年11月28日イ原告は,次の特許権(以下「本件特許権2」という。)を有する(甲4,54,弁論の全趣旨)。 発明の名称発光装置と表示装置特許番号特許第5610056号登録日平成26年9月12日出願番号特願2013-265770号(以下,「本件出願2」といい,その願書に添付された明細書を「本件明細書2」と いう。)出願日平成25年12月24日分割の表示特願2013-4210号(以下「本件原出願2」という。)の分割原出願日平成9年7月29日 原出願番号特願平10-508693号国際出願番号 PCT/JP97/02610国際公開番号 WO98/05078国際公開日平成10年2月5日優先日平成8年7月29日(特願平8-198585号。以下, その特許出願を「第1優先権出願」といい,その願書に添 - 5 -付された明細書を「第1優先権出願明細書」という。)平成8年9月17日(特願平8-244339号。以下,その特許出願を「第2優先権出願」といい,その願書に添付された明細書を「第2優先権出願明細書」という。)訂正審決日平成30年12月4日 本件訂正発明1,2ア本件特許権1の特許請求の範囲のうち,訂正後の請求項1(以下「本件訂正発明1」という。)は,「白色系を発光する発光ダイオードであって,該発光ダイオードは,発光層が窒化ガリ 本件訂正発明1,2ア本件特許権1の特許請求の範囲のうち,訂正後の請求項1(以下「本件訂正発明1」という。)は,「白色系を発光する発光ダイオードであって,該発光ダイオードは,発光層が窒化ガリウム系化合物半導体であり,前記発光層の発光スペクトルのピークが420~490nmの範囲にあるLE Dチップと,該LEDチップによって発光された光の一部を吸収して,吸収した光の波長よりも長波長の光を発光する,Y及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と,Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素とを含んでなるセリウムで付活されたガーネット系蛍光体とを含む,ことを特徴とする発光ダイオード。」であり(甲2,4 1,弁論の全趣旨),これを構成要件に分説すると,次のとおりとなる。 1A 白色系を発光する発光ダイオードであって,1B 該発光ダイオードは,発光層が窒化ガリウム系化合物半導体であり,1C 前記発光層の発光スペクトルのピークが420~490nmの範囲にあるLEDチップと, 1D 該LEDチップによって発光された光の一部を吸収して,吸収した光の波長よりも長波長の光を発光する,1EY及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と,Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素とを含んでなるセリウムで付活されたガーネット系蛍光体(以下「蛍光体1 E」という。)とを含む, - 6 -1F ことを特徴とする発光ダイオード。 イ本件特許権2の特許請求の範囲のうち,訂正後の請求項2(以下,「本件訂正発明2」といい,本件訂正発明1と併せて「本件各訂正発明」という。)は,「凹部内に配置された窒化ガリウム系化合物半導体を有するLEDチップと,前記凹部に充填されて前記LEDチップ (以下,「本件訂正発明2」といい,本件訂正発明1と併せて「本件各訂正発明」という。)は,「凹部内に配置された窒化ガリウム系化合物半導体を有するLEDチップと,前記凹部に充填されて前記LEDチップを覆うコーティン グ樹脂とを有する発光ダイオードであって,前記コーティング樹脂には,該LEDチップからの第1の光の少なくとも一部を吸収し,波長変換して前記第1の光とは波長の異なる第2の光を発光する,Y,Lu及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と,Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含んでなるCeで付活されたガーネ ット系蛍光体が含有されており,前記LEDチップは,その発光層がInを含む窒化ガリウム系半導体で,420~490nmの範囲にピーク波長を有するLEDチップであり,前記コーティング樹脂中の前記ガーネット系蛍光体の濃度が,前記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなっていることを特徴とする発光ダイオード。」であり (甲4,54,弁論の全趣旨),これを構成要件に分説すると,次のとおりとなる。 2A 凹部内に配置された窒化ガリウム系化合物半導体を有するLEDチップと,2B 前記凹部に充填されて前記LEDチップを覆うコーティング樹脂と を有する発光ダイオードであって,2C 前記コーティング樹脂には,該LEDチップからの第1の光の少なくとも一部を吸収し,波長変換して前記第1の光とは波長の異なる第2の光を発光する,2DY,Lu及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と, Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含ん - 7 -でなるCeで付活されたガーネット系蛍光体(以下「蛍光体2D」という。)が含有されており, も1つの元素と, Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含ん - 7 -でなるCeで付活されたガーネット系蛍光体(以下「蛍光体2D」という。)が含有されており,2E 前記LEDチップは,その発光層がInを含む窒化ガリウム系半導体で,420~490nmの範囲にピーク波長を有するLEDチップであり, 2F 前記コーティング樹脂中の前記ガーネット系蛍光体の濃度が,前記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなっている2G ことを特徴とする発光ダイオード。 被告らの行為 ア被告HTCは,台湾のスマートフォンメーカーである訴外HTCコーポレーション(宏達国際電子股份有限公司。以下「HTC台湾」という。)が製造販売するスマートフォン(商品名 HTCDesire 626。 以下「被告製品」という。)を輸入した上,被告製品を,被告兼松に対し平成27年9月30日から同年12月31日までの間に合計●(省略)● 台(ただし,返品された●(省略)●台を除く。),被告兼松以外の第三者に対し平成27年10月22日から平成28年2月4日までの間に合計●(省略)●台販売した(乙46,弁論の全趣旨)。 被告HTCの上記販売による利益額は,●(省略)●円である。 イ被告兼松は,平成27年10月から平成29年7月までの間に,被告製 品を合計●(省略)●台販売した(乙43,弁論の全趣旨)。 被告兼松の上記販売による利益額は,●(省略)●円である。 被告製品の構成と本件各訂正発明との対比ア被告製品に搭載されているLED(以下「被告LED」という。)は,本件訂正発明1の構成要件に対応させて分説すると,少なくとも次の構成 を有しており(以下,元素については,元素記号のみ 比ア被告製品に搭載されているLED(以下「被告LED」という。)は,本件訂正発明1の構成要件に対応させて分説すると,少なくとも次の構成 を有しており(以下,元素については,元素記号のみを用いて表記するこ - 8 -とがある。),構成要件1Bないし1D及び1Fを充足している(弁論の全趣旨)。 1a 白色系を発光する発光ダイオードであって,1b 該発光ダイオードは,発光層が窒化ガリウム系化合物半導体であり,1c 前記発光層の発光スペクトルのピークが約446nmであるLED チップと,1d 該LEDチップによって発光された光の一部を吸収して,吸収した光の波長よりも長波長である発光スペクトルのピークが約547nmの光を発光する,1e 構成元素に少なくともY,Al及びOを含む蛍光体(以下「本件蛍 光体」という。)を含む(ただし,本件蛍光体がCeで付活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体〔以下,イットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体を「YAG蛍光体」という。〕か否か,本件蛍光体以外の蛍光体が被告LEDに含まれるか否かにつき当事者間に争いがある。) 1f ことを特徴とする発光ダイオード。 イ被告LEDは,本件訂正発明2に対応させて分説すると,少なくとも次の構成を有しており(弁論の全趣旨),構成要件2A,2C,2E及び2Gを充足している(弁論の全趣旨)。 2a 凹部内に配置された窒化ガリウム系化合物半導体を有するLEDチ ップと,2b 前記凹部に充填されて前記LEDチップを覆う樹脂とを有する発光ダイオードであって,2c 前記樹脂には,該LEDチップからの発光スペクトルのピークが約446nmである第1の光の少なくとも一部を吸収し,波長変換し て前記第1 プを覆う樹脂とを有する発光ダイオードであって,2c 前記樹脂には,該LEDチップからの発光スペクトルのピークが約446nmである第1の光の少なくとも一部を吸収し,波長変換し て前記第1の光とは波長の異なる発光スペクトルのピークが約54 - 9 -7nmである第2の光を発光する,2d 本件蛍光体が含有されており(ただし,本件蛍光体がCeで付活されたYAG蛍光体か否か,本件蛍光体以外の蛍光体が被告LEDに含まれるか否かにつき当事者間に争いがある。),2e 前記LEDチップは,その発光層がInを含む窒化ガリウム系半導 体で,約446nmにピーク波長を有するLEDチップであり,2f 前記樹脂中の前記蛍光体の濃度が前記LEDチップの周辺においてほぼ均一で高密度である2g ことを特徴とする発光ダイオード。 先行文献の存在 ア本件出願1の優先日(平成8年7月29日)の前に頒布された刊行物として,次の文献が存在する。 「APPLIEDPHYSICSLETTERSVol.11 No.2」(昭和42年7月15日発行)に掲載された「ANEWPHOSPHORFORFLYING-SPOTCATHODE-RAYTUBESFORCOLORTELEVISION: YELLOW-EMITTINGY3Al5O12-Ce3+」(乙1 2,弁論の全趣旨。以下「乙12文献」という。)特公昭49-1221号公報(公告日昭和49年1月12日)(乙11。以下「乙11公報」という。)「三菱電機技報48巻9号」(昭和49年9月25日発行)に掲載された「PYGけい光面とその応用」(乙15。以下「乙15文献」とい う。)特開昭50-43913号公報(公開日昭和50年4月21日)(乙13。 9号」(昭和49年9月25日発行)に掲載された「PYGけい光面とその応用」(乙15。以下「乙15文献」とい う。)特開昭50-43913号公報(公開日昭和50年4月21日)(乙13。以下「乙13公報」という。)「JOURNALoftheIlluminating. EngineeringSocietyVol. 6 No.2」(昭和52年1月発行)に掲載された「Improvedcolorrendition inhighpressuremercuryvaporlamps」(乙14,弁論の全趣旨。以 - 10 -下「乙14文献」という。)特開平5-152609号公報(公開日平成5年6月18日)(乙10。以下,「乙10公報」といい,乙10公報に開示される発明を「乙10発明」という。)イ第264回蛍光体同学会講演予稿「白色LEDの開発と応用」(乙21。 以下,「乙21文献」といい,乙21文献に開示される発明を「乙21発明」という。)は平成8年11月29日に開催された蛍光体同学会の講演予稿であり,本件原出願2の出願日より前の同年12月8日には遅くとも頒布された。 2 争点 被告LEDは構成要件1Aの「白色系を発光する発光ダイオード」を充足するか被告LEDの構成1eの本件蛍光体はCeで付活されたYAG蛍光体であり構成要件1Eを充足するか被告LEDの構成2bの樹脂は構成要件2Bの「コーティング樹脂」を充 足するか被告LEDの構成2fの蛍光体の濃度は構成要件2Fの「前記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなっている」との文言を充足するか本件訂正発明1はサポート要件に違反し無効にされるべきものか,そうで ない場合は 2Fの「前記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなっている」との文言を充足するか本件訂正発明1はサポート要件に違反し無効にされるべきものか,そうで ない場合は,被告LEDには構成要件1E所定の元素及び蛍光体が含まれていないものとして,同構成要件を充足しないこととなるか本件訂正発明1は明確性を欠き無効にされるべきものか本件訂正発明1は新規性を欠き無効にされるべきものか本件訂正発明1は進歩性を欠き無効にされるべきものか 本件訂正発明2は実施可能要件に違反し無効にされるべきものか - 11 -本件訂正発明2は明確性を欠き無効にされるべきものか,そうでない場合は,被告LEDには構成要件2D所定の元素及び蛍光体が含まれていないものとして,同構成要件を充足しないこととなるか本件訂正発明2は新規性を欠き無効にされるべきものか本件訂正発明2は進歩性を欠き無効にされるべきものか 原告の損害の額 3 争点についての当事者の主張 は構成要件1Aの「白色系を発光する発光ダイオード」を充足するか)について【原告の主張】 被告LEDは,構成1aのとおり,白色系を発光する発光ダイオードである以上,構成要件1Aの「白色系を発光する発光ダイオード」を充足するといえる。 【被告らの主張】本件明細書1においては,LEDチップからの発光と当該発光の一部が蛍 光体により波長変換された発光との混色により白色光が発光されることのみが開示されていることに照らすと,構成要件1Aにおける「白色系」の発光とは,LEDチップが発する光の一部を吸収した蛍光体が吸収した光の波長よりも長波長の光を発し,その光とLEDチップの発する光とが混色することで得られるものに限られると解 1Aにおける「白色系」の発光とは,LEDチップが発する光の一部を吸収した蛍光体が吸収した光の波長よりも長波長の光を発し,その光とLEDチップの発する光とが混色することで得られるものに限られると解される。しかして,被告LEDは,単に白 色系を発光するだけであるから(構成1a),構成要件1Aの「白色系を発光する発光ダイオード」を充足しない。 (被告LEDの構成1eの本件蛍光体はCeで付活されたYAG蛍光体であり構成要件1Eを充足するか)について【原告の主張】 次のア,イに照らし,被告LEDの構成1eの本件蛍光体はCeで付活さ - 12 -れたYAG蛍光体であり,構成要件1Eを充足するといえる。 ア本件蛍光体にCeが含まれること本件蛍光体は青色光照射により黄色発光する(甲8の図2(4)-2)ところ,そもそも,蛍光体は発光中心を構成する元素(付活剤)がなければ発光しないから,本件蛍光体に付活剤が存在することは明らか である。そして,本件蛍光体のEDX分析の結果(甲8の図2(2)-6。甲9の1頁の図はその拡大図である。),Ceの信号が検出されたのであるから,本件蛍光体にCeが含まれることは明らかである。 なお,蛍光体を発光させるためには,通常,付活剤が使用され,使用される付活剤が変われば発光色が変化することは技術常識である。そし て,現在知られているYAG蛍光体のうち,Ce以外の元素で付活されたもので,Ceで付活されたものと同様の黄色系の発光スペクトルを有するものは存在しない。しかして,後記イのとおり,本件蛍光体はYAG蛍光体であるから,これが黄色発光するものである以上,技術常識に照らし,本件蛍光体はCeで付活されたものであると特定することがで きる。 これに対し,被告らは,検出され 本件蛍光体はYAG蛍光体であるから,これが黄色発光するものである以上,技術常識に照らし,本件蛍光体はCeで付活されたものであると特定することがで きる。 これに対し,被告らは,検出された信号がノイズにすぎない,あるいは,検出された元素のピークの位置がCeのものとは異なっており,Ce以外の元素に由来する信号である可能性がある旨主張する。 しかし,Ceの含有量はごく微量であるから,EDX分析において高 いピーク値が検出されないのは当然であるし,Ceとして特定されている位置にスペクトルのピークが検出されたことにより,装置が自動的にCeを検出したと判断したものであるから,前者の主張は理由がない。 また,EDX分析では,予め装置に記憶されている元素に固有のピークと検出された複数のピークの主たるものとを対比して検出された元素を 特定するのであって,一つのピークの異同で判断されるものではなく, - 13 -従たるピークの数値が多少弱いとかずれているといった程度のことは元素を特定する上で重視すべき事情とはならないから,後者の主張も理由がない。 イ本件蛍光体はYAG蛍光体であることラマン分光法による被告LEDのラマンスペクトル(甲8の図2 (4)-3)には,本件蛍光体のラマンスペクトルが検出された部分と蛍光体の周辺に存在するコーティング部材が検出された部分とがある。 しかして,前者の部分(甲9の図2(4)-3の緑色の丸で囲まれた部分)のピーク位置は,既知の標準資料である「Y2.85Ce0.15Al5O12」のラマンスペクトルのピーク位置とほぼ一致するから,本件蛍光体の基 本構造は,上記標準資料と同じYAG蛍光体であるといえる。 これに対し,被告らは,本件蛍光体のラマンスペクトルが検出された部分にYAG クトルのピーク位置とほぼ一致するから,本件蛍光体の基 本構造は,上記標準資料と同じYAG蛍光体であるといえる。 これに対し,被告らは,本件蛍光体のラマンスペクトルが検出された部分にYAG蛍光体のラマンスペクトルとピークの位置が一致していない箇所が5か所ある旨主張する。 しかしながら,被告らの主張は細かなサブピークの異同を指摘するも のであるが,ラマン分光法による分析においては,細かなサブピークは測定時の試料の結晶方向によっては消えることがあるため,複数の主たるピークを照合して判断するのであるから,技術的に意味のある反論となっていない。 なお,被告らが指摘する上記5箇所は,コーティング部材のラマンス ペクトルが検出された部分や,蛍光体のラマンスペクトルのピークがコーティング部材のラマンスペクトルのピークと近い位置にあるために緩やかな傾斜となって現れている箇所,被告らが異なる位置で比較したり,ピークを見落としたりしている箇所,コーティング部材のラマンスペクトルのピークが測定装置による自動補正により伸びて現れている箇所で あ - 14 -になっていない。 【被告らの主張】次のア,イに照らし,被告LEDの構成1eの本件蛍光体はCeで付活されたYAG蛍光体であるとはいえず,構成要件1Eを充足するとはいえない。 ア本件蛍光体にCeが含まれるとは認められないこと EDX分析において検出される信号には,検出対象となる含有元素を示す「特性X線」といわれる信号と,単なるノイズである「連続X線」といわれるバックグランドの信号が存在するところ,Ceを検出した信号であると原告が主張するスペクトルのピークは,他のバックグランドの信号と何ら異ならない。 また,Ceの励起電圧は概ね4.8keV, バックグランドの信号が存在するところ,Ceを検出した信号であると原告が主張するスペクトルのピークは,他のバックグランドの信号と何ら異ならない。 また,Ceの励起電圧は概ね4.8keV,5.3keV,5.6keV 及び6.1keV であるにもかかわらず,Ceを検出した信号であると原告が主張するスペクトルのピークの位置は,励起電圧が概ね4.2keV,4. 9keV,5.3keV,5.6keV,6.0kev 及び6.3keV であって,4. 2keV と6.3keV で信号が検出されているのは不可解である上,励起 電圧が約4.2keV の元素にはCsとIn,約4.9keV の元素にはTi,V及びCs,約5.3keV の元素にはLa,約5.6keV の元素にはSm,約6.0keV の元素にはNd及びGd,約6.3keV の元素にはPrがそれぞれあるから,Ceを検出した信号であると原告が主張するスペクトルが「特性X線」であったとしても,Ce以外の元素に由来 する信号である可能性が十分ある。 なお,原告は,黄色系の発光スペクトルを有するYAG蛍光体はCeで付活されたYAG蛍光体であると特定される旨主張するが,この点については,「Tb,Eu,Yb,Pr,Tm及びSm」のいずれかを付活剤とするYAG蛍光体であっても黄色発光するものであることに照ら せば,原告の上記主張は誤っている。 - 15 -イ本件蛍光体がYAG蛍光体であるとは認められないこと原告が本件蛍光体のラマンスペクトルを示していると主張する部分を見ても,YAG蛍光体のラマンスペクトルとピークの位置が一致していない箇所が5か所あるから,本件蛍光体がYAG蛍光体であるとは認められない。 (被告LEDの構成2bの樹脂は構成要件2Bの「コーテ YAG蛍光体のラマンスペクトルとピークの位置が一致していない箇所が5か所あるから,本件蛍光体がYAG蛍光体であるとは認められない。 (被告LEDの構成2bの樹脂は構成要件2Bの「コーティング樹脂」を充足するか)について【原告の主張】ア構成要件2Bの「コーティング樹脂」は凹部(カップ)に充填されてLEDチップを覆う樹脂である(本件明細書2の段落【0033】,【00 35】,【0076】,【0105】,【図1】,【図2】)ところ,構成2bの樹脂は,凹部に充填されてLEDチップを覆う樹脂であるから,上記「コーティング樹脂」を充足するといえる。 イこれに対し,被告らは,構成2bの樹脂の一部がモールド樹脂である旨主張する。しかし,モールド樹脂は,発光素子(LEDチップ),導電性 ワイヤー,蛍光体を含有したコーティング樹脂及びカップ(凹部)を覆い,これらを外部から保護するとともに,LEDチップからの発光を集束させたり,拡散させたりするレンズ機能を有するものである(本件明細書2の段落【0026】,【0077】,【0106】,【図1】)ところ,被告らがモールド樹脂であると主張する構成2bの樹脂の一部はそのような ものとはいえない。被告らの上記主張は失当である。 【被告らの主張】ア被告LEDの構成2bの樹脂は,蛍光体を含有する樹脂の層とその上部の層との2層構造になっているところ,本件明細書2には,コーティング樹脂を2層とすることは一切開示されておらず,むしろ,凹部内にモール ド樹脂が形成されることが開示されている(図1)。そうすると,凹部内 - 16 -に2層の樹脂が形成されている場合,その上部の樹脂はモールド樹脂であると解するほかなく,これは,構成要件2Bの「コーティング樹脂」を充足する れている(図1)。そうすると,凹部内 - 16 -に2層の樹脂が形成されている場合,その上部の樹脂はモールド樹脂であると解するほかなく,これは,構成要件2Bの「コーティング樹脂」を充足するものではない。 また,コーティング樹脂はマウント・リードのカップに設けられるものであるところ(本件明細書2の段落【0076】),凹部内の2層の樹脂 のうち下部の樹脂は,マウント・リードのカップに設けられたものではないから,同樹脂についても,構成要件2Bの「コーティング樹脂」を充足するものではない。 イこれに対し,原告は,被告らがモールド樹脂と主張する樹脂は凹部(カップ)を覆うものではないなどとして,これらもモールド樹脂ではなく 「コーティング樹脂」に当たる旨主張する。 しかしながら,本件明細書2には,「モールド部材104は,発光素子102,導電性ワイヤー103,フォトルミネセンス蛍光体が含有されたコーティング部101などを外部から保護する機能を有する」(段落【0077】)と記載されているにすぎず,モールド樹脂が凹部(カップ)を 覆うことは記載されていないから,被告らがモールド樹脂と主張する樹脂が凹部(カップ)を覆うものではないとしても,直ちにモールド樹脂といえないことにはならない。むしろ,被告らがモールド樹脂と主張する樹脂は,LEDチップや蛍光体が含有された樹脂を覆い,さらに凹部も覆うことにより外部から保護しており,本件明細書2に記載されたモールド樹脂 の機能を有しているといえる。 争点 (被告LEDの構成2fの蛍光体の濃度は構成要件2Fの「前記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなっている」との文言を充足するか)について【原告の主張】 構成要件2Fは,コーティング樹脂中の の濃度は構成要件2Fの「前記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなっている」との文言を充足するか)について【原告の主張】 構成要件2Fは,コーティング樹脂中の蛍光体の含有分布を全体としてみ - 17 -たときに,蛍光体の含有分布がコーティング樹脂の表面側からLEDチップ側に有意に偏っており,表面側からLEDチップ側に向かって蛍光体濃度が高くなることはあっても,有意に低くなることはない状態を意味するというべきである。しかして,被告LEDにおいては,蛍光体がLEDチップの周辺に高密度に存在しており,コーティング樹脂中の蛍光体の含有分布を全体 としてみたときに,蛍光体の含有分布がコーティング樹脂の表面側からLEDチップ側に有意に偏っており,表面側からLEDチップ側に向かって蛍光体濃度が高くなることはあっても,有意に低くなることはない状態であるといえる。そうすると,構成2fの蛍光体の濃度は構成要件2Fの「前記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなっている」 との文言を充足する。 【被告らの主張】被告LEDの構成2bの樹脂のうち蛍光体を含有する樹脂の層が「コーティング樹脂」に当たるとしても,同層では蛍光体の濃度が均一になっているから,蛍光体の濃度が構成要件2Fの「前記コーティング樹脂の表面側から 前記LEDチップ側に向かって高くなっている」との文言を充足するとはいえない。 (本件訂正発明1はサポート要件に違反し無効にされるべきものか,そうでない場合は,被告LEDには構成要件1E所定の元素及び蛍光体が含まれていないものとして,同構成要件を充足しないこととなるか)について 【被告らの主張】ア 「白色系を発光する」(構成要件1A)に関するサポ LEDには構成要件1E所定の元素及び蛍光体が含まれていないものとして,同構成要件を充足しないこととなるか)について 【被告らの主張】ア 「白色系を発光する」(構成要件1A)に関するサポート要件違反本件訂正発明1が,「白色系を発光する」ものであれば足りるとする場合には,LEDチップが発する光と蛍光体1E以外の蛍光体が発する蛍光光との混色により白色光が生成され,そこに微量の蛍光体1Eが存 在しているような場合も含まれることになる。 - 18 -ところが,本件明細書1には,LEDチップからの光と当該光の一部が蛍光体1Eにより波長変換された光との混色により白色光が発光されることが開示されているにすぎず,白色光がLED光と蛍光体1E以外の蛍光体の光とにより発光することは記載も示唆もされていないから,本件訂正発明1の特許請求の範囲の記載は,本件明細書1にサポートさ れていない範囲を含んでいるといわざるを得ない。 そうすると,本件訂正発明1は,特許法36条6項1号の規定に反して特許されたものであり,その特許は同法123条1項4号の規定により,無効とすべきである。 イ 「セリウムで付活されたガーネット系蛍光体」(構成要件1E)に関す るサポート要件違反構成要件1Eの「セリウムで付活されたガーネット系蛍光体」における「ガーネット」とは,「A3B5O12」という一般式で表される結晶構造を有する化合物全般を指すところ,この式中の「A」及び「B」には,イオン半径や価数に関する制約の範囲内で種々の元素が入り得るの であって,「A」に入り得る元素としては,構成要件1Eで特定されている「Y及びGd」の他に,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu等があり,「B」に入り得 であって,「A」に入り得る元素としては,構成要件1Eで特定されている「Y及びGd」の他に,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu等があり,「B」に入り得る元素としては,構成要件1Eで特定されている「Al及びGa」の他に,Sc,In等がある。 そして,構成要件1Eにおける「Y及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素、、、、、、、、、、」と「Al及びGaからなる群から選ばれる少な、、くとも1つの元素、、、、、、、、」とを「含んでなる、、、、、」という構成は,「Y及びGd」と「Al及びGa」とを構成元素に含むことを意味するだけで,その他のいかなる元素についても構成元素から排除することを意味しない。本 件明細書1においても,「A」に同時に入りうる複数の元素として, - 19 -「Y,Gd,Sm」(段落【0016】,【0017】,【0019】,【0027】,【0029】,【0046】,【0059】,【0060】,【0064】,【0113】)や「Y,Ga,La」(段落【0020】,【0030】),「Y,Lu,Sc,La,Gd,Sm」(段落【0026】,【0046】),「Y,Gd,La」(段落【0 083】)が記載されている。 このように,「Y及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素」と「Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素」とを「含んでなる」という構成によっては,蛍光体1Eに含まれる構成元素の範囲は何ら限定されない。そのため,Yとともに,本件明細 書1には一切開示されていないPr,Nd,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybなど種々の元素を含み得るし,Alとともに,本件明細書1には一切開示されていないSc,Inなど もに,本件明細 書1には一切開示されていないPr,Nd,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybなど種々の元素を含み得るし,Alとともに,本件明細書1には一切開示されていないSc,Inなど種々の元素を含み得ることになる(例えば,(Y0.3Pr0.3Tb0.4)3(Al0.3Sc0.3In0.4)5O12)。 したがって,この点からみても,上記アと同様に,本件訂正発明1はサポート要件違反により無効にされるべきものである。 仮に,原告が主張するように,蛍光体1Eに含まれる元素が「Y及び/又はGd」と「Al及び/又はGa」とに限定されると解されるのであれば,本件蛍光体にこれらの元素以外の元素が含まれていないことは 主張立証されていないから,本件蛍光体は構成要件1Eの「ガーネット系蛍光体」には当たらないというべきである。また,上記のように解されるとすれば,構成要件1Eは蛍光体1E以外の蛍光体を含んではならないと解すべきであるところ,被告LEDにはCASN系蛍光体が含有されているから,被告LEDは構成要件1Eを充足しないこととなる。 【原告の主張】 - 20 -ア 「白色系を発光する」(構成要件1A)に関するサポート要件違反について,被告らの上記主張は失当である。 すなわち,本件明細書1の段落【0007】ないし【0010】の記載によれば,本件訂正発明1は,青色系発光素子の高エネルギーや熱,光及び水分という劣化要因に対して耐久性を有する蛍光体として蛍光体1Eを 見いだした点に技術的意義を有する発明であり,蛍光体1Eを用いることで良好な白色系発光ダイオードを得られることを公開した点に大きな意義が認められる発明であるから,白色系LEDの蛍光体として蛍光体1Eを使用する以上,蛍光体1Eを白色系LEDの 蛍光体1Eを用いることで良好な白色系発光ダイオードを得られることを公開した点に大きな意義が認められる発明であるから,白色系LEDの蛍光体として蛍光体1Eを使用する以上,蛍光体1Eを白色系LEDの主たる蛍光体として用いることが当然である。被告らの上記主張は,蛍光体1Eが色調調整の目的等で 微量に存在するにすぎない極めて極端な例に言及したものであり,現実的には問題とならない。 イ 「セリウムで付活されたガーネット系蛍光体」(構成要件1E)に関するサポート要件違反について,被告らの上記主張は失当である。 すなわち,構成要件1Eの「Y及びGdからなる群から選ばれた少な くとも1つの元素」とは,YあるいはGdのうちの少なくともいずれか1つの元素の意味であるから,被告が指摘する「A」に入るのは「Y及び/又はGd」に限定されているし,同様に,Bに入る元素は「Al及び/又はGa」に限定されているから,被告らの主張には理由がない。 この点,被告らは,「含んでなる」と記載されているから限定されて いないと主張するが,「含んでなる」と記載されているからといって,必ずしもそのような解釈になるとはいえない。むしろ,あえて構成要件1Eのような記載にしている以上,当然,記載された元素に限定されていると読むべきである。また,仮に,特許請求の範囲の記載のみからは,これが限定されているか否かが不明であるとしても,本件明細書1には, 被告らが指摘するとおり,他の元素が記載されているにもかかわらず, - 21 -敢えて,特許請求の範囲を上記のとおり限定した記載にしていることからすれば,構成要件1Eは上記のとおり限定されていると解釈すべきである。 被告らは,被告LEDにCASN系蛍光体が含まれている旨主張するが,同主張及びその おり限定した記載にしていることからすれば,構成要件1Eは上記のとおり限定されていると解釈すべきである。 被告らは,被告LEDにCASN系蛍光体が含まれている旨主張するが,同主張及びその立証は,故意又は過失により時機に後れて提出 されたものであり,その提出を認めた場合に訴訟の完結を遅延させることは明らかであるから,民事訴訟法157条に基づき,却下されるべきである。この点を措くとしても,被告LEDの蛍光体の発光写真(甲8の図2(1)-15,図2(4)-2)を見ても,黄色発光のみであり赤色発光は認められないから,被告LEDにはCASN系蛍光 体は含まれているとはいえない。 (本件訂正発明1は明確性を欠き無効にされるべきものか)について【被告らの主張】前記【被告らの主張】イ内容によれば,本件訂正発明1の蛍 光体1Eは「Y又はGd」と「Al又Ga」とを構成元素に含めば足り,その構成元素の範囲は何ら限定されておらず,その構成元素の種類・組合せの限界が不明瞭であるから,「特許を受けようとする発明」が明確であるとはいえず,特許法36条6項2号に適合しない。そうすると,本件訂正発明1は,同号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたもの であり,その特許には明確性要件違反の無効理由(同法123条1項4号)がある。 【原告の主張】前記【原告の主張】イで述べた内容によれば,被告らの上記主張は失当である。 (本件訂正発明1は新規性を欠き無効にされるべきものか)につい - 22 -て【被告らの主張】ア分割要件違反を理由とするもの本件訂正発明1の「白色系を発光する」は,LEDチップの光と蛍光体1E以外の蛍光体の光との混色により白色光が発光される場合も含むもの -て【被告らの主張】ア分割要件違反を理由とするもの本件訂正発明1の「白色系を発光する」は,LEDチップの光と蛍光体1E以外の蛍光体の光との混色により白色光が発光される場合も含むもの であるところ,本件原出願1の願書に添付された明細書や図面には,LEDチップの光と蛍光体1E以外の蛍光体の光との混色により白色光が発光されることは開示されていないから,本件出願1は,分割出願の要件を満たしていないものである。 そうすると,本件訂正発明1についての新規性を判断する基準日は本件 出願1の出願日になるから,本件訂正発明1は,本件出願1に関する国際出願の国際公開公報(国際公開日平成10年2月5日,国際公開番号WO98/05078)により新規性を欠き無効にされるべきものということとなる。 イ乙33文献に基づくもの ドイツ法人であるWustlichMikro-ElektronikGmbH(以下「WME社」という。)及びWustlichOpto-ElektronikGmbH(以下「WOE社」という。)が発行した「White-News (COBTechnologie) 02-1995(白色ニュース(COB 技術)02-1995 )」及び「White-News (LEDTechnologie) 02-1995(白色ニュース(LED 技術)02-1995)」という 両面から成るチラシ(乙33。以下「乙33文献」という。)は,本件特許権1の最先の優先日(平成8年7月29日)より前の平成7年(1995年)に,新製品に関する情報提供並びに当該製品の売込み及び取引促進を目的として,数千部も印刷され,顧客又は販売業者に対して広範に配布された。 乙33文献には,次の発明(以下「乙33発明」という。)が開 に関する情報提供並びに当該製品の売込み及び取引促進を目的として,数千部も印刷され,顧客又は販売業者に対して広範に配布された。 乙33文献には,次の発明(以下「乙33発明」という。)が開示さ - 23 -れている。 「白色系を発光する発光ダイオードであって,該発光ダイオードは,発光層がGaN半導体であり,前記発光層の発光スペクトルのピークが430~490nmの範囲にあるLEDチップと, 該LEDチップによって発光された光の一部を吸収して,吸収した光の波長よりも長波長の光を発光するY3Al5O12:Ceを含む発光ダイオード。」本件訂正発明1と乙33発明とを対比すると,その内容からして,両 者は同一というべきであるから,本件訂正発明1は,乙33発明に基づき新規性を欠き無効にされるべきものといえる。 【原告の主張】ア分割要件違反を理由とするものについて本件原出願1に添付された明細書の段落【0007】ないし【001 0】は本件明細書1の段落【0007】ないし【0010】と同様の記載となっている。 ば,被告らの上記主張は失当である。 イ乙33文献に基づくものについて乙33文献には,1995年(平成7年)2月当時に白色LEDが蛍光 体L175と青色窒化ガリウムチップを使用して製造された旨記載されているところ,前者はOsram社製のもの(乙33),後者はCree社製のもの(乙34)とされている。 しかしながら,前者については,蛍光体L175に関するデータシートの書式はOsram社が1996年(平成8年)1月以降に使い始めた書 式であるから,1995年(平成7年)2月当時には存在しないものであ - 24 -る。また,後者については,WME社及びWOE社はCree が1996年(平成8年)1月以降に使い始めた書 式であるから,1995年(平成7年)2月当時には存在しないものであ - 24 -る。また,後者については,WME社及びWOE社はCree社から窒化ガリウムチップを購入していないし,そもそも同社は1995年(平成7年)6月に同チップを最初に売り出したのであるから,WME社及びWOE社が1995年(平成7年)2月にCree社から同チップを購入することは不可能である。 したがって,乙33文献の,1995年(平成7年)2月当時に白色LEDが蛍光体L175と青色窒化ガリウムチップを使用して製造された旨の内容は信用性に欠けるものであるから,乙33文献に基づく被告らの上記主張は失当である。 (本件訂正発明1は進歩性を欠き無効にされるべきものか)につい て【被告らの主張】ア乙10発明に基づくもの乙10公報には,次の発明(乙10発明)が開示されている。 1A’発光素子からの光及び蛍光体からの光で白色発光可能な発光ダ イオードであって(乙10公報の段落【0001】,【0003】及び【0009】には,乙10発明の発光ダイオードが「発光素子からの光及び蛍光体からの光で白色発光可能な発光ダイオードであること」が開示されているというべきである。),1B’前記発光素子は,発光層がGaAlNからなる窒化ガリウム系化 合物半導体であり(【請求項1】,段落【0006】ないし【0008】),1C’発光層の発光ピークが430nm付近である発光素子と(段落【0006】)1D’発光素子が発光した光によって励起されてこれより長波長光を発 光する(段落【0008】,【0009】,図2) - 25 -1E’蛍光染料または蛍光顔料を含む(【請求項1】,段 1D’発光素子が発光した光によって励起されてこれより長波長光を発 光する(段落【0008】,【0009】,図2) - 25 -1E’蛍光染料または蛍光顔料を含む(【請求項1】,段落【0006】ないし【0009】)1F’発光ダイオード(【請求項1】,段落【0001】,【0007】,【0008】,図2)。 本件訂正発明1と乙10発明とを対比すると,次の一致点及び相違点 がある。 a 一致点「白色系を発光する発光ダイオードであって,該発光ダイオードは,発光層が窒化ガリウム系化合物半導体であり,前記発光層の発光スペクトルのピークが420~490nmの範囲にあるLEDチップと, 該LEDチップによって発光された光の一部を吸収して,吸収した光の波長よりも長波長の光を発光する,蛍光体とを含む,ことを特徴とする発光ダイオード。」である点。 b 相違点本件訂正発明1では,蛍光体が「Y及びGdからなる群から選ばれ た少なくとも1つの元素と,Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素とを含んでなるセリウムで付活されたガーネット系蛍光体」であるのに対し,乙10発明では蛍光体の種類が記載されていない点。 上記相違点にかかる構成は,次のa,bによれば,当業者において容 易に想到することができたものであるから,本件訂正発明1は,乙10発明に基づき進歩性を欠き無効にされるべきものである。 a 乙11公報には,レーザから発光された単色性ピーク波長の青色光(441.6ないし488nm)を吸収して青色の補色の光を発光する蛍光体として,セリウム・ドープのYAG蛍光体が開示されており, 当該YAG蛍光体の励起スペクトルのピークが466nm(0.46 - 26 -6ミクロン)であることが記 色の光を発光する蛍光体として,セリウム・ドープのYAG蛍光体が開示されており, 当該YAG蛍光体の励起スペクトルのピークが466nm(0.46 - 26 -6ミクロン)であることが記載されていた。 b また,青色光を吸収して青色の補色の光を発光する蛍光体をCeで付活されたYAG蛍光体とする構成は,次のとおり,本件出願1の最先優先日当時の周知慣用技術であった。 乙12文献には,Ceで付活されたYAG蛍光体が波長460n mの放射エネルギー(青色の可視光線)を効率的に吸収し,より長波長の550nmにピーク波長を有するブロードな発光バンドを示すことが開示されている。 ⒝ 乙13公報には,Ceで付活されたYAG蛍光体が,波長450ないし500nmの青色光を,550ないし650nmにピーク波 長を有する発光へと効率的に変換する蛍光体であって,演色性に優れていることが開示されている。 ⒞ 乙14文献には,Ceで付活されたYAG蛍光体がランプの演色性向上に有用であり,青色発光を560nm中心の発光に変換することが開示されている。 ⒟ 乙15文献には,(Y3(Al,Ga)5O12:Ceで表されるPYG蛍光体が,約450nmに刺激スペクトル(吸収スペクトル)があり,かつ,発光スペクトルも比較的幅広い波長域にわたり,光出力も極めて高いことや非常に劣化の少ないことが開示されている。 イ乙33文献に基づくもの仮に乙33発明と本件訂正発明1との間に相違点があったとしても,当該相違点は周知の技術事項であり,当業者であれば,乙33発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,本件訂正発明1は進歩性を欠き無効にされるべきものである。 【原告の主張】 - 27 -ア乙10発明に であれば,乙33発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,本件訂正発明1は進歩性を欠き無効にされるべきものである。 【原告の主張】 - 27 -ア乙10発明に基づくものについて相違点の看過被告らは,本件訂正発明1と乙10発明とは「白色系を発光する発光ダイオード」である点において一致する旨主張する。 しかし,乙10公報には,乙10発明の目的が,青色発光素子からの 短波長の光を長波長の光に変換して「青色発光素子の色補正ないし波長変換」をすることにある旨記載されているから,乙10発明は「青色発光素子の色補正ないし波長変換」をするものにすぎない。現に,乙10公報は,実施例として,420ないし440nm付近の波長によって励起されて480nmに発光ピークを有する波長を発光する蛍光染料を開 示している。 そうすると,本件訂正発明1と乙10発明とは,本件訂正発明1は「白色系を発光する発光ダイオード」であるのに対し,乙10発明は「青色発光素子の色補正ないし波長変換をする発光ダイオード」である点で相違するから,乙10公報に基づく被告らの主張は,上記相違点を 看過している点において理由がない。 被告ら主張の相違点を当業者が容易に想到し得ないことa 被告らは,乙10発明が「白色系を発光する発光ダイオード」であることを前提に,白色系を発光する発光ダイオードの蛍光体として,Ceで付活されたYAG蛍光体は周知技術であった旨主張する。 のとおり,乙10発明は「白色系を発光する発光ダイオード」ではないから,乙10発明にCeで付活されたYAG蛍光体を選択して組み合わせる動機付けはない。 b 仮に乙10発明が「白色系を発光する発光ダイオード」であるとしても,白色系を発光する発光ダイオード ではないから,乙10発明にCeで付活されたYAG蛍光体を選択して組み合わせる動機付けはない。 b 仮に乙10発明が「白色系を発光する発光ダイオード」であるとしても,白色系を発光する発光ダイオードを得るための方法としては, 青色の補色の光を発光する蛍光体を選択する以外に,蛍光体として複 - 28 -数の蛍光体を使用する方法もあるし,青色LEDの発光を全て緑色に変換した緑色LEDと青色LED及び赤色LEDとを組み合わせる方法もあり,複数の選択肢が存在するのであるから,そのような選択肢の中からYAG蛍光体を選択して乙10発明と組み合わせる具体的な動機付けが必要であるが,被告らはこれを主張立証していない。 c かえって,乙10発明は,発光ピークが430nm付近及び370nm付近にある発光素子の色補正ないし波長変換を目的とするものであるが,YAG蛍光体は,370nm付近の光ではほぼ励起されないから,乙10発明の蛍光体として不向きである。それどころか,370nm付近の光である紫外線は人体に有害であり,乙10発明でYA G蛍光体を使用するとそれが蛍光体に吸収されずに放出されてしまうのであるから,当業者としてはそれを吸収する蛍光体を採用する必然性があり,YAG蛍光体を使用することにつき阻害事由があるとさえいえる。 d さらに,被告らは,乙10公報に開示されている発光素子が「青色 発光素子」であることから,蛍光体を励起する光源を青色発光素子とすることを前提に,これと組み合わせる蛍光体として,当該青色光で励起されて黄色を発する蛍光体のみを候補にしているが,このような前提の置き方は,本件訂正発明1を知った上での後知恵であって誤ったものである。 すなわち,乙10公報は,「高輝度な波長変換発光ダイオード」(段落 る蛍光体のみを候補にしているが,このような前提の置き方は,本件訂正発明1を知った上での後知恵であって誤ったものである。 すなわち,乙10公報は,「高輝度な波長変換発光ダイオード」(段落【0001】)に関する発明であり,「青色または紫外のLEDは未だ実用化されていない。」(段落【0005】)としながら,最近,窒化ガリウム系化合物半導体が注目されているとして,発光素子の具体例として,AlGaN/GaNを発光層とする430nm付近及び3 70nm付近の2つのピークを有する窒化ガリウム系化合物半導体発 - 29 -光素子を開示し(段落【0005】),「窒化ガリウム系化合物半導体はLEDに使用される半導体材料中で最も短波長側にその発光ピークを有するものであり,しかも紫外域にも発光ピークを有している。そのため,それを発光素子の材料として使用した場合,その発光素子を包囲する樹脂モールドに蛍光染料,蛍光顔料を添加することにより, 最も好適にそれら蛍光物質を励起することができる。」としている(段落【0009】)。乙10公報のこのような記載に接した当業者であれば,蛍光体を励起する光源を「青色発光素子」と理解するのではなく,「窒化ガリウム系化合物半導体」として理解するはずである。そして,本件訂正発明1 についての最先優先日当時には,窒化ガリウム系化合物半導体としてGaNやAlGaNのみならず,InGaNとするものも既に実現していたのであるから,蛍光体を励起する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子としては,乙10公報に記載された370nmのような紫外域のものから550nm付近の緑色のものまで相当に幅広い範囲が候 補となる。このように,本件訂正発明1の優先日当時の当業者であれば,窒化物半導体発光素子を励起源とし 370nmのような紫外域のものから550nm付近の緑色のものまで相当に幅広い範囲が候 補となる。このように,本件訂正発明1の優先日当時の当業者であれば,窒化物半導体発光素子を励起源として蛍光体との組合せにより白色を得ることを考えたとしても,そもそも白色を得るための方式が種々ある上,励起源である窒化物半導体発光素子の発光波長についても多数の選択 肢があり,さらに,蛍光体についても多数の選択肢があるのであって,そのような中から最適な組合せを選択しなければ,本件訂正発明1には至らないのであるから,それが当業者にとって容易想到でないことは明らかである。イ乙33文献に基づくものについて - 30 -当である。 (本件訂正発明2は実施可能要件に違反し無効にされるべきものか)について【被告らの主張】ア本件訂正発明2の技術的特徴は「前記コーティング樹脂中の前記ガーネ ット系蛍光体の濃度が,前記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなっている」との点にあり,この技術的特徴によって本件訂正発明2は特許を受けることができたといえるから,本件出願2の原出願日当時(平成9年7月29日),このような技術的特徴を実現することは当業者にとって容易でなく,その当時の発光ダイオードは,コー ティング樹脂中のYAG蛍光体の濃度がコーティング樹脂の表面側からLEDチップ側に向かって高くも低くもなく,均一なものであったということになる。 イしかしながら,本件原出願2から相当な期間が経過した時点においてすら,当業者において,樹脂中にYAG蛍光体が均一なものとなっている構 造を有する蛍光体層を形成することは不可能であり(乙23),原告自身,自ら出願した特許の公開公報において,透光性 においてすら,当業者において,樹脂中にYAG蛍光体が均一なものとなっている構 造を有する蛍光体層を形成することは不可能であり(乙23),原告自身,自ら出願した特許の公開公報において,透光性部材としてエポキシ等の熱硬化性樹脂を用いた場合,「単に樹脂中に蛍光物質を含有させ混合させたもので発光素子を包囲し硬化させると,樹脂中の蛍光物質はほとんど発光素子周辺に厚く嵩張って沈降してしまうのが現状である」と認識していた ことを明確に記載している(乙23)。そして,このような認識は,当業者において共通のものであったから(乙25ないし27),樹脂中における蛍光物質の沈降(沈殿)を回避することは困難であるというのが本件出願2の原出願日当時の技術常識であった。 そうすると,本件訂正発明2の技術的特徴である「前記コーティング樹 脂中の前記ガーネット系蛍光体の濃度が,前記コーティング樹脂の表面側 - 31 -から前記LEDチップ側に向かって高くなっている」態様と樹脂中の蛍光体が自然に沈降してしまう態様との間に何らかの相違があったとしても,本件明細書2の記載に触れた当業者において,その相違がどのようなものであり,それをどのように実現し得るのかを理解し得ないから,本件訂正発明2は実施可能要件に違反し無効にされるべきものである。 【原告の主張】ア構成要件2Fの「前記コーティング樹脂中の前記ガーネット系蛍光体の濃度が,前記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなっている」との文言は,コーティング樹脂中の蛍光体の含有分布を全体として見たときに,蛍光体の含有分布がコーティング樹脂の表面側 からLEDチップ側に有意に偏っており,表面側からLEDチップに向かって蛍光体濃度が高くなることはあっても,有意に低 有分布を全体として見たときに,蛍光体の含有分布がコーティング樹脂の表面側 からLEDチップ側に有意に偏っており,表面側からLEDチップに向かって蛍光体濃度が高くなることはあっても,有意に低くなることはない状態をいうものと解釈されるものであるから,これに沿わない被告らの上記主張は失当である。 イまた,被告らの主張は,本件出願2の原出願日当時における当業者の認 識を,その後に出願された特許の公開公報に依拠して説明している点で誤っている上,樹脂中の蛍光体を均一に分布させることが不可能であったという事実もないから,前提自体を誤っている。 ウさらに,物の発明の実施可能要件を充足するためには,その物を作ることができ,かつ,その物を使用することができるように「発明の実施の形 態」が記載されていればよいものであるところ,コーティング樹脂中の蛍光体の濃度分布がその表面側からLEDチップ側に向かって高いという形態は,当業者であれば,本件明細書2の段落【0047】の記載に従って,当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく容易に実施し得るものであるから,被告らの上記主張は失当である。 (本件訂正発明2は明確性を欠き無効にされるべきものか,そうで - 32 -ない場合は,被告LEDには構成要件2D所定の元素及び蛍光体が含まれていないものとして,同構成要件を充足しないこととなるか)について【被告らの主張】ア 「Ceで付活されたガーネット系蛍光体」(構成要件2D)に関する明確性要件違反 構成要件2Dは,構成要件1Eと同様に,「Y,Lu又はGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素」と「Al又はGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素」とを「含んでなる」という構成によっ 構成要件2Dは,構成要件1Eと同様に,「Y,Lu又はGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素」と「Al又はGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素」とを「含んでなる」という構成によっては,「Ceで付活されたガーネット系蛍光体」に含まれる構成元素の範囲を何ら限定していない。そのため,その構成元素の種類・組合せの限界が 不明瞭であるから,本件訂正発明2は明確性を欠き無効にされるべきものである。 仮に,原告が主張するように,蛍光体2Dに含まれる元素が「Y,Lu及び/又はGd」と「Al及び/又はGa」とに限定されると解されるのであれば,本件蛍光体にこれらの元素以外の元素が含まれていないことは 主張立証されていないから,本件蛍光体は構成要件2Dの「ガーネット系蛍光体」には当たらないというべきである。また,上記のように解されるとすれば,構成要件2Dは蛍光体2D以外の蛍光体を含んではならないと解すべきであるところ,被告LEDにはCASN系蛍光体が含有されているから,被告LEDは構成要件2Dを充足しないことになる。 イ 「前記コーティング樹脂中の前記ガーネット系蛍光体の濃度が,前記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなっている」(構成要件2F)に関する明確性要件違反【被告らの主張】で述べたように,本件訂正発明2の技術的特徴である「前記コーティング樹脂中の前記ガーネット系蛍光体の濃度が,前 記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなっ - 33 -ている」態様と,従来技術(樹脂中の蛍光体が自然に沈降してしまう態様)との間に何らかの相違があったとしても,本件明細書2の記載に触れた当業者において,その相違がどのようなものであり,それをどのように実現し得るの ,従来技術(樹脂中の蛍光体が自然に沈降してしまう態様)との間に何らかの相違があったとしても,本件明細書2の記載に触れた当業者において,その相違がどのようなものであり,それをどのように実現し得るのかを理解し得ないから,本件訂正発明2は明確性要件に違反し無効にされるべきものである。 【原告の主張】ア 「Ceで付活されたガーネット系蛍光体」(構成要件2D)に関する明確性要件違反に係る被告らの上記主張は失当である。前記【原告の主張】イで述べたように,「Ceで付活されたガーネット系蛍光体」に含まれる構成元素は「Y,Lu及び/又はGd」と「Al及び又はGa」と に限定されているから,被告らの主張には理由がない。 イ 「前記コーティング樹脂中の前記ガーネット系蛍光体の濃度が,前記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなっている」(構成要件2F)に関する明確性要件違反に係る被告らの上記主張は主張】ア,イで述べたとおりで ある。なお,特許請求の範囲の記載についての明確性要件は請求項の記載それ自体に基づいて判断されるものであり,従来技術との区別との関係で判断されるものではない。 (本件訂正発明2は新規性を欠き無効にされるべきものか)について 【被告らの主張】ア乙21文献には,次の発明(乙21発明)が開示されている。 「リードフレームのカップ底面にLEDチップをマウントし,LEDチップに対し,蛍光体を表面に薄くコーティングし,チップを外部環境から保護するために集光レンズを兼ねたエポキシ樹脂 で周囲を封止した発光ダイオードであって, - 34 -前記LEDチップは,InGaN系の青色SQW-LEDである,発光ダイオード。」イしかして,本件訂正発明2と乙21発 脂 で周囲を封止した発光ダイオードであって, - 34 -前記LEDチップは,InGaN系の青色SQW-LEDである,発光ダイオード。」イしかして,本件訂正発明2と乙21発明とを対比すると,両者は,乙21発明が,本件訂正発明2の「コーティング樹脂中のガーネット系蛍光体の濃度が,コーティング樹脂の表面側からLEDチップ側に向かって高く なっている」構成を備えるものか不明である点で相違する。 しかし,前記説示及びの各公報の該当段落の記載に照らし,本件出願2の原出願日から相当な期間が経過した時点においてすら,当業者において,樹脂中にYAG蛍光体が均一になっている構造を有する蛍光体層を形成することは不可能であり,原告自身,「単に樹脂中に蛍光 物質を含有させ混合させたもので発光素子を包囲し硬化させると,樹脂中の蛍光物質はほとんど発光素子周辺に厚く嵩張って沈降してしまう」と認識していたものであるから,本件出願2の原出願日当時の発光ダイオードにおいても,「コーティング樹脂中のガーネット系蛍光体の濃度が,コーティング樹脂の表面側からLEDチップ側に向かって高くなっている」構 成を備えるものであったというべきである。 そうすると,本件訂正発明2と乙21発明とは,実質的に同一のものであり,本件訂正発明2は,乙21発明に基づき新規性を欠き無効にされるべきものである。 特開2002-50800号公報(乙22。以下「乙22公報」とい う。)の段落【0002】,【0003】,【0022】,【0023】,【0025】及び【0026】特開2006-080565号公報(乙23。以下「乙23公報」という。)の段落【0026】ないし【0028】及び【0034】特開2000-022222号公報(乙24。以下「 及び【0026】特開2006-080565号公報(乙23。以下「乙23公報」という。)の段落【0026】ないし【0028】及び【0034】特開2000-022222号公報(乙24。以下「乙24公報」と いう。)の段落【0002】及び【0003】 - 35 -特開2006-245020号公報(乙25。以下「乙25公報」という。)の段落【0010】特開2005-064233号公報(乙26。以下「乙26公報」という。)の段落【0002】ないし【0006】 特開2008-115307号公報(乙27。以下「乙27公報」 という。)の段落【0004】【原告の主張】ア本件訂正発明2は部分優先権を有すること本件訂正発明2は,蛍光体の組成に関して選択肢で記載された発明特定事項を含むものであるところ,訂正前の本件訂正発明2のうち,① 「Y,Gd,Smからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と,Al,Gaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含んでなるCeで付活されたガーネット系蛍光体」を備える発明は第1優先権出願明細書に開示されており,②「Y,Gd,Sm,Laからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と,Al,Gaからなる群から選ばれる少な くとも1つの元素を含んでなるCeで付活されたガーネット系蛍光体」を備える発明は第2優先権出願明細書に開示されているから,部分優先権により,上記①の発明の優先日は第1優先権出願の出願日である平成8年7月29日,上記②の発明の優先日は第2優先権出願の出願日である同年9月17日となる。 しかして,乙21文献は,これらの出願日より後に頒布されたものとなるところ,第1優先権出願明細書(乙16)には,「RE3(Al,Ga)5O12:Ce( 願日である同年9月17日となる。 しかして,乙21文献は,これらの出願日より後に頒布されたものとなるところ,第1優先権出願明細書(乙16)には,「RE3(Al,Ga)5O12:Ce(ただし,REはY,Gd,Smから選択される少なくとも一種)の組成式で表されるCeで付活されたガーネット系蛍光体」(段落【0018】),「Inを含む窒化ガリウム系半導体である InGaNの発光層」(段落【0029】),「発光スペクトルのピー - 36 -クが400nmから530nmの発光波長を有するLEDチップ」(請求項1,段落【0032】)及び「450nm付近のピーク波長を有するLEDチップ」(前同)が開示されており,乙21文献に開示された内容と実質的に同じ内容が,本件訂正発明2に至る第1優先権出願明細書及び第2優先権出願明細書に既に開示されているのであるから,乙2 1文献は,本件訂正発明2の進歩性を判断する上での引用発明としての適格を欠くというべきである。 なお,そもそも本件訂正発明2につき優先権がないことが問題となり得るのは,第1優先権出願明細書及び第2優先権出願明細書のいずれにおいても開示されていない部分のみ,すなわち,「Lu,Scの少なく とも1つの元素を含んでなるか,Inを含んでなるCeで付活されたガーネット系蛍光体」を備える発明のみであるところ,被告らが乙21文献に開示されていると主張している「Y,Gdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と,Al,Gaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含んでなるCeで付活されたガーネット系蛍光体」を備 える発明との関係では,本件訂正発明2の優先日は第1優先権出願の出願日である平成8年7月29日となり,それより後に頒布された乙21文献は特許法29条 Ceで付活されたガーネット系蛍光体」を備 える発明との関係では,本件訂正発明2の優先日は第1優先権出願の出願日である平成8年7月29日となり,それより後に頒布された乙21文献は特許法29条1項3号の「刊行物」には当たらないことになる。 以上によれば,被告らの上記主張は失当である。 イ本件出願2の原出願日当時コーティング樹脂中にYAG蛍光体を均一に 分布させることが不可能ではなかったこと本件出願2の原出願日当時の公知文献(乙21文献の図1,同図2,甲17の図2,甲18の図1)には,LEDを覆う樹脂中で蛍光体が均一に分散することが明らかに示されている上,LEDを覆う樹脂中で均一に分散していた蛍光体が比重差によって時間の経過とともに沈降する という現象が起き得るとしても,硬化後の樹脂において蛍光体がどのよ - 37 -うに分布するのかは,樹脂の粘度,形成温度,蛍光体の形状,粘度分布等の種々のパラメータの組合せによって任意に設計することが可能であるから,LEDを覆う樹脂中における蛍光体の沈降は不可避なものではなかった。この点,本件出願2と原出願を同じくする特願2009-065948号の審査段階において原告が提出した意見書の添付資料1 (甲19)にも,本件出願2の原出願当時の技術によって上記公知文献で示されている均一な分散状態を実現できたことが示されている。 これに対し,被告らは,乙22公報ないし乙27公報の記載によれば,本件出願2の原出願当時は,コーティング樹脂中のガーネット蛍光体は自然に沈降してしまい,同蛍光体を均一に分布させる技術は確立してい なかった旨主張する。 しかし,次のaないしcの各公報の該当段落の記載によれば,上記各公報は,ある特定の条件下で蛍光体の沈降が抑制困難であることを 蛍光体を均一に分布させる技術は確立してい なかった旨主張する。 しかし,次のaないしcの各公報の該当段落の記載によれば,上記各公報は,ある特定の条件下で蛍光体の沈降が抑制困難であることを記載したものにすぎず,コーティング樹脂中のガーネット蛍光体を均一に分散させることが全く不可能であり,同蛍光体が沈降した態様以外の組成 分布が得られなかったことを示すものではない。被告らが指摘する乙25公報の段落【0010】,乙26公報の段落【0006】,乙27公報の段落【0004】の各記載も,その内容に照らし,上記を左右するものではない。 a 乙22公報の段落【0026】ないし【0028】及び【003 0】b 乙23公報の段落【0004】,【0010】,【0028】及び【0087】c 乙24公報の段落【0003】 以上によれば,本件出願2の原出願日当時,蛍光体を樹脂中で均一 に分布させることが不可能であったという事実はなく,乙21発明が - 38 -「コーティング樹脂中のガーネット蛍光体の濃度が,コーティング樹脂の表面側からLEDチップ側に向かって高くなっている」構成を備えているとはいえないから,本件訂正発明2と乙21発明とが実質的に同一の発明であるとはいえない。 したがって,本件訂正発明2は,乙21発明に対して新規性を欠くも のとはいえない。 (本件訂正発明2は進歩性を欠き無効にされるべきものか)について【被告らの主張】乙21発明が「コーティング樹脂中のガーネット系蛍光体の濃度が,コー ティング樹脂の表面側からLEDチップ側に向かって高くなっている」構成を備えておらず,その点において本件訂正発明2と相違するとしても,前記とおり,本件出願2の原出願日当時の当業者にとって ティング樹脂の表面側からLEDチップ側に向かって高くなっている」構成を備えておらず,その点において本件訂正発明2と相違するとしても,前記とおり,本件出願2の原出願日当時の当業者にとって上記の構成を備えることは技術常識であり,これを乙21発明に適用することは容易想到であったから,本件訂正発明2は乙21発明に基づき 進歩性を欠き無効にされるべきものである。 【原告の主張】ア前記で述べたとおり,本件出願2の原出願日当時,「コーティング樹脂中のガーネット系蛍光体の濃度が,コーティング樹脂の表面側からLEDチップ側に向かって高くなっている」構成を備えると いう技術常識は存在しなかった。これに対し,本件訂正発明2は,このような技術常識に反して蛍光体の分布をLEDチップの側に偏ったものにし,外部からの水分による蛍光体の劣化を有効に抑制したという点にその技術的意義があるのであって,乙21文献には,そのような蛍光体の分布を採用することを動機付けるものは全く示されていない。 すなわち,乙21文献は,InGaN系青色SQW・LEDとYAG蛍 - 39 -光体とを組み合わせることにより,高光度で純白色の発光を実現できる白色系LEDが得られること,並びにYAG蛍光体のY及びAlをそれぞれGd及びGaで置換することによって蛍光体の発光波長が変化することを開示するものであり,白色系LEDを構成する蛍光体が,外部から侵入する水分や製造時に内部に含まれた水分によって劣化するという課題につい て何ら言及していない。当然のことながら,乙21文献には,そのような課題がコーティング樹脂中の蛍光体の配置によって解決されることを教示ないし示唆する記載もない。 イそうすると,乙21発明に基づいて,高温・高湿の外部からの水分侵入 がら,乙21文献には,そのような課題がコーティング樹脂中の蛍光体の配置によって解決されることを教示ないし示唆する記載もない。 イそうすると,乙21発明に基づいて,高温・高湿の外部からの水分侵入が顕著な環境下においても,蛍光体の劣化による色調のずれや輝度の低下 を抑制し,優れた耐光性を実現する白色系の発光ダイオードを得るために,「コーティング樹脂中のガーネット系蛍光体の濃度が,コーティング樹脂の表面側からLEDチップ側に向かって高くなっている」構成を採用することは,当業者において容易になし得ることではなかったといえ,本件訂正発明2は乙21発明に基づき進歩性を欠き無効にされるべきものである とはいえない。 争点 (原告の損害の額)について【原告の主張】ア特許法102条2項により算定される損害額被告LEDの輸入販売等により被告らが得た利益の額は,被告HTCに ついては●(省略)●円(=●(省略)●個×100円),被告兼松については●(省略)●円(=●(省略)●個×100円)である。 すなわち,LEDの価格は製造メーカー,品質,購入する数量,使用目的などによっても様々である上,最終製品に組み込まれたLEDの価値は当該LED単体としての原材料費を超えることが通常であり,さらに,被 告LEDについては,LED単体の価格が不明である,被告製品と不可分 - 40 -一体として製造販売されており,これを分離することができないといった事情がある。これらを踏まえると,被告らが被告LEDによって得た利益の額を算定するに当たっては,単にLEDの単価(材料費)のみを問題とすべきではなく,スマートフォンに対する寄与率的な要素も考慮する必要があるというべきである。 そして,携帯端末のLEDライトはカメラのフ るに当たっては,単にLEDの単価(材料費)のみを問題とすべきではなく,スマートフォンに対する寄与率的な要素も考慮する必要があるというべきである。 そして,携帯端末のLEDライトはカメラのフラッシュとして,さらには,緊急時の懐中電灯代わりとしても,重要な部材の一つとなっている上,被告LEDの場合には,単なるライトではなく,ほかのLEDとは異なり,明るく演色性の高い白色系発光を実現しているのであるから,被告製品1台(販売額は●(省略)●円又は●(省略)●円程度)当たりにおける被 告LEDによる利益額は,100円(寄与率にすると,前者の約●(省略)●%,後者の約●(省略)●%)を下回らないというべきである。 イ弁護士費用原告が本件訴訟の追行に要する弁護士費用相当額は,被告HTCについては200万円(その内訳は,被告HTCが被告兼松に対して被告製品を 販売した分につき100万円,被告兼松以外の第三者に被告製品を販売した分につき100万円),被告兼松については100万円を下らない。 【被告らの主張】ア特許法102条2項により算定される損害の額について被告LEDの輸入販売等により被告らが得た利益の額は,被告ら各自が 被告製品の販売により得た利益額の●(省略)●/●(省略)●であるというべきである。 すなわち,被告製品は,HTC台湾がスマートフォンモジュールメーカーに製造させたものであり,被告LEDは当該メーカーが被告製品に搭載したものであるところ,当該メーカーによる被告LEDの仕入価格は1個 ●(省略)●米ドルであった。 - 41 -他方,被告製品が販売された当時,スマートフォンのコストを50ドルにすることは実現不可能であるといわれていたのであるが,そこで想定されるスマートフォンのスペッ 米ドルであった。 - 41 -他方,被告製品が販売された当時,スマートフォンのコストを50ドルにすることは実現不可能であるといわれていたのであるが,そこで想定されるスマートフォンのスペックに比べて,被告製品のスペックは大幅にこれを上回っていたから,被告製品のコストが50ドルを上回ることは確実である。そして,その当時に既に販売されていたAndroidのスマー トフォンのコストが販売価格の約39ないし45%であるといわれていたことを考慮すると,被告製品のコスト比率を40%として低めに見積もったとしても,市場価格が●(省略)●円であった被告製品のコストは●(省略)●円であったと見積もることができ,その当時の為替レート120.16円/ドルで換算すると●(省略)●ドルとなる。 イ弁護士費用について原告の上記主張は否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 本件事案に鑑み,まず,被告製品が本件訂正発明1に係る本件特許権1を侵害するといえるかについて検討するに,本件訂正発明1に係る特許請求の範囲 は,前記第2の1アのとおりであり,また,本件明細書1には,発明の詳細な説明として,別紙特許公報のとおりの記載が存する。そこで,これを前提として以下検討する。 (被告LEDは構成要件1Aの「白色系を発光する発光ダイオード」を充足するか)について 構成要件1Aには「白色系を発光する発光ダイオード」との文言があるところ,本件特許権1に係る特許請求の範囲や本件明細書1の記載によれば,同「白色系」とは,LEDチップからの光とその光を吸収したガーネット系蛍光体が発する光との混色により発光されたものであることを要すると解するのが相当である。 すなわち,本件明細書1の【技術分野】の欄では,本件出願1に係 らの光とその光を吸収したガーネット系蛍光体が発する光との混色により発光されたものであることを要すると解するのが相当である。 すなわち,本件明細書1の【技術分野】の欄では,本件出願1に係る特許 - 42 -発明は「発光素子が発生する光の波長を変換して発光するフォトルミネセンス蛍光体を備えた発光装置及びそれを用いた表示装置に関する」(段落【0001】)ものであり,「発光素子として,青色系の発光が可能な発光素子を用いて,該発光素子をその発光を吸収して黄色系の光を発光する蛍光体を含有した樹脂によってモールドすることにより,混色により白色系の光が発 光可能な発光ダイオードを作製することができる」(段落【0006】)と説明されていること,「従来の発光ダイオードは,蛍光体の劣化によって色調がずれたり,あるいは蛍光体が黒ずみ光の外部取り出し効率が低下する場合があるという問題点があった」(段落【0007】)とされ,【発明が解決しようとする課題】の欄では,「本願発明は上記課題を解決し,より高輝 度で,長時間の使用環境下においても発光光度及び発光光率の低下や色ずれの極めて少ない発光装置を提供することを目的とする」(段落【0010】)と説明され,さらに,同【課題を解決するための手段】の欄では,課題を解決するための手段の一つとして,「発光素子と蛍光体との関係としては,蛍光体が発光素子からのスペクトル幅をもった単色性ピーク波長の光を 効率よく吸収すると共に効率よく異なる発光波長が発光可能であること,が必要であると考え,鋭意検討した結果,本発明を完成させた」(段落【0011】)などの説明がされていることが認められる。 これらによれば,本件訂正発明1は,発光光度及び発光効率の低下や色ずれという技術的課題を解決するため,発光素子か ,本発明を完成させた」(段落【0011】)などの説明がされていることが認められる。 これらによれば,本件訂正発明1は,発光光度及び発光効率の低下や色ずれという技術的課題を解決するため,発光素子からの光とその光を吸収した ガーネット系蛍光体からの光との混色により白色系の光を発光する発光ダイオードという構成を採用することにより,当該蛍光体が当該発光素子からの光を効率よく吸収して効率よく異なる波長の発光をすることを可能なものとするなどして,上記課題を解決した点に,従来技術と異なる技術的思想の特徴的部分があるものと認められる。そうすると,構成要件1Aの「白色系」 については,LEDチップからの光とその光を吸収したガーネット系蛍光体 - 43 -が発する光との混色により発光されたものであることを要すると解するのが相当である。これは,本件特許1に係る特許請求の範囲の記載文言にも沿うものといえる。 なお,被告らは,当該蛍光体は吸収したLEDチップからの光の波長よりも長波長の光を発することを要する旨主張するが,前記 り,この点については,構成要件1Dにおいて規定されているものであって,構成要件1Aの「白色系」自体を,そのように限定して解することは要しないというべきである。 告LEDは白色系を発光する発光ダイオードであり(構成1a),また,証拠(甲8)によれば,被告LE DのLEDチップは青色を発光すること,本件蛍光体は青色光を照射すると黄色に発光すること細書1の【技術分野】の欄では「発光素子として,青色系の発光が可能な発光素子を用いて,該発光素子をその発光を吸収して黄色系の光を発光する蛍光体を含有した樹脂によってモールドすることにより,混色により白色系の 光が発光可能な発光ダイオードを作製することができ 発光素子を用いて,該発光素子をその発光を吸収して黄色系の光を発光する蛍光体を含有した樹脂によってモールドすることにより,混色により白色系の 光が発光可能な発光ダイオードを作製することができる」(段落【0006】)と説明されていることも併せれば,被告LEDの白色光は,LEDチップの青色光と本件蛍光体の黄色光との混色により発光されたものであると推認するのが相当である。 したがって,被告LEDは構成要件1Aの「白色系を発光する発光ダイオ ード」を充足するというべきである。 3 争点被告LEDの構成1eの本件蛍光体はCeで付活されたYAG蛍光体であり構成要件1Eを充足するか)について被告LEDの構成1eの本件蛍光体につき,これがCeで付活されたYAG蛍光体であれば,被告LEDは,構成要件1E(「Y及びGdからなる群 から選ばれた少なくとも1つの元素と,Al及びGaからなる群から選ばれ - 44 -る少なくとも1つの元素とを含んでなるセリウムで付活されたガーネット系蛍光体(判決注,蛍光体1E)とを含む,」)の文言を充足することとなる。 そこで検討するに,前記のとおり,本件蛍光体は,構成元素として少なくともY,Al及びOを含んでいるものであるところ,YとAlとを含む酸化物としては,YAGのほかに,Y4Al2O9(YAM)とYA lO3(YAP)が知られていること(甲47,弁論の全趣旨),もっとも,エネルギー分散型X線分析装置による分析の結果,本件蛍光体からは,Y,Al及びOのほかに,Ceも検出されたこと(甲8),そして,顕微レーザーラマン分光装置による測定の結果,本件蛍光体のラマンスペクトルのピークがCeで付活されたYAG蛍光体(Y2.85Ce0.15Al5O12)のラマンスペ クトルのピークと ,そして,顕微レーザーラマン分光装置による測定の結果,本件蛍光体のラマンスペクトルのピークがCeで付活されたYAG蛍光体(Y2.85Ce0.15Al5O12)のラマンスペ クトルのピークとほぼ同じ位置に現れたこと(甲8,9),一方,Ceで付活されたYAM(Y3.96Ce0.04Al2O9)及びYAP(Y0.99Ce0.01AlO3)については,顕微レーザーラマン分光装置で測定した各ラマンスペクトルをCeで付活されたYAG蛍光体のラマンスペクトルとそれぞれ比較すると,ピークの現れた位置が全く異なっていたこと(甲9,46,弁論の全 趣旨)がそれぞれ認められる。そうすると,本件蛍光体は,Ceで付活されたYAG蛍光体であると推認するのが相当というべきである。 したがって,被告LEDの構成1eの本件蛍光体はCeで付活されたYAG蛍光体であり,構成要件1Eを充足するというべきである。 これに対する被告らの主張は,次のとおりいずれも採用できない。 ア被告らは,Ceを検出した信号であると原告が主張するスペクトルのピークは単なるノイズにすぎないか,Ce以外の元素に由来する信号の可能性がある旨主張する。 しかしながら,本件蛍光体の分析に用いられたエネルギー分散型X線分析装置は自動定性により元素を同定するものである(甲8,39)から, 単なるノイズやCe以外の元素に由来する信号を誤ってCeと同定するこ - 45 -とはないというべきである。 イまた,被告らは,本件蛍光体のラマンスペクトルにはCeで付活されたYAG蛍光体のラマンスペクトルとピークの位置が一致していない箇所が5か所ある旨主張する。そして,証拠(甲8,9)及び弁論の全趣旨によれば,樹脂に含まれた状態の本件蛍光体を顕微レーザーラマン分光装置で 測 のラマンスペクトルとピークの位置が一致していない箇所が5か所ある旨主張する。そして,証拠(甲8,9)及び弁論の全趣旨によれば,樹脂に含まれた状態の本件蛍光体を顕微レーザーラマン分光装置で 測定したラマンスペクトルのピークが現れた位置と,Ceで付活されたYAG蛍光体のラマンスペクトルのピークが現れた位置とが異なる箇所が,波数がおおよそ3500ないし3100cm-1と700ないし100cm-1の各範囲において,合計5か所あることが認められる。 しかしながら,上記証拠及び弁論の全趣旨によれば,上記各範囲以外の 範囲(おおよそ3100ないし700cm-1と100ないし0cm-1の各範囲)においては,両者の位置が明らかに異なる箇所は見当たらない上,上記各範囲においても,上記5か所以外の15か所では両者の位置は一致していると認められ,また,そもそもラマンスペクトルを含む分光スペクトルには,情報のほかにノイズが含まれており(甲44),さらに,前者 のラマンスペクトルのピークには本件蛍光体を含有している樹脂自体のラマンスペクトルのものが含まれているものである(甲9,弁論の全趣旨)。 これらに照らせば,上記を考慮したとしてもなお,本件蛍光体は,Ceで付活されたYAG蛍光体であると推認するのが相当とのの推認を覆すには足りないというべきである。 (本件訂正発明1はサポート要件に違反し無効にされるべきものか,そうでない場合は,被告LEDには構成要件1E所定の元素及び蛍光体が含まれていないものとして,同構成要件を充足しないこととなるか)について「白色系を発光する」(構成要件1A)に関するサポート要件違反の有無について ア特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは, - 46 -特許 か)について「白色系を発光する」(構成要件1A)に関するサポート要件違反の有無について ア特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは, - 46 -特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲の ものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高判平成17年11月11日判例タイムズ1192号164頁参照)。 イこの点,被告らは,本件訂正発明1の「白色系を発光する」(白色光)は,LED光と蛍光体1E以外の蛍光体の蛍光光との混色により発せられた白色光も含むものであるが,本件明細書1には,LEDチップからの発 光(LED光)と,当該発光の一部が蛍光体1Eにより波長変換された発光との混色により白色光が発光されることが開示されているにすぎないから,本件訂正発明1の特許請求の範囲の記載は明細書にサポートされていない範囲を含んでいる旨主張する。 しかし,前記2本件訂正発明1は,発光光度及び 発光効率の低下や色ずれという技術的課題を解決するため,発光素子からの光とその光を吸収したガーネット系蛍光体からの光との混色により白色系の光を発光する発光ダイオードという構成を採用することにより,当該蛍光体が当該発光素子からの光を効率よく吸収して効率よく異なる波長の発光をすることを可能なものとするなどして,上記課題を解決した点に, 従来技術と異なる技術的思想の特徴的部分があるものと認められる。そして,かか からの光を効率よく吸収して効率よく異なる波長の発光をすることを可能なものとするなどして,上記課題を解決した点に, 従来技術と異なる技術的思想の特徴的部分があるものと認められる。そして,かかる本件訂正発明1「該LEDチップによって発光された光の一部を吸収して,吸収した光の波長よりも長波長の光を発光する」(構成要件1D)ためのものとして,まさに蛍光体1Eを用いるものなのであるから,本件訂正発明1(特許請求の範囲に記 載された発明)は,LEDチップからの光と蛍光体1Eからの光との混色 - 47 -により白色系を発光する構成を,その必須の前提とするものといわなければならない。 ウしたがって,本件訂正発明1がLEDチップからの光と蛍光体1E以外の蛍光体からの光との混色により白色系を発光する場合を含んでいるとの理解を前提とする被告らの上記主張は,その前提を欠くものであって,理 由がなく,その他,本件出願1の分割の経緯を含め検討しても,上記説示を左右するに足りる事情があるとは認められない。 以上によれば,「白色系を発光する」(構成要件1A)に関し,特許請求の範囲に記載された発明(本件訂正発明1)は,発明の詳細な説明(本件明細書1)に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者 が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ,この点のサポート要件違反はないというべきである。 「セリウムで付活されたガーネット系蛍光体」(構成要件1E)に関するサポート要件違反の有無についてア被告らは,本件訂正発明1の「Y及びGdからなる群から選ばれた少な くとも1つの元素」と「Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素」とを「含んでなる」という構成によっては,蛍光体1Eに含まれる構 発明1の「Y及びGdからなる群から選ばれた少な くとも1つの元素」と「Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素」とを「含んでなる」という構成によっては,蛍光体1Eに含まれる構成元素の範囲は何ら限定されず,本件明細書1には一切開示されていない種々の元素が含まれることになるから,本件訂正発明1の特許請求の範囲の記載は明細書にサポートされていない範囲を含んでいる旨主張 する。 イそこで検討するに,前記体1Eが「Y及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と,Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素とを含んでなる」ことを規定しているところ,この文言は,文理上,蛍光体1Eが,構 成元素として,少なくとも「Y及びGdからなる群から選ばれた少なくと - 48 -も1つの元素」と「Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素」を含んでいることを必要とするものであって,その他の元素を含むことを排除していないと解するのが相当である。 もっとも他方,証拠(甲2)によると,本件明細書1においては,構成要件1Eに記載されている元素以外で蛍光体1Eに含まれ得る元素として, 「Sm」(段落【0016】,【0017】,【0019】,【0027】,【0029】,【0046】,【0059】,【0060】,【0064】,【0113】)や「La」(段落【0020】,【0030】,【0083】),「Lu,Sc,La,Sm」(段落【0026】,【0046】)が挙げられていることが認められる。しかして,前記2 示したとおり,本件訂正発明1は,発光光度及び発光効率の低下や色ずれという技術的課題を解決するため,発光素子からの光とその光を吸収したガーネット系蛍光体からの光との混色により白色系の光を 示したとおり,本件訂正発明1は,発光光度及び発光効率の低下や色ずれという技術的課題を解決するため,発光素子からの光とその光を吸収したガーネット系蛍光体からの光との混色により白色系の光を発光する発光ダイオードという構成を採用することにより,上記課題を解決した点に,従来技術と異なる技術的思想の特徴的部分があるものと認められるものであ るところ,本件明細書1において,「ガーネット構造を有するので,熱,光及び水分に強く」との記載があることに照らしても(段落【0050】,【0083】参照),ガーネット系蛍光体「A3B5O12」の「A」にはYやGdと化学的性質が類似した元素が入り,「B」にはAlやGaと化学的性質が類似した元素が入り得ることは技術常識というべきであって, 本件明細書1の上記記載も,これに沿うものとなっているものと認められる。 そうすると,「A」の一部にYやGd以外の元素が入り,「B」の一部にAlやGa以外の元素が入ったとしても,本件明細書1の記載に接した当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)に おいては,蛍光体1Eについて,それがガーネット構造を有することに変 - 49 -わりはなく,その元素の一部がイオン半径や価数に関する制約の範囲内(弁論の全趣旨)で化学的性質の類似した元素に置き換わるにすぎないと理解するというべきである。したがって,本件明細書1の記載に接した当業者においては,上記置き換えがされたものを含めそのようなガーネット構造のものをそれ以外の構造のものと容易に区別することができるもので あって,当該ガーネット構造のものを採用することにより,「セリウムで付活されたガーネット系蛍光体」との構成を要素とする本件訂正発明1の課題(発光光度及び発光効率の低下や することができるもので あって,当該ガーネット構造のものを採用することにより,「セリウムで付活されたガーネット系蛍光体」との構成を要素とする本件訂正発明1の課題(発光光度及び発光効率の低下や色ずれという技術的課題)を解決できると認識できるものというべきである。 ウしたがって,本件訂正発明1の「含んでなる」という構成によっては, 蛍光体1Eに含まれる構成元素の範囲は何ら限定されないとの理解を前提とする被告らの上記主張は,その前提を欠くものであって,理由がなく,その他,被告らは縷々主張するが,上記説示を左右するに足りる事情があるとは認められない。 以上によれば,「セリウムで付活されたガーネット系蛍光体」(構成要 件1E)に関し,特許請求の範囲に記載された発明(本件訂正発明1)は,発明の詳細な説明(本件明細書1)に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ,この点のサポート要件違反もないというべきである。 (本件訂正発明1は明確性を欠き無効にされるべきものか)について 前記で判示したとおり,構成要件1Eは,蛍光体1Eが,構成元素として,少なくとも「Y及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素」と「Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素」を含んでいることを必要とするものであって,その他の元素を含むことを排除していないと解されるところ,被告らは,蛍光体1Eを構成する元素の範囲が限定されな いことをもって,明確性要件違反の無効理由(特許法123条1項4号)があ - 50 -る旨主張する。 しかしながら,前記4(2)に説示したとおり,本件明細書1の記載に接した当業者においては,その他の元素として許容し 件違反の無効理由(特許法123条1項4号)があ - 50 -る旨主張する。 しかしながら,前記4(2)に説示したとおり,本件明細書1の記載に接した当業者においては,その他の元素として許容し得る置き換えがされたガーネット構造のものを,それ以外の構造のものと容易に区別することができるものであって,当該ガーネット構造のものを採用することにより,「セリウム で付活されたガーネット系蛍光体」との構成を要素とする本件訂正発明1の課題(発光光度及び発光効率の低下や色ずれという技術的課題)を解決できると認識できるものというべきであるから,本件訂正発明1の構成要件1Eにおいて,蛍光体1Eが,構成元素として,少なくとも「Y及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素」と「Al及びGaからなる群から 選ばれる少なくとも1つの元素」を含んでいることを必要とするとの文言につき,請求項の記載として「特許を受けようとする発明」が不明確であるとはいえず,特許法36条6項2号に適合しないものとはいえない。 したがって,本件訂正発明1において,同号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたとする明確性要件違反の無効理由(同法1 23条1項4号)があるとはいえないから,被告らの主張は,採用することができない。 6 争点(本件訂正発明1は新規性を欠き無効にされるべきものか)について分割要件違反を理由とするもの被告らは,本件訂正発明1がLEDチップの光と蛍光体1E以外の蛍光体 の光との混色による白色光を含むものであることを前提として,本件出願1が,分割出願の要件を満たしていない旨主張する。しかしながら,前記2で判示したとおり,本件訂正発明1は,LEDチップからの光と蛍光体1Eからの光との混色により白色系を発光する 前提として,本件出願1が,分割出願の要件を満たしていない旨主張する。しかしながら,前記2で判示したとおり,本件訂正発明1は,LEDチップからの光と蛍光体1Eからの光との混色により白色系を発光する構成を,その必須の前提とするものというべきであるから,被告らの上記主張は,そもそもその前提を欠くもの であって,理由がないというべきである。 - 51 -乙33文献に基づくものア被告らは,乙33文献が,本件出願1の最先優先日である平成8年(1996年)7月29日より前に頒布された刊行物である旨主張するところ,証拠(乙33)及び弁論の全趣旨によれば,乙33文献は,GaN青色チップとイットリウム・アルミン酸塩を混合したエポキシ又はシリコンとに よって白色を生じるLEDに関する両面からなるチラシであって,表題として,一方の面には「白色ニュース(COB技術)02/1995」,もう一方の面には「白色ニュース(LED技術)02/1995」と記載されたものであることが認められる。 イしかして,WME社のA氏作成名義の1995年(平成7年)4月26 日付けの書簡には,A氏がパウエル・エレクトロニクスインクのB氏に対して,情報データシートの「白色ニュース02/1995」をアメリカ合衆国内で同社の顧客に配布することを求め,そのために250部を送付する旨が記載されており,WME社の新製品を「白色LED」及び「COB技術」と表現している箇所があること(乙34),ドイツ連邦共和国に おける原告の特許権の効力が争われた特許無効に係る訴訟(連邦特許裁判所事件整理番号2Ni11/12)に証人として出廷したA氏は,上記書簡には,GaNチップに関する記述がある1995年(平成7年)2月の「白色ニュース」が添付されていた旨証言している 訟(連邦特許裁判所事件整理番号2Ni11/12)に証人として出廷したA氏は,上記書簡には,GaNチップに関する記述がある1995年(平成7年)2月の「白色ニュース」が添付されていた旨証言していること(甲31,乙39)がそれぞれ認められる。 しかし,上記書簡で言及されている「白色ニュース02/1995」と乙33文献とが同一の書面であった場合であっても,上記認定のとおり,上記書簡は「白色ニュース02/1995」をアメリカ合衆国内で配布することを求めるものであるにとどまり,その後の事実経過についてはこれを具体的に明らかにする客観的な証跡が存しないものであって,WME社 とは他の主体であるパウエル・エレクトロニクスインクのB氏らが,現 - 52 -実に,「白色ニュース02/1995」の250部を受領したことや,これをA氏の求めのとおりに,アメリカ合衆国内で同社の顧客に実際に配布したことを的確に認めるに足りる証拠はない。 また,証拠(乙37)によれば,A氏作成名義の1995年(平成7年)9月28日付けの書簡には,A氏がブローゼ社のC氏に対してCOB 技術による白色発光モジュールについての応用技術に関する付属書類として1995年(平成7年)2月付けリーフレットを添付する旨が記載されていること(乙37)が認められるが,上記記載のみから直ちに上記リーフレットと乙33文献とが同一の書面であるとは認められず,他に両者が同一の書面であると認めるに足りる証拠もない。そして,その他,乙33 文献が遅くとも本件出願1の最先優先日である平成8年(1996年)7月29日までに頒布されたことを的確に認めるに足りる証拠はない。 ウ以上によれば,乙33文献は本件特許権1の最先優先日である平成8年(1996年)7月29日より前に頒 ある平成8年(1996年)7月29日までに頒布されたことを的確に認めるに足りる証拠はない。 ウ以上によれば,乙33文献は本件特許権1の最先優先日である平成8年(1996年)7月29日より前に頒布された刊行物であるとは認められないから,乙33文献に基づき本件訂正発明1の新規性欠如をいう被告ら の上記主張は,理由がないことに帰する。 (本件訂正発明1は進歩性を欠き無効にされるべきものか)について乙10公報に基づくものア証拠(乙10)及び弁論の全趣旨によれば,乙10公報には,「発光素子は発光層がGaAlNからなる窒化ガリウム系化合物半導体であり,発 光層の発光ピークが430nm付近である発光素子と発光素子が発光した光によって励起されてこれにより長波長光を発光する蛍光染料又は蛍光顔料を含む発光ダイオード」との発明(乙10発明)が開示されていることが認められ,これを本件訂正発明1の構成要件に対応するように分説すると,次のとおりとなる。 1B’前記発光素子は,発光層がGaAlNからなる窒化ガリウム系化合 - 53 -物半導体であり,1C’発光層の発光ピークが430nm付近である発光素子と1D’発光素子が発光した光によって励起されてこれより長波長光を発光する1E’蛍光染料または蛍光顔料を含む 1F’発光ダイオード。 イこれに対し,被告らは,乙10公報の段落【0001】,【0003】及び【0009】には,乙10発明の発光ダイオードが「発光素子からの光及び蛍光体からの光で白色発光可能な発光ダイオードであること」(1A’)も開示されている旨主張する。 そこで検討するに,証拠(乙10)によれば,乙10公報の【産業上の利用分野】の欄には,乙10発明は「発光素子を樹脂モールドで包 イオードであること」(1A’)も開示されている旨主張する。 そこで検討するに,証拠(乙10)によれば,乙10公報の【産業上の利用分野】の欄には,乙10発明は「発光素子を樹脂モールドで包囲してなる発光ダイオード(以下LEDという)に係り,特に一種類の発光素子で多種類の発光ができ,さらに高輝度な波長変換発光ダイオードに関する」(段落【0001】)ものであると説明されていること,同 【従来の技術】の欄には,「通常,樹脂モールド4は,発光素子の発光を空気中に効率よく放出する目的で,屈折率が高く,かつ透明度の高い樹脂が選択されるが,他に,その発光素子の発光色を変換する目的で,あるいは色を補正する目的で,その樹脂モールド4の中に着色剤として無機顔料,または有機顔料が混入される場合がある。例えば,GaPの 半導体材料を有する緑色発光素子の樹脂モールド中に,赤色顔料を添加すれば発光色は白色とすることができる」(段落【0003】)ことが挙げられていること,同【発明が解決しようとする課題】の欄には,「樹脂モールドに,波長を変換できるほどの非発光物質である着色剤を添加すると,LEDそのもの自体の輝度が大きく低下してしまう」(段 落【0004】)ことが挙げられていること,同【課題を解決するため - 54 -の手段】の欄には,乙10発明は「前記樹脂モールド中に,前記窒化ガリウム系化合物半導体の発光により励起されて蛍光を発する蛍光染料,または蛍光顔料が添加されてなることを特徴とするLEDである」(段落【0007】)と説明されていること,同【発明の効果】の欄には,「蛍光染料,蛍光顔料は,一般に短波長の光によって励起され,励起波 長よりも長波長を発光する。(中略)したがって,青色LEDの色補正はいうにおよばず,蛍光染料, こと,同【発明の効果】の欄には,「蛍光染料,蛍光顔料は,一般に短波長の光によって励起され,励起波 長よりも長波長を発光する。(中略)したがって,青色LEDの色補正はいうにおよばず,蛍光染料,蛍光顔料の種類によって数々の波長の光を変換することができる」(段落【0009】)と説明されていることがそれぞれ認められる。 これらの記載によれば,乙10発明は「一種類の発光素子で多種類の 発光ができ,さらに高輝度な波長変換発光ダイオード」(段落【0001】)の分野に関するものであって,従来の技術として,「GaPの半導体材料を有する緑色発光素子の樹脂モールド中に,赤色顔料を添加すれば発光色は白色とすることができる」(段落【0003】)ことが開示されているといえるものの,同段落の記載を慎重に精査すると,この 発光色は,被告らが主張するような「発光素子からの光及び蛍光体からの光」,すなわち,2つの光の混色により得られるものではなく,着色剤として樹脂モールド中に添加された顔料によって発光素子の発光色が変換ないし補正されたものであると認められる。また,乙10発明に係る発光ダイオードは,従来,着色剤として添加されていた非発光物質を 発光素子の発光により励起されて蛍光を発する蛍光染料や蛍光顔料に変更したものであり(段落【0004】,【0007】),それにより,「蛍光染料,蛍光顔料の種類によって数々の波長の光を変換することができる」(段落【0009】)ようになったことが認められるものの,この発光ダイオードによる発光色も,発光素子からの光と発光素子から の光により励起された蛍光染料や蛍光顔料が発した光との混色により得 - 55 -られるものであるか明らかではない。 したがって,乙10公報に,乙10発明の発光ダイオードが「 素子から の光により励起された蛍光染料や蛍光顔料が発した光との混色により得 - 55 -られるものであるか明らかではない。 したがって,乙10公報に,乙10発明の発光ダイオードが「発光素子からの光及び蛍光体からの光で白色発光可能な発光ダイオードであること」(1A’)が開示されているとは認められない。 ウそうすると,前記2で判示したとおり,本件訂正発明1においては,発 光ダイオードの発光する「白色系」は,LEDチップからの光とその光を吸収したガーネット系蛍光体が発する光との混色により発光されたものであるのに対し,乙10発明には,かかる技術事項が開示されていない点において,両者は相違することになる。 しかして,被告らは,かかる相違点について容易想到であることを主張 立証していないものであるところ,前記2発明1は,発光光度及び発光効率の低下や色ずれという技術的課題を解決するため,発光素子からの光とその光を吸収したガーネット系蛍光体からの光との混色により白色系の光を発光する発光ダイオードという構成を採用することにより,上記課題を解決した点に,従来技術と異なる技術的思 想の特徴的部分があるものと認められるものであることに照らせば,「発光素子からの光及び蛍光体からの光で白色発光可能な発光ダイオードであること」(1A’)という相違点における相違の程度(本件訂正発明1と乙10発明との技術的な離隔の程度)は,相当程度に大きいものであるということができる。そして,本件全証拠を精査しても,当業者において, かかる相違点が容易に想到できるものであることをうかがわせる証拠は見当たらない。 エ以上によれば,乙10公報に基づき本件訂正発明1が進歩性を欠如する旨の被告らの主張は理由がない。 乙33文献に基づくもの が容易に想到できるものであることをうかがわせる証拠は見当たらない。 エ以上によれば,乙10公報に基づき本件訂正発明1が進歩性を欠如する旨の被告らの主張は理由がない。 乙33文献に基づくもの 前記6で説示したとおり,乙33文献は本件特許権1の最先優先日で - 56 -ある平成8年(1996年)7月29日より前に頒布された刊行物であるとは認められないから,乙33文献に基づき本件訂正発明1の進歩性欠如をいう被告らの上記主張もまた,理由がないことに帰する。 8 争点(原告の損害の額)について 本件特許権1の侵害による損害額の算定をすることについて 以上によれば,被告LEDは,本件訂正発明1の特許に係る特許請求の範囲の記載文言を充足し,その特許発明の技術的範囲に属するものであり,また,本件訂正発明1の特許には,無効理由があり特許無効審判により無効にされるべきものであるとはいえず,特許法104条の3第1項の規定により原告が被告に対し本件特許権1を行使することができないとはいえないから, 被告らの輸入販売等の行為は,本件特許権1を侵害するものというべきこととなる。 しかして,前記第2のとおり,原告は,特許第5177317号(本件特許権1)に基づく請求と,同第5610056号(本件特許権2)に基づく請求をするところ,両請求の関係は,選択的併合の関係にあるものと解され る。そして,原告は,いずれの請求についても,損害額として,特許法102条2項により算定される損害額,弁護士費用相当額及びこれらに対する遅延損害金を主張するものであるから,仮に本件特許権2の侵害が認められる場合であっても,本件特許権1の侵害により算定される損害額と,本件特許権2の侵害により算定される損害額とは,同一の額となるとい 遅延損害金を主張するものであるから,仮に本件特許権2の侵害が認められる場合であっても,本件特許権1の侵害により算定される損害額と,本件特許権2の侵害により算定される損害額とは,同一の額となるというべきである。 そうすると,本件特許権1の侵害による損害額の算定を行ったものが,原告の請求の一部認容となる場合も,上記損害額が,仮に被告らの輸入販売等の行為が本件特許権2を侵害するものであった場合の同侵害による損害額を下回るものとは認められないものと考えられるから,本件特許権2の侵害や損害額について判断するまでもなく,本件特許権1の侵害による損害額を, 原告の被った損害としてそのまま認容すべきこととなる。 - 57 -そこで,原告の損害額として,本件特許権1の侵害による損害額について検討する。 特許法102条2項により算定される損害額ア前記,被告LEDは被告製品に搭載されて販売されたものであるところ,被告LEDの主な用途は写真撮影時のフラッ シュライトであるが,被告らが販売している被告製品以外の機種にはかかるフラッシュライトの性能を特長にしたスマートフォンもあること(甲5),被告製品はデザインを重視し,機能をシンプルなものにした製品として紹介・宣伝されており,被告製品の紹介や宣伝の中ではLEDライトの性能等について一切触れられておらず,被告製品の基本スペックとして もLEDライトは挙げられていないこと(甲5,6の1,7)などの各事実がそれぞれ認められる。これらによれば,被告LEDについては,被告製品の主要な特長として位置付けられているとは認められず,このような被告LEDにつき被告製品の主要部として特に強い顧客吸引力があるということは困難というべきである。 そして,前記告HTCについては な特長として位置付けられているとは認められず,このような被告LEDにつき被告製品の主要部として特に強い顧客吸引力があるということは困難というべきである。 そして,前記告HTCについては●(省略)●円,被告兼松については●(省略)●円であるところ,被告製品の市場想定価格は●(省略)●円(税別)であること(甲7),被告製品自体の製造コストは明らかでないものの,被告製品が発売された平成27年10月時点で既に販売されていた他のメーカー のスマートフォンについては,利益率は60%前後であるとされていること(乙52),他方,HTC台湾に被告製品を納入したメーカーが被告LEDを仕入れた価格は1個●(省略)●米ドルであったこと(乙47)がそれぞれ認められる。 これらの事実からすれば,被告製品の製造コストは約●(省略)●円 (≒●(省略)●円×〔1-0.6〕)となり,これを被告製品が発売さ - 58 -れた平成27年10月の平均の為替レート120.16円/米ドルで換算すると,約●(省略)●米ドル(≒●(省略)●円÷120.16円/米ドル)となるから,被告製品の製造コストに占める被告LEDの仕入価格の割合は,約●(省略)●%(≒●(省略)●×100)となる。なお,証拠(甲50)によると,50種類の単色LEDが1個約700円ないし 900円でインターネット販売されていることが認められるが,これらの単色LEDは,砲弾型のものや複数のLEDチップが実装されたものであるなど,被告LEDと同じ構成のものであるか明らかでないから,損害額を算定するに当たって事情として考慮するのは相当とはいえない。 以上を総合すれば,被告LEDの販売による利益額は,被告HTCにつ いては●(省略)●円(≒●(省略)●円×0.25%),被告兼松 を算定するに当たって事情として考慮するのは相当とはいえない。 以上を総合すれば,被告LEDの販売による利益額は,被告HTCにつ いては●(省略)●円(≒●(省略)●円×0.25%),被告兼松については●(省略)●円(≒●(省略)●円×0.25%)と認めるのが相当である。 イこれに対し,原告は,被告製品1台当たりにおける被告LEDによる利益額は100円を下回らない旨主張する。 しかしながら,前記被告製品の販売による利益額は,被告HTCについては1台当たり約●(省略)●円(≒●(省略)●円÷●(省略)●台),被告兼松については1台当たり約●(省略)●円(≒●(省略)●円÷●(省略)●台)となるところ,被告LEDによる利益額を1台当たり100円とすれば,その割合は,前者との関係では約 ●(省略)●%,後者との関係では約●(省略)●%となるのであって,上記アに説示した被告製品における被告LEDの位置付けや顧客誘引力に照らすと,いずれの割合も相当とは認め難いから,原告の上記主張は採用できない。 ウ以上によれば,被告HTCに対する特許法102条2項による損害金の 額は,●(省略)●円と,被告兼松に対する特許法102条2項による損 - 59 -害金の額は,●(省略)●円とそれぞれ認められる。 なお,前記●(省略)●台の被告製品を,被告兼松以外の第三者に対しては●(省略)●台の被告製品をそれぞれ販売していることから,上記損害金のうち,被告兼松に販売した分としては●(省略)●円(≒●(省略)●円×● (省略)●台/●(省略)●台),被告兼松以外の第三者に販売した分としては●(省略)●円(≒●(省略)●円×●(省略)●台/●(省略)●台)であるとそれぞれ認められる。 弁護士費用本件事案の性質や内 ●台/●(省略)●台),被告兼松以外の第三者に販売した分としては●(省略)●円(≒●(省略)●円×●(省略)●台/●(省略)●台)であるとそれぞれ認められる。 弁護士費用本件事案の性質や内容,本件訴訟の審理経過など,本件に顕れた一切の諸 般の事情を総合すると,被告らの上記侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は,被告HTCに対し15万円(ただし,被告HTCが被告製品を被告兼松に販売した分につき10万円,被告兼松以外の第三者に販売した分につき5万円),被告兼松に対し10万円と認めるのが相当である。 9 結論 その他,当事者双方は縷々主張するが,その主張内容を慎重に検討しても,上記説示を左右するに足りるものはない。 以上によれば,原告の本件各請求は,その余の点について判断するまでもなく,被告HTCに対し,●(省略)●円及びうち●(省略)●円に対する不法 行為後の日である平成28年10月26日から,うち●(省略)●円に対する不法行為後の日である平成30年9月28日から,各支払済みまでそれぞれ民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,また,被告兼松に対し,●(省略)●円及びこれに対する不法行為後の日である平成28年10月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅 延損害金の支払を, - 60 -それぞれ求める限度で理由があり,その余は理由がないこととなる。 よって,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官田中孝一 裁判官横山真通 裁判官本井修平 別紙特許公報省略 裁判官横山真通 裁判官本井修平 別紙特許公報省略

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