平成19(ワ)21941等 地位確認等請求事件(通称 椿本マシナリー懲戒解雇)

裁判年月日・裁判所
平成21年4月24日 東京地方裁判所
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判決文本文31,578 文字)

- 1 -主文 原告が被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。 原告の賃金請求にかかる訴えのうち,本判決確定の日の翌日分以降の給与の支払を求める部分を却下する。 被告は,原告に対し,金150万円及び平成19年5月25日から本判決確定の日まで毎月25日限り金50万円の割合による金員を支払え。 訴訟費用は被告の負担とする。 この判決は第3項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1請求 原告が被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。 被告は,原告に対し,金150万円及び平成19年5月25日から毎月25日限り金50万円の割合による金員を支払え。 訴訟費用は被告の負担とする。 第2項につき,仮執行宣言第2事案の概要 事案の要旨原告は,被告の東京支店支店長であり,取締役も兼任していたところ,被告は,原告の平成18年12月2日の慰安旅行における宴会(懇親会)におけるセクシャルハラスメント,日常的なセクシャルハラスメント(以下。単に「セクハラ」ともいう。)等を理由として,平成18年12月26日,原告について,取締役を解任し,続いて同月28日,懲戒解雇した(以下,この懲戒解雇を「本件懲戒解雇」という。)。 しかるところ,原告は,本件懲戒解雇は,重きに失する上,その手続等も不十分なものであって,無効であるなどとして,原告の労働契約上の権利を有す- 2 -る地位の確認と未払給与(バックペイ)の支払いを求めた事案である。 なお,本件訴訟に先行する労働審判手続において,「1相手方(被告)は,申立人(原告)に対する平成18年12月28日付け懲戒解雇を撤回し,同日付をもって申立人(原告)を諭旨解雇する。 申立人(原告)と相手方は,申立人が平成18年12月28日付 「1相手方(被告)は,申立人(原告)に対する平成18年12月28日付け懲戒解雇を撤回し,同日付をもって申立人(原告)を諭旨解雇する。 申立人(原告)と相手方は,申立人が平成18年12月28日付け諭旨解雇により相手方(被告)を退職したことを相互に確認する。」旨の審判がされたが,原・被告双方が,前記審判に異議を申し立てたものである。 前提事実(以下の事実は,当事者間に争いがないか,掲記する証拠によって容易に認定できる事実である。)( )当事者 ア原告(ア)原告は,昭和49年4月1日,被告の親会社である株式会社α(以下「α」という。)に入社し,その後,平成12年9月30日付けで同社を退職して,平成12年10月1日に,被告に転籍するとともに,被告東京支店支店長に就任した。原告は,その後,平成15年6月26日,被告の取締役に就任した。 なお,原告は,αから子会社である被告に転籍する際,退職金2179万5303円を受領して,平成12年10月1日に被告に入社し,平成15年6月26日に,被告の取締役になる際にも,退職金134万円を受領している。 (イ)原告の被告の従業員としての賃金は,月額50万円で,毎月15日締めの25日払いであった。 イ被告(ア)被告は,大阪府東大阪市に本店を有し,各種電動機器・装置及び部品の販売等を業とする資本金1億3900万円,従業員約140人の株- 3 -式会社である。 そして,被告は,東京支店,名古屋支店,大阪支店及び岡山支店の4か所の支店を有しているところ,東京支店(支店長・原告。企画総務担当・P1係長)には,その下部組織として,東京営業所(平成18年10月当時の従業員21人。以下,()内に同時期の従業員数を示す。),仙台営業所(4人),松本営業所(4人),南関東営業所(4人),静岡営 1係長)には,その下部組織として,東京営業所(平成18年10月当時の従業員21人。以下,()内に同時期の従業員数を示す。),仙台営業所(4人),松本営業所(4人),南関東営業所(4人),静岡営業所(5人)及び新潟サテライト(1人)があった(乙30)。 (イ)被告は,αの子会社の一つであり,αは,被告の株式の約68パーセントを保有している(乙46)。 ( )平成18年12月2日の慰安旅行における宴会(懇親会) ア被告東京支社では,その傘下の営業所も含めた全従業員を対象とする観光バスによる慰安旅行会が,平成18年12月2日及び3日の1泊2日で実施され,12月2日の午後6時半ころから,宿泊先の群馬県吾妻郡<以下略>の「βホテル」で,宴会(以下「本件宴会」という。)が実施された。 東京支店傘下の全従業員が参加する慰安旅行は,3年ぶりのものであり,東京支店傘下の従業員のうち,38名と原告及び本部長兼取締役のP2の合計40名が参加した。 イ上記40名が参加した本件宴会の会場となったβホテルの宴会場には,舞台も設けられた一定の広さのある部屋であり,ここに,細長いテーブルが3列で設置され,その両側に,参加者は,6,7名ずつ椅子に座った。 ( )本件宴会における原告の問題行動 以下の事実は,原告が自認する言動である。 ア東京営業所主任・P3(以下「P3」という。)に対するもの原告は,宴会場の出入口から最も近いテーブルの,舞台に近い席(一番- 4 -端の席)に腰掛けており,本件宴会の当初,談笑しながら,隣席のP3の指を触ったり,手を握ったり,肩を抱いたりした。 ※仙台営業所P4所長が,スナップ写真を撮影する際,P3の肩を抱くなどした。 イ仙台営業所・P5(以下「P5」という。)に対するもの原告は,前記のとおり,テーブルの一番端に座 肩を抱いたりした。 ※仙台営業所P4所長が,スナップ写真を撮影する際,P3の肩を抱くなどした。 イ仙台営業所・P5(以下「P5」という。)に対するもの原告は,前記のとおり,テーブルの一番端に座っており,付近に空いている席はなかった。しかるところ,P5(平成18年に仙台営業所に入所した新人)が,東京支店長である原告に,挨拶として,酌をしに来たのに対して,原告の膝にとにかく座ってくれと申し向けた。 ジーパンをはいていたP5は,浴衣を着ていた原告の片膝に触れるか触れないかの中腰の姿勢を取って,ビールを注いだ。その際,原告は,P5に対して「子どもができるわけではない」旨を述べた。 ウ東京営業所・P6(以下「P6」」という。)に対するもの本件宴会の終盤,トイレに行くため中座した原告は,宴会場に戻って,宴会場の出入口から,最も遠い別のテーブルの椅子席に座り,他の若い男性従業員らと談笑していた原告は,その付近を通りかかったP6を呼び止めて,前に座らせ,少なくとも,次の発言をした。 「最近綺麗になったが,恋をしてるんか」「胸が大きいね,何カップかな,胸が大きいことはいいことやろ」「男性が女性を抱きたいと思うように,女性も男性に抱かれたい時があるやろ」( )原告の日常における女性従業員に対する問題言動 以下の事実は、原告が自認するものである。 ア東京支店企画総務担当係長・P1(以下「P1係長」という。)に対するもの(ア)原告は,一度だけ,原告の秘書的役割をしていたP1係長のお尻を- 5 -ポーンとたたいたことがある。 (イ)原告は,平成18年に,2,3回程度,食事会でP1係長の隣に座ったとき,手を握ったり,肩に手を回したことがある。 (ウ)原告は,平成18年秋ころ,うどん屋で食事の際にP1係長の椅子に手を置いたこと,これに対して, 年に,2,3回程度,食事会でP1係長の隣に座ったとき,手を握ったり,肩に手を回したことがある。 (ウ)原告は,平成18年秋ころ,うどん屋で食事の際にP1係長の椅子に手を置いたこと,これに対して,同係長が原告の手を避けるようにし,原告に注意したことがある。 (エ)原告は,同年10月ころ,出張の際,P1係長をカラオケに誘い,これを同係長が断ったことがある。 (オ)原告は,P1係長に対して,「夫は単身赴任でさみしくないか」と発言したことがあり,また,出張の際,「ホテルはとれたか」と述べたことがある。 イP3に対するもの(ア)P3は,平成15年3月末から,東京支店に勤務場所が変わり,原告と同じ職場で執務していたところ,原告は,宴会等で,P3の隣に座った際,同女の手に,1,2度,軽く触れたことがある。 (イ)原告は,P3に対して,「まだ結婚しないのか」「俺のことをどう思う」と発言したことがある。 (ウ)原告は,P3に対して,仕事中に「今日の夜,時間空いているか」と尋ねたこと(食事に誘ったこと)があり,また,P3と2人で1度食事をしたことがある(原告は,食事に誘ったのは,P3の同僚についての相談があったためであると主張している)。 ( )γグループにおける倫理,コンプライアンスの取り組み アαは,平成14年11月20日,コンプライアンスを重視して,倫理綱領を制定し,同時に倫理ヘルプライン制度(相談窓口)を創設した。 そして,αは,倫理綱領制定と同時に,「δミッション・ステートメント&倫理綱領/倫理心得」と題する小冊子をグループ会社の全従業員に配- 6 -布し,「ε」と題するグループ会社全従業員に配布される月刊誌にも大きく紙幅をさき,倫理綱領について周知徹底を図った。 イそして,平成15年以降は,全グループ会社において,αの倫理 員に配- 6 -布し,「ε」と題するグループ会社全従業員に配布される月刊誌にも大きく紙幅をさき,倫理綱領について周知徹底を図った。 イそして,平成15年以降は,全グループ会社において,αの倫理担当者が,倫理研修を実施し,その回数は,全グループ会社合計で30回以上となっている。 被告においても,平成16年3月18日,大阪府門真市にあるζ(研修施設)において,原告も参加した倫理研修がされ,その中で,セクハラに関する講義も実施されており,そのほか,原告は,平成16年6月22日,平成17年12月7日に実施された倫理研修のうち,少なくとも,1回は参加している。 また,γグループでは,平成18年2月は,企業倫理強化月間とし,倫理に関するアンケートの実施及びセクハラ危険度チェックシートなどを配布したり,倫理意識を高めるための工夫をしており,同様に,平成19年2月も企業倫理強化月間とされた。 ( )セクハラによる他の懲戒事例 αグループでの倫理綱領制定から本件懲戒解雇までのセクハラによる懲戒事例の概要は,次のとおりである。そして,各懲戒事例の概要については,原告を含むグループ会社の幹部にもメール送信して情報提供され,再発防止に役立てるようにされていた。 懲戒処分の日会社名処分の内容事案①平成15年1η係長1名,一般職2名に従業員数名による月6日対しそれぞれ譴責及び減同一職場内の一女給1か月性に対するセクハラ- 7 -②平成16年6α部長に対し論旨解雇,退部長による派遣の月15日職金30%減額女性1名に対するセクハラ行為③平成17年1α降格(課長から係長へ)派遣社員に対する0月26日セクハラ③平成17年1被告係長に対し10日間の出歓迎会でのセクハ1月14日勤停止ラ発言④平成18年3α論旨解雇,退職金 平成17年1α降格(課長から係長へ)派遣社員に対する0月26日セクハラ③平成17年1被告係長に対し10日間の出歓迎会でのセクハ1月14日勤停止ラ発言④平成18年3α論旨解雇,退職金30%参与(部長と同月31日減額格)の海外出張中におけるカラオケ店でのセクハラ行為( )被告の就業規則(乙40。平成18年6月1日改定)の内容 被告の就業規則には,懲戒等について,次のとおり定めている。 ア懲戒の種類(50条)懲戒は,譴責,減給,出勤停止,降格,諭旨解雇及び懲戒解雇の6種類とする。 そして,最も重い懲戒である懲戒解雇は「行政官庁の認定を得て,予告- 8 -期間を設けず,かつ予告手当て及び退職金を支給しないで即時解雇する。」とされている。 イ譴責,減給事由(51条)従業員が下記各号の一に該当したときは,譴責または減給の懲戒を行う。いずれとするかは,故意過失の程度,情状,会社の被った損害の大きさなどにより判断する。ただし,悪質な場合は出勤停止とすることができる。 (途中省略)7号職場において,セクシャルハラスメントにあたる言動をした者ウ懲戒解雇事由(53条)従業員が下記各号の一に該当したときは,諭旨解雇または懲戒解雇の懲戒を行う。いずれとするかは,故意過失の程度,情状,会社の被った損害の大きさなどにより判断する。ただし,情状酌量して降格にとどめる場合がある。 (途中省略)6号職務,職位を悪用したセクシャルハラスメントにあたる行為をした者18号その他全各号と同等の行為を行った者エ懲戒委員会55条 懲戒処分が予見されるような場合は,倫理委員会を招集して,審議を行う。 社長は倫理委員会事務局より報告を受けた後,直ちに以下に定める倫理委員会を招集し問題解決にあたる。 倫理委員会①次の通り 懲戒処分が予見されるような場合は,倫理委員会を招集して,審議を行う。 社長は倫理委員会事務局より報告を受けた後,直ちに以下に定める倫理委員会を招集し問題解決にあたる。 倫理委員会①次の通り倫理委員会を設置し,下記のメンバーで構成する。 委員長社長- 9 -常任委員常勤取締役事務局総務部長②委員長は,必要に応じて関係者及び従業員代表へ出席を求めることができる。 ③倫理委員会は,再発防止策,懲戒処分を決定する。 委員会は懲戒すべき事実について,必要に応じ本人や関係者の意見を聞きながら公正に審議し懲戒処分を決定する。 委員会は非公開を原則とする。 ( )本件懲戒解雇に至る経緯・手続(この経緯・手続等については,基本的 に争いがないが,議事録等の書証は,便宜のため掲記する。)ア倫理担当者の聴取り等βホテルでの本件宴会の2日後である平成18年12月4日,原告の本件宴会でのセクハラ行為について,αの前記ヘルプラインに通報があり,αの倫理担当者であるP7(秘書室長兼法務・総務部長。以下「P7部長」という。)及びP8(法務・総務部法務課長。以下「P8課長」という。)は,同月14日,東京において,P9(東京営業部副長),P10(東京営業部)及びP11(南関東営業所)から,同月18日は仙台において,仙台営業所のP5及びP12から,直接,聴取りを行った。また,P7部長らは,これら従業員に報告書の作成を依頼し,報告書の提出を受けた(乙2ないし7)。 イ倫理担当者の原告との面談P7部長及びP8課長は,平成18年12月21日,αの本社(大阪市<以下略>)において,原告と約1時間半の間面談した。P7部長らは,本件宴会の件で,ヘルプラインに通報があったことを告げ,原告に対し,どのような不適切な行為を行ったのか,正直に言って欲しいこ 大阪市<以下略>)において,原告と約1時間半の間面談した。P7部長らは,本件宴会の件で,ヘルプラインに通報があったことを告げ,原告に対し,どのような不適切な行為を行ったのか,正直に言って欲しいことを伝えた。 その面談の中で,原告は,仙台の女性従業員(P5)に対し,「膝の上- 10 -に座ってもいいですよ」と言ったとか,「1回言ったら座った」とか,「私の感覚ではイヤがらずに座った」という趣旨の説明も行った。 また,P7らは,原告に対して,本件宴会以外にも,同様なセクハラ行為,パワハラ行為をしたことはないか確認したが,原告は,今は思い出せない等と述べた。 面談の最後に,P7部長は,原告に対し,よく思い出して,真摯に反省して,正直に,原告がこれまで行ったセクハラ行為やパワハラ行為のことを上申書に書くことを勧めた。 ウ原告の上申書提出原告は,α倫理委員会宛に,平成18年12月24日付けで,別紙「上申書」(乙8)を提出した。 エαにおける倫理委員会開催αの倫理委員会が,平成18年12月25日午後3時から開催された(乙41)。同委員会には,委員長のP13社長のほか,αの取締役,P14弁護士(αの顧問弁護士で,倫理ヘルプラインの社外窓口も務めている。)らの委員のほか,被告のP15非常勤取締役(以下「P15取締役」という。)もオブサーバーとして参加した。 上記倫理委員会では,原告の懲戒解雇が相当であり,取締役も解任するのが相当との決定がなされ,この結論を被告に勧告することが決定された。 これに基づき,P13倫理委員長は,同日,被告のP16代表取締役社長(以下「P16社長」という。)に口頭で勧告を行った。 続いて,上記倫理委員会にも事務局として出席していたP7部長は,同日の夜,被告のP16社長,P2取締役及びP15取締役と面談の上,上記倫理委員会 (以下「P16社長」という。)に口頭で勧告を行った。 続いて,上記倫理委員会にも事務局として出席していたP7部長は,同日の夜,被告のP16社長,P2取締役及びP15取締役と面談の上,上記倫理委員会での審議内容について説明した。 オ被告における臨時取締役会(乙22)被告会社の臨時取締役会が平成18年12月26日午後6時から,α京- 11 -田辺工場会議室で開催された。出席者は,P16社長,P2取締役,原告,P15取締役及びP17監査役である。 同取締役会では,昨日のα倫理委員会の審議概要の説明がなされ,原告から取締役解任勧告の原因となった事項について意見陳述がなされた。 その際,原告は,日常的にセクハラ,パワハラがあったことの指摘については,「P18流」のやり方(スタイル)である旨の弁明をした(乙23)。 そして,同取締役会で,原告を取締役から解任することを議案とする臨時株主総会を開催することが決議された。続いて,同日,臨時株主総会(株主全員の同意によるみなし決議の方法による)によって,原告の取締役解任が決議された。 カ被告における倫理委員会の実施(乙28)被告の倫理委員会が,平成18年12月27日午後5時20分から被告の大阪本社会議室において,開催された。出席者は,P16社長,P2取締役,P15取締役及びP19総務部長である。 同倫理委員会において,原告が取締役を解任されたことが報告された後,従業員としての懲戒について審議され,α倫理委員会と同じく,原告については,就業規則53条6項(職務,職位を悪用したセクシャルハラスメント)及び18項により,懲戒解雇が相当であるとの結論に至った。 キ原告に対する懲戒解雇(本件懲戒解雇)P2取締役は,平成18年12月28日,原告と会って,「あなたを当社就業規則第53の6項及び18項に基づき,2 により,懲戒解雇が相当であるとの結論に至った。 キ原告に対する懲戒解雇(本件懲戒解雇)P2取締役は,平成18年12月28日,原告と会って,「あなたを当社就業規則第53の6項及び18項に基づき,2006年12月28日限りで解雇しますのでその旨通知します」との内容の懲戒解雇通知書(甲3。)を手渡した。 ク退職金の不支給原告は,解雇予告手当は支給されたが,本件懲戒解雇の結果,退職金は- 12 -支給されなかった。 ( )被告が発表した本件懲戒解雇の理由(甲5。平成18年12月28日付 け)①12月の慰安旅行において,取締役東京支店長の地位を利用し,女性社員数名に対して,自分のとなりに無理やり座らせ,身体についての不適切な発言,侮辱的な発言,体の一部に触れるなどをしつこく繰り返した。 ②就任以来,日常的に女性社員の身体に触れ,また,身体についての不適切な発言,侮辱的な発言を繰り返した。 ③女性社員複数名の些細なミスや結婚を理由に半ば強制的に退職させるなどのパワハラ行為を行った。 ④自社の与信管理規定を無視し,独自判断による新規取引を強行し,会社に600万円の損害を与えた。 ⑤日常の業務において,パワハラ的発言を繰り返し,社員(幹部職を含む)を威圧し,意志の疎通を欠いたマネジメントを実行し,職場環境の悪化を招いた。 なお,被告は,本件懲戒解雇の理由として,本件訴訟においては,上記①及び②のみを主張するものである。 ()本件懲戒解雇の後の被告の取締役に対する処分(乙33) 被告のP16社長は,平成19年2月28日付けで,取締役を解任され,また,P2取締役(兼営業本部長)は,報酬月額の10パーセントを3か月減額する懲戒処分を受けたが,その理由は,以下のとおりである。 ①昨年(平成18年)12月26日付けで解任された取締役 解任され,また,P2取締役(兼営業本部長)は,報酬月額の10パーセントを3か月減額する懲戒処分を受けたが,その理由は,以下のとおりである。 ①昨年(平成18年)12月26日付けで解任された取締役東京支店長(原告)が,一連のセクハラ,パワハラ行為等により東京支店社員の著しい志気の低下を招いたことは,結果として,両取締役が取締役東京支店長(原告)に対して相互監視機能を果たしていたとは言えず,取締役の善管注意義務違反にあたる。 - 13 -②昨年(平成18年)9月15日(金)平日に自らを含む経営幹部職10名で一斉に休暇を取得し,自費ではあるがゴルフコンペを実施し,重大な経営判断を必要とする事態が発生した場合に対応できない状況(マネジメントの空白)を生じさせたこと。 争点 本件懲戒解雇の有効性とりわけ,原告に,被告の就業規則53条6号(「職務,職位を悪用したセクシャルハラスメントにあたる行為」)に該当する事由があったか,これがあったとして,本件懲戒解雇が社会通念上客観的な相当性を欠くものであるか否かが争点である。 当事者の主張の要旨【被告の主張の要旨】本件懲戒解雇は,次のとおり,実体面でも手続面も相当なものであって,有効であることは明白である。 ( )本件懲戒解雇の対象となったセクハラ行為 本件の事実関係は,次のとおりである。 ア本件宴会でのセクハラ行為(ア)P3(東京営業部)に対するセクハラ行為a本件宴会の席決めは,くじ引きによりなされたが,原告は,原告から1人置いて隣の席となったP3に対して,隣に座るよう言って,隣の椅子席に座らせた。そして,原告は,本件宴会の開始後,右手でP3の左手を握ったところ,その時間は,何十秒か位であり,何回か握り直していた。P3は嫌とは言えないし,困ったなと思った。 b仙台営業所P 椅子席に座らせた。そして,原告は,本件宴会の開始後,右手でP3の左手を握ったところ,その時間は,何十秒か位であり,何回か握り直していた。P3は嫌とは言えないし,困ったなと思った。 b仙台営業所P4所長(以下「P4所長」という。)が写真を撮る際,原告はP3の肩を抱いた。 cまた,原告は,P3に対し,次の日,θで買い物の予定が終ったら,- 14 -二人で温泉に行かないかと述べたところ,P3は,いい気持ではなかったが,ハッキリ嫌だと言っていいのか分らず,あいまいな感じで,「いや,結構です」と答えた。 (イ)P5(仙台営業所)に対するセクハラ行為aP5は,平成18年1月16日に被告の仙台営業所に入社したものであり,自分は新人であるから,本件宴会の出席者全員に挨拶をして回ろうと考え,まず,一番最初に支店長である原告に挨拶し,お酌しようと思い,本件宴会が開始してしばらく時間が経過した午後7時ころ原告の元に行った。 bすると,原告は,自分の膝に手を置き,「ここに座れ」と指示した。 P5は,原告から2,3度膝に座るよう言われ,断っていたが,原告は,しつこく「とにかく座れ」と無理矢理強要した。P5はやむを得ず膝に触れるか触れないか位の中腰の状態でお酌をした。P5はその最中,原告より「何も妊娠するわけじゃないんだぞ」と言われた。このとき原告は浴衣を着ていた。 cこのように,東京支店長である原告は,片膝を出し,P5を座らせ,お酌をさせるという異常な状況を作り出したものであって,この行為は,強制わいせつと言っても過言でない極めて悪質なセクハラ行為である。P5は,原告の膝に座るよう言われたとき,頭が真っ白になり,大きな精神的ショックを受けた。また,このときのことを思い出すたびに恐怖感を抱くようになっており,原告に,被告(会社)にいて欲しくないと 。P5は,原告の膝に座るよう言われたとき,頭が真っ白になり,大きな精神的ショックを受けた。また,このときのことを思い出すたびに恐怖感を抱くようになっており,原告に,被告(会社)にいて欲しくないと考えている。 (ウ)P6(東京営業部)に対するセクハラ行為a原告は,本件宴会の途中で,席を移った後,男性従業員のP11やP10らと歓談していた際,側を通りかかったP6を呼び止めて,付近に座らせて,次のとおり発言した。 - 15 -「最近綺麗になったが,恋してるんか?」,「私服だとイメージが変わる」,「体のラインを強調するような私服を着たらいいのに」,「しかし,おっぱい大きいな」,「女として乳が大きいのはええことやろ」,「何カップや?Fか?Gか?」,「ほんまにどれ位やねん」bそして,原告は,「わしが手で図ったるわ」と言いながら,P6の乳房に当るか当らないかの距離まで手を近づけた。 さらに,原告は,「俺とP11とP10とやったら誰を選ぶ?」,「俺は金持ってるで。」,「自分も若かったらアプローチしたんだが」,「わしもまだあそこは起つんやで」,「今やったらバイアグラもある」,「男性が女性を抱きたいと思うように,女性も男性に抱かれたい時があるやろ」等の発言を繰り返し,P6に大きな精神的ダメージを与えた。 (エ)仙台営業所のP12に対するセクハラ行為a本件宴会が,午後8時ころ,一本締めで終了した後,参加者は三々五々宴会場を出ていったが,P10及びP11は,原告にまだ残るよう言われたため,その場に残った。 P12は,本件宴会終了後,自分の席に置いたバッグを取りに行こうとして,原告の付近を通りかかったところ,呼びとめられ,原告の前の席に座ることとなった。その後,原告は,いずれも東京営業部のP20,P21及びP22の順に若手男性社員を呼び寄せ,結 グを取りに行こうとして,原告の付近を通りかかったところ,呼びとめられ,原告の前の席に座ることとなった。その後,原告は,いずれも東京営業部のP20,P21及びP22の順に若手男性社員を呼び寄せ,結局,P12は,原告も含めた男性6名に取り囲まれる形になった。 b原告は,P12に対し,「色っぽくなったなあ」「ワンピースの中のパンツが見えそうだが,俺は見えても全然かまわない」などと述べ,周りに座っていた男性従業員を指して,「この中で好みの男性は誰か言え」と強要した。P12が言葉を濁していると,原告は,「俺は金も地位もあるが俺はどうか」と発言した。P12は,これらの質問に- 16 -返事をすることができなかったが,最後には,「ノーコメントです」と言った。 そして,P12は,後記のとおり,その場を離れようと,付近にいたP9に助けを求めたが,原告は,これを許さず,そして,最終的に,この場から逃れようと席を立ったP12に対して「犯すぞ」と発言した。 このようなセクハラ行為を受けたP12は,言いようのない悔しさを覚えるとともに,ホテルの自室に戻ってから,男性に囲まれた中でのことだったため,体が震え上がるほどの恐怖心がこみ上げてきた。 (オ)P9(東京営業部副長。)に対するセクハラ行為P9(昭和57年7月入社)は,本件宴会の幹事であったため,締めの挨拶が終った後,少し遅れて宴会場を出ようとした。そのとき,宴会場の隅で,原告らに囲まれていたP12から,「P9さん。助けて下さい」と助けを求められた。P9は,P12にこちらに来るように手を振ったが,原告は振り返り,P9に対し,「ババアは関係ない。帰れ」と発言した。P9はP12をその場から連れ出したい一心で,何度も声をかけたが,その度,「ババアは帰れ」と言われたものである。 イ原告の日頃のセクハラ行為 返り,P9に対し,「ババアは関係ない。帰れ」と発言した。P9はP12をその場から連れ出したい一心で,何度も声をかけたが,その度,「ババアは帰れ」と言われたものである。 イ原告の日頃のセクハラ行為(ア)P1係長に対するセクハラ行為a原告は,食事会等の席でP1係長の隣に座ったとき,肩に手を回すなどして殊更に同人の体に触れている。これは,平成18年の1年間に限っても,3回あった。平成18年秋ころ,職場の近くのうどん屋で,原告はいつの間にか当たり前のようにP1係長の肩に手を回していた。P1係長は,気がついてすぐに原告の手を払いのけた。しかし,原告は,手を払いのけられても,あまり気にしていない様子であった。 P1係長はは決して望んでいないことなのにどうしてそんなことをするのだろうという気持ちであった。 - 17 -また,原告は,P1係長の手の上に手を置いてきたこともあった。 そういうときは,手とか指の話をしているのではないのに,そうすることが当たり前のように手を触れていた。P1係長は,そういうときはいつも手を払いのけたり,手をどけたりするのだが,払いのけないと原告はいつまでも手に触れたままにしていた。 bP1係長は,平成18年10月ころ,原告と2人で出張に行き,夜2人で食事をした後,「これからどうするんだ。カラオケに行かないか」と誘われたが,P1は「帰ってすぐ寝ます」と断ったことがあった。 cP1係長は,原告が胸の大きい女性が好みであると述べているのを何度も聞かされている。加えて,原告はそのように述べるだけに止まらず,直接,P1係長に対し「胸が小さい」ので,「好みのタイプではない」と言ったこともあった。また,P1係長は,原告から「夫は単身赴任でさみしくないか」と言われたことがある。このとき原告は,明らかに性的な意味で質問していた。 胸が小さい」ので,「好みのタイプではない」と言ったこともあった。また,P1係長は,原告から「夫は単身赴任でさみしくないか」と言われたことがある。このとき原告は,明らかに性的な意味で質問していた。P1係長は,原告は被告の取締役でもあるのだから,そのようなくだけた言い方をしてほしくないと思っていたし,東京支店の雰囲気を乱すようで嫌であった。 (イ)P3に対するセクハラ行為a原告は,宴会の席など酒が入る席でP3の隣に座ると,ほぼ毎回手を握り,時には肩に手を回すなどして同人の体に触れた。手の握り方は,ほぼ毎回同じで,P3の手を揉むように握っていた。通算すると,原告は,P3と同じ職場で勤務している5年弱の間に,8回前後,手を握っている。一例を挙げると,原告は,平成15年11月に東京支店の社員旅行でιに行った際,宴会の席で隣にいたP3の手を握った。 P3は,とても嫌な思いをしたが,原告は,支店長でありP3の上司であることから,止めるようにとは言い難く,何も言わなかった。 - 18 -bまた,P3は,原告から,次のセクハラ発言を受けた。 例えば,原告から「まだ結婚しないのか」「胸がない」とか「胸が小さい」など言われたことがあり,P3は,不快に思ったが,原告が上司であることから抗議できなかった。 さらに,P3は,原告から2人で食事に行った際に「俺のことどう思う」と言われたこともある。P3は,そのようなことを聞かれても答えようがなく,あいまいな返事をした。 cP3は,原告と隣の席になると毎回のようにセクハラ行為を受けるため,宴席で,原告の隣に座ることをだんだん避けるようになった。 なお,P3は,原告に仕事中に職場で呼ばれて,「今日の夜,時間空いているか」と聞かれ,てっきり残業だと思って,「大丈夫です」と答えたところ,「食事に行こう」と言われて, だんだん避けるようになった。 なお,P3は,原告に仕事中に職場で呼ばれて,「今日の夜,時間空いているか」と聞かれ,てっきり残業だと思って,「大丈夫です」と答えたところ,「食事に行こう」と言われて,食事に行かざるを得なかったことがある。 P3は,原告から手を握られたり,肩に手を回されたりしても,やめるように言ったことはないが,決してこれらの行為を受けいれていたものではなく,原告はP3の上司であるため今のいっとき我慢すれば終るのだからと思って,我慢していたものである。 (ウ)P9らに対するセクハラ行為についてaP9は,平成17年ころ,東京営業部の職場で,原告とすれ違うときに,原告にお尻を触られたことがある。 また,原告は,特に酒を飲むと部下の女性の手を握ったり,肩を抱いたりして,体にさわるのは当たり前であったが,P9も宴会で手を握られたり,肩を抱かれたりしたことがあり,原告に体を触られたのは,トータルで5回前後である。 P9は,原告に手を握られても,口で「やめて下さい」と言ったりはしなかったが,少し体をよけるとか動いて,それとなく触っている- 19 -のをやめさせるようにした。P9が,はっきりと「やめて下さい」と言わないのは,原告は上司だから,我慢しないといけないと思っていたからであるし,また,原告に何を言っても,どうにもならないだろうとも思っていた。 さらに,原告は,P9に,誰々はぺチャパイだ。誰々はすごい(胸が大きい)とか,会話でも性的な発言をよくしていた。 b原告は,P9以外の女性(P3が多かった)にも手を握ったり,肩に手を回したりしていたので,宴会のときは,女性が,近くに行きたがらなくなっていた。それで,原告は,自ずから女性のところへ行ったり,女性を呼んで近くに座らせていた。 cP23は,平成16年3月に被告を退職して, していたので,宴会のときは,女性が,近くに行きたがらなくなっていた。それで,原告は,自ずから女性のところへ行ったり,女性を呼んで近くに座らせていた。 cP23は,平成16年3月に被告を退職して,被告の特約店である会社に就職をした女性であるが,被告を退職する際,原告から,メールアドレスをしつこく聞かれた。また,P23が退職して1年以内の時期に原告が,その特約店の人と会議をし,その後,原告が当該特約店の人物と食事をすることになった際,P23も同席することになったが,食事中,原告はテーブルの下から手と足を伸ばし,P23の足を触った。P23は,大変驚き,すごく不愉快で,顔も見たくないとP9に話をした。取引先との食事中とは言え,原告は,被告の従業員として行動しているのであるから,特約店の女性に対し犯罪にも等しい行為をすることは決して許されない。他にも,P23はタクシーの中で手を握られたことがあるとP9に述べていた。 ( )原告のセクハラ行為の就業規則53条6号該当性とその悪質性 ア原告の前記各セクハラ行為は,いずれも,被告の取締役であり,東京支店長という地位を悪用して行われたものであって,就業規則53条6号の定める職務,職位を悪用したものであることは明白である。 すなわち,本件宴会において,P3について,まず,くじ引きで決まっ- 20 -た席順を変えさせた上,セクハラを行っているが,これは職位を悪用している。また,P5を膝の上に座らせてお酌をさせる行為は,被告における取締役かつ東京支店長の命令という形でこそ実現されたものである。さらに,P6やP12をわざわざ呼び込み,セクハラ行為をすることや,同席した他の男性従業員達による制止を不可能にしていることも同様である。 また,日頃のセクハラ行為についても,その取締役かつ支店長という極めて高 やP12をわざわざ呼び込み,セクハラ行為をすることや,同席した他の男性従業員達による制止を不可能にしていることも同様である。 また,日頃のセクハラ行為についても,その取締役かつ支店長という極めて高い地位を悪用して,女性従業員の体に触れたりしたことは明らかである。 イそして,就業規則上,懲戒解雇とするか諭旨解雇とするかは,「故意,過失の程度」,「情状」,「会社の被った損害の大きさなど」により判断されるが,以下のとおり,原告のセクハラ行為は悪質である。 (ア)まず,原告の行ったセクハラ行為は,いずれも事実を認識,認容しており,故意である。しかも,βホテルにおける本件宴会では,P3をわざわざ隣に座らせ,P6やP12をわざわざ呼び込み,セクハラ行為を行っているのであり,悪質である。原告のセクハラ行為は,酒に酔った上でのつい行きすぎた行動などでは決してなく,P3を隣に座らせたことは,本件宴会の開始のときから,セクハラをする意図があったとしか考えられない(イ)次に,原告が行ったセクハラ行為は,不特定多数人に対し行われており,セクハラの被害者には,何らの落ち度や責められるべきところがない。 さらに,原告は,東京支店においてセクハラを防止すべき立場であるにもかかわらず,日常的にこれを行い,しかも,長期かつ多数回にわたって行っている。 原告は,αの前記倫理綱領制定の趣旨,重要性をよく理解し,他のセクハラの懲戒処分事案について詳しく認識し,また,倫理研修も受けて,- 21 -「セクハラというのは,相手がどう思うかということで,自分本位ではなく相手本位というのが,今までの事例と決定的に違うところだというようなことが一番のポイント」ということを理解していたにもかかわらず,セクハラを続けていたもので,その情状は極めて悪い。 そして,被告を含むαグルー いうのが,今までの事例と決定的に違うところだというようなことが一番のポイント」ということを理解していたにもかかわらず,セクハラを続けていたもので,その情状は極めて悪い。 そして,被告を含むαグループにおいては,倫理綱領制定以降,原告に対する本件懲戒処分に至るまでの間,セクハラに関する懲戒として,厳正な態度を持って望み,処分の日から1週間以内に処分内容及び処分理由を,α及び全グループ会社の幹部職にメール送信し,受信した幹部職は,現場に置いて説明し,再発防止策をとるようになっている(前提事実( )参照)。原告は,被告の取締役兼東京支店支店長であったから, かかるメールは全て受信し,αグループのセクハラに対する厳しい姿勢を熟知していたにもかかわらず,飲食等の席でセクハラを繰り返していたものである。 (ウ)被告が被った損害などの面も極めて大きい。 原告の本件宴会でのセクハラ行為か,被告東京支店に与えた影響は極めて大きい。 すなわち,少なくとも,P10,P11,P9らは,取締役で東京支店のトップである原告のセクハラ行為を訴えるにあたって,退職を覚悟せざるを得ない状況であったのであり,仙台営業所のP5やP12も,訴え出ていることが原告に分ってしまえば,会社で働き続けることは事実上不可能になる状況であった。 仮に,原告を配転することによって,東京支店から移動させたとしても,これらセクハラを訴えた5名は,退職せざるを得ない状況となるであろうし,万が一,退職しなかったとしても,今後,常に原告におびえ続け,平穏に仕事をすることはできない状態となるのであって,本件において,原告に対して,懲戒解雇をもって臨む以外の処分は考えられな- 22 -いといってよい。 また,当時のP16社長は,本件が主要な理由で取締役を解任となっており,被告取締役本部長も,報 本件において,原告に対して,懲戒解雇をもって臨む以外の処分は考えられな- 22 -いといってよい。 また,当時のP16社長は,本件が主要な理由で取締役を解任となっており,被告取締役本部長も,報酬月額の10パーセントを3か月間減額という厳しい処分を受け,被告会社に与えた混乱,損害はきわめて大きい。 ウ過去の例との均衡原告は,本件懲戒解雇が,過去の懲戒事例に比して,過酷であり,平等原則に違反するなどと主張するが,本件懲戒処分の対象となった原告のセクハラ行為は,その行為の態様,被害者の多さ,被害の深刻性等の観点からして,最も悪質かつ責任重大なものであり,決して過去の例との均衡を失するものではない。 原告は,取締役であるともに,東京支店のトップであり,誰も面と向かって批判する者がいないという立場を悪用し,長期間かつ多数の女性の部下に対し自らセクハラ行為を繰り返し,ついには,社員旅行における本件宴会での事件をおこしたのであって,これらは,被告に対する重大な背信行為であり,その責任は極めて重い。 ( )本件懲戒解雇は,懲戒権の濫用ではなく,相当なものである。 本件は,「一回の窃盗で死刑を科す」ようなものではない。懲戒は,規律違反の種類・程度その他の事情に照らして相当なものでなければならず,懲戒権は濫用されてはならないことは当然であるが,本件懲戒解雇は,上記の各事情に照らせば相当なものであり,決して濫用されたものではない。 そして,セクハラは,相手の女性の人権や尊厳を著しく傷つける重大なコンプライアンス違反であり,加害者は,断りにくい,訴えにくい状況を利用して,セクハラ行為を行うのであり,巧妙,陰湿かつ悪質である。そして,セクハラが会社内における上下関係を利用して行われるときは更に悪質な行為である。 - 23 -しかるところ,セクハラ 状況を利用して,セクハラ行為を行うのであり,巧妙,陰湿かつ悪質である。そして,セクハラが会社内における上下関係を利用して行われるときは更に悪質な行為である。 - 23 -しかるところ,セクハラの場合,同じ言動でも,相手方女性の受け取り方によって,セクハラになるときと,ならないときがあるし,特に職位,職務を悪用したセクハラの場合,調査をすること自体が,被害女性に更なる精神的苦痛を与えることが多い上,懲戒処分をすることによって,被害女性の就労環境がより害される恐れもある。したがって,セクハラを理由とする懲戒処分は,事実上被害女性の申出がない限りできないのが実体である。 なるほど,原告については,本件宴会の前には,被害女性からの申出はなかったが,原告が,かつてセクハラを理由に一度も懲戒処分を受けたことがないと主張するのは,それが職位,職務を悪用して巧妙,陰湿かつ悪質になされた結果というほかなく,これを理由に処分が軽減されることは不合理極まりないというべきである。 ( )本件懲戒解雇の手続面での適法性 本件懲戒解雇については,次のとおり,手続面でも全く問題はない。 原告に対しては,平成18年12月21日に,倫理担当のP7部長らがβホテルでの本件宴会でのセクハラ及び日頃のセクハラが倫理違反であることを告げて,これに対する告知・聴聞の機会を与え,さらに倫理委員会の制度,構成員等についても説明の上,その日時を明示した上で,中3日間の猶予を与えて上申書の提出の機会を与えている。加えて,12月26日には,被告の取締役会においても本件宴会及び日頃のセクハラについての原告の意見陳述の機会が与えられている。 原告は,本件懲戒解雇に至るまでの期間が短い旨主張するが,懲戒処分は結論を出せる状況になったときは,速やかに行うべきであるし,本件については,通 ラについての原告の意見陳述の機会が与えられている。 原告は,本件懲戒解雇に至るまでの期間が短い旨主張するが,懲戒処分は結論を出せる状況になったときは,速やかに行うべきであるし,本件については,通常のセクハラ事案にありがちな当事者間だけの出来事ではなく,目撃者が複数いる事案であって,最も注意すべき事実の誤認という恐れが極めて少ないため,早期の事実確認が可能な事案であった。 - 24 -また,原告は,セクハラと言っても,被害者,日時,行為内容の明示を受けてない旨主張するようであるが,セクハラが職場内での違反行為であり,報復の危険も考慮すると,予めすべての事実を伝えることには支障があるし,また,本人が本当にいつのどのことか全く見当がつかないような特段のケースは除くとしても,本件においては,原告は,すべて自身が知っていることであり,何ら弁解,防御の機会は失われていない。 【原告の主張の要旨】( )本件の事実関係 本件の事実関係は,次のとおりであり,原告に問題があり,反省すべき点があることも事実であるが,被告の主張には,実態を誇張したものや,事実と異なる虚構が含まれており,失当である(また,被害女性とされているP3,P5,P6,P12,P9,P1係長のうち,本件懲戒解雇の前に,被告の倫理担当者が事情聴取をしたのは,P9,P5及びP12の3名のみであるし,本件宴会の客観的雰囲気を知る多くの管理職等からの事情聴取をしないなど,その聴取は,不十分なものである。)。 ア本件宴会での出来事(ア)P3に対するものβホテルの宴会場で,12月2日午後6時半ころから,開始された本件宴会の当初,飲酒した原告は,隣席に座っていたP3に対して,会話の成り行きで指の太さが話題になった際,指を触ったり,「(明日)新幹線で一緒に帰ろう」などと冗談を言ったり, 半ころから,開始された本件宴会の当初,飲酒した原告は,隣席に座っていたP3に対して,会話の成り行きで指の太さが話題になった際,指を触ったり,「(明日)新幹線で一緒に帰ろう」などと冗談を言ったり,また,肩を抱いたりしたことは事実である。 しかし,P3は,本件宴会での原告の言動を批判しておらず,また,原告と一緒の写真撮影に応ずる等,両者の関係は,和やかな雰囲気であったものである。 (イ)P5に対するもの- 25 -テーブルの一番端の椅子席で,P24静岡営業所所長(以下「P24」所長という。)やP3らと歓談していた原告の下へ,仙台営業所のP5がお酌をしに来てくれた。これに対して,原告は,「せっかくお酌に来てくれたのに,片隅で席がないから俺の膝を貸してあげる」「とにかく座って注いでよ」と膝を差し出したところ,P5は,中腰の姿勢でビールを注いでくれたものであり,その際,原告は,「子供が出来るわけではない」と冗談を言ったものである。 また,P5の仙台営業所での頑張りに期待していると話をしたが,これらの一連のやり取りは,2,3分であり,原告がP5の体に触れたわけでもなく,周囲にはP24所長やP3らもおり,彼らも深刻な事態とは受け止めていなかったものである。 (ウ)P6に対するもの本件宴会の終盤に,トイレに立った原告は,宴会場に戻り,別のテーブルでP10やP22らの若手の男子従業員と飲食をしていた。そこへ通りかかったP6を呼び止めて,斜め前の席に座ってもらった上で,本件宴会の終了間際の15分から20分間,若い男性従業員らと恋愛談義や青春談義をした。その際,酒席でありがちな,男女間の機微に関わるテーマが話題に上り,原告は,グラマーであるとか,スリムであるとか,女性の身体的特徴について,論じたものであり,これは「わいわい」「がやがや」という 。その際,酒席でありがちな,男女間の機微に関わるテーマが話題に上り,原告は,グラマーであるとか,スリムであるとか,女性の身体的特徴について,論じたものであり,これは「わいわい」「がやがや」という和やかな雰囲気の中で行われたものである。 原告は,前記談笑の中で,P6に対して,「綺麗になったね。恋をしているか」「胸が大きいな」「男性が女性を抱きたいと思うように,女性も男性に抱かれたい時があるやろ」と述べた事実はあるが,全て会話の流れの中で出てきた言葉である上,同女は入社時に原告が面接を行い,社内の英会話クラスでも一緒であり,原告の人柄や物言いにも十分理解してくれる付き合いがあった。 - 26 -被告が主張する,原告が「わしもまだあそこは起つんやで」と発言したことはないし,「わしが手で計ったるわ」等とP6の体に手を伸ばすこともなかった。 (エ)P12やP9に対するセクハラ行為は存在しない。 被告が主張する本件宴会が終了後に,P12やP9に対するセクハラ行為なるものは,原告は,全く身に覚えのないことである。 原告は,本件宴会終了後に,P12が「バックがないない」と騒ぎながら,原告の席の近くの周りを行ったり来たりしていたときに,「何をやっている」と声をかけたり,宴会場出口で「バックは,ホテルの人に言っておけ」と声をかけただけである。 その後,原告は,二次会にも参加せず,ホテルの部屋で眠っていたものである。 イ日常的なセクハラについて原告が自認する行為があったことは事実であるが,原告は,それ以上の行為はしていないし,これらの行為は決して性的な意味で行ったものではない上,日常的に行われていたものでもなく,また,部下である女性を侮辱するものでもなく,原告の行為によって企業秩序が著しく破壊されたこともない。 ウ被告は,P9に対するセクハラ行為が ったものではない上,日常的に行われていたものでもなく,また,部下である女性を侮辱するものでもなく,原告の行為によって企業秩序が著しく破壊されたこともない。 ウ被告は,P9に対するセクハラ行為があった旨を主張するが,かかる事実は全くない。P9は,管理者でありながら仕事を抱え込む傾向があり,原告から再三注意もされており,また,同女は,仙台営業所に単身赴任したが,これを原告の嫌がらせと取ったようであって,両者間には精神的な軋轢があり,同女は,原告に一定の恨みを持っていたものと解される。 本件の「被害申告」は,P9の主導で行われたものであり(本件宴会での被害者とされる仙台営業所のP5やP12は,半年間,P9の指導下にあったものである。),また,P11も原告からの携帯電話の私的使用に- 27 -ついて注意を受けるなどして,原告を恨んでいる可能性が高く,これらの被害者や目撃者等の証言等にはバイアスがかかっていることに注意を払うべきである。 ( )本件懲戒解雇の相当性の欠如 本件懲戒解雇は,その実態等に照らして,「窃盗一回で,死刑を科す」ことに等しいものであり,客観的に合理性を欠き社会通念上相当として是認することができず,無効である。 原告は,これまで注意や批判を受けなかったから,セクハラ行為が容認されるべきとか,責任が軽減されると主張するものではなく,これまで,原告の言動について一度も注意を受けてこなかったのに,本件宴会での行為等を理由に,いきなり懲戒解雇という最大級の処分を下すのは重すぎる,と主張するものである。 原告に非があったとしても,まずは口頭の注意や譴責等の段階を踏んだ措置によって原告に再考を促せば十分であったはずであって,いきなり懲戒解雇とするのは,明らかに行き過ぎである(被告の就業規則53条も,情状酌量して降格にとどめる ずは口頭の注意や譴責等の段階を踏んだ措置によって原告に再考を促せば十分であったはずであって,いきなり懲戒解雇とするのは,明らかに行き過ぎである(被告の就業規則53条も,情状酌量して降格にとどめることもある旨を規定している)。 ( )本件懲戒解雇の手続違反 使用者が被用者を懲戒するについては,被用者に弁明の機会を与える等,手続的保障が要請され,被告の就業規則55条3項も,「倫理委員会は,・・・必要に応じ本人や関係者の意見を聞きながら公正に審議し懲戒処分を決定する」と定めており,とりわけ,最も重い懲戒処分である懲戒解雇については,本人の意見を必ず聞くべきであると解される。しかるに,本件懲戒解雇は,平成18年12月25日の被告の親会社の倫理委員会で確定したものであるが,原告には弁明の機会が与えられておらず,26日の被告の取締役会での弁明時間も僅か15分である。結局,原告が本件について弁明の機会を与えられたのは,12月21日のP7部長及びP8課長からの約1時間の- 28 -事情聴取のみであって,これは倫理委員会の意見聴取ではなく,就業規則で定められた意見聴取ではない。また,原告には,事前に問題とされた具体的なセクハラの内容等は告知されてもいないし,調査も不十分なまま,僅かな時間で,結論が出されている。 よって,本件では,原告に対する手続保障を欠き,就業規則55条3項に反するから,本件懲戒解雇は無効である。 ( )平等原則違反 他にセクハラで処罰された事案5件(前提事実( )参照。いずれも懲戒解 雇ではない。)のうち,原告は,次の4件については,その事案の内容を聞知しているところ,本件懲戒解雇が,その各事例と比較しても,事案と処罰の均衡を失した「平等原則」に違反したものである。すなわち,①平成15年1月6日の事案は,女性を資材 いては,その事案の内容を聞知しているところ,本件懲戒解雇が,その各事例と比較しても,事案と処罰の均衡を失した「平等原則」に違反したものである。すなわち,①平成15年1月6日の事案は,女性を資材置き場に連れ込んで,男性2人で押し倒したという,極めて悪質なものであるが,「譴責減給」とされた。 ②平成16年6月15日の事案は,部長が,派遣社員の女性をカラオケに誘い,2人きりの状態でキスをしたという事案で,これも悪質であるが,諭旨解雇である。 ③平成17年11月14日の事案は,係長が宴会の席で,女性社員数人の面前で,「俺は昔,女を強姦したことがあるんだ」と自慢げに話したという驚くべきものであるが,「10日間の出勤停止」に止まっている。 ④平成18年3月31日の事例は,会社参与が海外出張中に,重要取引先(κ)の他社の社員と詐称して,女性をカラオケ店へ誘い,店の中で体を触るという悪質なものであり,たまたまその女性がκ社員の妻であったため,大問題となったが,「諭旨解雇」にとどまっている。 ( )本件懲戒解雇を行うに当たって。原告の実績が考慮されていない。 原告は,これまで,単なる営業経験だけでなく,工場勤務の経験を持つユ- 29 -ニークなキャリアと豊富な人脈,経験で機械及び機械部品営業,マネージメントのエキスパートして,実績を上げ,東京支店を纏め,被告に貢献してきたものであるが,本件懲戒解雇は,これらの実績を何ら考慮しておらず,違法である。 第3当裁判所の判断 認定事実前提事実に加えて,証拠(甲2,5ないし7,10ないし12,乙1ないし21,29,30,36ないし39,証人P12,証人P11,証人P8,原告本人)を総合すれば,次の事実を認定することができる。 ( )本件宴会での原告の言動 ア被告の慰安旅行と本件宴会被 し21,29,30,36ないし39,証人P12,証人P11,証人P8,原告本人)を総合すれば,次の事実を認定することができる。 ( )本件宴会での原告の言動 ア被告の慰安旅行と本件宴会被告の東京支店傘下の全従業員を対象とし,被告(会社)から1人当たり1万円の補助もされる慰安旅行が,平成18年12月2日(土曜日)から翌3日(日曜日)の1泊2日で行われ,その宿泊場所は,群馬県吾妻郡<以下略>の「βホテル」であった。 この慰安旅行の参加者は,東京支店傘下の全従業員のほとんどである38名と原告(取締役兼東京支店長),P2取締役(本部長兼務)であり,参加率は,極めて高いものであった。 そして,上記40名が参加した本件宴会の会場となったβホテルの宴会場は,舞台も設けられた一定の広さのある部屋であり,ここに,細長いテーブル(当該テーブルは,向かい合って宴会の食事が出来る程度のは幅があるものであった。)が,3列で設置され,その両側に,参加者は,6,7名ずつ椅子に座った。 本件宴会の参加者の席は,くじで決められており,午後6時半ころ,東京支店長である原告の挨拶で,本件宴会は始まった。 イP3に対する原告の言動- 30 -(ア)原告は,宴会場の出入口に近いテーブルの舞台よりの一番前の,出入口に顔を向ける位置の席に座っており,P3は,くじ引きによって原告から1人置いて隣の席となったが,原告から,こちらに来るように言われて,原告の隣の席に座った。 原告の向かいの席には,P24所長(静岡営業所)が座っており,本件宴会が開始後,原告は,P3やP24所長と,飲酒をしながら懇談していたが,その際,原告は,右手でP3の左手を何回か握った。なお,原告とP3との話の中で指の太さが話題になったこともあった。原告に手を握られたP3は,困ったなと思ったが,その気 飲酒をしながら懇談していたが,その際,原告は,右手でP3の左手を何回か握った。なお,原告とP3との話の中で指の太さが話題になったこともあった。原告に手を握られたP3は,困ったなと思ったが,その気持ちを口にしたり,これを拒絶するような言動をすることはなく,懇談を続けていた。 (イ)また,途中で,仙台営業所のP4所長が,スナップ写真の撮影をしたが,その際,原告はP3の肩を抱いて,写真に収まった。 (ウ)さらに,原告は,P3に対し,翌日の慰安旅行の行先であるθでの買物の予定が終ったら,二人で温泉に行かないかとか,新幹線で一緒に帰ろうなどと冗談半分で,発言した。これに対して,P3は,いい気持ではなかったが,明確に嫌だと言っていいのか分らず,あいまいな感じで,「いや,結構です」などと答えていた。 ウP5に対する原告の言動(ア)P5は,平成18年1月16日に被告会社仙台営業所に入社した。 P5は,本件宴会当日,自分は新人であるから,宴会の出席者全員に挨拶をして回ろうと考え,まず,一番最初に支店長である原告に挨拶し,お酌しようと本件宴会が開始されてから暫くたった,午後7時ころ,原告の下に赴いた。原告は,前記のとおり,舞台に近いテーブルの角付近の椅子に座って,P24所長やP3と談笑しており,付近には,空いている椅子はなかった。 (イ)原告は,浴衣を着ていたが,酌をしに来てくれたP5に対して,自- 31 -分の膝に手を置き,P5に対して「席がないから,ここに座って注いでくれ」という趣旨のことを,2,3度,申し述べた。P5は,Gパンをはいていたが,原告の膝に座ることには抵抗があり,原告の申出に従うことは躊躇していたが,取締役支店長の申出であり,やむを得ず,原告の膝に触れるか触れないかくらいの中腰の姿勢をとって,ビールを注いだ。その際,原告は 告の膝に座ることには抵抗があり,原告の申出に従うことは躊躇していたが,取締役支店長の申出であり,やむを得ず,原告の膝に触れるか触れないかくらいの中腰の姿勢をとって,ビールを注いだ。その際,原告は,P5に対して,「何も子供が出来るわけじゃないんだぞ」という趣旨の発言をした。これらの原告の言動を,P24所長やP3らも目の前で見ていたが,特段,止めることはしなかった。 なお,原告は,P5に対して,上司として仙台営業所での頑張りに期待している旨も伝えた。これらの原告とP5との一連のやりとりは,さほど長いものではなかった。 エP6に対する原告の言動(ア)その後,本件宴会の終盤にトイレに立った原告は,本件宴会の会場に戻り,出入口から一番遠いテーブルの前の,舞台から一番離れて出入口に背を向ける位置にある椅子に腰掛けて,その付近に座っていたP11やP10ら若手男子従業員と飲食をし,四方山話をしていた。 そこへ,私服を着たP6が舞台での催し物(本件宴会の最中,新人の挨拶,カラオケ,余興等が適宜,行われていた。)に参加した後,自席に戻ろうとして,通りかかっため,原告は,同女を呼び止めて,原告の斜め前の席に座ってもらった。なお,同女は,入社時に原告が面接を行い,社内の英会話クラスでも一緒であり,原告としては,原告の人柄や物言いにも十分理解してくれる付き合いがあると,主観的には思っていた。 (イ)そして,原告は,本件宴会の終了間際の20分程度,P6や前記男性従業員らと飲食しつつ,談笑したが,その中で,休日の過ごし方等やテレビの話も話題となったが,原告は,男女間の機微に関わるテーマも- 32 -話題にした。 そして,原告は,この談笑の中で,P6に対して,「綺麗になったね。 恋をしているか」「私服だとイメージが変わる」といった発言に加えて,同女の身体,と の機微に関わるテーマも- 32 -話題にした。 そして,原告は,この談笑の中で,P6に対して,「綺麗になったね。 恋をしているか」「私服だとイメージが変わる」といった発言に加えて,同女の身体,とりわけ胸のことを取り上げて「胸が大きいな」と述べたり,そのサイズについても質問したりした。そして,原告は,同女に対して,「この中の男性陣で誰を選ぶか」とか,「原告自身も現役であり,原告もどうか」といった趣旨のことを,かなり砕けた調子で申し述べ,さらに,「男性が女性を抱きたいと思うように,女性も男性に抱かれたい時があるやろ」などとも述べた。 また,原告は,同女の胸のことを話題にした際に,同女に触れてはいないが,その胸の大きさを測るかのような動作もした。 原告が,このようなP6らとの談笑をしているうちに,午後8時ころ,本件宴会の中締めがされ,同女は,その場を離れた。 オP12及びP9に対する原告の言動(ア)前記のとおり,本件宴会は中締めがされて,参加者は三々五々部屋を出て行ったが,P10及びP11は,原告にまだ残るよう言われた為,その場に残ることになった。 その後,原告は,自分の席にあるバッグを取りに行こうと通りかかったP12を呼びとめて,テーブルを挟んだ位置にある椅子に座って貰った。更に,原告は,宴会場に残っていたP20,P21,P22の順に若手男性社員を呼び寄せたため,P12は,男性6名に取り囲まれるような形とになった。 (イ)原告は,P12に対し,話の中で,「色っぽくなったなあ」と述べ,さらにエスカレートして「ワンピースの中のパンツが見えそうだが,俺は見えても全然かまわない」などと述べたりした。 そして,原告はP12に対し,P6に対するのと同様に,周りにい- 33 -た若手男性従業員を指して,「この中で好みの男性は誰か」と質問したが が,俺は見えても全然かまわない」などと述べたりした。 そして,原告はP12に対し,P6に対するのと同様に,周りにい- 33 -た若手男性従業員を指して,「この中で好みの男性は誰か」と質問したが,これに対して,P12が言葉を濁していると,原告は,「俺は金も地位もあるがどうか」という趣旨の発言した。P12は,返事をすることができなかったが,最後には,「ノーコメントです」と言った。 (ウ)また,P12は,その場を逃れようとして,本件宴会の幹事で,宴会場に残っていたP9に声をかけた(なお,P12は,P9が仙台営業所に単身赴任していた際に,その指導を受けていたこともあった。)。 これに対して,P9は,P12に,「P12ちゃん帰ろう」と言ったり,P9の方に来るように手を振ったが,原告は振り返り,P9に対し,「ババアは関係ない。帰れ」という旨の発言して,P12がP9の元へ行くことを認めなかった。 そして,原告は,最終的に,この場から逃れようと席を立ったP12に対して「誰がタイプか。これだけ男がいるのに,答えないのであれば犯すぞ」という趣旨の発言(以下「本件犯すぞ発言」という。)をした。 この発言に対しては,近くにいたP21が「支店長,それは言い過ぎではないですか」と発言して原告をたしなめた。 これらの一連の原告の言動に,当然のことながら,P12は傷つき,悔しい気持ちで一杯となった。 カなお,前記認定に反する原告本人の供述や陳述書の記載は,他の証拠に照らして措信できない。とりわけ,原告は,本件宴会でのP12やP9に対する問題言動をすべて否認し,原告本人も,本件宴会の終了後,バックを探していたP12と会って,宿の人に言っておけばよい旨を述べただけであり,「本件犯すぞ発言」を初めとして,P12やP9に対する一連の- 34 -言動をしていない旨 人も,本件宴会の終了後,バックを探していたP12と会って,宿の人に言っておけばよい旨を述べただけであり,「本件犯すぞ発言」を初めとして,P12やP9に対する一連の- 34 -言動をしていない旨を供述するが,「本件犯すぞ発言」は,とりわけ印象に残るものであり,直接の被害者であるP12は,明確に原告から「犯すぞ」という発言がされたことを証言している上,証人P12や証人P11らを始めとする本件宴会に出席していた関係者らが,敢えて,「本件犯すぞ発言」等を創作し,虚構の事実を作り上げて供述しているものと解することは困難である。原告本人が,本件宴会終了後のP12やP9に対する言動を否定するのは,「本件犯すぞ発言」が,本件宴会でのセクハラ行為の中で,最も強烈で,悪質性が高いものと解されることから,これを認めたくないとの思いによるものと解される。 ( )原告の日頃の言動について アP1係長に対する言動(ア)原告は,食事会等の席でP1係長の隣に座ったとき,肩に手を回したり,P1係長の手の上に手を置くなどして,殊更に同女の体に触れたことが数回あった。 (イ)また,原告は,P1係長と平成18年10月頃,原告と2人で出張に行き,夜2人で食事をした後,「これからどうするんだ。カラオケに行かないか」と誘ったが,同女は「帰ってすぐ寝ます」と断ったことがあった。 (ウ)また,原告は,P1係長に対して,原告が胸の大きい女性が好みであると述べており,加えて,直接P1に対し「胸が小さい」ので,「好みのタイプではない」と述べたこともあった。 さらに,P1係長は,原告から「夫は単身赴任でさみしくないか」と言われたことがあり,性的な意味での質問と理解したところ,P1係長としては,原告は取締役でもあるのだから,そのような言い方をしてほしくないと思っていたし,東 告から「夫は単身赴任でさみしくないか」と言われたことがあり,性的な意味での質問と理解したところ,P1係長としては,原告は取締役でもあるのだから,そのような言い方をしてほしくないと思っていたし,東京支店の雰囲気を乱すようで,嫌と感じていた。 - 35 -(なお,原告が本件懲戒解雇された後の平成19年3月8日,被告東京支店のリーダークラスによって,被告に内密に実施された送別会には,P1係長も加わっており(合計9名の出席者。乙25,甲13),P1係長は原告に対して,さほどの強い悪感情までは抱いていなかったことが窺える。)イP3に対する言動(ア)原告は,P3と同じ職場で勤務している5年弱の間に,宴会の席など酒が入る席でP3の隣に座った際に,数回,手を握り,時には肩に手を回すなどして同人の体に触れたことがある。 P3は,これらの原告の行為によって,大変,嫌な思いをしたが,原告は,支店長でありP3の上司であることから,止めるようにとは言い難く,何も言ったことはないが,決してこれらの行為を受けいれていたものではなく,いっとき我慢すれば終るのだからと思って,我慢していたものである。 (イ)また,P3は,「まだ結婚しないのか」「胸がない」とか「胸が小さい」など言われたこともあり,不快に思ったが,原告が上司であることから抗議しなかった。 さらに,P3は,原告から2人で食事に行った際に「俺のことどう思う」と言われたこともあるが,P3は,そのようなことを聞かれても答えようがなく,あいまいな返事をした。 ウなお,被告は,原告によるP9やP23に対するセクハラについても主張する。 これらについては,原告本人は,P1係長やP3に対する言動を一部自認していのと異なり,P9やP23に対する接触行為を含めて,セクハラ行為を強く,否定している供述をしてい ハラについても主張する。 これらについては,原告本人は,P1係長やP3に対する言動を一部自認していのと異なり,P9やP23に対する接触行為を含めて,セクハラ行為を強く,否定している供述をしている。 原告は,酒席で,気に入っている女性を側に座らせ,手を握ったり,肩- 36 -を抱くという行動をしていたことは認められるし,女性の身体,とりわけ,胸の大きさについての発言をしていた事実はあるものの,反対尋問も経ていないP9の陳述書(乙38)の記載のみから,直ちに,原告が,P9の手を握ったり,体を触るという行為をしていたと断ずることは困難であり,他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。さらに,P23に対するセクハラについては,P9の陳述書(乙38)においても,P23からの伝聞にすぎないものであって,これによって,原告のP23に対するセクハラ行為を認定することも困難である。 判断 ( )原告の言動の就業規則53条6号(「職務,職位を悪用したセクシャル ハラスメントにあたる行為」)の該当性について原告の部下の女性らに対する前記認定にかかる本件宴会や日頃の言動は,単なるスキンシップとか,「P18(原告)流の交流スタイル」というようなもので説明できるものではなく,違法なセクハラ行為である上,いずれも,東京支店支店長という上司の立場にあった故に,できたことであって,これらが「(支店長の)職務,職位を悪用したセクシャルハラスメントにあたる行為」に該当することは明らかである。 ( )ところで,使用者の懲戒権の行使は,企業秩序維持の観点から労働契約 関係に基づく使用者の権能として行われるものであるが,就業規則所定の懲戒事由に該当する事実が存在する場合であっても,当該具体的事情(当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情)の下におい 関係に基づく使用者の権能として行われるものであるが,就業規則所定の懲戒事由に該当する事実が存在する場合であっても,当該具体的事情(当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情)の下において,それが客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当なものとして是認することができないときには,権利の濫用として無効となる。 そこで,この観点から,以下,検討する。 ア原告の前記セクハラの内容は,まず,本件宴会においては,複数の女性従業員に対して,原告の側に座らせて,品位を欠いた言動を行い,とりわ- 37 -け,新人のP5に対して,膝の上に座るよう申し向けて酌をさせたり,更には,P12に対しての「本件犯すぞ発言」等は,悪質と言われてもやむを得ないものである。 そして,原告の日常的な言動も,酒席において,女性従業員の手を握ったり,肩を抱いたり,それ以外の場面でも,特に,女性の胸の大きさを話題にするなどセクハラ発言も繰り返していたものである。 加えて,本件では,被害者側にも,原告に誤解を与える行為をしたといった落ち度もない上,原告は,東京支店支店長として,セクハラを防止すべき立場であるにもかかわらず,これらを行ったものであり,また,原告は,αグループの幹部として,倫理綱領制定の趣旨,重要性をよく理解し,他の過去のセクハラの懲戒処分事案についても認識していたものであることも前提事実摘示のとおりである。 以上の諸点にかんがみれば,本件における原告の情状が芳しからざるものであることは明らかである。 イしかしながら,他方,日頃の原告の言動は,前記発言のほか,宴席等で女性従業員の手を握ったり,肩を抱くという程度のものに止まっているものであり,本件宴会での一連の行為も,いわゆる強制わいせつ的なものとは,一線を画すものというべきものであること(P5は,原告 席等で女性従業員の手を握ったり,肩を抱くという程度のものに止まっているものであり,本件宴会での一連の行為も,いわゆる強制わいせつ的なものとは,一線を画すものというべきものであること(P5は,原告の膝につくかつかないかの中腰で,ビールを注いだものであり,P5に対する行為も,強制わいせつ的なものとまでは評価できない。),本件宴会におけるセクハラは,気のゆるみがちな宴会で,一定量の飲酒の上,歓談の流れの中で,調子に乗ってされた言動としてとらえることもできる面もあること,全体的に原告のセクハラは,人目に付かないところで,秘密裏に行うというより,多数の被告従業員の目もあるところで開けっぴろげに行われる傾向があるもので,自ずとその限界があるものともいい得ること,前記セクハラ行為の中で,最も強烈で悪質性が高いと解される「本件犯すぞ発言」も,- 38 -女性を傷つける,たちの良くない発言であることは明白であるが,前記認定に照らせば,P12が,好みの男性のタイプを言わないことに対する苛立ちからされたもので,周囲には多くの従業員もおり,真実,女性を乱暴する意思がある前提で発言されたものではないこと,原告は被告(会社)に対して相応の貢献をしてきており,反省の情も示していること,これまで,原告に対して,セクハラ行為についての指導や注意がされたことはなく,いきなり本件懲戒解雇に至ったものであること等の事情を指摘することができる。 ウ以上の諸事情に照らして考慮すると,原告の前記各言動は,女性を侮辱する違法なセクハラであり,懲戒の対処となる行為ということは明らかであるし,その態様や原告の地位等にかんがみると相当に悪質性があるとはいいうる上,コンプライアンスを重視して,倫理綱領を定めるなどしている被告が,これに厳しく対応しようとする姿勢も十分理解できるもの あるし,その態様や原告の地位等にかんがみると相当に悪質性があるとはいいうる上,コンプライアンスを重視して,倫理綱領を定めるなどしている被告が,これに厳しく対応しようとする姿勢も十分理解できるものではあるが,これまで原告に対して何らの指導や処分をせず,労働者にとって極刑である懲戒解雇を直ちに選択するというのは,やはり重きに失するものと言わざるを得ない(被告は,直ちに,懲戒解雇を選択することなく,仮に,原告を配転(降格)することによって,東京支店から移動させたとしても,セクハラを訴えた5名(P9,P10,P11,P5及びP12)は,退職せざるを得ない状況となるであろうし,万が一,退職しなかったとしても,今後,常に原告におびえ続け,平穏に仕事をすることはできない状態となるのであって,本件において,原告に対して,懲戒解雇をもって臨む以外の処分は考えられない旨を主張するが,被告には,倫理担当者もおり,かかる被害者を守るシステムは構築されているし,仮に,原告に報復的な行為をする兆しがあるのであれば,そのときにこそ,直ちに懲戒解雇権を行使すれば足りるのであって,被告の前記主張は,採用できない。)。 - 39 -( )以上のとおり,本件懲戒解雇は,被告の主張する各事情を考慮しても, なお重きに失し,その余の手続面等について検討するまでもなく,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上,相当なものとして是認することができず,権利濫用として,無効と認めるのが相当である。 ( )したがって,原告は,未だ被告の従業員としての地位を失っていないか ら,その地位確認を認める請求は理由があり,かつ,賃金請求権(原告の賃金額等については,当事者間に争いがない)も有しており,原告の本判決確定の日までの賃金請求は,理由がある。 続いて,原告の将来の賃金請求につ 位確認を認める請求は理由があり,かつ,賃金請求権(原告の賃金額等については,当事者間に争いがない)も有しており,原告の本判決確定の日までの賃金請求は,理由がある。 続いて,原告の将来の賃金請求について検討するに,「将来の給付を求める訴えは,あらかじめその請求をする必要がある場合に限り,提起することができる」(民事訴訟法135条)が,原告は,本判決確定後についても毎月の賃金請求をしている。しかるところ,雇用契約上の地位の確認と同時に,将来の賃金を請求する場合には,地位を確認する判決確定後も,被告が原告からの労務の提供の受領を拒否して,その賃金請求権の存在を争うなどの特段の事情が認められない限り,賃金請求中,判決確定後に係る部分については,予め請求する必要がないと解するのが相当であるが,本件においては,この特段の事情を認めることができないから,本判決確定後の賃金請求は,不適法といわざるを得ない。 結論 以上のとおり,原告の本訴請求は,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求については理由があるから,これを認容し,本件懲戒解雇後の賃金請求のうち,本判決確定の日の翌日以降における賃金の支払を求める請求にかかる訴えの部分は,不適法であるからこれを却下し,本件懲戒解雇後の賃金請求(上記却下部分にかかる請求を除く。)は,理由があるから,これを認容して,主文のとおり判決する。 - 40 -東京地方裁判所民事第11部裁判官白石哲

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