- 1 -令和3年1月28日判決言渡令和元年(ワ)第4467号損害賠償等請求事件 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求被告は,原告に対し,170万2500円及びこれに対する令和元年5月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は,原告が,大阪府A府税事務所長(以下「本件府税事務所長」という。)は,原告に対する平成11年分から平成23年分まで(平成13年分及び平成14年分を除く。)の個人事業税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をするに当たり,原告の不動産貸付けが,個人事業税の課税客 体を規定する地方税法72条の2第8項4号(ただし,平成15年法律第9号による改正前は地方税法72条5項4号,平成19年法律第4号による改正前は地方税法72条の2第7項4号)所定の「不動産貸付業」に該当しないにもかかわらずこれに該当するという誤った判断をして,違法に本件各賦課決定処分をしたなどと主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償 請求権又は本件各賦課決定処分の無効を理由とする不当利得返還請求権に基づき,納付した個人事業税相当額合計170万2500円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和元年5月29日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 関係法令等の定め - 2 -別紙関係法令等の定めのとおりであり,同別紙で定める略称等は,以下においても用いることとする。 3 前 による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 関係法令等の定め - 2 -別紙関係法令等の定めのとおりであり,同別紙で定める略称等は,以下においても用いることとする。 3 前提事実(当事者間に争いがない事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実並びに当裁判所に顕著な事実)(1) 当事者等 ア原告は,平成11年以降,大阪府内において,本件通達が定める面積要件(別紙関係法令等の定め4参照)に該当する建物を賃貸し,賃貸料収入を得ていた。平成11年分から平成29年分まで(平成13年分及び平成14年分を除く。)の原告の賃貸料収入額は,別表の「賃料収入(税込)」欄及び「賃料収入(税抜)」欄に記載のとおりであり,いずれも消費税及 び地方消費税(以下「消費税等」という。)相当額を含めた額は1000万円以上となるものの,消費税等相当額を除いた額は1000万円未満となるものであった。なお,原告は,消費税等の経理処理について,税込経理方式(消費税等の額と当該消費税等に係る取引の対価の額とを区分しないで経理処理をする方式。なお,これに対し,これらを区分して経理処理 をする方式は「税抜経理方式」という。)を採用していた。(甲1)イ大阪府A府税事務所長(本件府税事務所長)は,地方税法72条の2第3項に基づき,個人が大阪府に事務所又は事業所を設けて行っている事業に対し,事業税の賦課決定をし,当該個人からこれを徴収している。 (2) 原告に対する個人事業税の賦課徴収 本件府税事務所長は,別表の「事業税納付税額」欄に記載のとおり,平成11年分から平成28年分までの個人事業税の各賦課決定処分において,原告に対し,本件通達が定める収入要件(建物の貸付けに係る賃貸料収入〔一時に収受する権利 の「事業税納付税額」欄に記載のとおり,平成11年分から平成28年分までの個人事業税の各賦課決定処分において,原告に対し,本件通達が定める収入要件(建物の貸付けに係る賃貸料収入〔一時に収受する権利金及び更新料等を除く。以下同じ。〕が年1000万円以上のもの。別紙関係法令等の定め4参照)に該当するとして,合計268万 5200円を賦課徴収した(なお,そのうち消費税等相当額を除いた賃貸料 - 3 -収入額が1000万円以上となる平成13年分及び平成14年分の個人事業税合計26万9600円,並びに後に還付された平成24年分から平成28年分までの個人事業税合計71万3100円を控除した額は,170万2500円である。)。 (3) 被告における本件通達の収入要件に関する判断基準の変更 ア本件各賦課決定処分の当時の判断基準(本件見解①)被告は,本件各賦課決定処分の当時,本件通達が定める収入要件に該当するか否かの判断において,消費税等の課税事業者であるか免税事業者であるかにかかわらず,基準とする賃貸料収入額に消費税等相当額を含むか否かを考慮しない見解,すなわち,確定申告書記載の賃貸料収入額が消費 税等相当額を含むか否かにかかわらず,その記載の収入額を基準として判断する見解(以下「本件見解①」という。)を採用し,具体的には,「所得税の確定申告書」,「所得税青色申告決算書(不動産所得用)」又は「収支内訳書(不動産所得用)」(以下,本件通達の第3・1が定める上記の各資料を併せて「本件国税資料」という。)の収入金額の賃貸料欄に記載 された額を基準として収入要件に該当するか否かを判断していた。 なお,本件国税資料のみからは,その収入金額欄に記載された額が消費税等相当額を含むか否か,当該事業者が消費税等の課税事業者 された額を基準として収入要件に該当するか否かを判断していた。 なお,本件国税資料のみからは,その収入金額欄に記載された額が消費税等相当額を含むか否か,当該事業者が消費税等の課税事業者であるか免税事業者であるかは判明しない。 イ平成29年に変更された後の判断基準(本件見解②) 被告は,平成29年4月,本件通達が定める収入要件に該当するか否かの判断において,消費税等の課税事業者であるか免税事業者であるかにかかわらず,建物の貸付けに係る賃貸料収入額につき,消費税等相当額を含めない額を基準として判断する見解(以下「本件見解②」という。)を採用することとした。 このことを示す府税事務所の事業税課長会議(平成29年度第1回法人 - 4 -二税・個人二税・利子割担当課長会議)の会議資料(以下「本件会議資料」という。甲4の2)には,「賃貸料収入金額が1000万円以上の判断にあたって,同一の建物の貸付けを行い同一の賃貸料であるにもかかわらず,免税事業者であり消費税を請求していた場合には当該金額を含めて判断し,課税事業者であった場合には当該金額を除いて判断することについ ては,」「・不動産貸付業に該当するかどうかは,その不動産の規模,管理の状況等を総合的に勘案して認定すべきものとされている。この不動産の規模の判断にあたって,消費税の課税事業者か免税事業者かによって判断が異なることは適切ではないと考えられること。」,「・消費税は免税事業者であっても,取引先に消費税を請求することができること。」 から,「消費税の課税事業者であっても免税事業者であっても,消費税が含まれていた場合には,当該金額を除いて収入金額が1000万円以上かどうか判断すべきものと考える。」と記載されている。(以上につき,甲3,4の2 の課税事業者であっても免税事業者であっても,消費税が含まれていた場合には,当該金額を除いて収入金額が1000万円以上かどうか判断すべきものと考える。」と記載されている。(以上につき,甲3,4の2,5,弁論の全趣旨)(4) 原告に対する個人事業税の還付 本件府税事務所長は,上記(3)イの結果を踏まえ,平成30年8月,原告に対し,平成24年分から平成28年分までの原告の賃貸料収入額につき,消費税等相当額を含めない額は年1000万円未満であることから,それらの額を基準とすると本件通達が定める収入要件に該当しないことになるとして,地方税法における賦課決定の期間制限に関する定め(別紙関係法令等の 定め1(2))の範囲内で,上記各年分に係る個人事業税を課税しないこととし,合計71万3100円を還付した(甲3,5)。 (5) 本件訴えの提起等原告は,令和元年5月22日,本件訴えを提起し,その訴状は,同月28日,被告に送達された(顕著な事実)。 4 争点 - 5 -(1) 国家賠償法上の違法性及び過失の有無(争点1)(2) 損害の発生及びその数額(争点2)(3) 過徴収された個人事業税を不当利得として返還請求できるか否か(争点3) 5 争点に対する当事者の主張 (1) 争点1(国家賠償法上の違法性及び過失の有無)について(原告の主張)ア国家賠償法上の違法性及び過失があること次の(ア)~(ウ)の各事情に照らせば,本件府税事務所長及び被告担当者(以下「本件府税事務所長等」という。)は,本件各賦課決定処分に際し, 本件通達が定める収入要件に該当するか否かを判断するに当たり,消費税等相当額を含めない賃貸料収入額を基準にしなければならず,それを前提に,確定申告書の記載だけでは本件通 賦課決定処分に際し, 本件通達が定める収入要件に該当するか否かを判断するに当たり,消費税等相当額を含めない賃貸料収入額を基準にしなければならず,それを前提に,確定申告書の記載だけでは本件通達が定める収入要件に該当するか否かが判然としない場合には,本件通達において要求される追加調査をしなければならなかった。それにもかかわらず,本件府税事務所長等は,その ような追加調査を全く行わず,漫然と確定申告書の記載が消費税等相当額を含むか否かを確認することなく,消費税等相当額を含めた賃貸料収入額を基準に,原告の不動産貸付けが「不動産貸付業」に該当するとして本件各賦課決定処分をしたものである。したがって,本件府税事務所長が本件各賦課決定処分をしたことについて,国家賠償法上の違法性及び過失が認 められる。 (ア) 「事業」といえるような規模でなければ「不動産貸付業」(地方税法72条の2第8項4号)に該当するとはいえないところ,本件通達が定める収入要件は,不動産貸付業の事業規模を判断する際の指標として定められたものである。そうすると,本件通達が定める収入要件に該当 するか否かの判断においては,真に「業」といえるだけの実態を備えて - 6 -いるか否かという観点から解釈されるべきであって,所得税法や消費税法において課税要件として定められている「収入」とは関係がないというべきである。 そして,賃貸料を受け取る際に併せて受け取る消費税等相当額は,事業規模とは無関係なものであるから,収入要件における賃貸料収入額に 消費税等相当額を含めないことは当然の解釈である。すなわち,課税事業者が受け取る消費税等は,預り金的性格を有しているが,免税事業者が受け取る消費税等は,実質的には収入(売上)と捉え得るものであって,いずれの立場で 含めないことは当然の解釈である。すなわち,課税事業者が受け取る消費税等は,預り金的性格を有しているが,免税事業者が受け取る消費税等は,実質的には収入(売上)と捉え得るものであって,いずれの立場であるかによってその性質が異なり得るものである。 また,免税事業者においては,消費税等を請求するか否かも専ら当該事 業者の判断に委ねられている上,消費税等を請求しても,それを国に納付する義務が免除されていることは,賃料部分に上乗せして請求した消費税等の部分を,そのまま自身の利益として帰属させても違法とはならないことを意味するにとどまり,課税事業者であれば国に納付すべきものである。このように,元々の賃料部分と,賃料に上乗せして請求した 消費税等の部分は,異質なものであるから,消費税等は,事業規模を図る上での指標となるものではない。 仮に,本件通達が定める収入要件の判断に当たって基準とする賃貸料収入額に消費税等相当額を含めるとすると,消費税法が改正されて消費税率が上がる度に,業務実態には何ら変わりがないにもかかわらず,賃 貸人の事業規模が拡大していくとみることになり,不合理である。 (イ) 被告は,原告に対し,過去5年分の個人事業税を還付しているところ,将来の分のみならずあえて過去にさかのぼって課税額を是正したことは,「不動産貸付業」に該当するか否かを認定するに当たって,本件見解①を採用したことが客観的に誤りであり,本件見解②が客観的に適 切な解釈であることを自認したものである。本件見解①及び②がいずれ - 7 -も客観的には適法であり,単に被告における取扱いを変更しただけだというのであれば,過去の分にまでさかのぼって還付に応じる必要はないはずである。 (ウ) 本件通達は,その第3・2及び3において,収入要件に該当す 適法であり,単に被告における取扱いを変更しただけだというのであれば,過去の分にまでさかのぼって還付に応じる必要はないはずである。 (ウ) 本件通達は,その第3・2及び3において,収入要件に該当するか否かの判断に当たり,本件国税資料による調査から明らかでないのであ れば,照会書等によって納税者に対して調査を行い,それでも判断が困難であれば,固定資産税等資料による調査をしなければならないことを明記していることからすれば,本件府税事務所長等は,確定申告書の記載から賃貸料収入額が年1000万円以上であるか否かを判断することができない場合,職務上通常尽くすべき注意義務として,照会書等によ って納税者に対して調査を行う必要があった。 イ被告の主張に対する反論(ア) 本件見解①に合理性がないことa 被告は,消費税等相当額は収入に含まれると解するのが文言に忠実な解釈である旨主張する。 しかしながら,日常用語としての「収入」とは,「金銭や品物等を手に入れ自己の所有とすること」とされ,その文言から,消費税等のような後日国に対して納めるために受領したものが当然含まれるとは読み取れない。また,税法上の用語としても,税込経理方式と税抜経理方式のいずれもが許容されているのであって,収入という用語は, 消費税等込み,消費税等抜きのいずれの場合にも用いられている。このように,「収入」という文言からは,消費税等を含むことが文言解釈に忠実であるとは考えられない。 また,被告が指摘する裁判例が,消費税等相当額を対価の一部と位置付けているのは,飽くまで消費者側からみたならばそのようになる というだけであり,同裁判例は,そうして支払われた消費税等相当額 - 8 -につき,事業者側において国に納付する義務があ 位置付けているのは,飽くまで消費者側からみたならばそのようになる というだけであり,同裁判例は,そうして支払われた消費税等相当額 - 8 -につき,事業者側において国に納付する義務があるか否かという議論を行っているにすぎない。この判示と,収入という用語が消費税等相当額を含むか否かという問題とは,全く別個の問題である。 b 被告は,本件府税事務所長等の事務負担の軽減等といった理由からは,本件見解①を採用すべきである旨主張する。 しかしながら,そもそも,被告は,事務の軽減を図るために,ある程度画一的に「不動産貸付業」に該当するか否かを判断できるようにする趣旨で,面積要件及び収入要件を定めている。そして,収入要件に該当するか否かの判断に当たり,本件国税資料による調査から明らかでないのであれば,照会書等によって納税者に対して調査を行い, それでも判断が困難であれば,固定資産税等資料による調査をしなければならないことが,本件通達の第3・2及び3において明記されている。このように,本件通達は,事務処理の軽減という趣旨で,面積要件及び収入要件を導入した上で,これらの要件に該当するか否かの判断が困難な場合は,本件府税事務所長等において調査を行うべきこ とを明確に求めているのであって,本件府税事務所長等が「不動産貸付業」の認定をするために一定の事務負担をすることは,本件通達の当然の前提となっているのである。また,本件府税事務所長等は,確定申告書に記載された金額が消費税等込みか消費税等抜きかによって収入要件該当性に関する結論が変わり得る者に対して照会をすればよ いのであって,決して無理を強いるものではない。そうすると,本件通達は,何らの調査も要しないとする本件見解①を前提としていないというべきである。 また, 変わり得る者に対して照会をすればよ いのであって,決して無理を強いるものではない。そうすると,本件通達は,何らの調査も要しないとする本件見解①を前提としていないというべきである。 また,被告は,個人事業税の課税標準の算定方法等からすれば,本件国税資料に特に不明確な点等がない限り,本件国税資料で賦課事務 を完結させることが個人事業税の本旨であり,別途調査を行う必要は - 9 -ないといえるから,本件国税資料による調査との整合性に優れている本件見解①は,合理性がある旨主張する。 しかしながら,本件で問題となっているのは,課税標準の算定に関する事項ではなく,原告の不動産貸付けが「不動産貸付業」に該当するか否かという課税要件の充足の有無であって,この判断に当たり, 課税標準の算定の際の議論を持ち出すことに何ら意味はなく,被告が独自に個人事業税における課税標準を決定することができない仕組みになっているとしても,被告が課税権を行使する以上,課税要件の充足の有無については自ら調査し判断しなければならない。本件通達が,本件国税資料による調査に加えて,照会書等による調査等を行うべき 旨を定めていることからしても,本件国税資料で賦課事務を完結させることが個人事業税の本旨であるとは考えられない。 c 被告は,消費税等を上乗せした賃貸料を受領すれば担税力の向上につながることを本件見解①の根拠として主張する。 しかしながら,この点を強調するのであれば,収入要件に該当する か否かの判断において,消費税等の課税事業者であるか免税事業者であるかにかかわらず,基準とする賃貸料収入額に消費税等相当額を含むとする考え方(以下「本件見解③」という。)を採用すべきということになるはずであり,本件見解①を採用すべ 税事業者であるか免税事業者であるかにかかわらず,基準とする賃貸料収入額に消費税等相当額を含むとする考え方(以下「本件見解③」という。)を採用すべきということになるはずであり,本件見解①を採用すべき理由とはならない。 d 本件見解①によれば,所得税の確定申告書に記載された収入をもっ てそのまま機械的に収入要件を判断することになり,全く同一の不動産賃貸を行っていても,税込経理方式と税抜経理方式のいずれの経理方式を採用していたかという事業規模とは全く無関係な事情により,ある者は「不動産貸付業」に該当し,ある者は「不動産貸付業」に該当しないということになるが,このような結論は納税者間の公平を害 するものであって不当である。 - 10 -(イ) 本件見解④(課税事業者については消費税等相当額を含めないが,免税事業者の場合は消費税等相当額を含むとする考え方。以下同じ。)に合理性がないこと免税事業者は,役務の提供等の対価を受領する際に,併せて消費税等相当額を受け取る一方で,消費税法においていわば政策的見地から消費 税等の納税を免除されている者である以上,免税事業者であっても,相手方から役務の提供等の対価と消費税等相当額を受領した場合,その事業規模を判断する際には,役務の提供等の対価に当たる部分をもって基準とすべきであり,消費税等相当額として受領したものが事業規模と関係がないことについては,課税事業者と変わるところはない。 また,仮に,収入要件に該当するか否かの判断に当たって,免税事業者については基準とする賃貸料収入額に消費税等相当額を含めることとすると,被告も指摘するとおり,実際の賃貸借の規模や管理状況が変わらないにもかかわらず,2年ごとに「不動産貸付業」に当たるか否かが切り替わることとなるとい 賃貸料収入額に消費税等相当額を含めることとすると,被告も指摘するとおり,実際の賃貸借の規模や管理状況が変わらないにもかかわらず,2年ごとに「不動産貸付業」に当たるか否かが切り替わることとなるという不合理が生ずる。 したがって,免税事業者であっても,収入要件に該当するか否かの判断に当たって,基準とする賃貸料収入額に消費税等相当額を含めるとする解釈は理由がない。 (ウ) 他の自治体の取扱いについて被告は,収入要件に該当するか否かの判断に当たって,基準とする賃 貸料収入額に消費税等相当額を含めるか否かについて,全国的にみてもその実務上の取扱いは分かれているとして,被告において,本件見解①に基づき,本件各賦課決定処分をしたことについて,過失は認められない旨主張する。 しかしながら,本件通達は飽くまで被告独自の内部基準であり,他の 自治体の取扱いは,本件府税事務所長等の注意義務を判断する上で参照 - 11 -されるべきものではない。 (被告の主張)ア国家賠償法上の違法性及び過失がないこと本件府税事務所長等が,本件各賦課決定処分に際し,本件通達が定める収入要件に該当するか否かを判断するに当たり,基準とする賃貸料収入額 に消費税等相当額を含めるべきか否かという問題の解釈については,少なくとも本件各賦課決定処分の当時,法令等の文言(「不動産貸付業」)上,これ以上に詳細な定めは置かれていないことからそれのみでは解釈することができず,さらに,この点に関する判例,裁判例もなく,文献,学説上も問題提起すらされていないという状況であった。そして,被告が本件見 解②を採用したのは,本件各賦課決定処分よりも後のことであるところ,次の(ア)~(ウ)の各事情に照らせば,複数の考 ,学説上も問題提起すらされていないという状況であった。そして,被告が本件見 解②を採用したのは,本件各賦課決定処分よりも後のことであるところ,次の(ア)~(ウ)の各事情に照らせば,複数の考え方のそれぞれに相応に合理性があり,少なくとも,本件各賦課決定処分の当時,本件通達が定める収入要件の解釈として本件見解②が当然の解釈であるといえる状況にはなかった。 このような状況において,本件各賦課決定処分をした本件府税事務所長等に,漫然と本件通達の当然の解釈を誤り,必要な調査を行わずに違法に本件各賦課決定処分をしたということはできない。したがって,本件府税事務所長が本件各賦課決定処分をしたことについて,国家賠償法上の違法性及び過失は認められない。 (ア) 本件見解①に合理性があることa 東京地方裁判所平成元年(ワ)第5194号同2年3月26日判決・判タ722号222頁,大阪地方裁判所平成3年(ワ)第5327号同5年3月2日判決・判タ809号244頁といった裁判例によれば,事業者が消費税等相当額として受け取る金銭が役務の提供に対す る対価の一部であることは明らかであるから,本件通達が定める収入 - 12 -要件の解釈において,消費税等相当額は,当然,「賃貸料収入」に含まれると解するのがその文言に忠実な解釈であるといえる。 b 地方税法上の事業税に関する条項における「収入」(同法72条の49の12)は,同条の内容に照らせば,所得税法に規定する不動産所得や事業所得における「収入」(所得税法26条2項,27条2項) と同義に解釈されるべきである。個人事業税については,納税義務者が税務署に所得税の確定申告書を提出した場合は,個人事業税について当該事業の所得の計算のために必要な事項を申告し 項,27条2項) と同義に解釈されるべきである。個人事業税については,納税義務者が税務署に所得税の確定申告書を提出した場合は,個人事業税について当該事業の所得の計算のために必要な事項を申告したとみなされること(地方税法72条の55の2第1項)や,事業税の申告書の様式が,不動産所得に関する所得税の申告書類と同じ用語を用い,同じ方 法により算定することを前提としていることなどからもこのように解すべきであるし,他の法令に準拠する概念や他の法令から借用した概念の解釈は,他の法令と同様に解釈すべきであるから,本件通達が定める収入要件の解釈も,所得税法上の「収入」の解釈に従って,消費税等相当額が「収入」に含まれるか否かを判断すべきである。 そして,所得税法における「収入」は,事業者がいずれの経理方式を採用するかにより,消費税等の額が含まれるか否かが異なる概念であり,税込経理方式を採用している者については消費税等の額を「収入」に含め,税抜経理方式を採用している者については消費税等の額を「収入」に含めないと解するのが,その文言に忠実な解釈である。 これは,一見すると,ある収入が経理方式の違いにより事業性(「不動産貸付業」の該当性)の有無の判定の基礎になる場合とならない場合があるという点で不合理であるとも思われるが,それは経理方式(消費税等を収入に含めるか否か)が納税者の選択に委ねられたことによる結果であり,納税者間の公平を不合理に害するものではない。 c 個人事業税については,納税義務者が税務署に所得税の確定申告書 - 13 -を提出した場合は,個人事業税について当該事業の所得の計算のために必要な事項を申告したとみなされるところ(地方税法72条の55の2第1項),前年分の所得税の課税標準を事業税の 告書 - 13 -を提出した場合は,個人事業税について当該事業の所得の計算のために必要な事項を申告したとみなされるところ(地方税法72条の55の2第1項),前年分の所得税の課税標準を事業税の課税標準とすることとされているのは,納税者等の事務手続の簡素化を図る趣旨であると同時に,納税者に対する二重の調査の煩雑さを回避し課税事務を 簡素化する趣旨であると解される。このような配慮が立法に当たり念頭に置かれているところ,さらに,本件通達が定める均衡課税要件のうちの形式要件(面積要件及び収入要件)は,本来総合的に判断すべき不動産貸付業の認定を,一層簡易迅速に行うことができるように定めているものである。そうすると,収入要件の解釈を,課税事務を簡 易迅速に行うという観点から行うことには合理性がある。 また,本件国税資料に記載された収入が,消費税等相当額を含むか否か,消費税等の課税事業者であるか免税事業者であるかは,本件国税資料による調査のみからは直ちに判明しない事実であるところ,これらを明らかにするためには,更なる調査が必要となる。租税制度は, 効率性や簡素性の要請にも適合する必要があるところ,個人事業税における課税標準の算定及び賦課は,所得税について申告等がされた内容に基づいて行われ,独自に課税標準を調査決定することはできないとされていること,個人事業税の課税に関する資料としては,所得税の確定申告書等といった本件国税資料が想定されており,かつ,これ により,課税に必要な情報を収集することが想定されていることからすれば,課税標準の算定及び賦課や課税要件である事業性の判断に当たり,本件国税資料に特に不明確な点等がない限り,本件国税資料で賦課事務を完結させることが個人事業税の本旨であり,別途調査を行う必要はないといえ 税標準の算定及び賦課や課税要件である事業性の判断に当たり,本件国税資料に特に不明確な点等がない限り,本件国税資料で賦課事務を完結させることが個人事業税の本旨であり,別途調査を行う必要はないといえるから,本件国税資料による調査との整合性に優 れている本件見解①は,合理性がある。 - 14 -なお,本件見解①であっても,本件国税資料のみでは収入要件を満たしているか否かを判断することができない場合(例えば,本件国税資料の賃貸料収入欄記載の金額が,不動産賃貸料と駐車場料を合算したものであり,「不動産所得の収入の内訳」等からは不動産賃貸料による収入を判別することができない場合等),照会するなどの方法に より確認することが予定されている。 d 消費税等相当額は,免税事業者にとっては,実質的には「収入(売上げ)」と捉え得るものである。また,課税事業者であっても,仕入税額控除として,実額による控除と概算による控除(簡易仕入税額控除)のいずれの方法を用いても,一定の益税が生ずることから,実質 的には「収入(売上げ)」と捉え得る部分があるといえる。そうすると,消費税等の分を上乗せした賃貸料を受領すれば担税力の向上につながるといえる。 (イ) 本件見解②~④に相応の合理性があることa 本件見解②について 本件会議資料に記載されているとおり,消費税等は免税事業者であっても取引先に請求することができること,不動産貸付けの規模の判断に当たって,消費税等の課税事業者であるか免税事業者であるかによって判断が異なることは適切ではないとの考えもあり得ることから,相応の合理性があると解される。 b 本件見解③,④について本件通達が定める収入要件に該当するか否かの判断において,基 判断が異なることは適切ではないとの考えもあり得ることから,相応の合理性があると解される。 b 本件見解③,④について本件通達が定める収入要件に該当するか否かの判断において,基準とする賃貸料収入額については,その他にも,消費税等の課税事業者であるか免税事業者であるかにかかわらず,消費税等相当額を含むとする考え方(本件見解③),また,課税事業者については消費税等相 当額を含めないが,免税事業者の場合は消費税等相当額を含むとする - 15 -考え方(本件見解④)が考えられる。 本件見解③については,本件通達が定める収入要件の文言(「賃貸料収入(一時に収受する権利金及び更新料等を除く。以下同じ。)」)に忠実であること,免税事業者が受け取る消費税等相当額は実質的には収入(売上)と捉え得ることから,相応の合理性がある。本件見解 ④については,課税事業者が受け取る消費税等相当額は預り金的性格を有しているが,免税事業者が受け取る消費税等相当額は実質的には収入(売上)と捉え得るから,両者を区別して扱うべきであるとの考えであって,相応の合理性がある。 したがって,消費税等の課税事業者であるか免税事業者であるかに かかわらず,消費税等相当額を含めないとする見解(本件見解②)が,当然の解釈であるとはいえない。 (ウ) 他の自治体の取扱いについてa 被告が,全国の都道府県税務主管課長に宛てて,個人事業税における不動産貸付業の取扱いについて照会を行ったところ,47都道府県 から回答があり,そのうち回答内容を裁判資料として利用することを希望しなかった2県を除く45都道府県からの回答結果は,以下のとおりであった。 ⒜ ほとんどの自治体が,個人事業税における不動産貸付業の認定において,本件 ち回答内容を裁判資料として利用することを希望しなかった2県を除く45都道府県からの回答結果は,以下のとおりであった。 ⒜ ほとんどの自治体が,個人事業税における不動産貸付業の認定において,本件総務大臣通知や本件自治省府県税課長通達で定められ ている貸付件数に基づく一定の基準を下回る場合における,自治体独自の要件を設けていた(44/45)。 ⒝ 上記⒜の独自の要件を設けていた自治体は,要件として収入基準を設けていた(44/44)。 ⒞ 上記⒝の収入基準における収入の基準額は,年間650万円から 1200万円超まで幅があった。 - 16 -⒟ 収入基準からの除外項目(基準額を算定するに当たって除外する費目)は,設けている自治体と設けていない自治体があり,その割合は半々であった(22:22)。 (e) 収入基準からの除外項目を設けている22の自治体のうち,消費税を除外する自治体は,大阪府を含めて令和元年11月の時点でわ ずか6自治体にとどまり,その余の16の自治体は,除外しないか,考慮しないかのいずれかであった。 ⒡ 上記⒟及び(e)によれば,そもそも収入基準を定めても,基準額を算定するに当たり,消費税を除外しないか,又は考慮していない自治体は,上記(a)の独自の要件を設けていた44の自治体のうち38 に及んでいた。 b 上記aの回答結果によれば,全国の多くの自治体において,本件各賦課決定処分がされていた当時の被告と同様に,現在も,個人事業税における不動産貸付業の認定において,基準とする賃貸料収入額から消費税等相当額を除外する取扱いをしていないといえるし,少なくと も,全国的にみてもその実務上の取扱いは分かれている。 このように,拠るべき明確な判例・学説がなく,実務上の から消費税等相当額を除外する取扱いをしていないといえるし,少なくと も,全国的にみてもその実務上の取扱いは分かれている。 このように,拠るべき明確な判例・学説がなく,実務上の取扱いが分かれていて,それぞれに一応の論拠が認められる場合には,相当の調査の上で判断がなされれば,本件府税事務所長等の注意義務は尽くされたとして過失は認められないというべきである。 イ原告の主張に対する反論(ア) 本件通達が定める収入要件の該当性判断における解釈の観点等上記ア(ア)aのとおり,事業者が消費税等相当額として受け取る金銭が役務の提供に対する対価の一部であることは明らかであるから,本件通達が定める収入要件の解釈において,消費税等相当額は,当然,「賃 貸料収入」に含まれると解するのがその文言に忠実な解釈であるといえ - 17 -る。 また,上記ア(ア)bのとおり,地方税法上の事業税に関する条項における「収入」(同法72条の49の12)は,同条の内容に照らせば,所得税法に規定する不動産所得や事業所得における「収入」(所得税法26条2項,27条2項)と同義に解釈されるべきである。 さらに,上記ア(ア)cのとおり,地方税法72条の55の2第1項の趣旨や,本件通達が定める均衡課税要件のうちの形式要件(面積要件及び収入要件)は,本来総合的に判断すべき不動産貸付業の認定を,一層簡易迅速に行うことができるように定めているものであることからすれば,収入要件の解釈を,課税事務を簡易迅速に行うという観点から行う ことには合理性がある。 (イ) 過去5年分の個人事業税を還付していること被告が平成30年8月に原告に対して過去5年分の個人事業税相当額合計71万3100円を還付したことは認めるが,その ことには合理性がある。 (イ) 過去5年分の個人事業税を還付していること被告が平成30年8月に原告に対して過去5年分の個人事業税相当額合計71万3100円を還付したことは認めるが,その余の主張は否認し,又は争う。 (ウ) 照会書等による調査を行う必要性がないこと上記ア(ア)cのとおり,課税標準の算定及び賦課や課税要件である事業性の判断に当たり,本件国税資料に特に不明確な点等がない限り,本件国税資料で賦課事務を完結させることが個人事業税の本旨であり,別途照会書等による調査を行う必要はないといえる。 (2) 争点2(損害の発生及びその数額)について(原告の主張)原告は,本件府税事務所長がした違法な本件各賦課決定処分により,合計170万2500円を納付し,これにより,同額の損害を被った。 (被告の主張) 原告の主張は否認し,又は争う。 - 18 -(3) 争点3(過徴収された個人事業税を不当利得として返還請求できるか否か)について(原告の主張)本件各賦課決定処分は,地方税法及び本件通達の当然の解釈に反する,法律の根拠に基づかない課税処分であって,これは単純な課税額の計算の誤り 等とは異なる課税の根幹に関する過誤であることから,極めて重大な違法性を有する。したがって,本件各賦課決定処分は,無効な行政処分と解するほかない。そうすると,被告は,法律上の原因がないにもかかわらず,原告の納付した個人事業税に係る利得を保持していることになるから,原告に対し,合計170万2500円の不当利得返還義務を負う。 (被告の主張)原告の主張は,否認し,又は争う。 地方税法上の過誤納金には,減額の賦課決定等や賦課決定の取消し等の行政処分により生ずる過納金だけで 利得返還義務を負う。 (被告の主張)原告の主張は,否認し,又は争う。 地方税法上の過誤納金には,減額の賦課決定等や賦課決定の取消し等の行政処分により生ずる過納金だけでなく,無効・不存在の賦課決定に対して納税者が納付した誤納金も含まれる。そして,地方税法17条は,過誤納金が あった場合には,遅滞なく還付しなければならないと定めているところ,地方公共団体は,徴収する法律上の原因を欠くから納付された金員を還付するのであって,ここでいう過誤納金の還付は,公法上の不当利得返還の性質を有するものであり,法の過誤納金に関する規定は,納付された地方税に関し,民法の不当利得の特則を定め,過誤納金について民法の不当利得の規定の適 用を排除する趣旨であると解するのが相当である。したがって,民法上の不当利得として構成された原告の不当利得返還請求は,主張自体失当である。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(国家賠償法上の違法性及び過失の有無)について(1) 判断枠組み 国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が - 19 -個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負う旨を規定するものであって,本件府税事務所長がした本件各賦課決定処分については,本件府税事務所長等が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件各賦課決定処分をしたと認め得るような事情がある場合に限り,国家賠償 法1条1項にいう違法があったと評価されることになるものと解するのが相当である(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁,最高裁平成元年(オ)第930号,第10 法があったと評価されることになるものと解するのが相当である(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁,最高裁平成元年(オ)第930号,第1093号同5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁等参照)。 (2) 個人事業税の性質,不動産貸付業の意義等ア個人事業税の性質個人事業税は,個人の行う「事業」に対し,「所得」を課税標準として,都道府県が個人に課す収益税である(地方税法72条の2第3項,1条2項)。事業税は,「事業」を課税客体とし,事業そのものに経済価値を認 め,そこに担税力を見いだし,課税するものである。また,事業税の基礎にある考え方は,事業は,地方公共団体の各種の行政サービスを受益し,また各種の行政サービスの原因を作り出しているから,住民税とは別に,それに応じた負担をすべきであるというものであるとされている。(乙5の1~3) イ不動産貸付業の意義「不動産貸付業」(地方税法72条の2第8項4号)とは,不動産の貸付けを事業として行うこと,すなわち,反復継続して,対価の取得を目的として,不動産の貸付けを行うことをいうものと解されるところ,不動産の貸付けがこのような意味での事業に該当するか否かの判定は,貸付不動 産の規模(面積,個数),賃貸料収入の金額,貸付不動産の管理の状況等 - 20 -を総合的に勘案して行われるべきものである。 ウ本件通達の定めそして,本件通達の第1・1(1)エは,「不動産の貸付けの態様がアからウまでに掲げる基準に該当しない場合であっても,その賃貸状況等からみて課税しないこととすれば著しく他との均衡を失すると認められるもの については,不動産貸付業と認定 不動産の貸付けの態様がアからウまでに掲げる基準に該当しない場合であっても,その賃貸状況等からみて課税しないこととすれば著しく他との均衡を失すると認められるもの については,不動産貸付業と認定する。この場合,当該不動産の規模,賃貸料収入の状況,当該不動産の管理の状況等を総合的に勘案して行うこととなるが,次の(ア)及び(イ)のいずれにも該当する場合には,特段の事情のない限り,不動産貸付業と認定して差し支えない。」と定め(均衡課税要件),(ア)として「建物の貸付け面積が600㎡以上のもの」(面積要 件)を,(イ)として「建物の貸付けに係る賃貸料収入(一時に収受する権利金及び更新料等を除く。以下同じ。)が年1000万円以上のもの」(収入要件)を,それぞれ掲げている。 エ本件通達が定める事業性の判定基準ところで,個人の具体的な営みが「事業」に該当するか否かは,必ずし も一義的に明確であるとはいえず,何らの基準もなく個別に事業性を判定する方法をとると,事案ごとに区々の判定となる事態を避け難く,また,課税庁の事務負担が過重となり,課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどから,あらかじめ定められた基準に基づいて判定する方が,事業者間の公平,徴税費用の節減等の見地からみて合理的である。そ こで,大阪府では,事業性の判定基準を定める本件通達を発して,個人事業税に関する課税事務の統一的かつ迅速な執行を図っているものと解される(甲4の1)。したがって,本件通達が定める事業性の判定基準が合理的なものである限り,これは事業性の判定基準として妥当性を有するものというべきである。 そして,不動産貸付業に関して本件通達が定める事業性の判定基準のう - 21 -ち,均衡課税要件については,原告もその 性の判定基準として妥当性を有するものというべきである。 そして,不動産貸付業に関して本件通達が定める事業性の判定基準のう - 21 -ち,均衡課税要件については,原告もその合理性及び妥当性を争っておらず,社会通念に照らしても不合理な基準であるとはいえないから,事業性の判定基準として妥当性を有するものということができる。 オ本件各賦課決定処分についての国家賠償法上の違法性及び過失の有無に関する判断基準 以上を前提にすると,本件府税事務所長等が,原告の不動産貸付けが「不動産貸付業」に該当するか否かを判断するに当たり,原則として本件通達に基づいてその判断をする必要があるということができる。そこで,本件各賦課決定処分についての国家賠償法上の違法性及び過失の有無を判断するに当たっては,本件府税事務所長等が,本件通達が定める収入要件を 解釈適用するに当たり,消費税等相当額を含めない賃貸料収入額を基準にしなければならない注意義務を負っていたにもかかわらず,これを尽くすことなく漫然と本件各賦課決定処分をしたといえるか否かが問題となる。 (3) 本件における国家賠償法上の違法性及び過失の有無ア前提となる事情 (ア) 個人事業税の課税標準及びその算定方法並びに賦課方法等地方税法は,個人事業税の課税標準について,当該年度の初日の属する年の前年中における個人の事業の所得による旨規定し(同法72条の49の11第1項),その個人の事業の所得について,その事業に係る総収入金額から必要な経費を控除した金額によるものとし,原則として, 所得税の課税標準である所得につき適用される所得税法26条及び27条に規定する不動産所得及び事業所得の計算の例によって算定する旨規定する(地方税法72 除した金額によるものとし,原則として, 所得税の課税標準である所得につき適用される所得税法26条及び27条に規定する不動産所得及び事業所得の計算の例によって算定する旨規定する(地方税法72条の49の12第1項本文)。 個人事業税は,個人が都道府県の公共サービスから受ける利益の対価であるとの考え方が基礎にあるとすると,その課税標準は,所得ではな く,より受益の程度を現すことができる事業の規模や活動量とすること - 22 -が望ましいとも考えられるところ,地方税法が個人事業税の課税標準及びその算定方法を上記のように規定した趣旨は,①納税義務者の申告事務手続の簡素化に資することに加えて,②納税義務者に対する二重の税務調査の煩雑さを回避することとなるとともに,③徴税費の節減を図ることにあるものと解される。 そして,地方税法は,道府県知事は,原則として,所得税の課税標準である所得のうち不動産所得及び事業所得について当該個人が税務官署に申告等し,又は税務官署が更正等した課税標準を基準として,個人事業税を課する旨規定する(同法72条の50第1項)などし,法令上所得税の所得の計算と異なる取扱いをすることとされている部分を除き, 所得税の課税標準をそのまま個人事業税の課税標準とすることを予定しているのであって,原則として道府県知事の調査により独自に個人事業税の課税標準を決定することは予定していないものと解される。 また,地方税法は,個人事業税の納税義務者で,その事業の所得の金額が事業主控除額を超えるものに,個人事業税の賦課徴収に関する申告 を義務付けているところ(同法72条の55第1項),個人事業税の納税義務者が確定申告書等を提出した場合に,個人事業税の申告がされたものとみなす旨規定し(同法72条の55の2第1 に関する申告 を義務付けているところ(同法72条の55第1項),個人事業税の納税義務者が確定申告書等を提出した場合に,個人事業税の申告がされたものとみなす旨規定し(同法72条の55の2第1項本文),確定申告書等に個人事業税の賦課徴収につき必要な事項を附記しなければならない旨規定するとともに(同法72条の55の2第3項),道府県知事が 個人事業税の賦課徴収について,政府に対し,個人事業税の納税義務者で所得税の納税義務がある個人が政府に提出した申告書等を閲覧し,又は記録することを請求した場合においては,政府は,関係書類を道府県知事又はその指定する職員に閲覧させ,又は記録させるものとする旨規定する(同法72条の59第1項)。 このように,地方税法は,個人事業税の課税標準及びその算定方法並 - 23 -びに賦課方法等について,所得税における所得金額をそのまま基準として個人事業税を算定することによって納税義務者に対する二重の税務調査の煩雑さを回避するなど,課税庁及び納税義務者の事務手続の簡素化を図っているところ,このような趣旨は,個人事業税を課する「事業」に該当するか否かという課税要件の充足性について判断するに当たって も参酌することができるものと解される。 (イ) 消費税等の経理処理の方法所得税法上,消費税等の経理処理の方法として,税込経理方式と税抜経理方式のいずれの経理方式も許容されているところであり,いずれの経理方式を採用するかは事業者の任意の選択に委ねられている(ただし, 免税事業者は税込経理方式を採用しなければならない。)。そして,税込経理方式による場合,課税売上げに係る消費税等の額が「収入」に含まれる一方で,税抜経理方式による場合,課税売上げに係る消費税等の額が「収入」に含まれないことと 用しなければならない。)。そして,税込経理方式による場合,課税売上げに係る消費税等の額が「収入」に含まれる一方で,税抜経理方式による場合,課税売上げに係る消費税等の額が「収入」に含まれないこととなり,このように所得税法26条2項,27条2項所定の「収入」は,事業者が採用した経理処理の方法によっ て異なるものである。また,免税事業者の場合,受領した課税売上げに係る消費税等相当額は,「収入」に含まれるものである。 (ウ) 他の自治体における取扱いa 被告が,令和元年,47都道府県の都道府県税務主管課長に宛てて,個人事業税における不動産貸付業の取扱いについて照会を行ったとこ ろ,全ての都道府県から回答があり,そのうち回答内容を裁判資料として利用することを希望しなかった2県を除く45都道府県からの回答結果から,以下の①~⑤の事実が認められる(乙16の1~3)。 ① 45都道府県のうち44都道府県において,個人事業税における不動産貸付業の認定において,本件総務大臣通知や本件自治省府県 税課長通達で定められている貸付件数に基づく一定の基準を下回る - 24 -場合における,自治体独自の要件(本件通達における均衡課税要件に相当するもの)を設けていた。 ② 上記①の要件を設けていた44都道府県は,いずれも収入基準(本件通達における収入要件に相当するもの)を設けていた。 ③ それらの収入基準における基準額は,年間650万円から120 0万円超まで幅があった。 ④ 44都道府県のうち,半数となる22の自治体が,収入基準からの除外項目(基準額を算定するに当たって除外する費目)を設けていた。 ⑤ 上記の22の自治体のうち,収入基準からの除外項目として,消 費税を掲げている自治体は,被告を含めて令和元年11月の時点 除外項目(基準額を算定するに当たって除外する費目)を設けていた。 ⑤ 上記の22の自治体のうち,収入基準からの除外項目として,消 費税を掲げている自治体は,被告を含めて令和元年11月の時点でわずか6自治体にとどまり,その余の16の自治体は,除外しないか,考慮しないかのいずれかであった。 b 以上の事実が認められるところ,収入基準を定めても,基準額を算定するに当たり,消費税を除外しないか,又は考慮していない自治体 は,上記①の要件を設けていた44の自治体のうち38に及んでいたことになる。 そうすると,47都道府県のうち多くの都道府県が,本件各賦課決定処分がされた当時の被告と同様に,現在においても,個人事業税における不動産貸付業の認定において,収入基準に該当するか否かを判 断するに当たり,本件見解②を採用してはいないものと認められる。 (エ) 本件各賦課決定処分当時の裁判例・学説等本件各賦課決定処分当時,課税庁が,個人事業税における不動産貸付業の認定において,本件通達が定める収入要件のような収入基準に該当するか否かを判断するに当たり,基準とする賃貸料収入額に消費税等相 当額を含めないこととすべきか否かについて明確に論じていた裁判例・ - 25 -学説等は見当たらない(弁論の全趣旨)。 イ検討(ア) 事務手続の簡素化の観点上記ア(ア)のとおり,地方税法は,個人事業税の課税標準及びその算定方法並びに賦課方法等について,納税義務者に対する二重の税務調査 の煩雑さを回避するなど,課税庁及び納税義務者の事務手続の簡素化を図っている。この趣旨は,個人事業税を課する「事業」に該当するか否かという課税要件の充足性について判断するに当たっても参酌することができるものと解される。このような観点からは, の事務手続の簡素化を図っている。この趣旨は,個人事業税を課する「事業」に該当するか否かという課税要件の充足性について判断するに当たっても参酌することができるものと解される。このような観点からは,本件通達が定める収入要件に該当するか否かの判断においても,本件国税資料の収入金額の 賃貸料欄に記載された額を基準にするという考え方(本件見解①)には,相応の合理性があるというべきである。 (イ) 所得税法所定の「収入」概念との関係そして,上記ア(イ)のとおり,所得税法26条2項,27条2項所定の「収入」は,税込経理方式による場合,課税売上げに係る消費税等の 額が「収入」に含まれる一方で,税抜経理方式による場合,課税売上げに係る消費税等の額が「収入」に含まれないと解されることを踏まえると,本件通達が定める収入要件に該当するか否かの判断における「収入」の意義について,上記の所得税法上の規定が定める「収入」と同義のものとみるとの考え方も十分に採り得るものであって,直ちに合理性を欠 くということはできない。 (ウ) 他の自治体における課税実務また,上記ア(ウ)のとおり,多くの自治体における課税実務において,不動産貸付業に該当するか否かの判断について,収入基準を定めても,基準額を算定するに当たり,消費税を除外しないか,又は考慮していな いことが認められるところ,そのような考え方が実務上は十分に通用し - 26 -ているということになるから,同様の考え方を採用していた本件府税事務所長等を直ちに非難することは困難というべきである。 (エ) 本件各賦課決定処分当時の裁判例・学説等さらに,上記ア(エ)のとおり,本件各賦課決定処分当時,課税庁が,個人事業税における不動産貸付業の認定において,本件通達が定める収 べきである。 (エ) 本件各賦課決定処分当時の裁判例・学説等さらに,上記ア(エ)のとおり,本件各賦課決定処分当時,課税庁が,個人事業税における不動産貸付業の認定において,本件通達が定める収 入要件のような収入基準に該当するか否かを判断するに当たり,基準とする賃貸料収入額に消費税等相当額を含めないこととすべきか否かについて明確に論じていた裁判例・学説等は見当たらないことからすれば,課税庁が,収入基準に該当するか否かを判断するに当たり,基準とする賃貸料収入額に消費税等相当額を含めない見解(本件見解②)を当然に 採用すべきであったとはいえない。 (オ) 以上の(ア)~(エ)の各事情を踏まえると,本件府税事務所長等が,本件通達が定める収入要件を解釈適用するに当たり,基準とする不動産賃貸収入額に消費税等相当額を含めないとすることが地方税法や本件通達に照らして当然の解釈であるとして取り扱わなければならなかったと いうことはできない。 したがって,本件府税事務所長等が,本件各賦課決定処分当時,本件通達が定める収入要件を解釈適用するに当たり,消費税等相当額を除いた賃貸料収入額を基準にしなければならないという職務上通常尽くすべき注意義務を負っていたということはできないというべきである。 ウ原告の主張について(ア) これに対し,原告は,本件通達が定める収入要件について,真に「業」といえるだけの実態を備えているか否かという観点から解釈されるべきであって,所得税法や消費税法において課税要件として定められている「収入」とは関係がない旨主張する。 しかしながら,上記ア(ア)・(イ),イ(ア)・(イ)で説示した地方税法 - 27 -の定めや所得税法所定の「収入」概念を踏まえると,本件府税事務所長等が,本件 関係がない旨主張する。 しかしながら,上記ア(ア)・(イ),イ(ア)・(イ)で説示した地方税法 - 27 -の定めや所得税法所定の「収入」概念を踏まえると,本件府税事務所長等が,本件通達が定める収入要件を解釈適用するに当たり,所得税法所定の「収入」として本件国税資料に記載された賃貸料収入額を前提として本件各賦課決定処分をしたことが,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件各賦課決定処分をしたと認められるような事 情であるとはいえない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 (イ) 原告は,仮に,本件通達が定める収入要件の判断に当たって消費税等相当額を含めるとすると,消費税法が改正されて消費税率が上がる度に,業務実態には何ら変わりがないにもかかわらず,賃貸人の事業規模 が拡大していくことになり,不合理である,本件見解①によれば,所得税の確定申告書に記載された収入をもってそのまま機械的に収入要件を判断することになり,全く同一の不動産賃貸を行っていても,税込経理方式か税抜経理方式のいずれを採用していたかという事業規模とは全く無関係な事情により,ある者は「不動産貸付業」に該当し,ある者は該 当しないということになるが,このような結論は納税者間の公平を害するものであって不当である旨主張する。 しかしながら,上記ア(イ),イ(イ)で説示したとおり,所得税法上,消費税等の経理処理の方法として,税込経理方式と税抜経理方式のいずれの経理方式も許容されているところであり,いずれの経理方式を採用 するかは事業者の任意の選択に委ねられているのであって,所得税法26条2項,27条2項所定の「収入」は,税込経理方式による場合,課税売上げに係る消費税等の額が「収入」に含まれる一方で,税抜経理方 するかは事業者の任意の選択に委ねられているのであって,所得税法26条2項,27条2項所定の「収入」は,税込経理方式による場合,課税売上げに係る消費税等の額が「収入」に含まれる一方で,税抜経理方式による場合,課税売上げに係る消費税等の額が「収入」に含まれないこととなり,事業者が採用した経理処理の方法によって異なるものであ る。そうすると,消費税等相当額を除いた賃貸料収入額が同じ金額であ - 28 -っても,消費税等の経理処理の方法によって本件通達が定める収入要件に該当する者とそうでない者が生ずることになるものの(消費税法が改正されて消費税率が上がることによりこのような差異が生ずる場合を含む。),当該事業者が自ら税抜経理方式ではなく税込経理方式を採用し,事業者が受領する消費税等相当額を収入金額に含む会計処理を行ってい ることの結果によるものであるから,税抜経理方式を採用している者との間で異なる取扱いとなることが不合理であるとまではいえない。また,上記ア(イ),イ(イ)で説示したとおり,免税事業者の場合,受領した課税売上げに係る消費税等相当額は,「収入」に含まれるものであり,消費税法が改正されて消費税率が上がることにより「収入」が増加するこ ととなるのであるから,賃貸人の事業規模が拡大していると捉え得るものであり,必ずしも不合理であるとはいえない。地方税法が,個人事業税の課税客体を「事業」と規定する一方で,その課税客体を金額・価額・数量等で表すものである課税標準を事業の規模又は活動量等ではなく「所得」であると規定し,「所得」の多寡をもって「事業」の規模を擬 制していることからしても,上記のように解することが必ずしも不合理であるとはいえない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 (ウ 得」の多寡をもって「事業」の規模を擬 制していることからしても,上記のように解することが必ずしも不合理であるとはいえない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 (ウ) 原告は,被告が原告に対して過去5年分の個人事業税を還付していることは,「不動産貸付業」に該当するか否かを認定するに当たって, 本件見解①を採用したことが客観的に誤りであり,本件見解②が客観的に適切な解釈であることを自認したものである旨主張する。 しかしながら,被告が本件通達の収入要件に関する判断基準を変更し,これに伴い本件府税事務所長が原告に対する個人事業税を還付するに至った経緯等は,前記前提事実(3),(4)のとおりであるところ,仮に,本 件府税事務所長が原告に対して過去5年分の個人事業税を還付している - 29 -ことが,本件府税事務所長等が本件見解①を採用したことが客観的に誤りであり,本件見解②が客観的に適切な解釈であることを自認したものであると解されるとしても,上記イ(オ)で説示したとおり,上記イ(ア)~(エ)の各事情を踏まえると,本件府税事務所長等が,本件各賦課決定処分当時,本件通達が定める収入要件を解釈適用するに当たり,消費税 等相当額を除いた賃貸料収入額を基準にしなければならないという職務上通常尽くすべき注意義務を負っていたということはできないというべきであって,本件府税事務所長が原告に対して過去5年分の個人事業税を還付していることは,上記の判断を左右するものではない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 (エ) 原告は,本件府税事務所長等は,確定申告書の記載から賃貸料収入額が年1000万円以上であるか否かを判断することができない場合,職務上通常尽くすべき 張は採用することができない。 (エ) 原告は,本件府税事務所長等は,確定申告書の記載から賃貸料収入額が年1000万円以上であるか否かを判断することができない場合,職務上通常尽くすべき注意義務として,照会書等によって納税者に対して調査を行う必要があった旨主張する。 しかしながら,本件通達の第3において,不動産貸付業の認定基準に 該当するか否かを認定するための調査は,本件国税資料による調査が原則とされ(同1),本件国税資料によっても不動産貸付業の認定基準に該当するか否かを認定することが困難なものについて,照会書等による調査等を行う旨規定されているにすぎないところ(同2,3),上記イで説示したとおり,本件府税事務所長等が,本件各賦課決定処分当時, 本件通達が定める収入要件を解釈適用するに当たり,消費税等相当額を除いた賃貸料収入額を基準にしなければならないという職務上通常尽くすべき注意義務を負っていたということはできないというべきである。 そうすると,本件府税事務所長等が,照会書等によって納税者に対して調査を行わなければならないという職務上通常尽くすべき注意義務を負 っていたということはできない。 - 30 -したがって,原告の上記主張は採用することができない。 (4) 小括以上によれば,本件府税事務所長等が,本件各賦課決定処分当時,本件通達が定める収入要件を解釈適用するに当たり,消費税等相当額を除いた賃貸料収入額を基準にしなければならないという職務上通常尽くすべき注意義務 を負っていたということはできないから,本件府税事務所長が本件各賦課決定処分をしたことについて,国家賠償法上の違法性及び過失は認められないというべきである。 したがって,争点2について判断するまでもなく,原告の被告に ないから,本件府税事務所長が本件各賦課決定処分をしたことについて,国家賠償法上の違法性及び過失は認められないというべきである。 したがって,争点2について判断するまでもなく,原告の被告に対する国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求は,理由がない。 2 争点3(過徴収された個人事業税を不当利得として返還請求できるか否か)について地方税法17条は,地方団体の長は,過誤納金があるときは,遅滞なく還付しなければならない旨規定しているところ,地方公共団体は,徴収する法律上の原因を欠くから納金された金員を還付するのであって,ここでいう過誤納金 の還付は,公法上の不当利得返還の性質を有するものである。このことからすれば,同条は,納付された地方税に関し,民法の不当利得の特則を定め,過誤納金について民法の不当利得の規定の適用を排除する趣旨であると解するのが相当である。 そうすると,民法上の不当利得として構成された原告の不当利得返還請求は, 主張自体失当といわざるを得ない。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の被告に対する不当利得返還請求は,理由がない。 第4 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれ も理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 - 31 -大阪地方裁判所第7民事部 裁判長裁判官山地 修 裁判官宮端謙一 裁判官渡邊直樹(別表省略) - 32 -(別紙)関係法令等の定め 1 地方税法(1) 過誤納金の還付等地方税法17条は,地方 裁判官渡邊直樹(別表省略) - 32 -(別紙)関係法令等の定め 1 地方税法(1) 過誤納金の還付等地方税法17条は,地方団体の長は,過誤納に係る地方団体の徴収金(以下 「過誤納金」という。)があるときは,政令で定めるところにより,遅滞なく還付しなければならない旨規定する。 地方税法18条の3第1項は,地方団体の徴収金の過誤納により生ずる地方団体に対する請求権及びこの法律の規定による還付金に係る地方団体に対する請求権は,その請求をすることができる日から5年を経過したときは,時効に より消滅する旨規定する。 (2) 賦課決定の期間制限地方税法17条の5第3項は,賦課決定は,法定納期限の翌日から起算して3年を経過した日以後においては,することができない旨規定し,同条4項は,地方税の課税標準又は税額を減少させる賦課決定は,前項の規定にかかわらず, 法定納期限の翌日から起算して5年を経過する日まですることができる旨規定する。 (3) 不動産貸付業における課税標準等ア事業税の納税義務者等地方税法72条の2第3項(平成15年法律第9号による改正前は地方税 法72条1項)は,個人の行う事業に対する事業税は,個人の行う第1種事業,第2種事業及び第3種事業に対し,所得を課税標準として事務所又は事業所所在の道府県において,その個人に課する旨規定する。 地方税法72条の2第8項は,地方税法72条の2第3項の「第1種事業」とは次に掲げるものをいう旨規定し,同項4号は,「不動産貸付業」を掲げ ている(ただし,平成15年法律第9号による改正前は地方税法72条5項 - 33 -4号,平成19年法律第4号による改正前は地方税法72条の2第7 定し,同項4号は,「不動産貸付業」を掲げ ている(ただし,平成15年法律第9号による改正前は地方税法72条5項 - 33 -4号,平成19年法律第4号による改正前は地方税法72条の2第7項4号)。 イ個人事業税の課税標準,その算定方法地方税法72条の49の11第1項(平成15年法律第9号による改正前は地方税法72条の16第1項,平成23年法律第115号による改正前は 72条の49の7第1項)は,個人の行う事業に対する事業税の課税標準は,当該年度の初日の属する年の前年中における個人の事業の所得による旨規定する。 地方税法72条の49の12第1項本文(平成15年法律第9号による改正前は地方税法72条の17第1項本文,平成23年法律第115号による 改正前は72条の49の8第1項本文)は,前条1項の当該年度の初日の属する年の前年中における個人の事業の所得は,当該個人の当該年度の初日の属する年の前年中における事業に係る総収入金額から必要な経費を控除した金額によるものとし,この法律又は政令で特別の定めをする場合を除くほか,当該年度の初日の属する年の前年中の所得税の課税標準である所得につき適 用される所得税法26条及び27条(同法165条1項の規定によりこれらの規定に準ずる場合を含む。)に規定する不動産所得及び事業所得の計算の例によって算定する旨規定する。 ウ個人事業税の賦課方法地方税法72条の50第1項本文(なお,平成15年法律第9号,平成2 3年法律第115号による各改正により下記記載箇所は実質的な変更がない。)は,個人の行う事業に対し事業税を課する場合においては,同条4項に規定する場合を除き,道府県知事は,当該個人の当該年度の初日の属する年の前年中の所得税の課税標準である所得のうち同 的な変更がない。)は,個人の行う事業に対し事業税を課する場合においては,同条4項に規定する場合を除き,道府県知事は,当該個人の当該年度の初日の属する年の前年中の所得税の課税標準である所得のうち同法72条の49の12第1項においてその計算の例によるものとされる所得税法26条及び27条に 規定する不動産所得及び事業所得について当該個人が税務官署に申告し,若 - 34 -しくは修正申告し,又は税務官署が更正し,若しくは決定した課税標準を基準として,事業税を課するものとする旨規定する。 エ個人事業税の賦課徴収に関する申告の義務地方税法72条の55第1項(なお,平成15年法律第9号,平成23年法律第115号による各改正により下記記載箇所は実質的な変更がない。) は,個人の行う事業に対する事業税の納税義務者で,同法72条の49の12第1項の規定によって計算した個人の事業の所得の金額が同法72条の49の14第1項の規定による控除額を超えるものは,総務省令の定めるところにより,当該年度の初日の属する年(以下,この項及び次項において「当該年」という。)の3月15日までに,当該年の前年中の事業の所得並びに 当該年の前年において生じた譲渡損失の金額及び同法72条の49の12第2項及び第3項の事業専従者控除に関する事項その他当該事業の所得の計算に必要な事項を事務所又は事業所所在地の道府県知事に申告しなければならない旨規定する。 地方税法72条の55の2第1項本文は,個人の行う事業に対する事業税 の納税義務者が前年分の所得税につき所得税法2条1項37号の確定申告書を提出し,又は道府県民税につき地方税法45条の2第1項の申告書(以下,上記確定申告書と併せて「確定申告書等」という。)を提出した場合には,本節の規定の適用につ き所得税法2条1項37号の確定申告書を提出し,又は道府県民税につき地方税法45条の2第1項の申告書(以下,上記確定申告書と併せて「確定申告書等」という。)を提出した場合には,本節の規定の適用については,当該申告書が提出された日に前条1項から3項までの規定による申告がされたものとみなす旨規定し,地方税法72条の 55の2第2項は,前項本文の場合には,当該申告書に記載された事項のうち前条1項から3項までに規定する事項に相当するもの及び次項の規定により附記された事項は,同条1項から3項までの規定により申告されたものとみなす旨規定し,地方税法72条の55の2第3項は,同条1項本文の場合には,同項に規定する申告書を提出する者は,当該申告書に,総務省令で定 めるところにより,事業税の賦課徴収につき必要な事項を附記しなければな - 35 -らない旨規定する。 オ所得税に関する書類の供覧等地方税法72条の59第1項(なお,平成14年法律第80号,平成15年法律第9号,平成18年法律第53号,平成22年法律第4号による各改正により下記記載箇所は実質的な変更がない。)は,道府県知事が事業税の 賦課徴収について,政府に対し,事業税の納税義務者で所得税の納税義務がある個人が政府に提出した申告書・修正申告書又は政府が当該個人の課税標準・税額についてした更正・決定に関する書類を閲覧し,又は記録することを請求した場合においては,政府は,関係書類を道府県知事又はその指定する職員に閲覧させ,又は記録させるものとする旨規定する。 2 「地方税法の施行に関する取扱について(道府県税関係)」(平成22年4月1日総税都第16号総務大臣通知。以下「本件総務大臣通知」という。乙2の1の1。なお,昭和29年5月13日自乙府発第109号各都道 地方税法の施行に関する取扱について(道府県税関係)」(平成22年4月1日総税都第16号総務大臣通知。以下「本件総務大臣通知」という。乙2の1の1。なお,昭和29年5月13日自乙府発第109号各都道府県知事宛自治庁次長通達〔乙2の1の2〕も同旨。)第3章第1節第2・2の1は,事業税の課税客体の認定については,次の諸点 に留意することと規定し,同(3)は,「不動産貸付業とは,継続して,対価の取得を目的として,不動産の貸付け(地上権又は永小作権の設定によるものを含む。)を行う事業をいうものであること。なお,不動産貸付業に該当するかどうかの認定に当たっては,所得税の取扱いを参考とするとともに次の諸点に留意すること。 (略)」と規定し,「アアパート,貸間等の一戸建住宅以外の住宅の貸付けを 行っている場合においては居住の用に供するために独立的に区画された一の部分の数が,一戸建住宅の貸付けを行っている場合においては住宅の棟数が,それぞれ10以上であるものについては,不動産貸付業と認定すべきものであること。」,「イ住宅用土地の貸付けを行っている場合においては,貸付け契約件数(一の契約において2画地以上の土地を貸付けている場合はそれぞれを1件とする。) が10件以上又は貸付総面積が2000平方メートル以上であるものについて - 36 -は,不動産貸付業と認定すべきものであること。」,「ウ一戸建住宅とこれ以外の住宅の貸付け又は住宅と住宅用土地の貸付けを併せて行っている場合等については,ア又はイとの均衡を考慮して取り扱うことが適当であること。」と規定する。 3 「個人事業税における不動産貸付業の認定について」(昭和56年9月25日 自治府第85号自治省税務局府県税課長通達。以下「本件自治省府県税課長通達」という。乙2の2 こと。」と規定する。 3 「個人事業税における不動産貸付業の認定について」(昭和56年9月25日 自治府第85号自治省税務局府県税課長通達。以下「本件自治省府県税課長通達」という。乙2の2)(1) 「1 不動産の貸付けが不動産貸付業に該当するかどうかは,当該不動産の規模,賃貸料収入の状況,当該不動産の管理の状況等を総合的に勘案して認定すべきものであるが,次に掲げるようなものについては不動産貸付業と認定し てさしつかえないものであること。」と規定し,「(1) 住宅以外の建物の貸付けを行っている場合については,当該建物の貸与することができる独立的に区画された一の部分の数が10(独立家屋にあっては,5棟)以上であるもの」,「(2) 住宅用土地以外の土地の貸付けを行っている場合については,貸付け契約件数が10件以上であるもの」を掲げている。 (2) 「3 不動産の貸付けを行っている場合において,当該貸付不動産の室数,棟数又は貸付け契約件数が依命通達第3章4(3)又は上記1若しくは2の不動産貸付業と認定すべき基準未満であっても,その賃貸状況等からみて課税しないこととすれば著しく他との均衡を失すると考えられるものについては,課税することとしてさしつかえないものであること。」と規定する。なお,依命通 達第3章4(3)は,上記2の第3章第1節第2・2の1(3)と同旨である。 4 「個人事業税に係る不動産貸付業及び駐車場業の課税の取扱いについて(通達)」(昭和57年1月18日課第511号総務部長通達。以下「本件通達」という。 甲4の1)(1) 「第1 不動産貸付業及び駐車場業の認定」 第1・1は,不動産貸付業とは,継続して,対価の取得を目的として,不動 - 37 -産の貸付け(地上権又は永小作権の設定による の1)(1) 「第1 不動産貸付業及び駐車場業の認定」 第1・1は,不動産貸付業とは,継続して,対価の取得を目的として,不動 - 37 -産の貸付け(地上権又は永小作権の設定によるものを含む。)を行う事業をいい,具体的な認定は次による旨規定し,同(1)は,不動産の貸付けを行っている場合において,当該不動産の貸付けの態様がアからエまでのいずれかに該当するものを不動産貸付業として認定する旨規定する。 ア 「ア建物の貸付けのみを行っている場合」 (ア) アパート,貸間等の一戸建住宅以外の住宅の貸付けを行っている場合については,居住の用に供するための室数(独立的に区画された一の部分の数をいう。以下同じ。)が10以上であるもの(イ) 一戸建住宅の貸付けを行っている場合については,住宅の棟数が10以上であるもの (ウ) 住宅以外の建物の貸付けを行っている場合については,当該建物の貸与することができる室数が10(独立家屋にあっては,5棟)以上であるもの(エ) 一戸建住宅と住宅以外の独立家屋とを貸付けている場合等種類の異なる建物の貸付けを併せて行っている場合については,(ア)から(ウ)までの いずれかに該当するときを除き,当該建物の室数若しくは棟数又はこれらの数の合計数が10以上であるものイ 「イ土地の貸付けのみを行っている場合」(ア) (イ)に該当する場合を除き,貸付け契約件数(一の契約において2画地以上の土地を貸し付けている場合は,それぞれを1件とする。ウにおい て同じ。)が10件以上であるもの(イ) 住宅用土地の貸付けを行っている場合又は住宅用土地と住宅用土地以外の土地の貸付けを併せて行っている場合については,住宅用土地の貸付け総面積が て同じ。)が10件以上であるもの(イ) 住宅用土地の貸付けを行っている場合又は住宅用土地と住宅用土地以外の土地の貸付けを併せて行っている場合については,住宅用土地の貸付け総面積が2000㎡以上であるものウ 「ウ建物の貸付けと土地の貸付けとを併せて行っている場合」 一戸建住宅と住宅用土地以外の土地とを貸し付けている場合等種類の異な - 38 -る不動産の貸付けを併せて行っている場合については,当該不動産のうち一の種類の不動産について認定すべき基準以上のものがあるときを除き,当該不動産の室数,棟数若しくは土地の貸付け契約件数又はこれらの数の合計数が10以上であるものエ 「エアからウに該当しないものの場合」 不動産の貸付けの態様がアからウまでに掲げる基準に該当しない場合であっても,その賃貸状況等からみて課税しないこととすれば著しく他との均衡を失すると認められるものについては,不動産貸付業と認定する。この場合,当該不動産の規模,賃貸料収入の状況,当該不動産の管理の状況等を総合的に勘案して行うこととなるが,次の(ア)及び(イ)のいずれにも該当する場合 には,特段の事情のない限り,不動産貸付業と認定して差し支えない。 (ア) 建物の貸付け面積が600㎡以上のもの(以下「面積要件」という。)(イ) 建物の貸付けに係る賃貸料収入(一時に収受する権利金及び更新料等を除く。以下同じ。)が年1000万円以上のもの(以下「収入要件」といい,第1・1(1)エに係る基準を「均衡課税要件」という。) (2) 「第3 調査」ア 「1 国税資料による調査」第1・1(1)に定める基準に該当するかどうかを認定するための調査は,「所得税の確定申告書」及び「所得税青色申告決算書(不 (2) 「第3 調査」ア 「1 国税資料による調査」第1・1(1)に定める基準に該当するかどうかを認定するための調査は,「所得税の確定申告書」及び「所得税青色申告決算書(不動産所得用)」又は「収支内訳書(不動産所得用)」により毎年4月上旬までに行う。 イ 「2 照会書等による調査」(1)として,1に定める資料によっても第1・1(1)に定める基準に該当するかどうかを認定することが困難なものについては,「不動産の賃貸状況についてのお尋ね(様式第2号)」(以下「照会書」という。)により納税者に対し調査を行う旨規定する。 (2)として,(1)の照会書に対する回答がなかったものについては,実地調 - 39 -査等により不動産の賃貸状況を確認する旨規定する。 ウ 「3 固定資産税等資料による調査」1及び2の調査によっても第1・1(1)に定める基準に該当するかどうかを認定することが困難なもの,又は建物の貸付総面積が第1・1(1)エ(ア)に該当しないもの(当該建物に係る賃貸料収入が第1・1(1)エ(イ)に該当しな いものを除く。)については,固定資産課税台帳又は家屋名寄帳等により調査を行う旨規定する。 以上
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