平成18(行コ)97 損害賠償請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成16年(行ウ)第75号)

裁判年月日・裁判所
平成19年3月28日 大阪高等裁判所 住民訴訟
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判決文本文12,626 文字)

- 1 -主文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1控訴の趣旨 原判決中,控訴人に関する部分を取り消す。 被控訴人は,Aに対し3億2226万8895円及びこれに対する平成16年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める請求をせよ。 被控訴人は,Bに対し,3億3865万6709円及びこれに対する平成16年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める請求をせよ。 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。 第2事案の概要 大阪市の住民等である控訴人及び1審相原告Cは,大阪市長の職にあったA及びB(以下,両名を「Aら」という。)が,10年以上勤続して退職した職員について一律に退職時に特別昇給を行ったことが職員の給与に関する条例(昭和31年大阪市条例第29号。平成17年大阪市条例第20号による改正前のもの。以下「給与条例」という。)に違反し違法であり,同市はAらの違法(不法)行為によって当該特別昇給に基づいて支給された退職手当(増加分)相当額の損害を被ったなどと主張して,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,大阪市長である被控訴人に対し,上記損害のうち平成14年度中で平成15年3月24日以後に退職時特別昇給に基づく退職手当の支給を受けたものに係る損害及び平成15年度に退職時特別昇給に基づく退職手当の支給を受けたものに係る損害中,住民監査請求に基づく監査委員の勧告を受けて第三者弁済により補填された部分を除いた部分について,Aに対し同人の決定し- 2 -た特別昇給に係る分の損害賠償として3億2226万8895円(後記3(3)イ(オ)の3億1429万6040円+後記3(3)イ(カ)の1271万2093円-後記3(8)の473万9238円) 2 -た特別昇給に係る分の損害賠償として3億2226万8895円(後記3(3)イ(オ)の3億1429万6040円+後記3(3)イ(カ)の1271万2093円-後記3(8)の473万9238円)及びこれに対する平成16年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支払を求める請求をすることを,Bに対し同人の決定した特別昇給に係る分の損害賠償として3億3865万6709円(後記3(3)イ(カ)の3億4102万6692円-後記3(8)の236万9983円)及びこれに対する平成16年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支払を求める請求をすることを,それぞれ求めた(住民訴訟)。 原審裁判所は,Aらの行為は不法行為を構成しないとして,控訴人及び1審相原告Cの請求をいずれも棄却した。 これを不服として,控訴人のみ控訴した。 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実)(1)控訴人は大阪市に本店が所在する株式会社である。 (2)Aは,Bが大阪市長に就任するまで大阪市長の職にあった者であり,Bは,平成15年12月19日から大阪市長の職にある者である。なお,Bは大阪市長に就任する前は大阪市の助役の職にあった。 (3)退職時特別昇給制度ア国国家公務員の退職手当については国家公務員退職手当法で定められているところ,退職した者に対する退職手当の額は,退職の日におけるその者の俸給月額を基礎として,これに一定割合を乗じるなどして得た額とされている。 一般職の職員の給与に関する法律(平成17年法律第113号による改正前のもの。以下同じ。以下「給与法」ということがある。)8条7項は,特別昇給を定めているところ,これに基づき,人事院規則9-8(平成1- 3 -6年人事院規則9-8-52による改正前 号による改正前のもの。以下同じ。以下「給与法」ということがある。)8条7項は,特別昇給を定めているところ,これに基づき,人事院規則9-8(平成1- 3 -6年人事院規則9-8-52による改正前のもの)第39条は,勤務成績が特に良好な職員が次のいずれかに該当する場合には,上位の号俸に昇給させることができると定めている。 (ア)研修に参加し,その成績が特に良好な場合(イ)業務成績の向上,能率増進,発明考案等により職務上特に功績があったことにより,(中略)表彰又は顕彰を受けた場合(ウ)20年以上勤続して退職する場合(エ)(前略)廃職又は過員を生じたことにより退職する場合イ大阪市(ア)地方公務員の給与は,地方公共団体ごとに条例で定められるものとされ(給与条例主義,地方公務員法24条6項,25条1項,地方自治法204条3項,204条の2),生計費並びに国及び他の地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定められなければならないとされている(均衡の原則。地方公務員法24条3項)。 (イ)大阪市は,地方公務員法24条6項の規定に基づき,職員の給与に関する条例(昭和31年大阪市条例第29号。平成17年大阪市条例第20号による改正前のもの。給与条例)を制定し,5条6項において「職員の勤務成績が特に優秀である場合その他市長が特に必要と認めた場合においては,前項の規定にかかわらず,・・・・その現に受けている号給より上位の号給に昇給させることができる。」旨規定している。 (ウ)大阪市においては,昭和37年から,給与条例5条6項に定める「市長が特に必要と認めた場合」の適用として,定年又は定年に準じる事由で退職する職員に係る特別昇給についての基準をその都度決裁により定めてきた。その内容は,具体的には,①定年退 例5条6項に定める「市長が特に必要と認めた場合」の適用として,定年又は定年に準じる事由で退職する職員に係る特別昇給についての基準をその都度決裁により定めてきた。その内容は,具体的には,①定年退職,早期退職,希望退職をする者で10年以上勤続したもの,②傷病・死亡退職をする- 4 -者で55歳に達する日の属する年度の末日を超えて退職する場合で10年以上勤続したもの,である(以下,この基準を「本件昇給基準」という。)。 なお,大阪市においては,職員の定年に関する条例2条及び同条3条に基づく教育委員会所管の学校の教員の定年に関する規則2条により,定年は60歳とされ,定年に達した日以後のおける最初の3月31日に退職(定年退職)するとされている。60歳定年制度実施時期は,大阪市においては平成元年4月1日であり,国においては昭和60年3月31日である。(甲2)また,定年に準じる事由による退職とは,職員の退職手当に関する条例施行規則4条に基づくもので,55歳から59歳に達する日以後における最初の3月31日に退職した者の「早期退職」,50歳以上又は勤続25年以上で55歳に達する日の属する年度の末日前に退職した者の「希望退職」等のことである。(甲2)(エ)そして,大阪市においては,教育委員会所管の学校に勤務する教員等を除く職員の定年退職及び定年に準ずる事由による退職について,給与条例5条6項に定める「市長が特に必要と認めた場合」の適用として,10年以上勤続した者に対して特別昇給を実施する旨の市長決裁がされ,教育委員会所管の学校に勤務する教員等については,同項の適用として,20年以上勤続して定年退職する者に対して特別昇給を実施する旨の教育長決裁がされていた(なお,この教員等についての扱いは,府費負担教員等との均衡を考慮したものである。以下 いては,同項の適用として,20年以上勤続して定年退職する者に対して特別昇給を実施する旨の教育長決裁がされていた(なお,この教員等についての扱いは,府費負担教員等との均衡を考慮したものである。以下,大阪市におけるこれらの退職時特別昇給の取扱いを「本件退職時特別昇給」という。)。 この場合の基準となる勤続期間については,当該事務局等において,人事給与に関するデータ,人事記録カード,勤務記録カードなどをもとに,退職予定者の採用年月日及び退職予定年月日からこれを算出して,- 5 -認定を行っていた。(甲2)(オ)平成14年度に大阪市を退職した職員は1597人であって,そのうち本件退職時特別昇給に基づく退職手当の支給を受けたものは1172人であり,また,この1172人のうち平成15年3月24日以後に上記退職手当の支給を受けたものは1121人であった。 上記1121人の職員についての本件昇給基準はAが市長として定めたものであり,本件退職時特別昇給に基づく退職手当の支給を行ったことによる退職手当支給額の増加額は3億1429万6040円である。 (乙3)なお,上記1121人の内訳は,定年退職が867人,早期退職が202人,希望退職等が52人であり,この中に勤続年数10年以上20年未満の退職者が3人,勤続期間中に懲戒処分を受けた者が10人含まれていた。 (カ)平成15年度に大阪市を退職した職員は1813人であって,そのうち本件退職時特別昇給に基づく退職手当の支給を受けたものは1292人であった。 上記1292人の職員のうち51人の職員についての本件昇給基準はAが市長として定めたものであり,1241人の職員についての本件昇給基準はBが市長として定めたものである。 本件退職時特別昇給に基づく退職手当の支給を行ったことによる退職手当支給額の増加額は 基準はAが市長として定めたものであり,1241人の職員についての本件昇給基準はBが市長として定めたものである。 本件退職時特別昇給に基づく退職手当の支給を行ったことによる退職手当支給額の増加額は,上記51人の職員に関する部分が1271万2093円,上記1241人の職員に関する部分が3億4102万6692円である。(乙3)なお,上記1292人の内訳は,定年退職が975人,早期退職が202人,希望退職等が115人であり,この中に勤続年数10年以上20年未満の退職者が4人,勤続期間中に懲戒処分を受けた者が7人,勤- 6 -怠不良により退職手当の減額措置を受けた者が3人含まれていた。 (4)控訴人及び1審相原告Cは,平成16年3月24日,本件退職時特別昇給は勤務成績が特に優秀であることを認定するための検討や作業もなくほぼ全員一律に実施されてきたが,市長にとって職員管理上有効であるとか,職員にとっては長年の勤労への当然の報償であるといった考え方は地方公務員法及び給与条例が本来予定している特別昇給の理由とはならず,本件退職時特別昇給は違法,不当な決定で,これに基づく退職金の支給も違法,不当であり,これによって大阪市は平成13年度は3億3632万9355円,平成14年度は2億9832万0387円の損害を被っているなどとして,Aら職員に上記損害の賠償,填補を勧告するとともに大阪市長(B)に対し平成15年度末の退職者について本件退職時特別昇給に基づく退職手当の支給(3億4458万1302円の支出)の差止めを勧告することを求める住民監査請求(以下「本件監査請求」という。)をした。(甲1)(5)大阪市監査委員は,本件監査請求に対し,監査の対象を支出日から1年を経過していない平成14年度及び平成15年度の定年退職時等における特別昇給(本件退職時特 査請求」という。)をした。(甲1)(5)大阪市監査委員は,本件監査請求に対し,監査の対象を支出日から1年を経過していない平成14年度及び平成15年度の定年退職時等における特別昇給(本件退職時特別昇給)及びそれに係る支出としたうえ,本件退職時特別昇給の適用基準については,給与条例5条6項に基づくものとして,10年以上勤続して定年退職等した者と設定しているが,国が定める20年以上勤続の要件に該当しない者に対する適用については合理性を欠くものであり,また,勤続期間中に懲戒処分を受けた者及び勤怠不良で退職手当の減額措置を受けた者に対する適用について,その事実を考慮することなく,「勤務成績が特に優秀である場合」と同等の評価を得るものと設定していた取扱いは,不適正なものであり,これらについては大阪市の損害と認められるなどとして,本件退職時特別昇給が適用されて支出された退職手当のうち20年以上勤続に満たない者7名に対する本件退職時特別昇給に基づく支出105万6246円については当該昇給の決定権者から損害の補填がされるよう- 7 -措置を講じること並びに本件退職時特別昇給に基づいて支出された退職手当のうち勤続期間中に懲戒処分を受けた者17名及び勤怠不良で退職手当の減額措置を受けた者3名に対する本件退職時特別昇給に基づく支出605万2975円については当該昇給の決定権者から損害の補填がされるよう措置を講じることを勧告し,平成16年5月21日付けでその旨控訴人及び1審相原告Cに通知した。 (6)人事院規則9-8は,平成16年4月12日人事院規則9-8-52により改正され(以下,この改正前のものを「旧人事院規則」という。),改正前の同規則39条3号の規定による昇給制度(退職時特別昇給制度)は同年5月1日以降廃止された。この改正を受けて,総務省自治 2により改正され(以下,この改正前のものを「旧人事院規則」という。),改正前の同規則39条3号の規定による昇給制度(退職時特別昇給制度)は同年5月1日以降廃止された。この改正を受けて,総務省自治行政局公務員部長同年4月13日付け総行給第88号「研修,表彰等による特別昇給のうち20年以上勤続して退職した場合にかかる特別昇給制度の廃止について」が発出され,各都道府県等を通じて各市町村等に対し,地方公共団体においても速やかに国に準じた措置を講ずるよう要請がされた。これを受けて,大阪市においても,退職時特別昇給制度は平成16年5月1日以降廃止された。 (甲2)(7)控訴人及び1審相原告Cは,平成16年6月14日,本件訴えを提起した。 (8)被控訴人は,本件監査請求に対する監査委員の上記(5)の勧告を受けて,20年以上勤続に満たない者7名に対する当該昇給適用に伴って支出された上記105万6246円並びに勤続期間中に地方公務員法29条1項所定の懲戒処分を受けた者17名及び勤怠不良で退職手当の減額措置を受けた者3名に対する当該昇給適用に伴って支出された上記605万2975円の合計710万9221円について大阪市の損害と認め,平成16年6月23日付けで,この損害金のうちAが決定した本件昇給基準に基づく退職手当の支給に係る損害金473万9238円の補填をAに請求するとともに,大阪市長- 8 -職務代理者大阪市助役により当該損害金のうちBが決定した本件昇給基準に基づく退職手当の支給に係る損害金236万9983円の補填をBに請求したところ,その全額について,同年7月16日,大阪市職員ら(大阪市総務局D会)による第三者弁済がされた。(乙5ないし11) 争点及び争点に関する当事者の主張原判決「事実及び理由」中の「第2事案の概要」4欄に記載のとお て,同年7月16日,大阪市職員ら(大阪市総務局D会)による第三者弁済がされた。(乙5ないし11) 争点及び争点に関する当事者の主張原判決「事実及び理由」中の「第2事案の概要」4欄に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決11頁1行目の「8条5項」を「8条7項」と改める。)。 第3当裁判所の判断 特別昇給に関する関係法令の定め等原判決「事実及び理由」中の「第3争点に対する判断」1欄に記載のとおりであるから,これを引用する。 本件退職時特別昇給の適法性(争点(1))について(1)上記第2の3の前提事実に,証拠(甲2,乙4)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。 ア平成14年度及び平成15年度当時は,国においても,旧人事院規則9-8第39条3号,40条に基づき退職時特別昇給がされていたところ,平成14年度の特別昇給の適用状況について,宮内庁,気象庁等7省庁では特別昇給の候補者全員を特別昇給させており,人事院及び防衛庁を除く13省庁では,候補者のうち90パーセントを超える職員が特別昇給したと新聞報道されている。 イ国家公務員の退職手当については,総務省が行う民間企業退職金実態調査の結果に基づき官民格差の解消が図られている。そして,総務省が行った平成13年の上記民間企業退職金実態調査の結果をふまえ,国家公務員退職手当法等の一部を改正する法律が成立,公布され,これに伴い,平成15年6月6日付け総行給第147号「職員の退職手当に関する条例等の- 9 -一部を改正する条例(案)について」として,総務局長宛に総務省自治行政局公務員部給与能率推進室長名で,速やかに条例改正の措置を講ずるよう要請する通知がされ,これを受けて,大阪市も,給与条例の支給率の改正をした。 ウ総務省は,「国においては,人事院 に総務省自治行政局公務員部給与能率推進室長名で,速やかに条例改正の措置を講ずるよう要請する通知がされ,これを受けて,大阪市も,給与条例の支給率の改正をした。 ウ総務省は,「国においては,人事院がその整備された体制によって給与制度の研究を行い,毎年官民給与比較及び生計費を考慮して,国家公務員給与についての報告又は勧告を行い,これに基づいてその給与制度が定められているため,国家公務員と同種の職務に従事する地方公務員の給与については,国の制度に準ずることが,結果において地方公務員法24条3項にいう生計費,民間事業の従事者,国及び他の地方公共団体の職員の給与を最もよく考慮していることとなり,同条の規定の趣旨に最も適合する」との見解を示している。 エ定年及び定年に準ずる事由による退職に基づく退職時特別昇給の適用基準について,国が勤続期間20年としているところ,大阪市は10年としているが,これは大阪市の退職時特別昇給実施時の昭和37年において,国には定年制度がなかったが,大阪市は昭和36年から55歳定年制を実施していた状況を考慮したためである。 以上の事実が認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。 (2)ところで,平成14年度及び平成15年度においても,当時市長の職にあったA又はBにより本件昇給基準が定められ,本件昇給基準に従った退職時特別昇給(本件退職時特別昇給)に係る退職手当の支給がされたが,本件昇給基準に適合する職員について一律に特別昇給を行ったことから,本件退職時特別昇給に基づいて退職手当の支給を受けた職員の中には勤続年数10年以上20年未満の退職者及び勤続期間中に懲戒処分を受けた者等が含まれていた。そして,本件監査請求に基づく監査において,平成14年度における本件退職時特別昇給のうち平成15年3月24日以後のもの及び当該特別 0年未満の退職者及び勤続期間中に懲戒処分を受けた者等が含まれていた。そして,本件監査請求に基づく監査において,平成14年度における本件退職時特別昇給のうち平成15年3月24日以後のもの及び当該特別- 10 -昇給に係る支出(該当者1121人)並びに平成15年度における本件退職時特別昇給及び当該特別昇給に係る支出(該当者1292人)が監査の対象とされたうえ,監査の結果,監査委員により,本件退職時特別昇給が適用されて支出された退職手当のうち20年以上勤続に満たない者7名に対する本件退職時特別昇給に基づく支出105万6246円並びに勤続期間中に懲戒処分を受けた者17名及び勤怠不良で退職手当の減額措置を受けた者3名に対する本件退職時特別昇給に基づく支出605万2975円について,当該昇給の決定権者から損害の填補がされるよう措置を講じることが勧告され,当該勧告を受けて,その全額について大阪市に対する第三者弁済がされた。 その結果,本訴においては,平成14年度における本件退職時特別昇給のうち平成15年3月24日以後のもの及び当該特別昇給に係る支出並びに平成15年度における本件退職時特別昇給及び当該特別昇給に係る支出のうち,20年以上勤続に満たない者に対する本件退職時特別昇給及び当該特別昇給に係る支出並びに勤続期間中に懲戒処分を受けた者及び勤怠不良で退職手当の減額措置を受けた者に対する本件退職時特別昇給及び当該特別昇給に係る支出を除いたものが審理の対象とされている。すなわち,本訴において審理の対象とされている本件退職時特別昇給は,①定年退職,早期退職,希望退職をする者のうち,20年以上勤続した者であって,かつ,勤続期間中に懲戒処分又は勤怠不良による退職手当の減額措置を受けたことのない者,②傷病・死亡退職をする者で55歳に達する日の属する年度の 希望退職をする者のうち,20年以上勤続した者であって,かつ,勤続期間中に懲戒処分又は勤怠不良による退職手当の減額措置を受けたことのない者,②傷病・死亡退職をする者で55歳に達する日の属する年度の末日を超えて退職する場合のうち,20年以上勤続した者であって,かつ,勤続期間中に懲戒処分又は勤怠不良による退職手当の減額措置を受けたことのない者,を基準として行われたことになる。本訴は,A又はBが大阪市長として行った本件退職時特別昇給が不法行為に該当するとして同人らにその損害賠償を請求することを被控訴人に求めるものであると解されるから,本件退職時特別昇給の対象とされた個々の職員について,当該特別昇給が給与条例5条6項- 11 -に適合する適法なものであるか否かを検討すべきであるところ,以上からすれば,本訴においては,審理の対象とされている上記①及び②の基準に該当する者について行われた特別昇給,すなわち,20年以上勤続した者であって,かつ,勤続期間中に懲戒処分又は勤怠不良による退職手当の減額措置を受けたことのない者について行われた退職時特別昇給及びこれに基づく退職手当の支給が給与条例5条6項に適合する適法なものであるか否かを検討すれば足りることになる(これが給与条例5条6項に適合する適法なものであれば,Aらは大阪市に対する不法行為に基づく損害賠償義務を負わないし,違法なものであればAらはこの損害賠償義務を負うこととなる。)。 (3)大阪市は,職員の給与は条例で定めるものとした地方公務員法24条6項の規定に基づいて,給与条例を制定し,その5条6項において,勤務成績が特に優秀である場合その他市長が特に必要と認めた場合に特別昇給させることができる旨規定するところ,大阪市長であるAらは,この規定に基づいて,国等における退職時特別昇給の実施状況,大 いて,勤務成績が特に優秀である場合その他市長が特に必要と認めた場合に特別昇給させることができる旨規定するところ,大阪市長であるAらは,この規定に基づいて,国等における退職時特別昇給の実施状況,大阪市におけるこれまでの退職手当の支給実績等の実情を考慮し,平成14年度及び平成15年度において,決裁により本件昇給基準を定め,これを満たすものについて,退職時に1号給昇給させ,当該昇給後の給与月額に基づいて算定した特別昇給を支給したものであるが(本件退職時特別昇給),給与条例5条6項の上記「市長が特に必要を認めた場合」の規定については,その判断を広く市長の裁量にゆだねることは給与条例主義(地方公務員法24条6項,25条1項,地方自治法204条3項,204条の2)の許容するところではないというべきであり,この規定は,勤務成績が特に優秀である場合と同等の評価が得られる事由を市長がその合理的な裁量により認めた場合に特別昇給を行うことができるとの趣旨の規定と解するのが,その文言や給与条例主義からも相当である。 この観点から,本件退職時特別昇給及びこれに基づく退職手当の支給(た- 12 -だし,上記(2)の限定された者について行われたもの)が給与条例5条6項に照らし適法なものかどうかを検討するに,大阪市長であるAらは,本件退職時特別昇給の決裁を行うについて,同項にいう「勤務成績が特に優秀である場合」を満たすかどうかの判断は行わずに,20年以上勤続した者であって,かつ,勤続期間中に懲戒処分又は勤怠不良による退職手当の減額措置を受けたことのない者につき,本訴において審理の対象となっている退職時特別昇給及びこれに基づく退職手当の支給を行ったのであるが,これらの者は,国の場合に旧人事院規則で,勤務成績が特に良好な職員で20年以上勤続して退職する場合に特別 おいて審理の対象となっている退職時特別昇給及びこれに基づく退職手当の支給を行ったのであるが,これらの者は,国の場合に旧人事院規則で,勤務成績が特に良好な職員で20年以上勤続して退職する場合に特別昇給を適用する旨規定され,この「20年以上勤続して退職する場合」が「研修に参加し,その成績が特に良好な場合」「業務成績の向上,能率増進,発明考案等により職務上特に功績があったことにより,(中略)表彰又は顕彰を受けた場合」などと同列に扱われていること(旧人事院規則9-8第39条)からしても,上記した「勤務成績が特に優秀である場合と同等の評価が得られる事由」を具備した者と認め得ないわけではない。また,「職員の給与は,生計費並びに国及び他の地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定められなければならない。」(地方公務員法24条3項)とのいわゆる均衡の原則にのっとり,各地方公共団体は,退職時特別昇給についても,国家公務員の取扱いに準じてこれを実施してきたものであり,現に大阪市においても,給与条例5条6項において,国家公務員の場合の給与法8条7項に準じた内容を定め,これに基づいて,本件退職時特別昇給を行ったのであるが,国においては,平成16年5月にこの制度が廃止されるまで,特別昇給を適用するについての勤務成績が良好であるという要件を緩やかに解釈し,実際には20年以上勤務して退職する職員のほぼ全員について広く退職時特別昇給を認める運用をしてきたものであることに照らすと,Aらにおいて「勤務成績が特に優秀である場合」を満たすかどうかの判断は行わずに,20年以上勤続した者であっ- 13 -て,かつ,勤続期間中に懲戒処分又は勤怠不良による退職手当の減額措置を受けたことのない者につき,本訴において審理の対象となっている退職時特別昇 断は行わずに,20年以上勤続した者であっ- 13 -て,かつ,勤続期間中に懲戒処分又は勤怠不良による退職手当の減額措置を受けたことのない者につき,本訴において審理の対象となっている退職時特別昇給及びこれに基づく退職手当の支給を行ったことにも一定の合理性があったというべきである。加えて,退職手当の支給額は給与月額に支給率を乗じて算定されるものであるが,特別昇給後の退職手当の支給額そのものについては,総務省の民間企業退職金実態調査に基づき,支給率が適宜見直されることによって,国及び地方公共団体と民間企業の均衡が図られる制度になっているものである(現に,総務省が行った平成13年の上記民間企業退職金実態調査の結果をふまえ,国家公務員退職手当法等の一部を改正する法律が成立,公布され,これに伴い,総務省から平成15年6月6日付けで,速やかに条例改正の措置を講ずるよう要請する通知がされ,これを受けて,大阪市は給与条例の支給率の改正をしている。)。 これらの点に照らせば,平成14年度及び平成15年度において,本件昇給基準によりされた,本訴において審理の対象となっている本件退職時特別昇給及びこれに基づく退職手当の支給は,市長の裁量権の範囲内にあるものということができ,これを給与条例5条6項に反する違法なものということはできない。 (4)控訴人は,財政難の下において,大阪市の職員が市民の一般の給与水準より高い水準で退職金を受領することができているところに,Aらは更に加算支給をしてきたのであるから,市長の裁量権を逸脱している,また,大阪市の職員については,共済制度の下で退職年金や退職一時金が整備されているにとどまらず,大阪府市町村職員互助会の退職給付金制度の下で500万円以上の水準でヤミ退職金ともいわれる退職給付金が支給されるなど,国の一般職の職員 済制度の下で退職年金や退職一時金が整備されているにとどまらず,大阪府市町村職員互助会の退職給付金制度の下で500万円以上の水準でヤミ退職金ともいわれる退職給付金が支給されるなど,国の一般職の職員と比べて厚遇されているのであるから,大阪市における退職時特別昇給の運用を地方公務員法24条3項の均衡の原則により正当化することはできない,などと主張する。 - 14 -しかしながら,退職に関係する他の制度如何により,また民間事業の従事者の退職金額との対比それ自体から(なお,特別昇給後の退職手当の支給額そのものについては,総務省の民間企業退職金実態調査に基づき,支給率が適宜見直されることによって,国及び地方公共団体と民間企業の均衡が図られる制度になっていることは上記のとおりである。),本件昇給基準に基づきされた本件退職時特別昇給が直ちに違法になるものでもなく,控訴人の上記主張は採用することはできない。 また,控訴人は,大阪市では,明白な犯罪行為者でも法定懲戒しないで注意で済ませている実態があり,これらの注意,訓戒対象者もすべて,退職時特別昇給において,勤務成績が特に優秀である者と同レベルにされているから,本件退職時特別昇給は違法であるかの主張もするが,大阪市において上記のような実態にあることを認めるに足りる十分な証拠はなく,同主張も採用できない。 その他,原審及び当審における当事者提出の各準備書面等に記載の主張に照らし,原審及び当審で提出,採用された全証拠をあらためて精査しても,本訴において審理の対象となっている本件退職時特別昇給及びこれに基づく退職手当の支給を違法なものということはできないとの上記判断を左右するほどのものはない。 そうすると,控訴人の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないから棄却すべきである 手当の支給を違法なものということはできないとの上記判断を左右するほどのものはない。 そうすると,控訴人の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないから棄却すべきである。 第4 結論 よって,原判決中控訴人の請求をいずれも棄却した部分は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第1民事部- 15 -裁判長裁判官横田勝年裁判官東畑良雄裁判官植屋伸一

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