令和6年11月20日宣告令和6年(わ)第136号器物損壊、爆発物取締罰則違反被告事件判決 主文 被告人を懲役12年に処する。 未決勾留日数中180日をその刑に算入する。 理由 【罪となるべき事実】被告人は、当時、指定暴力団X会甲組組長であった者であるが、同組若頭補佐であった乙及び同組組員であった丙と共謀の上、平成24年2月7日午前2時54分頃、福岡県久留米市Aの建設会社B敷地内において、丙が、Bの所有するB事務所東側男子便所の横滑り出し窓の窓ガラスを、金属棒様の物でたたき割って損壊し(損害額約6万4000円相当)、その頃、同敷地内において、治安を妨げ、かつ、人の身体財産を害する目的をもって、爆発物である手榴弾を、その安全ピンの引張環を引っ張り脱落させた状態で、同窓から同便所内に投げ込み、もって爆発物を使用した。 【証拠の標目】省略【争点に対する判断】第1 本件の争点本件では、乙及び丙が、共謀の上、本件犯行を行ったことについては、関係証拠上明らかであり、被告人及び弁護人も争わない。本件の争点は、被告人と乙及び丙との共謀の有無、具体的には、被告人が乙に対して本件犯行を指示したか否かである。当裁判所は、判示のとおり、被告人と乙及び丙との共謀が認められると判断したから、以下その理由を説明する。 第2 本件に至るまでの事実関係等 1 認定事実関係証拠によれば、以下の事実を認定できる。 ⑴ X会及び甲組についてア X会は福岡県公安委員会から指定を受けている指定暴力団であり、事件当時、甲組はその二次団体であった。 イ被告人は、事件当時、甲組の組長であり、X会内では慶弔委員長の役職に就いていた。 乙は、甲組の若頭補佐であり、若頭空席の甲組内におい 指定暴力団であり、事件当時、甲組はその二次団体であった。 イ被告人は、事件当時、甲組の組長であり、X会内では慶弔委員長の役職に就いていた。 乙は、甲組の若頭補佐であり、若頭空席の甲組内において、若頭代理、本部長、組織委員長に次ぐ地位にあった。乙は、被告人と養子縁組をした実子分であり、被告人に忠実で、被告人からの信頼も厚かった。 丙は、甲組若頭代理の丁の弟分に当たる平組員であった。丁は、事件当時服役中であり、事件発生3日後の平成24年2月10日に刑務所を出所した。 ⑵ みかじめ料についてア甲組は、従前から久留米地区の建設会社からみかじめ料を得ており、事件当時も4~5社からみかじめ料を回収していた。 イ平成23年10月、久留米地区の建設会社等と警察が連携して、土木・建築業界と暴力団との関係を断ち、暴力団へのみかじめ料等の資金提供を断つことなどを目的として、「Z協議会」が発足した。 被害会社の当時の代表取締役は、従前から、業界団体の会合などでX会との関係が疑われる業者を名指しで排除すべきである旨発言するなどしており、前記協議会発足時には、その幹事に就任するなど、暴力団排除の旗振り役を担っていた。 ⑶ ジギリについてア X会内では、「ジギリ」と呼ばれる、組員が組織の権益拡大のために身を 切って行う犯罪行為が横行しており、本件当時行われていたジギリには、抗争状態にあった暴力団Y会(当時)に対して襲撃を行うというものと、組織の意に沿わない建設会社等の民間企業に対し、見せしめでダンプや重機を燃やしたり壊したりするなどの威嚇行為をするというものがあった。 イ被告人は、事件前、X会執行部の人間から、他の組はジギリをしている中で甲組はジギリをしないのかなどと繰り返し叱責を受け、圧力をかけられていた。 ウ平成23年の夏か するというものがあった。 イ被告人は、事件前、X会執行部の人間から、他の組はジギリをしている中で甲組はジギリをしないのかなどと繰り返し叱責を受け、圧力をかけられていた。 ウ平成23年の夏から秋頃、甲組組織委員長の戊が、丙らと共にY会組員を拉致しようとしたものの、同組員を取り逃がし、失敗するということがあった。被告人は、戊からの報告を受け、怒って同人に暴力を振るうなどしたが、組として同人らを処分することはなかった。 ⑷ 本件犯行についてア乙は、平成23年12月1日頃、被告人から提供された50万円の資金を使って複数の手榴弾を購入し、被告人に対してもその旨を報告した。 イ丙は、平成24年2月7日午前2時54分頃、乙から前記手榴弾のうち1つを受け取り、その指示に従って、判示のとおり被害会社の窓ガラスをたたき割った上、手榴弾を投げ込んだ。 2 評価まず、本件は、甲組組員である乙及び丙が、暴力団排除の旗振り役であった被害会社の事務所に手榴弾を投げ込んだというものであり、当事者の関係性や態様などからして、乙や丙の私的な動機ではなく、暴力団の権益拡大のために行われたことは明らかである。さらに、民間企業の事務所に手榴弾を投げ込むようなことは重大事件であり、警察が暴力団による犯行を疑い、X会に対しても捜査の手が及びかねないことは容易に想定できるから、事件の規模やその影響力の大きさを踏まえると、本件犯行の計画立案、手榴弾等の手配、実行までの一連の流れを、二次団体の若頭補佐に過ぎない乙の独断で行うことができる とは考え難い。 これに、乙が被告人の実子分で、被告人に忠実な子分であったこと、丙は、被告人や丁の子分で、乙が被告人や丁の許可を得ずに指揮命令を下せる組員ではないことも加味すると、乙が被告人の指示を受けて本件を実行に移したこと 被告人の実子分で、被告人に忠実な子分であったこと、丙は、被告人や丁の子分で、乙が被告人や丁の許可を得ずに指揮命令を下せる組員ではないことも加味すると、乙が被告人の指示を受けて本件を実行に移したことが強く疑われる。加えて、被告人が乙に提供した資金が手榴弾の購入に使われ、乙からその旨報告を受けた後に本件が発生しているという事実経過もこのような疑いを強めるものといえる。 さらに、本件犯行は、暴力団排除の旗振り役であった被害会社を狙って行われたものであり、みかじめ料の確保を含め、甲組の権益拡大につながるものといえる。加えて、被告人自身、X会の執行部の人間から、甲組がジギリをしないことについて繰り返し叱責を受け、圧力をかけられていたことからすれば、本件犯行によって、これに応えることができたともいえ、被告人は本件犯行によって一定の利益を得ることができる関係にあったといえる。以上に加え、被告人は、戊らがY会組員を拉致しようとしても同人らを処分せず、少なくとも同人らがジギリに及んだこと自体は黙認する態度を示していたことにも照らせば、被告人がジギリとして本件犯行を乙に指示したとしても不自然とはいえない。 以上のとおり、本件に至るまでの外形的な事実関係のみによっても、被告人が、乙に対し、本件犯行を指示したことが相当程度推認される。 第3 共犯者及び関係者の供述 1 共犯者及び関係者の証言要旨⑴ 己の証言要旨平成23年11月頃、乙からの相談を受け、手榴弾取引を仲介した。同年12月1日頃の取引当日、取引の前に、乙は、親分から金を預かってきた旨話しており、取引との前後関係ははっきりしないが、その金額は50万円であるとも言っていた。乙は、普段被告人のことを親分と呼んでおり、被告人 から手榴弾の仕入れ代金を預かってきたのだと思った。乙は、取引の後 、取引との前後関係ははっきりしないが、その金額は50万円であるとも言っていた。乙は、普段被告人のことを親分と呼んでおり、被告人 から手榴弾の仕入れ代金を預かってきたのだと思った。乙は、取引の後にも、取引の仲介について親分に報告しておくなどと言っていた。 取引後数日以内に、被告人及び乙と会うことがあり、被告人から、「こいつから聞いたけど、世話になったな、ありがとう。」と言われた。乙に関係することで、被告人から礼を言われることは、手榴弾取引の件以外になかったので、被告人が手榴弾取引について礼を言ってきたのだと思った。 事件後、乙に対し、「手榴弾が爆発せんでよかったね。」と冗談で言ったところ、乙は、下手打った、親分から怒られる、又は、怒られたという趣旨の話をしていた。 ⑵ 丙の証言要旨本件犯行の数日前、乙から連絡があり、今度、組全体で動くことがある旨告げられた。事件前日の夜、乙に呼び出され、被害会社の窓を割って、手榴弾を投げ入れてくるよう指示された。その際、組全体で動くと聞いていたのに、他の組員はいなかったため、乙に対し、なぜ自分なのかと言い、丁から何もするなと言われていることも伝えて抵抗したが、乙からは「組の意向です。」と言われ、圧力をかけられた。「組」とは甲組のことであり、組長の被告人も了解済みのことであると考え、やむを得ず本件犯行に及んだ。 ⑶ 庚の証言要旨本件の数日前、乙の叔父である辛から、乙が大きな事件を起こすかもしれないと言っているから止めてほしいと頼まれ、喫茶店で辛、乙と3人で話した。乙に対し、被告人に話をするから待っとけと伝えたが、乙は、「親分の命令は絶対やけん。」などと言っていた。 結局、被告人に話をする前に、乙が事件を起こしてしまったと辛から聞き、本件の数日後、再び同じ喫茶店で3人で話すことになった。乙 とけと伝えたが、乙は、「親分の命令は絶対やけん。」などと言っていた。 結局、被告人に話をする前に、乙が事件を起こしてしまったと辛から聞き、本件の数日後、再び同じ喫茶店で3人で話すことになった。乙は、自分がバイクの運転をして、丙が手榴弾を投げたと話していた。乙に対し、どうして待てなかったのかと言うと、乙からは、「親分の命令は絶対や。」などと言わ れた。 2 各証言の信用性⑴ 己、丙及び庚は、事件の前後を通じて、乙が、周囲に被告人の指示をうかがわせる発言をしていたことに関し、それぞれが経験した具体的なエピソードを供述しており、全体として内容が整合するものとなっている。仮に乙がそのような発言を一切しておらず、3名とも虚偽の証言をしているとすると、3名が、直接又は丁を含むX会関係者を介して、被告人を陥れるために口裏を合わせていることがまず考えられる。 しかし、丙は、令和6年1月末に被告人と共に逮捕されているところ、逮捕後の口裏合わせの可能性は現実的ではない。逮捕前の口裏合わせの可能性について検討しても、丙は、逮捕当初は自身の犯行を否認していたというのであり、このような丙の供述経過自体、自らの犯行を認めることを前提に、被告人に刑責を擦り付ける口裏合わせを事前に行っていたこととは整合しない。 また、己についても、数年前に甲組を離れており、少なくとも数年間は丙、庚、丁とも連絡を取っていなかったというのであるから、己が丙、庚と口裏合わせをしたとも考え難い。 加えて、己、丙及び庚が、口裏を合わせてありもしない話を作り上げるのであれば、被告人による指示について、直接的かつ共通のエピソードを捏造しそうなものであるが、3名の供述内容というのは、被告人の指示をうかがわせる乙の発言という間接的な内容にとどまり、また、共通の場面に言及するもので よる指示について、直接的かつ共通のエピソードを捏造しそうなものであるが、3名の供述内容というのは、被告人の指示をうかがわせる乙の発言という間接的な内容にとどまり、また、共通の場面に言及するものでもない。己は、被告人から手榴弾取引のお礼を直接言われた場面にも言及するが、その際にも、被告人から手榴弾取引の件であることは明言されなかった旨供述しており、被告人に罪を着せようとしているのであれば、このような迂遠な表現をするとは考えにくい。したがって、3名の供述内容自体、口裏を合わせて虚偽の証言をしているとは考えにくい内容といえる。 以上によれば、己、丙及び庚が口裏を合わせて虚偽の証言をしているとは考え難く、3名の証言内容が整合していることは、それぞれの信用性を相互に高め合っているといえる。 ⑵ そのほかの虚偽供述のおそれについて検討すると、己、丙及び庚は、いずれも被告人に借金があったが、己と丙は、ここ数年で被告人から返済を求められたことはなく、虚偽供述の動機になるとは考え難い。他に被告人に対する恨みをうかがわせる事情もなく、虚偽供述の動機は見当たらない(丙が、平成27年頃に本件に関連して被告人を脅し、金銭を要求したことはあるものの、10年近く前の出来事である上、すでに被告人に自ら謝罪して許しを得ており、これをもって虚偽供述の動機を有しているということはできない。)。庚については、被告人から借金の返済を求められていた上、被告人の人間性をよく思っていないことや、証人尋問の数日前に丁と連絡を取っていることといった事情も認められる。しかし、己や丙の証言と整合することに加え、証言内容自体に不自然な点はないこと、細かな時期などわからないことはその旨証言しており、嘘をついているとは考えにくい証言態度、証言内容であることなども踏まえると、前記の事情 言と整合することに加え、証言内容自体に不自然な点はないこと、細かな時期などわからないことはその旨証言しており、嘘をついているとは考えにくい証言態度、証言内容であることなども踏まえると、前記の事情があるからといって、暴力団関係者による報復の危険を冒してまで虚偽の証言をしているとは考え難い。 ⑶ また、約12年前の事件であっても、民間企業に手榴弾を投げ込むという本件の重大性に照らせば、己、丙及び庚にとって、自身が関与した事柄が強く印象に残り、記憶を保持していることが不自然ということはできない。むしろ、3名とも細かい部分については、記憶が曖昧であるとして明確に記憶している事項と区別した上で、真摯に証言していることに鑑みれば、約12年前の事件であることを踏まえても、証言の信用性が損なわれることはない。 ⑷ 以上によれば、己、丙及び庚の各証言は十分に信用できる。 なお、己らのほか、丁も、検察官調書において、事件の4日後に被告人から犯行告白を受けたこと、令和5年に被告人から丙への口止めを依頼された ことを供述している。しかし、丁は、丙から、被告人に直接本件犯行を指示されたと聞いた旨も供述しており、重要部分について信用できる丙証言と整合しないこと、当公判廷において、証言を拒絶しており、その理由が必ずしも明らかではないことなども踏まえると、その供述内容を全てそのまま信用することはできない上、そもそもその推認力にも限界がある。 3 各証言から認められる事実の評価己、丙及び庚の証言からは、乙が、手榴弾の手配時から犯行後に至るまで、周囲に対して、一貫して被告人の指示をうかがわせる発言をしていたことが認められる。乙は被告人に忠実な子分であり、丙、庚及び己は、いずれも甲組関係者であったところ、乙の各発言時の状況に照らせば、乙が被告人の指示である旨 て被告人の指示をうかがわせる発言をしていたことが認められる。乙は被告人に忠実な子分であり、丙、庚及び己は、いずれも甲組関係者であったところ、乙の各発言時の状況に照らせば、乙が被告人の指示である旨の嘘をつく必要性は見出せない。乙が、被告人ではなく、X会上層部の指示に基づいて行動していた場合を想定するにしても、丙らに対してその旨を正直に伝えることに特段支障は見出せない。また、仮にそのような嘘をつけば、現に庚からは被告人に話をすると言われているように、被告人にそのことが伝わって容易に嘘が発覚しかねないことも踏まえると、乙がそのような嘘をつくとは到底考え難い。以上によれば、己らに対する乙の供述の信用性に疑義はなく、乙の発言のとおり、乙が被告人の指示で動いていたことを推認できる。己が手榴弾取引後に被告人から礼を言われたこともこのことと整合し、推認をさらに補強するといえる。 なお、己、丙及び庚の各証言中の乙供述は伝聞供述に当たるが、乙は既に死亡していて供述不能に当たることは明らかであり、前記事情に照らせば、証拠としての不可欠性及び絶対的特信情況も認められる。したがって、いずれも刑訴法324条2項、321条1項3号の要件を満たし、伝聞例外として証拠能力を肯定できる。また、己証言のうち、被告人が手榴弾取引の礼を述べた部分も、被告人にとって不利益な事実を承認する内容であり、かつ被告人が任意に供述したものであることは明らかであるから、刑訴法324条1項、322条 1項の要件を満たし、伝聞例外として証拠能力が認められる。 第4 総合評価以上のとおり、本件犯行の性質、甲組の組織構造や人的関係性、手榴弾購入への被告人の関与、本件犯行で被告人が得られる利益等の外形的な事実関係だけでも、被告人が乙に本件犯行を指示した疑いは濃厚といえる。これに加えて、 件犯行の性質、甲組の組織構造や人的関係性、手榴弾購入への被告人の関与、本件犯行で被告人が得られる利益等の外形的な事実関係だけでも、被告人が乙に本件犯行を指示した疑いは濃厚といえる。これに加えて、己、丙及び庚の各証言から認められる乙や被告人の言動も被告人による指示があったことを強力に裏付けるものである。 仮に、乙の独断にせよ、X会上層部による指示にせよ、乙が被告人の指示なく動いていたのだとすると、乙が、被告人から提供を受けた50万円を勝手に手榴弾の購入に流用しつつ、購入後にはそのことを被告人に正直に報告したことになるが、このような手榴弾取引の経過自体不自然な感が否めない。これにとどまらず、乙は、丙や庚、己に被告人の指示で動いている旨の嘘を一貫して繰り返した上、被告人や丁の子分である丙を本件の実行役に使うことについても、その内容として民間企業に手榴弾を投げ入れるという重大事件を起こすことについても、被告人の了解なく行ったことになるが、被告人に忠実な子分であったという乙の人物像と合致しない上、厳格な統制が図られている暴力団組織において、組長である被告人を意に介することなく、前述した言動を繰り返すとは到底考えられない。 したがって、乙が被告人の指示によらずに行動していた可能性というのは現実的でないといわざるを得ず、被告人が乙に本件犯行を指示したこと、被告人と乙及び丙との共謀を優に認定することができる。 第5 被告人供述 1 被告人の公判供述要旨事件前、X会執行部から、なぜ甲組はジギリに行かないのかとずっと言われ続けていたが、ジギリを拒否していた。そのような中、乙から、親分(被告人)がジギリをしないと、親分を処分するぞとX会上層部から言われた旨を告げら れ、乙に対し、「しょうがないな。」と答えたが、これはジギリを了承する趣旨で いた。そのような中、乙から、親分(被告人)がジギリをしないと、親分を処分するぞとX会上層部から言われた旨を告げら れ、乙に対し、「しょうがないな。」と答えたが、これはジギリを了承する趣旨ではなかった。乙から、丙を借りてよいか聞かれ、丁の許可をとるようにと答えたこともあったが、何に使うかは聞いておらず、ジギリで使うとは思っていなかった。 乙に対し、50万円を渡したことはあるが、これは防弾チョッキなどの道具を買うお金であり、手榴弾を買うとは思っていなかった。乙から手榴弾を買った旨の報告を受けたが、怒って手榴弾を返してくるように言った。 乙及び丙に本件犯行を指示したことはなく、本件は事件後にニュースで知った。本件は、乙がX会執行部からの指示を受けて起こしたのだと思っている。 2 被告人供述の信用性被告人は、乙に本件犯行を指示したことはない旨述べるが、被告人自身、これまで乙が自分の指示や了解なく動いたことはなく、組員が自分を飛び越えて動くはずがない旨自認しつつ、なぜ今回だけ乙らが被告人の関与なく動いたのかについて合理的な説明はできていない。 また、被告人は、捜査段階では、「乙から自身がジギリに行こうと思っている旨伝えられ、乙の態度や言いぶりから、もはやジギリを拒否できる状況ではないなどと思い、しょうがないななどと言って乙がジギリに行くのを了承した。 同時期に、乙から丙を借りていいか聞かれ、乙が丙と一緒にジギリをするつもりだと理解した上で丁の了解も得るよう伝えた。」旨供述していたところ、公判では大きく供述が変遷している。被告人は、捜査段階の供述を覆した理由について、違うことを言うこともあるなどと述べるにとどまり、合理的な理由を何ら説明していない。供述内容自体をみても、上層部からジギリに行くよう圧力をかけられているという背景を踏まえ 供述を覆した理由について、違うことを言うこともあるなどと述べるにとどまり、合理的な理由を何ら説明していない。供述内容自体をみても、上層部からジギリに行くよう圧力をかけられているという背景を踏まえると、乙に対して、しょうがないなと答えつつ、ジギリを了承したわけではないという公判供述は不自然と言わざるを得ない。また、乙から丙を借りてよいかと聞かれたのに、丙を何に使うのかを把握していないというのも不合理である。 手榴弾取引の経緯についても、己証言によれば、被告人は己に対して乙が関係する何らかの出来事について礼を言ったことになるが、その具体的な説明はない。 したがって、被告人の公判供述は、その内容自体、不自然な点が散見される上、まさに乙がジギリに行くことを了承したか否か、丙をジギリに使うことを了承したか否かという最重要部分について、合理的理由を示すことなく、捜査段階の供述から大きく変遷しているものであるから、到底信用することはできない。 第6 結論以上によれば、被告人供述を踏まえても、被告人と乙及び丙との共謀が認められるという結論は揺らがない。また、弁護人は他にも反対証拠の存在などを主張するが、いずれも被告人が乙に本件犯行を指示したことと矛盾するものではなく、その余の弁護人の主張を踏まえても結論に影響はない。 よって、被告人と乙及び丙との共謀が認められ、被告人には、器物損壊、爆発物取締罰則違反の罪が成立する。 【累犯前科】省略【法令の適用】省略【量刑の理由】本件は、暴力団組長である被告人の指示の下、若頭補佐である乙が、密売人から手榴弾を購入するとともに、金属棒様の物、手袋、ヘルメット、バイクなどを事前に準備した上で、平組員の丙を実行役に指名し、丙が建設会社事務所の窓をたたき割って手榴弾を投げ込んだ事案 る乙が、密売人から手榴弾を購入するとともに、金属棒様の物、手袋、ヘルメット、バイクなどを事前に準備した上で、平組員の丙を実行役に指名し、丙が建設会社事務所の窓をたたき割って手榴弾を投げ込んだ事案である。暴力団特有の指揮命令系統に基づいて組織的に敢行され、かつ、事前に手榴弾を含む犯行用具を周到に準備して実行された計画的な犯行であって悪質といえる。使用された手榴弾は、旧ソ連製の軍用兵器であ るところ、爆発により破片を飛散させて周辺を攻撃するもので、殺傷能力の高い極めて危険な爆発物である。本件では、丙が手榴弾の扱い方に習熟していなかったため、幸いにも不発に終わったが、仮に爆発していれば、被害会社事務所建物に損害が生じたことは確実であるほか、深夜で同事務所は無人だったとはいえ、破片が広範囲に飛散して周囲の人間に危害を与えた可能性も否定できず、極めて危険な犯行態様であることは言うまでもない。 本件の結果について、たたき割られた窓ガラスの損害額は約6万4000円と少額とはいえない。加えて、被害会社及びその付近で働く人や近隣住人らに多大な恐怖と不安を与えたことは明らかであって、周辺の治安を害した程度は大きい。手榴弾自体は不発であったにせよ、本件犯行により生じた結果は到底軽視できない。本件によって、被害会社従業員や近隣住民らは避難を余儀なくされ、業務や生活にも支障が生じたことも踏まえると、被害会社代表者が、犯人の適正な処罰を求めるのも当然のことである。 また、本件の動機は、暴力団排除の旗振り役を担っていた被害会社に手榴弾を投げ込んで同社及び周辺の建設会社等を威嚇することにより、みかじめ料を回収しやすくし、X会及び甲組の権益拡大を図ろうとしたものと認められる。何の落ち度もない民間会社に手榴弾を投げ込み、暴力によって服従させようという暴力団特有 設会社等を威嚇することにより、みかじめ料を回収しやすくし、X会及び甲組の権益拡大を図ろうとしたものと認められる。何の落ち度もない民間会社に手榴弾を投げ込み、暴力によって服従させようという暴力団特有の反社会的な考えに基づく犯行であり、動機も悪質極まりない。 被告人が果たした役割についてみると、被告人は、甲組の組長として、配下の組員である共犯者らに指示し、本件犯行を実行させたのであるから、その役割は重大であり、共犯者の中で最も重い責任を負うべきといえる。 以上によれば、手榴弾が不発に終わった点を踏まえても、本件の犯情は相当悪質であり、被告人の刑事責任には重いものがあると言わねばならない。 一般情状についてみても、被告人は不合理な弁解に終始し、反省は見られない。 加えて、前記累犯前科のほか、複数の服役前科があり、その中には暴力団に関連した殺人未遂等の事件も含まれており、被告人には遵法精神が欠如していると言わざ るを得ない。これらの事情も考慮した上、被告人を主文の刑に処するのが相当であると判断した。 (求刑懲役12年)令和6年11月29日福岡地方裁判所第4刑事部 裁判長裁判官鈴嶋晋一 裁判官田野井蔵人 裁判官中元隆太
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