主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。 2 上記部分に係る被控訴人らの請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。 第2 事案の概要(以下、略称は特に断りのない限り原判決に従う。) 1 要旨丙(丙警部補)は、静岡県警察に在籍する警察官であったが、平成24年3月10日に自殺した(本件自殺)。 本件は、丙警部補の妻子である被控訴人らが、本件自殺は、同警部補が過重な業務(公務)に従事し、強度の精神的及び肉体的負荷を受けた結果、鬱病等の精神疾患を発症し、その精神疾患の影響によって行われたものであるところ、本件自殺につき、静岡県警察を設置する控訴人には、同警部補が過重な業務に従事してその心身の健康を損なうことがないよう配慮すべき安全配慮義務に違反した債務不履行があると主張して、控訴人に対し、上記債務不履行による損害賠償請求権に基づき、同警部補の死亡による損害として、①被控訴人甲(同警部補の妻)につき3617万6176円(遺族補償年金及び葬祭補償の各給付と損益相殺した後の額)及びこれに対する請求日の翌日である平成30年9月26日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、②被控訴人乙(同長女)につき7177万7634円及びこれに対する上記と同じ割合及び起算日による遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。 原審が、①被控訴人甲の請求につき3151万0936円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度、②被控訴人乙の請求につき6985万2 遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。 原審が、①被控訴人甲の請求につき3151万0936円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度、②被控訴人乙の請求につき6985万2395円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度でそれぞれ認容し、その余の請求をいずれも棄却したところ、控訴人が自己の敗訴部分を不服として本件控訴を提起した。 2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記3及び4のとおり当審における控訴人の補充主張並びに追加主張及び同追加主張に対する被控訴人らの主張を加えるほか、原判決の「事実及び理由」の「第 2 事案の概要」の2及び3に記載のとおりである(ただし、各「時間外労働」をいずれも「時間外勤務」に、各「労働時間」をいずれも「勤務時間」にそれぞれ改める。)から、これを引用する。 原判決4頁11行目の「16、」の次に「20、」を加える。 原判決5頁15行目の「交番を務めていた」を「交番長を務めていた」に改める。 3 当審における控訴人の補充主張丙警部補の勤務時間(業務の量的過重性)について以下の諸事情を考慮すると、原判決別紙7に係る本件自殺(発症)前1か月間ないし発症6か月前の1か月間の丙警部補の勤務時間の認定は不当であり、別紙1の「1 勤務時間合計」の「控訴人の主張」「認定されるべき時間外勤務時間数」欄のとおり、時間外勤務時間数は、多くとも、①発症前1か月間が103時間15分、②発症2か月前の1か月間が50時間38分、③発症3か月前の1か月間が52時間30分、④発症4か月前の1か月間が89時間30分、⑤発症5か月前の1か月間が77時間30分、⑥発症6か月前の1か月間が23時間00分である。 ア丙警部補が妻である被控訴人甲に対し、例えば「これから帰る」な 症4か月前の1か月間が89時間30分、⑤発症5か月前の1か月間が77時間30分、⑥発症6か月前の1か月間が23時間00分である。 ア丙警部補が妻である被控訴人甲に対し、例えば「これから帰る」などといったメール(甲3、4)を送った事実のみから、当該メール送信時刻ま でが勤務時間であったと認定することはできない。すなわち、当該メールを送るまでの間、丙警部補がどこで何をしていたのか判然とせず、かつ、その間の業務の成果物等もない以上、当該メールの存在だけから時間外勤務を認定することには無理があるというべきであり、この点は、地方公務員災害補償基金静岡県支部審査会による裁決(甲18・21頁)においても指摘されているとおりである。 イ丙警部補は、非番や週休日に勤務した平成24年2月16日、同年1月4日、同月1日、平成23年12月23日、同月14日、同月12日、同月11日、同年11月29日、同月24日、同月17日、同月8日、同月5日、同年10月27日、同月24日、同月18日及び同年9月21日の各日において、少なくとも1時間ないし2時間は昼食等のための休憩を取っていたものであり、原判決がこれを考慮していないのは不当である。 ウ GSEに係る本件事前会合等の参加に関し、電車の移動時間(勤務地である下田市から静岡県沼津市又は静岡市まで)も含めて一律に6時間又は9時間を時間外勤務時間として認定すべき根拠はない。 エ原判決が、丙警部補の1か月間ごとの時間外勤務時間数を算出するに当たり、30日を週7日ごとに区切った残り2日の勤務時間の全てをそのまま時間外勤務時間として認定したのは不当であり、当該2日については、時間外勤務ではない通常の勤務時間(所定当直時間等)は控除されるべきであるから、少なくとも週40時間の7分の2に相当する時間(40時間 時間外勤務時間として認定したのは不当であり、当該2日については、時間外勤務ではない通常の勤務時間(所定当直時間等)は控除されるべきであるから、少なくとも週40時間の7分の2に相当する時間(40時間×2/7=11.42)に基づく11時間は控除されるべきである。 オ ①平成24年2月22日(週休日)については、当日行われた「教養」が正午に終了したことから、同日の終業時刻は丙警部補自身が申告(乙2)した正午までとすべきであり、②同年2月18日については、同警部補は午後4時36分に妻に対して「一旦帰るよ。」とのメールを送信していることから、少なくとも午後4時30分から午後6時までの間は勤務時 間ではなかったとすべきである。 カ甲第29号証(本人記載の時間外勤務実績報告書(乙2)以外に本人が己交番にいたことが確認できた時間の一覧表)によれば、勤務日誌(乙1)が残っている平成24年初めからの2か月余の間に、全部合わせても僅か数時間だけが時間外勤務実績報告書(乙2)に記載された時間以外に己交番にいたことが確認できるところ、これによれば、丙警部補は、自らの時間外勤務を基本的には漏れなく申告していた事実が裏付けられる。そして、丙警部補と共に己交番における3班体制の班長を務めていた戊巡査部長の時間外勤務時間が30時間ないし40時間、庚巡査部長の時間外勤務時間が30時間未満であって、同警部補が時間外勤務実績報告書(乙2)により申告していた時間外勤務が他の班長と比較して長かったことも併せ考慮すると、同警部補の実際の勤務時間が申告時間(乙2)よりも長かったとはいえない。 丙警部補の業務の質的過重性について警察官として質的に過重な業務(特別な負担)となり得るのは、例えば、制度の創設やサミットの開催準備等に昼夜の別なく集中的に携わった、社会 ったとはいえない。 丙警部補の業務の質的過重性について警察官として質的に過重な業務(特別な負担)となり得るのは、例えば、制度の創設やサミットの開催準備等に昼夜の別なく集中的に携わった、社会的な関心を集める案件で対応を誤り、行政に対する国民の信頼を低下させた、大きな不祥事の対応に責任者として対応した、上司等から執拗なハラスメントを受けたなど、通常業務とは心身の負担が全く異なる、普通であれば遭遇しない状況や業務に当たった場合に限られるのであって、このことは、認定基準についての人事院による判断の具体化・明確化を図るための指針である「精神疾患等の公務上災害の認定について」(平成20年4月1日付け職補-114号人事院事務総局職員福祉局長通達。最終改正令和2年5月29日職補-171)の別表「公務に関連する負荷の分析表」で明記されている質的に過重な業務の例からも明らかである。 原判決が認定基準に係る質的過重性に関して取り上げる事情(㋐窃盗事件 の捜査、実習生の指導、引継ぎ準備並びに外部団体の研修(GSE)への参加及びその準備)は、いずれも警察官が日常的に行う業務であり、次のとおり、通常業務と質的に異なる業務とは到底いえず、仮に同時期にそれらの要因が重なることがあったとしても、丙警部補に社会通念上、客観的にみて、精神障害を発病させるほどの過重な心理的負荷があったと認めることはできない。 ア㋐窃盗事件の捜査について、平成24年2月の専従捜査班結成後は(自主的か否かを問わず)専従捜査班ではない交番勤務員によって当該窃盗事件の捜査として見回りやパトロールが行われた事実はない。丙警部補についても、夜間捜査に従事する必要性はなく、実際にこれに従事しているところを見た者もいないのであり、少なくとも専従捜査班発足以降の窃盗事件の捜査( 見回りやパトロールが行われた事実はない。丙警部補についても、夜間捜査に従事する必要性はなく、実際にこれに従事しているところを見た者もいないのであり、少なくとも専従捜査班発足以降の窃盗事件の捜査(夜間捜査)は、仮に実施されたとしても、業務命令に基づくものではないことは明らかである。 また、仮に丙警部補が上記窃盗事件の夜間捜査に従事していたとしても、刑事課主管に係る窃盗事件の捜査を補助する業務は、交番勤務員としての日常業務であり、当該窃盗事件の連続発生が同警部補の勤務評定等に不利益をもたらす可能性も全くなかったことからすると、認定基準にいう「質的に過剰な業務」にはなり得ない。 イ実習生の指導(職場実習指導員への指名)について、まず、原判決が指摘する己交番と下田警察署間の移動等については、丙警部補自身が移動する際に実習生を同乗させることで足り、それとは別の送迎の必要性はない。また、実習生に対する指導や実習生が内規上行うことのできない業務を行うことなどにより、丙警部補の客観的な作業量が増えた可能性はあるものの、それは警察官一般に求められる通常の業務の範囲内のものにすぎない。さらに、戊証人の証言(原審証人調書18~19頁)や被控訴人甲の供述(原審本人調書24頁)からは、実習生を担当することによる負担 は、気を抜けないとか、一人の方が気楽だといった主観的・抽象的な範囲にとどまるものであり、通常業務以上に心理的負荷をもたらすものとはいえない。 ウ引継ぎの準備(異動のための引継ぎ)について、まず、丙警部補が異動のための引継ぎ作業に従事していた事実はない。原判決がその根拠として掲げる甲第30号証(聞き取り調査結果)中の記載や乙第16号証(の丁課長からの聴取結果)中の記載は、丙警部補が春の異動時期前の一般的状況にあったことを示す していた事実はない。原判決がその根拠として掲げる甲第30号証(聞き取り調査結果)中の記載や乙第16号証(の丁課長からの聴取結果)中の記載は、丙警部補が春の異動時期前の一般的状況にあったことを示すにとどまり、同警部補自身が異動のために多忙であったことを意味するものではない。実際に己交番の勤務員であった辛氏も、丙警部補が自身の引継ぎのために多忙であったとは認識していない(乙24・下田警察署における聴取結果)。静岡県警察においては、昇任試験に合格している場合を除いて人事異動対象職員が自身の異動の事実を知るのは発令前の内示の時であるとの慣行があり、丁証人及び戊証人も同様の証言をしている。 また、そもそも異動のための引継ぎ作業は人事異動発令前から準備しなければならないようなものではなく、通常の業務に比して業務量を増加させる要因となることはあり得ない。 エ外部団体の研修(GSE)への参加やその準備について、まず、GSEの事前研修として要求されたのは、月1回程度(平成23年12月から平成24年2月までの間に計3回開催)の事前研修、研修の際に実施される英語によるプレゼンテーションの準備(甲17・18頁)であり、客観的にみて長時間を要するものではないことは明らかである。上記プレゼンテーションに関しても、あらかじめ定めたシナリオどおりに3分ないし5分程度英語で説明する程度であり、質疑応答等も予定されていなかった。 そして、丙警部補の自己紹介(英文)は平成24年2月25日に、パワーポイントのスライドは同月27日にそれぞれ作成されていた。このよう に、上記事前準備は特段の作業量を要するものではなく、仮に勤務時間外にこうした作業を行う必要があったとしても、丙警部補にとって取り立てて負担になるようなものではなかった。 次に、GSEへの参加 に、上記事前準備は特段の作業量を要するものではなく、仮に勤務時間外にこうした作業を行う必要があったとしても、丙警部補にとって取り立てて負担になるようなものではなかった。 次に、GSEへの参加について、外部団体主催の海外研修への参加であるから多少の心理的負荷は想定されるものの、その実質は親善訪問に近いものであり、丙警部補において、上記プレゼンテーションの内容や英語能力が第三者から評価を受けたり、その後の業績に消極的な影響を与えたりする可能性は全くないものであった。上記プレゼンテーションの形式も、英語で、かつ、簡単な自己紹介(家族や仕事、趣味等)を上記のとおり短時間行うというもので、その内容は事前研修で披露して修正を受けたものであり(甲18・16頁)、丙警部補の学歴(国立静岡大学理学部卒業)からしても、大きな心理的負荷を与えるものとは評価できない。また、GSEで求められるプレゼンテーションの内容及び語学能力は水準の高いものではなく(乙24、甲18・19頁)、参加者である丙警部補に特段の心理的負荷を与えるものではなかった。 控訴人の安全配慮義務違反の有無について次の各事情に鑑みると、控訴人において丙警部補の異変を知り、それに対処することは不可能であったから、控訴人に法的責任(義務違反行為)はない。 ア丙警部補は、毎勤務ごとに行われていた健康状態等チェック表(乙10)に自ら問題がない旨の申告をし、最後の当直が終わった際にも、何ら変わった様子は見られなかった(原審証人戊調書21頁)。 イ地方公務員災害補償基金静岡県支部が実施したアンケート調査の回答結果(乙11)を全体としてみれば、何の異変も感じなかったとの回答が多く(全16名中11名)、何らかの不調和を感じたという5名も「他の人と話をしなくなった」、「いらいらしている」、 ケート調査の回答結果(乙11)を全体としてみれば、何の異変も感じなかったとの回答が多く(全16名中11名)、何らかの不調和を感じたという5名も「他の人と話をしなくなった」、「いらいらしている」、「言動がおかしい」などとは 感じなかったと回答している。 ウ丙警部補の家族からも、控訴人に対し、同警部補の様子がおかしいとか、何らかの対処が必要であるといった申告はされなかった。 4 当審における控訴人の追加主張及び同追加主張に対する被控訴人らの主張控訴人の追加主張―過失相殺の(類推)適用仮に控訴人に安全配慮義務違反があるとしても、①丙警部補の携わった業務の中には夜間の単独での窃盗事件の捜査など必ずしも同警部補が行わなくてもよかった、自主的・自発的に行われた活動が少なくないこと、②同警部補は、自ら病院を受診することも、静岡県警察が設けたメンタルヘルスに関する相談窓口等を利用することもなかったこと、③同警部補は、被控訴人甲との間での本件出来事を経て本件自殺に至っているところ、「心の元気力チェッカー」では、職場「外」のストレスである家族・友人・隣人関係や、家族のサポートがともにE(かなり悪い)と評価され(甲7)、「家族と喧嘩をして、気まずい思いをしている」、「家族に怒りを感じている」、「家族のことを考えると悲しい気持ちになる」との質問に対していずれも「1(よくあてはまる)」と回答していたこと(乙26・6枚目の質問53~55番。回答は15枚目)からすると、本件においては、少なくとも相応の過失相殺の(類推)適用が認められるべきである。 被控訴人らの主張①静岡県警察においては、非番における捜査を積極的に行うように指示していたものであり(甲68、原審丁証人調書29頁)、下田警察署管内でも事件や事故の発生件数の多かった己交番勤務 被控訴人らの主張①静岡県警察においては、非番における捜査を積極的に行うように指示していたものであり(甲68、原審丁証人調書29頁)、下田警察署管内でも事件や事故の発生件数の多かった己交番勤務員においては、被疑者の検挙に結び付くための方策をそれぞれ考えて実行しており、丙警部補はそのことに最も積極的に取り組んでいたこと(原審戊証人調書39頁)、②控訴人の指摘するメンタルヘルスに関する相談窓口は一般的なものにすぎず、多忙を極め、精神障害についての自覚がないか、又は正常な認識や行動選択能力の減 退していた同警部補が利用する現実的な機会があったとはいえず、病院等の受診も同様であること、③同警部補は、業務(公務)に起因して精神疾患を発症していたため、希死念慮の発現又は精神障害による行動選択能力ないし自殺を思いとどまる抑制力が著しく阻害された精神状態の下、一時的かつ深刻とまではいえない家庭内のいさかいの後、本件自殺に至ったにすぎないものであることから、本件において過失相殺の(類推)適用は認められるべきではない。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、①被控訴人甲の請求につき3151万0936円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度、②被控訴人乙の請求につき6985万2395円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度でそれぞれ認容し、その余の請求をいずれも棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり補正し、後記2及び3のとおり当審における控訴人の補充ないし追加主張に対する判断を加えるほか、原判決の「事実及び理由」中「第3 当裁判所の判断」に記載のとおりである(ただし、各「時間外労働」(同「第3 当裁判所の判断」の2アに記載のものを除く。)をいずれも「時間外勤務」に、各「労働時間」(同アに記載のものを除く。)をいずれ 判所の判断」に記載のとおりである(ただし、各「時間外労働」(同「第3 当裁判所の判断」の2アに記載のものを除く。)をいずれも「時間外勤務」に、各「労働時間」(同アに記載のものを除く。)をいずれも「勤務時間」にそれぞれ改める。)から、これを引用する。 原判決11頁16行目の「作成することができない場合でも」を「作成することができない状況であっても」に、22行目の「上記のような場合も」を「上記のような状況に至ったときも」にそれぞれ改める。 原判決15頁9行目の「必要があった。(」の後に「甲30、」を加える。 原判決17頁15行目の「公務扱いとはしないとの」を「公務とはしない」に改める。 原判決20頁6行目の「状況となっていた上、」の後に「英語能力に関する不安から始めた英語学習もやめ、」を加える。 原判決23頁8行目の「平成24年3月16日付」を「平成24年3月16日」に改める。 原判決23頁21行目及び26行目の各「労働時間」の後にいずれも「(勤務時間)」を加える。 原判決23頁22行目から23行目にかけての「(業務そのものに留まらず、これに密接に関連する活動等を含む。)」を削る。 原判決24頁18行目冒頭から25頁8行目末尾までを次のとおり改める。 「 他方、被控訴人らは、丙警部補と被控訴人甲との間でやり取りされていたメール(甲3、4)を提出するところ、当該メールはその性質上夫婦間で私的にやり取りされたものであり、その内容においても、例えば同警部補の「帰る」、「今から署に行く」などといったメッセージがどこで作成されたのか明らかではないなど、具体的な時間外勤務時間数を算定する根拠とするには不明確ないし不確実なものであると言わざるを得ず、上記メール及びこれに基づく被控訴人甲の陳述書(甲44)の記載 こで作成されたのか明らかではないなど、具体的な時間外勤務時間数を算定する根拠とするには不明確ないし不確実なものであると言わざるを得ず、上記メール及びこれに基づく被控訴人甲の陳述書(甲44)の記載や原審における本人尋問の結果に直ちに依拠することはできないというべきである。もっとも、上記メールの内容のほか、己交番における業務に関して作成される勤務日誌(その一部が乙1)上、丙警部補が時間外勤務として一定の業務に従事している時間が存在していること(前記1の認定事実ウ)からすると、同警部補が、勤務時間外に業務に従事した時間の全てを時間外勤務実績報告書に記載していたものではないことが推認される。」原判決25頁9行目の「他方、」を「また、」に改める。 原判決30頁9行目から10行目にかけての「どの具体的な活動の内容」を「そのいずれの活動の具体的内容」に改める。 原判決30頁18行目から19行目にかけての「海外研修に密接に関連する活動」を「海外研修のために必要な活動」に改める。 原判決31頁4行目の「選択する余地はなく、」の後に「その服装も警察署からの参加者であることを踏まえて背広を着用していたこと(甲43)も併せ考慮すると、」を加え、同頁6行目の「少なくとも、」及び同頁7行目の「(ないしこれに準じる時間)」をいずれも削る。 原判決31頁13行目の「別紙」から21行目末尾までを「本判決別紙2「丙警部補の勤務時間(控訴審認定)」(以下「控訴審勤務時間表」という。)の「1 勤務時間合計」の「当裁判所の認定」欄に記載のとおりであり、その認定根拠は、控訴審勤務時間表の2ないし7の「当裁判所の認定」中の「認定根拠」欄記載のとおりである(なお、被控訴人が提出したメール(甲3、4)の中には、丙警部補が、時間外勤務実績報告書(乙2) 、その認定根拠は、控訴審勤務時間表の2ないし7の「当裁判所の認定」中の「認定根拠」欄記載のとおりである(なお、被控訴人が提出したメール(甲3、4)の中には、丙警部補が、時間外勤務実績報告書(乙2)において時間外勤務が報告されていない日ないし時間帯においても、己交番において業務を行っていることを推認させる記載があるものの、当該記載から具体的な時間外勤務時間数を認めることはできない。)。」原判決32頁1行目の「平成23年8月頃」を「平成23年10月頃」に、同頁3行目から4行目にかけての「非番の己交番勤務員ら」を「己交番の勤務員ら」にそれぞれ改める。 原判決35頁14行目の「同警部補にとって」から20行目末尾までを次のとおり改める。 「同警部補は勤務時間外にこれらの作業を行わざるを得ない状況になっていたものであり、他のGSEの参加者の陳述書(甲43)において、同警部補が一番大変なパワーポイントの作成と取りまとめの担当者となったところ、同警部補は初めてのパワーポイントの作成に苦労して相当の時間を費やした、警察の仕事が忙しくてGSEの準備まで手が回らず、資料の作成などでほとんど寝ていないと述べていた旨の記載があることや、基金による聞き取り調査において、己交番勤務員が、同警部補はGSEの研修に参加するに当たって外国語がしゃべれないことを悩んでいた旨の証言を行っていること(乙2 4)に照らすと、GSE参加のための研修参加や事前準備等は同警部補の業務を増加させる要因となっただけではなく、同警部補に一定の心理的負荷を与えたものと解される。」原判決36頁10行目の「状態がみられ、」の次に「GSEの海外研修が間近に迫っていたにもかかわらず、それまで続けていた英語学習をやめてしまい、」を加える。 原判決38頁1行目の「労働時間 」原判決36頁10行目の「状態がみられ、」の次に「GSEの海外研修が間近に迫っていたにもかかわらず、それまで続けていた英語学習をやめてしまい、」を加える。 原判決38頁1行目の「労働時間表」から22行目の「あったといえる。」までを次のとおり改める。 「控訴審勤務時間表によれば、丙警部補の時間外勤務時間は、発症6か月前の1か月間の時点では25時間であったものが、発症5か月前及び発症4か月前の1か月間はいずれも100時間弱で推移した後、発症3か月前の1か月間は約70時間、発症2か月前の1か月間は約55時間となり、発症前1か月間には117時間を超えるに至っていたものであって、発症5か月前から増加傾向にあった時間外勤務時間が発症前1か月間に顕著に増加したことが認められる(なお、前記ウで判示したとおり、同警部補と被控訴人甲とのメールのやり取りの内容等によれば、具体的な時間外勤務時間数は認定できないものの、上記のとおり認定した時間外勤務時間以外にも己交番において業務を行っていた時間があると推認される。)。また、上記のとおり時間外勤務時間数が顕著に増加した発症前1か月間の具体的な勤務状況をみても、1日の週休日(平成24年2月25日)を挟んで、14日間にも及ぶ連続勤務が2回繰り返されている(同月11日から同月24日まで、及び同月26日から同年3月10日まで)上、証拠(甲44、63)によれば、上記週休日(同年2月25日)にも翌日のGSEに係る本件事前会合等の準備のために相当時間を費やしていたと認められるほか、上記連続勤務期間中、休憩時間等(ただし、この間にも急訴事案が発生した場合には業務に従事する必要があるとされている。)も含めれば拘束時間が24時間に及ぶ当直勤務を行っ たのに引き続き、非番日において夜間から深夜帯に至るまでの し、この間にも急訴事案が発生した場合には業務に従事する必要があるとされている。)も含めれば拘束時間が24時間に及ぶ当直勤務を行っ たのに引き続き、非番日において夜間から深夜帯に至るまでの時間外勤務を行っていることが多数回確認できることに照らすと、特に発症前1か月間の時間外勤務状況は、同警部補にとり、著しく心身の疲労を蓄積させる程度のものであったといえる。」原判決39頁8行目の「(認定事実ウ)」を「(認定時事実イ)」に改める。 原判決39頁14行目の「実習生の教育」を「実習生の指導」に改める。 原判決39頁18行目から19行目にかけての「発症1か月前の期間」を「発症前1か月間」に、20行目の「同2か月前」を「発症2か月前の1か月間」にそれぞれ改める。 原判決39頁19行目の「労働時間表」を「控訴審勤務時間表」に、21行目の「140時間」を「117時間」にそれぞれ改める。 原判決43頁21行目の「長時間の時間外勤務を常態化させた」を「時間外勤務を増加させてこれを常態化した」に改める。 原判決43頁26行目の「特に発症1か月前」を「発症前1か月間」に、「140時間」を「117時間」にそれぞれ改める。 原判決44頁1行目の末尾に次のとおり加える。 「このように、丙警部補には様々な業務が集中し、それに伴う時間外勤務時間数の増加が顕著に認められたにもかかわらず、丁課長らは、かかる重畳的な業務負担の作出に関わるとともに、前記1の認定事実イのとおり、同警部補が時間外勤務実績報告書で報告した時間外勤務の時間の一部を抹消したり、より短時間に修正するなどしていたものであって、同警部補の実際の時間外勤務時間数をその心理的負荷の観点から評価することを行っていなかったと言わざるを得ない。」 2 当審における控訴人の補充 たり、より短時間に修正するなどしていたものであって、同警部補の実際の時間外勤務時間数をその心理的負荷の観点から評価することを行っていなかったと言わざるを得ない。」 2 当審における控訴人の補充主張に対する判断丙警部補の勤務時間(業務の量的過重性)について 控訴人は、前記第2の3アないしカの事情によれば、丙警部補の発症前1か月間ないし発症6か月前の1か月間の時間外勤務時間数は、多くとも①発症前1か月間が103時間15分、②発症2か月前の1か月間が50時間38分、③発症3か月前の1か月間が52時間30分、④発症4か月前の1か月間が89時間30分、⑤発症5か月前の1か月間が77時間30分、⑥発症6か月前の1か月間が23時間00分である旨主張する。 しかし、上記アないしカの事情については、次のとおり当裁判所の判断に反する部分について採用できず、丙警部補の発症前1か月間ないし発症6か月前の1か月間の時間外勤務時間数は、前記1で補正の上引用した原判決の「事実及び理由」中「第3 当裁判所の判断」の2ウのとおり、控訴審勤務時間表の「1 勤務時間合計」の「当裁判所の認定」欄に記載のとおり認めるのが相当であるから、控訴人の上記主張はこの判断に反する部分は採用できない。 ア前記第2の3アに係る丙警部補と被控訴人甲との間でやり取りされたメール(甲3、4)と具体的な勤務時間数の認定との関係については、前記1で補正の上引用した原判決の「事実及び理由」中「第3 当裁判所の判断」の2イaのとおり、上記メール及びこれに基づく被控訴人甲の陳述書(甲44)の記載や原審における本人尋問の結果に直ちに依拠することはできないが、他方で、上記メールの内容や勤務日誌から、同警部補が、勤務時間外に業務に従事した時間の全てを時間外勤務実績報告書に記 述書(甲44)の記載や原審における本人尋問の結果に直ちに依拠することはできないが、他方で、上記メールの内容や勤務日誌から、同警部補が、勤務時間外に業務に従事した時間の全てを時間外勤務実績報告書に記載していたものではないとも推認されるのであり、この判断に反する控訴人の主張部分は採用できない。 イ前記第2の3イに係る非番や週休日における休憩時間の取得については、時間外勤務実績報告書(乙2)では、勤務時間を具体的な始期と終期のほかこれに対応する時間外勤務時間数を30分単位で記載する体裁となっているところ、1日のうち複数の勤務時間が生じた場合にはこれらを複 数に分けて記載することとされているほか、上記アのとおり、丙警部補が、勤務時間外に業務に従事した時間の全てを時間外勤務実績報告書に記載していたものではないことからすると、同警部補は、休憩時間を除いた時間を勤務時間として報告していたものと推認するのが相当である。したがって、この点に関する控訴人の主張は採用できない。 ウ前記第2の3ウに係る本件事前会合等の参加に必要な電車の移動時間については、前記1で補正の上引用した原判決の「事実及び理由」中「第 3 当裁判所の判断」の2イのとおり、上記移動時間は、業務起因性判断の前提となる勤務時間として考慮するのが相当であるし、証拠(甲8ないし11、17、43、53ないし55)及び弁論の全趣旨によれば、移動等を含めた時間数についても相当なものとして是認できるから、この点に関する控訴人の主張は採用できない。 エ前記第2の3エに係る控訴人の主張について検討するに、証拠(甲67の1、甲78)及び弁論の全趣旨によれば、「脳・心臓疾患の労災認定実務要領」(厚生労働省労働基準局労災補償部補償課職業病認定対策室)では、労災認定における時間外労 張について検討するに、証拠(甲67の1、甲78)及び弁論の全趣旨によれば、「脳・心臓疾患の労災認定実務要領」(厚生労働省労働基準局労災補償部補償課職業病認定対策室)では、労災認定における時間外労働時間数(発症前6か月間における1か月間ごとの時間外労働時間数)を算出するに当たっては、①発症前1か月目に係る発症日から数えて29日目と30日目の2日間については、この2日間を含む1週間(発症前29日~35日目)の就労状況をみて、 1日目からの5日間のうちに休日が2日以上ある場合は、2日間の総労働時間数から16時間を引いた時間数を時間外労働時間数とし、31日目からの5日間のうちに休日が1日ある場合には、この2日間の労働のうちの1日を休日労働とみなして、2日間の総労働時間数から8時間を引いた時間数を時間外労働時間数とし、31日目からの5日間のうちに休日がない場合には、この2日間の労働を休日労働とみなして、2日間の総労働時間数をそのまま時間外労働時間数とし、②発症前2か月目に係る発症日 から数えて59日目及び60日目についても、上記①と同様に算出し、それ以前(発症前3か月目以前)も同様に算出するとの手順が定められていることが認められる。このような算出方法は業務の過重性を評価する手法として合理性を有するものと解されるところ、これを本件に当てはめると、控訴審勤務時間表の2ないし7の「当裁判所の認定」欄記載のとおり、平成24年2月11日と同月10日、平成23年12月13日と同月12日、同年10月14日と同月13日については、いずれも2日間の総勤務時間数がそのまま時間外勤務時間数となり、平成24年1月12日と同月11日、平成23年11月13日と同月12日、同年9月14日と同月13日については、いずれも2日間の総勤務時間数から8時間を控 勤務時間数がそのまま時間外勤務時間数となり、平成24年1月12日と同月11日、平成23年11月13日と同月12日、同年9月14日と同月13日については、いずれも2日間の総勤務時間数から8時間を控除した時間が時間外勤務時間数となる。 そうすると、前記第2の3エに係る控訴人の主張については、上記認定判断の限度で理由があるが、これと反する部分は採用できない。 オ前記第2の3オに係る①平成24年2月22日及び②同月18日の時間外勤務時間数について、①同月22日については控訴人の主張どおり終業時刻を正午までと認めるべきであるが、②同月18日については、控訴人指摘に係るメールの存在から直ちに勤務時間から控除すべき時間があること、それが控訴人主張の時間数であることを認めることはできないから、同日に関する控訴人の主張は採用できない。 カ前記第2の3カに係る控訴人の主張は、前記1で補正の上引用した原判決の「事実及び理由」中「第3 当裁判所の判断」の2イaのとおり、丙警部補が勤務時間外に業務に従事した時間の全てを時間外勤務実績報告書に記載していたものではないと解されることに照らし、採用できない。丙警部補が申告した時間外勤務時間が、戊巡査部長及び庚巡査部長と比較して長かったとしても、それが上記判断を覆す事情になるとは解されない。 丙警部補の業務の質的過重性について控訴人は、前記第2の3アないしエのとおり、㋐窃盗事件の捜査、実習生の指導、引継ぎの準備並びに外部団体の研修(GSE)への参加及びその準備は、いずれも警察官が日常的に行う業務であり、通常業務と質的に異なる業務とは到底いえず、仮に同時期にそれらの要因が重なることがあったとしても、丙警部補に社会通念上、客観的にみて、精神障害を発病させるほどの過重な心理的 日常的に行う業務であり、通常業務と質的に異なる業務とは到底いえず、仮に同時期にそれらの要因が重なることがあったとしても、丙警部補に社会通念上、客観的にみて、精神障害を発病させるほどの過重な心理的負荷があったと認めることはできない旨主張するので、以下順に検討する。 ア控訴人は、前記第2の3アのとおり、窃盗事件の捜査について、少なくとも専従捜査班発足以降の捜査(夜間捜査)は、仮に実施されていたとしても業務命令に基づくものではない上、刑事課主管に係る窃盗事件の捜査を補助する業務は、交番勤務員として日常業務であって、質的に過重な業務になり得ない旨主張する。 しかし、前記1で補正の上引用した原判決の「事実及び理由」中「第3当裁判所の判断」の2アのとおり、平成24年2月の専従捜査班発足以降も丙警部補が連続窃盗事件に関して「夜間捜査」、「非番捜査」の理由で時間外勤務を報告し、これが承認されていることからすれば、同警部補が業務として連続窃盗事件の捜査に従事していたことは明らかであり、己交番勤務員等が同警部補は自らが交番長を務める己交番管内で連続窃盗事件が発生していたことに重圧を感じていた旨証言している(甲30、乙18)ことからも、連続窃盗事件の捜査が発症前1か月間における質的に過重な業務を構成する要因の一つになったと評価すべきである。この点に係る控訴人の上記主張は採用できない。 イ控訴人は、前記第2の3イのとおり、実習生の指導について、通常業務以上に心理的負荷をもたらすものとはいえない旨主張する。 しかし、前記1で引用した原判決の「事実及び理由」中「第3 当裁判 所の判断」の2イのとおり、丙警部補は、職場実習指導員として、発症前1か月間の直前である平成24年2月5日から実習生の指導に当たっていたところ、実 決の「事実及び理由」中「第3 当裁判 所の判断」の2イのとおり、丙警部補は、職場実習指導員として、発症前1か月間の直前である平成24年2月5日から実習生の指導に当たっていたところ、実習生と2名で職務執行を行うため職務の分担が困難となってその業務量が増大しただけではなく、同警部補が実習生との勤務について負担を感じていたとの証言(甲30、31)があることからしても、実習生の指導が発症前1か月間における質的に過重な業務を構成する要因の一つになったと評価すべきである。控訴人の上記主張は採用できない。 ウ控訴人は、前記第2の3ウのとおり、引継ぎの準備(異動のための引継ぎ)について、まず、丙警部補が異動のための引継ぎ作業に従事していた事実はない旨主張する。しかし、証拠(甲30、乙16)によれば、複数の己交番勤務員が、丙警部補は平成24年2月及び同年3月に引継ぎ作業のため、週休日に時間外勤務をしていたと証言していること、丁課長が平成24年3月期に同警部補の異動があることを前提とした対応をしていたことが認められるのであって、同警部補が異動のために引継ぎ作業をしていたことは優に認められる。丙警部補が行っていた作業が春の異動時期前の一般的なものにすぎない旨の控訴人の主張は採用できない。 また、控訴人は、異動のための引継ぎ作業が通常の業務に比して業務量を増加させる要因となることはあり得ない旨主張するが、前記1で引用した原判決の「事実及び理由」中「第3 当裁判所の判断」の2ウのとおり、異動のための引継ぎ作業には、後任者に対するもの(引継書の作成及び実際の引継ぎ)のほか、異動時期までに未処理事案等を処理し、書類を整理するなどの作業もあり、実際に平成24年2月から同年3月頃にかけて丙警部補が週休日等に己交番に出勤して引継ぎのための作 の作成及び実際の引継ぎ)のほか、異動時期までに未処理事案等を処理し、書類を整理するなどの作業もあり、実際に平成24年2月から同年3月頃にかけて丙警部補が週休日等に己交番に出勤して引継ぎのための作業等を行っていたことに照らし、控訴人の上記主張は採用できない。 エ控訴人は、前記第2の3エのとおり、外部団体の研修(GSE)への参加やその準備について、まず、その事前準備は客観的にみて長時間を 要するものではなく、丙警部補にとって取り立てて負担になるようなものではなかった旨主張する。しかし、丙警部補が非番日や週休日に長時間の移動を要する本件事前会合等に参加することを余儀なくされていたことや、勤務時間外に相当な時間を費やして、自信のない外国語を用い、慣れないパワーポイントを作成してプレゼンテーションの準備をせざるを得ない状況にあったことに照らし、控訴人の上記主張は採用できない。 また、控訴人は、GSEへの参加自体についても、丙警部補に特段の心理的負荷を与えるものとは評価できない旨主張する。しかし、証拠(甲8、32、33、乙24)によれば、丁課長は、丙警部補にGSEへの参加希望を確認した際、募集要項に語学は含まれていないから英語は話せなくても問題がない旨伝えたこと、実際には、応募資格には「英語会話に心得があ」ることが掲げられ、現地でも通訳はつかず、参加者が直接会話する必要があったこと、同警部補は、外国語が話せないことについて悩んでいたこと、GSEの他の参加者は、英語での交流が多いため参加者はプレッシャーを感じるとの認識を有していたことが認められる。そうすると、丙警部補は、GSEに参加して外国で研修するためには相応の英語能力が必要であることを知り、勤務時間外において語学の勉強をするなど努力はしていたものの、英会話能力に自信 ことが認められる。そうすると、丙警部補は、GSEに参加して外国で研修するためには相応の英語能力が必要であることを知り、勤務時間外において語学の勉強をするなど努力はしていたものの、英会話能力に自信が持てずに悩んでいたことがうかがわれるのであって、同警部補にとってGSEへの参加、特に英会話能力の問題は相当な心理的負担になっていたものと解される。この点、控訴人は、GSEへの参加は親善訪問に近く、丙警部補のプレゼンテーションの内容や英語能力が評価されるわけではないから、同警部補に心理的負荷を与えるものではない旨主張するが、応募資格として英語会話に心得があることが挙げられ、警察署から選抜されて国際的な文化交流及び職業的交流を通じ国際理解の推進とその後のリーダーの育成を目的とするGSEに参加するというのであるから、英語能力に自信がない者にとっての心理的負荷は 相当なものがあったと考えるべきである。 オ以上検討したとおり、前記㋐ないしの要因はいずれも丙警部補の業務量を増大させる要因となっただけでなく、心理的負荷を与えるものであったと評価すべきであり、これらの要因を単体でみれば、同警部補の業務の難易度を著しく高め、あるいは業務量を著しく増大させるものではないとしても、これらが特に発症前1か月間に重畳的に同警部補に生じたことにより、その業務量を大きく増加させ、同警部補に強度の心理的負荷を与えたものと解するのが相当である。 このように上記期間における丙警部補の業務は、客観的にみて質的に過重なものであったと評価すべきであり、この点に関する控訴人の主張は採用できない。 控訴人の安全配慮義務違反の有無について控訴人は、前記第2の3アないしウの事情によれば、丙警部補の異変を知り、それに対処することは不可能であったから、控訴人に法 訴人の主張は採用できない。 控訴人の安全配慮義務違反の有無について控訴人は、前記第2の3アないしウの事情によれば、丙警部補の異変を知り、それに対処することは不可能であったから、控訴人に法的責任(義務違反行為)はない旨主張する。 しかしながら、前記1で補正の上引用した原判決の「事実及び理由」中「第3 当裁判所の判断」の3のとおり、丙警部補の上司であった丁課長らは、同警部補から勤務日誌や時間外勤務実績報告書の提出を受け、同警部補の発症5か月前の1か月間から発症前1か月間の時間外勤務時間数が増加傾向にあり、かつ発症前1か月間の時間外勤務時間数が117時間を超える状況に至っていたことを認識し、その原因についても、同警部補が専従捜査班発足以降も連続窃盗事件の夜間捜査に従事したり、実習生の指導により分担する業務量が増加し、異動のための引継ぎ準備等を行っていたためであることを知り、又はこれを容易に知ることができ、さらには同警部補が勤務時間外にGSEへの参加準備を行っていることも知っていたものである。加えて、丁課長らにおいては、丙警部補が真面目で責任感が強く、愚痴などは言 わず、他者の援助を求めず何でも自分一人で背負い込む性格であり、実際にそのような姿勢で己交番の交番長としてその職責を果たしていたことを認識していたと解されるところである。 丁課長らは、上記諸要因によって丙警部補の時間外勤務時間数が増大し、発症前1か月間はその状況が更に顕著になり、それによって同警部補の疲労や心理的負担が過大なものになっていることを容易に認識し得たにもかかわらず、同警部補の業務量を調整したり、その様子や状況を確認することもなく、かえって重畳的な業務負担の作出に関わるとともに、同警部補が時間外勤務実績報告書で報告した時間外勤務の時間の一部を抹消 かかわらず、同警部補の業務量を調整したり、その様子や状況を確認することもなく、かえって重畳的な業務負担の作出に関わるとともに、同警部補が時間外勤務実績報告書で報告した時間外勤務の時間の一部を抹消して、実際の時間外勤務の時間を短くする修正を施していたものであって、丁課長らが同警部補の業務の過重性に配慮していなかったことは明らかである。 そうすると、控訴人においては、丙警部補に業務を従事させこれを管理するに際し、職務の遂行に伴う疲労や心理的負担などが過度に蓄積して同警部補の心身の健康を損なうことがないようにする義務に違反したというべきである。控訴人が当審において主張する各事情が上記判断を左右するものでないことは、上記判示に照らし明らかである。 3 当審における控訴人の追加主張(過失相殺の(類推)適用)に対する判断控訴人は、前記第2の4①ないし③の事情によれば、本件において過失相殺の(類推)適用が認められるべきである旨主張する。 そこで検討するに、業務(公務を含む。)の負担が過重であることを原因として労働者又は公務員に心身に生じた損害の発生又は拡大に上記労働者等の性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が寄与した場合において、上記性格が同種の業務に従事する労働者等の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでないときは、上記損害につき使用者(公務員の場合における国または地方公共団体を含む。)が賠償すべき額を決定するに当たり、上記性格等を、民法722条2項の類推適用により上記労働者等の心因的要因として斟酌する ことはできないと解すべきところ(最高裁判所平成10年(オ)第217号、第218号同12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号1155頁参照)、控訴人の指摘する事情のうち①については、前記2のアに判示したとお すべきところ(最高裁判所平成10年(オ)第217号、第218号同12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号1155頁参照)、控訴人の指摘する事情のうち①については、前記2のアに判示したとおり、連続窃盗事件の捜査は丙警部補がその業務として従事していたものであり、業務外に自主的・自発的に行われた活動ではないし、強い責任感と職責の自覚をもって業務に打ち込む職員がいることは、警察官の職務に従事する公務員の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものではない。 また、控訴人の指摘する事情のうち②については、量的及び質的に過剰な業務を抱えていた丙警部補が、病院を受診したり、相談窓口等を利用するなどの機会があったとは認め難いし、前記1で引用した原判決の「事実及び理由」中「第3 当裁判所の判断」の1イ及びウのとおり、同警部補が、平成23年11月ないし12月に受検したストレス診断(「心の元気力チェッカー」)の総合評価が最低評価の「E(かなり悪い)」である旨を丁課長に伝えた際、同課長は「しょうがない職場だな」と冗談のように答えただけで、病院の受診や相談窓口等の利用を勧めるなどの対応もしていないことに鑑みれば、控訴人においては、メンタルヘルスに対する職員の意識が低く、また、ストレス状況に応じて病院の受診や相談窓口等の利用を促すこと等が周知徹底されていなかったことがうかがわれる。 さらに、控訴人の指摘する事情のうち③については、前記1で補正の上引用した原判決の「事実及び理由」中「第3 当裁判所の判断」の2のとおり、丙警部補は、業務上の心理的負荷により、うつ病エピソード等の精神疾患を発症し、その影響により本件自殺に至ったものと解されるところ、控訴人が指摘するストレス診断の結果をもって上記精神疾患の発症に被控訴人甲が関係したと認めることはでき り、うつ病エピソード等の精神疾患を発症し、その影響により本件自殺に至ったものと解されるところ、控訴人が指摘するストレス診断の結果をもって上記精神疾患の発症に被控訴人甲が関係したと認めることはできず、かえって、証拠(甲3、4、44、原審における被控訴人甲本人尋問)によれば、同警部補は、被控訴人甲に対し、日常的に帰宅時間や業務の進捗状況を伝え、当直時等に己交番で食べる夕食の準備を頼み、実 習生やGSEに関する苦労話などを伝えるなどし、被控訴人甲もプレゼンテーション(GSE)の準備に協力するなどしていたことが認められるのであって、被控訴人甲は、同警部補の業務上の心理的負荷を軽減する役割を一定程度担っていたと評価すべきである。 以上のとおりであって、過失相殺に係る控訴人の主張は理由がない。 4 結論よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 広島高等裁判所第2部 裁判長裁判官 小池明善 裁判官 光岡弘志 裁判官 若松光晴
▼ クリックして全文を表示