平成30(ワ)3191 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成31年4月10日 東京地方裁判所
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判決文本文21,711 文字)

- 1 -平成31年4月10日判決言渡同日原本領収裁判所書記官小島淳子平成30年(ワ)第3191号損害賠償請求事件口頭弁論終結の日平成30年10月3日判決 主文 1 被告は,原告に対し,10億2953万4779円及びこれに対する平成30年2月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求被告は,原告に対し,10億2953万4779円及びこれに対する平成23年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の要旨(1) 東京地方裁判所から破産宣告の決定を受けたオウム真理教の破産管財人と被告(オウム真理教のいわゆる後継団体とされる権利能力なき社団)は,平成12年に後記2(2)の合意をし,平成17年にはこの合意を改定する旨の 後記2(3)の合意をした。その後,原告は,上記破産管財人から,上記各合意に基づく被告に対する債権のうちオウム真理教による犯罪の被害者である破産債権者が有する破産債権に相当する部分の譲渡を受けた。 (2) 本件は,原告が,被告に対し,前記(1)の各合意(原告は,その法的性質を「債務負担契約」であると主張している。)に基づき,未払元本10億2 953万4779円及びこれに対する平成23年8月1日(後記2(5)の催 - 2 -告後の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがないか,当事者において争うことを明ら 2 -告後の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがないか,当事者において争うことを明らかにしない事実である。)(1) 当事者等 ア原告は,オウム真理教によるサリン事件をはじめとするテロ行為及び国内外におけるテロ媒体の根絶,事件の風化防止のための活動をなすとともに,テロ行為により死亡した者の遺族又は傷害等の被害を受けた者の支援活動に関する事業を行い,もって社会安全等の公益に寄与することを目的として,平成18年6月10日に設立された団体である(甲1。後記のと おり,原告が権利能力なき社団に該当するか否かについては,争いがある。)。 イ被告は,オウム真理教のいわゆる後継団体とされる権利能力なき社団であり,当初は「宗教団体・アレフ」ないし「宗教団体アーレフ」との名称であったが,平成20年5月20日,「Aleph」に名称を改めた(甲 2~4,13)。 ウオウム真理教は,宗教法人法の規定に基づく裁判所からの解散命令の決定を受けた後,平成8年3月に東京地方裁判所から破産宣告の決定を受け(同庁平成7年(フ)第3694号,第3714号事件。これらの事件を総称して以下「本件破産事件」という。),破産管財人として阿部三郎弁 護士(以下「破産管財人」という。)が選任された。 (2) 平成12年の合意(甲6)破産管財人と被告は,平成12年7月6日,次のような内容の合意をした(以下「平成12年合意」という。)。 ア被告は,オウム真理教の数々の犯罪行為に基づく被害者及び遺族に対し 心から謝罪し,破産者オウム真理教破産財団に対して次の事項を確認の上, - 3 -破産債権の残債務全額を引き受ける。( 被告は,オウム真理教の数々の犯罪行為に基づく被害者及び遺族に対し 心から謝罪し,破産者オウム真理教破産財団に対して次の事項を確認の上, - 3 -破産債権の残債務全額を引き受ける。(第1項)(ア) 破産管財人との債務引受合意であること(1号)(イ) 引受の主体は被告であり,個人は含まれないこと(2号)(ウ) 被告の債務引受はオウム真理教の破産手続上確定した債務であり,加害者個人の債務は含まれないこと(3号) (エ) 第2項(後記イ)以下の支払約定と一体となった債務引受であること(4号)イ被告は,前記ア(第1項)の残債務のうち9億6000万円を平成17年6月末日までの期間内に次のとおり破産管財人宛てに分割して支払う。 (第2項) (ア) 平成13年6月末日までに2億円を第1回分割金として支払う。ただし,既に譲渡済みの信者名義の不動産と債権,送付済みの現金4360万円,車輌,その他の動産のそれぞれの処分価格を含むものとする。 (1号)(イ) 前記(ア)(第2項1号)による支払金を控除した残額7億6000万 円については,年間1億円を最低限とする分割払をする。ただし,平成12年合意後,おおむね1年ごとに,破産管財人及び被告は,被告の弁済の実情を踏まえながら協議を行い,上記の支払方法について見直しを要すべき事態が生じている場合には,上方,下方修正を問わず,これを見直すものとする。(2号) ウ破産管財人は,裁判所との協議により,前記イ(第2項)の支払金を含め財団として最終配当を行って破産手続を結了する。(第3項)エ破産管財人は,被告に対し,前記ウ(第3項)の破産手続結了後,サリン事件等共助基金宛て,「オウム真理教に係る破産手続における国の債権に関する特例に関する法律」で定められ を結了する。(第3項)エ破産管財人は,被告に対し,前記ウ(第3項)の破産手続結了後,サリン事件等共助基金宛て,「オウム真理教に係る破産手続における国の債権に関する特例に関する法律」で定められた損害賠償請求債権者である被害 者及び遺族(以下「人身被害者債権者」という。)の届出債権の残高に達 - 4 -するまで支払うことを申し入れた。これに対し,被告は,上記申入れどおりの支払をなすことを認めるが,支払の時期,方法については,経済情勢や支払能力につき不透明なところがある故,平成12年合意成立後4年目の時期に協議をして弁済方法の確定をすることを申し入れ,破産管財人はこれを諒として,上記申入れどおりの時期に改めて協議をすることとした。 (第4項)(3) 平成17年の合意(甲7)破産管財人と被告は,平成17年9月7日,平成12年合意を次のような内容に改定する旨の合意をした(以下「平成17年合意」という。)。 ア被告は,破産管財人に対し,前記(2)イの9億6000万円から平成1 7年6月7日時点における既払金合計5億6781万5715円(改定条項第1項)を差し引いた未払残額3億9218万4285円を以下の方法により支払う(改定条項第2項)。 (ア) 平成17年合意成立の日より3年間の期間内に1年間で最低4000万円以上の金額をもって支払う。(1号) (イ) 3年間における各支払の時期,金額は被告側の判断によるものとする。(2号)イ被告は,前記ア(ア)及び(イ)の方法による弁済について,最善の努力を尽くすこととし,それでもなお未払残額の全額の支払ができない場合には,期間終了前の2か月前に,破産管財人にその旨を申し入れ,弁済方法につ いて改めて協議することとする。(改定条項第3項)ウ くすこととし,それでもなお未払残額の全額の支払ができない場合には,期間終了前の2か月前に,破産管財人にその旨を申し入れ,弁済方法につ いて改めて協議することとする。(改定条項第3項)ウ破産管財人及び被告は,前記(2)ウ及びエの定め(平成12年合意第3項及び第4項)に関しては,その合意の趣旨に基づく限り,なおその効力を有することを確認する。(改定条項第4項本文)(4) 破産管財人と原告の間の債権譲渡の合意等 ア破産管財人は,平成21年3月18日,原告に対し,前記(2)アにより - 5 -有する債権(以下「本件債権」という。)のうち平成20年12月25日までに被告及びひかりの輪から破産管財人に支払われた額並びにその他の理由による破産者オウム真理教破産財団に対する入金額並びに被告及びひかりの輪によるそれ以外の基金から被害者債権者に配分弁済を行った額を控除した残債権合計22億7214万9215円(その内訳は,①地下鉄 サリン被害者分が12億1134万7929円,②松本サリン被害者分が4億5958万8654円,③その他被害者分が6億0121万2632円である。)を譲渡した(甲8。以下「本件債権譲渡」という。)。なお,平成21年3月18日付け債権譲渡の合意書は,同年5月28日付けで,破産法90条に定める必要な処分として東京地方裁判所が許可したところ により,その内容の一部に誤記の訂正若しくは補正が加えられている(甲11)。 イ東京地方裁判所は,平成21年3月18日,本件債権譲渡を許可した(甲9)。 ウ破産管財人は,平成21年3月18日付け書面により,被告に対し,本 件債権譲渡が行われたことを通知し,上記書面は,その頃,被告のもとに到達した(甲10)。 (5) 支払の催告原告は 破産管財人は,平成21年3月18日付け書面により,被告に対し,本 件債権譲渡が行われたことを通知し,上記書面は,その頃,被告のもとに到達した(甲10)。 (5) 支払の催告原告は,平成23年6月20日付け書面により,被告に対し,前記(3)アの債権の残金である1億8081万3059円の支払を催告するとともに, 残債務の支払時期及び支払方法について協議をするよう催告をし(以下「本件催告」という。),上記書面は,同月21日,被告のもとに到達した(甲12の1・2)。 (6) 原告による民事調停の申立て等原告は,平成24年3月5日,東京簡易裁判所に対し,被告を相手方とし て民事調停を申し立てた(同庁平成24年(メ)第741号損害賠償請求調 - 6 -停事件)。同調停手続は,合計41回の期日を行ったものの,調停の成立に至らず,東京簡易裁判所は,平成30年1月18日,民事調停法17条に基づく決定をした。(甲13,弁論の全趣旨)被告は,平成30年1月23日,東京簡易裁判所に対し,上記決定に対する異議を申し立てた(甲14)。 (7) 本件訴えの提起原告は,平成30年2月2日,本件訴えを提起し,本件訴状は,同月9日,被告のもとに送達された(当裁判所に顕著な事実)。 3 争点(1) 原告が民事訴訟法29条所定の法人でない社団で代表者の定めのあるもの に該当するか否か(争点1。本案前の主張)(2) 本件訴えにつき原告が当事者適格を有するか否か(争点2。本案前の主張)(3) 平成12年合意及び本件債権の法的性質等(争点3)(4) 本件債権譲渡の効力(争点4)(5) 平成12年合意が負担付贈与契約であり,被告が残債務の履行を拒絶する ことができるか否か(争点5)( 及び本件債権の法的性質等(争点3)(4) 本件債権譲渡の効力(争点4)(5) 平成12年合意が負担付贈与契約であり,被告が残債務の履行を拒絶する ことができるか否か(争点5)(6) 本件債権のうち本件訴えにおいて原告が請求する部分(以下「本件請求債権」という。)の履行期(争点6) 4 争点に関する当事者の主張(1) 原告が民事訴訟法29条所定の法人でない社団で代表者の定めのあるもの に該当するか否か(争点1。本案前の主張)についてア原告の主張(ア) ある団体が民事訴訟法29条所定の法人でない社団で代表者の定めのあるものに該当するというためには,団体としての組織を備え,多数決の原則が行われ,構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し, その組織において代表の方法,総会の運営,財産の管理その他団体とし - 7 -ての主要な点が確定していることを要する。 (イ) 原告は,原告の目的に賛同して入会した「正会員」及び原告の事業を援助するために入会した「賛助会員」によって構成される団体である(定款6条1項,2項)。また,原告には,組織を構成する機関として,業務を執行する「理事」(同14条3項)及び業務執行等の監査を行う 「監事」(同14条4項)が置かれ,理事の互選により原告の代表者たる「理事長」が選任される(同条1項)。さらに,定款変更,解散及び合併等の組織の重要な意思決定を行う機関として,正会員によって構成される「総会」が置かれ(同20条,21条),総会に付議すべき事項は理事によって構成される「理事会」が議決することとなっている。 そして,原告には,現在,理事が7名,監事が2名及びこれらの者を含む正会員が15名おり,これらの者によって,総会における役員選任や理事会における 「理事会」が議決することとなっている。 そして,原告には,現在,理事が7名,監事が2名及びこれらの者を含む正会員が15名おり,これらの者によって,総会における役員選任や理事会における事業執行の決定等,原告を組織する上記各機関が現実に運用されているのであるから,原告は,団体としての組織を備えているといえる。 (ウ) 原告の定款において,総会につき,定足数(定款25条),過半数による議決(同26条2項)及び表決権平等(同27条1項)の規定が存在し,理事会についてもこれらと同様の規定が存在する(同34条,35条1項)のであるから,定款上,組織運営については多数決の原則に行われることが予定されている。 そして,原告においては,毎年6月に行われる定時総会のほか,臨時総会,理事会の各会議が行われているところ,いずれの会議においても,実際に多数決によって各議題が議決されている。 これらの事実から,原告においては,多数決の原則が行われているといえる。 (エ) 原告の会員は,原告の目的に賛同し(正会員),又は事業を援助す - 8 -るために(賛助会員)入会するものとされ(定款6条),入会に当たっての条件はない(同7条1項)上,役員についても,欠員補充の規定(同16条)が存在するから,団体の存続が特定の構成員や役員の存在に依存せず,構成員の変更にかかわらず,団体が継続的に存続することが定款において予定されている。実際に,死亡による退会者が2名,希 望による退会者が2名存在したが,現在に至るまで原告は団体として存続し,定款に定められた活動を行っている。 また,原告においては理事長が代表権を持ち(定款12条2項,14条1項),その選任方法も定款に規定されている(同13条2項)。 また,総会及 体として存続し,定款に定められた活動を行っている。 また,原告においては理事長が代表権を持ち(定款12条2項,14条1項),その選任方法も定款に規定されている(同13条2項)。 また,総会及び理事会の運営についても,その構成(同20条,29 条),権能(同21条,30条),開催方法(同22条,31条),招集方法(同23条,32条),議長(同24条,33条)等の詳細な規定が置かれている。資産についても,その構成(同37条),管理方法(同38条),事業年度(同39条),事業計画及び予算(同40条)等の定めが存在し,平成29年9月7日以降,会計監査人として公認会 計士が就任している。 以上のとおり,原告については,定款において代表の方法をはじめとする組織の主要な事項に関する規定が整備され,これに従った運用が行われている。 (オ) 以上のとおりであって,原告は,民事訴訟法29条所定の法人でな い社団で代表者の定めがあるものに該当するというべきであるから,当事者能力を有するというべきである。 イ被告の主張原告は,権利能力なき社団であると主張するものの,被告がサリン事件等共助基金を通して原告に提供した3億5720万2788円につき,被 告の配当実施の要請に応じないなど,組織的な活動実績は一切明らかにさ - 9 -れておらず,団体としての組織の備えを欠いた存在であるといわざるをえないから,民事訴訟法29条所定の法人でない社団には該当しないというべきである。したがって,原告には,当事者能力がない。 (2) 本件訴えにつき原告が当事者適格を有するか否か(争点2。本案前の主張)について ア原告の主張給付の訴えにおいては,自己の給付請求権を主張する者が正当な原告として当事者適格が認 2) 本件訴えにつき原告が当事者適格を有するか否か(争点2。本案前の主張)について ア原告の主張給付の訴えにおいては,自己の給付請求権を主張する者が正当な原告として当事者適格が認められる。本件訴えにおいては,原告が,本件請求債権につき自己の給付請求権を主張しているのであるから,原告に本件訴えの当事者適格が認められることは明らかというべきである。 イ被告の主張原告の定款を見ると,本件訴えの本源的な目的となるはずの,被告から配当原資を受けての「テロ行為により死亡した者の遺族又は傷害を受けた者の支援活動に関する事業」に関しては,4条1号に「被害者等及びその関係者の経済活動の活性化を図る活動」と,5条1号に「破産者オウム真 理教破産管財人との連携によるテロ行為の被害者の救済事業」と,それぞれあるのみであって,原告には,本件訴えにおける請求を法律上の債権債務として根拠付けることが可能な原告としての主体的な資格(当事者適格)は,未だ存在しないというべきである。 (3) 平成12年合意及び本件債権の法的性質等(争点3)について ア原告の主張(ア) 本件債権は,破産管財人と被告との間の平成12年合意によって発生したものである。 そして,平成12年合意は,被告が,オウム真理教の犯罪被害者やその遺族ら個々人との間において賠償の合意をする代わりに,それら の者の代表としての側面を有する破産管財人に上記被害者・遺族らの - 10 -被害回復を任せることとして,破産管財人に対し,破産債権の残債務全額に相当する額を自己の債務として負担することを申し入れ,破産管財人がこれを承諾したことにより成立した破産管財人と被告との間における合意であって,その法的性質は,債務引受契約ではなく,債務負 務全額に相当する額を自己の債務として負担することを申し入れ,破産管財人がこれを承諾したことにより成立した破産管財人と被告との間における合意であって,その法的性質は,債務引受契約ではなく,債務負担契約である。 (イ) 被告は,本件債権は,訴求力を欠くいわゆる自然債務であると主張する。しかし,本件債権は,訴求力を欠くものとして法律に定められたものには該当せず,破産管財人と被告との間で本件債権について不訴求とすることの合意もされていないこと,本件債権が訴求力を欠くこととされるような特殊な事情もないこと(なお,宗教上の信念から する救済の観念なるものは,被告の内心にすぎない。)からすれば,自然債務ではないというべきである。 (ウ) なお,本件破産事件において破産裁判所が認定した1203件の人身被害者債権者の債権総額は38億2288万6207円であるところ,ここから本件破産事件において人身被害者債権者に配当された1 5億5073万6992円を控除すると,22億7214万9215円となり,これが破産裁判所の許可を受けて原告が破産管財人から譲り受けた本件債権の額となる。 そして,上記の22億7214万9215円から,①オウム真理教犯罪被害者等を救済するための給付金の支給に関する法律(以下「オ ウム真理教犯罪被害者等給付金支給法」という。)により国に法定移転した債権額8億2626万6403円,②ある人身被害者債権者がある加害者から受領した弁償金合計593万円,③被告が原告に対して平成20年11月26日から本件訴えの提起時である平成30年2月2日までの間に弁済した合計3億5720万2788円,④被告と 連帯して債務を負担するひかりの輪が原告に対して平成20年11月 - 11 -26日から平成30年9月 である平成30年2月2日までの間に弁済した合計3億5720万2788円,④被告と 連帯して債務を負担するひかりの輪が原告に対して平成20年11月 - 11 -26日から平成30年9月18日までの間に弁済した合計3148万6014円を控除すると,残額は10億4926万4010円となる。 さらに,⑤オウム真理教の幹部であったAが原告に対して平成18年8月18日から平成30年8月13日までの間に支払った合計1006万2000円,②B元死刑囚の財産についての強制執行手続にお いて,原告に対して平成19年7月24日に配当された725万0405円,③破産管財人であった阿部三郎弁護士が平成22年10月19日の時点において管理していた241万6826円については,当然に本件債権に対する弁済に充当されるとみることはできないが,審理促進の観点から上記の10億4926万4010円から控除するこ ととして,本件訴えにおける請求の額(本件請求債権の額。10億2953万4779円)とした。 イ被告の主張(ア) 平成12年合意においては,「破産債権の残債務全額を引き受ける」とされるのみであり(第1項。なお,被告において第2項で弁済期の 合意がされた9億6000万円については完済している。),原告は,本件請求債権につき,原告主張額の支払合意がいつ具体的に成立したのかを基礎付けるに足りる主張立証をしていないというべきである。 (イ) 本件債権は,平成12年合意における債務負担契約(その実質は贈与契約)により成立したものであるところ,同契約は,被告における 宗教上の信念からする救済の観念に基因するもので,本件債権はいわゆる自然債務であるというべきであるから,原告は,被告に対し,本件訴えにより本件請求債権の履行を請求する 同契約は,被告における 宗教上の信念からする救済の観念に基因するもので,本件債権はいわゆる自然債務であるというべきであるから,原告は,被告に対し,本件訴えにより本件請求債権の履行を請求することができない。 (4) 本件債権譲渡の効力(争点4)についてア被告の主張 平成12年合意は,破産管財人を債権者とするものであり,平成12年 - 12 -合意によって被告が負った債務を履行した場合には,法律上,破産債権者に対する配当原資とすることが義務付けられている。この点からすれば,本件債権は,破産管財人という債権者個人と切り離すことができない特に強度の指名性を有する債権であるというべきであるから,その譲渡性を当然には認めることができず,その譲渡に当たっては債務者であ る被告の承諾が必要であるというべきである。そして,被告は本件債権譲渡を承諾していないから,本件債権譲渡は無効である。 イ原告の主張本件債権に譲渡性が認められないとの主張は否認ないし争う。 なお,債権譲渡の譲受人は,債務者の承諾がなくとも,債務者に対する 通知をもって債務者に対抗することができる(民法467条1項)から,被告の承諾がなくても本件債権譲渡は有効である。 (5) 平成12年合意が負担付贈与契約であり,被告が残債務の履行を拒絶することができるか否か(争点5)についてア被告の主張 平成12年合意は,被告がオウム真理教の犯罪被害者やその遺族らに対する配当に充てる目的で,破産管財人に対して金銭の給付債務を負う一方で,破産管財人も同目的に沿った配当手続を実行するという債務を負担する負担付贈与契約であり,本件債権譲渡の譲受人であり,本件債権の特定承継を受けた原告も破産管財人と に対して金銭の給付債務を負う一方で,破産管財人も同目的に沿った配当手続を実行するという債務を負担する負担付贈与契約であり,本件債権譲渡の譲受人であり,本件債権の特定承継を受けた原告も破産管財人と同内容の債務を負担しているも のというべきである。 そして,原告には,被告の再三の要請にもかかわらず,配当手続を実施していないという債務不履行があるから,被告は,同時履行の抗弁権により,原告がその債務を履行又は履行の提供をするまでは,平成12年合意による残債務の履行を拒むことができる。 イ原告の主張 - 13 -平成12年合意は贈与契約ではなく債務負担契約であるから,被告の主張はその前提から誤っている。その余の主張は否認ないし争う。 (6) 本件請求債権の履行期(争点6)についてア原告の主張平成12年合意においては,本件債権のうち平成17年6月末日までの 期間内に支払うべきものとされた9億6000万円を除く部分について,「支払の時期,方法については,経済情勢や支払能力につき不透明なところがある故,平成12年合意成立後4年目の時期に協議をして弁済方法の確定をする」こととされ,確定期限は設けられていないものの,将来的に確定期限を定め,その約定に従って弁済することが予定されているのであ り,上記部分については,単に期限の定めのない債務とされたものにすぎない。 そして,原告は,平成23年6月20日付け書面(被告には同月21日に到達した。)をもって,本件債権のうち期限の定めのない部分についても弁済方法等の協議を申し入れており(前提事実(5)),これをもって, 支払を催告したものと評価できるから,上記部分については,原告による同催告により弁済期が到来したものというべきである。 イ 済方法等の協議を申し入れており(前提事実(5)),これをもって, 支払を催告したものと評価できるから,上記部分については,原告による同催告により弁済期が到来したものというべきである。 イ被告の主張平成12年合意の第4項によれば,本件債権のうち本訴請求金額に係る部分(本件請求債権)については,「支払の時期,方法については,経済 情勢や支払能力につき不透明なところがある故,平成12年合意成立後4年目の時期に協議をして弁済方法の確定をすることを申し入れ,破産管財人はこれを諒として,上記申入れどおりの時期に改めて協議をすることと」され,この条項が効力を有することは,平成17年合意によっても確認された(平成17年合意改定条項第4項本文)。これらの条項によれば,本 件請求債権の履行期はなおも未到来というべきであって,原告は,被告に - 14 -対して本件請求債権の履行を求めることはできない。 また,平成12年合意により成立した本件債権は,いわゆる出世払いの性格を有し,弁済原資があるときに弁済すべきものであるところ,被告に弁済原資があるとは認められず,この意味においても本件債権の履行期は到来していないというべきである。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(原告が民事訴訟法29条所定の法人でない社団で代表者の定めのあるものに該当するか否か。本案前の主張)について(1) ある団体が民事訴訟法29条所定の法人でない社団で代表者の定めのあるものに該当するというためには,団体としての組織を備え,多数決の原則が 行われ,構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し,その組織において代表の方法,総会の運営,財産の管理その他団体としての主要な点が確定していなければならない(最高裁昭和35年(オ)第1029号 行われ,構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し,その組織において代表の方法,総会の運営,財産の管理その他団体としての主要な点が確定していなければならない(最高裁昭和35年(オ)第1029号同39年10月15日第一小法廷判決・民集18巻8号1671頁参照)。 (2) 原告の定款(甲1)によれば,①原告は,原告の目的に賛同して入会した 「正会員」及び原告の事業を援助するために入会した「賛助会員」によって構成され(定款6条1項及び2項),②原告には,組織を構成する機関として,原告の業務を執行する「理事」(定款14条3項)及び業務執行等の監査を行う「監事」(同条4項)が置かれ,③理事の互選により原告の代表者たる「理事長」が選任されることとされ(同条1項),④さらに,定款変更, 解散及び合併等の組織の重要な意思決定を行う機関として,正会員によって構成される「総会」が置かれ(定款20条,21条),⑤総会に付議すべき事項は理事によって構成される「理事会」が議決することとされている(定款29条,30条)。 そして,証拠(甲18~20)及び弁論の全趣旨によれば,原告には,平 成28年7月1日の時点で,理事(理事長を含む。)が8名,監事が1名及 - 15 -びこれらの役員以外の会員が6名おり,同年6月の総会や,平成29年5月16日の理事会は,これらの者(ただし,役員を除く会員の構成人員には多少の変動がみられる。)によって,総会における役員選任や理事会における事業執行の決定等が行われているものであって,原告を組織する各機関も現実に運用されているということができるから,原告は,団体としての組織を 備えているといえる。 (3) 原告の定款(甲1)は,総会につき,定足数(定款25条),過半数による議決(同26条2項) 実に運用されているということができるから,原告は,団体としての組織を 備えているといえる。 (3) 原告の定款(甲1)は,総会につき,定足数(定款25条),過半数による議決(同26条2項)及び表決権の平等(同27条1項)に関する定めを置いており,理事会についてもこれらと同様の定めを置いている(同34条,35条1項)ものであって,原告の組織運営については,多数決の原則が行 われることが予定されている。 そして,証拠(甲19,20)及び弁論の全趣旨によると,原告においては,平成28年6月30日には総会が開催され,平成29年5月16日には理事会が開催されているところ,これらの会議においては,上記定款の定めに沿った運用が行われているものと認められるから,原告においては,多数 決の原則が行われているといえる。 (4) 原告の会員は,原告の目的に賛同し(正会員),又は事業を援助するために(賛助会員)入会するものとされ(定款6条),入会に当たっての条件はない(同7条1項)上,役員についても,欠員補充の規定(同16条)が存在するから,団体の存続が特定の構成員や役員の存在に依存せず,構成員の 変更にかかわらず,団体が継続的に存続することが定款において予定されている。そして,原告の構成員については,これまでに死亡又は希望による退会者が存在したことはうかがわれるものの,その後も,原告は団体として存続し,定款に定められた活動を行っている(甲19~26,弁論の全趣旨)。 (5) 原告の定款(甲1)は,理事長が代表権を持つものとした上で(定款12 条2項,14条1項),理事長の選任方法を定め(同13条2項),また, - 16 -総会及び理事会についても,その構成(同20条,29条),権能(同21条,30条),開催方法 定款12 条2項,14条1項),理事長の選任方法を定め(同13条2項),また, - 16 -総会及び理事会についても,その構成(同20条,29条),権能(同21条,30条),開催方法(同22条,31条),招集方法(同23条,32条),議長(同24条,33条)等について,詳細な定めを置いている。さらに,原告の資産についても,その構成(同37条),管理方法(同38条),事業年度(同39条),事業計画及び予算(同40条)等に関する定 めを置いているところ,証拠(甲21)によると,原告においては,平成29年9月7日以降,公認会計士が会計監査人に就任していることが認められる。 以上において述べたところ及び前記イにおいて認定したところからすると,原告においては,組織の主要な事項に関する定めが整備されるとともに,そ のような定めに従った運用が行われていることが認められる。 (6) 以上のとおりであって,原告は,団体としての組織を備え,多数決の原則が行われ,構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し,その組織において代表の方法,総会の運営,財産の管理その他団体としての主要な点が確定していると認められるから,原告は,民事訴訟法29条所定の法人でな い社団で代表者の定めのあるものに該当するものというべきである。したがって,原告には民事訴訟における当事者能力が認められる。以上と異なる被告の主張は,採用することができない。 2 争点2(本件訴えにつき原告が当事者適格を有するか否か)について給付の訴えにおいては,自らがその給付を請求する権利を有すると主張する 者に原告適格があるというべきである(最高裁平成21年(受)第627号同23年2月15日第三小法廷判決・裁判集民事236号45頁参照)ところ,原告は, の給付を請求する権利を有すると主張する 者に原告適格があるというべきである(最高裁平成21年(受)第627号同23年2月15日第三小法廷判決・裁判集民事236号45頁参照)ところ,原告は,本件訴えにおいて,本件請求債権を有すると主張して,被告に対してその支払を求めるものであるから,本件訴えにつき原告に原告適格があることは明らかである。以上と異なる被告の主張は,独自の見解をいうものであって, 採用することができない。 - 17 - 3 争点3(平成12年合意及び本件債権の法的性質等)について(1) 本件債権は,破産管財人と被告との間の平成12年合意によって発生したものである(前提事実(2))。 そして,平成12年合意は,破産管財人とオウム真理教の後継団体(オウム真理教とは別個の団体)とされる権利能力なき社団である被告(前提 事実(1)イ,弁論の全趣旨)とが,①被告において,オウム真理教の数々の犯罪行為に基づく被害者及び遺族に対し心から謝罪するとともに,破産管財人に対する自己の債務として「破産債権の残債務全額」(同合意第4項の文言等に照らすと,人身被害者債権者による届出債権額の残額を指すものと解される。)を引き受けること,②被告が,上記①の債務のうち9億 6000万円を平成17年6月末日までに支払うこと,③破産管財人が,上記②により支払われた金員を含め形成された破産財団を基に最後配当を行い,本件破産事件に係る破産手続を結了すること,④被告においては,本件破産事件に係る破産手続が結了した後に,上記①の債務から上記②の9億6000万円を控除した残額を支払うこととするが,支払の時期や方 法については,平成12年合意成立後4年目の時期に協議をして確定することを合意したものであって(前提事実(2)),平 記②の9億6000万円を控除した残額を支払うこととするが,支払の時期や方 法については,平成12年合意成立後4年目の時期に協議をして確定することを合意したものであって(前提事実(2)),平成12年合意は,被告が破産管財人に対し本件破産事件における破産債権の残債務全額(人身被害者債権者による届出債権額の残額)に相当する額の債務を負担することを合意した債務負担契約(その実質は贈与契約)であるものと解するのが相 当である。 (2) この点,被告は,平成12年合意第2項で弁済期の合意がされた9億6000万円については完済しているとした上で,原告は,本件請求債権につき,原告主張額の支払合意がいつ具体的に成立したのかを基礎付けるに足りる主張立証をしていないなどと主張する。 しかし,①平成12年合意の内容(前提事実(2))によれば,同合意によ - 18 -り,破産管財人と被告の間において,本件債権の全部につき支払の合意がされたものであることは明らかである。②また,本件債権譲渡の対象である本件債権の残額は合計22億7214万9215円(その内訳は,地下鉄サリン被害者分が12億1134万7929円,松本サリン被害者分が4億5958万8654円,その他被害者分が6億0121万2632円 である。)とされている(前提事実(4)ア)ところ,破産管財人及び破産裁判所の職責に照らすと,破産管財人及び破産裁判所は,いずれも本件破産事件における債権調査の結果を踏まえた上で,本件債権譲渡又は本件債権譲渡についての許可をしたものと考えるのが合理的であるというべきことからすれば,本件債権譲渡により譲渡されたとされる本件債権の残額22 億7214万9215円とその時点における実際の本件債権の残額との間に食違いはないものと認めら が合理的であるというべきことからすれば,本件債権譲渡により譲渡されたとされる本件債権の残額22 億7214万9215円とその時点における実際の本件債権の残額との間に食違いはないものと認められる。そうすると,少なくとも上記時点においては,被告が平成12年合意に基づいて支払義務を負う本件債権の残額は上記金額のとおり確定していたことは明らかであって,その一部である本件請求債権10億2953万4779円の支払合意につき主張立証がな いかのようにいう被告の上記主張は,採用することができない。 (3) また,被告は,本件債権が被告における宗教上の信念からする救済の観念に基因するものであることを挙げて,本件請求債権が自然債務であり訴求力がない旨主張する。 しかし,①平成12年合意のような債務負担契約(その実質は贈与契約) に基づいて債務者が負う給付義務が当然に訴求力を欠くものと解すべき法令上の根拠はないこと,②平成12年合意及び平成17年合意をみると,本件債権の一部につき弁済期を定める条項など,本件債権に訴求力があることを前提としているものと解するのが素直な条項が置かれている一方,本件債権に訴求力がない旨を定めた条項はないことに加え,③被告の指摘 する事情は,被告の内心における事情にすぎず,破産管財人との間の合意 - 19 -の内容となっているものとは認め難いものというべきことからすると,本件債権が自然債務であり訴求力がない旨の被告の主張を採用することはできない。 4 争点4(本件債権譲渡の効力)について被告は,本件債権が破産管財人と切り離すことができない強い指名性を有す るなどとして,本件債権を譲渡するためには被告の承諾が必要であり,本件債権譲渡は無効であるなどと主張する。 しかし,① 被告は,本件債権が破産管財人と切り離すことができない強い指名性を有す るなどとして,本件債権を譲渡するためには被告の承諾が必要であり,本件債権譲渡は無効であるなどと主張する。 しかし,①平成12年合意及び平成17年合意の内容をみても,本件債権の譲渡を禁止する旨の定めはないこと(前提事実(2)及び(3)),②平成12年合意においては,被告が本件破産事件に係る破産手続の終了後に本件債権のうち 9億6000万円を除く部分の支払をする旨の定めが置かれており(前提事実(2)エ),平成17年合意にはその有効性を確認する旨の定めが置かれているところ(前提事実(3)ウ),破産手続の終了により破産管財人の任務も終了することになることに鑑みれば,破産手続の終了後に本件債権を原資とする人身被害者債権者への配当を行うための手段として,いわゆる受け皿となる団体に 対して本件債権を譲渡することにも合理性が認められるというべきこと,③原告の社団としての目的(前提事実(1)ア)や,原告の理事8名全員がオウム真理教のテロ行為等による被害の救済に尽力してきた弁護士であり,監事1名もオウム真理教のテロ行為による被害者の遺族であること(なお,これらの者は,いずれも原告の正会員でもある。甲18~26,弁論の全趣旨)からすると, 原告が被告から本件債権の弁済として回収した金員を,オウム真理教のテロ行為等による被害者及びその遺族らに対する被害回復以外の用途に充てるとは考え難いことを併せ考慮すると,民法の定めるところと異なり,本件債権譲渡の有効要件として被告の承諾を要するものと解すべき理由はないものというべきである。したがって,これと異なる被告の上記主張を採用することはできない。 5 争点5(平成12年合意が負担付贈与契約であり,被告が残債務の履 諾を要するものと解すべき理由はないものというべきである。したがって,これと異なる被告の上記主張を採用することはできない。 5 争点5(平成12年合意が負担付贈与契約であり,被告が残債務の履行を拒 - 20 -絶することができるか否か)について(1) 被告は,平成12年合意が,破産管財人も被告に対してオウム真理教の犯罪被害者やその遺族らに対する配当手続を実行する債務を負う負担付贈与契約であり,本件債権の特定承継を受けた原告も破産管財人と同様の債務を負うとした上で,原告が上記債務を履行しないとして,同時履行の抗弁権によ り本件債権の残債務の履行を拒絶する旨主張する。 (2) そこで検討するに,本件債権譲渡は,本件債権のみを譲渡するものであって,平成12年合意に基づく契約上の地位の譲渡ではないことが明らかであり,仮に破産管財人が被告に対して平成12年合意に基づき何らかの債務を負っていたとしても,本件債権の譲受人である原告が被告に対し破産管財人 と同様の債務を負わなければならない理由は見出し難い。 また,平成12年合意の内容(前提事実(2))をみても,破産管財人が被告に対してオウム真理教の犯罪被害者やその遺族らに対する配当手続を実行すべき債務を負うことの根拠となるような定めがあるとはいえず,破産管財人が被告から回収した本件債権を含む破産財団を人身被害者債権者等に対す る配当に充てなければならないのは,法が定める破産管財人の職責によるものにすぎないものというべきである。 結局のところ,前記(1)のような被告の主張は,その前提を欠くものであって,採用することができない(なお,被告の主張には,前記(1)と同様の債務不履行等を根拠として,平成12年合意を解除する旨をいうものと解さ れる部分もあるが, 主張は,その前提を欠くものであって,採用することができない(なお,被告の主張には,前記(1)と同様の債務不履行等を根拠として,平成12年合意を解除する旨をいうものと解さ れる部分もあるが,これまで述べたところに照らせば,これについても前提を欠く主張であることが明らかである。)。 6 争点6(本件請求債権の履行期)について(1) 認定事実ア被告は,平成20年11月26日から本件訴えの提起の日(平成30年 2月2日)までの間に,原告に対し,合計3億5720万2788円を弁 - 21 -済した(弁論の全趣旨)。 イひかりの輪は,原告に対し,①前記アと同じ期間に,合計3148万6014円を弁済し,③平成30年2月16日から同年9月18日までの間に,合計200万円を弁済した(弁論の全趣旨。なお,証拠〔甲8,9,11〕及び弁論の全趣旨によれば,原告のひかりの輪に対する債権と本件 債権とは,不真正連帯の関係にあるものと解される。)。 ウオウム真理教犯罪被害者等給付金支給法11条は,国が給付金を支給したときは,その額の限度において,当該給付金の支給を受けた者が有する対象犯罪行為に係る損害賠償請求権を取得する旨を定めているところ,国は,前記アと同じ期間に,原告に対し,同法に基づき,合計8億2626 万6403円を給付した(弁論の全趣旨)。 エ人身被害者債権者のうち1名は,前記アと同じ期間内に,オウム真理教によるテロ行為の加害者から合計593万円の支払を受けた(弁論の全趣旨)。 オ(ア) オウム真理教の幹部であったAは,平成18年8月18日から平成3 0年8月13日までの間に,原告に対し,合計1006万2000円を交付した(乙5,弁論の全趣旨)。 (イ) 平成19年7月24日,B元死刑囚の財 であったAは,平成18年8月18日から平成3 0年8月13日までの間に,原告に対し,合計1006万2000円を交付した(乙5,弁論の全趣旨)。 (イ) 平成19年7月24日,B元死刑囚の財産についての強制執行手続において,原告に対し,725万0405円が配当された(乙6の1・2)。 (ウ) 平成22年10月19日,破産管財人であった阿部三郎弁護士が管理していた241万7351円のうち241万6826円が,原告の預金口座に振り込まれた(乙7。なお,差額である525円は,振込手数料に充てられたものと推認することができる。)。 (2) 本件請求債権の弁済期について ア認定事実ア,甲12の1及び弁論の全趣旨によれば,平成17年合意に - 22 -おいて平成12年合意第2項により支払の時期及び方法が定められた9億6000万円の未払分として弁済期に関する定めがされた3億9218万4285円については,本件訴えが提起された時点までには弁済が完了しており,本件請求債権には含まれないものと認められる(なお,原告は,本件債権譲渡によって破産管財人から譲渡を受けた本件債権の残額22億 7214万9215円〔前記3(2)〕から前記(1)の認定事実に掲げた弁済等の額を控除した残額である10億2953万4779円をもって本件請求債権としているところ〔前記第2の4(3)ア(ウ)〕,本件の口頭弁論終結時までに本件債権につき前記(1)の認定事実に掲げた弁済等の額を上回る額の弁済等がされた事実の主張立証はない。)。 イ平成12年合意第4項は,本件債権のうち同合意2項により支払の時期及び方法が定められた9億6000万円を除く部分(以下「本件債権のうち9億6000万円を除く部分」という。前記アのとおり,本件請求債権は全て 年合意第4項は,本件債権のうち同合意2項により支払の時期及び方法が定められた9億6000万円を除く部分(以下「本件債権のうち9億6000万円を除く部分」という。前記アのとおり,本件請求債権は全てこの部分に含まれる。)につき,「支払の時期,方法については,経済情勢や支払能力につき不透明なところがある故,平成12年合意成立 後4年目の時期に協議をして弁済方法の確定をすることを申し入れ,破産管財人はこれを諒として,上記申入れどおりの時期に改めて協議をする」ものと定め(前提事実(2)エ),平成17年合意においても,このような平成12年合意第4項の定めの有効性が確認されたが(前提事実(3)ウ),同項の内容につき見直しはされなかった(甲7)。 このような平成12年合意第4項の規定ぶりや,平成17年合意における平成12年合意第4項の扱いに加えて,本件債権のうち9億6000万円を除く部分の金額は極めて多額にのぼり,平成12年合意がされた時点のみならず,平成17年合意がされた時点においても,その弁済原資の調達には一定の期間を要することが合理的に予想できる状況にあったものと 考えられることなどからすれば,平成12年合意第4項及びその有効性を - 23 -確認した平成17年合意は,本件債権のうち9億6000万円を除く部分につき,第一次的には,破産管財人と被告とが弁済の時期及び方法に関して真摯に協議を行い,その結果として定められた時期及び方法により弁済がされることを予定するものであると解される(その意味で,本件債権のうち上記部分につき,破産管財人からの催告のみによって弁済期が到来す る単純な期限の定めのない債務であると解することはできないものというべきである。)。 一方,本件債権は,その弁済として支払われる金員が被 き,破産管財人からの催告のみによって弁済期が到来す る単純な期限の定めのない債務であると解することはできないものというべきである。)。 一方,本件債権は,その弁済として支払われる金員が被告のいわば前身に当たるオウム真理教の引き起こした犯罪の被害者やその遺族らに対する被害救済に充てられることを予定したものであること(そのことは,平成 12年合意の趣旨に照らし,明らかである。)からすれば,本件債権のうち9億6000万円を除く部分についても,元来,速やかに弁済がされるべきものである。そして,合理的な期間内に破産財団を形成した上で破産債権者に対する配当を実施すべき責務を負うものと解される破産管財人及びオウム真理教の数々の犯罪行為に基づく被害者及び遺族に対し心から謝 罪して本件破産事件における「破産債権の残債務全額」を自らの債務として引き受けた被告の合理的意思に鑑みれば,平成12年合意第4項及びその有効性を確認した平成17年合意には,本件債権のうち9億6000万円を除く部分につき,弁済の時期及び方法に関して具体的な合意に至らない場合であっても,被告が支払うべき債権の額,弁済の時期及び方法に関 する協議の経過などに照らして合理的な支払猶予期間が経過したものと認められるときは,債権者からの支払の催告により弁済期が到来するものとする旨の合意が含まれているものと解するのが相当である。 ウそこで,原告が被告に対して本件債権のうち9億6000万円を除く部分に含まれる本件請求債権につき支払の催告をした時期がいつかを検討す ると,まず,原告は,平成23年6月20日付け書面により,平成17年 - 24 -合意改定条項第2項で弁済期が定められた3億9218万4285円(平成12年合意第2項の9億6000万円に含まれる部 ,まず,原告は,平成23年6月20日付け書面により,平成17年 - 24 -合意改定条項第2項で弁済期が定められた3億9218万4285円(平成12年合意第2項の9億6000万円に含まれる部分である。)の残金1億8081万3059円の支払を催告するとともに,本件債権の残債務全額について,その支払の時期及び方法について協議を開始するよう催告をした(本件催告。前提事実(5),甲12の1・2)ものであるが,本件 催告において本件債権のうち9億6000万円を除く部分につき原告が求めているのは,支払の時期及び方法についての協議を開始することにとどまるから,本件催告により本件請求債権につき支払の催告がされたものとはいい難いものというべきである。 また,原告は,平成24年3月5日,被告を相手方として民事調停の申 立てをしたが(前提事実(6)),本件債権に関する申立ての趣旨は,本件催告の内容とほぼ同趣旨のものであって(甲28の2),上記調停の申立てにより本件請求債権につき支払の催告がされたものともいい難い。 結局のところ,本件における全ての証拠や当裁判所に顕著な事実を勘案しても,原告においては,平成30年2月9日の被告に対する本件訴状の 送達(前提事実(7))により,本件請求債権についての支払催告をしたものと認めるほかないものというべきである。 エ一方,①本件請求債権の額,②平成12年合意から本件訴えの提起までに至る事実経過や,その間における本件債権の弁済の時期及び方法に関する破産管財人ないし原告と被告の間の協議の経過(前提事実(2)~(7),甲 6~14,乙1,2),③被告においては,平成29年10月末の時点で10億円を超える資産を有していたことがうかがわれること(甲17,弁論の全趣旨),④平成12年合意 提事実(2)~(7),甲 6~14,乙1,2),③被告においては,平成29年10月末の時点で10億円を超える資産を有していたことがうかがわれること(甲17,弁論の全趣旨),④平成12年合意から本件訴状の送達日までの間の時の経過などを勘案すると,本件訴状が被告に送達された平成30年2月9日の時点において,本件請求債権につき既に合理的な支払猶予期間は経過して いたものというべきことは明らかである。 - 25 -オそうすると,本件請求債権は,被告に本件訴状が送達された日である平成30年2月9日の経過により遅滞に陥ったものと認められる。 7 結論以上の次第であって,原告の請求は10億2953万4779円及びこれに対する平成30年2月10日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払 を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとして(なお,訴訟費用については,民事訴訟法64条ただし書により,その全部を被告に負担させることとする。),主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第28部 裁判長裁判官田中一彦 裁判官信夫絵里子 裁判官大門真一朗は,差支えにつき,署名押印することができない。 裁判長裁判官田中一彦

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