平成31(行ウ)145 元号制定差止請求事件

裁判年月日・裁判所
令和2年10月5日 東京地方裁判所
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判決文本文6,327 文字)

令和2年10月5日判決言渡平成31年(行ウ)第145号元号制定差止請求事件 主文 1 本件訴えをいずれも却下する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求の趣旨 1 被告は,元号を制定してはならない。 2 元号を「令和」に改める政令(平成31年政令第143号)が無効であることを確認する。 3 法務省民事局長が法務局長・地方法務局長に宛てて発した通達(昭和54年6月9日付け法務省民二第3313号「元号法の施行に伴う戸籍事務の取扱いについて」)が無効であることを確認する。 第2 事案の概要 1 本件は,原告らが,元号の制定は憲法13条が保障する人格権を侵 害するなどと主張して,行政事件訴訟法3条7項の差止めの訴えとして元号制定の差止めを求めるとともに,同法3条4項の無効等確認の訴えとして,元号を「令和」に改める政令(平成31年政令第143号。以下「本件政令」という。)及び元号法の施行に伴う戸籍事務の取扱いについて定めた通達(昭和54年6月9日付け法務省民二第3 313号通達。以下「本件通達」という。)の無効確認を求める事案である。 2 当事者の主張(原告らの主張)(1) 元号の制定は,原告ら国民が有している「連続している時間」 を切断し,憲法13条が保障する人格権を侵害するものであるから, 同条に違反し許されない。 (2) 元号制の本質は,「天皇による時間の支配」であり,「天皇の存在を常に国民に意識させるもの」であって,それは「天皇が在位する期間に沿ってものごとを考えるよう日本人に促すもの」であり,国民主権と基本的人権の尊重を基本原理とする憲法に根本的に反す るものであるから,元号法は違憲無効である。した ,それは「天皇が在位する期間に沿ってものごとを考えるよう日本人に促すもの」であり,国民主権と基本的人権の尊重を基本原理とする憲法に根本的に反す るものであるから,元号法は違憲無効である。したがって,同法に基づく元号の制定は許されず,同法に基づく本件政令及び本件通達も無効である。 (3) 元号法は,内閣に元号制定の権限を付与したものとみることはできず,本件政令は法的根拠を欠いたもので無効である。 (4) 本件通達は,戸籍上の記載は全て元号で表記することを各市町村長に義務付けることによって,戸籍に記載された元号を原告ら国民に強制しており,原告らの人格権を侵害し,かつ,「政令には,法律の委任がなければ,義務を課し,又は権利を制限する規定を設けることができない。」とした内閣法11条に違反するものである から無効である。 (5) 元号は各天皇の即位の時点を年(時間)の出発点(元年)としてその在位期間の年数を示したものであって,紀元とは全く異なるものであり,元号と紀元である西暦とは互換性がなく,人々が元号と西暦を自由に使い分けた場合,互いに元号を西暦に,西暦を元号 に常に転換することを余儀なくされ,西暦を使用する者にとっても不断に元号の使用を強制されていることと同じである。したがって,元号の制定は原告ら国民に計り知れない直接的な影響を及ぼすことになる。 公文書の年表記に関しては,「公文書の年の表記については,原 則として元号を用いるものとする。」ことを定めた「公文書の年表 記に関する規則」(平成6年3月31日規則第3号)というものが存在していて,国のあらゆる諸機関は,公文書で元号を使用しなければならないことが同規則によって義務付けられている。原告らを含む国民が,戸籍を含めてあらゆる公文書で元 月31日規則第3号)というものが存在していて,国のあらゆる諸機関は,公文書で元号を使用しなければならないことが同規則によって義務付けられている。原告らを含む国民が,戸籍を含めてあらゆる公文書で元号が使用されている状態の中で生きていかなければならないということは,元号の使用 が国民に強制されていることと全く同じであるといわなければならない。 本件政令に,国民の法律上の地位に対して直接具体的な影響を及ぼす規定が書かれていないからといって,そのことをもって原告らを含む特定の者の具体的な権利義務に影響を及ぼすことはないとい う結論を導き出すことは不可能である。 したがって,本件訴えの却下を求めている被告の主張は根拠がない。 (6) よって,原告らは,行政事件訴訟法37条の4に基づき,元号制定の差止めを求めるとともに,同法36条に基づき,本件政令及 び本件通達の無効確認を求める。 (被告の主張)(1) 請求の趣旨第1項の訴え(以下「本件差止めの訴え」という。)は,本件政令の制定の差止めを求めているものと解されるところ,本件政令は,既に平成31年4月1日に制定され,同日公布 され,令和元年5月1日に施行されているため,訴えの利益を欠き,不適法である。 (2) 本件政令の制定によって国民の法律上の地位に対して直接具体的な影響を及ぼすものではないし,特定の者の具体的な権利義務ないし法律上の利益に直接的な影響を及ぼすものでもないため,本件 政令の制定に処分性はなく,本件差止めの訴え及び請求の趣旨第2 項の訴え(以下「本件政令無効確認の訴え」という。)はいずれも不適法である。 (3) 本件通達の発出は,法務省民事局長から法務局長・地方法務局長宛てに発出されたものであり,直接国民に向けられた 項の訴え(以下「本件政令無効確認の訴え」という。)はいずれも不適法である。 (3) 本件通達の発出は,法務省民事局長から法務局長・地方法務局長宛てに発出されたものであり,直接国民に向けられたものでなく,行政組織内の内部的な行為にすぎず,国民の法律上の地位に直接具 体的な影響を及ぼすものではないから,本件通達の発出に処分性はなく,請求の趣旨第3項の訴え(以下「本件通達無効確認の訴え」という。)は不適法である。 (4) 被告である国が,原告らの挙げる「公文書の年表記に関する規則」を定めた事実はない。原告らは,国の法令ではなく,地方公共 団体(箕面市)が独自に定める規則・規程といった例規集の類いを国の定める法令と誤解し,かかる誤解に基づき主張していると思料される。 第3 当裁判所の判断 1 行政事件訴訟法3条7項の差止めの訴えは,行政庁が一定の「処 分」をすることの差止めを求めるものであり,同条4項の無効等確認の訴えは,「処分」の無効等の確認を求めるものであるから,その対象となる行為は「処分」であることが必要である。 ここにいう「処分」とは,公権力の主体である国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又は その範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解される(最高裁昭和30年2月24日第一小法廷判決・民集9巻2号217頁,最高裁昭和39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁等参照)。 2(1) 本件政令は,元号を令和に改めるというものにすぎず,直接国 民の権利義務を形成し又はその範囲を確定するような規定はない。 その根拠法規である元号法も,元号は政令で定めること(1項),元号は皇位の継承があった場合に限り改めること 接国 民の権利義務を形成し又はその範囲を確定するような規定はない。 その根拠法規である元号法も,元号は政令で定めること(1項),元号は皇位の継承があった場合に限り改めること(2項)を定めるものにすぎず,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定するような規定はない。 他の法令にも,元号を定めることにより直接国民の権利義務が形 成され又はその範囲が確定されるような規定はない。 本件政令により元号が令和に改められても,国民は,元号の使用を強制されるものではなく,元号,西暦を自由に使い分けることができるものであり,このことは,元号法の制定時や本件政令の制定時等にも再三確認されているところである(乙2~8,10)。 (2) 原告らは,人々が元号と西暦を自由に使い分けた場合,互いに元号を西暦に,西暦を元号に常に転換することを余儀なくされ,西暦を使用する者にとっても不断に元号の使用を強制されていることと同じであるなどと主張するが,独自の見解であり,本件政令によって国民が元号の使用を強制されることとなるものではない。 (3) 原告らは,公文書の年表記に関しては,「公文書の年の表記については,原則として元号を用いるものとする。」ことを定めた「公文書の年表記に関する規則」(平成6年3月31日規則第3号)が存在していて,国のあらゆる諸機関は,公文書で元号を使用しなければならないことが同規則によって義務付けられており,そ のことは元号の使用が国民に強制されていることと同じであるなどと主張する。 しかし,被告(国)がそのような規則を定めたことを認めるに足りる証拠はない。また,仮に,大阪府箕面市その他の地方公共団体において,公文書に元号の使用を義務付ける規則が制定されていた る。 しかし,被告(国)がそのような規則を定めたことを認めるに足りる証拠はない。また,仮に,大阪府箕面市その他の地方公共団体において,公文書に元号の使用を義務付ける規則が制定されていた としても,規則によって国民に義務を課し又は権利を制限すること はできないから(地方自治法14条1項,2項,15条1項),そのような規則によって国民が元号の使用を強制されることとなるものではない。 (4) 原告らは,元号の制定は,原告ら国民が有している「連続している時間」を切断し,憲法13条が保障する人格権を侵害するもの であるなどと主張する。 しかし,元号は年の表示方法の一つにすぎず,元号が新たに制定されたからといって,国民の権利や法律上保護された利益に何らかの影響があるものではない。原告らの主張は,被告が元号に関する原告らの信念に反して新元号を制定したことにより不快の念を抱い たというものにすぎず,法律上保護された利益の侵害があるとはいえない。 (5) 以上によれば,本件政令の制定は,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものではないから,行政処分に当たらない。 本件差止めの訴えは本件政令の制定行為の差止めを求めるものと解され,本件政令無効確認の訴えは本件政令の制定行為の無効確認を求めるものと解されるが,いずれも処分性のない行為の差止めあるいは無効確認を求めるものであるから不適法である。 (6) 本件差止めの訴えが,元号を令和に改める本件政令の制定行為 にとどまらず,今後,令和に続くあらゆる元号の制定行為の差止めを求めるものと解したとしても,元号を定める政令の制定行為には処分性がなく差止めの訴えとして不適法であることに変わりはない。 ( にとどまらず,今後,令和に続くあらゆる元号の制定行為の差止めを求めるものと解したとしても,元号を定める政令の制定行為には処分性がなく差止めの訴えとして不適法であることに変わりはない。 (7) 以上によれば,本件差止めの訴え及び本件政令無効確認の訴えは,いずれも処分性のない行為の差止めあるいは無効確認を求める ものであるから,その余の点について判断するまでもなく,不適法 である。 3(1) 本件通達(乙1)は,昭和54年6月9日付けで法務省民事局長から法務局長・地方法務局長宛てに発出された通達であり,その内容は,同月12日に施行される元号法は元号制定の手続を定めることを主たる目的としたもので,国民に対しその使用を義務付ける ものではないから,元号法は戸籍事務に何ら影響を及ぼすものではなく,今後とも,以下のア~ウのとおり取り扱うのが相当であり,その趣旨を了知の上,事務処理に遺憾のないよう管下の支局長及び市町村長に周知を取り計らわれたいとするものである。 ア年の表示方法として西暦を用いて届出等がなされた場合におい ても,市町村長はこれをそのまま受理する。 イ年の表示方法として西暦を用いた届出等を受理した場合において,これを戸籍に記載する際には,公簿の記載の統一を図る趣旨から,従来どおり元号をもって記載する。なお,外国人の生年月日については,従来どおり西暦による。 ウ戸籍の謄・抄本等は,原本に基づいて作成すべきものであるから,戸籍に記載された元号による年の表示を西暦による表示に改め,又は西暦による表示を併記した謄・抄本等の交付請求がされても,これに応じることはできない。 (2) 通達は,上級行政機関が関係下級行政機関に対してその職務権 限の行使を指揮し,職務に関して命令するために る表示を併記した謄・抄本等の交付請求がされても,これに応じることはできない。 (2) 通達は,上級行政機関が関係下級行政機関に対してその職務権 限の行使を指揮し,職務に関して命令するために発するものであり,行政組織内部における命令にすぎないから,下級行政機関がその通達に拘束されることはあっても,一般の国民は直接これに拘束されるものではなく,このことは,通達の内容が国民の権利義務に関連するものである場合においても別段異なるところはないと解される (最高裁昭和43年12月24日第三小法廷判決・民集22巻13 号3147頁,最高裁平成24年2月9日第一小法廷判決・民集66巻2号183頁参照)。 本件通達も,法務省民事局長が下級行政機関である法務局長・地方法務局長に対し,元号法施行後の戸籍事務の取扱いについて示したものにすぎず,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定 するものではない。 仮に本件通達に従った事務処理によって国民の権利義務に影響があったとしても,その影響は当該事務処理によって生じるもので,本件通達の発出によって直接国民の権利義務が影響を受けることになるものではない(例えば,法令の解釈上本来失権しない権利を失 権するものとして取り扱う旨の通達が発出されたとしても,個々の国民の権利が当該通達によって失権することはなく,通達の発出によって国民の権利義務が変動するわけではない。)。 (3) なお,念のため本件通達による事務処理の内容について検討しても,その内容は上記(1)のとおりであり,国民は元号ではなく西 暦による戸籍記載がされることについて法的利益を有するものではないから,国民の権利義務に影響を及ぼすものとはいえない。 (4) 以上によれば,本件通達の発出は,直接国民の権 は元号ではなく西 暦による戸籍記載がされることについて法的利益を有するものではないから,国民の権利義務に影響を及ぼすものとはいえない。 (4) 以上によれば,本件通達の発出は,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものではないから,行政処分に当たらない。 本件通達無効確認の訴えは,本件通達の発出行為の無効確認を求めるものと解されるが,処分性のない行為の無効確認を求めるものであるから,不適法である。 4 以上によれば,本件訴えは,いずれも不適法であるから却下することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第3部 裁判長裁判官古田孝夫 裁判官西村康夫 裁判官永田大貴

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