【DRY-RUN】主 文 本件控訴を棄却する。 理 由 弁護人林徳太郎の控訴趣意は別紙記載のとおりである。 まず一件記録によつて本件訴訟のこれまでの経過を顧みるのに、はじめ検
主文 本件控訴を棄却する。 理由 弁護人林徳太郎の控訴趣意は別紙記載のとおりである。 まず一件記録によつて本件訴訟のこれまでの経過を顧みるのに、はじめ検察官は被告人に対し被告人がAの依頼により同人所有の馬二頭を他に売却した代金中金三万円を昭和二十五年七月三十日に新潟県西蒲原郡a町のB旅館において着服横領したとの業務上横領の訴因をもつて移送前の第一審裁判所である新潟地方裁判所相川支部に公訴を提起したのであるが、その後裁判所の許可を得て右の訴因を被告人が同県同郡b村大字cC方より同人保管にかかるD(Aの父)所有の馬二頭を前同日に窃取したとの窃盗のそれに変更し、同支部は右の訴因をそのまま認めて被告人に対し有罪の判決を言い渡した。これに対して被告人から控訴の申立があり控訴裁判所である東京高等裁判所第二刑事部は弁護人の論旨を容れ、右の訴因の変更は公訴事実の同一性の範囲を甚だしく逸脱するもので許されないとの理由をもつて原判決を破棄し事件を新潟地方裁判所に移送する旨の裁判をしたのである。そこで移送を受けた新潟地方裁判所はまず移送前の第一審における前記訴因変更の許可を取り消し、当初の訴因につき審理を進めたところ、検察官はその後別に同裁判所に前記窃盗の訴因と同一の訴因について被告人に対する公訴を提起したので、原裁判所はこの二個の事件の弁論を併合して審理し、結局窃盗の点について有罪、業務上横領の点について無罪の判決を言い渡したのである。ところで、これに対する弁護人の論旨は、本件窃盗の事件と業務上横領の事件とは法律上同一の事件であるから、後になされた窃盗の公訴は棄却されなければならないというに帰するものと解される。 しかしながら、事件の同一性と公訴事実の同一性とは切り離すことのできない観念であつて、公訴事実が同一 の事件であるから、後になされた窃盗の公訴は棄却されなければならないというに帰するものと解される。 しかしながら、事件の同一性と公訴事実の同一性とは切り離すことのできない観念であつて、公訴事実が同一である限り事件は同一であるといわなければならず、公訴事実としては同一性を欠くが事件としては同一だというようなことは考えられないのである。(弁護人の論旨を原審における弁論と対照して読めば、弁護人はこれと異なる見解を有するものであることが窺われる。)しかるに、本件に関してはすでに述べたように、東京高等裁判所第二刑事部において業務上横領の事実と窃盗の事実とは公訴事実としての同一性を欠くという判断がなされていることに注意しなければならない。もつとも、右の判断は最初に起訴された事件(当初は業務上横領、後に訴因を変更して窃盗。以下、「前の事件」と呼ぶ。)についてなされたもので、右の事件は移送後の第一審裁判所で無罪の判決が確定して現在はすでに終結してしまい、現に当裁判所の審判の対象となつている本件は形式上これとは一応別個の事件であるから、前の控訴審の判決における判断が本件についてまで下級審である原裁判所を拘束するかどうかについては疑がないわけではない。 しかしながら、本件と前の事件とは、外形上は別個のものであるとしても実質的には密接な関係にあるものであつて、前の事件において変更された訴因は本件の訴因と全く同一のものなのである。そして、前記控訴審の判決における判断が前の事件につき原裁判所を拘束することは、裁判所法第四条の規定によつて疑をいれないところであるから、原審の検察官としては、もし窃盗の訴因につき被告人の処罰を求めようとすれば、本件におけるがごとく別個の起訴の方法をとるほかに途がないわけであつて、このことから考えれば、検察官の本件公訴提起は前記控訴裁判 の検察官としては、もし窃盗の訴因につき被告人の処罰を求めようとすれば、本件におけるがごとく別個の起訴の方法をとるほかに途がないわけであつて、このことから考えれば、検察官の本件公訴提起は前記控訴裁判所の判断が原裁判所を拘束することの必然的結果だといわなければならず、一方において右の拘束力を認めながら他方において本件公訴の提起を違法視することは、事の性質上正当でないとい<要旨>わざるをえない。すなわち、前の事件における控訴裁判所の判断が形式上別件である本件についてまで原裁判</要旨>所を拘束するということは一般的にはもちろんいえないことであるけれども、右のような特殊の関係のある事項についてだけは、前の事件における本来の拘束力が本件についても反射的な作用を及ぼす場合のあることを認めないわけにゆかないのである。その意味において、本件においては、かりに原裁判所がその独自の判断として前の事件と本件とがその公訴事実として同一であり同一事件だと考えたとしても、本件の公訴を不適法であるとして棄却することはできないものと解すべきであつて、従つて原裁判所が本件公訴を受理したことには違法の点はないというべきである。(本件と同種の事案に関する最高裁判所昭和二六年(あ)第一九八六号同二九年一月一四日第一小法廷決定参照)論旨はそれゆえ理由がない。 よつて刑事訴訟法第三百九十六条に従い本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。 (裁判長判事大塚今比古判事河原徳治判事中野次雄)
▼ クリックして全文を表示