平成21年4月16日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成20年(ワ)第12262号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成21年2月16日判決主文 原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1請求被告は,原告らに対し,それぞれ4743万0347円及びこれに対する平成17年3月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,被告の開設する東京都立府中病院(以下「被告病院」という。)において,肺塞栓と診断され,血栓除去手術等を受けたAが,その後肺血栓塞栓症により死亡したことについて,Aの父母で法定相続人である原告らが,被告病院の医療従事者には,下大静脈下部から腸骨静脈付近の血栓の有無を確認すべき注意義務があったのにこれを怠った過失がある等と主張して,被告に対し,不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償を請求する事案である。 前提事実(証拠を掲記しない事実は当事者間に争いがない。)(1)当事者等ア(ア)原告BはAの父,原告CはAの母であり,いずれもAの法定相続人である。 (イ)Aは,昭和29年9月22日生まれの男性であり,平成17年3月13日に死亡した。 イ被告は,被告病院を開設している地方公共団体である。 (2)診療経過 ア被告病院受診までの経過Aは,平成17年2月27日(以下,平成17年については月日のみ示す。),呼吸困難と背部痛を訴えて宇都宮病院を受診した(乙A1・3頁)。 イ被告病院での診療経過(ア)被告病院への入院Aは,2月28日朝,呼吸困難のため,救急車で被告病院の救命救急センターを受診し,同日午前8時頃に入院した(乙A1・86頁,乙A2・12頁)。 (イ)造影CT検査2月28日午前9時47分,A 院Aは,2月28日朝,呼吸困難のため,救急車で被告病院の救命救急センターを受診し,同日午前8時頃に入院した(乙A1・86頁,乙A2・12頁)。 (イ)造影CT検査2月28日午前9時47分,Aは,被告病院において,胸部から骨盤にかけて造影CT検査を受け,肺動脈本幹から右肺動脈の上葉枝,下葉枝にかけてと,左肺動脈から左下葉枝にかけて塞栓が認められ,両側肺塞栓と診断された(乙A1・355頁,乙A4の1ないし5)。 (ウ)循環器科への転科2月28日午前10時56分ころ,Aに対し,ヘパリン,ウロキナーゼの点滴静注が開始された(乙A1・93,94頁)。 Aは,同日午後3時35分ころから下肢静脈エコー検査を受け,左右の大腿静脈,膝窩静脈,ヒラメ筋静脈に血栓が発見されなかった(乙A1・94,357頁)。 Aは,3月1日午前10時,救命救急センターから循環器内科に転棟,転室した(乙A1・97頁)。 (エ)心臓外科への転科Aは,3月4日午前11時28分ころ腹部エコー検査を,同日午後0時ころ心エコー検査を受けた。心エコー検査により,Aの右房内には,動く血栓の塊が認められた(乙A1・8,104,105,372,3 73頁)。 Aは,血栓を除去するための緊急手術の適応があると判断され,循環器内科から心臓血管外科に転科した(乙A1・106頁)。 (オ)血栓除去手術3月4日午後9時34分から同月5日午前1時50分にかけて,Aに対し,肺動脈血栓摘除術(以下「本件手術」という。)が,心臓血管外科の担当医師によって施行された。被告病院の担当医師は,右房と肺動脈を切開して下大静脈,右房,肺動脈内の血栓を除去した。人工心肺からの離脱の際に血圧と経皮酸素飽和度の低下が認められたため,PCPS(経皮的心肺補助装置)が装着された(乙A1・223の1ないし223の 切開して下大静脈,右房,肺動脈内の血栓を除去した。人工心肺からの離脱の際に血圧と経皮酸素飽和度の低下が認められたため,PCPS(経皮的心肺補助装置)が装着された(乙A1・223の1ないし223の2頁)。 (カ)血栓除去手術後の経過a3月6日Aの呼吸循環動態が安定し,夕方にはPCPSから離脱した。 Aに対し,心エコー検査が実施された(乙A1・151,152頁)。 b3月8日Aに対し,心エコー検査が実施された(乙A1・182頁)。 c3月10日Aは,自発呼吸良好であり,抜管がなされた(乙A1・197頁)。 d3月11日Aは,ICUから心臓血管外科に転棟,転室した(乙A1・205頁)。 (キ)Aの死亡に至る経過3月12日の午後5時ころ,Aは座位から立ち上がる練習を行った後,座位に戻ったところ,急に後ろに倒れ,意識を喪失し,午後5時17分 には,両眼上転し,対光反射が消失した(乙A1・209,210頁)。 被告病院の医療従事者らにより,気道確保,心臓マッサージ,PCPSの装着などの蘇生措置が行われたが,3月13日午前6時5分,死亡が確認された(乙A1・213ないし215,441,442頁)。 (ク)解剖の結果と死因Aの死亡後,被告病院で病理解剖が実施され,その結果,左右の肺動脈にそれぞれ4センチメートル程度の血栓,下大静脈から左右の総腸骨静脈分岐部に6センチメートルの血栓が認められ,Aの死因は肺血栓塞栓症と確定診断された(乙A1・375頁)。 (ケ)被告病院における,その余の診療経過は,別紙1「診療経過一覧表」(略)に記載のとおりであり(当事者間に争いのある部分を除く。),Aの検査数値の推移は,別紙2「検査一覧表APTTとPT-INR」(略),別紙3「検査一覧表BUNとクレアチニン」(略)に記載のとおりである。 争 りであり(当事者間に争いのある部分を除く。),Aの検査数値の推移は,別紙2「検査一覧表APTTとPT-INR」(略),別紙3「検査一覧表BUNとクレアチニン」(略)に記載のとおりである。 争点 (1)注意義務違反の有無ア入院後の血栓確認義務違反(原告らの主張)(ア)注意義務aAが被告病院を受診する契機となった呼吸困難の原因は,肺血栓塞栓症であり,被告病院の担当医師も受診直後の造影CT検査によって両肺動脈の血栓を認識していた。 b肺血栓塞栓症は深部静脈血栓症によって形成された血栓が移動して発症するもので,肺血栓塞栓症は深部静脈血栓症の二次的合併症であると考えられることから,肺血栓塞栓症が認められたときは,下肢静脈から下大静脈,右心房を経て肺動脈に至るまでの静脈経路に血栓が 存在するか否かの確認が必要である。 c仮に,この経路のどこかに血栓があれば,それが遊離・移動して肺動脈を閉塞させ,致死的な肺血栓塞栓症を起こすおそれがある。 d特に本件では,血栓に対する溶解療法としてウロキナーゼ投与が行われており,その影響で形成された血栓が遊離し易い条件が備わっていた。 よって,被告病院の医療従事者には,被告病院入院後に,下大静脈下部から腸骨静脈付近のエコー検査,造影CT検査を行うなどして,血栓の有無を確認すべき注意義務が存したものである。 (イ)注意義務違反にもかかわらず,被告病院の医療従事者は,2月28日に胸部造影CT検査と下肢のエコー検査を施行したものの,下大静脈下部から腸骨静脈付近については,そこが血栓の好発部位であるにもかかわらず,血栓の有無の確認をしなかったものであり,上記注意義務違反がある。 (被告の主張)以下の理由により被告には原告ら主張の注意義務は存せず,また,そうでないとしても上記注意義務を尽くしてお かかわらず,血栓の有無の確認をしなかったものであり,上記注意義務違反がある。 (被告の主張)以下の理由により被告には原告ら主張の注意義務は存せず,また,そうでないとしても上記注意義務を尽くしており,原告らの主張には理由がない。 (ア)原告ら主張の医学的知見について被告病院の担当医師が,両肺動脈の血栓を認識していたことは認める。 しかし,その場合も,下肢静脈からの静脈経路に血栓が存在するか否かの確認は,患者の状態を考慮して行う必要があり,また,致死的な肺血栓塞栓症を起こすおそれがあるか否かは,血栓の大きさによるものであって,ウロキナーゼを投与すると血栓が遊離し易くなるとの医学的知見も存在しない。 (イ)血栓の検査の実施 被告病院の医療従事者は,2月28日に胸部から骨盤にかけて造影CT検査を行っているが,その際,下大静脈下部から腸骨静脈付近についても造影CT検査が行われ,同部位に血栓が存在するとの検査所見はなかった。 また,被告病院の医療従事者は,同日,心エコー検査により,心臓全体,上大静脈,下大静脈の一部を観察しているが,その際,更に下肢静脈エコー検査により,左右の大腿静脈,膝窩静脈,ヒラメ筋静脈を観察し,これらの検査が施行された部位には,血栓は発見されなかった。 イ本件手術後の血栓確認義務違反(原告らの主張)(ア)主位的主張a注意義務(a)3月4日の本件手術によって,確認された限りの血栓は除去されたが,なお再発の危険性があった。 (b)本件手術時までの血栓の有無の確認が不十分であり,検索していない部位になお血栓が存在していた可能性も十分に考えられた。 (c)被告病院で講じられた,ヘパリン,ワーファリンの投与,弾性ストッキングの着用といった再発防止策では血栓の発生が完全に抑えられるものではない。 (d)3月5 ていた可能性も十分に考えられた。 (c)被告病院で講じられた,ヘパリン,ワーファリンの投与,弾性ストッキングの着用といった再発防止策では血栓の発生が完全に抑えられるものではない。 (d)3月5日から抗凝固剤ヘパリンの投与が行われているが,APTTに延長傾向が見られたのは同月8日からで,同月9日には延長が不十分であるとして,ヘパリンが追加されているのであり,この間に新たな血栓が形成された可能性がある。 (e)3月6日夕方まではPCPSの脱血管が下大静脈に留置されていたため,異物による血栓形成というリスクもあった。 (f)本件手術後に血栓溶解療法を施行しておらず,既に形成された 血栓が溶解消滅せず,残存している危険性もあるし,実際に,Aにおいては,入院後のウロキナーゼ投与にも関わらず,血栓除去には外科的な処置を要しており,血栓溶解療法の効果は上がっていなかった。 (g)血栓が移動して肺動脈内に入れば,致死的な肺血栓塞栓症を発症するおそれがある。 (h)特に,一般的な知見として臥床の状態から立位・歩行練習を始める際には血栓が遊離・移動し易いということができる。 よって,被告病院の医療従事者には,本件手術後に,Aの下大静脈下部から腸骨静脈付近について,エコー検査,造影CT検査,静脈造影検査などを実施して,血栓の有無を確認すべき注意義務があった。 b注意義務違反にもかかわらず,被告病院の医療従事者は,3月6日及び同月8日に心臓内の血栓の有無については心エコー検査で確認したものの,それ以外の部位については血栓の有無を確認しなかったものであり,上記注意義務違反がある。 (イ)予備的主張仮に,本件手術時点で,Aの下大静脈下部から腸骨静脈付近について,血栓が存在しなかったとしても,術後装着されたPCPSは異物であり,それが原因となっ ,上記注意義務違反がある。 (イ)予備的主張仮に,本件手術時点で,Aの下大静脈下部から腸骨静脈付近について,血栓が存在しなかったとしても,術後装着されたPCPSは異物であり,それが原因となって,血栓が形成される危険性があり,Aについての上記(ア)の状況は変わらなかったのであるから,なお,被告病院には血栓を確認すべき義務がある。 (被告の主張)(ア)主位的主張に対して以下の理由により,被告は上記注意義務を尽くしており,原告らの主張には理由がない。 aエコー検査による血栓検索被告病院の医療従事者は,3月6日,同月8日にAに対しエコー検査を実施しており,その際,心臓全体,下大静脈上部,上大静脈,左大腿静脈付近(外腸骨静脈下部を含む。)を観察したが,血栓は発見されなかった(ただし,3月6日については,右大腿静脈から挿入されていたPCPSカテーテルを抜去した直後で,同部位をガーゼとテープで圧迫中であったため,右大腿静脈付近の検査は実施できなかった。)。 b手術時のバルンカテーテルによる血栓検索被告病院の医療従事者は,本件手術において,有効長24センチメートルのプルートのバルンを使用して,下大静脈を観察している。Aの下大静脈は約22センチメートルであるから,バルンは,下大静脈最下部(腸骨静脈分岐部)を超えて左右いずれかの腸骨静脈まで検索していたものである。 c他の方法による再発防止措置の実施被告病院は,Aに対し,本件手術後,以下の方法により肺血栓塞栓症の再発防止措置を講じていたのであり,被告病院では,Aの肺血栓塞栓症の再発のおそれは比較的小さいと評価していた。 (a)抗凝固剤ヘパリンを3月5日から,同ワーファリンを同月9日からそれぞれ投与した。 (b)抗血小板剤バファリンを3月9日から投与した。 (c)下肢弾性ストッ れは比較的小さいと評価していた。 (a)抗凝固剤ヘパリンを3月5日から,同ワーファリンを同月9日からそれぞれ投与した。 (b)抗血小板剤バファリンを3月9日から投与した。 (c)下肢弾性ストッキングを着用させた。 (d)3月7日午後2時からフットポンプ(メドマー)を装着した。 (e)下肢屈伸などのリハビリを施行した。 d術後CT検査の予定についてエコー検査では下大静脈下部の血栓は描出不可能であり,同部位の 血栓を確認するためには,下肢静脈から造影剤を注入して静脈造影検査や造影CT検査を行う必要がある。 しかしながら,Aは,3月4日から腎機能障害があり,造影剤を使用すると,腎機能障害を増悪させる危険性が高かった。他方で,術後に血栓が残っている可能性は低いと判断していたことから,被告病院の医療従事者は,3月23日に造影CT検査を行う予約をしていたものである。 (イ)予備的主張についてPCPSを装着していたからといって,血栓がPCPSの周囲に形成されることは予見不可能であり,また,被告病院においてヘパリン投与等の血栓再発の予防措置は十分に尽くされていた。 (2)因果関係ア機序(原告らの主張)上記のとおり,A死亡後の解剖において,左右の肺動脈にそれぞれ4センチメートルの血栓,下大静脈から左右の総腸骨静脈分岐部に6センチメートルもの血栓が存在していたことからすると,下大静脈ないし腸骨静脈にあった巨大血栓の一部が移動して,右心房,右心室を通過し,肺動脈を詰まらせ,急激な血流低下をもたらしたため,Aの心停止が引き起こされたと考えられる。 (被告の主張)Aの肺動脈を詰まらせた血栓が,どの部位に由来するかは不明である。 イ注意義務違反との因果関係(原告らの主張)被告病院の医療従事者が,(1)の各血栓確認義務を尽くし,血栓が存在 。 (被告の主張)Aの肺動脈を詰まらせた血栓が,どの部位に由来するかは不明である。 イ注意義務違反との因果関係(原告らの主張)被告病院の医療従事者が,(1)の各血栓確認義務を尽くし,血栓が存在することが分かった場合には,その部位より心臓側に一時的なフィルター を留置して,肺血栓塞栓症の再発防止を図ることによって,Aの死亡は回避できたものである。 (ア)下大静脈フィルターの必要性永久留置型,一時留置型を問わず,フィルターには肺血栓塞栓症を予防する効果があると認められており,また,被告指摘の合併症は実際に問題になることは少ないことから,本件でも,術後に血栓の存在が確認されていたら被告病院はフィルターを使用したと考えられる。 また,手術時に除去された血栓は,下大静脈,右房,肺動脈内で存在が確認された血栓に過ぎず,下大静脈に血栓が存在した可能性は否定できないのであるから,次の造影CT検査が予定されている3月23日までの間の再度の肺血栓塞栓症の発生を防ぐには下大静脈のフィルターは必須であった。 (イ)他の再発防止策の不十分性前記(1)イ(原告らの主張)(ア)aに記載のとおり,被告病院による再発防止策は十分効を奏していなかった。したがって,肺血栓塞栓症の再発を確実に防ぐ方法としては,フィルターの留置しか残されていなかったものである。 (ウ)家族の意向Aの家族は被告病院の担当医師に対し,3月5日,同月9日,同月11日の3回にわたって,下大静脈フィルターを使用することを依頼していた。 治療内容について,患者本人とその家族がリスクを知ったうえで,強く希望する治療法については,医師は尊重すべきである。 (被告の主張)以下のとおり,手術後のAに下大静脈フィルターの適応はなく,適切な検査を実施し,かつ他の再発防止措置を講ずることによって再 で,強く希望する治療法については,医師は尊重すべきである。 (被告の主張)以下のとおり,手術後のAに下大静脈フィルターの適応はなく,適切な検査を実施し,かつ他の再発防止措置を講ずることによって再発を防止す るという被告病院の方針は合理的であった。 (ア)下大静脈フィルターの適応について我が国においては下大静脈フィルターの適応は確立されていない。 また,本件手術後において,Aは血栓が手術により除去された状態であり,下大静脈フィルターの適応基準のいずれにも該当しない。かえって,下大静脈フィルターを使用した場合,フィルター内血栓形成,穿刺部出血,感染,鎖骨下静脈血栓,フィルター移動,空気塞栓,フィルター部破壊などの合併症が生じうるのであり,フィルターを留置すればこれらの合併症から死期を早めた可能性もある。 よって,Aには下大静脈フィルターの適応はなかった。 (イ)他の方法による再発防止措置の実施について上記(1)イ(被告の主張)(ア)cに記載のとおり,被告病院は,Aに対し,本件手術後,肺血栓塞栓症の再発防止措置を講じていたのであり,被告病院では,Aの肺血栓塞栓症の再発のおそれは比較的小さいと評価していた。 (3)損害(原告らの主張)アAの損害賠償請求権の相続(ア)逸失利益5673万6997円Aは,本件事故当時,G大学の教授であり,死亡の前年である平成16年の給与・賞与の合計額は,1093万2300円であった。同大学の就業規則によれば,教員の定年は,65歳とされているので,死亡時50歳であったAの就労可能年数は15年である。 ライプニッツ方式に基づき,生活費控除率を50パーセントとした計算式は以下のとおりである。 (計算式)1093万2300円×(1-0.5)×10.3797=5673万6997円(イ)慰謝 ライプニッツ方式に基づき,生活費控除率を50パーセントとした計算式は以下のとおりである。 (計算式)1093万2300円×(1-0.5)×10.3797=5673万6997円(イ)慰謝料2800万円A本人の死亡慰謝料としては,少なくとも2800万円が相当である。 (ウ)相続各4236万8498円原告らは,上記の債権8473万6997円を法定相続分にしたがって均等に4236万8498円ずつ相続した。 イ葬儀費用各75万円原告らはAの葬儀費用として,少なくとも150万円以上を支出したが,そのうちの150万円をAの死亡と相当因果関係のある積極損害とし,各2分の1ずつを請求する。 ウ弁護士費用各431万1849円上記損害額の合計の10パーセントに相当する金額が本件死亡と相当因果関係に立つ損害である。 エ合計以上の合計は,原告両名につきそれぞれ4743万0347円である。 よって,原告らは,被告に対し,不法行為(民法715条)による損害賠償請求権に基づき,それぞれ4743万0347円及びこれに対するAの死亡日である平成17年3月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。 (被告の主張)原告らの主張は争う。 第3当裁判所の判断 認定事実前記前提事実のほか,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,Aの診療経過について,以下の事実が認められる。 (1)被告病院受診までの経過Aは,2月27日,1週間程前より呼吸困難が出現し,背部痛があることを訴えて,近医である宇都宮病院を受診した(乙A1・3頁)。 Aは,宇都宮病院の担当医師から要精査である旨の診療情報提供書の交付を受け帰宅した(乙A1・3頁)。 (2)被告病院での診療経過ア被告病院への入院Aは,2月28日朝,シャワーの A1・3頁)。 Aは,宇都宮病院の担当医師から要精査である旨の診療情報提供書の交付を受け帰宅した(乙A1・3頁)。 (2)被告病院での診療経過ア被告病院への入院Aは,2月28日朝,シャワーの後,呼吸困難が生じ,脈が不整となるなどの状態となったため,救急車で被告病院の救命救急センターを受診し,同日午前8時25分頃に入院した(乙A1・86,87頁,乙A2・12頁)。 Aは,救命救急センターの医師に対し,1週間前から息苦しさと背部痛が生じ,少し動くと息が切れ,時に動悸を感じる旨訴えた(乙A1・87頁)。 入院時,Aは,PLT(血小板数)15万3000/μl(基準値13万~40万),APTT29.3秒(基準値27~34)で,血液凝固能は基準値内であり,BUN(尿素窒素)34.3mg/dl(基準値7ないし20),クレアチニン1.4mg/dl(基準値0.6~1.3)で,軽度の腎機能の低下が窺われた(乙A1・380,381頁)。 イ胸腹部造影CT検査Aは,2月28日午前9時47分,被告病院において,急性大動脈解離の疑いで,胸部から骨盤にかけて造影CT検査を受け,肺動脈本幹から右肺動脈の上葉枝,下葉枝にかけてと,左肺動脈から左下葉枝にかけて塞栓 が認められ,両側肺塞栓と診断された。その際,Aの下大静脈上部には血栓は認められなかった。また,下大静脈下部,左右総腸骨静脈,左右の内外腸骨静脈については,造影剤が到達しておらず,血栓の有無は判定できなかった。これは,同日の造影CT検査が急性大動脈解離の疑いで撮影されたことから,動脈相が写るタイミングで撮影されたこと,血栓の存在により血流のスピードが通常より遅くなっていたことが原因と考えられた(乙A1・88,355頁,乙A4の1ないし5,乙A18,証人D・50頁)。 ウ救命救急センターでの診療 影されたこと,血栓の存在により血流のスピードが通常より遅くなっていたことが原因と考えられた(乙A1・88,355頁,乙A4の1ないし5,乙A18,証人D・50頁)。 ウ救命救急センターでの診療経過(ア)抗凝固療法等2月28日午前10時56分ころ,Aに対し,ヘパリン(抗凝固剤),ウロキナーゼ(血栓溶解剤)の点滴静注が開始された(乙A1・93,94頁)。 (イ)下肢静脈エコー検査Aは,2月28日午後3時35分ころから,下肢静脈血栓評価のため,エコー検査を受けた。その際,左右の大腿静脈,膝窩静脈,ヒラメ筋静脈が観察されたが,血栓は認められなかった(乙A1・94,357頁ないし371頁)。 (ウ)担当医の診断被告病院の担当医師は,3月1日午前8時ころ,上記各エコー検査を踏まえ,Aには,深部静脈血栓は認められず,早期離床が望ましいと判断した(乙A1・96頁)。 (エ)循環器内科への転科Aは,3月1日午前10時,救命救急センターから循環器内科に転科し,一般病棟に転棟,転室した(乙A1・97頁)。 エ循環器内科での診療経過 (ア)Aの症状Aは,3月1日午後8時ころ,体動により努力呼吸が認められた(乙A1・99頁)。 また,Aは,3月2日,歩くとまだ苦しい旨訴え,担当医師は,ヘパリン,ウロキナーゼが投与されて3日目であるのに,まだ呼吸苦があるとのことから,少し発症から時間が経っているために,血栓溶解療法等は効果が薄いのかと考えた(乙A1・100頁)。 Aは,3月3日,動くと苦しいと訴えた。担当医師は,ウロキナーゼを使用しつつ,翌日よりワーファリン(抗凝固剤)を開始することとした(乙A1・102頁)。 (イ)家族への説明3月3日午後4時5分ころ,被告病院の担当医師は,A及び親族に対し,発症して最低でも1週間経っているため よりワーファリン(抗凝固剤)を開始することとした(乙A1・102頁)。 (イ)家族への説明3月3日午後4時5分ころ,被告病院の担当医師は,A及び親族に対し,発症して最低でも1週間経っているため,血栓が器質化してしまっている可能性があること,その場合には,血栓溶解療法等はあまり効果がないが,少しでも改善が望めればと思って治療を継続していること,今後は,再度検査して評価していくが,血栓がなくなっていない場合には,このまま症状が続き,在宅酸素となる可能性もあることなどを説明した(乙A1・102頁)。 (ウ)Aの検査数値3月4日午前9時ころ,Aに対し,血液検査が行われた。その結果,APTTが41.4秒(基準値27ないし34)に上昇し,PLT(血小板数)が5万4000/μl(基準値13万~40万)に低下して,血液凝固能の低下が認められた。一方,BUN(尿素窒素)が57.2mg/dl(基準値7~20),クレアチニンが1.7mg/dl(基準値0.6~1.3)と上昇し,腎機能の悪化が認められ,また,ASTが2871IU/l(基準値5~35),ALTが2387IU/l (基準値5~35)に上昇し,肝機能の悪化も認められた(乙A1・386頁)。 (エ)内科へのコンサルタント3月4日午前10時32分,循環器内科の担当医師は,上記検査数値を踏まえ,Aについて,内科に更新依頼をした(乙A1・103,104頁)。内科の担当医師は,Aに対し,腹部エコー検査等を実施したうえ,腹部所見はなく,腹部エコーでも脂肪肝以外に特記すべきことはなかった旨報告した(乙A1・104,105頁)。 (オ)心エコー検査3月4日,循環器内科の担当医師は,心臓血管外科医であるD医師の立ち会いのもとで,Aに対し,心エコー検査を実施した。その結果,Aには,下大静脈から右房 1・104,105頁)。 (オ)心エコー検査3月4日,循環器内科の担当医師は,心臓血管外科医であるD医師の立ち会いのもとで,Aに対し,心エコー検査を実施した。その結果,Aには,下大静脈から右房にかけて血流により泳動する血栓が確認された。 ただし,下大静脈下部については,Aの肥満が原因で,エコーでの観察ができなかった(乙A1・115,372,373頁,乙A18,証人D・1頁)。 (カ)心臓血管外科への転科3月4日午後1時40分ころ,Aは,血栓を除去するための緊急手術の適応があると判断され,循環器内科から心臓血管外科に転科した(乙A1・106頁)。 オ心臓血管外科での治療経過(ア)血栓除去手術(本件手術)3月4日午後9時34分から同月5日午前1時50分にかけて,心臓血管外科の担当医師により,Aに対して,緊急の肺動脈血栓摘除術が実施された。その際,Aの下大静脈から右房内へ長い血栓が延びており,先端は,三尖弁前尖の腱索に癒着していること,右肺動脈は上大静脈と交差する付近から血栓が充満していること,左肺動脈にも一部に血栓が 充満していることが確認された。 担当のD医師は,心膜を切開し,右房内に脱血管を1本入れて人工心肺を開始した後,上大静脈を切開し,血栓がないことを確認して脱血管を挿入し,その後右房を切開して右房内を観察し,下大静脈から長い血栓を引きずり出した。更に,有効長24センチメートルのプルートのバルンを下大静脈の接合部から挿入し,有効長限界まで入れたところで先端の風船を膨らませて引き抜く手技を数回繰り返すことによって,バルンの届く範囲に血栓が残存していないことを確認した。また,肺動脈幹の遠位部を縦切開し,左主肺動脈内を観察し,バルンなどで繰り返し血栓を摘除した。そして,上行大動脈と上大静脈の間で右主肺動脈を縦切開した 届く範囲に血栓が残存していないことを確認した。また,肺動脈幹の遠位部を縦切開し,左主肺動脈内を観察し,バルンなどで繰り返し血栓を摘除した。そして,上行大動脈と上大静脈の間で右主肺動脈を縦切開したところ,直下から血栓が確認されたため,これも繰り返し摘除した。 D医師は,Aの下大静脈から引きずり出した血栓の末梢側が,完全に遊離した状態で,どこかから引きちぎったような形状ではなかったこと,Aの下大静脈の長さが約22センチメートルであるところ,有効長24センチメートルのバルンカテーテルで複数回下大静脈内を探索し,血栓が残存していないことを確認したことから,Aの下大静脈には血栓が残っていないと判断した(乙A1・223-1,2頁,乙B2,証人D・2,3,49頁)。 また,Aは,人工心肺からの離脱の際,血圧と経皮酸素飽和度の低下が認められたため,PCPS(経皮的心肺補助装置)が装着された(乙A1・223-1,2頁)。D医師は,PCPS用のカテーテルを,右の大腿静脈の皮膚から穿刺して,右の大腿静脈,右の外腸骨静脈,右総腸骨静脈,そして下大静脈と経由して,最後は先端が右心房の中に到達するように挿入したが,その際,カテーテルの挿入を滞らせるような血栓の存在も確認されなかった(乙A1・223の2頁,証人D・3頁)。 (イ)血栓除去手術後の経過a3月4日D医師は,3月4日午後1時58分,Aの術後状態を評価するため,3月23日に胸部から骨盤までの造影CTを撮影するための予約を行った(乙A1・108頁)。 b3月5日3月5日午前8時2分,Aは,PCPS下に循環呼吸動態は安定していた(乙A1・132,133頁)。 同日午前9時20分,ドレーンからの出血が認められなかったため,Aに対し,ヘパリン少量(1日6000単位)の投与が開始され,同日午前9 下に循環呼吸動態は安定していた(乙A1・132,133頁)。 同日午前9時20分,ドレーンからの出血が認められなかったため,Aに対し,ヘパリン少量(1日6000単位)の投与が開始され,同日午前9時59分,ノボ・ヘパリンの点滴静注が開始された(乙A1・135頁)。 同日午後3時ころ,Aに対するカンファレンスが実施され,術後,自己の心拍出量だけでは,血圧を維持できるほどではなく,PCPSで補助されている状態であること,今後PCPSを離脱していく段階で,心拍出量や全身の循環動態を随時観察していく必要があることが確認された(乙A1・137頁)。 同日午後3時54分ころ,肺血栓塞栓症予防のため,弾性ストッキングの使用が開始された(乙A1・260頁)。 c3月6日(a)PCPSからの離脱3月6日午前8時48分ころ,PCPSの流量を下げても循環呼吸動態に著変なく,同日午後3時ころから流量100で1時間経過を観察したが呼吸循環動態は不変であったため,同日午後5時ころ,Aは,PCPSから離脱した(乙A1・147,151頁)。 (b)心エコー検査 3月6日午後5時44分ころ,D医師により,心エコー検査が実施された。心エコーでは,心臓本体,心臓周囲,下大静脈上部,左大腿静脈付近,外腸骨静脈下部が観察され,左室の収縮が良好であること,左室内腔はやや小さいこと,右心系は拡大がないこと,三尖弁閉鎖不全が少量あることなどが確認されたが,血栓は確認されなかった。なお,下大静脈下部から腸骨静脈付近は,Aに肥満があったため,有効な観察ができなかった(乙A1・152頁,証人D・3,4頁)。 (c)レントゲン等PCPS抜去後,Aに血ガス分析の悪化が見られ,同日午後6時10分ころ,レントゲンで,肺うっ血の増悪が確認されたことから,呼吸器条件を強めるなどの 2頁,証人D・3,4頁)。 (c)レントゲン等PCPS抜去後,Aに血ガス分析の悪化が見られ,同日午後6時10分ころ,レントゲンで,肺うっ血の増悪が確認されたことから,呼吸器条件を強めるなどの措置が採られた(乙A1・153頁,乙A12)。 d3月7日(a)呼吸状態3月7日午前1時31分ころ,血ガス分析の結果に改善傾向が見られたため,酸素を65パーセントに下げ,ドレーンが抜去された(乙A1・159頁)。 (b)血液検査の結果3月7日午前0時ころからヘパリンを増量し,同日午前8時33分ころ,血小板の減少傾向が認められたが,凝固系は正常値であった。また,クレアチニンは1.4mg/dlで,横ばいであった(乙A1・164,165,411頁)。 (c)フットポンプの装着3月7日午後2時ころから,Aに対し,フットポンプ(メドマー)が装着された(乙A1・436頁)。 e3月8日(a)Aの呼吸状態3月8日午前7時22分ころ,Aの循環呼吸動態は安定していた(乙A1・175頁)。 (b)心エコー検査3月8日午後2時28分ころ,D医師により,心エコー検査が実施された。D医師は,心臓本体,心臓周囲,左右の大腿静脈付近を観察し,心囊液が少量であること,軽度の三尖弁閉鎖不全があることなどが確認されたが,血栓は見えなかった。なお,下大静脈下部から腸骨静脈付近は,Aに肥満があったため,有効な観察ができなかった(乙A1・182頁,証人D・4頁)。 f3月9日3月9日午前8時24分ころ,Aの循環呼吸動態は安定していた。 APTTがまだ延びないとして,ヘパリンが追加された(乙A1・187頁)。 同日午前9時57分ころから,Aに対し,バファリン,ワーファリンの経管投与が開始された(乙A1・188頁)。 g3月10日3月10日午前10時2 して,ヘパリンが追加された(乙A1・187頁)。 同日午前9時57分ころから,Aに対し,バファリン,ワーファリンの経管投与が開始された(乙A1・188頁)。 g3月10日3月10日午前10時21分ころ,Aは,自発呼吸良好であり,血ガス分析の結果も良好であったため,抜管がされた(乙A1・196,197頁)。 h3月11日3月11日午前10時9分ころ,Aは,ICUから心臓血管外科の一般病棟に転棟,転室した(乙A1・204,205頁)。 カAの死亡に至る経過3月12日午後5時ころ,Aは座位から立ち上がる練習を行った後,座 位に戻ったところ,急に後ろに倒れ,意識を喪失し,午後5時17分には,両眼上転し,対光反射が消失した。 被告病院の医療従事者らにより,同日午後5時21分以降,気管内挿管,心臓マッサージ,人工呼吸器の装着などが行われ,午後5時48分には,ICUに入室し,午後5時55分には,右鼠径部よりPCPS用のカテーテルが挿入され,PCPSが開始されたが,3月13日午前2時には,血圧測定及び経皮酸素飽和度測定もできなくなり,午前6時5分,死亡が確認された(乙A1・209,210,214ないし216,441,442頁)。 キ解剖の結果と死因Aの死亡後,被告病院で病理解剖が実施され,その結果,左右の肺動脈にそれぞれ4センチメートル程度の血栓,下大静脈から右の総腸骨静脈への分岐部に6センチメートルの血栓が認められ,Aの死因は肺血栓塞栓症と確定診断された(乙A1・375頁,乙A20)。 ク事実認定の補足説明(ア)2月28日の心エコー検査について被告は,2月28日,被告病院循環器内科の担当医師により,Aの心エコー検査が行われた旨主張し,D医師は,循環器内科のE医師から,F医師がAの入院時に心エコー検査を行ったが,血栓は発見され 査について被告は,2月28日,被告病院循環器内科の担当医師により,Aの心エコー検査が行われた旨主張し,D医師は,循環器内科のE医師から,F医師がAの入院時に心エコー検査を行ったが,血栓は発見されなかったとの報告を受けた旨陳述する(乙A18)。 しかしながら,上記陳述は伝聞であって,これを裏付ける診療録の記載は存在せず,被告の主張は直ちに採用することができない。 (イ)2月28日の造影CT検査の結果について被告病院の入院診療録(手術記録,退院サマリ)には,2月28日の造影CTで,IVC(下大静脈)及びPA(肺動脈)内に血栓ありとの記載があることが認められる(乙A1・51,109頁)。 しかしながら,上記記載は,記載したD医師自身が,手術を待っている間に,2月28日の造影CTを確認して,下大静脈の造影のムラを血栓の可能性があると考えたこと,臨床医として重い方に考えておいた方がその後の対応に間違いがないと判断したこと,最終的には本件手術での検索を経て,下大静脈内に血栓が存在しないことが確認されており,上記記載は誤りであったと証言していること(証人D・17,18,49頁)に照らして,直ちに採用することはできず,同部位に血栓が存在したと推認させるものとはいえない。 (ウ)3月6日及び同月8日の心エコーの検査範囲について証拠(証人D・3,4頁)によれば,D医師は,3月6日の心エコー検査で心臓本体,心臓周囲のほか,下大静脈上部,左大腿静脈付近,外腸骨静脈下部を観察したこと,同月8日の心エコー検査で大腿静脈付近を観察したことが認められる。 この点につき,原告らは,心臓超音波検査報告書(乙A1・372,373頁)には,心臓本体についての観察結果しか記載されておらず,心臓本体以外の観察を行ったと認めることができないと主張し,上記報告書に,大 につき,原告らは,心臓超音波検査報告書(乙A1・372,373頁)には,心臓本体についての観察結果しか記載されておらず,心臓本体以外の観察を行ったと認めることができないと主張し,上記報告書に,大腿静脈付近の観察についての記載が存しないことは原告ら指摘のとおりである。 しかしながら,前記認定のとおり,3月4日の心エコー検査においては,下大静脈から右房にかけての観察が行われ,下大静脈から右房にかけての血栓が確認されていること(1(2)エ(オ)),心エコー検査の実施の準備の手間等を考えると,1回の検査でできる限り確認するという考え方は合理的といえること(証人D・47頁),陰性所見は,診療録に記載しない場合もありうること(証人D・41頁)に照らせば,診療録に記載がないことから,上記D医師の証言を覆すことはできず,他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。 争点(1)ア(入院後の血栓確認義務違反の有無)について(1)原告らは,被告病院の医療従事者には,被告病院入院後,下大静脈下部から腸骨静脈付近のエコー検査,造影CT検査を行うなどして,血栓の有無を確認すべき注意義務があったにもかかわらず,確認しなかった義務違反がある旨主張する。 (2)そこで検討するに,以下の事実を認めることができる。 ア被告病院の担当医師らは,2月28日,Aの胸部から骨盤にかけて造影CT検査を実施し,肺動脈本幹から右肺動脈の上葉枝,下葉枝及び左肺動脈から左下葉枝にかけて塞栓を確認し,両側肺塞栓と診断した(1(2)イ)。 イまた,文献において,血栓性の肺塞栓症の多くは,下肢及び骨盤の深部静脈血栓症に伴って形成された血栓が遊離して肺循環に流入することで生じるものであり,深部静脈血栓症の二次的合併症であると指摘されている(甲B1,甲B2,甲B5ないしB7,甲B10, 肢及び骨盤の深部静脈血栓症に伴って形成された血栓が遊離して肺循環に流入することで生じるものであり,深部静脈血栓症の二次的合併症であると指摘されている(甲B1,甲B2,甲B5ないしB7,甲B10,甲B12,甲B14,甲B15)。したがって,急性肺血栓塞栓症の診断時には,その原因である深部静脈血栓症の残存の有無の検索が,治療法の決定に極めて重要であり(甲B16・956頁),深部静脈血栓症の診断のためには,エコー検査が第一選択で,中枢側に血栓が疑われる場合には,胸部から下肢まで造影CTも行うこととされている(甲B6・1頁)。そして,被告病院のD医師も,肺塞栓症が疑われた場合には,下大静脈下部から腸骨静脈付近についても検索する必要性があると証言しているところである(証人D・53頁)。 以上によれば,Aに肺塞栓症が認められた以上,一般的には,深部静脈血栓症の有無を確認するため,エコー検査を行う必要があり,中枢側に血栓が疑われる場合には,胸部から下肢までの造影CTを行うことが必要であると認められる。 (3)しかしながら,本件では,以下の点を指摘できる。 ア被告病院の担当医師は,2月28日,Aの胸部から骨盤にかけての造影CT検査を行ったが,その際,Aの下大静脈上部に血栓は認められなかった。また,その際,下大静脈下部,左右総腸骨静脈,左右内外腸骨静脈については,造影剤が到達しておらず,血栓の有無が確認できなかったが,同日の造影CT検査が急性大動脈解離の疑いで,動脈相が写るタイミングで撮影されたものであること,血栓の存在により血流のスピードが通常より遅くなったと考えられること,同日のCT撮影以前には肺塞栓が確認されていなかったことからすれば(1(2)イ),やむを得ないものであった。 イ被告病院の担当医師は,2月28日,下肢静脈血栓の評価の り遅くなったと考えられること,同日のCT撮影以前には肺塞栓が確認されていなかったことからすれば(1(2)イ),やむを得ないものであった。 イ被告病院の担当医師は,2月28日,下肢静脈血栓の評価のため,下肢静脈エコー検査を実施したが,左右の大腿静脈,膝窩静脈,ヒラメ筋静脈に血栓は認められなかった(1(2)ウ(イ))。 ウ被告病院の担当医師は,3月4日,心エコー検査を実施し,その際,心臓から下大静脈上部を観察して,下大静脈から右房にかけて,血流により泳動する血栓を確認した。その際,被告病院の担当医師は,下大静脈下部についても観察を試みたが,Aの肥満が原因で,有効な観察ができなかった(1(2)エ(オ))。 エそこで,更に下大静脈下部から左右総腸骨静脈付近の血栓を検索するためには,再度造影CT検査を行う必要があったが,2月28日の入院時,Aには,BUN(尿素窒素)が34.3mg/dl(基準値7ないし20),クレアチニンが1.4mg/dl(基準値0.6ないし1.3)と軽度の腎機能の低下が窺われ(1(2)ア),3月4日にはBUN(尿素窒素)が57.2mg/dl,クレアチニンが1.7mg/dlと腎機能の悪化が認められたものであり(1(2)エ(ウ)),腎機能に造影剤の投与に耐えられる余力があるかについては,慎重な検討が必要と考えられた(証人D・36頁)。 オ一方,深部静脈血栓症に対する治療法として,急性期には,ヘパリン(抗凝固剤)とウロキナーゼ(血栓溶解剤)の投与を行うこととされているが(甲B5),Aに対しては,2月28日から,ヘパリンとウロキナーゼの点滴静注が開始されていた(1(2)ウ(ア))。 カそして,Aは,深部静脈血栓症の症状とされる下肢の腫脹や疼痛なども訴えていなかった(甲B10・993頁,弁論の全趣旨)。 以上のとおり,被 ナーゼの点滴静注が開始されていた(1(2)ウ(ア))。 カそして,Aは,深部静脈血栓症の症状とされる下肢の腫脹や疼痛なども訴えていなかった(甲B10・993頁,弁論の全趣旨)。 以上のとおり,被告病院の担当医師は,エコーで観察可能な部分の静脈については,検査で血栓がないことを確認していること,エコーで観察できなかった下大静脈下部から左右総腸骨静脈付近については,腎機能の悪化が窺われる中で,敢えて再度の造影CT検査をすべきであるとも言い難いこと,Aに対しては,深部静脈血栓症が発見された場合の治療法である血栓溶解療法,抗凝固療法が既に開始されていたことに鑑みれば,被告病院の担当医師に,本件手術前に,更に検査を行うべき具体的注意義務があったと認めることはできない。 (4)以上によれば,被告病院の医療従事者に,被告病院への入院後,Aの下大静脈下部から腸骨静脈付近について,更にエコー検査,造影CT検査を行うなどして,血栓の存在を確認すべき注意義務があったとは認めることができない。 争点(1)イ(本件手術後の血栓確認義務違反の有無)について(1)主位的主張について原告らは,被告病院の医療従事者は,本件手術後,Aの下大静脈下部から腸骨静脈付近について,エコー検査,造影CT検査,静脈造影検査などを実施をして,血栓の有無を確認すべき注意義務があったにもかかわらず,これを怠った旨主張する。 (2)そこで検討するに,以下の事実を認めることができる。 ア静脈血栓塞栓症の既往は再度の静脈血栓塞栓症を発症する非常に強い危 険因子であると位置づけられているところ(甲B13・782頁),Aは,肺血栓塞栓症の既往を有していた(1(2)イ)。 また,Aには,肥満,手術,入院後の長期臥床など静脈血流停滞を起こしやすい状態であったことが認められ(1(2)) るところ(甲B13・782頁),Aは,肺血栓塞栓症の既往を有していた(1(2)イ)。 また,Aには,肥満,手術,入院後の長期臥床など静脈血流停滞を起こしやすい状態であったことが認められ(1(2)),いわゆる静脈血栓症の危険因子が存在していた(甲B7・423頁,乙B1・1082頁)。 更に,Aは,2月28日から,ヘパリン,ウロキナーゼの投与を受けていたにもかかわらず,3月4日の本件手術において,下大静脈から右房内に至る長い血栓が確認され,また,右主肺動脈は上大静脈と交差する付近から血栓が充満し,左肺動脈にも血栓が充満していることが確認されており,手術後,3月5日からヘパリンの投与が再開されたが,APTTの延長傾向が見られたのは同月8日からであり,同月9日にはAPTTが延びないとして,ヘパリンが追加された(1(2)オ(ア),(イ))。 加えて,ベッド上で安静にしていた患者が歩行を開始する時に肺血栓塞栓症発症のリスクが高まることが指摘されているが(甲B1・1頁,B7・424,425頁),Aは,3月12日の急変時,術後の起立訓練を行っていた(1(2)カ)。 以上によれば,Aは肺血栓塞栓症の再発のリスク要因をかかえていたと認めることができる(乙B10・994頁)。 イそして,前記認定のとおり,被告病院において,2月28日の入院以降,3月4日の血栓が確認され緊急手術に至るまでに,Aの下大静脈下部から腸骨静脈付近について血栓の有無が確認されていなかった(2(3))。 以上を合わせ考えると,被告病院では,本件手術後も,Aに対する肺塞栓症再発の可能性に配慮した慎重な対応が求められていたといえる。 (3)しかしながら,本件では,以下の点を指摘できる。 ア血栓の検索について(ア)3月4日の本件手術時,D医師は,Aの下大静脈の長さが約22セ ンチメー 重な対応が求められていたといえる。 (3)しかしながら,本件では,以下の点を指摘できる。 ア血栓の検索について(ア)3月4日の本件手術時,D医師は,Aの下大静脈の長さが約22セ ンチメートルであるところ,有効長24センチメートルのプルートのバルンを下大静脈の接合部から挿入し,有効長限界まで入れたところで先端の風船を膨らませて引き抜く手技を数回繰り返すことによって,下大静脈内に血栓が残存していないことを確認した(1(2)オ(ア))。 また,本件手術時,D医師は,右外腸骨静脈の下方から右心房まで,PCPSの脱血用カテーテルを挿入したが,その際,カテーテルの挿入を滞らせるような血栓の存在は確認されなかったため,右外腸骨静脈にも,少なくとも血管の内腔をかなり閉塞するような充満したような形の大きな血栓は存在しないと判断した(1(2)オ(ア))。 3月6日,D医師は,Aに対し,心エコー検査を実施し,下大静脈の上部,左大腿静脈付近を観察したが,血栓は確認されなかった(1(2)オ(イ)c)。 3月8日,D医師は,Aに対し,心エコー検査を実施し,大腿静脈付近を観察したが,血栓は確認されなかった(1(2)オ(イ)e)。 以上に照らすと,D医師は,本件手術以後4日間の間に,Aの左総腸骨静脈以外の静脈については,血栓が存在しないことを確認したことが認められる(乙A20・2頁)。 それゆえ,D医師が,左総腸骨静脈以外の部分に血栓が確認されなかったことから,Aに血栓が存する可能性が高くないと考えたことにも,相応の合理性が認められる。 (イ)この点については,前記認定のとおり,Aに対して,3月12日のショック発生後にもPCPS用のカテーテルが右鼠径部から挿入されたこと,死後の解剖では,同カテーテルが通ったと考えられる右総腸骨静脈分岐部付近に6センチメート 認定のとおり,Aに対して,3月12日のショック発生後にもPCPS用のカテーテルが右鼠径部から挿入されたこと,死後の解剖では,同カテーテルが通ったと考えられる右総腸骨静脈分岐部付近に6センチメートルの血栓が存在していたことが認められる(1(2)カ,キ)。そうすると,PCPS用のカテーテルの進路に血栓があっても,同カテーテルが血栓を貫通する可能性は否定できないの であって,本件手術時にPCPS用のカテーテルが通ったことから,進路に血栓が存在しないと推認することはできないといわざるを得ない(証人D・22,23頁)。 しかしながら,カテーテルの大きさや静脈の径を考えると,カテーテルの進路には血栓が存在しない可能性が高いと判断し(証人D・3,4頁),また,少なくとも血管の内腔をかなり閉塞するような充満したような形の大きな血栓がない(証人D・54頁)と判断すること自体が不合理とはいえず,D医師が,右外腸骨静脈に,少なくとも血管の内腔を閉塞するような大きな血栓がないと判断したことをもって不合理と評価することはできない。 イAの腎機能について3月4日の本件手術以降,AのBUNは別紙3「検査一覧表BUNとクレアチニン」(略)の「BUN」欄のとおり,33.8ないし60.5mg/dl(基準値7~20),クレアチニンは「Cre」欄のとおり,0. 9ないし1.5mg/dl(基準値0.6~1.3)で推移した(前提事実(2)イ(ケ))。そして,3月5日に一旦改善した数値が,3月8日には,再びBUN60.5mg/dl,クレアチニン1.5mg/dlに悪化していることに照らせば,D医師が,手術後のAの腎機能につき,負荷を加えるとすぐに異常を起こす不安定な状態と判断し,造影剤の刺激等によって無理をさせたくないと考えたことも合理性があると認められる。 この点につき に照らせば,D医師が,手術後のAの腎機能につき,負荷を加えるとすぐに異常を起こす不安定な状態と判断し,造影剤の刺激等によって無理をさせたくないと考えたことも合理性があると認められる。 この点につき,原告らは,クレアチニン2.0mg/dlまでは軽度の上昇であり,3月12日には正常といえるほどに下がっていること,BUNとクレアチニンの比を取ってみると,20台から40台であり,腎臓以外の因子で異常を来していると判断できることから,造影CTの実施には支障はなかった旨主張する。 しかしながら,BUNについては,ずっと基準値を超えており,数値も 安定していなかったこと,心臓の手術後であって,全身に負担を受けていたこと(証人D・46頁)に照らせば,D医師が,Aの腎機能に配慮したことが不合理とはいえず,原告らの主張は採用できない。 ウ再発予防策について(ア)前記認定のとおり,被告病院においては,Aに対して,①2月28日から,ヘパリン,ウロキナーゼの点滴静注が開始されたこと,②3月5日から,ヘパリン1日6000単位の投与が開始され,更にノボ・ヘパリンの点滴静注が再開されたこと,③同日午後には,弾性ストッキングの使用が開始されたこと,④3月7日午後には,フットポンプ(メドマー)を装着されたこと,⑤3月9日には,バファリン,ワーファリンの経管投与が開始されたことが認められる(1(2))。 そして,証拠によれば,肺塞栓症を疑った時点で,新たな血栓形成を予防するために速やかにヘパリンを投与すべきとされており,薬物療法としてヘパリンが基本であるとされていること(甲B4・297頁,甲B6・1頁,乙B1・1094頁),急性を過ぎた場合にはワーファリンを内服するとされ,かかる切り替えの使用法が一般的とされていること(甲B5・2頁。B7・426頁,乙B1・10 甲B4・297頁,甲B6・1頁,乙B1・1094頁),急性を過ぎた場合にはワーファリンを内服するとされ,かかる切り替えの使用法が一般的とされていること(甲B5・2頁。B7・426頁,乙B1・1096頁),血栓溶解療法としては,ウロキナーゼが有効とされていること(甲B6・2頁,乙B1・1097頁),また,理学予防法として,弾性ストッキングは代表的な予防法とされていること(甲B4・296頁,甲B5・2頁),弾性ストッキングや薬物療法では得にくい能動的な静脈環流を促進させるために,下肢の運動・マッサージが有効とされていること(甲B4・296頁)が認められ,かかる医学的知見に照らすと,上記の被告病院の措置は,肺塞栓症の治療ないし予防療法として,臨床の現場における医療水準に適ったものと認められる。 (イ)aこの点につき,原告らは,Aに対してなされたヘパリンの投与は, 3月9日まで不十分であったと主張する。 そして,証拠によれば,ヘパリンの使用料についてはAPTTが1. 5倍以上に延長するように投与を行うとされていることが認められるところ(甲B8・54頁,甲B11・990頁),別紙2「検査一覧表APTTとPT-INR」(略)の「APTT」欄に記載のとおり,Aについては,かかる目標値に達していないことが認められる。 しかし,Aは,3月4日に本件手術を受けた後,PCPSを装着しており,APTTの延長のみを考えてヘパリンの大量投与を行った場合には,出血性の合併症が高まることからすれば,Aに対しては,出血傾向にも配慮して調整する必要があったこと(証人D・29,30,52頁),肺血栓塞栓症の治療はヘパリンの投与のみによって行われているわけではなく,血栓予防については,血小板数なども考慮に入れて行われること,被告病院においても検査数値の推移を踏まえて 9,30,52頁),肺血栓塞栓症の治療はヘパリンの投与のみによって行われているわけではなく,血栓予防については,血小板数なども考慮に入れて行われること,被告病院においても検査数値の推移を踏まえて,3月7日,同月9日にヘパリンの増量を行って調整していること(証人D・28,29頁)を合わせ考慮すると,上記APTTが目標値に達していなかったことをもって,被告病院でのヘパリンによる薬物治療が不合理であったとはいえない。 bまた,原告らは,ワーファリン投与についても,3月12日までの間,不十分であったと主張する。 そして,証拠によれば,ワーファリンについてはPT-INRが指標とされ,1.5ないし2.5を目標とするとされているところ(甲B12・278頁),別紙2「検査一覧表APTTとPT-INR」(略)の「PT-INR」欄のとおり,Aについては,かかる目標値に達していなかったことが認められる。 しかしながら,前記同様,Aに対しては,出血傾向にも配慮して調整する必要があり,肺血栓塞栓症の治療は,ワーファリンの投与のみ で行っているわけではないこと,ワーファリンについては効果発現まで5日間程度要するとされていること(甲B12・278頁)を合わせ考慮すると,上記PT-INRが目標値に達していなかったことをもって,被告病院でのワーファリンによる薬物治療が不合理であったとはいえない。 cそして,Aの場合,血栓が作られる過程の中で,血小板(PLT)が,3月6日には,5万3000/μl,同月7日には,4万7000/μl(乙A1・410,411頁)と低下していると認められ(基準値13万ないし40万),血栓の形成過程の一部が阻害されていたと認められること(証人D・50,51頁)に照らせば,上記原告らの指摘をもって,被告病院での,肺塞栓症の治療ないし予 いると認められ(基準値13万ないし40万),血栓の形成過程の一部が阻害されていたと認められること(証人D・50,51頁)に照らせば,上記原告らの指摘をもって,被告病院での,肺塞栓症の治療ないし予防療法が不合理であると評価されることにはならないというべきである。 エAの呼吸状態の改善傾向について前記認定のとおり,Aは,3月4日の本件手術以後,呼吸状態が比較的安定し,同月6日には,PCPSから離脱し,同月7日には,血ガス分析の結果に改善傾向が見られ,同月8日,9日にも,循環呼吸動態は安定しているとされた上,同月10日には,自発呼吸良好であり,血ガス分析の結果も良好で,抜管がなされ,同月11日には,ICUから一般病棟に転棟,転室した(1(2)エ,オ)。そして,D医師は,Aの術後状態を評価するため,3月23日には胸部から骨盤までの造影CTを撮影することを予定していた(1(2)オ(イ))。以上に照らすと,3月12日の容態急変時まで,Aの術後経過は良好であり(証人D・26頁),肺塞栓症の再発を疑うべき徴候も窺われなかった。 (4)以上の点を考慮すると,被告病院の担当医師は,本件手術中ないし手術後において,可能な限り血栓の検索を行いながら,薬物療法ないし理学療法を実施して,肺塞栓症の治療ないし予防療法を行っていたということができ, 血栓の有無が確認されていない箇所は左総腸骨静脈のみであって,同所に血栓の存在が疑われる事情もなかったことに照らせば,Aの腎機能への影響を考慮して,造影CT検査を行わなかったD医師の判断も不合理とはいえず,D医師に,更に造影CTを行って,左総腸骨静脈等の血栓の有無を確認すべき注意義務があったとは認められない。 (5)予備的主張について原告らは,本件手術時点で,Aの下大静脈下部から腸骨静脈付近について,血栓が に造影CTを行って,左総腸骨静脈等の血栓の有無を確認すべき注意義務があったとは認められない。 (5)予備的主張について原告らは,本件手術時点で,Aの下大静脈下部から腸骨静脈付近について,血栓が存在しなかったとしても,術後装着されたPCPSは異物であり,それが原因となって,血栓が形成される危険性があったのであるから,被告病院の担当医師には,なお,下大静脈等の血栓の有無を確認すべき注意義務があったと主張する。 そして,解剖時に発見された下大静脈の血栓は,わずかに末梢側が右総腸骨静脈へ入り込んでおり,手術中に留置したPCPS用のカテーテルに沿った形状であること,血栓より足側の静脈は,3月4日,同月8日のエコー検査などで血栓が存在しないことが確認されており,この血栓が末梢側から移動してきたとは考えにくいことに照らせば,D医師が,PCPS用のカテーテルが一因となって,本件手術後に,右総腸骨静脈から下大静脈に血栓が発生した可能性があると述べるところは(乙A20),十分に合理性があると考えられる。 また,PCPSの合併症のうち10パーセント前後が血栓塞栓症であるとの指摘も存するところである(甲B23・80,81頁,甲B24・145頁)。 しかしながら,前示のとおり,Aには,腎機能低下の徴候が見られたこと,Aに対しては,抗凝固療法等の薬物療法ないし理学療法が実施されていたこと,肺塞栓症の再発を疑わせる呼吸困難などの症状も見られなかったことに鑑みると,被告病院の担当医師において,PCPS脱血用のカテーテルの挿 入後に,更に下大静脈等の血栓の有無を確認すべき注意義務があったとは認められない。 よって,上記原告らの主張には理由がない。 下大静脈フィルターについてなお,原告らは,被告病院の医療従事者が,血栓確認義務を尽くし,血栓が存在することが べき注意義務があったとは認められない。 よって,上記原告らの主張には理由がない。 下大静脈フィルターについてなお,原告らは,被告病院の医療従事者が,血栓確認義務を尽くし,血栓が存在することが分かった場合には,その部位より心臓側に一時的なフィルターを留置して,肺血栓塞栓症の再発防止を図ることにより,Aの死亡は回避できたと主張する。 しかしながら,循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2002-2003年度合同研究班報告)によっても,一時留置型下大静脈フィルターの適応に関して,十分なエビデンスはないとされており,Aが,当時,ガイドライン上ClassⅡb(「データ・見解により有用性・有効性がそれほど確率されていない」)の適応事例である,①抗凝固療法中の急性肺血栓塞栓症例,②深部静脈血栓症のカテーテル治療時,③一時的に抗凝固療法が禁忌状態となる肺血栓塞栓症や深部静脈血栓症例にも該当していないこと(乙B1・1104),フィルターの留置自体により,新たな血栓形成,感染症などの合併症の危険があること(乙B1・1105頁,証人D・7頁)に鑑みると,被告病院において,一時留置型下大静脈フィルターを使用すべき義務があったとは認められない。 よって,この点に関する原告らの主張も採用できない。 第4 結論 以上によれば,被告病院の担当医師に原告らの主張する注意義務違反があったとは認められず,原告らの請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。 よって,原告らの請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第30部裁判長裁判官秋吉仁美裁判官大嶺崇及び裁判官古谷真良は,いずれも転補につき,署名押印することができない。 裁判長裁判官秋吉仁美 裁判長裁判官秋吉仁美裁判官大嶺崇及び裁判官古谷真良は,いずれも転補につき,署名押印することができない。 裁判長裁判官秋吉仁美
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