令和5(ワ)380 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和7年2月7日 和歌山地方裁判所 棄却
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判決文本文6,285 文字)

主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、原告Aに対し、5260万2930円及びこれに対する令和▲年▲月▲日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告Bに対し、1827万3461円及びこれに対する令和▲年▲月▲日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 3 被告は、原告Cに対し、1827万3461円及びこれに対する令和▲年▲月 ▲日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 4 被告は、原告Dに対し、1827万3461円及びこれに対する令和▲年▲月▲日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の骨子 本件は、E(以下「亡E」という。)が被告の運営する東京メトロ日比谷線八丁堀駅(以下「本件駅」という。)の多機能トイレ(以下「本件多機能トイレ」という。)で倒れているのが発見され、後に死亡が確認されたことについて、亡Eの妻である原告A及び子であるその余の原告らが、本件多機能トイレに設置された装置等に係る保全上の過失を原因とする旨主張して、被告に対し、不法行為に基づ く損害賠償金(原告Aにつき、亡Eの損害額の法定相続分2分の1、固有の損害及び弁護士費用を合わせた5260万2930円、その余の原告らにつき亡Eの損害額の法定相続分各6分の1、固有の慰謝料及び弁護士費用を合わせた各1827万3461円)並びにこれらに対する令和▲年▲月▲日(不法行為日である亡Eの死亡日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の各 支払を求める事案である。 2 前提事実当事者間に争いのない事実並びに証拠(個別に掲 法行為日である亡Eの死亡日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の各 支払を求める事案である。 2 前提事実当事者間に争いのない事実並びに証拠(個別に掲記する。なお、甲3と乙2の頁数は、表紙と目次を除いた本文のものを指す。以下同様)及び弁論の全趣旨により認められる本件の前提となる事実は、次のとおりである。 ⑴ 当事者等 ア亡E(昭和▲年▲月▲日生)は、平成▲年▲月▲日、原告Aと婚姻し、原告B(平成▲年▲月▲日生)、原告C(平成▲年▲月▲日生)、原告D(平成▲年▲月▲日生)をもうけたが、令和▲年▲月▲日、死亡した(甲1〔枝番を含む。〕)。 イ被告は、旅客鉄道事業の運営等を行う株式会社であり、本件多機能トイレ を所有・管理している。 ⑵ 本件多機能トイレの構造、亡E死亡当時の状態等(甲3〔2~7頁〕、乙2〔2~7頁〕)ア被告は、高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律等に基づき、全駅に多機能トイレを整備する方針を決定し、 令和2年3月に上記方針を完了した。 本件多機能トイレは、平成24年6月に設置完了及び供用開始となった。 本件多機能トイレは、本件駅地下1階の北側改札の外(改札から約15m)に設置されており、日比谷線の営業時間中は地下鉄を利用しない者も利用することができていた。本件多機能トイレは、病人や高齢者に多く利用されて いた。 イ本件多機能トイレの出入口は自動ドアであり、底面から高さ100cm の位置に、大型の開閉ボタンが設置されていた。 開閉ボタン部分は、一番上に「開」のボタン、一番下に「閉」のボタンがあり、その間には、「使用中」という記載とともに、同記載下にLEDラン cm の位置に、大型の開閉ボタンが設置されていた。 開閉ボタン部分は、一番上に「開」のボタン、一番下に「閉」のボタンがあり、その間には、「使用中」という記載とともに、同記載下にLEDランプ があり、トイレ内から施錠された場合にLEDランプが青白色に点灯する仕 様となっていた。 ウ本件多機能トイレにおける異常時対応機能として、仕様上では、①本件多機能トイレ内からの施錠が30分以上継続した場合における本件駅地下1階の北側改札の中にある駅事務室に通知される仕組み(以下「在室検知センサ」という。)及び上記イのLEDランプの点滅、②本件多機能トイレ内の2 か所に設置された非常押しボタンが押された場合における駅事務室内での警報鳴動があったが、実際には、①のうちの在室検知センサについては、駅事務室に通知するために必要なケーブルが敷設されていなかったため、施錠が30分以上継続した場合であっても駅事務室内に通知ができず、②の非常押しボタンについては、電源が入っていなかったため、非常押しボタンを操 作した場合であっても駅事務室での警報が鳴らない状態であった。 ⑶ 亡Eの死亡の経緯(本項の年月日は令和▲年▲月▲日を指す。甲3〔6~7頁〕、甲4、6、乙1、乙2〔6~7頁〕、調査嘱託の結果)ア亡Eは、午後4時10分頃、本件多機能トイレに入室した。 イ本件駅の警備員は、午後11時頃、本件多機能トイレを使用しようと立ち 寄った際、LEDランプの点滅に気付き、本件駅の事務室に連絡した。 本件多機能トイレに駆け付けた本件駅の係員は、本件多機能トイレのドアを解錠して入室したところ、亡Eが倒れているのを発見し、午後11時7分頃、119番通報及び110番通報がされた。 ウ救急隊員4 多機能トイレに駆け付けた本件駅の係員は、本件多機能トイレのドアを解錠して入室したところ、亡Eが倒れているのを発見し、午後11時7分頃、119番通報及び110番通報がされた。 ウ救急隊員4名が午後11時11分に、所轄署の警察官4名が午後11時1 3分頃に、それぞれ本件駅に到着し、救急隊員は、午後11時29分、本件駅を出発し、午後11時32分頃、亡EをF病院に搬送した。亡Eは、心肺停止の状態であり、午後11時34分、死亡が確認された。 死体検案書上の亡Eの死亡推定時刻は午後5時頃、直接死因はくも膜下出血、発症から死亡までの期間は短時間とされた。 3 争点及びこれに関する当事者の主張 ⑴ 過失の有無ア原告らの主張本件多機能トイレは、被告が所有・管理しており、病人や高齢者に多く利用されていたから、被告は、在室検知センサ及び非常押しボタンが仕様上どおり正常に作動するよう保全すべき義務があったので、被告はこの義務を怠 った過失がある。 イ被告の主張在室検知センサ及び非常押しボタンが仕様上どおり正常に作動したとしても、亡Eの死亡を回避し得たとはいえないから、被告に過失はない。 ⑵ 因果関係の有無 ア原告らの主張在室検知センサ及び非常押しボタンが仕様上どおり正常に作動すれば、亡Eはくも膜下出血の発症から1時間以内に病院に搬送されて治療を受けることができたはずである。くも膜下出血は、発症から1時間以内に治療していれば、最も重要な再出血の回避をなし得て救命できる疾患であるから、被 告の過失と亡Eの死亡との間に相当因果関係がある。 イ被告の主張在室検知センサ及び非常押しボタンが仕様上どおり正常に作動したとしても、亡Eを1時間以内に病院に搬送する であるから、被 告の過失と亡Eの死亡との間に相当因果関係がある。 イ被告の主張在室検知センサ及び非常押しボタンが仕様上どおり正常に作動したとしても、亡Eを1時間以内に病院に搬送することはできなかった。また、亡Eが1時間以内に病院に搬送されたとしても、くも膜下出血が発症後短時間で 死に至り得る疾患であることからして、被告の過失と亡Eの死亡との間に相当因果関係はない。 ⑶ 損害額ア原告らの主張 亡Eの損害 a 逸失利益 基礎収入を亡Eの死亡前年の給与所得746万9920円とし、生活費控除率として30%を採用し、就労可能年数を16年程度としてこれに相当する中間利息控除を行うと、亡Eの逸失利益は、6568万0766円となる。 (計算式 7,469,920 円×(1-0.3)×12.561=65,680,766) b 死亡慰謝料亡Eの死亡慰謝料は、2200万円を下らない。 c 亡Eの合計と原告らの相続額前記a及びbの合計は、8768万0766円であり、原告らの相続額は、原告Aにつき4384万0383円、その余の原告らにつき各1 461万3461円である。 原告ら固有の損害a 原告A負担の葬儀費用等原告Aは、亡Eの葬儀費用113万2547円及び墓石費用85万円の合計198万2547円を負担した。 b 原告ら固有の慰謝料原告らは、亡Eという家族を突然失ったことにより、甚大な精神的苦痛を被った。その苦痛に対する固有の慰謝料額は、各200万円を下らない。 小計 上記及びを合わ 原告らは、亡Eという家族を突然失ったことにより、甚大な精神的苦痛を被った。その苦痛に対する固有の慰謝料額は、各200万円を下らない。 小計 上記及びを合わせた金額は、原告Aにつき4782万2930円(4384万0383円+198万2547円+200万円)、その余の原告らにつき各1661万3461円(1461万3461円+200万円)である。 弁護士費用 被告の過失と相当因果関係の認められる弁護士費用は、原告Aにつき4 78万円、その余の原告らにつき各166万円とすべきである。 原告らの損害額原告らの損害額は、原告Aにつき5260万2930円(4782万2930円+478万円)、その余の原告らにつき各1827万3461円(1661万3461円+166万円)となる。 イ被告の主張上記アの主張は争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点⑴(過失の有無)について⑴ 本件多機能トイレは、被告が高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用し た移動の円滑化の促進に関する法律等に基づき設置し、亡E死亡時点においても所有・管理していたことや、病人や高齢者に対する本件多機能トイレの需要が少なくなかったこと(前提事実⑴イ、⑵ア)といった事情からするならば、本件多機能トイレに仕様上予定されていた異常時対応機能(前提事実⑵ウ)が正常に作動するように保全すべき義務があったというべきであって、それにも かかわらず、実際には、亡E死亡時点において、上記異常時対応機能のうち在室検知センサ及び非常押しボタンが仕様上どおり正常に作動しない状態であった(前提事実⑵ウ)から、被告には上記義務懈怠としての過失があるといえる。 は、亡E死亡時点において、上記異常時対応機能のうち在室検知センサ及び非常押しボタンが仕様上どおり正常に作動しない状態であった(前提事実⑵ウ)から、被告には上記義務懈怠としての過失があるといえる。 ⑵ 被告は、在室検知センサ及び非常押しボタンが仕様上どおり正常に作動した としても、亡Eの死亡を回避し得たとはいえないから、被告に過失はない旨主張する。 しかし、過失を基礎付ける結果回避義務とは、結果そのものを回避する義務ではなく、結果回避に向けた適切な行為を行うべき義務をいうものであり、被告が本件多機能トイレに仕様上予定されていた異常時対応機能が正常に作動 するように保全すべき義務を懈怠し、結果回避に向けた適切な行為を怠ったこ とは上記⑴で説示したとおりである。そのため、亡Eの死亡を回避し得たとはいえないとしても、このことが結果回避義務の欠如に結びつくことにはならないから、被告の上記主張は採用できない。 2 争点⑵(因果関係の有無)について⑴ 原告らは、①在室検知センサ及び非常押しボタンが仕様上どおり正常に作動 すれば、亡Eがくも膜下出血の発症から1時間以内に病院に搬送されて治療を受けることができたはずであること、②亡Eがくも膜下出血の発症から1時間以内に病院に搬送されて治療を受ければ、最も重要な再出血の回避をなし得て、救命されたことを前提に、被告の過失と亡Eの死亡との間に相当因果関係がある旨主張する(前記第2の3⑵ア)。 ⑵ まず、①について検討する。 前提事実⑶並びに証拠(甲3〔6~7頁〕、甲4、乙1、乙2〔6~7頁〕、調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば、亡Eが令和▲年▲月▲日午後4時10分頃に本件多機能トイレに入室した際、亡Eには体調不良の様子は見られなかったこと、本件駅の 甲4、乙1、乙2〔6~7頁〕、調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば、亡Eが令和▲年▲月▲日午後4時10分頃に本件多機能トイレに入室した際、亡Eには体調不良の様子は見られなかったこと、本件駅の係員が同日午後11時過ぎに本件多機能トイレのド アを解錠して入室して、倒れている亡Eを発見した際、本件多機能トイレの便器内には便が残っていたこと、死体検案書上の亡Eの死亡推定時刻は午後5時頃、直接死因はくも膜下出血、発症から死亡までの期間は短時間とされたことが認められる。 上記事実からすると、亡Eは、本件多機能トイレに入室し、排便中又は排便 を済ませてから流す前に倒れたと考えられるが、亡Eが本件多機能トイレに入室してから排便をするまでの亡Eの行動や時間は明らかでない。また、くも膜下出血は、その発症直前に予兆となり得る体調不良が現れるとは限らないから、本件多機能トイレ入室から亡Eのくも膜下出血の発症までの時間がどの程度であったかは、上記事実からは明確にならないといわざるを得ない。さらに、 亡Eが、くも膜下出血を発症してから倒れるまでの間、本件多機能トイレ内の 非常押しボタンを速やかに押すことができる身体状態であったのかも定かではない。亡Eが本件多機能トイレ内で発見された午後11時過ぎから病院搬送された午後11時32分頃までには30分程度要している(前提事実⑶イ、ウ)ことも併せ考慮するならば、在室検知センサ及び非常押しボタンが仕様上どおり正常に作動する状態であれば、亡Eがくも膜下出血の発症から1時間以内に 病院に搬送されて治療を受けることができたということにはならない。 ⑶ 次に、②について検討する。 前記⑵で認定したとおり、亡Eは、令和▲年▲月▲日午後5時頃、くも膜下出血を発症し、発症から短時間で死亡し れて治療を受けることができたということにはならない。 ⑶ 次に、②について検討する。 前記⑵で認定したとおり、亡Eは、令和▲年▲月▲日午後5時頃、くも膜下出血を発症し、発症から短時間で死亡したとされている。くも膜下出血が初回出血で死に至ることが相応にあり得ることからしても、搬送時間による再出血 発症の有意差があること(甲7)は、亡Eの場合には当てはめることは困難である。 ⑷ 本争点のまとめ以上のとおり、本争点における原告らの主張の前提となる上記①及び②のいずれも採用できないから、これらを前提として被告の過失と亡Eの死亡との間 に相当因果関係がある旨の原告らの主張もまた採用できない。 3 まとめしたがって、その余の争点(争点⑶(損害額))について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がない。 第4 結論 よって、原告らの請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、主文のとおり判決する。 和歌山地方裁判所民事部 裁判長裁判官 髙橋綾子 裁判官今野智紀 裁判官石井大貴

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