令和5年11月30日宣告広島高等裁判所令和5年第76号詐欺被告事件原審広島地方裁判所令和4年(わ)第361号、第404号、第495号、第544号 主文 本件控訴を棄却する。 当審における未決勾留日数中90日を原判決の刑に算入する。 理由 本件控訴の趣意は、弁護人笠原静夫作成の控訴趣意書及び控訴趣意訂正補充書に各記載のとおりであるからこれらを引用するが、論旨は、被告人を懲役3年6月に処した原判決の量刑は重過ぎて不当であり、相応の懲役刑を量定した上その刑の執行を猶予するのが相当である、というものである。 そこで、記録を調査し、当審における事実取調べの結果を併せて検討する(以下、略称は原判決のそれと同様である。)。 1 本件は、被告人が、中小企業庁が所管する持続化給付金事務事業や家賃支援給付金事務事業を利用して、これらの給付金名目で金銭をだまし取ろうと考え、⑴持続化給付金等の給付申請の代行等を行っていたAと共謀の上、自身が実質的に支配しあるいは代表取締役を務めていた会社に関し、各社が各給付要件を満たしているかのように装って、持続化給付金名目で現金合計400万円及び家賃支援給付金名目で現金合計761万9994円を詐取し(原判示第1ないし第4の各事実)、⑵A及びBと共謀の上、Bが家賃支援給付金の給付要件を満たしているかのように装って、同給付金名目で現金157万3998円を詐取し(原判示第5の事実)、⑶A及びCと共謀の上、Cが家賃支援給付金の給付要件を満たしているかのように装って、同給付金名目で現金300万円を詐取し(原判示第6の事実)、 ⑷自身の法律事務所の職員であるDと共謀の上、自身が代表取締役を務めていた会社が家賃支援給付金の給付要件を満たすかのように装って 付金名目で現金300万円を詐取し(原判示第6の事実)、 ⑷自身の法律事務所の職員であるDと共謀の上、自身が代表取締役を務めていた会社が家賃支援給付金の給付要件を満たすかのように装って、同給付金名目で現金369万9996円を詐取した(原判示第7の事実)、という事案である。 原判決の量刑事情の認定及び評価等その量刑判断は、量刑の理由の項において説示するところを含め、相当として是認することができる。 2⑴ 所論は、被告人と共犯者Aとは、役割の主従についての評価を除けば情状に差異はなく、被告人に対しても共犯者Aと同様に刑の執行を猶予すべきであり、また、本件において被告人が弁護士であることを不利な事情として過大に評価すべきではないなどというのである。 しかしながら、原判示第1ないし第6の各犯行は、申請代行業務をしており知識経験のある共犯者Aが持ち掛けてきたことが契機となっているにしても、原判決も指摘するとおり、被告人は、申請に必要な法人等や賃借物件を選定し、虚偽の賃料等を決定した上、自らも内容虚偽の契約書や領収証を準備するなどしており、さらに、より低額で申請業務を依頼できる自身の法律事務所の職員に事務を代行させて原判示第7の犯行にも及ぶなどしており、また、被告人は本件各犯行で詐取した金員の大部分を利得しているのである。このような本件各犯行の状況や具体的な犯行内容等に照らせば、被告人は、自身も自認するとおり犯行を立案した正に首謀者であり、本件各犯行を主導的に敢行し中心的な立場にあったというべきであって、基本的な犯情評価において、被告人の刑事責任はそれ相当に重いといわざるを得ないのであり、共犯者Aの果たした役割や立場との違いをみれば、被告人に対する責任非難は共犯者Aのそれに比して大きいのは当然であり、被告人の刑事責任 て、被告人の刑事責任はそれ相当に重いといわざるを得ないのであり、共犯者Aの果たした役割や立場との違いをみれば、被告人に対する責任非難は共犯者Aのそれに比して大きいのは当然であり、被告人の刑事責任の重さを共犯者Aと同程度とみることはできない。また、被告人が、弁護士として高い規範意識を持つことが強く期待される立場にありながら、本件のごと き犯行を繰り返したという原判決の指摘については、その規範意識のあり様や意思決定においても、また、社会的非難という一般情状面においても、やはり相応の責任は免れないというべきであって、原判決も、基本的な犯情評価に加え、被告人に係る個別の事情として、弁護士という立場にあったという事情をも併せ考慮しているのであり、そのような評価の位置付けをみれば、原判決が本件において被告人が弁護士であることを殊更に不利な事情として過大に評価しているという所論の批判は妥当しないというべきである。 ⑵ また、所論は、財産犯において被害額を全額弁償した事実は極めて重要であるところ、被告人は、本件各犯行のうち5件について弁償し、他の2件についても清算し、被害全額が弁償済みであり、このような全額弁償の事実は量刑上十分に考慮されるべきである、というのである。 しかしながら、原判決も、被告人と共犯者らが協力して中小企業庁等から指定されたとおりの金員全額を返還し、財産的被害が回復されていること、被告人が、自身による弁済のほか利得に応じた負担をしていることを指摘し、被告人が被害回復に尽力したことを相応に考慮していることは明らかであるところ、本件は社会的に厳しく非難されるべき事案であり、本件各犯行における被告人の立場や役割、現に生じた財産的被害の大きさなどの犯情に鑑みれば、事後的に財産的被害が回復され、被告人が被害回復 であるところ、本件は社会的に厳しく非難されるべき事案であり、本件各犯行における被告人の立場や役割、現に生じた財産的被害の大きさなどの犯情に鑑みれば、事後的に財産的被害が回復され、被告人が被害回復に尽力したことなど所論指摘の事情を十分考慮してみても、刑の執行を猶予するのを相当とするほど被告人の刑事責任を軽くみることはできないといわざるを得ないのである。 ⑶ その他、所論は、①被告人の反省悔悟、改悛の情が顕著であること、②被告人に前科はなく犯罪性向もみられず、実父が今後の被告人を監督する旨誓約し、被告人もその監督に従う旨決意していること、③被告人が弁護士資格を失う見込みにあり、その他マスコミ報道がなされ一定の 社会的制裁を受けていることなどの事情は十分に考慮されるべきであるというのであるが、これらの事情は、犯情評価を基本とする量刑判断において考慮するにも限度のある一般情状事情であり、そのような事柄の性質や内容に照らせば、原判決の量刑判断を大きく左右するまでの事情とはいえない。 3 所論はいずれも採用することができないのであって、本件犯情に鑑みれば、被害弁償等を含め被告人のために斟酌し得る事情をなお十分に考慮してみても、被告人に対し実刑でもって臨んだ原判決の量刑判断はやむを得ないものというべきであって、被告人を懲役3年6月に処した原判決の量刑は刑期の点においても重過ぎて不当であるとは認められない。 論旨は理由がない。 なお、当審における事実取調べの結果によれば、原判決後、被告人が、受理されていないものの弁護士会に退会届を提出し、Cに慰謝料を支払い、日本司法支援センター、日弁連及び日本財団にそれぞれ贖罪寄付をしているなどの事実が認められるが、そのような事実からは被告人の更なる反省の情がうかがわれるにしても、これら 提出し、Cに慰謝料を支払い、日本司法支援センター、日弁連及び日本財団にそれぞれ贖罪寄付をしているなどの事実が認められるが、そのような事実からは被告人の更なる反省の情がうかがわれるにしても、これらの原判決後の事情はいずれも一般情状に関する事情にとどまるものであって、そのような事情が認められるからといって、現時点において原判決の量刑を事後的に見直す必要が生じているとはいえない。 よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし、当審における未決勾留日数の算入について刑法21条を適用して、主文のとおり判決する。 令和5年11月30日広島高等裁判所第1部 裁判長裁判官森浩史 裁判官富張真紀 裁判官家入美香
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