主文 本件上告を棄却する。上告費用は上告人の負担とする。理由 上告代理人磯崎良誉、同鎌田俊正の上告理由について。原判決が適法に確定したところによれば、(一) D地所株式会社(旧商号A開発株式会社、以下旧会社と称する。)が昭和四二年一〇月中被上告人から本件居室に関する賃貸借解除の通知を受け、かつ占有移転禁止の仮処分を執行されたところ、同会社代表者Eは、被上告人の旧会社に対する本件居室明渡、延滞賃料支払債務等の履行請求の手続を誤まらせ時間と費用とを浪費させる手段として、同年一一月一五日旧会社の商号を従前のA開発株式会社から現商号のD地所株式会社に変更して、同月一七日その登記をなすとともに、同日旧会社の前商号と同一の商号を称し、その代表取締役、監査役、本店所在地、営業所、什器備品、従業員が旧会社のそれと同一であり、営業目的も旧会社のそれとほとんど同一である新会社を設立したが、右商号変更、新会社設立の事実を賃貸人である被上告人に通知しなかつたこと、(二) 被上告人は右事実を知らなかつたので同年一二月一三日「A開発株式会社(代表取締役E)」を相手方として本訴を提起したこと、(三) Eは第一審口頭弁論期日に出頭しないで判決を受け、原審における約一年にわたる審理の期間中も、右商号変更、新会社設立の事実についてなんらの主張をせず、また、旧会社が昭和三八年一二月以降本件居室を賃借し、昭和四〇年一二月一日当時の賃料が月額一六万二二〇〇円であることならびに前記被上告人から賃貸借解除の通知を受けたことをそれぞれ認めていたにもかかわらず、上告人は、いつたん口頭弁論が終結されたのち弁論の再開を申請し、その再開後初めて、上告人が- 1 -昭和四二年一一月一七日設立された新会社であることを明らかに とをそれぞれ認めていたにもかかわらず、上告人は、いつたん口頭弁論が終結されたのち弁論の再開を申請し、その再開後初めて、上告人が- 1 -昭和四二年一一月一七日設立された新会社であることを明らかにし、このことを理由に、前記自白は事実に反するとしてこれを撤回し、旧会社の債務について責任を負ういわれはないと主張するにいたつたこと、以上の事実が認められるというのであり、論旨は右自白の撤回を許さず、上告人が旧会社の債務について責任を負うとした原審の判断を非難するのである。 終結されたのち弁論の再開を申請し、その再開後初めて、上告人が- 1 -昭和四二年一一月一七日設立された新会社であることを明らかにし、このことを理由に、前記自白は事実に反するとしてこれを撤回し、旧会社の債務について責任を負ういわれはないと主張するにいたつたこと、以上の事実が認められるというのであり、論旨は右自白の撤回を許さず、上告人が旧会社の債務について責任を負うとした原審の判断を非難するのである。おもうに、株式会社が商法の規定に準拠して比較的容易に設立されうることに乗じ、取引の相手方からの債務履行請求手続を誤まらせ時間と費用とを浪費させる手段として、旧会社の営業財産をそのまま流用し、商号、代表取締役、営業目的、従業員などが旧会社のそれと同一の新会社を設立したような場合には、形式的には新会社の設立登記がなされていても、新旧両会社の実質は前後同一であり、新会社の設立は旧会社の債務の免脱を目的としてなされた会社制度の濫用であつて、このような場合、会社は右取引の相手方に対し、信義則上、新旧両会社が別人格であることを主張できず、相手方は新旧両会社のいずれに対しても右債務についてその責任を追求することができるものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四三年(オ)第八七七号同四四年二月二七日第一小法廷判決・民集二三巻二号五一一頁参照)。本件における前記認定事実を右の説示に照らして考えると、上告人は、昭和四二年一一月一七日前記のような目的、経緯のもとに設立され、形式上は旧会社と別異の株式会社の形態をとつてはいるけれども、新旧両会社は商号のみならずその実質が前後同一であり、新会社の設立は、被上告人に対する旧会社の債務の免脱を目的としてなされた会社制度の濫用であるというべきであるか 式会社の形態をとつてはいるけれども、新旧両会社は商号のみならずその実質が前後同一であり、新会社の設立は、被上告人に対する旧会社の債務の免脱を目的としてなされた会社制度の濫用であるというべきであるから、上告人は、取引の相手方である被上告人に対し、信義則上、上告人が旧会社と別異の法人格であることを主張しえない筋合にあり、したがつて、上告人は前記自白が事実に反するものとして、これを撤回することができず、かつ、旧会社の被上告人に対する本件居室明渡、延滞賃料支払等の債務につき旧会社とならんで責任を負わなければならないこ- 2 -とが明らかである。 的としてなされた会社制度の濫用であるというべきであるから、上告人は、取引の相手方である被上告人に対し、信義則上、上告人が旧会社と別異の法人格であることを主張しえない筋合にあり、したがつて、上告人は前記自白が事実に反するものとして、これを撤回することができず、かつ、旧会社の被上告人に対する本件居室明渡、延滞賃料支払等の債務につき旧会社とならんで責任を負わなければならないこ- 2 -とが明らかである。これと結論において同旨に出た原判決の判断は、正当として是認することができ、右判断の過程に所論の違法はない。したがつて、論旨は採用することができない。よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。最高裁判所第二小法廷裁判長裁判官岡原昌男裁判官小川信雄裁判官大塚喜一郎裁判官吉田豊- 3 -
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