- 1 -主文 原決定主文第1項中,抗告人が平成16年6月22日付けで相手方に対して発付した退去強制令書に基づく執行のうちの収容部分の執行停止を認容した部分を取り消す。 前項の取消部分に係る相手方の申立てを却下する。 相手方について生じた申立費用及び抗告費用は,相手方の負担とする。 理由 第1抗告の趣旨及び理由抗告の趣旨は,主文と同旨であり,抗告の理由は,別紙抗告理由書写し記載のとおりである。 これに対する相手方の反論は,別紙意見書写し記載のとおりである。 第2事案の概要 相手方は,昭和▲年(▲年)▲月▲日又は▲日に中華人民共和国(以下「中国」という)において出生した中国国籍を有する男性であり,中国で妻子をもうけていたが,。 昭和63年6月13日,在留期間を6か月とする上陸許可を受けて本邦に上陸した。相手方は,1度,在留期間更新許可を受けたが,その後は更新等を受けることなく,その在留期限である平成元年6月13日を超えて本邦に滞在していたことから,出入国管理及び難民認定法(以下「法」という)24条4号ロに該当するとの認定を受け,法49条1項。 ,(「」に基づき異議の申出を行ったものの異議の申出に理由がない旨の裁決以下本件裁決というがされ平成16年6月22日付けで抗告人から退去強制令書の発付以下本。),(「件退令発付処分」という)を受けた。 。 本件は,相手方が,相手方は日本人女性であるAと約5年間にわたり内縁関係にあり,Aの連れ子であるB(平成▲年▲月▲日生まれ。現在小学校4年生)及び相手方とAとの間の子であるC(平成▲年▲月▲日生まれ。現在満2歳)を養育していることなどから,法50条1項3号にいう法務大臣が在留を特別に許可すべき事情があるというべきであり,これを看過してされた本件裁決及び本件 の子であるC(平成▲年▲月▲日生まれ。現在満2歳)を養育していることなどから,法50条1項3号にいう法務大臣が在留を特別に許可すべき事情があるというべきであり,これを看過してされた本件裁決及び本件退令発付処分は違法であると主張して,その取消訴訟(東京地方裁判所平成16年(行ウ)第294号。以下「本案事件」という)。 を提起するとともに,本件退令発付処分の執行による回復の困難な損害を避けるため緊急の必要性があるなどとして,本案事件の判決確定までの間,その執行停止を求めた事案である。 原決定は,相手方の収容によって,Aら家族が著しい窮状に陥り,家族としての生活が崩壊する危険も高いなどとして,収容の継続により回復の困難な損害が生ずることが認められ,本案について理由がないとみえるときにも当たらないなどとして,本件退令発付処分の送還部分のみならず,収容部分の執行についても,本案事件の第1審判決言渡しの日から起算して15日後までの間停止することとし,相手方のその余の申立てを却下した(この却下部分に対する相手方の不服申立てはない。なお,原審においては,A及。)びCも執行停止の申立人となっていたが,同人らの申立ては,申立適格を欠く者によるものであるとしていずれも却下され,これが確定している。 この原決定に対し,抗告人が,本件退令発付処分の執行のうち収容部分の執行停止を認容した部分の取消しを求めて,不服申立てをしたものである。 - 2 -第3当裁判所の判断 事実経過について一件記録(甲1,2,5,7,乙1ないし13,16ないし26,33ないし36,38ないし41,43ないし45)によれば,次の事実が一応認められる。 (1)相手方は,中国国籍を有する男性であり,1986年(昭和61年)に中国でDと結婚し,その間に2人の子をもうけた。相手方は, 8ないし41,43ないし45)によれば,次の事実が一応認められる。 (1)相手方は,中国国籍を有する男性であり,1986年(昭和61年)に中国でDと結婚し,その間に2人の子をもうけた。相手方は,昭和63年6月13日,在留期間を6か月とする上陸許可を受けて,単身で本邦に上陸し,同年11月21日に在留期間を6か月とする在留期間更新許可を受けたが,その後は在留期間の更新手続等を経ることなく,約16年間にわたり,本邦に在留資格なく在留している。 (2)相手方は,来日後,しばらくはアルバイトをしながら日本語学校に通学していたが,同校退学後は,工場やパチンコ店などで就労し,中国の家族に送金するなどしていた。平成8年ごろ,相手方は,就労していたラーメン店の客であったAと知り合い,その後,交際するようになった。当時,Aには夫とその間の長女であるBがいたが,平成11年ころには,Aは当時の相手方宅において事実上同居するような状態となり,平成12年5月1日にAが夫と離婚した後,同年8月13日に肩書住所地に転居して,相手方,A及びBが3人で同居するようになった。 (3)平成12年ころ,相手方は,ラーメン店を開店したが,しばらくして閉店し,その後,再びラーメン店を開店したが,Aが相手方の子を妊娠したため,再び閉店し,平成▲年▲月▲日にはCが出生した。平成15年2月27日から同年3月3日にかけては,AはCを連れて,中国在住の相手方の父親を訪問した。 (4)平成15年6月,相手方はAとともに,埼玉県越谷市αにラーメン店「E」を開店してこれを経営するようになり,以後,その収入によって,相手方は,A,B及びCの家族としての生計を立てていた。同店は,開店当初は昼間も営業していたが,しばらくして夜間にのみ営業をするようになった。相手方は,午後5時30分ころ,家族とともに 収入によって,相手方は,A,B及びCの家族としての生計を立てていた。同店は,開店当初は昼間も営業していたが,しばらくして夜間にのみ営業をするようになった。相手方は,午後5時30分ころ,家族とともに埼玉県草加市の自宅を出て,午後6時ころにラーメン店に到着し,夕食は店で食べ,午前5時ころまで同店の営業をした後,家族とともに自宅に戻って寝るという生活をしていた(なお,A,B及びCは店舗の2階で就寝し,Bは自宅に戻った後,小学校に通学していた。 。)(5)Aは,糖尿病,高脂血症を患っていたが,平成16年ころから,関節リュウマチ,腰痛症(腰椎椎間板ヘルニアの疑い)を患うようになり,同年3月8日ころには,痛みがひどくて救急車で病院に搬送されることがあった。その際,Aは,入院はせず,松葉杖を使って帰宅したが,同年4月6日には自分の力で歩くことができるようになったとして,病院に松葉杖を返却した。リュウマチ等については,日常的にコルセットを利用し,投薬により痛みを緩和している状態にある。 (6)相手方は,平成▲年▲月▲日,○○の嫌疑で逮捕され,同月26日,○○及び○○の罪で起訴され,同年5月25日,さいたま地方裁判所越谷支部において,○○の判決を受けた(同判決は,同年6月9日に確定した。 。)相手方は,同年5月24日,法24条4号ロ該当容疑者として,抗告人から収容令書の発付を受け,同月25日から同令書を執行されて収容場に収容された。相手方は,同日,違反調査を受け,同月26日及び同年6月2日に違反審査を受けて,同日,東京入国管理- 3 -局入国審査官によって法24条4号ロに該当する旨の認定通知を受け,同日,特別審理官による口頭審理を請求した。東京入国管理局特別審理官は,同月17日,Aから事情聴取をするとともに,相手方の口頭審理をし,その結果,認 よって法24条4号ロに該当する旨の認定通知を受け,同日,特別審理官による口頭審理を請求した。東京入国管理局特別審理官は,同月17日,Aから事情聴取をするとともに,相手方の口頭審理をし,その結果,認定に誤りがない旨の判定をしたところ,相手方は,法務大臣に対する異議を申し出た。 法務大臣から権限の委任を受けた東京入国管理局長は,同月21日,本件裁決を行い,その通知を受けた抗告人は,同月22日,相手方に本件裁決を告知するとともに,本件退令発付処分を行った。 (7)相手方は,その間の平成16年4月22日,Cを認知し,同年5月10日,中国の妻に対する離婚訴訟を提起した。 (8)相手方及びAが経営していたラーメン店は,相手方が収容された後も中国人男性を雇用するなどしてAが営業していたが,しばらくして閉店した。その後,ラーメン店を居酒屋風に改装して,遅くとも,平成16年8月ころには,再び営業を開始した。同店,,。 の週6日間の営業日のうち2日間はAの知り合いの女性2名が店の手伝いをしている原決定により,相手方の収容が停止された後は,相手方は,再び同店での就労を継続している。 収容部分に係る執行停止の必要性について執行停止が認められるためには,行政事件訴訟法25条2項所定の「回復の困難な損害」,,を避けるため緊急の必要があるときであることを要するところ上記事実関係によれば本件退令発付処分における収容部分の執行により,相手方に「回復の困難な損害」が生ずるものということはできず,これを避けるために収容部分の執行を停止すべき緊急の必要性があるということはできないというべきである。 収容部分の執行によって,相手方は,移動の自由等を制限され,自由な就労や家族,知人との自由な交流を制限されることになるのであるが,相手方自身がこうした収容に耐えられな とはできないというべきである。 収容部分の執行によって,相手方は,移動の自由等を制限され,自由な就労や家族,知人との自由な交流を制限されることになるのであるが,相手方自身がこうした収容に耐えられない心身の状況にあることをうかがわせるような事情のない本件においては,そのこと自体から当然に回復の困難な損害が生ずるとはいい難く,こうした損害は,社会通念上金銭賠償による損害の回復をもって満足することもやむを得ないものといわざるを得ない(最高裁判所平成16年(行フ)第3号平成16年5月31日第一小法廷決定・判例時報1868号24頁参照。相手方が就労できないことにより,その内縁の妻やその子ら。)の収入が減少することがあるとしても,また,ラーメン店開業に当たっての初期投資の回収が困難となることがあるとしても,そうした損害は,原則として,事後的な金銭賠償による損害の回復によって満足することもやむを得ないものというべきである。 もっとも,そうした収入の減少により,内縁の妻やその子らが実際に生活できなくなるというような事情がある場合には,これを考慮する必要があるところである。しかし,上記事実関係によれば,Aらは,相手方が収容された後も,店舗を改装した上で上記ラーメン店の営業を継続していたものであるし,仮に,そうした形態での営業の継続が困難な事情があるとしても,児童手当,児童扶養手当,生活保護等の公的扶助制度の利用を考慮すれば,上記ラーメン店の営業を継続できないことによって,Aらの生活が直ちに困難になるものとはいい難い(乙39,43,44によれば,収入や手当がなくとも相当額の生活保護費の支給や医療扶助等を受けることができ,現に,Aは,児童手当及び児童扶養手当を受給し,また,平成13年11月26日から平成15年9月1日まで生活保護を受給し- 4 -ていたが も相当額の生活保護費の支給や医療扶助等を受けることができ,現に,Aは,児童手当及び児童扶養手当を受給し,また,平成13年11月26日から平成15年9月1日まで生活保護を受給し- 4 -ていたが,Aの新規就労により廃止されたことが,一応認められる。 。)また,上記事実関係によれば,Aの健康状態は必ずしも良好とはいえないが,相手方の助力がなければ,自らの生活の保持や子の養育ができない状態にあるものとまでは認め難い。確かに,Aが全くの独力で上記ラーメン店の営業を継続しつつ,子の養育をも行うことは,Aの健康状態を考慮すれば,相当の困難を伴うものと考えられるが,上記説示のと,,おり上記ラーメン店の営業がAらの生活維持のために必須のものであるとはいい難いしAがあえて営業の継続の方法を選択するとしても,Cを保育園に預けたり,人を雇用するなどしたりして,その負担を軽減することができないわけではないことからすれば,この点をもって,相手方の収容が直ちにAらの生活の困難をもたらすものともいい難い。 そして,本件記録を精査しても,他に本件退令発付処分の収容部分の執行によって,相手方及びAらに回復の困難な損害が生ずることを認めるに足りる疎明はない。 以上のとおりであるから,本件退令発付処分の収容部分の執行停止については,現時点においては,行政事件訴訟法25条2項所定の「回復困難な損害」を避けるための緊急の必要があるとは認め難い。そうすると,その余の点について判断するまでもなく,収容部分の執行停止を求める部分は,その要件を欠くというべきである。 結論 したがって,これと異なる原決定主文第1項中の本件退令発付処分の収容部分の執行停,,止を認容した部分を取り消しこの部分についての相手方の申立てを却下することとして主文のとおり決定する。 平成16年11月26 これと異なる原決定主文第1項中の本件退令発付処分の収容部分の執行停,,止を認容した部分を取り消しこの部分についての相手方の申立てを却下することとして主文のとおり決定する。 平成16年11月26日東京高等裁判所第19民事部裁判長裁判官岩井俊裁判官及川憲夫裁判官竹田光広
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