令和5(う)39 詐欺幇助被告事件

裁判年月日・裁判所
令和6年2月13日 広島高等裁判所 棄却 広島地方裁判所 令和3(わ)444
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判決文本文12,429 文字)

令和6年2月13日宣告広島高等裁判所令和5年第39号詐欺幇助被告事件原審広島地方裁判所令和3年(わ)第444号 主文 本件控訴を棄却する。 理由 本件控訴の趣意は、広島高等検察庁検察官検事岡本安弘提出に係る広島地方検察庁検察官検事池田宏行作成の控訴趣意書に記載のとおりであり、これに対する答弁は弁護人望月賢司作成の答弁書に記載のとおりであるから、これらを引用する。 論旨は、要するに、原判決は幇助犯の故意が認められる要件の規範定立について法令の解釈適用を誤り、被告人に詐欺幇助の故意が認められないとして無罪の判断をした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認及び法令適用の誤りがある、というものである。 そこで、記録を調査して検討する(なお、略称については、特に断らない限り、原判決のそれと同様である。)。 第1 原判決の判断概要等 1 訴因変更後の本件公訴事実の要旨は、被告人が、IP電話回線販売・レンタル業等を営む本件会社の代表社員として同社の業務全般に従事していたところ、氏名不詳者らにおいて、民事訴訟を回避するための弁済供託金等の名目で高齢者から現金をだまし取ろうと考え、共謀の上、令和3年4月19日頃から翌20日頃までの間、氏名不詳者らがIP電話回線を利用して高齢の被害女性に電話をかけ、上記弁済供託金等を支払う必要がある旨うそを言い、同人にその旨誤信させて現金200万円を送付させてその交付を受けた際、その犯行に使用されることを知りながら、Aらと共謀の上、これに先立つ同年3月16日頃から同年4月2 0日頃までの間、氏名不詳者らに対し、上記IP電話回線利用サービスを提供して利用させ、もって氏名不詳者らの上記犯行を容易にしてこれを幇助した、というものである。 2⑴ 原判決は 同年4月2 0日頃までの間、氏名不詳者らに対し、上記IP電話回線利用サービスを提供して利用させ、もって氏名不詳者らの上記犯行を容易にしてこれを幇助した、というものである。 2⑴ 原判決は、本件会社の設立から令和3年4月20日までの間に、本件会社から不特定多数の第三者に対し広くIP電話回線が提供される状態にあったとはいえず、提供先はW社に限られ、そこからその先の利用者を容易に追跡できない形で同回線が氏名不詳者に提供され、本件詐欺行為に利用されており、IP電話回線は詐欺の実行犯や関与者の特定を困難にするための道具として用いられており、本件詐欺行為を物理的に容易にしたものと認められるとした上で、このような状況において、被告人に詐欺幇助の故意があったというためには、本件会社からW社に提供したIP電話回線が上記のような意味合いを持つ犯行の道具として詐欺を含む犯罪のために提供されていることを認識、認容している必要がある旨説示している。 ⑵ 原審において、検察官は、①被告人が、BやCから本件会社の業務説明を受ける中で、本件会社の設立目的が、詐欺を含む犯罪に使用されていることを前提としてIP電話回線を第三者に提供することにあるとの疑念を抱いていたこと(事情①)、②特殊詐欺の犯行では犯人側に容易に結びつかない電話回線が多数用いられ、大きな社会問題にもなっているから、被告人は電話を用いて行われる犯罪の中に詐欺が含まれることは認識できたこと(事情②)、③W社に提供したIP電話回線について、警察官から犯罪に使用された回線が増えているとの警告を受けたり、文書中に「詐欺」等の罪名が含まれた警察からの捜査関係事項照会書が度々送付されてきたり、約68パーセントに上る割合の回線が強制解約に至ったりしていたのに、契約関係等の改善を図ることなく引き続 たり、文書中に「詐欺」等の罪名が含まれた警察からの捜査関係事項照会書が度々送付されてきたり、約68パーセントに上る割合の回線が強制解約に至ったりしていたのに、契約関係等の改善を図ることなく引き続きIP電話回線の提供を継続していたこと(事情 ③)、④警察からの照会への対応や、V社やW社とのメールのやりとりといった業務に対する報酬が月額25万円と不相当に高額であること(事情④)などの諸事情からすると、被告人が詐欺幇助の故意を有していたと推認できると主張したのに対し、原判決は、検察官の主張する各事情は、いずれも、詐欺を含む犯罪に使用される前提で、その道具としてIP電話回線を提供していることの認識を推認させる力を持たないか、それほど強いものではなく、これらを総合しても、被告人が本件詐欺幇助の故意を有していたと推認するには足りないと説示している。 ⑶ さらに、原判決は、捜査段階及び原審公判段階における被告人の各供述についても検討し、令和3年2月頃、本件会社が提供したIP電話回線が特殊詐欺に悪用されている旨Cから言われ、IP電話回線が詐欺に利用されていることを知りながら、その後も同回線の提供を続けていたとの捜査段階の供述は、裏付けを欠き身柄拘束中の罪悪感等の感情からされた可能性は否定し難く、同供述の信用性を肯定することはできず、他方、本件会社が詐欺の犯人にIP電話回線を提供しているとは全く思わなかった旨を述べる原審公判供述はその信用性を排斥できないなどと説示して、詐欺幇助の故意を有していたとまでは認められないとの判断を示したものである。 第2 原判決の法令解釈を論難する論旨について 1 所論は、原判決が、中立的でない幇助行為について幇助の故意を認めるには、中立的・日常的取引行為には見られない詐欺の犯行を特に促進・容易にする事 第2 原判決の法令解釈を論難する論旨について 1 所論は、原判決が、中立的でない幇助行為について幇助の故意を認めるには、中立的・日常的取引行為には見られない詐欺の犯行を特に促進・容易にする事実の認識、認容まで必要であると判断しているものと捉えた上で、㋐幇助犯は他人の犯罪を容易ならしめる行為をそれと認識、認容しつつ行い、実際に正犯行為が行われることによって成立するものであり、正犯の行為を特に促進、容易にする事実の認識までは要求されて いない、㋑最高裁平成23年12月19日決定も、従前の幇助犯の考え方を前提として、価値中立的な行為による幇助犯を成立させるには、正犯行為に利用されるという一般的・抽象的な可能性とその認識、認容では足りず、具体的な社会通念上無視できないような状況とその認識、認容が必要であって、かつそれで足りるとしたものであり、それ以外に何らかの特定の事実の存在とその認識、認容を要求したものではない、㋒本件同様にIP電話回線を詐欺の本犯に提供したという事案において、当該事件の被告人らがした提供行為が中立的・日常的な取引行為ではないとし、詐欺幇助の故意責任を問うためには幇助行為を思いとどまるべきであるという規範に直面できるだけの認識があれば足り、当該事件の被告人が関与する会社名義での発注の多くの割合が詐欺を含む犯罪に継続的に利用され、それが社会的に見ても無視し得ない状況であることが理解できるだけの包括的な認識が当該事件の被告人らにあるから、同人らに詐欺幇助の認識に欠けることはないとした第一審判決が控訴審においても是認されているなどと指摘し、原判決は、十分な根拠も示さずに、本件において被告人に詐欺幇助の故意を認める要件について、あえて詐欺の犯行を特に促進・容易にする事実の認識を必要としたもので、刑法62条1項の解釈 いるなどと指摘し、原判決は、十分な根拠も示さずに、本件において被告人に詐欺幇助の故意を認める要件について、あえて詐欺の犯行を特に促進・容易にする事実の認識を必要としたもので、刑法62条1項の解釈を誤っている旨主張するのである。 2 しかしながら、前記最高裁決定は、所論が前記㋐で指摘するとおりの基本的な解釈を示した上で、その解釈に基づいて、具体的な事案内容に則して前記㋑のような判断をしているのであり、また、前記㋒で引用する裁判例も、同最高裁決定が示した上記解釈に基づいた具体的な事例に則した判断であると解される。そして、原判決も、本件会社の設立から令和3年4月20日までの間における本件会社からのIP電話回線の提供状況や、本犯の実行に用いられたIP電話回線の利用状況を踏まえた上で、本件において、被告人に、他人の犯罪を容易ならしめる行為を、 それと認識、認容しつつ行ったといえるのはどのような場合であるかを説示したものと解されるのであって、原判決が幇助犯の成立には詐欺の犯行を特に促進・容易にする事実の認識、認容まで必要であると判断しているという所論は、原判決の説示内容やその趣旨を正解しないものといわざるを得ないのであり、原判決が刑法62条1項について従前と異なる独自の解釈をしているなどとはいえない。 第3 原判決の事実の認定判断を論難する論旨について検察官が主張する事情を十分に踏まえて検討してみても、結論として、原判決には一部適切さを欠く説示部分もみられないではないものの、被告人に詐欺幇助の故意を認めるに足りないとした原判決の基本的な認定判断が、論理則、経験則等に照らして明らかに不合理であるとは認められない。 以下、所論に則し補足して説明する。 1⑴ 所論は、前記事情①に関し、原判決は、令和2年12月に被告人が聞いたBらの 定判断が、論理則、経験則等に照らして明らかに不合理であるとは認められない。 以下、所論に則し補足して説明する。 1⑴ 所論は、前記事情①に関し、原判決は、令和2年12月に被告人が聞いたBらの説明等において、詐欺に使用される前提で第三者に提供される可能性まで想起できるようなやり取りがあったとは認められないと説示するが、Bの発言は、本件会社の設立目的が警察からの摘発逃れであることを明確に指し示すものであり、被告人も名義貸しや隠れ蓑としての役割を十分に理解していたと考えられ、さらに、特殊詐欺は、電話を使う犯罪の典型であり、Bらの発言の中に詐欺について排斥するものは全く見当たらないから、このような設立経緯等を踏まえれば、被告人において、本件会社の提供するIP電話回線が詐欺を含む犯罪に利用されることを十分に想起できたというのである。 確かに、被告人が聞かされた内容のうち、Bから数年来この業界でやっているが警察に目を付けられており自分では会社の設立ができないという説明もあったことからすれば、本件会社の設立目的が警察か らの摘発逃れではないかとの疑いを持ち得るものであることは否定できない。しかしながら、同時に、Bは、被告人に対し、契約の際は身分確認をして警察からの照会には回答する必要があるなど、適正な業務を行う必要がある旨の説明もしており、その後、被告人は、実際にW社との間で代表者の身分確認を行った上で契約を締結しているといった事情も認められることは原判決も指摘するとおりであり、さらに、被告人はBから上記説明を受けた令和2年12月当時までIP電話回線の提供業務に携わったことがなかったというのである。このような事情をも併せ考慮すれば、当時、被告人がBから上記のような説明を受けていたからといって、所論がいうような名義貸し、隠れ蓑の役割 P電話回線の提供業務に携わったことがなかったというのである。このような事情をも併せ考慮すれば、当時、被告人がBから上記のような説明を受けていたからといって、所論がいうような名義貸し、隠れ蓑の役割であることを十分理解していたと断じることはできないのであって、本件会社が提供するIP電話回線が詐欺を含む犯罪に利用される可能性について、被告人の認識は、なお一般的な可能性の認識にとどまり、それ以上の認識があったと認めるには合理的な疑いが残るといわざるを得ないのである。原判決が、上述した諸事情が認められる被告人について、本件会社の設立目的や業務が犯罪の関与者に対する追跡を困難にする点にあると思い至ることは容易でないと考えられると説示したのも、上記のような趣旨をいうものと解されるのであって、論理の飛躍との言辞の適切さはともかくも、Bらの説明内容から、詐欺を含む犯罪の道具として使用されることを前提としてIP電話回線を第三者に提供するものとの疑念を抱いたとまで導くことはできないとの原判決の判断に誤りがあるとはいえない。 ⑵ また、所論は、前記事情②に関し、原判決は、IP電話回線を使用する犯罪は詐欺以外にも様々想定され、もとより違法でない用途にも使われているなどと指摘して、被告人が昨今の特殊詐欺の存在を認知していたとしても、本件で直ちにIP電話回線を用いた犯罪の中に詐 欺が含まれているものと認識できたとまで推認するのは困難であると説示しているが、IP電話回線を使用する犯罪は詐欺以外にも様々想定されるにしても、想定される犯罪に詐欺が含まれていることを排除するものではないし、IP電話回線を使用するメリットがあり、違法とはいえない用途にも使われているといった原判決の指摘は、IP電話回線を利用した犯罪として詐欺を含む犯罪を想起してこれを認識し とを排除するものではないし、IP電話回線を使用するメリットがあり、違法とはいえない用途にも使われているといった原判決の指摘は、IP電話回線を利用した犯罪として詐欺を含む犯罪を想起してこれを認識したかどうかとは関係がないなどというのである。 しかしながら、所論の指摘自体はもっともなところもあるが、そうであるにしても、事情②は、被告人が、本件会社が提供するIP電話回線が詐欺を含む犯罪に使用される一般的可能性がある旨認識していることを裏付けるものにとどまり、それだけでは本件詐欺幇助の認識、認容があったとまでいえるものではない。原判決の説示は、詐欺に使用される一般的可能性がある旨の認識すらなかったかのようにも受け取られかねない点において、適切さを欠いているといわざるを得ないが、事情②について、詐欺幇助の認識、認容を推認する力が限られるとした原判決の判断自体に誤りがあるとはいえない。 ⑶ また、所論は、前記事情③に関し、原判決は、警察官の指導内容はIP電話回線が詐欺の道具として使用されている実態を示唆するものではなく、また、令和3年4月20日までに各地の警察署から本件会社に届いた照会書等のうち「詐欺」等の文言が含まれていた文書は全体の2割にとどまり、解約率の高さは一時的・短期間の使用に限る利用形態も想定でき、V社からの強制解約についても、W社への提供開始からの期間に加え、被告人の経験や本件会社への関与状況等に照らすと、いまだ詐欺の道具として用いられているとの認識にまで至らなくとも不自然ではないと説示しているが、原審甲29号証、同乙2号証によれば、被告人は、警察官から、W社に提供したIP電話回線 が特殊詐欺の犯行に使われていることを告げられた上、犯罪に使用された回線が増えていることから、代理店との契約を見直し、安易に新規契約を結 ば、被告人は、警察官から、W社に提供したIP電話回線 が特殊詐欺の犯行に使われていることを告げられた上、犯罪に使用された回線が増えていることから、代理店との契約を見直し、安易に新規契約を結んだり上限なく回線を契約することは控えるなどして現在までの業務を改善すること、代理店契約を結んでいる立場として、W社に指導を行い、契約者の本人確認を徹底することなどの業務指導を受けていたのであるから、被告人は、W社が本件会社から提供を受けたIP電話回線を本人確認せずに第三者に提供していることを確実に認識し、さらに、それが特殊詐欺に使用されていることを明確に認識していたものであり、詐欺幇助の故意に関する原判決の論理に立ったとしても、被告人に詐欺幇助の故意は優に認められるというのである。また、所論は、被告人が、大量の照会書に対応していたこと、計算上、契約から約1か月でほぼ全回線が解約となり、しかもその約82パーセントは仕入先又はその先の大手キャリアからの強制解約であること、提供した回線の4割について警察から問い合わせがある状態であったことを指摘して、本件犯行に至る経緯等をも前提とすれば、被告人は、提供したIP電話回線が詐欺の道具として用いられているとの認識を有していたと優に認定することができるというのである。 しかしながら、被告人は、令和2年12月以降、専らBらの指示を受けながら本件会社の業務に従事しており、初めての提供先であるW社との間で代表者の身分確認を行った上で契約を結んだ令和3年2月頃以降、本件各IP電話回線の最終提供行為の時期までは長く見ても3か月程度の期間しかなく、各提供行為の間の同年3月24日に初めて警察からの業務指導を受けたものの、上記最終提供行為は上記業務指導から1か月も経過していなかったという事情があることは原判決も ても3か月程度の期間しかなく、各提供行為の間の同年3月24日に初めて警察からの業務指導を受けたものの、上記最終提供行為は上記業務指導から1か月も経過していなかったという事情があることは原判決も指摘するとおりであり、また、所論が強調する照会書についても、 客観証拠からすれば、本件会社が照会書を受領し始めたのは同年3月頃であり、さらに、被告人は、原審被告人質問において、上記業務指導に関し、どうしてよいか分からずBらに報告して判断を仰いでいた旨供述しているのである(原審第6回公判被告人質問11頁)。以上の諸事情を総合考慮すれば、本件各提供行為当時の被告人は、本件会社が提供したIP電話回線の多くが詐欺に使用されているとの認識を持ち始めた一方で、その認識の根拠の一つでもある業務指導についてBらに報告し、本件会社がなすべき業務についてBらの指示を仰いでいたとみられるのであり、そのような被告人については、検察官が主張する事情③を十分に踏まえてみても、本犯である詐欺を容易ならしめるIP電話回線提供行為を、それと認識、認容しつつ行ったというには疑問が残るといわざるを得ない。原判決が、被告人について、一般的な疑念を超えて詐欺の道具として使用されている可能性まで認識していたと認めるに足りないと説示するのもそのような趣旨をいうものと解されるのであって、その認定判断に誤りがあるとはいえない。 ⑷ 所論は、前記事情④に関し、原判決は、事情③と同様に、被告人の経験や本件会社への関与状況を勘案し、自己が受ける報酬が不相当に高額であるとまで思い至らなかった可能性を排斥できないと説示しているが、本件会社はIP電話回線をV社から仕入れて直ちにW社に流すだけのトンネル会社であり、被告人が実際に行った業務を見ても、W社への提供はその数も多くなく、手間のかかる顧 を排斥できないと説示しているが、本件会社はIP電話回線をV社から仕入れて直ちにW社に流すだけのトンネル会社であり、被告人が実際に行った業務を見ても、W社への提供はその数も多くなく、手間のかかる顧客対応もなく、メールのやり取りや警察からの照会書対応等といった非常に単純で軽微なものであって、それらの業務が初めてであったとしても業務の質や量から報酬が高額であると認識していたと認められ、また、Bらの指示で上記業務に従事していたことはむしろ報酬の不自然な高額性を認識し得る事情というべきであるというのである。 しかしながら、所論の指摘する客観的な事情を踏まえてみても、それらの事情は、所論のようにも原判決のようにもいずれにも評価することが可能であり、推認力に限界がある事情といわざるを得ないことは原判決が指摘するとおりである。前述したとおり、被告人の経験、被告人が本件会社に関与し始めて本件各提供行為に至るまでの期間、それまでの被告人の業務状況に照らせば、被告人は、本件会社が所論のいうようなトンネル会社であると認識していたとまで断じることもできないし、自己の業務に対する報酬がその労力に比して不相当に高額であるとの認識を疑いなく認めることができる事情があるとまではいえない。 ⑸ さらに、所論は、前記事情①ないし④の各事情について、原判決は、いずれも、詐欺を含む犯罪に使用される前提で、その道具としてIP電話回線を提供していることの認識を推認させる力を持たないか、それほど強いものではなく、これらを総合しても、詐欺幇助の故意を有していたと推認するには足りないと説示しているが、原判決は、検察官が主張する事実関係を分断して個別に検討するのみで、どのように総合評価を行ったのかも不明であり、情況証拠によって認められる間接事実の総合評価という観点から 足りないと説示しているが、原判決は、検察官が主張する事実関係を分断して個別に検討するのみで、どのように総合評価を行ったのかも不明であり、情況証拠によって認められる間接事実の総合評価という観点からの検討を欠いているなどというのである。しかしながら、前記事情①については、そもそも、原判決が説示するとおり、検察官の主張するように被告人が本件会社の目的が関与者の追跡を困難にする点にあると思い至っていたとは考えられないし、また、前記事情①及び③に関して基礎となる事情は、被告人に、本犯である詐欺を容易ならしめるIP電話回線の提供行為を、それと認識しつつ行ったとある程度推認させる事情ではあるにしても、被告人は、令和2年12月に、Bから適法に業務を行う旨の説明をも受けながら、初めてIP電話回線提供業務に関与することとなり、その後 も専らBらの指示を受けながら、翌令和3年2月にW社と適法に契約を結んでから約3か月という期間内に本件各提供行為を行ったものであり、同年3月頃以降に「詐欺」の文言を含む多くの照会書に回答していたといってもその期間は同様に短期間にとどまり、その間の警察からの業務指導も1回目の提供行為後の1度にとどまっていることは、被告人に詐欺幇助の認識、認容があるとするには疑問が残ると評価せざるを得ない事情というべきである。なお、被告人が業務指導を受けたことについてBらに報告していたという事情も、同様に詐欺幇助の認識、認容があったとの推認を妨げる方向にも働き得る事情であることは既に述べたとおりである。そして、その余の前記事情②及び④は、そのような事情自体がそもそも推認力に乏しい事情とみるべきものであることも前述したとおりであるから、そのような事情を併せ考慮してみても、被告人に詐欺幇助の故意があったと認めるには疑問が残るといわざる のような事情自体がそもそも推認力に乏しい事情とみるべきものであることも前述したとおりであるから、そのような事情を併せ考慮してみても、被告人に詐欺幇助の故意があったと認めるには疑問が残るといわざるを得ないのである。そうすると、原判決は、そのような総合考慮の判断過程を特段明示してはいないが、前記事情①ないし④を総合しても詐欺幇助の故意を認定するに足りない旨説示した原判決の判断に誤りがあるとはいえない。 なお、所論は、原判決が、被告人が何らかの犯罪の可能性を認識したと指摘しつつ、詐欺が含まれていると認識する可能性すら存在しなかったと説示しているとして、被告人が関与した行為自体から、被告人は自己の行為が詐欺の幇助に当たる可能性を認識していたことを強く推認させ、ましてや、本件は、電話を利用した犯罪といえば真っ先に特殊詐欺が思い浮かぶほどその手口は広く知れ渡っていたのであるから、被告人は容易に詐欺を想起することが可能であったのであり、原判決の認定判断は最高裁の判断枠組に反しているなどともいうのである。しかしながら、最高裁が説示する判断枠組は、本件のような事 案において、詐欺幇助の故意を認めるためには、被告人に詐欺を含む犯罪に利用されている一般的・抽象的な可能性の認識があるだけでは足りないというものであるところ、確かに、原判決の説示には、詐欺に使用される一般的可能性がある旨の認識すらなかったかのようにも受け取られかねない適切さを欠く説示部分はあるが、原判決の当該判断部分は、そのような指摘をする趣旨ではなく、検察官が指摘する事情については詐欺幇助の認識、認容を推認する力が限られる旨を説示しているとみられるのであって、そのような原判決の判断自体に誤りがあるとはいえないのは前述したとおりであり、原判決が最高裁の判断枠組に反する認定判断 欺幇助の認識、認容を推認する力が限られる旨を説示しているとみられるのであって、そのような原判決の判断自体に誤りがあるとはいえないのは前述したとおりであり、原判決が最高裁の判断枠組に反する認定判断をしているなどとはいえないのであるから、所論は原判決の判断を的確に論難するものではない。 2⑴ 所論は、捜査段階の被告人供述(原審乙2号証ないし乙4号証)の信用性について、原判決は、Cとのやり取りには裏付けがないと指摘し、また、身柄拘束中の罪悪感等の感情から詐欺幇助の故意を認めるかのような供述をした可能性は否定し難いと説示しているが、原審乙2号証は、身柄拘束中でもなければCとのやり取りについて言及したものでもなく、被告人が、警察官から、本件会社がW社に販売した電話回線が特殊詐欺の犯行に使用されていることから話を聞かせてほしいと言われて面会したことや、警察から再三上記電話回線が特殊詐欺の犯行に使われているとの連絡が入っていることを供述するものであるところ、同供述は原審甲29号証、甲38号証ないし甲40号証によって裏付けられており、また、原審乙3号証や乙4号証は、Cとのやり取りそのものには裏付けはないにしても、その前提となる事情は原審甲38号証ないし甲40号証によって裏付けられており、また、その内容は既に身柄拘束される前から自白していたものであって、仮に罪悪感等の感情があったとしても虚偽の事実を述べてまで詐欺 の認識を肯定する理由もないなどと指摘して、捜査段階の被告人供述の信用性を肯定することはできないという原判決の判断を論難する。 しかしながら、捜査段階における被告人供述の信用性に関する原判決の判断に、所論が指摘するような適切さに欠けるところがあるにしても、原審乙2号証ないし乙4号証における被告人供述は、被告人が本件会社の業務に関 がら、捜査段階における被告人供述の信用性に関する原判決の判断に、所論が指摘するような適切さに欠けるところがあるにしても、原審乙2号証ないし乙4号証における被告人供述は、被告人が本件会社の業務に関与するようになって以降、警察から照会書の送付を受けるなどして、W社に提供したIP電話回線が特殊詐欺に利用されていることを知ったこと、その後もW社への回線提供を続けていたことを自認するものではあるが、そのような被告人供述の信用性を否定することができず、被告人が本件各提供行為時点でそのような認識があったと供述しているからといって、そのような認識だけでは、被告人に詐欺幇助の認識、認容があったと認めるに足りないことは前述したとおりであるから、所論の指摘は詐欺幇助の故意を認めるに足りないとした原判決の判断の結論を左右するとはいえない。 ⑵ また、所論は、詐欺幇助の故意を否定する被告人の原審公判供述の信用性を排斥することはできないという原判決について、被告人の業務内容は本件会社の業務の怪しさに気付けないような繁忙なものではなく、解約状況を見てその理由に考えが至らなかった、照会に係るIP電話回線は被害者が使用する回線であると考え犯人のそれとは思わなかったなどという弁解内容も不自然不合理であり、さらに、被告人が販路開拓のための営業電話をしていたという点も、実際にはW社にしか提供しておらず、BやCに言われるまま値段交渉の権限も持たずにされているなど極めて杜撰であって、通常の営業の外形を示すためにBらが指示したものであり、通常の営業形態とは認め難いなどと縷々指摘し、営業活動をしていたからといって詐欺幇助の認識がなくなるわけではないから、被告人の原審公判供述はおよそ信用できな いともいうのである。 確かに、照会に係るIP電話回線について、被告人が、被 、営業活動をしていたからといって詐欺幇助の認識がなくなるわけではないから、被告人の原審公判供述はおよそ信用できな いともいうのである。 確かに、照会に係るIP電話回線について、被告人が、被害者の使用する回線であるかもしれないと思ったが犯人のそれであるとは思わなかったなどと述べているところなどは、およそ不自然というほかないが、被告人の原審公判供述は信用できないという所論の指摘を踏まえてみても、被告人の経験、本件会社への関与期間、関与状況等に照らせば、本件会社がBの隠れ蓑でトンネル会社であり、Bによる販路開拓の指示は通常営業を装うためであることを被告人が認識していたなどと断じることはできないのであるから、被告人の原審公判供述が直ちに信用し得ないとしても、所論の指摘は詐欺幇助の故意を認めるに足りないという原判決の結論的な判断を左右するものとはいえない。 3 以上のとおりであって、所論を踏まえて検討してみても、被告人が、本件会社において提供するIP電話回線が詐欺に利用される可能性について、一般的可能性として認識するにとどまらず、詐欺の道具として提供されているということを認識し、これを認容していたとまでは認めるに足りないというべきであるから、結論として被告人に詐欺幇助の故意は認められないとの原判決の判断が、論理則、経験則等に照らし、明らかに不合理であるとは認められない。 第4 結論以上の次第であって、原判決に事実の誤認あるいは法令適用の誤りがあるとは認められず、原判決の法令解釈及び事実の認定判断を論難する論旨はいずれも理由がない。 よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。 令和6年2月13日広島高等裁判所第1部 裁判長裁判官森 よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。 主文 令和6年2月13日広島高等裁判所第1部 裁判長裁判官 森浩史 裁判官 富張真紀 裁判官 家入美香

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