平成30(行コ)224 被疑者補償規程に基づく検察官の処分取消等,損害 賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成30年11月14日 東京高等裁判所
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判決文本文7,094 文字)

平成30年11月14日判決言渡平成30年(行コ)第224号被疑者補償規程に基づく検察官の処分取消等,損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成28年(行ウ)第463号,同年(ワ)第34243号) 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は,控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 主位的請求(1) 原判決を取り消す。 (2) 東京高等検察庁検察官が,控訴人に対し,平成28年5月25日付けでした被疑者補償規程に基づく補償をしない旨の裁定に対する不服申出は理由がないとの決定を取り消す。 (3) 被控訴人は,控訴人に対し,61万2000円及びこれに対する平成28年2月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 予備的請求(1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人は,控訴人に対し,195万2500円及びこれに対する平成28年2月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) (1)につき仮執行宣言第2 事案の概要(略語は,新たに定義しない限り,原判決の例による。以下,本判決において同じ。) 1 本件は,被疑者補償規程に基づき被疑者補償の申出をした控訴人が,東京地方検察庁(東京地検)検察官により補償しない旨の裁定(本件裁定)を受けたため,これに対して不服の申出をしたところ,東京高等検察庁(東京高検)検 察官が同不服申出は理由がないとの処理(本件処理)をしたことから,被控訴人に対し,(1) 主位的に,①本件裁定は抗告訴訟の対象となる行政処分であり,本件処理は控訴人の行政不服審査法に基づく審査請求を却下するとの決定であるから,本件処理も抗告訴訟の対象となる行政処分であるところ,同規程の定める補償要件を 定は抗告訴訟の対象となる行政処分であり,本件処理は控訴人の行政不服審査法に基づく審査請求を却下するとの決定であるから,本件処理も抗告訴訟の対象となる行政処分であるところ,同規程の定める補償要件を充足する控訴人につき被疑者補償をしないとした本件裁定は違法であり,したがって本件処理も違法であると主張して,本件処理の取消しを求めるとともに,②被控訴人が不起訴処分とされた者に対する費用補償を行うための規程を定めなかったことが違法であると主張して,国家賠償法(国賠法)1条1項に基づき,損害賠償金61万2000円及びこれに対する本件裁定後の日である平成28年2月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,(2) 予備的に,控訴人につき被疑者補償規程の定める補償要件該当性が認められるにもかかわらず東京地検検察官が本件裁定をしたこと及び東京高検検察官が本件処理をしたことは国賠法上違法であり,これにより損害を被ったと主張して,同法1条1項に基づき,損害賠償金195万2500円及びこれに対する本件裁定後の日である同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 原審は,(1) 憲法40条の文理上,逮捕勾留に係る被疑事実が不起訴となった場合に,そのことを理由として同条の補償の問題が生じないことは明らかであり,憲法上,被疑者補償請求権が保障されているとはいえず,また,被疑者補償規程によって国民に被疑者補償請求権が認められているものとは解されず,検察官の行う被疑者補償規程に基づく裁定は,これにより直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているとはいえないから,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるとはいえず,そうすると,本件裁定は行政処分ではなく,本件処理は行政 直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているとはいえないから,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるとはいえず,そうすると,本件裁定は行政処分ではなく,本件処理は行政処分及び裁決に当たらないから,本件処理を取り消すことについて,控訴人に訴えの利益は認められない,(2) 前記のとおり,憲法上被疑者補償請求権が保障されているとはいえず,不起訴処分を受けた被疑者に対し費用補償請求権を認めるか否かは立法政策の問題であるところ,そのような立法がされていないのであるから,行政庁が不起訴処分となった被疑者に対する費用補償に関する規程を定めなかったとしても,同不作為が国賠法上違法であるとはいえず,被疑者に対する費用補償に関する規程を定めなかったことを理由とする損害賠償請求は理由がない,(3) 控訴人において,東京都内所在のAが詐取金の送付先として利用されていることの認識を有していたのみならず,これを認容していた疑いがあり,犯罪が成立しないことが明らかであるとか,嫌疑が極めて薄弱であるとはいえないとの判断が,およそ根拠を欠くものとはいえないから,控訴人について,被疑者補償規程2条の「罪を犯さなかったと認められるに十分な事由」がないとした本件裁定における東京地検検察官の判断が著しく不合理であるとはいえないなどとして,本件訴えのうち,本件処理の取消しを求める部分を却下し,その余の控訴人の請求をいずれも棄却した。 3 控訴人は,原判決を不服として本件控訴を提起した。 4 被疑者補償規程の定め,前提事実,争点及び争点に対する当事者の主張は,次のとおり付加訂正し,後記5において,当審における当事者の補充的主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」1ないし4(原判決3頁7行目から16頁6行目ま 当事者の主張は,次のとおり付加訂正し,後記5において,当審における当事者の補充的主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」1ないし4(原判決3頁7行目から16頁6行目まで,別紙及び別表を含む。)に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決3頁7行目の「被疑者補償規程」の次に「(昭和32年法務訓一)」を加える。 (2) 原判決3頁16,17行目の「(甲16の2ないし4頁)を「(甲15の1ないし4頁,甲16の2ないし4頁)と改める。 (3) 原判決4頁17行目の「起訴された」の次に「(同裁判所平成26年刑(わ)第2414号)を加える。 (4) 原判決4頁19,20行目の「同年11月11日,東京高等裁判所(以下「東京高裁」という。)において,」を次のとおり改める。 「東京高等裁判所(「以下「東京高裁」という。」)に控訴し(同裁判所平成27年(う)第1324号),同年11月11日,東京高裁において,」(5) 原判決27頁22,23行目の「第72条第2項」を,「第75条第2項」と改める。 5 当審における当事者の補足的主張(1) 控訴人控訴人は,適式の呼出しを受けたにもかかわらず,本件口頭弁論期日に出頭しないが,その陳述したものとみなされた控訴理由書には,要旨次のような記載がある。 原判決は,被疑者補償規程2条にいう「罪を犯さなかったと認めるに足りる十分な理由があるとき」とは,構成要件該当性がないとか,違法性阻却事由や責任阻却事由があることが明らかに認められるため,犯罪が成立しないことが明らかな場合や,被疑者が犯罪と無関係であることが明らかである場合のほか,証拠上,被疑者の嫌疑が極めて薄弱であるときも含まれるが,一方で,犯罪の成否等が真偽不明のときはこれに当 罪が成立しないことが明らかな場合や,被疑者が犯罪と無関係であることが明らかである場合のほか,証拠上,被疑者の嫌疑が極めて薄弱であるときも含まれるが,一方で,犯罪の成否等が真偽不明のときはこれに当たらないと判示する。 しかし,起訴されるに至らなかった被疑者であっても,捜査機関により逮捕・勾留されたという事実には変わりがなく,現実の社会においても,最終的には不起訴となった,あるいは不起訴となるべき被疑者に関して,逮捕・勾留されたという事実が捜査機関により意図的に情報がリークされることで,大々的に報道されるような事例は多数存在する。したがって,被疑者に対して押された烙印を,公の補償を行わせることにより解消するという趣旨は,刑事補償法が適用される場合と同様に当てはまるのであって,この点から見れば,刑事補償を行うべき場合と被疑者補償を行う場合 について殊更に補償の基準を異なったものとすべき理由はない。 そうすると,本件においては,Bに関して無罪判決を下した控訴審判決から明らかなとおり,詐欺事件の主犯とされたBについて犯罪事実に関する認容が欠けていたと判示された以上,従犯とされた控訴人についても当然認容が欠けていたとの認定がされたことは明らかであり,被害者補償規程2条の要件を満たすというべきである。 したがって,本件裁定は速やかに取り消されるべきであるし,被疑者補償がなされるべきである。 (2) 被控訴人控訴人の主張は争う。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,原審と同様,本件訴えのうち,東京高等検察庁検察官が,控訴人に対し,平成28年5月25日付けでした被疑者補償規程に基づく補償をしない旨の裁定に対する不服申出は理由がないとの決定の取消しを求める部分は不適法であるから却下し,その余の控訴人の請求はいずれも理由がないか 平成28年5月25日付けでした被疑者補償規程に基づく補償をしない旨の裁定に対する不服申出は理由がないとの決定の取消しを求める部分は不適法であるから却下し,その余の控訴人の請求はいずれも理由がないから棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおり付加訂正し,後記2において,当審における当事者の補足的主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」(原判決16頁8行目から25頁17行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決19頁5行目から10行目までを次のとおり改める。 「 そこで検討するに,国賠法1条1項の違法性が認められるためには,国民の権利又は法律上の利益が侵害されることを要するものであり,事実上の利益ないし反射的利益を有するにすぎない場合には,国賠法1条1項の違法性を認めることはできないというべきである(最高裁平成元年(オ)第825号同2年2月20日第三小法廷判決・裁判集民事159号161頁参照)。 このような観点を踏まえて検討するに,憲法40条から被疑者補償請求権が保障されているとはいえないことは,本判決で付加訂正の上引用する原判決(以下「原判決」という。)第3・1(1)のとおりであり,また,被疑者補償規程が訓令の形式であることに加え,原判決第3・1(1)において認定するとおり,被疑者補償請求権を認めることは,起訴独占主義や起訴便宜主義という刑事訴訟法の基本原則に抵触するおそれがあることなどから,被疑者補償制度の立法化が度々見送られてきた経緯があること,現在の被疑者補償規程も被疑者補償請求権を認めたものではないと解されていることが認められるところ,このような被疑者補償規程の制定経過及び改正経緯からすると,不起訴となった被疑者が補償を請求する権利ないし法 疑者補償規程も被疑者補償請求権を認めたものではないと解されていることが認められるところ,このような被疑者補償規程の制定経過及び改正経緯からすると,不起訴となった被疑者が補償を請求する権利ないし法的利益を有するということはできず,不起訴となった被疑者は,補償を受けることについて事実上の利益ないし反射的利益を有するにすぎないというべきである。 したがって,被疑者補償に関する立法がなされていない状況において,被疑者において補償を受ける法的利益を有するということはできないから,行政庁が不起訴処分となった被疑者に対する費用補償に関する規程を定めないことが,国家賠償法1条1項の適用上違法ということはできない。」(2) 原判決22頁26行目から24頁4行目までを次のとおり改める。 「ア国賠法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものであり,行政庁が不起訴処分を受けた被疑者に対する被疑者補償をしなかったことが国賠法1条1項の適用上違法と評価されるのは,行政庁の担当者が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく,漫然と被疑者補償をしなかったと認められるような事 情がある場合に限られると解すべきである(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁,最高裁平成元年(オ)第930号,第1093号同5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁,最高裁平成17年(受)第1977号同19年11月1日第一小法廷判決・民集61巻8号2733頁参照)。 そうすると,本件裁定及び本件処理が国賠法1条1項の適用上違法と 巻4号2863頁,最高裁平成17年(受)第1977号同19年11月1日第一小法廷判決・民集61巻8号2733頁参照)。 そうすると,本件裁定及び本件処理が国賠法1条1項の適用上違法と評価されるのは,本件裁定及び本件処理が誤っているというだけではなく,行政庁の担当者が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく,漫然と本件裁定及び本件処理をしたと認められるような事情がある場合に限られると解すべきである。 イ被疑者補償規程2条は,被疑者補償の要件として,「その者が罪を犯さなかったと認めるに足りる十分な事由があるとき」と定め,4条1号は,被疑者補償について,被疑者として抑留又は拘禁を受けた者につき,事件事務規程第75条第2項に定める「罪とならず」又は「嫌疑なし」の不起訴裁定主文により,公訴を提起しない処分があった場合に被疑者補償を立件する旨定めているところ,証拠(乙24,25)によれば,一般に,「罪とならず」とは,被疑事実が犯罪構成要件に該当しないとき又は犯罪の成立を阻却する事由のあることが証拠上明確なときにされる処分であり,「嫌疑なし」とは,被疑事実につき,被疑者がその行為者でないことが明白なとき,又は犯罪の成否を認定すべき証拠のないことが明白なときにされる処分とされていること,他方,被疑者補償規程4条2号により補償されるためには,犯罪不成立の心証の方が犯罪成立の心証よりもはるかに強いとき,証拠関係からみてとても犯罪の成立を認定することができないときには,補償が行われることになるが,形式上の証拠がそろわないだけで心証が十分なときはもとより,犯罪の成否につい て真偽不明のときにも,補償の要件は備わらないと解されていると認められる。 そうすると,被疑者補償規程2条の適用に当たって,検察官とし が十分なときはもとより,犯罪の成否につい て真偽不明のときにも,補償の要件は備わらないと解されていると認められる。 そうすると,被疑者補償規程2条の適用に当たって,検察官としては,上記のような解釈を前提として,裁定等を行う義務を負っているというべきであり,本件裁定及び本件処理が国賠法1条1項の適用上違法となるのは,上記のような解釈,適用をすべき職務上の注意義務を尽くすことなく,漫然と誤った裁定等をしたと認められるような事情がある場合に限られるというべきである。」(3) 原判決25頁2行目の「著しく不合理とはいえない。」を「誤っているということはできず,まして職務上の注意義務を尽くすことなく,漫然と誤った本件裁定等をしたものということはできない。」と改める。 2 当審における当事者の補足的主張に対する判断(1) 控訴人は,被疑者補償規程に関する原判決の解釈が誤っているとして,本件裁定が取り消されるべきであると主張する。 しかしながら,本件裁定が行政処分に当たるということはできず,控訴人に取消しを求める訴えの利益があるといえないことは,原判決第3・1において判示するとおりであるから,本件処理の取消しを求める訴えは不適法であって,被疑者補償規程に関する解釈の適否を検討するまでもなく,本件処理の取消しを求める控訴人の主張は採用し得ない。 (2) 控訴人は,被疑者補償規程に関する原判決の解釈が誤っており,被控訴人に国賠法1条1項の責任が認められるべきである旨主張するが,本件裁定及び本件処理について,検察官が職務上の注意義務を尽くすことなく,漫然と誤った裁定等をしたと認めることができないことは,原判決第3・3(2)において判示するとおりであるから,控訴人の主張は採用し得ない。 3 そ て,検察官が職務上の注意義務を尽くすことなく,漫然と誤った裁定等をしたと認めることができないことは,原判決第3・3(2)において判示するとおりであるから,控訴人の主張は採用し得ない。 3 その他,控訴人の主張を検討しても,前記認定,判断を左右するものはない。 第4 結論よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第1民事部 裁判長裁判官深見敏正 裁判官吉田尚弘 裁判官餘多分宏聡

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