主文 1 被告は原告に対し,別紙物件目録記載の各土地建物につき,平成11年6月17日遺留分に基づく減殺請求を原因として,それぞれ13億3972万9227分の3139万9427の持分権の移転登記手続をせよ。 2 被告は原告に対し,金20万6405円及び平成11年6月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告のその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用は3分し,その1を被告の,その余を原告の負担とする。 事実及び理由む第1 当事者の求めた裁判 1 原告(1) 被告は原告に対し,別紙物件目録記載の各土地建物につき,平成11年6月17日遺留分に基づく減殺請求を原因として,それぞれ1000分の65の持分権の移転登記手続をせよ。 (2) 被告は原告に対し,金278万2441円及び平成11年6月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告(2) 原告の請求を棄却する。 (3) 訴訟費用は原告の負担とする。 第2 事案の概要 1 争いのない事実(1) 甲は,平成10年6月28日死亡した。 相続人は別紙相続関係図記載のとおりであって,原告は,6分の1の法定相続分,12分の1の遺留分を有する。 (2) 甲が死亡し,相続が開始した時点での甲の遺産は,積極財産として,別紙遺産目録一,二の不動産,同三の預貯金のとおりであって,別紙遺産目録一,二の不動産の甲死亡時の評価額が同目録一,二記載の額であること,消極財産として,別紙借入金一覧表(14億8493万5501円)及び預かり敷金一覧表(1億1567万4850円)並びに別紙税金の支払分(2706万6400円)及びビル 目録一,二記載の額であること,消極財産として,別紙借入金一覧表(14億8493万5501円)及び預かり敷金一覧表(1億1567万4850円)並びに別紙税金の支払分(2706万6400円)及びビル修理代外(516万0931円)のとおりであって,その総額は16億3283万7682円なる。 (3) 甲は,別紙相続一覧表(遺言書)記載のとおり,昭和59年6月26日,平成2年5月8日及び平成7年12月18日の公正証書遺言によって,積極財産のほとんどを被告に遺贈し,さらに消極財産のすべてを被告が承継した。 原告は,昭和59年12月18日の公正証書遺言によって,200万円の遺贈を受けた。 (4) 原告は,被告に対し,平成11年6月16日付内容証明郵便で遺留分減殺権の行使をし,同書面は翌17日に到達した。 2 争点遺留分算定の基礎となる積極財産の範囲(1) 不動産の生前贈与(被告の主張)甲は,下記の不動産を原告に贈与した。なお,①の土地(以下「Aの土地」という。)は,原告が自己所有として売却したものを,甲が追認したものであって,原告が売却代金を費消していることからすると,原告に贈与したと解すべきであり,②の土地建物(以下「Bの土地建物」という。)は,甲が原告名義で購入し,甲が購入代金を支払ってきたものである。 ① 昭和60年3月12日福岡市A田(但し現在宅地) 687・60平方メートル② 昭和53年1月イ福岡市B宅地 131・76平方メートルロ同所家屋番号 66番36居宅木造瓦葺2階建1階 52・99平方メートル2階 23・18平 宅地 131・76平方メートルロ同所家屋番号 66番36居宅木造瓦葺2階建1階 52・99平方メートル2階 23・18平方メートル(原告の主張)① Aの土地は甲が売却したものであって,同売却代金のうち4500万円の贈与を受けた。 ② Bの土地は,甲が原告名義で借入をして土地を購入し,建物を建築したが,借入金は全て原告が返済してきており,原告所有不動産である。 (2) 現金による贈与等(被告の主張)① 昭和32年 28万円甲はCの土地を乙に売却し,右代金28万円を原告に贈与した。 ② 昭和36年 (金額不明)甲はDの土地を売却した代金を原告に贈与した。 ③ 平成2年10月24日 (金額不明)甲は,下記E土地建物を売却し,その代金(少なくとも625万円)を原告に贈与し,原告はこれを賠償金に充てた。 イ筑紫郡那珂川町E宅地 287・77平方メートルロ同所事務所軽量鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建16・56平方メートル(原告の主張)いずれも否認する。 (3) 甲の原告に対する貸付金(被告の主張)原告は,昭和44年ころ,甲の農協の口座から50万円を無断で持ち出し,さらに,次の金員を借受金名義で甲から受領した。これらは原告の返済を期待できないものであったことから,贈与と考えるべきものである。 ① 昭和54年5月17日 35万円② 昭和56年5月29日 15万円③ 昭和57年1月30日 15万円④ 昭 いものであったことから,贈与と考えるべきものである。 ① 昭和54年5月17日 35万円② 昭和56年5月29日 15万円③ 昭和57年1月30日 15万円④ 昭和58年10月3日 100万円(原告の認否・主張)①,②,④の借入は認め,③は否認する。借入金のうち80万円は返済した。原告の借受金について,未返済部分を遺留分算定の当たり,贈与と同様遺留分から控除されることに異議はない。 (被告の認否)80万円の返済は否認第3 裁判所の判断 1 遺留分算定の基礎となる積極財産の範囲甲が死亡して相続が開始した時点における甲の積極財産が,別紙遺産目録一,二の不動産,同三の預貯金であったこと及び別紙遺産目録一,二の不動産の甲死亡時の評価額が同目録一,二記載の額であることはいずれも当事者間に争いがなく,その総額は28億9432万2234円となる。 被告は,甲が原告に対し,次の財産を贈与しているので,遺留分算定の基礎となる財産に加えるとともに,右贈与分を原告の遺留分から控除すべきである旨主張するので以下,検討する。 (1) 不動産の生前贈与について① Aの土地につき被告は,Aの土地を原告が自己所有として売却したものを,甲が追認することによって,同売買契約は有効になったものであり,売買代金4500万円を原告が費消していることからすると,甲がAの土地を原告に贈与し,原告が売却したものと解すべきである旨主張するところ,原告は,Aの土地の売主は甲であって,その売却代金4500万円の贈与を受けたにすぎない旨主張し,原告の主張に沿う丙の陳述書(甲38)及び証言並びに原告本人の供述がある。しかしながら,乙1号証によれば,Aの土地の売買契約書には,原告を売主と記載し,そ 00万円の贈与を受けたにすぎない旨主張し,原告の主張に沿う丙の陳述書(甲38)及び証言並びに原告本人の供述がある。しかしながら,乙1号証によれば,Aの土地の売買契約書には,原告を売主と記載し,その特約事項には,「本件売買は他人の農地についての売買」と明記されており,しかも,同契約書には,甲が昭和60年3月12日に追認した旨の記載とともに甲の署名捺印のある続き用紙があって,甲の印鑑で割り印が押捺されていることが認められ,同契約書の記載からは,原告が甲の所有するAの土地を売却し,甲がこれを追認したものと認めるしかない。 この点,原告及び丙は,甲はAの土地の売却を事前に承諾し,売買契約締結時,甲も同席した上で,特約事項が記載されて同契約書は作成された旨供述及び証言するところ,所有者である甲が売却するのに,特約事項として他人の農地の売買であると記載がなされるのは不自然であって,甲1号証,丙の証言及び原告の供述は信用できない。乙25号証によれば,同売買契約書の売主欄の右横に甲が署名捺印したのは,昭和60年3月12日の追認の際記載したものと認めるのが相当である。 そうすると,甲の追認によって,買主はAの土地の所有権を取得することができたのであって,甲の追認は,他人の土地を売却して債権的な効果しかなかった売買契約に物件的な効果を付与したものであり,原告が売買代金4500万円を費消していることからすると,原告への贈与を伴っているとみるべきである。 以上によると,Aの土地は遺留分算定の基礎となる財産であって,遺留分算定のためには,同土地を前記積極財産に加えて算定することになるところ,乙30号証によれば,Aの土地の平成11年度の固定資産税評価額は7355万2561円であることが認められるものの,同土地が道路用地して減歩されて659平方メートルと 加えて算定することになるところ,乙30号証によれば,Aの土地の平成11年度の固定資産税評価額は7355万2561円であることが認められるものの,同土地が道路用地して減歩されて659平方メートルとなっていることは争いがなく,減歩前のAの土地の面積(687・6平方メートル)に合わせた評価額は7674万4675円となる。 ② Bの土地建物につき被告は,Bの土地建物は,甲が原告名義で購入し,甲が購入代金を支払ってきたものであって,同土地建物も原告への贈与とみるべきである旨主張するところ,Bの土地建物は甲が昭和53年1月20日に原告名義で購入したことは当事者間に争いがなく,乙3号証の1,2によれば,同土地建物は,株式会社戊相互銀行からの融資を受けて購入したものであることが認められる。 被告は,その本人尋問において,上記戊銀行への返済は,甲が毎月原告に返済資金を手渡して返済してきた旨供述するところ,原告は,その本人尋問において,昭和53年5月からタクシー運転手として働き,その収入から戊銀行への返済を行い,返済できなかった時は,甲に借りて返済してきており,右借受を示すものが乙5号証の1ないし3の借用証である旨供述し,同供述及び乙5号証の1ないし3の存在とその内容とを対比すると,被告の前記供述をもって,Bの土地建物の購入資金として借り入れた株式会社戊相互銀行からの融資全部を,甲が原告に交付する方法で支払ってきたと認めることはできず,他にこれを認めるに足る証拠はない。 (2) 現金の生前贈与について① Cの売却代金につき被告は,甲がCを昭和32年3月乙に売却してその代金28万円を原告に贈与した旨主張し,乙26号証,被告本人尋問結果によれば,甲がCを乙に代金28万円で売却する際,原告の刑事事件について費用がいるから 被告は,甲がCを昭和32年3月乙に売却してその代金28万円を原告に贈与した旨主張し,乙26号証,被告本人尋問結果によれば,甲がCを乙に代金28万円で売却する際,原告の刑事事件について費用がいるからと説明していたことが認められるが,本件全証拠によるも,その具体的な使途は明らかでなく,同売却代金が原告に対し贈与されたと認めることはできない② Dの売却代金につき被告は,甲がDを己に売却してその代金を原告に贈与した旨主張し,乙2号証によれば,甲が昭和33年5月1日Dを己に売却したことが認められる。 そして被告は,その本人尋問において,その売却代金を原告がもらって上京したということを聞いた旨供述するところ,甲10号証によれば,被告は当時9歳であって,甲からの伝聞状況も明らかでなく,右供述をもって,原告の対する贈与と認めることはできず,他にこれを認めるに足る証拠はない。 ③ Eの売却代金につき被告は,甲がE(土地につき持ち分2分の1)を売却してその代金を原告に贈与した旨主張する。 乙4号証,7号証,23号証,24号証の2,原告本人尋問の結果によれば,原告は,甲所有の庚ビルを甲の承諾を得ずに売却する契約を締結して手付金を取得したものの,甲の承諾を得られずに,手付金を返還することになり,自己が費消した分2500万円を返還するために,Eを売却することになり,辛に委任したこと,平成元年8月3日に同土地の持分2分の1と同土地上の自己所有建物を辛に売却したとして所有権移転登記手続をし(同持分等は平成2年10月16日に壬株式会社に売却されて同月17日に所有権移転登記手続がされた。),平成2年5月30日に同土地の持分2分の1と同土地上の甲所有建物を壬株式会社に売却して(同年10月24日に所有権移転登記手続がされた。 式会社に売却されて同月17日に所有権移転登記手続がされた。),平成2年5月30日に同土地の持分2分の1と同土地上の甲所有建物を壬株式会社に売却して(同年10月24日に所有権移転登記手続がされた。),この売却代金で2500万円を返済したこと,Eには甲を債務者とし,癸農業協同組合を抵当権者とする極度額1000万円の根抵当権と1500万円の抵当権がいずれも昭和61年9月29日付けで設定されていたが,上記売買代金でその負債(最大で1500万円)を返済して抵当権及び根抵当権が抹消されたこと,今光の土地上にある原告所有の建物は昭和60年9月25日新築の木造瓦葺2階建の居宅(1階80・13平方メートル,2階33・12平方メートル)であり,原告は上記Eの外にその所有建物の売却によって250万円を受領したことが認められる。 以上認定の事実によれば,Eの売却代金は,甲の癸農業協同組合に対する抵当権付負債を控除してもなお2750万円はあったことが認められるものの,原告所有の建物が昭和60年に新築された建物であることからすると,同2750万円が原告所有の土地の持分と同建物の代金に相当する可能性もあって,甲の持分等の売却代金によって原告が利益を受けたと認めるには十分でなく,他にこれを認めるに足る証拠はない。 (3) 甲の原告に対する貸付金等について① 甲が原告に対し,昭和54年5月17日に35万円,昭和56年5月29日に15万円,昭和58年10月3日に100万円を貸し渡したことは当事者間に争いがない。 被告は,昭和57年1月30日にも甲が原告に対し15万円を貸し渡した旨主張するところ,乙5号証の3には,同趣旨の記載があるが,これは原告の借用証の欄外に記載されているだけであって,右記載をもって,甲が原告に対し,同記載の貸付を行ったと認 に対し15万円を貸し渡した旨主張するところ,乙5号証の3には,同趣旨の記載があるが,これは原告の借用証の欄外に記載されているだけであって,右記載をもって,甲が原告に対し,同記載の貸付を行ったと認めることはできず,他にこれを認めるに足る証拠はない。 一方,被告は,上記貸付につき,うち80万円の返済をした旨主張し,甲の預金口座の取引明細が記載された甲47号証を提出するところ,同口座への振り込みを原告が行ったとする証拠は原告本人の供述以外なく,前記貸付に関する借用証が甲の下に残されていた事実からすると,前記貸付に対し原告が80万円の返済をなしたとするには十分でなく,他にこれを認めるに足る証拠はない。 ② 被告は,原告が,昭和44年ころ,甲の農協の口座から50万円を無断で持ち出して上京した旨主張し,甲から同趣旨話を聞いた旨の被告本人の供述があるが,甲46号証,原告本人尋問の結果と対比し,同供述をもって,原告が甲の農協の口座から50万円を持ち出したと認めるには十分でなく,他にこれを認めるに足る証拠はない。 2 原告の遺留分額及び遺留分侵害額原告の遺留分額は,甲の死亡時における積極財産である別紙遺産目録一,二の不動産の評価額,同三の預貯金の合計28億9432万2234円に甲の原告に対する貸金150万円を加え,更に前記原告に贈与されたAの土地の評価額7674万4675円を加算した29億7256万6909円から負債総額16億3283万7682円を控除した13億3972万9227円に原告の遺留分割合12分の1を乗じた1億1164万4102円となるところ,原告が甲から受けたAの土地の評価額7674万4675円及び遺言によって受領した200万円を控除した額である3289万9427円が具体的遺留分額となる。 さらに,遺留分侵害額は,原告 となるところ,原告が甲から受けたAの土地の評価額7674万4675円及び遺言によって受領した200万円を控除した額である3289万9427円が具体的遺留分額となる。 さらに,遺留分侵害額は,原告が前記150万円の支払義務を負っており,原告は遺留分算定に当たり贈与と同様の扱いをしても異議はない旨主張しており,被告はこれを贈与と主張していること及び民法1041条の趣旨からすると,これを控除した3139万9427円が遺留分侵害額となる。 3 遺留分侵害に基づく移転登記等別紙遺産目録一,二の不動産のうち,現在被告名義の不動産は別紙物件目録記載の不動産だけであって,同不動産と別紙遺産目録三の預貯金から原告及び原被告同様甲の子であるイにそれぞれ遺贈された各200万円と甲の養子であるロ及び同ハにそれぞれ遺贈された各1500万円の合計3400万円を控除した880万6786円が減殺されるべき対象財産である。遺留分減殺請求権行使の結果,被告は原告に対し,上記各不動産については,13億3972万9227分の3139万9427の持分の移転登記手続きをすべきであり,880万6786円の預貯金については,13億3972万9227分の3139万9427に当たる20万6405円(円未満切り捨て)の支払いをすべきであって,その余の請求は理由がない。 4 結論よって,民訴法64条に従い,主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第2民事部裁判官横山秀憲※別紙物件目録等は省略した。 目録等は省略した。
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