令和5(う)246 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反、窃盗、銃砲刀剣類所持等取締法違反、現住建造物等放火、非現住建造物等放火、殺人未遂(変更後の訴因 傷害)、殺人、殺人未遂

裁判年月日・裁判所
令和7年3月19日 福岡高等裁判所
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判決文本文23,742 文字)

令和7年3月19日宣告令和5年(う)第246号判決 主文 本件控訴を棄却する。 当審における未決勾留日数中510日を原判決の刑に算入する。 理由 第1 本件の概要等 1 弁護人Wの控訴趣意は、事実誤認及び量刑不当であり、これに対する検察官 の答弁は、控訴趣意にはいずれも理由がないから本件控訴は棄却されるべきである、というものである。 2 被告人は、北九州市に拠点を置き、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律所定の指定暴力団であり、平成24年12月27日以降は同法所定の特定危険指定暴力団である五代目甲會において、その主要二次団体である乙組の若頭を 務める者である。 3 本件は、①平成23年2月9日、新築工事作業所において、b4株式会社従業員が拳銃で撃たれて傷害を負ったが殺害に至らなかった事件(原判示第1。 「b4事件」)、②平成23年11月26日、b3株式会社会長が拳銃で射殺された事件(原判示第2。 「b3事件」)、③平成24年4月19日、現役時代に甲會の事件の捜査を担当してい た元警察官が拳銃で撃たれて傷害を負ったが殺害に至らなかった事件(原判示第3の2。「元警察官事件」)及びその際に使用された原動機付自転車の窃盗事件(原判示第3の1。「窃盗事件」。両者を併せて「元警察官事件等」)、④平成24年8月14日、多数の飲食店等が入居しているビル2棟が放火された事件及びその際に使用された自動二輪車の窃盗事件(原判示第4の1。併せて「放火事件等」)、⑤平成2 4年9月7日、「b2」というラウンジ(以下、単に「b2」という。)の経営者(原判 決別紙2記載のB。以下、アルファベットの人名は同別紙のとおり。)が刃物で切り付 件等」)、⑤平成2 4年9月7日、「b2」というラウンジ(以下、単に「b2」という。)の経営者(原判 決別紙2記載のB。以下、アルファベットの人名は同別紙のとおり。)が刃物で切り付けられるなどして傷害を負い、それを制止しようとしたタクシー運転手Cも刃物で切り付けられて傷害を負ったが、両名とも殺害に至らなかった事件(原判示第4の2。「b2事件」)、⑥平成24年9月26日、b1の営業部長が刃物で刺されて傷害を負った事件(原判示第4の3。「b1事件」)、⑦平成25年1月28日、甲會総裁X12 の担当看護師が刃物で刺されるなどして傷害を負ったが殺害に至らなかった事件(原判示第5。 「看護師事件」)につき、被告人が共同正犯として起訴された事案である。 4 原審において、被告人は種々の点を争い、①③⑤の殺人未遂(組織的殺人未遂を含む)については傷害罪の成立を、②④⑦については無罪をそれぞれ主張した(①③のその余の点及び⑥については認めた。)。これに対し、原判決は、①の行為 の一部につき殺意によるものであることを否定するなど若干の事実が認定できないとし、また、④のうち現住・現在建造物の放火で起訴された事件について現在建造物放火罪の成立のみを認めるなどしたものの、基本的には各公訴事実(訴因変更後のものを含む)と同旨の事実を認定して、被告人を無期懲役に処した。 5 そこで、以下では、まず事実誤認(事実誤認の主張のない⑥を除く)の論旨 につき各事件ごとに検討し、その後に量刑不当の論旨を検討する。 第2 b4事件に関する事実誤認の控訴趣意について 1 罪となるべき事実の要旨及び論旨等⑴ 原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、X1(乙組本部長兼乙組内丙組組長)、X2(乙組組員)、X3(前同)、X4(丙組組員)及び 控訴趣意について 1 罪となるべき事実の要旨及び論旨等⑴ 原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、X1(乙組本部長兼乙組内丙組組長)、X2(乙組組員)、X3(前同)、X4(丙組組員)及びX5(前同)と 共謀の上、平成23年2月9日、北九州市h区内の病院移転新築工事作業所2階事務所において、被告人が、回転弾倉式拳銃(以下、第2ではこの拳銃を「本件拳銃」という。)で、従業員等の殺害に至ってもやむを得ないとする殺意をもって、事務机等が並ぶ空間に向かって弾丸1発を発射した上、当時50歳の従業員(以下、第2では同人を「被害者」という。)が執務していた事務机付 近まで駆け寄るなどした後、被害者のいる方向に更に弾丸1発を発射し、2発 目の弾丸を被害者の下腹部に命中させたが、全治約23日間を要する下腹部挫創を負わせたにとどまり、また、先の発射行為の後、本件拳銃で、床面に置かれた空気清浄機付近に向けて弾丸1発を発射し(原判示第1の1。殺人未遂、拳銃発射)、その際、本件拳銃1丁を適合実包3発と共に携帯所持した(原判示第1の2。拳銃加重所持)、というものである。 ⑵ 論旨は、被告人の殺意を認めた点、さらには、原判示の各共犯者との共謀を認めた点で、原判決には誤りがある、というものである。 ⑶ そこで検討するに、これらを認めた原判決の判断は、論理則、経験則等に照らして不合理な点はなく、是認することができる。以下、所論に鑑み説明する。 2 被告人の殺意について ⑴ 原判決の判断原判決は、概要、以下のとおり説示して、被告人の殺意を認定した。 犯行場所である事務所は照明が灯り、従業員等の存在が見込まれる場所であったところ、被告人は、事務所内への立入り直後、辺りを見回すなどの動作もなく、カウンター机越しに て、被告人の殺意を認定した。 犯行場所である事務所は照明が灯り、従業員等の存在が見込まれる場所であったところ、被告人は、事務所内への立入り直後、辺りを見回すなどの動作もなく、カウンター机越しに、事務机等が並び、従業員等がいることが想定される事務所奥の 空間に向けて即座に1発目の発射をしているから、同発射は、事務所内にいる従業員の身体等に命中させることも厭わないものであったと推認できる。被害者の存在が被告人の予想外であったとはうかがえず、むしろ、立ち上がった被害者を視界に捉えた被告人の次の動きは、被害者に更に接近して、近距離から、その身体の枢要部に着弾し得る向きに銃を構えて2発目を発射するものであり、結局、これが被害 者の左下腹部に命中している。脅し目的、又は敢えて枢要部以外に着弾させようと厳密に弾道を統制したものとはうかがえない。高い殺傷力を有し、かつ、反動等により狙いがずれることもあり得るという拳銃の性質も併せ考慮すれば、これら2発の発射は、殺意に基づくものと認められる。 ⑵ 当裁判所の判断 ア所論は、被害者を負傷させた2発目について、原判決は弾丸が左下腹部に接 触したとの事実を認定しているが、その弾丸は被害者の下腹部に接触せず着衣と着衣との間に納まり、その際に擦過傷に近い怪我を負わせた、というだけである上、被告人は敢えて銃口を下に向け、机の上の紙束を狙って撃ったが、それが跳弾し、想定困難な経路をたどってそのような事態となったものである、被告人は人命に関わるような結果をもたらさないようにしていることが明らかであり、仮に殺害の意 図があるならば被害者の上半身に容易に命中させることができた、という。 そこで検討するに、所論がいうように弾丸は被害者の肌等に直に触れてはいない。 しかし、証拠によれ らかであり、仮に殺害の意 図があるならば被害者の上半身に容易に命中させることができた、という。 そこで検討するに、所論がいうように弾丸は被害者の肌等に直に触れてはいない。 しかし、証拠によれば、弾丸が着衣を介して下腹部に接触したことにより原判示の傷害が生じたと認められ、原判決はその機序を説示しているに過ぎないから、同説示が誤りであるとはいえない。そこで、更に検討すると、2発目の発射行為は、椅 子から立ち上がって被告人の方に正面を向けながら後ずさりする被害者のいる方向に、事務机越しになされ、その弾丸が、銃口から約2mの位置にある同事務机上の紙束を貫通した後に被害者の左下腹部に挫創を生じさせたものである。また、再現者によって発射姿勢等の違いが生じ得ることを考慮し5人を犯行再現者として実施された各再現実験の結果は、紙束を除去した場合には3人の再現で事務机に、2人 の再現で被害者の左大腿部に命中することになり、除去しない場合でも、5人全員の再現で、それぞれ若干銃口の角度を上げるだけで被害者の左大腿前部に命中することになった、というものであった。これらの事情からは、2発目の発射行為の銃口は、事務机等の障害物の存在を度外視すれば、被害者の身体、それも四肢の末端等ではない部位に向いていたこと、その障害物も、わずかな弾道のずれで銃弾が接 触しない位置にあったこと、2発目の弾道は紙束の貫通時に変化したが、やや上方向のみで横方向の変化はほぼないというものであったことがそれぞれ認められる。 そして、拳銃はわずかな銃口の向きの差や反動により弾道が相応にずれ得るものであること、発射された弾丸が障害物に当たっても貫通や跳弾が当然に想定され、かつ、本件での弾道の変化はわずかなもので、想定外等とは言い難いことも踏まえれ ば、2発目の発射行 相応にずれ得るものであること、発射された弾丸が障害物に当たっても貫通や跳弾が当然に想定され、かつ、本件での弾道の変化はわずかなもので、想定外等とは言い難いことも踏まえれ ば、2発目の発射行為は、その発射された弾丸が被害者の下腹部等に命中すること も当然想定されるものであったといえる。その発射行為の態様に照らせば、上位者から「当てるな」と指示されており、当てないように机を撃ったとの被告人の供述も信用できず、被告人は、2発目の発射行為の際、その弾丸が身体の枢要部に命中することも容認していた、ひいては殺害に至ってもやむを得ないとの認識を有していたとの原判決の判断に誤りはない。なお、2発目の弾丸は障害物を通過する際に その威力が減じられ、結果として着衣内に納まる形で止まっているが、このことは、行為の危険性の評価に影響する事情ではない。所論は採用できない。 イ所論は、1発目の発射行為について、被告人は上半身を撃つことが可能であったのに、敢えて下方の障害物に向けて撃ったのであるから、殺意はなかった、という。 しかし、被告人は、事務所出入口ドアから入ってその場で拳銃を構えるや、カウンター机越しに直ちに発砲しており、銃口を大きく下に向ける動きはない。また、その弾丸は事務所出入口から約4m奥にある、被害者が着座して作業中であった事務机の手前に置かれた脇机側面の、床から高さ約46cmの部位に当たるなどしているものの、弾道は上記事務机に向かうものであった。その後被害者に接近してな された2発目の態様等も併せ考えれば、1発目の際に被告人が敢えて被害者に命中しないようその発射行為をしたとは考え難い。所論は採用できない。 ウその他、所論は縷々主張するが、確定的殺意の否定のみにつながるもの、原判決の表現のみを論難するもの に被告人が敢えて被害者に命中しないようその発射行為をしたとは考え難い。所論は採用できない。 ウその他、所論は縷々主張するが、確定的殺意の否定のみにつながるもの、原判決の表現のみを論難するもの、独自の見解に基づくもの等であり、採用できない。 3 各共犯者との共謀について 所論は、原判決が、X4の供述が信用できることを前提にX1、X2、X3、X4及びX5との共謀を認めた点について、X4供述は信用性を欠くとして論難する。 しかし、その立論は、結局、b4事件直前に被告人らが集合した場所はX4が供述している場所ではないから、X4供述全体の信用性にも問題がある、というものと解さざるを得ず、かつ、その理由として具体的に挙げるのも、被告人はこの点に関する 自らの記憶に絶対の自信がある、自身の裁判ではX4と同様に供述していたX2が、 別の事件では、記憶が無いと供述を変遷させ、自身の裁判では妥協してそう言ったのではないかと説明している、などの点のみである。所論は論理に飛躍がある上、根拠にも乏しいというほかなく、採用できない。 第3 b3事件に関する事実誤認の控訴趣意について 1 罪となるべき事実の要旨及び論旨等 ⑴ 原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、被告人が、X1(甲會丙組組長)、X4、X5、X6(乙組組員)、X7(前同)、X8(前同)及びX9(前同)と共謀の上、平成23年11月26日、北九州市h区内のb3株式会社会長(以下、第3では同人を「被害者」という。)方前路上付近で、X8が、当時72歳の被害者に対し、殺害に至ってもやむを得ないとする殺意をもって、回転弾倉 式拳銃で被害者がいる方向に弾丸2発を発射し、うち1発を頚部に命中させ、右内頚静脈及び右鎖骨下動脈の離開に基づく失血によって死亡させて殺害 害に至ってもやむを得ないとする殺意をもって、回転弾倉 式拳銃で被害者がいる方向に弾丸2発を発射し、うち1発を頚部に命中させ、右内頚静脈及び右鎖骨下動脈の離開に基づく失血によって死亡させて殺害し(原判示第2の1。殺人、拳銃発射)、その際、上記拳銃を、適合実包2発と共に携帯所持した(原判示第2の2。拳銃加重所持)、というものである。 ⑵ 論旨は、各事実につき被告人の故意を認めた点及び原判示の各共犯者との共 謀を認めた点で、原判決には誤りがある、というものである。 ⑶ そこで検討するに、これらを認めた原判決の判断は、論理則、経験則等に照らして不合理な点はなく、是認することができる。以下、所論に鑑み説明する。 2 被告人の故意について⑴ 原判決の判断 被告人の故意、すなわち拳銃を用いた殺人という犯罪への関与であるという認識を認めた原判決の判断は、概要、以下のとおりに整理できる。 被害者は大相撲観戦から帰宅して降車した直後に銃撃を受けているが、当日、X1が被害者を追尾してその動静を把握することでこれが可能になったと認められる。 他方、被告人は、自宅と大相撲会場を往復する被害者の経路を調べるよう他者から 指示を受け、複数回、配下組員の運転車両に乗って被害者乗車車両を追尾したと認 めているが、事前の行動把握の一環として事件当日のX1による行動確認につなげるためのものと考えられるから、その狙いと把握すべき事柄を被告人が了解し得る指示であったからこそ、漏れの無い行動確認が遂げられたと推認できる。 加えて、X9、X4、X16及びY1は、上記追尾が平成23年11月16日(b3事件発生の10日前)頃から複数回にわたり配下組員を伴って行われたものであること、 被告人は、b3事件当日の夕方頃、X9に携帯電話機を手渡 X16及びY1は、上記追尾が平成23年11月16日(b3事件発生の10日前)頃から複数回にわたり配下組員を伴って行われたものであること、 被告人は、b3事件当日の夕方頃、X9に携帯電話機を手渡し、特定の車両の車種やナンバーを伝えて、被害者方への経路に通じるe3料金所の出口付近に待機させ、当該車両が現れたら同電話機で連絡するよう指示したことなどを供述しており、これらの供述は信用できる。 そして、組織の要職が関与して、行動確認等を役割分担して行うという状況自体 から、銃撃による他害行為も含む組織的かつ重大な行為への関与であると想定することが可能である。 ⑵ 当裁判所の判断ア所論は、まず、b3事件につき故意を認めるには、「人を殺す」こと自体についての謀議、又は拳銃が使われることを知っていた等の事情が必要であるが、被告人 にはいずれも存在しない、という。 しかし、b3事件につき実行犯でない関与者に未必的な故意を認めるためには、基本的に、犯罪行為への関与である可能性及びその犯罪行為に銃を用いた重大な加害行為が含まれる可能性を認識していれば足りる。具体的な謀議又は明確な認識等を要するとの所論は、独自の見解であるというほかない。 イ所論は、b3事件の当日、X9が被告人の指示を受けて料金所出口付近に待機するなどした事実はない、という。 しかし、所論は被告人の言い分を前提とするのみで、この点を述べるX9供述の信用性について具体的に主張していない。原判決は、捜査官の誘導によるとは考え難い内容であること、通話履歴等が支えとなっていること等を根拠としてこの点に関 するX9供述の信用性を肯定しているところ、その信用性判断に誤りはない。 ウ所論は、被告人の行動から認定可能なのは被害者乗車車両を追尾 えとなっていること等を根拠としてこの点に関 するX9供述の信用性を肯定しているところ、その信用性判断に誤りはない。 ウ所論は、被告人の行動から認定可能なのは被害者乗車車両を追尾するよう指示を受けたということだけであり、被告人は実際にその指示しか受けていない、とした上で、行動確認の目的には債権回収等も考え得るから、その指示から重大な加害行為がなされると被告人が想定することはできない、という。 しかしながら、被告人は、自身も配下組員を伴って複数回にわたり一般人の行動 確認を行い、さらに、本件当日、理由等の具体的な説明もしないままにX9を特定の場所で数時間待機させて電話連絡をさせている。目的の説明なしに甲會最大の二次団体たる乙組の若頭である被告人にそのような指示等が可能で、かつ、被告人自身が行動確認を実行するような指示者や事態は相当に限定されると考えられるから、仮に説明なく指示を受けたとしても、行動確認等の目的が所論のいうような単なる 債権回収等であると被告人が想定するとは考え難い。加えて、被告人は、X9に使用させた携帯電話機につきその後破壊して捨てるよう指示したことも認められる。重大な組織的行為への関与であると被告人が認識していたとする原判決の評価は、以上の客観的な関与状況に照らして正当であるところ、被告人は一般人を対象とした銃撃事件であるb4事件の実行犯であったのだから、その中に銃を用いた重大な加害 行為が含まれることもまた当然である。 所論は採用できない。 エその他、所論は縷々主張するが、やはり独自の見解にとどまるもの等であり、採用できない。 3 各共犯者との共謀について 所論は、原判決が罪となるべき事実で認定した全ての共犯者について共謀を否定するものの、具体的な主張は、X 自の見解にとどまるもの等であり、採用できない。 3 各共犯者との共謀について 所論は、原判決が罪となるべき事実で認定した全ての共犯者について共謀を否定するものの、具体的な主張は、X9は事件の全体像を知らなかったとする点のみである。そして、運転手を務めて被告人による行動確認に複数回同行し、さらに、理由の説明も受けないまま特定の自動車の通過まで数時間待機し、渡された携帯電話機で相手方も分からない番号にその通過報告をさせられたX9において、それらが重大 な組織的加害行為への関与である可能性は十分に認識し得たということができる。 所論は採用できない。 第4 元警察官事件等に関する事実誤認の控訴趣意について 1 罪となるべき事実の要旨及び論旨等⑴ 原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、被告人が、ア X10(乙組組員)及びX11(前同)と共謀の上、平成24年4月19日午前 0時過ぎ頃、北九州市g区内の団地で、原動機付自転車1台(時価約5000円相当)を窃取し(原判示第3の1。窃盗)、イ甲會総裁であるX12及び同會会長であるX13が、被害者である警察官(以下、第4では同人を「被害者」という。)にX12らの地位を知りながら軽んじる言動が現れたと捉え、これに銃撃等の加害で報いて甲會及びX12らの威勢や統制を保持する ため、退職後の被害者に対する加害行為を計画し、被告人が、X12、X13、甲會理事長兼乙組組長であるX14のほか、いずれも乙組組員であるX8、X7、X11、X10、X9、X15及びX16と共謀の上、X12の指揮命令に基づいて、あらかじめ定められた任務分担に従って、平成24年4月19日朝、北九州市g区内の路上で、X15が、当時61歳の被害者に対し、殺害に至ってもやむを得ないとする殺意を持 の上、X12の指揮命令に基づいて、あらかじめ定められた任務分担に従って、平成24年4月19日朝、北九州市g区内の路上で、X15が、当時61歳の被害者に対し、殺害に至ってもやむを得ないとする殺意を持って、自動 装てん式拳銃(以下、第4ではこの拳銃を「本件拳銃」という。)で弾丸2発を発射し、その左腰部及び左大腿部に1発ずつ命中させたが、約1か月間の入院及び通院加療を要する左股関節内異物残留、左大腿部銃創を負わせるにとどまり、また、先の発射行為の後、本件拳銃で、地面に向けて弾丸1発を発射し(原判示第3の2(1)。 組織的殺人未遂、組織的拳銃発射)、その際、本件拳銃1丁を適合実包3発と共に携 帯所持し、もって団体の活動として組織により拳銃加重所持の違反行為をした(原判示第3の2(2)。組織的拳銃加重所持)、というものである。 ⑵ 論旨は、実行犯及び被告人の殺意を認めた点並びに原判示の各共犯者との共謀を認めた点で、原判決には誤りがある、というものである。 ⑶ そこで検討するに、これらを認めた原判決の判断は、論理則、経験則等に照 らして不合理な点はなく、是認することができる。以下、所論に鑑み説明する。 2 実行犯及び被告人の殺意について⑴ 原判決の判断原判決は、概要、以下のとおり説示して、実行犯及び被告人の未必的な殺意を認定した。 実行犯であるX15は、X15から見てやや下り坂となっている地点で、停車した原 動機付自転車にまたがった姿勢で、約1m余りの距離から、向かい合うように進んできて左側を通り抜ける被害者に銃口を向け、上半身を約90度ひねって、2発の連続発射に及んだ。この態様に加え、反動の影響も踏まえれば、発射行為が身体の枢要部への命中を容認するものであったと認められる。X15は、海外の射撃場 害者に銃口を向け、上半身を約90度ひねって、2発の連続発射に及んだ。この態様に加え、反動の影響も踏まえれば、発射行為が身体の枢要部への命中を容認するものであったと認められる。X15は、海外の射撃場で拳銃を発射した経験はあるものの、不安定な体勢で、即座の逃走を意図した余裕のな い状況下になされた発射行為であり、かつ、2発目は1発目と比較してもより銃口が動くことが想定される中で連続発射に及んでいるのだから、枢要部以外への着弾に確実にとどめる意図であったなどとは解し難い。 X15への指示者である被告人は、足に向けて2発発射するか、それが無理なら地面に向けて2発発射し、絶対に殺さないようX15に指示したと供述し、X15も同様 に供述しているが、不安定な態様で発射が行われることを見通し、かつ、連続する2発の発射を指示しているのだから、反動により弾道がずれて枢要部へ命中することもやはり是認していたと認められる。 ⑵ 当裁判所の判断ア所論は、被告人は、①犯行用具に敢えて殺傷力の弱い口径の小さな拳銃を選 び、②実行犯のX15に対しては、「足を狙って2発撃て。」「それが無理なら地面に2発撃て。」「絶対殺したらつまらんぞ。」と指示し、ももを狙いたいとのX15の提案に対しても明示の了承をせず、X15も、③被告人の指示を守って拳銃を下に向けて発射しているから、被告人にもX15にも殺意はなかった、④X15は拳銃の扱いに慣れており、停車中の、しかも車高の低い原付にまたがった体勢で発射したからといっ て狙いを外すものではなく、上半身を避けて狙いどおりの場所に命中させたもので ある、という。 イそこで、①の拳銃の点についてみるに、確かに本件拳銃は比較的小型である上、より口径の大きい拳銃と比較すれば殺傷力に劣るといえ けて狙いどおりの場所に命中させたもので ある、という。 イそこで、①の拳銃の点についてみるに、確かに本件拳銃は比較的小型である上、より口径の大きい拳銃と比較すれば殺傷力に劣るといえる。しかし、原判決も説示するとおり、本件拳銃が弾丸で肉体を貫くなどし、血管や臓器等に重大な損傷を負わせ得る、十分な殺傷力をもった凶器であることに変わりはない。また、本件 発射行為の態様に関する③④について見ると、原判決の説示する発射体勢は、静止した的に対する射撃訓練等でのそれと大きく異なる不安定なものというほかなく、その状態での連続発射を前提としている以上、本件発射行為は、その狙い自体は大腿部であったとしても、反動等により弾道がずれて身体の枢要部へ命中し、臓器等を損傷する可能性を想定し得る危険な行為であったといえる。本件発射行為が身体 の枢要部以外への着弾に確実にとどめようとする意図によるものではなかった、との原判決の評価は正当であり、かつ、銃撃行為について実行犯の未必的な殺意を認めるには、それで足りる。なお、被害者が着用していた背広上着左側面の破孔の一つは裾から相当上に位置する腰ポケットフラップ部分に生じており、その命中位置は外形上も明らかに腰部付近であって、同所への銃撃は下腹部に所在する内臓等を 損傷する危険性を当然想定し得るものである。仮に所論指摘のとおりX15が高い技術を有し、狙いどおりの銃撃を果たしたというのであれば、腰部付近を狙ったより危険な発射行為であったことを示すのみであり、また、上半身さえ避ければ良いと考えていたのであれば、未必的な殺意の存在にはむしろ沿う認識である。 ウそして、本件発射行為の危険性を前提として、被告人の指示に関する所論② についてみる。被告人において、結果として被害者を死なせてしま あれば、未必的な殺意の存在にはむしろ沿う認識である。 ウそして、本件発射行為の危険性を前提として、被告人の指示に関する所論② についてみる。被告人において、結果として被害者を死なせてしまう可能性をも否定する意図で、地面への射撃でも良いという指示すらしたのであれば、枢要部に近い大腿部を狙うことをX15から提案されたのに明確な返事をしない、ということ自体が不自然である。被告人は、X15が大腿部を狙うことを了承したと認められるのであり、仮に被告人が併せて「殺したらつまらんぞ。」等と指示したとしても、それ は本件発射行為が被害者の殺害を目的としたものでないことを示すのみであるとい える。この点に関する被告人供述等を踏まえても被告人の未必的な殺意は否定されないとした原判決の判断に誤りはない。 エその他、所論は縷々主張するが、確定的な殺意の否定のみにつながる指摘等であり、採用できない。 3 各共犯者との共謀について ⑴ 所論は、原判決が元警察官事件の共犯者として認定する各関与者のうち被告人配下の組員について、被告人はそれぞれが負う役割以上のことは伝えず、各関与者も被告人に元警察官事件の全容を尋ねることはなかった、末端の者らが内容も説明されず計画を察知できるはずがない、として、共謀を肯定するに足る認識を否定するものである。そして、各関与者の共謀に関する原判決の認定過程について、関 与内容等に関し被告人や各関与者の供述を信用しながら、その認識等に関しては信用しないのは矛盾である、役割分担がスムーズに遂げられていることなどから各関与者の認識を肯定する推認過程は乱暴である、などとして論難する。 ⑵ しかし、原判決は、各人の関与内容についてはその供述が相互に、また事件の内容とも整合していることなどから疑いがな ことなどから各関与者の認識を肯定する推認過程は乱暴である、などとして論難する。 ⑵ しかし、原判決は、各人の関与内容についてはその供述が相互に、また事件の内容とも整合していることなどから疑いがないと判断した上で、組員らが役割分 担の上で関与させられる事案であること自体の認識に加え、若頭の指示に基づいて手間暇をかけて行動確認をする、又は合流場所に現れるX15をかくまうように運び、その使用車両を投棄する、などの各関与者の担当した役割に照らせば、重大な組織的行為への関与であると認識し得る、としている。そして、とりわけ末端の関与者は、事件の全体像を知らなかったと供述する点は共通する一方で、そのような行為 への関与であると察知していた旨を述べる者とこれを否定する者がいるが、前者の供述は上記の点に照らし自然であり、かつ、可能な限りの罪責軽減を図ろうとする者との間で供述態度の差が生じることは不合理でないから、内心に関する後者の供述は排斥し得る、と説示しているのである。 すなわち、原判決は、関与者らに全体像を知らされていない者がいることを前提 とした上で、各関与者の役割等に照らして未必的な認識が認定し得るかを検討し、 これを肯定し得る理由を、各人の供述の在り方も踏まえて説示しているのであるから、その供述の信用性判断に矛盾等は存在しない。そして、甲會組員としての稼働年数はいまだ短かったX16ですら、被害者の行動確認に従事した際、b3事件に関与した経験も踏まえて、被害者が最悪射殺されるのではないかとの認識はあったと供述しているのであるから、末端の関与者であっても重大な組織的行為への関与であ ると認識し得る、との推認は裏打ちされている。所論は採用できない。 第5 放火事件等に関する事実誤認の控訴趣意について 1 罪と あるから、末端の関与者であっても重大な組織的行為への関与であ ると認識し得る、との推認は裏打ちされている。所論は採用できない。 第5 放火事件等に関する事実誤認の控訴趣意について 1 罪となるべき事実の要旨及び論旨等⑴ 原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、被告人が、ア知人であるX17と共謀の上、平成24年8月13日頃、熊本市j区内の駐輪場 で、自動二輪車1台(時価約10万円相当)を窃取し(原判示第4の1(1)。窃盗)、イ乙組事務所がある北九州市h区内の、暴力団追放運動に賛同する者らが飲食店経営の拠点とするビルに放火することを企て、X14、X8のほか、①X18(乙組組員)、X19(前同)及びX20(前同)と共謀の上、平成24年8月14日、現に10名がいた同区所在のa3ビルにおいて、X18又はX20が、営業中の店舗のある同ビル3階 に停止していたエレベーター内に灯油をまいた上、火をつけた発炎筒を投げ込んで火を放ち、同エレベーターの天井及び開扉したエレベーター前の床面等に燃え移らせ、同エレベーターを全焼させるとともに3階エレベーター前床面の一部を焼損し(焼損面積合計約3.2㎡)(原判示第4の1(2)ア。現住建造物等放火)、②X10、X19及びX21(乙組組員)と共謀の上、同じ頃、現に人が住居に使用せず、か つ、現に人がいない同区所在のa4ビルにおいて、X21が、同ビル3階に停止していたエレベーター内に灯油をまいた上、X10が火をつけた発炎筒を同エレベーター内に投げ込んで火を放ち、エレベーター内壁等に燃え移らせ、同エレベーターを全焼させて焼損した(焼損面積約1.7㎡)(原判示第4の1(2)イ。非現住建造物等放火)、というものである。 ⑵ 論旨は、窃盗及び放火の各事実につき被告人の故意及び共謀を 、同エレベーターを全焼させて焼損した(焼損面積約1.7㎡)(原判示第4の1(2)イ。非現住建造物等放火)、というものである。 ⑵ 論旨は、窃盗及び放火の各事実につき被告人の故意及び共謀を認めた点で、 原判決には誤りがある、というものである。 ⑶ そこで検討するに、これらを認めた原判決の判断は、放火事件に関する説示に一部是認し得ない点があるものの、この点は被告人の故意及び共謀を認めた結論に影響せず、また、その余の点には論理則、経験則等に照らして不合理な点はないから、是認することができる。以下、所論に鑑み説明する。 2 窃盗に関する被告人の故意及び共謀について⑴ 原判決は、自動二輪車を実際に窃取して被告人に引き渡したX17の供述する、同人と被告人との関係性、自動二輪車の入手依頼及びその催促状況、車台番号を削るようにとの被告人の指示等を踏まえ、被告人に窃盗に関する故意及び共謀が認められると判断している。 ⑵ 所論は、上記X17供述について、①盗難車だと認識していれば被告人は代金を支払うのではなく、貸し付けていた50万円から減額する形で支払ったはずである、②X17は、その後、改名した上、多額の現金等を盗んだという罪で逮捕されるなどしている人間である、などと指摘して、信用できないという。 しかし、①は論理的な帰結といえず、②は供述者の悪性格を信用性判断に直結さ せようとするものでしかないから、いずれも主張自体失当である。通話履歴等の裏付けがあること等を踏まえてX17供述の信用性を認めた原判決に誤りはない。 3 放火に関する被告人の故意及び共謀について⑴ 原判決の判断被告人の故意及び共謀を認めた原判決の判断は、概要、以下のとおり整理できる。 放火事件は二か所で同時に放火を実現できる人員 3 放火に関する被告人の故意及び共謀について⑴ 原判決の判断被告人の故意及び共謀を認めた原判決の判断は、概要、以下のとおり整理できる。 放火事件は二か所で同時に放火を実現できる人員と物品の統制がなされており、その一環として、実行犯の速やかな臨場及び退去のために自動二輪車が用いられているが、放火事件発生の数時間前頃、X17が運んできた自動二輪車を被告人が受け取って入手し、X9が用意したナンバープレートを同自動二輪車に装着したこと、その後、同自動二輪車が最終的に海中に投棄されたことは、関係証拠から認められ る。不穏な態様で入手及び処分がなされている同自動二輪車は放火事件で用いられ たもので、被告人による同自動二輪車の入手も、放火事件に向けて意図的になされたと考えられる。 加えて、各放火の際、各ビル3階の飲食店店舗壁面に赤色スプレーによる落書きが残されているところ、X9は、被告人の指示で赤色スプレーを購入して準備した旨を、X7は被告人の指示で事後的に実行役の着衣等を処分した旨を供述してお り、いずれも信用できる。 被告人は、事前の準備及び事後の犯行関連物品の処分と、全体の統制に関わる関与をしているのであって、共謀等に疑問は生じない。 ⑵ 当裁判所の判断ア所論は、①赤色スプレーの購入はプラモデルの塗料として、これと共にX9に 購入を依頼したものであって、放火事件のために購入したものではない、②X7には引っ張り込みの危険があり、信用できない、と指摘し、更に、既に検討したX17供述が信用できないことも前提として、③結局、被告人はX17から自動二輪車を購入し、X8に譲渡しただけであるから、故意及び共謀を認定するのは不可能である、という。 イしかし、まず①の赤色スプレーについて、X9は、 提として、③結局、被告人はX17から自動二輪車を購入し、X8に譲渡しただけであるから、故意及び共謀を認定するのは不可能である、という。 イしかし、まず①の赤色スプレーについて、X9は、被告人から購入を指示されたのは同スプレーのみであり、プラモデルは自分が欲しくて購入したもので、途中まで組み立てた、などと供述しており、X9がこの点について虚偽の供述をする理由は見受けられず、また、放火事件の直前(平成24年8月13日午後1時過ぎ。)に被告人が私用で購入させた塗料が被告人の了解なく放火事件に用いられたとも考え 難い。X9供述の信用性を肯定し、赤色スプレーを購入させた点を被告人の関与の一つであると認めた原判決に誤りはない。 ウ他方、②のX7供述の信用性について見ると、放火事件への関与が服や荷物を燃やしたのみであるとするX7供述は、所論が指摘するとおり、自動二輪車の運転等についてはX8の後にX7からも頼まれたとするX10の供述及び「いたずらしてきて くれ。」とX7から言われたとするX21の供述と齟齬している。X21のみならず乙組 内丁組の組員であったX10の供述とも齟齬するX7の供述は、放火事件への関与状況に関しては容易に信用し難いから、その信用性を個別に検討せず他の関与者の供述と併せて肯定した原判決の判断は、不合理で是認できない。 エそこで、X7供述を前提とする部分を除いても被告人の故意及び共謀を認めた原判決の判断が是認し得るかにつき検討する。 ③の自動二輪車に関連する被告人の関与状況をみると、被告人は、盗難等によるであろうと認識しながら自動二輪車を調達させ、その車台番号を削らせ、別途用意させていたナンバープレートを装着させ、放火事件の用に供している。放火事件後の投棄が被告人の了承無しに可能であっ 難等によるであろうと認識しながら自動二輪車を調達させ、その車台番号を削らせ、別途用意させていたナンバープレートを装着させ、放火事件の用に供している。放火事件後の投棄が被告人の了承無しに可能であったとも考え難い。以上の点のみを踏まえても、組織的で重大な犯罪行為への関与であると被告人が認識していたことは強くう かがわれ、かつ、若頭たる被告人のこれら関与の程度が小さいとはいえない。加えて、赤色スプレーの点も考慮すれば、被告人の故意及び共謀に疑問は生じないとした原判決に誤りはない。 オその他、所論は縷々主張するが、以上の判断に影響し得るものは存在しない。 第6 b2事件に関する事実誤認の控訴趣意について 1 罪となるべき事実の要旨及び論旨等⑴ 原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、b2の経営者BにX14の地位を知りながら軽んじる言動が現れたと捉え、これに加害で報いることで乙組及びX14の威勢や統制を保持し、また、同店からいわゆるみかじめ料を徴収するなどして支配する乙組の権益を維持・拡大する目的で、被告人が、X14、いずれも乙組組員で あるX8、X6、X7、X18、X21及びX9と共謀の上、X14の指揮命令に基づいて、あらかじめ定められた任務分担に従って、平成24年9月7日午前零時58分頃、北九州市h区所在のマンション駐車場において、X18が、①退勤してタクシーを降車したB(当時35歳)に対し、殺害に至ってもやむを得ないとする殺意をもって、刃物で左顔面を1回切り付け、臀部を1回突き刺したが、入院加療約114日間を 要する左顔面切創、左顔面神経損傷、右臀部刺創等を負わせるにとどまり(原判示 第4の2(1)。組織的殺人未遂及び不正権益維持・拡大目的殺人未遂)、②その殺害を制止しようとする上記タクシ 要する左顔面切創、左顔面神経損傷、右臀部刺創等を負わせるにとどまり(原判示 第4の2(1)。組織的殺人未遂及び不正権益維持・拡大目的殺人未遂)、②その殺害を制止しようとする上記タクシー運転手C(当時40歳)に対し、同様の殺意をもって、上記刃物で左側頭部等を切り付けたが、入院加療約14日間を要する左側頭部・左耳介・左頚部切創等を負わせるにとどまった(原判示第4の2(2)。①と同じ)、というものである。 ⑵ 論旨は、実行犯の殺意を認めた点並びに被告人は人が傷つけられるという認識を欠いていたのに被告人の故意及び共謀を認めた点で、原判決には誤りがある、というものである。 ⑶ そこで検討するに、これらを認めた原判決の判断は、論理則、経験則等に照らして不合理な点はなく、是認することができる。以下、所論に鑑み説明する。 2 実行犯の殺意について所論は、Bに生じた傷は胸部や腹部等の身体の枢要部に生じたものではないし、顔面の傷も深く刺さることを避けたために生じたもので、生命に関わる部分には刺さっていないから、実行犯は意図的に枢要部を外したものであり、未必的な殺意は認められない、という。 しかし、Bの左顔面切創は、左側頭部(眉より更に頭頂部に近い髪の生え際)から左頬にかけて走る、長さ約20cm、深さ約5cmの傷で、左側頭骨の一部が損傷している、というものである。そして、Bの予想外の反応等によりそのような創傷が生じたとうかがわせる事情は特段ない。このような傷を生じさせたX18の行為について、重要な血管や神経が集まる部位を切り裂く可能性が非常に高いものであ るとする原判決の評価は正当であり、この点のみをみても、実行犯の未必的な殺意を認めた原判決の判断に誤りはない。 3 被告人の故意及び共謀について 部位を切り裂く可能性が非常に高いものであ るとする原判決の評価は正当であり、この点のみをみても、実行犯の未必的な殺意を認めた原判決の判断に誤りはない。 3 被告人の故意及び共謀について⑴ 原判決の判断被告人の故意及び共謀を認めた原判決の判断は、概要、以下のとおり整理できる。 被告人が、平成24年8月下旬頃にX17から四輪自動車(以下「本件自動車」と いう。)を入手し、丁組の事務所駐車場に保管させた後、b2事件当日、X9に指示してBの自宅から約510m先の駐車場に移動させたこと、b2事件の発生後、X9及びX11に指示して本件自動車を投棄させたことについては、被告人の供述を含めた関係証拠から認められるところ、b2事件発生に近接した日時に不穏な入手及び処分がなされていることに照らせば、本件自動車は本件に用いられたと考えられ、また、 車両の移動に係る被告人の指示は、b2事件に向けて意図的になされたものであると考えられる。 加えて、X7、X9、X17らは、本件自動車の入手は被告人がX17に依頼して調達させたもので、また、被告人が、X9に指示して別途用意のナンバープレートを本件自動車に装着させたこと、X7に指示して特定の場所に待機させ、同所で着衣や刃物 を受け取って処分させたことを供述しており、これらの供述は信用できる。 被告人は、やはり事前の準備及び事後の犯行関連物品の処分に関与しているのであるから、共謀等に疑問は生じない。 ⑵ 当裁判所の判断ア所論は、①b2事件で用いられた本件自動車は、X17から売り込まれて被告人 が購入した自動車の1台であって本件のために調達したわけではない、関連するX17供述は信用できない、②被告人の指示で待機し、また、実行犯の着衣や刃物の処分をさせた、と から売り込まれて被告人 が購入した自動車の1台であって本件のために調達したわけではない、関連するX17供述は信用できない、②被告人の指示で待機し、また、実行犯の着衣や刃物の処分をさせた、とするX7の供述は信用できない、と指摘した上で、③被告人は本件自動車がb2事件に用いられるなど知る由もなく、被告人の関与内容からその故意及び共謀は認定し得ない、という。 イしかし、まず①の本件自動車の調達場面をみると、X17は、平成24年8月終わり頃に調達を被告人から依頼され、催促されるなど急いでいる様子もあったので、すぐに動ける知人に頼んで盗難車を用意してもらったこと、被告人からは車台番号を分からなくするよう依頼があり、パテで隠したこと、指示された場所(丁組の事務所駐車場)に本件自動車を搬入したこと、などを供述している。所論がX17 供述の信用性について指摘するのは上記第5の2で論じたX17の悪性格の点のみで あるところ、X17に虚偽供述の動機等はうかがえず、原判決がX17の供述する経過を前提としている点は正当である。そして、その経過に照らせば、本件自動車の調達が近い時期の犯罪行為における利用を想定したものであったこともまた明らかである。 ウ次に、②のX7供述についてみると、所論は、物品処分につき被告人から指示 されたとするX7供述には裏付けとなる証拠が存在しないところ、他の事件に関するX7の供述態度等も踏まえればX7には引っ張り込みの危険があり、信用性を欠く、という。 しかし、この点に関するX7供述は、b2事件の約1週間前に、荷物を預かって捨ててほしいと被告人から依頼され、さらにb2事件当日(平成24年9月7日)に日付 がかわる夜間に、被告人から「今日荷物取り行ってくれ。」と言われて、事前に頼ん の約1週間前に、荷物を預かって捨ててほしいと被告人から依頼され、さらにb2事件当日(平成24年9月7日)に日付 がかわる夜間に、被告人から「今日荷物取り行ってくれ。」と言われて、事前に頼んでいたX23に自動車を借りる旨を連絡した、というものであるところ、このX7供述は、平成24年9月6日午後9時33分頃に被告人がX7に発信し、同日午後9時36分頃にX7がX23に発信したという電話履歴により裏付けられている。他方、放火事件と異なり、b2事件への関与状況に関するX7供述の信用性に疑問を生じさせる具 体的な事情は特段見当たらない。この点についてX7供述を前提とした原判決の判断に誤りはない。 なお、所論は、本件自動車の保管場所が丁組事務所の駐車場となったのはX7の申し出があったからであるともいうが、この点は何ら故意及び共謀の認定に影響しない。 エ以上を前提に、被告人の故意及び共謀の認定に関する所論③を検討する。 本件自動車の調達状況、その移動及び投棄の指示並びに別途用意のナンバープレートを装着させたこと、本件自動車をBの自宅近くに移動させるに先立ちX9にプリペイド式携帯電話機を渡し、連絡と移動後の同携帯電話機の投棄を指示したことに照らせば、本件自動車に絡む関与状況のみを見ても、本件自動車が組織的で重大な 犯罪行為に用いられると被告人は認識していたことが強くうかがわれ、かつ、その 関与の程度が小さいとはいえない。加えて、X7に対する物品処分指示の点も考慮すれば、被告人の故意及び共謀に疑問は生じないとした原判決に誤りはない。 オ所論はその他縷々主張するが、その内容自体から被告人の故意及び共謀の認定判断に影響し得ないものであり、採用できない。 第7 看護師事件に関する事実誤認の控訴趣意について りはない。 オ所論はその他縷々主張するが、その内容自体から被告人の故意及び共謀の認定判断に影響し得ないものであり、採用できない。 第7 看護師事件に関する事実誤認の控訴趣意について 1 罪となるべき事実の要旨及び論旨等⑴ 原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、X12が通うクリニックでその施術を担当していた看護師(以下、第7では同人を「被害者」という。)にX12の地位を知りながら軽んじる言動が現れたと捉え、これに加害で報いることで甲會及びX12の威勢や統制を保持する活動として、X12の意思決定の下、被害者に対する加 害行為が企てられ、被告人が、X12、X13、X14、甲會丙組組長であるX1、いずれも乙組組員であるX7、X8、X15、X21、X18、X4及びX22と共謀の上、X12の指揮命令に基づいて、あらかじめ定められた任務分担に従って、平成25年1月28日午後7時4分頃、福岡市i区内の路上で、X22が、当時45歳の被害者に対し、殺害に至ってもやむを得ないとする殺意をもって、刃物で左側頭部辺りを目掛けて突 き刺すなどしたが、約3週間の入院及び通院加療を要する左眉毛びもう上部刺切創、顔面神経損傷等を負わせるにとどまった(原判示第5。組織的殺人未遂)、というものである。 ⑵ 論旨は、被告人の故意及び共謀を認めた点で原判決には誤りがある、というものである。ただし、故意に関する所論は存在しない。 ⑶ そこで検討するに、被告人の故意及び共謀を認めた原判決の判断は、論理則、経験則等に照らして不合理な点はなく、是認することができる。以下、所論に鑑み説明する。 2 原判決の判断被告人の故意及び共謀を認めた原判決の判断は、概要、以下のとおりである。 看護師事件は、乙組組員による行動確認で 、是認することができる。以下、所論に鑑み説明する。 2 原判決の判断被告人の故意及び共謀を認めた原判決の判断は、概要、以下のとおりである。 看護師事件は、乙組組員による行動確認で得られた情報が実行役であるX22に伝 えられ、被害者と動きを合わせて現場に臨むことが可能な仕組みの下で実行されている。被告人は、事件に先立ち、女性を襲う計画が存在し、X8が指示役であることを把握し、さらに、平成25年1月22日(看護師事件発生の6日前)、X8に対し、襲う対象の顔を実行役に事前に直接見せるよう助言したことを認めているが、この点のみを見ても、対象者と面識の無い者が実行役を担当するなどの計画の構造を把 握した上で、X8より上位の若頭の立場から具体的な助言をしたものであるから、X8が既に顔見せを検討しており、かつ、その顔見せが実現しなかったとしても、被告人は十分な寄与をしたといえる。 加えて、X7は、被告人から、平成25年1月中旬頃、あらかじめ、特定の場所で落ち合う相手から使用車両を引き取って別の場所へ移動させ、着衣等の荷物を受け 取って捨てることなどを指示され、その関係場所に案内されたと供述している。X7の供述は、被告人から指示されて看護師事件に深く関与する予定であったが、被告人が不在中に、現場指揮役であるX8に申し出て関与の取り止めに応じてもらった、というものであるから、被告人が平成25年1月23日に別件で逮捕され、看護師事件後の同年2月1日まで勾留されていたとの事実経過とも整合しており、信用で きる。 3 当裁判所の判断⑴ 所論は、被告人がX7に対して車両の手配や事後の物品の処分を指示したとするX7供述の信用性を肯定した原判決の認定判断は誤りであるとし、以下のとおり、信用性肯定の根拠に関する 当裁判所の判断⑴ 所論は、被告人がX7に対して車両の手配や事後の物品の処分を指示したとするX7供述の信用性を肯定した原判決の認定判断は誤りであるとし、以下のとおり、信用性肯定の根拠に関する原判決の説示は不合理である上、当該指示場面に関する X7供述の不自然性を適切に考慮できていない、という。 アまず所論は、X7が上位者である被告人から関与を指示されていたのであれば、その一部取り止めをX8に申し出るのは不自然であるし、X7はX8より上位であって、より上位の者に申し出てX8にはその報告をすれば良いだけであるから、その供述する経緯が事実経過と整合的であるとの原判決の評価は誤りである、という。 しかし、X8が看護師事件の全体的な指揮役であったこと、看護師事件における襲 撃の試みは被告人逮捕後に3回あり、3回目で実行に至ったものであるところ、1回目の際はX7が実行役らの集合現場で種々の対応をしていたが消極的な態度を見せており、2回目以降はX7の代わりにX8が集合現場での対応もしていたことは、明らかに認められる。そして、X7にとって自身より下位であるX8が指揮役を務める看護師事件において、X7は、上位者である被告人の指示があったからこそ現場対応 も含む重要な役割を担うことになり、しかし、途中で嫌気がさし、被告人が身柄拘束されていて下位のX8が了承するだけでその役割を回避できる状況であったことから、X8に申し出た、というのは、X7の立場において自然な行動及び心情といえる。 X7の供述が事実経過に整合するとの原判決の評価は正当である。 イ次に所論は、被告人の指示場面に関するX7供述について、X7が被告人から 指示を受けたとするよりも前であろう時期に、X7に対して看護師事件の関与につき具体的に依頼した旨 は正当である。 イ次に所論は、被告人の指示場面に関するX7供述について、X7が被告人から 指示を受けたとするよりも前であろう時期に、X7に対して看護師事件の関与につき具体的に依頼した旨をX8が供述しているから、被告人の指示がその後にあったことになるX7供述は不自然である、という。 しかし、X8は、被害者との面識はなく名前も知らなかったと述べるなど、看護師事件が自身の発案によるものでないことは前提としながら、自身に指揮を命じた上 位者の存在やその指示の在り方について全く説明していないのであって、上位者を庇う様子が明らかである。序列が上のX7に対し、集合場所での対応を含む重要な関与をX8が独断で依頼し得るとは容易に考え難いことも踏まえれば、X7に対する依頼を自分が行ったとするX8の供述が信用し難いから、所論は前提を欠く。 ウその他、所論はX7供述の不自然性について縷々主張するが、いずれもその主 張のみを検討しても不自然とは言い難いものであり、採用できない。 ⑵ 所論は、上記X7供述が信用できないことを前提として、看護師事件への被告人の関与は自身の逮捕前のX8に対する「実行役に直接顔を見せておいた方が良い。」という助言のみであり、かつ、その助言に従っての顔見せは実現しておらず、因果的な影響力は皆無であったから、看護師事件時身柄拘束中であった被告人の共謀は 認められない、という。 しかし、上記のとおりX7供述の信用性は否定されないから、所論は前提を異にする。また、被害者の顔見せに関する助言も、被告人からX8に電話をかけ、実行役に顔を見せておきたいが、行動確認役と実行役が顔を合わせない方がいい、などと告げ、「(被害者には)特徴がですね、結構あるんですよ。」と顔見せの必要性に疑問を示すX8に対 からX8に電話をかけ、実行役に顔を見せておきたいが、行動確認役と実行役が顔を合わせない方がいい、などと告げ、「(被害者には)特徴がですね、結構あるんですよ。」と顔見せの必要性に疑問を示すX8に対し、本人達が見るのとでは大きく違う、と述べるなどする積極的なもの である。そして、その顔見せは、試みられた上で被害者が休みであったため失敗したに過ぎない。顔見せに絡む事情のみを考慮しても被告人の関与は共謀を認めるに足りるとする原判決の評価も正当であり、顔見せが実現しなかったことは、この結論に影響しない。所論は採用できない。 ⑶ その他、所論は、共謀の成否について縷々主張するが、根拠に乏しいもの等 であり、採用できない。 第8 量刑不当の控訴趣意について論旨は、被告人を無期懲役に処した原判決の量刑は重過ぎて不当である、というものである。 原判決は、その「量刑の理由」において、一般市民らを被害者とし、拳銃を用い た殺人既遂や組織的犯罪を多数含む本件各事案について、組織の独善的な思考に基づき計画的に行われ、重大な法益侵害の結果を招いた反社会的犯行の連続であり、秩序に背いた程度が非常に大きい、と指摘する。そして、拳銃発射等を伴う殺人未遂1件で実行役を務め、また、それ以外の事件でも、要職たる若頭の立場で計画を統率し又は重要な関与を果たした被告人の責任は大きいとし、被告人が被害者の一 部に謝罪の意を表し、作業報奨金として得た14万円余りで弁償したことなどを踏まえても、法律が許容する上限近くの刑の選択が相当であると説示し、被告人を無期懲役に処した。 以上の説示に誤りはなく、原判決の量刑が重過ぎて不当であるとはいえない。 所論は、その犯情面について種々の点を述べるが、基本的には故意(殺意)又は 共謀等を欠くとの主張におい 懲役に処した。 以上の説示に誤りはなく、原判決の量刑が重過ぎて不当であるとはいえない。 所論は、その犯情面について種々の点を述べるが、基本的には故意(殺意)又は 共謀等を欠くとの主張において根拠とした事情を重ねて主張するものであるから、 前提と評価を異にする。また、傷害罪の成立に争いのないb1事件も含めて、この程度の犯行で済んだのは抑制的な被告人の姿勢があったからである、とも主張するが、実行された犯罪を前提としてなされた原判決の量刑判断の正当性を左右しない。 さらに、所論は、上記作業報奨金による弁償が正当に考慮されていないというが、この点を考慮してもなお無期懲役が相当であるとする原判決の評価は正当である。 第9 結論 1 事実誤認及び量刑不当の論旨はいずれも理由がない。 2 なお、原判決は、その「法令の適用」において、原判示第3の2(元警察官事件)の⑴の組織的拳銃発射と組織的殺人未遂について、刑法54条1項前段、10条により1罪として重い組織的殺人未遂罪の刑で処断しているが、組織的拳銃発 射罪(令和3年改正前のもの)については罰金刑の任意的併科が定められている一方で、組織的殺人未遂罪の法定刑に罰金併科はないのであるから、組織的殺人未遂罪の刑のみで処断するのは誤りであり、「ただし、罰金刑の任意的併科については、組織的拳銃発射罪について定めたそれによる。」などと摘示すべきであった。ただし、原判決が、やはり罰金併科が可能な原判示第3の2⑵の組織的拳銃加重所持罪(同 上)について懲役刑のみを選択していることも踏まえれば、原判決は元警察官事件の犯情に照らし罰金併科を要しないと判断したものと解されるから、この点の誤りは判決に影響を及ぼさない。 3 以上のとおりであるから、刑訴法396条、刑法21条により、主 えれば、原判決は元警察官事件の犯情に照らし罰金併科を要しないと判断したものと解されるから、この点の誤りは判決に影響を及ぼさない。3 以上のとおりであるから、刑訴法396条、刑法21条により、主文のとおり判決する。 主文 令和7年3月19日福岡高等裁判所第3刑事部 裁判長裁判官市川太志 裁判官高橋明宏 裁判官関洋太

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