平成16(ワ)25080 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成21年3月30日 東京地方裁判所 棄却
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判決文本文43,969 文字)

平成21年3月30日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成16年(ワ)第25080号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成21年1月26日判決主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求被告は,原告に対し,8513万6741円及びこれに対する平成18年4月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,被告が開設する医療法人社団A病院(以下「被告病院」という。)において,承継前原告B(以下「亡B」という。)が乳房温存術による乳がん摘出手術を受けた後死亡したのは,被告病院の医師らが,同手術時に適切にリンパ節の郭清を行うべきであったにもかかわらずこれを怠り,また,同手術後に放射線治療及び化学療法による治療を行うべきであったにもかかわらずこれらを怠ったためであるとして,亡Bの夫である原告が,被告に対し,診療契約上の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を請求した事案である。 亡Bは,本件提訴後に死亡したため,亡Bの夫である原告が本件訴訟を承継した。 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1)当事者ア亡Bは,昭和33年に出生した女性であり,原告は,亡Bの夫であって,亡Bの唯一の相続人である(弁論の全趣旨)。 イ被告は,東京都内に被告病院を開設する医療法人であり,C医師は,平成13年ないし平成14年当時,被告病院の院長であった(争いがない)。 (2)診療経過ア亡Bは,平成12年11月ころから右乳房にしこりを自覚していたところ,平成13年2月5日,右乳房の腫瘤が少し増大した気がするとして被告病院を受診し,同日,マンモグラフィ検査,超音波検査等の検査を受け, は,平成12年11月ころから右乳房にしこりを自覚していたところ,平成13年2月5日,右乳房の腫瘤が少し増大した気がするとして被告病院を受診し,同日,マンモグラフィ検査,超音波検査等の検査を受け,右乳房部の腫瘤について経過を観察することとされた(乙A1・2頁,A3・8頁)。 イ亡Bは,平成13年5月7日,再度被告病院を受診し,C医師に対し,右乳房のしこりが大きくなったと話した(乙A1・2,3頁)。 C医師は,超音波検査を実施したところ,腫瘍の増大が著しく,内部エコーのレベルもやや高かったことから,穿刺吸引細胞診を実施し,亡Bの両側乳房に核・細胞質比の増大,多形,不整重積,核小体の顕在化などの見られる中型異型細胞の集塊が見られたため,悪性細胞を疑い,同年6月3日以降に生検を行うこととした(甲A3・11頁,乙A1・3,4頁)。 ウ亡Bは,平成13年6月13日から翌14日までの間,被告病院に入院し,右乳房,頚部の2か所の腫瘤を摘出し,検査を行った(乙A3・2頁)。検査の結果,亡Bは右乳房の浸潤性腺管がんであると疑われた(乙A3・10頁)。 エ亡Bは,平成13年6月29日,被告病院に入院し,右乳房について,温存術及び腋窩リンパ節郭清を受け(以下「本件温存手術」という。),左乳房について乳腺腫瘤の摘出を受けた(争いがない。)。 亡Bは,手術後,左乳房の腫瘤が良性であること,リンパ節に転移はないことを告げられた(争いがない。)。 被告病院では,平成13年7月2日から右乳房についてホルモン療法,化学療法を開始し,亡Bは,同月7日,被告病院を退院した(乙A1・7 頁)。 オ亡Bは,その後も継続的に被告病院を受診していたが,平成13年12月10日,被告病院を受診し,乳房部の触診及びエコー検査を受けたところ,腫瘤が発見された(乙A1・11頁)。そこ ・7 頁)。 オ亡Bは,その後も継続的に被告病院を受診していたが,平成13年12月10日,被告病院を受診し,乳房部の触診及びエコー検査を受けたところ,腫瘤が発見された(乙A1・11頁)。そこで,被告病院では,同月26日,追加的に腫瘤の切除手術を行った(以下「本件追加手術」という。)(乙A5・8,9頁)。 カ亡Bは,平成14年5月20日,被告病院を受診し,触診により右乳房の手術創の乳頭側にしこりを発見され,穿刺吸引細胞診及びエコー検査を実施され,クラスⅤと診断された(乙A2・6,7頁)。 キ亡Bは,平成14年5月28日から,D病院(以下「D」という。)への受診を開始し,同年6月5日,被告病院において撮影されたCT画像について同病院呼吸器科の診察を受けたところ,同科では,右肺に結節が認められた(甲A3・12,13,19頁)。 また,亡Bは,同月19日,Dにおいて乳房部の細胞診を受けたところ,クラスⅤで転移性の乳がんであると診断された(甲A3・15頁)。治療方針について検討した結果,ホルモン療法又は化学療法を実施し,その後乳房切除術,肺切除術を施行する方法が選択された(甲A3・15頁)。 ク亡Bは,平成14年7月ころからE病院の受診を開始し,同年10月17日,乳房の全摘出をするとともに,肺について化学療法を開始し,その後の平成16年11月26日,右肺腫瘍摘出術を受けた(乙A13・2頁,A15,A26・1頁)。 ケ亡Bは,平成17年3月ころ,E病院において肝がんを指摘され,その後,脳転移,両腎転移等が確認され,治療が継続されたが,同年8月22日,同病院において死亡した(甲A4,乙A20ないし25)。 コその余の診療経過については,別紙1・診療経過一覧表(被告病院)(なお,診療経過内容に登場する「原告」は亡Bを指す。),別紙2・診 日,同病院において死亡した(甲A4,乙A20ないし25)。 コその余の診療経過については,別紙1・診療経過一覧表(被告病院)(なお,診療経過内容に登場する「原告」は亡Bを指す。),別紙2・診 療経過一覧表(D),別紙3・E病院診療経過各記載のとおりである(当事者間に争いがある部分を除く。)。 争点及びこれに対する当事者の主張(1)放射線療法施行義務違反(原告の主張)ア乳房温存療法の補助療法としての放射線治療に関する知見乳がんの発生した乳房には,腫瘤として触れる病巣以外に,顕微鏡的に小さながん巣が多発していることが多い。そして,乳房温存療法においては,完全ながん細胞の切除は不可能であるため,仮に断端にがんがない(陰性)と判定された場合であっても,放射線照射を加えることで微細ながん細胞をコントロールする必要がある。 さらに,乳房温存手術後,温存乳房内再発の最大の高危険因子の一つとして術後放射線非照射が挙げられており,放射線照射は,乳房内がん再発の防止に有効とされている。そこで,浸潤がんの温存手術後の補助療法においては,放射線照射を行うことが原則とされている。例えば,乳房温存療法における手術術式に対応した乳房照射法ガイドライン(甲B9)は,平成10年5月段階で,すべての乳房温存手術例に対して乳房照射を行うことが望ましいが,永久標本において連続切片の検索で断端が陰性の場合等には,照射適応としないこともあり得るとし,乳房温存療法ガイドライン(1999)(甲B8,B24)は,「永久標本において,連続全割切片の詳細な病理検索により断端陰性が保証され,残存乳房にがんの遺残がないと判断された場合には残存乳房の照射を省略できる可能性がある」とするなど,放射線照射を省略できる場合を極めて限定している。 イ乳房温存療法の補助療法としての 性が保証され,残存乳房にがんの遺残がないと判断された場合には残存乳房の照射を省略できる可能性がある」とするなど,放射線照射を省略できる場合を極めて限定している。 イ乳房温存療法の補助療法としての放射線治療に関する注意義務以上のとおり,乳房温存療法の補助療法としては,放射線療法を実施することが原則であって,放射線照射を必要としない症例と同定するために は,切除組織自体が正確な鑑別を行うに値するコンディションで切出し保存されていることを大前提とし,その上で断端切除について厳格かつ正確な観察が行われなければならず,これが遺漏なく行われて初めて放射線照射が不要とされるのであって,そのような条件がない場合には,放射線照射を行うことができない特段の事情がない限り,乳房温存手術の補助療法として放射線照射療法を行うことが標準の治療プロセスになるというべきである。 ウ注意義務違反被告病院の医師は,本件温存手術において,微細ながんが残存する可能性のある部分である(右側の)乳腺を可能な限り残存させていたのであるから,同部分を温存する術式を選択したことによって,同部位に乳がん再発の可能性があると認識すべきであった。 また,被告が本件温存手術の際に保存していた組織標本は,断端が不明瞭で,浸潤や転移ないしその危険性を鑑別するための資料としては極めて不十分なものであった。 したがって,被告病院の医師は,断端が不明瞭であることを前提として,本件温存手術の術後の補助療法として,乳がんの再発を防止するための放射線治療を実施すべきであったにもかかわらず,断端面が不十分な標本であることを認識せず,又は標本としての価値の判断を誤ったまま,断端陰性と認定して放射線療法が不要であると判断し,放射線療法を実施しなかった。 (被告の主張)ア乳房温存療法の補助療法としての 本であることを認識せず,又は標本としての価値の判断を誤ったまま,断端陰性と認定して放射線療法が不要であると判断し,放射線療法を実施しなかった。 (被告の主張)ア乳房温存療法の補助療法としての放射線治療に関する知見(ア)乳房温存療法とは,乳頭,乳輪を温存し,乳腺部分切除と腋窩の郭清を行う術式であると定義されており,そもそも放射線療法が必須の要件となる療法ではない。 また,放射線療法の統計についても,残存乳房内照射が乳房内再発を抑制する上で有用ではあるが,照射効果の統計学的生存率に対する寄与は明らかではないと指摘されている。そして,切除方法として,触診にて明らかながん遺残がないような腫瘍摘出術を選択した場合,術後照射は必要であると一般的に考えられているが,腫瘍辺縁よりfreemarginを設定し,乳頭を中心に乳房・乳腺組織を扇状に切除する,乳房扇状部分切除術によって腫瘍が完全に切除されている可能性が高いと考えられるときは,必ずしも術後放射線治療は必要ではないとされている。 (イ)放射線療法によってがんの転移や生存率に有意差を認めないことについては,乳癌診療ガイドライン2005年版(乙B8)をはじめ,他にも様々な文献等において指摘されているところであって,放射線照射は乳房内再発の防止に100パーセント有効とされているわけではない。 また,術後非照射が温存乳房内再発の唯一の高危険因子とされているわけではない上,術後の放射線照射にがんの転移予防としての意味合いはなく,生存率向上につながるというエビデンスも存在しない。 イ注意義務違反について放射線照射による補助療法については,上記のとおり,局所再発には効果があるものの,転移については効果がないものとされている知見を踏まえ,さらに,リンパ節転移の有無,選択された乳房切除の方法・範 いて放射線照射による補助療法については,上記のとおり,局所再発には効果があるものの,転移については効果がないものとされている知見を踏まえ,さらに,リンパ節転移の有無,選択された乳房切除の方法・範囲等を考慮に入れ,放射線照射による費用と,身体に対する新たな侵襲によるQOLの低下というマイナス面を十分考察の上で,術後の照射の要否が決定されなければならない。 本件において行われたのは乳房扇状部分切除であるところ,乳房温存術の術式としては最も広範囲に切除する方法である90度角での乳房扇形切除を行っていること,リンパ節転移陰性症例であることから,被告病院は,亡BのQOLを極力阻害せず,過分の費用・手間をかけないというメリッ トを最大限考慮して,放射線照射を行わなかったものであり,この判断には合理性がある。切除断端が陰性で臨床的に腋窩リンパ節も陰性であったことからしても,被告病院に放射線療法施行義務違反はない。 (2)十分な化学療法(補助療法)を行うべき注意義務違反(原告の主張)ア補助療法としての化学療法原発乳がんの補助療法としての化学療法については,長らくCMFが標準的治療とされてきたが,徐々にCAFに移行しつつあるとされている。 CMFとは,シクロフォスファミド(cyclophosphamide)100mg/body,day1~14メトトレキサート(methotrexate)40mg/㎡,day1,8フルオロウラシル(5-fluorouracil)500mg/㎡,day1,8を指す(甲B13)。 イ注意義務違反被告病院の医師は,亡Bにつきホルモン受容体(ホルモンレセプター)を検査しておらず(甲A3・20頁),亡Bのホルモン受容体が陰性でハイリスクの患者であるとの認識すら持っていなかった。 それゆえ被告病院の医師は,乳房温存 Bにつきホルモン受容体(ホルモンレセプター)を検査しておらず(甲A3・20頁),亡Bのホルモン受容体が陰性でハイリスクの患者であるとの認識すら持っていなかった。 それゆえ被告病院の医師は,乳房温存療法を選択しながら,漫然と単一化学療法とホルモン療法を施行し,しかも,化学療法としてはフルツロン(F)(抗がん剤)のみを使用しており,標準的治療とされている治療すら行わず,その一部を行っていなかったのであるから,十分な化学療法を行うべき注意義務に違反したものである。 (被告の主張)ア本件における亡Bの乳がんは,リンパ節転移陰性乳がん(n0乳がん)であった。このようなリンパ節転移陰性乳がんにおいては,リンパ節転移陽性乳がんにおける詳細かつ広範なプロトコルは当てはまらないのであっ て,リンパ節転移陽性乳がんであることを前提とした主張には理由がない。 また,原告は,リンパ節転移陰性乳がんに対するハイリスク群なる概念を持ちだし,本件がこのハイリスク群に該当するので,十分な補助療法を施行する必要があると抽象的に主張するが,原告の主張の前提となっているものは,欧米における意見であり,生活習慣,食文化等が異なる我が国にそのまま妥当するものではない。 イ本件温存手術時においては,亡Bにつきホルモンレセプターは不明であり,この場合,陽性と同列に,あるいはホルモン反応性不明瞭として扱うこととなるから,ホルモン療法を行うことは当時の臨床的に妥当な判断であった(なお,後のDでの検査結果(ホルモンレセプターすべて陰性)は必ずしも正しくない可能性もある。)。そして,リュープリンとCMF療法(6サイクル)とでは,再発率で同等,生存率はリュープリンの方が有意差をもって改善するとされている。また,リュープリンは,臨床効果としてはゴセレリン(ゾラデックス)と同一の効力を プリンとCMF療法(6サイクル)とでは,再発率で同等,生存率はリュープリンの方が有意差をもって改善するとされている。また,リュープリンは,臨床効果としてはゴセレリン(ゾラデックス)と同一の効力を持つものと考えられるところ,ゴセレリン(2年間)とCMF療法(6サイクル)とでは,再発率・生存率に有意差は認められないが,本件で内服していたタモキシフェン(ノルバデックス)と併せると,ゴセレリン(2年間)+タモキシフェン(5年間)の方が,CMF療法(6サイクル)よりも再発率・生存率が有意差をもって改善するとされている。一般的に,抗がん剤の治療よりもホルモン療法の方が忍容性に優れ,QOLを良好に保つといえることからしても,本件においてホルモン療法を行ったことは妥当であった。 ウまた,CMF療法(6サイクル)とフルツロンと同じ経口抗がん剤であるUFT+タモキシフェン(2年間)とでは,同等の効果でUFT投与群に良好なQOLを保つ結果となった比較試験があること,フルツロンは,転移再発乳がんでは36パーセントの奏功率を示し,乳がん治療薬の適応を受けていることから,本件でフルツロンを使用したことには妥当性があ る。 エしたがって,被告病院に,十分な化学療法(補助療法)を行うべき注意義務違反はない。 (3)リンパ節郭清を適切に行うべき注意義務違反(原告の主張)アリンパ節郭清に関する知見乳ガンの診断・治療ガイドライン(甲B12)によれば,正確な病期の決定や,腋窩再発の減少のためには,レベル1及び2のリンパ節は切除されるべきであるとされる。 そして,レベル1及び2のリンパ節郭清においては10個以上のリンパ節が切除され(甲B19ないし21),97パーセントの症例において正確に乳がんの病期を決定することができるとされる。 したがって,被告病院の医師は ル1及び2のリンパ節郭清においては10個以上のリンパ節が切除され(甲B19ないし21),97パーセントの症例において正確に乳がんの病期を決定することができるとされる。 したがって,被告病院の医師は,本件温存手術においてリンパ節を郭清する際には,上記のとおり,相当数の検体を病理に提出した上でリンパ節転移の有無を判断すべきであった。 イ注意義務違反にもかかわらず,被告病院の医師は,本件温存手術においてわずかに3個ないし4個のリンパ節を切除したとの認識しか有せず,しかも検体として提出されたリンパ節は2個にすぎなかった。 よって,被告病院には,適切なリンパ節郭清を行わなかった注意義務違反が存する。 (被告の主張)アリンパ節郭清に関する知見今日,リンパ節郭清の目的は,腫瘍細胞の切除と病期決定(ステージング)にあり,乳がん手術におけるリンパ節切除は予後の改善とはならない。 すなわち,リンパ節を切除した方が切除しないよりも将来再発しにくく長 期生存が可能であるということはないと言われている。このような考え方から,今日では,浮腫,感染症等の合併症の可能性も考慮して,不必要なリンパ節郭清はできるだけ行わないようになっている。 すなわち,腋窩リンパ節郭清を行うことにより,リンパ浮腫,しびれ,痛み,運動障害といった後遺症が残存する可能性がある。一方で,腋窩リンパ節郭清が生存率の向上に寄与するか否かについて,これを否定する文献等がみられるなど,現在,腋窩リンパ節郭清が生存率の向上に寄与しないことは医学的な一般的知見とされている。 リンパ節転移に対する考え方には,リンパ節に転移してから肺臓や肝臓や骨に転移をするという順番進行説と,がん発生の早い段階でリンパ節を含む肺臓や肝臓,骨などに転移が成立しているとする同時進行説(全身病説)があるところ,アメリカ は,リンパ節に転移してから肺臓や肝臓や骨に転移をするという順番進行説と,がん発生の早い段階でリンパ節を含む肺臓や肝臓,骨などに転移が成立しているとする同時進行説(全身病説)があるところ,アメリカやカナダで行われた無作為試験の結果で同時進行説が正しいと考えられるようになった。したがって,リンパ節を切除する意義は,生存率の向上を目的とする治療行為ではなく,主に悪性度の評価と,それによる治療方針の決定に移行したのである。 上記のとおり,今日ではリンパ節郭清を行うことによる生存率の向上等はなく,かえって,リンパ節郭清はできる限り実施しないようになっていることからすれば,本件においても,リンパ節郭清を実施すべき義務があるとはいえない。 イ注意義務違反について本件では,胸部CT検査(平成13年6月29日入院カルテ)がなされており,その後注意深くリンパ節郭清を施行しているため,現在のリンパ節郭清を縮小する術式(センチネル・リンパ生検)の先駆的手法として矛盾がなく,少なくとも腋窩リンパ節のサンプリングとしての意義は認められるものである。また,万が一,手術操作時に硬く腫大したリンパ節を触知したならば,外科医としてそれを放置することはないのであるから,被 告病院の医師は,「リンパ節郭清を適切に行うべき注意義務」は十分に果たしている。 (4)因果関係ア亡Bの死亡の機序(原告の主張)(ア)亡Bが死亡したのは,本件温存手術時に取り残された乳がん又はその後再発した乳がんが肺その他の臓器へ転移し,最終的には肝臓に転移したがんが増悪したことによるものである。なお,肝転移の経路としては,血液から転移するもの(血行性転移)と,リンパからの転移(リンパ行性転移)が考えられる。 (イ)被告は,亡Bの右肺がんは孤立性のものであり,仮に乳がんから転移した る。なお,肝転移の経路としては,血液から転移するもの(血行性転移)と,リンパからの転移(リンパ行性転移)が考えられる。 (イ)被告は,亡Bの右肺がんは孤立性のものであり,仮に乳がんから転移したものだとしても本件温存手術以前に転移したものであると主張するが,①乳がんであっても肺転移はあり得るのであって,絶対数が少ないのは乳がんが早期に発見されるからであるにすぎないこと,②一般にがんが細胞レベルで発生してから視覚的に確認できるようになるまで約半年程度の時間を要すると言われており,取り残しのがんが6か月ほどで転移するということは十分にあり得ること,③E病院においては,右肺がんが原発性のものか転移性のものか判断がやや難しいとしながら,肺がんについて,既往の浸潤性乳管がんに類似した像があるとして,転移性のものとして治療を開始していること,その他本件経過からすれば,平成13年6月の本件温存手術の際に取り残しがあり,それが肺に転移したと考えるのが合理的である。 (被告の主張)(ア)主位的主張亡Bは,E病院における平成17年4月8日の超音波検査で多発性肝転移を確認されている。この肝転移がんについては,この時点で余命数 か月といった程度であり,亡Bの直接の死因は,肝転移の進行により腹水が貯留し,体力を消耗し,がん性悪液質となって死亡したと考えられる。 (イ)そして,亡Bの上記肝転移がんは,平成14年6月ころ右肺に発見された,原発性肺がんの転移を原因とするものである。 原告は,亡Bの肺がんは,本件温存手術時に取り残された乳がん又はその後再発した乳がんが転移したものであると主張するが,①平成14年6月11日当時の亡Bの右乳房再発がんは,わずか5mmと小さなものであったことからすれば,肺転移のポテンシャルは相当低いこと,②平成14年6月11 がんが転移したものであると主張するが,①平成14年6月11日当時の亡Bの右乳房再発がんは,わずか5mmと小さなものであったことからすれば,肺転移のポテンシャルは相当低いこと,②平成14年6月11日の半年前である平成13年12月26日には右乳房追加切除術が施行されていたのであり,わずか半年の短期間に肺転移することは常識的に考えられないこと,③E病院における肺がんは,平成14年6月の発見時から平成16年11月の切除術時まで孤立性であったことからすれば,原告主張のように同肺がんが転移性のものであったとは考えられない。 (ウ)予備的主張仮に,本件における亡Bの肺がんが乳がんからの転移であるとしても,それは本件温存手術時に既に血行性に微小な転移が存在し,その後,発見されるに至ったものである。 かつて,がんはまずリンパ節に転移してから,肺臓,肝臓,骨などに転移すると考えられていたが(順番進行説),現在までに,がん発生の早い段階で,リンパ節を含む肺臓や肝臓,骨などに転移が成立しているとする同時進行説(全身病説)が証明されている。 現在,乳がんの手術を施行した時点より前に少なくともその約半数(42.5パーセント)は転移が成立しているとされており,本件においても,それらが次第にがん細胞特有の自立的増殖を強め,顕著化し, 転移性肝がんにより死亡したと考えられる。 なお,平成13年6月29日の病理所見において脈管侵襲が認められないこと(ly0,v0)は遠隔転移を否定する必要十分条件ではなく,遠隔転移のリスクを判断するための参考資料にすぎない。 イ各注意義務違反と死亡との因果関係(原告の主張)(ア)放射線療法施行義務違反((1))と死亡との因果関係放射線療法が実施されていれば,乳房内がんの再発を防止することができた蓋然性が高い。例えば,厚生労 務違反と死亡との因果関係(原告の主張)(ア)放射線療法施行義務違反((1))と死亡との因果関係放射線療法が実施されていれば,乳房内がんの再発を防止することができた蓋然性が高い。例えば,厚生労働省の「長期の追跡結果に基づく乳がんに対する適正な乳房温存療法の確立に関する検討」によれば,1993年までに行った触診腫瘍径3cm以下の乳がんに対する乳房温存療法1901例(観察期間中央値127か月)の10年生存率は,89. 4パーセントであり,10年での累積乳房再発生率は,放射線療法併用群は,わずか7.0パーセントであった。この統計結果は,他の病院での統計とも一致するものである。 (イ)十分な化学療法(補助療法)を行うべき義務違反((2))と死亡との因果関係本件肝転移が血行性転移であれば,本件温存手術後に,十分な化学療法が実施されていれば,乳がんの再発を防止することができた。 (ウ)リンパ節郭清を適切に行うべき注意義務違反((3))と死亡との因果関係本件肝転移がリンパ行性転移であるとするならば,本件温存手術時に,腋窩リンパ節の郭清を十分に行っていれば,がんの転移を早期に発見でき,又は転移を防止することができた。なお,本件温存手術時における病理組織検査報告ではリンパ節転移陰性とされているが,転移が存在しなかったとは言い切れない。被告が本件温存手術時に採取したリンパ節 の数と検査資料として使用されたリンパ節の数が異なる上,検査されたリンパ節がわずか2個であったことからすれば,採取されたすべてのリンパ節が検査されたのかは疑わしく,また,後にE病院等でリンパ節転移陰性とされたのは,一定期間・一定量の化学療法を経た後のことだからである。 (エ)なお,被告が主張する全身病説が提唱され,一定の支持を受けていることは事実である。しかし,がん細 院等でリンパ節転移陰性とされたのは,一定期間・一定量の化学療法を経た後のことだからである。 (エ)なお,被告が主張する全身病説が提唱され,一定の支持を受けていることは事実である。しかし,がん細胞が早期に「飛び火」することと,飛び火したがん細胞が生着して発育することとは,次元の異なる問題というべきである。がん細胞が飛び火して全身を循環しても,生体の抵抗力,免疫力によって死滅すれば,転移は成立しない。一方,がんの原発部位において初期段階の局所コントロールに成功すれば,少なくとも新たな飛び火は防止できるのであるから,転移に至る危険性はこれに応じて低下することになる。現在においても,放射線療法やホルモン療法による局所コントロール,すなわち乳房内再発の予防を不要とする考え方が存在しないことは,局所コントロールが治療及び患者の予後にとって重要であることを意味する。 とすれば,被告において,亡Bに対し,放射線照射,適切な化学療法を行っていれば,乳房内再発,肺・脳・肝への遠隔転移も起こらず,平成17年8月22日の時点で亡Bがなお生存していたと是認し得る高度の蓋然性が認められる。 (オ)したがって,被告病院において,本件温存手術時に,適切なリンパ節郭清を行い,あるいは,同手術後に放射線療法を実施し,十分な化学療法を実施することの一つ又は複数を実践していれば,亡Bの乳がんが再発及び転移することはなく,本件のように転位性肝がんにより死亡することはなかった。 (被告の主張) (ア)放射線療法施行義務違反((1))と死亡との因果関係乳房温存術後に放射線照射をしていないことについては,乳がんが局所再発した可能性はあるものの,乳がんに対する放射線療法によってがん転移の発生率を低下させるとの知見はないのであって,放射線療法の不実施と肝転移との間に因 照射をしていないことについては,乳がんが局所再発した可能性はあるものの,乳がんに対する放射線療法によってがん転移の発生率を低下させるとの知見はないのであって,放射線療法の不実施と肝転移との間に因果関係はない。 (イ)十分な化学療法(補助療法)を行うべき義務違反((2))と死亡との因果関係仮に化学療法が不足していたとしても,それが肝転移の進行に結びついて死亡に至ったとすることは論理的に飛躍がある。 (ウ)リンパ節郭清を適切に行うべき注意義務違反((3))と死亡との因果関係本件温存手術時のリンパ節郭清不足から肝転移を引き起こして死亡に至ったとの主張についても,リンパ節郭清が生存率の向上に寄与するわけではないことは,(3)(被告の主張)のとおりであり,また,本件においては,本件温存手術後にD及びE病院においてリンパ節転移がなかったとされている事実も踏まえれば,因果関係を肯定することはできない。 (エ)乳がん原発の肝転移という症例であった場合,平成13年6月施行の乳房温存術時に乳がんの取り漏れが仮にあったとしても,また,術後補助療法としての放射線照射がなされていたとしても,さらに,原告主張の化学療法が施行されていたとしても,生命予後にほとんど有意的差異はないと考えるのが,現在の一般的な医学的知見である。本件において原告が主張する治療方法(乳房温存療法後の放射線照射,化学療法等)は乳がん肝転移に対する効果的治療方法とは言えないのみならず,乳がん肝転移を有効に防止し得る治療法は現在のところ確立されていない。また,乳がん肝転移の生命予後は早ければ2ないし3か月とされる ほど不良とされているところである。 亡Bの死亡は,乳がんを原発がんとしつつ,肝転移をみた予後の極めて悪い症例であった可能性が高く,被告病院における乳房温存術施行時点 ば2ないし3か月とされる ほど不良とされているところである。 亡Bの死亡は,乳がんを原発がんとしつつ,肝転移をみた予後の極めて悪い症例であった可能性が高く,被告病院における乳房温存術施行時点において,血行性転移による肝臓組織下へのがんの転移が始まっていたと推察される。 (オ)一般的に肝がんの体積倍化日数(ダブリングタイム)は段階によってその期間(発育の速度)が異なるとされているが,15mm大以下のダブリングタイムは1ないし2年とされているのに対し,30mmになると速いものでは2か月で2倍に成長する例もあるとされている。そうすると,平成17年4月8日にE病院において施行された超音波検査において,S8の③の部位の腫瘍径24mmとされた部位(乙A20。なお,2か月後には48mmに成長している(乙A21)。)は,比較的速く成長したと仮定して,平成16年4月ころは5ないし10mm,平成15年4月ころは2ないし5mm,平成14年4月ころには1ないし3mmであり,被告病院において乳房温存術を施行した平成13年6月ころには,既に肝細胞レベルでの転移ないしはがんの発生という事実は存在したものと推察されるところである。 (カ)以上のとおりであるから,原告が主張する注意義務違反と死亡の結果との間に因果関係はない。 (5)損害(原告の主張)亡Bは,以下の損害を被り,原告はこれを相続した。 ア積極損害881万5956円(ア)治療関係費668万1875円(イ)交通費39万2221円(ウ)付添人交通費3万4880円 (エ)医療用かつら59万5030円(オ)健康食品111万1950円イ消極損害4450万9487円(ア)休業損害1399万2800円3,498,200円(賃金センサス平成12年女子全労働者平均)× ら59万5030円(オ)健康食品111万1950円イ消極損害4450万9487円(ア)休業損害1399万2800円3,498,200円(賃金センサス平成12年女子全労働者平均)×4年=13,992,800円(イ)逸失利益3051万6687円3,498,200円×12.4622(47歳~67歳まで20年に対応するライプニッツ係数)×(1-0.3)=30,516,687円ウ慰謝料2400万0000円エ葬儀費用150万0000円オ証拠保全謄写料等7万2970円(ア)証拠保全謄写料3万7400円(イ)翻訳料3万5570円カ医療費の控除156万1672円キ弁護士費用780万0000円よって,原告は,被告に対し,亡Bと被告との間の診療契約上の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求権として,8513万6741円及びこれに対する請求の拡張申立書送達の日であり,不法行為の後の日である平成18年4月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による損害金の支払を求める。 (被告の主張)原告の主張は争う。 第3当裁判所の判断 認定事実前提事実(第2の1)のほか,証拠(各認定事実の後に掲記する。)及び弁 論の全趣旨によれば,亡Bの診療経過として,以下の事実を認定することができる。 (1)本件温存手術に至るまでア亡Bは,平成12年11月ころから右乳房にしこりを自覚していたところ,平成13年2月5日,右乳房のしこり(腫瘤)が少し増大した気がするとして被告病院を受診(初診)し,外科系乳腺疾患を専門とするC医師の診察を受けた。亡Bは,同日,超音波検査,マンモグラフィ検査を受けた(乙A1・2,33,34頁,A3・8頁,A49・1,2頁)。 イ亡Bは,平成13年2月15日,C医師から,上 を専門とするC医師の診察を受けた。亡Bは,同日,超音波検査,マンモグラフィ検査を受けた(乙A1・2,33,34頁,A3・8頁,A49・1,2頁)。 イ亡Bは,平成13年2月15日,C医師から,上記超音波検査の所見では,右乳房の内側上方に嚢胞か繊維腺腫を思わせるような腫瘤陰影が認められ,左乳房には明らかな腫瘤陰影はなかったこと,マンモグラフィ所見では,右乳房に淡い腫瘤陰影があり,乳腺と同程度の濃度であったことを伝えられ,3か月後の5月中旬ころに超音波でフォローアップする予定とされた(乙A1・2頁)。 ウ亡Bは,平成13年5月7日,被告病院を受診し,C医師に対し,右乳房のしこりが大きくなったと話した。C医師が超音波検査を実施したところ,腫瘍径が18mm×13mmと増大していると認められ,内部エコーのレベルもやや高かったことから,穿刺吸引細胞診が実施された。その結果,両側乳腺について,少数,散在性であるが,核・細胞質比の増大,多形,不整重積,核小体の顕在化などの見られる中型異型細胞の集積が認められ,異型管細胞悪性疑い(クラスⅢb)とされた(乙A1・2,3,15ないし17,32頁)。 エ亡Bは,平成13年5月14日,被告病院を受診し,血液検査,胸部エックス線撮影を受けたほか,C医師から,穿刺吸引細胞診の結果,悪性疑い(クラスⅢb)であることなどの説明を受け,外科的生検を受けるよう勧められた。生検については平成13年6月3日の亡Bのエアロビクスの 試合が終わってから行うこととなった(乙A1・3,4,27ないし31頁)。 オ亡Bは,平成13年6月4日,被告病院を受診し,同月13日に生検を行うこととなった(乙A1・5,26頁)。 カ亡Bは,外科的生検のため,平成13年6月13日に被告病院に入院し,右乳腺腫瘍摘出術等を受けた。右乳房腫 年6月4日,被告病院を受診し,同月13日に生検を行うこととなった(乙A1・5,26頁)。 カ亡Bは,外科的生検のため,平成13年6月13日に被告病院に入院し,右乳腺腫瘍摘出術等を受けた。右乳房腫瘍の大きさは,C医師の触診上,2cm×1.5cm程度であった。亡Bは,翌14日に被告病院を退院した(乙A1・5頁,乙A3・1ないし8頁)。 キ被告病院は,カで摘出された右乳房腫瘍を含む組織(25mm×20mm×15mm)についてFに病理組織検査を委託し,Gで病理検査が行われ,平成13年6月18日付けで,右乳房の浸潤性腺管がんであるとの病理診断がされた。なお,断端はほんのわずかに陽性になっていると指摘された(乙A3・10,11頁)。 クC医師は,キの病理検査報告を踏まえて,亡Bについて初期の右乳房充実腺管がんであると確定診断し,平成13年6月25日,被告病院を受診した亡Bに対し,検査結果とともに上記診断を告げた上,亡Bがエアロビクスの競技者であることを踏まえて,美容的なマイナスを最小限に抑える,運動能力の維持,腕の動きの障害などが起こらない,術後の治療の煩雑さを避けるなどの観点から,90度角(4分の1)の扇状切除を行って術後放射線照射を省略する方法を勧め,診療録に書いたスケッチを示しながら乳房温存術の手法や切除範囲等について説明をした。また,この日,亡Bは胸腹部CT検査を受け,C医師のほか,被告病院の放射線科の医師がこれを読影し,翌26日,C医師に対し,右腋窩に1cm弱のリンパ節の結節性の陰影を3個ほど認めたが,肺野には陰影を認めず,胸水も認められなかったとの結果が報告され,遠隔転移は確認されなかった(乙A1・6,36,38頁,A51の1ないし51の5,証人C医師反訳書1・1ない し3,7頁,同反訳書3・1,2,4,24,25頁)。 なかったとの結果が報告され,遠隔転移は確認されなかった(乙A1・6,36,38頁,A51の1ないし51の5,証人C医師反訳書1・1ない し3,7頁,同反訳書3・1,2,4,24,25頁)。 (2)本件温存手術及びその術後ア亡Bは,平成13年6月29日,被告病院に入院し,右乳房について乳房温存術及び腋窩リンパ節郭清を受けた(本件温存手術)。C医師は,高周波メス(電気メス)を用いると断端が熱で変性して断端の評価が困難になることから,通常のメスを用いて前回の生検部位を含む部分について90度角(4分の1)で扇状に部分切除を行い,腫瘍部分1個を切除・摘出し,残存乳房の乳腺部分の止血等にのみ高周波メスを用いた。なお,C医師は,亡Bの美容面に考慮して,乳頭が壊死ないし脱落しないように,乳頭側の乳腺については可能な限り残した。続いて,右腋窩部のリンパ節郭清を行い,肉眼及び触指上でおよそ3ないし4個程度(結果的には2個のリンパ節)を摘出した。また,左乳房については,乳腺腫瘤1個の摘出が行われた(乙A4・1ないし5,7ないし13頁,証人C医師反訳書1・8頁,同反訳書3・3,32,33頁)。 イC医師は,亡Bの乳がんが閉経前のものであることを考慮し,最も効果が期待でき,かつ,副作用の軽いものをとの考えから,抗がん剤として経口剤であるフルツロンを用いることとした。また,ホルモンレセプターの検査は不可能と判断して実施していなかったため,ホルモンレセプター反応性不明確と扱い,ホルモン療法としてノルバデックスとリュープリンを用いることとした(証人C医師反訳書1・4ないし6頁)。 亡Bには,平成13年7月2日から,化学療法としてフルツロン600mg,ホルモン療法としてタモキシフェン(商品名ノルバデックス)30mgの処方が開始された。また,平成13年7月 1・4ないし6頁)。 亡Bには,平成13年7月2日から,化学療法としてフルツロン600mg,ホルモン療法としてタモキシフェン(商品名ノルバデックス)30mgの処方が開始された。また,平成13年7月3日には,ホルモン療法としてリュープロレリン(商品名リュープリン)3.75mgが注射投与された(乙A4・6,16,18,23,24頁)。 ウ被告病院は,アで摘出された右乳房腫瘍部分(4.5cm×3.5cm ×2.0cm)及びリンパ節についてFに病理組織検査を委託し,Gで病理検査が行われた。平成13年7月5日付け病理組織検査報告書では,右乳房については遺残腺がんであるとの病理診断がされ,組織所見としては,前回の手術創部近くの1か所に腺管内を埋め尽くした充実性腺がんが増生し残留している,腺管外には浸潤性に増殖してはおらず,切除断端には及んでいない,提出されたリンパ節2個については転移はないとされた。なお,同様に左乳腺腫瘍についても病理検査が行われたが,良性であると病理診断された(乙A4・25ないし28頁)。 エ亡Bは,左乳房の腫瘤が良性であること,リンパ節に転移はないことを告げられ,平成13年7月7日,被告病院を退院した(乙A1・7頁,A4・1頁,証人C医師反訳書3・5頁)。 オ亡Bは,平成13年7月9日,被告病院を受診し,フルツロンやノルバデックスの処方を受けた(乙A1・7頁)。 また,亡Bは,平成13年7月16日,被告病院を受診し,フルツロンやノルバデックスの処方を受け,また,C医師から今後10年内におけるフォローアップスケジュールについて説明を受けた(乙A1・7頁)。 その後,亡Bは,平成13年7月30日,同年8月6日,同月27日,同年9月10日,同月17日,同年10月1日,同月15日,同月29日,同年11月12日及び同月26日に, 明を受けた(乙A1・7頁)。 その後,亡Bは,平成13年7月30日,同年8月6日,同月27日,同年9月10日,同月17日,同年10月1日,同月15日,同月29日,同年11月12日及び同月26日に,それぞれ被告病院を受診し,フルツロンやノルバデックスの処方を受け,リュープリンの注射を受けるとともに,腫瘍マーカー検査,血液検査,尿検査などを受けて経過観察が行われた(乙A1・8ないし11,23ないし25,44ないし54頁)。 (3)本件追加手術及びその術後ア亡Bは,平成13年12月10日,被告病院を受診し,C医師に対し,右乳腺腫瘤に4日前に気付いたこと,術創に近いので心配であること,右腕にしびれがある旨を述べた。C医師は,触診の結果,約5mm大の腫瘤 があることを認め,さらに超音波検査を施行したところ,右乳房に6mm大の境界不明瞭な低エコー域が認められた。C医師は,乳がんの再発を疑い,亡Bに対し,追加切除の必要性がある旨を説明し,同月26日に追加切除を行うこととした。なお,この日は,フルツロン,ノルバデックスの処方,リュープリンの注射,腫瘍マーカー検査,血液検査も行われた(乙A1・11,12,22,39ないし42頁,証人C医師反訳書1・9頁,同反訳書3・17,19,25,26頁)。 イ亡Bは,平成13年12月26日,右乳房について追加切除を受けた(本件追加手術)。C医師は,上記腫瘤を摘出したほか,本件温存手術の術創のケロイド状組織も併せて切除した。C医師は,局所再発した乳がんが微細であったということ,フルツロンの内服のしやすさ,フルツロン投与による有害事象も起こっていなかったことなどを考慮して,本件追加手術前と同様の治療を行うこととし,この日,亡Bにフルツロン,ノルバデックスを処方した。亡Bは,翌27日,被告病院を退院した(乙A 投与による有害事象も起こっていなかったことなどを考慮して,本件追加手術前と同様の治療を行うこととし,この日,亡Bにフルツロン,ノルバデックスを処方した。亡Bは,翌27日,被告病院を退院した(乙A1・12頁,A5・1,3,4,8ないし14,17頁,証人C医師反訳書1・10頁,同反訳書3・37頁)。 ウ被告病院は,イで摘出された右乳房腫瘍部分(4.5cm×2.0cm×2.0cm)についてFに病理組織検査を委託し,Gで病理検査が行われた。平成14年1月4日付けでの病理組織検査報告書によれば,異型細胞の著明な増殖が認められ,間質への湿潤性の発育を示しており,浸潤乳管がんの再発として矛盾のない像であるとされた。なお,ケロイド状組織については明らかな腫瘍細胞は認められなかった(乙A5・18,19頁)。 エ亡Bは,平成14年1月7日,被告病院を受診し,フルツロン,ノルバデックスの処方を受け,リュープリンの注射を受けた(乙A2・2頁)。 その後,亡Bは,平成14年1月21日,同年2月4日,同月18日, 同年3月4日,同月18日,同年4月1日,同月22日及び同月30日に,それぞれ被告病院を受診し,フルツロンやノルバデックスの処方を受け,リュープリンの注射を受けるとともに,腫瘍マーカー検査,血液検査,尿検査などを受けて経過観察が行われた(乙A2・2ないし6,15ないし23頁)。 (4)Dへの転院ア亡Bは,平成14年5月20日,被告病院を受診したが,C医師は,触診により,右乳房の手術創の乳頭側にしこりを発見した。超音波検査を実施したところ,右乳房に約1.2cm大の境界不明瞭域が認められ,さらにそのすぐ隣にも約1.7cm大の境界不明瞭域が認められたため,穿刺吸引細胞診が実施された。その結果,これらについてはいずれも核・細胞質比の増大,核小体 約1.2cm大の境界不明瞭域が認められ,さらにそのすぐ隣にも約1.7cm大の境界不明瞭域が認められたため,穿刺吸引細胞診が実施された。その結果,これらについてはいずれも核・細胞質比の増大,核小体の顕在化,クロマチン増量の目立つ異型上皮細胞が集塊として認められるとして,乳管がんが考えられる(クラスⅤ)とされた(乙A2・6,9,10,24頁,証人C医師反訳書1・10,11頁)。 イ亡Bは,平成14年5月27日,被告病院を受診し,C医師から上記の検査結果を聞き,同年6月前半に再度手術を行うことを勧められた。また,同月29日に胸部・腹部CT検査を行うことが予定された(乙A2・7頁)。 ウ亡Bは,平成14年5月28日,Dの乳腺外科を受診(初診)し,触診,マンモグラフィ検査を受けた。亡Bが,今後Dでフォローを受けることを希望したため,担当医師は,亡Bに対し,被告病院から翌29日に撮影予定のCTやその他のデータを借り受けるよう指示した(甲A3・2,59頁)。 エ亡Bは,平成14年5月29日,被告病院を受診し,胸部・腹部CT検査を受けた。C医師が読影したところ,CT上,明らかな転移は認められなかった。亡Bは,Dへ転院する旨をC医師に告げ,上記CT画像等を借 り受けた。なお,CT画像が亡Bに貸し渡されたため,被告病院の放射線科医師がこれを読影する機会はなかった(乙A2・7,12頁,証人C医師反訳書1・11頁,同反訳書3・21,22頁)。 オ亡Bは,平成14年6月1日,Dの乳腺外科を受診し,穿刺吸引細胞診検査を受け,その結果は腺がん(充実腺管がん,硬がんか)(クラスⅤ)とされた。Dでは,被告病院から借り受けたプレパラートについて検査を行い,正式なレポートは後日となるものの,組織学的悪性度が高く,リンパ管侵襲は陰性,静脈侵襲も陰性,断端は不明 がんか)(クラスⅤ)とされた。Dでは,被告病院から借り受けたプレパラートについて検査を行い,正式なレポートは後日となるものの,組織学的悪性度が高く,リンパ管侵襲は陰性,静脈侵襲も陰性,断端は不明と判断した(甲A3・3,84頁)。 カ平成14年6月3日,被告病院から借り受けたプレパラートについて,Dの検査結果が報告された。これによれば,平成13年6月12日の生検摘出分には右乳房の中心部壊死を伴う充実腺管がんが,同月29日の本件温存手術の際の右乳房追加切除材料中には乳管内がん病巣が,同年12月26日の本件追加手術の際の右乳房には充実腺管がんがそれぞれ認められた。そして,平成13年6月29日の本件温存手術の際の切除は,「断端をきちんと考慮され,切除された腫瘤切除術ではないため,断端の評価及び同年12月26日切除標本内のがん病巣が再発か否かの判定はできません」とのコメントが付された(甲A3・49,50頁)。 キ亡Bは,平成14年6月5日,Dの呼吸器科を受診し,被告病院から借り受けたCTの読影を受けたところ,右上葉に孤立性結節が認められた。 亡Bは,同月11日,造影CT検査を受け,その結果,肺のS3辺縁不整明瞭で乳がん転移疑いとされ,右乳がん再発疑い,腋窩リンパ節腫脹とされた。また,同月12日には肺の針生検を受け,その結果,借用プレパラートの乳がんと同様の形態を示す悪性細胞を認めたとして,転移性腺がん(乳がん)(クラスⅤ)と診断された。亡Bは,平成14年6月19日,Dの呼吸器科を受診し,上記結果を伝えられ,今後手術の可能性もゼロで はないが,まずは乳房の処置を優先することとされた(甲A3・12ないし15,60,61,85ないし87頁)。 ク他方,D乳腺外科担当医は,平成14年6月12日付けで,被告病院C医師に宛てて診療情報提供書を作 まずは乳房の処置を優先することとされた(甲A3・12ないし15,60,61,85ないし87頁)。 ク他方,D乳腺外科担当医は,平成14年6月12日付けで,被告病院C医師に宛てて診療情報提供書を作成し,亡Bについて右肺への転移疑いとされたため現在の治療を変更する方針となると思われること,ホルモンレセプターであるER(エストロゲンレセプター)及びPgR(プロゲステロンレセプター),並びにHer2(ハーツー)についての各免疫染色がされていれば教えて欲しいこと,もしまだであれば未染色のプレパラートかブロックを貸して欲しいことを記載した。亡Bは,翌13日,被告病院を受診し,C医師は,同日付けでD担当医に宛てて,ホルモンレセプター検査は施行していない旨を記載した診療情報提供書を作成したうえ,亡Bに対し標本ブロック等を貸し渡した(甲A3・19,20頁,乙A2・7,11,13頁)。 ケ亡Bは,平成14年6月19日,Dの乳腺外科を受診し,治療方針として,①乳房切除後,ホルモン療法又は化学療法(又はハーセプチン)とする方法と,②ホルモン療法又は化学療法(又はハーセプチン)後,乳房切除,肺切除とする方法の二つの方針を提示され,②を選択した。そこで,被告病院から借り受けた標本ブロックの染色検査結果が出るまでの2週間は,リュープリンとアリミデックスの投与を受けることとし,Her2(ハーツー)がマイナス,ER(エストロゲンレセプター)もマイナスなら,タキソールの毎週投与法を考慮することとされた。また,Dにおける同月21日のカンファレンスにおいて,Her2(ハーツー)がマイナスの場合にはCAF療法も検討することとされた(甲A3・15頁)。 コDは,被告病院から借り受けた標本ブロックに免疫染色を行い,平成14年6月24日付けで,ER(エストロゲンレセプター) )がマイナスの場合にはCAF療法も検討することとされた(甲A3・15頁)。 コDは,被告病院から借り受けた標本ブロックに免疫染色を行い,平成14年6月24日付けで,ER(エストロゲンレセプター)はマイナス,PgR(プロゲステロンレセプター)もマイナス,Her2(ハーツー)も ゼロとの結果を得た(甲A3・48頁)。 (5)その後の診療経過の概要ア亡Bは,平成14年7月8日,E病院を受診し,タキソール(パクリタキセル)の投与を受けた。同月15日,担当医は,亡Bに対し,リュープリンの投与は効果が期待できない旨を説明したものの,亡Bの強い希望があったことから,リュープリンの投与も継続することとし,平成16年2月6日まで投与した(甲A7・17ないし19,45,63頁,乙A9,A26・17ないし19,45頁,E病院の調査嘱託結果)。 イ亡Bは,平成14年9月25日,Dで造影CT検査を受け,右乳房に再発腫瘤,右肺門に腫瘤,右肺上葉の腫瘤(転移)はやや縮小しているとされた。亡Bは,平成14年10月17日,E病院において,右大・小胸筋温存乳房切除術を受けた。術後,タキソールの投与が行われたが,平成15年2月には右肺に転移が認められ,C(シクロフォスファミド),E(エピルビシン)が投与され,その後,陽子線療法のほか,フルツロン,エンドキサンの投与,CMF療法などが行われた(甲A3・62,63頁,A7・384頁,A8・321ないし323頁,乙A15,A25)。 ウE病院は,被告病院における亡Bの右乳房の標本ブロックについて病理診断を行い,平成14年11月5日付けで,脈管侵襲なし,切除断端への露出なし,リンパ節転移なし,免疫組織染色ではER(エストロゲンレセプター)は陰性,PgR(プロゲステロンレセプター)は弱陽性,c-erbB2は陰性と判断 1月5日付けで,脈管侵襲なし,切除断端への露出なし,リンパ節転移なし,免疫組織染色ではER(エストロゲンレセプター)は陰性,PgR(プロゲステロンレセプター)は弱陽性,c-erbB2は陰性と判断した(E病院の調査嘱託結果添付資料③)。 エ亡Bは,平成16年11月26日,E病院において,右肺上葉切除・中葉及び下葉部分合併切除・リンパ節郭清を受けた。摘出された検体につき病理組織検査が行われ,その結果,原発性腫瘍か転移性腫瘍かの判断がやや難しいが,腫瘍はウの標本における浸潤性乳管がんに類似した像を示しており,乳がんの転移として矛盾のない像であるとされた。また,プロゲ ステロンレセプターについて,ウの標本では陽性であったが,今回の標本ではごく少数の腫瘍細胞に陽性所見がみられるのみと,やや染色性が異なっているとされた(甲A1,A7・133,134,456,476ないし478頁,乙A14,16)。 オ亡Bは,平成17年3月ころ以降,E病院において多発肝転移,脳転移,両腎転移等が確認され,治療が継続されたが,同年8月22日,同病院において死亡した。死亡診断書における直接死因は右乳がんとされた(甲A4,A8・7,8,263,266,277,321ないし323頁,乙A20ないし25)。 乳房温存術等に関する医学的知見証拠(各認定事実の後に掲記する。)及び弁論の全趣旨によれば,乳がん及び乳房温存治療等に関する医学的知見として,以下の事実を認定することができる。 (1)乳がんについてアかつて,乳がんは,リンパ節に転移してから肺臓,肝臓,骨などに順番に転移すると考えられていたが(順番進行説),リンパ節郭清の有無が生存率に有意な差が生じない結果となったことなどから,現在では,乳がんの遠隔転移は,がん発生の早い時点で,リンパ節を含む肺臓や肝臓 番に転移すると考えられていたが(順番進行説),リンパ節郭清の有無が生存率に有意な差が生じない結果となったことなどから,現在では,乳がんの遠隔転移は,がん発生の早い時点で,リンパ節を含む肺臓や肝臓,骨などに微少がん細胞の転移が成立しており,後にこれが増殖して顕在化するものと考えられている(全身病説)(甲B4・254頁,乙B30・2頁,鑑定・60ないし62頁〔H鑑定人,I鑑定人,J鑑定人〕,H鑑定人意見書・3頁,I鑑定人意見書3,4頁,J鑑定人意見書・3頁)。 イこのため,乳がんの治療のうち,外科手術(乳房切除術や乳房温存手術)及び放射線治療は,もっぱら乳房の局所コントロールのために実施され,全身の再発を抑えるための全身療法としては,化学療法やホルモン療法が実施される(鑑定・73ないし75頁〔H鑑定人,I鑑定人,J鑑定 人〕)。 ウなお,平成13年当時は不明であったものの,現在においては,エストロゲンレセプター及びプロゲステロンレセプターがともに陰性であり,かつ,Her2(ハーツー)も陰性で分子標的薬剤であるハーセプチンが使用できない乳がん(トリプルネガティブ乳がん)は,最も予後の悪いタイプであると考えられている(鑑定・65,66頁〔H鑑定人,J鑑定人〕,J鑑定人意見書・4,5頁)。 (2)乳房温存治療についてア乳房温存治療(甲B8〔乳房温存療法ガイドライン(1999)(甲B24も同じ。以下「平成11年ガイドライン」といい,甲B8のみ掲記する。〕・4枚目)乳房温存治療とは,乳がんに対する局所療法である外科手術の術式の一つであり,乳房の全部を切除する乳房切除術に対し,乳房を温存する術式である。 乳房温存治療のうち,①腫瘤を含めて乳房の一部を切除する外科手術(乳房温存手術),②腋窩リンパ節郭清,さらにその後に③残存乳房に対 乳房の全部を切除する乳房切除術に対し,乳房を温存する術式である。 乳房温存治療のうち,①腫瘤を含めて乳房の一部を切除する外科手術(乳房温存手術),②腋窩リンパ節郭清,さらにその後に③残存乳房に対し乳房照射を加えるものを乳房温存療法といい,③を行わない乳房温存手術単独のものと区別される。 イ外科手術(乳房温存手術)の術式(甲B8・7枚目)乳房温存手術の術式としては,①乳房扇状部分切除術(正常乳腺組織を乳頭を中心にして扇状に切除する。),②乳房円状部分切除術(正常乳腺組織を部分的に丸く切除する。),及び③腫瘤摘出術(乳腺をほとんど切除せず,腫瘍のみを切除する。)があるが,通常,乳房温存療法では①②のいずれかが行われ,③は推奨できない。また,乳房温存療法では放射線照射が併用されることから,乳頭近傍の腫瘤に対処でき,美容的に優れている②が用いられる傾向にある。 ①乳房扇状部分切除術を用いた乳房温存療法は,乳がんの拡がりを考慮した合理的な切除であるが,②乳房円状部切除術に比べ切除範囲が広くなる場合が多く,美容面に対する工夫が必要である。 ウ腋窩リンパ節郭清(甲B8・5,8枚目,乙B4,B5,B6・27,28頁,B30・5頁,証人K医師反訳書4・8頁)(ア)腋窩リンパ節郭清の手法・実施範囲乳房部分切除と同じ皮切で行う場合と腋窩に別の皮切をする場合がある。郭清範囲は基本的には乳房切除術と同等に行うべきである。レベルⅠ(小胸筋より外側のリンパ節),レベルⅡ(小胸筋裏面のリンパ節)の郭清が標準であるが,リンパ節転移の程度,各施設の治療方針によりレベルⅠであったり,またレベルⅢ(小胸筋内側のリンパ節)まで行うこともあり得る。 (イ)腋窩リンパ節郭清の目的・効果腋窩リンパ節郭清については,その有無によって生存率に有意な差が生じないとの結 レベルⅠであったり,またレベルⅢ(小胸筋内側のリンパ節)まで行うこともあり得る。 (イ)腋窩リンパ節郭清の目的・効果腋窩リンパ節郭清については,その有無によって生存率に有意な差が生じないとの結果が報告されており,生存率向上を目的とする治療行為としてではなく,もっぱらリンパ節への転移の有無の確認とこれに伴う乳がんの悪性度を判断する目的で実施される。 (ウ)腋窩リンパ節郭清の副作用ないし合併症患側上肢・腋窩の疼痛や知覚障害,リンパ液貯留,創傷治癒遅延,患側上肢の腫脹などがある。 (エ)センチネル・リンパ生検の手法現在では,広範囲でのリンパ節郭清を行うのではなく,1ないし2個のリンパ節(見張りリンパ節)のみ切除してリンパ節転移の有無を判断し,副作用等を最小限に抑えることのできるセンチネル・リンパ生検の手法が導入されつつある。 エ術後放射線照射及びその省略 (ア)術後放射線照射の目的・効果等(甲B4・253,254頁,B8・5枚目,乙B30・3頁,H鑑定人意見書・3,4頁,J鑑定人意見書・3,4頁)術後放射線照射は,遺残する可能性のあるがん病巣に対して施行されるものである。その目的は,乳房内再発のリスクを下げることにあり,現在においても,術後放射線照射が遠隔転移を防ぎ,生存率を向上させる効果を有するとは考えられていない。 (イ)術後放射線照射の副作用等(甲B8・5,6枚目,鑑定・20ないし22頁〔H鑑定人,I鑑定人,J鑑定人〕)術後放射線照射の副作用ないし有害事象としては,放射線皮膚炎や放射線肺臓炎,乳房硬化,肋骨への影響があるとされ,さらに長期的に見た場合の照射野のがん化などが懸念されている。 (ウ)術後放射線照射の省略平成13年当時において,海外でのランダム化比較試験において,放射線治療併用群で有意な乳房内再発の とされ,さらに長期的に見た場合の照射野のがん化などが懸念されている。 (ウ)術後放射線照射の省略平成13年当時において,海外でのランダム化比較試験において,放射線治療併用群で有意な乳房内再発の減少が認められる一方,放射線治療を省略できるサブグループが同定されていないことなどから,欧米及び日本の一定水準以上の病院では,術後放射線照射は推奨される治療法であった(鑑定・2ないし5,8,9頁〔H鑑定人,I鑑定人,J鑑定人〕,J鑑定人意見書・1頁,同添付資料・227頁)。 他方で,日本では,平成13年ころにおいては,乳房温存手術後の照射未施行の施設からの成績発表もまだ多く,学会レベルで,照射群と非照射群の成績が比較検討されるなど,議論がされている段階にあり,術後放射線治療の実施が不可欠であることについて広くコンセンサスが得られているという状況ではなかった。また,平成11年ガイドラインにおいても,永久標本において,連続全割切片の詳細な病理検索により断端陰性(標本の切除断端から5mm以内にがんが存在する場合を断端陽 性とするとされる。)が保証され,残存乳房にがんの遺残がないと判断された場合には残存乳房の照射を省略できる可能性があるとされていた(ただし,この場合には,各種画像診断を用いて術前にがんの拡がりを可能な限り検索しその範囲を十分に切除できる術式(乳房扇状部分切除術あるいは乳房円状部分切除術)を選択するとされている。)。そして,日本乳癌学会の集計によると,平成13年から平成15年にかけて実施された乳房温存治療の約4分の1が非照射例という状況であった(甲B8・8,10枚目,鑑定・3ないし5頁〔H鑑定人,I鑑定人〕,I鑑定人意見書・1頁,同添付資料1,4)。 (3)化学療法についてア術後補助療法としての化学療法(乙B30ないし32, あった(甲B8・8,10枚目,鑑定・3ないし5頁〔H鑑定人,I鑑定人〕,I鑑定人意見書・1頁,同添付資料1,4)。 (3)化学療法についてア術後補助療法としての化学療法(乙B30ないし32,鑑定・23ないし27,41頁〔H鑑定人,I鑑定人,J鑑定人〕,I鑑定人意見書・1,2頁)乳がんに対する全身療法としては,抗がん剤を投与する化学療法があり,術後においては再発予防を目的とした術後補助療法として行われる。 海外の臨床試験において,CMF(シクロフォスファミド,メトトレキサート,フルオロウラシルを組み合わせた多剤併用療法)の有効性が確認されたことから,平成13年ころには,日本においても取り入れられて標準的な治療法の一つとなっていた。他方,日本においては,副作用が軽微で,進行再発乳がんにも35パーセントの奏功率が認められるとされていたフルツロンなどの経口抗がん剤が平成13年当時においても広く用いられている状況にあり,これらを使い分ける基準は確立していなかった。 平成12年7月には,CMF療法(6サイクル)と,フルツロンと同じ経口抗がん剤であるUFTとタモキシフェン(ノルバデックス)の併用療法(2年間)との比較試験で,効果は同等で,UFT投与群に良好なQOLを保つ結果となった旨の報告もあった。 また,平成19年になっても,CMF療法(6サイクル)と,リュープロレリン(リュープリン)(2年間)との比較で,ER陽性又は不明の患者599例につき,リュープロレリンが再発率で同等で,生存率は有意に改善したとの報告もされている。 イ局所再発後の化学療法(鑑定・43ないし49頁〔H鑑定人,I鑑定人,J鑑定人〕)乳房温存治療後に局所再発が確認された場合には,乳房切除術を行うか,あるいは再度乳房温存治療を行うかについて治療方針を検討するとともに 療法(鑑定・43ないし49頁〔H鑑定人,I鑑定人,J鑑定人〕)乳房温存治療後に局所再発が確認された場合には,乳房切除術を行うか,あるいは再度乳房温存治療を行うかについて治療方針を検討するとともに,従前の抗がん剤の増量あるいは変更などを検討することとなるが,これらの治療方針の選択については現在においても十分なデータは得られておらず,平成13年当時も,医師によってそれぞれ治療方針が異なる状況にあった。 (4)ホルモン療法(内分泌療法)についてアホルモン療法(乙B2・413,414頁,J鑑定人意見書・4頁,同添付資料・113,115,117頁)乳がんに対する全身療法の一つとしてホルモン療法があり,乳房温存治療の術後補助療法として用いられる。乳がん細胞がエストロゲンレセプター(ER)を有し,女性ホルモンであるエストロゲンと結合することによって増殖が促進されるタイプである場合,①乳がん細胞におけるエストロゲン作用を阻害する作用のある抗エストロゲン剤(タモキシフェン(商品名ノルバデックスなど))や,②エストロゲンの合成を抑制する作用のあるLH-RHアゴニスト製剤(リュープロレリン(商品名リュープリン))の投与が効果的であり,これをホルモン療法,あるいは内分泌療法などという。なお,乳がん細胞が,エストロゲンの産物であるプロゲステロンと結合するプロゲステロンレセプター(PgR)を有する場合もホルモン療法が有効とされており,エストロゲンレセプターとプロゲステロン レセプターを併せてホルモンレセプターなどと呼び,両者とも陰性の場合をホルモン反応性なし,それ以外はホルモン反応性ありと判定する。 なお,ホルモン反応性がある場合のタモキシフェン及びリュープロレリンの投与は,CMF療法に劣らぬ効果があると解されている。 イホルモンレセプター検査( なし,それ以外はホルモン反応性ありと判定する。 なお,ホルモン反応性がある場合のタモキシフェン及びリュープロレリンの投与は,CMF療法に劣らぬ効果があると解されている。 イホルモンレセプター検査(乙B30・4頁,証人C医師反訳書1・5,6頁,証人K医師反訳書2・5頁,鑑定・28ないし30,55ないし57頁〔H鑑定人,I鑑定人,J鑑定人〕,H鑑定人意見書・2頁,I鑑定人意見書2,3頁,J鑑定人意見書・2頁,同添付資料・77,113頁)ホルモン療法を行うに当たっては,ホルモン反応性の有無を判定するため,ホルモンレセプター検査を実施し,ホルモン反応性がある場合はタモキシフェンやリュープリン等のホルモン療法の実施を検討し,ホルモン反応性がない場合にはもっぱら化学療法を実施するのが一般である。 ホルモンレセプター測定方法としては,5mmないし10mm角の新鮮生標本を用いて行う生化学的方法と,ホルマリン固定をしたパラフィンに包埋して薄切りをする免疫組織染色法の2種類がある。平成13年当時は,これら両方の手法が存在したが,生化学的方法が主流であったため,検体を十分量確保できない場合にはホルモンレセプターの測定はできないことがあった。この場合には,ホルモン反応性は不明確と扱われるがホルモン療法のメリットを考慮して,ホルモン療法の実施が有用とされていた。 争点(1)(放射線療法施行義務違反)について(1)原告は,本件温存手術実施当時の医療水準に照らすと,乳房温存療法においては特段の事情のない限り術後放射線療法を行うべき注意義務を負っていたにもかかわらず,被告病院の医師は,本件温存手術後,亡Bに放射線療法を施行せず,もって上記注意義務に違反した旨を主張する。 (2)被告病院あるいはC医師が本件温存手術後に亡Bに対して放射線療法を 実施しなか ,被告病院の医師は,本件温存手術後,亡Bに放射線療法を施行せず,もって上記注意義務に違反した旨を主張する。 (2)被告病院あるいはC医師が本件温存手術後に亡Bに対して放射線療法を 実施しなかったことは当事者間に争いがないところ,被告病院あるいはC医師において,放射線療法実施義務を負っていたとする主張に沿う事情としては,次の点を挙げることができる。 ア医学的知見前記認定のとおり,平成13年当時においては,海外でのランダム化比較試験において,放射線治療併用群で有意な乳房内再発の減少が認められていたことから,欧米及び日本の一定水準以上の病院では,乳房温存治療において,乳房内再発のリスクを下げる目的で,乳房温存手術後に遺残する可能性のあるがん病巣に対して放射線照射を行う乳房温存療法によることが推奨されていた状況にあった(2(2)エ(ウ))。 また,平成11年当時,日本における標準的な乳房温存療法が何かを検討し,その正しい普及を目指した平成11年ガイドラインにおいても,かかる術後放射線照射を省略できる可能性がある場合を,連続全割切片の詳細な病理検索により断端陰性が保証され,残存乳房にがんの遺残がないと判断された場合など,限定的に記載するにとどめていた(2(2)エ(ア),(ウ))。 医学文献等においても,安易な照射の省略は乳房内再発率の上昇を招く旨を指摘するもの(乙B1・647頁)などがあった。 イ本件における事情また,亡Bは本件温存手術当時,42歳と若く,術前に実施された外科的生検の結果,亡Bの乳がんは,腫瘍径1cm以上で予後が不良と言われる右乳房の浸潤性腺管がんであるとの病理診断が得られていた(1(1)キ,証人C反訳書3・3頁)。 さらに,本件温存手術において,C医師は,乳頭が壊死ないし脱落しないように,乳頭側の乳腺については可能 る右乳房の浸潤性腺管がんであるとの病理診断が得られていた(1(1)キ,証人C反訳書3・3頁)。 さらに,本件温存手術において,C医師は,乳頭が壊死ないし脱落しないように,乳頭側の乳腺については可能な限り残したものと認められる(1(2)ア)。 ウ鑑定人等の意見そして,本件について,J鑑定人は,平成13年当時までのデータからいえば,術後放射線照射は実施すべきであったとの意見を述べる(鑑定・6頁〔J鑑定人〕,J鑑定人意見書・1頁)。 また,原告協力医であるK医師も,文献上,残存乳房再発率は放射線併用群では7.0パーセント,非併用群は13.9パーセントと有意差が認められており(甲B30・1頁),平成13年当時においても一般的な乳がん専門医であれば,放射線治療は必須であると考えていたはずであり,本件において放射線治療を省略する特段の事情はない旨の意見を述べる(甲B34・7頁,証人K医師反訳書2・4,5頁)。 (3)しかしながら,これらに対しては,次の事情を指摘することができる。 ア医学的知見術後放射線照射は,上記のとおり局所再発のリスクを下げることを目的とするものであって,必ずしも生存率を向上させる目的で実施されるものではなく,他方,放射線皮膚炎や放射線肺臓炎などの副作用が生じることのある治療であった(2(2)エ(ア),(イ))。 そして,日本では,乳房温存療法が当初放射線を照射しない方法で開始された歴史的背景の中で,平成13年当時においては,なお照射未施行の施設からの成績発表も多く,学会レベルで放射線照射群と非照射群との成績が比較検討されるなど,議論がされている段階にあり,術後放射線治療実施が不可欠であることについて広くコンセンサスが得られているという状況ではなかった。すなわち,当時は,大学病院やがんの専門病院など,一定水準以上 るなど,議論がされている段階にあり,術後放射線治療実施が不可欠であることについて広くコンセンサスが得られているという状況ではなかった。すなわち,当時は,大学病院やがんの専門病院など,一定水準以上の病院では,がんの局所再発の危険性についての情報が知られていたが,放射線の効果が一般の医師に浸透するまでのいわば端境期の状況にあった(2(2)エ(ウ),鑑定・5,9頁〔I鑑定人,H鑑定人〕)。 また,平成11年ガイドラインにおいても,永久標本において,連続全 割切片の詳細な病理検索により断端陰性(標本の切除断端から5mm以内にがんが存在する場合を断端陽性とするとされる。)が保証され,かつ,各種画像診断を用いて術前にがんの拡がりを可能な限り検索しその範囲を十分に切除できる術式(乳房扇状部分切除術あるいは乳房円状部分切除術)が選択されたような,残存乳房にがんの遺残がないと判断された場合には,残存乳房の照射を省略できる可能性があるとされていた(2(2)エ(ウ))。 かかる平成11年ガイドラインの記載などを踏まえて,平成13年から平成15年にかけて実施された乳房温存治療のうち,約4分の1が非照射例であった(2(2)エ(ウ))。 文献上も,日本では,平成11年ガイドラインにいう病理検索に基づいた非照射乳房温存手術も比較的多いことが特徴で,年々照射併用の割合が増えてはいるものの平成12年の乳房温存治療の約24パーセントが非照射であったことを指摘するもの(甲B10・1127頁),同様に,乳房温存術後の放射線照射は日常診療において約32パーセントで省略されている旨を指摘するもの(乙B20・2枚目)があった。また,平成13年当時の状況を記したと考えられる平成13年9月10日発行の「最新乳癌診療マニュアル第2版」では,病理組織学的に完全切除されたと考えられ 旨を指摘するもの(乙B20・2枚目)があった。また,平成13年当時の状況を記したと考えられる平成13年9月10日発行の「最新乳癌診療マニュアル第2版」では,病理組織学的に完全切除されたと考えられれば,術後照射は必ずしも必要ではないとの意見も多く,切除範囲をやや大きく設定し,術後放射線治療を行っていないものが30ないし40パーセント存在する,両者にはそれぞれ長所・短所があり,美容的観点も含め,議論は尽きないとされており(乙B7・45,46頁),平成14年1月1日発行の「今日の治療指針2002年版」でも,腫瘤摘出術又は乳房円上部分切除術の場合は,術後温存乳房に対して照射を施行するのが原則であるとしつつ,切除範囲の広い乳房扇状部分切除術の場合は除外されている(甲B7・776頁)。 イ本件における事情亡Bの乳がんは,術前の触診上,2cm×1.5cm大にとどまっていたところ,C医師は,亡Bがエアロビクスの競技者であると聞いたことから,術後の美容性や外見上の障害へ配慮し,乳房温存手術(外科手術)の術式としては比較的広範囲の90度角の乳房扇状部分切除を選択しつつ,術後の放射線照射は省略することが可能であると判断した(1(1)カ,ク)。 実際の切除の際には,事後的に断端の評価が可能となるよう,高周波メスの使用は最小限にとどめて通常のメスを用い,上記美容性の観点も踏まえて,乳頭部分の乳腺組織は可能な限り残しつつも,がん組織周辺の組織を広範囲にわたって切除した(1(2)ア)。 切除組織については,連続全割切片を入れて標本化された上で病理組織検査が行われ,その結果,がん組織は切除断端には及んでおらず,また,提出されたリンパ節2個にも転移はないと判定された(1(2)ウ)。 ウ鑑定人等の意見I鑑定人は,上記アのような当時の背景から考えて,本件にお れ,その結果,がん組織は切除断端には及んでおらず,また,提出されたリンパ節2個にも転移はないと判定された(1(2)ウ)。 ウ鑑定人等の意見I鑑定人は,上記アのような当時の背景から考えて,本件において術後放射線照射をすべきであったとは考えないとの意見を述べる(鑑定3,4,9,10,23頁〔I鑑定人〕,I鑑定人意見書・1頁)。 また,H鑑定人も,放射線照射をすることがより望ましかったが,放射線照射をした方がよいと広くコンセンサスを得られていたわけではなく,絶対的なものとはいえないし,特に中小の病院の当時のレベルを考えると術後放射線照射をしなくても許されると考えられ,本件の事情によるならば放射線照射をしないという判断は間違いとはいえないとの意見を述べる(鑑定・5,12,23頁〔H鑑定人〕,H鑑定人意見書・1頁)。 そして,J鑑定人も,平成13年当時も,除外できる理由がない限り放射線療法を行うことが強く推奨されており,当時の病理医のレベルに照ら して,放射線治療は実施すべきであったと考えるが,本件の事情によれば,当時,断端陰性との病理組織報告を受けた一般の医師が,その報告を信頼して,放射線非照射とすることも考えられる選択肢の一つだと思うとの意見を述べる(鑑定・5,6,13,14,22,23頁〔J鑑定人〕)。 なお,被告協力医であるL医師は,放射線照射の第一義が局所制御にあるうえ,切除断端が陰性で,腋窩リンパ節転移が陰性である本件においては,放射線療法を施行することが義務であるとは考えられない旨の意見を述べ(乙B30・3頁),C医師自身も,本件のように広範囲の切除を行って,肉眼的あるいは顕微鏡的に十分なフリーマージンを確保している場合においては必ずしも放射線治療を要しないと考えていると述べる(証人C医師反訳書1・12頁)。 (4)以上の うに広範囲の切除を行って,肉眼的あるいは顕微鏡的に十分なフリーマージンを確保している場合においては必ずしも放射線治療を要しないと考えていると述べる(証人C医師反訳書1・12頁)。 (4)以上の事情を併せて考えると,当時,亡Bに対して術後放射線照射を実施することがより望ましいものであったとはいえるものの,①平成13年当時の術後放射線治療に関する議論の状況,②本件においては,切除範囲の広い90度角の乳房扇状部分切除術が行われ,かつ,切除断端陰性との報告がなされるなど,平成11年ガイドラインでいう術後放射線照射を省略できる可能性がある場合に準じた状況にあったと認められることなどに照らし,亡Bに対して術後放射線照射を実施しなかったことは,採用され得る治療方針の一つであったと解され,当時の医療水準に照らして許されないものであったとは言い難い。 (5)なお,原告が主張するとおり,本件温存手術から約1年後の平成14年6月3日付けのD病理部作成の報告書では,本件温存手術によって切除された組織は,断端をきちんと考慮されたものではないため,断端の評価はできないとされたことが認められる(1(4)カ)。また,文献によると,Dにおいては,乳頭から腫瘤を結ぶ線に垂直な5mm幅の全割切片を熟練した病理医が詳細に検討し,断端から5mm以内にわずかにでもがんを認める場合を 断端陽性とする非常に厳しい判定を行っており,この厳しい判定でなお断端陰性であった症例は原則として非照射とする方針としていたとされる(甲B10・1127頁)。これらによると,本件温存手術におけるC医師の切除方法,あるいは摘出された右乳房腫瘍部分等について実施されたGにおける病理検査方法は,Dにおいて断端の評価を行う上での要求水準に必ずしも一致するものではなかったことがうかがわれるところであ 師の切除方法,あるいは摘出された右乳房腫瘍部分等について実施されたGにおける病理検査方法は,Dにおいて断端の評価を行う上での要求水準に必ずしも一致するものではなかったことがうかがわれるところである。 しかしながら,鑑定人3名が一致して述べるとおり,平成13年当時においては,Dにおける病理診断のレベルと一般病院における病理診断のレベルとでは非常に大きな開きがあったものと認められ(鑑定・11ないし13頁〔H鑑定人,I鑑定人,J鑑定人〕),かかるDにおける病理診断の水準を当時の一般病院における医療水準ととらえることはできない。J鑑定人も,当時であれば,断端陰性という病理報告が返ってきたら,それをそのまま信じて,断端陰性と解釈したことは間違いではない旨の意見を述べるところである(鑑定・13頁〔J鑑定人〕)。 したがって,この点の事情は,(4)の判断を左右するものとはいえない。 (6)以上によれば,被告病院あるいはC医師が術後放射線照射を行うべき注意義務に違反したとは認められない。 争点(2)(十分な化学療法(補助療法)を行うべき注意義務違反)について(1)CMFによるべき注意義務についてア原告は,被告病院の医師は,本件温存手術後の化学療法として,標準的治療であったCMFによるべき注意義務があったにもかかわらず,フルツロン単剤を投与するのみで,上記注意義務に違反した旨を主張する。 イそこで検討すると,確かに,海外の臨床試験において,CMF療法の有効性が確認され,平成13年当時において,術後補助療法としての化学療法としては,シクロフォスファミド,メトトレキサート,フルオロウラシルを組み合わせた多剤併用療法であるCMF療法が標準的な治療法の一つ となっていたことが認められる(2(3)ア)。また,H鑑定人は,本件温存手術後の化学療法と ,メトトレキサート,フルオロウラシルを組み合わせた多剤併用療法であるCMF療法が標準的な治療法の一つ となっていたことが認められる(2(3)ア)。また,H鑑定人は,本件温存手術後の化学療法としては,再発抑制効を示すデータが少数であったフルツロンよりも,再発抑制効が証明されていたCMF療法によった方がより望ましかった旨の意見を述べる(H鑑定人意見書・1,2頁)。 ウしかしながら,他方,平成12年ころまで,日本では外科医が化学療法を担当し,その中で,副作用が軽微で,進行再発乳がんにも35パーセントの奏功率が認められるとされていたフルツロンなどの経口抗がん剤が広く普及しており,一般市中病院では,フルツロンの内服が一般的であったことが認められる(鑑定・24ないし27頁〔I鑑定人,J鑑定人,H鑑定人〕)。 また,平成13年当時,CMF療法とフルツロン等を使い分ける基準は確立していなかったこと,平成12年7月には,CMF療法(6サイクル)と,フルツロンと同じ経口抗がん剤であるUFTとタモキシフェン(ノルバデックス)の併用療法(2年間)との比較試験で,効果は同等で,UFT投与群に良好なQOLを保つ結果となった旨の報告もあったこと,平成19年になっても,CMF療法(6サイクル)と,リュープロレリン(リュープリン)(2年間)との比較で,ER陽性又は不明の患者599例につき,リュープロレリンが再発率で同等で,生存率は有意に改善したとの報告もされていることが認められる(2(3)ア)。 そして,I鑑定人及びJ鑑定人は,平成13年当時は,上記のとおり既に広く用いられていたフルツロン等の経口抗がん剤の効果について検証が行われていた時期であり,フルツロンではなくCMF療法を行うべきであったとはいえない旨の意見を述べ(鑑定・24ないし27頁〔I鑑定人,J鑑 いられていたフルツロン等の経口抗がん剤の効果について検証が行われていた時期であり,フルツロンではなくCMF療法を行うべきであったとはいえない旨の意見を述べ(鑑定・24ないし27頁〔I鑑定人,J鑑定人〕,I鑑定人意見書・1,2頁,J鑑定人意見書・1,2頁),H鑑定人も,上記のとおりフルツロンよりもCMF療法の方がより望ましかったとしつつ,他方で,CMF療法にはかなりの副作用があり,一般市 中病院においてCMF療法を行うのは難しい面もあり,フルツロンの内服によるのは普通の方法であると考えるとの意見も述べる(鑑定・24,27頁〔H鑑定人〕)。 さらに,原告協力医であるK医師も,フルツロン単剤でやることも悪くはないとは思う旨も述べているところである(証人K医師反訳書2・5頁)。 エ以上の事情によると,被告病院あるいはC医師において,本件温存手術後の化学療法としては,必ずしもCMF療法によらなければならなかったとまではいえず,フルツロンを投与したことが当時の医療水準を満たさないものであったとは認められない。 (2)ホルモンレセプター検査についてア原告は,被告病院の医師は,亡Bにつきホルモンレセプターを検査しておらず,亡Bのホルモンレセプター陰性のハイリスク患者であるとの認識をもたなかったために,適切な術後補助療法を実施できなかった旨を主張する。 イ確かに,術後補助療法としてのホルモン療法を行うに当たっては,ホルモン反応性の有無を判定するためにホルモンレセプター検査を実施するのが一般であったと認められ(2(4)イ),鑑定人3名は,いずれも,本件においてホルモンレセプター検査を実施すべきであったし,仮にかかる検査を行っていれば,亡Bの乳がんについてはホルモンレセプター反応性なしとの結果が出たと考えられる旨の意見を述べる(ただし,I鑑 本件においてホルモンレセプター検査を実施すべきであったし,仮にかかる検査を行っていれば,亡Bの乳がんについてはホルモンレセプター反応性なしとの結果が出たと考えられる旨の意見を述べる(ただし,I鑑定人は,E病院における検査でプロゲステロンレセプター弱陽性の結果が出たこともあることを踏まえ,プロゲステロンレセプター陰性との結果となったか否かは断定できないとする。鑑定・32ないし35,38ないし42頁〔H鑑定人,I鑑定人,J鑑定人〕,H鑑定人意見書・2頁,I鑑定人意見書・2,3頁,J鑑定人意見書・2頁)。 また,K医師も,ホルモンレセプターの検索がされていないことを問題とする旨の意見を述べる(甲B34・6頁)。 ウそこで,本件において,ホルモンレセプター検査をいかなる方法で行うことができたかについて検討する。 平成13年当時においては,ホルモンレセプター測定方法としては5mmないし10mm角の新鮮生標本を必要とする生化学的方法が主流であったところ,本件で平成13年6月13日の外科的生検で採取した検体(触診上2cm×1.5cm程度の腫瘍を含むもの)については,当時は乳がんとの確定診断前であったため,生化学的方法で検査を行うことは,保険の適用外であり,できなかったことが認められる(証人C医師反訳書1・5頁,同3・40,41頁,鑑定・30頁〔J鑑定人〕)。また,生化学的方法では,検体を十分量確保できない場合にはホルモンレセプターの測定はできないと認められるところ(2(4)イ),同月29日の本件温存手術で採取した検体については,検体量が小さく生化学的方法による測定は困難であったと認められる(証人C医師反訳書1・4ないし6頁,同3・6,7,25頁)。さらに,免疫組織染色法については,当時は保険適用外であったことから被告病院では実施しなかっ 学的方法による測定は困難であったと認められる(証人C医師反訳書1・4ないし6頁,同3・6,7,25頁)。さらに,免疫組織染色法については,当時は保険適用外であったことから被告病院では実施しなかったものと認められる(証人C医師反訳書3・40,41頁,証人K医師反訳書4・28頁)。そして,この診療経過を踏まえて,J鑑定人は,ホルモンレセプター検査はすべきであったとは思うが,検体量が十分でなく,測定できなかった可能性が高く,検査を実施できなかったということについて責めるべきものはないと考えられるとの意見を述べる(鑑定・32,33頁〔J鑑定人〕,J鑑定人意見書・2頁)。 この点に関し,H鑑定人は,自分なら平成13年6月13日の外科的生検で採取した検体の半分くらいを専用のフリーザーに凍結しておいて,これを用いて生化学的方法を実施したかと思うし,あるいは保険適用外であ るとしても検査センターに頼んで免疫組織染色法を実施してもらった方がよいと個人的には思う旨の意見を述べ(鑑定・33,34頁〔H鑑定人〕),K医師も,保険適用外であっても,病院からの持ち出しで免疫組織染色法によって検査をすべきであったとの意見を述べる(証人K医師反訳書4・10,11,28頁)。しかしながら,H鑑定人自身,被告病院には,専用のフリーザーもないであろうから,半分くらいを凍結しておく方法は難しかったのではないかと述べているし(鑑定・33,34頁〔H鑑定人〕),保険適用外の検査を被告病院の持ち出しで行うべき義務があったとも言い難いから,これらの意見を踏まえても,被告病院あるいはC医師においてこれらの方法を採るべき法的義務があったとまではいえない。 そうすると,被告病院あるいはC医師において,本件においてホルモンレセプター検査を実施しなかったことはやむを得なかったものと言 C医師においてこれらの方法を採るべき法的義務があったとまではいえない。 そうすると,被告病院あるいはC医師において,本件においてホルモンレセプター検査を実施しなかったことはやむを得なかったものと言うべきである。 エそして,上記のとおり,ホルモン反応性不明確の場合(ホルモンレセプター測定自体が実施できない場合も含む。)には,ホルモン療法のメリットを考慮して,ホルモン療法の実施が有用とされていたものと認められる(2(4)イ)。 そうすると,被告病院あるいはC医師において,本件において,ホルモン反応性不明確として亡Bに対してタモキシフェンやリュープリンを投与したことも許されないものとはいえず,また,被告病院において,ホルモン反応性がないことを前提とした治療を行わなければならないものともいえない。 オなお,鑑定人3名は,いずれも,仮にホルモンレセプター検査を実施して,ホルモンレセプター反応性なしとの結果が出ていたとしても,化学療法としてはやはりフルツロンによることも考えられるところであって,フルツロンではなくCMF療法を行うべきであったとはいえないとの意見は 変わるものではないとの意見を述べるところである(鑑定・38ないし42頁〔H鑑定人,I鑑定人,J鑑定人〕)。 そうすると,仮にホルモンレセプター検査を実施し,亡Bの乳がんについてホルモンレセプター反応性がないとの結果が得られたとしても,術後の化学療法としてフルツロンを投与することは,十分にあり得る治療方法であったということができる。 したがって,被告病院あるいはC医師において,本件温存手術後の化学療法としてCMFではなくフルツロンを用いたことが,当時の医療水準を満たさないものであったということはできない。 (3)局所再発後の化学療法変更義務についてア原告は,平成13年12月1 後の化学療法としてCMFではなくフルツロンを用いたことが,当時の医療水準を満たさないものであったということはできない。 (3)局所再発後の化学療法変更義務についてア原告は,平成13年12月10日に亡Bの右乳房内に腫瘤が再度発見された際,被告病院の医師は,フルツロンから標準的治療であったCMFに化学療法を変更すべき注意義務を負っていたにもかかわらず,漫然とフルツロンの投与とホルモン療法を継続し,もって上記注意義務に違反した旨を主張する。 イそして,本件において,C医師は,平成13年12月10日に亡Bの右乳房内に腫瘤があることを認め,乳がんの再発を疑い,同月26日には本件追加手術を行った後も,従前と同様に,フルツロン,ノルバデックス,リュープリンの投与を継続したことが認められるところ(1(3)ア,イ),確かに,局所再発が確認された場合には,従前の抗がん剤の増量・変更などを含めて,再発乳がんに対していかなる治療を行うかを検討する必要があると考えられるところである(2(3)イ)。 そして,J鑑定人は,本件においては,約6か月にわたってフルツロンを使用しながら,従前は存在しなかった乳がんができたと考えられるから,フルツロンは効いていないものと判断して,CMFなどの他の抗がん剤に変更すべきであった旨の意見を述べる(鑑定・42,43,48,49頁 〔J鑑定人〕,J鑑定人意見書・2,3頁)。また,I鑑定人も,初回治療から乳房再発までの期間は短く予後不良であることが考えられ,J鑑定人の言うような強力な抗がん剤へ変更するという選択肢もあってよいとの意見を述べる(鑑定・47,51,52頁〔I鑑定人〕,I鑑定人意見書・3頁)。K医師も,再発したということは最初使っていた抗がん剤は効かないということで,再発すると抗がん剤は変更するのが普通である旨 意見を述べる(鑑定・47,51,52頁〔I鑑定人〕,I鑑定人意見書・3頁)。K医師も,再発したということは最初使っていた抗がん剤は効かないということで,再発すると抗がん剤は変更するのが普通である旨の意見を述べる(証人K医師反訳書2・5頁)。 ウしかしながら,上記のとおり,乳房温存治療後に局所再発が確認された場合には,従前の抗がん剤の増量・変更などを含めて,再発乳がんに対していかなる治療を行うかを検討するのが一般的な医師の対応ではあるものの,具体的にいかなる治療方針を選択すべきかについては,現在においても十分なデータは得られておらず,平成13年当時においても,医師によって治療方針が異なる状況にあったものと認められる(2(3)イ)。すなわち,I鑑定人は,本件のような再発乳がんに対して,乳房温存治療を行うか,それとも乳房切除術を行うか,さらには乳房温存治療後の補助療法としての化学療法としていかなる抗がん剤を使用するか,従前の抗がん剤を変更するか,その場合,薬剤を変更するのか,量を増やすのかなど,様々な選択肢があるところ,これらについてのデータやエビデンスはなく,医師あるいはその医師の経験によって判断が分かれるところであるとの意見を述べる(I鑑定人は「百花繚乱」であると表現する。鑑定・43ないし48頁〔I鑑定人〕)。 そして,本件について,H鑑定人は,J鑑定人のような判断もあり得るとしつつ,自分であれば,フルツロンの投与を開始してまだ6か月未満であり,フルツロンの効果が十分に見えないので,これを継続するという判断をしたと考えられ,直ちにフルツロンを他の抗がん剤に変更すべき必要はない旨の意見を述べるところであり(鑑定・44,45頁〔H鑑定人〕, H鑑定人意見書・2,3頁),J鑑定人も,このような場合には定まった考えはない,決まった考え を他の抗がん剤に変更すべき必要はない旨の意見を述べるところであり(鑑定・44,45頁〔H鑑定人〕, H鑑定人意見書・2,3頁),J鑑定人も,このような場合には定まった考えはない,決まった考えはないというふうにとらえていただきたいし,したがって,おそらく担当医,治療医によってかなり治療法が変わってきた可能性はあるとの意見を述べるところである(鑑定・48,49頁〔J鑑定人〕)。 エ以上の事情を総合考慮すると,再発後の乳癌の治療法に定まった考え方はなく,C医師において,平成13年12月10日に亡Bの右乳房内に腫瘤が再度発見された後,本件追加手術を行ったうえ,フルツロンを継続すると判断したことも,あり得る選択肢の一つであったと考えられるから,フルツロンからCMFに抗がん剤を変更すべき注意義務があったとまではいえないし,フルツロンの投与を継続したことが当時の医療水準を満たさないものであったとも認められない。 (4)したがって,被告病院あるいはC医師が十分な化学療法(補助療法)を行うべき注意義務に違反したとは認められない。 争点(3)(リンパ節郭清を適切に行うべき注意義務違反)について(1)原告は,被告病院の医師は,本件温存手術の際,リンパ節転移の有無や正確な病期の決定のため,相当数(10個以上)のリンパ節を郭清すべき注意義務を負っていたにもかかわらず,客観的にはリンパ節を2個しか郭清せず,上記注意義務に違反した旨を主張する。 (2)そこで検討すると,確かに,腋窩リンパ節郭清について,平成11年ガイドラインにおいては,レベルⅠ(小胸筋より外側のリンパ節),レベルⅡ(小胸筋裏面のリンパ節)の範囲の郭清をするのが標準であるとされているものと認められ(2(2)ウ(ア)),また,K医師は,リンパ節の検索個数としては最低10個,理想的には 外側のリンパ節),レベルⅡ(小胸筋裏面のリンパ節)の範囲の郭清をするのが標準であるとされているものと認められ(2(2)ウ(ア)),また,K医師は,リンパ節の検索個数としては最低10個,理想的には20個は必要であり,本件では少ないと考える旨の意見を述べる(甲B34・5頁,証人K医師反訳書2・4頁。なお,甲B19ないし21参照)。文献上も,正確な病期の決定と腋窩再発のリスク を下げるため,レベルⅠ,Ⅱのリンパ節は切除されるべきである旨を指摘するものもある(甲B12・1枚目)。 (3)しかしながら,腋窩リンパ節郭清は,その有無によって生存率に有意な差が生じないとされ,治療目的というよりも,リンパ節への転移の有無の確認とこれに伴う乳がんの悪性度を判断する目的で実施されるものとされている。その一方で,リンパ節郭清をした場合,患者には上肢や腋窩の疼痛や腫脹,知覚障害などの副作用ないし合併症が生じる危険があることが指摘されている。したがって,平成11年ガイドラインは,リンパ節郭清の範囲について,リンパ節転移の程度,各施設の治療方針によって,レベルⅠにとどめることもあり得るとしているし,現在では,広範囲でのリンパ節郭清を行うのではなく,1ないし2個のリンパ節(見張りリンパ節)のみ切除してリンパ節転移の有無を判断し,副作用等を最小限に抑えることのできるセンチネル・リンパ生検の手法が導入されつつある状況にある(2(2)ウ(イ)ないし(エ)。なお,甲B19ないしB21参照)。 そして,本件において,C医師は,本件温存手術前に胸部CT検査を実施し,右腋窩に1cm弱のリンパ節の結節性の陰影が3個ほど存在することを確認した上で,リンパ節郭清を行ったことが認められ(1(1)ク),L医師は,かかる手法はセンチネル・リンパ節生検の先駆的手法として矛盾はなく, cm弱のリンパ節の結節性の陰影が3個ほど存在することを確認した上で,リンパ節郭清を行ったことが認められ(1(1)ク),L医師は,かかる手法はセンチネル・リンパ節生検の先駆的手法として矛盾はなく,少なくとも腋窩リンパ節のサンプリングとしての意義が認められる旨の意見を述べる(乙B30・5頁)。 (4)これらの事情に照らすと,平成13年当時においては,リンパ節郭清の範囲について,必ず10個以上切除しなければならないと考えられていたとはいえず,リンパ節転移が疑われる程度,治療方針等の具体的状況によっては切除するリンパ節を限定する手法もあり得たものと解される。そして,C医師は,術前に右腋窩のリンパ節の具体的状況を確認した上で本件温存手術に臨み,術中,肉眼ないし触診で確認しながらリンパ節3ないし4個を切除 しようとしたものと認められるから,被告病院あるいはC医師において,原告の主張するように相当数(10個以上)のリンパ節を郭清すべき注意義務を負っていたとは言い難いし,実際に行われたリンパ節郭清が当時の医療水準を満たさないものであったともいえない。 (5)したがって,被告病院あるいはC医師がリンパ節郭清を適切に行うべき注意義務に違反したとは認められない。 原告の説明義務違反の主張について(1)なお,原告は,平成21年1月15日付け準備書面15及び同月26日付け最終準備書面において,被告病院の医師が,亡Bに対し,術後放射線照射の乳房温存治療における位置づけ,照射を行う場合と行わない場合のそれぞれの利益と不利益,さらには補助療法としての化学療法として多剤併用療法が存在・推奨されること,本件においてフルツロンを用いる理由等についての説明を怠り,これによって亡Bの自己決定権が侵害された旨の主張を記載し,これらの準備書面を同日の第4回口頭弁論 して多剤併用療法が存在・推奨されること,本件においてフルツロンを用いる理由等についての説明を怠り,これによって亡Bの自己決定権が侵害された旨の主張を記載し,これらの準備書面を同日の第4回口頭弁論期日において陳述したことが記録上明らかである。 (2)しかし,記録によれば,本件訴訟手続の経緯として,次の事実が認められる。 ア亡Bは,本件訴訟提起に先立つ平成15年3月27日付けで陳述書(甲A5)を作成した。この陳述書には,C医師の本件温存手術とその後の治療に関する説明は,①まず第一に,生検のため患部にメスを入れていることから,なるべく早い時期に追加手術を行うべきである,②初期の乳がんであることから,乳房温存手術を行い,腋窩のリンパ節を一部取って転移の有無を調べ,同時に左側の乳房下部にある小さなしこりを生検する,③温存手術は一般的に20パーセント程度の再発の危険を残すが,これは術後療法でカバーする,④術後は乳がんの発育を促す女性ホルモンを抑えるために,ホルモン療法を実施する。具体的にはリュープリン皮下注射(こ れは生理を止める薬と説明)を4週間に一回,ノルバデックスの投与,さらに化学療法として抗がん剤のフルツロンカプセルを投与する。いずれも飲薬で副作用はひどいものではなく,2年から5年程度ケアして何もなければ再発の危険率は普通の人と同じくらいに低下したと考えてよい。右療法を行いながら定期的に必要な検査を行う,⑤(放射線治療は必要ないのですか,と私から質問したことに対して)放射線は当てるところがないので予定していない。また放射線は新たな発がんの危険もあるので,あなたの場合は当てないほうがよい,というものであった旨が記載されている。 イ亡Bは,原告訴訟代理人弁護士3名を訴訟代理人として,平成16年11月26日,本件訴訟を提起した。 んの危険もあるので,あなたの場合は当てないほうがよい,というものであった旨が記載されている。 イ亡Bは,原告訴訟代理人弁護士3名を訴訟代理人として,平成16年11月26日,本件訴訟を提起した。 ウ平成17年1月24日,第1回口頭弁論期日が行われた後,同年3月18日から平成19年11月7日まで,19回にわたって弁論準備手続期日が実施され,争点整理等が行われた(なお,この間の平成17年8月22日に亡Bが死亡し,夫である原告が本件訴訟を承継した。)。 エ当裁判所は,ウの争点整理等に基づいて,平成19年12月19日,事実整理案(修正後の最終案)を原告被告双方に送付した。なお,かかる事実整理案においては,争点は,①放射線療法施行義務違反,②十分な化学療法(補助療法)を行うべき注意義務違反,③リンパ節郭清を適切に行うべき注意義務違反,④因果関係,⑤損害とされており,説明義務違反は争点とされていなかった。 オ翌20日,第2回口頭弁論期日においてC医師等の証人尋問が実施された。C医師は,被告訴訟代理人弁護士の質問に対し,アの陳述書記載の①ないし③については亡Bに説明し,④については手術前には概略を説明し,詳細は手術後に説明した,⑤については記憶になく,広範囲の切除を行った場合は放射線治療を省略することができるという意味の話をしたと思う,亡Bの日常生活について質問し,亡Bがエアロビクスのインストラクター や競技活動をしていると聞き,美容性,運動能力を考慮して治療法の選択を行った旨を証言し(証人C医師反訳書1・14ないし16頁),他方,原告訴訟代理人弁護士の質問に対し,放射線治療が必要か,望ましいかについて説明し,亡Bの意向を聞いた,放射線治療の必要性のある場合とない場合,副作用,術後の障害についても説明をした,広範囲に切除をした場合のメリ 弁護士の質問に対し,放射線治療が必要か,望ましいかについて説明し,亡Bの意向を聞いた,放射線治療の必要性のある場合とない場合,副作用,術後の障害についても説明をした,広範囲に切除をした場合のメリット,狭い範囲に行った場合のデメリット等についてはカルテのスケッチを示しながら説明した,放射線照射をしない場合のリスクについても説明したと証言した(証人C医師反訳書3・10,11頁)。 カ平成20年2月5日,第20回弁論準備手続期日において,エの事実整理案が確定された。 キその後,5回にわたって和解期日が実施されたが,原告被告は和解に至らなかった。原告は,平成20年7月18日付けで鑑定の申し出をし,同年9月17日にかかる鑑定申し出が採用され,同年11月25日の第3回口頭弁論期日において,鑑定人尋問が実施された。なお,エの事実整理案が鑑定資料の一つとして鑑定人3名にそれぞれ示された。 クその後,再度和解期日が実施されたが,原告被告は和解に至らず,平成21年1月7日,同月26日が弁論終結予定の第4回口頭弁論期日として指定された。 (3)ア(2)のとおり,本件訴訟においては,2年7か月余りにわたって争点整理を行い,これに基づいて事実整理案が作成され,これに基づいて証人尋問や鑑定が行われた後,原告は,訴訟提起から約4年が経過して弁論終結が予定された平成21年1月15日になって,(1)のとおり,事実整理案にない新たな注意義務違反である説明義務違反の主張を追加提出したのであるから,これが時機に後れた攻撃防御方法の提出であることは明らかである。 イまた,(2)アのとおり,亡Bは本件訴訟提起以前の段階でC医師の説明 内容を記載した陳述書を作成していること,本件訴訟進行中に亡Bが死亡し,夫である原告が訴訟を承継したという事情があるとはいえ,当初から 2)アのとおり,亡Bは本件訴訟提起以前の段階でC医師の説明 内容を記載した陳述書を作成していること,本件訴訟進行中に亡Bが死亡し,夫である原告が訴訟を承継したという事情があるとはいえ,当初から原告訴訟代理人弁護士3名が一貫して亡Bあるいは原告の訴訟代理人として訴訟活動を行っていたことなどに照らすと,原告において,第一審手続の終盤に至るまでの約4年間,説明義務違反の主張をしなかったことに合理的な理由があるとは考えられない。 ウそして,C医師の証人尋問において,C医師が,亡Bに対し,化学療法としての多剤併用療法の存在や,フルツロンを用いる理由等についていかなる説明をしたかについては,質問されておらず,原告が主張する説明義務違反の有無について判断するためには,少なくとも,C医師に対し,上記の点について,再度の証人尋問を実施する必要があるとも考えられ,本件訴訟の完結を遅延させるものといえる。 (4)したがって,当裁判所は,平成21年1月26日の第4回口頭弁論期日において,民事訴訟法157条1項に基づき,(1)の原告の説明義務違反に係る主張を時機に後れた攻撃防御方法として却下した。 結論 以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第30部裁判長裁判官秋吉仁美 裁判官大嶺崇裁判官古谷真良

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