平成13(行ウ)42 若宮町違法公金支出返還請求事件

裁判年月日・裁判所
平成14年9月24日 福岡地方裁判所 住民訴訟
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判決文本文8,243 文字)

主文 1 被告は若宮町に対し,金101万4600円及びこれに対する平成13年12月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は,参加によって生じた費用は参加人の負担とし,その余は被告の負担とする。 3 この判決は仮に執行することができる。ただし,被告が金70万円の担保を供するときは,上記仮執行を免れることができる。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 原告ら(1) 主文1,2項同旨(2) 仮執行宣言 2 被告(本案前の申し立て)(1) 平成12年9月25日以前の支出金については,原告らの訴えを却下する。 (2) 訴訟費用は原告らの負担とする。 (本案に対する申し立て)(1) 原告らの請求を棄却する。 (2) 訴訟費用は原告らの負担とする。 (3) 仮執行免脱宣言第2 事案の概要本件は,法律又は条例に根拠を有していない「若宮町教育施設適正化審議会」(以下「教育施設適正化審議会」という。),「若宮町商工観光振興審議会」(以下「商工観光振興審議会」という。),「若宮町農業振興審議会」(以下「農業振興審議会」という。)の各委員に対する報酬,費用弁償名目の公金支出につき,同各委員会委員は若宮町の条例が規定する「特別職の職員」に該当していないのに,「若宮町特別職の職員及び教育長の給与等に関する条例」又は「若宮町非常勤特別職の職員の費用弁償条例」に基づく違法な支出であって,若宮町の町長である被告は,支出手続担当者への指揮・監督を怠って上記違法な公金支出をさせ,若宮町に対し損害を与えたとして,同町の住民である原告らが,住民訴訟として,損害の賠償請求を行っている事件である。 1 当事者間に争いのない事実(1) 原告らはいずれも若宮町の住民であり,被告は,後記記載の公金支出時から今日に至るまで, 民である原告らが,住民訴訟として,損害の賠償請求を行っている事件である。 1 当事者間に争いのない事実(1) 原告らはいずれも若宮町の住民であり,被告は,後記記載の公金支出時から今日に至るまで,若宮町長の職にあり,地方自治法149条,地方財政法8条に基づき,若宮町の予算執行,財産の管理・運用を行う責任を負う者である。 (2) 若宮町では,被告が町長として平成12年5月1日に施行した「若宮町教育施設適正化審議会要綱」,同年10月25日に施行した「若宮町商工観光振興審議会規則」,同年11月9日に施行した「若宮町農業振興審議会規則」が制定され,「教育施設適正化審議会」,「商工観光振興審議会」,「農業振興審議会」(以下3審議会を併せて「本件各審議会」という。)が設置された。 (3) 被告は町長として支出手続担当職員(支出負担行為または支出命令権限を有する職員)をして,平成12年6月1日以降平成13年3月27日まで,本件各審議会の各委員に対し,別紙公金支出目録記載のとおり報酬,費用弁償の名目で公金を支出させた(以下「本件公金支出」という)。 (4) 原告らは,本件公金支出が法律及び条例に根拠を持たない違法公金支出であるとともに,上記各委員会の委員の採用が恣意的であって被告町長の選挙対策のための不当な公金支出であるとして,若宮町監査委員に対し,平成13年9月25日付けで監査請求を行ったが,同年11月20日,同監査委員は,本件各審議会は私的諮問機関に過ぎないとして,原告らの住民監査請求を棄却した。 2 争点(本案前の抗弁について)(1) 被告の主張住民監査請求より1年以上前の支出である平成12年9月25日以前の支出については,地方自治法242条2項本文によって住民監査請求の対象となりえず,住民訴訟も提起できない。同項ただし書きの「正当な理由」とは 査請求より1年以上前の支出である平成12年9月25日以前の支出については,地方自治法242条2項本文によって住民監査請求の対象となりえず,住民訴訟も提起できない。同項ただし書きの「正当な理由」とは,当該行為が住民に隠れて秘密裏にされた場合又は当該行為が公然と行われたものであってもその内容を偽る等当該行為について仮装・隠蔽行為が行われた場合で,住民が当該行為の内容を知り得なかったというだけでは足りず,天災地変等による交通途絶のために監査請求期間を経過したなど,他に監査請求期間経過後においても監査請求を認めることを相当とする特別の事情が存することを要するのであって,本件は上記要件を満たしておらず,正当の理由があるとはいえない。 (2) 原告らの主張原告ら住民が,本件公金支出の存在とこれが違法であることを知ったのは,平成13年4月初めに町会議員であるAから「若宮町21まちづくり委員会」(以下「まちづくり委員会」という。)が条例上の根拠がないとの説明を受けて,「まちづくり委員会」の委員に対する公金支出が違法であるとの住民監査請求を行った同年6月4日以降であって,地方自治法242条2項本文所定の期間は同日から起算すべきであり,仮に同項本文の期間が経過しているとしても,同項ただし書の正当の理由がある。 (本案について-本件公金支出の違法性)(1) 原告らの主張本件公金支出は,「若宮町特別職の職員及び教育長の給与等に関する条例」及び「若宮町非常勤特別職の職員の費用弁償条例」に基づき支出されているが,本件各審議会は,その庶務を執行機関が行うなど地方自治法202条の3に定める附属機関に該当するのに,法律又は条例に根拠を持つものではないから,同委員会の委員は,前記若宮町の条例が規定する「特別職の職員」に該当せず,同条例に基づいて本件各審議会委員に 法202条の3に定める附属機関に該当するのに,法律又は条例に根拠を持つものではないから,同委員会の委員は,前記若宮町の条例が規定する「特別職の職員」に該当せず,同条例に基づいて本件各審議会委員に対し,報酬,費用弁償を支給することはできない。 地方自治法203条5項及び204条3項は,「報酬,給料,手当の額並びにその支給方法は条例で定めなければならない」旨規定し,同法204条の2は「いかなる給与その他の給付も法律又は条例に基づかなければ職員等に支給することができない」旨定めている(給与条例主義)ところ,本件公金支出は給与条例主義に違反した違法支出である。 被告は町長として,支出手続担当者への指揮・監督を怠り,違法な公金支出によって金101万4600円の損害を若宮町に与えたものであるから,その損害を賠償する責任がある。 (2) 被告の主張地方自治法は法律又は条例に根拠を持たない「附属機関」の設置を禁止しているところ,「附属機関」にあたらないのであれば,法律又は条例の根拠がなくとも,長の自治組織権に基づいて設置することが可能である。そこで,どのような場合に「附属機関」となるかとの解釈が問題となるが,長の自治組織権は憲法上の権能であり,可能な限り長の自治組織権を尊重する見地から解釈すべきである。そして,かかる見地から見れば,仮に附属機関条例主義の趣旨として「附属機関に対する議会の統制」という点を重視したとしても,少なくとも,一定の課題解決に向けた企画・立案過程の一環としての活動ではなく企画・立案のテーマ選択や要否決定等のための極めて初動段階での情報収集の一環としての活動にすぎない場合で,しかも組織として統一的な意思形成をすることもなく長に対する拘束力も弱いような場合には,要綱等による設置を認めても附属機関条例主義の趣旨に反することはなく 情報収集の一環としての活動にすぎない場合で,しかも組織として統一的な意思形成をすることもなく長に対する拘束力も弱いような場合には,要綱等による設置を認めても附属機関条例主義の趣旨に反することはなく,「附属機関」にはあたらないと解すべきである。 本件各審議会は,特にテーマも定まっていない状況から,自由にテーマを選択して意見を述べるというものであり,計画・立案の極めて初動段階での情報収集の一環としての意味をもつものに過ぎず,なんらかの課題解決に向けた企画立案過程の一環ではない。また,本件各審議会での活動は,委員が自由に意見を出し合って,それを報告するというものであって,組織としての統一的意見を提言するものでもない。 かかる点に照らせば,本件各審議会は「附属機関」にはあたらないと解され,本件各審議会の委員は「審査会,審議会及び調査会の委員その他の構成員」に該当せず,本件公金支出は地方自治法203条,204条に反するものではない。 (本案について-被告の賠償責任)(1) 被告の主張実務上条例に基づかない私的諮問機関の適法性に疑義が出たことがなく,実際上全国的に多数の私的諮問機関が設置されていることからすれば,被告に本件公金支出の適法性に関する適切な判断を要求することはあまりにも酷であって,被告に過失はない。 長としての責任には故意又は重過失を要すべきであって,被告に重過失はない。 (2) 原告の主張長の損害賠償責任については,地方自治法243条の2が適用されず,重過失は必要でなく,軽過失で足り,被告に過失がないとの点は争う。 第3 争点に対する判断 1 本案前の主張に対する判断地方自治法242条2項は,住民監査請求の期間を当該行為のあった日又は終わった日から1年,ただし正当な理由があるときはこの限りではないと定めている。 上記「正当 る判断 1 本案前の主張に対する判断地方自治法242条2項は,住民監査請求の期間を当該行為のあった日又は終わった日から1年,ただし正当な理由があるときはこの限りではないと定めている。 上記「正当な理由」とは,当該行為が1年以前のものであっても,これが秘密裏にされたような場合は,当該行為が1年を経過しているからといって期間の徒過を理由に監査請求ができないとすることは相当でない。したがって,当該行為が秘密裏にされた場合で,当該住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができた時から,相当な期間内に監査請求をした場合,「正当な理由」があるものと解すべきところ,本件各審議会は,後記認定のとおり,その実態が地方自治法138条の4,202条の3に規定された附属機関であると認められ,しかも同委員会の委員に対する本件公金支出は,いずれも附属機関の委員等地方自治法が定める正式な機関に対する支出の形式を取っているが,予算の審議・議決上本件各審議会への支出であることを認識できる項目の記載とはなっていない。 かかる事実からすると本件公金支出は,秘密裏にされたと同様に解すべきである。 証拠(甲6,弁論の全趣旨)によれば,本件各審議会が条例上の根拠をもたないことを知ったのは,「まちづくり委員会」に対する公金支出が違法であるとして住民監査請求を行った平成13年6月4日以降であって,本件公金支出の存在を知ってから4か月経たない期間に本件住民監査請求を行ったことが認められ,同事情からすれば,本件住民監査請求は,「正当な理由」があるものと認めるべきであって,本案前の申立てに関する被告の主張は理由がない。 2 本件公金支出の違法性について(1) 本件各審議会の性格被告は,本件各審議会は地方自治法202条の3第1項が規定する「附属機関」ではなく て,本案前の申立てに関する被告の主張は理由がない。 2 本件公金支出の違法性について(1) 本件各審議会の性格被告は,本件各審議会は地方自治法202条の3第1項が規定する「附属機関」ではなく私的諮問機関である旨主張する。 地方自治法によれば,普通地方公共団体の執行機関は,その担任する事項について調停,審査,審議又は調査等を行う附属機関を法律又は条例の定めるところによって設置することができると規定している(地方自治法138条の4第3項,202条の3第1項)。このことは,執行機関の附属機関を設置するには法律又は条例の定めるところによることを要し,附属機関が法律又は条例で設置されていない場合,附属機関の委員の任命行為は無効であって,委員に対する報酬等の支払いは違法である。 そこで本件各審議会が「附属機関」に当たるか否かにつき検討する。 証拠(甲1,丙1ないし3,4の①ないし⑥,5の①,②,6の①ないし⑥,7の①ないし④,8の①ないし④,9の①,②,10の①ないし④,11の①ないし④)によれば,本件各審議会は,被告が町長として平成12年5月1日に施行した「若宮町教育施設適正化審議会要綱」,同年10月25日に施行した「若宮町商工観光振興審議会規則」,同年11月9日に施行した「若宮町農業振興審議会規則」が制定されて設置されたものであるが,その後本件各審議会に関しては条例が制定され,上記条例はいずれも平成13年3月28日に施行されたこと,「若宮町教育施設適正化審議会要綱」は,その第2条において「審議会は,町長の諮問に応じて町立の小学校並びに幼稚園の適正配置,適正規模,教育水準の向上その他の重要事項について調査審議し,これらの事項について町長に建議するものとする。」と,第6条2項において「審議会の議事は,出席委員の過半数で決し,可否同数のとき 適正配置,適正規模,教育水準の向上その他の重要事項について調査審議し,これらの事項について町長に建議するものとする。」と,第6条2項において「審議会の議事は,出席委員の過半数で決し,可否同数のときは,会長の決するところによる。」と,第7条において「審議会の庶務は教育委員会学校教育課において処理する。」と規定し,「若宮町商工観光振興審議会規則」は,その第2条において「審議会は,町長の諮問に応じて,若宮町の商工観光の振興を図るための調査・研究・審議をおこない,これらの事項について町長に意見を述べるものとする。」と,第6条2項において「審議会の議事は,出席委員の過半数で決し,可否同数のときは,会長の決するところによる。」と,第7条において「審議会の庶務は,企画振興課において処理する。」と規定し,「若宮町農業振興審議会規則」は,その第2条において「審議会は,町長の諮問に応じて,若宮町の農業の振興を図るための調査・研究・審議をおこない,これらの事項について町長に意見を述べるものとする。」と,第6条2項において「審議会の議事は,出席委員の過半数で決し,可否同数のときは,会長の決するところによる。」と,第7条において「審議会の庶務は,農業振興課において処理する。」と規定していること,「教育施設適正化審議会」の委員に対する費用支出は,教育費を款,教育総務費を項,教育委員会費を目とし,節細説として委員報酬又は旅費(費用弁償)という費目であり,「商工観光振興審議会」の委員に対する費用支出は,商工費を款,商工費を項,観光費を目とし,節細説として委員報酬又は旅費(費用弁償)という費目であり,「農業振興審議会」の委員に対する費用支出は,農林水産業費を款,農業費を項,農業振興費を目とし,節細説として委員報酬又は旅費(費用弁償)という費目であることが認められる。 用弁償)という費目であり,「農業振興審議会」の委員に対する費用支出は,農林水産業費を款,農業費を項,農業振興費を目とし,節細説として委員報酬又は旅費(費用弁償)という費目であることが認められる。 以上によれば,「教育施設適正化審議会」の所掌事務は「町長の諮問に応じて町立の小学校並びに幼稚園の適正配置,適正規模,教育水準の向上その他の重要事項について調査審議」すると,「商工観光振興審議会」の所掌事務は「町長の諮問に応じて,若宮町の商工観光の振興を図るための調査・研究・審議」をおこなうと,「農業振興審議会」の所掌事務は「町長の諮問に応じて,若宮町の農業の振興を図るための調査・研究・審議」をおこなうというのであって,これは地方自治法138条の4第3項が規定する「諮問又は調査のための機関」といわざるをえないこと,本件各審議会の委員に対する費用支出が,条例上の根拠を有する附属機関としての委員に対する費用支出の項目でなされており,かかる事実からすると,本件各審議会は地方自治法138条の4第3項が定める附属機関としての実態を有しているといわざるをえない。 被告は,本件各審議会が一定の課題解決に向けた企画・立案過程の一環としての活動ではなく,企画・立案のテーマ選択や要否決定等のための極めて初動段階での情報収集の一環に過ぎない場合で,しかも組織として統一的な意思形成をすることもなく,長に対する拘束力も弱いような場合には,要綱等による設置を認めても附属機関条例主義の趣旨に反することはなく,附属機関には当たらない旨主張するところ,同主張は独自の見解であって,本件各審議会がその後条例上の附属機関となっていること,本件各審議会が私的諮問機関であるといいながら,本件各審議会の事務局が若宮町の執行機関内に置かれる等地方自治法202条の3第3項を意識した規定と 件各審議会がその後条例上の附属機関となっていること,本件各審議会が私的諮問機関であるといいながら,本件各審議会の事務局が若宮町の執行機関内に置かれる等地方自治法202条の3第3項を意識した規定となっているなどの実態からすると,本件各審議会は地方自治法138条の4第3項が規定する執行機関の附属機関であると解すべきである。 (2) 本件各審議会の委員に対する公金支出の違法性公金支出が法律又は条例に基づくことを要することはいうまでもないところ,前記認定のとおり本件各審議会が執行機関の附属機関であるとすると,若宮町において制定されている「若宮町特別職の職員及び教育長の給与等に関する条例」(甲3)又は「若宮町非常勤特別職の職員の費用弁償条例」(甲4)が本件公金支出の根拠となるべきである。 しかしながら,本件各審議会は,平成13年3月27日までの間は法律又は条例に基づかない附属機関であって,本件公金支出は,上記「若宮町特別職の職員及び教育長の給与等に関する条例」又は「若宮町非常勤特別職の職員の費用弁償条例」のいずれにもその根拠を求めることはできず,他に本件公金支出を根拠づける法令はない。 そうすると,本件公金支出は,法令に基づかない支出として違法であるというしかない。 (3) 被告の賠償責任被告は,実務上条例に基づかない私的諮問機関の適法性に疑義が出たことがなく,実際上全国的に多数の私的諮問機関が設置されていることからすれば,被告に本件公金支出の適法性に関する適切な判断を要求することはあまりにも酷であって,被告に過失はない旨主張するところ,本件各審議会の設置を決定したのは被告であって,前記要綱又は規則の内容からみても,本件各審議会が附属機関であることを容易に知り得たものといわなければならず,被告に過失がないとはいえない。 次に被告は,長 審議会の設置を決定したのは被告であって,前記要綱又は規則の内容からみても,本件各審議会が附属機関であることを容易に知り得たものといわなければならず,被告に過失がないとはいえない。 次に被告は,長としての責任には故意又は重過失を要すべきであって,被告に重過失はない旨主張するところ,長としての責任に重過失を要するとの点は独自の見解であって,これを採用することはできない。 そうすると,被告は,公金支出に対する指揮・監督権限のみならずその義務を有するところ,本件公金支出は前記認定のとおり違法であるのに,これを阻止しなかったものとして,その賠償を若宮町に対して支払う義務があるといわなければならず,同損害とこれに対する本訴状送達の翌日である平成13年12月23日から支払済みまで民法所定年5分の割合による損害金を求める請求は理由がある。 第4 結論よって,行政事件訴訟法7条,民訴法61条,66条後段,259条1項,3項に従い,主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第2民事部裁判長裁判官横山秀憲裁判官鈴木尚久裁判官中川卓久

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