平成22(わ)112

裁判年月日・裁判所
平成23年3月11日 神戸地方裁判所
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判決文本文6,319 文字)

平成22年(わ)第112号殺人未遂被告事件判決主文被告人を懲役1年6月に処する。 未決勾留日数中350日をその刑に算入する。 この裁判が確定した日から2年間その刑の執行を猶予する。 理由 (犯罪事実)被告人は,実兄の妻であるA(当時53歳)から同人の殺害を依頼されたことから,同人を殺害するのもやむを得ないと考え,平成22年1月14日午後3時30分ころ,京都府亀岡市a町bc番d他所在のロードパークに駐車中の自動車内において,同人に対し,殺意をもって,その首をビニール紐(平成22年領第265号符号1)で締め付けたが,同人が気を失ったことから,死亡したものと思い込んで更に締め付けるのをやめたため,同人に全治約7日間を要する頚部絞傷の傷害を負わせたにとどまり,殺害するに至らなかったものである。 (証拠の標目)省略(嘱託殺人未遂罪を認定した理由) 1 検察官は,起訴状記載の公訴事実において,被告人が被害者Aの意思に反して殺そうとしたと主張するのに対し,弁護人は,被告人は被害者から頼まれて殺そうとしたと主張し,被告人も公判廷においてこれに沿う供述をしている。 当裁判所は,検察官の主張に沿う被害者Aの供述(検察官調書・警察官調書)及び被告人の捜査段階の自白はいずれもその内容が不自然であり証拠上認められる事実(情況証拠)と整合せず信用できない一方,被告人の弁解は内容に疑問な点もあるが,争点となる核心部分において証拠上認められる事実(情況証拠)と整合するなどの点で信用できるし,少なくとも排斥できないと考え,検察官の主張には合理的な疑いがあると判断し,被告人は被害者から頼まれて殺そうとしたと認定した。 以下その理由を説明する。 2 本件の経過について①平成16年ころ,被告人が実兄B・被害者A夫婦と同居 には合理的な疑いがあると判断し,被告人は被害者から頼まれて殺そうとしたと認定した。 以下その理由を説明する。 2 本件の経過について①平成16年ころ,被告人が実兄B・被害者A夫婦と同居したこと,②平成21年3月,被害者の実母が他界したこと,③同年11月,被害者が被告人に首を絞められた後,手足を縛られ冷蔵庫に入れられるという事件が発生したこと(被告人が被害者に頼まれて行ったか否かについて争いがある。),④平成22年1月13日,被告人がレンタカーを借りて運転したことについて実兄に叱られ家を出るように言われたこと,⑤同月14日,本件事件が発生し,その経過として,朝被告人が家を出たところ,被害者が同行したこと,被告人が同女からお金をもらいレンタカーを借りて同女と一緒に長時間ドライブをしたこと,その途中車中で同女が寝たこと,本件現場となる京都府亀岡の山中駐車場において,被告人が被害者の首にロープを巻き付けて引っ張り首を絞め,その後被害者を車に乗せたまま警察署に出頭して自首したこと,⑥本件後,被害者は被告人のことを宥恕し同居まで望んでいたこと,⑦同年5月13日,被害者が自殺したこと,以上の事実は争いがなく証拠上認められる。 被害者の自殺とその動機として考えられる実母の他界や借金の問題等は被害者が本件事件当時も自殺傾向にあった可能性があること,被害者が被告人に殺されかけたのに被告人のことを許し同居まで望む態度を示していることは,弁護人の主張する被害者からの嘱託による殺害行為に沿うものである。 3 被害者Aの供述(検察官調書・警察官調書)の信用性について(1) 供述内容が不自然である。 ①前日被告人がレンタカーのことでBから叱られ家を出る羽目になったのに,被害者の方から進んで被告人に同行し長時間 (検察官調書・警察官調書)の信用性について(1) 供述内容が不自然である。 ①前日被告人がレンタカーのことでBから叱られ家を出る羽目になったのに,被害者の方から進んで被告人に同行し長時間被告人と共にドライブをする理由が見当たらない。 ②被告人のことを心配し機嫌をとるため同行しドライブを共にしたのに,次第に時間と金の無駄だと思い腹が立って被告人を責め立てるようにあれこれ文句を言い続けたとある。しかし,急に責め立てる必然性がなく,どうしてそんなに気持ちが変化するのか分からないし,時間の無駄であると思えば直ぐに引き返せば良いのにそのまま共にドライブを続けるというのも不可解である。 ③その間被告人は口答えすることなく黙って聞いており,粗暴な言動もなかったのに,一緒に車外でタバコを吸った後,被告人が急に被害者の首を絞めてくるというのも不可解である。被害者が狭い車内の後部座席に被告人と並んで座っていながら,被告人が首に巻くロープを準備し被害者の首に巻き付けるまで気付かないというのも不自然である。被害者が一旦被告人の手で首を絞められたのにそのまま車内に残り被告人の行動に注意することなく車外を見ていたというのも不可解である。 ④被害者が,被告人の運転が心配であるのに,睡魔に襲われ寝てしまうのも不可解である。 (2) 検察官が指摘する首の前側に赤い傷がある点は,本件後被告人が警察に出頭した直後に車内に居た被害者の状態を撮した写真撮影報告書によって認めることができる。しかし,被害者が首を絞めることを頼んでいたとしてもいざ絞められた際に苦しくて首に手を掛けた可能性があり,被告人の弁解において,被告人は2回ロープで首を絞め付けたが,1回目の時被害者が痛いから止めてくれと言われ止めたとあり,これに沿う内容になっている。 (3 際に苦しくて首に手を掛けた可能性があり,被告人の弁解において,被告人は2回ロープで首を絞め付けたが,1回目の時被害者が痛いから止めてくれと言われ止めたとあり,これに沿う内容になっている。 (3) 検察官は,本件事件の前触れとなる前記2③の事件について被害者が意思に反して首を絞められたとの被害者の供述は,この点を被告人の主治医に相談したとのBの証言に合致すると主張する。しかし,この点主治医のカルテにはこのことを相談したときBのみが面談したとの記載があることは当事者間に争いがなく,Bの証言については,その時の相談者がBのみであったか,B夫婦が被告人を伴っていたか曖昧であるところ,カルテの記載を重視すれば,Bのみの来院か,少なくとも来院者は複数であるとしても実際に話をして相談したのはBであったと認定するのが相当である。そして,Bとしては,被害者が意思に反して首を絞められたとの被害者の説明を真に受けて被告人のことを心配してそのように相談したものと考えられ,必ずしも前記被害者の供述の信用性を高めるものとは言い難い。 (4) 検察官は,被害者が被告人の罪を重くするような嘘を付く理由はないと主張する。しかし,Bとの関係の悪化のみならず警察沙汰にまでなっていることから,世間体もあり,被告人への依頼を打ち明けることなく,他方で,被告人の刑事処分を軽くするような態度をとることは理解できる。この点被告人が被害者から殺害を頼まれたと弁解しているに,その裏付け捜査,例えば被害者の自殺傾向や睡眠薬所持についてB等近親者に当たるなどの措置が取られた形跡がなく,被害者自身を取り調べた形跡もない。捜査機関は,被告人が述べるように,被告人の弁解を信用することなく,被害者の意思に反して首を絞められたとの被害者の供述を信用していたことがうかがわれ,そのような状況の中 者自身を取り調べた形跡もない。捜査機関は,被告人が述べるように,被告人の弁解を信用することなく,被害者の意思に反して首を絞められたとの被害者の供述を信用していたことがうかがわれ,そのような状況の中,被害者もあえて捜査機関の意向に反して事実を打ち明けるとは考えがたい。 4 被告人の自白の信用性について(1) 供述内容が不自然である。 被告人の自白内容のうち,前記被害者の供述に沿う部分は前記3と同様に不自然であり信用できないが,特に以下の点が指摘できる。 被害者から小言を言われた程度で口答えや粗暴な言動,更には暴力もないのにいきなり被害者の抹殺に結び付くロープによる首絞めということを考え行動するかという疑問がある。被告人の行った悪さを告げ口されることを恐れたとあるが,真偽は別にして被告人が被害者のお金を盗んだことなど既にある程度のことを被害者からBに告げ口されており,これ以上告げ口される材料があるのかと言う点で疑問であるし,既に前日Bから家を出て行けとまで言われて厳しく叱られているのに,それ以上状況が悪くなるとも考え難いこと,本来被告人と被害者との関係が悪くなかったことも考慮すると,被告人の殺意の動機としては説明になっていないといえる。また,一旦収まったのに,再び殺意が芽生えるというくだりも不自然である。前記2③の冷蔵庫の件の時は被告人は被害者を冷蔵庫の中に入れているのに,今回は被害者を山中に捨てたり逃げることなく自首しており,冷蔵庫の件を含め不自然である。 (2) 自白の経緯として,被告人が供述するように,被害者の言い分を信用する一方,被告人の弁解を全く信用してくれなかったことがある。この点取調べを担当したC証言は,同人の上司から被告人の弁解は信用できないと言われたのに淡々と取調べをしたなどと不自然であるが,前記 信用する一方,被告人の弁解を全く信用してくれなかったことがある。この点取調べを担当したC証言は,同人の上司から被告人の弁解は信用できないと言われたのに淡々と取調べをしたなどと不自然であるが,前記同人の上司の見方のほか,被告人の弁解について調書が全く作成されておらず,前記のとおり弁解の裏付け捜査がなされた形跡がなく,特に,被害者から,被告人の弁解に関する点を聴取していないことは,そのことを物語っているといえる。また,被告人が供述するように,被告人に影響力のある被害者の言い分をぶつけられて,被害者やBとの夫婦関係に対する配慮もあって被害者の言い分に沿うように自白したものと認められる。このことは被告人が逮捕後平成22年1月15日から同月24日まで否認していたが,その翌25日から自白しているところ,被害者の警察官調書が同月23日に取られており,そのころ被告人に被害者の言い分をぶつけたとのC証言にも沿うものである。以上は被疑者の取調べや捜査の在り方として問題である。 (3) なお,検察官は,腕で締めていないとか被害者に帽子を被せたかどうかの点について,被告人と被害者との間に供述の食い違いがあり,被告人の取調べの際押し付けがなかったことを示すものであると主張する。しかし,検察官の指摘する供述の食い違いは被告人の弁解の核心となる争点と異なるものであり,あえて細部まで合わせる必要性がないことからして検察官の主張は当を得ない。 また,検察官は,被告人が自首の時腹が立って被害者の首を絞めたと述べており,被害者から頼まれたと述べていないと指摘する。しかし,自首調書は自首の趣旨を取るのが主たる目的で犯行の詳細はその後の取調べを含む捜査によって解明するのが通常であり,犯行の概略を聞いた際に一般的かつ自然な殺意の動機として考えられる「立腹」の趣旨 かし,自首調書は自首の趣旨を取るのが主たる目的で犯行の詳細はその後の取調べを含む捜査によって解明するのが通常であり,犯行の概略を聞いた際に一般的かつ自然な殺意の動機として考えられる「立腹」の趣旨が聴取されたに過ぎないから,その点を重視することはできない。 5 被告人の弁解の信用性について被告人の弁解には,被害者を殺害する前にBに電話を掛けて被害者を殺し警察に出頭する旨述べた点や,逮捕後同房者との間で5分間大声で話をした上,被害者から頼まれた旨弁解するようアドバイスを受けたなど不自然な点もあるが,被告人の知的障害の問題のほか,事件から1年以上も経っていることや虚偽の自供内容との混同によって記憶違いが生じた可能性が考えられる。しかし,被害者に頼まれて行ったとの点については,前記2の沿う事実があるほか,本件事件の経過として被害者の供述や被告人の自白では説明できない点,例えば被害者の同行,長時間のドライブ,一時車中で寝ていたこと,被告人が被害者の抵抗もなく被害者の首にロープを巻き付けることができたこと,行為の動機,経緯について説明しつじつまが合うこと,前記2③の冷蔵庫の件についても,文章を書くのが苦手な被告人が書き置きを残していること(B証言)からすると,前記冷蔵庫の件も含めてむしろ信用することができ,少なくとも排斥することはできない。 (法令の適用)省略(量刑の理由)本件は,被告人が,同居していた実兄の妻である被害者から,被害者自身の殺害を依頼されたため,同人を殺害するのもやむを得ないと考え,ロープで同人の首を絞めて,同人の意識を失わせたが,同人にけがを負わせたにとどまり,殺害するに至らなかったという嘱託殺人未遂の事案である。 被告人は,ビニール紐を用いて,被害者の背後から気絶するまで同人の首を締めており,人の死 意識を失わせたが,同人にけがを負わせたにとどまり,殺害するに至らなかったという嘱託殺人未遂の事案である。 被告人は,ビニール紐を用いて,被害者の背後から気絶するまで同人の首を締めており,人の死亡を招きかねない危険な犯行態様である。 被告人には,重度の知的障害があり,平成16年に被告人の兄夫婦と同居するようになってから,兄をお父さん,被害者をお母さんと呼ぶという関係で,二人に指導されながらも生活しており,被害者にも叱られて,その言うことに従う関係であったところ,被害者が殺してほしいと依頼し,被告人が断ってもやりなさいと責められた末に,本件犯行に至っているとはいえ,他にも取り得る方法があったにもかかわらず,事の軽重や後先のことを深く考えず,一度ならずも二度までも,被害者の死亡に結びつくような危険な行為を行った点は,軽はずみな行動であったと言わざるを得ない。 これらの事情に照らすと,被告人の刑事責任は軽視できない。 他方,本件について,被告人は,影響力のある母親代わりの被害者に責められ続け,知的障害のこともあり,切羽詰まって犯行に至っているという側面があり,その経緯に同情の余地があること,被害者は,車中で意識を回復し,その負傷は全治約7日間を要する頚部絞傷の傷害のみに止まっているものであり,その結果は比較的軽微であること,被告人は,本件後,警察署に出頭し,本件犯行を告げて自首していること,被告人は,公判廷において本件犯行をしなければよかった旨述べ,反省をしていること,被告人の兄は,公判廷において,被告人と今後も同居し,監督していく旨誓約していること,被告人には前科前歴がないこと,約1年2か月にわたり相当長期間の身柄拘束を受けていることなど,被告人に酌むべき事情も考慮して,主文のとおりの刑期と猶予期間にすることとした。 (求刑 していること,被告人には前科前歴がないこと,約1年2か月にわたり相当長期間の身柄拘束を受けていることなど,被告人に酌むべき事情も考慮して,主文のとおりの刑期と猶予期間にすることとした。 (求刑懲役4年)(検察官陰山美幸,松原徹各出席)平成23年3月22日 神戸地方裁判所第4刑事部 裁判長裁判官岡田信 裁判官森岡孝介 裁判官藤永祐介

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