平成28(ワ)42269 不当利得返還等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成29年12月26日 東京地方裁判所
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判決文本文23,392 文字)

- 1 -平成29年12月26日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成28年(ワ)第42269号不当利得返還等請求事件口頭弁論終結日平成29年11月9日判決 原告AURALSONIC株式 会社 同訴訟代理人弁護士松岡敏郎 富松修子 被告A 同訴訟代理人弁護士内田公志 栁下彰彦 松原正和 被告B 同訴訟代理人弁護士星出光俊主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 被告A(以下「被告A」という。)は,原告に対し,2010万5027円及びうち1635万5425円に対する平成28年6月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 - 2 - 2 被告らは,原告に対し,連帯して212万7660円及びこれに対する平成28年6月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告らは,原告に対し,連帯して107万2340円及びこれに対する平成28年6月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は,原告が,①被告Aとの間で締結した被告Aが有する特許権(特許第4728331号。以下「本件特許権」という。)に関する通常実施権許諾契約の錯誤無効,詐欺取消し若しくは情報提供義務違反による解除を理由とする不当利得返還請求権又は上記詐欺若しくは情報提供義務違反により契約締結に 関する原告の自己決定権が侵害されたことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき,被告Aに対し,支払ったライセンス料1635万542 上記詐欺若しくは情報提供義務違反により契約締結に 関する原告の自己決定権が侵害されたことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき,被告Aに対し,支払ったライセンス料1635万5425円及びこれに対する平成23年11月2日(利得後の日又は不法行為の後の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(以下,これらの支払請求を「第1請求」と総称する。),②被告らによる本件特許権に 関する虚偽の情報提供,脅迫行為等により本件特許権につき専用実施権を有する被告B(以下「被告B」という。)との通常実施権許諾契約の締結に関する原告の自己決定権が侵害されたことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき,被告らに対し,損害賠償金320万円(同契約に基づき前掲①の被告Aとの契約の未払報酬として支払った212万7660円及び被告Bと の契約に基づきライセンス料として支払った107万2340円の合計)及びこれに対する不法行為の後の日(訴状送達の日の翌日)である平成28年6月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払(以下,これらの支払請求を「第2請求」と総称する。)を求める事案である。 2 前提事実(根拠を括弧内に示す。) ⑴ 当事者及び本件特許権- 3 -ア原告は,土地建物の有効利用に関する企画,調査及び設計,室内・室外空間の装飾における企画,立案及び施工,建材の製造及び販売等を業とする株式会社である(甲21)。 原告は,平成21年1月頃までに,積層構造を有する遮音材又は吸音材の開発,製造,販売を行う意向を有しており,同年以降,これをルームク リエータとの名称で販売等した(以下,この商品を単に「ルームクリエータ」ということがある。甲9の1・2,弁 る遮音材又は吸音材の開発,製造,販売を行う意向を有しており,同年以降,これをルームク リエータとの名称で販売等した(以下,この商品を単に「ルームクリエータ」ということがある。甲9の1・2,弁論の全趣旨)イ被告Aは以下の本件特許権(以下,本件特許権に係る特許を「本件特許」,特許請求の範囲記載の発明を「本件発明」という。)を有する者であり,被告Bは弁理士である(争いがない事実,甲1)。 特許番号第4728331号発明の名称吸音構造出願日平成17年6月16日登録日平成23年4月22日⑵ 第1契約 原告は,被告Aとの間で,平成21年1月頃,被告Aが本件特許権につき通常実施権の許諾をする契約(以下「第1契約」という。なお,第1契約において,被告Aの債務に技術指導が含まれ,その対価にライセンス料の趣旨だけでなく技術指導の対価の趣旨が含まれるかについては,争いがある。)を締結した(争いのない事実,弁論の全趣旨)。 ⑶ 専用実施権の設定及び第2契約ア被告Aは,被告Bに対し,平成24年4月19日,本件特許権につき専用実施権を設定した(争いのない事実,甲2)。 イ原告は,被告Bとの間で,平成24年5月1日,本件特許につき専用実施権を有する被告Bが原告に通常実施権を許諾すること,原告はその対価 を毎月被告Aに支払うこと,原告は第1契約に基づく未払債務として25- 4 -0万円を被告Aに支払うものとすることなどを内容とする契約(以下「第2契約」という。)を締結した(争いのない事実,甲11)。 ⑷ 第1契約及び第2契約に関する訴訟提起及び和解被告Aは,原告に対し,平成25年,第1契約及び第2契約に基づく未払残金の支払を求めて訴訟(東京地方裁判所平成25年(ワ)第1150 甲11)。 ⑷ 第1契約及び第2契約に関する訴訟提起及び和解被告Aは,原告に対し,平成25年,第1契約及び第2契約に基づく未払残金の支払を求めて訴訟(東京地方裁判所平成25年(ワ)第11508号。 以下「前訴」という。)を提起した。東京地方裁判所は,平成26年5月16日,被告Aの請求をいずれも認容する判決を言い渡し,原告は,この判決に控訴をした。被告A及び原告は,同年11月21日,前訴の控訴審(知的財産高等裁判所平成26年(ネ)第10060号)において,次のア~ウを内容とする裁判上の和解(以下「本件和解」という。)をした。(争いのない 事実,甲12)。なお,原告は,本件訴訟において,本件和解の無効は主張しないと述べた。 ア原告は,被告Aに対して本件解決金として320万円の支払義務があることを認め,これを分割して支払う(ただし,期限の利益を喪失したときは376万円から既払金を控除した残額及び遅延損害金を支払う)(1~ 4項)。 イ被告Aはその余の請求を放棄する(5項)。 ウ被告A及び原告は本件に関して和解条項に定めるもののほか何らの債権債務がないことを相互に確認する(6項)。 ⑸ 第1契約の解除 原告は,被告Aに対し,本件訴状をもって第1契約を取り消す又は解除する旨の意思表示をし,本件訴状は平成28年6月17日に被告Aに送達された(当裁判所に顕著な事実)。 ⑹ 被告らによる消滅時効の援用平成29年4月12日の本件第2回弁論準備手続期日において,被告Aは 第1契約締結に関する自己決定権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権に- 5 -つき,被告Bは第2契約締結に関する自己決定権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権につき,それぞれ原告に対して消滅時効を援用するとの意思表示をした( の不法行為に基づく損害賠償請求権に- 5 -つき,被告Bは第2契約締結に関する自己決定権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権につき,それぞれ原告に対して消滅時効を援用するとの意思表示をした(当裁判所に顕著な事実)。 3 争点⑴ 第1請求関係 ア第1契約締結に係る錯誤,詐欺又は情報提供義務違反の有無イ損害又は利得の発生及びその額ウ本件和解に基づく第1請求の遮断の可否エ第1請求の訴訟上の信義則違反該当性オ不法行為に基づく損害賠償請求債権の消滅時効の成否 ⑵ 第2請求関係ア第2契約締結に係る共同不法行為の成否(脅迫,詐欺又は情報提供義務違反の有無及び共同性)イ損害の発生及びその額ウ第2請求の訴訟上の信義則違反該当性 エ消滅時効の成否 4 争点についての当事者の主張⑴ 争点⑴(第1請求関係)についてア第1契約締結に係る錯誤,詐欺又は情報提供義務違反の有無(原告の主張) 被告Aは,原告代表者に対し,第1契約締結前の平成20年11月半ば頃には本件特許が「世界中で使える特許」である旨を述べ,その後も「PCTの加盟国であればプロテクトされる」,「ドイツはPCTの加盟国だから大丈夫」と述べ,平成20年12月頃から平成21年1月頃には,原告代表者に対して本件特許が国際出願特許であり,ルームクリエータが本件 発明の技術的範囲に属するものであるため,ライセンス料を支払うように- 6 -要求した。このように,被告Aは原告に対して①本件発明が日本国以外の国で権利化されていること,②ルームクリエータが本件発明の技術的範囲に属することを述べた。ルームクリエータを海外でも販売する意向を有していた原告はこれらを信じたため第1契約を締結した。 しかし,被告Aは, されていること,②ルームクリエータが本件発明の技術的範囲に属することを述べた。ルームクリエータを海外でも販売する意向を有していた原告はこれらを信じたため第1契約を締結した。 しかし,被告Aは,平成17年6月16日に本件発明につき特許協力条 約に基づく国際出願(以下,「PCT国際出願」ということがある。)をしたが,平成20年7月16日までに国内移行したドイツ及びヨーロッパ特許庁に対する各特許出願を取り下げ,国際特許出願は存在しなくなっていた。また,ルームクリエータは本件発明の技術的範囲に属しない。したがって,上記①及び②は虚偽である。 被告Aは,㋐上記①及び②が虚偽であり,原告がこれを知らないこと及び第1契約を締結する必要がないことを認識しながら上記①及び②の旨を述べ,それらが虚偽であることを説明しなかった。 また,被告Aは,㋑原告がルームクリエータを海外において販売する意向を有する一方で上記①及び②が虚偽であると知らないことを認識し得た。 そして,被告Aが本件発明の分野の専門的知識及び経験を有するのに対して原告代表者が情報劣位者であるところ,上記の知識経験を有する被告Aには社会的責任があること,他人の財産権や営業活動の自由といった重要な法益を侵害しないように当然に配慮が求められること(他者加害禁止の原則)に照らせば,上記①及び②が虚偽であることを原告に説明する義務 があった。それにもかかわらず,被告Aはその説明をしなかった。 被告Aの上記㋐の行為は詐欺に,上記㋑の行為は情報提供義務違反に当たり,原告は上記の錯誤に陥った状態で第1契約を締結したことになるから,第1契約は錯誤無効であるか,詐欺を原因として取り消し得るものであるか,上記義務違反の債務不履行に基づき解除し得るものである。 (被告 の錯誤に陥った状態で第1契約を締結したことになるから,第1契約は錯誤無効であるか,詐欺を原因として取り消し得るものであるか,上記義務違反の債務不履行に基づき解除し得るものである。 (被告Aの主張)- 7 -被告Aは,原告代表者に対し,時期は定かでないがルームクリエータが本件発明の技術的範囲に含まれる旨の発言(上記②)はしたが,本件発明が日本国以外の国で権利化されている旨の発言(上記①)はしていない。 被告Aは,本件発明についてはPCT国際出願を行ったが,国内移行 手続の期限を徒過した結果,日本国内でのみ特許出願を維持し,権利化されているものであり,その旨は原告代表者に説明していた。上記のPCT国際出願の経過は公開情報であり,原告代表者においても容易に確認し得ることであるから,原告が主張するような稚拙な欺罔行為を行うはずがない。 事業者間の契約においては各当事者は対等な関係にあり,一方当事者に説明義務が課されることはなく,むしろライセンス契約を締結しようとする者は対象となる特許発明の内容,技術的範囲について検討することが実務上当然の義務であり,被告Aには原告が主張する情報提供義務はない。 したがって,被告Aの行為が詐欺になることはないし,原告に錯誤は生じていなかった。仮に原告が第1契約締結時に本件特許が海外において権利化されていて,また,ルームクリエータが本件発明の技術的範囲に属さないのにそれが属するとの認識を有していたとしても,上記のとおりPCT国際出願の経過は公開情報であって容易に確認し得ることに 加え,本件発明の内容等を調査することも可能であったことからすれば,上記の認識に至った錯誤については重過失があったといわざるを得ない。 イ損害又は利得の発生及びその額(原告の ることに 加え,本件発明の内容等を調査することも可能であったことからすれば,上記の認識に至った錯誤については重過失があったといわざるを得ない。 イ損害又は利得の発生及びその額(原告の主張)原告は第1契約に基づき平成21年1月14日から平成23年11月1 日まで総額1635万5425円を支払った。第1契約は本件特許権の許- 8 -諾を目的とするもので原告は本件特許権のライセンス料として同支払をしたのであり,同額について,原告の損失の下,被告Aは法律上の原因なくこれを取得した。また,第1契約を締結するか否かについての原告の自己決定権が侵害されたことにより,原告は同額について損害を被った。 (被告Aの主張) 第1契約の主な目的は被告Aから原告に対する技術指導をして原告の製品開発をサポートすることであるから,仮にルームクリエータが本件発明の技術的範囲に属さないとしても,その他の債務は履行され,その結果として原告はルームクリエータを製造販売することができたから,第1契約の目的は達成された。したがって,原告に損失,損害は生じていない。 ウ本件和解に基づく第1請求の遮断の可否(被告Aの主張)前訴において,第1契約及び第2契約に基づく金銭の支払が請求され,第1契約及び第2契約が錯誤又は詐欺取消しにより無効になるかが争点となったところ,前訴の第1審判決は,第1契約及び第2契約がいずれも有 効であるとして被告Aの請求を認容した。本件和解においては,上記判決を踏まえ,控訴審裁判所と当事者間での複数回にわたる協議を経て,第1契約の対価の一部である250万円と第2契約に基づく対価とを分けず,第1契約及び第2契約の対価につき一定の減額をする代わりに残余の部分を原則として放棄する旨の合意をして,「本 わたる協議を経て,第1契約の対価の一部である250万円と第2契約に基づく対価とを分けず,第1契約及び第2契約の対価につき一定の減額をする代わりに残余の部分を原則として放棄する旨の合意をして,「本件に関し,本和解条項に定め るもののほか,何らの債権債務のないことを相互に確認する」との定めを置いた。したがって,第1請求の根拠となる債権は存在しない。 (原告の主張)前訴は東京地方裁判所の知的財産権部において審理されたところ,日本国外における権利化の可能性の消滅は同部にとって顕著な事実であるし, 真実発見の見地から証拠の提出がなくても当然に裁判所が調査すべきであ- 9 -った。それにもかかわらず,この消滅の事実を認定し,第1契約の実体法上の瑕疵について審理された形跡がない。この審理がされていれば結論が逆転する高度の蓋然性があった。また,第1契約の法的性質の判断に必要不可欠な証拠である原告と被告Aとの指導契約書(甲4)の取調べもされなかった。さらに,第1契約の錯誤無効等については審理されなかったし, 第2契約に関する錯誤無効等の主張に対し,表意者である原告の錯誤について被告Aが悪意であったにもかかわらず,重過失の主張は制限されずに審理された。 このように,前訴においては,訴訟の帰趨を左右する主要な争点について主張立証が尽くされず,裁判所による釈明もされていないから,原告に つき実質的に手続保障が充足されていない。 また,被告Aは,前訴において,信義則上,事案の解明に協力しなければならなかったのに,事実を秘匿するなどしてこれを怠った。 これらによれば,本訴における原告の主張が遮断されるとすると,原告の被る損害が余りに大きく,著しく公平を害するのであり,本件和解によ って原告の主張が遮断されること などしてこれを怠った。 これらによれば,本訴における原告の主張が遮断されるとすると,原告の被る損害が余りに大きく,著しく公平を害するのであり,本件和解によ って原告の主張が遮断されることはない。 エ第1請求の訴訟上の信義則違反該当性(被告Aの主張)前訴においては,第1契約が錯誤又は詐欺取消しにより無効になるかが争点となった。原告は,第1契約の有効性について主張するように裁判所 から促されたにもかかわらず,第1契約ではなく第2契約について詳細に主張するのみで,第1契約の有効性については争うことを放棄したか,主張を撤回したものであることからすると,第1契約の有効性に関して手続保障が尽くされたことは明らかである。こうした事情に加えて,本訴で新たに提出された証拠(甲3~6,9,10,14,17,21,24等。 枝番は省略する。)につき前訴で提出できなかった事情はないことに照ら- 10 -せば,本件訴訟は前訴の蒸し返しであり,その提起が訴訟法上の信義則に違反することは明らかである。 (原告の主張)前記ウ(原告の主張)と同じ。 オ不法行為に基づく損害賠償請求債権の消滅時効の成否 (被告Aの主張)原告は,遅くとも平成23年11月までには,ルームクリエータが本件特許では全く保護されないと被告Bから告げられたことにより,第1請求に係る不法行為に関する損害及び加害者を知ったから,上記不法行為に基づく損害賠償債務は,平成26年11月末日の経過によって消滅時効が完 成し,その援用によって消滅した。本訴の提起は平成28年6月2日であるから,上記消滅時効は中断しない。 (原告の主張)原告は,平成26年11月21日に本件和解をした時点で初めて損害の発生を具体的に認識したから,本訴提起時までに の提起は平成28年6月2日であるから,上記消滅時効は中断しない。 (原告の主張)原告は,平成26年11月21日に本件和解をした時点で初めて損害の発生を具体的に認識したから,本訴提起時までに消滅時効期間は経過して いない。同年3月12日の弁理士の意見書作成時点では具体的な認識はしていないが,仮に認識していたとしても,同様に消滅時効期間は経過していない。 加えて,被告Aの行為が悪質であること,第1契約の締結によって1600万円を超える高額な負担を強いられて原告の経営が窮状にあり,原告 の損害が重大であって権利保護の必要性が高いことからすれば,被告Aの消滅時効の主張は信義則に反する。 ⑵ 争点⑵(第2請求関係)についてア第2契約締結に係る共同不法行為の成否(脅迫,詐欺又は情報提供義務違反の有無及び共同性) (原告の主張)- 11 -被告Bは,①原告代表者に対し,平成23年12月2日,平成24年3月4日,同年4月16日,同年5月27日,第2契約を締結しないと,ルームクリエータに対する差止めの仮処分命令が簡単に発令され,原告の存続にとって危機的状況に至る高度の蓋然性がある旨の記載がある電子メールを送信し,原告代表者を畏怖させた。また,②原告代表者に対 し,被告Bは,平成23年11月16日頃,本件特許が国際出願特許でないこと,ルームクリエータが本件特許では保護されないかもしれないことを示唆し,これに基づいて原告は被告Aに対する支払を停止したが,平成24年3月頃には本件特許で保護できること,訴訟提起したら逆に仮差止請求され,1~2年間は製品の製造ができないこと,その場合に 会社がどうなるかについては「下町ロケット」を読むべきこと,現在進行中のプロジェクトが崩壊してしまうこと,業界から締め ら逆に仮差止請求され,1~2年間は製品の製造ができないこと,その場合に 会社がどうなるかについては「下町ロケット」を読むべきこと,現在進行中のプロジェクトが崩壊してしまうこと,業界から締め出されることなどを発言し,かつ,「下町ロケット」の書籍を送付して,使用料の支払を求めた。 上記①及び②の言動は原告代表者に対する強迫又はこれに準じる行為 である。裁判実務において侵害差止めの仮処分命令が容易に発令されないことを被告Bは熟知していたはずであるし,熟知しなければならないにもかかわらず上記の言動をしたものであるから,上記の言動には高度の違法性がある。 被告Bは第2契約当時において約30年の経験を有する弁理士であり, そうした豊富な経験を有する専門家から上記の旨が告知されれば,畏怖して冷静な判断能力を欠き,契約を締結するに至るのが通常であるから,被告Bは,原告代表者を畏怖させ,これによって第2契約締結の意思表示をさせることにつき故意があった。 また,被告Bは,原告代表者が被告Bに比べて特許権に関する情報量 及び知識につき情報劣位者であったところ,弁理士は弁理士法3条に照- 12 -らして高度の公共性,公益性を担う専門家として社会的責任を負っていること,前記の他者加害禁止の原則に照らせば,原告代表者に対して正確な情報を提供する義務があった。ところが,上記②のとおりの言動をした。仮に被告Bが平成23年11月頃の時点でルームクリエータが本件発明の技術的範囲に属しないことを認識していたのであれば,虚偽の 情報を提供したことになり,被告Bは,この点につき故意を有していた。 仮にその後に認識を改めたのであっても,弁理士として技術的範囲の属否を慎重に調査する義務を怠ったことになるから,上記の正確な情報を提供す 提供したことになり,被告Bは,この点につき故意を有していた。 仮にその後に認識を改めたのであっても,弁理士として技術的範囲の属否を慎重に調査する義務を怠ったことになるから,上記の正確な情報を提供する義務を怠った。 原告は,こうした被告Bの行為により,国外における権利化の可能性 が消滅した本件特許に対してライセンス料を支払い,国内においても通常実施権の許諾を得る必要性がないため第2契約を締結する必要がなかったにもかかわらず,第2契約を締結させられた。 被告Aは,③本件特許が国際出願特許でなく,ルームクリエータが本件発明の技術的範囲に属しないことを知っていたにもかかわらず,原告 に対して虚偽の情報を提供し続けた。すなわち,前記⑴ア(原告の主張)のとおり第1契約締結時までに虚偽の発言をし,同締結後にも「僕の特許は世界特許だ。」,「世界中で使える特許だ。」,「PCT加盟国であれば保護される。」と述べ,平成23年7月の訪米の際に,原告会社のビジネスパートナー等に対して本件特許が世界特許である旨,虚偽の事実を 吹聴していた。また,被告Aは,④原告代表者が第1契約に基づくライセンス料の支払を停止した後もその支払を求め,被告Bにその請求の代理権を授与し,本件特許権に係る専用実施権を設定し,更には第2契約に基づき受益の意思表示をした。 上記③のとおり,被告Aは,積極的に虚偽の情報を提供し続け,原告 代表者を誤信させており,こうした行為は高度の違法性がある。上記③- 13 -及び④からすれば,上記行為につき被告Aに故意があること,被告Bの行為と併せて全体として1個の行為と認められる程度の一体性(客観的関連共同性)があることは明らかである。 (被告Aの主張)否認する。前記⑴ア(被告Aの主張)のとおり,上記③の虚 こと,被告Bの行為と併せて全体として1個の行為と認められる程度の一体性(客観的関連共同性)があることは明らかである。 (被告Aの主張)否認する。前記⑴ア(被告Aの主張)のとおり,上記③の虚偽の情報を 提供した事実はない。 (被告Bの主張)被告Bは,前記①のメールは送信したが,②のような発言はしていないし,書籍を送付していない。被告Bは,原告代表者から,本件特許が国際出願期間を徒過してその効力がないことから被告Aを詐欺罪で訴えるつも りであるとして協力を求められたのに対し,これを断り,前記①のとおり,原告と被告Aが長期間にわたって製品を開発し,プロジェクトが進行しているところ,被告Aに対して原告が反旗を翻せば,仮にルームクリエータの構造が本件特許権に抵触しなくても,本件特許権に基づく警告,侵害訴訟又は仮差止命令の申立てがされるリスクがあることから,その旨を伝え たものである。したがって,被告Bの言動は強迫に当たらない。 原告の主張する情報提供義務につき,第2契約は日本国内における通常使用権についての契約であり,原告代表者は,このことを理解しており,外国での類似商品の販売に対抗することができるかについて錯誤が生じる余地がないから,この点についての告知義務はない。また,原告が従前か ら被告Aから日本国内における通常使用権の許諾を受けており,訴訟等の公的な有権解釈がない状況では本件発明の技術的範囲へのルームクリエータの属否を容易に判断できないから,被告Bが第2契約が必要であると判断したことについて過失はなく,警告や侵害訴訟,仮差止めのリスクを説明しない方が不誠実である。 さらに,第2契約は日本国内における通常使用権についての契約であり,- 14 -国際出願特許とは無関係である。また,第 警告や侵害訴訟,仮差止めのリスクを説明しない方が不誠実である。 さらに,第2契約は日本国内における通常使用権についての契約であり,- 14 -国際出願特許とは無関係である。また,第2契約の内容は第1契約締結後にライセンス料の値下げを求めていた原告の意向に沿ったものであり,かつ,その当時音楽業界の有力者とのプロジェクトが進行していたから,被告Bの関与の有無にかかわらず第2契約が締結されたとしても不思議でない。したがって,被告Bの言動と原告による第2契約締結の意思表示との 間に因果関係はない。 イ損害の発生及びその額(原告の主張)第2契約を締結するか否かについての原告の自己決定権が侵害されたことにより,原告は,第1契約に基づく未払報酬250万円(第2契約5条 3項)及び通常実施許諾(同5条1項)の対価の支払を約することとなり,その後,本件和解により解決金320万円を支払わざるを得なくなった。 上記解決金は,第1契約に基づく未払報酬相当額212万7660円及び通常実施許諾の対価相当額107万2340円にそれぞれ割り付けられる。 (被告Aの主張) 本件和解は有効であるから,解決金相当額の支払債務を負うことが損害となることはない。 (被告Bの主張)本件和解は第2契約とは別の合意により成立したものであり,かつ,有効であるから,原告が主張する損害は不法行為による損害でない。 ウ第2請求の訴訟上の信義則違反該当性(被告らの主張)前記⑴イ(被告Aの主張)のとおりの本件和解に至る事情及び本件和解の内容に照らせば,原告の第2請求は事実上前訴の蒸し返しにすぎず,信義則上許されない。 (原告の主張)- 15 -前記⑴ウ(原告の主張)と同じ。 エ消滅時効の成否( 件和解の内容に照らせば,原告の第2請求は事実上前訴の蒸し返しにすぎず,信義則上許されない。 (原告の主張)- 15 -前記⑴ウ(原告の主張)と同じ。 エ消滅時効の成否(被告Bの主張)原告が主張する被告Bの不法行為は遅くとも平成24年5月1日以前の行為であるから,上記不法行為に基づく損害賠償請求債務は,平成27年 5月1日の経過により消滅時効が完成し,その援用により消滅した。本訴の提起は平成28年6月2日であるから,上記消滅時効は中断しない。 (原告の主張)消滅時効期間が経過していないことは,前記⑴オ(原告の主張)のとおりである。 加えて,被告Bの行為は,強迫又はそれに準じたものであり,本件発明の技術的範囲についての検討を怠っている点で帰責性が大きく,原告が従前から相談をしていた間柄の者の言動であった点で原告の権利行使を阻害する程度が大きく,弁理士法29条,31条に違反する点で違法性が大きい。そして,第2契約による原告の損害が重大であって権利保護の必要性 が高いことからすれば,消滅時効の主張は信義則に反する。 第3 当裁判所の判断事案に鑑み,争点⑴ウ,エ及び⑵ウから判断する。 1 争点⑴ウ(本件和解に基づく第1請求の遮断の可否),争点⑴エ(第1請求の訴訟上の信義則違反該当性)及び争点⑵ウ(第2請求の訴訟上の信義則違反 該当性)について⑴ 事実関係前記前提事実⑷によれば,前訴控訴審における裁判上の和解である本件和解は,①原告が被告Aに対して本件解決金として320万円の支払義務があることを認めてこれを分割して支払う(ただし,期限の利益を喪失したとき は376万円から既払金を控除した残額及び遅延損害金を支払う)こと(1- 16 -~4項),②被告Aは の支払義務があることを認めてこれを分割して支払う(ただし,期限の利益を喪失したとき は376万円から既払金を控除した残額及び遅延損害金を支払う)こと(1- 16 -~4項),②被告Aはその余の請求を放棄すること(5項),③被告A及び原告は本件に関して和解条項に定めるもののほか何らの債権債務がないことを相互に確認すること(6項)などを内容とするものであった。加えて,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア前訴は,被告Aの原告に対する第1契約に基づく対価250万円及び遅 延損害金の支払,第2契約に基づく本件特許権の通常実施権許諾の対価合計126万円及び遅延損害金の支払を各請求とする訴えであった(甲2)。 イ前訴においては,少なくとも㋐第2契約が原告の錯誤により無効となるか,㋑上記錯誤につき重過失があるか,㋒第2契約が被告Bの原告に対する詐欺取消しにより無効となるかが争点となった。原告は,前訴において, ルームクリエータが本件発明の技術的範囲に属していないことから,第2契約が錯誤によって無効であり,詐欺により取り消すことができることを主張したが,第1契約については,原告の請求する250万円が原告の被告に対するアドバイスの対価としてのみ支払ったものではなく,本件特許権の実施許諾の対価として支払ったものでもあると主張する一方,錯誤や 詐欺取消しによる無効の主張は行わなかった。(甲2,乙3の1~4,4の1・2)ウ東京地方裁判所は,前訴において,第1契約及び第2契約の成立を認め,上記の争点㋐につき原告の主張する錯誤は動機の錯誤であって表示がされていない,争点㋑につき原告に重過失がある,争点㋒につき詐欺取消しの 主張は理由がないと判断し,原告の請求を認容する判決をした(甲2)。 ⑵ き原告の主張する錯誤は動機の錯誤であって表示がされていない,争点㋑につき原告に重過失がある,争点㋒につき詐欺取消しの 主張は理由がないと判断し,原告の請求を認容する判決をした(甲2)。 ⑵ 上記各争点についてア上記⑴の事実関係によれば,本件和解において,「本件」,すなわち被告Aの原告に対する第1契約及び第2契約に基づく対価及び遅延損害金の支払の各請求権の存否を巡る原告及び被告Aの争いにつき,解決金320万 円等の支払債務のほかに債権債務のないことを確認することが約された。 - 17 -前訴においては,第1契約及び第2契約の効力自体も争いの目的であるといえ,この点に関し和解条項に定められた債務のほかに債権債務がないことが原告及び被告Aの間で確認されたと認められる。 本件における第1請求は,①第1契約の錯誤無効,詐欺取消し若しくは情報提供義務違反による解除を理由とする不当利得返還請求権又は②上記 詐欺若しくは情報提供義務違反により契約締結に関する原告の自己決定権が侵害されたことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権である。 イ上記①の不当利得返還請求権は,第1契約が無効であることを前提とする権利である。前記のとおり,本件和解によって第1契約の効力も含めた法律関係が確認されたといえるから,本件和解により,上記不当利得返還 権が存在しないことが確認されたといえる。 したがって,上記不当利得返還請求権は存在しないと認められる。 ウ他方,上記②に関する自己決定権の侵害は第1契約の効力と直接関係するものではないことからすると,上記②の損害賠償請求権は前訴における直接の争いの目的であるとは直ちにはいえず,本件和解によって上記損害 賠償請求権が存在しないことが確認されたと直ちにいうことはできない。 ことからすると,上記②の損害賠償請求権は前訴における直接の争いの目的であるとは直ちにはいえず,本件和解によって上記損害 賠償請求権が存在しないことが確認されたと直ちにいうことはできない。 しかし,本件和解は,前記⑴アの請求に対し,同イ,ウの審理判断がされ,その後控訴審における当事者の主張を経た後にされたものであるから,当事者間には,少なくとも,第1契約に基づく対価請求権について,それ自体の存否や額に直接関わる争いに限らず,同請求権を実質的に覆し得る 争いがその後に生じないとの期待が生じたというべきである。 前記②の損害賠償請求権は,第1契約締結に当たって詐欺又は情報提供義務違反により契約締結に係る自己決定権侵害が生じ,これにより第1契約の対価相当額の支払を余儀なくされて同支払額と同額の損害が生じたことにより発生したというものであり,上記詐欺又は情報提供義務違反,損 害の各要件において前記①の不当利得返還請求権の発生要件と実質的に重- 18 -なるものである。また,仮にこの権利が認められれば上記対価請求権が実質的に否定されるものである。 これらに照らせば,原告が前記②の損害賠償請求権を主張することは,前記②に係る権利主張がされないとの期待に反するものとして信義則上許されないと判断するのが相当である。 エまた,前訴においては,第2契約の効力も含めた法律関係が本件和解により定められたといえ,本件和解により,原告から被告Aに対する第2契約の効力がないことを前提とする不当利得返還権が存在しないことが確認されたといえる。 第2請求のうち被告Aに対するものは,第2契約における原告の自己決 定権の侵害に基づくもので,前訴における直接の争いの目的であるとは直ちにはいえないものであるが,第2契約の効力が いえる。 第2請求のうち被告Aに対するものは,第2契約における原告の自己決 定権の侵害に基づくもので,前訴における直接の争いの目的であるとは直ちにはいえないものであるが,第2契約の効力がないことを前提とする不当利得返還請求権と発生要件が実質的に重なるといえるものであり,また,第2契約に基づく原告の対価請求権を実質的に否定するものである。そして,前訴の審理及び本件和解により第2契約の対価請求権の存否・額及び これを実質的に覆し得る争いがその後に生じないとの当事者の期待が生じたというべきことに照らせば,第2請求のうち被告Aに対する損害賠償請求は信義則上許されないとするのが相当である。 第2請求のうち被告Bに対するものは,本件和解が原告及び被告Aとの間でされたものであって,被告Bとの間では効力を生じないことに照らす と,上記において説示したところが当てはまらないから,その権利主張が信義則上許されないと判断することは相当でない。 オこれに対し,原告は,前訴において,①㋐第1契約の有効性に関して本件発明の日本国外の権利化の可能性の消滅の事実を裁判所が調査してこれを認定しないなど十分な審理がされず,㋑第1契約の法的性質について十 分な審理がされず,㋒第2契約の錯誤無効の主張について被告Aが悪意で- 19 -あるにもかかわらず原告の重過失の有無の審理をしたものであって,手続保障が十分でないから,本件和解につき当事者である原告に対する拘束力がなく,また,②被告Aが前訴において事案解明に協力する信義則上の義務に反して事実を秘匿するなどしたから第1請求及び第2請求は信義則違反に当たらないと主張する。 しかし,和解契約は当事者の合意によってのみ成立し,これにより拘束力(民法696条)が生じるものであって,こ を秘匿するなどしたから第1請求及び第2請求は信義則違反に当たらないと主張する。 しかし,和解契約は当事者の合意によってのみ成立し,これにより拘束力(民法696条)が生じるものであって,この理は,裁判上の和解においても異ならない。また,上記㋐について,特許出願手続の状況に関する事実は,法令上,当然には訴訟記録に含まれず,裁判所に通知等がされるものでないのであって,裁判所が当然に認識する事実ではないから,これ を裁判所に顕著な事実とみることはできないし,法令上,裁判所が職権で調査する権限があるとも解し得ず,前訴において原告に対する手続保障がされていなかったとはいえない。上記㋑及び㋒については,いずれも原告において少なくとも前件訴訟の控訴審においては本件和解をするまでに主張することができた事情等であることがその内容から明らかであり,そう であるにもかかわらず原告が本件和解をした以上,それらの事情等によって本件和解の効力が影響を受けるとは解されない。また,上記②について,被告Aが事実を秘匿したと認めるに足りる証拠はない。 以上によれば,原告の上記主張はいずれも採用できない。 ⑶ 小括 したがって,第1請求は,その余の点を判断するまでもなく理由がない。 また,第2請求のうち被告Aに対するものも同様に理由がない。 2 争点⑵ア(第2契約締結に係る共同不法行為の成否(脅迫,詐欺又は情報提供義務違反の有無及び共同性))について⑴ 事実関係 括弧内の証拠(〔〕は直前に示した証拠の関係ページ番号を示す。以下同- 20 -じ。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア被告Aは,被告Bを代理人として,平成17年6月16日,本件発明について,少なくとも日本,ドイツ及び欧州特許庁を指定国として 20 -じ。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア被告Aは,被告Bを代理人として,平成17年6月16日,本件発明について,少なくとも日本,ドイツ及び欧州特許庁を指定国として,PCT国際出願をした。この出願は平成18年12月21日に国際公開(国際公開番号WO2006/134654)がされたが,平成19年12月18日にはドイ ツ特許庁に対する出願が,平成20年7月16日には欧州特許庁に対する出願がそれぞれ取り下げたものとみなされた。(甲1,14,被告A本人)イ原告代表者は,遅くとも平成20年10月頃から平成21年1月頃にかけて被告Aと面会し,被告Aから本件発明について説明を受けた。(原告代表者,被告A本人〔5〕) 原告は,同月頃に被告Aとの間で第1契約を締結し,ルームクリエータの開発を行い,被告Aに対して本件発明に係る特許のライセンス料等の支払を始めた(甲5の1・2,原告代表者〔3〕)。被告Bはルームクリエータの販売プロジェクトのメンバーであった(原告代表者〔9〕)。 ウ原告は,平成21年春頃にはルームクリエータを完成させ,同年6月頃, 「21mm厚で,素材は全て安全な素材を使用。脳の先端研究から成果を応用,聴覚を守ります。(欧州の医学者の特許ライセンス製品)」などと記載したパンフレットを作成し,さらに,同年後半には日本国内で販売代理店を設けるなどしてこれを販売し始めた(甲9の1,原告代表者〔15,19〕)。また,原告は,平成22年から平成24年頃には,ルームクリエ ータにつき,「吸音構造」「国際特許審査請求中」「国際公開番号 WO200 6 / 134654」との記載を含むパンフレットを作成した(甲9の2)。 エ原告は,平成23年4月8日,米国を除く全ての指定国については原告 造」「国際特許審査請求中」「国際公開番号 WO200 6 / 134654」との記載を含むパンフレットを作成した(甲9の2)。 エ原告は,平成23年4月8日,米国を除く全ての指定国については原告を,米国においては原告代表者を出願人とし,福岡県に事務所を有する弁理士を代理人として,発明の名称を「吸音材積層構造」との名称の発明に つきいわゆるPCTに基づく国際特許出願をした(甲13,原告代表者- 21 -〔12〕)。 オ被告Aは,原告代表者に同行して,平成23年7月頃に訪米し,本件発明について英語で音響テストや説明を行った。上記音響テストの際,被告Aは,「MYPATENT」と発言した。原告は,その頃,米国において法人を設立し,米国においてルームクリエータの販売を開始した。(甲 31,乙イ8の1〔4〕,原告代表者〔6,19,20〕,被告A本人〔9〕)カ被告Aは,原告代表者に対し,平成23年11月22日,「C会長は,私がアメリカの特許を申請中だと誤解していました。Dさんには,特許の申請国は,日本だけだと最初に説明しています。USのショーに出すとき にも言いました。」などと電子メールで伝えた(乙イ6の1)。 キ原告は,第1契約に基づく「ライセンス料」名目等の対価につき,平成23年12月分及び平成24年1月分の支払をしなかった。被告Aは,同月22日頃,原告代表者が「ロイヤリティーと薬品代」を支払い,謝罪と説明をしない限りは第1契約の内容に関する話し合いに応じないし,本件 発明の実施も認めないとの意向を被告Bに伝え,被告Bがこれを原告代表者に伝えており,また,同月23日には,原告が何らの通告なく「ロイヤリティー」を支払わないから,契約はなくなったとみなしてよいと思うという考えを被告Bに伝えていた。(甲5の ,被告Bがこれを原告代表者に伝えており,また,同月23日には,原告が何らの通告なく「ロイヤリティー」を支払わないから,契約はなくなったとみなしてよいと思うという考えを被告Bに伝えていた。(甲5の1・2,30の1・2)被告B (甲22の1~4)を送信した。 平成23年12月2日「契約が決裂したら,Dさん自身が,社長としての資質があるのか問われる事態となり,上場どころの話ではなくなります。上場を目指すなら, 私憤を押さえてでも,この契約を最低限まとめなければなりません。謂- 22 -わば,社運がかかっているのです。D社長の振る舞い如何によっては,これまでの関係者・・・の行為を全部根底から,裏切ることになります。 そのことを十分納得いただかないと,ハウス119が上場しないまでも,その内紛に乗じて,ヤマハあたりが食指を伸ばすことも考えられます。 すなわち,リバースエンジニアリングを使い,且つAを抱き込む。そう いうリスクをD社長は全く考えてないのでは?」平成24年3月4日 被告A「を怒らせては,このプロジェクト全体が根底から崩れる(・・・など色々な方がハウス119へどれだけ注力しているか,またハウス119社員全体の生活がかかっている)ことを,よく考えてお決 めください。特許侵害訴訟での仮差し止め命令の怖さは,本案(侵害訴訟)の結論(判決)がでる前に製造販売が全てストップされることで会社の資金繰りが成り立たなくなること(・・・ストップされて1~1. 5年くらいの資金繰りは持ちますか?),代理店から製品を出せないことによる訴訟を反対に起こされる可能性があること(この場合加盟店料 やその他の損害賠償が請求されます),また訴訟を起こされたことによる風評被害により取引が一気に減ること,さらにはその風 ないことによる訴訟を反対に起こされる可能性があること(この場合加盟店料 やその他の損害賠償が請求されます),また訴訟を起こされたことによる風評被害により取引が一気に減ること,さらにはその風評被害によりブランド力がゼロ乃至マイナスに陥ること・・・など,沢山の問題をかかえることになることです。詳しくは「下町ロケット」をお読みください。」 平成24年4月16日「やはり前提として,Aとの契約はmustでしょう。」平成24年5月27日「今回,Aの特許の専用実施権をいただき,御社に通常実施権を許諾・・・したわけです。」「解約にいたった場合,特許法上,特許権者 (A)も侵害差し止め請求並びに借り差し止め請求も,可能です(損害- 23 -賠償請求はできませんが)。そうなると,例の「下町ロケット」のようになることもあります。」ク被告Bは,被告Aから,平成24年4月19日,本件特許権につき専用実施権の設定を受け,原告との間で,同年5月1日,第2契約を締結した(前記前提事実⑶)。その際,原告代表者は,本件発明の出願経過や技術 的範囲について弁理士,弁護士等の専門家に相談することはなかった(原告代表者〔12〕)。 ケ原告代表者は,平成24年7月4日にE氏から同人の関係者が本件特許発明では現行の吸音材をカバーできないとの見解が示された旨を伝えられ,同月15日,被告Bに対し,本件特許でルームクリエータが保護されるの かにつき全国の原告の代理店から質問を受けることがあること,今回も専門家から疑問が呈されたこと,前年11月に被告Bからの指示に基づいて照会した弁理士からも本件特許でルームクリエータが全く守られないという意見をもらっており,訴訟提起されるか心配であることなどから,ルームクリエータが被告Aの理 前年11月に被告Bからの指示に基づいて照会した弁理士からも本件特許でルームクリエータが全く守られないという意見をもらっており,訴訟提起されるか心配であることなどから,ルームクリエータが被告Aの理論と関係ないことが必ず見破られると考えてい ることを伝え,今後の対処方針を尋ねた。これに対し,被告Bから,このような質問自体が第2契約7条に抵触するものであり,原告代表者の資質に強い疑問を感じる旨の返答があったことから,原告代表者は,上記の心配が現実化したと考えたので相談したのであり,そうした返答に困惑していることを伝えた。(甲27の1~4) ⑵ 被告Bの行為についてア原告は,①被告Bが前記⑴キの電子メールを送信したこと,②被告Bがルームクリエータを本件特許で保護できる,訴訟提起したら逆に仮差止め請求され,1~2年間は製品の製造ができない,その場合に会社がどうなるかについては「下町ロケット」を読むべきである,現在進行中のプロジ ェクトが崩壊してしまうこと,業界から締め出されるなどと発言し,かつ,- 24 -「下町ロケット」の書籍を送付して,使用料の支払を求めたことが強迫等に当たると主張し,原告代表者は同旨を供述する(原告代表者〔9,10〕)。 ここで,上記②の発言及び書籍の送付がされたことを裏付ける客観的な証拠はない。もっとも,上記②の発言及び書籍の送付は上記①の内容と同 趣旨のものと解され,前記⑴キの電子メールの送信が認められることから,上記電子メールの内容について被告Bの行為が強迫等に当たるか否かを検討する。 上記電子メールの内容は,原告が本件特許権に関する契約を締結しなかった場合,進行中のルームクリエータ開発プロジェクトが破綻するおそれ や,原告又は原告代表者の社会的信用が失われるおそれ 。 上記電子メールの内容は,原告が本件特許権に関する契約を締結しなかった場合,進行中のルームクリエータ開発プロジェクトが破綻するおそれ や,原告又は原告代表者の社会的信用が失われるおそれ,原告の経営が立ちゆかなくなるおそれがあることを示唆しており,この点において原告や原告代表者に対する害悪の告知の趣旨が含まれている。 しかし,前記⑴の事実関係によれば,被告Bは,ルームクリエータの開発プロジェクトの関係者であったところ,これに関係する第1契約の対価 を原告が支払わず,被告Aがこれに不満を抱いていることを知ったことから,上記プロジェクトの継続のため,原告に対して本件特許の実施権に関する契約を締結するよう説得をする目的で上記電子メールの送信等を行ったものと認められる。また,被告Bが伝えた内容を見ると,被告Aが本件発明の実施を認めなければ当該実施の差止め訴訟等の法的手段が講じられ るおそれがあること,プロジェクトが継続できなければ原告の経営が立ちゆかなくなり,信用が失われることは,原告がそれまで第1契約に基づき被告Aに対してライセンス料等を支払い,ルームクリエータのパンフレットにも本件発明に係る特許出願に関する番号を記載するなどしていた当時の状況に照らしても,いずれも起こり得る事象といえるものであるから, そのような内容を原告に告げることが事実に反するものとは認められない。 - 25 -そうすると,上記①の内容の電子メールの送信は,その目的,手段の両面に照らしても,社会通念上相当な程度を越えたものと評価し得ないから,これが原告又は原告代表者に対する強迫であるということはできない。なお,仮に上記②の言動が認められたとしても,その言動は上記の電子メールと同趣旨のものといえ,それが原告又は原告代表者に対する強 ら,これが原告又は原告代表者に対する強迫であるということはできない。なお,仮に上記②の言動が認められたとしても,その言動は上記の電子メールと同趣旨のものといえ,それが原告又は原告代表者に対する強迫である ということはできない。 イまた,原告は,前記②の言動につき,原告代表者が被告Bに比べて特許権に関する情報量及び知識につき情報劣位者であったところ,弁理士は弁理士法3条に照らして高度の公共性,公益性を担う専門家として社会的責任を負っていること,他人の財産権や営業活動の自由といった重要な法益 を侵害しないように当然に配慮が求められることを理由に,被告Bに情報提供義務があり,この義務に違反したと主張する。 しかし,原告は室内の装飾や建材等に関する企画や製造等を業務とする会社であり,現にルームクリエータを製造,販売していた(前記前提事実⑴ア)。そうした事業者がその事業の展開に当たって契約を締結しようと するとき,契約に関する情報を有する程度が他方当事者に比べて乏しかったとしても,当該他方当事者が何らかの情報を提供する義務が当然にあるとする法的根拠は見当たらない。特に,原告は,被告B以外の弁理士を通じて特許出願をしたこともあり,また,他の者から本件発明の技術的範囲につき疑問が呈されたこともあったこと(前記⑴エ,ケ)からすれば,調 査等により上記範囲につき情報を得ることが可能であった。これらに照らせば,被告Bに上記の義務が生じると認めることはできない。また,被告Bは弁理士であり(前記前提事実⑴イ),原告は,弁理士として被告Bはルームクリエータの本件発明への技術的範囲の属否を慎重に調査する義務があったと主張するが,弁理士においてそのような調査を受任していない にもかかわらず一般的に行う義務があるとは解されず, Bはルームクリエータの本件発明への技術的範囲の属否を慎重に調査する義務があったと主張するが,弁理士においてそのような調査を受任していない にもかかわらず一般的に行う義務があるとは解されず,被告Bが原告から- 26 -具体的な業務を受任していたとは認められないから,被告Bに上記の義務があると認めることもできない。さらに,上記に述べた事情に照らせば,原告が主張する他者加害禁止の原則(他人の財産権や営業活動の自由といった法益を侵害しないように配慮が求められること)によって被告Bに具体的に法益侵害の結果を予見し,これを回避する義務が生じるとは解され ない。 したがって,原告の主張する情報提供義務が被告Bにあったということはできない。 ⑶ 被告Aの行為についてア原告は,ルームクリエータが本件発明の技術的範囲に属しないことを知 りながら行った被告Aの第1契約締結時までの①本件特許が「世界中で使える特許」である,「PCTの加盟国であればプロテクトされる」,「ドイツはPCTの加盟国だから大丈夫」との本件発明が日本国以外の国で権利化されている趣旨の各発言及び②ルームクリエータが本件発明の技術的範囲に属するとの発言,第1契約締結後の③「僕の特許は世界特許だ。」, 「世界中で使える特許だ。」,「PCT加盟国であれば保護される。」,本件特許が世界特許である旨の各発言及び④第1契約に基づくライセンス料の支払要求,第2契約に基づく受益の意思表示等が原告に対する欺罔行為に当たると主張し,原告代表者は上記各発言があったと供述(原告代表者〔2,6〕)又は陳述書に記載(甲34)する。 イしかし,被告Aは「MYPATENT」との発言及び上記④の支払要求につき認める一方で上記各発言を否定する供述をする。 本件の証拠上 者〔2,6〕)又は陳述書に記載(甲34)する。 イしかし,被告Aは「MYPATENT」との発言及び上記④の支払要求につき認める一方で上記各発言を否定する供述をする。 本件の証拠上,本件発明が日本国以外の国で権利化されている旨を被告Aが記載した文書はない。 また,前記⑴カ~ケの事実関係によれば,第1契約締結後,被告Aが原 告代表者に対して本件発明に係る特許出願先が日本に限られると説明した- 27 -ことを明確にしたことがあったのに対し,原告代表者がこれに対して何らかの異議を唱えたことはうかがわれない。そして,原告は,第1契約を継続したのみならず第2契約の締結に至り,更には被告Bに対して本件発明の技術的範囲について相談する一方でPCT国際出願が維持されているか否かについては何らの事実確認もしなかった。仮に原告が第1契約締結の 際に本件発明が日本国以外の国で権利化されている趣旨を被告Aから告げられ,これを第1契約締結の動機としたのであれば,これと矛盾する被告Aの言動に対して何らかの事実確認等をするといえるから,上記の原告の行動は被告Aによる発言後の行動として不自然である。以上のことからすれば,原告代表者の上記アの供述は採用できず,他に被告Aが上記①~③ の各発言をしたと認めるに足りる証拠はない。 この点につき,原告は,パンフレットにPCT国際出願に関する記載があるとも主張するが,前記⑴のとおり,パンフレットは原告の作成に係るものであり,被告Aがこれを積極的に承認していたことを認めるに足りる証拠はないし,パンフレットに各国における特許番号の記載等もないので あるから,パンフレットに原告が指摘する記載があることから被告Aが上記各発言をしたと推認することはできない。 そうすると,被告Aが発言 パンフレットに各国における特許番号の記載等もないので あるから,パンフレットに原告が指摘する記載があることから被告Aが上記各発言をしたと推認することはできない。 そうすると,被告Aが発言したと認められるのは,平成23年7月頃の「MYPATENT」との発言であるところ,その当時既に日本国内において本件特許権が登録されていたこと(前記前提事実⑴イ)に照らすと, この発言は日本国内において特許権を得た趣旨と理解することもできるもので,この発言によって,被告Aが本件発明が日本国外で権利化されている趣旨を述べたことがあると認めることはできない。 ウまた,ルームクリエータが本件発明の技術的範囲に属しないとの認識を被告Aが有していたことをうかがわせる証拠はない。また,被告Aは本件 特許権の権利者であって第1契約の当事者であるにすぎず,原告は前記の- 28 -とおり,ルームクリエータの製造,販売等を行う意向を有していた事業者であるから,被告Aにおいて上記の技術的範囲の属否を調査したり,その結果を原告に情報提供したりする義務はないというべきである。 そうすると,被告Aによる上記④の行為は,第1契約における対価の債権者としてその支払を催告する等の権利行使をしたものにすぎず,原告に 対する欺罔行為であると評価することはできない。 ⑷ 小括以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,第2請求は理由がない。 3 結論 よって,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官柴田義明 裁判官萩原孝基 裁判官林 雅子 決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官柴田義明 裁判官萩原孝基 裁判官林雅子

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