令和6年5月7日宣告令和4年(わ)第824号詐欺被告事件判決 主文 被告人を懲役4年に処する。 未決勾留日数中170日をその刑に算入する。 訴訟費用は、被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、分離前の相被告人Aと共に、独立行政法人Bが実施している新型コロナウイルス対応支援資金による無担保無保証融資(以下「本件融資」という。)をC病院を運営する医療法人Dを代行して申し込むに当たり、申込者の医業収益が前年同月又は前々年同月と比較して30パーセント以上減少した月がある場合は、無担保貸付の限度額が3億円から6億円に増額されることを利用し、Bを欺いてDへの融資金を増額させてだまし取ろうと考え、Aと共謀の上、あらかじめ、D理事長Eとの間で、D名義の預金口座に振り込まれる本件融資金の一部をAが指示するとおり交付させる約束をした上で、令和2年12月10日頃、東京都港区ab 丁目c 番d号Bにおいて、B福祉医療貸付部医療審査課職員に対し、真実は、Dの令和2年6月の医業収益は、前年同月と比較して30パーセント以上減少していなかったにもかかわらず、30パーセント以上減少した旨記載した内容虚偽の合計残高試算表等を、D作成名義の借入申込書等と共に提出して本件融資を申し込み、同部長Fらをして、Dの令和2年6月の医業収益が前年同月と比較して30パーセント以上減少したものと誤信させて本件融資を決定させ、よって、令和3年1月15日、Bから株式会社G銀行e 支店に開設されたD名義の普通預金口座に現金6億円を振込入金させ、もって人を欺いて財物を交付させた。 (事実認定の補足説明)第1 争点及び結論関係証拠によれば、本件当時、Bが、新型コロナウイルス たD名義の普通預金口座に現金6億円を振込入金させ、もって人を欺いて財物を交付させた。 (事実認定の補足説明)第1 争点及び結論関係証拠によれば、本件当時、Bが、新型コロナウイルスの影響で収益が減少した福祉施設及び医療機関に対し、新型コロナウイルス対応支援資金による無担保無保証の優遇貸付(本件融資)を実施していたこと、このうち医療機関に対する本件融資の上限額は、医業収益が前年同月又は前々年同月と比較して30パーセント以上減少した月があるという要件(以下「本件減収要件」という。)を満たす場合には6億円、満たさない場合には3億円とされていたこと、被告人がAと共に本件融資の申込みを代行するに当たり、真実はDの令和2年6月度の医業収益が前年同月と比較して30パーセント以上減収した事実はないのに、被告人において令和2年6月度の医業収益が前年同月と比較して30パーセント以上減少している旨の内容虚偽の合計残高試算表を作成し、Aが同試算表を他の申込書類と共にBに送付して6億円の本件融資の申込みをしたこと、Bの決裁権者において、同試算表の内容が真実であり本件減収要件を満たすと誤信して、Dに対する6億円の融資が実行されたことが認められ、当事者間にも争いがない。 本件の争点は、①詐欺の故意及び②Aとの共謀の有無である。具体的には、被告人及び弁護人は、被告人はAに指示されるままに合計残高試算表を作成したにすぎず、それが内容虚偽のものであるとは認識しておらず、また本件減収要件についても知らなかったと主張している。 当裁判所は、被告人は、本件減収要件を認識し、真実は令和2年6月度のDの医業収益が前年同月と比較して30パーセント以上減少していないことを認識した上で、その旨の内容虚偽の合計残高試算表を作成したのであり、詐欺の故意に欠けるところはな 認識し、真実は令和2年6月度のDの医業収益が前年同月と比較して30パーセント以上減少していないことを認識した上で、その旨の内容虚偽の合計残高試算表を作成したのであり、詐欺の故意に欠けるところはなく、Aとの共謀も認められると判断したため、以下、その理由を説明する。 第2 前提事実関係証拠によって認められる事実は、以下のとおりである。 1 本件融資は、Bにより令和2年2月から実施され、その医療機関に対する貸付限度額は、同年9月15日から本件に至るまで、本件減収要件を満たす場合には6億円、満たさない場合は3億円とされていた。本件減収要件や貸付限度額については、PDF文書にまとめられてBのホームページ上でも公表され、本件融資の概要を紹介するトップページにその見出しと共に同PDFを見るためのリンクが設けられていた。 2 Aは、令和2年7月頃、Hから、本件融資の申込みを代行して医療機関や福祉施設から手数料を得ることを持ち掛けられてこれを了承し、知人らに医療機関や福祉施設の紹介を依頼するとともに、紹介を受けた医療機関や福祉施設に対し、Hと共に面談を行い、Hを通じて本件融資を申し込んで融資金の半分を同人らに支払えば返済不要になるなどと説明して本件融資の申込みを勧誘するようになった。 被告人は、同月頃、本件融資に関して医療機関の関係者がHと面談するに際し、その紹介者として面談に同席したのをきっかけにH・Aと知り合い、Hらとたびたび会って食事などをするようになり、その過程でAに医療機関を紹介していたIとも面識を持った。被告人は、次第にHの言動に不信感を募らせ、同年9月頃からHとは距離を置くようになったが、Aとの付き合いは続いていた。 3 Aは、同年11月18日、A、被告人及びIによるLINEグループを作成し、被告人及びIに対し、Hら に不信感を募らせ、同年9月頃からHとは距離を置くようになったが、Aとの付き合いは続いていた。 3 Aは、同年11月18日、A、被告人及びIによるLINEグループを作成し、被告人及びIに対し、Hらの真の目的は医療機関の買収にあり、小規模な医療機関については後回しにされて本件融資の申込みが進んでいない旨のメッセージを送ると共に、紹介者としてのIの立場を守るため、Hに代わって3人で本件融資の申込代行を行うこと、医療機関からは手数料として融資金の50パーセントを徴収し、税金処理をした後の25パーセントを3人で均等に分けてそれぞれの報酬とすることを持ち掛け、被告人とIはこれを了承した。 当初、AがBへの提出書類の作成・提出を、Iが紹介者として医療機関との連絡を、被告人が医療機関からの必要書類の回収を担当していたが、被告人は、同月21日頃以降、借入一覧表等のBへの提出書類の作成も一部を担当するようになり、 また同月下旬頃からは、上記の業務に加え、Aらを通じて本件融資を申し込んだ医療機関がBからの個別の問い合わせを受けた際には、その医療機関の職員を装って問い合わせに対応するようになった。 4⑴ 同月24日、LINEグループにおいて、Aが、福祉施設のBへの提出書類について、「売上げを作文してます」「最新の決算書が今年の7月末までなので、コロナの影響あるのに、決算が悪くない、、という状況」「多少、影響がないといけないので、各月の売上を微調整してます。」旨のメッセージを送信したのに対し、被告人はこれに「なるほど。」「売上の作文。」と応答した。 ⑵ 同年12月4日、LINEグループにおいて、Aが被告人に対し「つじつまあわせ、得意ですか?」などと送ったのに対し、被告人は「内容によります笑」「苦手ではないです笑」と返信した。その後、Aが、被告人に対 年12月4日、LINEグループにおいて、Aが被告人に対し「つじつまあわせ、得意ですか?」などと送ったのに対し、被告人は「内容によります笑」「苦手ではないです笑」と返信した。その後、Aが、被告人に対し、医療法人Jの職員から送られてきた「Bから連絡ありました。3億以上の申込みの場合、前年売上比30パーセント以上減少している事の要件があり、8月分の前期、今期の合計残高試算表を要求されました。そのままだと対前年は減少しておりません。」などというメッセージの画像を送信するとともに、Jの損益計算書(令和2年8月分の入院収益が約1.1億円、外来収益が約5100万円と記載されたもの)とBへの申込書類(同月分の入院収益が約6521万円、外来収益が約3889万円と記載され、前年同月比で30パーセント以上減収したと記載されたもの)の各画像を引用しながら、「下のPDFが、先に提出していた資料なんですが…追加資料で、詳細がいるとのこと」「上の資料が、本当の数字なんですが…」「まず下のPDFの入院収益、外来収益を間違っていたというテイストで変えちゃって、エクセルファイルを数字なぶろうかなーと」「または、すでに提出しているPDFをもとに、作りかえちゃう方が整合性取れると思うのですが、どうおもいますか?」「昨年の数字は、決算書だしてる加減、変えにくいから、中央当たりの貸方の緑に6521,3889を当てはめて、R2.7月末の残高を減らす方法ですかね…」などとメッセージを送ったのに対し、被告人は「いじれる数字は今年の数字なので、私もそれが良いかと」 などと返信した。さらにAが被告人に「全体で30%以上マイナスの表、作れますか?」とメッセージを送信したのに対し、被告人は「全体でいいんですよね?やってみましょうか」「これらの今季を帳尻合わせすれば良いのですよね」 にAが被告人に「全体で30%以上マイナスの表、作れますか?」とメッセージを送信したのに対し、被告人は「全体でいいんですよね?やってみましょうか」「これらの今季を帳尻合わせすれば良いのですよね」「後追いなら、先生の作成された、数字に綺麗に合わせてやってみます」「後追いないなら。です。」などと返信した。その後、被告人は、Aに対し「前年度の数字は頂いた資料通りで、先生が作成された数字に合わせました」などとメッセージを送信し、Aは「さすがですこのまんま、、明日、レターパックで送っておきます」などと返信した。 5 D理事長Eは、従前、Hに対し本件融資の申込みを依頼していたが、同年12月2日、Aから、審議官であるHがDへの本件融資に消極的でありこのままでは融資を受けられないこと、Aが本件融資を受けるための別ルートを準備したこと、手数料は融資額の40パーセントであることなどを告げられ、Hを通じた本件融資の申込みを断り、Aを通じて本件融資を申し込むこととした。 6 Aは、同月7日、LINEグループにおいて、被告人に対し、「Dさん、30パー以上の売り上げ減つくるのに頭を悩ませております。甲さん、一度、見て頂けますか?」と送信した。被告人はAに「これ、25期、26期両方の申告書提出しますか?」と尋ね、Aから「26期だけ」という返答を受けると、「じゃあ、26期の6月が、25期の6月より30%減でいいわけですよね」などと返信して、26期の6月(令和2年6月)分の医業収益が前年同月比で30パーセント以上減少したとする内容の合計残高試算表を作成することを了承した。この際、Aから、被告人が記載すべき25期6月及び26期6月の具体的な医業収益額が指定されることはなかった。 7 その後、被告人は、Aに対し、Dの25期の合計残高試算表の追加入手を求め、AはD 。この際、Aから、被告人が記載すべき25期6月及び26期6月の具体的な医業収益額が指定されることはなかった。 7 その後、被告人は、Aに対し、Dの25期の合計残高試算表の追加入手を求め、AはDの事務局長代理にその送付を依頼したが、同事務局長代理は誤って24期の月次推移表をAに提出し、Aもこれをそのまま被告人に転送した。 被告人は、26期6月(令和2年6月)の合計残高試算表を作成したが、その「前期同月」欄には本来25期6月(令和元年6月)の金額を記載すべきところ、24 期の月次推移表を25期のものと誤認したまま、24期6月(平成30年6月)の月次推移表を参照して同欄に金額を記入し、令和2年12月8日、これをAに送信した。 Dの24期の月次推移表及び26期の決算報告書によれば、24期6月の医業収益合計が約6336万円、26期6月の医業収益合計が約5643万円であり、その減収割合は約10・9パーセントにとどまっていた(なお、25期6月の医業収益は合計約6107万円であり、26期6月の減収割合は約7・6パーセントとなる。)。他方、被告人作成の合計残高試算表では、その医業収益の各細目がいずれも異なる金額に書き換えられ、25期6月分の医業収益合計は実際の24期6月分より約633万円高い約6970万円と記載され、26期6月分の医業収益合計は実際よりも約764万円低い約4879万円と記載され、その医業収益が前年同月比で30パーセント減少したものとされていた。 8 Aは、被告人作成の合計残高試算表の数字に合わせて、Dの26期6月の医業収益が25期6月の医業収益よりも30パーセント以上減少したとする、本件融資の申込関係書類を作成し、これを被告人作成の合計残高試算表と併せてBに郵送し、Dに対する6億円の本件融資を申し込んだ。 9 同月16 期6月の医業収益よりも30パーセント以上減少したとする、本件融資の申込関係書類を作成し、これを被告人作成の合計残高試算表と併せてBに郵送し、Dに対する6億円の本件融資を申し込んだ。 9 同月16日頃、Bの福祉医療貸付部部長をして、Dの医業収益が前年同月比で30パーセント以上減収したと誤信させ、よってDに対する6億円の融資実行を決定させた上、令和3年1月15日、D名義の預金口座に6億円を振込入金させた。 第3 争点に対する当裁判所の判断 1 詐欺の故意について⑴ 本件合計残高試算表が内容虚偽のものであることの認識についてア Dの本件融資の申込代行に関し、被告人がAから受けた指示は、令和2年6月の医業収益が前年同月と比較して30パーセント以上減少したという内容の合計残高試算表を作成することであった。しかし、Aの「30パー以上の売り上げ減つくる」などというメッセージの文言に加え、Aは、26期6月及び25期同月 の医業収益額に係る具体的な数字は棚上げにし、その減収割合のみを被告人に伝えたと認められるところ、そもそも前年同月からの医業収益の増減率は、前年及び当年の医業収益の具体的な数字の存在を前提とし、当該数字をもとに算出されるものであるから、具体的な数字を棚上げにして前年同月と比較したときの医業収益の減収割合だけを被告人に伝え、被告人の裁量において具体的な数字を決めて計算書類を作成させるというAの指示内容は、一見して不合理なもので、これがDの医業収益の実態を反映させたものといえるか疑念を生じさせるものといえる。しかも、D作成の合計残高試算表等によれば約10.2パーセントの減収しか認められないのに、被告人は、減収割合の根拠となる具体的な数字についてAに確認しないまま、被告人の裁量において医業収益の細目の数字を全て書き換えて、D作 試算表等によれば約10.2パーセントの減収しか認められないのに、被告人は、減収割合の根拠となる具体的な数字についてAに確認しないまま、被告人の裁量において医業収益の細目の数字を全て書き換えて、D作成の合計残高試算表と比較して、令和2年6月度の医業収益については約13パーセントも減少させる一方、令和元年6月の医業収益については、約10パーセントも増加させることによって、30パーセント減収したとする合計残高試算表を作成している。合計残高試算表は、正確な収支状況を記載することが求められ、通常粉飾して記載されることのない決算書類の一つであるから、D作成の合計残高試算表から大きく乖離する内容の合計残高試算表を作成すること自体、被告人が客観的な実態と大きく異なるものであると認識しながら合計残高試算表を作成したことを強く推認させるものといえる。 上記のようなAからの指示内容の不合理さや、被告人が医業収益額を大きく増減させて変更して記載したことに照らすと、それだけでも、Aのいう減収割合が客観的な実態と合致しておらず、Dの26期6月の医業収益は前年同月と比して30パーセント以上減収してはいないと被告人が認識していたことが強く推認される。 加えて、AからDの合計残高試算表の作成を依頼されるより前にも、令和2年11月24日には、Aと被告人との間で、Aが、他の福祉施設について本件融資を得るため、新型コロナウイルスの影響で売上が減少したかのように決算書類上の売上金額を変更して申込書類を作成しているかのようなメッセージのやり取りがなされ、 被告人も「売上の作文」「なるほど」と返信している。更に、同年12月4日には、被告人は、Aから、Jについて、AがBへの提出書類に「本当の数字」とは異なる金額、すなわちJ作成の損益計算書に比べて入院収益を約4割、外来収益 」「なるほど」と返信している。更に、同年12月4日には、被告人は、Aから、Jについて、AがBへの提出書類に「本当の数字」とは異なる金額、すなわちJ作成の損益計算書に比べて入院収益を約4割、外来収益を約2割以上減少させた数字を記載したこと、Bから追加書類の提出を求められてその整合性を取る必要に迫られていることを伝えられた上で、J作成の決算書とBへの提出書類の「つじつま合わせ」をするよう被告人に依頼するメッセージを受け取り、被告人が「後追いないなら」などと述べた上でこれを了承し、Aの指示するとおりの表を作成したことが認められる。これらの事情によれば、本件融資を得るため、Aが従前から「売上の作文」をして実態を反映していない内容虚偽の書類を作成し、Bに提出していたことや、そのことを被告人も認識していたことがうかがえる。そして、このような流れの中で、被告人は、同月7日、Aから、Dについても「30%以上の売り上げ減つくるのに頭を悩ませております」と前置きされた上で、減収割合が30パーセント以上になる計算書類を作成するよう指示されたのであるから、被告人において、Dについても内容虚偽の計算書類の作成を指示されたと認識していたことが強く推認される。 イこれに対して、被告人は、Dの合計残高試算表の作成に際し、Aから令和2年6月及び前年同月のDの医業収益等について具体的な金額の指定は受けなかったものの、令和2年6月の入院収益と外来収益について前年同月と比較したときの減収割合をそれぞれ具体的に伝えられるとともに、決算書類と異なる内容の計算書類を作成する理由として、当時担当していた税理士が誤った合計残高試算表を作成したのかもしれないなどと説明されたのであり、自身が作成した合計残高試算表が客観的な実態と大きく乖離してはいないと認識していた、Jの計算書類 として、当時担当していた税理士が誤った合計残高試算表を作成したのかもしれないなどと説明されたのであり、自身が作成した合計残高試算表が客観的な実態と大きく乖離してはいないと認識していた、Jの計算書類の作成に際しても、Aから、同会作成の損益計算書は多額の資金を要する新規事業に向けて理事会で承認を得るために実際よりも医業収益を高く記載したもので、Aの記載した申込書類が正確な数字であると説明されており、自身が作成する書類が内容虚偽とは思っていなかったと供述する。 確かに、被告人は、Aから他の福祉施設について申込書類の作成を依頼された際には、必要な情報を同施設に確認してもらうよう依頼するなどしており、被告人において当初から内容虚偽の書類を作成することを想定していたとはいえず、被告人がAからこのような説明を聞いたことも否定はできない。 しかし、被告人の供述によっても、J・Dいずれについても、実態と大きく異なる決算書類が作成された理由としては抽象的かつ曖昧であり、そのJやD作成の計算書類上の金額とAから伝えられた金額の差額の大きさにも照らせば、Aの説明で被告人が納得したとは到底考えられないし、Dについては、既に述べたとおり、減収割合のみを伝え、その根拠となる数字が伝えられないというAからの指示の不可解さにも照らせば、なおさら被告人がAの説明を信じたとは考え難い。結局、被告人自身、申込書類の作成に正確を期するために、Aの説明に沿った内容での決算書類の修正申告を待ってから融資を申し込むことを提案したものの「もうよくないですか」などと言われてこれ以上数字の確認をすることができなかったと述べるとおり、Aの説明に疑いを抱きつつも、Aに逆らうことができず、指示されるままに合計残高試算表を作成したというのが実情と考えられ、被告人の供述を踏まえて検討 数字の確認をすることができなかったと述べるとおり、Aの説明に疑いを抱きつつも、Aに逆らうことができず、指示されるままに合計残高試算表を作成したというのが実情と考えられ、被告人の供述を踏まえて検討しても、被告人作成の合計残高試算表が内容虚偽のものであることについて、その認識に欠けるところはないと認められる。 ⑵ 本件減収要件の認識についてア前提事実1記載のとおり、本件減収要件や貸付限度額については、Bのホームページで公表され、しかも本件融資の概要を紹介するトップページに見出しと共に掲載されるなど、誰でも容易に確認することのできる状況にあった。そして、本件当時、被告人は、A・Iと共に本件融資の申込み代行の業務を行っていた上、医療機関等の職員を装ってBからの個別の問合せに対応するなど、本件融資について相応の知識がなければ行うことのできない役割を担っていたことも踏まえると、被告人が本件減収要件について認識していなかったとは考え難い。 現に、被告人は、本件以前に、J職員からの「3億以上の申込みの場合、前年売 上比30%以上減少している事の要件があり」という本件減収要件に言及したメッセージをAから転送された上、Aから「全体で30%以上マイナスの表、作れますか?」などと依頼され、特段30パーセントという減収割合の意味合いや必要性を確認しないまま、Aの指示するとおりの表を作成している。Dについても、被告人は、Aからいきなり「30パー以上の売り上げ減つくるのに頭を悩ませている」などと言われて計算書類の作成を依頼されているところ、本件減収要件を知らない者であれば、なぜ前年同月と比較して30パーセント以上医業収益が減少したという内容の計算書類が必要であるのか疑問を抱き、Aに尋ねる等してその疑問を解消するはずであるのに、被告人がそのよ 件を知らない者であれば、なぜ前年同月と比較して30パーセント以上医業収益が減少したという内容の計算書類が必要であるのか疑問を抱き、Aに尋ねる等してその疑問を解消するはずであるのに、被告人がそのような行動に出た形跡はうかがわれない。まして、⑴で述べたとおり、被告人はAがいうような30パーセント以上の減収が実際にはなかったことを認識していたのであるから、内容虚偽の決算情報を第三者に提出するという事の重大さを踏まえれば、なぜAがいうような内容虚偽の計算書類を作成する必要があるのか、通常よりも一層説明を求める等するはずであり、それにもかかわらず特段Aに説明を求めなかったという被告人の態度は、本件減収要件を犯行当時認識していたことを強く推認させる。 イこれに対して、被告人は、J職員からのメッセージの内容は見ていなかった、本件融資の貸付限度額については、クリニックや福祉施設は上限があると知っていたが、医療機関については売上高に応じた青天井方式だと思っていたのであり、本件減収要件によって限度額が変わることは知らなかったと供述する。 確かに、被告人が送信したメッセージの中に「スマホの画面だと小さくて見えない」と記載したものがあり、被告人が実際にJ職員からのメッセージを見たかについてはやや疑問が残る。また、被告人は、Dの合計残高試算表を作成する際、単にAから指定された減収割合を前年同月の数値に当てはめるだけでは、令和2年のDの売上げが6億円に満たなくなり、Bから6億円の融資が下りないのではないかと考えて、前年の数字も書き換えたと供述するところ、たしかに前年の数字を書き換える理由は他に見当たらず、一般的に融資に当たって売上額はその返済能力を示す 1つの指標でもあるから、被告人が当該医療機関の売上額によって融資額が決まると考えていたこと自 年の数字を書き換える理由は他に見当たらず、一般的に融資に当たって売上額はその返済能力を示す 1つの指標でもあるから、被告人が当該医療機関の売上額によって融資額が決まると考えていたこと自体を否定することはできない。 しかし、本件融資制度が新型コロナウイルス感染拡大の影響により収益が減少した医療機関等の救済措置であることからすれば、新型コロナウイルス感染拡大による影響の有無・程度を抜きにして、返済能力に応じて青天井の融資を受けることができると考えていたというのは不自然であるし、現にLINEのやり取り等をみても、被告人がそのように考えていた形跡はうかがわれない。かえって、仮に被告人がJ職員からのメッセージを見ていなかったにせよ、先に述べたとおり、Aから「30パー以上」の減収を「つくる」などと指示され、被告人においてもそれが内容虚偽のものであると認識していたのに、あえてAに30パーセント以上の減収を装わなければならない理由を尋ねることをしていなかったことからすれば、被告人において本件減収要件を認識していたとみるのが合理的である。 したがって、本件当時、被告人は本件減収要件を認識していたと認められる。 ⑶ 小括以上によれば、被告人は、本件減収要件の存在を認識しながら、本件減収要件を満たす内容虚偽の本件合計残高試算表を、それと分かって作成したと認められ、詐欺の故意が認められる。 なお、被告人は、本件当時、AはB上層部と繋がりがあり、本件融資はその申込前から実行されることが約束されていると認識しており、自身が作成する本件合計残高試算表は形式的な補足資料に過ぎず、それによって本件融資の決裁者が欺罔されることはないと考えていたとも供述する。しかし、被告人がその根拠として供述する内容を踏まえて検討しても、被告人にAがBの上層部 試算表は形式的な補足資料に過ぎず、それによって本件融資の決裁者が欺罔されることはないと考えていたとも供述する。しかし、被告人がその根拠として供述する内容を踏まえて検討しても、被告人にAがBの上層部と繋がっているなどと思わせるような事情は見当たらず、被告人の供述を信用することができない。したがって、被告人の供述を踏まえても、被告人には詐欺の故意が認められる。 2 共謀の成否について被告人は、Dについて本件融資を申込むに当たり、Aに指示されるまま、内容 虚偽のものと知りながら、本件減収要件を満たす合計残高試算表を作成してAに送信し、Aがこれを他の申込書類と共にBに郵送したのであるから、被告人とAとの間で本件詐欺の共謀があったことも優に認められる。 3 結論以上によれば、被告人は、真実はDが本件減収要件を満たしていないことを認識しながら、本件減収要件を満たすかのような内容虚偽のDの合計残高試算表を作成したものであり、詐欺の故意に欠けるところはなく、またAとの共謀も認められるから、被告人には詐欺罪の共同正犯が成立する。 (法令の適用)(省略)(量刑の理由)本件は、新型コロナウイルスの感染拡大により経営が悪化した医療機関を救済するため、厚生労働省所管の独立行政法人が国から拠出された財政融資資金により実施する医療機関向けの優遇融資について、被告人及び共犯者が医療機関に代わってその申込みをするに当たり、内容虚偽の計算書類を提出して6億円の融資を実行させたという詐欺の事案である。 被害額は6億円と非常に高額である。被告人らが融資先の医療機関から手数料名目で融資金の40パーセントを領得したことにより、本件融資の制度趣旨にも反し、将来の融資金の回収が困難になるおそれを生じさせている点も無視できない。そうすると、被害結 が融資先の医療機関から手数料名目で融資金の40パーセントを領得したことにより、本件融資の制度趣旨にも反し、将来の融資金の回収が困難になるおそれを生じさせている点も無視できない。そうすると、被害結果はとりわけ重大である。 被告人らは、本件融資が医療施設を適正迅速に救済するためにあえて簡易な審査制度がとられていることに付け込んで、公的資金から多額の融資を得るとともに、手数料名目での被告人らの利益も増額させる目的で本件犯行に及んだものと認められ、金銭利得目的の悪質な犯行といえる。 このような犯行において被告人は、融資額の決定に際し重要な資料となる計算書類を内容虚偽のものに書き換えるなど、犯行の実現に重要な役割を担っている上、 融資金の約8パーセントという相応の報酬が約束され、現に被害金のうち5300万円が融資先の医療機関から被告人管理の口座に振り込まれている。この点について、被告人は、いったん共犯者ら全体が受け取る利得の受け皿として同口座に5300万円が振り込まれ、その後、他の医療機関に係る申込み代行の報酬として被告人が得ることになったにすぎず、本件に関する報酬として受け取ったものではないと供述するが、その供述内容を前提にしても、被告人が、本件犯行によって得た利得を原資として他の共犯者との間で清算をし、最終的にその5300万円を自己のものとし、そのまま確保し続けているのであるから、本件犯行によって高額の金銭的満足を得たことに変わりはない。被告人が共犯者と比べて比較的従属的な立場にあり、共犯者に押し切られて内容虚偽の書類の作成に至った面があることを考慮しても、厳しい非難は免れない。 以上によれば、本件の犯情は悪く、被告人に前科前歴がないことを踏まえても、主文の刑が相当であると判断した。 (求刑懲役6年)令和6年5月7日 あることを考慮しても、厳しい非難は免れない。以上によれば、本件の犯情は悪く、被告人に前科前歴がないことを踏まえても、主文の刑が相当であると判断した。 (求刑懲役6年) 令和6年5月7日 福岡地方裁判所第2刑事部 裁判長裁判官冨田敦史 裁判官加々美希 裁判官荒木克仁
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