主文 原判決を取り消す。 被控訴人の請求を棄却する。 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1当事者の求めた裁判 控訴人主文同旨 被控訴人(1)本件控訴を棄却する。 (2)訴訟費用は控訴人の負担とする。 第2事案の概要被控訴人は,福岡税務署長に対し,平成16年3月10日に住宅を譲渡したことにより長期譲渡所得の計算上生じた損失の金額を他の各種所得の金額から控除(損益通算)すべきであるとして,平成16年分所得税に係る更正の請求をしたところ,福岡税務署長から,同年4月1日施行の法律の改正により,同年1月1日以後に行われた被控訴人の住宅の譲渡についてはその損失の金額を損益通算できなくなったとして,更正すべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)を受けた。本件は,被控訴人が,控訴人に対し,同年4月1日施行の改正法を同年3月10日に遡って適用することは,租税法規不遡及の原則に反し無効であるから,本件通知処分は違法であるとして,本件通知処分の取消しを求めた事案である。 原判決は,前記改正法の適用は租税法規の遡及適用に当たり,憲法84条が定める租税法律主義に基づく租税法規不遡及の原則により禁止されるものであるところ,遡及適用を行う必要性,合理性は一定程度認められるが,国民の経済生活の法的安定性又は予見可能性を害しないものとはいえないから,これが 被控訴人に適用される限りにおいて違憲無効であり,本件通知処分は違法であるとして,被控訴人の請求を認容したため,控訴人が控訴した。 関係法令の定め(1)損益通算及び繰越控除ア所得税法69条1項(損益通算)総所得金額,退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において,不動産所得の金額,事業所得の金額,山林所得の金 関係法令の定め(1)損益通算及び繰越控除ア所得税法69条1項(損益通算)総所得金額,退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において,不動産所得の金額,事業所得の金額,山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは,政令で定める順序により,これを他の各種所得の金額から控除する。 イ所得税法70条1項(純損失の繰越控除)確定申告書を提出する居住者のその年の前年以前3年内の各年において生じた純損失の金額(注・同法69条1項に規定する損失の金額のうち同条の規定を適用してもなお控除しきれない部分の金額。同法2条25号)がある場合には,当該純損失の金額に相当する金額は,政令で定めるところにより,当該確定申告書に係る年分の総所得金額,退職所得金額又は山林所得金額の計算上控除する。 (2)平成16年の土地建物等についての改正平成16年法律第14号「所得税法等の一部を改正する法律」は,次のような改正(以下「本件改正」という。)を含むものであった(以下,同法による改正前の租税特別措置法を「旧措置法」と,改正後の租税特別措置法を「新措置法」と,平成16年法律第14号「所得税法等の一部を改正する法律」附則を「本件改正附則」といい,新措置法及び本件改正附則をあわせ「本件改正法」という。)。 ア税率の軽減個人の有する土地若しくは土地の上に存する権利,又は,建物及びその附属設備若しくは構築物(以下「土地建物等」という。)で,その年1月 1日において所有期間が5年を超えるものの譲渡をした場合の譲渡所得(以下「長期譲渡所得」という。)の課税の特例について,次のように所得税の税率を引き下げた。 改正前特別控除後の譲渡益の20パーセント(旧措置法31条1項,2項。住民税6%を加えると合計26%)改正後譲渡益の15パ という。)の課税の特例について,次のように所得税の税率を引き下げた。 改正前特別控除後の譲渡益の20パーセント(旧措置法31条1項,2項。住民税6%を加えると合計26%)改正後譲渡益の15パーセント(新措置法31条1項前段,2項。住民税5%を加えると合計20%)イ損益通算及び繰越控除の廃止新措置法31条1項後段,3項2号は,長期譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは,所得税法その他所得税に関する法令の規定の適用については,当該損失の金額は生じなかったものとみなす旨,すなわち,他の所得との損益通算及び純損失の繰越控除(以下「損益通算等」ということがある。)を認めない旨定めた。 ウ長期譲渡所得の特別控除の廃止新措置法では,土地建物等の長期譲渡所得につき,100万円の特別控除(旧措置法31条4項)は廃止された。 エ居住用財産の譲渡についての特例新措置法41条の5は,居住用財産を譲渡した場合の譲渡損失について,買換資産の取得をした日の属する年の12月31日に買換資産に係る住宅借入金を有するなど一定の要件がある場合には,新措置法31条1項後段及び同3項2号の規定にかかわらず,当該損失の金額の一部について,他の所得との損益通算を認め,また,純損失の繰越控除を認めることにした(居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除)。 また,新措置法41条の5の2は,居住用財産を譲渡して,買換えをせず借家等に住み替える等の場合について,譲渡資産の譲渡の前日に譲渡資産に係る住宅借入金を有するなど一定の要件があれば,新措置法31条1 項後段及び同3項2号の規定にかかわらず,特定居住用財産の譲渡損失の一部について,他の所得との通算を認め,また,純損失の繰越控除を認めることとした(特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越 項後段及び同3項2号の規定にかかわらず,特定居住用財産の譲渡損失の一部について,他の所得との通算を認め,また,純損失の繰越控除を認めることとした(特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除)。 オ施行時期及び新措置法31条の適用範囲本件改正附則1条柱書は,平成16年法律第14号「所得税法等の一部を改正する法律」は平成16年4月1日から施行すると定めたが,本件改正附則27条1項は,新措置法31条の規定は,個人が平成16年1月1日以後に行う同条1項に規定する土地建物等の譲渡について適用することとした。 前提事実,争点及び争点についての当事者の主張は,後記(1)のとおり原判決を補正し,後記(2)のとおり当審における主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第2の2及び3のとおりであるからこれを引用する。 (1)原判決の補正ア5頁8行目冒頭から同10行目末尾までを「土地建物等の長期譲渡所得につき損益通算を廃止した新措置法31条1項後段を平成16年1月1日以後に行われた土地建物等の譲渡について適用する本件改正附則27条1項の規定は,租税法規不遡及の原則に反するものとして憲法に違反し,無効となるか」と改める。 イ6頁15行目の末尾に改行の上,以下を加える。 「平成15年12月17日に公表された与党の平成16年度税制改正大綱によって,本件改正を予測し,改正前の駆け込み対応をしたとしても,新措置法が成立しなかった場合には,この対応によって受けた個人の損失は担保されないのであり,法律以前の大綱や法案の開示では,個人の予見可能性の要請は満たされない。」ウ7頁9行目の「歴年間」を「暦年間」と改める。 エ8頁16行目の「本件改正」から同19行目の「不均衡なものであっ た。」までを「本件改正前の土地建物等の長期譲渡所得に の要請は満たされない。」ウ7頁9行目の「歴年間」を「暦年間」と改める。 エ8頁16行目の「本件改正」から同19行目の「不均衡なものであっ た。」までを「本件改正前の土地建物等の長期譲渡所得についての損益通算の制度は,利益が生じれば26%(うち所得税は20%)の分離課税とされる一方,損失が生じた場合には,最高税率50%の総合課税において他の所得との損益通算が認められるという不均衡なものであった。」と改める。 オ12頁3行目の「○○」を「○○」と改める。 (2)当審で補足された主張(被控訴人)ア期間税の期間当初への遡及適用について過去の事実や取引から生ずる納税義務の内容を納税者の不利益に変更することは原則として許されず,年度途中で納税者に不利益な改正がされ,期間税など年初に遡って適用される場合でも,それが許されるかどうかは,そのような改正が年度開始前に一般的にかつ十分に予測できたかによるとされている。 この予測可能性は,広く一般国民が知り,自由な経済活動ができる程度の猶予期間を保障することを含むというべきである。税法は難解であるから,国民感覚からいえば,税制改正においては十分な広報と周知期間をおくことが必要というべきである。 イ本件改正法が立法府の合理的な裁量の範囲内であるとはいえないこと(ア)居住用不動産と株式等の資産性財産は,その目的内容から性格を異にする面が多いのに,それらも十分審議をしないまま改正している。また,不動産よりもゴルフ会員権やリゾートマンション会員権の方が資産性財産であるのに,その損益通算制度は改正されておらず,税制に一貫性,合理性がない。 (イ)本件改正を平成17年分の所得税から適用すると,節税目的で土地建物等が大量かつ安価に売却されて価格が下落する弊害があるというが, 生活基盤である土地建 らず,税制に一貫性,合理性がない。 (イ)本件改正を平成17年分の所得税から適用すると,節税目的で土地建物等が大量かつ安価に売却されて価格が下落する弊害があるというが, 生活基盤である土地建物等について,購入時より大きく下落している市場において売却しても節税以上の大きな損失を残すこととなるのは常識であり,前記弊害は生じない。 また,土地建物等の取引には時間がかかるから,新措置法の成立後から適用すれば,前記弊害があるとは考えられない。期間途中の取扱いの変更は,納税申告事務及び課税事務に混乱を与えるおそれがあるというが,具体的なものとはいえない。 土地建物等の譲渡損失の損益通算は,50年以上にわたって継続して認められていたものであり,平成15年当時,これを改正しなければならないような重大な経済状況の変動があったわけではない。 また,上記損益通算が昭和43年の改正によりいったん廃止されたとすれば,その後に復活させた上,本件改正によりまた廃止することに合理性はない。 (ウ)損益通算を認めないことにより国民が被る経済的損失は多額に上るのであり,土地建物等の譲渡損失について損益通算を意図していた納税者の期待を裏切ることになる。居住用財産の買換えにおける住宅借入金の有無は,金銭的余裕の有無とは関連しないから,住宅借入金を要件とした損益通算の代償的措置は不十分である。 (エ)平成15年12月18日に新聞発表された平成16年度税制改正大綱に反応したのは,個人所有の投資用不動産対象の専門業者等であり,周知・広報の方向性は限定されており,周知が一般的かつ十分であったとはいえない。 (オ)本件改正法は,遡及立法になるおそれが指摘されていながら,国会審議において,後記(控訴人)イ(ア)の①ないし③が総合的に審議されたとはいえない。 (控訴人) 分であったとはいえない。 (オ)本件改正法は,遡及立法になるおそれが指摘されていながら,国会審議において,後記(控訴人)イ(ア)の①ないし③が総合的に審議されたとはいえない。 (控訴人) ア期間税を規定する租税法規の期間当初への遡及適用は憲法84条により禁止されていないこと(ア)所得税のような期間税について,その期間の途中において納税者に不利益な内容の租税法規の改正がなされ,その改正規定を当該期間の開始時に遡って適用する内容の立法がされたとしても,このような立法は,過去の期間について課税するものではなく,過去の事実や取引を課税要件とする新たな租税を創設するものではないし,過去の事実や取引に基づいていったん成立した納税義務の内容を納税者の不利益に変更するものでもないから,国民の経済生活の法的安定性を害することはなく,憲法84条により原則として禁止される遡及適用には該当しない。 (イ)当該年分の納付すべき税額は原則として確定申告の手続によって確定するところ,所得税の確定申告は当該暦年の翌年の3月15日までで足りること(所得税法120条),当該課税期間の中途の段階では,いまだ課税物件(個人の所得)が生成途中であることからすれば,期間の開始時に遡って適用したとしても,必ずしも納税者の法的安定性を著しく害することにはならず,また,その期間の初めまで遡る程度であれば,予測可能性の確保の趣旨を損なわない。 (ウ)人は,財産を取得し,勤労し,投資する際,租税効果を考慮するが,財産の取得等は長期にわたる予測と計画に基づくこともしばしばあり,租税効果に対する予測可能性を完全に保障しようとするならば,およそ税制改正はできないこととなるから,租税立法の改正が納税者の法的安定性,予測可能性を一定程度害することはやむを得ないことであり,法的安 税効果に対する予測可能性を完全に保障しようとするならば,およそ税制改正はできないこととなるから,租税立法の改正が納税者の法的安定性,予測可能性を一定程度害することはやむを得ないことであり,法的安定性,予測可能性の保障を絶対的な原則とすることは不適当である。 憲法84条は,個別の取引等の時点においてまで法的安定性,予測可能性を絶対的,完全に保障するものではなく,納税者の信頼の対象となる現行法又は行為時の法律とは,現実に所得を得た時の法律ではなく,租 税債務が発生した時の法律と解されるのであり,期間税において,租税債務の発生時期ではなく,取引行為の時点を基準として,新たに制定された法律が施行前の行為に適用されることをもって遡及適用に当たるとすることは誤りである。 イ本件改正法は,立法府の合理的裁量の範囲内のものであり,憲法84条に違反することはないこと(ア)租税法律主義を定める憲法84条は,刑罰法規の遡及を絶対的に禁止する憲法39条と異なり,遡及適用を明示的に禁止していないこと,憲法は,民事法規がその効果を遡及させる規定を設けることを禁止していないこと,租税法の定立については,国家財政,社会経済,国民所得,国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的,技術的な判断にゆだねるほかはなく,裁判所は,基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないことからすれば,本件改正法の目的及び手段に合理性が認められ,立法府の合理的裁量の範囲を超えることのない限り,本件改正法は,憲法84条に違反することはない。具体的には,①本件改正の目的,必要性(公益の性質及びその強度),②本件改正によって不利益を受ける納税者の納税義務の性質(所得税の期間税としての性質),③納税者が受ける不利益の程度(損益通算ができなくなることによって被る不利益 必要性(公益の性質及びその強度),②本件改正によって不利益を受ける納税者の納税義務の性質(所得税の期間税としての性質),③納税者が受ける不利益の程度(損益通算ができなくなることによって被る不利益の内容及び程度,経過措置の有無,内容,改正情報の公開の有無,内容,程度)などを総合的に勘案し,本件改正が合理的なものとして容認されるべきものかどうか,立法府の合理的な裁量を超えるか否かにより判断すべきである。 (イ)原審で主張したとおり,①本件改正については,土地建物等の譲渡所得についての不均衡を是正する目的で行われたものであり,これにより,税率軽減とあいまって,適正な取引価格形成による土地取引の活性化が期待されており,このような効果は早急に実現することが求められ ていた。そして,平成16年4月1日以降の譲渡から適用することとした場合,上記の効果が阻害されることが予測され,また,徴税技術上の観点から,看過することのできない弊害が生じることが明らかであった。 ②本件改正は,納税義務が成立した時点を基準とすれば,納税者の平成16年分所得税の納税義務の内容を遡及的に不利益に変更するものではない。③居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算などの合理的な代替措置があった。納税者においては,平成16年度税制改正大綱についての報道により,平成15年12月時点で本件改正法の内容を予測することが可能であったし,国会において不利益不遡及の原則に反しないかも含め,十分に議論が行われていた。 ①ないし③の事情を総合的に勘案すると,本件改正は,合理的なものと認められ,立法府の合理的裁量の範囲内のものであることが明らかである。 第3当裁判所の判断 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。 (1)本件改正法の立法趣旨,審議経過等ア ,立法府の合理的裁量の範囲内のものであることが明らかである。 第3当裁判所の判断 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。 (1)本件改正法の立法趣旨,審議経過等ア平成12年7月,政府税制調査会は「わが国税制の現状と課題-21世紀に向けた国民の参加と選択-」と題する報告書を作成し,その中で,損益通算に関し,租税回避行為への対応として,操作性の高い投資活動から生じた損失と事業活動などから生じた所得との損益通算の制限について検討が必要である旨指摘した(乙26)。 平成14年2月18日,国土交通省の国土審議会土地政策分科会企画部会において,地価の上昇を前提としない土地税制や不動産に対する投資意欲の喚起のための不動産税制を考える必要があることなどが議論された(乙40の2)。また,同年6月19日,国土交通省の「今後の土地税制のあり方に関する研究会」の中間取りまとめにおいて,地価下落など土地 をめぐる環境は大きく変化し,不動産市場は利用価値に応じた価格形成が行われる実需中心へと構造変化したが,現状では土地取引の各段階において多くの税が課され,地価下落にもかかわらず税収は増加し,市場における最適な資源配分を歪めていること,譲渡所得税については,株式等他の資産と均衡を失しない市場中立的な税体系とすべきであること等の指摘がされた(乙41)。 平成15年8月31日,国土交通省は,平成16年度の税制改正について,株式等他の資産と均衡のとれた市場中立的な税体系を構築することにより土地への投資意欲を喚起するため,他の資産と比べて重く課税している土地譲渡益課税制度を見直し,その税率を引き下げることなどを要望した(乙42)。 イ政府税制調査会は,同年11月27日,平成16年度の税制改正に関する中間報告をまとめ,同年12月,「 課税している土地譲渡益課税制度を見直し,その税率を引き下げることなどを要望した(乙42)。 イ政府税制調査会は,同年11月27日,平成16年度の税制改正に関する中間報告をまとめ,同年12月,「平成16年度の税制改革に関する答申」を提出した。この中で,個人所得課税については,社会経済の構造変化に対応しきれず,結果として税負担の歪みや不公平を生じさせている諸制度を見直し,担税力に応じ,広く公平に負担を分かち合える税制を構築していくべきであるとされた(甲8,9)。 平成15年12月17日,与党(自由民主党及び公明党)において平成16年度税制改正大綱が取りまとめられた。これは,土地建物等の長期譲渡所得の損益通算等の廃止を含めた本件改正を具体的内容とするものであった(乙6,11の1ないし4)。 平成16年1月16日,同大綱に基づき「平成16年度税制改革の要綱」が閣議決定され,上記要綱に基づいて作成された新措置法の法律案が同年2月3日国会に提出された(乙5)。 平成16年1月16日の政府税制調査会において,財務省主税局長及び審議官は,損益通算廃止の問題は税制調査会で議論されなかったとの一部 の委員の意見に対し,資産性所得に関する税制の一体化という従来からの税制調査会での議論の流れや,土地について他の所得との損益通算を認めるのは世界的にも少ないこと等から,上記要綱の提起等を受けて損益通算の廃止を取り上げた旨の説明をした(甲12,乙19)。 ウ同年2月12日の衆議院予算委員会において,財務大臣は,本件改正は,土地市場の活性化という観点から,不動産の譲渡所得について,株式と同じように税率を引き下げ,特別控除を廃止し,損益通算を廃止するものであること,損益通算は年度末に確定するものであるため,不利益不遡及の原則には反しないこと,過去には,書画骨 渡所得について,株式と同じように税率を引き下げ,特別控除を廃止し,損益通算を廃止するものであること,損益通算は年度末に確定するものであるため,不利益不遡及の原則には反しないこと,過去には,書画骨董等の資産譲渡についての損益通算廃止,長期所有株式の譲渡所得の特別控除の廃止などについて,改正法施行日を含む年分の所得税から適用した例がいくつかある旨説明した(乙14)。 同月26日の衆議院財務金融委員会において,財務大臣は,本件改正につき,土地市場の活性化及び株式に対する課税とのバランスという観点から,土地建物の長期譲渡所得の税率引下げ,100万円の特別控除の廃止及び損益通算の廃止を一つのパッケージとして措置したこと,不利益不遡及が許される理由として,平成16年度税制改正大綱の発表や新措置法の法案提出によるアナウンス効果があること,及び,土地の収益に着目した取引をバックアップするという本件改正の目的に合理的な理由がある旨を説明し,翌27日の同委員会においても,事実上の期待に反する面はあると思うが,合理的な政策目的があれば不利益不遡及に反しない旨説明した(甲18,乙12)。 同日の衆議院財務金融委員会において,財務大臣は,損益通算を認めない対象を法施行日前である平成16年1月1日まで遡る理由として,これを平成17年1月1日からなどとすると損益通算目的で駆け込み的な売却が行われるおそれがあること,また,損益通算の廃止を税率引下げと一体 として行うことで不動産取引の活性化を図る目的があると説明した(乙24)。平成16年3月1日の衆議院予算委員会第七分科会において,損益通算の廃止を税率引下げと一体として行うことで,税制面での損益通算を考慮することなく,土地の使用価値に応じた適正な価格形成の実現が期待される旨の政府参考人の説明があった(乙21 分科会において,損益通算の廃止を税率引下げと一体として行うことで,税制面での損益通算を考慮することなく,土地の使用価値に応じた適正な価格形成の実現が期待される旨の政府参考人の説明があった(乙21)。 同月12日の参議院本会議において,財務大臣は,本件改正における損益通算の廃止は,譲渡損益と経常所得の性格の違いを踏まえながら,課税の取扱いの均衡,土地市場の活性化の観点から行うものであり,使用収益に応じた適切な価格形成を実現して,税率引下げと一体として土地市場の活性化を図るため,早急な実施が必要であり,適用時期を遅らせることは,損益通算目的の売却を招いて土地市場に不測の影響を及ぼすおそれもあるため適当ではない旨説明した(乙18)。同月15日の参議院予算委員会においては,財務大臣は,現行の税制は,土地建物の譲渡益は26%の分離課税を受けるが,譲渡損失は最高税率50%で総合課税される他の所得から控除できるという諸外国にも余り例のないバランスを欠いたものであり,本件改正における損益通算の廃止は,これを株式と同様に本来の分離課税とするものであり,損益操作や節税目的の土地売却の防止及び使用収益に応じた価格形成を意図するもので,税率引下げと一体で行うことが土地市場活性化のために必要である旨の説明をした(乙16)。 本件改正法についての衆議院議員の同年2月25日付け質問主意書に対し,内閣総理大臣は,同年3月16日付け答弁書により,①損益通算については,所得税の納付義務が成立し,納付すべき税額を確定する段階で法令が適用されるものであり,個々の譲渡等の段階で適用されるものではないこと,このような損益通算の性格から,過去においてもその年の4月1日施行の法律改正によってその年分の所得税について損益通算を認めないとした例があること,土地市場の活性化を図る観点 されるものではないこと,このような損益通算の性格から,過去においてもその年の4月1日施行の法律改正によってその年分の所得税について損益通算を認めないとした例があること,土地市場の活性化を図る観点から,土地建物等の長 期譲渡所得の税率の引下げ等と一体として講ずるものであることから,平成16年1月1日以後の土地建物等の譲渡に損益通算を認めないことは,不利益不遡及の原則や法の安定的運用との関係で問題はない,②本件改正における損益通算を認めない措置は,土地本来の使用収益目的とは離れた土地の売却を防止し,土地市場における使用収益に応じた適切な価格形成の実現を図るものであり,この措置を土地建物等の長期譲渡所得の税率の引下げ等とともに一体で早急に実施することが土地市場の活性化を図るために適切かつ必要であることから,平成16年1月1日以後の土地建物等の譲渡について損益通算を認めないこととするのであり,その実施を遅らせるのは適当ではない旨答弁した(乙22,23)。 エ財団法人A協会が発行した「○○」には,本件改正の内容について,土地譲渡益課税について,使用収益に応じた適切な価格による土地取引を促進し,特に収益性の高い土地の流動性を高め,土地市場の活性化に資する観点から,株式に対する課税とのバランスを踏まえ,長期譲渡所得の税率の26%(うち住民税は6%)から20%(うち住民税は5%)への引下げと100万円特別控除及び他の所得との損益通算の廃止とが一つのパッケージとして措置することとされた旨の記載がある。また,本件改正における損益通算・繰越控除の廃止について,分離課税の対象となる土地建物等の譲渡所得に対する課税については,利益が生じた場合には比例税率の分離課税とされている一方で,損失が生じた場合には総合課税の対象となる他の所得の金額から控除する いて,分離課税の対象となる土地建物等の譲渡所得に対する課税については,利益が生じた場合には比例税率の分離課税とされている一方で,損失が生じた場合には総合課税の対象となる他の所得の金額から控除することができるという主要諸外国に例のない不均衡な制度であるといったこと等の問題点が指摘されており,この問題に対処するためのものである旨の記載がある(乙17)。 (2)本件改正の国民への周知状況についてア前記(1)イのとおり,平成15年12月17日,与党が平成16年度税制改正大綱を取りまとめて公表した。これは,本件改正の具体的内容を初め て明らかにしたものであった(乙11の1ないし4,弁論の全趣旨)。 イ平成15年12月18日,B新聞,C新聞,D新聞及びE新聞の各朝刊において,平成16年度税制改正大綱の要旨が報じられ,同各記事には,土地建物等の長期譲渡所得に係る損益通算の廃止も記載されていた(乙11の1ないし4)。このうち,B新聞の記事にのみ,上記損益通算の廃止が平成16年分以後の所得税について適用されることが記載され,平成16年1月1日以後にされた土地建物等の譲渡について損益通算ができなくなることを知り得るものとなっていた。 また,平成15年12月18日,インターネット上に,上記各新聞の記事として,各記事と同内容の記載が掲載された(乙6)。 ウ同月22日,週刊F第××××号(財団法人A協会F総局発行)及び週刊GNo.××××(H発行)において,平成16年度税制改正大綱の内容が報じられ,同各記事には,土地建物等の長期譲渡所得の金額又は短期譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額については,土地建物等の譲渡による所得以外の所得との通算及び翌年以降の繰越を認めないこと,この改正は平成16年分以後の所得税について適用することが記載されていた( 得の金額の計算上生じた損失の金額については,土地建物等の譲渡による所得以外の所得との通算及び翌年以降の繰越を認めないこと,この改正は平成16年分以後の所得税について適用することが記載されていた(乙34,37)。 同月26日,B新聞朝刊において,本件改正についての記事が掲載され,適用は来年1月以降に譲渡する土地建物となること,これまで土地譲渡損について,給与所得や事業所得などと損益通算ができたが,改正後には株式と同様に損益通算ができなくなる旨の記事が掲載された(乙31)。 同月30日,I(株式会社J発行)において,本件改正についての記事が掲載され,土地建物等の譲渡損失について,これまでは他の所得との通算及び翌年以降の繰越が認められていたが,平成16年分以後の所得については認められないことになった旨の記載が掲載された(乙32の1)。 (3)被控訴人の本件譲渡資産の譲渡の経緯等被控訴人は,広域の転勤がある会社に勤務する給与所得者であった。被控訴人は,平成4年,自己資金に加え,勤務先の社内住宅貸付金制度,K及び財団法人L公社から合計5000万円を借り入れ,横浜市α内所在の居住用マンション1戸を購入し(以下「横浜のマンション」という。),以後,母及び姉と同居し,両名を扶養していたが,ローン返済の負担や日常生活の利便性の問題などから地方都市への転居を考慮するようになった。 被控訴人は,平成9年3月,勤務先から関西地区への転勤の辞令を受け,M市にある勤務先の単身赴任者施設に入居した。被控訴人は,これをきっかけとして,平成9年5月,横浜のマンションを代金約6200万円で売却し,Kからの借入金残額約974万円を一括返済してローン返済の負担を減少させるとともに,売却金の残額で福岡市内の本件譲渡資産を代金約4837万円で購入し,社内住宅貸付金の返済 金約6200万円で売却し,Kからの借入金残額約974万円を一括返済してローン返済の負担を減少させるとともに,売却金の残額で福岡市内の本件譲渡資産を代金約4837万円で購入し,社内住宅貸付金の返済は引き続き給与から返済することにした。 被控訴人,母及び姉は本件譲渡資産に転居した。 横浜のマンションを売却した際,被控訴人には約2800万円の譲渡損失が生じた。被控訴人は,不動産仲介業者の助言により,この譲渡損失と他の所得との損益通算ができることを知り,平成9年度の確定申告をしたところ,所得税183万7500円が還付され,平成10年の住民税が免除されたため,被控訴人は損益通算の制度を理解した。 その後,被控訴人は,被控訴人の母のため,平成13年ころからバリアフリー住宅への住み替えを検討していたところ,平成15年に隣接地に介護設備を備えたマンション建設が始まったので,購入申込みをし,平成16年1月,本件譲渡資産の売却を不動産仲介業者に依頼し,同年3月10日,本件譲渡資産を代金2600万円で売却するとともに,この金員と退職後の生活のための蓄えであった預貯金2000万円を充て,同月24日,本件買換資産を代金4580万円(ほかに諸費用20万円)で購入した。被控訴人は, これらの取引の際,不動産仲介業者から本件改正の話を聞いたことはなく,本件改正について知らなかった。 被控訴人は,平成17年3月,平成16年分所得税について確定申告を行ったところ,本件改正により損益通算ができなくなったことを知らされた。 後に,不動産仲介業者は,被控訴人に対し,本件改正は耳にしていたが改正前なので言及しなかった旨述べた。 (甲16,23ないし30,乙1,2,4) 租税法規不遡及の原則における遡及適用と立法裁量(1)前記1(3)によれば,被控訴人は土地建物等の譲渡所得 いたが改正前なので言及しなかった旨述べた。 (甲16,23ないし30,乙1,2,4) 租税法規不遡及の原則における遡及適用と立法裁量(1)前記1(3)によれば,被控訴人は土地建物等の譲渡所得について損益通算が可能であると信じて本件譲渡資産を売却したことが認められるところ,被控訴人は,本件改正法の成立前である平成16年1月1日以後の土地建物等の譲渡について新措置法31条を適用する本件改正附則27条1項は,租税法規不遡及の原則に違反し,憲法に違反する旨主張する。 納税者は,現在妥当している租税法規に依拠しつつ,現在の法規に従って課税が行われることを信頼しながら各種の取引を行うのであるから,後になってその信頼を裏切ることは,憲法84条が定める租税法律主義が狙いとする一般国民の生活における予測可能性,法的安定性を害することになり,同条の趣旨に反する。したがって,公布の前に完了した行為や過去の事実から生じる納税義務の内容を納税者の不利益に変更することは,憲法84条の趣旨に反するものとして違憲となることがあるというべきである。 本件改正は,平成16年3月26日に成立し,同月31日に公布され,同年4月1日から施行されたものであるところ,本件改正附則27条1項は,その公布前の同年1月1日以降の土地建物等の譲渡について適用するとしているから,公布の前に完了した行為や過去の事実から生じる納税義務の内容を納税者の不利益に変更するものといえる。 この点,控訴人は,租税法規不遡及の原則で問題とされる遡及適用とは, 既に成立した納税義務の内容を国民の不利益に変更するものをいうと解した上,所得税は暦年の終了時に納税義務が成立する期間税であり,1暦年の途中においては納税義務は成立していないのであるから,暦年途中の法改正によってその暦年における所得税の内容を するものをいうと解した上,所得税は暦年の終了時に納税義務が成立する期間税であり,1暦年の途中においては納税義務は成立していないのであるから,暦年途中の法改正によってその暦年における所得税の内容を変更する本件改正は,既に成立した納税義務の内容を変更するものではなく,遡及適用に当たらないと主張する。 しかし,租税法規不遡及の原則は,現在の租税法規に従って課税が行われるとの納税者の信頼を保護することを通じて,国民の予測可能性,法的安定性を保護することをその目的とするところ,期間税のように,当該取引等により直ちに納税義務が確定せず,期間の中途で行われた法改正の後に,期間が終了する時点で納税義務が成立するものであっても,納税者は当該取引等の時点における租税法規に従って当該取引等に関する納税義務が成立するであろうと信頼するのが通常であると考えられ,このような場合においても,その信頼を保護することが国民の予測可能性や法的安定性に資することは否定できない。したがって,租税法規不遡及の原則で問題とされる遡及適用は,既に成立した納税義務の内容を国民の不利益に変更するものには限られないというべきである。控訴人の前記主張は採用できない。 (2)ところで,前記(1)のとおり,公布の前に完了した取引や過去の事実から生じる納税義務の内容を納税者の不利益に変更することは,憲法84条の趣旨に反するものとして違憲となることがあり得るというべきであるが,前記不利益変更のすべてが同条の趣旨に反し違憲となるとはいえない。 なぜなら,憲法は,同法39条の遡及処罰の禁止や同法84条の租税法律主義とは異なり,租税法規の遡及適用の禁止を明文で定めていないが,このことは,憲法が,明文で定める租税法律主義(同法84条,30条)による課税の民主的統制を憲法上の絶対的要請としたのに対し,租 法律主義とは異なり,租税法規の遡及適用の禁止を明文で定めていないが,このことは,憲法が,明文で定める租税法律主義(同法84条,30条)による課税の民主的統制を憲法上の絶対的要請としたのに対し,租税法規不遡及の原則による課税の予測可能性・法的安定性の保護を,租税法律主義から派生する相対的な要請としたことを示しており,租税法規不遡及の原則について は,課税の民主的統制に基づく一定の制限があり得ることを許容するものといえるからである。 また,租税は,今日では,国家の財政需要を充足するという本来の機能のほか,所得の再分配,資源の適正配分,景気の調整等の諸機能をも有しており,国民の租税負担を定めるについて,財政,経済,社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく,課税要件等を定めるについても極めて専門技術的な判断を必要とする。したがって,租税法の定立については,国家財政,社会経済,国民所得,国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的,技術的な判断にゆだねるほかはなく,裁判所は基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきであり(最高裁昭和60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号247頁),このことは,租税法規の適用時期についても当てはまるものである。 以上からすれば,納税者に不利益な租税法規の遡及適用であっても,遡及適用することに合理性があるときは,憲法84条の趣旨に反し違憲となるものではないというべきである。 (3)そして,前記(2)で述べたところによれば,納税者に不利益な遡及適用に合理性があって,憲法84条の趣旨に反しないものといえるかは,①遡及の程度(法的安定性の侵害の程度),②遡及適用の必要性,③予測可能性の有無,程度,④遡及適用による実体的不利益の程度,⑤代償的措置の有無 性があって,憲法84条の趣旨に反しないものといえるかは,①遡及の程度(法的安定性の侵害の程度),②遡及適用の必要性,③予測可能性の有無,程度,④遡及適用による実体的不利益の程度,⑤代償的措置の有無,内容等を総合的に勘案して判断されるべきである(財産権の遡及的制約に関する最高裁昭和53年7月12日大法廷判決・民集32巻5号946頁参照)。 本件改正法についての具体的検討(1)ア①遡及の程度,法的安定性の侵害の程度所得税はいわゆる期間税であり,その納付義務は国税通則法15条2項1号の規定により暦年の終了の時に成立し,また,当該年分の納付すべき税額は,原則として確定申告の手続によって確定するところ(所得税法1 20条),損益通算は,所得税の納税義務が成立した後の納付すべき税額を確定する段階で初めて行うものであり,個々の譲渡の段階で行うものではない。したがって,暦年途中の法改正によってその暦年における所得税の内容を変更することは,既に成立した納税義務について改正法により変更をもたらすものではない。そして,このような期間税について暦年途中の法改正によってその暦年における行為に改正法を遡及適用することは,既に成立した納税義務を遡及的に不利益に変更する場合と比較して,遡及の程度は限定されており,納税者の予測可能性を害する程度や法的安定性を侵害する程度は低いと考えられる。 イ②遡及適用の必要性前記1(1)ウの本件改正法の審議経過によれば,本件改正法における損益通算の廃止の目的は,当時の税制では,土地建物等の譲渡で利益が生じた場合には26%(うち住民税6%)の課税を受けるに止まるのに対し,譲渡損失は最高税率50%で総合課税の対象となる他の所得から控除できるという不均衡なものであったのを,適正な租税負担のために,株式と同様に分離課税とす ち住民税6%)の課税を受けるに止まるのに対し,譲渡損失は最高税率50%で総合課税の対象となる他の所得から控除できるという不均衡なものであったのを,適正な租税負担のために,株式と同様に分離課税とすることにあり,これにより損益操作・租税回避のための不動産売却の防止を意図するものであったと認められる。そして,税率の引下げ及び長期譲渡所得の特別控除の廃止と一体として実施することにより,土地本来の使用収益目的とは離れた土地の売却を防止し,土地市場における使用収益に応じた適切な価格形成の実現を図り,土地市場の活性化,ひいては土地価格の安定化を図るものであったと認められる。 また,本件改正の適用時期を平成17年分所得税以降に遅らせた場合,平成16年12月31日までの間に損益通算目的の駆け込み的な不動産売却がされ,土地価格の安定化という前記政策目的を阻害することが予測されたし(1(1)ウ),さらに,適用時期を平成16年4月1日以降とした場合,同じ暦年で損益通算をすべき譲渡とそうでない譲渡が混在することと なり,納税者間に不平等が生ずるおそれや,納税申告事務及び徴収事務の負担を増大させ,徴税の過誤や停滞を招くおそれもある。これらからすれば,本件改正附則27条1項が本件改正の適用時期を平成16年1月1日以降とする必要があったということができる。 この点,被控訴人は,「資産性財産であるゴルフ会員権やリゾートマンション会員権については損益通算制度が改正されておらず,一貫性,合理性がない。」と主張する。しかし,ゴルフ会員権等の譲渡による所得については総合課税により課税されており(旧措置法37条の10第2項柱書の括弧書き),利益が生じた場合と損失が生じた場合とで税率の違いによる不均衡はないから,ゴルフ会員権等について損益通算制度を改正しなかったことが本件 り課税されており(旧措置法37条の10第2項柱書の括弧書き),利益が生じた場合と損失が生じた場合とで税率の違いによる不均衡はないから,ゴルフ会員権等について損益通算制度を改正しなかったことが本件改正と一貫性・合理性を欠くとはいえない。 また,被控訴人は,「居住用不動産と株式等の資産性財産の違いを十分審議しないまま改正している。」と主張するが,証拠(乙24)によれば,国会においては,両者の性格の違いをいう意見も踏まえて審議されていることが認められるし,本件改正は,居住用財産については一定の要件の下に損益通算を認めるなどの措置を設けており,株式等の資産性財産との性格の違いを考慮していないとはいえない。 被控訴人は,損益通算目的の駆け込み的な不動産売却の弊害について,「生活基盤である住居について,購入時より大きく下落している市場で売却しても節税以上の大きな損失を残すこととなるのは常識であるから,不適当な予測である。」と主張するが,平成15年12月に平成16年度税制改革の大綱が公表されると,租税回避のため同月中に土地建物等を身内等に売却するよう勧める専門家が複数存在していたことからすれば(乙63の1ないし3,乙64,65),前記弊害のおそれが不適当な予測によるものとはいえない。 被控訴人は,「土地建物等の譲渡損失の損益通算は,50年以上にわた って継続して認められていたものであり,平成15年当時,これを改正しなければならないような重大な経済状況の変動があったわけではない。」と主張するが,前記1(1)アのとおり,我が国においては,地価下落など土地をめぐる環境は大きく変化し,不動産市場は利用価値に応じた価格形成が行われる実需中心へと構造変化しており,この中で,土地市場の活性化及び土地価格の安定を図る必要があったもので,土地建物等の譲渡損失の をめぐる環境は大きく変化し,不動産市場は利用価値に応じた価格形成が行われる実需中心へと構造変化しており,この中で,土地市場の活性化及び土地価格の安定を図る必要があったもので,土地建物等の譲渡損失の損益通算の廃止という,前記の目的は合理性を有するものといえる。また,被控訴人は,昭和43年に損益通算制度が廃止されたことを前提として「本件改正の目的に合理性がない。」旨主張するが,昭和43年4月の法改正により損益通算制度が廃止されたわけではないから(原判決別表2),その前提を欠き,採用できない。 被控訴人は,「納税申告,課税事務の混乱のおそれには具体性がない。」と主張するが,1暦年を期間とする所得税において,期間途中で取り扱いが変わることは,納税申告事務及び徴収事務の負担を増大させるものであることは明らかである。 ウ③予測可能性の有無,程度前記1(2)によれば,平成15年12月17日,本件改正の内容を具体化した与党の平成16年度税制改革大綱が公表され,同月18日,我が国の主要な新聞紙上にその内容が掲載され,その後,租税及び不動産の専門誌等においても報道されていたことが認められるから,同日の時点で,平成16年の所得税から土地建物等の長期譲渡所得について損益通算が廃止されることが予測できる状態になったことが認められる。そして,一部の新聞には,上記損益通算の廃止が平成16年1月1日から適用されることが報道されていたほか,所得税が期間税であり,原判決別表のように,過去の税制改正において,年度途中の改正の内容が年度開始時に遡って適用されることが数回あったことからすれば,前記損益通算の廃止が年度開始時 に遡って適用されることも,ある程度予測可能な状態であったということができる。 以上から,本件改正と同内容である与党の税制改革大綱が国民に知れた ことからすれば,前記損益通算の廃止が年度開始時 に遡って適用されることも,ある程度予測可能な状態であったということができる。 以上から,本件改正と同内容である与党の税制改革大綱が国民に知れた時期(平成15年12月18日)は本件改正が適用される平成16年1月1日の2週間前であるし,租税及び不動産の専門誌等はその対象読者は限られていると考えられるから,一般国民に対する周知の程度には限界があったことは否定できないものの,納税者において本件改正の予測可能性が全くなかったとはいえない。 この点,被控訴人は,「本件改正の内容は,平成15年12月15日の政府税制調査会の総会までは全く触れられず,同月17日の「与党税制改正大綱の骨子」に唐突に登場しており,予測可能性がないものであったことは明らかである。」と主張する。しかし,本件改正の内容が,平成15年12月15日の政府税制調査会の総会に直近した時期において同調査会で十分議論されなかったとしても,本件改正は,資産税所得に対する税制の一本化という従来の税制調査会の議論の流れの上にあることが認められるから(1(1)ア,イ),被控訴人主張のように全く唐突であったとはいえない。 被控訴人は,「大綱や法案が公表されただけでは,法改正がなされるか否かは明確ではないから,これにより個人の予測可能性の要請は満たされない。」と主張する。しかし,租税法規に対する個人の予測可能性を完全に満たさなければならないとすれば,そもそも租税法規の改正はできないことになり,租税の機能(国家の財政需要充足,所得の再分配,資源の適正配分,景気の調整等)は不全に陥ることとなるし,大綱や法案であっても,法改正の内容は予測できることからすれば,租税法規の改正に当たって,個人における予測可能性を完全に満足することまでは要求されていないと 景気の調整等)は不全に陥ることとなるし,大綱や法案であっても,法改正の内容は予測できることからすれば,租税法規の改正に当たって,個人における予測可能性を完全に満足することまでは要求されていないというべきである。 エ④遡及適用による実体的不利益の程度土地建物等の譲渡損失は,過去の一定の時期と比較して地価が相当に下落している我が国の現状において,多額になることも珍しくなく,納税者によっては,損益通算及び繰越控除を認めないことによる経済的損失は少なくないと考えられる。なお,被控訴人の場合は,損益通算により還付を受けられた金額は173万4800円であった。 オ⑤代償的措置の有無,内容前記第2の1(2)エのとおり,本件改正では,国民の生活に大きな影響を与え,損益操作・租税回避のための不動産売却が行われる危険の少ない居住用財産については,一定の時期に買換資産に係る住宅借入金ないし譲渡資産に係る住宅借入金が存在すること等を要件として,譲渡損失の損益通算及び繰越控除の拡充及び創設を行い,損益通算の廃止による実体的不利益を被らないようにする措置があった。 被控訴人は,居住用財産の買換えにおける住宅借入金の有無は,金銭的余裕の有無とは関連しないから代償的措置は不十分である旨主張するが,譲渡に近接した一定の時期における居住用財産に係る借入金の有無は,担税力の差異を示すものであるから,前記一定の時期における居住用財産に係る借入金を代償的措置の適用要件とすることには合理性があるというべきである。 (2)以上の検討によれば,本件改正法は,①期間税について,暦年途中の法改正によってその暦年における行為に改正法を遡及適用するものであって,既に成立した納税義務の内容を不利益に変更する場合と比較して,遡及の程度は限定されており,予測可能性や法的安定性を大 暦年途中の法改正によってその暦年における行為に改正法を遡及適用するものであって,既に成立した納税義務の内容を不利益に変更する場合と比較して,遡及の程度は限定されており,予測可能性や法的安定性を大きく侵害するものではなく,②土地建物等の長期譲渡所得における損益通算の廃止は,分離課税の対象となる土地建物等の譲渡所得の課税において,利益が生じた場合には比例税率の分離課税とされ,損失が生じた場合には総合課税の対象となる他の所得の 金額から控除することができるという不均衡な制度を改めるものであり,税率の引下げ及び長期譲渡所得の特別控除の廃止と一体として実施することにより,土地市場における使用収益に応じた適切な価格形成の実現による土地市場の活性化,土地価格の安定化を政策目的とするものであって,この目的を達成するためには,損益通算目的の駆け込み的な不動産売却を防止する必要があるし,年度途中からの実施は徴税の混乱を招く等のおそれもあるから,遡及適用の必要性は高く,③本件改正の内容について国民が知り得た時期は本件改正が適用される2週間前であり,その周知の程度には限界があったことは否定できないものの,ある程度の周知はされており,本件改正が納税者において予測可能性が全くなかったとはいえず,④納税者に与える経済的不利益の程度は少なくないにしても,⑤居住用財産の買換え等について合理的な代償措置が一定程度講じられており,これらの事情を総合的に勘案すると,本件改正法の成立前である平成16年1月1日以後の土地建物等の譲渡について新措置法31条を適用する本件改正附則27条1項は,憲法84条の趣旨に反するものとはいえないというべきである。したがって,本件改正附則27条1項が違憲無効であるとはいえない。 結論 本件改正附則27条1項は,違憲無効であるとはいえな 7条1項は,憲法84条の趣旨に反するものとはいえないというべきである。したがって,本件改正附則27条1項が違憲無効であるとはいえない。 結論 本件改正附則27条1項は,違憲無効であるとはいえないから,被控訴人の平成16年分の所得税を算定するに当たり,同項により新措置法31条1項後段を適用することとして,被控訴人の更正の請求を棄却した本件通知処分は適法であり,被控訴人の請求は理由がない。 よって,原判決を取り消して被控訴人の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所第5民事部 裁判長裁判官山口幸雄裁判官伊藤由紀子裁判官前川高範は退官のため署名押印できない。 裁判長裁判官山口幸雄
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