【DRY-RUN】主 文 本件各上告を棄却する。 理 由 被告人A、弁護人大類武雄上告趣意書 一、原審(東京高等裁判所)が判示第一の(一)に於て被告人AがB、同C方で昭 和二十年
主 文 本件各上告を棄却する。 理 由 被告人A、弁護人大類武雄上告趣意書 一、原審(東京高等裁判所)が判示第一の(一)に於て被告人AがB、同C方で昭 和二十年十二月十九日夜(1)被告人D同E及びFと共謀の上同人等から金員を喝 取しやうとして戸外から(2)「ソンナ奴ハ吹キ飛バセ、粉ニシテ仕舞へ只デ置ク ナ」と怒鳴つたと事実を認定したそしてその証拠としては、a、右(1)の事実は 第一審裁判所での第二回公判調書中被告人Aの供述を、b、右(2)の事実はFに 対する司法警察官の昭和二十二年三月七日附聴取書中同人の供述として金銭喝取に 際して被告人AがB方戸外で「ソンナ奴ハ吹キ飛バセ粉ニシテ仕舞へ只デ置クナ」 と騒いで居たとの記載及びc、原審証人Bの原審公廷での「昭和二十二年十二月十 九日の夜十一時頃F、A、D、E等が私方に来訪し恐ろしい権幕で怒鳴り立て殴り でもしさうなので怪我をしてもつまらないと思ひ止むなく同人等に現金五千円を出 したとの供述を採用してゐるが以上の証拠採用は刑事訴訟法の応急措置法第十条後 段並びに同法第十二条前段に違反してなされたものである其理由は 第一、前記(1)の事実(殊に共謀の点)を認定したaの証拠は被告人Aの供述で それは自白であるそしてこれ以外に(1)の事実を認定する証拠がない他の原審判 示証拠は(1)の事実認定には関係がないそれで「何人モ自己ニ不利益ナ唯一ノ証 拠ガ本人ノ自白デアル場合ニハ有罪トサレナイ」と云ふ前記法律第六十条後段に違 反して有罪と事実を認定したこと、第二、前記(2)の事実を認定したb、の証拠 はFに対する司法警察官の聴取書でFは裁判前死亡して第一審裁判所公廷にも原審 公廷にも被告人或は証人として出廷させて同人を訊問する機会を被告人Aは遂に持 つことが出来なかつた前記法律第十二条に依れば証人その他 対する司法警察官の聴取書でFは裁判前死亡して第一審裁判所公廷にも原審 公廷にも被告人或は証人として出廷させて同人を訊問する機会を被告人Aは遂に持 つことが出来なかつた前記法律第十二条に依れば証人その他の者の供述を録取した - 1 - 書類を証拠とするには被告人の請求あるときは被告人に対しその供述者を公判期日 に於いて訊問する機会を与へなければならないのが原則になつてゐるのにFの死亡 によつて被告人Aはこれが出来なかつたそれで原審は原則として採用することの出 来ない証拠を証拠として採用した違法がある但し同条は例外としてそれを証拠とし て採用することの出来る場合を規定してゐるがこの場合には裁判所はこれ等の書類 についての制限及び被告人の憲法上の権利を適当に考慮して証拠としなければなら ぬことになつてゐるさうであるのに原審は右の二つの点を考慮した事実がないとい ふのはFの前記聴取書には相当に虚偽の供述があつて(例へば予審で免訴されたG 方の恐喝事件で被告人Aに不利なことを供述している点及原審で無罪と認定された Hに対する恐喝事件で被告人Aに不利なことを供述してゐる点)これのみを証拠と して採用するのは甚だ危険であるにも拘らずこれを採用したからである原審は前記 (2)の事実認定にはc、の証拠を採用してゐるがこのBの供述は記録により明か である通り当夜被告人Aが戸外におつたと云ふことはF等がBより金銭を喝取して 恐喝が経つてからAが戸内に入つて行つたので初めて知つたのか或はD等が恐喝行 為中知つたのか不明であるこの点は原審は審理してゐないさうとすれば前記(2) の事実の認定にはbの証拠が唯一の証拠となるのであつて尚更前記法律第十二条の 例外の場合として証拠に採用するのは余りに原審は独善的であつて同法の立法の趣 旨に違反する以上の様に原審は判示第一の(一)で被告人Aの恐喝罪の成立を認定 唯一の証拠となるのであつて尚更前記法律第十二条の 例外の場合として証拠に採用するのは余りに原審は独善的であつて同法の立法の趣 旨に違反する以上の様に原審は判示第一の(一)で被告人Aの恐喝罪の成立を認定 してゐるのは法律に違反してなされた証拠の採用によつて為したものでこの点に於 て原審判決は当然破毀を免れぬものである。と云うのであるが、「日本国憲法の施 行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律第十条第三項の規定にいわゆる自白 の中には公判廷における自白を包含しないものと解すべきことはさきに当裁判所の 判例として示すところである。(昭和二十二年十一月二十一日言渡最高裁判所同年 (れ)第一〇七号事件判決参照)ところで、所論の第一審第二回公判調書記載中の - 2 - 被告人の供述は公判廷における自白に外ならないので、原判決が判示共謀の点を認 定するにつき、この自白を採つて以つて唯一の資料に供したとしても、毫も、右の 規定に違反しないものと云わなくてはならない。」次に、原判決がFに対する司法 警察官の聴取書を証拠として援用し、しかも、そのFが原審公判当時既に死亡して いたことは、記録に徴して明かである。しかし、原判決が右聴取書を証拠として援 用するにつき、日本国憲法の施行に伴う応急的措置に関する法律第十二条第一項但 書の趣旨に従ひ同項本文に規定する制限及び被告人の憲法上の権利を適当に考慮し たものと解するのが相当で、又右聴取書に記載する供述の内容が虚偽であることを 疑わせるような廉もないので、原判決が右聴取書を証拠として援用した措置を目し て違法とすべき謂われはない。論旨はすべて理由がない。 被告人I弁護人竹村川二上告趣意書原審ハ判示第一ノ(二)ノ事実ニ対スル証拠 説明トシテ「被告人Iノ当公廷ニ於ケル判示関係部分ニ付同被告人が台湾工員ノ音 声ヲ真似タリトノ点ヲ除キ判示同趣旨ノ供述 ない。 被告人I弁護人竹村川二上告趣意書原審ハ判示第一ノ(二)ノ事実ニ対スル証拠 説明トシテ「被告人Iノ当公廷ニ於ケル判示関係部分ニ付同被告人が台湾工員ノ音 声ヲ真似タリトノ点ヲ除キ判示同趣旨ノ供述一、証人Jニ対スル予審訊問調書中同 人ノ供述トシテ判示照応スル恐喝被害顛末ノ記載ヲ綜合シテ之ヲ認メ」ト説示シ又 判示第三ノ事実ニ対スル証拠説明トシ「一、被告人Iノ当公廷ニ於ケル判示同趣旨 ノ供述一、証人Jニ対スル予審訊問調書中同人ノ供述トシテ判示ニ照応スル窃盗顛 末ノ記載ヲ綜合シテ之ヲ認メ」ト説示シタリ然レドモ右供述ハ被告二百日ノ不当ニ 長ク拘禁サレタル後ノ自白ニシテ之ヲ断罪ノ資ニ供シ罪証トシタルハ違法ニシテコ ノ点ニ於テ破毀ヲ免レスト思料スと云うのであるが、記録を精査してみるに被告人 は昭和二十一年三月十六日から同年十二月二十六日(第一審の判決宣告の日)まで 勾留されていたことを知り得るのであるが、本件事案の性質その他諸般の事情にか んがみて、該勾留をもつて不当に長い拘禁とすることができないのみならず、原判 決が被告人に対する事実認定の証拠として採用している被告人の供述は、既に右の 拘禁を解かれた後の原審公判におけるそれであるから、原判決の右採証上の措置は - 3 - いさゝかも日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律第十条第 二項の規定に違背するところはない。論旨は理由がない。 被告人D弁護人斎藤淳一上告趣意書第一点原判決は適法な証拠に拠らずして犯罪 事実を認定した違法がある。即ち原審は被告人Dに対する犯罪事実を認定するに当 つて 原審第二回公判調書(第一審の意である)中被告人Dの供述として判示同旨趣旨 の記載と、原審証人Kの証言とを以つてした。尤も原判決によると被告人Eの当公 廷に於ける供述並に原審(第一審)第二回公判調書中被告人Aの供述も綜合認定の の意である)中被告人Dの供述として判示同旨趣旨 の記載と、原審証人Kの証言とを以つてした。尤も原判決によると被告人Eの当公 廷に於ける供述並に原審(第一審)第二回公判調書中被告人Aの供述も綜合認定の 一資料として採用されているが之は各当該被告のみに関する部分丈に限定されて居 り被告人Dに関しては、特に除外されている)そこで原審(第一審の意)第二回公 判調書の記載を調べてみると、その六五七丁表に「問、此の事実は如何此の時予審 終結決定第一の事実を読聞けたるに答御読聞けの通り相違ありませぬその事情も前 に申述べた通りです」とある。是以前に本件犯罪事実の全部を認定出来る記載はな い。例へば、本件犯罪の場所である横浜市a区b町c番地本件犯罪が共謀共犯であ る点等はこの記載によつてのみ認定出来るに過ぎない。然るにこの第一審の第二回 公判調書のこの記載丈けでは独立して右事実を認定出来ず、同調書の引用している 前記予審終結決定書の記載と相俟つて始めて右犯罪事実を認定出来るものである。 然るに原審公判調書をみると右予審終結決定書について証拠調手続を履践した事実 を証する記載はない。従つて原判決は適法の証拠調を経てない証拠で被告人Dに関 する判示事実を認定した違法がある。(注大正十三年十二月十二日大審院第一刑事 部決定集第三巻八八一頁参照)と云うのである。」そこで、まず原判決が被告人に 対する事実認定の証拠として採用している第一審第二回公判調書中の被告人の供述 記載の内容を該公判調書を繙いて検討してみるに、裁判長は被告人に対し予審終結 決定書を読聞け、被告人はこれに対し「お読聞けの通り相違ありませぬ」と供述し - 4 - た事実あることを知り得るし、又原審公判調書の記載する所によつて、原審が証拠 調手続を履践した証拠書類の範囲を精査してみると、その中に予審終結決定書が含 まれていないことを知 せぬ」と供述し - 4 - た事実あることを知り得るし、又原審公判調書の記載する所によつて、原審が証拠 調手続を履践した証拠書類の範囲を精査してみると、その中に予審終結決定書が含 まれていないことを知り得る。しかし、前記第一審第二回公判調書の記載する所に よると、裁判長は右予審終結決定書の外、更に被告人に対する予審訊問調書をも読 聞け、被告人はこれに対し「お読聞けの通りです」と供述した事実あることが明か であつて、しかも、原審公判廷における証拠書類に対する証拠調手続は、右予審訊 問調書に及んでいること、原審公判調書の記載によつて瞭乎たるものがある。然り 而して右予審訊問調書の記載内容によつて被告人の第一審第二回公判における供述 の如何なるものであつたかを具体的に知り得る以上、たとえ前記予審終結決定書の 記載に相俟たなくとも、既に右第一審第二回公判調書中のこの部分の記載はそれ自 体において形式的証拠力を具有するものと云わなくてはならない。しかもその記載 内容によれば同被告人の犯罪事実は全部認めることができるのであるから、原判決 がこの調書記載を採つて以つて被告人に対する断罪の資に供したとて、毫末も違法 ではない。従つて、論旨は理由がない。 同第二点原審は憲法によつて被告人に与へられた証人訊問権に関する規定に違反 した違法がある。即ち日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法 律第十二条第一項前段の規定によると証人その他の者(被告人を除く)の供述を録 取した書類又は之に代るべき書類は、被告人の請求があるときは、その供述者又は 作成者を公判期日に於いて訊問する機会を被告人に与へなければこれを証拠とする ことが出来ないと規定している。共同被告人として同一の公判期日で審理を受ける ときは同法第十一条第二項の規定で被告人は裁判長に告げて共同被告人……を直接 訊問することが 人に与へなければこれを証拠とする ことが出来ないと規定している。共同被告人として同一の公判期日で審理を受ける ときは同法第十一条第二項の規定で被告人は裁判長に告げて共同被告人……を直接 訊問することが出来ることから思い合せると右第十二条に所謂「証人その他の者( 被告人を除く)」の中には審理を分離された被告も包含される、換言すれば括弧の 中の被告人は、被告人自身並に審理を同じうする共同被告人のみを指称し、それ以 - 5 - 外の被告人を包含しないと解すべきである。ところで本件に於いて共同被告人とし て起訴されたが後審理を分離されて予審で公訴棄却となつたFについて、同人の供 述録取書類は本条の規定で被告人の請求があるときはFを公判期日において訊問す る機会を与へなければ右書類を証拠とすることが出来ない。この意味で原審第二回 公判調書八四二丁裏以下に裁判長は証拠調を為す旨を告げ一、第一回公判調書記載 の各証拠二、第一回公判調書の各要旨を告げ添付図面並押収物件は之を展示し右各 個の証拠について其の取調を終る毎に被告人等に対し意見弁解の有無を問い且利益 となるべき証拠あらば提出し得る旨並に供述者作成者を証人として訊問することを 得る旨を告げたるに被告人等は孰れも無之旨を答へたりとあることによつてこのF に関してもこの中に含まれ之を証人として訊問する機会を与へられたものと思はれ る。而るに記録第三四五丁の書面によると同人は昭和二十一年四月二十二日死亡し たことが判る。しかしこの書面は証拠調をしてないし判決にも引用してない。尤も 原審の判決によるとその理由の冒頭に「第一、被告人A、同I、同E及同Dは予て からブローカーF(昭和二十一年四月二十二日死亡当時四十五年)の許に出入し居 たる者なるが」と認定しその証拠として「判示冒頭の事実はFに対する司法警察官 の昭和二十一年三月七日附聴取書中同 及同Dは予て からブローカーF(昭和二十一年四月二十二日死亡当時四十五年)の許に出入し居 たる者なるが」と認定しその証拠として「判示冒頭の事実はFに対する司法警察官 の昭和二十一年三月七日附聴取書中同人の供述として判示同趣旨の記載に依り之を 認む……」と記載してあるが同趣意書によつてもFの死亡の事実は認定出来ぬ。従 つて右調書によつて考へると、裁判所は既に死亡した者をも証人として訊問出来る 機会を与へたことになる。と謂ふ不合理を敢へて犯し更に被告人Aに関する分であ るが犯罪事実の認定資料として前記聴取書を引用している。斯くの如き場合に於て はこの死亡の事実を証する書面を証拠として取調べFは此の通り死亡したから、同 人を証人として訊問することは出来ぬ旨を告げ納得せしむべきである。特に本件に 於ては同人は記録上明かな通り主謀者であり他の者を犯罪に引込んだ事実に徴すれ ば同人を証人として訊問出来るか否かは重要な点である。憲法第三十七条第二項に - 6 - よると「刑事被告人はすべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ……」 と規定している原審が叙上の様にF死亡の事実を公判廷に於て示さず轍く生きてい る者にして訊問の機会を与へたのは事実に反し不能の訊問の機会を可能の様に与へ たもので審問する機会を充分に与へられることを保証する憲法の精神に違反するも のと云ふべきである叙上の事由によつて原判決は破毀せらるべきであると云うので ある。 おもうに原審がFに対する司法警察官の聴取書を本件の証拠としたこと同人は被 告人等と共に共同被告人として本件公訴の提起を受けたのであるが予審繋属中に死 亡したことは所論のとおりであるが右聴取書については原審公判において被告人等 から其書類の供述者としてFの訊問を請求した形跡もないので原審が公判において 特に被告人等に対し同人死亡の事実を告げなかつた 亡したことは所論のとおりであるが右聴取書については原審公判において被告人等 から其書類の供述者としてFの訊問を請求した形跡もないので原審が公判において 特に被告人等に対し同人死亡の事実を告げなかつたとしても既に被告人A弁護人の 上告論旨について説明したように原審は日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急 的措置に関する法律第十二条第一項但書の趣旨に従つて適当の考慮をした上で右の 聴取書を証拠としたものと解するのが相当であるから、弁護人主張のような違法は なく論旨は理由がない。 被告人L弁護人松本重夫上告趣意書第一点原判決ハ重要ナル事実ヲ誤認シタル結 果法ノ適用ヲ誤リタル違法ノ判決ナリ原判決ハ其ノ事実理由ノ第二ニ於テ被告人L ハ終戦後定職ナカリシ為儲ケ口ヲ求メントシテ友人Mト共ニ被告人Eノ紹介ニヨリ 前示F方ヲ訪レタル際同人ヨリ横浜市a区b町d番地Gカ終戦ノ際海軍ヨリ多量ノ 生地類ヲ入手シ居ルニ依リ同人ヨリ生地類ヲ喝取セムコトヲ申聞カサルルヤ之ヲ承 諾シ茲ニ右F、Mト共謀ノ上昭和二十年十二月二十一日頃ノ夜先ツMト共ニ右G方 ニ到リGヲ呼出シネルヲ要求シタルモ応セサル為Mニ於テ「無イコトハナイ手前ノ 所テモウント掻払ヒヤガツテ何ンダ」ト申向ケ居タル折柄予テノ策謀ニ基キ偶然同 所ヲ通リ掛ケタル風ヲ装ヘルFガ右Gニ対シ「何ウシタノデスカ」ト言葉ヲ掛ケタ - 7 - ルニ同人ハ予テFニ知合ヒナル関係上Fノ出現ニ稍勢ヲ得タル態度ヲ示シタルヨリ 被告人LハGニ対シ「何ヲ云ツテヤガルンダ終戦肥リシヤガツテ打ツタ斬ルゾ」ト 申向ケ所携ノ刄渡リ約三寸ノ小刀ヲ示スヤFニ於テ之カ仲裁ニ入ルモノノ如ク装ヒ Gヲ同人方屋内ニ誘ヒ同人ニ対シ「怪我ヲシテモ詰ラヌカラネルカ何カアツタラ少 シヤツタラヨカロウ」ト申向ケ因テGヲシテ右仲裁ニ応シ被告人L等ノ要求ニ応セ サルトキハ同人等ヨリ如何ナル危害ヲ加ヘラル 装ヒ Gヲ同人方屋内ニ誘ヒ同人ニ対シ「怪我ヲシテモ詰ラヌカラネルカ何カアツタラ少 シヤツタラヨカロウ」ト申向ケ因テGヲシテ右仲裁ニ応シ被告人L等ノ要求ニ応セ サルトキハ同人等ヨリ如何ナル危害ヲ加ヘラルルヤ計リ難キ旨畏怖セシメ以テ同人 ヲシテ即時同所ニ於テネル一巻羽二重二巻及現金五百円ヲFノ手ヲ経テ被告人L等 ニ交付セシメテ之ヲ喝取シ」ト判示シF(以下Fト略記ス)M(以下Mト略記ス) 及上告人L(以下上告人ト略記ス)カ予メG(以下Gト略記ス)ヨリ金品ヲ喝取セ ムコトヲ謀議シ然ル後M及上告人ノ両名カ先ヅG方ニ到リ同人ヲ戸外ニ呼出シテ脅 迫中Fカ予テノ策謀ニ基キ偶然同所ヲ通リ掛ケタル風ヲ装ヒテ介入シ言ヲ仲裁ニ藉 リ相共ニGヲ脅迫シ前記金品ヲ喝取シタルモノナリト認定シタリ然レトモ右認定ハ 審理不尽ニ基ク誤認ニシテFM及上告人ノ三名間ニ何等喝取ノ謀議無カリシコトハ 勿論M及上告人ニ関スル限リ終始喝取ノ意思ナクGヨリ生地類ヲ安価ニ譲受ケント 交渉中Fノ出現ニヨリGノ態度急変シ高圧的ニナリタルニヨリ激怒シ茲ニ生地類ノ 譲受ヲ断念シ暴言ヲ吐キ脅迫的行為ニ出テタルモノニシテ単ナル脅迫ニ過キサリシ モノナリ尚上告人ノ入手シタル金品ハFヨリ贈与受ケタルモノニシテ犯罪ノ嫌疑ア リトセハ賍物収受ナリ以下其ノ事由ヲ詳述スヘシ。一、Fガ雑談ノ末G家ニ関シM 及上告人ニ云ヒタル言葉ハ「G方ニハ終戦ノ際海軍ヨリ手ニ入レタ生地類カ沢山ア ルカラ行ツテ譲ツテ貰ヒ」トノコトノミナリ、M及上告人カF方ヲ訪ネタルハ本件 記録ニヨリ明白ノ如ク全ク生地類闇取引ノ手蔓ヲ求ムル為ナリMハFニ面識アレト モ上告人ハ初対面ナリ右面会ハ昭和二十年十二月二十一日ノタ刻ニシテ場所ハ上告 人ニ対スル検事聴取書第三項記載ノ如クN方表口屋内土間炉ノ周囲ナリ其ノ際同所 ニ居合セタル者ハE、D、A(以下Aト略記ス)、O等ニシテ事ノ真相ハ雑談ノ末 ハ昭和二十年十二月二十一日ノタ刻ニシテ場所ハ上告 人ニ対スル検事聴取書第三項記載ノ如クN方表口屋内土間炉ノ周囲ナリ其ノ際同所 ニ居合セタル者ハE、D、A(以下Aト略記ス)、O等ニシテ事ノ真相ハ雑談ノ末 - 8 - FヨリM及上告人ニ対シ「G方ニハ終戦ノ際海軍ヨリ手ニ入レタ生地類カ沢山アル カテ行ツテ譲ツテ貰ヒ」ト云ヒ次テE、DOノ三名ニ対シ「町内ノ此ノ二人(M及 上告人)ヲG方ニ案内シテヤレ」ト指示シタルノミナリ夫レ以上何等ノ謀議ナシ此 ノ点(喝取ノ謀議)ニ関シFハ警察官及検事ノ強制処分請求ニヨル判事ノ訊問ニハ 之ヲ認メ(但シ強制処分請求事実ハ相違ナシト一言ノミ)求予審後ハ自殺シタル為 訊問ハナクMハ警察官ニハ認メタレトモ検事ノ強制処分請求ニヨル判事ノ訊問ニハ 之ヲ否認シ何等斯ル謀議ナクFノ言ヲ信シGニ交渉セハ安価譲受可能ト軽信シ同人 ニ交渉シタレトモ拒絶セラレタルニヨリ憤怒シ暴言ヲ吐キタルニ過キスト弁明シ第 一審公判ニ証人トシテ喚問セラレタル際ニモ同趣旨ノ証言ヲ為シ上告人ハ警察官、 検事、第一審公判ヲ通シテ之ヲ認メ控訴審ニ於テ始メテ否認シMト同趣旨ノ弁疏ヲ 為シタリ尤モ上告人ハ第一審公判開廷前当弁護人カ横浜刑務所ニ於テ面接シ何カ記 録ノ記載ト真相トニ相違アリヤト訊ネタルニ何等ノ謀議ナク喝意ナカリシモノカ真 相ナルモ警察官ヨリFカ既ニ喝取ノ謀議ヲ陳述シ居ル故謀議アリタルニ相違ナシト 強硬ニ詰問セラレ止ムナク之ニ従ヒ真意ニアラサル陳述ヲ為シ記載セラレタリト述 ヘタルモノナルニヨリ当時ノ接見書ニ其ノ旨ノ記入アルヘシト思料セラルルニ付御 取寄ノ上御検閲願ヒタシ而シテ同所ニ居合セタルE、DO等ノ此ノ点ニ関スル記載 ヲ本件記録ニ付検スルニ斯ル謀議ノアリタル事実ヲ認ムルニ足ル何等ノ記載ナク寧 口無カリシコトヲ推知シ得ヘキ記載アリ(Eニ対スル警察官聴取書第十五項)Aハ 警察官及検事ノ強制 、DO等ノ此ノ点ニ関スル記載 ヲ本件記録ニ付検スルニ斯ル謀議ノアリタル事実ヲ認ムルニ足ル何等ノ記載ナク寧 口無カリシコトヲ推知シ得ヘキ記載アリ(Eニ対スル警察官聴取書第十五項)Aハ 警察官及検事ノ強制処分請求ノ判事ノ訊問ニ於テ認メ(但シ強制処分請求事実ハ相 違ナシトノ一言ノミ)タレトモ求予審後ハ之ヲ否認シタリ而シテMハ強制処分請求 以来否認シタル為不起訴トナリAハ求予審後否認シタル為予審免訴トナリ独リ上告 人ノミ第一審公判迄認メタル為有罪トナリ実刑ノ判決ヲ言渡サレタルニアラスヤト 思料セラル若シ前記謀議アリトセハ殊ニMニ於テ不知ノ筈ナク又E、DO等ニ於テ モ本件記録ニヨリ明白ノ如ク既ニソレ以前ニFト共ニ恐喝行為ヲ敢行シ居リタルモ - 9 - ノナルヲ以テ上告人ノ本件行為ニモ当然参加シ賍品ノ分配ニ預ル筋合ナルニ斯ル事 実毛頭ナク単ニM及上告人ヲG方ニ案内シタルノミニテ直ニ夫々自宅ニ帰リタルモ ノナリFハ本件記録ニヨリ推察セラルル如ク策謀ニ富ミ計画的ニ敢行スルコトニ興 味ヲ持チ寧ロ之ヲ誇トスル恐喝ノ常習者ナリ察スルニ同人ハEヨリM及上告人ノ両 名ヲeニ於ケル羽振リノ良イ青年ト紹介セラレタルニヨリ両名ノ欲スル生地類ヲ与 へ軈テ両名ヲ自己ノ配下ニ置カント思惟シGヨリノ入手方法ヲ独断ニテ案出シM及 上告入ヲ巧ニ欺キ計画的ニ実行シタルモノナルベシAニ対スル第二回予審訊問ノ六 回答中ニ「……Fト一緒ニN方ニ行キマストLヤMカ居テ今晩ハ御苦労サント云ヒ マシタ私カ何ンタト聞イタトコロFカGノトコロノ事件ヨト云ヒマシタソレテ俺ヲ 騙シタノカト云フタトコロマーイイヂヤナイカト云ツテ居リマシタ」トノ供述記載 アリAハ当時四十二才而モFトハ幼少ヨリノ知合ニシテ殊ニ昭和十九年五月ヨリハ 親交アルモノナリ、ソノAニシテ斯ク欺カレタ点ヨリ観ルモ初対面而モ青年ナル上 告人カ欺カレルハ寧口当然ナリ本件記録ヲ 供述記載 アリAハ当時四十二才而モFトハ幼少ヨリノ知合ニシテ殊ニ昭和十九年五月ヨリハ 親交アルモノナリ、ソノAニシテ斯ク欺カレタ点ヨリ観ルモ初対面而モ青年ナル上 告人カ欺カレルハ寧口当然ナリ本件記録ヲ精査セバFハ本件以外ノ他ノ公訴事実ニ 関シテモ原審相被告人等ヲ巧ニ欺キ計画的ニ喝取行為ヲ敢行シタル点尠カラスアル コトヲ明認シ得ヘシ本件ニ付Fカ警察官及検事ニ対シ前掲喝取ノ謀議ヲ陳述シタル ハ恐ラク外形カ如何ニモ謀議ニ基ク所為ト思料セラルル為警察官カ其ノ先入観念ニ ヨリFヲ誘導的ニ取調へ同人亦敢テ自己ニ不利益ナルコトニアラサルヲ以テ容易ニ 之ニ応シタルモノト推察セラル、二、上告人ノ本件所為ハ脅迫罪ナリ恐喝罪ニアラ ス、前記ノ如クM及上告人ハFノ言ヲ信シGニ交渉セハ安価ニテ譲受ケ可能ト軽信 シG方ニ到リ上告人カGヲ戸外ニ呼出シ静ニ其ノ交渉ヲ為シタルモノナリ戸外ニ呼 出シタルハ元ヨリ闇取引故G方家族ニ知ラシメサルヲ同人ノ為有利ト思料シタルニ ヨルモノニシテ他意ナシ然ルニ予期ニ反シGカ容易ニ応セサル為前掲原判決第二ノ 事実理由ノ一部記載ノ如クMカ黙シ兼ネ「無イコトハナイ手前ノ所テハウント掻ヒ ヤガツテ何ンダ」ト暴言ヲ吐キ居リタル折柄其処へ意外ニモFAノ両名カ通リ合セ - 10 - 「何ンデスカ」ト言葉ヲ掛ケタルニGハF及Aトハ同村ノ関係上知合タリシヲ以テ 味方ヲ得タリト誤信シ態度ヲ一変シ反抗的ニ出テタルニヨリ上告人ハ先程Eヨリe ノ羽振リノ良イ青年ト云ハレ紹介セラレタル矢先其ノ親分肌ノFハ面前ニ於テGノ 反抗ニ弱音ヲ見セテハ自己ノ顔カ立タズトノ青年特有ノ心裡ニ捕ハレ茲ニ生地類ノ 譲受ヲ断念シ専ラ単ニ脅シツケ自己ノ威力ヲ示ス目的ニテ偶々持チ合セ居リタル果 物用ナイフヲ示シ「何ヲ云ツテヤガルンダ終戦肥リシヤガツテ打ツタ斬ルゾ」ト放 言シ脅迫シタルモノナリ、此ノ点ハ上告人ニ対スル第一回予審 念シ専ラ単ニ脅シツケ自己ノ威力ヲ示ス目的ニテ偶々持チ合セ居リタル果 物用ナイフヲ示シ「何ヲ云ツテヤガルンダ終戦肥リシヤガツテ打ツタ斬ルゾ」ト放 言シ脅迫シタルモノナリ、此ノ点ハ上告人ニ対スル第一回予審訊問ノ第八問答中ニ 「……Mカ近付イテ来ルト殆ント同時ニ其処へFトAカ来テ相手ノ人ニ「什ウシタ ノテスカ」ト訊ネマシタ、相手ハD等ト同シ土地ノ人デスカラ顔見知リデシタ今此 ノ人達カ来テグズグズ云ツテルトコロタト強ク出テ来マシタノテ私ハムツトナツテ 「何ヲ云ツテヤガルンダ終戦肥リシヤガツテ何ニガグズグズダ打ツタ斬ルゾ」ト云 フテ飛行服ノ右側ポケツトニ入レテアツタナイフヲ取出シテ刄先ヲ前ニ出シテ相手 方ヲ脅シマシタ」トノ供述記載及上告人ニ対スル第一審公判調書中ニ右ト全ク同趣 旨ノ供述記載並ニ上告人ニ対スル控訴審ノ公判調書中ニ「……Gハ知ツテル二人カ 来タノテFニ対シ私達ノ事ヲ此ノ人達カ生地ヲ譲レト云ツテ来タカ無イト返事ヲシ タノタト強ク出テ来タノテ私ハD等ノ前テ小サク見ラレルノカ癪ニ障ツタノテカツ トナリ「何ニヲ云ツテヤガルンダ終戦肥リシヤガツテ打ツタ斬ルゾ」ト持ツテ居タ 刄渡三寸ノ小刀ヲ突付ケテ脅シタノデアリマス、私ハ初メ譲受ケル心算ダツタノデ ス又文句ヲ云ツタ時モ脅シテ居ル心算ハアリマセンデシタ」トノ供述記載尚其ノ際 Mハ金一千円、上告人ハ金二百円ヲ現実ニ所持シ居リタル事実等ニ各徴スルモ明認 シ得ベシ、三、M及上告人ノ入手シタル金品ハFヨリ贈与受ケタルモノナリ、M及 上告人ハGト交渉中介入シタルFAノ両名ヨリ「マー待ツテ居レ」ト云ハレ之ニ従 フヤ右両名ハGヲ誘ツテ屋内ニ入リ軈テFカ現ハレ上告人ニ対シネル一巻羽二重二 巻ヲ手交セルニヨリ之ヲ預リタルニ尚待テトノコト故右品物ヲMニ預ケ一足先ニ去 - 11 - ラシメ引続キ待チ居リタルニ間モナクFカ現ハレ上告人ニ対シ之ヲ持チ行ケトテ金 現ハレ上告人ニ対シネル一巻羽二重二 巻ヲ手交セルニヨリ之ヲ預リタルニ尚待テトノコト故右品物ヲMニ預ケ一足先ニ去 - 11 - ラシメ引続キ待チ居リタルニ間モナクFカ現ハレ上告人ニ対シ之ヲ持チ行ケトテ金 五百円ヲ手交セルニヨリ之ヲ預リN方ニ戻リ先行ノMト共ニF等ヲ待チ受ケタルニ 暫クシテF、Aノ両名カ戻リタリM及上告人ハ預リタル金品ハ何レFカ如何ニカシ テGヨリ入手シタルモノ故Fノ所有ニ帰シタルモノト信シ其ノ全部ヲ同人ニ提供シ タルニ意外ニモ同人ハ「之ヲ御前達二人ニヤル」トテ恵与シ呉レタルニ依リ受取リ 分配シ各帰宅シタルモノナリ従テ若シ犯罪ノ嫌疑アリトセハ賍物収受ナリトス、四、 原審ハ審理不尽ナリ前叙ノ如ク本件ハMノ喝意否認ニヨル不起訴Aノ喝意ノ否認ニ ヨル予審免訴アリタル特異ノ事案ナルヲ以テ控訴審ニ於テハ上告人ノ喝意否認ヲ重 視シ其ノ真否ヲ確メル為職権主義ヲ原則トスル刑事訴訟法ノ精神ニ従ヒ進ンデM、 A、E、D、Oヲ訊問シ真相ヲ把握スヘカリシニ拘ラス毫モ之ヲ為サスシテ僅ニ第 一審公判ニ於ケル上告人ノ供述及被害者ノ証言ノミニヨリ喝意ヲ認定シタルハ明ニ 審理不尽ノモノト謂ハサルヲ得ス、五、原判決ハ法ノ適用ヲ誤リタリ、以上ニヨリ 明白ノ如ク上告人ノ本件所為ハ脅迫罪ニシテ恐喝罪ニアラズ従テ刑法第二百二十二 条第一項ヲ適用スヘカリシモノナリ然ルニ原審ハ審理不尽ニヨリ前記重要事実ヲ誤 認シタル結果本件ヲ恐喝罪ニ問擬シ之ニ刑法第二百四十九条第一項ヲ適用シタルモ ノナルヲ以テ法ノ適用ヲ誤リタルモノト謂フヘク原判決ハ先ツ此ノ点ニ於テ破毀ヲ 免レサルモノト信ス。と云い、 同第二点仮ニ前掲第一点カ原判決破毀ノ理由トナラサルモノトスルモ原判決ハ刑 ノ量定甚シク不当ナリト思料スヘキ顕著ナル事由アリ、原審ハ上告人ニ対シ懲役一 年未決勾留二百日通算ノ判決ヲ言渡シタリ然レトモ右判決ハ次ノ如キ諸多ノ事情ニ 原判決破毀ノ理由トナラサルモノトスルモ原判決ハ刑 ノ量定甚シク不当ナリト思料スヘキ顕著ナル事由アリ、原審ハ上告人ニ対シ懲役一 年未決勾留二百日通算ノ判決ヲ言渡シタリ然レトモ右判決ハ次ノ如キ諸多ノ事情ニ 鑑ミ量刑著シク過重ナリ、一、上告人カGニ示シタルナイフハ刄渡リ約三寸ノナイ フナリ当時上告人ハ時折長野県下ニ林檎ノ買出シニ行キ居リタルモノニシテ右ナイ フハ皮剥キ用トシテ偶々ポケツトニ携帯シ居リタルモノナリ刄渡リ約三寸ニ過キザ ル小ナイフニシテ脅迫用ニハ適セサルモノト思料セラル、二、本件ノ主犯ハFナリ - 12 - Fハ当時分別盛リノ四十五歳ニシテ相当ノ資産ヲ有シ月収モ二、三万円アリ裕福ノ 生活ヲ為シ居リタルモノナリ、然ルニ進ンデ徒党ヲ組ミ其ノ首領トナリ自ラ計画的 恐喝ヲ案出シ之ヲ敢行スルコトニ興味ヲ感シ誇リトシタル常習者ナリ上告人ノ如キ ハ其ノ附和随行ニ過キスFナカリセハ本件犯行ナシソノFハ自己ノ責任ヲ痛感シ上 告人等ニ対スル処分ノ寛大ヲ念願シ遂ニ自殺ヲ遂ケタルモノナルヲ以テ上告人等ニ 対スル処刑ニ付テハ此ノ点御留意アツテ可然シト思料ス、三、上告人ハGヲ生地類 多量ノ不当入手者ト速信シタルモノナリ、Gカ果シテ海軍関係ヨリ生地類ヲ不当ニ 入手シタリヤ否ヤ其ノ真相ハ不明ナレトモ上告人ハ少クトモFノ説明ニヨリGヲ不 当入手者ト信シ本件所為ニ出テタルモノニシテ斯ル疑ナキ普通人ニ対スル犯行ト大 ニ其ノ趣キヲ異ニス当時軍関係物資多量ノ不当入手者ニ対スル世論囂々ニシテ殊ニ 上告人ノ如キ若キ帰還兵之ヲ憤激シ居リタルモノナリ、四、上告人ノ犯行ハ本件一 回ノミナリ上告人ニハ前科ナキハ勿論起訴猶予等更ニナシ本件後検挙セラル迄満二 ケ月アリタレドモ其ノ間Fトノ交遊全然ナク又不良ノ所為毫モ無カリシモノニシテ 断シテ常習者ニアラス、五、Gトハ示談済ナリ上告人ハ痛ク自己ノ犯行ヲ悔悟シ実 兄Pト共ニG方ニ 更ニナシ本件後検挙セラル迄満二 ケ月アリタレドモ其ノ間Fトノ交遊全然ナク又不良ノ所為毫モ無カリシモノニシテ 断シテ常習者ニアラス、五、Gトハ示談済ナリ上告人ハ痛ク自己ノ犯行ヲ悔悟シ実 兄Pト共ニG方ニ赴キ衷心ヨリ謝罪シ且相当金員ヲ供与シ示談ヲ遂ケタルモノナリ、 六、上告人ハ本件ノ為既ニ満十ケ月ノ長期ニ亘リ勾禁セラレタルモノナリ、上告人 ノ本件事案ハ前叙ノ如ク頗ル簡単ナルニソノ取調ハ警察署予審ヲ通シ勾禁実ニ満十 ケ月ノ長期ニ亘リタルコトハ新憲法施行後ノ今日ヨリ観レハ正ニ驚クヘキコトナリ 未決呻吟十ケ月ノ辛苦ヲ嘗メタルモノニシテ既ニ他戒自戒ノ目的ヲ達シタルモノト 謂フヘシ、七、上告人ニ対スル処刑ハMニ比シ酷ニ失ス、本件記録ニヨリ明白ノ如 クGニ対スル脅迫ノ所為ニ付テハナイフノ点ヲ除キ上告人トMトノ間ニ何等ノ差異 ナク賍品ノ入手ニ至リテハMハ金一千三百円ト羽二重一巻(但シ六尺短キモノ)ナ ルニ反シ上告人ハ金八百円ト羽二重六尺ニ過キス両者何レモ青年ニシテMハ本件ノ 外ニ警察署ニ留置セラレタルコト三回ナルモ上告人ハ一回保護留置セラレタルノミ - 13 - ナリ且ツ本件ニ付テハ上告人ハ被害者ト示談済ナレトモMハ金品取得ノ儘今日ニ至 ルナイフヲ示シタル差異アレトモMハ不起訴上告人ハ勾禁満十ケ月ノ後更ニ実刑一 年トハ余リニ酷ニ失シ正義公平ヲ原則トスル裁判ノ精神ニ反スルモノト謂ハサルヲ 得ス、八、上告人ハ目下定職ヲ有シ誠実ニ勤務シ居ルモノナリ保釈後上告人ハ実兄 Pノ勤務先ナルQ自動車学校ノ料理人ニ雇ハレ毎日Pト共ニ通勤シ家計ヲ助ケ改悛 ノ情顕著ナリ、九、本件ハ昭和二十一年十一月三日即新憲法公布ニ基ク恩赦令施行 日以前ノ犯行タリシヲ以テ其ノ量刑ニ相当ノ酌量可然モノナリ、激戦ニヨリ我カ国 民ハ放心状態トナリ以テ襲ヒ来タル極度ノ経済不安ノ為混迷シ前述暗澹程度ノ差コ ソアレ等シク心神耗弱ノ状態ニ陥入 基ク恩赦令施行 日以前ノ犯行タリシヲ以テ其ノ量刑ニ相当ノ酌量可然モノナリ、激戦ニヨリ我カ国 民ハ放心状態トナリ以テ襲ヒ来タル極度ノ経済不安ノ為混迷シ前述暗澹程度ノ差コ ソアレ等シク心神耗弱ノ状態ニ陥入リタルモ新憲法ノ公布ニヨリ前途ニ漸ク光明ヲ 認メ落付キヲ取戻シ始メタリト謂フヲ得ベク従テ新憲法公布前ノ犯行ニ対シテハ酌 量スヘキモノ多々アリ恩赦令ノ施行ハ正ニ其ノ救済ヲ為シタルモノニシテ感謝ニ堪 ヘサルナリ本件ハ当時法網ノ弛緩甚シク第三国人ニ対シ我カ刑事法規ヲ適用シ得ル ヤ否ヤスラ判明セス警察署ノ威力地ニ落チ極メテ不安ノ世相タリシ昭和二十一年十 二月二十一日ノ犯行ニシテ且前叙ノ如キ酌量スヘキ幾多ノ情状アルヲ以テ本件ノ量 刑ニハ相当ノ酌量可然キモノト思料ス、上告人ハ未タ本年二十五歳ノ前途アル青年 ナリ本件ハ前叙諸般ノ事情ニ鑑ミ上告人ニ対スル刑ノ執行ハ之ヲ猶予シ以テ再起奮 励ノ決意ヲ完フスル機会ヲ与フヘカリシナリ然ルニ原審カ事茲ニ出テスシテ上告人 ニ実刑ヲ言渡シタルハ量刑酷ニ失スル不当ノ裁判ニシテ原判決ハ破毀ヲ免レサルモ ノト信ス。と云うのであるが、論旨第一点は結局原判決の事実認定に対する非難で あり、論旨第二点は原判決の量刑の不当を鳴らすものであるから、いずれも日本国 憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律第十三条第二項の規定に対 して適法な上告の理由とするわけにはいかないので各論旨は理由なきものと云うの 外ない。 以上の理由により刑事訴訟法第四百四十六条の規定に則り主文の如く判決する。 - 14 - この判決は裁判官の全員一致の意見によるものである。 検察官下秀雄関与。 昭和二十三年二月七日 最高裁判所第二小法廷 裁判長裁判官 塚 崎 直 義 裁判官 霜 山 精 一 関与。 昭和二十三年二月七日 最高裁判所第二小法廷 裁判長裁判官 塚 崎 直 義 裁判官 霜 山 精 一 裁判官 栗 山 茂 裁判官 小 谷 勝 重 裁判官 藤 田 八 郎 - 15 -
▼ クリックして全文を表示