令和3(行ケ)10161 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
令和4年8月30日 知的財産高等裁判所 3部 判決 請求棄却
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令和4年8月30日判決言渡令和3年(行ケ)第10161号審決取消請求事件口頭弁論終結日令和4年6月14日判決 原告 Ⅹ 被告特許庁長官 同指定代理人野村伸雄 同山村浩同瀬川勝久同小島寛史同山田啓之 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求特許庁が不服2020-7419号事件について令和3年10月25日に した審決を取り消す。 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等(1) 原告は、平成28年1月15日、発明の名称を「ロックウール素材及びその成形体である放射線遮蔽低減体を用いた公衆被爆防護、職業被爆防護、医 療被爆防護ならびに放射性廃棄物処理に関する。」とする発明について、特許 出願をした(特願2016-18391号。請求項の数20。以下「本件出願」という。)。(乙1)(2) 原告は、令和2年2月20日付けで拒絶査定を受けたため、同年6月1日、拒絶査定不服審判(不服2020-7419号事件)を請求した。(甲4、12) (3) 原告は、令和3年5月10日付けで拒絶理由通知書の送付を受けたため、同年7月12日、特許請求の範囲を補正する旨の意見書及び手続補正書を提出した(補正後の請求項の数7。以 4、12) (3) 原告は、令和3年5月10日付けで拒絶理由通知書の送付を受けたため、同年7月12日、特許請求の範囲を補正する旨の意見書及び手続補正書を提出した(補正後の請求項の数7。以下「本件補正」という。)。(甲5、6の1及び2)(4) 特許庁は、令和3年10月25日、本件補正を認めた上で、「本件審判の 請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年11月17日、原告に送達された。 (5) 原告は、令和3年12月14日、本件審決の取消しを求めて本件訴えを提起した。 2 特許請求の範囲の記載 本件補正後の請求項1、2、4及び7に係る特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。(甲6の2)⑴ 請求項1「放射線の透過低減を有する素材がロックウールであって、前記ロックウールは、ロックウールを含む鉱物繊維または、ロックウールの粒状綿を密度 が高くなるように圧縮させて、10kg/m3から4000kg/m3のうちのいずれかの重量値に成形されていることを特徴とする放射線遮蔽基材。」⑵ 請求項2「水を含水させた鉱物繊維または、水を含水させたロックウールの含水が残存するように圧縮もしくは絞って、成形されていることを特徴とする請求 項1に記載の放射線遮蔽基材。」 ⑶ 請求項4「容器内部充填物が容器外部に漏れ出ないように密閉蓋を構成してなる容器内部に請求項1から3に記載のうちのいずれか又は、請求項1から3に記載のうちの複数種を混合してなる混合構成基材を充填して、前記混合構成充填基材に放射性廃棄物を挿入混合または、放射性物質が含まれる水を注水す ることを特徴とする放射線遮蔽基材および放射性物質充填容器。」⑷ 請求項7 混合構成基材を充填して、前記混合構成充填基材に放射性廃棄物を挿入混合または、放射性物質が含まれる水を注水す ることを特徴とする放射線遮蔽基材および放射性物質充填容器。」⑷ 請求項7「放射線透過低減性繊維が、無機繊維、有機繊維のいずれかであって、前記放射線透過低減繊維が請求項1から3に記載のうちのいずれかの表面を被覆してなることを特徴とする放射線遮蔽基材。」 3 本件審決の理由の要旨(1) 理由の骨子本件審決の理由は、別紙審決書(写し)記載のとおりであり、要するに、次の各理由により、本件出願は拒絶すべきであるというものである。 ア本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、 甲1の文献(「セシウム-137から生ずるガンマ線に対する各種建築材料の遮蔽データベース」(別府克俊ほか1名、日本建築学会構造系論文集第79巻第702号1089-1095頁、2014年8月発行)。以下「甲1文献」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)に対する新規性を欠く(引用発明1に対する新規性欠如)。 イ本願発明は、引用発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである(引用発明1に対する進歩性欠如)。 ウ本願発明は、甲2の公報(特開2015-125143号(全文は乙2)。 以下「甲2公報」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」という。)及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたもので ある(引用発明2に対する進歩性欠如)。 エ本件出願に係る明細書(以下「本願明細書」という。)の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない(実施可能要件違 性欠如)。 エ本件出願に係る明細書(以下「本願明細書」という。)の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない(実施可能要件違反)。 オ本件補正後の請求項2、4及び7に記載された各発明は、いずれも明確ではない(明確性要件違反)。 (2) 引用発明の認定本件審決が認定した引用発明は、次のとおりである。 ア引用発明1「線源から放出されるガンマ線に対する各種建築材料の遮蔽性能のデータベースにおいて、断熱材として用いられるロックウールについて、組 成割合SiO2 40%、CaO 20%(判決注:「40%」の誤記であると認める。)、Al2O3 20%であって、密度0.050g/cm3の実効線量透過率は、9.99E-01、密度0.100g/cm3の実効線量透過率は、9.97E-01、であること。」イ引用発明2 「複数のリブと、当該複数のリブを介して積層された少なくとも1枚の表薄板及び裏薄板と、を含み、前記表薄板と前記裏薄板とに挟まれ、前記複数のリブを除いた領域と中空リブの中空領域に含水用空間又は、含水用空間と気相部を形成している中空板状体と、前記含水用空間の中に充填された保水基材又は、含水用空間の中に充填された保水基材と気相部と、を 備える放射線透過低減構成基材あり(判決注:「放射線透過低減構成基材であり」の誤記であると認める。)、放射線透過低減構成基材の表薄板側に、ロックウール繊維又はその成形体が積層されており、ロックウール繊維の成形体が不織布、フェルト状体、板状体、角棒、粒 状物、綿状物であり、さらに、前記ロックウール繊維の成形体の表面に亀 甲金網を貼合された形態、該成形体の表面にガラスクロスで ウール繊維の成形体が不織布、フェルト状体、板状体、角棒、粒 状物、綿状物であり、さらに、前記ロックウール繊維の成形体の表面に亀 甲金網を貼合された形態、該成形体の表面にガラスクロスで被覆された形態、該成形体の表面にアルミ箔とガラス繊維シートが貼合してなるアルミクロスを貼合された形態のロックウール繊維が含まれている、放射線透過低減構成基材。」(3) 一致点及び相違点の認定 ア本件審決が認定した本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。 (ア) 一致点「素材がロックウールであって、前記ロックウールは、ロックウールを含む鉱物繊維を密度が高くなる ように圧縮させて、10kg/m3から4000kg/m3のうちのいずれかの重量値に成形されていること。」(イ) 相違点1「本願発明は『基材』であるのに対して、引用発明1はそのような特定がなされていない点。」 (ウ) 相違点2「ロックウールについて、本願発明は『放射線の透過低減を有する』素材として用いて、『放射線遮蔽基材』を構成しているのに対し、引用発明1はそのような特定がなされていない点。」イ本件審決が認定した本願発明と引用発明2との一致点及び相違点は、次 のとおりである。 (ア) 一致点「素材がロックウールである放射線遮蔽基材。」(イ) 相違点3「ロックウールについて、本願発明は『放射線の透過低減を有する』 素材であるのに対し、引用発明2はそのような特定がなされていない点。」 (ウ) 相違点4「本願発明は『ロックウールを含む鉱物繊維または、ロックウールの粒状綿を密度が高くなるように圧縮させて、10kg/m3から40 うな特定がなされていない点。」 (ウ) 相違点4「本願発明は『ロックウールを含む鉱物繊維または、ロックウールの粒状綿を密度が高くなるように圧縮させて、10kg/m3から4000kg/m3のうちのいずれかの重量値に成形されている』と特定されているのに対して、引用発明2はそのような特定がなされていない点。」 4 原告の主張する取消事由⑴ 取消事由1本願発明と各引用発明との一致点の認定の誤り⑵ 取消事由2本願発明と各引用発明との相違点に係る判断の誤り ⑶ 取消事由3実施可能要件及び明確性要件に係る判断の誤り⑷ 取消事由4引用発明1の認定の誤り⑸ 取消事由5 甲1文献及び甲2公報を引用することは技術的に阻害されること第3 当事者の主張 1 取消事由1(本願発明と各引用発明との一致点の認定の誤り)について〔原告の主張〕以下のとおり、本件審決は、本願発明のロックウール素材の放射線遮蔽基材 と、引用発明1及び2並びに甲3の文献(「2010年度版ロックウール製品の特性と取扱い」(ロックウール工業会、2010年発行)(全文は乙3)。以下「甲3文献」という。)に記載された発明(以下「甲3発明」という。)のロックウール断熱材とを、同一の材料であるとする重大な誤認をしている。したがって、本願発明と各引用発明とが一致するとした本件審決の判断は、全て誤り である。 ⑴ 本願発明と各引用発明とが異なることア本願発明は、引用発明1及び2並びに甲3発明と同じロックウールを原料とするものであるが、成形密度を最適に調整し、放射線遮蔽の機能を有する素材で作製するものであるのに対し、引用発明1及び2並びに甲3発明は、断熱性 用発明1及び2並びに甲3発明と同じロックウールを原料とするものであるが、成形密度を最適に調整し、放射線遮蔽の機能を有する素材で作製するものであるのに対し、引用発明1及び2並びに甲3発明は、断熱性の機能を有する断熱材であり、両者は機能が異なる。 イ本願発明は、放射線遮蔽の機能を有する素材を、線源の線量に応じて圧縮したものであるのに対し、引用発明1及び2並びに甲3発明は、断熱材の特徴である弾力性を備えたものであり、両者は成形形態が異なる。 ⑵ 引用発明1のロックウールが断熱材であること甲1文献には「実効線量透過率が1.00E+00となっている建材(断熱 材など)」と記載されているから、引用発明1のロックウールは、断熱材である。 ⑶ 引用発明2のロックウールが断熱材であることア引用発明2の「ロックウール繊維」は、ロックウール断熱材である。また、引用発明2の「放射線透過低減構成基材」には、ロックウール断熱材 (保水基材群のうちの一種)以外にも、引用発明2特有の構成材料が複数含まれている。 イ甲2公報の段落【0189】には、請求項23に係る記載として、ロックウール繊維が断熱性に優れていること、保水性を有することが記載されているところ、甲2公報に記載されているロックウールは、空隙率が高く 形成されている断熱材であることが一般的に理解される。なお、上記段落の「保水性を有するので当該発明に有用である」との記載は、引用発明2の必須要件である水を保水基材(ロックウールを選択)に含水させることを示しているところ、含水によって断熱材の断熱性能が下がることは当業者において常識であるから、上記段落における「断熱性が放射線透過低減 に有効」との記載が、引用発明2の放射線透過低減を肯定することにはな らない。 て断熱材の断熱性能が下がることは当業者において常識であるから、上記段落における「断熱性が放射線透過低減 に有効」との記載が、引用発明2の放射線透過低減を肯定することにはな らない。 ウ甲2公報の段落【0160】の記載から、重量差の重量が含水量(約2. 000リットル)であることが推定できるところ、この含水量は450kgの乾燥ロックウール粒状綿の約4.4倍に相当する。そして、乾燥ロックウール粒状綿の含水機能の要因は、当該粒状に空隙率が高く形成されて いることにある。このように、乾燥ロックウール粒状綿は、引用発明2においては保水基材であるが、以上のとおりの空隙率からすれば、断熱材であることが分かる。また、上記ロックウール粒状綿は、甲3文献にも記載されているから、甲2公報に記載されているロックウールは、甲1文献及び甲3文献に記載されている断熱材であるといえる。 エ甲2公報の段落【0160】の含水量の水圧に耐え得る、向かい合う主面の強度を想像すると、引用発明2は、機械的強度に優れた材料で構成されていることが一般に理解される。また、引用発明2の含水構成構造物の形を想像すると、上記段落において示されている主面の各サイズからすれば、直方体であることが分かる。これに対し、本願発明の成形物は、本願 明細書に記載はないが、当業者が本願発明の成形の意味を理解すると、例えば円筒形、環帯、円管又は球のような、引用発明2において作製が容易ではない形態の成形物(素材の一体化)を自由に作製することができる。 このことから、本願発明と引用発明2とが一致しないことが分かる。 ⑷ 甲3発明のロックウールが断熱材であること ア甲3発明のロックウールは、断熱材、吸音材、保湿材である。 イ甲3文献における70年のロックウールの 発明2とが一致しないことが分かる。 ⑷ 甲3発明のロックウールが断熱材であること ア甲3発明のロックウールは、断熱材、吸音材、保湿材である。 イ甲3文献における70年のロックウールの歴史に関する記載部分には、放射線や遮蔽といった記載は存在せず、放射線や遮蔽を示唆する文言も存しない。そうすると、このようなロックウール断熱材とは別である本願発明の放射線遮蔽基材を、当業者が容易に発明することができたとすること は誤りである。 〔被告の主張〕⑴ 引用発明1に関する主張についてア引用発明1の「ロックウール」は、断熱材として用いられるものであるが、微量とはいえ放射線を遮蔽する機能を有している。また、甲1文献には、「今回の福島第一原子力発電所の事故のように大量の放射性物質が生 活環境下に放出される際は、建築物が人体を放射線から保護する遮蔽体になる。」と記載されている。そして、本願発明の「放射線の透過低減」及び「放射線遮蔽」における「低減」及び「遮蔽」の程度は、ガンマ線の遮蔽効果が、(遮蔽体を構成する)物質、密度及び厚さ並びにガンマ線のエネルギーにより定まるという技術常識(以下「本件技術常識」という。)に基づ いて説明可能な範囲内のものである。 そうすると、引用発明1の「ロックウール」は、本願発明の「放射線の透過低減を有する素材」に相当するといえるし、当該「ロックウール」を用いた断熱材は、本願発明の「放射線遮蔽基材」に相当するといえる。 イ引用発明1の「ロックウール」を用いた断熱材は、厚さが84mm(甲 1文献の表1)の断熱材であり、「密度0.050g/cm3」(50kg/m3)又は「密度0.100g/cm3」(100kg/m3)であるところ、ロックウールが鉱物繊維の 、厚さが84mm(甲 1文献の表1)の断熱材であり、「密度0.050g/cm3」(50kg/m3)又は「密度0.100g/cm3」(100kg/m3)であるところ、ロックウールが鉱物繊維の一つであることが技術常識であることに照らせば、当該各密度の「ロックウール」を用いた断熱材は、それよりも低い密度のもの(例えば、甲1文献の表1の「密度0.030g/cm3」のも の)と比べると、本願発明でいう「ロックウールを含む鉱物繊維」を「密度が高くなるように圧縮させて」「成形され」た構成を有しているといえるし、そのような構成とすることは、当業者が適宜なし得たことでもある。 また、ロックウールを用いた断熱材として、マット状又はボード状のものが存在することは技術常識であるところ、マット状又はボード状のロッ クウールは、繊維状にしたロックウールを捕集した後、圧縮させて所定の 密度に成形されて得られることが技術常識である。そして、圧縮させれば、圧縮前よりも密度が高くなることが自明である。そうすると、引用発明1の当該各密度の「ロックウール」を用いた断熱材は、本願発明でいう「ロックウールを含む鉱物繊維」を「密度が高くなるように圧縮させて」「成形され」た構成を有しているといえるし、そのような構成とすることは、当 業者が適宜なし得たことでもある。 ⑵ 引用発明2に関する主張についてア引用発明2の「ロックウール繊維又はその成形体」は、「放射線透過低減構成基材の表薄板側に」「積層され」たものであるところ、当該「ロックウール繊維又はその成形体」として、密度が50kg/m3や100k g/m3といった本願発明に特定された範囲のものを採用することは、当業者が適宜なし得たことである。 イそして、このようにして採用された密 その成形体」として、密度が50kg/m3や100k g/m3といった本願発明に特定された範囲のものを採用することは、当業者が適宜なし得たことである。 イそして、このようにして採用された密度の「ロックウール繊維又はその成形体」に係る「ロックウール」は、上記⑴アと同様の理由で、本願発明の「放射線の透過低減を有する素材」に相当するといえるし、当該密度の 「ロックウール繊維又はその成形体」を備えた「放射線透過低減構成基材」は、本願発明の「放射線遮蔽基材」に相当するといえる。また、当該密度の「ロックウール繊維又はその成形体」は、「成形体」である以上、本願発明でいう「成形され」た構成を有しているといえるし、上記⑴イと同様の理由で、本願発明でいう「ロックウールを含む鉱物繊維」を「密度が高く なるように圧縮させ」られた構成を有しているといえる。 ウなお、甲2公報の段落【0189】にも、当該「ロックウール繊維又はその成形体」が、放射線透過低減に有効である旨記載されている。 ⑶ 甲3発明に関する主張について甲3文献は、いわゆる主引用例として引用されたものではない。 2 取消事由2(本願発明と各引用発明との相違点に係る判断の誤り)について 〔原告の主張〕取消事由1で主張したとおり、本願発明のロックウール素材の放射線遮蔽基材は、断熱材である引用発明1及び2並びに甲3発明のロックウールとは異なる。したがって、以下のとおり、本願発明の放射線遮蔽効果と、引用発明1のロックウール断熱材の放射線遮蔽効果及び含水されている引用発明2のロック ウール断熱材の放射線遮蔽効果とは一致するものではなく、本件審決がこれらを抽象的に同一であると判断したのは誤りである。 (1) 本願発明の放射線遮蔽効果については されている引用発明2のロック ウール断熱材の放射線遮蔽効果とは一致するものではなく、本件審決がこれらを抽象的に同一であると判断したのは誤りである。 (1) 本願発明の放射線遮蔽効果については、本願明細書の段落【0027】に具体的に記載されている。 ⑵ 甲2公報において密度25kg/m3と記載されているロックウールは、 甲1文献の表1に示されている最小密度0.03g/cm3以下の値であり、実効線量透過率の評価対象とはなり得ず、引用発明1及び引用発明2の放射線遮蔽効果には差異がある。 ⑶ 甲4の実験成績証明書には、本願発明の放射線遮蔽効果が具体的に記載されているほか、引用発明1及び2の放射線遮蔽効果の対比や本願発明及び引 用発明1の放射線遮蔽効果の対比等が記載されている。 ⑷ 引用発明2の放射線遮蔽効果は、複数からなる構成材料、組み込まれる液体材料、複雑な構造要因等、引用発明2に特有の放射線遮蔽構造によるものであり、単一素材を成形する本願発明とは要素が異なるから、放射線遮蔽効果を抽象的に同一であると判断するのは誤りである。 ⑸ 本件審決が、引用発明2の技術的思想から本願発明の要素を容易に発明することができるとしたことは、誤りである。 〔被告の主張〕⑴ 圧縮させて所定の重量値(密度)に成形されている本願発明の「ロックウール」と、引用発明1の「ロックウール」を用いた断熱材(又は引用発明1 から出発した当業者が適宜至ることができる断熱材)や引用発明2から出発 した当業者が採用し得た密度の「ロックウール繊維又はその成形体」との間には、物質及び密度の観点において差異がないから、本件技術常識を踏まえれば、放射線遮蔽効果においても差異がない。 ⑵ そうすると、本願発明の「放射線の透過 の「ロックウール繊維又はその成形体」との間には、物質及び密度の観点において差異がないから、本件技術常識を踏まえれば、放射線遮蔽効果においても差異がない。 ⑵ そうすると、本願発明の「放射線の透過低減を有する」及び「放射線遮蔽」における「低減」及び「遮蔽」の程度も、本件技術常識に基づいて説明可能 な範囲内のものと解されるということになる。また、そうである以上、本願発明の効果は、甲1文献又は甲2公報に記載された技術的事項と本件技術常識とに基づいて予測できるともいえる。 3 取消事由3(実施可能要件及び明確性要件に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕 ⑴ 実施可能要件についてア当業者は、本願明細書の「発明の名称」及び「発明が解決しようとする課題・目的」の記載から、本願発明の成形物(請求項1)又は請求項1に従属する請求項に係る発明物について、公衆被爆防護、職業被爆防護、医療被爆防護及び放射性廃棄物処理に関係する場において利用又は使用す るものであると理解するから、明確性要件及び実施可能要件に反するとした本件審決の判断は、誤りである。 イ本件審決は、本願発明のロックウール素材につき、瑕疵のある引用発明1のロックウール断熱材料と同一であると誤って認定したために、実施可能要件に関する判断も誤ったものである。 ⑵ 明確性要件についてア請求項2は、請求項1の従属項であるところ、請求項1には「前記ロックウールは、ロックウールを含む鉱物繊維」と記載されており、請求項2の鉱物繊維は、請求項1のロックウールを含む鉱物繊維を指しているから、請求項2の記載は不明瞭ではない。 イ当業者は、請求項4及び7に記載されている文脈から、容易に本件出願 に係る各発明を実施することができる。また、当 む鉱物繊維を指しているから、請求項2の記載は不明瞭ではない。 イ当業者は、請求項4及び7に記載されている文脈から、容易に本件出願 に係る各発明を実施することができる。また、当業者は、本件出願に係る願書には、明細書及び図面の記載から、実施の形態を読み取って各発明を容易に作製することができる。 〔被告の主張〕⑴ 実施可能要件について 本願明細書の段落【0027】には、「ロックウールの密度が高いほど、単位体積中のロックウール繊維本数が多くなって空気の流れの抵抗が増す故に電気抵抗値が極めて高くなり電気絶縁性が増すためとロックウールは電子波を吸収することが推測できるから放射線の遮蔽効果を有する。」と記載されているが、空気の流れの抵抗、電気抵抗値及び電子波吸収による作用が、本 件技術常識に基づいて説明可能な範囲を超えているといえるだけの物理的な裏付けがない。また、当該段落中の実施例の記載は、ロックウールの入手及び製造方法その他の実験条件を明らかにしていないから、不十分である。 ⑵ 明確性要件について本件審決が判断したとおりである。 4 取消事由4(引用発明1の認定の誤り)について〔原告の主張〕本件審決は、甲1文献の表1に記載された「刧さ」との語句につき、単なる「厚さ」の誤記と判断した。しかしながら、以下のとおり、この記載が単なる誤記であるとは考えられず、表1は科学技術的に不明な表であるから、本件審 決が、表1を基に引用発明1を認定し、本願発明の上位概念であるかのように認定したことは、誤りである。 ⑴ パソコンのキーボードの操作において、「あつ、アツ、ATU、atu」の文字を入力しても、甲1文献の表1に記載された「刧」の文字は表示されない。 認定したことは、誤りである。 ⑴ パソコンのキーボードの操作において、「あつ、アツ、ATU、atu」の文字を入力しても、甲1文献の表1に記載された「刧」の文字は表示されない。 ⑵ 「刧」の文字を甲1文献の表1に掲載(印字)するためには、IMEパッ ドの操作が不可欠であり、また、これによって表示される「刧」の文字の読みは、「ゴウ、キョウ、おびやかす」である。 ⑶ 甲1文献は、2名の著者によって作成された論文であるところ、論文集に掲載する以前にその内容を確認するのが常識である上、論文集に掲載されたことにより、その記載が確定している。 〔被告の主張〕当業者は、甲1文献の表1と同じ実効線量透過率のデータベースである表2ないし7に「厚さ(mm)」と記載されていること及び本件技術常識から、「劫さ(mm)」を「厚さ(mm)」の明らかな誤記であると理解する。 5 取消事由5(甲1文献及び甲2公報を引用することは技術的に阻害されるこ と)について〔原告の主張〕⑴ 本件審決は、「なお、もともと、放射線遮蔽機能が低い材料でも、厚さを厚くしたり、密度を高くすれば、遮蔽機能が上がることは当然であって、格別のことではない」とするが、これは本件審決が認定した引用発明1及び2に 相当するものであるから、被告自らが甲1文献及び甲2公報を技術的に阻害しているといえる。 ⑵ 本件審決は、引用発明1及び2は同一のロックウールであると認定しているが、引用発明1のロックウールは含水されておらず、引用発明2のロックウールは含水が発明の必須要件であるから、甲1文献は、甲2公報を技術的 に阻害している。すなわち、引用発明2のロックウールから含水を除外した論理は成り立たないから、本件審決が引用発明 のロックウールは含水が発明の必須要件であるから、甲1文献は、甲2公報を技術的 に阻害している。すなわち、引用発明2のロックウールから含水を除外した論理は成り立たないから、本件審決が引用発明1及び2を認定したことは、誤りである。 ⑶ 甲4の実験成績証明書においては、引用発明1及び2の放射線遮蔽効果を比較した結果として、引用発明2の放射線遮蔽効果が引用発明1よりも低い 値であることが証明されており、甲1文献は甲2公報を阻害しているから、 本件審決が引用発明1及び2を認定したことは、誤りである。 〔被告の主張〕⑴ 本件審決がした「なお、もともと、放射線遮蔽機能が低い材料でも、厚さを厚くしたり、密度を高くすれば、遮蔽機能が上がることは当然であって、格別のことではない。」という説示は、本件技術常識そのものを意味しており、 これに基づく本件審決の認定判断に誤りがないことは、これまで主張したとおりである。 ⑵ 原告は、甲1文献に記載された技術的事項と甲2公報に記載された技術的事項とが互いに阻害する旨主張するようであるが、本件審決の認定及び判断に誤りはない。 第4 当裁判所の判断 1 本願発明(1) 特許請求の範囲本願発明の特許請求の範囲の記載は、前記第2の2のとおりである。 (2) 本願明細書の記載 本願明細書には、次のとおりの記載がある(乙1)。 ア技術分野「放射性物質の放射線透過低減、環境放射能汚染物から放射される放射線透過低減対策に係る公衆被爆防護、職業被爆防護、医療被爆防護ならびに放射性廃棄物処理に関する。」(段落【0001】) イ背景技術「原子番号が大きい物体ほど放射線、主にガンマ線の遮蔽に効果を発現することが周知である。 職業被爆防護、医療被爆防護ならびに放射性廃棄物処理に関する。」(段落【0001】) イ背景技術「原子番号が大きい物体ほど放射線、主にガンマ線の遮蔽に効果を発現することが周知である。また、原子番号が大きい物体ほど重量が重い。放射線遮蔽体の重量が重いと運搬、作業にかかる負担増と費用が高額になる。 また、原子番号が大きい物体ほど高価である。また、原子番号が大きい物 体を用いて環境放射能汚染物、放射性廃棄物、放射性物質を遮蔽する機械 的強度を備えた構造体を製造する諸費用は高額である。このような理由から安価であって且つ、原子番号が大きい物質が含有されても軽量の放射線遮蔽素材の開発が望まれている。」(段落【0002】)ウ発明が解決しようとする課題「軽量物である鉱物繊維、人造鉱物繊維を用いて核種放射線の公衆被爆 防護、職業被爆防護、医療被爆防護に有用な放射線透過低減素材ならびに放射性廃棄物処理に係る構造体を提供することを目的とする。」(段落【0006】)エ課題を解決するための手段「請求項1の発明の放射線遮蔽低減基材および放射性物質減衰体は、放 射線の透過低減を有する素材がロックウールであることを特徴とする放射線遮蔽低減基材および放射性物質減衰体である。」(段落【0007】)「請求項4の発明の放射線遮蔽低減体および放射性物質減衰体は、ロックウールを含む鉱物繊維または、ロックウールの粒状綿を密度が高くなるように圧縮させて、10kg/m3から4000kg/m3のうちのいず れかの重量値に成形されていることを特徴とする請求項1から3に記載の放射線遮蔽低減基材および放射性物質減衰体である。」(段落【0010】)オ発明の効果「以上のように本発明の放射線遮蔽低減基材および放射性物 いることを特徴とする請求項1から3に記載の放射線遮蔽低減基材および放射性物質減衰体である。」(段落【0010】)オ発明の効果「以上のように本発明の放射線遮蔽低減基材および放射性物質減衰体、放射性物質減衰体容器又は袋体、放射性物質減衰体コンテナ体によれば、 ロックウール素材とロックウールの素材からなる成形体には、化学組成(重量%)は、SiO2が含有量35から45%、Al2O3が含有量10から20%、Fe2O3が含有量0から3%、MgOが含有量4から8%、CaOが含有量30から40、MnOが含有量0から1%含まれているので放射線の遮蔽効果が発現する。 また、放射線の遮蔽低減実施例としては、厚さ15cmのロックウール 粒状体(密度0.2g/cm3)を圧縮してなる密度0.30~0.36g/cm3の混合成形体を放射線が地面から放射している土地表面に被覆施工した結果、被覆施工直後において空間線量が35から40%程度低減したことを原子力規制委員会さまが管理測定されているモニタリングポスト(設置場所、緯度37.758934経度140,44704高さ 50cm)で確認。また、該モニタリングポストの設置場所近傍の放射線が放射されている土地において先述に類似する測定を実施してロックウール繊維成形体の放射線透過低減効果を確認している。 また、ロックウールの密度が高いほど、単位体積中のロックウール繊維本数が多くなって空気の流れの抵抗が増す故に電気抵抗値が極めて高く なり電気絶縁性が増すためとロックウールは電子波を吸収することが推測できるから放射線の遮蔽効果を有する。 また、本発明は多様な放射線遮蔽用途に活用できる。また、軽量であるため運搬や作業負担が軽減される。 また、本発明のロックウール繊維素材とそ 吸収することが推測できるから放射線の遮蔽効果を有する。 また、本発明は多様な放射線遮蔽用途に活用できる。また、軽量であるため運搬や作業負担が軽減される。 また、本発明のロックウール繊維素材とその成形体は放射性廃棄物を保 管、貯蔵する建築構造物の屋根、壁、扉、床または、放射線防護服、防護エプロン、シェルターや放射線が放射される医療施設の壁、屋根、床の放射線防護材料として利用できる相乗効果も有する。」(段落【0027】)カ発明を実施するための形態「<第1の実施の形態>」(段落【0029】) 「放射線の透過低減を有する素材がロックウールであることを特徴とする放射線遮蔽低減基材および放射性物質減衰体。」(段落【0030】)「ロックウール繊維は微細な孔と空隙を有するので電子波を吸収する機能があることが推測できるので放射線の遮蔽に好ましい。 また、繊維成形に接合剤を構成しない人造鉱物繊維は環境に影響される ことなく劣化が殆どないから永続的な放射線の遮蔽に好ましい。」(段落 【0031】)「<第4の実施の形態>ロックウールを含む鉱物繊維または、ロックウールの粒状綿を密度が高くなるように圧縮させて、10kg/m3から4000kg/m3のうちのいずれかの重量値に成形されていることを特徴とする請求項1から3 に記載の放射線遮蔽低減基材および放射性物質減衰体は、先述のように圧縮成形されることによって、より放射線の遮蔽効果が発現するから好ましい。」(段落【0034】)「また、ロックウールは玄武岩その他の天然鉱物、鉄炉スラグ、高炉スラグが主原料であるから圧縮加工が容易である。そして、ロックウールの 密度が高いほど、単位体積中のロックウール繊維本数が多くなって空気の流れの抵抗が増す故に電気抵抗値 鉱物、鉄炉スラグ、高炉スラグが主原料であるから圧縮加工が容易である。そして、ロックウールの 密度が高いほど、単位体積中のロックウール繊維本数が多くなって空気の流れの抵抗が増す故に電気抵抗値が極めて高くなり電気絶縁性が増すため放射線の遮蔽に好ましい。」(段落【0035】)「また、成形方法としては公知の圧縮機械または重機などを用いてロックウール繊維そのものを圧縮成形することが好ましいがこの方法に限定 されるものではない、また、圧縮の際に接合材や樹脂をロックウール繊維に噴霧、添加して成形されてもよい。また、例えば、無機繊維や有機繊維を混合して圧縮成形した形態もよい。」(段落【0036】)(3) 本願発明の技術的意義上記(1)及び(2)によれば、本願発明の技術的意義は、次のとおりであると 認められる。 ア本願発明は、放射性物質の放射線透過低減、環境放射能汚染物から放射される放射線透過低減対策に係る公衆被爆防護、職業被爆防護、医療被爆防護及び放射性廃棄物処理に関する発明である。(段落【0001】)イ原子番号が大きい物体ほど、放射線、主にガンマ線の遮蔽に効果を発現 することが周知である。他方で、原子番号が大きい物体ほど重量が大きい ところ、放射線遮蔽体が重いと運搬及び作業に要する負担が増え、費用が高額になる。また、原子番号が大きい物体ほど高価である。さらに、原子番号が大きい物体を用いて環境放射能汚染物、放射性廃棄物、放射性物質を遮蔽する機械的強度を備えた構造体を製造する諸費用は高額である。そこで、安価であり、かつ、原子番号が大きい物質が含有されても軽量の放 射線遮蔽素材の開発が望まれていた。 本願発明は、軽量物である鉱物繊維又は人造鉱物繊維を用いて、放射線の公衆被爆防護、職業被爆防護及び であり、かつ、原子番号が大きい物質が含有されても軽量の放 射線遮蔽素材の開発が望まれていた。 本願発明は、軽量物である鉱物繊維又は人造鉱物繊維を用いて、放射線の公衆被爆防護、職業被爆防護及び医療被爆防護に有用な放射線透過低減素材及び放射性廃棄物処理に係る構造体を提供することにより、上記の課題を解決することを目的とするものである。(段落【0002】及び【00 06】)ウ上記の目的を達成するために、本願発明の放射線遮蔽低減基材及び放射性物質減衰体は、放射線の透過低減を有する素材がロックウールであり、ロックウールを含む鉱物繊維又はロックウールの粒状綿を密度が高くなるように圧縮させて、10kg/m3から4000kg/m3のうちのいず れかの重量値に成形されていることを特徴とする。(段落【0007】及び【0010】)エ本願発明は、多様な放射線遮蔽用途に活用することができ、また、軽量であるため、運搬や作業負担が軽減されるという効果を奏する。 さらに、上記ウのとおり、本願発明は、圧縮成形されたロックウール線 維を素材とするものであるところ、ロックウール繊維は微細な孔及び空隙を有するため、電子波を吸収する機能があることが推測される。また、ロックウールの密度が高いほど、単位体積中のロックウール繊維本数が多くなって空気の流れの抵抗が増すため、電気抵抗値が極めて高くなり、電気絶縁性が増し、電子波を吸収することが推測される。さらに、ロックウー ルを含む鉱物繊維又はロックウールの粒状綿を密度が高くなるように圧 縮させて、10kg/m3から4000kg/m3のうちのいずれかの重量値に成形されている放射線遮蔽低減基材及び放射性物質減衰体は、圧縮成形されることによって、より放射線の遮蔽効果が発現する。このように、 せて、10kg/m3から4000kg/m3のうちのいずれかの重量値に成形されている放射線遮蔽低減基材及び放射性物質減衰体は、圧縮成形されることによって、より放射線の遮蔽効果が発現する。このように、本願発明の構成をとることにより、より放射線の遮蔽に好ましい放射線遮蔽低減基材及び放射性物質減衰体を得ることができるという効果を奏す る。(段落【0027】、【0031】、【0034】及び【0035】) 2 引用発明1(1) 甲1文献の記載甲1文献には、次のとおりの記載がある(甲1)。 ア 「(3) 建築物の自己遮蔽効果とデータベース 今回の福島第一原子力発電所の事故のように大量の放射性物質が生活環境下に放出される際は、建築物が人体を放射線から保護する遮蔽体になる。 そのため、建築物の遮蔽性能を理解するために各種建築材料の遮蔽性能のデータベースが必要となる。しかし、コンクリートや鉛などのガンマ線の遮蔽に以前から用いられている材料については、病院などの医療設備に関 する遮蔽も必要なこともあり、遮蔽性能が既にマニュアルにとりまとめられているが、外装材、内装材、断熱材、躯体などの各種建築材料の遮蔽性能については十分な解析が行われていない。したがって、これらの各種建材の遮蔽性能をデータベースとしてとりまとめる必要がある。データベースの存在は、建築物の遮蔽性能を簡易に評価できるだけでなく、建築物の 継続利用および軽度に汚染した建築材料の再利用を検討する際に、簡易に被爆リスクを評価することに資することも可能となる。 以上の事から、本研究では、遮蔽性能が密度と元素組成の影響を受けることを考慮し、放射線の評価方法として既に確立されているモンテカルロ計算を用いて、代表的な建築材料に対し、遮蔽性能、密度、元素 以上の事から、本研究では、遮蔽性能が密度と元素組成の影響を受けることを考慮し、放射線の評価方法として既に確立されているモンテカルロ計算を用いて、代表的な建築材料に対し、遮蔽性能、密度、元素組成のデ ータベースの作成を試みた。」(1090頁左欄12~29行) イ 「(1) PHITSおける137Csの定義PHITSでは、線源の種類、体系、物質、評価対象などを定義すれば、そのインプットファイルに応じて線量当量評価が行われる。定義できる線源は、ガンマ線はもちろんのこと、アルファ線、ベータ線、中性子など、複数存在する。しかしPHITSには、137Csは137mBaと永続平衡(放射 平衡)の関係にあり、137mBaからの核異性体転移によってガンマ線を放出するというメカニズムが組み込まれていない。ゆえにインプットファイルにおいて線源に137Csを用いることはできない。そのため、本研究の解析では1Bqの137Csが崩壊した場合、85.1%の割合で662keVのガンマ線が放出されるという事実に即し、ガンマ線を線源に置いて、1秒 間に0.851個の同エネルギーのガンマ線を放出させて137Csを模擬した。」(1091頁右欄3~14行)ウ 「(2) 実効線量透過率の算出実効線量透過率の解析は、無限厚点線源ジオメトリ、つまり137Csを模擬したガンマ線の点線源の周りが無限に解析対象の建材で満たされてい る体系で行い、線源からは等方散乱でガンマ線が放出されるものとした。 実効線量透過率の算出について、図3を用い、コンクリートを例として説明する。図3(a)の遮蔽体がない空間では、原点に点線源を置くと、点Pでの実効線量は線源からの距離の逆2乗則に応じて減衰したものとなる。一方、図3(b)のコンクリー を用い、コンクリートを例として説明する。図3(a)の遮蔽体がない空間では、原点に点線源を置くと、点Pでの実効線量は線源からの距離の逆2乗則に応じて減衰したものとなる。一方、図3(b)のコンクリートで満たされた空間では、距離による 減衰だけでなく、コンクリートの遮蔽によって減衰した実効線量が評価される。遮蔽体が無い時の点Pでの実効線量をE0、コンクリートで満たされた時の実効線量をEとすると、4.1節で前述したように、実効線量透過率Faは、Fa=E/E0と表される。以上の方法にて、各建材に対して実効線量透過率を算出した。また原点から点Pまでの距離は、各建材の実際に 住宅に用いられる厚さに応じて変化させた。」(1091頁右欄15行~1 092頁右欄1行)エ 「4.3 データベース各建材に対する実効線量透過率のデータベースを表1~7(判決注:表1は、別紙甲1文献図面目録記載のとおりである。)に示す。またデータベースには同時に、解析に用いた各建材の密度、住宅に用いられるときの厚 さ、及び元素組成を示した。また、表7の金属系の材料は鋼材を除くと住宅に用いられることはほとんどないが、鉛や銅などの金属は遮蔽材として用いられることが多いため、参考としてこれらの金属についても解析を行った。また137Csとの比較として、異なるエネルギーレベルの131Iによるガンマ線についても解析を行い、コンクリートに関してのみ実効線量透過 率を示した。131Iは崩壊した場合、81.7%の割合で364keVのガンマ線を放出するものとし、PHITSでは137Csと同様の手法で模擬した。 5. データベースの活用事例実効線量透過率を用いれば、住宅の外壁表面の線量から内部の線量を、 容易に予測評価する事がで とし、PHITSでは137Csと同様の手法で模擬した。 5. データベースの活用事例実効線量透過率を用いれば、住宅の外壁表面の線量から内部の線量を、 容易に予測評価する事ができる。実効線量透過率には非衝突線だけでなく散乱線の影響も含まれているため、2.3(2)項で前述したビルドアップ係数を乗じる必要もない。さらに、本研究がデータベースで示した実効線量透過率は各建材が住宅で用いられる代表的な厚さに応じたものであるため、コンクリート造、木造、鉄骨造に対して外装材、断熱材、躯体、 内装下地材を組み合わせ、それらのデータベースの値を乗じることにより、外壁の実効線量透過率を容易に求めることができる。以下に住宅外壁の実効線量透過率を求める例を示す。 図4(a)はコンクリート造住宅における外壁の概略図、図4(b)はその外壁例を示しており、図5、図6も同様に木造住宅の外壁概略図とそ の外壁例を示している(鉄骨造住宅は木造住宅のたて枠材、及び胴縁材が Cチャンと呼ばれる3.2mm厚または2.3mm厚の軽量鉄骨に代わる)。 図4、図6のコンクリート造と木造住宅の外壁例について、実効線量透過率を求める。」(1092頁右欄2~29行)(2) 引用発明1の内容上記(1)によれば、引用発明1の内容は、本件審決が認定したとおり(前記 第2の3⑵ア)であると認められる。 3 本願発明と引用発明1との一致点及び相違点前記1及び2で検討したところによれば、本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は、本件審決が認定したとおり(前記第2の3(3)ア)であると認められる。 4 本願発明の引用発明1に対する新規性の有無⑴ 相違点1についてア前記3のとおり、本願発明と引用発明1との相違点 認定したとおり(前記第2の3(3)ア)であると認められる。 4 本願発明の引用発明1に対する新規性の有無⑴ 相違点1についてア前記3のとおり、本願発明と引用発明1との相違点1は、「本願発明は『基材』であるのに対して、引用発明1はそのような特定がなされていない」というものである。 イそこで検討するに、前記2⑴のとおり、甲1文献においては、各建材に対する実効線量透過率のデータベースとして、表1ないし7が記載されているところ、表1は、「断熱材データベース」と題する表であり、断熱材の一つとしてロックウールが記載されていることからすれば、引用発明1のロックウールは、建築材料としての断熱材であると認められる。そして、 一般に、「基材」とは、製品や加工品の基となる材料を意味するものであるといえることからすれば、建築材料である引用発明1のロックウールは、「基材」の一種であるといえる。 ウ以上によれば、相違点1は、実質的な相違点であるとはいえない。 ⑵ 相違点2について ア前記3のとおり、本願発明と引用発明1との相違点2は、「ロックウール について、本願発明は『放射線の透過低減を有する』素材として用いて、『放射線遮蔽基材』を構成しているのに対し、引用発明1はそのような特定がなされていない」というものである。 イそこで検討するに、前記1⑶のとおりの本願発明の技術的意義によれば、本願発明が放射線遮蔽の機能を発現する機序は、微細な孔と空隙を有する ロックウール線維の構造そのものが、放射線の遮蔽に好ましいものであるところ、ロックウールを含む鉱物繊維又はロックウールの粒状綿を密度が高くなるように圧縮し、10kg/m3から4000kg/m3のうちのいずれかの重量値に成形するこ 、放射線の遮蔽に好ましいものであるところ、ロックウールを含む鉱物繊維又はロックウールの粒状綿を密度が高くなるように圧縮し、10kg/m3から4000kg/m3のうちのいずれかの重量値に成形することによって、より放射線の遮蔽効果が発現するというものである。 他方で、別紙甲1文献図面目録記載のとおり、甲1文献の表1におけるロックウールに係る記載内容によれば、密度が0.050g/cm3又は0. 100g/cm3のロックウールは、密度が0.030g/cm3のロックウールと比べて密度が高くなるように圧縮して成形されているものであるといえ、また、密度が高くなるに伴って、わずかながら実効線量透過率 が低減しているものといえる。 そうすると、引用発明1のロックウールは、本願発明の「放射線の透過低減を有する」素材に相当するものであるといえる。そして、上記⑴で検討したところも併せると、引用発明1のロックウールは、本願発明の「放射線遮蔽基材」に相当するものであるといえる。 ウ以上によれば、相違点2は、実質的な相違点であるとはいえない。 ⑶ 新規性の有無についてア上記⑴及び⑵で検討したとおり、本願発明と引用発明1との相違点1及び2は、いずれも実質的な相違点であるとはいえない。 イしたがって、本願発明と引用発明1との間には、実質的な相違点がある とはいえないから、本願発明は、引用発明1に対する新規性を欠くものと いうべきである。 5 本願発明の引用発明1に対する新規性に関する取消事由に対する判断(1) 取消事由4(引用発明1の認定の誤り)についてア原告は、種々の理由を挙げて、甲1文献の表1の「刧さ」との記載が単なる誤記であるとは考えられないから、本件審決が表1を基に引用発明1 を認 取消事由4(引用発明1の認定の誤り)についてア原告は、種々の理由を挙げて、甲1文献の表1の「刧さ」との記載が単なる誤記であるとは考えられないから、本件審決が表1を基に引用発明1 を認定したことは誤りである旨主張する。 イ確かに、別紙甲1文献図面目録記載のとおり、甲1文献の表1には、「刧さ(mm)」との記載が存する。 しかしながら、前記2⑴のとおり、甲1文献には、「各建材に対する実効線量透過率のデータベースを表1~7に示す。またデータベースには同時 に、解析に用いた各建材の密度、住宅に用いられるときの厚さ、及び元素組成を示した。」と記載されている上、表1の上段の項目は「断熱材」、「組成」、「割合(%)」、「密度(g/cm3)」、「刧さ(mm)」及び「実効線量透過率」とされている。そして、証拠(甲1)によれば、甲1文献の表2ないし7のいずれについても、表1とほぼ同様の項目が挙げられている上、 表1の「刧さ(mm)」の記載と同じ位置に「厚さ(mm)」と記載されていることが認められる。これらの事情からすれば、表1における「刧さ(mm)」との記載は、「厚さ(mm)」の誤記であることは明らかである。 ウしたがって、原告の上記主張は採用することができない。 ⑵ 取消事由1(本願発明と各引用発明との一致点の認定の誤り)について ア前記第3の1〔原告の主張〕⑴アについて(ア) 原告は、本願発明は成形密度を最適に調整し、放射線遮蔽の機能を有する素材で作製するものであるのに対し、引用発明1は断熱性の機能を有する断熱材であり、両者は機能が異なる旨主張する。 (イ) しかしながら、前記4⑵で検討したとおり、引用発明1のロックウー ルは、その機能として断熱性のみならず放射線遮蔽効果も有するもので る断熱材であり、両者は機能が異なる旨主張する。 (イ) しかしながら、前記4⑵で検討したとおり、引用発明1のロックウー ルは、その機能として断熱性のみならず放射線遮蔽効果も有するもので あるから、本願発明の「放射線遮蔽基材」に相当するものであるといえる。 (ウ) したがって、原告の上記主張は採用することができない。 イ同〔原告の主張〕⑴イについて(ア) 原告は、本願発明は放射線遮蔽の機能を有する素材を線源の線量に応 じて圧縮したものであるのに対し、引用発明1は断熱材の特徴である弾力性を備えたものであり、両者は成形形態が異なる旨主張する。 (イ) しかしながら、原告の上記主張は、本願発明及び引用発明1におけるロックウールの圧縮の程度の相違を指摘するものであるといえるところ、本願発明は圧縮の程度を具体的に特定した発明ではないから、失当とい うべきである。また、原告の上記主張が、本願発明及び引用発明1の製造方法の相違を指摘するものであれば、本願発明は製造方法の発明ではないから、失当というべきである。 (ウ) したがって、原告の上記主張は採用することができない。 ⑶ 取消事由2(本願発明と各引用発明との相違点に係る判断の誤り)につい てア原告は、本願発明の放射線遮蔽効果と、引用発明1のロックウール断熱材の放射線遮蔽効果とは一致するものではなく、本件審決がこれらを抽象的に同一であると判断したのは誤りである旨主張する。 イしかしながら、原告の上記主張は、本願発明及び引用発明1の放射線遮 蔽効果の程度の相違を指摘するものであるといえるところ、本願発明は放射線遮蔽効果の程度を具体的に特定した発明ではないから、失当というべきである。 ウしたがって、原告の上記主張は採用 遮 蔽効果の程度の相違を指摘するものであるといえるところ、本願発明は放射線遮蔽効果の程度を具体的に特定した発明ではないから、失当というべきである。 ウしたがって、原告の上記主張は採用することができない。 ⑷ 小括 以上によれば、本件審決が、甲1文献の表1における「刧さ(mm)」との 記載が「厚さ(mm)」の誤記であることを前提として引用発明1を認定したことに誤りはなく、また、本願発明が引用発明1に対する新規性を欠くものであると判断したことにも誤りはないから、取消事由1、2及び4は、いずれも理由がない。 6 その他の取消事由について 取消事由1及び2には、本願発明の引用発明1に対する新規性に関するもの以外の主張が含まれる。また、取消事由3は、明確性要件及び実施可能要件に係る判断の誤りを主張するものである。さらに、取消事由5は、必ずしもその趣旨が明らかであるとはいえないものの、本願発明の進歩性の有無に係る判断の誤りを主張するものであると解される。 しかしながら、これまで検討したとおり、本願発明は引用発明1に対する新規性を欠くものであるとした本件審決の判断に誤りはなく、したがって、本件出願を拒絶すべきであるとした本件審決の判断に誤りはないから、上記の各取消事由は、いずれも本件審決を取り消すべき理由にはならない。 7 結論 よって、原告の請求は、理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官東海林保 裁判官 裁判長 裁判官 東海林保 裁判官 中平健 裁判官 都野道紀 (別紙)甲1文献図面目録 【表1】

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