主文 本件控訴を棄却する。 理由 本件控訴の趣旨は,弁護人(主任)三浦邦俊,弁護人村山博俊,同安原伸人共同提出の控訴趣意書,控訴趣意書訂正申立書,控訴趣意補充書に各記載されたとおりであり,これに対する答弁は,検察官總山哲提出の答弁書に記載されたとおりであるから,これらを引用する。 1 控訴趣意第一点,訴訟手続の法令違反の主張について論旨は,要するに,原審第4回公判において,検察官は,証拠もないのに,被告人らはA株式会社(以下「A」という。)の受注工作資金を捻出する目的で本件脱税を行い,それによって得た多額の資金を多数の公務員や民間企業関係者等に交付して多数の工事を受注し莫大な利益を上げていたばかりか,このような脱税は20年以上も前から行われており,本件は氷山の一角に過ぎないなどとの論告をなしているが,原審裁判所はこれを制限せず容認した点で,刑訴法293条,295条に反するばかりか,原審裁判長は原審弁護人の証拠に基づかない論告であるとの異議に対して,「判決理由中で判断します。」と多数の傍聴人がいる法廷で明言し決定を留保したのに,公判調書上では異議申立棄却決定を行った扱いがなされており,このような扱いは,原審弁護人から,異議棄却決定に対する刑訴法293条,295条違反を理由とする同法309条の異議申立ての機会を奪ったもので,適正手続を保障した刑訴法1条,憲法31条に違反しており,これら違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである,というのである。 しかしながら,所論が種々論難する検察官の論告部分は,検察官が答弁書において指摘するように,被告人や原審相被告人Bをはじめ関係人の供述,さらには被告人及び原審相被告人Bがそれぞれ事業遂行に関しメモした手帳の記載内容等,多数の証拠資料 官の論告部分は,検察官が答弁書において指摘するように,被告人や原審相被告人Bをはじめ関係人の供述,さらには被告人及び原審相被告人Bがそれぞれ事業遂行に関しメモした手帳の記載内容等,多数の証拠資料に基づき概括的に情状主張としてなされたものと認められる。また,原審弁護人がしたとする異議に関し原審裁判所のとった措置についてみるに,刑訴法52条によれば公判期日における訴訟手続で公判調書に記載されたものは,公判調書のみによってこれを証明することができるとされており,しかも原審弁護人からは当該第4回公判調書の記載の正確性についての何ら異議(刑訴規則48条)の申立てもなされていないのであるから,その公判調書に記載されたとおり,原審裁判長は原審弁護人からの異議を棄却したものと認められる(なお,同公判で原審弁護人から提出されている「論告要旨に対する異議及び弁論の追加」と題する書面は,検察官の論告要旨を対照した詳細なものとなっており,その内容・形式に照らし,後日提出されたものと推認されるが,そうであればその期日では口頭による異議申立てとその理由の意見陳述並びに弁論の追加がなされ,これを後日書面で追完する形式がとられたものと解されるので,何ら不自然ではない。)。以上のとおり,論旨は前提を欠き失当というほかない。 2 控訴趣意第二点,量刑不当の主張について量刑不当の論旨にかんがみ,記録を調査し当審における事実取調べの結果を併せて検討するに,本件は,Aの取締役であった被告人が,同社の代表取締役であり実父の原審相被告人Bと共謀の上,平成9年度ないし平成11年度の3事業年度にわたり,合計2億3900万円余りの所得を隠し,合計5900万円余りの法人税をほ脱したという事案である。その罪質,動機,態様等は,原判決が「量刑の理由」の項で正当に説示するとおりである。とり 年度にわたり,合計2億3900万円余りの所得を隠し,合計5900万円余りの法人税をほ脱したという事案である。その罪質,動機,態様等は,原判決が「量刑の理由」の項で正当に説示するとおりである。とりわけ,犯行は,税務関係に詳しい者から脱税の指南を受け,実態のないペーパー会社を作って架空の外注費を計上したり,併せて実在の会社に対する架空・水増しの外注費,架空人件費等の計上を続け,これが露見しないよう関係帳票を整えるなどしていたもので,極めて計画的かつ悪質,巧妙なものである。被告人らは平成2年及び7年のAへの税務調査において架空外注費や架空人件費の計上を指摘されながら,これを改めることなく長期にわたり脱税を続けてきたもので,本件はその一環と認められるばかりか,その脱税額も高額であって,犯情悪質である。Aの受注工作のため,取引先民間企業関係者や公務員等へ働きかける資金を捻出するといった犯行動機に酌量の余地はない。被告人の行為は,我が国の申告納税制度の根幹を揺るがすものとして,強い非難を免れない。被告人は,原審相被告人Bの後継者と目されているものであるが,同人からかかる裏金作りを任され,脱税を主導していたものであることなどに徴すると,その刑事責任は軽いものではない。 してみると,本件での法人税のほ脱率は3か年平均で約13パーセントとこの種事案としてはそれほど高くないこと,本件を反省し,経営の適正化に向け努力する旨誓っていること,原審において自身4か月ほど身柄を拘束されていること,Aでは本件起訴後,修正申告し,当該3か年度分の法人税,地方消費税,法人県民税及び法人市民税並びにそれぞれに対する延滞税,重加算税などとして約1億7000万円を納付していること,被告人が懲役の刑に処せられると,その執行が猶予されても,建設業法8条7号所定の欠格事由にあた 税及び法人市民税並びにそれぞれに対する延滞税,重加算税などとして約1億7000万円を納付していること,被告人が懲役の刑に処せられると,その執行が猶予されても,建設業法8条7号所定の欠格事由にあたり猶予期間中同社の役員とはなれず,代表取締役である原審相被告人Bも同人に対する判決の宣告,確定により,早晩取締役の地位を失うことは避けられないことと相俟って,同社の事業遂行に困難が予想されること,被告人には交通関係の罰金刑前科以外には前科がないことなど,被告人のために酌みうる事情を十分考慮しても,本件の悪質性や被告人の刑事責任の重さに照らし,本件が罰金刑相当の事案とはとうていいえず,被告人を懲役10月,3年間執行猶予に処した原判決の量刑は相当であり,これが不当に重いとすることはできない。論旨は理由がない。 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。 平成13年12月11日福岡高等裁判所第一刑事部裁判長裁判官八束和廣裁判官坂主勉裁判官鈴木浩美
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