平成17(わ)6199 競売入札妨害被告事件

裁判年月日・裁判所
平成18年8月10日 大阪地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-33618.txt

判決文本文6,428 文字)

- 1 -主文被告人Aを懲役1年2月に,被告人B及び被告人Cをそれぞれ懲役1年に各処する。 被告人3名に対し,この裁判確定の日から3年間,それぞれその刑の執行を猶予する。 理由 (罪となるべき事実)被告人Aは,平成14年4月1日から,大阪市ゆとりとみどり振興局総務部庶務課長として,被告人Bは,平成16年4月14日から,同局総務部庶務課長代理として,いずれも,同局が発注する委託業務及び請負工事の指名競争入札に参加させようとする業者(以下「入札参加業者」という。)を指名するなどの職務に従事していたもの,被告人Cは,平成15年4月16日から,同局総務部庶務課調達係長として,入札参加業者となる資格を有する業者の中から入札参加業者として指名する業者の選定案を作成するなどの職務に従事していたものであるが,第1被告人3名は,共謀の上,大阪市ゆとりとみどり振興局が平成16年4月22日から平成17年5月20日までの間に入札を執行した「天王寺動植物公園管内街路樹維持管理業務委託-5」ほかの委託業務等合計27案件の各指名競争入札手続に関し,D株式会社等のE協会所属業者に上記各委託業務等を確実に落札させようと企て,別表記載のとおり,平成16年4月16日から平成17年5月13日までの間,27回にわたり,被告人Cにおいて,大阪市a区bc丁目d番e号fビル28階の同局総務部執務室において,上記各指名競争入札に入札参加業者として指名する業者の選定案を作成するに当たり,E協会所属業者のみを抽出した選定案を作成した上,被告人A及び被告人Bにおいて,同選定案どおりに入札参加業者を指名し,よって,平成16年4月22日から平成17年5月20日までの間,同所の同局総務部入札室において執行された上記各指名競争入札の際,同選定案どおり指名された上記D株式会社の担当者- 札参加業者を指名し,よって,平成16年4月22日から平成17年5月20日までの間,同所の同局総務部入札室において執行された上記各指名競争入札の際,同選定案どおり指名された上記D株式会社の担当者- 2 -Fらをして,上記各委託業務等をそれぞれ落札させ,もって,いずれも,偽計を用いて公の入札の公正を害すべき行為をした第2被告人Cは,株式会社G取締役営業課長として公共工事の受注等の業務に従事していたHと共謀の上,大阪市ゆとりとみどり振興局が平成17年4月19日に執行した「西部方面街路樹維持管理業務委託-1」の指名競争入札に関し,同社に同委託業務を落札させようと企て,Hにおいて,同月上旬ころ,前記第1記載の同局総務部執務室において,被告人Cに対し,上記指名競争入札に入札参加業者として指名する業者の選定案を作成するに当たって特定の業者を選定又は除外するよう求め,被告人Cにおいて,そのころ,同所において,同社に落札させるべくHの求めに応じた選定案を作成し,同月12日,同局総務部庶務課長(被告人A)をして同選定案どおりに入札参加業者を指名させ,よって,Hにおいて,同月19日,同局総務部入札室において執行された上記指名競争入札の際,同委託業務を落札し,もって,偽計を用いて公の入札の公正を害すべき行為をしたものである。 (証拠の標目)省略(法令の適用)被告人3名の判示第1別表番号1ないし27及び被告人Cの判示第2の各所為はいずれも刑法60条,96条の3第1項に該当するので,各所定刑中いずれも懲役刑を選択するところ,被告人らそれぞれについて,その判示各罪は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により,被告人A及び被告人Bについてはいずれも犯情の最も重い判示第1別表番号27の罪の刑に,被告人Cについては犯情の最も重い判示第2 各罪は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により,被告人A及び被告人Bについてはいずれも犯情の最も重い判示第1別表番号27の罪の刑に,被告人Cについては犯情の最も重い判示第2の罪の刑にそれぞれ法定の加重をし,その各刑期の範囲内で,被告人Aを懲役1年2月に,被告人B及び被告人Cをそれぞれ懲役1年に各処し,被告人3名につき,いずれも情状により同法25条1項を適用して,この裁判- 3 -確定の日から3年間,それぞれその刑の執行を猶予することとする。 (量刑の理由) 本件は,大阪市ゆとりとみどり振興局が発注する委託業務等の指名競争入札に関し,その入札参加業者指名を恣意的に行い,特定の業者に落札させた競売入札妨害事案であるところ,被告人3名は,共謀の上,合計27案件の指名競争入札に関し,E協会所属業者に落札させるため,E協会所属業者のみを入札参加業者として指名し(判示第1),また,被告人Cは,これとは別に,造園業者の営業担当者と共謀の上,1案件の指名競争入札に関し,同造園業者に落札させるため,同造園業者を指名するとともに特定の業者を指名から除外した(判示第2)ものである。 まず,被告人3名による判示第1の犯行についてみると,大阪市では,従来,同和対策の一環として,「E協会方式」と称して,大阪市が発注する委託業務等のうち一定の案件の指名競争入札に関し,E協会所属業者のみを入札参加業者として指名する優遇策が行われていたところ,本件も,ゆとりとみどり振興局が発注する街路樹維持管理の委託業務等の指名競争入札に関し,E協会方式に従って入札参加業者の指名を行ったものである。かかるE協会方式は,少なくとも,平成14年3月末に地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律(地対財特法)が失効した後は,特定の業者団体に所 入札参加業者の指名を行ったものである。かかるE協会方式は,少なくとも,平成14年3月末に地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律(地対財特法)が失効した後は,特定の業者団体に所属する業者のみを優遇する不公正かつ違法な指名方法との評価を免れないものであったというべきである。 そして,被告人らを含む大阪市関係者らの中には,これが違法なものであることについて認識を欠いていたかのような言辞を弄している者もいるが,公務員として,適法公正な職務執行を行おうとの意識を有しているならば,これが不公正かつ違法なものであることに思い及ばないなどとは到底考えられないところ,大阪市においては,E協会方式がとられる案件を「マル物件」などという隠語で呼び,あるいは,決裁文書に大阪市関係者のみが理解しうるような記号を付していたのであって,大阪市関係者らにおいて,E協会方式が少なくとも外部への公言をは- 4 -ばかるような指名方法であるとの認識を有していたことは明らかというべきである。にもかかわらず,大阪市においては,E協会方式が採用され続けていたのであって,これは,前例に従い,あるいは,大勢に従っておれば良しとして,適法かつ公正な公務遂行をないがしろにしていたものとの非難を免れないのである。 この理は被告人らについても同様であり,本件犯行は,それが大阪市の施策の一環として行われたものであることを踏まえても,もとより違法であり,のみならず,本件は,合計27案件もの多数に及ぶのであって,公の入札の公正を害した程度ははなはだしく,悪質との評価を免れない。また,E協会方式がE協会所属業者間における談合の温床となっていた事実も否定できず,この点も見過ごすことができない。 被告人A及び被告人Bは,ゆとりとみどり振興局総務部庶務課の幹部職員として,適正な指名 E協会方式がE協会所属業者間における談合の温床となっていた事実も否定できず,この点も見過ごすことができない。 被告人A及び被告人Bは,ゆとりとみどり振興局総務部庶務課の幹部職員として,適正な指名競争入札の執行がなされるよう部下職員を指揮しつつ所管事務を執り行うべき立場にありながら,その責務に反し,むしろ,慣行であったとはいえ,被告人Cに印鑑を預けて業者指名決裁簿等に押印させるなど,あたかも腫れ物に触るかのように直接の関与を避けることに汲々として,悪しき先例を踏襲していたものであり,その態度は事なかれ主義と批判されても致し方なく,また,まことに遺憾ながら公判廷においてさえも一部において責任回避とも受け取れる供述をなしているのであって,厳しい非難を免れない。 その職責の軽重と権限の大小に鑑みるとき,被告人ら3名のうちでは,ゆとりとみどり振興局総務部庶務課長の地位にあった被告人Aの責任が最も重く,同課長代理であった被告人Bの責任はこれに次ぐものというべきである。そして,被告人Cもまた,上司の指示に基づくものとはいえ,E協会方式に従った選定案を作成し続けてきたのであり,その責任は決して軽くない。 次に,被告人Cによる判示第2の犯行についてみるに,本件は,特定の委託業務が10年間連続して同じ業者によって落札されている事態に苦慮していた被告人Cが,当該業者を説得するなどして入札参加業者から除外することに協力した- 5 -株式会社Gの営業担当者Hに恩義を感じ,Hの求めに応じて,株式会社Gに委託業務を落札させようと便宜を図った犯行であり,被告人Cの個人的利益を目的としたものでないにしても,その動機に酌むべき点は乏しい。被告人Cは,Hに対し,指名から除外して欲しい業者がないかを尋ねた上,Hから要望のあった3業者のうち2業者を除外した選定案を作成し 利益を目的としたものでないにしても,その動機に酌むべき点は乏しい。被告人Cは,Hに対し,指名から除外して欲しい業者がないかを尋ねた上,Hから要望のあった3業者のうち2業者を除外した選定案を作成して,結果的には業者間の談合をより容易にし,現に株式会社Gに落札させるに至っており,自己の職務権限を利用して入札の公正を害したその犯行は悪質といわざるを得ない。 被告人3名はともに,公の入札に与る公務員として,その公正を堅持すべき重い職責を担っていたものである。その被告人らが自ら公の入札の公正を害したその刑事責任は,はなはだ重いといわなければならない。 他方,既に述べたとおり,E協会方式は,もともと,大阪市の同和対策の一環として行われてきたもので,平成14年3月末に地対財特法が失効した後も廃止されることなく,ゆとりとみどり振興局以外の局も含む大阪市全体の施策として採用され続けていたものである。被告人3名は,もとより自ら企図してE協会方式を採用したものではなく,先例に従い,他局と同様に入札参加業者の指名を行ったに過ぎない上,係長であった被告人Cはもとより,課長又は課長代理であった被告人Aや被告人Bにおいても,同被告人らのみの判断によってE協会方式を直ちに廃止することは,実際のところ困難な状況にあったと認められる。もちろん,そのような状況下においても,違法な指名を続けることは許されず,適正な公務執行の責務を有する被告人らとしては,違法な公務執行をとりあえず停止し,その是正を上司に具申する等々の方途を採るべきであったというべきではあるが,本件の背景には,このような大阪市全体の施策の在り方自体の問題が存在し,そのような中,被告人3名のみが刑事責任を問われていることについて,被告人らが不公平不平等との感をいだくのもあながち理解ができないわけではない ,このような大阪市全体の施策の在り方自体の問題が存在し,そのような中,被告人3名のみが刑事責任を問われていることについて,被告人らが不公平不平等との感をいだくのもあながち理解ができないわけではない。 また,もとより,本件は,被告人らの私利私欲を目的とした犯行ではなく,実際にも,被告人3名は何の個人的利益も得ていない。そして,本件摘発を契機と- 6 -して,大阪市では平成17年11月にE協会方式が廃止されるに至っており,同種再犯の可能性は事実上なくなっている。 これらは,被告人らのため酌むべき事情であることは否定できない。 さらに,被告人Cは事実関係をすべて認め,被告人A及び被告人Bもおおむね事実関係を認めて,被告人3名とも反省の態度を示しており,とりわけ,被告人Cは,公判廷においても,実に率直に事実関係を認めるとともに,当時の職務執行態勢の問題点についても真情を吐露しており,その態度は潔いとすら評価し得るほどである。 そして,被告人3名は,これまで大阪市職員として,勤勉に職務に取り組み,周囲からもその仕事ぶりを高く評価されてきたのであって,もとより前科前歴などは一切なく,多くの元同僚や知人らが,寛刑を求める嘆願書を提出している。 また,被告人A及び被告人Bには扶養を要する家族がおり,被告人Bは軽症ではあるが精神面で健康を害している。 被告人Cの判示第2の犯行については,特定業者が10年間連続して同一の委託業務を落札していた問題について,上司が何の対策も示そうとしなかった結果,被告人Cがひとり問題を抱え込んでしまったことが背景にあると窺われ,犯行に至る経緯に酌むべき点がまったくないともいえない。そして,被告人Cは,判示第2の選定案作成後,判示第1の犯行に関与しながらも,業務委託契約に関する改善案を上司である被告人Bに提出するなどして,業 に至る経緯に酌むべき点がまったくないともいえない。そして,被告人Cは,判示第2の選定案作成後,判示第1の犯行に関与しながらも,業務委託契約に関する改善案を上司である被告人Bに提出するなどして,業者の選定方法を改めようと被告人Cなりに努力をしている。 これらは,それぞれ当該被告人のため酌むべき事情というべきである。 そこで,これら諸般の事情を総合考慮して被告人らに対する科刑について検討するに,確かに,被告人らのために酌むべき事情,とりわけ,本件の背景事情,長く続いたE協会方式による職務執行の中で被告人らのみが刑事訴追を受けたという事実,そして,本件により懲役刑の宣告を受けた場合に被告人らが受ける失職等の不利益に着目すると,被告人らに対して懲役刑をもって臨むのは些か酷で- 7 -あるとの見方もあり得ると思われる。しかし,前述のとおり,本件各犯行により公の入札の公正が害された結果は重大であり,公務員として公正な指名競争入札を執行すべき立場にありながら本件に及んだ被告人らの責任は重いといわざるを得ないのであって,本件が懲役刑をもって臨むべき違法と責任の実質を備えた犯行であることは否定できない。同様の行為に出ながら処罰を免れた者がいる可能性があるからといって,本来厳しい処罰を受けるべき被告人らに寛刑で臨むことは,むしろ法の弛緩を招く不当なものといわざるを得ないし,量刑は基本的には犯罪行為の違法と責任の程度に応じて決せられるべき事柄であって,刑事裁判の結果失職等の不利益を受けることを量刑に当たって考慮するにも,おのずと限度があるといわざるを得ない。 以上の次第で,被告人3名に対しては,それぞれ主文の懲役刑をもって臨むこととするが,前述の酌むべき事情にも鑑み,いずれもその刑の執行をしばらく猶予することとする。 よって,主文のとおり判決する。 以上の次第で,被告人3名に対しては,それぞれ主文の懲役刑をもって臨むこととするが,前述の酌むべき事情にも鑑み,いずれもその刑の執行をしばらく猶予することとする。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑被告人Aに対し懲役1年2月,被告人B及び被告人Cに対しいずれも懲役1年)平成18年8月10日大阪地方裁判所第12刑事部川合昌幸裁判長裁判官増田啓祐裁判官- 8 -設樂大輔裁判官(別表)省略

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る