判決上記の者に対する傷害致死被告事件について、当裁判所は、検察官福嶋勇介及び同川口美悠並びに国選弁護人上原光太(主任)及び同堀江洋太郎各出席の上審理し、次のとおり判決する。 主文 被告人を懲役4年に処する。 未決勾留日数中60日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、令和4年9月18日午後8時50分頃、群馬県渋川市●●グループホームX2階居間食堂内において、A(当時59歳)に対し、その上半身を両手で突き飛ばして、同人を後方に転倒させ、その頭部を床に強打させる暴行を加え、よって、同人に右急性硬膜下血腫等の傷害を負わせ、同年10月1日午後9時55分頃、同県沼田市●●Y病院において、同人を前記傷害に基づく脳ヘルニアにより死亡させた。 (量刑の理由) 1 本件犯行における暴行の態様及び程度等⑴ 被告人の暴行内容は、被害者の右側から上半身を両手で1回押したというものであるが、防犯カメラの映像(甲37)等によれば、押した力は相当程度強いものと認められ、被告人も被害者が薬の影響等により足元が不安定な状態にあったことを認識していたのであるから、被告人の暴行は、被害者が転倒して頭を打つ危険性の高い行為であったというべきである。 ⑵ さらに、被害者は暴行後の時間の経過により徐々に脳内に血液が溜まったことにより死亡に至っていることからすると、被告人が自身の暴行により被害者が頭を打ち、被害者に異変が生じたことを十分認識しながら、翌朝に至るまで救急車を呼ぶなどの適切な対応をしなかったことが、被害者の死亡という重大 な結果をもたらした一因となったといえ、暴行後の対応も悪い。 なお、被告人は、翌朝になって初めて被害者の重大な異変に気付いた旨供述している。しかし、被害者は、転倒して頭を打 う重大 な結果をもたらした一因となったといえ、暴行後の対応も悪い。 なお、被告人は、翌朝になって初めて被害者の重大な異変に気付いた旨供述している。しかし、被害者は、転倒して頭を打った直後に気絶し、意識が戻った後も2回失禁し、頭を押さえてうめき声をあげるなどしており、被告人も被害者のこれらの異変が薬を服用したことによる影響とは異なる状態であったことを十分認識していたといえる。さらに、被告人自身も、仮眠をとる前の時点で、椅子に座って呼びかけに応じない状態となった被害者を見て立ち尽くしたり、両手で被害者を突き飛ばした状況を再現したりしており、遅くともその時点においては、自身の暴行が原因で被害者に重大な異変が生じていることを認識していたといえ、被告人の供述は信用できない。 2 犯行の動機⑴ 被告人は、被害者がインターフォンにいたずらをしていると思い込み、当日依頼されていた戸棚の修理作業が思うように進まなかったこともあいまって、被害者に腹を立てて犯行に及んだことが認められる。被告人は、介護施設の職員として施設利用者の身体の安全を守るべき立場であったにもかかわらず、短絡的に被害者を突き飛ばしたのであって、その動機に酌むべき点はない。 ⑵ なお、被告人は、入居者が備品を壊した場合、従業員が弁償をしなければならないと聞いたことがあったため、被害者をインターフォンから引き離そうとした旨供述する。しかし、当時の施設従業員らの供述によれば、従業員が過去に弁償をしたとか、従業員が弁償をしなければならないとの噂を聞いたことはなかったというのであって、従業員が弁償しなければならないと思ったとの被告人の供述は根拠がなく、信用できない。また、被告人は、外れたインターフォンから配線が見えたことから、被害者の身に危険を感じて被害者を押したとも供 って、従業員が弁償しなければならないと思ったとの被告人の供述は根拠がなく、信用できない。また、被告人は、外れたインターフォンから配線が見えたことから、被害者の身に危険を感じて被害者を押したとも供述するが、防犯カメラ映像によれば、被告人が被害者を見た時には既にインターフォンは元の位置に戻っており、配線が見える状態ではないから、被告人の供述は信用できない。 3 以上を前提に、被告人の行為に見合った責任の重さを検討すると、本件は同種の傷害致死事件(単独犯、凶器等なし、処断罪と同一又は同種の罪1件、被害者の落ち度なし、前科なし、犯意が偶発的・一時的、処断罪名と異なる主要な罪なし)の量刑傾向の中で、最も軽い部類に位置づけられるものとはいえない。 4 暴行後の事情⑴ 被告人は、犯行当日分の施設利用者ごとに作成されたサービス提供記録に、当初、被害者が椅子ごと倒れたという嘘の事実を記載して、自身の犯行を隠蔽しようとしたことが認められ、暴行後の事情は悪い。 ⑵ 検察官は、被告人が、施設のサービス管理責任者であるBに対して、頭を打っていない旨の虚偽の報告をしたと主張し、Bも同趣旨の供述をしている。しかし、被告人が、119番通報をする際に、他の施設職員や救急隊員に対して、頭部を打ったと説明していることからすると、Bに対してのみ、すぐにばれる可能性がある報告をする理由は乏しいと言わざるを得ない。そうすると、頭を打っていないとの報告を受けたというBの供述には疑問が残り、被告人がBに対して虚偽の報告をしたとまでは認定できない。 なお、検察官は、被告人がサービス提供記録を修正して詳細な事実を書くようにとのBの指示に反して「※座子(椅子の誤記)ごと倒れる」「※昏迷状態で体をさすっても起きない」という記載を削除しただけのサービス提供記録を作成し 人がサービス提供記録を修正して詳細な事実を書くようにとのBの指示に反して「※座子(椅子の誤記)ごと倒れる」「※昏迷状態で体をさすっても起きない」という記載を削除しただけのサービス提供記録を作成した旨も主張する。しかし、修正後のサービス提供記録には、被害者が病院に搬送された理由が明らかになる事実の記載が全くないにもかかわらず、これを確認したBが更なる修正を求めないまま、自身で修正前のサービス提供記録をシュレッダーにかけたことからすると、被告人に対して詳細な事実を書くように指示した旨のBの供述は信用できない。 5 これらに加えて、被告人が暴行の事実自体は認めて反省の言葉を述べているが、動機等について不合理な弁解をするなど真摯に反省しているとはいえないこと、被告人が被害者遺族に対し損害賠償の一部として500万円を支払ったこと、他 方で、なお被害者の遺族が厳罰を望んでいること、被告人の妻が被告人を支えていく旨を述べていること、被告人に前科前歴がないことなどの事情を考慮しても、実刑は免れないというべきであり、これらの事情を踏まえて、主文の刑に処するのが相当であると判断した。 (求刑懲役6年)令和6年5月27日前橋地方裁判所刑事第2部 裁判長裁判官山下博司 裁判官黒田真紀 裁判官小川 梢
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