主文 被告人を懲役2年6月に処する。 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。 被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。 理由 (罪となるべき事実)第1 被告人は,平成24年6月9日頃,大分県別府市所在の社会福祉法人甲駐車場において,Aの占有を離れた同人らの所有に係る現金約800円及び運転免許証等4点在中の財布(時価約5000円相当)1個を発見したのに,これを自己のものとするため,同所から持ち去り,もって占有を離れた他人の物を横領した。 第2 被告人は,平成24年7月13日午後4時6分頃,大分県別府市所在のスーパーマーケット乙店において,同店店長B管理に係る消臭芳香剤等4点(販売価格合計974円相当)を窃取した。 第3 被告人は,同日時頃,同店東側駐車場において,上記第2の犯行を目撃した同店保安員C(当時51歳)が,背後から肩に手を掛けてきたので,その手を振り払って逃げようとして,振り向きざまに右肘を突き出し,Cの左こめかみ付近に当てた。被告人は,Cの顔面ないし頭部を数回手拳で殴り,Cに服等をつかまれた状態で,前屈みになったCの後頭部を数回手で殴った。さらに,被告人は,Cの胸部付近を膝で2回蹴り,逃げようとして,地面に両膝,両肘をついたCを引きずった。 以上の暴行により,被告人は,Cに加療約7日間を要する頭部挫創,両側上肢挫傷,左膝蓋部挫傷等の傷害を負わせた。 (証拠の標目) 省略(事実認定の補足説明)検察官は,判示第2,第3について,強盗致傷罪が成立すると主張するが,当裁 判所は,窃盗罪と傷害罪に当たると認定したので,以下,補足して説明する。 1 被害者の受傷状況被害者は,本件の暴行により,後頭部に挫創を負い,3か所から出血していたほか,その両肘と左膝に挫傷を,左頬部に打撲傷を 傷害罪に当たると認定したので,以下,補足して説明する。 1 被害者の受傷状況被害者は,本件の暴行により,後頭部に挫創を負い,3か所から出血していたほか,その両肘と左膝に挫傷を,左頬部に打撲傷を負っていた。また,右脇腹に打撲傷を負っていた。 2 暴行の態様⑴ 被害者の供述被害者は,公判廷において,被告人が被害者に加えた暴行の態様について,概ね次のとおり供述した。 ア被告人の肩に手をかけ,「警備の者やけど。」と声をかけると,被告人から振り向きざまに肘打ちをされた。肘打ちは,左側のこめかみないし頬の辺りに当たった。 イ被告人と向かい合う状態になり,被告人が着ていた上着の裾をつかんで前屈みになると,被告人に後頭部や側頭部を10回以上強く殴られた。被告人が後ずさりしたので,両膝を地面につくと,また被告人に後頭部を3~4回強く殴られた。 ウ被告人が体勢を崩して尻餅をついたので,両肘を地面につくと,その状態で被告人に引きずられ,更に被告人に拳で後頭部を1~2回強く殴られた。 エその後,立ち上がりざまの被告人に頭突きをされたように感じたが,わざとかどうかはわからない。また,立ち上がった被告人に1~2回膝蹴りをされたように感じたが,これもわざとかどうかはわからない。 オ上半身が浮いた状態で,うつ伏せから仰向けに体を反転させられるほど,被告人に体を振り回された。 ⑵ 被告人の供述内容被告人は,公判廷において,被告人が被害者に加えた暴行の態様について,概ね次のとおり供述した。 ア右肩に掛けられた被害者の手を振り払おうとして,右肘を後ろに突き出すと,その右肘が被害者に当たった。 イ被害者と向かい合った状態になり,向かってきた被害者に対し,その顔面を右手の拳で2~3回殴った。 ウ被害者は,左手で顔を守りながら て,右肘を後ろに突き出すと,その右肘が被害者に当たった。 イ被害者と向かい合った状態になり,向かってきた被害者に対し,その顔面を右手の拳で2~3回殴った。 ウ被害者は,左手で顔を守りながら向かってきた。その勢いで被害者と一緒に後ろに倒れた。すぐに立ち上がって逃げようとしたが,膝立ちになった被害者につかまれていたので,逃げることはできなかった。 エ前屈みになった被害者の首から後頭部の辺りを右手の小指側の側面で3~4回強く殴った。それが,出血している位置かどうかはわからない。 オ被害者が顔を上げたので,被害者の体との間に膝を入れて突き放そうとした。更に被害者の右の胸から首の辺りを2回膝蹴りした。その後,体勢を崩し,被害者に覆い被さるようにして倒れた。 カ左手に持っていた鞄を被害者につかまれていたため,逃げようとしてその鞄を左右に振り回した。被害者は引きずられ,肘と膝を地面に擦っていた。 ⑶ 供述の信用性検察官は,被害者の証言は十分信用できると主張するが,被害者は,被告人から突然暴行を受け,声を掛けた万引き犯に暴行を振るわれるのも初めてのことであったから,暴行の詳細を正確に記憶できていたかは疑わしい。特に,殴られた状況については目にしておらず,感覚から推測した内容を供述するにとどまっている。 被告人も,興奮していたことから,すべてを正確に記憶しているかは疑わしいものの,被害者の証言に合致しない点は信用できないという検察官の主張には賛同できない。この点,検察官は,被告人が加害者として控えめに供述していると主張するが,思い切り殴ったことを認めているほか,いきなり殴りかかった,膝蹴りをしたなどといった,被害者の証言内容よりも不利になると思われる点を明確に供述している。また,検察官は,被害者が近づいてきただけで 倒れた たことを認めているほか,いきなり殴りかかった,膝蹴りをしたなどといった,被害者の証言内容よりも不利になると思われる点を明確に供述している。また,検察官は,被害者が近づいてきただけで 倒れたであるとか,不意に倒れたのに左手で鞄を持ったままだったというのは不自然であるし,被告人が述べる暴行の態様は被害者が頭部から出血していることと矛盾するなどと主張するが,あわてて逃げようとして後ずさりしていたところに被害者が向かってきたために倒れることは十分にあり得る。倒れ方によっては左手で鞄を持ったままでも不自然とはいえないし,身分証などが入った鞄を奪われないように持ち続けていたという被告人の供述は納得できるものである。後頭部の出血は,アスファルトで打つなどして生じたとも考えられるなど,殴打によってのみ生じるものとはいえない。 したがって,被害者の証言のとおりの暴行を認定することには疑問が残る上,被告人の供述を排斥することもできないから,被害者の受傷状況に合致し,被告人と被害者の供述が一致している限度での暴行を認めることとし,判示第3のとおりの暴行の態様を認定した。 3 強盗致傷罪の成否強盗致傷罪が成立するためには,本件暴行が,普通なら万引き犯人の逮捕をあきらめるであろうといえる程度の暴行に当たらなければならない。 被告人は,午後4時6分頃に被害者に声を掛けられ,本件暴行を加え,その後,被害者とDに取り押さえられたが,Dからの依頼を受けた者が付近にいた警察官に本件の発生を知らせたのが午後4時8分頃であるから,本件暴行は長くても2分程度のものである。そして,被告人は,本件暴行を加えている間,無我夢中で逃げようとしていたものと認められ,相手を傷つけようという積極的な意思で暴行を加えたわけではない。 個々の暴行をみても,肘を被害者に当てた暴行 。そして,被告人は,本件暴行を加えている間,無我夢中で逃げようとしていたものと認められ,相手を傷つけようという積極的な意思で暴行を加えたわけではない。 個々の暴行をみても,肘を被害者に当てた暴行については,被害者はかなりの衝撃があったと供述するものの,その後すぐに被告人の方に向かってきている。 甲26号証添付の写真5を見ても,被害者の左頬の傷害は明確なはれや赤みを伴うものとはいえない。 その後の顔面ないし頭部を殴った暴行については,相互の体勢や位置関係など からすれば,それほど強く殴ることはできなかったものと認められる。被害者は,被告人を逃がすまいとしていたとはいえ,頭をかばうなどしておらず,このことも殴打の威力が強いものであったとはいえないことを示すと考えられる。また,仮に被告人が被害者の顔を殴っていたとしても,頬などに傷はない。被害者は後頭部から出血しているが,これが必ずしも殴打によるものと認められないことは先に述べたとおりである。 膝蹴りも,被害者の体を押さえるなどした体勢でのものではない。証拠上,被害者の右肩付近には打撲傷も認められない。 引きずる行為については,肘の怪我は軽いものであり,膝の怪我は片方のみである。これらは,転倒するなどした際に生じることもあり得る。そうすると,この傷から,被告人が被害者を激しく引きずったであるとか,かなりの距離を引きずったとまでは認められない。また,被害者も被告人を逃がすまいとしていたのであるから,被害者が肘や膝を地面につけた状態で力を込めたために傷が生じることも考えられ,これらの傷がすべて被告人の行為によってのみ生じたともいえない。 以上によれば,本件暴行は,検察官のいうような執拗で強度なものであったとはいえず,これが,夕方のまだ明るい時間帯に,国道に面したスーパーマーケットの 被告人の行為によってのみ生じたともいえない。 以上によれば,本件暴行は,検察官のいうような執拗で強度なものであったとはいえず,これが,夕方のまだ明るい時間帯に,国道に面したスーパーマーケットの駐車場において,なお壮年といえる男性の被害者に加えられたものであることからも,普通なら万引き犯人の逮捕をあきらめるであろうといえる程度の暴行であるとは認められない。 (法令の適用)罰条判示第1の所為刑法254条判示第2の所為刑法235条判示第3の所為刑法204条刑種の選択いずれも懲役刑を選択 併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い判示第3の罪の刑に法定の加重)刑の執行猶予刑法25条1項保護観察刑法25条の2第1項前段訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)いずれの犯行も身勝手なもので,特に万引きについては常習性が認められる。 しかし,傷害は比較的軽微で,慰謝料として50万円を支払い示談が成立している。万引きの被害も弁償し,横領した物も現金を除き被害者に返還されている。 以上に照らし,その刑の執行を猶予することとしたが,被告人が未熟で,親族の監督も十全とはいえないことなどからすれば,反省を深めさせ,生活態度を改めて約束した求償を確実に履行させるなどするためには,公的機関による長期にわたっての指導監督が不可欠と判断し,保護観察に付することとした。 (求刑-懲役5年)平成25年1月18日大分地方裁判所刑事部 裁判長裁判官真鍋秀永 裁判官開發礼子 裁判官前川悠 判長 裁判官 真鍋秀永 裁判官 開發礼子 裁判官 前川悠
▼ クリックして全文を表示