- 1 -主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1請求 被告が,平成14年4月11日付けでした原告の平成13年分所得税に係る(「」更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知処分以下本件通知処分という)を取り消す。 。 訴訟費用は被告の負担とする。 第2事案の概要原告は,被告に対し,本件通知処分が違法であるとして,同処分の取消を求めた。 前提となる事実(争いのない事実及び容易に認定できる事実)(1)当事者原告は,肩書住所地においてA歯科医院の名称で歯科医を開業している。 被告は,釜石税務署長である。 (2)債務免除に至る経緯原告は,平成12年10月ころ,社団法人Bに対して,3億円を超える債務を負担していたところ,Bから,債務の一部弁済に応じるのであれば残額を放棄してもよいとの申し入れを受けた。その後,原告とBとの間で上記債務の返済方法等について話合いが行われた。 (3)債務弁済契約の締結(甲4)原告とBは,平成13年3月15日,上記債務の弁済方法等に関し,次のとおり合意した(以下,この合意を「本件債務弁済契約」という。また,本件債務弁済契約の対象とされた原告のBに対する債務を「本件債務」ということがある。 。)- 2 -①平成13年2月28日現在における原告の債務残高は,3億0084万4904円であることを確認する。 ②原告は,Bに対し,平成13年3月末日までに3500万円を支払い,()。 更に不動産上閉伊郡α115番6の土地の売却代金をもって弁済する③上記②を履行した場合には,Bは,原告に対し,①の債務のうち,②の支払を控除した残金及びこれに付帯する利息,損害金については請求しない。 ④上記②を遵守した場合は,原告所有に係る不動産に設定し ③上記②を履行した場合には,Bは,原告に対し,①の債務のうち,②の支払を控除した残金及びこれに付帯する利息,損害金については請求しない。 ④上記②を遵守した場合は,原告所有に係る不動産に設定している根抵当権(上閉伊郡α115番1の土地及び同115番地1の建物並びに同115番6の土地)を解除する。 (4)債務免除(乙5)Bは,原告に対し,平成13年9月14日,本件債務弁済契約に基づき上記(3)②の弁済を受けたので,同年5月31日現在Bが原告に対して有していた貸付金元金の合計2億1393万1105円及びこれに付帯する利息の支払を免除する旨の債務免除通知をした(以下,この通知による債務免除を「本件債務免除」という。 。)(5)確定申告(乙1の1及び2)原告は,被告に対し,平成14年3月12日,平成13年分の所得税について,別紙一覧表の①欄の各金額等を記載した青色の確定申告書を提出した。その際,原告は,本件債務免除による利益(以下「本件債務免除益」という)を事業所得及び一時所得に含めて申告を行った。 。 (6)調停の申立て及び成立(甲5,6)原告は,平成14年2月22日,釜石簡易裁判所に対し,Bとの間の本件債務弁済契約は錯誤により無効であるなどとして,その無効確認等を求める調停を申し立て,同年3月29日,本件債務弁済契約が無効であることを確認し,Bは原告に対し,同日現在の残債務について支払を請求しないことな- 3 -どを内容とする調停(以下「本件調停」という)が成立した。 。 (7)更正の請求及び本件通知処分(甲1)原告は,被告に対し,平成14年4月11日,同年3月29日付けで本件調停が成立し,本件債務免除が取り消されたとして,平成13年分の所得税について所得金額等を別紙一覧表の②欄であるとする更正の請求をした以,( 対し,平成14年4月11日,同年3月29日付けで本件調停が成立し,本件債務免除が取り消されたとして,平成13年分の所得税について所得金額等を別紙一覧表の②欄であるとする更正の請求をした以,(下「本件更正の請求」という。 。)被告は,原告に対し,平成14年8月2日,本件更正の請求について,更正をすべき理由がない旨の本件通知処分をした。その処分理由は,本件調停の前後において実質的な権利関係に変更がなく,平成13年中に債務免除益が発生したと認められるというものであった。 (8)本件通知処分に対する不服申立(甲2,3,乙2,3)原告は,被告に対し,平成14年8月16日,本件通知処分について異議申立てをしたが,被告は,同年11月7日,異議申立てを棄却する旨の決定をした。 さらに,原告は,上記異議決定を不服として,平成14年12月4日,国税不服審判所長に対し,本件通知処分の取消しを求め,審査請求をしたが,同審判所長は,平成15年10月2日,原告の審査請求を棄却する旨の裁決をした。 そこで,原告は,平成15年12月27日,本件訴訟を提起した。 争点 (1)本件調停により本件債務免除益が消滅したか。 (2)本件更正の請求が国税通則法(以下「通則法」という)23条1項の。 要件を満たすか。 具体的には,次の点が争われている。 ①本件調停が通則法23条2項1号の「判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む(以下「判決等」という」に該当するか。 。)。)- 4 -②本件債務免除益が本来一時所得として申告されるべきものか。 ③仮に本件債務免除益に,事業所得に該当する部分があるとして,当該事業所得に該当する部分について更正の請求が認められるか。 (3)本件通知処分が信義則又は禁反言の法理に反するか。 争点に関する当事者の 本件債務免除益に,事業所得に該当する部分があるとして,当該事業所得に該当する部分について更正の請求が認められるか。 (3)本件通知処分が信義則又は禁反言の法理に反するか。 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)(本件調停により本件債務免除益が消滅したか)について(原告の主張),,,本件債務免除益は以下のとおり本件調停により消滅したのであるからこれがあることを前提とする本件通知処分は違法である。 ア本件通知処分の理由は,本件調停の成立によっても,実質的な権利関係に変更がなく,平成13年度中に債務免除益が発生したと認められるというものである。 しかしながら,債務免除と自然債務とは明らかに権利関係が異なる。 ,,,すなわち債務免除をした場合には債務は消滅するため債権者は以後債権の回収を図ることは不可能となり,債務者に任意の履行を請求することはできず,債務者から支払を受けたとしても,当該弁済金は不当利得となるため返還請求され得るものである。 他方,自然債務とされた場合には債務は依然存在し,債権者は債務者に任意の履行を請求することができるし,債務者が任意に支払えば有効な弁,。 ,,済となり当該弁済金を返還する必要はないまた自然債務の場合には当然,債務不履行による損害賠償を任意に受けることもできる。さらに,当事者が自然債務を基礎として新たに履行の契約をした場合には,当該債務は通常の債務となり強制執行をもなし得るものと解される。 本件調停により,本件債務免除の意思表示は撤回され,本件債務については「今後,支払の請求をしない」とされたが,この調停条項は,裁,。 判上請求して強制的な取立をしないとの意味(自然債務)である。上記の- 5 -ごとく自然債務と債務免除とは法律的に明確な差異があるから,本件調停により原告と とされたが,この調停条項は,裁,。 判上請求して強制的な取立をしないとの意味(自然債務)である。上記の- 5 -ごとく自然債務と債務免除とは法律的に明確な差異があるから,本件調停により原告とBとの間の権利関係に実質的な変動があったこと,すなわち本件債務免除益が消滅したことは明らかである。 イまた,原告には,本件調停成立以前において,本件債務について弁済意思があり,本件調停成立により本件債務免除益は消滅したというべきである。 すなわち,本件調停の前に原告代理人が,原告の税務申告の代理人であるC公認会計士・税理士(以下「C会計士」という)に調停後における。 本件債務の処理方法を説明していること,本件調停成立以前に原告代理人がBの代理人であるD弁護士に対し,本件調停成立後,自然債務となった債権の譲渡を申し入れていることから,原告に本件債務の弁済意思があったことは明らかである。 加えて,原告は,本件債務に係る債権を譲り受けたE株式会社に対し,500万円の債権放棄を受けるのと引き換えに100万円の支払をしている。原告が本件債務を自然債務としてもらった趣旨は,近い将来に本件債務に係る債権を譲り受けるであろう第三者との間において,一部弁済,一部債権放棄を繰り返しながら課税を平準化することを前提に,当該第三者との交渉を有利に進めるために行われたものであって,事実上債務の支払を回避するために行われたものではない。 (被告の主張)ア本件調停により本件債務免除益が消滅したとは認められない。 すなわち,本件調停により本件債務が自然債務とされたといっても,そもそも自然債務は民法414条,415条の強制履行等が認められていないものであり,自然債務を負担したことは債務免除益の存否に影響を与えるものでない。また,本件債務は無担保のままとされたのであるから, もそも自然債務は民法414条,415条の強制履行等が認められていないものであり,自然債務を負担したことは債務免除益の存否に影響を与えるものでない。また,本件債務は無担保のままとされたのであるから,本件調停後の実態は,本件債務免除を受けた時点と経済的実質が何ら変わる- 6 -ものではないというべきであって,本件債務免除益が消滅したとはいえない。 イ原告は,弁済の意思を有していた旨主張するが,本件調停では残債務についてBは支払の請求をしないとされており,これだけをみても原告が本件債務の弁済意思を有していたというのは事実に反する。 また,本件調停において確認された本件債務の残額は,利息・損害金を含め約3億4000万円であるのに対し,租税の負担増(本件債務免除益に対する課税等)は約1億円であることからしても,原告が租税負担増1億円よりも残債務3億4000万円を選ぶのは,本件債務の弁済意思を有していないからというほかない。もし本当に支払意思があるのであれば,いったん債務免除前のもとの状態に戻した上で,原告の主張するような一部弁済・一部債権放棄等の債務弁済の計画を立てるはずである。 ウさらに,原告が行ったEに対する支払は,原告が本件訴訟における自己の主張の裏付けとする目的で後から行った行為と評価されるべきものであり,これをもって本件債務免除益の存在が否定されるものではない。 (2) 争点(2)(通則法23条1項に基づく更正の請求の要件を満たすか)について(原告の主張)ア「判決等」の該当性について本件調停は,通則法23条2項1号の「判決等」に該当するので,本件更正の請求は認められるべきである。すなわち,通則法23条2項1号の「判決等」には判決のみならず,民事調停法の調停も含まれる。そして,本件調停は,租税回避目的で行われたのではなく,原 するので,本件更正の請求は認められるべきである。すなわち,通則法23条2項1号の「判決等」には判決のみならず,民事調停法の調停も含まれる。そして,本件調停は,租税回避目的で行われたのではなく,原告が歯科医院という事業を継続しながら,債権者との間で支払方法を協議し,時間をかけて一部弁済と一部債権放棄を繰り返すことにより,一部とはいえ債権者の債権回収を図り,かつ,課税を平準化するという,原告の事業の再生・継続を- 7 -目的として行われたものであり,本件調停の内容は合理的なものである。 税務当局は,会社更生手続や民事再生手続を始めとする企業再生の現場において,企業が債務免除益による過大な課税を避けるため,債務免除益の認識時期を操作し,課税を平準化すること認めているのであり,このことに照らしても,本件調停には合理性があり,通則法23条2項1号の「判決等」に当たらないとする理由はない。 イ事業所得部分についての更正の請求の可否原告は,本件債務免除益の一部を事業所得として申告したが,事業所得,,として申告した部分は本来一時所得として申告すべきであったのであり当該部分についても更正の請求を認めるべきである。 また,仮に本件債務免除益のうちに事業所得に該当する部分があるとしても,本件においては当該部分も含めて通則法23条1項に基づく更正の請求が認められるべきである。この点,被告は,本件調停により本件債務免除益が消滅したものと認められるのであれば,事業所得に該当する部分についてはその年の経費に算入することが可能であるから後発的事由による更正の請求が認められなくても不当ではない旨主張するが,本件債務免除益の消滅が経費として認められるかは大いに疑問であるし,平成14年分以降の他の所得と損益通算ができるとしても,原告においては,それに対応するよ 認められなくても不当ではない旨主張するが,本件債務免除益の消滅が経費として認められるかは大いに疑問であるし,平成14年分以降の他の所得と損益通算ができるとしても,原告においては,それに対応するような多額の収益が発生する蓋然性はほとんどないのであって,原告が平成13年分の所得について発生した多額の税金を支払わなければ,。 ならないことには変わりがなく被告の上記主張は机上の空論にすぎない(被告の主張)ア本件調停は,専ら租税回避目的によるものであり,通則法23条2項1号の「判決等」に該当しない。 すなわち,通則法23条2項1号の「判決等」は,判決等であればすべて該当するというものではなく,専ら租税回避目的で実体とは異なる内容- 8 -を記載し,真実は権利関係等の変動がない場合や,租税を免れる目的で納税者が馴れ合いで得た判決等は,ここにいう判決等に当たらないと解すべきである。 しかるに,本件調停は実体上の法律関係を反映しない不自然なものであって,合理的根拠を欠く馴れ合いによるものといわざるを得ず,租税負担を免れることを目的としてされたものであることが明らかであるから,上記「判決等」には該当しない。 イまた,原告が事業所得として申告した部分については,そもそも通則法23条1項に基づく更正の請求は認められない。原告は,本来すべてについて一時所得として申告すべきであった旨主張するが,本件債務免除益のうち事業所得に該当する部分があることは明らかである。 また,事業所得については,後発的事由が発生したことによりその発生年分の事業所得が赤字となった場合等には,同年分の他の所得との損益通算等が認められるから,後発的事由に基づく更正の請求が認められないとしても不当ではない。本件においても,本件調停により本件債務免除益が消滅したものと認められるので 等には,同年分の他の所得との損益通算等が認められるから,後発的事由に基づく更正の請求が認められないとしても不当ではない。本件においても,本件調停により本件債務免除益が消滅したものと認められるのであれば,事業所得に該当する部分についてはその年の経費に算入することが可能であったのであり,更正の請求を認める必要はない。 (3) 争点(3)(本件通知処分が信義則ないし禁反言に反するか)について(原告の主張),。 本件通知処分は以下のとおり信義則又は禁反言の法理に反し違法であるア課税関係に関する回答についてC会計士は,平成14年1月7日,釜石税務署を訪れた際,F統括調査官及びG上席国税調査官から本件債務を自然債務とした場合には課税関係が生じない旨の回答を得た。 そのため,原告は,上記回答を信頼し,本件調停を申し立てた上で本件- 9 -債務について自然債務とする旨の本件調停を成立させた。 ,,,,しかるに上記回答に反する本件通知処分がなされそのため原告は7653万3200円の課税及び274万5354円の不還付という経済的不利益を受けた。 よって,本件通知処分は信義則に反するというべきである。 イ更正の請求に関する回答について本件更正の請求は,被告の求めに応じてなされたものであり,今になっ,。 て更正の請求を認めないとすることは禁反言の法理からして許されないすなわち,C会計士は,原告の平成13年分の所得税の確定申告書を作成するに際し,平成14年3月11日に釜石税務署を訪れ,確定申告の仕方について事前に相談を行った。その際,C会計士は,F統括官に対し,,,確定申告の期限後ではあるが平成14年3月29日の調停期日において本件債務弁済契約が錯誤により無効とされる旨の調停が成立することになっているので,平成13年分の確定申告 は,F統括官に対し,,,確定申告の期限後ではあるが平成14年3月29日の調停期日において本件債務弁済契約が錯誤により無効とされる旨の調停が成立することになっているので,平成13年分の確定申告は債務免除益が生じていないものとして申告したい旨を述べた。これに対し,F統括官はC会計士に対し,確定申告期限までに正式な調停が成立しない以上,あくまでも本件債務免除益があったものとして確定申告することを強く要請し,税額の更正については,正式に調停が成立した後に,通則法23条1項に基づく更正の請求を行うべきである旨告げた。 そのため,原告は,F統括官の上記要請を受けて,平成13年分の所得税の確定申告に際し,本件債務免除益を含めた申告をしたのである。 このような経緯に照らせば,本件更正の請求は認められてしかるべきものであり,これを認めないのは禁反言の法理に反する。 (被告の主張)ア課税関係に関する回答について(「」。)F統括官を含む釜石税務署の担当職員以下被告担当職員という- 10 -が,C会計士に対し,本件債務を自然債務とした場合には課税関係が生じないと述べたことはない。 また,仮に原告が主張するとおりの回答があったとしても,信義則に反することはない。 すなわち,信義則及び禁反言の法理が適用されるのは,租税法規適用における納税者間の平等,公平という要請を犠牲にしても,なお当該課税処分にかかる課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するという特段の事情が存する場合に限られるというべきであるところ,特段の事情があるというためには,少なくとも①税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したこと,②納税者がその表示を信頼して行動したこと,③後に,その表示に反する課税処分が行われ,そのために納税者が経済的不利益を は,少なくとも①税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したこと,②納税者がその表示を信頼して行動したこと,③後に,その表示に反する課税処分が行われ,そのために納税者が経済的不利益を受けることになったこと,④納税者の側に責めに帰すべき事由がないことが不可欠である。 しかし,原告の主張によっても被告担当職員が公的見解を表示したとは認められないから,本件通知処分が信義則に反することはない。 イ更正の請求に関する回答についてF統括官を含めた被告担当職員が,C会計士に対し,何らの限定を付することなく,通則法23条1項に基づく更正の請求ができる旨述べたことはない。 また,仮に被告担当職員が原告主張のとおり述べたとしても,事前相談における助言等は,税務官庁が納税者に対してした信頼の対象となる公的見解の表示には当たらないから,禁反言の法理に反することはない。 第3当裁判所の判断 事実認定前記前提となる事実に,証拠(甲1,4,5~9,17~21(枝番号の記載は省略する。以下同じ,23,乙1,4~6,8,9,証人Cの証言,。)- 11 -証人Fの証言)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。 (1) 本件債務弁済契約に至る経緯原告は,平成4年に破綻した旧H信用金庫(以下「H信金」という)に。 対し,平成5年5月30日当時,3億円を超える債務を負担していた。同債務に係る債権のうち1億4676万円は同日,うち1億6180万円は同年9月30日,H信金からBに譲渡され,原告は,Bに対し,上記債務の返済を継続していた。 平成12年10月当時,原告のBに対する上記債務の残高は,依然として3億円を超えていたところ,原告は,同月ころ,近く解散することとなったBから,債務の一部弁済に応じるのであれば残 を継続していた。 平成12年10月当時,原告のBに対する上記債務の残高は,依然として3億円を超えていたところ,原告は,同月ころ,近く解散することとなったBから,債務の一部弁済に応じるのであれば残額を放棄してもよいとの申し入れを受けた。その後,原告とBとの間で上記債務の返済方法について話合いが行われた。 (2) 本件債務弁済契約の締結(甲4)平成13年3月15日,原告とBとの間で,本件債務についての弁済方法等に関し,本件債務弁済契約が成立した。その内容は以下のとおりである。 ①平成13年2月28日現在における原告の債務残高は,3億0084万4904円であることを確認する。 ②①の債務について,原告は,Bに対し,平成13年3月末日までに3500万円を支払い,更に不動産(上閉伊郡α115番6の土地)の売却代金をもって弁済する。 ③上記②を履行した場合には,Bは,原告に対し,①の債務のうち,②の支払額を控除した残金及びこれに付帯する利息,損害金については請求しない。 ④上記②を遵守した場合は,原告所有に係る不動産に設定してある根抵当権(上閉伊郡α115番1の土地及び同115番地1の建物並びに同11- 12 -5番6の土地)を解除する。 (3)Bによる本件債務免除(乙5),,,原告は本件債務弁済契約を履行するためI銀行から新たな借入れをし平成13年3月30日に3500万円をBに弁済するとともに,原告所有の上記(2)②の不動産を売却し,5191万3799円をBに弁済した。 上記各弁済を受け,Bは,原告に対し,平成13年9月14日,本件債務弁済契約に基づき上記(2)②の弁済を受けたので,平成13年5月31日現在Bが原告に対して有していた貸付金元金の合計2億1393万1105円及びこれに付帯する利息の支払を免除する旨の債務免除通知を 弁済契約に基づき上記(2)②の弁済を受けたので,平成13年5月31日現在Bが原告に対して有していた貸付金元金の合計2億1393万1105円及びこれに付帯する利息の支払を免除する旨の債務免除通知をした。 (4)本件債務免除益に係る原告の嘆願状況平成13年8月20日,C会計士及び原告の妻Jは,債務免除益の課税免除の嘆願を内容とする書類を持参して釜石税務署を訪れ,本件債務弁済契約により,原告のBに対する債務が免除されたこと,この結果債務免除益が発生するが,これに課税されると納税が困難になることから後日嘆願書の提出を予定していること,本日持参した書類の内容については,後日正式に提出するまでの間検討しておいてほしいとの申し出をした。 同年9月25日,Jが釜石税務署を訪れ,本件債務免除の通知の写しを被告に提出した。 同年10月9日,C会計士及びJは,釜石税務署に対し「債務免除益に,ついての嘆願書」と題する書面を提出し,本件債務免除益を所得に含めない処置をお願いする旨の嘆願をした(乙4。 ),,,同年12月12日被告担当職員は来訪した原告及びC会計士に対して嘆願書にある債務免除益は課税所得になる旨説明した。この点について,原告らから本件債務免除益を税務署長の裁量で免除できないかとの申立てもなされたが,それはできないとの回答をした上で,この件については,仙台国税局にも照会中である旨伝えた。 - 13 -平成14年1月7日,被告担当職員は,来訪したC会計士に対し,改めて嘆願書の趣旨を確認したところ,税務署長の裁量による課税の免除に関する,,嘆願である旨の説明があったことからそれはできない旨回答するとともに同回答が最終的なものであることを伝えた。 (5)調停の申立て(甲5,乙9)原告は,平成14年2月22日,釜石簡易裁判所に対し,Bと 願である旨の説明があったことからそれはできない旨回答するとともに同回答が最終的なものであることを伝えた。 (5)調停の申立て(甲5,乙9)原告は,平成14年2月22日,釜石簡易裁判所に対し,Bとの本件債務弁済契約は錯誤により無効であるなどとして,その無効確認などを求める調停を申し立てた。 (6)確定申告(乙1)原告は,本件調停が申告期限までに成立しなかったことから,平成14年3月12日,平成13年分所得税について,本件債務免除益を事業所得及び一時所得に含めた上で青色の確定申告書に別紙一覧表の①欄の各金額等を記載し,同申告書を被告に提出した。 (7)本件調停の成立(甲6),,。 平成14年3月29日原告とBとの間で以下の内容の調停が成立した①原告とBは,両者間において,本件債務弁済契約が原告の錯誤により無効であることを相互に確認する。 ②Bは,原告に対する平成13年9月14日付け「債務免除通知書」をもって通知した貸付金2億1393万1105円及びこれに付帯する利息の債務を免除する旨の意思表示を撤回する。 ③原告とBは,①にかかわらず,本件債務弁済契約に基づく原告のBに対する支払は有効なものであり,債務に対する弁済として充当されたものであることを相互に確認する。 ④原告とBは,①にかかわらず,本件債務弁済契約に基づき行われた根抵当権の解除が有効なものであることを相互に確認する。 ⑤原告は,Bに対し,本件債務として,本日現在,元金2億1393万1- 14 -105円(外に未払利息及び損害金が存在する)の存在することを確認。 する。 ⑥Bは,原告に対し,⑤の債務については,今後,支払の請求をしない。 ⑦原告とBは,両者の間に,本調停条項に定めるほか,何らの債権債務のないことを相互に確認する。 ⑧調停費用は原告の負担と る。 ⑥Bは,原告に対し,⑤の債務については,今後,支払の請求をしない。 ⑦原告とBは,両者の間に,本調停条項に定めるほか,何らの債権債務のないことを相互に確認する。 ⑧調停費用は原告の負担とする。 (8)本件更正の請求及び本件通知処分(甲1)原告は,平成14年4月11日,被告に対し,同年3月29日付けで調停が成立し,債務免除が取り消された結果,前記確定申告書に記載した事業所得及び一時所得の金額に誤りがあるとして,所得金額等を別紙一覧表の②欄の金額とする更正の請求をした。 これに対し,被告は,平成14年8月2日,本件更正の請求について,その更正をすべき理由がない旨の本件通知処分を行った。その処分理由は,本件調停の前後において実質的な権利関係に変更がなく,平成13年中に債務免除益が発生したと認められるというものであった。 (9)債権の譲渡等本件債務に係る債権は,平成15年12月25日,BからK株式会社に譲渡され(甲17,更に平成16年3月31日,同社からE株式会社に譲渡)された(甲18。 )原告は,平成16年3月31日,Eに対し,本件債務について100万円を支払い,その代わりに500万円の債権放棄を受けた(甲19~21。 ) 争点(1)(本件調停により本件債務免除益が消滅したか)について原告は,本件調停により本件債務免除の意思表示は撤回され,本件債務が自然債務とされたことによって本件債務免除益は消滅したのであるから,これがあることを前提とする本件通知処分は違法である旨主張するので,以下,この点につき判断する。 - 15 -(1)所得税法36条1項は「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経 所得税法36条1項は「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には,その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする」と規定する。債務を負担する者が当該債務の免除を。 ,「」受けた場合におけるその免除金額は同法36条1項所定の経済的な利益に該当し,各種所得の金額の計算上収入金額又は総収入金額に算入されるものと解されるところ,債務免除による経済的な利益が後発的な理由により遡って消滅したというためには,形式面のみならず,実質的な観点からみて債務免除による経済的な利益が失われたと認められなければならないと解すべきである。 そこで検討するに,前記認定のとおり,本件調停においては,本件債務弁済契約の無効が確認され,本件債務免除の意思表示は撤回されたが,他方,無効が確認されたはずの本件弁済契約に基づく弁済は有効なものとして本件債務に充当され,同じく本件債務弁済契約に基づく根抵当権の解除は有効とされた。また,本件債務免除の対象となった本件債務の残債務については,その存在が確認されたうえで,Bが原告に対して今後支払を請求をしない旨の合意がされた。この合意は,本件債務をいわゆる自然債務とする旨の合意であると解されるが,その趣旨は,本件債務については,債権者は,債務者からの任意の弁済を受領することはできるものの,裁判等を通して強制的な取り立てをすることはできないとするものであると解される。 以上を前提として,本件調停により本件債務免除による経済的な利益が失われたかどうかを見ると,本件調停の前後で,本件債務について,債務免除された状態からいわゆる自然債務とされるという法形式上の変 る。 以上を前提として,本件調停により本件債務免除による経済的な利益が失われたかどうかを見ると,本件調停の前後で,本件債務について,債務免除された状態からいわゆる自然債務とされるという法形式上の変化はあったものの,原告は,Bから支払を請求されない無担保の債務を負担しているにすぎず,本件債務は,これを支払うかどうか専ら原告の意思に任され,原告の- 16 -財産は本件債務につき責任財産とはされないのであるから,経済的な利益という点においては債務免除を受けたときと何ら変わりがないというべきである。 したがって,本件調停により本件債務免除による経済的な利益が消滅したということはできないから,原告の上記主張は失当である。 (3)この点,原告は,本件調停により本件債務免除益が消滅したことの根拠の一つとして,原告には当初から本件債務を弁済する意思があった旨主張する。 しかしながら,そうであればいったん債務免除前の状態に戻した上で,Bとの間で一部弁済・一部債権放棄等の債務弁済の計画を合意すれば足りるのであって,このことはBが近く解散を予定していたとしても同様である(原告は,自然債務とすることで本件債務に係る債権の譲受人となる第三者との交渉を有利に進めることができるかのような主張もしているが,その意味は必ずしも明らかではなく,仮に有利になるというのであれば,それは実質的に債務免除を受けたのと同様であるからであると考えざるを得ない。加。)えて,原告代理人作成の事務連絡(甲9)には「できれば調停後に当職宛,債権譲渡をして頂きたいと思っております(以下省略」との記載があり,)これによれば,本件調停成立後に原告代理人が本件債務に係る債権を譲り受けようとしていたことがうかがわれるところ,こうした行動は原告が当初から弁済の意思を有していたことと整合し 」との記載があり,)これによれば,本件調停成立後に原告代理人が本件債務に係る債権を譲り受けようとしていたことがうかがわれるところ,こうした行動は原告が当初から弁済の意思を有していたことと整合しない。 また,原告は,本件調停成立後,本件債務に係る債権の譲受人であるEに,,対し100万円の一部弁済をしているがその時期は本件訴訟提起後であり実際に弁済された金額も本件債務の額のごく一部であることにも照らすと,上記一部弁済の事実は,原告が当初から弁済の意思を有していたことを裏付けるものとはいえない。 よって,原告の上記主張は採用できない。 - 17 - 争点(3)(本件通知処分が信義則又は禁反言の法理に反するか)について(1) 原告は,被告担当職員が,C会計士に対し,自然債務とすれば課税関係は生じない旨回答したにもかかわらず,それに反する本件通知処分をしたことは信義則に反する旨主張する。 (2)ところで,租税法規に適合する課税処分について,法の一般原理である信義則の法理の適用により,課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても,租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては,上記法理の適用については慎重でなければならず,租税法規の適用における納税者間の平等,公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に,初めて上記法理の適用の是非を考えるべきものである。そして,特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては,少なくとも,税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより,納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ,のちに表示に反する課税処分が行われ,そのために納税者が経済的不利益 ,税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより,納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ,のちに表示に反する課税処分が行われ,そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか,また,納税者が税務官庁の表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者に責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮は不可欠のものであるというべきである(最高裁判所昭和62年10月30日第三小法廷判決・訟務月報34巻4号853頁参照。 )(3)そこで,以上を前提として検討する。 ア証拠(甲8,23,乙8,証人Cの証言,証人Fの証言)及び弁論の全趣旨によれば,平成14年1月7日の被告担当職員とC会計士のやりとりは以下のとおりであったことが認められる。 (ア)C会計士は,平成14年1月7日,本件債務免除益に対する課税免除を求めた嘆願書について,最終的な回答を確認するため,釜石税務署- 18 -を訪れた。 (イ)その際担当したF統括官は,C会計士に対し,税務署の最終判断として,本件債務免除益について課税することになる旨伝えたところ,C会計士はそれを了承した。また,F統括官は,資力喪失により債務免除益が総収入金額に含まれないと解釈することについては,事実認定の問題であり,この場で結論を出すことはできないが,現段階では資力喪失とは判断できないことを説明した。 ,,,,(ウ)その後F統括官はC会計士から東京国税局の相談室において本件は資力喪失による債務免除には当たらないのではないかとの回答を受けたこと,知人の弁護士から本件債務を元に戻して自然債務的な債務として支払を待つ方法しかないのではないかとの助言を受けたことなどを聞いた。 (エ)これに対し,F統括官は,自然債務という言葉 答を受けたこと,知人の弁護士から本件債務を元に戻して自然債務的な債務として支払を待つ方法しかないのではないかとの助言を受けたことなどを聞いた。 (エ)これに対し,F統括官は,自然債務という言葉自体は知っていたものの,これに関する課税関係の知識はなかったことから,課税関係の有無について意見を述べることはなく,それ以上自然債務については立ち入らなかった。もっとも,F統括官は,Bが債務を元に戻すことに応じることは考えにくいと思ったことから,C会計士に対し,その旨意見を述べた。 なお,C会計士が被告担当職員とのやりとりについて作成した事務連絡(甲7)には,被告担当職員との話として「しぜん(ママ)債務については一応肯定していましたが,社団法人Bの事情から考えにくいとしていました」との記載があるが,これによってもF統括官が,自然債務にすれ。 ,,ば課税関係が生じないと回答したかどうかは判然とせずC会計士自身も被告担当職員から自然債務が認められれば課税関係はなくなる旨明言されたというわけではないと証言していることを考慮すると,上記書面の記載は前記認定を左右するものではなく,他に上記認定を覆るに足りる証拠は- 19 -ない。 イ以上の事実によれば,被告担当職員が,C会計士に対し,公的見解として本件債務を自然債務とした場合には課税関係を生じないことを表示したとの事実は認められない。 (4)また,原告は,本件更正の請求は,被告の求めに応じてなされたものであり,今になって更正の請求を認めないとすることは禁反言の法理からして許されないとも主張する。 課税処分に対する禁反言の法理の適用についても,前記(2)で判示したのとと同様の理由から,前記の特別の事情が存在するかどうかを考慮して判断すべきであると解されるところ,そもそも,本件全証拠によっても 課税処分に対する禁反言の法理の適用についても,前記(2)で判示したのとと同様の理由から,前記の特別の事情が存在するかどうかを考慮して判断すべきであると解されるところ,そもそも,本件全証拠によっても,原告が主張するように,被告担当職員が,C会計士に対し,債務免除益を含めて申告し,その後に更正の請求をするようにとの回答をしたとの事実は認められない。また,仮にF統括官が上記のような回答をしたとしても,前記認定に係るF統括官とC会計士との面談の目的,状況等に照らすと,それは確定申告の事前相談における助言と同視すべきものといえるから,これをもって税務官庁の公的見解の表示であるとは到底認められない。 (5)したがって,本件通知処分が信義則又は禁反言の法理に反するとの原告の主張は採用できない。 以上によれば,その余の点は判断するまでもなく,原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 盛岡地方裁判所第2民事部裁判長裁判官榎戸道也- 20 -裁判官吉村美夏子裁判官須田雄一
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